(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】包装体
(51)【国際特許分類】
A61J 1/10 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A61J1/10 331C
(21)【出願番号】P 2019558246
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2018044701
(87)【国際公開番号】W WO2019111940
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017236530
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】美尾 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】野村 純平
(72)【発明者】
【氏名】鳥屋部 果穂
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-57723(JP,A)
【文献】特表2000-513973(JP,A)
【文献】特開2014-171571(JP,A)
【文献】国際公開第2006/043459(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2229927(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0001655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋本体と、前記袋本体に接合された少なくとも一つの口部部材と、前記袋本体に収容された
内容物とを有
し、前記内容物が液体のみである包装体であって、
前記包装体の前記袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし、前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなすものであり、
前記口部部材は、対向する前記シーラント層同士に挟持されて接合されてなり、
前記袋本体内に収容された前記内容物の体積∨は0.1から20(cm
3)であり、
前記袋本体が前記袋本体内に収容された前記内容物と接液する面積S(cm
2)と、前記体積∨(cm
3)からなる関係性が、下記(式I)を満たすことを特徴とする包装体。
(式I) 0.05 ≦ ∨/S ≦ 0.25
【請求項2】
前記包装体に収容された前記内容物は、前記包装体の前記口部部材を通じて排出され、
前記内容物の排出に応じて前記袋本体の容積が減少することを特徴とする、請求項1に記載の包装体。
【請求項3】
前記包装体の水蒸気透過率は0.02%以上、0.19%以下である、請求項1又は2に記載の包装体。
【請求項4】
前記水蒸気バリア層の厚みが、5μm以上50μm以下の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項5】
前記積層体の総厚みが、15μm以上200μm以下の範囲であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項7】
前記シーラント層は、1層または2層以上から構成されてなり、環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項8】
前記口部部材が、形成材料として環状オレフィン系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項9】
前記内容物が医薬品であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項10】
前記医薬品が、注射剤であることを特徴とする、請求項9に記載の包装体。
【請求項11】
前記注射剤が、ホルモン剤、医療用麻薬、局所麻酔薬、鎮痛薬、抗がん剤、抗生物質から選択される1種以上を成分として含んでなることを特徴とする、請求項10に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、硬膜外、動静脈血管、皮下、筋肉、諸臓器などに投与する医薬品等の液体内容物を収容した包装体であって、小型・軽量で携帯可能であり、かつ医薬品の品質変化が生じにくく、投与後の残留薬剤量が僅少な包装体に関する。
本願は、2017年12月8日に、日本に出願された特願2017-236530号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ホルモン剤、疼痛緩和目的での麻薬、抗がん剤又は抗生物質などの連続的投与では、これらの薬液をマイクロポンプにより、皮下、血管、筋肉、硬膜外、諸臓器などに注入する方法が一般的である。この際には、電気回路又はコンピュータにより投与制御が可能であり、微量の投与又は患者の状態に応じた細かく制御された投与が行われる。
【0003】
上記のような薬液注入系を携帯可能とするポンプ機構も開発されている。ポンプ機構としては、たとえば、薬液を充填したシリンジをバッテリにより加圧駆動する方式、又は電動モータを動力源とするペリスタリックポンプなどが知られている。近年の技術革新に伴い、装置自体の信頼性や耐久性が飛躍的に向上し、マイクロポンプ方式の携帯型医療用ポンプ機器(すなわち、携帯型薬剤持続投与デバイス、以下「ポンプ機器」と称することがある)の普及が進んでいる。
