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特許7186156負極活物質、負極及び負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】負極活物質、負極及び負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20221201BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221201BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
C01B33/32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019182833
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021061101
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】大沢 祐介
(72)【発明者】
【氏名】古屋 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】酒井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】松野 拓史
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/198511(WO,A1)
【文献】特開2017-188319(JP,A)
【文献】特開2015-095342(JP,A)
【文献】国際公開第2013/168727(WO,A1)
【文献】特開2017-174803(JP,A)
【文献】特開2017-195015(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208627(WO,A1)
【文献】特開2018-152252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、その表面の少なくとも一部が炭素層で被覆され、
前記ケイ素化合物粒子はLiSi及びLiSiOを含有するものであり、
前記ケイ素化合物粒子において、 29 Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、ケミカルシフト値として-50ppm近傍で与えられるアモルファスシリコンのショルダーピークの強度Aと、Li Si に由来するピークの強度Bと、Li SiO に由来するピークの強度Cが、A<B<Cという関係を満たすものであることを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記負極活物質の真密度が2.3g/cmよりも大きく、2.4g/cmよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記ケイ素化合物粒子に含まれるLiSiOが結晶性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記ケイ素化合物粒子において、29Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、LiSiに由来するピークの強度Dが、LiSiに由来するピークの強度Bよりも小さいものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記炭素層は、導電性炭素層とさらにその上の反応抑制層との2層構造を有するものであり、前記反応抑制層は、電解液との反応性を低減させる層であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記負極活物質粒子のメジアン径は4.0μm以上12μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記負極活物質は、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは7.0nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極活物質を含むものであることを特徴とする負極。
【請求項9】
負極活物質粒子を含む負極活物質の製造方法であって、
酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する工程と、
前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSi及びLiSiOを含有させ、前記ケイ素化合物粒子において、 29 Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、ケミカルシフト値として-50ppm近傍で与えられるアモルファスシリコンのショルダーピークの強度Aと、Li Si に由来するピークの強度Bと、Li SiO に由来するピークの強度Cが、A<B<Cという関係を満たすものとする工程とを含むことを特徴とする負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極及び負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiO(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
【0010】
また、ケイ素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、日立マクセルが2010年6月にナノシリコン複合体を採用したスマートフォン用の角形の二次電池の出荷を開始した(例えば非特許文献1参照)。Hohlより提案されたケイ素酸化物はSi0+~Si4+の複合材であり様々な酸化状態を有する(非特許文献2参照)。またKapaklisはケイ素酸化物に熱負荷を与えることでSiとSiOにわかれる、不均化構造を提案している(非特許文献3参照)。
【0011】
Miyachiらは不均化構造を有するケイ素酸化物のうち充放電に寄与するSiとSiOに注目しており(非特許文献4参照)、Yamadaらはケイ素酸化物とLiの反応式を次のように提案している(非特許文献5参照)。
2SiO(Si+SiO) + 6.85Li + 6.85e
→ 1.4Li3.75Si + 0.4LiSiO + 0.2SiO
反応式ではケイ素酸化物を構成するSiとSiOがLiと反応し、LiシリサイドとLiシリケート、一部未反応であるSiOにわかれる。
【0012】
ここで生成したLiシリケートは不可逆で、一度形成した後はLiを放出せず安定した物質であると一般にいわれている。この反応式から計算される質量当たりの容量は、実験値とも近い値を有しており、ケイ素酸化物の反応メカニズムとして認知されている。Kimらはケイ素酸化物の充放電に伴う不可逆成分、LiシリケートをLiSiOとして、Li-MAS-NMRや29Si-MAS-NMRを用いて同定している(非特許文献6参照)。
【0013】
この不可逆容量はケイ素酸化物の最も不得意とするところであり、改善が求められている。そこでKimらは予めLiシリケートを形成させるLiプレドープ法を用いて、電池として初回効率を大幅に改善し、実使用に耐えうる負極電極を作製している(非特許文献7参照)。
【0014】
また電極にLiドープを行う手法ではなく、粉末に処理を行う方法も提案し、不可逆容量の改善を実現している(特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2001-185127号公報
【文献】特開2002-042806号公報
【文献】特開2006-164954号公報
【文献】特開2006-114454号公報
【文献】特開2009-070825号公報
【文献】特開2008-282819号公報
【文献】特開2008-251369号公報
【文献】特開2008-177346号公報
【文献】特開2007-234255号公報
【文献】特開2009-212074号公報
【文献】特開2009-205950号公報
【文献】特開平06-325765号公報
【文献】特開2015-156355号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】社団法人電池工業会機関紙「でんち」平成22年5月1日号、第10頁
【文献】A. Hohl, T. Wieder, P. A. van Aken, T. E. Weirich, G. Denninger, M. Vidal, S. Oswald, C. Deneke, J. Mayer, and H. Fuess : J. Non-Cryst. Solids, 320, (2003 ), 255.
