(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】被加工物の研削装置及び研削方法
(51)【国際特許分類】
B24B 49/12 20060101AFI20221130BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20221130BHJP
B24B 49/04 20060101ALI20221130BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20221130BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B24B49/12
B24B7/04 A
B24B49/04 Z
B24B49/10
H01L21/304 631
(21)【出願番号】P 2018162778
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 雄二郎
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-050944(JP,A)
【文献】特開2011-143488(JP,A)
【文献】特開2017-140656(JP,A)
【文献】特表2012-504752(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0222071(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0102227(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/12
B24B 7/04
B24B 49/04
B24B 49/10
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状に形成された複数の分割予定ラインで区画された領域にデバイスが形成された表面を有する被加工物の裏面を研削砥石で研削する被加工物の研削装置であって、
該被加工物の表面を鉛直方向の回転軸で回転するチャックテーブルの保持面で保持する保持手段と、
該保持面と直交する回転軸で回転する研削砥石で該被加工物を研削する研削手段と、
該被加工物にプローブを接触させて該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段と、
測定光を該被加工物に向けて照射し、照射した測定光が該被加工物の裏面で反射した光と該被加工物を透過して表面で反射した光とを受光した時間差から該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する非接触式厚み測定手段と、
該接触式厚み測定手段によって測定した該被加工物の研削による除去量Lと、該非接触式厚み測定手段にて測定した該被加工物の研削による除去量L1と、該非接触式厚み測定手段に
おいて、任意に設定された屈折率n1とから、該被加工物の屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、該非接触式厚み測定手段に設定された該屈折率n1を算出した該屈折率nと置き換える屈折率算出手段と、を備え、
屈折率が該屈折率nに置き換えられた該非接触式厚み測定手段で、該被加工物の厚みを測定することを特徴とする被加工物の研削装置。
【請求項2】
格子状に形成された複数の分割予定ラインで区画された領域にデバイスが形成された表面を有する被加工物の裏面を研削砥石で研削する被加工物の研削方法であって、
該被加工物の表面を鉛直方向の回転軸で回転するチャックテーブルの保持面で保持する保持ステップと、
該被加工物にプローブを接触させて該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段と、測定光を該被加工物に向けて照射し、照射した測定光が該被加工物の裏面で反射した光と該被加工物を透過して表面で反射した光とを受光した時間差から該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する非接触式厚み測定手段とで測定を行いながら、該保持面と直交する回転軸で回転する研削砥石で該被加工物をチップの仕上がり厚みまで研削する研削ステップと、
該接触式厚み測定手段にて測定した該被加工物の除去量Lと、任意の屈折率n1が設定された該非接触式厚み測定手段にて測定した該被加工物の除去量L1と、該非接触式厚み測定手段に任意に設定された該屈折率n1とから、該被加工物の屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、該非接触式厚み測定手段に任意に設定された該屈折率n1を算出した該屈折率nと置き換える屈折率算出ステップと、を備え、
