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特許7186081押出方式の積層造形用水硬性組成物、水硬性モルタル及びその硬化体
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  • 特許-押出方式の積層造形用水硬性組成物、水硬性モルタル及びその硬化体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】押出方式の積層造形用水硬性組成物、水硬性モルタル及びその硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20221201BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20221201BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221201BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221201BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20221201BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20221201BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20221201BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20221201BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20221201BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C04B28/04
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y70/00
C04B18/14 Z
C04B22/06 A
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B24/26 E
C04B24/32 A
C04B24/38 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018242226
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105023
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】関 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 拳
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 光
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105601215(CN,A)
【文献】特開2017-024979(JP,A)
【文献】コンクリート総覧,第1版,技術書院,1998年,P.90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02, C04B40/00-40/06, C04B103/00-111/94
B28B 1/30
B33Y 10/00,70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントと、
セルロース系増粘剤と、
シリカフュームと、
細骨材と、
流動化剤と、
無機系膨張材と、
消泡剤と、
を含み、
前記細骨材の含有量が前記ポルトランドセメント100質量部に対して50質量部~218.5質量部であり、
前記セルロース系増粘剤の含有量及び前記シリカフュームの含有量が下記式(1)及び式(2)の関係を満た
前記セルロース系増粘剤の1質量%水溶液が以下の条件1及び条件2を満たす、押出方式の積層造形用水硬性組成物。
-30X+11.0<Y<-30X+27.5 (1)
1.0<Y<10.0 (2)
[式中、Xはポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の含有量を示し、Yはポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの含有量を示す。]
(条件1)セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度0.1s -1 における粘度が1Pa・s~20Pa・sである。
(条件2)セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度30s -1 における粘度が0.001Pa・s~0.015Pa・sである。
【請求項2】
前記シリカフュームのBET比表面積が15m/g~25m/gである、請求項に記載の押出方式の積層造形用水硬性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の押出方式の積層造形用水硬性組成物と、
水と、
を含む、水硬性モルタル。
【請求項4】
