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特許7185404花椒含有組成物の製造方法及び食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】花椒含有組成物の製造方法及び食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20221130BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20221130BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20221130BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23D9/00 504
A23L23/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018025591
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019140917
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱洲 紘介
(72)【発明者】
【氏名】中屋 圭子
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】川向 通江
(72)【発明者】
【氏名】浅野 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中西 誠人
(72)【発明者】
【氏名】里見 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 守紘
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123329(JP,A)
【文献】特開2010-115118(JP,A)
【文献】花椒(ホアジョー)香る 焦がしラー油風味が辛くて旨い!「亀田の柿の種」に焦がしラー油風味登場、@Press[online]、2018年1月29日、[検索日:2022年4月26日]、retrieved from the internet<URL:https://www.atpress.ne.jp/news/148392>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
花椒のホールを油脂中に分散させる工程1と、
花椒のホールを油脂中に分散させた状態で60℃以上100℃未満の品温で加熱する工程2と、
花椒のホールを油脂中で砕く工程3と、
を含むことを特徴とする、花椒含有組成物の製造方法(但し、粉砕処理した焙煎香辛料を含む焙煎香辛料ペーストの製造方法であって、(a) 香辛料を油脂で焙煎処理する工程と、(b) 工程(a)で得られた焙煎香辛料を、(1) 油脂から分離し、食塩水とともに粉砕処理する工程、(2) 油脂から分離し、水とともに粉砕処理した後に食塩を添加する工程、(3) 焙煎処理に用いた油脂及び食塩水とともに粉砕処理する工程、(4) 焙煎処理に用いた油脂とともに粉砕処理した後に食塩水を添加する工程、及び(5) 焙煎処理に用いた油脂及び水とともに粉砕処理した後に食塩を添加する工程、から選ばれる1 以上の工程とを含む、製造方法を除く)
【請求項2】
前記油脂100質量部に対して、前記花椒が15~100質量部である、
請求項1に記載の花椒含有組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により製造された花椒含有組成物を用いること
を特徴とする、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花椒含有組成物の製造方法及び食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、香辛料の風味を増強等するため、様々な加熱・粉砕方法が検討されている。例えば、特許文献1には、マスタードシード等の種子香辛料を油脂とともに140~155℃達温まで加熱した後に磨砕する方法が具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-224969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、香辛料の種類によって含まれる香気成分が異なるため、特定の風味を活かす方法もまた異なる。また一方で、長期間保管することで風味が逃げてしまうといった問題がある。ところで、花椒は、麻婆豆腐やラーメン等に使われる香辛料であり、花椒のホールを挽いたときにでる花椒特有の華やかで爽やかな風味が特徴である。