屈折率が該屈折率nに置き換えられた該非接触式厚み測定手段で、該被加工物の厚みを測定することを特徴とする被加工物の研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の被加工物の研削装置及び研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスでは、デバイスを所望の厚みで得るために、多数のデバイスの集合体である半導体ウェーハの段階で、接触式厚み測定手段又は非接触式厚み測定手段により厚み測定を行いつつ、ウェーハ裏面を研削して薄化することが行われている。
【0003】
そして、昨今のデバイスの顕著な薄型化に応じて半導体ウェーハ等の被加工物は一層薄く加工されており、このため、研削における厚みの管理はより高い精度が求められている。
【0004】
接触式の厚み測定手段では、被加工物の被加工面(裏面)に接触させるプローブによって該被加工面に傷がつき、その傷が被加工物の抗折強度を低下させる原因になるといった問題がある。特に被加工物の研削後の厚みが比較的薄い場合に、傷の深さの影響が大きいため抗折強度の低下は顕著となる。
対して、被加工物にプローブ等を接触させることなく厚みを測定可能な測定光(レーザ光)を利用した非接触式の厚み測定手段(例えば、特許文献1参照)が、被加工物の抗折強度を低下させない点では有利とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被加工物の厚みを非接触で測定する方法としては、例えば、被加工物に向けて非接触式の厚み測定手段の照射部から測定光を照射し、照射した測定光が被加工物の上下の界面(上面(裏面)と下面(表面))においてそれぞれ反射した反射光を非接触式の厚み測定手段の受光部が受光した時間差及び入射角から被加工物の厚みを測定するため、厚みを測定するためには被加工物の屈折率を認識する必要がある。
【0007】
しかしながら、屈折率は被加工物の材質により異なるため、非接触式厚み測定手段では屈折率が不明な被加工物の厚みを測定することが出来ないという問題がある。
よって、半導体ウェーハ等の被加工物を研削する場合においては、屈折率が不明な被加工物の厚み測定を非接触式の厚み測定手段によって測定できるようにするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、格子状に形成された複数の分割予定ラインで区画された領域にデバイスが形成された表面を有する被加工物の裏面を研削砥石で研削する被加工物の研削装置であって、該被加工物の表面を鉛直方向の回転軸で回転するチャックテーブルの保持面で保持する保持手段と、該保持面と直交する回転軸で回転する研削砥石で該被加工物を研削する研削手段と、該被加工物にプローブを接触させて該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段と、測定光を該被加工物に向けて照射し、照射した測定光が該被加工物の裏面で反射した光と該被加工物を透過して表面で反射した光とを受光した時間差から該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する非接触式厚み測定手段と、該接触式厚み測定手段によって測定した該被加工物の研削による除去量Lと、該非接触式厚み測定手段にて測定した該被加工物の研削による除去量L1と、該非接触式厚み測定手段において、任意に設定された屈折率n1とから、該被加工物の屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、該非接触式厚み測定手段に設定された該屈折率n1を算出した該屈折率nと置き換える屈折率算出手段と、を備え、屈折率が該屈折率nに置き換えられた該非接触式厚み測定手段で、該被加工物の厚みを測定することを特徴とする被加工物の研削装置である。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明は、格子状に形成された複数の分割予定ラインで区画された領域にデバイスが形成された表面を有する被加工物の裏面を研削砥石で研削する被加工物の研削方法であって、該被加工物の表面を鉛直方向の回転軸で回転するチャックテーブルの保持面で保持する保持ステップと、該被加工物にプローブを接触させて該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段と、測定光を該被加工物に向けて照射し、照射した測定光が該被加工物の裏面で反射した光と該被加工物を透過して表面で反射した光とを受光した時間差から該被加工物の厚みと該被加工物の研削により除去された量とを測定する非接触式厚み測定手段とで測定を行いながら、該保持面と直交する回転軸で回転する研削砥石で該被加工物をチップの仕上がり厚みまで研削する研削ステップと、該接触式厚み測定手段にて測定した該被加工物の除去量Lと、任意の屈折率n1が設定された該非接触式厚み測定手段にて測定した該被加工物の除去量L1と、該非接触式厚み測定手段に任意に設定された該屈折率n1とから、該被加工物の屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