請求項に記載の水硬性モルタルの硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用水硬性組成物、水硬性モルタル及びその硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形法は、目的とする造形物の3次元データを元にして、樹脂、金属、セラミックなどの材料を2次元加工することを繰り返し、積層・造形する方法である。その中で、材料押出方式は、造形材料を直接ノズルなどの開口部を通して選択的に押し出しながら積み重ねていく方法であり、代表的なものでは、熱可塑性樹脂を溶かしながら積層する熱溶解積層法などが挙げられる。また、近年では、セメントや粘土鉱物スラリーを用いた押出方式の積層造形技術の研究も積極的に行われている。
【0003】
材料押出方式の積層造形を行うにあたり、積層造形用材料に求められる性能としては、例えば「材料の押し出し易さ(以下、押出し性)」、「ノズルから押し出された後の硬化前の材料が自重で変形しないこと(以下、積層性)」等が挙げられる。一般的に材料の押出し性と積層性とはトレードオフの関係にあり、例えば流動性が高く押出し性が良好な材料は、積層した形状を保持できず、崩壊する可能性が高い。つまり、これらの相反する性能のバランスが非常に重要である。
【0004】
造形用セメント組成物や、造形用セメント組成物を使った造形物の製造方法としては、例えば、特許文献1のような方法が開示されている。造形する目的によっては、造形物に機械的な強度が求められることがある。積層造形物は、型枠に流し込んで成型した造形物に比べると、積層の継ぎ目部分の付着性によっては、強度低下、ひび割れ、さらには構造物の耐久性の低下に繋がることも知られている。こうした積層間の接着の課題に対しては、セメント系材料を積層する際に、凝結遅延剤を層間に設けることで、層間の付着強度を高めて、一体性を確保する方法が、特許文献2で報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-24979号公報
【文献】特開2017-119360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の図1を見ると、造形物にはモルタルのダレが生じており、目的とする形状に対して、正確に造形できているとは言い難い。このように変形してしまうと、新たに造形物の形状を修正する工程が必要となる。また、特許文献2においても、主材となるセメント系材料の造形工程のほかに、凝結遅延剤を積層間に設ける工程が必要となる。こうなると時間やコストを要してしまい、積層造形のメリットを十分に活かすことができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みたものであり、押出し性及び積層性に優れ、且つ、硬化後に高い層間付着強度を有する積層造形用水硬性組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記積層造形用水硬性組成物を含む水硬性モルタル及びその硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層造形用水硬性組成物は、ポルトランドセメントと、セルロース系増粘剤と、シリカフュームと、細骨材とを含み、細骨材の含有量がポルトランドセメント100質量部に対して50質量部~250質量部であり、セルロース系増粘剤の含有量及びシリカフュームの含有量が下記式(1)及び式(2)の関係を満たす。
-30X+11.0<Y<-30X+29.0 (1)
1.0<Y<10.0 (2)
[式中、Xはポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の含有量を示し、Yはポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの含有量を示す。]
【0009】
上記積層造形用水硬性組成物は、細骨材の含有量が特定の範囲であるとともに、セルロース系増粘剤の含有量及びシリカフュームの含有量が特定の関係を満たすことで、押出し性及び積層性に優れ、且つ、硬化後に高い層間付着強度を有する。
【0010】
セルロース系増粘剤として、当該セルロース系増粘剤の1質量%水溶液が以下の条件1,2を満たすものを使用することが好ましい。セルロース系増粘剤がこれらの条件を満たすことで、押出し性、積層性及び硬化後の層間付着強度の全てをより一層高度に達成し得る。
(条件1)セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度0.1s-1における粘度が1Pa・s~20Pa・sである。
(条件2)セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度30s-1における粘度が0.001Pa・s~0.015Pa・sである。
なお、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の上記粘度はレオストレスメーターMCR101(AntonPaar社製)にて測定される。
【0011】
シリカフュームのBET比表面積は15m/g~25m/gであることが好ましい。シリカフュームのBET比表面積が上記範囲であることで、押出し性及び積層性をより一層向上し得る。「BET比表面積」は日本ベル株式会社製のBELSORP-mini II(商品名)を使用し、BET多点法で測定される。
【0012】
上記積層造形用水硬性組成物は、流動化剤を更に含んでもよく、無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤からなる群から選択される少なくとも1種を更に含んでもよい。
【0013】
