(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】通信制御システム、事前学習補助装置、通信制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 36/30 20090101AFI20221201BHJP
H04W 16/22 20090101ALI20221201BHJP
【FI】
H04W36/30
H04W16/22
(21)【出願番号】P 2019140120
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮武 遼
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】西尾 理志
(72)【発明者】
【氏名】三熊 智哉
(72)【発明者】
【氏名】守倉 正博
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148297(JP,A)
【文献】特開2018-182384(JP,A)
【文献】特開2014-241574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
H04B 7/24 - 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末と無線通信する複数の通信装置と、
前記端末と前記通信装置との通信環境を撮影する撮像装置と、
端末の位置、通信装置の位置、撮像装置の位置、及び、遮蔽物の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、前記要素の異なる組合せにより複数作成するシミュレーションシナリオ生成部と、
前記シミュレーションシナリオに含まれる前記要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する三次元空間モデル生成部と、
前記三次元空間モデルにおいて前記撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する画像生成部と、
前記三次元空間モデルにおける前記通信装置と前記端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する推定通信品質算出部と、
複数の前記シミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた前記仮想画像と前記推定通信品質とからなる学習用データを、前記推定通信品質に基づいて、前記通信装置と前記端末との通信が遮蔽されている遮蔽データと、前記通信装置と前記端末との通信が遮蔽されていない非遮蔽データとに分類し、前記遮蔽データと前記非遮蔽データとの数の比率が所定の比率となるように補正する不均衡データ解消部と、
前記不均衡データ解消部が補正した、
複数の前記シミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた
前記学習用データを用いて、画像と通信品質との対応関係を学習する学習部と、
前記学習部が学習した前記対応関係に、前記撮像装置において撮像された画像を適用して、前記端末と非通信中の前記通信装置における通信品質を推定する推定部と、
前記端末と通信中の前記通信装置において測定された通信品質と、前記端末と非通信中の前記通信装置について前記推定部が推定した前記通信品質とを用いて前記端末の通信先を制御する統合制御部と、
を備える通信制御システム。
【請求項2】
前記不均衡データ解消部は、前記遮蔽データと前記非遮蔽データとの少なくとも一方に対して複製又は削除を行うことにより前記所定の比率となるように補正する、
請求項
1に記載の通信制御システム。
【請求項3】
前記要素は、空間の形状と、壁の材質と、床の材質と、歩行者の体格と、歩行者の人数と、歩行者の歩行パターンとのうち一以上をさらに含む、
請求項1
又は請求項2に記載の通信制御システム。
【請求項4】
端末の位置、前記端末と無線通信する通信装置の位置、前記端末と前記通信装置との通信環境を撮影する撮像装置の位置、及び、遮蔽物の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、前記要素の異なる組合せにより複数作成するシミュレーションシナリオ生成部と、
前記シミュレーションシナリオに含まれる前記要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する三次元空間モデル生成部と、
前記三次元空間モデルにおいて前記撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する画像生成部と、
前記三次元空間モデルにおける前記通信装置と前記端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する推定通信品質算出部と、
複数の前記シミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた前記仮想画像と前記推定通信品質とからなる学習用データを、前記推定通信品質に基づいて、前記通信装置と前記端末との通信が遮蔽されている遮蔽データと、前記通信装置と前記端末との通信が遮蔽されていない非遮蔽データとに分類し、前記遮蔽データと前記非遮蔽データとの数の比率が所定の比率となるように補正する不均衡データ解消部と、
を備える事前学習補助装置。
【請求項5】
端末の位置、前記端末と無線通信する通信装置の位置、前記端末と前記通信装置との通信環境を撮影する撮像装置の位置、及び、遮蔽物の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、前記要素の異なる組合せにより複数作成するシミュレーションシナリオ生成ステップと、
前記シミュレーションシナリオに含まれる前記要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する三次元空間モデル生成ステップと、
前記三次元空間モデルにおいて前記撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する画像生成ステップと、
前記三次元空間モデルにおける前記通信装置と前記端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する推定通信品質算出ステップと、
複数の前記シミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた前記仮想画像と前記推定通信品質とからなる学習用データを、前記推定通信品質に基づいて、前記通信装置と前記端末との通信が遮蔽されている遮蔽データと、前記通信装置と前記端末との通信が遮蔽されていない非遮蔽データとに分類し、前記遮蔽データと前記非遮蔽データとの数の比率が所定の比率となるように補正する不均衡データ解消ステップと、
