(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】シリコン基板中間研磨用組成物およびシリコン基板研磨用組成物セット
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221130BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221130BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2018568125
(86)(22)【出願日】2018-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2018003971
(87)【国際公開番号】W WO2018150945
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017029153
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】浅田 真希
(72)【発明者】
【氏名】百田 怜史
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185674(JP,A)
【文献】特表2005-518668(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194136(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間研磨工程と仕上げ研磨工程とを含むシリコン基板の研磨プロセスにおいて前記中間研磨工程に用いられる中間研磨用組成物であって、
砥粒A
1と、塩基性化合物B
1と、表面保護剤S
1とを含み、
前記表面保護剤S
1は、重量平均分子量が30×10
4より高い水溶性高分子P
1と、分散剤D
1とを含み、
前記分散剤D
1
の含有量は、前記水溶性高分子P
1
の含有量の0.00002/0.003倍以上であり、
前記表面保護剤S
1の分散性パラメータα
1が80%未満である、シリコン基板中間研磨用組成物。
【請求項2】
前記分散剤D
1の含有量は、前記水溶性高分子P
1の含有量の0.8倍以下である、請求項1に記載の中間研磨用組成物。
【請求項3】
前記分散剤D
1の重量平均分子量は3×10
4以下である、請求項1または2に記載の中間研磨用組成物。
【請求項4】
前記表面保護剤S
1は、前記水溶性高分子P
1としてセルロース誘導体を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の中間研磨用組成物。
【請求項5】
前記表面保護剤S
1の含有量は、前記砥粒A
1の含有量100g当たり0.005g以上5g以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の中間研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒A
1はシリカ粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載の中間研磨用組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の中間研磨用組成物と、
前記仕上げ研磨工程に用いられる仕上げ研磨用組成物と
を含むシリコン基板研磨用組成物セットであって、
前記仕上げ研磨用組成物は、砥粒A
2と、塩基性化合物B
2と、表面保護剤S
2とを含み、
前記表面保護剤S
2は水溶性高分子P
2を含み、
前記表面保護剤S1の分散性パラメータα
1と、前記表面保護剤S
2の分散性パラメータα
2との関係が、次式:(α
1/α
2)≧0.5;を満たす、シリコン基板研磨用組成物セット。
【請求項8】
前記表面保護剤S
2の分散性パラメータα
2が1%以上30%以下である、請求項7に記載の研磨用組成物セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板中間研磨用組成物および該組成物を含むシリコン基板研磨用組成物セットに関する。本出願は、2017年2月20日に出願された日本国特許出願2017-29153号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造等に用いられるシリコン基板の表面は、一般に、ラッピング工程とポリシング工程とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)と仕上げポリシング工程(仕上げ研磨工程)とを含む複数の研磨工程により構成されている。シリコンウェーハ等の半導体基板の研磨に関する技術文献として特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2012-89862号公報
【文献】日本国特許出願公開2015-124231号公報
【文献】日本国特許出願公開2016-4953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体配線の微細化に伴い、シリコン基板をより高品位な表面に仕上げることが求められている。例えば、仕上げ研磨後の表面において、一般にLPD(Light Point Defect;LPD)と称される微小パーティクルの数をより低減することが望まれている。特許文献1には、低粘度の水溶性高分子化合物を含む仕上げ研磨用組成物を用いることにより、研磨後の表面の濡れ性を向上させ、パーティクルの付着等の微小な欠陥を低減する技術が記載されている。特許文献2には、所定の慣性半径および接触角を満たすヒドロキシエチルセルロースを用いることにより、同様に研磨後の濡れ性向上および表面欠陥低減を図る技術が記載されている。しかし、このような技術によっても、仕上げ研磨後の表面品質に関する近年の要求レベルには十分に対応できない場合があった。
【0005】
そこで本発明は、シリコン基板の仕上げ研磨工程より上流の工程で用いられて、仕上げ研磨工程後において高品位の表面を効果的に実現し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、かかる研磨用組成物を含むシリコン基板研磨用組成物セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書によると、中間研磨工程と仕上げ研磨工程とを含むシリコン基板の研磨プロセスにおいて、上記中間研磨工程に用いられる中間研磨用組成物が提供される。上記中間研磨用組成物は、砥粒A1と、塩基性化合物B1と、表面保護剤S1とを含む。上記表面保護剤S1は、重量平均分子量(Mw)が30×104より高い水溶性高分子P1を含み、さらに分散剤D1を含む。上記表面保護剤S1の分散性パラメータα1は80%未満である。このような中間研磨用組成物は、Mwが30×104より高い水溶性高分子P1を含むことにより、中間研磨工程に適した加工力と研磨対象物表面の保護性とを好適に両立し得る。また、表面保護剤S1の分散性パラメータα1が80%未満に制限されているので、中間研磨用組成物中における水溶性高分子P1の分散性がよく、該水溶性高分子P1に起因する欠陥の発生を効果的に抑制することができる。また、分散剤D1の使用により上記水溶性高分子P1の分散性を改善し、分散性パラメータα1の値をより小さくすることができる。このような中間研磨用組成物によると、中間研磨工程において、仕上げ研磨工程後に高品位の表面が得られやすい研磨対象物表面を実現することができる。
【0007】
表面保護剤S1における分散剤D1の含有量は、例えば、上記水溶性高分子P1の含有量の0.8倍以下とすることができる。これにより、中間研磨工程に適した加工力と表面保護性とをより好適に両立させることができ、仕上げ研磨工程後においてより高品位の表面が得られやすい研磨対象物表面を実現することができる。
【0008】
分散剤D1としては、Mwが3×104以下のものを好ましく使用し得る。このような分散剤D1によると、分散性パラメータα1が効率よく低減される傾向にある。したがって、中間研磨工程に適した加工力と表面保護性とをより好適に両立させ得る。
【0009】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記表面保護剤S1は、上記水溶性高分子P1としてセルロース誘導体を含む。このような態様において、本発明を適用することによる効果が特に好適に発揮され得る。
【0010】
上記表面保護剤S1の含有量は、上記砥粒A1の含有量100g当たり、例えば0.005g以上5g以下とすることができる。表面保護剤S1の含有量を上記範囲とすることにより、中間研磨工程に適した加工力と表面保護性とを好適に両立させやすくなる。
【0011】
好ましい一態様において、上記砥粒A1はシリカ粒子であり得る。砥粒A1がシリカ粒子である態様において、本発明を適用することによる効果が特に好適に発揮され得る。
【0012】
この明細書によると、また、ここに開示されるいずれかの中間研磨用組成物と、上記仕上げ研磨工程に用いられる仕上げ研磨用組成物と、を含むシリコン基板研磨用組成物セットが提供される。上記仕上げ研磨用組成物は、砥粒A2と、塩基性化合物B2と、表面保護剤S2とを含み得る。上記表面保護剤S2は、典型的には、水溶性高分子P2を含む。上記研磨用組成物セットは、上記中間研磨用組成物に含まれる表面保護剤S1の分散性パラメータα1と、上記仕上げ研磨用組成物に含まれる表面保護剤S2の分散性パラメータα2との関係が、次式:(α1/α2)≧0.5;を満たすことが好ましい。このような構成の研磨用組成物セットを用いてシリコン基板を研磨することにより、高品位な表面を有するシリコン基板が好適に製造され得る。