、該非接触式厚み測定手段に任意に設定された該屈折率n1を算出した該屈折率nと置き換える屈折率算出ステップと、を備え、屈折率が該屈折率nに置き換えられた該非接触式厚み測定手段で、該被加工物の厚みを測定することを特徴とする被加工物の研削方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る被加工物の研削装置は、接触式厚み測定手段によって測定した被加工物の研削による除去量Lと、非接触式厚み測定手段にて測定した被加工物の研削による除去量L1と、非接触式厚み測定手段に任意に設定された屈折率n1とから、被加工物の屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、非接触式厚み測定手段に設定された屈折率n1を算出した屈折率nと置き換える屈折率算出手段と、を備え、屈折率が屈折率nに置き換えられた非接触式厚み測定手段で、被加工物の厚みを測定することで、屈折率が不明な被加工物の厚み測定も非接触式厚み測定手段によって正しく測定することを可能にする。
【0011】
また、本発明に係る被加工物の研削方法は、被加工物にプローブを接触させて被加工物の厚みと被加工物の研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段と、測定光を被加工物に向けて照射し、照射した測定光が被加工物の裏面で反射した光と被加工物を透過して表面で反射した光とを受光した時間差から被加工物の厚みと被加工物の研削により除去された量とを測定する非接触式厚み測定手段とで測定を行いながら、保持面と直交する回転軸で回転する研削砥石で被加工物をチップの仕上がり厚みまで研削する研削ステップと、接触式厚み測定手段にて測定した被加工物の除去量Lと、任意の屈折率n1が設定された非接触式厚み測定手段にて測定した被加工物の除去量L1と、非接触式厚み測定手段に任意に設定された屈折率n1とから、被加工物の屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、非接触式厚み測定手段に任意に設定された屈折率n1を算出した屈折率nと置き換える屈折率算出ステップと、を備え、屈折率が屈折率nに置き換えられた非接触式厚み測定手段で、被加工物の厚みを測定することで、屈折率が不明な被加工物の厚み測定も非接触式厚み測定手段によって正しく測定できるようになり、被加工物を所望の厚みまで研削できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】研削装置の構成要素の一例を示す斜視図である。
【
図2】研削装置において被加工物を研削している状態を示す断面図である。
【
図3】屈折率置き換え前の非接触式厚み測定手段により測定された被加工物の厚み(μm)の時間経過による推移を示すグラフ及び接触式厚み測定手段により測定された被加工物の厚みの時間経過による推移を示すグラフである。
【
図4】屈折率置き換え後の非接触式厚み測定手段により測定された被加工物の厚み(μm)の時間経過による推移を示すグラフ及び接触式厚み測定手段により測定された被加工物の厚みの時間経過による推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示す被加工物Wは、例えば、シリコン等を母材とする外形が円形状の半導体ウェーハであり、
図1において-Z方向側を向いている表面Waは、直交差する複数の分割予定ラインSで格子状に区画されており、格子状に区画された各領域にはIC等のデバイスDがそれぞれ形成されている。表面Waは、例えば、図示しない保護テープが貼着され保護されている。
被加工物Wの裏面Wbは、研削加工が施される被研削面になる。被加工物Wの実際の屈折率(屈折率n)については、事前に把握されていないものとする。なお、被加工物Wはシリコン以外にガリウムヒ素、サファイア、窒化ガリウム又はシリコンカーバイド等で構成されていてもよい。
【0014】
図1に示す研削装置2は、被加工物Wをチャックテーブル30の保持面300aで吸引保持する保持手段3と、被加工物Wを回転する研削砥石441で研削する研削手段4とを少なくとも備えている。
なお、研削装置2が行う研削には、フェルト等の不織布からなる研磨パッドによる被加工物Wの研磨も含む。
【0015】
保持手段3のチャックテーブル30は、例えば、その外形が円形状であり、ポーラス部材等からなり被加工物Wを吸引保持する保持部300と、保持部300を支持する枠体301とを備える。保持部300は、真空発生装置等の図示しない吸引源に連通しており、図示しない吸引源が吸引することで生み出された吸引力が、保持部300の露出面である保持面300aに伝達されることで、チャックテーブル30は保持面300a上で被加工物Wを吸引保持する。
チャックテーブル30の下方には、軸方向が鉛直方向(Z軸方向)である回転軸321が接続されており、該回転軸321にはモータ320が連結されている。そして、チャックテーブル30は、モータ320及び回転軸321によって鉛直方向の軸心周りに回転可能となっている。