【文献】V. Kapaklis, J. Non-Crystalline Solids, 354 (2008) 612
【文献】Mariko Miyachi, Hironori Yamamoto, and Hidemasa Kawai, J. Electrochem. Soc. 2007 volume 154, issue 4, A376-A380
【文献】M. Yamada, A. Inaba, A. Ueda, K. Matsumoto, T. Iwasaki, T. Ohzuku, J.Electrochem. Soc., 159, A1630 (2012)
【文献】Taeahn Kim, Sangjin Park, and Seung M. Oh, J. Electrochem. Soc. volume 154,(2007), A1112-A1117.
【文献】Hye Jin Kim, Sunghun Choi, Seung Jong Lee, Myung Won Seo, Jae Goo Lee, Erhan Deniz, Yong Ju Lee, Eun Kyung Kim, and Jang Wook Choi, Nano Lett. 2016, 16, 282-288.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性及びサイクル特性が望まれている。そこで、Liの挿入、一部脱離により改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、サイクル特性、及び初期充放電特性を改善してきた。しかしながら、本発明者らは、充放電に伴い、生成したLiシリケートが分解生成を繰り返すことを発見した。その結果、充放電サイクル初期に容量低下が生じると共に、表面層における電解液の分解も促進されるため、電池特性が十分でなかった。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、初回効率改善に伴う電池容量の増加が可能であり、十分な電池サイクル特性を実現可能な負極活物質を提供することを目的とする。また本発明は、そのような負極活物質を含む負極を提供することを目的とする。さらに本発明は、上記のような電池特性に優れる負極活物質の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を解決するために、本発明は、負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、その表面の少なくとも一部が炭素層で被覆され、
前記ケイ素化合物粒子はLiSi及びLiSiOを含有するものであることを特徴とする負極活物質を提供する。
【0020】
本発明の負極活物質(以下、ケイ素系負極活物質とも呼称する)は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子(以下、ケイ素系負極活物質粒子とも呼称する)を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子が充放電に対して安定なLi化合物(LiSi及びLiSiO)を含むことで、二次電池の負極活物質として用いた際に、電池の初回効率(以下、初期効率とも呼称する)を向上させることができる。また、炭素層を被覆することで、導電性を付与し、さらに粒子内部にLiシリケートが生成されたものとするが、一般的に得られるLiSiOだけではなく、LiSiからLiSiOに化学変化する過程で生成する、LiSiを粒子内部に含むことで、粒子内部のLi拡散性を向上させることができると推測される。その結果、Liが移動しやすくなり、Liシリケートが生成されやすくなるため、サイクル初期劣化時のLiシリケート生成分解挙動を緩和することができると推測される。そのため、高いサイクル特性を得つつ、初期充放電特性を向上させ、結果、電池容量を増加させることが可能となる。
【0021】
このとき、前記ケイ素化合物粒子において、29Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、ケミカルシフト値として-50ppm近傍で与えられるアモルファスシリコンのショルダーピークの強度Aと、LiSiに由来するピークの強度Bと、LiSiOに由来するピークの強度Cが、A<B<Cという関係を満たすものであることであることが好ましい。
【0022】
A<Bという関係を満たすものであれば、アモルファスシリコンに対してLiSiを十分に含むこととなり、Liの拡散性がより向上する。また、B<Cという関係を満たすものであれば、Liの拡散性が高いLiSiOが十分に存在することとなるため、粒子内部のLi拡散性がより確実に良好となる。
【0023】
また、前記負極活物質の真密度が2.3g/cmよりも大きく、2.4g/cmよりも小さいことが好ましい。
【0024】
炭素層で被覆された負極活物質の真密度が2.3g/cmよりも大きいものであれば、Liシリケート(LiSi及びLiSiO等)を十分に含むものであるため、電池特性がより安定する。また、2.4g/cmよりも小さいものであれば、Liシリケートの生成が過剰になりすぎないため、粒子内部のLi拡散性の低下を抑制できる。
【0025】
また、前記ケイ素化合物粒子に含まれるLiSiOが結晶性を有することが好ましい。
【0026】
LiSiOが結晶性を有することで、LiSiOの安定性を良好にできるため、粒子内部のLi拡散性を向上させつつ、負極活物質材料をスラリー化した際のLiの溶出を抑制することができ、電極作製時に用いるスラリーに対する安定性、及び、電池のサイクル特性がより向上する。
【0027】
また、前記ケイ素化合物粒子において、29Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、LiSiに由来するピークの強度Dが、LiSiに由来するピークの強度Bよりも小さいものであることが好ましい。
【0028】
このようなものであれば、Liの拡散性に寄与するLiSiが十分に含まれており、また、バルク内のLi拡散性が低いLiSiが十分に低減されていることとなり、ケイ素化合物粒子内部のLi拡散性がさらに確実に良好なものとなる。
【0029】
また、前記炭素層は、導電性炭素層とさらにその上の反応抑制層との実質的に2層構造を有するものであることが好ましい。
【0030】
導電性を与えるために形成した導電性炭素層と、さらにその上に、電池を作製する際の電解液との反応性を低減させる目的で形成した反応抑制層との実質的に2層構造を有することで、電池のサイクル特性がより向上する。
【0031】
また、前記負極活物質粒子のメジアン径は4.0μm以上12μm以下であることが好ましい。
【0032】
メジアン径が4.0μm以上であれば、体積当たりの表面積が大きくなりすぎないため、電解液との反応を抑制することができ、電池特性が良好となる。一方で、メジアン径が12μm以下であれば、粒子が割れ難くなるため、充放電に伴う活物質の膨張による、電子コンタクトの欠落を抑制することができる。
【0033】
また、前記負極活物質は、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは7.0nm以下であることが好ましい。
【0034】
ケイ素化合物粒子が上記のケイ素結晶性を有する負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いれば、より良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。
