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特許7185823発光膜およびその製造方法、並びに紫外線照射型発光シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】発光膜およびその製造方法、並びに紫外線照射型発光シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/00 20060101AFI20221201BHJP
   C09K 11/69 20060101ALI20221201BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20221201BHJP
   G09F 13/20 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
C09K11/00 A
C09K11/69
C09K11/08 J
C09K11/08 E
G09F13/20 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018227636
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020090594
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100171022
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 玉乃
(72)【発明者】
【氏名】網野 由美子
(72)【発明者】
【氏名】上村 和恵
(72)【発明者】
【氏名】小野 義友
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中島 智彦
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084531(JP,A)
【文献】国際公開第2010/047177(WO,A1)
【文献】特開2011-016670(JP,A)
【文献】特開2013-166885(JP,A)
【文献】特開2008-050917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00-47/00;49/10-99/00
C09K11/00-11/89
E01F9/00-11/00
G09F13/00-13/46
H01L33/00;33/48-33/64
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式MVO(MはCsである)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)
機酸セシウム塩である有機酸金属塩(b1)と、有機酸バナジウム塩(b2)とから形成された、組成式MVO(MはCsである)で示されるバナジウム酸化物結晶(B)並びに、
有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)、を含む発光膜であって、
前記結晶(B)は、粒子(A)の固形分100質量部に対して、1~50質量部であり、
前記(C)成分は、粒子(A)の固形分100質量部に対して、0.01~50質量部であり、
前記(C)成分は、必須成分として(c2)成分を含有しており、
前記発光膜中の前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計含有量は、80質量%以上である、発光膜
【請求項2】
前記有機酸金属塩(b1)が脂肪酸金属塩である、請求項1に記載の発光膜。
【請求項3】
前記有機酸バナジウム塩(b2)が脂肪酸バナジウム塩である、請求項1又は2に記載の発光膜。
【請求項4】
前記有機酸金属塩(c1)が脂肪酸金属塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発光膜。
【請求項5】
前記(A)成分の平均二次粒子径が1~50μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の発光膜。
【請求項6】
前記(c2)成分がエポキシ基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基からなる群から選ばれる基を有する1種以上のシランカップリング剤である、請求項1~のいずれか1項に記載の発光膜。
【請求項7】
前記(C)成分が前記(c1)成分および前記(c2)成分を共に含む、請求項1~のいずれか1項に記載の発光膜。
【請求項8】
厚さが0.1~50μmである、請求項1~のいずれか1項に記載の発光膜。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の発光膜の製造方法であって、
下記工程(I)および工程(II)を有する、発光膜の製造方法。
工程(I):組成式MVO3(MはCsである)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)、有機酸セシウム塩である有機酸金属塩(b1)、有機酸バナジウム塩(b2)、並びに、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)を含む塗布液を塗布して塗膜を形成する工程
工程(II):前記塗膜を10℃~450℃の温度に保持した後、波長400nm以下の紫外線を照射する工程
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の発光膜を有する紫外線照射型発光シート。
【請求項11】
防汚層、前記発光膜、および反射層を順に有する、請求項10に記載の紫外線照射型発光シート。
【請求項12】
前記反射層が粘着性反射層である、請求項11に記載の紫外線照射型発光シート。
【請求項13】
前記発光シートの前記反射層側の面にさらに粘着層を有する、請求項11に記載の紫外線照射型発光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光膜およびその製造方法、並びに紫外線照射型発光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高速道路等において、車線の上方に配置されて道路案内等を表示する標識装置が広く利用されている。このような標識装置としては、例えば、特許文献1に開示されたタイプのものがある。同文献の標識装置は、標識面を再帰性反射シートにより構成するとともに、路肩に設置された照明装置から照射した可視光線を標識面で反射させることで、当該標識面の夜間における視認性を保つようになっている。
ところが、このような標識装置にあっては、対向車線のドライバーが照射装置を直視する場合があり、当該照射装置が眩しくて運転の妨げとなる他、標識面から外れた可視光線によって光線が帯状に見え、降雨時や霧の発生によって光が乱反射してドライバーを幻惑させることがある。また、ドライバーが標識面を見る角度によっては、標識面が暗く見えたり、反射光が強くなり過ぎたりして視認性が悪化するという問題もある。
【0003】
そこで、可視光線を利用しない標識装置として、例えば、特許文献2に開示されるタイプのものが知られている。同文献の標識装置は、紫外線により蛍光発色する蛍光体を含んだ塗料を用いて標識面を形成し、当該標識面に照射装置からの紫外線を照射することで、可視光線による不都合を回避して夜間における標識面の視認性を改善するようになっている。
【0004】
また、特許文献3には、紫外線の照射によって蛍光発色する発光シートの製造方法、さらに詳しくは蛍光材料を含む発光層とバック層とによって二重層となっている発光シートを形成し、この発光シートのバック層を所定場所に固定することで、表側の発光層に紫外線を照射することによって容易に面状の蛍光表示装置とすることができる発光シートの製造方法が開示されている。
【0005】
ところで、高速道路等に標識装置を設置した場合は、標識装置が風雨に晒されることになるが、清掃するためには高速道路を封鎖せねばならない。そのため高速道路等に設置される標識装置においては、清掃を長期間行わずとも良好な視認性を維持できることが望まれる。
特許文献3に開示されている発光シートは面状に発光するものであり、例えば、該発光シートを所定の形状に裁断して表示装置などに貼付することにより、紫外線を照射した際に文字や図形を表示しうる標識装置とすることができる。しかしながらこの発光シートの厚さが厚いと、発光シートを貼付した箇所において、該シートの厚さにより生じる段差部分に汚れが溜まりやすくなる。
【0006】
一方で、発光シートの厚さを薄くするために発光層の厚さを薄くすると、一般には輝度が低下して良好な視認性が得られなくなる。また、蛍光材料を含む発光層は、該蛍光材料を保持するためのバインダー樹脂を含んでおり、該バインダー樹脂の含有量を低減することによっても発光層の厚さを薄くすることができる。しかしながら、バインダー樹脂の含有量が少なすぎると蛍光材料の脱落が起こり易く、発光層の密着性も低下する傾向がある。
【0007】
特許文献4には、結晶性に優れた酸化バナジウム蛍光体の薄膜を、従来困難であった有機基板上にもバインダーレスで直接製膜しうる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表平10-506721号公報
【文献】実開平7-4514号公報
【文献】特開平7-199844号公報
【文献】特開2009-84531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように、高速道路等における標識装置に用いられる紫外線照射型発光シートにおいては、厚さが薄く、かつ良好な視認性を発現するため高輝度であることが必要になる。特許文献4に開示された蛍光体薄膜は、標識装置用の紫外線照射型発光シートに適用するためにはさらに高輝度化することが望まれていた。また前述のように、従来の蛍光材料を含む発光層を有する紫外線照射型発光シートにおいては、高輝度を維持しつつ薄膜化が可能で、さらに密着性にも優れるというすべての特性を満たすことは困難であった。
本発明はこのような状況下になされたものであり、紫外線の照射によって蛍光発色し、高輝度を維持しつつ薄膜化が可能で、密着性にも優れる発光膜、その製造方法、および該発光膜を有する紫外線照射型発光シートを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、所定の成分を含む発光膜およびこれを有する紫外線照射型発光シートにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は下記に関する。
