(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】偽造防止印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20221201BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20221201BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/378
(21)【出願番号】P 2019159255
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-158789(JP,A)
【文献】特開2014-042991(JP,A)
【文献】特開2018-024105(JP,A)
【文献】特開2015-202659(JP,A)
【文献】特開2015-202661(JP,A)
【文献】特開2019-171699(JP,A)
【文献】特開2017-205950(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0233463(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00-3/18
B42D 15/02
B42D 25/00-25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
明暗フリップフロップ性を有する基材の上に、前記基材と同じ色相であって、前記基材と異なる色彩を有する光輝性画像を備え、前記光輝性画像は、光輝性顔料と色材を含み明暗フリップフロップ性を有する着色光輝性インキによって形成され、部分的に面積率が異なることで形成された可視画像を有し、拡散反射光下で観察すると前記光輝性画像が現す可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、前記可視画像が消失することを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記基材は、基材自体が明暗フリップフロップ性を有するか、又は、明暗フリップフロップ性を有しない基材に、明暗フリップフロップ性を有する下地画像を形成することで明暗フリップフロップ性を有するように形成した基材であって、前記明暗フリップフロップ性を有する下地画像
の上に、光輝性顔料と色材を含み明暗フリップフロップ性を有する着色光輝性インキによって形成された光輝性画像を備え、前記光輝性画像は、部分的に面積率が異なることで形成された可視画像を有し、前記光輝性画像の色彩は、i)前記下地画像が透明又は前記基材と等色の場合、前記基材と同じ色相であって、かつ、前記基材と異なり、又はii)前記下地画像が前記基材と異なる色の場合、前記下地画像と同じ色相であって、前記下地画像と異なり、拡散反射光下で観察すると前記光輝性画像が現す可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、前記可視画像が消失することを特徴とする
請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記光輝性画像は、面積率0%の領域を含む画像であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記基材が白色であって、銀インキと黒色の色材から成る前記着色光輝性インキにより、前記光輝性画像が形成されたことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項5】
前記明暗フリップフロップ性を有する前記基材の上に、前記光輝性画像が形成された場合、前記光輝性画像の上又は前記基材と前記光輝性画像の間に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、前記光輝性画像と色彩共有性を有するカラー画像又は前記可視画像とは異なる図柄を現す透明画像が形成されたことを特徴とする請求項1、3又は4のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項6】
前記明暗フリップフロップ性を有する下地画像の上に、前記光輝性画像が形成された場合、前記光輝性画像の上又は前記光輝性画像と前記下地画像の間に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、前記光輝性画像と色彩共有性を有するカラー画像又は前記可視画像とは異なる図柄を現す透明画像が形成されたことを特徴とする請求項2から4までのいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項7】
前記明暗フリップフロップ性を有する下地画像の上に、前記光輝性画像が形成された場合、前記下地画像は、前記可視画像とは異なる図柄の輪郭を現した領域を有し、前記可視画像とは異なる図柄の輪郭を現した領域は、前記下地画像の一部が白抜きの構成又は周囲より面積率が低い構成であることを特徴とする請求項2から4までのいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項8】
前記下地画像と前記光輝性画像の間、前記光輝性画像と前記透明画像の間又は前記下地画像と前記透明画像の間に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、前記光輝性画像及び前記透明画像と色彩共有性を有するカラー画像が形成されたことを特徴とする請求項6記載の偽造防止印刷物。
【請求項9】
前記下地画像と前記光輝性画像の間又は前記光輝性画像の上に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、前記下地画像及び前記光輝性画像と色彩共有性を有するカラー画像が形成されたことを特徴とする請求項7記載の偽造防止印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察できる画像が入射する光の角度に応じて消失する効果を有する偽造防止印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、観察角度によって画像が変化するホログラムに代表される光学的なセキュリティ要素を印刷物に貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
しかし、ホログラムはインキを用いた印刷によって形成する従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の偽造防止用印刷物と比較すると製造に手間が掛かり、かつ、極めて高価である。このことから、金属インキや干渉マイカや酸化フレークマイカ、顔料コートアルミニウムフレーク、光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキや塗料に配合し、かつ、特殊な材料同士の重ね合わせや複雑な網点構成を用いることによって、ホログラムと同様な画像変化を実現した、一般的な印刷方法で形成可能な偽造防止用印刷物が出現している。
【0004】
本出願人は、一般的、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用していながら、特定の観察角度において、印刷物中の特定部位における人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報にチェンジする偽造防止用情報担持体に係る発明を既に出願している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4参照)。これらの技術は、光輝性材料によって構成された光輝性画像と、着色インキあるいは反射率の異なる透明インキによって構成された潜像画像を重畳させ、二つの画像の光学特性の違いを利用することで、認識される情報がチェンジする効果を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3398758号公報
【文献】特許第4604209号公報
