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特許7186329アイオノマー樹脂、樹脂シートおよび合わせガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-30
(45)【発行日】2022-12-08
(54)【発明の名称】アイオノマー樹脂、樹脂シートおよび合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/44 20060101AFI20221201BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20221201BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20221201BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20221201BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08F8/44
C08F210/02
C08F220/06
C08F220/10
C03C27/12 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022505432
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034820
(87)【国際公開番号】W WO2022071065
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020163733
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】新村 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】竹本 憲太
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】淺沼 芳聡
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第6913264(JP,B1)
【文献】特開昭58-023850(JP,A)
【文献】特開昭63-057665(JP,A)
【文献】特開2015-054411(JP,A)
【文献】特表2009-518464(JP,A)
【文献】国際公開第2021/124951(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/241515(WO,A1)
【文献】特開2021-008615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸単位(A)、
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、および
エチレン単位(C)
を含む、アイオノマー樹脂であって、
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%であり、
前記アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量は0.01~100mg/kgである、
アイオノマー樹脂。
【請求項2】
前記アイオノマー樹脂は、さらに(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含み、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として10モル%以下である、請求項1に記載のアイオノマー樹脂
【請求項3】
前記遷移金属は、鉄、ニッケル、マンガンおよびクロムからなる群から選択される1種以上の金属である、請求項1または2に記載のアイオノマー樹脂。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のアイオノマー樹脂を含む層を1層以上有する、樹脂シート。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂シートからなる合わせガラス中間膜。
【請求項6】
2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された請求項5に記載の合わせガラス中間膜とを有する、合わせガラス。
【請求項7】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を強塩基によりけん化する工程、および
前記工程により得られたけん化物を強酸により脱金属化する工程
を含み、前記けん化工程および/または前記脱金属化工程を遷移金属の存在下で行う、請求項1~3のいずれかに記載のアイオノマー樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記脱金属化を、けん化物の溶液に強酸を液中添加することにより行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記けん化工程および/または前記脱金属化工程を反応装置を用いて行い、前記反応装置の少なくとも一部は、遷移金属としてニッケルおよびクロムを合計で50質量%以上含む合金である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応装置の少なくとも一部は、反応槽、撹拌翼、バッフル、ならびに、強塩基および/または強酸を反応槽内に供給するフィードラインからなる群から選択される少なくとも一部である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は日本国特許出願第2020-163733号(出願日:2020年9月29日)についてパリ条約上の優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、アイオノマー樹脂およびその製造方法、該アイオノマー樹脂を含む層を1層以上有する樹脂シート、該樹脂シートからなる合わせガラス中間膜、および該合わせガラス中間膜を有する合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和物であるアイオノマーは、透明性およびガラスとの接着性に優れるため、合わせガラスの中間膜に使用されている(例えば、特許文献1)。近年、合わせガラスに対する要求性能が高くなり、アイオノマー樹脂に対しても、合わせガラスの製作条件によらず高い透明性を保持すること、高温においても高い弾性率を維持し、合わせガラスの強度を低下させないこと、より着色が少なく外観が優れること、よりガラスとの接着性に優れ、ガラスと剥離しにくいこと等が求められるようになってきた。