【0013】
上記仕上げ研磨用組成物に含まれる表面保護剤S2の分散性パラメータα2は、1%以上30%以下であることが好ましい。このような仕上げ研磨用組成物を用いることにより、より高品位の研磨対象物表面が実現され得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
この明細書において「仕上げ研磨工程」とは、砥粒を含む研磨用組成物を用いて行われる研磨工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程をいう。かかる仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物を「仕上げ研磨用組成物」という。したがって、ここに開示される技術における仕上げ研磨用組成物は、シリコン基板の研磨過程で用いられる複数種類の研磨用組成物のうち、最も下流側で用いられる種類の研磨用組成物として把握され得る。
【0016】
この明細書において「中間研磨工程」とは、砥粒を含む研磨用組成物を用いて行われる研磨工程のうち、上記仕上げ研磨工程の直前に配置される研磨工程をいう。すなわち、仕上げ研磨工程に先だって行われる予備研磨工程(予備ポリシング工程)のうち、最も下流側に配置される予備研磨工程をいう。また、かかる中間研磨工程に用いられる研磨用組成物を「中間研磨用組成物」という。したがって、ここに開示される技術における中間研磨用組成物は、シリコン基板の研磨過程で用いられる複数種類の研磨用組成物のうち、下流側から2番目に用いられる種類の研磨用組成物として把握され得る。上記中間研磨工程は、予備研磨工程における最初の研磨工程(一次予備研磨工程)であってもよく、二番目以降の研磨工程であってもよい。ここに開示される中間研磨用組成物は、上記中間研磨工程が予備研磨工程における二番目以降の研磨工程である態様において好適に用いられ得る。すなわち、ここに開示される中間研磨用組成物は、一次予備研磨工程を終えたシリコン基板の中間研磨工程において好ましく用いられ得る。
【0017】
ここに開示される技術は、シリコン基板(特にシリコンウェーハ)を研磨対象物とする研磨に好ましく適用される。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。ここに開示される技術における研磨対象面は、典型的には、シリコンからなる表面である。上記シリコン基板には、ここに開示される中間研磨工程の前に、ラッピングやエッチング、あるいは上述した一次予備研磨等の、中間研磨工程より上流の工程においてシリコン基板に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0018】
なお、以下の説明において、いずれの研磨工程に用いられる研磨用組成物であるか(例えば、中間研磨用組成物であるか仕上げ研磨用組成物であるか)を問わず、ポリシング工程において使用される研磨用組成物一般を指す用語として「研磨用組成物」の語を用いることがある。
【0019】
<表面保護剤S1>
ここに開示される中間研磨用組成物は、砥粒A1と、塩基性化合物B1と、表面保護剤S1とを含む。上記表面保護剤S1は、重量平均分子量(Mw)が30×104より高い水溶性高分子P1を含み、さらに分散剤D1を含み、かつ分散性パラメータα1が80%未満であることによって特徴づけられる。
【0020】
(水溶性高分子P1のMw)
水溶性高分子P1は、中間研磨工程において、研磨対象物表面の保護性を高める働きをする。これにより、中間研磨工程の終了時における研磨対象物(ここではシリコン基板)の表面の平滑性をより高くし得る。中間研磨終了時の平滑性が高いことは、仕上げ研磨工程で解消すべき凹凸が少なく、仕上げ研磨工程の負荷が小さいことを意味する。したがって、仕上げ研磨工程において、より研磨力(加工力)が弱い仕上げ研磨用組成物を採用しても、仕上げ研磨の開始時点で存在する凹凸を所望のレベルまで解消することが可能となる。より加工力の弱い仕上げ研磨用組成物を用いることにより、仕上げ研磨工程において研磨対象物に加わる負荷を軽減して欠陥発生を抑制し、仕上げ研磨後の研磨対象物の表面品位を向上させ得る。
【0021】
水溶性高分子P1としては、Mwが30×104より高いものが用いられる。水溶性高分子P1のMw(MwP1)は、40×104より高いことが好ましく、50×104より高いことがより好ましい。MwP1が大きくなると、水溶性高分子P1の重量当たりに含まれる分子数が少なくなるため、中間研磨工程に適した加工力が得られやすくなる。かかる観点から、MwP1が70×104以上の水溶性高分子P1を好ましく用いることができる。一態様において、MwP1は、85×104以上であってもよく、例えば100×104以上であってもよい。MwP1の上限は特に制限されず、例えば250×104以下であってよく、200×104以下でもよい。分散性パラメータα1を低減する観点から、一態様において、MwP1が170×104以下(例えば150×104以下)の水溶性高分子P1を好ましく採用し得る。MwP1は、例えば130×104以下であってもよい。
【0022】
水溶性高分子P1の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から、例えば分子量分布(Mw/Mn)が10.0以下であるものが好ましく、7.0以下であるものがさらに好ましい。なお、Mw/Mnは、原理上、1.0以上であり、典型的には1.05以上である。ここに開示される技術は、水溶性高分子P1のMw/Mnが2.0以上(例えば3.0以上、または4.0以上、または5.0以上)である態様でも好適に実施され得る。
【0023】
なお、本明細書において、水溶性高分子や後述する分散剤の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。
【0024】
(分散性パラメータα1)
表面保護剤S1の分散性パラメータα1は、所定の方法で行われる吸引濾過において、標準ポリマーおよびアンモニアを含み残部が水からなる標準液100gの濾過時間(通液時間)T0と、表面保護剤S1およびアンモニアを含み残部が水からなる試験液100gの濾過時間(通液時間)T1とから、以下の式により算出される。
分散性パラメータα1(%)=(T1/T0)×100
ここで、上記標準液および上記試験液のアンモニア濃度は、いずれも0.57重量%とする。上記標準ポリマーとしては、重量平均分子量(Mw)が120×104のヒドロキシエチルセルロース(HEC)を使用する。上記標準液における上記標準ポリマーの濃度は、0.12重量%とする。上記試験液における表面保護剤S1の濃度は、該表面保護剤S1を構成する水溶性高分子P1の濃度が上記標準ポリマーの濃度と同じ濃度(すなわち0.12重量%)となるように設定する。
【0025】
上記通液時間T0およびT1は、以下のようにして測定される。
〔吸引濾過条件〕
使用フィルタ:
種類 メンブレンフィルター(φ47mm、ディスク型)
材質 混合セルロースエステル
孔径 1.0μm
吸引圧力:0.005MPa
〔通液時間の測定手順〕
吸引濾過器にメンブレンフィルターをセットし、上記吸引圧力にて脱イオン水100gを吸引濾過し、続いて標準液100gを吸引濾過する。このとき標準液100gの濾過に要した時間(通液時間)T0を計測する。
次いで、メンブレンフィルターを新しいものに交換した後、上記吸引圧力にて脱イオン水100gを吸引濾過し、続いて試験液100gを吸引濾過する。このとき試験液100gの濾過に要した時間(通液時間)T1を計測する。
【0026】
このようにして求められるα1は、中間研磨用組成物中における水溶性高分子P1の分散性の程度を見積もる目安として役立ち得る。α1が80%未満である表面保護剤S1によると、中間研磨用組成物中において上記表面保護剤S1に含まれる水溶性高分子P1を適切に分散させることができ、中間研磨用組成物に水溶性高分子P1を含ませることにより生じ得る弊害(例えば、高Mwの水溶性高分子P1に起因する欠陥の発生等)を高度に抑制することができる。α1が75%以下(より好ましくは70%以下、例えば65%以下)である表面保護剤S1によると、より高い効果が発揮され得る。ここに開示される技術は、α1が60%以下である態様でも好適に実施され得る。α1の下限は特に制限されず、例えば10%以上であり得る。水溶性高分子P1による保護性能を高める観点等から、α1は、通常、25%以上が適当であり、40%以上であってもよく、45%以上であってもよく、50%以上(例えば55%以上)であってもよい。α1は、水溶性高分子P1の種類や分子量の選択、分散剤D1の選択や使用量等により調節することができる。
【0027】
特に限定するものではないが、上述したα1の条件が満たされる範囲において、α1に対して水溶性高分子P1のMwをより高くすることにより、より好適な結果が実現され得る。かかる観点から、ここに開示される技術における表面保護剤S1は、例えば、α1/MwP1が7.0×10-7以下となるように構成され得る。ここで、MwP1は水溶性高分子P1のMwであり、典型的には30×104以上である。α1は、表面保護剤S1の分散性パラメータであり、典型的には80%未満(すなわち0.8未満)である。α1/MwP1の値が小さい表面保護剤S1は、水溶性高分子P1のMwP1の割に、該表面保護剤S1の分散性がよいといえる。したがって、α1/MwP1がより小さい表面保護剤S1を含む中間研磨用組成物によると、水溶性高分子P1の使用に起因する欠陥の発生を防ぎつつ、加工力と研磨対象物表面の保護性とがより好適に両立される傾向にある。かかる観点から、α1/MwP1は、6.5×10-7以下であることが好ましく、6.0×10-7以下であることがより好ましい。一態様において、α1/MwP1は、5.5×10-7以下であってよく、例えば5.0×10-7以下であってもよい。α1/MwP1の下限は特に限定されない。実用性の観点から、α1/MwP1は、例えば1.5×10-7以上であってよく、2.0×10-7以上でもよく、2.5×10-7以上でもよく、3.0×10-7以上(例えば3.5×10-7以上)でもよい。ここに開示される技術は、α1/MwP1が4.0×10-7以上(例えば4.5×10-7以上)である態様でも好適に実施され得る。
