(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】中心検出方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20221130BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
G01B11/00 D
H01L21/304 611Z
(21)【出願番号】P 2018228008
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 崇史
(72)【発明者】
【氏名】小池 彩子
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-133371(JP,A)
【文献】特開2005-268530(JP,A)
【文献】特開2018-028713(JP,A)
【文献】特開2002-148019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状ワークの中心を検出する中心検出方法であって、
X軸上のX座標とY軸上のY座標とで規定される表面を有し回転軸を備えた保持テーブルに、該円板状ワークを保持させる保持工程と、
X軸およびY軸に並行に配列された複数の画素を有する撮像素子を備えた撮像手段を、該円板状ワークの外周に位置づけて、撮像手段による撮像を実施して外周画像を取得する位置づけ工程と、
X軸方向に整列した複数の画素の1/2未満の画素数を有するラインセンサを、該外周画像内に設定するラインセンサ設定工程と、
該外周画像における該円板状ワークの外周に対応する画素が該ラインセンサを2等分する状態で、該ラインセンサの各画素から出力される明暗値を取得し、最小二乗法により、該明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を基準傾き値として算出し、該基準傾き値未満であって該基準傾き値に近い傾き値を閾値として設定する閾値設定工程と、
該ラインセンサを、該外周画像においてX軸方向に1画素ずつ該円板状ワークに向けて移動させながら、該ラインセンサの各画素から出力される明暗値を取得し、最小二乗法により、明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を算出する傾き値算出工程と、
該傾き値算出工程において算出された傾き値が該閾値以上となったときに、該ラインセンサの画素から出力される明暗値の最小値と最大値との平均値を算出し、該平均値に最も近い明暗値を有する該ラインセンサの画素の座標を、該円板状ワークの外周座標として取得する外周座標決定工程と、
該円板状ワークを回転させ、該傾き値算出工程および該外周座標決定工程を少なくとも3回実施して、少なくとも3カ所の外周座標を取得し、これら3カ所の外周座標に基づいて、該円板状ワークの中心座標を算出する中心座標算出工程と、
を含む中心検出方法。
【請求項2】
該傾き値算出工程において、該ラインセンサを構成する各画素を取り巻く複数の画素の明暗値の平均値を、該ラインセンサを構成する各画素から出力される明暗値とする、
請求項1に記載の中心検出方法。
【請求項3】
該ラインセンサ設定工程において、該外周画像内に、Y軸方向に並ぶ複数の該ラインセンサを設定し、
該傾き値算出工程では、複数の該ラインセンサごとに傾き値を算出し、
該外周座標決定工程では、複数の該ラインセンサごとに該円板状ワークの外周座標を取得し、さらに、各外周座標から該保持テーブルの回転軸心の座標までの距離である第1距離を算出し、算出された第1距離が近似する外周座標のグループを作成し、最も多くの外周座標が属するグループのいずれかの外周座標を、該円板状ワークの外周座標として決定する、
請求項1あるいは2に記載の中心検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エッジトリミング加工では、ウェーハの外周の面取り部を、円周方向に沿って除去する。このエッジトリミング加工では、ウェーハの外周における除去される部分の幅(径方向の長さ)を等しくすることが求められる。そのため、ウェーハの中心を認識し、ウェーハ中心と保持テーブルの回転軸心とのズレを補正している(特許文献1参照)。
【0003】
また、ウェーハの中心を認識するために、以下のような方法がある(特許文献2および3参照)。すなわち、ウェーハの外周の少なくとも3カ所を撮像して、各撮像画におけるウェーハの外周縁を示す画素である外周縁画素を見つける。そして、3つの外周縁画素の座標値から、ウェーハ中心を算出する。
