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特許7186099非水電解質二次電池用負極活物質及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20221201BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221201BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20221201BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 A
H01M4/36 C
C01B33/113 A
C01B33/32
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019004237
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020113465
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大沢 祐介
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】松野 拓史
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145654(WO,A1)
【文献】特開2015-118879(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061536(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/36
C01B 33/113
C01B 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、ケイ素の非晶質及び微結晶のうち少なくとも1種類以上を含有し、
前記負極活物質粒子は、Li化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種類以上を含有し、
前記負極活物質粒子は、該負極活物質粒子の表層部に、アルミノケイ酸塩、リン酸アルミニウム、アルミノホウ酸塩、リン酸モリブデン及びアルミノヒ酸塩の少なくともいずれか1つであるゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に前記リン酸アルミニウムの回折ピークが現れるものであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に現れる前記リン酸アルミニウムの回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた結晶子の大きさが10nm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物の粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D1と、前記ケイ素化合物粒子の粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D2とが、0.01≦D1/D2≦2の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項5】
前記負極活物質粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に現れる前記リン酸アルミニウムであるゼオライトの結晶構造を有する化合物に起因する回折ピークのピーク高さP4と、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP3がP4/P3≦1の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項6】
前記P4/P3が、P4/P3≦0.5の関係を満たすことを特徴とする請求項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項7】
前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが23~26°の範囲に現れるLiSiの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP1と、回折角2θが44~50°の範囲に現れるSi(220)に起因する回折ピークのピーク高さP2とが、0.01≦P2/P1≦1の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項8】
前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP3と、回折角2θが44~50°の範囲に現れるSi(220)に起因する回折ピークのピーク高さP2とが、0.01≦P2/P3≦0.1の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項9】
前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが23~26°の範囲に現れるLiSiの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP1と、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOに起因する回折ピークのピーク高さP3とが、0.01≦P1/P3≦1の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項10】
前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、Si(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた結晶子の大きさが7nm以下であるものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項11】
前記ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項12】
前記ケイ素化合物粒子の一次粒子のうち、粒子径1μm以下の一次粒子の割合が体積基準で5%以下であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項13】
ケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、
ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子に、Liを挿入し、Li化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種類以上を生成することで前記ケイ素化合物粒子を改質する工程と、
前記改質後のケイ素化合物粒子の表面に、アルミノケイ酸塩、リン酸アルミニウム、アルミノホウ酸塩、リン酸モリブデン及びアルミノヒ酸塩の少なくともいずれか1つであるゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させる工程とを有し、前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させたケイ素化合物粒子を用いて、非水電解質二次電池用負極活物質を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項14】
少なくとも前記ケイ素化合物粒子を改質する工程の後に、該改質したケイ素化合物粒子を400℃以上700℃以下の加熱温度で加熱することを特徴とする請求項13に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極および負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素材では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物
質が膨張及び収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内
部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れ
ると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面におい
て電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成される
ため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及び
アモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiO(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、ケイ素と炭素の混合電極を作製しケイ素比率を5wt%以上13wt%以下で設計している(例えば、特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-185127号公報
【文献】特開2002-042806号公報
【文献】特開2006-164954号公報