【0003】
特許文献2には、部分的に中和されたα,β-エチレン性不飽和カルボン酸を導入しているイオノマーまたはイオノマーブレンドを含む少なくとも1つの層を有し、前記イオノマーまたはイオノマーブレンドが前記α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の中和の全量を基準にして約1~約60%の範囲の量で1種以上の一価金属のイオンと、約40~約99%の範囲の量で1種以上の多価金属のイオンとを含む高分子シートが記載されている。
【0004】
特許文献3には、アイオノマー樹脂および接着促進剤を含み、前記接着促進剤がジアルコキシシラン化合物である樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6432522号明細書
【文献】特表2009-512763号公報
【文献】国際公開第2019/027865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
合わせガラスは、屋外で使用すると雨等の湿気により、特に合わせガラスの端部において、ガラスと合わせガラス中間膜との間で剥離が生じたり、白化して透明性の低下が生じたりする場合があった。そのため、高湿条件下においても透明性およびガラスとの接着性の高い合わせガラス中間膜を形成し得るアイオノマー樹脂が求められている。
【0007】
特許文献2には、同文献に記載のイオノマーまたはイオノマーブレンドは、相乗的に改善されたガラス粘着力を示すことが記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載のイオノマーは、高湿条件下においては、白化して透明性が低下しやすいことに加え、ガラスとの剥離が生じやすく、ガラスとの接着性が必ずしも十分ではない場合があることがわかった。
【0008】
特許文献3には、同文献に記載の樹脂組成物は、高湿条件下であっても、ガラスとの高い接着性を示すことが記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献3に記載の樹脂組成物は、成形加工時に架橋ゲルが生成しやすく、外観が良好な樹脂シートを得るにはさらなる改善が必要であることがわかった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、高湿条件下であっても高い透明性およびガラス等の基材との高い接着性を有し、かつ、外観が良好なシートを成形し得るアイオノマー樹脂、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
【0011】
〔1〕 (メタ)アクリル酸単位(A)、
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、および
エチレン単位(C)
を含む、アイオノマー樹脂であって、
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%であり、
前記アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量は0.01~100mg/kgである、
アイオノマー樹脂。
〔2〕 前記アイオノマー樹脂は、さらに(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含み、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量は、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%である、〔1〕に記載のアイオノマー樹脂。
〔3〕 前記遷移金属は、鉄、ニッケル、マンガンおよびクロムからなる群から選択される1種以上の金属である、〔1〕または〔2〕に記載のアイオノマー樹脂。
〔4〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のアイオノマー樹脂を含む層を1層以上有する、樹脂シート。
〔5〕 〔4〕に記載の樹脂シートからなる合わせガラス中間膜。
〔6〕 2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された〔5〕に記載の合わせガラス中間膜とを有する、合わせガラス。
〔7〕 エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を強塩基によりけん化する工程、および
前記工程により得られたけん化物を強酸により脱金属化する工程
を含み、前記けん化工程および/または前記脱金属化工程を遷移金属の存在下で行う、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のアイオノマー樹脂の製造方法。
〔8〕 前記脱金属化を、けん化物の溶液に強酸を液中添加することにより行う、〔7〕に記載の方法。
〔9〕 前記けん化工程および/または前記脱金属化工程を反応装置を用いて行い、前記反応装置の少なくとも一部は、遷移金属としてニッケルおよびクロムを合計で50質量%以上含む合金である、〔7〕または〔8〕に記載の方法。
〔10〕 前記反応装置の少なくとも一部は、反応槽、撹拌翼、バッフル、ならびに、強塩基および/または強酸を反応槽内に供給するフィードラインからなる群から選択される少なくとも一部である、〔9〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高湿条件下であっても高い透明性およびガラスとの高い接着性を有し、かつ、外観が良好なシートを成形し得るアイオノマー樹脂、およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0014】
〔アイオノマー樹脂〕
本発明のアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)を含み、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量は0.01~100mg/kgである。
【0015】
本発明のアイオノマー樹脂は、遷移金属を含有し、その含有量は0.01~100mg/kgである。本発明者らは、アイオノマー樹脂に0.01~100mg/kgの遷移金属を含有させると、アイオノマー樹脂の透明性、特に高湿条件下における透明性(例えば高湿条件下における耐白化性)を維持しつつ、意外なことに、ガラスとの接着性、特に高湿条件下におけるガラスとの接着性が向上することを見出した。したがって、本発明のアイオノマー樹脂は、高湿条件下であっても、高い透明性およびガラスとの高い接着性を有する。アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を0.01~100mg/kgとすることにより、アイオノマー樹脂の高湿条件下における透明性およびガラスとの接着性が向上し得る理由は明らかではないが、遷移金属とアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)との相互作用によるため、および/または、遷移金属を含有しないアイオノマー樹脂と比較して、アイオノマー樹脂の吸水が抑制されるためであると考えられる。