この方法では、ウェーハの外周縁を見つけるとき、撮像画を2値化して、黒の画素と白の画素との境を、外周縁画素として認識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-93333号公報
【文献】特許5486405号公報
【文献】特開2015-102389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撮像画を2値化するときには、予め設定された閾値に基づいて、画素を黒あるいは白に分けるため、ウェーハの外周縁を間違えることがある。また、ウェーハの外周縁に近い部分で光が反射すると、この部分が白っぽく写ることがあり、また、ウェーハの外周縁の外側の部分に影ができると、この部分が黒っぽく写ることがある。これらは、ウェーハの外周縁を間違えて認識することの原因となりえる。
【0006】
本発明の目的は、ウェーハの中心を検出する際、ウェーハの外周縁を間違えて認識してしまうことを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中心検出方法(本中心検出方法)は、円板状ワークの中心を検出する中心検出方法であって、X軸上のX座標とY軸上のY座標とで規定される表面を有し回転軸を備えた保持テーブルに、該円板状ワークを保持させる保持工程と、X軸およびY軸に並行に配列された複数の画素を有する撮像素子を備えた撮像手段を、該円板状ワークの外周に位置づけて、撮像手段による撮像を実施して外周画像を取得する位置づけ工程と、X軸方向に整列した複数の画素の1/2未満の画素数を有するラインセンサを、該外周画像内に設定するラインセンサ設定工程と、該外周画像における該円板状ワークの外周に対応する画素が該ラインセンサを2等分する状態で、該ラインセンサの各画素から出力される明暗値を取得し、最小二乗法により、該明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を基準傾き値として算出し、該基準傾き値未満であって該基準傾き値に近い傾き値を閾値として設定する閾値設定工程と、該ラインセンサを、該外周画像においてX軸方向に1画素ずつ該円板状ワークに向けて移動させながら、該ラインセンサの各画素から出力される明暗値を取得し、最小二乗法により、明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を算出する傾き値算出工程と、該傾き値算出工程において算出された傾き値が該閾値以上となったときに、該ラインセンサの画素から出力される明暗値の最小値と最大値との平均値を算出し、該平均値に最も近い明暗値を有する該ラインセンサの画素の座標を、該円板状ワークの外周座標として取得する外周座標決定工程と、該円板状ワークを回転させ、該傾き値算出工程および該外周座標決定工程を少なくとも3回実施して、少なくとも3カ所の外周座標を取得し、これら3カ所の外周座標に基づいて、該円板状ワークの中心座標を算出する中心座標算出工程と、を含む。
【0008】
本中心検出方法では、該傾き値算出工程において、該ラインセンサを構成する各画素を取り巻く複数の画素の明暗値の平均値を、該ラインセンサを構成する各画素から出力される明暗値としてもよい。
【0009】
本中心検出方法では、該ラインセンサ設定工程において、該外周画像内に、Y軸方向に並ぶ複数の該ラインセンサを設定し、該傾き値算出工程では、複数の該ラインセンサごとに傾き値を算出し、該外周座標決定工程では、複数の該ラインセンサごとに該円板状ワークの外周座標を取得し、さらに、各外周座標から該保持テーブルの回転軸心の座標までの距離である第1距離を算出し、算出された第1距離が近似する外周座標のグループを作成し、最も多くの外周座標が属するグループのいずれかの外周座標を、該円板状ワークの外周座標として決定してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本中心検出方法では、X軸方向に延びるラインセンサを、X軸方向に1画素ずつ移動させ、ラインセンサを移動させるごとに、ラインセンサの各画素から出力される明暗値を取得し、さらに、明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値に基づいて、円板状ワークの外周座標を決定している。したがって、本中心検出方法では、撮像画像を2値化処理することなく、円板状ワークの外周座標を決定することができる。このため、2値化処理の誤りに基づく円板状ワークの外周の誤認識を回避することができる。
【0011】