【文献】特開2006-114454号公報
【文献】特開2009-070825号公報
【文献】特開2008-282819号公報
【文献】特開2008-251369号公報
【文献】特開2008-177346号公報
【文献】特開2007-234255号公報
【文献】特開2009-212074号公報
【文献】特開2009-205950号公報
【文献】特開平6-325765号公報
【文献】特開2010-092830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
【0013】
また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い電池特性が望まれている。そこで、Liの挿入、一部脱離により改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、電池のサイクル維持率、及び初回効率を改善してきた。しかしながら、改質後のケイ素酸化物はLiを用いて改質されたため、比較的耐水性が低い。これにより、負極の製造時に作製する、上記改質後のケイ素酸化物を含むスラリーの安定化が不十分となりスラリーの経時変化によってガスが発生する、又はケイ素酸化物の粒子とバインダ成分が凝集した沈降(沈殿)が発生することがあった。そのため、炭素系活物質の塗布に従来から一般的に使われている装置等を使用することができない場合が有ったり、または使用しづらいという問題があった。このように、Liを用いた改質によって、初期効率及びサイクル維持率を改善したケイ素酸化物を使用する場合、水を含むスラリーの安定性が不十分となるため、二次電池の工業的な生産において優位な非水電解質二次電池用負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0014】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、水系スラリーに対する安定性が高く、高容量であるとともに、サイクル特性及び初回効率が良好な負極活物質を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、水系スラリーに対する安定性が高く、高容量であるとともに、サイクル特性及び初回効率が良好な負極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明では、負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、ケイ素の非晶質及び微結晶のうち少なくとも1種類以上を含有し、前記負極活物質粒子は、Li化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種類以上を含有し、前記負極活物質粒子は、該負極活物質粒子の表層部に、ゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を提供する。
【0017】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子(ケイ素系活物質粒子とも呼称する)を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子がLi化合物を含むことにより、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。これにより、電池の初回効率及びサイクル特性を向上できる。さらに、Li化合物として、LiSiO又はLiSiは、LiSiOと比べて水に溶けづらく、水系スラリー中で比較的安定な挙動を示す。さらに、負極活物質粒子の表層部にゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着していることで、負極の製造過程で負極活物質を水系スラリーに混合した際に、水系スラリー中にケイ素化合物粒子などから溶出したLiイオンとゼオライト構造を有する化合物とが反応することで、Liイオンと水との反応を抑制し、スラリー安定性を高めることができる。
【0018】
このとき、前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に回折ピークが現れるものであることが好ましい。
【0019】
ゼオライトの結晶構造を有する化合物が、このような結晶構造を有することで、ゼオライト構造の吸着分離効果がより効果的に発現し、より効果的にスラリー安定性を得ることができる。
【0020】
また、前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に現れる回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた結晶子の大きさが10nm以上であることが好ましい。
【0021】
このような結晶子サイズを有するゼオライトの結晶構造を有する化合物は結晶性が高く、スラリー安定性をより高めることができる。
【0022】
また、前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、アルミノケイ酸塩、リン酸アルミニウム、アルミノホウ酸塩、リン酸モリブデン及びアルミノヒ酸塩の少なくともいずれか1つであることが好ましい。
【0023】
このようなゼオライトの結晶構造を有する化合物は、マイクロポーラスマテリアルと呼ばれ、マイクロ孔を有する化合物であることから、より高いスラリー安定性を得ることができる。
【0024】
また、前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物の粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D1と、前記ケイ素化合物粒子の粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D2とが、0.01≦D1/D2≦2の関係を満たすことが好ましい。
【0025】
ゼオライトの結晶構造を有する化合物と、ケイ素化合物粒子が、このような粒径の比であれば、スラリー安定性により高い効果が発現し、より良好なサイクル特性を得ることができる。
【0026】
また、前記負極活物質粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に現れるゼオライトの結晶構造を有する化合物に起因する回折ピークのピーク高さP4と、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP3がP4/P3≦1の関係を満たすことが好ましい。また、前記P4/P3が、P4/P3≦0.5の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0027】
このようなピーク高さの比を有する負極活物質粒子を含む負極活物質は、よりスラリー安定性を高め、電池容量を向上させることができる。
【0028】
また、前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが23~26°の範囲に現れるLiSiの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP1と、回折角2θが44~50°の範囲に現れるSi(220)に起因する回折ピークのピーク高さP2とが、0.01≦P2/P1≦1の関係を満たすものであることが好ましい。
【0029】
このようなピーク高さの比を有するケイ素化合物粒子を含む負極活物質は、充電時に発生する不可逆容量をより効果的に低減し、スラリー安定性の効果も十分発現させることができる。
【0030】
また、前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP3と、回折角2θが44~50°の範囲に現れるSi(220)に起因する回折ピークのピーク高さP2とが、0.01≦P2/P3≦0.1の関係を満たすものであることが好ましい。
【0031】
このようなピーク高さの比を有するケイ素化合物粒子を含む負極活物質は、より効果的に電池容量を向上させ、スラリー安定性の効果も十分発現させることができる。
【0032】
また、前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが23~26°の範囲に現れるLiSiの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP1と、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOに起因する回折ピークのピーク高さP3とが、0.01≦P1/P3≦1の関係を満たすものであることが好ましい。
【0033】
このようなピーク高さの比を有するケイ素化合物粒子を含む負極活物質は、よりよいスラリー安定性の効果を得ることができる。
【0034】
また、前記ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、Si(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた結晶子の大きさが7nm以下であるものであることが好ましい。
【0035】
このようなSi結晶子サイズを有するケイ素化合物粒子は結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、そのようなケイ素化合物粒子を有する負極活物質をリチウムイオン二次電池に用いれば、より良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。