【0035】
また、本発明は、上記記載の負極活物質を含むものであることを特徴とする負極を提供する。
【0036】
このような負極であれば、この負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いた際に、電池容量、初回効率を向上させることができるとともに、十分なサイクル特性を得ることができる。
【0037】
また、本発明は、負極活物質粒子を含む負極活物質の製造方法であって、
酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子の少なくとも一部を炭素層で被覆する工程と、
前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSi及びLiSiOを含有させる工程とを含むことを特徴とする負極活物質の製造方法を提供する。
【0038】
このような負極活物質の製造方法であれば、製造した負極活物質を二次電池の負極活物質として使用した際に、良好なサイクル特性を得つつ、高い電池容量で良好な初回効率を有する負極活物質を製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子が充放電に対して安定なLi化合物(LiSi及びLiSiO)を含むことで、二次電池の負極活物質として用いた際に、電池の初回効率を向上させることができる。また、炭素層を被覆することで、導電性を付与し、さらに粒子内部にLiシリケートを生成されたものとするが、一般的に得られるLiSiOだけではなく、LiSiからLiSiOに化学変化する過程で生成する、LiSiを粒子内部に含むことで、粒子内部のLi拡散性を向上させることができると推測される。その結果、Liが移動しやすくなり、Liシリケートが生成されやすくなるため、サイクル初期劣化時のLiシリケート生成分解挙動を緩和することができると推測される。そのため、高いサイクル特性を得つつ、初期充放電特性を向上させ、結果、電池容量を増加させることが可能となる。
【0040】
また、本発明の負極活物質の製造方法であれば、製造した負極活物質を二次電池の負極活物質として使用した際に、良好なサイクル特性を得つつ、高い電池容量で良好な初回効率を有する負極活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施例1-1~1-3のケイ素化合物粒子から測定される29Si-MAS-NMR スペクトルの拡大図である。
図2】実施例1-1~1-3のケイ素化合物粒子から測定される29Si-MAS-NMR スペクトルである。
図3】比較例2のケイ素化合物粒子から測定される29Si-MAS-NMR スペクトルである。
図4】本発明の負極の構成の一例を示す断面図である。
図5】本発明の負極を用いたリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成の一例を示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明について実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素系活物質を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性が望まれている。また初期充放電特性を改善可能なLiドープSiOにおいて、炭素系活物質と同等に近いサイクル特性が望まれている。しかしながら、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した際に、炭素系活物質と同等の初期充放電特性を与え、また炭素系活物質と同等のサイクル特性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0044】
そこで、本発明者らは、二次電池の負極活物質として用いた際に、高いサイクル特性を得つつ、初期充放電特性を向上させ、結果、電池容量を増加させることが可能な負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0045】
<本発明の負極活物質>
本発明の負極活物質は、負極活物質粒子を含む。そして、負極活物質粒子は、ケイ素酸化化合物粒子を含有する。前記ケイ素化合物粒子は、その表面の少なくとも一部が炭素層で被覆されており、LiSiとLiSiOを含有する。
【0046】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子が充放電に対して安定なLi化合物(LiSi及びLiSiO)を含むことで、二次電池の負極活物質として用いた際に、電池の初回効率を向上させることができる。また、炭素層を被覆することで、導電性を付与し、さらに粒子内部にLiシリケートを生成されたものとするが、一般的に得られるLiSiOだけではなく、LiSiからLiSiOに化学変化する過程で生成する、LiSiを粒子内部に含むことで、粒子内部のLi拡散性を向上させることができると推測される。その結果、Liが移動しやすくなり、Liシリケートが生成されやすくなるため、サイクル初期劣化時のLiシリケート生成分解挙動を緩和することができると推測される。そのため、高いサイクル特性を得つつ、初期充放電特性を向上させ、結果、電池容量を増加させることが可能となる。
【0047】
特にLiシリケートの種類は、バルク内Li拡散と相関する。例えば、LiSiOはSi-Oの1次元チェーン構造を有するが、LiSiは2次元チェーン構造を有するため、LiSiのバルク内のLi拡散性はLiSiOのそれよりも低い。そこで、ケイ素化合物粒子中のLi化合物をLiSiOに化学変化させることが望ましいが、すべて化学変化させると、粒界が強く生成するため、Liの拡散がし辛くなる。そこで、LiSiからLiSiOに化学変化する過程で生じる、LiSiをLiSiOとともに含有させることで、粒子内部のLi拡散性を向上させることができる。
【0048】
また、前記ケイ素化合物粒子において、29Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、ケミカルシフト値として-50ppm近傍で与えられるアモルファスシリコンのショルダーピークの強度Aと、LiSiに由来するピークの強度Bと、LiSiOに由来するピークの強度Cが、A<B<Cという関係を満たすものであることが好ましい。
【0049】
アモルファスシリコン中よりもLiシリケート(LiSiとLiSiO)の内部の方がLiの拡散性が高いと考えられる。A<Bという関係を満たすものであれば、アモルファスシリコンに対してLiSiを十分に含むこととなり、また、B<Cという関係を満たすものであれば、Liの拡散性の高いLiSiOが十分に存在することとなるため、粒子内部のLi拡散性がより確実に良好となる。
【0050】
また、前記ケイ素化合物粒子において、29Si-MAS-NMRスペクトルから得られる、LiSiに由来するピークの強度Dが、LiSiに由来するピークの強度Bよりも小さいものであることが好ましい。
【0051】
このようなものであれば、Liの拡散性に寄与するLiSiが十分に含まれており、また、バルク内のLi拡散性が低いLiSiが十分に低減されていることとなり、ケイ素化合物粒子内部のLi拡散性がさらに確実に良好なものとなる。
【0052】