また、ラインセンサの画素の明暗値として、この画素を取り巻く複数の画素の明暗値の平均値を用いることにより、ラインセンサの画素の明暗値が不要光などの影響により本来の値からずれていても、その影響を抑制することができる。
【0012】
また、複数のラインセンサを用いて、多数決で外周座標を決定することにより、不要光などの影響により、1つのラインセンサの明暗値が誤って検出され、その結果として誤った外周座標が取得されても、その影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態にかかるウェーハを示す斜視図である。
【
図3】ウェーハを加工するための切削装置を示す斜視図である。
【
図4】位置づけ工程の実施態様を示す説明図である。
【
図5】位置づけ工程において得られる初期画像の例を示す説明図である。
【
図6】位置づけ工程において得られる外周画像の例を示す説明図である。
【
図7】ラインセンサの各画素の位置と、各画素から出力される明暗値との関係の例を示すグラフである。
【
図8】傾き値算出工程におけるラインセンサの移動の例を示す説明図である。
【
図9】傾き値算出工程および外周座標決定工程の動作を示すフローチャートである。
【
図10】ラインセンサの全ての画素が枠体に対応する画素となるような位置にラインセンサが設定された場合の、ラインセンサの明暗値の分布および回帰直線の例を示すグラフである。
【
図11】ラインセンサの多くの画素がウェーハに対応する画素となるような位置にラインセンサが設定された場合の、ラインセンサの明暗値の分布および回帰直線の例を示すグラフである。
【
図12】傾き値が閾値以上となったと判断されたときの明暗値の分布の例を示すグラフである。
【
図13】ラインセンサの明暗値の算出に関する変形例を示す説明図である。
【
図14】複数のラインセンサを用いる変形例を示す説明図である。
【
図15】
図14に関する変形例において得られる複数の外周座標の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態にかかる加工方法(本加工方法)は、円板状ワークの一例であるウェーハを加工する方法であり、ウェーハの中心を検出する中心検出方法を含んでいる。
【0015】
図1に示すように、円板状のウェーハWの表面Waには、デバイスDが形成されている。ウェーハWの裏面Wbは、デバイスDを有しておらず、研削砥石などによって研削される被研削面である。
【0016】
図2に示すように、ウェーハWのエッジWEには、表面Waから裏面Wbにかけて、円弧状に面取り部が形成されている。なお、
図2では、ウェーハWの表面Waに設けられているデバイスDを省略している。また、本実施形態では、ウェーハWの色は、黒である。
【0017】
本加工方法では、このようなウェーハWのエッジWEの表面Wa側を除去(エッジトリミング加工)する。そのために、本加工方法では、
図3に示すような切削装置1を用いる。
図3に示すように、切削装置1は、保持テーブル30の保持面302に保持されたウェーハWに対して、切削部6に備えられる切削ブレード63を回転させ切り込ませて、エッジトリミング加工を施す装置である。
切削装置1は、基台10、基台10に立設された門型コラム14、および、切削装置1の各部材を制御する制御部7を備えている。
【0018】
基台10上には、X軸方向送り手段11が配設されている。X軸方向送り手段11は、保持テーブル30を、切削送り方向(X軸方向)に沿って移動させる。X軸方向送り手段11は、X軸方向に延びる一対のガイドレール111、ガイドレール111に載置されたX軸テーブル113、ガイドレール111と平行に延びるボールネジ110、および、ボールネジ110を回転させるモータ112を含んでいる。
【0019】
一対のガイドレール111は、X軸方向に平行に、基台10の上面に配置されている。X軸テーブル113は、一対のガイドレール111上に、これらのガイドレール111に沿ってスライド可能に設置されている。X軸テーブル113上には、保持部3が載置されている。
【0020】
ボールネジ110は、X軸テーブル113の下面側に設けられたナット部(図示せず)に螺合されている。モータ112は、ボールネジ110の一端部に連結されており、ボールネジ110を回転駆動する。ボールネジ110が回転駆動されることで、X軸テーブル113および保持部3が、ガイドレール111に沿って、切削送り方向であるX軸方向に沿って移動する。
【0021】
保持部3は、ウェーハWを保持する保持テーブル30を有している。保持テーブル30は、保持テーブル30を支持して回転する回転軸であるθテーブル31を有している。
【0022】
保持テーブル30は、