[1]組成式MVO(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)、
有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)と、有機酸バナジウム塩(b2)とから形成された、組成式MVO(Mは前記と同じである)で示されるバナジウム酸化物結晶(B)並びに、
有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)、を含む発光膜。
[2]前記有機酸金属塩(b1)が脂肪酸金属塩である、上記[1]に記載の発光膜。
[3]前記有機酸バナジウム塩(b2)が脂肪酸バナジウム塩である、上記[1]又は[2]に記載の発光膜。
[4]前記有機酸金属塩(c1)が脂肪酸金属塩である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の発光膜。
[5]前記(A)成分の平均二次粒子径が1~50μmである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の発光膜。
[6]前記(A)成分がCsVO粒子である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の発光膜。
[7]前記(c2)成分がエポキシ基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基からなる群から選ばれる基を有する1種以上のシランカップリング剤である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の発光膜。
[8]前記(C)成分が前記(c1)成分および前記(c2)成分を共に含む、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の発光膜。
[9]前記発光膜中の前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分の固形分100質量部に対し0.01~50質量部である、上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の発光膜。
[10]厚さが0.1~50μmである、上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の発光膜。
[11]下記工程(I)および工程(II)を有する、発光膜の製造方法。
工程(I):組成式MVO(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)、有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)、有機酸バナジウム塩(b2)、並びに、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)を含む塗布液を塗布して塗膜を形成する工程
工程(II):前記塗膜を10℃~450℃の温度に保持した後、波長400nm以下の紫外線を照射する工程
[12]上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の発光膜を有する紫外線照射型発光シート。
[13]防汚層、前記発光膜、および反射層を順に有する、上記[12]に記載の紫外線照射型発光シート。
[14]前記反射層が粘着性反射層である、上記[13]に記載の紫外線照射型発光シート。
[15]前記発光シートの前記反射層側の面にさらに粘着層を有する、上記[13]に記載の紫外線照射型発光シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紫外線の照射によって蛍光発色し、薄膜化しても高輝度を維持することができ、密着性にも優れる発光膜、その製造方法、および該発光膜を有する紫外線照射型発光シートを提供することができる。当該発光膜および紫外線照射型発光シートは薄膜でかつ高輝度であることから、例えば高速道路などに設置される標識装置に適用すると、シートの厚さにより生じる段差部分に汚れがたまり難くなり、清掃を長期間行わずとも良好な視認性を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図3】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図4】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図5】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図6】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図7】本発明の紫外線照射型発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。
図8図5に示す構成の紫外線照射型発光シートの製造方法の一例を示す説明図である。
図9】本発明の紫外線照射型発光シートを重ね貼りしてなる紫外線照射型標識装置の一例を示す断面模式図(部分拡大図)である。
図10】本発明の紫外線照射型発光シートを重ね貼りしてなる紫外線照射型標識装置の標識部の一例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発光膜]
本発明の発光膜は、組成式MVO(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)、有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)と、有機酸バナジウム塩(b2)とから形成された、組成式MVO(Mは前記と同じである)で示されるバナジウム酸化物結晶(B)、並びに、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)、を含むことを特徴とする。本発明の発光膜は、さらに後述するその他の成分を含んでもよい。
本発明の発光膜は上記構成であることにより、高輝度を維持しつつ薄膜化が可能であり、密着性にも優れるものとなる。以下、本発明の発光膜に含まれる各成分について説明する。
【0015】
<バナジウム酸化物粒子(A)>
本発明の発光膜は、組成式MVO(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)(以下、単に「バナジウム酸化物粒子(A)」又は「(A)成分」と称することがある)を含む。(A)成分は紫外線の照射によって蛍光発色する性質を有している。
特許文献4には、後述する(b1)成分および(b2)成分に相当する成分を用いて形成された酸化バナジウム蛍光体の薄膜が開示されているが、本発明の発光膜においては、(b1)成分および(b2)成分から形成されるバナジウム酸化物結晶(B)に加え、上記(A)成分を併用することにより、薄膜化してもより高い輝度を発現しうる発光膜とすることができる。
(A)成分を構成するバナジウム酸化物は組成式MVOで示され、MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である。すなわち、(A)成分はKVO、RbVO、およびCsVOから選ばれる1種以上の粒子である。これらの中でも、高輝度を発現する観点から、(A)成分はCsVO粒子であることが好ましい。
(A)成分の粒子の形状には特に制限はなく、例えば球状、板状、針状などが挙げられる。(A)成分の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子の状態であることが得られる発光膜の発光性能の観点からは好ましい。
【0016】
(A)成分であるバナジウム酸化物粒子は、薄膜でも高輝度を発現しうる発光膜を得る観点から、平均二次粒子径が1μm以上であることが好ましく、より好ましくは5μm以上、よりさらに好ましくは10μm以上である。(A)成分の粒子の平均二次粒子径を1μm以上とすることで、より高輝度の発光膜を得ることができる。また(A)成分の粒子の平均二次粒子径は、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
(A)成分の平均二次粒子径は、レーザ回折式粒度分布計により測定することができる。
【0017】
(A)成分であるバナジウム酸化物粒子の製造方法には特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、CVD法、水熱合成、ソルボサーマル合成、熱分解法、および、バナジウム酸化物粒子の原料となる金属を含有する金属有機化合物に紫外線レーザを照射して製造する方法などが挙げられる。
【0018】
<バナジウム酸化物結晶(B)>
本発明の発光膜は、有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)と、有機酸バナジウム塩(b2)とから形成された、組成式MVO(Mは前記と同じである)で示されるバナジウム酸化物結晶(B)(以下、単に「バナジウム酸化物結晶(B)」又は「(B)成分」と称することがある)を含む。
ここで、「有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)(以下「(b1)成分」と称することがある)と、有機酸バナジウム塩(b2)(以下「(b2)成分」と称することがある)とから形成された、組成式MVO(Mは前記と同じである)で示されるバナジウム酸化物結晶(B)」とは、具体的には、(b1)成分および(b2)成分を含む溶液を塗布して得られる塗膜に紫外線照射することで得られる、組成式MVOで示されるバナジウム酸化物結晶をいう。バナジウム酸化物結晶の形成方法の詳細は、後述する発光膜の製造方法において説明する。
バナジウム酸化物結晶(B)は前記(A)成分と同様、紫外線の照射によって蛍光発色する性質を有しているため、該(B)成分を含むことにより、本発明の発光膜は薄膜化しても高い輝度を発現する。
【0019】
バナジウム酸化物結晶(B)は、(b1)成分と(b2)成分とから形成され、組成式MVO(Mは前記と同じである)で示される。Mは前記(A)成分におけるMと同一の原子であってもよく、異なっていてもよい。高輝度を得る観点からは、(B)成分はCsVOであることが好ましい。