【0004】
これらポンプ機器により、患者自身によるペン型注射等での頻回の投与の負担が緩和されることから、従来に比してQOL(Quality Of Life)の向上につながると期待されている。
【0005】
前記のようなポンプ機器を使用する際には、薬剤の貯留部(リザーバ)への補充操作が必須である。注入する薬液は、空気の混入がないように人体に注入される必要がある。従って、前記のようなポンプ機器は、薬液を注入用の容器に入れた後、空気を追い出して使用される。
例えば、Medtronic社製「ミニメド620G」システムを使用した、インスリンの持続投与においては、あらかじめ滅菌処理されたシリンジ様の空リザーバに対し、ガラスバイアル容器内に保存されたインスリン製剤を注入した後、手作業により気泡を追い出すなどの準備操作が必要である。
【0006】
リザーバへの薬液注入および準備操作は極めて複雑で、取扱い難い。詳細な手順は、インターネット上で図示または動画等により公開されているが、薬液注入の準備操作は一般の生活環境下で行われるため、細菌類や塵埃等の混入による汚染のリスクを伴うという問題を抱えているため、好ましくない。また、抗がん剤等の高薬理活性物質が医薬品成分として含まれる場合、作業者の被ばくリスクが高いという点でも、このような操作は避けられることが望ましい。
【0007】
一方、あらかじめ薬液が封入された、プレフィルド方式のリザーバもしくは装置を交換する方式の薬液注入装置も提案されている。たとえば(特許文献1)や(特許文献2)に記載されているように、弾性材料からなるバルーンに薬液が充填され、バルーンの収縮力を利用して薬液を注入するものが挙げられる。
【0008】
上記バルーン圧またはガス圧などの薬液容器圧を利用すれば、前述したシリンジポンプ又はペリスタリックポンプなどの電動式ポンプを用いる場合に比べて小型で軽量かつ低価格であって、操作も簡便な薬液注入装置を構成することができる。また、容器出口のオリフィス(微細孔を有する流体抵抗体)を調整すれば微量で連続注入が可能である。しかしバルーン圧またはガス圧の駆出圧力は任意に調整できない上、単一のオリフィスで流量調整することから、一薬液注入装置につき一流量設定しかできない。さらに流路を任意かつ自動的にON/OFFできないことから、最初に設定した流量で連続注入する動作のみとなり、流量を生活動作に応じて増減させたり、又はインターバルをおくなど、薬液投与方法を適宜に制御することは困難である。
【0009】
近年では、ポンプ機器と接続する薬液貯留部をプレフィルド式カートリッジとして、交換することによって薬液の補充を簡便にする方式が実用化されている。例えば(特許文献3)においては、シリンジ式のプレフィルドカートリッジを投与デバイス内に取り付け、カートリッジ内部のガスケットを、デバイスに設けられた電気モータによりロッドを前進させ、設定用量の薬液を投与する方式が提案されている。
【0010】
この方式でのプレフィルドカートリッジは、薬液の全量投与のために、シリンジの押子(プランジャー)に相当するストロークが必要であり、ポンプ機器の小型化に限界がある。もしくはポンプ機器を小型化しようとすると、薬液の充填量が少なくなってしまう問題を有している。ポンプ機器が大型化することは携帯性の低下につながり、持続投与の必要性の観点から問題であると指摘される。
【0011】
ポンプ機器の小型化には、リザーバをフレキシブルなパウチ式とすることが有効である。例えば(特許文献4)の
図8には、カートリッジベースとフレキシブルなリザーバフィルムからなる空間に薬液が収容される形態が提示されており、マイクロポンプによる薬液の排出とともにリザーバフィルムが変形するため、薬液の残留を最小化できる。リザーバフィルムは薬液の減少に応じて、カートリッジベースに密着するよう曲面加工されていることが望ましいとされている。
【0012】
しかし、本方式ではフィルムの曲面加工を行うため、フィルムの材質は熱成形性を有する必要があるという問題点がある。また、カートリッジベースとリザーバフィルムの位置合わせを厳密に行わないと、残留液量が増加する問題点がある。これらの問題点から、本方式は生産性および製造コストの面で好ましくない。また、リザーバフィルムの変形を容易にするために薄くすると、水蒸気バリア性が低下し、薬液の濃度変化が生じやすくなるという点も問題である。
【0013】
特に、インスリンの持続注入用に使用する容器容量は、1.5mLから3mLと極めて小容量であり、このような容器では僅かな残液量であっても無視することはできず、同時に水分の僅かな蒸発によっても薬液濃度が大きく変化してしまうため、薬液の濃度維持を達成するためのバリア性と柔軟性が両立することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特公平6-83725号公報
【文献】特開平6-296688号公報
【文献】米国特許第6340357号