本発明の他の一側面は、上記積層造形用水硬性組成物及び水を含む、水硬性モルタルに関する。本発明の他の一側面は、上記水硬性モルタルの硬化体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、押出し性及び積層性に優れ、且つ、硬化後に高い層間付着強度を有する積層造形用水硬性組成物が提供される。また、本発明によれば、上記積層造形用水硬性組成物を含む水硬性モルタル及びその硬化体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例に係る水硬性組成物のセルロース系増粘剤の含有量及びシリカフュームの含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<積層造形用水硬性組成物>
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物は、ポルトランドセメントと、セルロース系増粘剤と、シリカフュームと、細骨材とを含む。細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して50質量部~250質量部である。セルロース系増粘剤の含有量及びシリカフュームの含有量は、下記式(1)及び式(2)の関係を満たす。
-30X+11.0<Y<-30X+29.0 (1)
1.0<Y<10.0 (2)
[式中、Xはポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の含有量を示し、Yはポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの含有量を示す。]
【0018】
細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して50質量部~250質量部であり、好ましくは53質量部~240質量部、55質量部~235質量部又は57質量部~230質量部であってもよい。細骨材の含有量が上記範囲であると、押出し性及び積層性により優れる。
【0019】
本実施形態において、セルロース系増粘剤及びシリカフュームの含有量が上記式(1)及び(2)で表される条件を満たすことで、後述の実施例及び比較例の結果からも理解されるように、押出し性及び積層性に優れ、且つ、硬化後に高い層間接着強度を有する積層造形用水硬性組成物を実現できる。
【0020】
セルロース系増粘剤の含有量及びシリカフュームの含有量は、より一層優れた押出し性及び積層性を達成する観点から、下記式(1A)を満たすことが好ましい。
-30X+12.5<Y<-30X+27.5 (1A)
【0021】
セルロース系増粘剤の含有量は、押出し性、積層性及び層間付着強度を保持する観点から、下記式(2A)を満たすことが好ましく、下記式(2B)を満たすことがより好ましい。
2.0<Y<9.0 (2A)
3.0<Y<8.0 (2B)
【0022】
セルロース系増粘剤の含有量(X)は、ポルトランドセメント100質量部に対して0.10質量部~0.90質量部であることが好ましく、0.15質量部~0.85質量部であることがより好ましく、0.20質量部~0.80質量部又は0.25質量部~0.75質量部であってもよい。セルロース系増粘剤の含有量が上記範囲であると、押出し性、積層性及び硬化後の層間付着強度の全て(特に、押出し性)をより一層高度に達成し得る。
【0023】
セルロース系増粘剤の含有量(X)に対するシリカフュームの含有量(Y)の比(Y/X)は、例えば、1.1~100であり、1.2~67又は1.25~50であってもよい。Y/Xが上記範囲であると、押出し性、積層性及び硬化後の層間付着強度の全て(特に、積層性)をより一層高度に達成し得る。
【0024】
(ポルトランドセメント)
ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等であってよい、ポルトランドセメントは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
ポルトランドセメントは、好ましくは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントからなる群から選択される少なくとも一種である。このようなポルトランドセメントであると、積層造形用水硬性組成物を用いて調製した積層造形可能なセメント材料の硬化特性が良好となる。
【0026】
(セルロース系増粘剤)
セルロース系増粘剤は、有機系増粘剤の一種である。セルロース系増粘剤としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。セルロース系増粘剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
セルロース系増粘剤は、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種を主成分として含むことが好ましい。なお、本明細書において、「主成分として含む」とは、50質量%以上含むことを意味する。
【0028】
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物は、セルロース系増粘剤以外の有機系増粘剤を含んでいてよい。セルロース系増粘剤以外の有機系増粘剤としては、例えば、デンプン系増粘剤、グアーガム系増粘剤、ビニル系増粘剤等が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物が、セルロース系増粘剤以外の有機系増粘剤を含む場合、セルロース系増粘剤の含有量は、有機系増粘剤100質量部に対して、50質量部以上用いることが好ましい。
【0030】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液は以下の条件1,2を満たすことが好ましい。
(条件1)セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度0.1s-1における粘度が1Pa・s~20Pa・sである。