【0016】
さらに、本発明者らは、本発明のアイオノマー樹脂は、(特に高湿条件下における)ガラスとの高い接着性を有するにもかかわらず、意外なことに、架橋ゲルが生成しにくく、その結果、外観が良好な樹脂シートを得やすいことも見出した。通常、シランカップリング剤等の接着促進剤を含有することによりガラスとの接着性が向上した樹脂は架橋ゲルが生成しやすく、外観が良好な樹脂シートを得にくい傾向にあるが、本発明のアイオノマー樹脂は、意外なことに、ガラスとの接着性が高く、さらに外観が良好な樹脂シートを得やすい。
【0017】
また、本発明者らは、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を0.01~100mg/kgとすることにより、アイオノマー樹脂の耐熱分解性も向上し得ることも見出した。本発明のアイオノマー樹脂が耐熱分解性に優れる理由は明らかでないが、遷移金属とアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)との相互作用により、アイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)が熱によって脱離することを抑制しやすいためだと考えられる。
【0018】
一方、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量が上記範囲外であると、アイオノマー樹脂の透明性(特に高湿条件下における透明性)、ガラスとの接着性(特に高湿条件下におけるガラスとの接着性)、およびアイオノマー樹脂の耐熱分解性が低下する傾向にある。遷移金属の含有量が0.01mg/kg未満であると、高湿条件下におけるガラスとの接着性が低下する傾向にあるため、高湿条件下ではガラスとの剥離が生じやすく、例えばアイオノマー樹脂からなる樹脂シートを合わせガラス中間膜として屋外で使用する場合、特に合わせガラスの端部において、ガラスと合わせガラス中間膜との間で剥離が発生しやすい。また、遷移金属の含有量が100mg/kgを超えると、アイオノマー樹脂の透明性、特に高湿条件下における透明性が低下しやすく、例えばアイオノマー樹脂からなる樹脂シートを合わせガラス中間膜として屋外で使用する場合、特に合わせガラスの端部において白化しやすい。また、遷移金属の含有量が100mg/kgを超えると、成形加工時にアイオノマー樹脂が着色しやすく、黄色度YIが大きくなりやすい。
【0019】
前記遷移金属の含有量は、透明性、高湿条件下におけるガラスとの接着性、および耐熱分解性を向上しやすい観点から、0.01mg/kg以上、好ましくは0.05mg/kg以上、より好ましくは0.1mg/kg以上、さらに好ましくは0.2mg/kg以上である。また、透明性および耐熱分解性を向上しやすい観点、ならびにアイオノマー樹脂の着色を抑制しやすい観点から、100mg/kg以下、好ましくは50mg/kg以下、より好ましくは20mg/kg以下、より好ましくは10mg/kg以下、さらに好ましくは5mg/kg以下である。アイオノマー樹脂中の遷移金属は、アイオノマー樹脂の製造方法により調整し得る。アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量は、誘電結合プラズマ(ICP)発光分光分析を用いて測定でき、例えば、実施例に記載の方法で測定できる。
【0020】
アイオノマー樹脂に含有される遷移金属としては、特に制限されず、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等の第一遷移金属、および、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀等の第二遷移金属が挙げられる。これらの遷移金属は1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂の高湿条件下における透明性、耐熱分解性、および高湿条件下におけるガラスとの接着性を高めやすい観点からは、前記遷移金属は、第一遷移金属であることが好ましく、より好ましくは鉄、ニッケル、マンガンおよびクロムからなる群から選択される1種以上の金属、さらに好ましくは少なくとも鉄を含む1種以上の金属である。
【0021】
本発明において、アイオノマー樹脂中に含有される遷移金属の状態は特に制限されない。遷移金属は、例えば遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属塩等としてアイオノマー樹脂中に含有されていてもよく、アイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸中和物単位(B)における金属イオンとして含有されていてもよい。
【0022】
本発明のアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)を含み、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%である。
本発明において、「単位」とは、「由来の構成単位」を意味するものであり、例えば(メタ)アクリル酸単位とは、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を示し、(メタ)アクリル酸中和物単位とは、(メタ)アクリル酸中和物由来の構成単位を示し、エチレン単位とはエチレン由来の構成単位を示す。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸またはアクリル酸を示す。
【0023】
前記合計含有量が、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%であると、アイオノマー樹脂の透明性および弾性率(例えば50℃での弾性率)を向上しやすい。一方、前記合計含有量が上記上限値を超えると、アイオノマー樹脂の高い弾性率(例えば50℃での弾性率)が発現しにくい。また、前記合計含有量が上記下限値未満であると、アイオノマー樹脂は結晶性が高すぎると白化しやすい傾向があるため、例えば合わせガラスを作製する際に高温で処理した後に徐冷する場合等、アイオノマー樹脂を徐冷して該樹脂の結晶化が促進された状態における透明性(徐冷時の透明性)が低下しやすい。
【0024】