【文献】特開2014-171571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、従来のポンプ機器、およびそのリザーバは、薬液の連続的投与による治療に対して有力であるが、製造や運用面での制約が多く、その普及は限定的であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ポンプ機器のリザーバが複雑な構造や材質を有することなく、小型・軽量で携帯可能であり、かつ内容物の品質変化が生じにくく、投与後の内容物の残留が僅少な包装体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者らは、上記のような課題を解決するために、以下の本発明を完成した。
【0017】
前記課題を解決するため、本発明は、
袋本体と、前記袋本体に接合された少なくとも一つの口部部材と、前記袋本体に収容された液体である内容物とを有する包装体であって、
前記包装体の前記袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし、前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなすものであり、
前記口部部材は、対向する前記シーラント層同士に挟持されて接合されてなり、
前記袋本体内に収容された前記内容物の体積∨は0.1から20(cm3)であり、
前記袋本体が前記袋本体内に収容された前記内容物と接液する面積S(cm2)と、前記体積∨(cm3)からなる関係性が、下記(式I)を満たすことを特徴とする包装体。
(式I) 0.05 ≦ ∨/S ≦ 0.25
を提供する。
【0018】
前記包装体に収容された前記内容物は、前記包装体の前記口部部材を通じて排出され、前記内容物の排出に応じて前記袋本体の容積が減少する包装体であってもよい。
【0019】
前記包装体の水蒸気透過率は0.02%以上、0.19%以下であってもよい。
【0020】
前記水蒸気バリア層の厚みが、5μm以上50μm以下の範囲であってもよい。前記積層体の総厚みが、15μm以上200μm以下の範囲であってもよい。前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであってもよい。
【0021】
前記シーラント層は、1層または2層以上から構成されてなり、環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含んでいてもよい。前記口部部材が、形成材料として環状オレフィン系樹脂を含んでいてもよい。
【0022】
前記内容物が、医薬品であってもよい。前記医薬品が、注射剤であってもよい。前記注射剤が、ホルモン剤、医療用麻薬、局所麻酔薬、鎮痛薬、抗がん剤、抗生物質から選択される1種以上を成分として含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の包装体によれば、口部部材をポンプ機器に接続し、マイクロポンプを動作させた場合に、リザーバ内部が陰圧になるのに応じて袋本体が変形し、マイクロポンプに過大な負荷を与えることなく安定して内容物の排出がなされる。また、包装体が有する高い水蒸気バリア性により、水分の蒸発が生じにくく、投与開始前の長期間の保存においても、薬液の濃度が一定に保たれる。さらには投与完了後の内容物の残留が極めて少なく、例えば内容物として高価な薬剤が封入されている場合にも廃棄ロスが低減され、容器の製造や内容物の充填といった面でも簡便で取り扱いやすいという効果も有している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の代表的な実施形態を表す包装体の正面図である。
【
図3】包装体の変形を説明する本発明の部分断面図である。
【
図4】本発明を代表する包装体を構成する積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい態様例を、図に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態に係る包装体を示す正面図であり、この包装体1は内容物16の貯留部となる袋本体11と、口部部材21とを有する。
図2は、内容物16が収容された状態における包装体1の
図1のI-I線に沿った断面を表したものである。以下の説明では解りやすいように口部部材21を左に向けた状態で説明を行うが、本発明の包装体は、この向きに固定されることなく、如何なる姿勢で使用されてもよい。
【0027】
包装体1は、内部に内容物16を収容できる収容部30を有する矩形状の袋本体11と、袋本体11の一端の中央部に形成された開口部12に挿通して接合された円筒状の口部部材21とを有する。袋本体11は、2枚の樹脂製かつ矩形状の積層体4の外周部を接着またはヒートシールして互いに接合させ、開口部12を除く周縁全周に亘ってシール部15を形成し、その内側に収容部30を形成したものである。
【0028】
袋本体11は図示した形状に限らず、袋状であればいかなる形状であってもよい。例えば、1枚の積層体4を2つ折りにし、中央の折り線を袋本体11の底として他の部分を接合したものでもよいし、積層体4を筒状に丸めて両端と貼り合わせ面を接合したものでもよい。また、シール形状も直線の組み合わせである必要はなく、例えば円弧状の辺の組み合わせであっても良い。積層体4により立体的な箱状に形成されていてもよい。箱状や筒状に形成されていても、袋本体11は可撓性を維持できる。
【0029】
袋本体11の寸法は本発明では限定されないが、長径方向の長さが20~100mm、短径方向の幅が10~100mm、内容物16の充填量が1~100cm3程度であると、医薬品用などの包装体として好適である。
【0030】