(条件2)セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度30s-1における粘度が0.001Pa・s~0.015Pa・sである。
条件1に関し、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度0.1s-1における粘度は、5Pa・s~15Pa・sであることがより好ましく、7Pa・s~13Pa・s又は8Pa・s~12Pa・sであってもよい。条件2に関し、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の温度20℃及びせん断速度30s-1における粘度は、0.002Pa・s~0.013Pa・sであることがより好ましく、0.003Pa・s~0.01Pa・s又は0.004Pa・s~0.009Pa・sであってもよい。セルロース系増粘剤が条件1,2を満たすことで、押出し性、積層性及び硬化後の層間付着強度の全てをより一層高度に達成し得る。
【0031】
(シリカフューム)
シリカフュームは、無機系増粘材の一種である。シリカフュームの主成分は、シリカである。シリカフュームとしては、例えば、JIS A 6207-2006「コンクリート用シリカフューム」で規定されるシリカフューム等が挙げられる。本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物がシリカフュームを含むことにより、押出し性及び積層性に優れる。
【0032】
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物は、シリカフューム以外の無機系増粘材を含んでいてよい。シリカフューム以外の無機系増粘材としては、例えば、ベントナイト、カオリナイト、タルク等が挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物が、シリカフューム以外の無機系増粘材を含む場合、シリカフュームの含有量は、無機系増粘材100質量部に対して、50質量部以上用いることが好ましく、70質量部以上用いることがより好ましい。
【0034】
シリカフュームのBET比表面積は、好ましくは15m/g~25m/g、より好ましくは16m/g~24m/g、更に好ましくは17m/g~23m/gである。シリカフュームのBET比表面積が上記範囲にあると、押出し性及び積層性により優れる。
【0035】
(細骨材)
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂等の砂類、ウレタンフォーム、EVA(エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂)フォーム及び発泡樹脂等の粉砕物、並びにアルミナセメントクリンカー細骨材等が挙げられる。
【0036】
細骨材の粒子径は、水硬性モルタルの押出しやすさの観点から、好ましくは2000μm未満、より好ましくは1180μm未満である。細骨材の粒子径は、JIS Z 8801-2006に規定される目開き寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。
【0037】
(その他の成分)
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、ポルトランドセメント、有機系増粘剤、無機系増粘材及び細骨材以外の成分を更に含んでいてもよい。
【0038】
[流動化剤]
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、流動化剤を更に含んでいることが好ましい。流動化剤を含んでいることにより、押出し性及び積層性により優れ、且つ、硬化後の層間接着強度により優れる。
【0039】
流動化剤としては、例えば、ポリカルボン酸系流動化剤等が挙げられる。ポリカルボン酸系流動化剤の具体例としては、ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤、変形ポリカルボン酸系流動化剤等が挙げられる。流動化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
流動化剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~0.08質量部、より好ましくは0.02質量部~0.06質量部、更に好ましくは0.03質量部~0.05質量部である。流動化剤の含有量が上記範囲であると、押出し性及び積層性を更に向上させることができる。
【0041】
[無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤、凝結調整剤、繊維]
本実施形態に係る積層造形用水硬性組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤からなる群から選択される少なくとも1種を更に含んでいることが好ましい。無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の合計含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~8.5質量部、より好ましくは0.15質量部~7.85質量部、更に好ましくは0.2質量部~7.2質量部である。
【0042】
[無機系膨張材]
無機系膨張材を用いることにより、積層造形用水硬性組成物は、硬化後の層間接着強度がより向上する。無機系膨張材としては、例えば、生石灰-石膏系膨張材、石膏系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材等であってよく、層間接着強度の観点から、好ましくは生石灰-石膏系膨張材である。無機系膨張材は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