なお、29Si-MAS-NMRスペクトルにおいて、ケミカルシフト値が-70ppm付近の位置に現れるピークがLiSiに由来するピークであり、ケミカルシフト値が-72~75ppm付近の位置に現れるピークがLiSiOに由来するピークであり、また、ケミカルシフト値が-93ppm付近に現れるピークがLiSiに由来するピークである。
【0053】
また、前記負極活物質の真密度が2.3g/cmよりも大きく、2.4g/cmよりも小さいことが好ましい。真密度の測定は、一般的に用いられている手法により行えばよい。特に、この真密度の測定には、ヘリウムガスを用いたガス置換法による測定方法を用いることができる。測定装置としては、例えば、株式会社マウンテック製全自動真密度測定装置Macpycnoを用いることができる。
【0054】
炭素層で被覆された負極活物質の真密度が2.3g/cmよりも大きいものであれば、Liシリケート(LiSi及びLiSiO等)を十分に含むものであるため、電池特性がより安定する。また、炭素層で被覆された負極活物質の真密度が2.4g/cmよりも小さいものであれば、Liシリケートの生成が過剰になりすぎないため、粒子内部のLi拡散性の低下を抑制できる。
【0055】
また、前記ケイ素化合物粒子に含まれるLiSiOが結晶性を有することが好ましい。LiSiOが結晶性を有することで、負極活物質材料をスラリー化した際のLiの溶出を抑制することができ、電極作製時に用いるスラリーに対する安定性、及び、電池のサイクル特性がより向上する。LiSiOの結晶性は、例えば、X線回折測定で確認することができる。具体的には、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるLiSiOに起因する回折ピークの半値幅(2θ)が例えば3°以下、好ましくは1.7°以下である等により確認することができる。
【0056】
また、前記炭素層は、導電性炭素層とさらにその上の反応抑制層との実質的に2層構造を有するものであることが好ましい。導電性を与えるために形成した導電性炭素層と、さらにその上に、電池を作製する際の電解液との反応性を低減させる目的で形成した反応抑制層との実質的に2層構造を有することで、電池のサイクル特性がより向上する。
【0057】
炭素層の合計膜厚は、薄く均一に形成することが好ましいが、5nm以上の厚みであれば、導電性と反応抑制層の両立が可能となる。また、炭素層の合計膜厚は特に限定されないが、500nm以下であれば、電池容量が低下することがないため好ましい。また、上記炭素層の2層構造のうち、反応抑制層は導電性炭素層よりも導電性が低いものであってもよい。
【0058】
また、前記負極活物質粒子のメジアン径は4.0μm以上12μm以下であることが好ましい。メジアン径が4.0μm以上であれば、体積当たりの表面積が大きくなりすぎないため、電解液との反応を抑制することができ、電池特性が良好となる。一方で、メジアン径が12μm以下であれば、粒子が割れ難くなるため、充放電に伴う活物質の膨張による、電子コンタクトの欠落を抑制することができる。また、より好ましくは、メジアン径は5.0μm以上10μm以下である。
【0059】
また、前記負極活物質は、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは7.0nm以下であることが好ましい。ケイ素化合物粒子が上記のケイ素結晶性を有する負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いれば、より良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。
【0060】
また、ケイ素化合物は、結晶性Siを極力含まないことが望ましい。このように、結晶性Siを極力含まないものであれば、電解液との反応性が高くなりすぎることがなく、電池特性を悪化させることがない。また、ケイ素化合物中のSiは、実質的にアモルファスであることが望ましい。
【0061】
<負極>
まず、負極(非水電解質二次電池用負極とも呼称する)について説明する。図4は本発明の負極の構成の一例を示す断面図である。
【0062】
[負極の構成]
図4に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていてもよい。さらに、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0063】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0064】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0065】
また、負極集電体11の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は、化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば、圧延金属箔などである。
【0066】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な本発明の負極活物質を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダ)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。負極活物質は負極活物質粒子を含み、負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子を含む。
【0067】
また、負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系負極活物質)と炭素系活物質とを含む混合負極活物質材料を含んでいてもよい。これにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。
【0068】
また、上記のように本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含み、ケイ素化合物粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有する酸化ケイ素材である。このケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiO:0.5≦x≦1.6の範囲であることが好ましい。xが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎないため好ましい。中でも、SiOの組成はxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0069】
また、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子は、Li化合物を含有している。より具体的には、ケイ素化合物粒子は、LiSi、LiSiOを含有している。このようなものは、ケイ素化合物中の、電池の充放電時のリチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO成分部を予め別のリチウムシリケートに改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。また、Siの結晶成長を抑制した範囲でLiシリケートの肥大化を行うことが好ましく、これにより、充放電に伴う不可逆容量をより低減することができる。
【0070】