図1に示したウェーハWを吸着保持するための部材であり、円板状に形成されている。保持テーブル30は、ポーラス材を含む吸着部300と、吸着部300を支持する白色の枠体301とを備える。
【0023】
吸着部300は、図示しない吸引源に連通されており、露出面である保持面302を有している。保持面302は、ウェーハWよりもわずかに小さい円形であり、枠体301の上面と面一に形成されている。吸着部300は、この保持面302によって、ウェーハWを吸引保持する。本実施形態では、保持テーブル30の表面をなす枠体301の上面および保持面302上での位置は、X軸上のX座標とY軸上のY座標とで規定される。
【0024】
保持テーブル30は、保持テーブル30の底面側に配設されたθテーブル31に支持されている。θテーブル31は、X軸テーブル113の上面に、XY平面内で回転可能に設けられている。したがって、θテーブル31は、保持テーブル30を支持するとともに、保持テーブル30をXY平面内で回転駆動することができる。
【0025】
基台10上の後方側(-X方向側)には、門型コラム14が、X軸方向送り手段11を跨ぐように立設されている。門型コラム14の前面(+X方向側の面)には、切削部6を移動させる切削部移動機構13が設けられている。切削部移動機構13は、切削部6を、Y軸方向にインデックス送りするとともに、Z軸方向に切込み送りする。切削部移動機構13は、切削部6をインデックス送り方向(Y軸方向)に移動するY軸方向移動手段12、および、切削部6を切込み送り方向(Z軸方向)に移動するZ軸方向移動手段16を備えている。
【0026】
Y軸方向移動手段12は、門型コラム14の前面に配設されている。Y軸方向移動手段12は、Y軸方向に、Z軸方向移動手段16および切削部6を往復移動させる。Y軸方向は、X軸方向に対して保持面方向(水平方向)に直交する方向である。
【0027】
Y軸方向移動手段12は、Y軸方向に延びる一対のガイドレール121、ガイドレール121に載置されたY軸テーブル123、ガイドレール121と平行に延びるボールネジ120、および、ボールネジ120を回転させるモータ122を含んでいる。
【0028】
一対のガイドレール121は、Y軸方向に平行に、門型コラム14の前面に配置されている。Y軸テーブル123は、一対のガイドレール121上に、これらのガイドレール121に沿ってスライド可能に設置されている。Y軸テーブル123上には、Z軸方向移動手段16および切削部6が載置されている。
【0029】
ボールネジ120は、Y軸テーブル123の背面側に設けられたナット部(図示せず)に螺合されている。モータ122は、ボールネジ120の一端部に連結されており、ボールネジ120を回転駆動する。ボールネジ120が回転駆動されることで、Y軸テーブル123、Z軸方向移動手段16および切削部6が、ガイドレール121に沿って、インデックス送り方向であるY軸方向に移動する。
【0030】
Z軸方向移動手段16は、切削部6をZ軸方向(鉛直方向)に往復移動させる。Z軸方向は、X軸方向およびY軸方向に直交するとともに、保持テーブル30の保持面302に対して直交する方向である。
【0031】
Z軸方向移動手段16は、Z軸方向に延びる一対のガイドレール161、ガイドレール161に載置された支持部材163、ガイドレール161と平行に延びるボールネジ160、および、ボールネジ160を回転させるモータ162を含んでいる。
【0032】
一対のガイドレール161は、Z軸方向に平行に、Y軸テーブル123に配置されている。支持部材163は、一対のガイドレール161上に、これらのガイドレール161に沿ってスライド可能に設置されている。支持部材163の下端部には、切削部6が取り付けられている。
【0033】
ボールネジ120は、支持部材163の背面側に設けられたナット部(図示せず)に螺合されている。モータ162は、ボールネジ160の一端部に連結されており、ボールネジ160を回転駆動する。ボールネジ160が回転駆動されることで、支持部材163および切削部6が、ガイドレール161に沿って、切込み送り方向であるZ軸方向に移動する。
【0034】
切削部6は、
図3に一部を拡大して示すように、支持部材163の下端に設けられたハウジング61、Y軸方向に延びる回転軸60、回転軸60に装着される切削ブレード63、および、回転軸60を駆動するモータ(図示せず)を備えている。
回転軸60は、ハウジング61によって回転可能に支持される。モータが回転軸60を回転駆動することにより、切削ブレード63も高速回転する。
【0035】