無機系膨張材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは3質量部~7質量部であり、より好ましくは3.5質量部~6.5質量部であり、更に好ましくは4質量部~6質量部である。無機系膨張材の含有量が上記範囲であると、積層造形用水硬性組成物は、硬化後の層間接着強度がより向上する。
【0044】
[消泡剤]
消泡剤を用いることにより、積層造形用水硬性組成物は、硬化後の層間接着強度がより向上する。消泡剤としては、例えば、鉱油系、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系等の合成物質又は植物由来の天然物質等であってよく、分散性及び持続性の観点から、好ましくはポリエーテル系の消泡剤及び鉱油系の消泡剤である。消泡剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
消泡剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.2質量部~0.5質量部、より好ましくは0.25質量部~0.45質量部、更に好ましくは0.3質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量が上記範囲であると、積層造形用水硬性組成物は、硬化後の層間接着強度がより向上する。
【0046】
[収縮低減剤]
収縮低減剤を用いることにより、積層造形用水硬性組成物は、硬化後のひび割れが生じにくくなるとともに、硬化後の層間接着強度がより向上する。収縮低減剤としては、例えば、低級・高級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル誘導体、ポリエーテル誘導体等であってよく、積層造形用水硬性組成物の寸法安定性を高めて、層間接着強度を更に向上させる観点から、好ましくはポリエーテル誘導体である。収縮低減剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
収縮低減剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部、より好ましくは0.15質量部~0.45質量部、更に好ましくは0.2質量部~0.4質量部である。収縮低減剤の含有量が上記範囲であると、硬化物のひび割れの発生が生じにくくなるとともに、層間接着強度をより向上させることが可能となる。
【0048】
[凝結調整剤]
凝結調整剤を用いることにより、硬化時間を調整することができるため、適度な可使時間を確保することができる。凝結調整剤としては、例えば、ナトリウム塩等が挙げられる。ナトリウム塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等の無機ナトリウム塩、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等の有機ナトリウム塩等が挙げられる。凝結調整剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
凝結調整剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部、より好ましくは0.15質量部~0.45質量部、更に好ましくは0.2質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量が上記範囲であると、適度な可使時間を確保することができる。
【0050】
[繊維]
繊維を用いることにより、積層造形用水硬性組成物は、硬化後のひび割れが抑制されるとともに、層間接着強度がより向上する。繊維としては、例えば、合成樹脂繊維、無機系繊維等が挙げられる。合成樹脂繊維は、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリ塩化ビニル等の合成樹脂成分を含む合成樹脂繊維を用いることができる。無機系繊維は、鋼繊維、ステンレス繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維等を用いることができる。繊維は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
<水硬性モルタル及びその硬化体>
本実施形態に係る水硬性モルタルは、上述の積層造形用水硬性組成物及び水を含む。水硬性モルタルは、例えば、積層造形用水硬性組成物と水とを混練することによって、調製することができる。
【0052】
本実施形態において、細骨材の含有量(S)に対する、細骨材を除く積層造形用水硬性組成物の含有量(P)の比(P/S)は、質量比で、好ましくは0.44以上であり、0.46以上又は0.47以上であってもよく、好ましくは2.19以下であり、2.06以下又は1.99以下であってもよい。積層造形用水硬性組成物の含有量(P+S)に対する水の含有量(W)の比(W/(P+S))は、質量比で、好ましくは0.130以上、0.135以上又は0.140以上であってもよく、好ましくは0.220以下であり、0.210以下又は0.205以下であってもよい。
【0053】
ノズルから押し出された後の硬化前の水硬性モルタルの積層体は自重によって寸法がなるべく変化しないことが好ましい。後述の実施例に記載の方法で求められる変形率は好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、6.5%以下又は4%以下であってもよい。