前記不均衡データ解消ステップにおいて補正された、複数の前記シミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた前記学習用データを用いて、画像と
通信品質との対応関係を学習する学習ステップと、
前記端末と、前記端末と無線通信する通信装置との通信環境を撮影した画像を取得し、前記学習ステップにおいて学習された前記対応関係に、取得した前記画像を適用して、前記端末と非通信中の前記通信装置における通信品質を推定する推定ステップと、
前記端末と通信中の前記通信装置において測定された通信品質と、前記端末と非通信中の前記通信装置について前記推定ステップにより推定された前記通信品質とを用いて前記端末の通信先を制御する制御ステップと、
を有する通信制御方法。
【請求項6】
コンピュータを、
請求項
4に記載の事前学習補助装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御システム、事前学習補助装置、通信制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大容量かつ高速通信を実現できる次世代無線通信技術として、ミリ波通信に期待が集まっている(例えば、非特許文献1参照)。ミリ波通信の利点の一つは利用可能な周波数幅が広帯域な点であり、1Gbit/s(ギガビット毎秒)を超える高速通信が可能である。その一方で、ミリ波は水分や酸素による減衰が大きいため、見通し通信路が人体等で遮蔽されると通信品質が急激に低下するという欠点がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
ミリ波通信における見通し通信路遮蔽問題の解決のため、RGB-D(RGB and Depth)カメラを用いたミリ波通信のためのハンドオーバシステムが検討されている(例えば、非特許文献3、4参照)。
図5は、従来技術を用いたハンドオーバシステムのモデルを示す図である。
図5に示すハンドオーバシステムは、RGB-Dカメラである第1カメラ及び第2カメラを用いてミリ波通信環境を観測する。第1学習推定部は、ミリ波端末と通信中の第1ミリ波基地局において測定された通信品質である実測通信品質、及び、第1カメラが撮影した静止画や動画などの画像データを取得する。第1学習推定部は、取得したこれらの情報を用いて、現在のミリ波通信環境や将来のミリ波通信環境の推定及び予測を行うためのデータを学習する(学習フェーズ)。第2学習推定部は、学習により得られたデータに、第2カメラが撮影した画像データを適用して、ミリ波端末と非通信中の第2ミリ波基地局における通信品質を推定する(推定フェーズ)。統合制御部は、第1ミリ波基地局の実測通信品質と、第2ミリ波基地局の推定通信品質とに基づいてハンドオーバが必要と判断した場合に、第1ミリ波基地局及び第2ミリ波基地局に制御信号を出力するハンドオーバ制御を行う。
【0004】
上記により、
図5に示すハンドオーバシステムは、無線帯域を圧迫することなく、見通し通信路遮蔽を含むミリ波通信環境の変化による通信品質の低下を回避できる。また、
図5に示すハンドオーバシステムは、非通信中の基地局と端末間の通信品質情報を深度画像から推定するため、無線帯域を消費せずに切替先の基地局を選択するための指標を取得可能である。非特許文献4においては、RGB-Dカメラと機械学習を用いたミリ波通信品質推定が開示されている。この非特許文献4の技術では、ディープニューラルネットワークを用いて、RGB-Dカメラから得られる深度画像と受信信号電力の対応モデルを学習し、学習した対応モデルを用いて新たな深度画像から受信信号電力を推定する。
【0005】
また、ハンドオーバ先の基地局を決定するため、RGB-D画像を用いた通信品質推定についてさらに検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の技術では、実際の環境の画像と通信品質との間の対応を示す対応モデルの学習を行う前に、シミュレーションによって生成した事前学習用のデータを用いて予め対応モデルを学習する。これにより、実際の環境でシステムが動作する初期段階においても推定精度を高め、発生頻度の低い状況に対しても推定精度の低下量を低減する。
【0006】
図6は、特許文献1の技術を用いた通信制御システムの構成図である。通信制御システムは、基地局が無線端末と通信を開始し、制御装置の学習推定部が、カメラにより撮影された実際の画像と基地局において測定された実測通信品質とを用いた学習を行う前に、対応モデルの事前学習を行う。この事前学習のため、事前学習補助装置は、計算機シミュレーションによりカメラ画像と通信品質情報とのペアを生成し、学習推定部へ入力する。学習推定部は、事前学習補助装置が生成したカメラ画像と通信品質情報とのペアを用いて、実際のデータが得られたときと同様に機械学習により対応モデルを構築する。このようにして、通信制御システムは、実際に基地局が通信を始める前に、対応モデルを学習するため、実際の通信開始直後から精度の良い通信品質推定を行うことができる。
【0007】
図6に示す事前学習補助装置における計算機シミュレーション方法は以下の通りである。まず、学習を行いたい現実の通信環境における基地局、無線端末及びカメラの位置を決定する。次に、三次元空間モデル生成部は、計算機を用いて、人体や遮蔽物といった物体の3D(三次元空間)モデルを決定した位置に従って仮想空間上に配置し、空間の3Dモデルを生成する。伝搬シミュレーション部は、3Dモデルにおける基地局の無線端末と通信品質情報を計算する。一方で、画像生成部は、コンピュータグラフィクスにより、3Dモデルにおけるカメラから見た画像を生成する。事前学習補助装置は、これらの手順により得られた通信品質情報と画像とのペアを、制御装置の学習推定部へ出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Peng Wang,Yonghui Li,Lingyang Song,Branka Vucetic,"Multi-gigabit millimeter wave wireless communications for 5G: From fixed access to cellular networks",IEEE Communications Magazine,2015年1月,vol.53,no.1,p.168-178
【文献】Sylvain Collonge,Gheorghe Zaharia,Ghais El Zein,"Influence of the human activity on wide-band characteristics of the 60 GHz indoor radio channel",IEEE Transactions on Wireless Communications,2004年11月,vol.3,no.6,p.2396-2406