さらに、切削部6は、ハウジング61の前面に、撮像手段65を備えている。撮像手段65は、ハウジング61の前面に取り付けられている。撮像手段65は、撮像素子を備えており、撮像素子は、X軸およびY軸に並行に配列された複数の画素を有する。撮像手段65は、撮像手段65における-Z軸方向に沿った下方を撮像領域として、この領域を撮像するように構成されている。撮像手段65の撮像領域は、X軸方向送り手段11、切削部移動機構13およびθテーブル31によって設定されることができる。撮像手段65は、たとえば、保持面302に載置されたウェーハWおよびその近傍を撮像することが可能である。撮像手段65によって撮像される画像は、本実施形態では、たとえば、256階調のグレースケール画像である。
【0036】
制御部7は、種々のデータおよびプログラムを記憶するメモリ71を備えている。制御部7は各種の処理を実行し、切削装置1の各構成要素を統括制御する。
たとえば、制御部7には、各種検出器(図示せず)からの検出結果が入力される。さらに、制御部7は、X軸方向送り手段11(モータ112)、切削部移動機構13(モータ122およびモータ162)およびθテーブル31を制御して、切削部6の切削ブレード63によって切削されるウェーハWの位置、および、撮像手段65の撮像領域を決定する。また、制御部7は、切削部6のモータを制御して、ウェーハWに対する切削加工を実施するとともに、撮像手段65を制御して、撮像領域に対する撮像を実施する。
【0037】
以下に、
図3に示す切削装置1を用いた本加工方法について説明する。
(1)保持工程
この工程では、ユーザが、保持テーブル30の保持面302上に、ウェーハWを載置する。そして、制御部7が、図示しない吸引源を制御して、吸引力を保持面302に伝達することにより、保持面302がウェーハWを吸引保持する。なお、上述のように、保持テーブル30の表面をなす枠体301の上面および保持面302上での位置は、X座標とY座標とで規定される。
【0038】
(2)位置づけ工程
この工程では、まず、制御部7が、X軸方向送り手段11、切削部移動機構13およびθテーブル31を制御して、
図4に示すように、撮像手段65の撮像領域を、この領域に、ウェーハWのエッジWEおよび保持テーブル30の枠体301が含まれるように設定する。その後、制御部7は、撮像手段65を制御して、この撮像領域を撮像する。これにより、
図5に示すような初期画像が撮像される。
【0039】
この初期画像では、背景部材である枠体301に対応する左上の画素FPが、枠体301の色に対応する白で示されている。一方、ウェーハWに対応する右上から左下にかけての画素WPが、ウェーハWの色に対応する黒で示されている。さらに、黒い画素WPと白い画素FPとの境界に形成されている灰色の画素SPは、枠体301に形成されたウェーハWの影である。また、黒い画素WP内に形成されている白線は、撮像手段65に設定されている境界線Bである。
【0040】
次に、制御部7は、X軸方向送り手段11、切削部移動機構13およびθテーブル31を制御して、撮像手段65の撮像領域を、境界線Bが灰色の画素SPに重なるように設定し、撮像手段65を制御して、この撮像領域を撮像する。これにより、
図6に示すような、ウェーハWのエッジWEおよび保持テーブル30の枠体301が含まれる外周画像が撮像される。
【0041】
(3)ラインセンサ設定工程
この工程では、制御部7は、
図6に示すように、外周画像上にラインセンサLSを設定する。このラインセンサLSは、たとえば、X軸方向に沿って並ぶ1列の複数の画素からなる。ラインセンサLSを形成する画素の数は、撮像手段65の撮像素子(撮像領域)におけるX軸方向の画素数(
図6に示した外周画像におけるX軸方向の画素数)の1/2未満であり、たとえば20画素である。
【0042】
(4)閾値設定工程
この工程では、制御部7は、外周画像上におけるラインセンサLSの位置を、ウェーハWの外周に対応する画素がラインセンサLSを2等分するような位置(基準位置)に設定する。この状態で、制御部7は、ラインセンサLSの各画素から出力される明暗値を取得する。
なお、基準位置は、ラインセンサLSをX軸方向に1画素移動させる毎に、ラインセンサLSの各画素から出力される明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を求め、その傾き値が最大になったときのラインセンサLSの位置としてもよい。
【0043】
ラインセンサLSが基準位置にある場合は、ラインセンサLSの左側は、枠体301に対応する画素FPであり、右側はウェーハWに対応する画素WPであり、中央は灰色の画素SPである。したがって、ラインセンサLSの各画素と、各画素から出力される明暗値との関係は、