【0036】
また、前記ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されていることが好ましい。
【0037】
このような炭素被膜を有することで、導電性に優れた負極活物質とすることができる。
【0038】
また、前記ケイ素化合物粒子の一次粒子のうち、粒子径1μm以下の一次粒子の割合が体積基準で5%以下であることが好ましい。
【0039】
一次粒子の粒子径1μm以下の割合がこのような範囲であれば、質量当たりの表面積の増加による電池不可逆容量が増加することを抑制することができる。
【0040】
また、本発明は、ケイ素化合物粒子を含有する負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、前記ケイ素化合物粒子に、Liを挿入し、Li化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種類以上を生成することで前記ケイ素化合物粒子を改質する工程と、前記改質後のケイ素化合物粒子の表面に、ゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させる工程とを有し、前記ゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させたケイ素化合物粒子を用いて、非水電解質二次電池用負極活物質を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法が好ましい。
【0041】
このような非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であれば、Liを用いて改質されたケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する負極活物質を得ることができる。さらにこのようにして製造された負極活物質は、上記のようなゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させたケイ素化合物粒子を含有しているため、負極の製造時に作製するスラリーが安定なものとなる。すなわち、二次電池を工業的に優位に生産可能な負極活物質を得ることができる。
【0042】
このとき、少なくとも前記ケイ素化合物粒子を改質する工程の後に、該改質したケイ素化合物粒子を400℃以上700℃以下の加熱温度で加熱することが好ましい。
【0043】
このような加熱工程によって、ケイ素化合物粒子の結晶成長を抑制し、より良好なサイクル特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の負極活物質は、負極作製時に作製する水系スラリーを安定化することができ、かつ、二次電池の負極活物質として用いた際に、高容量で良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。特に、負極活物質粒子の表層部にゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着していることで、負極の製造過程で負極活物質を水系スラリーに混合した際に、水系スラリー中にケイ素化合物粒子などから溶出したLiイオンとゼオライト構造を有する化合物とが反応することで、Liイオンと水との反応を抑制し、スラリー安定性を高めることができる。また、本発明の負極活物質の製造方法であれば、負極作製時に作製する水系スラリーを安定化することができ、かつ、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、良好なサイクル特性及び初期充放電特性を有する負極活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極の構成の一例を示す断面図である。
図2】酸化還元法により改質を行った場合の、本発明の負極活物質に含まれる、負極活物質粒子(ゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したケイ素化合物粒子)から測定されるCuKα線を用いたX線回折のチャートの一例である。
図3】本発明の負極活物質を含むリチウム二次電池の構成例(ラミネートフィルム型)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素系活物質を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。ケイ素系活物質を主材として用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性、初期効率が望まれているが、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性、初期効率を得るためにLiを用いて改質したケイ素系活物質では安定したスラリーの作製が難しい。このような不安定なスラリーでは、スラリーの製造後、比較的早い段階でガスの発生が起きたり、沈降が生じたりしたため、良質な負極電極を製造することは困難であるという問題があった。
【0048】
そこで、本発明者らは、高電池容量であるとともに、サイクル特性及び初回効率が良好な非水電解質二次電池を容易に製造することが可能な負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0049】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質は、負極活物質粒子を含み、負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、ケイ素化合物粒子は、ケイ素の非晶質及び微結晶のうち少なくとも1種類以上を含有し、負極活物質粒子は、Li化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種類以上を含有し、負極活物質粒子は、該負極活物質粒子の表層部に、ゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したものであることを特徴とする。すなわち、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子は、最表層部にゼオライトの結晶構造を有する化合物の付着材(付着物)を有する。ここでいう、「付着」は「被覆」も含む概念である。従って、例えば、本発明においてゼオライトの結晶構造を有する化合物は、ケイ素化合物粒子の最表層部の少なくとも一部を被覆していても良い。この場合、ケイ素化合物粒子は、最表層部にゼオライトの結晶構造を有する化合物の被膜(被覆層)を有するものとなる。また、ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、ケイ素化合物粒子の最表層部以外にも含まれていてもよい。
【0050】
また、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されていることが好ましい。すなわち、本発明の負極活物質において、負極活物質粒子に含まれるゼオライトの結晶構造を有する化合物とケイ素化合物粒子との間に、更に炭素被覆層を有することが好ましい。このように、炭素被覆層(炭素被膜)を有することで、導電性に優れた負極活物質となる。なお、ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、炭素被覆層中に存在してもよいし、炭素被覆層とケイ素系活物質粒子の界面に存在していてもよい。
【0051】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子の最表層部にゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したものであるため、水系スラリーに対しての耐水性が高いものとなる。従来、Liの挿入、脱離によって改質したケイ素酸化物などのケイ素化合物を含む水系スラリーは経時変化して、早い段階でガス発生、沈降が起こる。そのため、二次電池の量産化に使用するには不向きであった。
【0052】
しかしながら、本発明では、ケイ素化合物粒子が、上記のようなゼオライトの結晶構造を有する化合物の付着材を有することで耐水性が向上し、スラリーの経時変化に伴うガス発生、沈降が起こりづらくなる。そのため、例えば、集電体に上記スラリーを塗布する際などに安定した塗膜を得ることができ、結着性が向上する。さらに、安定化したゼオライトの結晶構造を有する化合物のカチオン側は、結着剤として一般的に用いられているカルボキシメチルセルロース(CMC)のカルボキシル基と反応しやすくなり、結着性がより向上する。
【0053】
以上のことから、本発明の負極活物質を使用すれば、Liを用いて改質されたケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する非水電解質二次電池を工業的な生産において優位に製造可能となる。
【0054】
<1.非水電解質二次電池用負極>
続いて、このような本発明の負極活物質を含む二次電池の負極の構成について説明する。
【0055】
[負極の構成]
図1は、本発明の負極活物質を含む負極の断面図を表している。図1に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の非水電解質二次電池の負極においては、負極集電体11はなくてもよい。