【文献】特許第5358819号公報
【文献】特許第5920781号公報
【0006】
特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載の技術で用いられる光輝性画像と潜像画像の二つの画像のうち、光輝性画像は、その画像単体においても独特の効果を有している。それは、
図9に示すように、拡散反射光下において一定の濃淡を有して視認されていた情報が、正反射下において光を反射することで明度が上昇し、その濃淡が目視上捉えられなくなるという画像の消失効果である。光輝性画像と対を成す潜像画像は、拡散反射光下においても正反射光下においても濃度は変化しない。そのため、光輝性画像の濃淡の変化によって相対的に潜像画像の視認性が変化することで、隠れたり、現れたりするものであり、画像のチェンジ効果の中核となっているのは、光輝性画像の消失効果である。この光輝性画像が正反射光下において消失する効果は、上記特許文献全てにおいて必須の効果であり、いずれにも欠くことができない効果である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載の技術において用いられている光輝性画像は、必ず網点面積率の制限を設ける必要があった。具体的には、いずれの技術においても網点面積率で最大50%より狭い階調表現域(最大面積率と最小面積率の差異)に制限して光輝性画像を表現する必要があった。これは、正反射光下において画像の消失効果を得る上で必須の条件であり、この数値を超えた範囲の網点面積率で光輝性画像を構成した場合には、
図10に示すように、正反射光下での画像の消失効果が十分に機能せず、画像の濃淡が消失しきらなかったり、逆に画像の濃淡が反転したり、場合によってはより目立って視認されるという問題があった。なお、
図10(a)は、拡散反射光下で視認される光輝性画像を示す図であり、
図10(b)は正反射光下で画像が消失しきらない状態を示す図であり、
図10(c)は、正反射光下で画像の濃淡が反転した状態を示す図である。
【0008】
そのため、従来の技術のように、光輝性インキを用いて階調表現域50%で光輝性画像を表現した場合、階調表現域100%で表現した場合と比較すると、拡散反射光下における明暗のコントラストが不十分であり、細画線を用いた繊細な画像表現や階調の表現等が不可能であるという問題があった。
【0009】
また、特許文献1から特許文献4にまで記載の技術においては、光輝性画像は正反射光下において自らの濃淡が消失する効果を担うだけでなく、その場合に生じる強い反射光によって潜像画像を浮かび上がらせる役割も担っている。そのため、光輝性画像は可能な限り強い反射光を発する必要があり、光輝性画像の面積率は、可能な限り高く構成する必要があった。そのため、光輝性画像は、その面積率の高さから暗く沈んだ画像となるという問題があった。
【0010】
また、前述のとおり、光輝性画像は可能な限り強い反射光を発する必要があるため、印刷で形成する場合には、インキ膜厚を可能な限り厚く形成することが望ましかった。そのため、インキによる地汚れが発生したり、画線に滲みが生じやすく、印刷トラブルの原因となったりすることがあった。また、これらのトラブルを抑制するために、定期的な版面やブラン洗浄が必要となる場合があり、生産性が低下するという問題があった。
【0011】
さらに、光輝性画像の面積率を高く、かつ、膜厚を厚くせざるを得ないという問題に伴い、拡散反射光下で視認可能な画像を設けるために、光輝性画像の下に特定の彩度の高い画像を形成したとしても、光輝性画像によって隠蔽され、彩度や明度が低くなり、暗く濁って見えるという問題があった。
【0012】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、拡散反射光下で一定の濃淡を有して視認されていた画像が、正反射光下で目視上消失する効果を有する偽造防止技術において、拡散反射光下で視認される画像の視認性(コントラスト)と正反射光下での消失効果が高い偽造防止印刷物を提供する。また、従来技術の光輝性画像のように、50%以下の狭い階調表現域に限定されず、インキ膜厚を厚く形成する必要のない光輝性画像を備えた偽造防止印刷物を提供する。また、下地に形成するカラー画像の彩度や明度を高く保つことができる光輝性画像を備えた偽造防止印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の偽造防止印刷物は、明暗フリップフロップ性を有する基材の上に、基材と同じ色相であって、基材と異なる色彩を有する光輝性画像を備え、光輝性画像は、光輝性顔料と色材を含み明暗フリップフロップ性を有する着色光輝性インキによって形成され、部分的に面積率が異なることで形成された可視画像を有し、拡散反射光下で観察すると光輝性画像が現す可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、可視画像が消失することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の偽造防止印刷物は、基材の上の明暗フリップフロップ性を有する下地画像の上に、光輝性顔料と色材を含み明暗フリップフロップ性を有する着色光輝性インキによって形成された光輝性画像を備え、光輝性画像は、部分的に面積率が異なることで形成された可視画像を有し、光輝性画像の色彩は、i)下地画像が透明又は基材と等色の場合、基材と同じ色相であって、かつ、基材と異なり、又はii)下地画像が基材と異なる色の場合、下地画像と同じ色相であって、下地画像と異なり、拡散反射光下で観察すると光輝性画像が現す可視画像が視認され、正反射光下で観察すると、可視画像が消失することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の偽造防止印刷物は、光輝性画像は、面積率0%の領域を含む画像であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の偽造防止印刷物は、基材が白色であって、銀インキと黒色の色材から成る着色光輝性インキにより、光輝性画像が形成されたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の偽造防止印刷物は、明暗フリップフロップ性を有する基材の上に、光輝性画像が形成された場合、光輝性画像の上又は基材と光輝性画像の間に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、光輝性画像と色彩共有性を有するカラー画像又は可視画像とは異なる図柄を現す透明画像が形成されたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の偽造防止印刷物は、明暗フリップフロップ性を有する下地画像の上に、光輝性画像が形成された場合、光輝性画像の上又は光輝性画像と下地画像の間に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、光輝性画像と色彩共有性を有するカラー画像又は可視画像とは異なる図柄を現す透明画像が形成されたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の偽造防止印刷物は、明暗フリップフロップ性を有する下地画像の上に、光輝性画像が形成された場合、下地画像は、可視画像とは異なる図柄の輪郭を現した領域を有し、可視画像とは異なる図柄の輪郭を現した領域は、下地画像の一部が白抜きの構成又は周囲より面積率が低い構成であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の偽造防止印刷物は、下地画像と光輝性画像の間、光輝性画像と透明画像の間又は下地画像と透明画像の間に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、光輝性画像及び透明画像と色彩共有性を有するカラー画像が形成されたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の偽造防止印刷物は、下地画像と光輝性画像の間又は光輝性画像の上に、少なくとも一つの有彩色を含む2色以上の異なる色相の色彩によって構成され、下地画像及び光輝性画像と色彩共有性を有するカラー画像が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の偽造防止印刷物は、明暗フリップフロップ性を有する基材又は明暗フリップフロップ性を有する下地画像の上に、光輝性材料と色材を含む着色光輝性インキを用いて光輝性画像が形成されることで、光輝性画像の正反射光下での消失効果を向上させることができる。