チャックテーブル30は、例えば、図示しないX軸移動手段によってX軸方向に往復移動可能となっている。
【0016】
図1に示す研削手段4は、軸方向がチャックテーブル30の保持面300aと直交するZ軸方向である回転軸40(
図2参照)と、回転軸40を回転可能に支持するハウジング41と、回転軸40を回転駆動させるモータ42と、回転軸40の下端に取り付けられたマウント43と、マウント43に着脱可能に接続された研削ホイール44とを備える。研削ホイール44は、円環状のホイール基台440と、略直方体形状の外形を備えホイール基台440の下面に複数環状に配設された研削砥石441とを備えている。研削砥石441は、適宜のボンド剤でダイヤモンド砥粒等が固着されて成形されている。
研削手段4は、ボールネジ機構等を備える研削送り手段7によってZ軸方向に上下動可能となっている。
【0017】
研削装置2は、被加工物Wにプローブ50を接触させて被加工物Wの厚みと被加工物Wの研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段5を備えている。上下方向に昇降可能なプローブ50は、チャックテーブル30の保持面300aの上方に位置し被加工物Wの被測定面である裏面Wbに接触する。プローブ50はアーム部51によって支持されており、アーム部51は、その内部に内蔵したスプリングが生み出す押圧力によって、プローブ50をチャックテーブル30の保持面300aに保持された被加工物Wの裏面Wbに対して適宜の力で押し当てることができる。
【0018】
接触式厚み測定手段5は、プローブ50によって被加工物Wの裏面Wbの高さ位置を検出する。また、接触式厚み測定手段5は、予め、保持面300aの高さ位置及び研削前の被加工物Wの厚みを把握しており、それ故、保持面300aで保持された研削前の被加工物Wの裏面Wbの高さ位置を把握している。したがって、接触式厚み測定手段5は、保持面300aで保持された研削前の被加工物Wの裏面Wbの高さ位置と研削加工中に測定した被加工物Wの裏面Wbの高さ位置との差から被加工物Wの研削により除去された量(除去量)を測定して、さらに、研削加工中の被加工物Wの厚みを順次測定できる。
【0019】
なお、接触式厚み測定手段5は、チャックテーブル30の保持面300aの高さ測定用の別途のプローブをさらに備え、研削加工中においてプローブ50が検出した被加工物Wの裏面Wbの高さと別途のプローブが検出したチャックテーブル30の保持面300aの高さとの差を被加工物Wの厚みとして測定するものであってもよい。
【0020】
研削装置2は、研削加工中の被加工物Wの厚みと被加工物Wの研削により除去された量とを非接触で測定できる非接触式厚み測定手段6を備えている。
非接触式厚み測定手段6は、例えば、測定光を用いる反射型の変位センサであり、被加工物Wに対して測定光(レーザー光)を照射するための投光部60、測定光を平行光に変換する図示しないコリメータレンズ(投光レンズ)、被加工物Wで反射された反射光を捉える図示しない受光レンズ、及び反射光を検出するためのCCD等からなる受光部61、並びに投光部60、コリメータレンズ、受光レンズ、及び受光部61等が内部に配設され外部光が遮光される筐体62を備えている。なお、非接触式厚み測定手段6の構成は本実施形態に限定されるものではない。
【0021】
研削装置2は、例えば、装置全体の制御を行う制御手段9を備えている。制御手段9は、制御プログラムに従って演算処理するCPU及びメモリ等の記憶手段を備えており、研削送り手段7、チャックテーブル30を回転させるモータ320、接触式厚み測定手段5、及び非接触式厚み測定手段6等に電気的に接続されている。そして、制御手段9の制御の下で、モータ320及び回転軸321によるチャックテーブル30の回転動作や研削送り手段7による研削手段4のZ軸方向における研削送り動作等が制御される。
【0022】
以下に、本発明に係る
図1、2に示す研削装置2を用いて被加工物Wを研削する場合の各ステップについて説明する。
【0023】
(1)保持ステップ
図1に示す被加工物Wが、裏面Wbが上側になるようにチャックテーブル30の保持面300a上に載置される。そして、図示しない吸引源により生み出される吸引力が保持面300aに伝達されることにより、
図2に示すように、チャックテーブル30が保持面300a上で被加工物Wの表面Waを吸引保持する。
【0024】
(2)屈折率置き換え前の研削ステップ
チャックテーブル30が、図示しないX軸移動手段によって研削手段4の下まで-X方向へ移動されて、研削ホイール44とチャックテーブル30に保持された被加工物Wとの位置合わせがなされる。位置合わせは、例えば、研削砥石441の回転中心が被加工物Wの回転中心に対して所定の距離だけ水平方向にずれ、研削砥石441の回転軌跡が被加工物Wの回転中心を通るように行われる。
【0025】
研削ホイール44と被加工物Wとの位置合わせが行われた後、モータ42により回転軸40が回転駆動されるのに伴って、