【0056】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0057】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。これは、より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0058】
負極集電体11の表面は、粗化されていても良いし、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0059】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系活物質)を含んでおり、さらに、負極活物質として、ケイ素系活物質の他に炭素系活物質などを含んでいて良い。さらに、電池設計上、増粘剤(「結着剤」、「バインダー」とも呼称する)や導電助剤等の他の材料を含んでいても良い。また、負極活物質の形状は粒子状であって良い。
【0060】
上述のように、本発明の負極活物質は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有する。このケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiO:0.5≦X≦1.6の範囲であることが必要である。Xが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。Xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎない。
【0061】
また、本発明において、ケイ素化合物の結晶性は低いほどよい。具体的には、CuKα線を用いたケイ素化合物粒子のX線回折により得られるSi(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた結晶子の大きさが7nm以下であることが望ましい。このように、特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的なLi化合物の生成をすることができる。
【0062】
本発明の銅を対陰極としたX線回折(CuKα)装置(XRD装置)としては、例えば、Bruker AXS製 New D8 ADVANCE等が挙げられる。なお、半値幅(fullwidth at half maximum、FWHM)に基づき、下記シェラーの式から結晶子の大きさを求めることができる。なお、DIFFAC.EVA(Bruker AXS社製)のXRD解析ソフトと同等もしくはそれ以上の機能を有する解析ソフトを使用して、適切なバックグラウンド処理を行い、半値幅を求める。
L=Kλ/(βcosθ)
L:結晶子径
β:半値幅:ピーク値から、おおよそ±5°(/2θ)の範囲を用いて求めた。
ピーク値:2θ(47.5°)
ピークの広がり2θ(測定半値幅-金属Si半値幅0.089°※)
※金属Si半値幅0.089°は、XRD装置により異なる。
※金属Si半値幅の測定には、結晶歪の無い結晶性Siを使用する。
これによりXRD装置固有の半値幅を見積もる。
測定半値幅から上記Si半値幅を差し引くことで結晶子サイズに起因する半値幅を求めることができる。
λ:使用X線波長(0.154nm)
K:シェラー係数:0.9
θ:回折角
【0063】
このような負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子が上記のようなリチウムシリケートを含むことで、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。また、ケイ素化合物粒子の一次粒子のうち、粒子径1μm以下の一次粒子の割合が体積基準で5%以下であれば、リチウムが溶出し易いケイ素化合物粒子の微粉の存在量が少ないため、水系負極スラリーの作製時などに負極活物質からのリチウムイオンの溶出を抑制することができる。その結果、負極作製時の水系負極スラリーの安定性が向上し、初回効率及びサイクル特性が向上する。
【0064】
さらに、本発明において、ケイ素化合物粒子に含まれるLi化合物が、LiSiO及びLiSiから選ばれる1種以上であることが必要である。ただし、これら以外のLi化合物を含んでいてもよい。Liシリケートは、他のLi化合物よりも比較的安定しているため、これらのLi化合物を含むケイ素系活物質は、より安定した電池特性を得ることができる。これらのLi化合物は、ケイ素化合物粒子の内部に生成するSiO成分の一部をLi化合物へ選択的に変更し、ケイ素化合物粒子を改質することにより得ることができる。
【0065】
なお、電気化学的に、ケイ素酸化物とLiとを反応させるとLiSiOも生じるが、LiSiOは比較的水に溶けやすく、水系スラリーを用いる場合、スラリー化時に溶け出しやすい。従って、ケイ素化合物粒子に含まれるLi化合物としては、LiSiOと比べて、水に溶けづらく、水系スラリー中で比較的安定な挙動を示す、LiSiO及びLiSiが好ましい。
【0066】
また、ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが23~26°の範囲に現れるLiSiの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP1と、回折角2θが44~50°の範囲に現れるSi(220)に起因する回折ピークのピーク高さP2とが、0.01≦P2/P1≦1の関係を満たすことが好ましい。このピーク高さの比が0.01以上であると、LiSiの割合が多くなりすぎず、初期充放電特性の低下を抑制できる。この比が1以下であるとSiの結晶成長が進みすぎていないことになり、表面にSiが露出することによるスラリー安定性とサイクル特性の低下を抑制できる。
【0067】
また、ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP3と、回折角2θが44~50°の範囲に現れるSi(220)に起因する回折ピークのピーク高さP2とが、0.01≦P2/P3≦0.1の関係を満たすことが好ましい。このピーク高さの比が0.01以上であると、LiSiOの割合が多くなりすぎず、初期充放電特性の低下を抑制できる。この比が0.1以下であるとSiの結晶成長が進みすぎていないことになり、表面にSiが露出することによるスラリー安定性とサイクル特性の低下を抑制できる。
【0068】
また、ケイ素化合物粒子は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが23~26°の範囲に現れるLiSiの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP1と、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOに起因する回折ピークのピーク高さP3とが、0.01≦P1/P3≦1の関係を満たすことが好ましい。このピーク高さの比が0.01以上であると、より水に不溶性のLiSiの割合が十分であるため、スラリー安定性の低下を抑制できる。この比が1以下であると、LiSiが過剰になりすぎず初期充放電特性の低下を抑制できる。
【0069】
[負極の製造方法]
続いて、非水電解質二次電池の負極の製造方法の一例を説明する。
【0070】
最初に負極に含まれる負極活物質を製造する。負極活物質は本発明の製造方法により以下のように製造できる。
【0071】
まず、ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を作製する。次に、ケイ素化合物粒子に、Liを挿入し、Li化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種類以上を生成することでケイ素化合物粒子を改質する。また、このとき、ケイ素化合物粒子に挿入したLiを一部脱離しても良い。さらに、このとき同時にケイ素化合物粒子の内部や表面にLi化合物を生成させることができる。次に、改質後のケイ素化合物粒子の表面に、ゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させる。本発明では、ゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させたケイ素化合物粒子を用いて、非水電解質二次電池用負極活物質を製造する。さらに、この負極活物質に導電助剤やバインダと混合するなどして、負極材及び負極電極を製造できる。
【0072】
より具体的には、負極材は、例えば、以下の手順により製造される。
【0073】
ケイ素化合物(SiO:0.5≦X≦1.6)を含むケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製するため、まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃~1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0074】
次に、得られた粉末材料(ケイ素化合物粒子であり、酸化珪素粒子)の表層に炭素被覆層を形成する。但し、この工程は必須ではない。炭素被覆層は、負極活物質の電池特性をより向上させるには効果的である。
【0075】