また、着色光輝性インキが色材を含むことから、拡散反射光下における可視画像の濃度が高く、可視画像の視認性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の光輝性画像に適用できる階調表現域は最大で100%であり、この場合、一切の階調制限がない。階調制限のない可視画像を構成しても、正反射光下における可視画像の消失効果が生じる。このため、従来の技術と比較して、明暗のコントラストを高めた表現、細画線を用いた繊細な表現、微妙な階調を有した表現等で可視画像を構成することが可能である。また、印刷膜厚も薄く形成したとしても、正反射光下における消失効果が生じることから、インキの膜厚を薄く形成できるために印刷トラブルが生じにくい。また、可視画像を淡く、薄く構成することが可能であるため、下地に特定の彩度の高い色彩が配されていたとしても、彩度や明度を大きく低下させることがない。
【0024】
光輝性画像に透明な潜像画像、カラー画像及び潜像入りの下地画像等と組み合わせることで、特許文献1から特許文献4までに記載の技術と同様に拡散反射光下と正反射光下において画像のチェンジ効果を発現する偽造防止印刷物とすることができる。
【0025】
以上の手法で形成した光輝性画像は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れ、また最新のデジタル機器を用いたとしても消失効果を実現することは不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】本発明における偽造防止印刷物の効果を示す。
【
図3】従来技術の光輝性画像と本発明の光輝性画像の階調表現を比較して示す。
【
図4】本発明の光輝性画像とカラー画像との組合せの例を示す。
【
図5】本発明の光輝性画像とカラー画像との組合せによる効果を示す。
【
図6】本発明の光輝性画像と別の画像との組合せの例を示す。
【
図7】本発明の光輝性画像と別の画像との組合せによる効果を示す。
【
図8】本発明の光輝性画像と別のカラー画像とのみ合せの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0028】
なお、本明細書中でいう「明度」とは色の明るさのことをいい、高い場合には明るく、低い場合には暗い。また、彩度とは、色の鮮やかさの度合いのことをいう。さらに、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400~700nm)の特定の波長の高低の分布を示すものである。本明細書中では特に、無彩色である白や黒も一つの色相と考え、白、灰色、黒は同じ色相であるとする。
【0029】
また、本発明でいう明暗フリップフロップ性とは、物体が光を正反射した場合に、その物体の明度が上昇する性質のことをいう。例えば、金属や樹脂等の物体が光ったと感じるのは、物体の明度が上昇しているためであり、その物体は、明暗フリップフロップ性を備えている。一定の艶のある物体は明暗フリップフロップ性を備え、逆に艶のない、マットな物体は明暗フリップフロップ性を備えない。
【0030】
本発明でいう拡散反射光下とは、印刷物に対して光源から直接入射する入射光が存在するものの、正反射光がほとんどない、拡散反射光の割合が大きな観察環境のことをいう。一方、正反射光下とは、印刷物に対して光源から直接入射する入射光が存在し、拡散反射光が少なく、正反射光の割合が大きな観察環境のことをいう。さらに、環境光下とは、印刷物に対して光源から直接入射する入射光は存在しないものの、壁や床、天井等からの反射を経た多数の弱い光に囲まれて一定の明るさを有した、物体に影ができない程度の光に囲まれた観察環境のことをいう。
【0031】
本発明の偽造防止印刷物(1)について図面を用いて説明する。
図1は、本発明における偽造防止印刷物(1)の構成を示す平面図である。
図1(a)に示す構成の偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色彩の光輝性画像(3)を有する。光輝性画像(3)は、拡散反射光下では濃淡によって可視画像を現して成る。光輝性画像(3)の大きさや形状に制約はない。
【0032】
本発明の偽造防止印刷物(1)に用いる基材(2)は、インキや塗料、色材等を受理できるものであれば特に限定されるものではなく、紙、プラスティック、金属等を用いることができ、光輝性画像(3)を形成する基材(2)表面は、平滑であることが望ましい。
【0033】
また、本発明において基材(2)は、明暗フリップフロップ性を有する必要があり、基材(2)自体が明暗フリップフロップ性を有するコート紙やアート紙を用いるか、上質紙やコットン紙のような非コート紙に、明暗フリップフロップ性を有する下地画像(8)を形成した基材(2)を用いる。前者の場合、
図1(a)に示すように、明暗フリップフロップ性を有する基材(2)の上に、光輝性画像(3)を形成する。また、後者の場合、
図1(b)に示すように、基材(2)の上に下地画像(8)を形成し、下地画像(8)の上に光輝性画像(3)を形成する。
図1(b)は、下地画像(8)の上に光輝性画像(3)が同じ領域で重なって形成された状態を示しているが、下地画像(8)を備えた構成において光輝性画像(3)の配置は、これに限定されるものではなく、光輝性画像(3)による可視画像が正反射光下で消失するために、下地画像(8)が形成された領域内に形成されていればよい。下地画像(8)は可能な限り明暗フリップフロップ性が高いことが望ましく、色彩は透明か、基材(2)と等色であることが望ましいが、基材(2)と異なる色であって特定の色彩を有していても問題ない。なお、下地画像(8)は、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等のインキを厚く盛ることができる印刷方式を用い、艶のあるグロス系のインキを使用することで容易に形成することができる。
【0034】
以降の説明では、基材(2)自体が明暗フリップフロップ性を有する用紙を用いた例で説明する。基材(2)の色彩は、一般的な用紙の色である白、灰色、黒等の無彩色が最も望ましいが、この色彩に限定するものではない。
【0035】
明暗フリップフロップ性を有する基材(2)に形成される光輝性画像(3)は、物体色を有し、その物体色は基材(2)と同じ色相であって、かつ、明度又は彩度が基材(2)と異なることで異なる色彩である必要がある。これは、拡散反射光下で光輝性画像(3)による可視画像を色彩の差で認識し、かつ、正反射光下で、可視画像が消失するためである。本実施の形態では、基材(2)が白色の一般的な印刷用の用紙であって、光輝性画像(3)が同じ色相であり、色彩が異なる灰色の例で説明する。なお、明暗フリップフロップ性を有する下地画像(8)の上に光輝性画像(3)を形成する構成において、下地画像(8)が透明又は基材(2)と等色の場合、光輝性画像(3)の色彩は、基材(2)と同じ色相であって、拡散反射光下で可視画像として認識するために基材(2)と異なる色彩である必要がある。また、下地画像(8)が基材(2)と異なる色であって特定の色彩を有する場合、光輝性画像(3)は、下地画像(8)と同じ色相であって、色彩が異なる必要がある。
【0036】
明暗フリップフロップ性を有する基材(2)に形成される光輝性画像(3)の色彩は、無彩色に限定するものではなく、基材(2)と同じ色相であり、更に、基材(2)よりも濃く見える色彩であれば本発明の光輝性画像(3)を構成しうる。例えば、基材(2)が赤色であれば、光輝性画像(3)は濃い赤色、基材(2)が水色であれば、光輝性画像(3)は青色の有彩色となる。
【0037】