【0020】
(有機酸金属塩(b1))
有機酸金属塩(b1)は、有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上であり、形成されるバナジウム酸化物結晶(B)の輝度の観点からは、有機酸セシウム塩であることが好ましい。以下の記載において、「有機酸金属塩」とは、有機酸と金属とから形成された塩化合物をいう。
(b1)成分を構成する有機酸としては特に制限はないが、例えば、脂肪酸、および、カルボキシ基、ヒドロキシ基又はエノール基を有する弱酸の化合物であって有機溶剤に溶解しうる化合物が挙げられる。上記と同様の観点から、有機酸金属塩(b1)は脂肪酸金属塩であることが好ましく、脂肪酸セシウム塩であることがより好ましい。
【0021】
上記脂肪酸としては、炭素数6~30の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸が挙げられ、飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸の炭素数は、好ましくは6~20、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~12、よりさらに好ましくは8~10である。
炭素数6~30の飽和脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、およびトリアコンタン酸等が挙げられる。なお本明細書において「オクチル酸」とは、2-エチルヘキサン酸、n-オクタン酸、およびイソオクタン酸を包含する概念である。
炭素数6~30の不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸等が挙げられる。
また、上記以外の脂肪酸として、例えば、ロジン酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂酸、トール油酸等も挙げられる。
【0022】
前記のカルボキシ基を有する化合物としては、前記脂肪酸以外のカルボキシ基含有化合物が挙げられ、例えば、クエン酸、シュウ酸や、胆汁酸、糖酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシケイ皮酸、および葉酸等のヒドロキシ酸、アラニンおよびアルギニン等のアミノ酸、安息香酸、およびフタル酸等の芳香族酸、並びにナフテン酸が挙げられる。
また、前記のヒドロキシ基又はエノール基を有する化合物としては、例えば、アスコルビン酸、α酸、イミド酸、エリソルビン酸、クロコン酸、コウジ酸、スクアリン酸、スルフィン酸、タイコ酸、デヒドロ酢酸、デルタ酸、尿酸、ヒドロキサム酸、フミン酸、フルボ酸、およびホスホン酸等が挙げられる。
(b1)成分を構成する有機酸は、1種のみでもよく、2種以上の組み合わせでもよい。中でも、(b1)成分を構成する有機酸としての脂肪酸は炭素数6~30(好ましくは6~20、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~12、よりさらに好ましくは8~10)の飽和脂肪酸が好ましく、オクチル酸、ノナン酸、およびデカン酸からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、オクチル酸がさらに好ましい。
(b1)成分として好ましい化合物は、オクチル酸セシウム、ノナン酸セシウム、デカン酸セシウム、およびナフテン酸セシウムからなる群から選ばれる1種以上であり、特に好ましい化合物はオクチル酸セシウムである。
(b1)成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
(有機酸バナジウム塩(b2))
有機酸バナジウム塩(b2)は、有機酸とバナジウムとから形成された塩化合物である。(b2)成分を構成する有機酸としては特に制限はないが、前記(b1)成分において例示したものと同様のものが挙げられる。
(b2)成分を構成する有機酸は、1種のみでもよく、2種以上の組み合わせでもよい。
【0024】
中でも、有機酸バナジウム塩(b2)は脂肪酸バナジウム塩であることが好ましく、炭素数6~30(好ましくは6~20、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~12、よりさらに好ましくは8~10)の飽和脂肪酸のバナジウム塩であることがさらに好ましい。(b2)成分として好ましい化合物は、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸およびナフテン酸からなる群から選ばれる1種以上のバナジウム塩であり、オクチル酸バナジウムがより好ましい。
また、(b2)成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
<添加剤(C)>
また、本発明の発光膜は、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)(以下、単に「添加剤(C)」又は「(C)成分」と称することがある)を含むことを特徴とする。
本発明の発光膜が(C)成分を含むことで、蛍光材料である前記(A)成分および(B)成分の膜からの脱落を防止し、(A)成分および(B)成分の含有量比が高い発光膜であっても、紫外線照射型発光シートとした際の被着材への密着性が良好になる。添加剤を配合することにより発光膜の輝度が低下する場合があるが、本発明においては上記特定の(C)成分を用いることにより、発光膜の輝度を低下させることなく密着性を付与できる。
【0026】
(有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1))
有機酸金属塩(c1)(以下、単に「(c1)成分」と称することがある)は、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上であり、密着性および色調の観点からは有機酸ジルコニウム塩が好ましい。
(c1)成分を構成する有機酸としては前記(b1)成分において例示したものと同様のものが挙げられ、脂肪酸が好ましい。すなわち、有機酸金属塩(c1)は脂肪酸金属塩であることが好ましい。
(c1)成分を構成する有機酸は、1種のみでもよく、2種以上の組み合わせでもよい。中でも、(c1)成分を構成する有機酸としての脂肪酸は炭素数6~30(好ましくは6~20、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~12、よりさらに好ましくは8~10)の飽和脂肪酸が好ましく、オクチル酸、ノナン酸、およびデカン酸から選ばれる1種以上がより好ましく、オクチル酸がさらに好ましい。
(c1)成分として好ましい化合物は、オクチル酸ジルコニウム、ノナン酸ジルコニウム、デカン酸ジルコニウム、およびナフテン酸ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上であり、特に好ましい化合物はオクチル酸ジルコニウムである。
(c1)成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
(シランカップリング剤(c2))
シランカップリング剤(c2)(以下、単に「(c2)成分」と称することがある)としては、特に制限なく、従来公知のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、エポキシ基を有するシランカップリング剤、ビニル基を有するシランカップリング剤、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、およびメルカプト基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等が挙げられる。
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
また、上記以外のシランカップリング剤として、p-スチリルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、および3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
上記の中でも、(c2)成分は密着性を得る観点からエポキシ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、およびアミノ基からなる群から選ばれる基を有する1種以上のシランカップリング剤が好ましく、密着性および発光膜の色調の観点からはエポキシ基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基からなる群から選ばれる基を有する1種以上のシランカップリング剤がより好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、およびビニルトリエトキシシランからなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましい。
(c2)成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
前記(C)成分は、(c1)成分および(c2)成分からなる群から選ばれる1種以上であればよいが、優れた密着性を得る観点からは、(C)成分は少なくとも(c2)成分を含むことが好ましく、(c1)成分および(c2)成分を共に含むことがより好ましい。(c1)成分と(c2)成分との特に好ましい組み合わせは、(c1)成分が有機酸ジルコニウム塩であり、(c2)成分がエポキシ基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基からなる群から選ばれる基を有する1種以上のシランカップリング剤である組み合わせである。
【0030】
<その他の成分>
本発明の発光膜は、前記(A)、(B)、および(C)成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、輝度や色度の微調整のために他の一般的な蛍光体や顔料等を含むこともできる。また他にも、分散剤、粘度調整剤、レベリング剤等を適宜含むこともできる。
【0031】
<発光膜中の各成分の含有量>
本発明の発光膜中の前記各成分の好ましい含有量は以下の通りである。