【0028】
(水溶性高分子P1)
ここに開示される技術において、水溶性高分子P1の種類は特に限定されず、研磨用組成物の分野において公知の水溶性高分子のなかから適宜選択することができる。水溶性高分子P1は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
例えば、水溶性高分子P1は、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも一種の官能基を分子中に有する水溶性高分子から選択され得る。上記水溶性高分子は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、第1級アミド構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するものであり得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、水溶性高分子P1としてノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
【0030】
水溶性高分子P1として利用し得る水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、窒素原子を含有するポリマー等が挙げられる。なかでも、セルロース誘導体、デンプン誘導体が好ましく、セルロース誘導体がより好ましい。
【0031】
セルロース誘導体は、主たる繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーである。セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なかでもHECが好ましい。
【0032】
デンプン誘導体は、主たる繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーである。デンプン誘導体の具体例としては、アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。なかでもプルランが好ましい。
【0033】
オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック共重合体、トリブロック共重合体等であり得る。上記トリブロック共重合体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック共重合体が含まれる。通常は、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体がより好ましい。
【0034】
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。
【0035】
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(例えば5以上)であることがさらに好ましい。
【0036】
ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルアルコール単位(VA単位)を含むポリマー(PVA)である。当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、例えば75%以上である。全繰返し単位が実質的にVA単位から構成されていてもよい。ビニルアルコール系ポリマーがVA単位と非VA単位(すなわち、VA単位以外の繰返し単位)とを含む場合、該非VA単位の種類は特に限定されない。上記非VA単位は、例えば、ビニルピロリドンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、アルキルビニルエーテル単位、モノカルボン酸ビニルエステル単位、ポリビニルアルコールとアルデヒドとをアセタール化して得られる構成単位、等であり得る。なかでも、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位(アルキルビニルエーテル単位)、炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位(モノカルボン酸ビニルエステル単位)、および、ポリビニルアルコールと炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルデヒドとをアセタール化して得られる構成単位、からなる群から選択される非VA単位が好ましい。
炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位の例としては、メチルビニルエーテル単位、n-およびi-プロピルビニルエーテル単位、n-,i-およびt-ブチルビニルエーテル単位、2-エチルヘキシルビニルエーテル単位等が挙げられる。炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位の例としては、プロパン酸ビニル単位、ブタン酸ビニル単位、ペンタン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルデヒドの例としては、アセトアルデヒド、n-ブチルアルデヒド等が挙げられる。
VA単位と非VA単位とを含むポリマーは、非VA単位として一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。VA単位と非VA単位との含有比率(モル比)は特に制限されない。VA単位:非VA単位(モル比)は、例えば1:99~99:1であってよく、好ましくは95:5~50:50であり、より好ましくは95:5~80:20である。
【0037】
VA単位と非VA単位とを含むポリマーの例として、ビニルアルコール単位およびビニルピロリドン単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびエチレン単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびメチルビニルエーテル単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびn-プロピルビニルエーテル単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびi-プロピルビニルエーテル単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびn-ブチルビニルエーテル単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびi-ブチルビニルエーテル単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位およびt-ブチルビニルエーテル単位を含む共重合体、ビニルアルコール単位および2-エチルヘキシルビニルエーテル単位を含む共重合体、ポリビニルアルコールの一部をn-ブチルアルデヒドでアセタール化したポリマー、等が挙げられる。
【0038】
上記VA単位と非VA単位とを含むポリマーは、その側鎖に親水性官能基を有する変性ポリビニルアルコールであってもよい。上記親水性官能基の例としては、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩が挙げられる。上記変性ポリビニルアルコールとして、例えば、第四級アンモニウム構造等のカチオン性基を有するカチオン化ポリビニルアルコールを使用してもよい。上記カチオン化ポリビニルアルコールとしては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等のカチオン性基を有するモノマーに由来するものが挙げられる。
【0039】
PVAのけん化度は、通常は50モル%以上であり、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、例えば75モル%以上である。なお、PVAのけん化度は、原理上、100モル%以下である。
【0040】
窒素原子を含有するポリマーの非限定的な例には、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
【0041】
N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーが含まれる。このようなポリマーの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)等が含まれる。
【0042】
N-ビニルラクタム型モノマー(すなわち、一分子内にラクタム構造とN-ビニル基とを有する化合物)の具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体等が挙げられる。
N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0043】
N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。
【0044】