光輝性画像(3)は、明暗フリップフロップ性を有する必要がある。これは本発明の光輝性画像(3)が現す可視画像の消失効果を得るために必須の構成である。光輝性画像(3)の明暗フリップフロップ性は、光輝性画像(3)の構成材料である着色光輝性インキに由来する特性である。
【0038】
光輝性画像(3)は着色光輝性インキを用いて形成することができる。本発明の着色光輝性インキは、光輝性顔料と色材(物体色を有した顔料や染料)を同じインキ中に混合することで作製することができる。着色光輝性インキは、拡散反射光下で基材(2)と同じ色相であり、基材(2)よりも濃い色彩で目視可能であって、かつ、明暗フリップフロップ性を有したインキである。光輝性画像(3)の特殊な光学特性はこの着色光輝性インキに由来する。
【0039】
この着色光輝性インキは、光輝性顔料と色材をワニス中に混合して作製してもよく、光輝性顔料を含んだインキに色材を混合して作製してもよく、色材を含んだ着色インキに光輝性顔料を混合して作製してもよく、光輝性顔料を含んだインキに色材を含んだ着色インキを混合して作製してもよい。最も作製が容易でコスト的に安価なのは、光輝性顔料を含んだインキに色材を含んだインキを混合して作製する方法である。
【0040】
本発明において、着色光輝性インキに含まれる光輝性顔料の量は、一般的な光輝性インキに含まれる光輝性顔料の量と同じであり、10%から30%までである。また、着色光輝性インキに含まれる色材の量は、光輝性顔料の正反射時の明度の上昇を抑制する(可視画像が濃淡反転しない)ために、少なくとも3%以上含まれる必要がある。一方、着色光輝性インキに含まれる色材の量が多すぎると、明度が上昇する効果が低くなり可視画像が消失しなくなることから、10%以下とする必要がある。
【0041】
着色光輝性インキ中の光輝性顔料とは、アルミニウム粉末、銅粉末、亜鉛粉末、錫粉末、真鍮粉末又はリン化鉄等の一般的な金属粉顔料であり、これら顔料自体が一定の輝度を有し、着色光輝性インキに明暗フリップフロップ性を付与する。色材は物体色を有した顔料や染料を用いる。着色光輝性インキ自体は、印刷機に使用するインキに限定されるものではなく、プリンタで用いるトナーやインクジェットインキ等であってもよい。
【0042】
仮に、光輝性画像(3)を印刷で形成する場合であって、かつ、その印刷方法がオフセット印刷であった場合、銀インキをベースとして、着色光輝性インキを作製することが可能であり、最も効果が高い。オフセットインキの中では、明暗フリップフロップ性に優れたインキは少なく、安価で実用的なインキとしては金、銀インキしか存在しない。金インキや銀インキを構成する光輝性材料として、アルミや真鍮を顔料とした場合がオフセットインキとしては効果が高い。特に銀インキとそれに用いられる光輝性材料であるアルミは、明暗フリップフロップ性に優れる。本実施の形態においては、銀インキと黒色の色材と混ぜ合わせることで濃い灰色の着色光輝性インキを用いた例を説明する。
【0043】
図1に示す光輝性画像(3)は、「木に咲く花」と「小鳥」を有意情報とした可視画像を現している。本実施の形態において、基材(2)は白色であり、光輝性画像(3)は濃い灰色とした。
図1に示す光輝性画像(3)は、面積率0%から100%までの階調を有する。「木に咲く花」と「小鳥」の背景部分の面積率は0%であり、「花」は面積率5%から15%まで、「小鳥」は面積率5%から70%まで、「木の枝」は面積率70%から80%まで、それぞれの画像の輪郭は面積率85%から100%までで現しており、本実施の形態の光輝性画像(3)は、0%から100%までの範囲の面積率で構成されている。ここでは、「木に咲く花」と「小鳥」の背景部分の面積率を0%とした例で説明するが、本発明の光輝性画像(3)において、背景部分が所定の面積率を有する構成であってもよい。ただし、本実施の形態のように、「木に咲く花」と「小鳥」の背景部分の面積率を0%とする構成は、拡散反射光下での可視画像のコントラストが高くなることから好ましい構成であるとともに、背景部分に一定の面積率を必要とした引用文献1から引用文献4までとは異なった本発明の構成の一つの特徴である。
【0044】
図1に示す図柄の光輝性画像(3)を基材(2)上に形成する。本発明の光輝性画像(3)は、生産性の高いオフセット印刷で形成することが最も適当である。シーズに応じて、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷及び凹版印刷等で形成することもできる。また、デジタルプリンターを用いて形成する場合には、印刷物それぞれに異なった情報を付与する可変印刷が可能である。
【0045】
図2に本発明の効果を示す。本発明の偽造防止印刷物(1)を拡散反射光下で観察すると、
図2(a)に示すように光輝性画像(3)が濃淡で構成された可視画像として観察され、正反射光下においては、
図2(b)に示すように濃淡で構成された可視画像が目視上消失し、基材(2)のみが視認される。
【0046】
図3(a)に正反射光下で光輝性画像(3)中の可視画像が消失する効果を有する本発明の偽造防止印刷物(1)を示し、比較例として、
図3(b)に正反射光下で光輝性画像(3´)中の可視画像が消失する効果を有する従来の印刷物(A)を示す。いずれの技術も拡散反射光下で視認されていた濃淡を有する可視画像が、正反射光下で消失する効果を有する。しかし、階調表現域が50%以下に制限されて暗く沈んだ画像となる従来の印刷物(A)と比較して、本実施の形態の可視画像は階調表現域が100%であり、通常の絵画と何ら変わらないという特徴を有する。仮に観察者が光輝性画像(3)を予備知識なしで一見した場合、光輝性画像(3)中の可視画像が消失する効果を備えることを予想することは不可能である。
【0047】
本発明の偽造防止印刷物(1)において、従来よりも広い階調表現域を有する可視画像(3)が正反射光下で消失する原理について説明するために、まず、従来技術における問題点について説明する。従来技術において、50%以上の階調表現域で光輝性画像(3´)を構成した印刷物(1)を正反射光下で観察した場合には、
図10(b)に示すように、可視画像の濃淡が完全に消失しなかったり、
図10(c)に示すように、逆に画像の濃淡が反転したりして視認される。
【0048】
図10(b)に示すように、可視画像の濃淡が完全に消失しないのは、多くの場合、明暗フリップフロップ性を備えない非コート紙を基材(2)とした場合に生じる問題であり、基材(2)の平滑性や下地の光沢が不足していることに原因がある。着色光輝性インキ自体に優れた明暗フリップフロップ性が備わっていたとしても、基材(2)が明暗フリップフロップ性を備えない場合、すなわち、基材(2)の平滑性や下地の光沢が不足している場合には、基材(2)上に形成した光輝性画像(3´)の明暗フリップフロップ性は完全に損なわれるか、大きく低下するために、可視画像の濃淡が消失しない問題が生じる。本発明において、光輝性画像(3)は、明暗フリップフロップ性を有する基材(2)上、あるいは明暗フリップフロップ性を有する下地画像(8)上に形成するため、
図10(b)に示した可視画像の濃淡が消失しきらない問題は発生しない。
【0049】
逆に、従来技術の光輝性画像(3´)を、明暗フリップフロップ性を有する基材(2)上、あるいは明暗フリップフロップ性を有する下地画像(8)上に形成すると、多くの場合、
図10(c)に示すように、画像の濃淡が反転して視認される。光輝性インキの面積率が高い領域(拡散反射光下で暗く見える領域)は光を強く反射するため、正反射光下では明るく、面積率が低い領域(拡散反射光下で淡く見える領域)は光の反射が弱いため、正反射光下では暗く視認される。濃淡反転の現象は、光輝性画像(3´)が光を強く反射しすぎて(明度が上昇しすぎて)生じる問題である。また、コート紙のような明暗フリップフロップ性を有する基材(2)の明度の上昇割合に対して、光輝性画像(3´)の明度上昇の割合が大きすぎることも一つの原因となる。
【0050】
そのため、従来技術において光輝性画像(3´)の明度の上昇を適正な範囲に留めることができれば、濃淡反転の発生を抑制することができる。この問題を解決するためには、可視画像の面積率の高い領域と低い領域の差を小さくし、光輝性画像(3´)の面積率が異なる領域で構成された画像からの反射光の差を小さくすることで対応するのが一般的であったが、本発明においては、光輝性画像(3)の形成に用いる光輝性インキを着色光輝性インキに改良することで解決した。