本発明の発光膜中の前記(A)成分の含有量は、高輝度を発現しかつ良好な密着性を維持する観点から、好ましくは30~95質量%、より好ましくは35~90質量%、さらに好ましくは40~90質量%、よりさらに好ましくは50~88質量%である。
本発明の発光膜中の前記(B)成分の含有量は、高輝度を発現する観点から、前記(A)成分の固形分100質量部に対し、好ましくは1~50質量部、より好ましくは2~40質量部、さらに好ましくは3~30質量部である。
本発明の発光膜中の前記(C)成分の含有量は、前記(A)成分の固形分100質量部に対し、好ましくは0.01~50質量部、より好ましくは0.1~40質量部、さらに好ましくは0.5~30質量部である。当該含有量が0.01質量部以上であれば密着性が良好であり、50質量部以下であれば輝度および色調が良好である。また(C)成分として前記(c1)成分および(c2)成分を共に含む場合には、優れた密着性を得る観点から、(c1)成分と(c2)成分との含有量比は、質量比で(c1)/(c2)の値が0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。また質量比で(c1)/(c2)の値が20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0032】
また本発明の発光膜中の前記(A)成分、(B)成分、並びに(C)成分の合計含有量は、発光膜を薄膜化しても高輝度を発現する観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0033】
本発明の発光膜の厚さは、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは1.0~40μm、さらに好ましくは3.0~30μm、よりさらに好ましくは5.0~25μmである。発光膜の厚さが0.1μm以上であれば高輝度を得ることができ、50μm以下であれば薄膜化の点で有利である。
発光膜の厚さは、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0034】
[発光膜の製造方法]
本発明の発光膜の製造方法(以下「本発明の製造方法」と称することがある)は、下記工程(I)および工程(II)を有することを特徴とする。
工程(I):組成式MVO(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)、有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)、有機酸バナジウム塩(b2)、並びに、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)を含む塗布液を塗布して塗膜を形成する工程
工程(II):前記塗膜を10℃~450℃の温度に保持した後、波長400nm以下の紫外線を照射する工程
本発明の製造方法を用いることにより、前述した本発明の発光膜を効率よく製造することができる。特に、工程(I)において(b1)成分および(b2)成分を含む塗布液を塗布して得られる塗膜に対し、工程(II)で紫外線を照射することにより、前述した(b1)成分中のMと(b2)成分中のバナジウムとから形成される、組成式MVOで示されるバナジウム酸化物結晶(B)を成長させ、前述した本発明の発光膜を製造することができるものである。
【0035】
<工程(I)>
工程(I)は、組成式MVO(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)で示されるバナジウム酸化物粒子(A)、有機酸カリウム塩、有機酸ルビジウム塩、および有機酸セシウム塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(b1)、有機酸バナジウム塩(b2)、並びに、有機酸ジルコニウム塩および有機酸チタン塩からなる群から選ばれる1種以上の有機酸金属塩(c1)およびシランカップリング剤(c2)からなる群から選ばれる1種以上の添加剤(C)を含む塗布液を塗布して塗膜を形成する工程である。工程(I)を行うことにより、少なくとも(A)成分、(b1)成分、(b2)成分、および(C)成分を含む塗膜が形成される。さらに、該塗膜はその他の成分を含んでいてもよい。
【0036】
(塗布液)
工程(I)で用いる塗布液は、少なくとも前記(A)成分、(b1)成分、(b2)成分、および(C)成分を含むものであり、さらにその他の成分を含んでいてもよい。各成分の例示およびその好ましい態様は前記と同じである。また、必要に応じトルエン、キシレン等の溶媒を含んでもよい。
塗布液中の(A)成分、(b1)成分、(b2)成分、および(C)成分の含有量は、発光膜中での各成分の含有量が、前述した好ましい含有量となる範囲で調整できる。すなわち、塗布液中の上記各成分の好ましい含有量は以下の通りである。
(A)成分の含有量は、高輝度を発現しかつ良好な密着性を維持する観点から、好ましくは30~95質量%、より好ましくは35~90質量%、さらに好ましくは40~90質量%、よりさらに好ましくは50~85質量%である。
(b1)成分の含有量は、高輝度および優れた密着性を得る観点から、(A)成分の固形分100質量部に対し、好ましくは0.5~25質量部、より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは1.5~15質量部である。また、塗布液中の(b1)成分および(b2)成分の含有量比は、(b1)成分中のM(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)と、(b2)成分中のバナジウムとが、原子比で1:0.5~1:2となる範囲が好ましく、1:0.8~1:1.2となる範囲がより好ましく、1:0.95~1:1.05となる範囲がさらに好ましい。特に好ましくは、塗布液中の(b1)成分および(b2)成分の含有量比が、前記原子比として1:1となる量である。
(C)成分の含有量は、(A)成分の固形分100質量部に対し、好ましくは0.01~50質量部、より好ましくは0.1~40質量部、さらに好ましくは0.5~30質量部である。当該含有量が0.01質量部以上であれば密着性が良好であり、50質量部以下であれば輝度および色調が良好である。また(C)成分として前記(c1)成分および(c2)成分を共に含む場合には、優れた密着性を得る観点から、(c1)成分と(c2)成分との含有量比は、質量比で(c1)/(c2)の値が0.2以上が好ましく、0.5以上が好ましく、1以上がよりさらに好ましい。また質量比で(c1)/(c2)の値が20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0037】
塗布液の調製方法には特に制限はなく、従来公知の方法を用いて、塗布液中に含まれる各成分を混合することにより調製できる。各成分の混合順序にも特に制限はないが、(b1)成分および(b2)成分を予め混合した溶液を調製し、該溶液と、その他の各成分とを混合することが好ましい。この場合、組成式MVOで示される酸化物への反応が起こり易く、質のよい発光膜を製造する観点から、塗布液の調製後((b1)成分および(b2)成分を混合後)、速やかに塗布を行って塗膜を形成することが好ましい。
塗布液の塗布方法も特に制限はなく、従来公知の方法を用いて塗布することができる。塗布方法としては、例えば、バーコート、ワイヤーコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、ダイコート、スリットコート、グラビアコート等が挙げられる。
塗布液を塗布する対象物は、発光膜およびこれを有する紫外線照射型発光シートの層構成や用途に応じて適宜選択できる。例えば基板上に塗布液を塗布する場合には、無機基板、有機基板のいずれも使用できるが、無機基板の場合には室温で融解したり、大気中の湿度によって溶解したりすることのないものであればよい。また、有機基板においては後述する工程(II)で紫外線照射を行う際に、10分程度の照射時間で基板温度が60~70℃程度に加熱されることがある。そのため、この温度付近で溶けないような材料で構成された有機基板を用いることが好ましい。有機基板としては、例えば、後述する発光シートに用いる透明基材が挙げられる。
【0038】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)で得られた前記塗膜を10℃~450℃の温度に保持した後、波長400nm以下の紫外線を照射する工程である。この工程を行うことにより、工程(I)で得られた塗膜に含まれる(b1)成分中のM(MはK、Rb、およびCsからなる群から選ばれる1種以上の原子である)と(b2)成分中のバナジウムとから形成される、組成式MVOで示されるバナジウム酸化物結晶(B)を成長させ、本発明の発光膜を得ることができる。
【0039】
工程(I)で得られた塗膜は、10℃~450℃の温度に保持する。これにより塗膜を乾燥し、溶媒を除去することができる。当該保持温度は、バナジウム酸化物結晶(B)を効率よく形成、成長させ、着色や輝度低下を抑制する観点から、好ましくは15℃~200℃、より好ましくは20℃~150℃、さらに好ましくは20℃~100℃である。
塗膜の保持時間は、上記保持温度や、塗布などに応じて適宜選択することができるが、生産性および着色や輝度低下を抑制する観点からは、好ましくは1分~400時間、より好ましくは3分~200時間である。
【0040】
次いで、上記温度で保持した後の塗膜に波長400nm以下の紫外線を照射する。これにより、バナジウム酸化物結晶(B)の成長を促進させ、高輝度を発現しうる本発明の発光膜を効率よく製造することができる。
紫外線照射においては、紫外線レーザや紫外線ランプを用いることが好ましい。
紫外線レーザとしては、エキシマレーザ、パルスレーザ等を用いることができる。また紫外線ランプとしては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、カーボンアーク等を用いることができる。
波長400nm以下の紫外線レーザを用いる場合、例えば、工程(I)で得られた塗膜を前記温度で保持し、その後、室温で、低エネルギー条件で紫外線レーザ照射を行う。具体的には、照射エネルギー15~100mW/mの条件で紫外線を照射することが好ましい。
また波長400nm以下の紫外線ランプを用いる場合には、例えば、工程(I)で得られた塗膜を前記温度で保持し、その後、室温で、低エネルギー条件で紫外線照射を行う。この場合、バナジウム酸化物結晶(B)の結晶化を促進するために、照射エネルギー15~50mW/cmの条件で紫外線を照射することが好ましい。