図2に示すように、研削ホイール44が所定の回転速度で回転する。また、研削手段4が研削送り手段7により-Z方向へと送られ、研削砥石441が被加工物Wの裏面Wbに当接することで研削加工が行われる。さらに、研削中は、チャックテーブル30がZ軸方向の軸心周りに回転するのに伴って被加工物Wも回転するので、研削砥石441が被加工物Wの裏面Wbの全面の研削加工を行う。
【0026】
研削砥石441による被加工物Wの研削が開始されると、回転する被加工物Wの裏面Wbにプローブ50が所定の押圧力で押し付けられ、接触式厚み測定手段5により被加工物Wの研削による除去量と厚みの測定とが開始される。
また、非接触式厚み測定手段6の投光部60が、筐体62の下方に位置付けられた被加工物Wに対して測定光を照射する。測定光は、コリメータレンズで平行な平行光に変換されて、被加工物Wに所定の角度(例えば、略垂直)で入射する。測定光の一部は被加工物Wの上面となる裏面Wbで反射されるとともに、残りの測定光は被加工物W(屈折率n)で屈折して被加工物Wを透過し、被加工物Wの下面となる表面Waで反射される。そして、測定光が被加工物Wの裏面Wbで反射した光と被加工物Wを透過して表面Waで反射した光とを受光レンズが捉えて、さらに受光部61が受光した際の時間差から、非接触式厚み測定手段6は被加工物Wの厚みを測定する。
【0027】
非接触式厚み測定手段6は、予め、研削前の被加工物Wの厚みを把握しており、研削中に測定した被加工物Wの厚みと、研削前の被加工物Wの厚みとの差を被加工物Wの研削により除去された量として順次算出・測定する。
【0028】
(3)屈折率算出ステップ
接触式厚み測定手段5によって測定される被加工物Wの研削中の任意の時刻(研削加工開始から加工時間t1経過時)における除去量を、除去量Lとする。接触式厚み測定手段5によって測定された除去量Lは、被加工物Wの加工時間t1経過時における正確な除去量である。そして、
図3に示す一点鎖線で示すグラフG1は、接触式厚み測定手段5により測定された被加工物Wの厚み(μm)の時間経過による推移を示すグラフの一例である。
【0029】
また、非接触式厚み測定手段6によって測定される被加工物Wの研削中の該任意の時刻(研削加工開始から加工時間t1経過時)における除去量を、除去量L1とする。なお、非接触式厚み測定手段6は作業者によって任意に予め設定された屈折率n1、即ち、未だ認識していない被加工物Wの実際の屈折率nとは異なる屈折率n1が設定された状態で、被加工物Wの厚みを測定し、測定した厚みから該除去量L1を算出しているため、現時点において、該除去量L1は被加工物Wの正しい除去量とはなっていない。そして、
図3に示す実線で示すグラフG2は、非接触式厚み測定手段6により測定された被加工物Wの厚み(μm)の時間経過による推移を示すグラフの一例である。なお、グラフG1及びグラフG2は、本発明の発明者が実際に行った実験から得ることができたグラフである。
【0030】
ここで、被加工物Wを所望の厚みまで研削するために予め制御手段9に設定される研削手段4の加工条件設定の送り速度を速度Vとした場合に、任意の屈折率n1が設定された非接触式厚み測定手段6では、
非接触式厚み測定手段6による計算上の研削手段4の送り速度V1=V/n1・・・(式1)
が成立する。
そして、除去量L1=非接触式厚み測定手段6による計算上の研削手段4の送り速度V1×加工時間t1=(V/n1)×t1・・・(式2)
が成立する。
【0031】
一方、例えば非接触式厚み測定手段6に被加工物Wの実際の屈折率nが設定されていると仮定した場合には、非接触式厚み測定手段6では、
非接触式厚み測定手段6による計算上の研削手段4の送り速度V2=V/n・・・・・(式3)
が成立する。
そして、接触式厚み測定手段5により測定された正確な除去量L=速度V2×加工時間t1=(V/n)×t1・・・(式4)
が成立する。
【0032】
上記(式3)における被加工物Wの実際の屈折率nは、現時点において非接触式厚み測定手段6に設定されておらず、非接触式厚み測定手段6には作業者によって任意に設定された屈折率n1が設定されている。そこで、
図2に示す制御手段9に含まれる屈折率算出手段90が、以下に説明する演算処理を実行する。
即ち、(式2)と(式4)とから、
L1/(V/n1)=L/(V/n)・・・・(式5)
が成立する。そして、式(5)を変形することで、被加工物Wの実際の屈折率nを求める下記式である、
n=(L1×n1)/L・・・・・・(式6)
が導出される。
【0033】
屈折率算出手段90は、上記(式6)を用いて被加工物Wの実際の屈折率nを算出すると、非接触式厚み測定手段6に設定されていた屈折率n1を算出した屈折率nと置き換えて設定する。
屈折率nの具体的な数値の算出の一例を、(式6)及び
図3に示すグラフG1及びグラフG2を用いて示す。非接触式厚み測定手段6に設定されている任意の屈折率n1は、例えば、屈折率n1=3.2である。加工時間t1経過時において、グラフG1から読み取れる接触式厚み測定手段5によって測定された被加工物Wの除去量L=18.8171μmであり、加工時間t1経過時において、グラフG2から読み取れる非接触式厚み測定手段6によって測定された被加工物Wの除去量L1=22.78038μmである。