【文献】Yuta Oguma,Ryohei Arai,Takayuki Nishio,Koji Yamamoto,Masahiro Morikura,"Proactive Base Station Selection Based on Human Blockage Prediction Using RGB-D Cameras for mmWave Communications",2015 IEEE Global Communications Conference (GLOBECOM),2015年12月,p.1-6
【文献】Takayuki Nishio,Hironao Okamoto,Kota Nakashima,Yusuke Koda,Koji Yamamoto,Masahiro Morikura,Yusuke Asai,Ryo Miyatake,"Proactive Received Power Prediction Using Machine Learning and Depth Images for mmWave Networks",2018年7月,arXiv:1803.09698v2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術では、計算機シミュレーションと現実のモデルとの差異が大きい場合、事前学習による推定誤差の減少量が小さくなる。そのため、基地局が設置される現実の通信環境を事前に調査して、基地局、カメラ、遮蔽物の位置関係を把握し、事前学習補助装置に人手で入力しなければならないという問題点がある。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、人手による準備の手間を軽減しながら、基地局の動作直後から精度の良く通信品質を推定することができる通信制御システム、事前学習補助装置、通信制御方法及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、端末と無線通信する複数の通信装置と、前記端末と前記通信装置との通信環境を撮影する撮像装置と、端末の位置、通信装置の位置、撮像装置の位置、及び、遮蔽物の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、前記要素の異なる組合せにより複数作成するシミュレーションシナリオ生成部と、前記シミュレーションシナリオに含まれる前記要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する三次元空間モデル生成部と、前記三次元空間モデルにおいて前記撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する画像生成部と、前記三次元空間モデルにおける前記通信装置と前記端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する推定通信品質算出部と、複数の前記シミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた前記仮想画像と前記推定通信品質とからなる学習用データを用いて、画像と通信品質との対応関係を学習する学習部と、前記学習部が学習した前記対応関係に、前記撮像装置において撮像された画像を適用して、前記端末と非通信中の前記通信装置における通信品質を推定する推定部と、前記端末と通信中の前記通信装置において測定された通信品質と、前記端末と非通信中の前記通信装置について前記推定部が推定した前記通信品質とを用いて前記端末の通信先を制御する統合制御部と、を備える通信制御システムである。
【0013】
本発明の一態様は、端末の位置、前記端末と無線通信する通信装置の位置、前記端末と前記通信装置との通信環境を撮影する撮像装置の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、前記要素の異なる組合せにより複数作成するシミュレーションシナリオ生成部と、前記シミュレーションシナリオに含まれる前記要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する三次元空間モデル生成部と、前記三次元空間モデルにおいて前記撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する画像生成部と、前記三次元空間モデルにおける前記通信装置と前記端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する推定通信品質算出部と、を備える事前学習補助装置である。
【0014】
本発明の一態様は、端末の位置、前記端末と無線通信する通信装置の位置、前記端末と前記通信装置との通信環境を撮影する撮像装置の位置、及び、遮蔽物の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、前記要素の異なる組合せにより複数作成するシミュレーションシナリオ生成ステップと、前記シミュレーションシナリオに含まれる前記要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する三次元空間モデル生成ステップと、前記三次元空間モデルにおいて前記撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する画像生成ステップと、前記三次元空間モデルにおける前記通信装置と前記端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する推定通信品質算出ステップと、前記仮想画像と推定された前記通信品質との対応関係を学習する学習ステップと、前記端末と、前記端末と無線通信する通信装置との通信環境を撮影した画像を取得し、前記学習ステップにおいて学習された前記対応関係に、取得した前記画像を適用して、前記端末と非通信中の前記通信装置における通信品質を推定する推定ステップと、前記端末と通信中の前記通信装置において測定された通信品質と、前記端末と非通信中の前記通信装置について前記推定ステップにより推定された前記通信品質とを用いて前記端末の通信先を制御する制御ステップと、を有する通信制御方法である。
【0015】
本発明の一態様は、コンピュータを、上述の事前学習補助装置として機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、人手による準備の手間を軽減しながら、基地局の動作直後から精度の良く通信品質を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による通信制御システムの構成図である。
【
図2】同実施形態による通信制御システムの処理を示すフロー図である。