図7に示すように変動する。そして、制御部7は、最小二乗法によって回帰直線RLを作成し、基準位置にあるラインセンサLSの明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値である基準傾き値θ0を算出する。
【0044】
さらに、制御部7は、基準傾き値θ0未満であって、基準傾き値θ0あるいは基準傾き値θ0に近い傾き値を、閾値として設定する。閾値は、たとえば、基準傾き値θ0に0.8を乗じることによって得られる値である。
なお、外周画像上における1つのラインセンサで閾値が求められる。
また、少なくとも3カ所を撮像した少なくとも3つの外周画像において1つの閾値を用いても良いし、外周画像毎に異なる閾値を用いても良い。
【0045】
(5)傾き値算出工程および外周座標決定工程
傾き値算出工程では、制御部7は、まず、外周画像上におけるラインセンサLSの位置を、
図8に示すように、ラインセンサLSの全ての画素が枠体301に対応する画素FPとなるような位置に設定する。その後、制御部7は、
図8に矢印Aによって示すように、外周画像上において、ラインセンサLSを、X軸方向に1画素ずつ、ウェーハWに対応する画素WPに向けて移動させる。
【0046】
そして、制御部7は、
図9に示すように、ラインセンサLSを移動するごとに(S1)、ラインセンサLSの各画素から出力される明暗値を取得する。さらに、制御部7は、最小二乗法により、明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を算出する(S2)。
【0047】
たとえば、全ての画素が枠体301に対応する画素FPとなるような位置にラインセンサLSが設定された場合、ラインセンサLSの明暗値の分布および回帰直線RLは、
図10に示すように、X軸に略平行な直線状となる。
一方、ラインセンサLSが基準位置を超えて右方向に設定された場合、すなわち、多くの画素がウェーハWに対応する画素WPとなるような位置にラインセンサLSが設定された場合、ラインセンサLSの明暗値の分布および回帰直線RLは、
図11に示すようになる。
【0048】
そして、制御部7は、傾き値を算出するたびに、
図9に示すように、算出された傾き値が、閾値設定工程にて設定された閾値以上となったか否かを判断する(S3)。制御部7は、算出された傾き値が閾値未満であると判断したときには(S3;N)、S1に戻り、ラインセンサLSの移動および傾き値の算出を継続する。
【0049】
一方、制御部7は、算出された傾き値が閾値以上となったと判断したときには(S3;Y)、ラインセンサLSの各画素から出力される明暗値の最小値と最大値との平均値を算出する(S4)。そして、制御部7は、ラインセンサLSの画素のなかから、算出した平均値に最も近い明暗値を有する画素を特定し、その画素の座標を、ウェーハWの外周座標(ウェーハWのエッジWE(
図1参照)の座標)として取得する(S5)。
【0050】
たとえば、傾き値が閾値以上となったと判断されたときには、
図12に示すような明暗値の分布が得られる。制御部7は、明暗値の最大値Bmaxと最小値Bminとの和を2で割ることによって、明暗値の平均値を算出する。そして、制御部7は、この平均値に最も近い明暗値を出力するラインセンサLSの画素を、平均値((Bmax+最小値Bmin)/2)に対応するX座標(
図12のXe)から特定する。そして、制御部7は、特定した画素のX座標およびY座標を、撮像領域におけるラインセンサLSの位置に基づいて特定し、ウェーハWの外周座標として取得する。
【0051】
(6)中心座標算出工程
次に、制御部7は、θテーブル31を制御して、ウェーハWを、それを保持している保持テーブル30とともに、所定の角度だけ回転させる。そして、制御部7は、上記した位置づけ工程、ラインセンサ設定工程、閾値設定工程、傾き値算出工程および外周座標決定工程を実施する。このようにして、制御部7は、位置づけ工程、ラインセンサ設定工程、閾値設定工程、傾き値算出工程および外周座標決定工程を、ウェーハWを所定の角度だけ回転させ、少なくとも3回にわたって実施する。すなわち、制御部7は、少なくとも3つの外周画像を取得し、各外周画像に応じた閾値を設定する。そして、制御部7は、傾き値算出工程を実施した後、設定した閾値を用いて外周座標決定工程を実施する。これにより、制御部7は、少なくとも3カ所の外周座標を取得する。そして、ウェーハWは、これら3カ所の外周座標に基づいて、ウェーハWの中心座標を算出する。
【0052】