内容物16の減少とともに袋本体11の容積は適宜減少するが、内容物16の供給速度を一定に保つ必要があるため、袋本体11は、例えば、製造上および使用上の問題が生じない範囲で柔軟性に富むことが好ましい。このため、袋本体11を構成する積層体4の引張弾性率は、限定はされないが1500MPa以下、より好ましくは200~1200MPaであることが好ましい。積層体4の厚みは、限定はされないが、30~200μmが好ましく、より好ましくは40~100μmである。引張弾性率が小さすぎる、または積層体4の厚みが小さすぎる場合は、包装体の製造時に積層体4が延びやすく製造困難になる。引張弾性率が大きすぎる、または積層体4の厚みが大きすぎる場合は袋本体11が柔軟でなくなるほか、ポンプ機器内の体積を積層体4が占める割合が増加するため、収容部30に収容できる容量が減少してしまう。なお、積層体の引張弾性率は、ISO527-1に規定される測定方法により測定可能である。
【0031】
本実施形態の積層体4は柔軟性に富むため、内容物16の排出に伴う袋本体11の変形が容易であり、内容物16の抜取りのために動作するマイクロポンプの負荷を軽減するほか、投与速度を一定としたり、プログラム制御によって投与速度を変化させる場合の追従性が良好である。
【0032】
図3はポンプ機器を接続して内容物16を排出した際の袋本体11の形状変化を模式的に示したものである。内容物16の排出が進むに従って、袋本体11は次第に容積が減少して、全量を排出した際の袋本体11内部に生じる排出後の空間30aを最小化できる。袋本体11に用いられる積層体4が柔軟でない場合、排出に伴う袋本体11の変形が困難となり、内容物16の排出完了時には口部周囲での残留が増加してしまう。本発明の包装体1によれば、排出後の空間30aが小さいために、特に高価な内容物が収容される場合には廃棄ロスが少なくなり、コスト面で有利である。
【0033】
[積層体]
袋本体11を構成する積層体4は、
図4に例示した、水蒸気バリア層41と、中間層42と、シーラント層43とをこの順で有する構成とすることができる。
図1に示す袋本体11は、2枚の積層体4を用い、各積層体4のシーラント層43同士を対向させ、シーラント層43同士を貼り合わせシール部とし、構成したものである。本発明の包装体1を構成する積層体4は、以下に記述される材料を、包装体1および内容物16の特性や目的に応じて適宜選択し、押出ラミネート工法、ドライラミネート工法、多層共押出製膜法等により、重ね合わせることで得ることができる。
【0034】
(水蒸気バリア層)
水蒸気バリア層41は、袋本体11に収容された内容物16の変質を防ぐために配置される層である。本実施形態の水蒸気バリア層41は、フッ素系樹脂を形成材料とする層を含む。水蒸気バリア層41がフッ素系樹脂を形成材料とする層を含むと、機械的強度や光学的性質に優れ、水蒸気透過性が低い積層体、及びそれから構成される包装体を提供できる。
【0035】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル(EPA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、及びこれらの1種又は2種以上の混合物などを用いることができ、中でも水蒸気バリア性が高く、柔軟性に優れる、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)が好ましい。
【0036】
フッ素系樹脂は、包装材料において、これまで水蒸気バリア層41に適用されてきた、蒸着ポリエステルフィルムのベース層として用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂と比べて、ガラス転移温度が高いことが知られている。そのため、シーラント層43を形成する材料として、従来、ガラス転移温度が高すぎて適用不可だった材料も適用することができ、シーラント層43を形成する材料の選択肢を広くすることができる。
【0037】
水蒸気バリア層41は、1層からなる単層構成でもよく、2層以上の積層構成でもよい。ガスバリア性やガスバリア性以外の機能を有する層(以下、「その他の層」と称する。)を、さらに含むものであっても構わない。その他の層としては、例えば補強層、ガスバリア層、遮光層、印刷層、金属箔、合成紙などが挙げられる。その他の層は、フッ素系樹脂を含まない構成とすることができる。
【0038】
積層体4は、シーラント層とは反対の面に、印刷層またはコート層を有してもよい。印刷層は水蒸気バリア層41の表面にインキを印刷することにより、包装体1の識別性や意匠性を付与することができる。コート層は水蒸気バリア層41や水蒸気バリア層41上に設けられた印刷層の保護やガスバリア性向上のための層であってもよく、薄膜の樹脂層や紫外線硬化型の樹脂を用いてコート層とすることができる。また、水蒸気バリア層41の外側には、異なる材質からなる樹脂層などが設けられていてもよい。
【0039】
本実施形態において、フッ素系樹脂を形成材料とする層の厚みは、5μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは、15μm以上かつ25μm以下である。フッ素系樹脂を形成材料とする層の厚みが15μm以上であると、包装体1の水蒸気透過率を十分低くすることができる。また、フッ素系樹脂を形成材料とする層の厚みが25μm以下であると、生産コストを削減することができるほか、内容物16の排出をスムーズに行うための柔軟性を付与できる。