粉末材料の表層に炭素被覆層を形成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内に粉末材料をセットし、炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、意図しないケイ素酸化物の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、C組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性が良いからである。
【0076】
次に、ケイ素化合物粒子に、Liを挿入することで、ケイ素化合物粒子を改質する。また、本発明において、ケイ素化合物粒子の改質を行う際に、電気化学的手法や、酸化還元反応による改質等の手法を用いることができる。
【0077】
酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル系溶媒にリチウムを溶解した溶液Aにケイ素系活物質粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aにさらに多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませても良い。得られたケイ素系活物質粒子を400~700℃で熱処理することによりLi化合物を安定化させることができる。400℃以下の場合、Liシリケートが安定化せず充放電時の不可逆成分として機能しないため、初期充放電特性が低下する。700℃以上の場合、Siの結晶成長が促進されてスラリー安定性とサイクル特性が低下する。また、リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bにケイ素系活物質粒子を浸漬することで、ケイ素系活物質粒子から活性なリチウムを脱離させても良い。この溶液Bの溶媒は例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。その後、炭酸リチウム、酸化リチウム若しくは水酸化リチウムを溶解したアルカリ水、アルコール、弱酸、又は純水などで洗浄する方法などで洗浄する。
【0078】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tertブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中で特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0079】
また、溶液Aに含まれている多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、およびこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、およびこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0080】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、およびこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0081】
また溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0082】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0083】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、および酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0084】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコノール等を用いることができる。
【0085】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、およびエチレンジアミン等を用いることができる。
【0086】
なお、少なくとも上記のケイ素化合物粒子を改質する工程の後に、該改質したケイ素化合物粒子を400℃以上700℃以下の加熱温度で加熱することが好ましい。このような加熱工程によって、ケイ素化合物粒子の結晶成長を抑制し、より良好なサイクル特性を得ることができる。
【0087】
続いて、改質後のケイ素化合物粒子の表面に、ゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させる。例えば、ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、以下の方法で改質後のケイ素化合物粒子の表面に付着させることができる。すなわち、ケイ素化合物粒子とゼオライトの結晶構造を有する化合物を混合し、擂潰機によって擂潰、混合を行うことでケイ素化合物粒子の表面にゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させることができる。このときに、ケイ素化合物粒子に含まれるリチウムシリケートの一部とゼオライトの結晶構造を有する化合物とが反応し、金属のケイ酸塩が生成する可能性もある。この反応は酸化ケイ素粒子に含まれるリチウムシリケートの状態に応じて進む。例えば、ゼオライトの結晶構造を有する化合物とリチウムシリケートが部分的に反応し、リチウムシリケートと未反応のゼオライトの結晶構造を有する化合物が、酸化ケイ素粒子の表面若しくは炭素被膜の表面又はこれらの両方の少なくとも一部に残ることがある。また、反応が進行せず、改質後の酸化ケイ素粒子の表面にゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着し、金属のケイ酸塩が付着しないことも有る。このようにして、改質後の酸化ケイ素粒子の表面にゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させることができる。
【0088】
また、本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子が、最表層部にゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したものである。ゼオライトの結晶構造を有する化合物としては、アルミノケイ酸塩、リン酸アルミニウム、アルミノホウ酸塩、リン酸モリブデン、アルミノヒ酸塩等が挙げられる。これらのような化合物によって、本発明の負極活物質を混合した水系スラリーがより安定する。中でも、ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、アルミニウムのリン酸塩であることが好ましい。アルミノケイ酸塩、アルミノホウ酸塩、リン酸モリブデン、アルミノヒ酸塩においても一定以上の効果(スラリー安定性等)が得られるが、アルミニウムのリン酸塩であればより高い効果が得られるからである。
【0089】
また、ゼオライトの結晶構造を有する化合物は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に回折ピーク(ゼオライト結晶構造特有のピーク)が現れるものが好ましい。この回折ピークを有することによって、ゼオライトの結晶構造特有の吸着作用を、より効果的に発現することができる。これによって、水系スラリーがより安定化する。また、このCuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に現れる回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求められた結晶子の大きさが10nm以上であることがより好ましい。ゼオライトの結晶構造を有する化合物の微結晶又は微粒子が、このような大きさの結晶子としてX線回折の回折ピークから求められる場合、結晶性が高いといえる。すなわち、このような結晶子サイズを有するゼオライトの結晶構造を有する化合物は結晶性が高いため、スラリー安定性をより高めることができる。なお、図2に、本発明の負極活物質に含まれる、負極活物質粒子(ゼオライトの結晶構造を有する化合物が付着したケイ素化合物粒子)から測定される、CuKα線を用いたX線回折のチャートの一例を示した。これはリチウムドープの際に、酸化還元法により改質を行った場合のチャートである。チャート中に示されるように、Si(220)面に起因する回折ピーク、LiSiOに起因する回折ピーク、LiSiに起因する回折ピークの他に、回折角2θが21~22°の範囲に、ゼオライト結晶構造特有のピークが現れる。
【0090】
また本発明の負極活物質は、CuKα線を用いたX線回折において、回折角2θが21~22°の範囲に現れるゼオライトの結晶構造を有する化合物に起因する回折ピークのピーク高さP4と、回折角2θが17~21°の範囲に現れるLiSiOの少なくとも一部に起因する回折ピークのピーク高さP3がP4/P3≦1の関係を満たすことが好ましい。この比が1以下であれば、負極活物質中のゼオライトが占める割合が大きくなりすぎず、初期充放電特性の低下を抑制できる。この値は小さい方がより好ましく、0.5以下(すなわち、P4/P3≦0.5)であると更に好ましい。
【0091】
粒度分布の測定には、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100(島津製作所製)を使用すればよい。例えば、表面活性剤によりケイ素化合物粒子(SiO材)を分散させた分散水をレーザー回折式粒度分布測定装置に滴下して粒度測定を行うことができる。