中心座標の算出方法としては、公知のいずれの手法が用いられてもよい。たとえば、制御部7は、選択した3点における隣接する2点を結ぶ2つの直線を作成し、これら2つの直線の垂直二等分線をそれぞれ求める。そして、制御部7は、2つの垂直二等分線の交点を、ウェーハWの中心として算出することができる。
なお、ウェーハWを所定の角度だけ回転させた後、制御部7は、閾値設定工程を実施せずに、位置づけ工程、ラインセンサ設定工程、傾き値算出工程および外周座標決定工程を実施することによって、少なくとも3カ所の外周座標を取得してもよい。この場合、制御部7は、2回目以降の外周座標決定工程では、1回目の閾値設定工程において設定した閾値を用いることができる。
【0053】
(7)エッジ除去工程
この工程では、制御部7は、中心座標算出工程において算出したウェーハWの中心と、保持テーブル30の中心である回転軸心とのずれ量(以下、中心ずれ量)を求める。そして、制御部7は、
図3に示すθテーブル31によって保持テーブル30を回転させながら、回転する切削ブレード63をウェーハWの表面WaにおけるエッジWEに切り込ませる。
【0054】
この際、制御部7は、中心ずれ量およびウェーハWの外周座標に基づいて、切削ブレード63を、Y軸方向に移動させる。これにより、制御部7は、ウェーハWのエッジWEを、ウェーハWの中心位置から略同一の幅で、周方向に沿って切削することができる。なお、中心ずれ量に応じた切削ブレード63の位置制御については、たとえば特許文献1に記載のような公知の方法を用いることができる。
このようにして、制御部7は、ウェーハWのエッジWEの表面Wa側を除去(エッジトリミング)する。使用される切削ブレード63は、たとえばフラットな刃先を有する。
【0055】
以上のように、本加工方法では、X軸方向に延びるラインセンサLSを、X軸方向に1画素ずつ移動させ、ラインセンサLSを移動させるごとに、ラインセンサLSの各画素から出力される明暗値を取得し、さらに、明暗値の分布におけるX軸に対する傾き値を算出する。そして、この傾き値に基づいて、ウェーハWのエッジWEの座標である外周座標を決定している。したがって、本加工方法では、撮像画像を2値化処理することなく、外周座標を決定することができる。このため、2値化処理の誤りに基づくエッジWEの誤認識を回避することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、傾き値算出工程において、ラインセンサLSを構成する各画素から出力される明暗値を取得する。この際、制御部7は、
図13に示すように、ラインセンサLSを構成する各画素に対し、各画素を取り巻く複数の画素(たとえば、X軸方向に20画素、Y軸方向に沿って20画素)からなる画素群PGを設定してもよい。そして、制御部7は、各画素から出力される明暗値として、画素群PGに含まれる複数の画素の明暗値の平均値を用いてもよい。
【0057】
これに関し、ラインセンサLSの画素の明暗値は、枠体301およびウェーハWに外部から照射される不要な光(不要光)などの影響により、本来の値からずれていることがある。上記の構成では、画素を取り巻く画素群の明暗値の平均値を用いるため、上記のような不要光などの影響を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、制御部7は、傾き値算出工程において、1つのラインセンサLSを用いて傾き値を算出している。これに代えて、
図14に示すように、Y軸方向にずれて配置された複数の(n個の)ラインセンサLS(LS1~LSn)を用いてもよい。
【0059】
この場合、傾き値算出工程では、制御部7は、複数のラインセンサLSごとに傾き値を算出する。そして、外周座標決定工程では、制御部7は、複数のラインセンサLSごとに、ウェーハWの外周座標を取得する。
【0060】
さらに、制御部7は、外周座標ごとに、外周座標から保持テーブル30の中心である回転軸心の座標までの距離である第1距離を算出する。これにより、各外周座標に応じた第1距離が算出される。そして、制御部7は、算出された第1距離が近似するような外周座標のグループを作成する。すなわち、制御部7は、第1距離に応じて、外周座標をグループに分ける。そして、制御部7は、最も多くの外周座標が属するグループのいずれかの外周座標を、ウェーハWの外周座標として決定する。
【0061】
たとえば、
図15に示す例では、外周座標は、ある第1距離D1に応じたグループG1と、第1距離D1より短い第1距離D2に応じたグループG1とに分けられる。この例では、制御部7は、グループG1に属する外周座標のいずれか(1つでも複数でもよい)を、ウェーハWの外周座標として決定する。
なお、
図15では、各外周座標の第1距離を、各外周座標に応じたラインセンサLS(LS1~LSn)のY軸方向の位置を用いて示している。