前記合計含有量は、アイオノマー樹脂の透明性(特に徐冷時の透明性)およびガラスとの接着性を向上しやすい観点から、6モル%以上、好ましくは6.5モル%以上、より好ましくは7.0モル%以上、さらに好ましくは7.5モル%以上であり、また、アイオノマー樹脂の弾性率、および成形加工性を向上しやすい観点から、10モル%以下、好ましくは9.9モル%以下、より好ましくは9.5モル%以下である。
【0025】
前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量は、アイオノマー樹脂の製造方法により調整し得る。より具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属化反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位を、前記けん化反応および脱金属化反応によって、(メタ)アクリル酸単位(A)および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)に変換する各反応の反応度(変換割合)によって調整できる。また、米国特許第8399096号に記載されるように、エチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とし、これらを重合してアイオノマー樹脂を製造する場合には、共重合させるエチレンと(メタ)アクリル酸との割合により調整できる。
【0026】
(メタ)アクリル酸単位(A)を構成する単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、耐熱性およびガラス等の基材に対する接着性の観点から、好ましくはメタクリル酸である。これら(メタ)アクリル酸単位は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
(メタ)アクリル酸単位(A)のアイオノマー樹脂中の含有量は、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%の範囲内であれば特に制限されない。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸単位(A)のアイオノマー樹脂中の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは4.5モル%以上、より好ましくは5.0モル%以上、さらに好ましくは5.5モル%以上、特に好ましくは5.8モル%以上であり、また、好ましくは9.0モル%以下、より好ましくは8.5モル%以下、さらに好ましくは8.0モル%以下、特に好ましくは7.5モル%以下である。単位(A)の前記含有量が上記下限値以上であると、アイオノマー樹脂の透明性およびガラス等の基材に対する接着性を向上しやすい。また、上記上限値以下であると、成形加工性を向上しやすい。
【0028】
(メタ)アクリル酸中和物とは、(メタ)アクリル酸の水素イオンを金属イオンで置き換えたものである。(メタ)アクリル酸中和物単位(B)としては、前記(メタ)アクリル酸単位(A)の中和物単位が好ましい。前記金属イオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン;亜鉛、アルミニウム等の12~13族の非遷移金属イオン;および遷移金属イオン等が挙げられる。遷移金属イオンとしては、上述のアイオノマー樹脂に含有され得る遷移金属のイオンが挙げられる。このような金属イオンは1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
(メタ)アクリル酸中和物単位(B)のアイオノマー樹脂中の含有量は、前記単位(A)および前記単位(B)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%の範囲内であれば特に制限されない。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは0.65モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上、さらに好ましくは1.5モル%以上、特に好ましくは1.7モル%以上であり、また、好ましくは3.0モル%以下、より好ましくは2.7モル%以下、さらに好ましくは2.6モル%以下、特に好ましくは2.5モル%以下である。単位(B)の含有量が上記下限値以上であると、透明性および弾性率を向上しやすく、上記上限値以下であると、成形加工時の溶融粘度の上昇を抑制しやすい。
【0030】
前記単位(A)および前記単位(B)の各含有量は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位を、前記けん化反応および脱金属反応によって、(メタ)アクリル酸単位(A)および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)に変換する各反応における反応度によって調整できる。
【0031】
<エチレン単位(C)>
エチレン単位(C)の含有量は、アイオノマー樹脂の耐衝撃性を高めやすい観点から、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは88モル%以上であり、また、アイオノマー樹脂の透明性(特に徐冷時の透明性)を高めやすい観点から、好ましくは94モル%以下、より好ましくは91モル%以下である。エチレン単位(C)の含有量が上記下限値以上であると、機械的強度および成形加工性を向上しやすく、また、上記上限値以下であると、アイオノマー樹脂が結晶化にくくなり、透明性(特に徐冷時の透明性)を向上しやすい。
【0032】
本発明のアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)に加えて、より高い透明性を得やすい観点から、さらに(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含むことが好ましい。
【0033】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量は、透明性(特に徐冷時の透明性)を向上しやすい観点から、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%であることが好ましい。すなわち、本発明の好適な実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)、および(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含み、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量が、前記アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として6~10モル%である。アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量が上記上限値以下であると、アイオノマー樹脂の高い弾性率を発現しやすく、また、前記合計含有量が下限値以上であると、アイオノマー樹脂の透明性、特に徐冷時の透明性を高めやすい。