【
図3】同実施形態による事前学習補助装置の処理を示すフロー図である。
【
図4】同実施形態による通信制御システムの効果を示す図である。
【
図5】従来技術を用いたハンドオーバシステムのモデルを示す図である。
【
図6】従来技術による通信制御システムの構成図である。
【
図7】従来技術による事前学習補助装置の処理を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による通信制御システム100の構成図である。通信制御システム100は、基地局(BS;Base Station)10と、カメラ20と、制御装置30と、事前学習補助装置40とを備える。通信制御システム100が備えるK台(Kは2以上の整数)の基地局10を、基地局10-1~10-Kと記載する。同図では、K=2の場合を示している。また、通信制御システム100が備えるM台(Mは1以上の整数)のカメラ20を、カメラ20-1~20-Mと記載する。同図では、M=2の場合を示している。基地局10、カメラ20及び制御装置30として、
図6に示す従来技術の基地局、カメラ及び制御装置を用いることができる。
【0019】
基地局10は、ユーザが移動しながら使用する無線端末(STA;Station)60と通信する。同図では、基地局10-1が無線端末60と通信中であり、基地局10-2は無線端末60と非通信中である。カメラ20は、RGB-Dカメラである。カメラ20は、RGB-D画像など距離情報を含む画像を撮影する撮像装置である。制御装置30は、カメラ20により撮影された画像から得られる距離情報に基づいて、基地局10、無線端末60、遮蔽物及びユーザなどの位置等を把握することができる。制御装置30は、各基地局10と無線端末60との間の測定又は推定された通信品質に基づいて、無線端末60の位置に応じた基地局10のアンテナ指向性の制御や、無線端末60との通信に適した基地局10へのハンドオーバ制御などを行う。
【0020】
制御装置30は、画像と通信品質との対応を表すモデルである対応モデルを機械学習により生成する。学習により用いられる情報は、画像と通信品質のペアである。このペアを学習用データと記載する。学習用データとして、カメラ20が撮影した画像のデータである撮影画像、及び、基地局10が実際に測定した無線端末60との間の通信品質である実測通信品質のペアが用いられる。また、基地局10の運用前に対応モデルを学習するために用いられる学習用データとして、事前学習補助装置40が生成した画像のデータである仮想画像、及び、事前学習補助装置40がその仮想画像について推定した通信品質である推定通信品質のペアが用いられる。この仮想画像及び推定通信品質のペアを、事前学習用データと記載する。仮想画像は、カメラ20による撮影画像と同様の形式の距離情報を含む。仮想画像の距離情報は、仮想空間モデルにおけるカメラ20と被写体となる各物体との位置関係に基づいて生成され、カメラ20から仮想画像に含まれる各物体までの距離を示す。制御装置30は、学習した対応モデルを用いて無線端末60と非通信中の基地局10における通信品質を推定する。制御装置30は、無線端末60と通信中の基地局10において測定された通信品質と、無線端末60と非通信中の基地局10それぞれについて推定された通信品質とに基づいて基地局10間のハンドオーバを行う。
【0021】
本実施形態の事前学習補助装置40は、従来技術の問題点を解決するため、混合シミュレーションデータ生成処理と、不均衡データ解消処理とを行う。混合シミュレーションデータ生成処理によって、事前学習補助装置40は、カメラ、無線端末及び基地局それぞれの位置、歩行者の体格、人数、歩行パターン等の条件の組合せであるシナリオを様々に変えて行ったシミュレーションデータを混合して、様々な現実の通信環境に対応した画像と通信品質との間の対応モデルを学習するための事前学習用データセットを生成する。
【0022】
さらに、不均衡データ解消処理によって、事前学習補助装置40は、シミュレーションデータに含まれる遮蔽時の学習用データと非遮蔽時の学習用データの数の偏りを補正し、適切な学習を可能とする。具体的には、事前学習補助装置40は、受信信号電力に閾値を設けて、事前学習用データに含まれる各事前学習用データを、無線端末と基地局との通信が遮蔽時の学習用データである遮蔽データと、非遮蔽時の学習用データである非遮蔽データに分割する。次に、事前学習補助装置40は、遮蔽データと非遮蔽データの比が設定した値になるように、遮蔽データ、非遮蔽データをそれぞれ適切な割合で複製、削除する。制御装置30は、これらの処理が行われた事前学習用データセットを用いることによって、様々な現実の通信環境について機械学習を行い、対応モデルの学習精度を向上させることができる。また、遮蔽データと非遮蔽データの不均衡が解消されて事前学習が効率的に進み、より精度の良い通信品質推定が可能となる。
【0023】
基地局10は、無線端末60と無線通信を行うRF(Radio Frequency:無線周波数)処理部11を備える。RF処理部11は、通信品質測定部111と、通信制御部112とを備える。通信品質測定部111は、通信中の無線端末60との間の通信品質を測定する。測定対象の通信品質は、例えば、スループットや受信信号電力である。通信品質測定部111は、測定により得られた実測通信品質を示す情報である実測通信品質情報を制御装置30に出力する。通信品質測定部111は、実測通信品質情報に、測定を行った基地局10を特定する情報や、測定時刻の情報を付加してもよい。通信制御部112は、制御装置30から受信した制御信号に従って、アンテナ指向性の制御や、ハンドオーバ制御などを行う。
【0024】
カメラ20は、撮像装置の一例である。カメラ20は、RGB画像(カラー画像)と深度画像とを撮像するRGB-Dカメラである。カメラ20は、基地局10及び無線端末60との間の無線の見通し通信路や、その周辺を含んだ通信環境の動画又は静止画である撮影画像を制御装置30に送信する。
【0025】
制御装置30は、学習推定部31と、統合制御部32とを備える。学習推定部31は、記憶部311と、学習部312と、推定部313とを備える。記憶部311は、事前学習補助装置40が生成した事前学習用データセットと、学習部312が学習した対応モデルとを記憶する。学習部312は、事前学習用データセットを用いて対応モデルを機械学習により学習する。さらに、学習部312は、カメラ20の撮影画像と基地局10の実測通信品質情報とのペアを学習用データとして用い、現在の対応モデルを機械学習により更新する。学習部312は、対応モデルの更新後、更新に用いた実測通信品質情報を統合制御部32に出力する。推定部313は、記憶部311に記憶される対応モデルを用いて、無線端末60と非通信中の基地局10が無線端末60と無線通信を行った場合の通信品質を推定する。推定部313は、基地局10の識別情報と、その基地局10について推定された通信品質を示す推定通信品質情報とを対応付けて統合制御部32に出力する。