【0051】
本発明の光輝性画像(3)の形成に用いる着色光輝性インキは、光輝性顔料と色材を混ぜ合わせるため、光輝性顔料の正反射時の明度の上昇を色材によって抑制する構造を有している。すなわち、インキ中の光輝性顔料の間に色材が混ざることで、光輝性顔料に入射する光を一定の割合で吸収するともに、光輝性顔料から生じた反射光を再び吸収・散乱する。着色光輝性インキにおける色材の混合割合を調整することで、光輝性画像(3)の正反射時の反射光を制御して、光輝性画像(3)中の面積率が高い領域と低い領域における明度差を小さくすることが可能となった。これにより、従来の問題であった濃淡反転の発生を抑制することができる。
【0052】
また、本実施の形態の光輝性画像(3)の消失効果は、単に光輝性画像(3)中の濃淡が完全にフラットになって消失するだけでなく、基材(2)と等色化して光輝性画像(3)と基材(2)との境目をも認識できなくなることに大きな特徴がある。本実施の形態において基材(2)と光輝性画像(3)の色相は同じと限定しているため、基材(2)と光輝性画像(3)の色彩の間には、明度差しか存在しない。そして、正反射時には、光輝性画像(3)の明度と、基材(2)の明度は極めて大きく上昇する。人間の目は、ある程度強い光(明度が高い光)を正確に捉えることが困難であるために、基材(2)と光輝性画像(3)の色彩の唯一の違いであった明度の違いを正確に捉えることは難しくなり、結果として同じ色彩として認識することとなる。なお、下地画像(8)の上に光輝性画像(3)を形成する場合も、正反射時に二つの画像の明度が極めて大きく上昇して、色彩の差を捉えることが難しくなり、結果として同じ色彩として認識することとなる。
【0053】
すなわち、目視上、光輝性画像(3)が基材(2)又は下地画像(8)と同じ色彩となって不可視になったと認識される。この光輝性画像(3)が基材(2)又は下地画像(8)の中に溶け込む効果を得たことによって、光輝性画像(3)の中に従来技術では不可能であった面積率0%の領域、すなわち、基材(2)又は下地画像(8)の表面が露出した領域を含んだ構成とすることが可能となった。これは、本発明の大きな特徴の一つである。
【0054】
さらに、光輝性顔料と色材を混ぜ合わせることで、光輝性顔料単独で用いたインキよりも色材分の濃度が高くなる。そのため、正反射光下の消失効果に加え、同時に拡散反射光下の可視画像の視認性も高まる。特に、オフセットインキとして明暗フリップフロップ性に優れる銀インキを用いる場合、色材を多く混ぜることができることから、拡散反射光下の可視画像の視認性を特に高めることができる。本実施の形態では、0%から100%までの範囲の面積率で構成された光輝性画像(3)について説明したが、仮に、従来の光輝性インキと同じ面積率で画像を形成していたとしても、光輝性インキよりも高い濃度を有するため、より視認性が高い画像となる。
【0055】
光輝性顔料と色材の配合割合は、光輝性顔料の性能や色材の着色力に依存するため、それぞれの材料ごとに適正な値は異なる。例えば、本発明の光輝性画像(3)の消失効果は、印刷する基材(2)の明暗フリップフロップ性の強さにも影響を受け、下地画像(8)を形成した場合には、その下地画像(8)の明暗フリップフロップ性の強さにも影響を受ける。さらに、観察する環境の中に、光源(4)から印刷物に直接入射する入射光の他に、拡散反射光や、壁や床等の反射を経た環境光等の存在割合によって、観察者が、光輝性画像(3)が消失したと認識する画像の濃度は大きく変化する。観察環境において、直接入射する入射光以外に環境光が存在しない場合には、光輝性画像(3)は極めて濃い濃度で形成しても完全な消失効果が生じるが、環境光が存在する場合、光輝性画像(3)の濃度を大きく下げなければ消失効果が低下する。また、光輝性画像(3)に直接入射する入射光だけであっても、多方向に光源(4)が存在し、異なる角度から入射する場合には、濃度を下げる必要がある。さらに、入射する入射光の強さにも影響を受ける。そのため、光輝性顔料と色材の配合割合は、着色光輝性インキの色や基材(2)や主に観察されると想定される環境に合わせてその都度調整をする必要がある。
【0056】
光輝性顔料と色材の配合割合の一例として、光輝性インキである銀インキと、同じ色相を有するプロセス黒インキを着色インキとして混ぜ合わせて灰色の着色光輝性インキを作製する場合、光輝性インキを100%とした場合、着色インキを5%から60%程度の配合割合で混合した場合(外割)に、本発明の消失効果が生じる。着色インキの配合割合が5%未満では従来技術と同様に明度が上がりすぎて濃淡反転し、あるいは60%を超える配合では明度が低すぎて画像が消失しない状態で視認される。配合の範囲が極めて広いのは、観察環境の光の状態に効果が大きく左右されるためである。最も大きな影響を受けるのが、環境光の存在であり、観察環境に環境光がなければ50%で着色インキを配合しても消失効果を得られるが、観察環境に環境光が多ければ10%前後まで着色インキの配合を減らす必要がある。
【0057】
また、着色光輝性インキを一般的なコート紙に印刷する場合、光輝性インキを100%とすると、着色インキは15%以上40%以下で混合することが好ましく、アート紙のような光沢が高い用紙を用いる場合には、着色インキを20%以上50%以下とすることが好ましい。
【0058】
なお、本発明の実施の形態においては、通常のオフィスに準じる環境、すなわち、2.5m程度の平均的な高さの天井に通常の蛍光灯が複数点灯して存在し、更に壁面にある窓から直接印刷物に入射する入射光はないが、一定の環境光は存在する環境を認証環境として設定している。具体的には、光輝性画像(3)に直接入射する光は天井の最も近い位置にある蛍光灯からの光であり、窓にはブラインドが配されて外部からの直接入射光はカットされているものの、ブラインド間から入射した窓の光と多数の蛍光灯の光とが、壁や床での反射を経て環境光として存在している一般的な環境である。これは長時間デスクワーク可能な程度に暗すぎず、明るすぎない環境である。空間の照度としては75~300lx程度の環境での認証を仮定している。JIS照明基準において、事務所の事務室やスーパーのレジスター周りにおける推奨照度として定められた照度である。
【0059】
このような観察環境で認証することを前提とすると、銀インキと黒インキを混合して着色光輝性インキを作製する場合、基材(2)や観察環境に対する冗長性が最も高いのは、着色インキを25%から35%までの配合とした場合である。
【0060】
また、本発明の光輝性画像(3)は、それ単独で用いて消失効果を認証することも可能であるが、カラー画像(6)や透明画像(7)、下地画像(8)、潜像入り下地画像(9)等と組み合わせて用いることによって、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載の従来の技術同様に、より認証性の高い画像のチェンジ効果を生じさせることができ、それらの構成について順に説明する。
【0061】
図4(a)に示すのは、光輝性画像(3)とカラー画像(6)を組み合わせた二層構造のチェンジ効果を有する偽造防止印刷物(1)であり、この組合せにおいては、明暗フリップフロップ性を有するコート紙又は下地画像(8)を備えた基材(2)とする必要がある。なお、
図4(a)に示す光輝性画像(3)とカラー画像(6)は、基材(2)又は下地画像(8)の上に形成されるが、ここでは、積層構造を示すため基材(2)を省略して図示しており、以降説明する透明画像(7)、下地画像(8)、潜像入り下地画像(9)を備える構成においても説明の便宜上、基材(2)を省略して図示する。カラー画像(6)は明暗フリップフロップ性を有さず、拡散反射光下から正反射光下にかけての光を強く反射しない一般的な着色インキで構成する。なお、
図4(a)の光輝性画像(3)とカラー画像(6)については、「木に咲く花及び小鳥」と「二つの桜の花」という異なる情報を現しているものの、お互いの色彩に共通性があるために拡散反射光下で合成画像として視認された場合でも違和感がない、いわゆる色彩共有性のある二つの画像を用いている。光輝性画像(3)とカラー画像(6)の色彩共有性については、特願2018-171050号公報に記載のとおりであり、詳細について説明する。