また、ケイ素化合物粒子のバルク内部のLiSiO及びLiSiはNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)で定量可能である。NMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
29Si-MAS-NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置 : Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ : 4mmHR-MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0071】
また、負極活物質層に含まれる負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどである。
【0072】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0073】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素系活物質を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0074】
<負極活物質の製造方法>
続いて、本発明の負極活物質を製造する方法を説明する。
【0075】
まず、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する。以下では、酸素が含まれるケイ素化合物として、SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素を使用した場合を説明する。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃~1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0076】
発生した酸化珪素ガスは吸着板上で固体化され堆積される。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕し、粉末化を行う。以上のようにして、ケイ素化合物粒子を作製することができる。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子は、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子生成後の熱処理で制御できる。
【0077】
ここで、ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素材の層(炭素層)を生成する。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法の一例について以下に説明する。
【0078】
まず、ケイ素化合物粒子を炉内にセットする。次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが、1200℃以下が望ましく、より望ましいのは900℃以下である。分解温度を1200℃以下にすることで、活物質粒子の意図しない不均化を抑制することができる。所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、ケイ素化合物粒子の表面に炭素層を生成する。また、炭素材の原料となる炭化水素ガスは、特に限定しないが、C組成においてn≦3であることが望ましい。n≦3であれば、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。
【0079】
次に、上記のように作製したケイ素化合物粒子に、Liを挿入する。これにより、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を作製する。すなわち、これにより、ケイ素化合物粒子が改質され、ケイ素化合物粒子内部にLi化合物(LiSi、LiSiO)が生成する。Liの挿入は、酸化還元法により行うことが好ましい。
【0080】
酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル系溶媒にリチウムを溶解した溶液Aにケイ素化合物粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aに更に多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませてもよい。リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bにケイ素化合物粒子を浸漬することで、ケイ素化合物粒子から活性なリチウムを脱離できる。この溶液Bの溶媒は例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミン系溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。または溶液Aに浸漬させた後、得られたケイ素化合物粒子を不活性ガス下で熱処理してもよい。熱処理することにLi化合物を安定化することができる。
【0081】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0082】
また、溶液Aに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0083】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0084】
また、溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。
【0085】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0086】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0087】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及びエチレンジアミン等を用いることができる。
【0088】
LiSiを形成するためには、溶媒中に存在するOH基を有する物質を低減させる必要がある。溶媒中に存在するOH基を有する物質としては、例えば、溶液A及び溶液Bの溶媒としてジエチルエーテルを用いた場合に、その溶媒が持ち込むHOや炭素層で被覆したケイ素化合物粒子の表面に付着するHOに由来するものがあげられる。例えば、HOの場合、溶媒中の水分量を150ppm以下にするとよい。溶媒中にHOが存在することで、Liドープに使用するLi表層部と反応し、LiOHが生成する。このLiOHは、ろ過後(又はろ過及び真空乾燥後)、材料表面に付着し残る。LiOHが残った状態で、以下で説明する次工程の熱処理を行うことで、粒子内に酸化部が生成し、Liの拡散を阻害してしまうと考えられる。ここで、酸化部とは、LiとOの化合物であり、例えば、LiO、Li等があげられる。
【0089】