【0040】
(中間層)
中間層42は、水蒸気バリア層41とシーラント層43との接着性を向上するものである。本発明の包装体において、中間層42は、必須の層ではないが、水蒸気バリア層41とシーラント層43との組合せ及び積層体の製造方法に基づいて、充分な層間の接着性を得るために配する層である。中間層42を構成する材料としては、これらの層の接着性を向上し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系接着剤や、本願発明者らが見出し、既に特許出願した特願2017-091287に記述されるような、ポリエチレン系樹脂と、変性ポリエチレン系樹脂とを含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。
【0041】
以上のような材料を用いて中間層42を形成することで、水蒸気バリア層41と中間層42、もしくは中間層42とシーラント層43での層間剥離が生じにくい包装体1を提供できる。また、中間層42により良好な密着性が得られることで、積層体のデラミネーションや包装体1の割れの発生を抑制することができる。
【0042】
(シーラント層)
シーラント層43は、積層体4をヒートシール等により貼り合わせて袋状に形成する際に用いられる。シーラント層43は、本発明の包装体1において、内容物16と接触する層である。
シーラント層43の材質としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン―酢酸ビニル共重合体(EVA)、環状オレフィン系樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエステル系樹脂などが利用できるが、上記記載の材質に限定されない。
【0043】
本実施形態におけるシーラント層43は、上記に示した樹脂材料を単独で用いる必要はなく、2種以上の材料を多層に配置したり、異なる材料同士をブレンドすることで得てもよい。複数の材料を組み合わせることで、耐熱性や柔軟性、透明性、耐衝撃性、ヒートシール強度など、内容物16の品質を保持するために必要な諸物性を高めることが可能である。
【0044】
本実施形態においては、水蒸気バリア層41がガラス転移温度の高い、フッ素系樹脂を形成材料とする層を含む。これにより、ヒートシール等を用いたシーラント層43同士の貼り合わせを、高温で行うことができる。このため、シーラント層43を形成する材料として、ガラス転移温度の高い材料を選択し、使用することも可能である。
【0045】
また、シーラント層43を形成する材料のガラス転移温度が高いほど、内容物16に対する非吸着性に優れることが知られている。本実施形態のシーラント層43は、環状オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。シーラント層43が環状オレフィン系樹脂を含むと、内容物16に対する非吸着性に優れる包装体を提供できる。
【0046】
環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)等が挙げられる。シーラント層を構成する樹脂成分が、環状オレフィン系樹脂の1または2種以上であってもよく、環状オレフィン系樹脂と他の樹脂またはエラストマー等との混合物であってもよい。
【0047】
COPとしては、例えば環状オレフィンの単独重合体もしくは2種以上の環状オレフィンの共重合体、またはその水素添加物が挙げられる。環状オレフィンポリマーは、好ましくは非結晶性の重合体であり、より好ましくは、メタセシス等による環状オレフィンの開環重合体、またはその水素添加物である。環状オレフィンポリマーは、環状オレフィンコポリマー等に比べて脂環式構造を含有する比率が高く、内容物16に対する非吸着性に優れる。
【0048】
COCとしては、例えば1もしくは2種以上の環状オレフィンと、1もしくは2種以上の非環状オレフィンとの共重合体、またはその水素添加物が挙げられる。環状オレフィンコポリマーは、好ましくは非結晶性の重合体であり、より好ましくは、環状オレフィンとエチレンとの共重合体、またはその水素添加物である。
【0049】
環状オレフィン系樹脂の構成モノマーとして使用される環状オレフィンは、少なくとも1つの環構造を有する不飽和炭化水素(オレフィン)である。例えば、炭素原子数が3~20のシクロアルカンを有するビニルシクロアルカンおよびその誘導体、炭素原子数が3~20のモノシクロアルケンおよびその誘導体、ノルボルネン骨格を有する環状オレフィン(ノルボルネン系モノマー)等が挙げられる。
【0050】
ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネン)およびその誘導体が挙げられる。誘導体としては、例えば、アルキル基等の置換基を有する化合物、ノルボルナジエンのように不飽和結合を2以上有する化合物、3つ以上の環構造を有し、そのうち2つの環構造がノルボルネン骨格を構成する化合物が挙げられる。3つ以上の環構造を有するノルボルネン系モノマーとしては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デセン(ジヒドロジシクロペンタジエン)や、ノルボルネンまたはジヒドロジシクロペンタジエンに1分子以上のシクロペンタジエンがディールス・アルダー反応により付加した化合物(例えばテトラシクロドデセン、ペンタシクロペンタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン等)、これらの水素添加物、二重結合の位置が異なる異性体、アルキル置換体等が挙げられる。