【0054】
水硬性モルタルの硬化体は、上述の水硬性モルタルを硬化させたものである。後述の実施例に記載の方法で求められる硬化体の層間付着強度は、好ましくは1N/mm以上であり、より好ましくは1.5N/mm以上であり、2.5N/mm以上又は3.0N/mm以上であってもよい。
【実施例
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0056】
<積層造形用水硬性組成物の調製>
以下のポルトランドセメント、セルロース系増粘剤、シリカフューム、流動化剤、無機系膨張材、消泡剤及び細骨材を、表1及び表2に示す割合で配合し、実施例1~7及び比較例1~3に係る積層造形用水硬性組成物をそれぞれ調製した。具体的には、各成分をアイリッヒミキサーを用いて10分間混合し、積層造形用水硬性組成物を得た。なお、表1,2中、各成分の含有量は、ポルトランドセメントを100質量部とした含有量を示す。
【0057】
(1)ポルトランドセメント
C:早強ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4440cm/g)
(2)セルロース系増粘剤
O:セルロース系増粘剤(主成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、せん断速度0.1s-1の粘度9.76Pa・s、せん断速度30s-1の粘度0.00678Pa・s)
上記粘度は、20℃の条件下において、有機系増粘剤の1質量%水溶液をAnton Paar社製レオメーターMCR101に共軸二重円筒治具CC27/P6を用いて、せん断速度0.1s-1及び30s-1の条件で0.1s-1で120秒測定して得られた値である。また、使用原料は粉末状である。
(3)シリカフューム
I:シリカフューム(BET比表面積20.0m/g)
(4)流動化剤
F:ポリカルボン酸系流動化剤
(5)無機系膨張材
E:生石灰-石膏系膨張材
(6)消泡剤
D:ポリエーテル系消泡剤
(7)細骨材
S:6号珪砂(600μm超の粒子径を有する粗粒分=0.12質量%、粗粒率=1.20%、吸水率=0.79%
【0058】
<水硬性モルタルの調製>
得られた積層造形用水硬性組成物6.0kgに、水道水1.11kg(W/(P+S)=0.185)を加え、撹拌機(UM15V、日立工機株式会社製)で、1200rpmで3分間混練することにより、水硬性モルタルを得た。なお、水の含有量をW、細骨材を除く積層造形用水硬性組成物の含有量をPとした。すなわち、ここでのPは、ポルトランドセメント(C)、セルロース系増粘剤(O)、シリカフューム(I)、流動化剤(F)、無機系膨張材(E)及び消泡剤(D)の合計含有量を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1~7及び比較例1~3の水硬性モルタルについて、下記評価方法により、押出し性及び積層性を評価した。結果を表3に示す。
【0062】
<押出し性>
押出し性は、ポンプ圧送試験により測定した。具体的には、水硬性モルタルを圧送ポンプ(スネークポンプNVL20、兵神装備社製)で、内径19mm、長さ2mのフレキシブルホースを経由して、長さ6mm、幅50mm(6×50mm)の開口部を備えたノズルから押出して、均一な吐出によって積層体を造形できた場合をAとし、途中でホースやノズル内で閉塞し押出せなかった場合及び材料分離などで水の先流れなどが生じた場合をBとした。
【0063】
<積層性>
上記ポンプ圧送試験により、ノズルから押し出された後の硬化前の水硬性モルタルの積層体が自重により寸法が変化した量を測定した。長さ6mm、幅50mm(6×50mm)の開口部を備えたノズルを高さ12mmで垂直下向きにセットし、送液量0.54L/minで水硬性モルタルを押し出しながら、ノズルの長さ方向へ30mm/sの一定速度で水平移動させた。任意の点でノズルを垂直上方向へ6mm上昇させて折り返して2層目を積層した。積層体が完全に硬化した後に、積層体の変化量を測定し、下記式(3)に定義する変形率を算出した。
【数1】
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1~6の水硬性モルタルの硬化体について、下記評価方法により、層間付着強度を評価した。結果を表4に示す。なお、実施例3~5の水硬性モルタルは、層間破壊ではなく、接着試験用ジグと硬化体との接着面で破壊したため、計測された強度以上として層間付着強度を記載した。
【0066】
<層間付着強度>
上記ポンプ圧送試験により、ノズルから押し出された水硬性モルタルを積層して硬化させた積層体(硬化体)を用いて、1層目と2層目の層間付着強度を測定した。長さ6mm、幅50mm(6×50mm)の開口部を備えたノズルを高さ12mmで垂直下向きにセットし、送液量0.54L/minで水硬性モルタルを押し出しながら、ノズルの長さ方向へ30mm/sの一定速度で水平移動させた。任意の点でノズルを垂直上方向へ6mm上昇させて折り返して2層目を積層した。なお、1層目を積層した10分後に2層目を積層した。その後、固まらないうちに4cm角に切り出した後、温度23℃湿度50%の養生槽の中で7日間養生したものを層間付着強度用の試験体とした。2層目上面と1層目下面に接着試験用ジグを取り付け、引張速度1.75kN/minにて載荷した際に得られた接着強度を層間付着強度とした。結果を表3に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表3及び表4に示す結果から、実施例1~6の積層造形用水硬性組成物を含む水硬性モルタルは、優れた押出し性及び積層性を有することが示された。また、当該水硬性モルタルの硬化体は、高い層間付着強度を有することが示された。
図1