【0062】
これに関し、上記のように、枠体301およびウェーハWに照射される不要光などの影響により、ラインセンサLSの画素の明暗値が誤って検出され、その結果として誤った外周座標が決定される可能性がある。
図14に示す方法では、複数のラインセンサLSを用いて、多数決で外周座標を決定しているため、1つのラインセンサLSにおいて生じた明暗値の誤検出の影響を小さくすることができるので、上記のような不要光などの影響を抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態では、円板状ワークとして、
図1および
図2に示したウェーハWを用いている。これに代えて、円板状ワークとして、貼り合わせ基板を用いてもよい。貼り合わせ基板は、円板状の支持基板と、この支持基板の上に貼り合わせられた、支持基板より小径のウェーハとを含む。この場合、本加工方法では、貼り合わせ基板のウェーハの外周座標を求め、その中心座標を算出することができる。
【0064】
この場合、本加工方法では、ラインセンサLSの明暗値の分布における傾き値を用いているため、ウェーハとは色の異なる支持基板の外周縁を、ウェーハの外周縁と区別して認識することができる。このため、本実施形態に示した例と同様に、貼り合わせ基板におけるウェーハの外周縁を、ウェーハの中心位置から略同一の幅で、周方向に沿って切削することができる。
【0065】
また、本実施形態では、
図5に示す初期画像から、制御部7が、X軸方向送り手段11、切削部移動機構13およびθテーブル31を制御して、撮像手段65の撮像領域を、境界線Bが灰色の画素SPに重なるように設定する。この際、たとえば、境界線Bおよび画素SPの位置を目視しているユーザの指示に基づいて、制御部7が、境界線Bを灰色の画素SPに重ねてもよい。あるいは、ユーザが、直接に、X軸方向送り手段11、切削部移動機構13およびθテーブル31の駆動装置を制御して、境界線Bを灰色の画素SPに重ねてもよい。
【0066】
また、境界線Bが灰色の画素SPに重ねられた後、撮像手段65の光量を調整する光量調整工程が実施されてもよい。この工程は、ユーザが目視した結果に基づいて実施されてもよいし、制御部7によって実施されてもよい。
【0067】
たとえば、制御部7は、複数種類(たとえば100種類)の光量パターンを予めメモリ71に記憶しておく。光量パターンは、たとえば、落射照明と斜光照明との割合、および、それぞれの照明の強さによって区別される。
【0068】
そして、制御部7は、
図16に示すように、ウェーハWに応じた黒い画素WP内に第1光量チェック領域RAを設定するとともに、枠体301に対応する白い画素FP内に第2光量チェック領域RBを設定する。さらに、制御部7は、境界線Bに接し、第1光量チェック領域RAを含む第1チェック領域RC1を設定する。同様に、制御部7は、境界線Bに接し、第2光量チェック領域RBを含む第2チェック領域RC2を設定する。第1チェック領域RC1および第2チェック領域RC2のサイズは、たとえば、10×10画素である。
【0069】
制御部7は、1つの撮像手段65の光量パターンに関し、境界線Bに沿って第1チェック領域RC1および第2チェック領域RCを変更しながら、複数の第1チェック領域RC1および第2チェック領域RC2内の明暗値を取得する。制御部7は、このような明暗値の取得を、複数の光量パターンに関して実施する。そして、制御部7は、第1チェック領域RC1内の明暗値と、第2チェック領域RC2内の明暗値との差が最も大きくなるような光量パターンを特定し、この光量パターンを用いて、撮像手段65による撮像を実施し、本加工方法の各工程を実施する。
【0070】
これによれば、境界線Bの両側で明暗値の差を大きくできるので、閾値設定工程、傾き値算出工程および外周座標決定工程において、ラインセンサLSの各画素における明暗値の差を大きくすることができる。その結果、
図7等に示すような明暗値の分布における、ラインセンサLSの位置に応じた傾き値(回帰直線RLとX軸との角度)の変化を大きくすることができる。これにより、傾き値と閾値との比較の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0071】
1:切削装置、3:保持部、6:切削部、7:制御部、71:メモリ、
11:X軸方向送り手段、12:Y軸方向移動手段、16:Z軸方向移動手段、
63:切削ブレード、65:撮像手段、
30:保持テーブル、31:θテーブル、
300:吸着部、301:枠体、302:保持面、
LS:ラインセンサ、
W:ウェーハ、WE:エッジ、