上記各数値を(式6)に代入して被加工物Wの実際の屈折率nを算出すると、
n=(22.78038×3.2)/18.8171=3.873987となる。
そして、屈折率算出手段90は、非接触式厚み測定手段6に任意に設定された屈折率n1=3.2を算出した屈折率n=3.873987と置き換える。
【0034】
(4)屈折率置き換え後の研削ステップ
屈折率が屈折率n1から実際の被加工物Wの屈折率nに置き換えられた非接触式厚み測定手段6によって、さらに被加工物Wの厚みが正しく測定されつつ、被加工物Wが所望の厚みまで研削される。その後、研削送り手段7が研削手段4を+Z方向に上昇させて、研削砥石441が被加工物Wから離間し被加工物Wに対する研削が終了する。
【0035】
このように、本発明に係る被加工物Wの研削装置2は、接触式厚み測定手段5によって測定した被加工物Wの研削による除去量Lと、非接触式厚み測定手段6にて測定した被加工物Wの研削による除去量L1と、非接触式厚み測定手段6に任意に設定された屈折率n1とから、被加工物Wの屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、非接触式厚み測定手段6に設定された屈折率n1を算出した屈折率nと置き換える屈折率算出手段90と、を備え、屈折率が屈折率nに置き換えられた非接触式厚み測定手段6で、被加工物Wの厚みを測定することで、屈折率が不明な被加工物Wの厚み測定も非接触式厚み測定手段6によって正しく測定することを可能にする。
【0036】
また、本発明に係る被加工物Wの研削方法は、被加工物Wにプローブ50を接触させて被加工物Wの厚みと被加工物Wの研削により除去された量とを測定する接触式厚み測定手段5と、測定光を被加工物Wに向けて照射し、照射した測定光が被加工物Wの裏面Wbで反射した光と被加工物Wを透過して表面Waで反射した光とを受光した時間差から被加工物Wの厚みと被加工物Wの研削により除去された量とを測定する非接触式厚み測定手段6とで測定を行いながら、チャックテーブル30の保持面300aと直交する回転軸40で回転する研削砥石441で被加工物Wをチップの仕上がり厚みまで研削する研削ステップと、接触式厚み測定手段5にて測定した被加工物Wの除去量Lと、任意の屈折率n1が設定された非接触式厚み測定手段6にて測定した被加工物Wの除去量L1と、非接触式厚み測定手段6に任意に設定された屈折率n1とから、被加工物Wの屈折率nをn=L1×n1/Lの計算式により算出し、非接触式厚み測定手段6に任意に設定された屈折率n1を算出した屈折率nと置き換える屈折率算出ステップと、を備え、屈折率が屈折率nに置き換えられた非接触式厚み測定手段6で、被加工物Wの厚みを測定することで、屈折率が不明な被加工物Wの厚み測定も非接触式厚み測定手段6によって正しく測定できるようになり、被加工物Wを所望の厚みまで研削できるようになる。
【0037】
さらに、新たな被加工物Wが、非接触式厚み測定手段6の屈折率が屈折率n(n=3.873987)に置き換えられた状態の研削装置2によって研削される。
図4に一点鎖線で示すグラフG4は、接触式厚み測定手段5により測定された被加工物Wの厚み(μm)の時間経過による推移を示すグラフの一例である。また、実線で示すグラフG5は、非接触式厚み測定手段6により測定された被加工物Wの厚み(μm)の時間経過による推移を示すグラフの一例である。なお、グラフG4及びグラフG5は、本発明の発明者が実際に行った実験から得ることができたグラフである。
【0038】
図4に示すように、新たな被加工物Wの研削においては、非接触式厚み測定手段6により測定される被加工物Wの厚みと接触式厚み測定手段5により測定される被加工物Wの厚みとが研削開始から終了まで略合致しており、被加工物Wの厚み測定を非接触式厚み測定手段6によって正しく測定しつつ、被加工物Wを所望の厚みまで研削できた。
【0039】
本発明に係る被加工物の研削方法の各工程は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。また、添付図面に図示されている研削装置2の各構成要素についても、これに限定されず、本発明の効果を発揮できる範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0040】
W:被加工物 Wa:表面 S:分割予定ライン D:デバイス Wb:裏面
2:研削装置
3:保持手段 30:チャックテーブル 300:保持部 300a:保持面 301:枠体 320:モータ 321:回転軸
4:研削手段 40:回転軸 41:ハウジング 42:モータ 43:マウント 44:研削ホイール 440:ホイール基台 441:研削砥石
5:接触式厚み測定手段 50:プローブ 51:アーム部
6:非接触式厚み測定手段 60:投光部 61:受光部 62:筐体
9:制御手段 90:屈折率算出手段