本発明の製造方法においては、紫外線照射の際に、波長400nm以下の紫外線レーザと、波長400nm以下の紫外線ランプとを併用してもよい。本発明においては、結晶化時間の短縮を目的とする場合には、工程(I)で得られた塗膜に紫外線ランプで紫外線を短時間照射した後、紫外線レーザを用いて紫外線照射することが好ましい。
【0041】
[紫外線照射型発光シート]
本発明の紫外線照射型発光シート(以下、単に「発光シート」と称することがある)は、前述した本発明の発光膜を有するものである。当該発光膜は薄膜化しても高輝度を維持できるので、これを有する本発明の発光シートは高輝度を維持しつつ全体の厚さを薄くすることが可能である。
【0042】
<発光シートの層構成>
本発明の発光シートは、少なくとも本発明の発光膜を有していればよい。本発明の発光シートを高速道路の標識装置などに適用する場合には、防汚性の観点から、本発明の発光シートは防汚層、発光膜、および反射層を順に有することが好ましい。該反射層は粘着性反射層であってもよい。また、防汚層、発光膜、および反射層を順に有する発光シートの該反射層側の面にさらに粘着層を有していてもよい。
【0043】
本発明の発光シートとしては、例えば以下のような層構成のシートが挙げられる。以下の記載において、例えばA/B/Cの表記は、上から(又は下から)A、B、Cの順に積層していることを示す。また、剥離シートは任意である。
(a)発光膜/透明基材
(b)発光膜/反射層(/剥離シート)
(c)防汚層/発光膜/透明基材
(d)防汚層/発光膜/反射層(/剥離シート)
(e)防汚層/粘着層/発光膜/反射層(/剥離シート)
(f)防汚層/発光膜/反射層/粘着層(/剥離シート)
(g)防汚層/粘着層/発光膜/反射層/粘着層(/剥離シート)
前述した防汚層、発光膜、および反射層を順に有する構成としては、上記(d)~(g)の層構成の発光シートが挙げられる。
【0044】
図1~7は本発明の発光シートの構成の一例を示す断面模式図である。図1は上記(a)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、発光シート110は、発光膜1が透明基材2上に積層されたものである。図2は上記(b)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、発光シート120は、発光膜1および反射層3が順に積層されたものである。発光シート120の反射層3側の面には、剥離シート4(図示せず)を有していてもよい。特に反射層が粘着性反射層3’である場合、剥離シート4を有していることが好ましい。また、図3は上記(c)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、発光シート130は、防汚層5、発光膜1および透明基材2が順に積層されたものである。
図4は上記(d)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、本発明の発光シート140において、防汚層5、発光膜1、および反射層3が順に積層されている。
図5は上記(e)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、発光シート150においては、防汚層5、粘着層6、発光膜1、および反射層3が順に積層されている。
(d)、(e)の層構成においても、反射層が粘着性反射層3’である場合は、反射層側の面に剥離シート4を有していることが好ましい。
図6は上記(f)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、発光シート160においては、防汚層5、発光膜1、反射層3、粘着層6、および剥離シート4が順に積層されている。
また、図7は上記(g)の層構成の発光シートを示す断面模式図であり、発光シート170においては、防汚層5、粘着層61、発光膜1、反射層3、粘着層62、および剥離シート4が順に積層されている。
【0045】
以下、本発明の発光シートを構成する各層について説明する。
<透明基材>
上記(a)、(c)の層構成の発光シートに用いる透明基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;シクロオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、ポリスチレン、およびフッ素樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、耐候性、耐熱性、防汚性の観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびシクロオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂からなる樹脂フィルムが好ましく、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂からなる樹脂フィルムがより好ましい。
透明基材の厚さは特に制限はないが、発光シートを薄型化しつつ強度を付与する観点から、好ましくは5~300μm、より好ましくは10~200μmである。
【0046】
<防汚層>
本発明の発光シートが防汚層を有する場合、防汚性を付与する観点から、該防汚層は発光シートの最表面層に設けられる。防汚層は単層でもよく、複数層となっていてもよいが、該防汚層の表層部は、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂、又は光触媒層で構成されたものであることが好ましい。防汚層の表層部が表面エネルギーの低いフッ素系樹脂やシリコーン系樹脂などでも防汚性は付与できるが、上記樹脂、又は光触媒層で構成されたものであると、防汚性を付与できるとともに、発光シートを複数枚重ね貼りして用いる際の表面の粘着力が良好であるので、さらに好ましい。
当該防汚層として、その表層部が上記いずれかの樹脂である場合には、該表層部を構成する樹脂としては、耐候性および防汚性などの観点から、前記3種の樹脂の中では、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂の順で好ましい。
【0047】
前記アクリル系樹脂としては、ポリメチルメタクリレート樹脂が好ましく、アクリルウレタン系樹脂としては、以下に示す方法で得られる樹脂を用いることができ、ポリエステル系樹脂としては、一般にポリエチレンテレフタレート樹脂が用いられる。
【0048】
このアクリルウレタン系樹脂は、例えば水酸基やチオール基などの活性水素基を有するビニル化合物とポリオール、イソシアネート化合物とを重付加反応させてビニル基含有ウレタンポリマーを得た後、アクリル系モノマーとラジカル重合させてアクリル-ウレタン共重合体を得る。さらにポリイソシアネート化合物を加え、成形することにより架橋させて、アクリルウレタン系樹脂からなる表層部を形成することができる。
【0049】
防汚層が複数層からなる場合、該防汚層を構成する表層部以外の層(以下、「下層部」と称することがある。)の材質については特に制限はないが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、表層部と下層部は同じ材質からなる層であってもよいし、異なる種類の材質からなる層であってもよい。
【0050】
(光触媒層)
当該防汚層として、その表層部が光触媒層である場合には、該光触媒として、通常光触媒活性材料と共に、所望により光触媒促進剤および無機バインダーを含む層が設けられる。
光触媒活性材料としては特に制限はなく、従来公知のもの、例えば二酸化チタン、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウム(BaTi)、チタン酸ナトリウム(NaTi13)、二酸化ジルコニウム、α-Fe、酸化タングステン、KNb17、RbNb17、KRbNb17、硫化カドミウム、硫化亜鉛などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンは実用的な光触媒活性材料として有用である。この二酸化チタンは、太陽光などの日常光に含まれる紫外線領域の特定波長の光を吸収することによって優れた光触媒活性を示す。
【0051】
一方、光触媒促進剤としては、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族金属が好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光触媒促進剤の添加量は、光触媒活性の点から、通常、光触媒活性材料と光触媒促進剤との合計質量に基づき、1~20質量%の範囲で選ばれる。また、無機バインダーとしては、例えばシリカ系バインダーなどが挙げられる。
このような光触媒層を形成する場合、例えば市販品の二酸化チタンを含有するTOTO株式会社製、製品名「ハイドロテクトクリアコート」や、アナターゼ型酸化チタンを含有する石原産業株式会社製、製品名「STS-11」や「ST-K211」などを用いることができる。
【0052】
このような光触媒層は、紫外線の照射により励起され、該光触媒層表面は、水との接触角が10度以下となる超親水化が発現され、優れた防汚効果を発揮する。
この光触媒層は、紫外線により励起されると、反応性活性酸素種による強い酸化分解機能が発揮されるので、当該光触媒層の下層部の劣化を防止するために、該樹脂層と光触媒層との間にシリコーン樹脂やアクリル変性シリコーン樹脂などを介在させることが好ましい。
【0053】
当該防汚層全体の厚さは、好ましくは3~50μmである。防汚層全体の厚さが3μm以上であれば、防汚性が十分であり、また均一な膜形成が容易である。一方50μm以下であれば、発光シートの輝度の低下を回避できる。高輝度を維持する観点から、当該防汚層の厚さは5~40μmの範囲がより好ましく、7~30μmの範囲がさらに好ましい。
また、当該防汚層のヘイズ値は、良好な視認性を維持する観点から5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
当該防汚層には、耐候性を向上させるために、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)や酸化防止剤を含有させることができる。
【0054】
<反射層>