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0045】
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-アクリロイルモルホリンの単独重合体およびN-アクリロイルモルホリンの共重合体(例えば、N-アクリロイルモルホリンの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0046】
ここに開示される技術は、表面保護剤S1が水溶性高分子P1として少なくともセルロース誘導体(例えばHEC)含む態様で好ましく実施され得る。例えば、水溶性高分子P1としてセルロース誘導体を単独で使用する態様で好適に実施され得る。ここに開示される技術は、また、水溶性高分子P1がセルロース誘導体と他の水溶性高分子とを組み合わせて含む態様で実施してもよい。かかる態様において、水溶性高分子P1全体に占めるセルロース誘導体(例えばHEC)の割合は、例えば30重量%以上(より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上)とすることができる。
【0047】
(分散剤D1)
ここに開示される中間研磨用組成物における表面保護剤S1は、水溶性高分子P1と分散剤D1とを組み合わせて含む。分散剤D1の使用により、水溶性高分子P1の分散性を高め、表面保護剤S1の分散性パラメータα1を小さくすることができる。これにより、水溶性高分子P1として選択し得る材料の種類やMwの範囲を広げることができる。例えば、α1の上昇を抑えつつ、より高Mwの水溶性高分子P1を用いることが可能となる。分散剤D1は、基板の表面を保護する能力も有し得る。
【0048】
分散剤D1としては、水溶性高分子P1の分散剤として機能し得る材料(典型的には水溶性有機化合物)、すなわち表面保護剤S1に含有させることで該表面保護剤S1のα1を低減し得る材料を適宜採用し得る。分散剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
分散剤D1としては、例えば界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤のいずれも使用可能である。通常は、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等が挙げられる。一態様において、一分子内にポリオキシアルキレン構造(例えば、ポリオキシエチレン構造、ポリオキシプロピレン構造等)を含む界面活性剤を好ましく採用し得る。界面活性剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック型共重合体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体)およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。
【0051】
分散剤D1のMwは特に限定されないが、通常は10×104以下(例えば5×104以下)とすることが適当である。水溶性高分子P1の分散性をより効率よく向上させる観点から、分散剤D1のMwは、3×104以下であってもよく、2×104以下であってもよく、1×104以下であってもよく、9500以下(例えば9000以下)であってもよい。また、分散剤D1のMwは、分散性向上機能を発揮しやすくする観点から、通常、200以上が適当であり、250以上(例えば300以上)が好ましい。分散剤D1のMwのより好ましい範囲は、該分散剤D1の種類によっても異なり得る。例えば、分散剤D1としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる場合、そのMwは、2000以下であることが好ましく、1000以下(例えば500以下)であってもよい。また、分散剤D1として例えばPEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体を用いる場合、そのMwは、例えば1000以上であってよく、3000以上であってもよく、5000以上であってもよい。後述する分散剤D2においても同様である。
【0052】
(表面保護剤S1の含有量)
中間研磨用組成物における表面保護剤S1の濃度は、特に制限されず、例えば0.0001重量%以上とすることができる。より高い保護効果を得る観点から、好ましい濃度は0.0005重量%以上であり、より好ましくは0.001重量%以上である。また、表面保護剤S1の濃度は、例えば0.5重量%以下とすることができる。中間研磨工程に適した加工力を得る観点から、上記濃度は、通常、0.1重量%以下とすることが適当であり、0.05重量%以下とすることが好ましい。より高い加工力を得る観点から、上記濃度を0.01重量%以下(例えば0.005重量%以下)としてもよい。ここに開示される技術は、例えば、中間研磨用組成物における表面保護剤S1の濃度が0.005重量%未満である態様でも好適に実施され得る。
【0053】
特に限定するものではないが、砥粒A1の含有量100gに対する表面保護剤S1の含有量は、例えば0.001g以上とすることができ、通常は0.005g以上とすることが適当である。より高い保護効果を得る観点から、上記含有量は、0.01g以上としてもよく、0.05g以上としてもよく、0.1g以上としてもよく、0.5g以上としてもよく、1g以上(例えば1.2g以上)としてもよい。また、砥粒A1の含有量100gに対する表面保護剤S1の含有量は、中間研磨工程に適した加工力を得る観点から、通常、10g以下とすることが適当であり、7g以下とすることが好ましい。より高い加工力を得る観点から、上記含有量は、5g以下であってもよく、3g以下であってもよい。ここに開示される技術は、砥粒A1の含有量100gに対する表面保護剤S1の含有量が2.5g以下(例えば2.0g以下)である態様でも好適に実施され得る。
【0054】
中間研磨用組成物における水溶性高分子P1の濃度は、特に制限されず、例えば0.0001重量%以上とすることができる。より高い保護効果を得る観点から、好ましい濃度は0.0005重量%以上であり、より好ましくは0.001重量%以上である。また、水溶性高分子P1の濃度は、例えば0.5重量%未満とすることができる。中間研磨工程に適した加工力を得る観点から、上記濃度は、通常、0.1重量%未満とすることが適当であり、0.05重量%未満とすることが好ましい。より高い加工力を得る観点から、上記濃度を0.01重量%未満(例えば0.005重量%未満)としてもよい。ここに開示される技術は、例えば、中間研磨用組成物における水溶性高分子P1の濃度が0.005重量%未満である態様でも好適に実施され得る。
【0055】
特に限定するものではないが、砥粒A1の含有量100gに対する水溶性高分子P1の含有量は、例えば0.001g以上とすることができ、通常は0.01g以上とすることが適当である。より高い保護効果を得る観点から、上記含有量は、0.05g以上としてもよく、0.1g以上としてもよく、0.5g以上としてもよく、1.0g以上(例えば1.2g以上)としてもよい。また、砥粒A1の含有量100gに対する水溶性高分子P1の含有量は、中間研磨工程に適した加工力を得る観点から、通常、10g未満とすることが適当であり、7g未満とすることが好ましい。より高い加工力を得る観点から、上記含有量は、5g未満であってもよく、3g未満であってもよい。ここに開示される技術は、砥粒A1の含有量100gに対する水溶性高分子P1の含有量が2.5g未満(例えば2.0g未満)である態様でも好適に実施され得る。
【0056】
中間研磨用組成物における分散剤D1(例えば界面活性剤)の含有量は特に制限されず、所望の効果が得られるように設定することができる。中間研磨工程に適した加工力を発揮しやすくする観点から、中間研磨用組成物における分散剤D1の含有量は、通常、水溶性高分子P1の含有量より少なくすることが適当である。分散剤D1の含有量は、例えば、水溶性高分子P1の含有量の0.8倍以下とすることができ、より加工力を重視する観点から0.5倍以下としてもよく、0.3倍以下としてもよい。また、分散剤D1の含有量(重量基準)は、例えば、水溶性高分子P1の含有量の0.001倍以上とすることができ、通常は0.01倍以上とすることが適当であり、より高い効果を得る観点から0.03倍以上としてもよく、0.05倍以上(例えば0.1倍以上)としてもよい。
【0057】
ここに開示される技術において、分散剤D1の種類および使用量は、該分散剤D1の使用によって分散性パラメータα1を低減する効果が適切に発揮されるように設定することができる。特に限定するものではないが、一態様において、分散剤D1を含む表面保護剤S1の分散性パラメータα1が、該表面保護剤S1から上記分散剤D1を除いた組成である表面保護剤S1Bの分散性パラメータα1Bに比べて例えば5%以上(好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上)低くなるように、分散剤D1の種類および使用量を設定することができる。ここで、表面保護剤S1Bの分散性パラメータα1Bは、上述した分散性パラメータα1の測定において、表面保護剤S1に代えて表面保護剤S1Bを用いることにより求められる。ここに開示される技術における表面保護剤S1は、α1がα1Bより25%以上(例えば30%以上、または35%以上、または40%以上)低くなるように構成することができる。
【0058】