【0092】
ゼオライトの結晶構造を有する化合物の粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D1と、ケイ素化合物粒子の粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D2とが、0.01≦D1/D2≦2の関係を満たすことが好ましい。この比が0.01以上であると、上記の化合物がゼオライトの結晶構造をより確実に有するようにでき、スラリー安定性をより確実に向上させることができる。この比が2以下であると、ケイ素化合物表面へのゼオライトの結晶構造を有する化合物を均一に分散しやすくなるため、スラリー安定性をより確実に向上させることができる。
【0093】
続いて、上記のゼオライトの結晶構造を有する化合物の付着材を有するケイ素化合物粒子(酸化珪素粒子)を含むケイ素系活物質粒子と必要に応じて炭素系活物質を混合する。そして、これらの負極活物質とバインダ、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0094】
次に、図1に示したように、負極集電体11の表面に、この負極合剤のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行っても良い。以上のようにして、本発明の非水電解質二次電池の負極を製造することができる。
【0095】
<2.リチウムイオン二次電池>
本発明の非水電解質二次電池は、上記本発明の非水電解質二次電池用負極活物質を含むものである。以下、本発明の非水電解質二次電池について、ラミネートフィルム型二次電池を例にして説明する。
【0096】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池20は、主にシート状の外装部材25の内部に巻回電極体21が収納されたものである。この巻回電極体21は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード22が取り付けられ、負極に負極リード23が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0097】
正負極リード22、23は、例えば、外装部材25の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード22は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード23は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0098】
外装部材25は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体21と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0099】
外装部材25と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム24が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0100】
正極は、例えば、図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0101】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0102】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0103】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物が挙げられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiあるいはLiPOで表される。式中、M、Mは少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0104】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0105】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnPO(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0106】
[負極]
負極は、上記した図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0107】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0108】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成などを、充放電の有無に依存せずに再現性良く正確に調べることができる。
【0109】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されている。また、セパレータは2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0110】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0111】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2-ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0112】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0113】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0114】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0115】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0116】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0117】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0118】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0119】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(図1を参照)。
【0120】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード22を取り付けると共に、負極集電体に負極リード23を取り付ける(図3を参照)。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体21を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材25の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ開放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、開放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、開放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池20を製造することができる。
【0121】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池20等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例
【0122】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0123】
(実施例1-1)
以下の手順により、図3に示したラミネートフィルム型の二次電池20を作製した。
【0124】
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(LiNi0.7Co0.25Al0.05O)95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時、正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0125】
次に負極を作製した。まず、ケイ素系活物質を以下のように作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料(気化出発材)を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕し、酸化珪素粒子(ケイ素化合物粒子)を得た。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiOのXの値は0.5であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を調整した後、熱CVDを行うことで炭素被覆層を形成した。このケイ素化合物の一次粒子のうち、粒子径1μm以下の一次粒子の割合は体積基準で0%である。