本発明の発光シートにおいて、前述した発光膜に接してその下層に設けられる反射層は、該発光膜を透過した紫外線を反射させる層であって、白色顔料又は有色顔料とマトリックス樹脂とを含む層であることが好ましい。
前記白色顔料としては、例えば酸化チタン、亜鉛華、鉛白、リトポン、バライト、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、沈降性シリカ(ホワイトカーボン)、せっこうなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
前記有色顔料としては、通常緑色顔料が用いられる。この緑色顔料としては、例えばビリジアン(Viridian)、酸化クロム緑、コバルト緑、コバルト・クロム緑、クロム緑などの無機顔料が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
一方、当該反射層を構成するマトリックス樹脂としては、該反射層が非粘着性反射層の場合と、粘着性反射層の場合とで異なる。
非粘着性反射層を構成するマトリックス樹脂としては、耐候性、紫外線透過性および機械強度などの観点から、ウレタン系樹脂が好ましい。一方、粘着性反射層を構成するマトリックス樹脂としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤などの粘着剤が好ましく、アクリル系粘着剤がより好ましい。なお、粘着性反射層を構成するマトリックス樹脂として好ましいアクリル系粘着剤の詳細については、後述する粘着層において説明する。
また、マトリックス樹脂と、前記の白色顔料又は有色顔料との使用割合は、紫外線反射能の観点から、マトリックス樹脂100質量部に対し、白色の顔料の場合は、白色顔料を10~100質量部の割合で用いることが好ましく、15~70質量部の割合で用いることがより好ましい。また緑色などの有色顔料の場合は、有色顔料を2~25質量部の割合で用いることが好ましく、5~20質量部の割合で用いることがより好ましい。
【0057】
その他、非粘着性反射層として、白色顔料又は有色顔料を含む、隠蔽性を有する樹脂基材や、少なくとも一方の面に白色顔料又は有色顔料を含む、隠蔽層を有する樹脂基材を用いることもできる。白色顔料、有色顔料としては前記と同様のものが挙げられる。また、これらの樹脂基材を構成する樹脂としては、前記透明基材を構成する樹脂と同様のものが挙げられる。
【0058】
当該反射層の厚さは、15~300μmであることが好ましく、20~100μmであることがより好ましい。15μm以上とすることで、発光シートが光を透過してしまうことにより下地の色が混ざって見えてしまうことを防止できる。また300μm以下とすることで日中の反射を適度に抑制し、良好な視認性を付与することができる。
【0059】
<粘着層>
本発明の発光シートにおいて設けられる粘着層としては、アクリル系粘着層、ウレタン系粘着層、ポリエステル系粘着剤などが挙げられるが、接着性の観点から、アクリル系粘着層であることが好ましい。
(アクリル系粘着剤)
本発明における粘着層を構成する粘着剤として用いられるアクリル系粘着剤としては、樹脂成分として(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を含むと共に、架橋剤を含むものが好ましい。
この(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、エステル部分のアルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体との共重合体を好ましく挙げることができる。
【0060】
〔架橋性官能基含有エチレン性単量体〕
必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するエチレン性単量体であり、好ましくはヒドロキシ基含有エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が用いられる。
【0061】
〔(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の作製〕
まず、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体を、それぞれ所定の割合で用い、従来公知の方法に従って共重合を行い、重量平均分子量が、好ましくは50万~150万、より好ましくは60万~130万の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を製造する。
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0062】
〔架橋剤〕
当該アクリル系粘着剤に含まれる架橋剤としては、例えば、有機多価イソシアネート化合物、有機多価エポキシ化合物、有機多価イミン化合物、金属キレート化合物等が挙げられる。これらの中でも、凝集力を高めて粘着力を向上させる観点、および入手し易さ等の観点から、有機多価イソシアネート化合物、有機多価エポキシ化合物、金属キレート化合物が好ましい。
【0063】
なお、これらの架橋剤は、単独で又は2種以上併用して用いてもよい。
架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.1~7質量部、さらに好ましくは0.2~4質量部である。0.01質量部以上であれば、せん断方向の応力に対して形状を維持するのに十分な粘着剤の凝集力が得られ、10質量部以下であれば、十分な粘着力が得られる。
【0064】
〔アクリル系粘着剤の調製〕
当該アクリル系粘着剤は、前述した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、架橋剤および必要に応じて用いられる他の添加剤、例えば粘着付与剤、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などを、適当な溶媒を加えて、塗工に適した濃度にすることにより、調製することができる。
本発明の発光シートにおける粘着層は、耐候性および粘着性能に優れており、その厚さは、好ましくは1~40μm、より好ましくは5~35μm、さらに好ましくは10~30μmである。
【0065】
<剥離シート>
本発明の発光シートにおいて、前述した粘着層等を保護するために用いる剥離シートとしては、剥離シート用基材の表面に剥離剤層を設けたものが挙げられる。
剥離シート用基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;シクロオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、ポリスチレン、およびフッ素樹脂等からなる樹脂フィルムや、上質紙、コート紙、グラシン紙、ラミネート紙などが挙げられる。これらの中で、安価でコシもあるポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。剥離シート用基材の厚さは、5~300μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
前記剥離シート用基材の表面に設けられる剥離剤層を構成する剥離剤としては、例えばシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、長鎖アルキル基系樹脂などが挙げられるが、これらの中で安価で安定した性能が得られるシリコーン系樹脂が好ましい。剥離剤層の厚さは、0.05~2.0μmであることが好ましく、0.1~1.5μmであることがより好ましい。
【0066】
<製膜工程用シート>
製膜工程用シートは本発明の発光シートにおいて、防汚層、発光膜、反射層を形成するための工程用シートとして用いることができるものである。また発光シートの使用時まで、発光シートの最表面に位置する層の表面を保護する役目も果たす。その使用方法については後述する。
製膜工程用シートとしては特に限定されないが、使用時に各層表面から容易に剥離させるために、前述の剥離シートと同じものを用いることが好ましい。
【0067】
本発明の発光シートの総厚は、薄型化を達成しつつ高輝度を維持する観点から、好ましくは20~430μm、より好ましくは45~300μmの範囲である。なお、当該総厚は、発光シートを構成する各層のうち、防汚層、発光膜、反射層、および粘着層の厚さの総和を意味するものとする。発光シートの厚さは、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0068】
<紫外線照射型発光シートの製造方法>
次に、本発明の紫外線照射型発光シートの製造方法の一例について説明する。なお、本発明の発光シートの製造方法は以下の方法に限定されるものではない。
図1に示す前記(a)の層構成(発光膜/透明基材)の発光シートは、例えば、透明基材上に、本発明の発光膜の製造方法において記載した方法を用いて発光膜を形成することにより製造できる。
図2に示す前記(b)の層構成(発光膜/反射層(/剥離シート))の発光シートの製造方法としては、例えば、剥離シートの剥離処理面上に反射層を形成し、該反射層の上面に発光膜を形成する方法;製膜工程用シートの剥離処理面上に発光膜を形成し、該発光膜の上面に反射層を形成する方法;等が挙げられる。反射層の形成方法については後述する。
【0069】
図3に示す前記(c)の層構成(防汚層/発光膜/透明基材)の発光シートの製造方法としては、例えば、透明基材上に発光膜を形成し、該発光膜の上面に防汚層を形成する方法;透明基材上に発光膜および防汚層を同時多層塗布により形成する方法;等が挙げられる。防汚層の形成方法については後述する。
【0070】
図4に示す前記(d)の層構成(防汚層/発光膜/反射層(/剥離シート))の発光シートの製造方法において、各層の形成順序には特に制限はない。例えば防汚層の上面に発光膜および反射層を順次形成してもよいし、反射層の上面に発光膜および防汚層を順次形成してもよい。また、発光膜の一方の面に防汚層を形成し、他方の面に反射層を形成する方法も用いることができる。
【0071】
図5に示す前記(e)の層構成(防汚層/粘着層/発光膜/反射層(/剥離シート))の発光シートの製造方法において、各層の形成順序には特に制限はない。例えば防汚層の上面に粘着層、発光膜、および反射層を順次形成してもよいし、反射層の上面に発光膜、粘着層、および防汚層を順次形成してもよい。