しかし、この風味は時間が経つとすぐになくなってしまうという問題がある。そこで本発明では、花椒特有の華やかで爽やかな風味を長期間保つことができる花椒含有組成物の製造方法及びこの花椒含有組成物を用いた食品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、花椒を油脂中で100℃未満の品温で加熱した後に油脂中で花椒を砕くことにより、花椒特有の華やかで爽やかな風味を長期間保つことが可能な花椒含有組成物を製造することができることを見出した。また、さらに驚くべきことに、この花椒含有組成物は、花椒の渋い風味が抑えられており、花椒特有の華やかで爽やかな風味が際立っていることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す花椒含有組成物の製造方法及び食品の製造方法を提供するものである。
〔1〕花椒のホールを油脂中に分散させる工程1と、
花椒のホールを油脂中に分散させた状態で100℃未満の品温で加熱する工程2と、
花椒のホールを油脂中で砕く工程3と、を含むことを特徴とする、花椒含有組成物の製造方法。
〔2〕工程2で、花椒のホールを60℃以上100℃未満の品温で加熱する、前記〔1〕に記載の花椒含有組成物の製造方法。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法により製造された花椒含有組成物を用いることを特徴とする、食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、渋い風味が抑えられ花椒特有の華やかで爽やかな風味が際立ち、さらに長期間風味を保つことが可能な花椒含有組成物を製造することができる。また、この花椒含有組成物を用いることで、花椒特有の華やかで爽やかな風味を有する食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本明細書に記載の「花椒」とは、香辛料の1種であり、ミカン科の落葉潅木であるカホクザンショウ(学名:Zanthoxylum bungeanum)の果実を乾燥させたものである。
【0008】
本発明の製造方法により得られる「花椒含有組成物」は、花椒と油脂とを含み、更にその他の成分を含んでいてもよい。形態は、特に限定されないが、例えば、常温で液状の油脂を用いる場合は液状であってもよく、常温でペースト状、固形状の油脂を用いる場合はペースト状、固形状等であってもよい。
【0009】
本発明の花椒含有組成物の製造方法は、花椒のホールを油脂中に分散させる工程1を含む。本明細書に記載の「油脂」とは、食用に供される天然油脂又は加工油脂等の油脂のことをいう。油脂は、花椒含有組成物を製造することができる限り特に限定されないが、例えば、バター、牛脂及び豚脂等の動物油脂、マーガリン、パーム油、綿実油、菜種白絞油及びコーン油等の植物油脂、並びにこれらの硬化油脂等からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。使用する油脂に対する分散させる花椒の割合は、花椒含有組成物を製造することができる限り特に限定されないが、例えば、油脂100質量部に対して、花椒15~100質量部であってもよく、好ましくは花椒25~50質量部である。
【0010】
本発明の花椒含有組成物の製造方法は、花椒のホールを油脂中に分散させた状態で100℃未満の品温で加熱する工程2を含む。好ましくは60℃以上100℃未満、より好ましくは70℃~95℃の品温で、1分~30分間、好ましくは3分~20分間行う。100℃未満の品温で加熱することにより、渋い風味を抑え花椒特有の華やかで爽やかな風味を際立たせることができる。一方で、100℃以上の品温で加熱した場合、花椒特有の華やかで爽やかな風味が弱くなる。また、60℃未満の品温で加熱した場合、渋い風味が残りやすくなる。加熱処理は、本技術分野で通常使用され得る任意の処理方法を採用することができ、例えば、直火型釜、ハイブリッド釜、オイル式釜、蒸気式釜、及び過熱水蒸気等のいずれの加熱媒体を採用してもよい。なお、工程1と工程2は同時に行うこともできる。
【0011】
本発明の花椒含有組成物の製造方法は、花椒を加熱した後に、花椒のホールを油脂中で砕く工程3を含む。花椒のホールを油脂中で砕くことにより、花椒特有の華やかで爽やかな風味を花椒含有組成物中に閉じ込めることができ、さらにこの風味が外部に逃げるのを抑えることができる。その結果、長期間風味を保つことができる。花椒を砕く方法は、本技術分野で通常使用され得る任意の処理方法を採用することができ、例えば、マスコロイダー等の装置を採用してもよい。砕いた後の花椒の粒径としては、特に限定されないが、例えば、目開き2mm以下、好ましくは1.8mm以下の篩を通過するものであるのが好ましい。花椒の粒径を上記条件にそろえることで、好ましい食感を得ることができる。なお、本明細書に記載の「砕く工程」とは、花椒を粗挽きする処理であってもよいし、粉末状に粉砕する処理であってもよい。