表面保護剤S1B(すなわち、表面保護剤S1から分散剤D1を除いた組成の表面保護剤)の分散性パラメータα1Bは、例えば80%以上であってよく、85%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。α1Bが大きくなると、研磨対象物表面を保護する効果や研磨速度が向上する傾向にある。α1Bの上限は特に限定されない。中間研磨に適した加工力を得やすくする観点から、一態様において、α1Bは、200%以下であってよく、150%以下(例えば120%以下)であってもよい。
【0059】
ここに開示される技術における表面保護剤S1は、分散剤D1とは異なる成分として、Mwが30×104以下の水溶性高分子PLをさらに含んでいてもよい。水溶性高分子PLは、例えば、上記で例示したいずれかの種類の水溶性高分子であって、Mwが30×104以下(例えば20×104以下、または15×104以下、または10×104以下、または5×104以下)のものであり得る。水溶性高分子PLのMwの下限は特に限定されず、例えば1×104以上であり得る。水溶性高分子PLの使用量は、重量基準で、通常、水溶性高分子P1の使用量の1.0倍未満とすることが適当であり、0.5倍以下とすることが好ましく、0.1倍以下または0.05倍以下としてもよい。ここに開示される技術は、表面保護剤S1が水溶性高分子PLを実質的に含まない態様でも好適に実施され得る。
【0060】
<砥粒A1>
砥粒A1として用いられる砥粒の材質や性状は特に制限されず、使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。ここに開示される技術は、例えば、砥粒A1が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0062】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカ(アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカ)を好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
砥粒構成材料(例えば、シリカ粒子を構成するシリカ)の真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。砥粒構成材料の真比重の増大により、物理的な研磨能力は高くなる傾向にある。かかる観点から、真比重が2.0以上(例えば2.1以上)の砥粒が特に好ましい。砥粒の真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。砥粒(例えばシリカ粒子)の真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0064】
砥粒A1(典型的にはシリカ粒子)のBET径は、特に限定されない。研磨効率等の観点から、上記BET径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、特に好ましくは20nm以上である。より高い研磨効果(例えば、表面粗さRaの低減、隆起解消性等)を得る観点から、BET径が25nm以上、さらには30nm以上(例えば32nm以上)の砥粒A1を好ましく用いることができる。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒A1のBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下、さらに好ましくは60nm以下である。一態様において、砥粒A1のBET径が50nm以下(例えば40nm以下)であってもよい。
【0065】
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m2/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0066】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状または繭型形状をした砥粒を好ましく採用し得る。
【0067】
特に限定するものではないが、砥粒の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0068】
なお、この明細書において、砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0069】
中間研磨用組成物における砥粒A1の含有量は、特に制限されない。一態様において、上記含有量は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上(例えば0.2重量%以上)である。砥粒A1の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、研磨対象物からの除去性等の観点から、砥粒A1の含有量は、通常、10重量%以下が適当であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.8重量%以下(例えば0.5重量%以下)である。
【0070】
<水>
ここに開示される中間研磨用組成物は、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、中間研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
【0071】
<塩基性化合物B1>
塩基性化合物B1は、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する各種の塩基性化合物から適宜選択され得る。例えば、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。このような塩基性化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0073】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を好ましく用いることができる。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH-、F-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、BH4
-等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOH-である第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。これらのうち水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましく、なかでも水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)が好ましい。
【0074】
ここに開示される技術において、中間研磨用組成物に含まれる塩基性化合物B1としては、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物が好ましい。これらのうち、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。ここに開示される中間研磨用組成物は、例えば、水溶性高分子P1として少なくともセルロース誘導体(例えばHEC)を含む表面保護剤S1と、アンモニアを含む塩基性化合物B1とを含む態様で好ましく実施され得る。
【0075】
<その他の成分>
ここに開示される中間研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコン基板のポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0076】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される技術における中間研磨用組成物は、キレート剤を実質的に含まない態様であり得る。
【0077】
有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。
無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩が挙げられる。有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0078】
中間研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。中間研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該中間研磨用組成物が研磨対象物(ここではシリコン基板)に供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、中間研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。
【0079】
<pH>
中間研磨用組成物のpHは、通常、8.0以上であることが適当であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。中間研磨用組成物のpHが高くなると、加工力が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、中間研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。
【0080】
なお、ここに開示される技術において、組成物のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0081】
<仕上げ研磨用組成物>