【0051】
COCの構成モノマーとして使用される非環状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等のα-オレフィン、3-デセン、3-ドデセン等のアルケン類が挙げられる。
【0052】
シーラント層43は1層からなる単独の膜であっても、2層以上から構成される多層膜から構成されていてもよい。また、シーラント層43には、環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を1層以上含むが、積層体1の最も内側となるように環状オレフィン系樹脂層を配置してもよいし、中間層寄りの位置に配置してもよい。環状オレフィン系樹脂を主成分とする層を、シール面に配置した場合、最も非吸着性能に優れた包装体1を得ることができる。また、例えばシール面を構成する層をポリエチレンとし、環状オレフィン系樹脂層がシール面を構成する層より外側の層として配置された場合には、ヒートシール時間の短縮が可能である。内容物16の性質に応じて、適宜選択することができる。
【0053】
本実施形態において、シーラント層43を形成する材料のガラス転移温度は、50℃以上170℃以下が好ましく、70℃以上140℃以下がより好ましい。シーラント層43を形成する材料のガラス転移温度が65℃以上であると、シーラント層43は、内容物16に対する非吸着性に優れる傾向がある。また、シーラント層43を形成する材料のガラス転移温度が140℃以下であると、積層体4を貼り合わせる際、高温を必要としないので成形性に優れる。
【0054】
本実施形態において、シーラント層43の厚みは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。シーラント層43の厚みが20μm以上であると、積層体4の貼り合せ加工が容易であるほか、シーラント層43同士をヒートシール等により貼り合わせて、積層体4を袋状に形成した際のシール強度を十分に得ることができる。また、シーラント層43の厚みは、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましい。シーラント層43の厚みが80μm以下であると、生産コストを削減することができるほか、適正な柔軟性を付与することができる。シーラント層43の厚みにおける、上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0055】
シーラント層43が環状オレフィン系樹脂を含む場合、シーラント層43が厚くなるほど、包装体1の水蒸気透過率は低くなることが分かっている。一方で、シーラント層43が厚くなるほど、包装体1の柔軟性は低下することが分かっている。したがって、包装体1の水蒸気透過率を低くする観点からは、シーラント層43は厚い方が好ましいが、袋本体11の柔軟性を確保するという観点からは、シーラント層43は薄い方が好ましい。
【0056】
本実施形態においては、水蒸気バリア層41がフッ素系樹脂を形成材料とする層を含む。これにより、水蒸気バリア層41がアルミナやシリカ蒸着処理された、二軸延伸ポリエステルフィルムである場合と比較して、柔軟性に富むため、同一の積層体面積からなる包装体同士を比較した際に、収容できる内容物16の量を多くでき、省スペースとすることができる。また、内容物16の抜取りのために動作するマイクロポンプの負荷を軽減するほか、投与速度を一定としたり、プログラム制御によって投与速度を変化させる場合の追従性が良好である。
【0057】
フッ素系樹脂を水蒸気バリア層41に用いることで、フッ素系樹脂以外をバリア材料とする場合と比べ、袋本体11を変形させるのに必要な柔軟性を維持しながら、水蒸気透過率を十分低くすることができる。すなわち、水蒸気に対するバリア性に優れる包装体1を提供できる。また、水蒸気バリア層41が十分な水蒸気遮断性能を有することで、シーラント層43を薄くすることができる。限られた空間内に内容物16の収容部30を配置する必要のある、携帯型医療用ポンプ機器においては、収容部30を構成する積層体4を薄くすることにより、内容物16を保存するための空間を拡大することができるため、装置の小型化が容易になるという利点を有する。
【0058】
[口部部材]
口部部材21は、例えば、円筒形状のような筒形状をなし、基端部は袋本体11の開口部12に挿通された状態で、接着またはヒートシールにより両側の積層体4と隙間無く接合されている。口部部材21の寸法は、本発明では限定されないが、一例を挙げれば、凸部を除く外径が4~10mm、肉厚が0.5~3mm、長さが5~30mm程度であると、ポンプ機器との接続部として好適である。また、口部部材21の形状は、包装体1が交換式カートリッジの一部を構成するよう、組み付けに適した形態をとっても良く、積層体4との接合部は曲面でなくとも差し支えない。
【0059】
口部部材21には内容物16の充填後、外部への漏出の防止や系外からの塵埃や細菌類の侵入を防止し、内容物16の品質を維持するための封止体(図示略)を取り付け、密封する。封止体としては、ゴムやエラストマーを材料として成形された弾性体などが主に用いられる。また、外部からの力の作用により、封止体の脱落を防止するため、必要に応じてキャップの取り付けやシール材などを配置し、封止体を固定する処置もまた一般的に行われる。