【0012】
本発明の花椒含有組成物の製造方法は、上記以外の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、加熱後に花椒含有組成物を冷却する工程等を採用してもよい。
【0013】
このようにして得られた花椒含有組成物は種々の食品に用いることができ、花椒特有の華やかで爽やかな風味を有する食品を製造することができる。
こうした食品としては、特に限定されないが、例えば、カレールウ、カレーソース、カレーフィリング、ラーメン又は麻婆豆腐等が好ましいものとして挙げられる。
【0014】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例
【0015】
<1>花椒含有組成物の製造及び評価
〔実施例1〕
花椒のホール100gを植物油脂400gに分散させ、この状態で花椒を90℃の品温で10分間加熱した。その後、マスコロイダーにより油脂中に分散した花椒を砕き、冷却して組成物(花椒含有組成物)を得た。なお、花椒含有組成物中の花椒の粒径は、目開き1.8mmの篩を全通するものであった。
【0016】
〔実施例2〕
花椒を油脂中に分散させた状態で花椒を50℃の品温で10分間加熱したこと以外は実施例1と同様にして組成物(花椒含有組成物)を得た。
【0017】
〔実施例3〕
花椒を油脂中に分散させた状態で花椒を65℃の品温で10分間加熱したこと以外は実施例1と同様にして組成物(花椒含有組成物)を得た。
【0018】
〔比較例1〕
花椒を油脂中に分散させた状態で花椒を130℃の品温で10分間加熱したこと以外は実施例1と同様にして組成物を得た。
【0019】
〔比較例2〕
予め花椒の粒径が目開き1.8mmの篩を全通するものになるまで砕いた後に、砕いた花椒100gを植物油脂400gに分散させ、この状態で花椒を90℃の品温で10分間加熱し、冷却して組成物を得た。
【0020】
得られた各組成物に関して、花椒特有の華やかで爽やかな風味及び渋い風味について評価した。各評価は、以下の基準に基づいて行った。なお、本評価は各組成物を製造してから30日後に行った。
[評価基準(華やかで爽やかな風味)]
花椒特有の華やかで爽やかな風味を強い順から、「◎」、「○」、「△」、「×」と規定した。
◎:花椒特有の華やかで爽やかな風味が強い
○:花椒特有の華やかで爽やかな風味がある
△:花椒特有の華やかで爽やかな風味が弱い
×:花椒特有の華やかで爽やかな風味がほとんどない
[評価基準(渋い風味)]
渋い風味を弱い順から、「◎」、「○」、「△」、「×」と規定した。
◎:渋い風味をほとんど感じない
○:かすかに渋い風味を感じる
△:渋い風味を感じるが弱い
×:渋い風味を感じる
【0021】
各組成物の、風味の評価結果を、表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例1~3の花椒含有組成物は、渋い風味が抑えられている一方で、華やかで爽やかな風味が強い。一方、比較例1、2の組成物は、華やかで爽やかな風味が弱い又はほとんど感じられない。
【0024】
<2>麻婆豆腐ソースの調製及び評価
〔実施例4〕
ラード9質量部でにんにく2質量部と豆板醤6質量部を80℃で3分間炒めた。そこに甜麺醤6質量部、酒5質量部、醤油6質量部、鶏がらスープ54質量部を加え95℃達温まで加熱した。その後、予め水7質量部と片栗粉4質量部とを溶いて調整した水溶き片栗粉11質量部を入れて再度95℃達温まで加熱し、実施例1の花椒含有組成物1質量部を加え、混合して麻婆豆腐ソースを得た。
この麻婆豆腐ソースは、花椒特有の華やかで爽やかな風味を有するものであった。
【0025】
<3>カレールウの調製
〔実施例5〕
ラード34.5質量部と小麦粉37質量部を120℃になるまで炒めた。そこに実施例1の花椒含有組成物0.5質量部、ターメリック2質量部、コリアンダー2質量部、赤唐辛子0.5質量部、及びクミン2質量部を加え、3分間炒めた。次に、グラニュー糖6.5質量部、食塩7.5質量部、グルタミン酸ナトリウム6.5質量部、核酸調味料0.7質量部、カラメル色素0.3質量部を入れ、混合した後、60℃まで冷却し、これをトレイに充填した。次に、これを-10℃、40分間の条件で冷却処理を施して固化し、固形カレールウを得た。
【0026】
<4>カレーソースの調製及び評価
〔実施例6〕
上記<3>で調製したカレールウ1質量部を25℃の水5質量部に撹拌混合しながら混合物の温度が95℃に達するまで加熱調理してカレーソースを得た。
このカレーソースは、花椒特有の華やかで爽やかな風味を有するものであった。