酸化還元法によりLiドープ処理を行った材料は、上記ろ過後、500℃以上650℃以下の熱処理を行うことでLiシリケートの種類や量(存在割合)、結晶性等を制御することができる。この時、真空状態、または不活性ガス下で熱処理を行うことが好ましい。また熱処理装置、ここでは装置に限定はしないが、ロータリーキルンのような均一熱処理を用いることが望ましい。この時、真空状態、不活性ガス流量(内圧)、レトルト厚み、回転数をファクターとし、様々なLiシリケート状態を作り出すことができる。また、熱処理時間は、特に限定されないが、例えば、1~12時間とすることができる。どのような条件でどのようなLiシリケート状態とするかは、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。同様に、シリコンの肥大化、またはシリコンの非晶質化の制御を行うことができる。これらの制御をどのような条件で行うかについても、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。また、SiOはLiとの反応時、Liの集中が起こるとSiOが一部不均化しSiが生成する。即ち、高速に反応させると、Liとの均一反応が起こらず、Si-O結合が切れ、Siが生成する。この時、Liドープ時の挿入レートを制御することで、Si化を抑制することが可能となる。挿入レートは、多環芳香族化合物濃度や、温度で制御でき、Liドープ前の放電容量(0V-1.2V)に対し、0.2C以下でドープすることが望ましい。このようにすれば、Siの肥大化や、熱処理工程のLiシリケート生成に影響を与えることがない。Liドープ時の挿入レートの制御をどのような条件で行うかについても、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。
【0090】
また、Liシリケートの生成は、Liドープ前のケイ素化合物粒子の結晶構造にも起因する。ケイ素化合物粒子のX線回折で得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークより、シェラーの式で求められる結晶子サイズとしては、7.0nm以下が望ましいが、3nm以下がより望ましい。よりアモルファス材が多いケイ素化合物粒子を開始材料とし、Liドープを行うことで、Liの移動がスムーズとなり、その後のLiシリケート状態を制御しやすくなる。
【0091】
また、上記熱処理の雰囲気でOの混合を抑制することが好ましい。熱処理前、熱処理プロセス中にOが混合することを抑制することで、LiO等の生成を抑制し、粒子内部の酸化を抑制することができる。このようにすれば、生成したLiO等がLiの拡散を阻害してしまうことがなく、Liがスムーズに移動できるため、LiSiの生成を阻害することがない。
【0092】
また、本発明において、炭素層は、導電性炭素層とさらにその上の反応抑制層との実質的に2層構造を有するものであることが好ましい。反応抑制層は、導電性を与える導電性炭素層よりも低い温度で形成させることができ、例えば、以下のようにして形成させることができる。まず、ケイ素化合物粒子をCVD法により炭素材で被覆した後、Liの挿入・改質後に、タールを溶解させたエーテル溶媒をかけ、乾燥させることで、タールの層を最表層に堆積させる。この時、タールの濃度を調整して、表層に残る堆積量を調整することができる。タールの濃度は、例えば、1質量%程度に調整することができる。その後、450℃~700℃の範囲で加熱を行う。この加熱はLiシリケートの制御の熱処理と同時に行うことができる。これによって最表層のタールが分解炭化し、CVD法で得られた導電性炭素層の上部に、別の炭素層として反応抑制層を設け2層構造を形成することができる。
【0093】
以上のようにして作製した負極活物質を、負極結着剤、導電助剤などの他の材料と混合して、負極合剤とした後に、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。次に、負極集電体の表面に、上記のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。以上のようにして、負極を作製できる。
【0094】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記した本発明の負極活物質を用いた非水電解質二次電池の具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0095】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図5に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また、巻回をせず、正極、負極間にセパレータを有した積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0096】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0097】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0098】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0099】
正極は、例えば、図4の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0100】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0101】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0102】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiM1OあるいはLiM2POで表される。式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0103】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0104】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnPO(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0105】
[負極]
負極は、上記した図4のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0106】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0107】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成などを、充放電の有無に依存せずに再現性良く正確に調べることができる。
【0108】
[セパレータ]
セパレータはリチウムメタル、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0109】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいてもよい。
【0110】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2-ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0111】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0112】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0113】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどが挙げられる。