【0062】
図4(b)は、
図4(a)に示す二層構造のうち、カラー画像(6)のみの構成を示す図であり、カラー画像(6)は、少なくとも一つの有彩色を含む、色相の異なる二つ以上の色彩で構成され、色彩の違いによって有意情報(ここでは、「二つの桜の花」)を現す。カラー画像(6)は、少なくとも一つの有彩色を含んでいれば、残りは、無彩色でもよいし、カラー画像(6)が2種以上の有彩色で構成されてもよい。
図4(b)に示すカラー画像(6)は、「二つの桜の花」とその背景を現す画像とした例である。
【0063】
図4(b)に示すカラー画像(6)において左上にある「桜の花」はピンク色であり、右下にある「桜の花」は白色であり、二つの桜の花の中心の5角形は黄色であり、「二つの桜の花の葉」は緑色であり、背景は青色とした例である。すなわち、
図4に示すカラー画像(6)は、5つの色彩で構成されている。ここでは、
図4に示す5つの色彩で構成されたカラー画像(6)の例で説明するが、カラー画像(6)に適用し得る色彩には、後述する一定の制約はあるものの、カラー画像(6)に適用できる色相や色数はこれに限定されるものではない。
【0064】
図4(a)に示す構成において色彩共有性とは、光輝性画像(3)とカラー画像(6)が同じ色彩を共有できる構成を有することを示す。具体的には、
図4(b)に示す構成のカラー画像(6)の色彩配置を、そのまま光輝性画像(3)と重ね合わせて合成した場合に、左上の「木に咲く花」はピンク色で彩られ、左上の「木に咲く花の葉」は緑色で彩られ、右下の「小鳥」は白色と緑色で彩られ、その周囲の背景は青色の配された色彩配置となる。なお、「二つの桜の花」の中心には黄色が配されることとなるが、黄色の大きさが小さく目立つ配色でないため、ほとんどの観察者は気が付かない。このように、カラー画像(6)の色彩配置をそのまま光輝性画像(3)の濃淡画像と重ね合わせて合成した場合でも、光輝性画像(3)の図柄の濃淡とカラー画像(6)の色彩の構成がおおむね一致する構成を「カラー画像(6)と光輝性画像(3)の間に色彩共有性がある」と定義する。これは、観察者が光輝性画像(3)を一瞥した場合にその色彩に違和感を抱かせないために必要となる構成である。
【0065】
図4に示す構成の光輝性画像(3)とカラー画像(6)を備えた偽造防止印刷物(1)を、
図5(a)に示す観察者(5)と光源(4)の位置関係の拡散反射光下で観察した場合には、光輝性画像(3)の濃淡とカラー画像(6)の色彩が合成された画像が視認される。また、カラー画像(6)が現す「二つの桜の花」は、光輝性画像(3)の濃淡によって隠蔽されて観察者(5)には認識できない。
【0066】
また、
図4に示す構成の光輝性画像(3)とカラー画像(6)を備えた偽造防止印刷物(1)を、
図5(b)に示す観察者(5)と光源(4)の位置関係の正反射光下で観察した場合には、光輝性画像(3)の濃淡が消失し、カラー画像(6)が現す「二つの桜の花」が、複数の異なる色彩で表現された画像として視認される。以上のように、
図4に示す構成によれば、拡散反射光下と正反射光下でカラー画像がチェンジする効果がある。
【0067】
図4に示す構成の光輝性画像(3)とカラー画像(6)を備えた偽造防止印刷物(1)において、拡散反射光下と正反射光下で視認される画像がチェンジする原理は、以下のとおりである。
図5(a)に示す拡散反射光下において、光輝性画像(3)とカラー画像(6)は、それぞれ物体色を持つ画像であることから、観察者(5)には光輝性画像(3)とカラー画像(6)が同時に視認される。このため、拡散反射光下において、観察者(5)には光輝性画像(3)とカラー画像(6)が合成された画像である、「小鳥」と「木に咲く花」がカラー画像(6)の色彩を伴って視認される。一方の正反射光下においては、光輝性画像(3)が光を反射することで光輝性画像(3)の明度が上昇し、光輝性画像(3)の濃淡が圧縮され、結果として観察者(5)は光輝性画像(3)を視認できなくなる。一方のカラー画像(6)は、通常の着色インキで構成されているため、正反射光下においても色彩の大きな変化は生じない。光輝性画像(3)とカラー画像(6)のうち、光輝性画像(3)が視認できなくなれば、相対的にカラー画像(6)を視認しやすくなる。正反射光下では、これまで画像の中の色彩しか認識できなかったカラー画像(6)が鮮明に認識できる状態となり、観察者(5)は「二つの桜の花」を視認することが可能となる。
【0068】
以上が、
図4に示す構成の偽造防止印刷物(1)の効果発現の原理の説明であるが、カラー画像(6)が現す「二つの桜の花」の各部が、正反射光下で区分けして視認されるためには、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが6.5以上である必要がある。例えば、「右下の桜の花」と「背景」の色差、「左上の桜の花」と「背景」の色差、「二つの桜の花」と「二つの桜の花の葉」の色差ΔEが6.5以上である。なお、正反射光下で視認することはできないが、カラー画像(6)が上記構成を満たす領域を少なくとも備えていれば、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが6.5より小さい領域を備えていてもよい。
【0069】
また、
図4(a)に示すように、光輝性画像(3)とカラー画像(6)が現す図柄が異なる場合、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEが30を超えると、拡散反射光下で、光輝性画像(3)がカラー画像(6)の図柄を隠蔽できなくなる場合があることから、カラー画像(6)において、異なる色彩で隣接する領域間の色差ΔEは30以下に止めることが望ましい。一方、カラー画像(6)が現す図柄の少なくとも一部と、光輝性画像(3)が現す図柄の少なくとも一部が同じであって、同じ図柄が同じ位置で重なる場合、当該領域のカラー画像(6)の図柄に隣接するカラー画像(6)領域は、色差ΔEが30より大きくてもよい。この場合、当該領域において、拡散反射光下で画像がチェンジする効果は生じないが、色彩のみ変化することとなる。以上が、
図4に示す光輝性画像(3)とカラー画像(6)の説明であるが、詳細は、特願2018-171050号公報に記載のとおりである。
【0070】
図6(a)に示すのは、光輝性画像(3)と透明画像(7)を組み合わせた二層構造のチェンジ効果を有する偽造防止印刷物(1)であり、この組合せにおいては、明暗フリップフロップ性を有するコート紙を基材(2)とする必要がある。透明画像(7)は正反射時の明度が基材(2)よりも低いことが望ましく、マットな透明インキを用いて形成する。具体的には、一般的な印刷インキのOPニスやメジューム、レジューサー等の名称で販売されている着色されていないインキを用いて形成することができる。また、透明画像(7)は、面積率の差により、正反射光下で視認できる図柄(ここでは、「二つの桜の花」)を現し、0%から100%までの面積率で図柄を表現することができる。
【0071】
図6(b)に示すのは、光輝性画像(3)と透明画像(7)に加え、明暗フリップフロップ性を有する下地画像(8)を組み合わせた三層構造のチェンジ効果を有する偽造防止印刷物(1)である。この組合せにおいては、コート紙に加え、上質紙やコットン紙等の非コート紙も基材(2)として用いることができる。また、透明画像(7)は、
図6(a)に示す構成と同じであり、同様にして形成することができる。
【0072】
図6(c)に示すのは、光輝性画像(3)と潜像入り下地画像(9)を組み合わせた二層構造のチェンジ効果を有する偽造防止印刷物(1)である。この組合せにおいても
図6(b)に示す偽造防止印刷物(1)と同じ基材(2)を用いることができる。潜像入り下地画像(9)は、透明、あるいは半透明である必要があり、可能な限り明暗フリップフロップ性が高いことが望ましく、下地画像(8)と同様な手段によって形成することができる。なお、
図6(c)に示す潜像入り下地画像(9)は、可視画像とは異なる図柄の輪郭を現した領域(ここでは、「二つの桜の花」の例)を有し、当該領域は、潜像入り下地画像(9)の一部を白抜き(面積率0%)とするか、周囲の領域より面積率を低くした構成である。
【0073】
図7に
図6(a)から