その他、図8に示す方法を用いて上記(e)の層構成の発光シートを製造することもできる。まず、防汚層5を準備し、この上面に粘着層6を形成して、積層体7を作製する。一方、製膜工程用フィルム8の剥離処理面上に発光膜1を形成し、発光膜1の上面に、前記積層体7の粘着層6側の面を貼付する。
次いで、製膜工程用フィルム8を剥離し、その剥離面に存在する発光膜2に反射層3を形成又は貼付する。これにより、上記(e)の層構成を有する発光シート150が得られる。反射層3が粘着性反射層3’である場合には、剥離シートの剥離処理面上に粘着性反射層3’を形成し、これを発光膜2に貼付することが好ましい。
【0072】
図6に示す前記(f)の層構成(防汚層/発光膜/反射層/粘着層(/剥離シート))の発光シートの製造方法において、各層の形成順序には特に制限はない。例えば、各層を順次形成する方法でもよいし、剥離シートの剥離処理面上に粘着層を形成し、前記(d)の層構成の発光シートの反射層側の面に該粘着層を貼付する方法も用いることができる。
【0073】
また、図7に示す前記(g)の層構成(防汚層/粘着層/発光膜/反射層/粘着層(/剥離シート))の発光シートの製造方法においても、各層の形成順序には特に制限はない。例えば、各層を順次形成する方法でもよいし、剥離シートの剥離処理面上に粘着層を形成し、前記(e)の層構成の発光シートの反射層側の面に該粘着層を貼付する方法も用いることができる。
【0074】
(反射層の形成)
白色顔料又は有色顔料とマトリックス樹脂とを含む反射層の形成方法を説明する。まず、前述の顔料とマトリックス樹脂とを混合し、適当な溶媒を適宜量加えたのち、強制脱泡することにより、塗工に適した粘度を有する反射層形成用コーティング液を調製する。次いで、剥離シートあるいは製造工程用フィルムの剥離剤塗布面、又は反射層と接する層の上面に、上記の反射層形成用コーティング液を、アプリケーターなどを用いて、乾燥後の厚さが所定の厚さになるように塗布、乾燥して反射層を形成する。
このようにして形成された反射層は、前記発光膜を透過する紫外線を反射する機能を有すると共に、紫外線の照射により発光する発光膜の輝度を高める隠蔽作用も有する。
また前述したように、反射層として、白色顔料又は有色顔料を含む、隠蔽性を有する樹脂基材や、少なくとも一方の面に白色顔料又は有色顔料を含む、隠蔽層を有する樹脂基材を用いることもできる。
【0075】
(防汚層の形成)
以下、防汚層の形成方法として、防汚層を製造工程用フィルム上に形成する場合を例として説明する。なお、防汚層を該防汚層と接する層の上面に設ける場合も同様の方法を用いることができる。
例えば、防汚層が単層である場合、前述したアクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂と、メチルエチルケトンなどの溶媒を含むコーティング液を、製膜工程用フィルムの剥離処理面上に、乾燥後の厚さが所定の厚さになるように塗布、乾燥して、防汚層を形成することができる。
【0076】
防汚層が表層部と下層部とから構成され、該表層部が前記樹脂で構成されるものである場合には、上記と同様の方法で表層部を形成した後、さらにこの上に、該表層部の下層に位置する樹脂層(下層部)を形成することにより、防汚層を形成することができる。表層部の下層に位置する樹脂層(下層部)は、樹脂フィルムを熱融着などにより前記表層部に積層することにより形成してもよく、該下層部を構成する樹脂と、溶媒等を含むコーティング溶液を調製し、これを上記表層部の上に、乾燥後の厚さが所定の厚さになるように塗布、乾燥して形成してもよい。
また、防汚層が表層部と下層部とから構成され、該表層部が前記光触媒層で構成されるものである場合には、例えば、二酸化チタンを含む市販の光触媒コーティング液を、製膜工程用フィルムの剥離処理面上に、乾燥後の厚さが所定の厚さになるように塗布、乾燥し、次いで、下層部の劣化を防止するための層を有する場合は、シリコーン樹脂やアクリル変性シリコーン樹脂などを、乾燥後の厚さが数μm程度になるように塗布、乾燥して、防汚層の表層部を形成することができる。さらにこの上に、前記と同様にして該表層部の下層に位置する樹脂層を形成することにより、防汚層を形成することができる。
【0077】
また、防汚層として、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂からなる樹脂フィルム、又はこれらの樹脂を少なくとも表層部に有する樹脂フィルムを用いてもよい。
【0078】
(粘着層の形成)
粘着層は、剥離シートの剥離剤塗布面、又は粘着層と接する層の上面に、粘着層形成用の粘着剤(架橋剤含有)を、アプリケーターなどを用いて、乾燥後の厚さが所定の厚さになるように塗布、乾燥して形成することができる。
【0079】
<用途>
本発明の発光膜および発光シートは、組成式MVOで示されるバナジウム酸化物蛍光体を含むため、白色LEDの励起光源である紫外―近紫外LEDによって励起できる250~390nmの範囲に励起スペクトルを有する。この励起光によって発せられる蛍光スペクトルは390~680nmに広がり、白色に発光する。そのため、例えば紫外線以外にも白色LED用の蛍光体としても好適である。発光スペクトルのピークは490~502nmの範囲にあるため比較的色温度は高いが、長波長側に強い発光を持つ蛍光体との組み合わせによって暖色系の白色を得ることもできる。また水銀や鉛などを含まないため、環境や人体への悪影響も少ない。
したがって、本発明の発光膜および発光シートは、例えば白色光を必要とする日常灯などの照明器具、高速道路などの紫外線照射型標識装置、その他の各種表示装置用のバックライト等として利用することができる。
【0080】
以下に、本発明の発光膜および発光シートの用途の一つである紫外線照射型標識装置において、本発明の発光シートを適用した例を説明する。
(紫外線照射型標識装置)
前記の構成を有する本発明の発光シートは、紫外線の照射によって蛍光発色する、良好な視認性、判読性および誘目性を有する、外部から紫外線を照射する投光照明方式の紫外線照射型標識装置を与えることができる。
当該紫外線照射型標識装置は、例えば図6に示す層構成の、防汚層、発光膜、反射層、および粘着層を順に有する発光シートを、粘着層および防汚層を介して複数枚重ね貼りして使用することもできる。
前記重ね貼りする場合においては、図6に示す発光シート160における剥離シート4を剥離し、一方の露出した防汚層面と、他方の露出した粘着層面とが接するようにして重ね貼りされる。
また、重ね貼りによる枚数は、通常2~5枚の範囲が好ましい。
【0081】
図9は、本発明の発光シートを2枚重ね貼りしてなる紫外線照射型標識装置の一例を示す断面模式図(部分拡大図)であり、図10は該紫外線照射型標識装置の標識部の一例を示す平面模式図である。
図9において、9は紫外線照射型標識本体(以下、単に「標識本体」と称することがある。)を示し、該標識本体9は、支持体(図示せず)により支持されている。標識本体9は、照射装置(図示せず)の紫外線照射により発光する標識部10を備える。当該標識部10は、発光シート200と、該発光シート200の表層部の一部に重ね貼りされた発光シート300とから構成されている。
図9に示されるように、発光シート200は、防汚層5A、発光膜1A、反射層3A、および粘着層6Aを順に有し、発光シート300は、防汚層5B、発光膜1B、反射層3B、および粘着層6Bを順に有する。発光シート300は、粘着層6Bおよび防汚層5Aを介して、発光シート200の表層部の一部に貼付されている。発光シート300は、発光シート200と同様の構成のものが使用される。
【0082】
発光シート300を発光シート200に重ね貼りすることにより、図10に示されるように、文字や図柄が形成された標識部10とすることができる。
本実施形態では、略緑色(図10では網点で示す)に着色され、発光する標識用粘着シート200を粘着層6Aを介して標識本体9に貼付し、この発光シート200に、粘着層6Bおよび防汚層5Aを介して、略白色(図10では網点が施されていない領域で示す)に着色され、発光する発光シート300を貼付して、紫外線照射型標識装置が構成される。
【0083】
このような発光シートの重ね貼りにより得られる紫外線照射型標識装置においては、標識面上において、標識面を視認した際に隣接する少なくとも一組の標識用粘着シートにおいて、一方のシート(例えば、略白色に着色され、発光する発光シート300)の輝度が、他方のシート(例えば、略緑色に着色され、発光する発光シート200)の輝度の3倍以上のコントラスト比を有することが、誘目性、判読性および視認性の観点から好ましい。
なお、誘目性とは、人の目を引きつける度合い(目立つ度合い)を指し、判読性とは、遠方からでも何の文字であるかを判断できるかの度合いを指す。一方視認性とは、視覚的な「もの・字」などを明確に認識することができるかを指す。
当該紫外線照射型標識装置における紫外線としては、例えば岩崎電気株式会社製のTaOスパッタフィルターを備えた水銀ランプから発するブラックライト(近紫外線)が好適である。
【0084】
当該紫外線照射型標識装置は、紫外線の照射によって蛍光発色する、良好な視認性、判読性および誘目性を有する標識装置であって、例えば高速道路などに設置される標識装置に用いると下記の効果を奏する。
(1)外部照明としてブラックライトを使用しているため、照明器具からの強い可視光線や、霧の発生などによる可視光線の乱反射が、対向車線のドライバーの視界を妨げる危険を低減する。
(2)反射シートを使用した従来の投光照射方式と異なり、標識面に貼付したフィルム自体がブラックライトに反応して発光するため、内照方式の標識と同様、見る角度によって明るさが異なることがない。
(3)標識部と照明器具が一体となっていないため、道路を通行止め若しくは車線規制を行うことなく、設置やメンテナンスを容易に行うことができる。
(4)標識設備の軽量化が可能で、イニシャルコスト、メンテナンスコストの低減化を図ることができる。
【実施例
【0085】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた発光膜又は紫外線照射型発光シートにおける諸特性を、下記に示す方法によって求めた。
【0086】
<平均二次粒子径の測定方法>
バナジウム酸化物粒子(A)の平均二次粒子径は、レーザ回折式粒度分布計により測定した。
【0087】
<厚さ測定方法>
発光膜、発光膜以外の層並びに紫外線照射型発光シートの厚さは、株式会社テクロック製の定圧厚さ測定器(型番:「PG-02J」、標準規格:JIS K6783、Z1702、Z1709に準拠)を用いて測定した。
【0088】
<輝度測定方法(測定方法1)>