【0026】
なお、学習部312が対応モデルの学習に用いる機械学習のアルゴリズムとして、例えば、回帰に拡張したAROW(Adaptive Regularization of Weight Vectors)を用いることができる。このアルゴリズムについて説明する。時刻tにおいて測定されたスループット(実測通信品質)をstとし、時刻tにおいて撮影された深度画像をAROWの入力用に変換した配列を(it)とする。学習部312は、深度画像を表す(it)を入力とし、正規化したスループットrt=st/ηを出力する対応モデルを学習する。ここで、ηは、スループットの正規化係数であり、0≦rt≦1である。推定部313は、学習済みの対応モデルに、深度画像を表す(it)を入力して推定結果のrt’を算出し、推定されるスループットst’=ηrt’を出力する。スループットに代えて、受信信号電力を用いてもよい。
【0027】
また、学習推定部31(学習部312及び推定部313)は、対応モデルへの入力のため、以下の手順により、撮影画像又は仮想画像である深度画像を1次元2値配列のデータに変換する。まず、学習推定部31は、深度画像の解像度をH×W画素(H及びWは正の整数)に変換する。続いて、学習推定部31は、深度画像の最大値がDとなるように解像度変換後の深度画像に含まれる各画素の深度値を正規化する。座標(x,y)の画素(xは1以上H以下の整数、yは1以上W以下の整数)の正規化された深度値をdx、yとする。学習推定部31は、解像度変換後の深度画像に含まれる全画素について、D個の要素からなる2値配列を作成する。座標(x,y)の画素の2値配列は、D個の要素のうち、[dx、y]番目([]は床関数を示す)の値が1、それ以外が0の配列である。学習推定部31は、各画素について得られた2値配列のデータを連結して対応モデルの入力データとする。
【0028】
統合制御部32は、基地局10を制御する。統合制御部32は、通信中の基地局10の実測通信品質情報及び非通信中の基地局10の推定通信品質情報に基づいて、基地局10に対してアンテナ指向性の制御やハンドオーバ制御を行う。例えば、統合制御部32は、無線端末60と通信中の基地局10-1の実測通信品質情報と、学習推定部31が推定した非通信中の基地局10-2の推定通信品質情報とを比較し、通信品質が良好な基地局10-2にハンドオーバするよう制御を行う。統合制御部32は、ハンドオーバが不要と判断した場合、無線端末60と通信中の基地局10-1に制御信号を出力し、無線端末60の動きに応じて基地局10-1のアンテナの指向性を制御する。
【0029】
事前学習補助装置40は、混合シミュレーションデータ生成処理を行う混合シミュレーションデータ生成部41と、不均衡データ解消処理を行う不均衡データ解消部42とを備える。
【0030】
混合シミュレーションデータ生成部41は、データ生成制御部411と、シミュレーションシナリオ生成部412と、三次元空間モデル生成部413と、画像生成部414と、伝搬シミュレーション部415とを備える。データ生成制御部411は、混合シミュレーションデータ生成処理を制御する。シミュレーションシナリオ生成部412は、様々な環境を想定したシミュレーションシナリオを生成する。シミュレーションシナリオにおいて変更可能な要素としては、無線端末60が使用される空間である部屋や通路の間取り、壁や天井の材質、家具等の配置、基地局10及びカメラ20それぞれの設置位置、無線端末60の通信位置、歩行者の体格、人数、歩行パターン等である。例えば、空間内の各要素のプリセットを示すプリセットデータとして用意し、シミュレーションシナリオ生成部412の内部又は外部の記憶部に記憶しておく。シミュレーションシナリオ生成部412は、プリセットデータに含まれる各要素をランダムに組み合わせてシナリオを生成する。
【0031】
例えば、要素が空間の場合、プリセットには空間の形状(間取り)、又は、形状の決定に用いられる値や条件が設定される。例えば、廊下を想定した場合、空間の形状は、幅3m程度の細長い直方体である。オフィスビルを想定した場合、空間の形状は、5~10m四方の直方体である。ホールを想定した場合、空間の形状は、壁のないフラットスペースなどである。要素が壁や天井の材質の場合、複数種類の材質の選択肢がプリセットに含まれる。要素が基地局10やカメラ20の設置位置の場合、プリセットには、例えば、部屋の四隅、短辺、長辺の中央付近の座標に対し、高さを天井から0m、0.5m、1m、1.5mと変化させた場合などが含まれる。
【0032】
要素が歩行者の体格、身長、体重、歩行パターン、歩行速度、人数などの場合、プリセットには、これら要素がとり得る値の範囲や選択肢を含む。例えば、シミュレーションシナリオ生成部412は、子供から老人までの身長や体重の分布をもとに数パターンの体格のプリセットを作成し、歩行者の人数がとり得る値の範囲内でランダムな数だけ空間に配置する。また、シミュレーションシナリオ生成部412は、歩行パターンを、プリセットに含まれる直線運動、ランダムウォークなどの選択肢からランダムに選択する。また、シミュレーションシナリオ生成部412は、任意の歩行速度を設定可能であり、値の一例としては、人間の平均的な歩行速度である1.4m/sを中心としてありえる範囲である0.8~2m/sからランダムに決定することなどが考えられる。プリセットには、この歩行速度の範囲が含まれる。なお、無線端末60の通信位置は、いずれかの歩行者の上半身等の位置としてもよく、基地局10やカメラ20の設置位置と同様に規定されたプリセットを用いてもよい。
【0033】
三次元空間モデル生成部413は、シミュレーションシナリオに含まれる要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する。画像生成部414は、仮想空間モデルにおいてカメラ20から撮影を行ったと仮定した画像である仮想画像を生成する。伝搬シミュレーション部415は、仮想空間モデルにおける無線端末60と基地局10との間の推定通信品質を算出する。データ生成制御部411は、同じシミュレーションシナリオに基づく仮想画像と推定通信品質とのペアからなる事前学習用データを生成し、異なる複数のシミュレーションデータそれぞれに基づく事前学習用データを含んだ事前学習用データセットを不均衡データ解消部42に出力する。
【0034】
不均衡データ解消部42は、遮蔽・非遮蔽データ分割部421と、遮蔽データ複製部422と、非遮蔽データ削除部423と、遮蔽・非遮蔽データ混合部424とを備える。遮蔽・非遮蔽データ分割部421は、事前学習用データセットに含まれる事前学習用データを、推定通信品質に基づいて、基地局10と無線端末60との通信が遮蔽されている遮蔽データと、基地局10と無線端末60との通信が遮蔽されていない非遮蔽データとに分類する。遮蔽データ複製部422は、遮蔽データの数と非遮蔽データの数との比率を所定の比率とするため、遮蔽データを複製する。非遮蔽データ削除部423は、遮蔽データの数と非遮蔽データの数との比率を所定の比率とするため、非遮蔽データの一部を削除する。遮蔽・非遮蔽データ混合部424は、遮蔽データ複製部422が複製した遮蔽データを加えた遮蔽データと、非遮蔽データ削除部423が削除した残りの非遮蔽データとを混合した事前学習用データセットを、制御装置30の学習推定部31へ入力する。