【0126】
続いて、炭素被膜を被覆したケイ素化合物粒子(以下、「炭素被覆ケイ素化合物粒子」とも称する。)に対して、以下のように、酸化還元法によるリチウムドープを行い、ケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質を行った。まず、炭素被覆ケイ素化合物粒子を、リチウム片と、芳香族化合物であるビフェニルとをジグリムに溶解させた溶液(溶液A)に浸漬した。この溶液Aは、ジグリム溶媒にビフェニルを炭素被膜を被覆したケイ素化合物粒子に対して10質量%の濃度で溶解させたのちに、この炭素被膜を被覆したケイ素化合物粒子に対して8質量%の質量分のリチウム片を加えることで作製した。また、炭素被覆ケイ素化合物粒子を溶液Aに浸漬する際の溶液の温度は20℃で、浸漬時間は6時間とした。その後、炭素被覆ケイ素化合物粒子を濾取した。以上の処理により炭素被覆ケイ素化合物粒子にリチウムを挿入した。
【0127】
得られた炭素被覆ケイ素化合物粒子を、アルゴン雰囲気下600℃で3時間熱処理を行いLi化合物の安定化を行った。
【0128】
次に、炭素被覆ケイ素化合物粒子を洗浄処理し、洗浄処理後の炭素被覆ケイ素化合物粒子を減圧下で乾燥処理した。洗浄処理は、アルカリ水溶液で2時間撹拌した。このようにして、炭素被覆ケイ素化合物粒子の改質を行った。以上の処理により、炭素被覆ケイ素化合物粒子を作製した。
【0129】
次に、リン酸アルミニウム(ゼオライトの結晶構造を有する化合物)を炭素被覆ケイ素化合物粒子に混合し、負極活物質粒子(ケイ素系活物質粒子)を含む負極活物質(ケイ素系活物質)を作製した。この負極活物質におけるアルミニウムの質量割合は0.5質量%とした。炭素被覆ケイ素化合物粒子にとリン酸アルミニウムの粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D1(リン酸アルミニウムの粒径)とD2(ケイ素化合物粒子の粒径)より、D1/D2は0.12であった。
【0130】
得られた粉末は、CuKα線を用いたX線回折パターンより、回折角2θが17~21°の範囲に帰属されるLiSiOと、回折2θが23~26°の範囲に帰属されるLiSiと、回折角2θが21~22°の範囲に帰属されるゼオライトの結晶構造に由来する回折ピークを有するものであった。ゼオライトの結晶構造に由来する回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた結晶子サイズは37.2nmであった。Si(220)に帰属される回折ピークの半値幅に基づき、シェラーの式により求めた微結晶の結晶子サイズは6nmであった。P2/P1は0.9、P2/P3は0.07、P1/P3は0.08、P4/P3は0.19であった。
【0131】
次に、この負極活物質(ケイ素系活物質)と炭素系活物質を、ケイ素系活物質粒子と炭素系活物質粒子の質量比が1:9となるように配合し、混合負極活物質を作製した。ここで、炭素系活物質としては、ピッチ層で被覆した天然黒鉛及び人造黒鉛を5:5の質量比で混合したものを使用した。また、炭素系活物質のメジアン径は20μmであった。
【0132】
次に、上記混合負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)92.5:1:1:2.5:3の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。尚、上記のSBR、CMCは負極バインダー(負極結着剤)である。
【0133】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は5mg/cmであった。
【0134】
次に、溶媒(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0135】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体の一端にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その巻き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム(厚さ12μm)を用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだ後、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し、封止した。
【0136】
以上のようにして作製した二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を評価した。
【0137】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、総サイクル数が499サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に、0.2C充放電で得られた500サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、容量維持率(以下、単に維持率ともいう)を算出した。通常サイクルすなわち3サイクル目から499サイクル目までは、充電0.7C、放電0.5Cで充放電を行った。
【0138】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0139】
(実施例1-2、1-3、比較例1-1、1-2)
ケイ素化合物のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1-1と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、ケイ素化合物の原料中の金属ケイ素と二酸化ケイ素との比率や加熱温度を変化させることで、酸素量を調整した。実施例1-1~1-3、比較例1-1、1-2における、SiOで表されるケイ素化合物のXの値を表1中に示した。
【0140】
このとき、実施例1-2、1-3及び比較例1-1、1-2のケイ素系活物質粒子は以下のような性質を有していた。負極活物質粒子の内部には、LiSiO及びLiSiが含まれていた。また、ケイ素化合物は、X線回折により得られるSi(220)結晶面に起因する結晶子サイズが6nmであった。また、表面に被覆された炭素材の平均厚さは100nmであった。負極活物質粒子のD50は6μmであった。リン酸アルミニウムは結晶構造を有しており、X線回折により得られるゼオライトに起因する結晶子サイズは37.2nmであった。P2/P1は0.9、P2/P3は0.07、P1/P3は0.08、P4/P3は0.19であった。負極活物質粒子とリン酸アルミニウムの粒度分布における、体積基準で50%となる粒径D1とD2より、D1/D2は0.12であった。
【0141】
実施例1-1~1-3、比較例1-1、1-2の評価結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
表1に示すように、SiOで表わされるケイ素化合物において、Xの値が、0.5≦X≦1.6の範囲外の場合、電池特性が悪化した。例えば、比較例1-1に示すように、酸素が十分にない場合(X=0.3)、初回効率が向上するが、容量維持率が著しく悪化する。一方、比較例1-2に示すように、酸素量が多い場合(X=1.8)は導電性の低下が生じ容量維持率が著しく悪化する。
【0144】
(実施例2-1、2-2)
ケイ素化合物粒子の内部に含ませるリチウムシリケートの種類を表2のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0145】
(比較例2-1)
ケイ素化合物粒子にリチウムの挿入を行わなかったこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0146】
実施例2-1、比較例2-1の結果を表2に示す。
【0147】
【表2】
【0148】
ケイ素化合物がLiSiO、LiSiのような安定したリチウムシリケートを含むことで、容量維持率、初期効率が向上した。特にLiSiOとLiSiの両方のリチウムシリケートを含む場合に容量維持率と初期効率の両方が高い値となった。一方で、改質を行わず、ケイ素化合物にリチウムを含ませなかった比較例2-1では容量維持率、初期効率が低下した。
【0149】
(比較例3-1)
負極活物質中のゼオライトの結晶構造を有する化合物を付着させないこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性及び初回効率を評価した。
【0150】
また、実施例1-2、比較例3-1ではスラリーの安定性も評価した。
【0151】
スラリーの安定性はスラリーからガスが発生するまでの時間で評価した。この時間が長いほどスラリーがより安定していると言える。具体的には、作製した負極合剤スラリーの一部を二次電池の作製用のものとは別に30g取り出し、20℃で保存し、負極合剤スラリー作製後からガス発生迄の時間を測定した。
【0152】
実施例1-2、比較例3-1の結果を表3に示す。
【0153】
【表3】
【0154】
表3から分かるように、ゼオライトの結晶構造を有する化合物をケイ素化合物に付着させることによって、スラリーの安定性が向上した。
【0155】
(実施例4-1、4-2)
ケイ素化合物のSi(220)の結晶子サイズを表4のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。Si(220)の結晶子サイズは酸化ケイ素ガスを吸着版に固化させて堆積させる工程で調整した。