図6(c)までに示した偽造防止印刷物(1)の効果のイメージを示す。
図6(a)に示した偽造防止印刷物(1)は、拡散反射光下において透明画像(7)は視認されないため、光輝性画像(3)のみが視認される。正反射光下においては、基材(2)からの光の反射によって明度差が生じて、それまで不可視だった透明画像(7)が可視化される一方、それまで可視だった光輝性画像(3)は明度が上昇することで不可視となり、画像がチェンジする。その結果、
図7(a)に示すような、拡散反射光下で視認される「小鳥」と「木に咲く花」から、正反射光下で「二つの桜の花」に視認される画像がチェンジする効果が得られる。
【0074】
図6(b)に示した偽造防止印刷物(1)は、
図6(a)に示した光輝性画像(3)と透明画像(7)を備えており、積層順は異なるが同じ原理で視認される画像がチェンジする。なお、
図6(a)の技術において基材(2)が担っていた役割を下地画像(8)が担う。すなわち、下地画像(8)が、正反射時に基材(2)の明度を上げる役割を果している。
【0075】
図6(c)に示した偽造防止印刷物(1)は、拡散反射光下において透明な潜像入り下地画像(9)は視認されないため、光輝性画像(3)のみが視認される。正反射光下においては、それまで不可視だった透明な潜像入り下地画像(9)が強く光を反射して可視化される一方、それまで可視だった光輝性画像(3)は明度が上昇することで不可視となり、
図7(b)に示すように視認される画像がチェンジする。
図6(c)の潜像入り下地画像(9)は、
図6(b)における下地画像(8)と透明画像(7)を一体化させた構成である。
【0076】
図8(a)に示すのは、光輝性画像(3)と透明画像(7)とカラー画像(6´)と下地画像(8)を組み合わせた四層構造のチェンジ効果を有する偽造防止印刷物(1)であり、
図6(b)に示す偽造防止印刷物(1)と同じ基材(2)を用いることができる。また、
図8(a)の透明画像(7)は、
図6(b)に示す構成と同じであり、同様にして形成することができる。透明画像(7)は、透明又は半透明であり、拡散反射光下では不可視だが、正反射光下において可視化される。透明画像(7)は、下地画像(8)よりも明度が低く、カラー画像(6´)は拡散反射光下から正反射光下にかけての光を強く反射しないことが望ましい。また、
図8(a)の下地画像(8)は、
図6(b)に示す下地画像(8)と同じ構成であり、同様にして形成することができる。また、
図8(a)に示すカラー画像(6´)は、特願2018-171051号公報に記載の構成であり、詳細について説明する。
【0077】
図8(a)に示すカラー画像(6´)は、少なくとも一つの有彩色を含む、色相の異なる二つ以上の色彩で構成され、光輝性画像(3)に加えて透明画像(7)とも色彩共有性を有し、拡散反射光下では光輝性画像(3)が現す図柄の色彩を現し、正反射光下では透明画像(7)が現す図柄の色彩を現す。このように、光輝性画像(3)と透明画像(7)の異なる二つの画像の濃淡とカラー画像(6´)の色彩が矛盾なく適合する特性を「光輝性画像(3)及び透明画像(7)は、カラー画像(6´)と色彩共有性を有する」と定義する。なお、カラー画像(6´)は、少なくとも一つの有彩色を含んでいれば、残りは、無彩色でもよいし、カラー画像(6´)が2種以上の有彩色で構成されてもよい。
【0078】
「光輝性画像(3)及び透明画像(7)は、カラー画像(6´)と色彩共有性を有する」とは、言い換えれば、光輝性画像(3)が現す図柄と、透明画像(7)が現す図柄に色彩共有性があることと同義であるため、まず、光輝性画像(3)と透明画像(7)をデザインする段階で、色彩とその配置に共有性がある構成とする必要がある。
【0079】
実際に、光輝性画像(3)と透明画像(7)にカラー画像(6´)との色彩共有性があるか否かは、画像処理ソフト上や製版フィルム上等で光輝性画像(3)とカラー画像(6´)を合成した合成画像を視認して合成画像の濃淡と色彩に矛盾がないかを確認し、また、同じく透明画像(7)とカラー画像(6´)を合成した合成画像を視認して合成画像の濃淡と色彩に矛盾がないかを確認する必要がある。
【0080】
そのためには、まず、カラー画像(6´)が有する色彩によって表現される光輝性画像(3)の図柄と透明画像(7)の図柄の配置が似た画像として、デザインする必要がある。具体的には、
図8(a)に示す構成において、光輝性画像(3)が現す「木に咲く花」と、透明画像(7)が現す「左上の桜の花」の領域が重複し、光輝性画像(3)が現す「小鳥」と、透明画像(7)が現す「右下の桜の花」の領域が重複した構成としており、画像が重複する領域では、カラー画像(6´)が有する色彩を共有することができる。
【0081】
光輝性画像(3)と透明画像(7)のデザインを工夫した上で、それ以上の色彩共有の余地がなくなった場合、又は顧客が光輝性画像(3)と透明画像(7)をデザインし、設計側でデザインの改善の余地がない場合等、これ以上のデザイン上での改善が望めず、いまだ濃淡と色彩に大きな矛盾が生じる場面では、カラー画像(6´)の矛盾がある領域の色彩を調整するか、ぼかしやグラデーション等の画像処理を施す等の工夫を施す必要がある。以下に、色彩共有性を高めるいくつかの手段を記載する。
【0082】
色彩共有性を高める、すなわち、濃淡と色彩の矛盾をなくす最も確実で容易な方法は、矛盾のある領域のカラー画像(6´)の色彩を無彩色に近づける方法である。すなわち、カラー画像(6´)の矛盾のある部分の色彩の彩度を下げればよい。当然のことながら、カラー画像(6´)が白色や灰色、黒色等の無彩色のみで構成される場合、光輝性画像(3)と透明画像(7)の濃淡に対するカラー画像(6´)の色彩との矛盾は存在しない。このため、カラー画像(6´)の彩度を落とせば、光輝性画像(3)と透明画像(7)がどんな画像の組合せであったとしても、濃度と色彩の矛盾は小さくなり、色彩共有性は必ず相対的に高まる方向へと改善される。ただし、カラー画像(6´)が無彩色に近づけば近づくほど、カラー化の効果は損なわれ、効果が低下する。彩度を下げる割合は、矛盾が目立つ領域に限定して、可能な限り最小限の幅に止めることが望ましい。彩度C*が3以上あれば、いかなる高い面積率で光輝性画像(3)が重ねられたとしても、有彩色と認識できるため、カラー画像(6´)は、彩度C*が3以上の少なくとも一つの色彩を備えることが望ましい。なお、彩度C*は、CIEのL*a*b*の色空間での数値とする。
【0083】
また、カラー画像(6´)の色彩を調整することの他に、カラー画像(6´)を部分的にぼかすことも、濃淡と色彩の矛盾を解消する上で有効である、ぼかし処理は、一般的な画像処理ソフトの効果の一つとして搭載された機能を用いればよい。ぼかし処理を施すと、色彩の境目がぼやけて周囲の色彩と区別して認識されにくくなるため、色彩構成の冗長性を高めることができる。カラー画像(6´)に対して、光輝性画像(3)と透明画像(7)の二つの異なる画像に対する色彩共有性を付与するためには、ぼかし処理は好ましい画像処理である。また、色彩を緩やかに変化させるグラデーション処理等も同様に有効である。
【0084】
このように、光輝性画像(3)と透明画像(7)のデザインの段階で色彩配置に配慮した上で、部分的に彩度を調整したり、画像をぼかしたり、グラデーションを用いることで、それぞれの画像に対して色彩共有性を有したカラー画像(6´)を形成することができる。
【0085】
以上が、
図8(a)に示すカラー画像(6´)の説明であるが、詳細は、特願2018-171051号公報に記載のとおりである。
図8(a)の技術は、透明画像(7)と下地画像(8)は透明であり、光輝性画像(3)とカラー画像(6´)のみが物体色を有しているため、拡散反射光下では、光輝性画像(3)とカラー画像(6´)の合成画像が視認される。正反射光下では、下地画像(8)によって画像全体が強く光を反射し、光輝性画像(3)のみが消失し、透明画像(7)は下地画像(8)との明度差によって可視となる。よって、正反射光下では透明画像(7)とカラー画像(6´)の合成画像が視認される。以上の原理によって、拡散反射光下と正反射光下において画像のチェンジ効果が生じる。
図4の構成の偽造防止印刷物(1)と異なり、正反射光下で出現する画像はカラー画像(6´)と透明画像(7)の合成画像であるため、