【0035】
図2は、通信制御システム100の処理を示すフロー図である。同図では、基地局10-1をBS1、基地局10-2をBS2と記載している。まず、事前学習補助装置40は、事前学習用データセットを生成する(ステップS105)。ステップS105の詳細は、
図3を用いて後述する。事前学習補助装置40は、生成した事前学習用データセットを制御装置30の学習推定部31に出力する。制御装置30の記憶部311は、事前学習補助装置40から出力された事前学習用データセットを記憶する。学習部312は、記憶部311に記憶される事前学習用データセットに含まれる各学習用データを用いて、機械学習により、仮想画像と推定通信品質との対応関係を表す対応モデルを学習する(ステップS110)。学習部312は、学習した対応モデルを記憶部311に書き込む。
【0036】
カメラ20は、実際に通信環境を撮影して撮影画像を生成する(ステップS115)。カメラ20は、生成した撮影画像をリアルタイムで制御装置30の学習推定部31に送信する。一方、無線端末60と通信中の基地局10は、無線端末60との間の通信の実測通信品質情報を制御装置30の学習推定部31に出力する。
図2では、基地局10-1が無線端末60と通信中であり、基地局10-2は無線端末60と非通信中である(ステップS120)。基地局10-1の通信品質測定部111は、通信品質を測定し、実測通信品質情報を制御装置30の学習推定部31に出力する(ステップS125)。
【0037】
学習推定部31の学習部312は、基地局10-1から受信した実測通信品質情報が示す実測通信品質と、その実測通信品質の測定時刻において撮影された撮影画像とを用いて、機械学習により記憶部311に記憶される対応モデルを更新する(ステップS130)。なお、実測通信品質情報の送信元の基地局10が実測通信品質情報に測定時刻を付加してもよく、制御装置30が実測通信品質情報を受信した時刻を測定時刻とみなしてもよい。また、撮影画像の送信元のカメラ20において撮影時刻の情報を撮影画像に付加してもよく、制御装置30が撮影画像を受信した時刻を撮影時刻とみなしてもよい。学習部312は、基地局10-1から受信した実測通信品質情報を統合制御部32に出力する(ステップS135)。
【0038】
一方、学習推定部31の推定部313は、ステップS130の処理と並行して、記憶部311に記憶される対応モデルに、カメラ20から受信した撮影画像に基づき生成した入力データを入力し、無線端末60と非通信中の基地局10-2における通信品質を推定する(ステップS140)。推定部313は、無線端末60と非通信中の基地局10-2について推定した通信品質を示す推定通信品質情報に、基地局10-2の識別情報を付加して統合制御部32に出力する(ステップS145)。
【0039】
統合制御部32は、無線端末60と通信中である基地局10-1の実測通信品質情報と無線端末60と非通信中である基地局10-2の推定通信品質情報とに基づいて、無線端末60との通信を行う基地局10を決定する(ステップS150)。例えば、統合制御部32は、基地局10-2の推定通信品質が、基地局10-1の実測通信品質よりも良い場合、基地局10-2を通信先として選択する。一方、統合制御部32は、基地局10-1の実測通信品質が、基地局10-2の推定通信品質以上である場合、基地局10-1を通信先として選択する。
【0040】
統合制御部32は、ステップS150において無線端末60の通信先として決定した基地局10を特定する情報を全ての基地局10に通知する(ステップS155)。各基地局10は、この通知により、どの基地局10が無線端末60と通信するのかを知ることができる。ステップS150において基地局10-2が選択された場合、基地局10-1は、統合制御部32から通知された通信先が自局ではない基地局10-2を示すため、無線端末60との通信を終了する(ステップS160)。一方、基地局10-2は、統合制御部32から通知された通信先が自局を示すため、無線端末60との通信を開始する(ステップS165)。なお、統合制御部32は、ステップS150において無線端末60と通信中の基地局10を通信先として決定した場合、ステップS155の通知を行わなくてもよい。
【0041】
通信制御システム100は、ステップS160及びステップS165の処理を終了すると、再び、ステップS115及びステップS120の処理に戻って同様の動作を繰り返す。
【0042】
図2では、通信制御システム100が、システム動作の開始前にステップS105の処理を実行する例を示しているが、通信制御システム100の動作が開始された後のステップS115からステップS165までの処理が繰り返し行われている期間においても、ステップS105からステップS110までの学習処理を並行して実行するようにしてもよい。これにより、学習推定部31は、通信制御システム100が動作中においても、仮想画像と仮想画像に対応する通信環境における通信品質との対応関係を学習できる。よって、学習データ量を増やすことができ、通信品質の推定精度を更に向上することができる。
【0043】
なお、
図6に示す従来技術による通信制御システムの処理は、ステップS105の処理を除いて、
図2の処理と同様である。ここで、従来技術を用いた事前学習用データセットの生成処理を説明する。
図7は、
図6に示す従来技術の事前学習補助装置による事前学習用データセットの生成処理を示す図である。
【0044】
従来技術の事前学習補助装置は、カウンタNを0に初期化する(ステップS905)。三次元空間モデル生成部は、予め与えられた基地局、カメラ、無線端末の位置の情報を取得し、人体や遮蔽物などの物体の3Dモデルを仮想空間上に配置した仮想空間モデルを構築する(ステップS910)。画像生成部は、ステップS910において構築された仮想空間モデルに基づいて、仮想空間モデルにおいてカメラから見た場合の画像である仮想画像をコンピュータグラフィクスの技術を用いて生成する(ステップS915)。伝搬シミュレーション部は、ステップS910において構築された仮想空間モデルにおける基地局の通信品質を、電波伝播モデルに基づいた伝搬シミュレーションにより計算する(ステップS920)。事前学習補助装置は、ステップS915において生成された仮想画像と、ステップS920において計算された通信品質とからなる学習用データを、事前学習用データセットに追加し(ステップS925)、カウンタNに1を加算する(ステップS930)。事前学習補助装置は、カウンタNが上限N