【0114】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0115】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0116】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0117】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0118】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0119】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0120】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0121】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(図4を参照)。
【0122】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【実施例
【0123】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0124】
(実施例1-1)
まず、負極活物質を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiOのxの値は1.0であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱分解CVDを700℃から1000℃の範囲で行うことで、ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆し、導電性炭素層を形成させた。
【0125】
続いて、溶液A、溶液Bの溶媒として、水分を低減させたジエチルエーテルを使用し、酸化還元法によりケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質した(Liドープ処理)。このとき、溶媒中のOH基を有する物質を低減するために、溶媒の脱水処理を行い、水分量をジエチルエーテルに対して100ppm以下に制御した。
【0126】
そして、Liドープ処理の後、熱処理工程(550℃、6時間)を行った。この熱処理工程時に、Arを陽圧でフローさせ、Oの混合を抑制した。Oの混合の抑制は、装置構造上、意図せず入り込んでしまうOを出来る限り低減するために、装置を制御することで行った。
【0127】
このようにして得られた負極活物質粒子の粒径、真密度、及び、炭素層の厚さを測定した。また、29Si-MAS-NMRにてLiSi、LiSiO、LiSiの存在の有無を確認した。また、Cu-Kα線を用いたX線回折測定を行い、Si(111)結晶面に対応する結晶子サイズを求めた。
【0128】
次に、作製した負極活物質(ケイ素酸化化合物)、グラファイト(Graphite)、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)を、18.6:74.4:1:1:4:1の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。
【0129】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は7.0mg/cmであった。
【0130】
次に、溶媒(エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)をそれぞれ、1.0質量%、2.0質量%添加した。
【0131】
次に、以下のようにしてコイン電池を組み立てた。最初に厚さ1mmのLi箔を直径16mmに打ち抜き、アルミクラッドに張り付けた。得られた負極電極を直径15mmに打ち抜き、セパレータを介してLi箔と向い合せ電解液注液後、2032コイン電池を作製した。
【0132】
初回効率は以下の条件で測定した。まず充電レートを0.03C相当で充電を行った。このとき、CCCVモードで充電を行った。CVは0Vで終止電流は0.04mAとした。放電レートは同様に0.03C、放電電圧は1.2Vとして、CC放電を行った。
【0133】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0134】
また、上記得られた初期データから、ラミネートフィルム型二次電池の対正極を設計し、電池評価(サイクル特性の評価)を行った。
【0135】
ラミネートフィルム型二次電池の対正極の設計は以下のようにして行った。まず、正極を、対極をLiとして充放電し、正極容量を求めた。充電電位をサイクル特性の評価をする際に用いるセルの充電電位(4.3V)に対して50mV高い4.35Vとし、放電電圧を2.5Vとした。そして、上記初期充放電特性を調べたときの負極のデータ及び正極の充放電時の初期データを用いて、100×((正極容量)-(負極の不可逆容量))/(負極の可逆容量)で表される式の値を算出し、その数値が90%~95%の範囲となる正極面積密度(乾燥後の、正極の単位面積あたりの正極活物質層の堆積量)に設計した。
【0136】
また、正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoOを95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0137】
負極としては、上記のコイン電池のケイ素系活物質を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。
【0138】
電解液としては、上記のコイン電池の電解液と同様の手順で作製したものを使用した。
【0139】
次に、以下のようにしてラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0140】
このようにして作製したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(維持率%)を調べた。
【0141】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。電池のサイクル特性は3サイクル目の放電容量から計算し、サイクル数が100で電池試験をとめた。ここで、測定した放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、各サイクルの容量維持率(以下、単に維持率ともいう)を算出した。また、通常サイクル、すなわち3サイクル目からは、充電0.7C、放電0.5Cで充放電を行った。充電電圧は4.3V、放電終止電圧は2.5V、充電終止レートは0.07Cとした。
【0142】
(実施例1-2)
リチウムの挿入・改質に用いる溶液の溶媒(ジエチルエーテル)の脱水処理を行い、水分量をジエチルエーテルに対して50ppm以下に制御した以外は実施例1-1と同様に行った。
【0143】
(実施例1-3)
リチウムドープ処理前の炭素層を被覆したケイ素化合物粒子を、150℃で5時間乾燥させた材料を用いてLiドープした以外は実施例1-2と同様に行った。
【0144】
上記のようにして、実施例1-1~1-3では、LiSiのNMRのピーク強度を制御した。
【0145】
(比較例1)
比較例1では、Liドープを行わなかった以外は実施例1-1と同様に行った。
【0146】
(比較例2)