このような中間研磨用組成物を用いる中間研磨工程を終えた研磨対象物は、さらに仕上げ研磨工程に供される。仕上げ工程に使用する仕上げ研磨用組成物は、特に限定されない。一態様において、砥粒A2と、塩基性化合物B2と、表面保護剤S2とを含む仕上げ研磨用組成物が好ましく用いられ得る。
【0082】
(砥粒A2)
仕上げ研磨用組成物に含まれる砥粒A2は特に限定されないが、通常は、中間研磨用組成物の砥粒A1と同様、シリカ粒子を好ましく使用し得る。シリカ粒子としては、コロイダルシリカが特に好ましく、例えば、アルコキシシランを原料として作製されたコロイダルシリカを好ましく採用し得る。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。砥粒A2として用いられる砥粒の好ましい真比重、砥粒の外形および平均アスペクト比については、中間研磨用組成物の砥粒A1と同様であるので、重複する記載は省略する。
【0083】
砥粒A2(典型的にはシリカ粒子)のBET径は、特に限定されない。研磨効率等の観点から、上記BET径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果(例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果)を得る観点から、砥粒A2のBET径は、15nm以上が好ましく、20nm以上(例えば20nm超)がより好ましい。また、より平滑性の高い表面が得られやすいという観点から、砥粒A2のBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。より高品位の表面を得やすい等の観点から、一態様において、BET径が35nm以下(典型的には35nm未満、好ましくは32nm未満、例えば30nm未満)の砥粒A2を用いてもよい。
【0084】
仕上げ研磨用組成物における砥粒A2の含有量は、特に制限されない。一態様において、上記含有量は、例えば0.01重量%以上とすることができ、0.03重量%以上としてもよく、0.05重量%以上(例えば0.08重量%以上)としてもよい。砥粒A2の含有量の増大によって、より高い研磨効果が実現され得る。また、研磨対象物からの除去性等の観点から、砥粒A2の含有量は、通常、7重量%以下が適当であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下(例えば1重量%以下)である。一態様において、砥粒A2の含有量は、0.5重量%以下であってもよく、0.3重量%以下であってもよく、0.2重量%以下であってもよい。
【0085】
(塩基性化合物B2)
仕上げ研磨用組成物に含まれる塩基性化合物B2としては、例えば、中間研磨用組成物に使用し得る塩基性化合物B1として例示した塩基性化合物のなかから一種または二種以上を選択して使用することができる。塩基性化合物B2としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物を好ましく使用し得る。これらのうち、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0086】
(表面保護剤S2)
仕上げ研磨用組成物の表面保護剤S2は、少なくとも水溶性高分子P2を含有することが好ましい。水溶性高分子P2としては、例えば、中間研磨用組成物の表面保護剤S1に使用し得る水溶性高分子P1として例示した水溶性高分子と同様のものを採用し得る。水溶性高分子P2は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0087】
水溶性高分子P2として用いられ得る水溶性高分子の一好適例として、セルロース誘導体(例えばHEC)が挙げられる。セルロース誘導体は、単独でまたは他の水溶性高分子と組み合わせて用いられ得る。例えば、水溶性高分子P2がセルロース誘導体と他の水溶性高分子とを組み合わせて含む態様が好ましい。かかる態様において、水溶性高分子P2全体に占めるセルロース誘導体(例えばHEC)の割合は、例えば10重量%以上とすることができ、25重量%以上としてもよく、40重量%以上としてもよく、60重量%以上としてもよく、75重量%以上としてもよく、90重量%以上としてもよい。
【0088】
水溶性高分子P2として用いられ得る水溶性高分子の他の一好適例として、窒素原子を含有するポリマーが挙げられる。窒素原子含有ポリマーは、単独でまたは他の水溶性高分子(例えば、セルロース誘導体)と組み合わせて用いられ得る。窒素原子含有ポリマーの非限定的な例には、N-ビニルラクタムやN-ビニル鎖状アミド等のようなN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
【0089】
N-ビニル型のモノマー単位を含む窒素原子含有ポリマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーが含まれる。このような窒素原子含有ポリマーの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、N-ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)等が含まれる。
【0090】
N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体等が挙げられる。
N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0091】
N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。
【0092】
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0093】
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-アクリロイルモルホリンの単独重合体およびN-アクリロイルモルホリンの共重合体(例えば、N-アクリロイルモルホリンの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0094】
水溶性高分子P2としてセルロース誘導体と窒素原子含有ポリマーとを組み合わせて含む態様において、上記窒素原子含有ポリマーとしては、例えばN-ビニル系ポリマー鎖を含むポリマーを好ましく採用し得る。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマー全体を構成するポリマー鎖と、一分子のポリマーの一部を構成するポリマー鎖とを包含する概念である。また、N-ビニル系ポリマー鎖とは、N-ビニル型モノマーの共重合割合が50重量%を超えて100重量%以下であるポリマー鎖をいう。例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルカプロラクタム等のN-ビニルラクタム型モノマーに由来する繰返し単位の含有量が50重量%を超えて100重量%以下であるポリマー鎖(N-ビニルラクタム型ポリマー鎖)からなる水溶性高分子や、一分子のポリマーの一部がN-ビニルラクタム型ポリマー鎖により構成された共重合体(グラフト共重合体、ブロック共重合体等)を、水溶性高分子P2として好ましく採用し得る。一分子のポリマーの一部がN-ビニルラクタム型ポリマー鎖により構成された共重合体の一例として、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとのグラフト共重合体が挙げられる。
【0095】
なお、このようなN-ビニル系ポリマー鎖を含むポリマーは、水溶性高分子P2の一成分として、セルロース誘導体と組み合わせて好ましく用いられ得るほか、他の一態様において、セルロース誘導体以外の水溶性高分子(例えば、ビニルアルコール系ポリマー、オキシアルキレン単位を含むポリマー等)と組み合わせて用いられてもよい。水溶性高分子P2は、また、N-ビニル系ポリマー鎖を含むポリマーを単独で含む組成、ビニルアルコール系ポリマーを単独で含む組成、オキシアルキレン単位を含むポリマーを単独で含む組成、ビニルアルコール系ポリマーとセルロース誘導体とを組み合わせて含む組成、オキシアルキレン単位を含むポリマーとセルロース誘導体とを組み合わせて含む組成、等であってもよい。
【0096】
水溶性高分子P2のMwは特に限定されない。水溶性高分子P2のMwは、例えば200×104以下であってよく、150×104以下でもよく、100×104以下でもよく、70×104以下でもよい。濾過性や洗浄性の観点から、一態様において、Mwが50×104未満(より好ましくは30×104未満、例えば28×104以下)の水溶性高分子P2を好ましく採用し得る。また、水溶性高分子P2のMwは、通常、1×104以上(例えば2×104以上)であることが好ましい。
【0097】
ここに開示される技術の一態様において、中間研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P1の重量平均分子量MwP1と、仕上げ研磨用組成物に含まれる水溶性高分子P2の重量平均分子量MwP2とは、MwP1>MwP2の関係を満たすように選択することが好ましい。これにより、仕上げ研磨後においてより高品位の表面が実現される傾向にある。水溶性高分子P1および水溶性高分子P2は、例えば、MwP1/MwP2が1.3以上となるように選択することができる。一態様において、MwP1/MwP2は、1.5以上であってもよく、2以上であってもよく、3以上であってもよく、4以上であってもよい。また、MwP1/MwP2は、例えば100以下とすることができ、50以下としてもよく、20以下としてもよく、一態様において10以下(例えば7.0以下)としてもよい。