図4の構成の偽造防止印刷物(1)より視認性が高く、繊細な画像表現が可能である。
【0086】
図8(b)に示すのは、光輝性画像(3)とカラー画像(6´)と潜像入り下地画像(9)を組み合わせた三層構造のチェンジ効果を有する偽造防止印刷物(1)である。この組合せにおいても、
図6(b)に示す偽造防止印刷物(1)と同じ基材(2)を用いることができる。また、カラー画像(6´)は、光輝性画像(3)と潜像入り下地画像(9)と色彩共有性を備えた画像であり、
図8(a)で説明した構成と同様である。
【0087】
図8(b)に示す構成の偽造防止印刷物(1)は、拡散反射光下において透明な潜像入り下地画像(9)は視認されず、光輝性画像(3)とカラー画像(6´)の合成画像が視認される。正反射光下においてそれまで不可視だった透明な潜像入り下地画像(9)が強く光を反射して可視化される一方、それまで可視だった光輝性画像(3)は明度が上昇することで不可視となり、透明な潜像入り下地画像(9)とカラー画像(6´)の合成画像にチェンジする。
図8(b)の潜像入り下地画像(9)は、
図8(a)における下地画像(8)と透明画像(7)を一体化させた構成である。以上のような原理でそれぞれの技術において画像のチェンジ効果が生じる。
【0088】
以上のように、本発明の光輝性画像(3)は単独で用いるだけでなく、カラー画像(6)や透明画像(7)等と重ね合わせて構成することによって、画像のチェンジ効果を付与することができる。なお、組合せの層構造は
図4、
図6及び
図8の構成に限定されるものではなく、下地画像(8)及び潜像入り下地画像(9)が光輝性画像(3)と透明画像(7)よりも下層に存在することを条件として、その他の画像については自由に積層順を入れ替えても問題ない。
【0089】
特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載の技術における光輝性画像(3´)は、正反射時の光輝性画像(3´)の消失効果と、潜像を浮かび上がらせるための明度の上昇効果の二つの効果を担っている。一方、本発明の光輝性画像(3)は、正反射時の消失効果のみを有し、潜像を強く浮かび上がらせるための明度の上昇効果は、基材(2)、下地画像(8)又は潜像入り下地画像(9)が担う。このため、従来の技術のように潜像を強く浮かび上がらせることを目的として光輝性画像(3)の網点面積率を高く構成する必要がなくなり、光輝性画像(3)に濃度が淡く、繊細な画像表現を用いることができ、面積率0%の領域があったとしても、正反射光下で出現する潜像画像の見え方に悪影響を与えることがない。
【0090】
なお、本発明で基材(2)として用いることが可能な「明暗フリップフロップ性を備える基材」は、少なくとも60度光沢度で15以上である必要がある。一般的なコート紙であれば通常20以上の60度光沢度を有するため、本発明の「明暗フリップフロップ性を備える基材」として適用することができる。一方、一般的な上質紙の60度光沢度は6から7程度であり、これらの基材(2)は本発明の「明暗フリップフロップ性を備える基材」として適用することはできないため、「明暗フリップフロップ性を備えない基材」となる。これらの「明暗フリップフロップ性を備えない基材」に対しては、「明暗フリップフロップ性を備える下地画像」を形成する必要がある。この「明暗フリップフロップ性を備える下地画像」の光沢度についても、少なくとも60度光沢度で15以上である必要がある。それ以下では、本発明の光輝性画像(3)の消失効果が十分に発揮できないためである。
【0091】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した偽造防止印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0092】
本発明の実施例について、実施の形態と同様に
図1及び
図2を用いて説明をする。まず、基材(2)として、明暗フリップフロップ性が高い白色のコート紙(エスプリコートFM:日本製紙製)を用いた。この用紙の60度光沢度は68.2であった。次に着色光輝性インキを作製した。着色光輝性インキの作製においては二つのインキを混合して作製した。光輝性インキには銀色のオフセットインキ(DIC製 ダイキュア R シルバー)を用い、着色インキには黒色のオフセットインキ(T&K TOKA製 UV161墨S)を用いた。銀インキは75%、着色インキは25%の割合で混合して明暗フリップフロップ性を有する灰色の着色光輝性インキを作製した。
【0093】
図1に示す「木に咲く花」と「小鳥」を可視画像として、面積率0%から90%までの階調を有する構成とした。背景部分の面積率は0%であり、「花」は面積率5%から15%、「小鳥」は面積率5%から70%まで、「木の枝」は面積率70%から80%まで、それぞれの画像の輪郭は面積率80%から90%までで表した。なお、90%を超える面積率を用いなかったのは、一般的な印刷トラブルである「むかれ」を防止するためである。「むかれ」とは、主に90%から100%までの面積率の高い領域において局所的に細かく紙が剥かれる現象である。これは、オフセット印刷によって連続製造するための常識的な配慮であり、本発明の技術的な問題からの制約ではない。
【0094】
作製した灰色の着色光輝性インキを用いて、基材(2)上にオフセット校正印刷機によって、
図1に示す「木に咲く花」と「小鳥」を可視画像とした光輝性画像(3)をウェットオフセット印刷し、本発明の偽造防止印刷物(1)を得た。効果を
図2に示す。本発明の偽造防止印刷物(1)を拡散反射光下で視認した場合、
図2(a)に示すように可視画像が視認できた。本発明の偽造防止印刷物(1)を正反射光下で視認した場合、
図2(b)に示すように可視画像が消失し、目視上不可視となる効果を視認できた。
【実施例2】
【0095】
実施例2として、光輝性画像(3)を単独で用いるのではなく、明暗フリップフロップ性が高い潜像入り下地画像(9)と組み合わせ、画像のチェンジ効果を付与した形態について
図6(c)及び
図7(b)を用いて説明をする。着色光輝性インキと光輝性画像(3)の構成については、実施例1と同じである。基材(2)は厚みのあるファンシーペーパー(グラディオスCC 日本製紙製)を用いた。潜像入り下地画像(9)は、面積率100%のベタの中に「二つの桜の花びら」と「9枚の葉」を画線幅0.12mmの面積率0%のヌキの線で潜像を表現した。下地画像(8)の60度光沢度は、27.8であった。インキは、UV乾燥型の透明なスクリーンインキ(UV FIL-383クリアー 帝国インキ製)を用いてスクリーン印刷した。その上に光輝性画像(3)を重ね合わせてチェンジタイプの偽造防止印刷物(1)を形成した。
【0096】
図7(b)に本発明の偽造防止印刷物(1)の効果を示す。本発明の偽造防止印刷物(1)を拡散反射光下で視認した場合、
図7(b)左図に示すように可視画像が視認できた。本発明の偽造防止印刷物(1)を正反射光下で視認した場合、
図7(b)右図に示すように可視画像が消失し、「二つの桜の花びら」と「9枚の葉」を現した潜像が出現し、二つの異なる画像がチェンジする効果を視認できた。
【0097】
(比較例)
比較例として、「明暗フリップフロップ性を備えない基材」に対して、光輝性画像(3)を直接印刷して、その消失効果を確認した。着色光輝性インキと光輝性画像(3)の構成については、実施例1と同じである。基材(2)は一般的な上質紙(しらおい 日本製紙製)を用いた。本基材(2)の60度光沢度は6.4であった。基材(2)上に光輝性画像(3)を重ね合わせて消失タイプの偽造防止印刷物(1)を形成した。
【0098】
比較例の偽造防止印刷物(1)を拡散反射光下で視認した場合、
図10(a)に示すように可視画像が視認できた。しかし、本発明の偽造防止印刷物(1)を正反射光下で視認した場合、可視画像が消失せず、光輝性画像(3)が消失する効果を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0099】
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 光輝性画像
3´ 従来の光輝性画像
4 光源
5 観察者
6、6´ カラー画像
7 透明画像
8 下地画像
9 潜像入り下地画像