各例で得られた紫外線照射型発光シートの発光面に、400Wの紫外線照射具により紫外線を照射し、この状態で、任意の複数個所の輝度を、輝度計(コニカミノルタ株式会社製、製品名「輝度計LS-100」)を用いて測定し、平均輝度を求めた。
【0089】
<輝度測定方法(測定方法2)>
各例で得られた紫外線照射型発光シートの発光面に、光源装置(朝日分光株式会社製、製品名「MAX-302」)により波長350nmの光を照射し、この状態で、任意の複数個所の輝度を、輝度計(株式会社トプコン製、製品名「SR-UA1」)を用いて測定し、平均輝度を求めた。
【0090】
<発光した時の色度測定方法>
各例で得られた紫外線照射型発光シートの発光面に、400Wの紫外線照射具により紫外線を照射し、この状態で、任意の複数個所の色度を、輝度計(コニカミノルタ株式会社製、製品名「輝度計LS-100」)を用いて測定し、平均輝度を求めた。
【0091】
<密着性評価方法>
各例で得られた紫外線照射型発光シートの発光膜面に指を押し付けて、指側に発光膜が転着するかどうかを確認し、密着性を評価した。
A:指を押し付けても、2往復擦り付けても、発光膜が転着しなかった。
F:指を押し付けただけで、発光膜が転着した。
【0092】
製造例1(CsV溶液の調製)
(b1)成分であるオクチル酸セシウム(日本化学産業株式会社製「ニッカオクチックスセシウム」)1.5ml、(b2)成分であるオクチル酸バナジウム(日本化学産業株式会社製「ニッカオクチックスバナジウム」)1.5ml(セシウムとバナジウムの原子比が=66.6:33.4となる量)を混合し、CsV溶液を調製した。
【0093】
実施例1
(塗布液の調製)
CsVO粒子(N-ルミネッセンス株式会社製、平均二次粒子径:24μm)7.5g、製造例1で得られたCsV溶液3mL、(c1)成分であるオクチル酸ジルコニウム(日本化学産業株式会社製「ニッカオクチックスジルコニウム」)1mL、および(c2)成分である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製「Z-6040」)0.15mLを配合し、超音波洗浄機(42kHz、125W)による超音波で振動を15分間与えて分散させて、塗布液を調製した。
【0094】
(発光膜および紫外線照射型発光シートの製造)
調製した塗布液を、ポリエチレンテレフタレート基材(東洋紡株式会社製「コスモシャイン A4100」、厚さ50μm)に、塗膜の乾燥後の厚さが20μmになるようにワイヤーコート法で塗布し、塗膜を形成した(工程(I))。この塗膜を60℃で5分間保持した後、室温(23℃)、大気中で、波長172nmのエキシマランプ(浜松ホトニクス株式会社製、製品名「FLAT EXCIMER EX-mini」)を用いて照度50mW/mで10分間、紫外線ランプ光を照射した(工程(II))。これにより、前記CsV溶液中の(b1)成分および(b2)成分から形成されるCsVO結晶((B)成分))を成長させ、本発明の発光膜を形成するとともに、ポリエチレンテレフタレート基材上に該発光膜を有する紫外線照射型発光シートを得た。得られた発光膜および紫外線照射型発光シートは紫外励起による白色蛍光を示した。
また、得られた発光膜および外線照射型発光シートについて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
実施例2
塗布膜の乾燥後の厚さを表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で発光膜および紫外線照射型発光シートを作製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
比較例1
塗布液に(A)成分であるCsVO粒子、および(c2)成分である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを配合しなかったこと、並びに、塗布膜の乾燥後の厚さを表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で発光膜および紫外線照射型発光シートを作製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
実施例3
CsVO粒子5g、製造例1で得られたCsV溶液3mL、および、(c2)成分である3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製「Z-6040」)0.0025mLを配合し、超音波洗浄機(42kHz、125W)による超音波で振動を15分間与えて分散させて、塗布液を調製した。
【0098】
(発光膜および紫外線照射型発光シートの製造)
調製した塗布液を、ポリエチレンテレフタレート基材(東洋紡株式会社製「コスモシャイン A4100」、厚さ50μm)に、塗膜の乾燥後の厚さが10μmになるようにワイヤーコート法で塗布し、塗膜を形成した(工程(I))。この塗膜を室温(23℃)で3日間保持した後、室温、大気中で、高圧水銀ランプを用いて10分、紫外線を照射した(工程(II))。これにより、前記CsV溶液中の(b1)成分および(b2)成分から形成されるCsVO結晶を成長させ、本発明の発光膜を形成するとともに、ポリエチレンテレフタレート基材上に該発光膜を有する紫外線照射型発光シートを得た。得られた発光膜および紫外線照射型発光シートは紫外励起による白色蛍光を示した。
また、得られた発光膜および外線照射型発光シートについて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
実施例4~15
塗布液の組成を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で発光膜および紫外線照射型発光シートを作製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
比較例2
塗布液の組成を表1に示すとおりに変更し、(C)成分を含まない塗布液としたこと以外は、実施例3と同様の方法で発光膜および紫外線照射型発光シートを作製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示す成分は下記である。
(A)CsVO粒子;N-ルミネッセンス株式会社製、平均二次粒子径:24μm
(b1)オクチル酸セシウム;日本化学産業株式会社製「ニッカオクチックスセシウム」
(b2)オクチル酸バナジウム;日本化学産業株式会社製「ニッカオクチックスバナジウム」
(c1)オクチル酸ジルコニウム;日本化学産業株式会社製「ニッカオクチックスジルコニウム」
(c2-1)3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;東レ・ダウコーニング株式会社製「Z-6040」
(c2-2)3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;東レ・ダウコーニング株式会社製「Z-6030」
(c2-3)ビニルトリメトキシシラン;東レ・ダウコーニング株式会社製「Z-6300」
(c2-4)ビニルトリエトキシシラン;東レ・ダウコーニング株式会社製「Z-6519」
【0103】
表1より、本願実施例の発光膜および発光シートは、厚さが薄くても高輝度であり、かつ密着性も良好であることがわかる。
これに対し、比較例1の発光膜は(A)成分を含まないため、輝度が低下した。また比較例2の発光膜は(C)成分を含まないため、密着性が低下した。
【0104】
参考例1
特許文献3の実施例2に記載の発光シートを製造し、評価を行った。
(発光層形成用材料の組成)
ポリウレタン樹脂(三洋化成株式会社製「サンプレンIB-582」)100質量部
蛍光顔料(根本特殊化学株式会社製「YS-A」)100質量部
溶剤(イソプロピルアルコール:トルエン質量比=1:4)40質量部
(紫外線反射層形成用材料の組成)
ポリウレタン樹脂(三洋化成株式会社製「サンプレンIB-582」)100質量部
白色顔料(堺化学株式会社製「チタンホワイトA-150」)80質量部
溶剤(イソプロピルアルコール:トルエン質量比=1:4)40質量部
(発光シートの製造および評価)
上記発光層形成用材料に用いる各成分を混練機で混練したのち、強制脱泡することにより、発光層形成用材料を調製した。また上記紫外線反射層形成用材料に用いる各成分を混練機で混練したのち、強制脱泡することにより、紫外線反射層形成用材料を調製した。
次いで、50μm厚のポリエステルフィルムの片面にシリコーン樹脂をコートしてある工程フィルムをベース層として、そのコート面に発光層形成用材料をアプリケーターで約30μm(乾燥時)となるように塗布し、100℃で10分間乾燥させて発光層を形成した。
さらに、上記発光層の上に紫外線反射層形成用材料をアプリケーターで約40μm(乾燥時)となるように塗布し、100℃で10分間乾燥させて紫外線反射層を形成した。その後、一体となった発光層および紫外線反射層をベース層からはがし、発光シートを得た。この発光シートは、発光層の表面側から紫外線を照射すると、良好に蛍光発色することが確認できた。
得られた発光シートについて前記方法(測定方法1)で輝度、および色度を測定したところ、輝度は18.6(cd/cm)、色度はx;0.305、y;0.273であった。参考例1の発光シートは、発光性能は良好であるが、本願実施例の発光シートと比較すると、同程度の輝度を発現させるために必要とする発光体(蛍光顔料)の量が多く、かつ、発光層の厚さも本発明の発光膜より厚くする必要があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、紫外線の照射によって蛍光発色し、薄膜化しても高輝度を維持することができ、密着性にも優れる発光膜、その製造方法、および該発光膜を有する紫外線照射型発光シートを提供することができる。当該発光膜および紫外線照射型発光シートは薄膜でかつ高輝度であることから、例えば高速道路などに設置される標識装置に適用すると、シートの厚さにより生じる段差部分に汚れがたまり難くなり、清掃を長期間行わずとも良好な視認性を維持することが可能になる。
【符号の説明】
【0106】
100~170,200,300 紫外線照射型発光シート
1,1A,1B 発光膜
2 透明基材
3,3A,3B 反射層
4 剥離シート
5,5A,5B 防汚層
6,61,62,6A,6B 粘着層
7 積層体
8 製膜工程用フィルム
9 標識本体
10 標識部
図1
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