なお、水溶性高分子P1および水溶性高分子P2の一方または両方が互いにMwの異なる二種類以上の水溶性高分子からなる場合は、各水溶性高分子に含まれる最もMwの高い種類の水溶性高分子についてMwP1とMwP2とを対比するものとする。
【0098】
仕上げ研磨用組成物に含まれる表面保護剤S2は、該表面保護剤S2の分散性パラメータα2が、上述した表面保護剤S1の分散性パラメータα1との関係で、α1/α2≧0.5を満たすことが好ましい。ここで、表面保護剤S2の分散性パラメータα2は、上述した分散性パラメータα1の測定において、表面保護剤S1に代えて表面保護剤S2を用いることにより求められる。α1/α2が0.5以上となるように選択された中間研磨用組成物および仕上げ研磨用組成物を用いて中間研磨工程および仕上げ研磨工程を行うことにより、欠陥の発生を抑えつつ研磨対象物の表面平滑性を効果的に向上させることができる。したがって、仕上げ研磨後において、より高品位の表面を効率よく実現することができる。好ましくはα1/α2が1.0以上、より好ましくは1.5以上、例えば3.5以上または5.0以上となるように選択された中間研磨用組成物および仕上げ研磨用組成物によると、より好適な結果が実現され得る。α1/α2の上限は特に制限されないが、実用上、通常はα1/α2を10以下とすることが適当であり、好ましくは8以下、例えば6以下である。
【0099】
表面保護剤S2の分散性パラメータα2は、例えば50%以下とすることができ、通常は30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。α2の低減により、濾過性や洗浄性が向上する傾向にある。また、研磨対象物の表面保護性や研磨後の濡れ性を向上する観点から、分散性パラメータα2は、通常、1%以上とすることが適当であり、5%以上とすることが好ましい。
【0100】
表面保護剤S2は、水溶性高分子P2に加えて分散剤D2を含有してもよい。分散剤D2の使用により、表面保護剤S2の分散性パラメータα2を調節することができ、上述した好ましいα1/α2を満たすことが容易となる。分散性パラメータα2を低減することは、仕上げ研磨用組成物の濾過性や洗浄性を向上する観点からも好ましい。分散剤D2としては、中間研磨用組成物の表面保護剤S1に使用し得る分散剤D1として例示した材料のなかから一種または二種以上を選択して使用することができる。一態様において、Mwが1×104以下の界面活性剤(好ましくはノニオン系界面活性剤)を分散剤D2として採用することができる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体)およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。
【0101】
仕上げ研磨用組成物における表面保護剤S2の濃度は、特に制限されず、例えば0.0005重量%以上とすることができる。より高い保護効果を得る観点から、好ましい濃度は0.001重量%以上であり、より好ましくは0.002重量%以上である。一態様において、表面保護剤S2の濃度は、0.003重量%以上であってよく、0.005重量%以上であってもよい。また、表面保護剤S2の濃度は、例えば1.0重量%以下とすることができ、通常は0.5重量%以下とすることが適当であり、0.1重量%以下としてもよく、0.05重量%以下(例えば0.02重量%以下)としてもよい。
【0102】
特に限定するものではないが、砥粒A2の含有量100gに対する表面保護剤S2の含有量は、例えば0.01g以上とすることができ、通常は0.05g以上とすることが適当である。より高い保護効果を得る観点から、上記含有量は、0.1g以上としてもよく、0.5g以上としてもよく、1g以上としてもよく、2g以上(例えば3g以上)としてもよい。また、濾過性や洗浄性の観点から、砥粒A2の含有量100gに対する表面保護剤S2の含有量は、通常、15g以下とすることが適当であり、10g以下としてもよく、7g以下(例えば5g以下)としてもよい。
【0103】
仕上げ研磨用組成物における砥粒A2の含有量100g当たりの水溶性高分子P2の含有量CP2は、中間研磨用組成物における砥粒A1の含有量100g当たり水溶性高分子P1の含有量CP1との関係で、CP2/CP1が例えば1.0以上(典型的には1.0より大)となるように設定することができる。ここに開示される技術は、CP2/CP1が1.2以上(例えば1.5以上、または2.0以上、または2.5以上)となる態様で好適に実施され得る。また、CP2/CP1は、例えば10以下とすることができ、通常は7以下とすることが適当であり、5以下としてもよい。このようなCP2/CP1の関係を満たす中間研磨用組成物および仕上げ研磨用組成物を用いて中間研磨工程および仕上げ研磨工程を行うことにより、欠陥の発生を抑えつつ研磨対象物の表面平滑性を効果的に向上させることができる。
【0104】
(水)
仕上げ研磨用組成物は、典型的には水を含む。水としては、中間研磨用組成物の水と同様のものを用いることができる。
【0105】
(その他の成分)
仕上げ研磨用組成物は、中間研磨用組成物と同様、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコン基板のポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ここに開示される技術における仕上げ研磨用組成物は、キレート剤を実質的に含まない態様であり得る。また、仕上げ研磨用組成物は、中間研磨用組成物と同様、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0106】
仕上げ研磨用組成物のpHは、通常、8.0以上であることが適当であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、特に好ましくは9.8以上である。仕上げ研磨用組成物のpHが高くなると、加工力が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防ぎ、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、中間研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.8以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下(例えば10.5以下)であることがさらに好ましい。
【0107】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨スラリーの形態で、例えば以下のようにして研磨対象物の研磨に用いることができる。すなわち、各研磨工程または各研磨段階で用いられる研磨スラリーを用意する。次いで、その研磨スラリー(ワーキングスラリー)を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、研磨対象物を研磨装置にセットし、該研磨装置の定盤(研磨定盤)に固定された研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨スラリーを供給する。典型的には、上記研磨スラリーを連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0108】
各研磨スラリーは、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨スラリーの濃縮液の形態であり、研磨スラリーの原液としても把握され得る。)であってもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨スラリー(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨スラリーとして用いられる濃縮液(すなわち、研磨スラリーの原液)との双方が包含される。このように濃縮された形態の研磨スラリー(濃縮液)は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
【0109】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性(例えば、砥粒の分散安定性や濾過性)等の観点から、通常、上記濃縮液における砥粒の含有量は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上(例えば4重量%以上)である。好ましい一態様において、砥粒の含有量は、5重量%以上としてもよく、10重量%以上(例えば15重量%以上、または20重量%以上、または30重量%以上)としてもよい。
【0110】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨スラリー(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨スラリーを研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0111】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨スラリーの構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとを混合し、必要に応じて適切なタイミングで希釈することにより研磨スラリーが調製されるように構成されていてもよい。
【0112】
研磨用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0113】