【0156】
【表4】
【0157】
表4より、実施例4-1のようにSi(220)に基づいてシェラーの式から求められた結晶子サイズが大きいとケイ素化合物表面におけるSiの露出部が増加し、実施例1-2と比べて、スラリーの安定性が低下した。したがって、Si結晶子の大きさが7nm以下であるものであることが好ましい。実施例4-2のようにSi(220)の結晶子サイズが小さいと、実施例1-2と比べて初期効率が低下しているが、実施例1-2と比べて容量維持率が高く、負極活物質として問題がなかった。
【0158】
(実施例5-1~5-4)
X線回折の回折ピーク強度比P2/P1を表5のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。P2/P1は酸化ケイ素ガスを吸着版に固化させて堆積させる工程でP2のピーク強度を変更することで調整した。
【0159】
【表5】
【0160】
表5から分かるように、P2/P1の比が0.01よりも小さい(実施例5-1)と、0.01以上である実施例5-2、5-3、1-2よりも初期効率が低下した。P2/P1の比が1よりも大きい(実施例5-4)と、1以下である実施例5-2、5-3、1-2よりも容量維持率とスラリーの安定性が低下した。Siの結晶性が高くなるとケイ素化合物表面におけるSiの露出部が増加するからである。
【0161】
(実施例6-1~6-4)
X線回折の回折ピーク強度比P2/P3を表6のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。P2/P3は酸化ケイ素ガスを吸着版に固化させて堆積させる工程でP2のピーク強度を変更することで調整した。
【0162】
【表6】
【0163】
表6より、P2/P3の比が0.01よりも小さい(実施例6-1)と、0.01以上である実施例6-2、6-3、1-2よりも初期効率が低下した。P2/P3の比が0.1よりも大きい(実施例6-4)と、0.1以下である実施例6-2、6-3、1-2よりも容量維持率とスラリーの安定性が低下した。Siの結晶性が高くなるとケイ素化合物表面におけるSiの露出部が増加するからである。
【0164】
(実施例7-1~7-4)
X線回折の回折ピーク強度比P1/P3を表7のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。P1/P3は改質時のLi量を変更することで調整した。
【0165】
【表7】
【0166】
表7より、P1/P3が小さくなることで、より水に不溶性のLiSiの割合が減少するため、P1/P3が0.01より小さい実施例7-1では、P1/P3が0.01以上である実施例7-2、1-2、7-3と比べて、スラリー安定性が低下した。P1/P3が大きくなると、LiSiの割合が増えることで、リチウムシリケートとして固定化されるLi分が減少するため、P1/P3が1より大きい実施例7-4では、P1/P3が1以下である実施例7-2、1-2、7-3と比べて、初期効率が低下した。
【0167】
(比較例8-1)
ゼオライトの結晶構造を有する化合物を、X線回折において、ゼオライトの結晶構造に起因する回折ピークを有さず、アモルファスな構造を有するリン酸アルミニウムをケイ素化合物に付着させたこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。
【0168】
【表8】
【0169】
表8から分かるように、X線回折において、ゼオライトが結晶構造を有さず、従ってゼオライトの結晶構造に起因する回折ピークを有さない場合(比較例8-1)、ゼオライト構造特有の吸着特性を発現することができず、スラリー安定性が低下した。
【0170】
(実施例9-1、9-2)
ゼオライトの結晶構造を有する化合物のX線回折におけるゼオライト結晶構造に起因する結晶子サイズを表9のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。ゼオライト結晶構造に起因する結晶子サイズはゼオライトの結晶構造を有する化合物を微粉砕することによって調整した。
【0171】
【表9】
【0172】
表9のように、X線回折における、ゼオライト結晶構造に起因する結晶子サイズが10nmより小さくなる(実施例9-2)ことによって、結晶子サイズが10nm以上である実施例1-2、9-1と比べて、ゼオライト構造特有の吸着特性の発現が小さく、スラリー安定性が低下した。
【0173】
(実施例10-1~10-4)
X線回折の回折ピーク強度比P4/P3を表10のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。P4/P3はゼオライトの結晶構造を有する化合物を微粉砕することによってP4の値を変更することで調整した。
【0174】
【表10】
【0175】
表10より、P4/P3が大きくなることで、ケイ素化合物の最表面にゼオライトの結晶構造を有する化合物が均一に付着しにくくなるため、スラリーの安定性が低下する傾向があった。一方、P4/P3は小さい方がケイ素化合物の最表面にゼオライトの結晶構造を有する化合物が均一に付着するため、スラリーの安定性が向上した。表10の結果より、P4/P3は、P4/P3≦1の関係を満たすこと(実施例10-2~10-4、1-2)が好ましく、P4/P3≦0.5の関係を満たすこと(実施例10-4、1-2)がより好ましいことがわかった。
【0176】
(実施例11-1~11-4)
ゼオライトの結晶構造を有する化合物の種類を表11のように変更した以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。
【0177】
【表11】
【0178】
表11より、ゼオライトの結晶構造を有する化合物を使用することでスラリーの安定性は向上した。これはゼオライト構造特有の吸着特性によるものである。
【0179】
(実施例12-1)
炭素被膜を形成しなかったこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。
【0180】
【表12】
【0181】
表12より、炭素被膜が形成されたことにより、伝導性が向上し、電池特性が向上した。
【0182】
(実施例13-1~13-4)
酸化還元ドープ後の加熱温度を表13のように変更すること以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。
【0183】
【表13】
【0184】
表13から分かるように、加熱温度が低い場合、リチウムシリケートが固定化されない傾向があり、その場合電池の充放電時に可逆容分となってしまうため、加熱温度が400℃未満である実施例13-1では、加熱温度が400℃以上700℃以下である実施例13-2、1-2、13-3と比べて、初期効率が低下した。一方、加熱温度が高い場合、Siの結晶性が高くなり、ケイ素化合物表面におけるSiの露出部が増加する。そのためため、加熱温度が700℃を超える実施例13-4では、加熱温度が400℃以上700℃以下である実施例13-2、1-2、13-3と比べて、スラリーの安定性が低下した。
【0185】
(実施例14-1~14-4)
粒度分布における体積基準で50%となる粒径の比D1/D2を表14のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。D1/D2はゼオライトの結晶構造を有する化合物を微粉砕することによってD1の値を変更することで調整した。
【0186】
【表14】
【0187】
表14より、D1/D2が小さくなることでゼオライトの結晶構造を有する化合物の結晶子サイズが小さくなり、ゼオライト構造特有の吸着特性の発現が小さくなるため、D1/D2が0.01未満である実施例14-1では、D1/D2が0.01以上である実施例14-2、1-2、14-3と比べて、スラリーの安定性が低下した。一方、D1/D2が大きくなることでケイ素化合物の最表面にゼオライトの結晶構造を有する化合物が均一に付着しにくくなるため、D1/D2が2を超える実施例14-4では、D1/D2が2以下である実施例14-2、1-2、14-3と比べて、スラリーの安定性が低下した。
【0188】
(実施例15-1、15-2)
ケイ素化合物の一次粒子のうち、1μm以下の一次粒子の割合を表15のように変更したこと以外、実施例1-2と同じ条件で二次電池を作製し、サイクル特性、初回効率、スラリーの安定性を評価した。ケイ素化合物の1μm以下の一次粒子の割合はケイ素化合物粒子をボールミルで粉砕するときの条件で調整した。
【0189】
【表15】
【0190】
表15から分かるように、ケイ素化合物の一次粒子のうち、1μm以下の一次粒子の割合の多い方(実施例15-1)が、負極活物質粒子の比表面積が大きくなるため、1μm以下の一次粒子の割合が5%以下である実施例15-2、1-2と比べて、Liが溶出しやすくなるため、スラリーの安定性が低下した。
【0191】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0192】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
20…リチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)、 21…巻回電極体、
22…正極リード(正極アルミリード)、
23…負極リード(負極ニッケルリード)、 24…密着フィルム、
25…外装部材。
図1
図2
図3