【0060】
本実施形態の包装体1に収容される内容物16の具体的な状態、形状等は、特に限定されない。上記内容物16は、例えば、固体、液体、気体、粉体、粒体、混合物、組成物、分散物などであってもよい。内容物16は液体であってもよく、薬剤を含んだ水溶液であってもよい。内容物16を包装体1内に収容する際、窒素等の不活性ガスまたは液体を充填してもよく、極力空隙を作らずに満容量まで内容物16を充填してもよい。
【0061】
袋本体11の収容部30には、液体、粉体、気体、これらの混合体など口部部材21を通過するものであれば、いかなる物も収容することができるが、本実施形態は特に、少量を持続的に投与する必要がある液体の医薬品に適する。この種の医薬品としては、ホルモン剤、疼痛緩和目的での麻薬、抗がん剤又は抗生物質などを挙げることができ、これらの薬剤をマイクロポンプにより、皮下、血管、筋肉、硬膜外、諸臓器などに注入する方法が一般的である。この際には、電気回路又はコンピュータにより投与制御が可能であり、微量の投与又は患者の状態に応じて細かく制御された投与を行なうことができる。前記医薬品を含む内容物16を収容部30に充填し、中栓を口部部材21の開口部に嵌め、必要に応じてキャップ等を装着して封止した後に、交換作業や持ち運びが容易な形態のカートリッジ内に組み付ける。内容物16である医薬品は、密封後に蒸気加熱により滅菌したり、又は無菌的に充填されることにより、前記内容物16を無菌状態のまま保存することが可能である。
【0062】
以上の構成によれば、水蒸気透過率が低く、非吸着性に優れ、かつ内容物16の排出に伴い容易に変形する新規の包装体1を提供できる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
<積層体の製造>
[試験例1~3/試験例6~9]
水蒸気バリア層の貼合面に中間層となる接着剤を、固形分が3.5g/m2の付着量となるよう塗工し、ドライラミネート工法を用いてシーラント層との貼り合せを行い、水蒸気バリア層、中間層、シーラント層をこの順で有する3層構成の積層体を製造した。シーラント層は同時多層押出製膜法により、ポリエチレン(PE)と環状オレフィン(COP)が隣接して配置された共押出2層の積層体を、COP面が内容物に接触する側に配置されるようにした。
表1に示す各層の材質および厚みをもつ積層体を用いて、試験例1~3および試験例6~9の積層体を得た。なお、表1において[ ]内の数値は各層の厚みである。
【0066】
また、これとは別に、COPから構成される、外径5mm、内径3mm、長さ10mmの円筒状の口部部材を射出成形法により得た。
【0067】
[試験例4~5]
試験例4および5は、表1に示す各層の原料となる樹脂をそれぞれ別々に加熱、溶融混合したものを、同時多層押出成形が可能な押出機を用いて同時多層製膜を行って製膜し、水蒸気バリア層、中間層、シーラント層をこの順で有する3層構成の積層体を得た。中間層に用いた材料は、表2の( )内に示す質量比で混配したものを使用した。
【0068】
[試験例10~13]
試験例10~13は水蒸気バリア層および中間層を配置せず、シーラント層の厚みを50μmから250μmに種々変化させた共押出2層の積層体をそのまま用いた。各層の厚みおよび材質は、表1に合わせて記載した。
【0069】
<包装体の製造>
上記により得られた積層体2枚を、1枚あたり50mm×30mmの長方形となるよう切り出し、シーラント層が内側に対向するよう重ね合わせ、周縁部のうち2つの長辺と1つの短辺をそれぞれ幅5mmとなるよう熱シールし、袋本体を得た。続いて、袋本体の未シール辺の積層体間に口部部材を挟み込み、積層体と口部部材とを接合して、包装体を製造した。
【0070】
なお、水蒸気バリア層、中間層およびシーラント層の原料として、以下の材料を用いた。
PCTFE1: ポリクロロ三フッ化エチレンフィルム(ハネウェル社製、アクラー(登録商標))
PCTFE2:ポリクロロ三フッ化エチレンペレット(ダイキン工業社製、ネオフロンPCTFE(商標)、DF0050-C1)
Al2O3-PET:アルミナ蒸着二軸延伸ポリエステル(凸版印刷社製、GLフィルム(商標))
COP:シクロオレフィンポリマー((日本ゼオン社製、ZEONOR(登録商標)1020R)
PE:直鎖状低密度ポリエチレン(比重0.930g/cm3、東ソー社製、ニポロン-L(登録商標))
接着剤:ウレタン系2液硬化型ラミネート接着剤(三井化学社製、タケラック(登録商標))
【0071】
【0072】
【0073】
表2に示した材料には、それぞれ下記を用いた。
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、ハーモレックス(登録商標)NH745N)
アドマー:無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製、アドマー(登録商標))
エラストマー:スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(クレイトンポリマー社製、クレイトンG(スチレン含有率13質量%、比重0.90g/cm3、MFR=22g/10min(230℃、5kgf))