maxに達していなければステップS910からの処理を繰り返し、カウンタNが上限N
maxに達した場合は事前学習用データセットを制御装置に出力する(ステップS935)。以降、通信制御システムは、
図2のステップS110以降の処理を行う。
【0045】
続いて、本実施形態による事前学習用データセットの生成処理を説明する。
図3は、事前学習補助装置40の処理を示すフロー図である。同図は、
図2におけるステップS105の詳細な処理を示す。
【0046】
混合シミュレーションデータ生成部41のデータ生成制御部411は、カウンタNを0に初期化する(ステップS205)。シミュレーションシナリオ生成部412は、プリセットデータを参照して、各要素をランダムに組み合わせてシミュレーションシナリオを生成する(ステップS210)。
【0047】
混合シミュレーションデータ生成部41は、生成されたシミュレーションシナリオについて、従来技術と同様に3Dモデル生成と、仮想画像の生成及び電波伝播シミュレーションとを実施する。三次元空間モデル生成部413は、ステップS210において生成されたシミュレーションシナリオに従って、仮想空間に基地局10、カメラ20、無線端末60、歩行者、遮蔽物などの物体を配置した仮想空間モデルを生成する(ステップS215)。三次元空間モデル生成部413は、生成した仮想空間モデルを画像生成部414及び伝搬シミュレーション部415に出力する。
【0048】
画像生成部414は、ステップS215において生成された仮想空間モデルにおいてカメラ20から見た場合の画像である仮想画像を、コンピュータグラフィクスの技術を用いて生成する(ステップS220)。一方、伝搬シミュレーション部415は、ステップS215において生成された仮想空間モデルにおける無線端末60と基地局10との間の推定通信品質を、電波伝播モデルに基づいた伝搬シミュレーションにより計算する(ステップS225)。データ生成制御部411は、ステップS220において生成された仮想画像と、ステップS225において計算された推定通信品質とのペアである事前学習用データを、事前学習用データセットに追加する(ステップS230)。
【0049】
データ生成制御部411は、カウンタNに1を加算する(ステップS235)。データ生成制御部411は、カウンタNが予め設定された上限Nmaxに達したか否かを判定する(ステップS240)。データ生成制御部411は、カウンタNが上限Nmaxに達していないと判定した場合(ステップS240:NO)、ステップS215からの処理を繰り返すよう混合シミュレーションデータ生成部41を制御する。データ生成制御部411は、カウンタNが上限Nmaxに達したと判定した場合(ステップS240:YES)、事前学習用データセットを不均衡データ解消部42に出力する。
【0050】
不均衡データ解消部42の遮蔽・非遮蔽データ分割部421は、事前学習用データセットに含まれる事前学習用データのうち、予め設定された閾値TH以下の推定通信品質の事前学習用データを遮蔽データに、閾値THより高い推定通信品質の事前学習用データを非遮蔽データに振り分ける(ステップS245)。閾値THの例としては、通信品質の指標として受信信号電力を用いる場合、見通し通信時(遮蔽物がない状況)の受信電力をxとし、遮蔽による受信電力の減衰をy(dB)としたときに、5dB程度のマージンを設けて、例えばx-(y-5)dBを閾値とすることが考えられる。人体遮蔽時の典型的なyの値として例えばy=20とした場合、閾値はx-15dBと決定できる。遮蔽・非遮蔽データ分割部421は、遮蔽データを遮蔽データ複製部422に出力し、非遮蔽データを非遮蔽データ削除部423に出力する。
【0051】
次に、制御装置30の学習推定部31に入力する遮蔽データと非遮蔽データの比率を制御するため、遮蔽データ複製部422は、遮蔽データを複製し(ステップS250)、非遮蔽データ削除部423は、非遮蔽データの一部を削除する(ステップS255)。手順としては例えば以下ようにする。最初に、遮蔽データ複製部422は、前段の遮蔽・非遮蔽データ分割部421から出力される非遮蔽データの数を基準として、事前設定された複製倍率に従って遮蔽データを複製する。複製倍率の目安としては例えば1.01~1.1の範囲の値が考えられる。複製倍率1.1とは、非遮蔽データよりも遮蔽データが10%多いことを意味する。これは過度な複製は過学習を引き起こし、汎化能力を低下させることを考慮しての目安値である。次に、非遮蔽データ削除部423は、前段の遮蔽・非遮蔽データ分割部421から出力される非遮蔽データの数を基準として、予め設定された削除倍率に従って非遮蔽データを削除する。削除倍率は、任意の値で良いが、例えば目安値として0.1や0.2などの値が挙げられる。これは、最終的な遮蔽データ/非遮蔽データの比率として、両者の数がオーダーとして一桁違う程度であれば学習が進むことが経験的に知られているため、これを考慮した目安値である。
【0052】
最後に、遮蔽・非遮蔽データ混合部424は、遮蔽データ複製部422から出力された遮蔽データと、非遮蔽データ削除部423から出力された非遮蔽データとを混合した事前学習用データセットを、制御装置30の学習推定部31へ入力する(ステップS260)。学習推定部31は、この事前学習用データセットを
図2のステップS110における事前学習に利用する。
【0053】
図4は、本実施形態の通信制御システム100の効果を示す図である。同図は、通信制御システム100と従来技術を用いた通信制御システムのそれぞれにおける通信品質推定誤差の時間変化を示している。通信品質推定誤差は、学習推定部により推定された通信品質と、実際の通信環境における通信品質との誤差である。符号Aは、本実施形態の学習推定部31を用いた場合の通信品質推定誤差の変化であり、符号Bは、特許文献1に記載の従来技術の学習推定部を用いた場合の通信品質推定誤差の変化である。ただし、従来技術の事前学習における計算機シミュレーションについては、現実の通信環境との差が大きい場合を想定した。
【0054】
事前学習を始めていない段階では本実施形態、従来技術とも通信品質推定誤差が大きい。基地局が動作する前の事前学習期間においては、本実施形態、従来技術ともに通信品質推定誤差は減少するが、本実施形態では様々なシナリオで生成したシミュレーションデータにより事前学習しているため、従来技術に比べて通信品質推定誤差を小さい。また、不均衡データ解消部42によりシミュレーションで生成した遮蔽時・非遮蔽時のデータの数の偏りが補正されるため、更に従来技術と比べて通信品質推定誤差を小さくできる。次の基地局の動作期間においては、本実施形態は、従来技術に比べて既に通信品質推定誤差が小さいため、所望の推定精度を達成するために必要な時間を短くできる。
【0055】
なお、本実施形態の事前学習補助装置40は、実際の通信環境に依存しない空間モデルを生成していることから、一旦、学習推定部31が事前学習を行えば、その事前学習の結果得られた対応モデルは、実運用時における任意の設置場所に適用可能である。従って、個々の通信制御システム100は、