比較例2では、Liドープ時にLiドープ量を制御することで、初回効率が85%となるようにLiドープを行い、かつ、LiSiが生成しないように溶媒中の水分量等を制御した。
【0147】
(比較例3)
比較例3では、Liドープ時にLiドープ量を制御することで、初回効率が90%となるようにLiドープを行った。ただし、LiSiは生成させず、Liシリケートとして、主にLiSiOが生成するように制御した。
【0148】
(実施例1-4、1-5)
実施例1-4、1-5では、Si結晶子サイズを変化させた以外は実施例1-1と同様に行った。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子の結晶性は、原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子の生成後の熱処理で制御した。
【0149】
(実施例1-6~1-8)
実施例1-6~1-8では、熱分解CVDにより形成させた導電性炭素層に加え、Liドープ後、さらに最表層に反応抑制層を設けた。それ以外は、実施例1-1、1-2、1-3と基本的に同様に行ったが、実施例1-6、1-7、1-8について、それぞれ、反応抑制層形成後に測定された負極活物質のSi結晶子サイズ及びLiシリケートの量比が実施例1-1、1-2、1-3と同様になるように調整した。Si結晶子サイズは実施例1-4、1-5と同様のパラメータを調整した。また、Liシリケートの量比はリチウムの挿入・改質に用いる溶液の溶媒中の水分量、リチウムドープ処理前のケイ素化合物粒子の乾燥により調整した。
【0150】
反応抑制層の形成は以下のようにして行った。導電性炭素層を形成したケイ素化合物粒子に対して酸化還元法によりLiの挿入・脱離を行った後に、タールが溶解したジグリム溶液(タールが1質量%)をかけ、乾燥させることで、タールの層を最表層に堆積させた。その後、450℃~700℃の範囲で加熱し、Liシリケートの生成改質を行った。この加熱によって同時に最表層のタールが分解炭化することで、CVDで得られた導電性炭素層の上部に、別の炭素層からなる反応抑制層を設け2層構造を形成させた。
【0151】
また、実施例1-6~1-8において、負極活物質粒子の粒径、真密度、及び、炭素層の厚さの測定、29Si-MAS-NMRによるLiSi、LiSiO、LiSiの存在の有無の確認、及び、Cu-Kα線を用いたX線回折測定による結晶子サイズの算出は反応抑制層形成後に行った。
【0152】
(実施例1-9~1-14)
実施例1-9~1-14では、負極活物質粒子の粒径を変化させた以外は、実施例1-3と同様に行った。負極活物質粒子の粒径は、ケイ素化合物粒子作製時の堆積物の粉砕条件を調整して変化させた。
【0153】
上記実施例1-1~1-14において、X線回折測定の結果から、実施例1-1~1-14のケイ素化合物粒子に含まれるLiSiOは結晶性を有していた。
【0154】
実施例1-1~1-14、及び、比較例1~3の評価結果を表1に示す。また、実施例1-1~1-3、及び、比較例2のケイ素化合物粒子から得られた29Si-MAS-NMRスペクトルを図2、3に示す。また、実施例1-1~1-3の29Si-MAS-NMRスペクトルによる測定結果の拡大図を図1に示す。なお、表1中のLiSi、LiSiO、及び、LiSiの有無(及びLiSiの量)は、図1に示すように、それぞれ、-70ppm付近の位置に現れるピーク、-72~75ppm付近の位置に現れるピーク、-93ppm付近に現れるピークの有無により確認した。
【0155】
【表1】
【0156】
表1からわかるように、Liドープを行わなかった比較例1は、Liシリケート相が形成されておらず、また初期効率が低いことから、電池容量が十分ではなかった。また、100サイクルまでの容量維持率(サイクル特性)も、十分なものではなかった。また、初回効率が85%となるようにLiドープを行った比較例2では、比較例1に比べ容量維持率の特性改善は確認したが、十分とはいえなかった。また、初回効率が90%となるようにLiドープを行った比較例3でも、比較例1、2に比べ容量維持率の向上は確認したものの、LiSiが含まれていないため、実施例1-1~1-14に比べて、容量維持率を十分に改善することはできなかった。
【0157】
比較例に対して、実施例1-1では、電池容量、サイクル特性がともに良好であった。これは、実施例1-1では、ケイ素化合物粒子にLiSiとLiSiOをどちらも含有させているために、Liの拡散性が良好となり、サイクル初期劣化時のLiシリケート生成分解挙動を緩和することができたためであると考えられる。一方、Liドープしていない比較例1では、安定なLi化合物を含まないために、初回効率を改善することができず、また、LiSiOは含有しているものの、LiSiを含有していない比較例2、3では、Liの拡散性を向上させることができず、サイクル初期の劣化を抑制できなかったと考えられる。
【0158】
Liドープは、比較例2のように、初回効率がより低い場合、LiSiを生成し、LiSiは最終的にはLiSiOになる。LiSiは、LiSiOとLiSiの中間的存在であり、この物質が存在することで、Liの拡散性が向上し、電池特性を改善することができる。
【0159】
このように、LiSiとLiSiOをどちらも含有する実施例1-1では、初回効率改善に伴う電池容量の増加が可能であり、十分な電池のサイクル特性を示すことが示された。また、実施例1-1、1-2、1-3の結果から、LiSiのピーク強度がより大きいと、より安定した電池のサイクル特性を得ることができることがわかった。
【0160】
表1のように、実施例1-1に対してSi結晶子のサイズを変化させた実施例1-4、1-5の結果から、Si結晶子のサイズが7nm(実施例1-4)で最も良好な維持率(93.1%)を示し、7nmより大きくなると(実施例1-5)、92%台の維持率となるため、7nm以下であることが望ましいことがわかった。
【0161】
また、実施例1-6、1-7、1-8のように、ケイ素化合物粒子の表面の炭素層を導電性炭素層とさらにその上の反応抑制層との実質的に2層構造とすることで、炭素層が実質的に1層構造である実施例1-1、1-2、1-3と比較して、より安定した電池のサイクル特性を得ることができることがわかった。熱分解CVDによりケイ素化合物粒子表面に炭素材を被覆した後、Liドープする際、最初に堆積していた炭素層が一部割れ、新生面がでる。実施例1-6、1-7、1-8では、この新生面を反応抑制層で被覆することでさらなるサイクル特性の改善を行うことができたと考えられる。
【0162】
また、表1の実施例1-9~1-14の結果から、負極活物質粒子の粒径(メジアン径)が4.0μm以上12μm以下で容量維持率が良好となり、特に、6.5~8μm程度が望ましいことがわかった。粒径が4.0μm以上であると、体積当たりの反応面積が大きくなりすぎず、初回効率、サイクル維持率が共に低下してしまうことがなく、また、粒径が12μm以下であると、充放電で粒子が割れ、特性が低下してしまうことがないことがわかった。
【0163】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0164】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
30…ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池、 31…巻回電極体、
32…正極リード、 33…負極リード、 34…密着フィルム、
35…外装部材。
図1
図2
図3
図4
図5