エポキシ成分:エポキシ化1,2-ポリブタジエン(アデカ社製、比重0.99g/cm3、平均分子量1,000)
【0074】
<実験1>
試験例1~13の各包装体について、以下の各試験を行った。
【0075】
[排出液量および残留液量]
製造した包装体の口部に、直径3.2mm×高さ8mmのブチルゴム材質の円柱形状ゴム栓を嵌合した後に、空袋重量を測定して記録した。包装体を6mmの間隔で並行に配置した2枚の板材からなるスペーサー内に収納した。口部のゴム栓に太さ21ゲージの金属針を刺通し、さらに金属針とプラスチック製シリンジを、流体圧力がモニタリングできるよう圧力計が分岐した金属製チューブを介して接続した。シリンジのプランジャーを引き、包装体内のエアーを吸引した後、シリンジ内の蒸留水をプランジャーの押し込み操作により、圧力計が25kPa(±2kPaは許容範囲とする)を示すまで、包装体内へ充填した。充填操作が完了した後に、ゴム栓から金属針を抜取り、全体重量を測定することで、空袋重量との差から充填液量を計算によって求めた。
【0076】
次に、口部のゴム栓に、太さ21ゲージの金属針を刺通し、さらに空のプラスチック製シリンジを接続した。シリンジのプランジャーを引いて内部を陰圧に保ちながら包装体内の蒸留水を抜き取った後、シリンジと金属針を除去した後の包装体重量を測定し、空袋重量との差から残留液量を計算により求めた。続いて充填液量と残留液量の差から、排出液量を計算により求めた。液量は、1gの蒸留水の体積は1cm3であると仮定して計算により求めた。
排出液量が3cm3以上のものを「適」、3cm3未満であったものを「不適」と判定した。
【0077】
[水蒸気透過率]
包装体の水蒸気透過率は、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求めた。具体的には、試験例の各検体に、(充填液量)-0.1(cm3)の蒸留水を充填し、温度25±2℃、相対湿度60±5%で14日間保存した前後の重量変化をパーセント単位で計算して、この値を水蒸気透過率とした。
プラスチック製水性注射剤容器の規格として、初期内容量からの減量が0.20%以下であることが定められており、同規格に対する「適」「不適」を判定した。
【0078】
各試験の結果を、表3に示す。表3には充填液量∨と袋本体の面積Sの比率で表される∨/S値を合わせて記載した。
【0079】
【0080】
表3に示すように、本発明を適用した試験例1~5の包装体は、水分の損失を防ぎつつ、排出液量を増加させられることが明らかとなった。このことから、試験例1~5の包装体は、高い水蒸気バリア性を有しつつ、少ないスペースで多くの液量を収容できることが示された。また、共押出製膜法により得られた積層体により形成した包装体は、充填液量がドライラミネート積層体により形成した包装体と比較して、より多くの液量を充填でき、さらには排出後の残留液量が少ない傾向を示した。
【0081】
<実験2>
試験例1の包装体に対して、蒸留水の量を0.5から3.5(cm3)まで、1(cm3)刻みに制限して充填した。実験1と同様の手法により、水蒸気透過率と∨/S値を求め、その結果を集約し、表4に示した。
【0082】
【0083】
<実験3>
試験例1の積層体に対して、袋本体の長辺寸法を5(cm)から3.5(cm)まで、0.5(cm)刻みで短縮し、それ以外は実験1と同様の手順で包装体を形成した。内容物として蒸留水を0.5(cm3)充填し、実験1および実験2と同様の手法により、水蒸気透過率と∨/S値を求め、その結果を集約し、表5に示した。
【0084】
【0085】
同一寸法の包装体に対し、充填する内容物量を少なくすると、∨/Sで表される数値は小さくなる。また、同一の内容物量に対し、包装体の接液面積を小さくすると、∨/Sで表される数値は大きくなる。試験例1の包装体を用いる場合では、∨/Sを過剰に小さくすると、水蒸気透過率の規格を逸脱してしまう。これは充填液量が少なくなっても、水蒸気透過が発生する積層体の面積が変わらないためである。また、ポンプ機器内の空間を大きく占有するという点からも、好ましくない。充填される液量が少ない場合には、袋本体の面積を縮小することで、水分透過量を抑制することができ、内容物の保存適性を確保することができる。
【0086】
一方、∨/Sが大きくなるよう包装設計を行うと、水蒸気透過率の観点からは有利であるが、ある容量を超えて充填を継続すると、周縁シール部の折れ込みが発生する。内容物の保存適性を付与するため、環状オレフィン系樹脂をシーラント層に配置する場合、周縁シール部の折れ込みは環状オレフィン系樹脂のクラックを生じる恐れがあるため、∨/S値が大きくならないようにすることが望ましい。
【0087】
また、過剰に大きな∨/S値をとる場合、包装体内部の圧力が高まり、内容物の排出を行うため口部へ持続投与デバイス等を接続した場合、袋本体の膨らみを解消しようとして内容物の排出が生じやすくなるため、投与液量の制御が困難となったり、マイクロポンプへの負荷や損傷につながる可能性がある。したがって、包装体としての性能を適正に保つため、∨/S値は一定の範囲に収まるよう設計することが望ましい。好ましくは0.01以上0.5以下の範囲内であり、より好ましくは0.05以上0.25以下である。
【符号の説明】
【0088】
1…包装体、11…袋本体、11a…面、12…開口部、15…シール部、16…内容物、21…口部部材、30…収容部、30a…排出後の空間、4…積層体、41…水蒸気バリア層、42…中間層、43…シーラント層