図1に示す通り、必ずしも、事前学習補助装置40を備えていなくてもよい。この場合、通信制御システム100は、使用前に他の通信制御システム100において事前学習が行われた結果の対応モデルを初期設定可能な構成としてもよい。
【0056】
上述した実施形態によれば、通信制御システム100は、事前学習補助装置40の混合シミュレーションデータ生成部41が様々なシナリオについて行った計算機シミュレーションによって得られた学習用データを混合して通信品質と画像との対応関係を示す対応モデルの事前学習に用いる。よって、現実の通信環境の調査をして、基地局、カメラ、遮蔽物等の位置関係を事前学習補助装置に入力することなく、基地局の動作直後から精度の良い通信品質推定が可能である。混合シミュレーションデータ生成部41については、市販の伝搬シミュレータと、3Dモデルから画像生成を行う既存技術を用いて実現することが可能である。
【0057】
また
図6及び
図7に示す従来技術では、現実の通信環境を模擬した計算機シミュレーションにより生成した学習用データをそのまま教師データとして用いていたため、遮蔽時の学習用データが非遮蔽時の学習用データに比べて非常に少なかった。そのため、対応モデルの学習が非効率に進むという問題点があった。一方、本実施形態では、不均衡データ解消部42により遮蔽時の学習用データ及び非遮蔽時の学習用データの数の偏りを補正するため、効率的に対応モデルの学習を行うことができ、かつ、より精度の良い通信品質推定が可能である。
【0058】
本実施形態を用いることにより、従来技術と比較し、機械学習を用いたミリ波ハンドオーバ方式の通信制御システムにおいて、基地局の稼働直後から精度の良い推定が可能となる。特に、展示会など、ミリ波基地局を短期的なホットスポットとして使用したり、設置場所や周囲の状況が短期的に変化したりする場合などにおいては、学習をする時間が十分にない可能性が高く、本実施形態の通信制御システムは有用である。
【0059】
上述した実施形態における制御装置30の学習推定部31及び統合制御部32、並びに、事前学習補助装置40の混合シミュレーションデータ生成部41及び不均衡データ解消部42の機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、コンピュータシステムのプロセッサがプログラムを実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0060】
また、制御装置30及び事前学習補助装置40それぞれを、ネットワークに接続される複数のコンピュータ装置により実現してもよい。この場合、制御装置30及び事前学習補助装置40の各機能部を、これら複数のコンピュータ装置のいずれにより実現するかは任意とすることができる。また、同一の機能部を複数のコンピュータ装置により実現してもよい。
【0061】
以上説明した実施形態によれば、通信制御システムは、複数台の通信装置と、1台以上の撮像装置と、シミュレーションシナリオ生成部と、三次元空間モデル生成部と、推定通信品質算出部と、学習部と、推定部と、統合制御部とを備える。通信装置は、端末と無線通信する。例えば、端末は無線端末60であり、通信装置は基地局10である。撮像装置は、端末と通信装置との通信環境を撮影する。撮像装置は、例えば、カメラ20である。シミュレーションシナリオ生成部は、端末の位置、通信装置の位置、撮像装置の位置、及び、端末と通信装置との間の無線通信を遮蔽する遮蔽物の位置を要素として含むシミュレーションシナリオを、それら要素の異なる組合せにより複数作成する。要素は、空間の形状と、壁の材質と、床の材質と、歩行者の体格と、歩行者の人数と、歩行者の歩行パターンとのうち一以上をさらに含んでもよい。三次元空間モデル生成部は、生成されたシミュレーションシナリオに含まれる要素を仮想的な三次元空間に配した通信環境の三次元空間モデルを生成する。画像生成部は、生成された三次元空間モデルにおいて撮像装置から撮影を行ったと仮定した場合の画像である仮想画像を生成する。推定通信品質算出部は、生成された三次元空間モデルにおける通信装置と端末との推定の通信品質である推定通信品質を算出する。推定通信品質算出部は、例えば、伝搬シミュレーション部415である。学習部は、複数のシミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた仮想画像と推定通信品質とからなる学習用データを用いて、画像と通信品質との対応関係を学習する。推定部は、学習された対応関係に、撮像装置において撮像された画像を適用して、端末と非通信中の通信装置における通信品質を推定する。統合制御部は、端末と通信中の通信装置において測定された通信品質と、端末と非通信中の通信装置について推定部が推定した通信品質とを用いて、端末の通信先を制御する。
【0062】
なお、通信制御システムは、複数のシミュレーションシナリオそれぞれに基づいて得られた学習用データを、推定通信品質に基づいて、通信装置と端末との通信が遮蔽されている遮蔽データと、通信装置と端末との通信が遮蔽されていない非遮蔽データとに分類し、遮蔽データの数と非遮蔽データの数との比率が、任意に設定される所定の比率となるように補正する不均衡データ解消部をさらに備えてもよい。例えば、不均衡データ解消部は、遮蔽データと非遮蔽データとのうち、数の多い方(実施形態では非遮蔽データ)に対して削除を行い、数の少ない方(実施形態では遮蔽データ)に対して複製を行うことにより、所定の比率となるように補正する。不均衡データ解消部は、所定の比率となるように補正することで、数の偏りを低減した遮蔽データと非遮蔽データとを学習部へ出力する。
【0063】
なお、上記では、カメラ20としてRGB-Dカメラを用いているが、奥行情報を取得できない一般的なRGBカメラや、モノクロ画像の撮影を行うグレーカメラ、深度情報付きのモノクロ画像で撮影を行うグレー深度カメラなどを使用してもよい。
【0064】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10-1、10-2…基地局, 11…RF処理部, 20-1、20-2…カメラ, 30…制御装置, 31…学習推定部, 32…統合制御部, 40…事前学習補助装置, 41…混合シミュレーションデータ生成部, 42…不均衡データ解消部, 100…通信制御システム, 111…通信品質測定部, 112…通信制御部, 311…記憶部, 312…学習部, 313…推定部, 411…データ生成制御部, 412…シミュレーションシナリオ生成部, 413…三次元空間モデル生成部, 414…画像生成部, 415…伝搬シミュレーション部, 421…遮蔽・非遮蔽データ分割部, 422…遮蔽データ複製部, 423…非遮蔽データ削除部, 424…遮蔽・非遮蔽データ混合部