研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。中間研磨工程および仕上げ研磨工程においては、片面研磨装置を好ましく採用し得る。各研磨工程において用いられる研磨パッドは特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。
【0114】
ここに開示される研磨方法によると、上述のような中間研磨工程および仕上げ研磨工程を経て、研磨対象物(ここではシリコン基板、典型的にはシリコン単結晶ウェーハ)の研磨が完了する。したがって、ここに開示される技術の他の側面として、ここに開示されるいずれかの中間研磨用組成物を用いて行われる中間研磨工程と、該中間研磨工程の後に行われる仕上げ研磨工程(典型的には、ここに開示されるいずれかの仕上げ研磨用組成物を用いて行われる仕上げ研磨工程)とを含む研磨プロセスを適用して研磨対象物を研磨することを含む、研磨物(研磨による結果物)の製造方法が提供される。
【0115】
<研磨用組成物セット>
この明細書によると、中間研磨工程と仕上げ研磨工程とを含むシリコン基板の研磨プロセスにおいて好ましく用いられ得る研磨用組成物セットが提供される。その研磨用組成物セットは、ここに開示されるいずれかの中間研磨用組成物と、仕上げ研磨用組成物とを少なくとも含む。上記中間研磨用組成物は、中間研磨工程に用いられる研磨スラリーまたはその濃縮液であり得る。同様に、上記仕上げ研磨用組成物は、仕上げ研磨工程に用いられる研磨スラリーまたはその濃縮液であり得る。上記仕上げ研磨用組成物としては、砥粒A2と塩基性化合物B2と表面保護剤S2とを含み、上記表面保護剤S2は水溶性高分子P2を含み、かつ(α1/α2)≧0.5を満たすものが好ましく用いられ得る。このような研磨用組成物セットに含まれる中間研磨用組成物および仕上げ研磨用組成物を用いて中間研磨用工程および仕上げ研磨工程を行うことにより、高品位の表面を有するシリコン基板を効果的に製造することができる。
【実施例】
【0116】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、分散性パラメータの数値を表す場合を除き、重量基準である。
【0117】
<中間研磨用組成物>
(実施例1)
イオン交換水中に、砥粒A1としてBET径が35nmのコロイダルシリカを0.23%、水溶性高分子P1としてMwが120×104のヒドロキシエチルセルロース(HEC)を0.003%、分散剤D1としてMwが9000のPEO-PPO-PEOブロック共重合体を0.0004%、塩基性化合物B1としてアンモニアを0.01%の濃度でそれぞれ含み、残部が水からなる中間研磨用組成物を調製した。
【0118】
(実施例2,3)
分散剤D1の濃度を表1に示すように変更した他は実施例1と同様にして、実施例2,3に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0119】
(実施例4)
水溶性高分子P1としてMwが50×104のHECを使用した他は実施例3と同様にして、本例に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0120】
(実施例5)
分散剤D1としてエチレンオキサイド付加モル数5のポリオキシエチレンデシルエーテル(C10PEO5)を0.00002%の濃度で使用した他は実施例4と同様にして、本例に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0121】
(比較例1)
分散剤D1を使用しない他は実施例1と同様にして、比較例1に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0122】
(比較例2)
分散剤D1を使用しない他は実施例4と同様にして、比較例2に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0123】
(比較例3)
水溶性高分子P1の濃度を0.006%に変更した他は比較例2と同様にして、比較例3に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0124】
(比較例4)
水溶性高分子P1としてMwが25×104のHECを使用した他は実施例4と同様にして、本例に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0125】
(比較例5)
分散剤D1の濃度を0.00001%に変更した他は実施例1と同様にして、本例に係る中間研磨用組成物を調製した。
【0126】
これらの実施例および比較例に係る中間研磨用組成物の各々について、上述した方法で表面保護剤S1の分散性パラメータα1を測定した。結果を表1に示す。
【0127】
<シリコンウェーハの研磨>
(1)一次研磨工程
砥粒0.95%および塩基性化合物0.0645%を含み、残部が水からなる一次研磨用組成物を調製した。砥粒としては、BET径35nmのコロイダルシリカを使用した。塩基性化合物としては水酸化カリウム(KOH)を使用した。この一次研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、研磨対象物としてのシリコンウェーハを下記研磨条件1で研磨した。シリコンウェーハとしては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満、COPフリー)を使用した。
【0128】
〔研磨条件1〕
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤回転数:20rpm
キャリア回転数:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP55」
研磨液供給レート:1リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2分
【0129】
(2)中間研磨工程
上述した実施例および比較例に係る中間研磨用組成物の各々をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、上記一次研磨工程を終えたシリコンウェーハを下記研磨条件2で研磨した。
【0130】
〔研磨条件2〕
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
キャリア回転数:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製の研磨パッド、商品名「POLYPAS27NX」
研磨液供給レート:2リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2分
【0131】
(3)仕上げ研磨工程
イオン交換水中に、BET径が25nmのコロイダルシリカを0.18%、水溶性高分子P2としてMwが25×104のHECを0.004%およびMwが4.5×104のポリビニルピロリドンを0.003%、分散剤D2としてエチレンオキサイド付加モル数5のポリオキシエチレンデシルエーテル(C10PEO5)を0.0002%、アンモニアを0.005%、の濃度でそれぞれ含む仕上げ研磨用組成物を調製した。この仕上げ研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、上記中間研磨工程を終えたシリコンウェーハを上記研磨条件2で研磨した。なお、上記仕上げ研磨用組成物に含まれる表面保護剤S2の分散性パラメータα2を上述した方法により測定したところ、13%であった。
【0132】
研磨後のシリコンウェーハを研磨装置から取り外し、NH4OH(29%):H2O2(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを第1の洗浄槽に6分、その後超純水と超音波によるリンス槽を経て、第2の洗浄槽に6分、それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬し、イソプロピルアルコール(IPA)雰囲気中に引き上げて乾燥させた。
【0133】
このようにして、共通の一次研磨用組成物を用いた一次研磨工程と、実施例および比較例に係る中間研磨用組成物の各々を用いた中間研磨工程と、共通の仕上げ研磨用組成物を用いた仕上げ研磨工程とを含む研磨プロセスにより研磨されたシリコンウェーハを得た。
【0134】
<LPD数評価>
ウェーハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、商品名「Surfscan SP2」)を使用して、各実施例および比較例により得られたシリコンウェーハの表面に存在する37nm以上の大きさの欠陥(パーティクル)の個数をカウントした。カウントされた欠陥の数(LPD数)を、比較例1のLPD数を100とする相対値に換算して表1に示した。
【0135】
【0136】
表1に示されるように、重量平均分子量MwP1が30×104より高い水溶性高分子P1を含み、さらに分散剤D1を含み、かつα1が80%未満である表面保護剤S1を含む実施例1~5の中間研磨用組成物によると、比較例1に比べて、仕上げ研磨後におけるLPD数が大幅に低減されることが確認された。一方、中間研磨用組成物として重量平均分子量MwP1が30×104以下の水溶性高分子P1を用いた比較例4では、比較例1に比べてLPD数が増加した。また、α1が80%より大きい比較例5および分散剤D1不使用の比較例2,3では、LPD数の低減効果が小さかった。
【0137】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。