【0034】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合において、前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の前記合計含有量は、透明性(特に徐冷時の透明性)およびガラス等の基材に対する接着性を向上しやすい観点から、6モル%以上、好ましくは6.5モル%以上、より好ましくは7.0モル%以上、さらに好ましくは7.5モル%以上であり、また、アイオノマー樹脂の弾性率および成形加工性を向上しやすい観点から、10モル%以下、好ましくは9.9モル%以下、より好ましくは9.5モル%以下である。
【0035】
前記単位(A)、前記単位(B)および前記単位(D)の合計含有量は、アイオノマー樹脂の原料により調整できる。より具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属化反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合には、アイオノマー樹脂の原料であるエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の(メタ)アクリル酸エステル変性量により調整できる。また、米国特許第8399096号に記載されるように、エチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とし、これらを重合してアイオノマー樹脂を製造する場合には、共重合させるエチレンと(メタ)アクリル酸との割合により調整できる。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を構成する単量体の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられる。
これらのうち、透明性または耐熱性の観点から、好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルであり、より好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルであり、さらに好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルであり、特に好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチルである。これら(メタ)アクリル酸エステルは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0037】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合、(メタ)アクリル酸エステル単位(D)のアイオノマー樹脂中の含有量は特に制限されない。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単位(D)のアイオノマー樹脂中の含有量は、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.05モル%以上、特に好ましくは0.08モル%以上であり、また、好ましくは1.0モル%以下、より好ましくは0.7モル%以下、さらに好ましくは0.5モル%以下である。単位(D)の含有量が上記下限値以上、かつ上記上限値以下であるとアイオノマー樹脂の透明性を向上しやすい。
【0038】
アイオノマー樹脂が(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含む場合の前記単位(D)の含有量は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を、(メタ)アクリル酸単位(A)に変換する前記けん化反応の反応度によって調整できる。
【0039】
本発明のアイオノマー樹脂は、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに場合により含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位(D)以外の他の単量体単位を含んでいてもよい。他の単量体単位の例としては、(メタ)アクリル酸単位(A)以外のカルボン酸単位(A1)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)以外のカルボン酸中和物単位(B1)等が挙げられる。
前記カルボン酸単位(A1)を構成する単量体の例としては、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられ、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルである。前記カルボン酸中和物単位(B1)を構成する単量体の例としては、前記カルボン酸単位(A1)の中和物単位等が挙げられる。なお、カルボン酸中和物は、カルボン酸の水素イオンを金属イオンで置き換えたものである。前記金属イオンとしては、上述の(メタ)アクリル酸中和物単位(B)における金属イオンと同様のものが挙げられ、該金属イオンは、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
これらの他の単量体単位は1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0040】
アイオノマー樹脂が上記他の単量体単位を含む場合、その合計含有量、例えば(A1)および(B1)の合計含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択すればよく、例えば、アイオノマー樹脂を構成する全単量体単位を基準として、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下であり、また、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上である。
【0041】
本発明のアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに含まれる場合の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)、および他の単量体単位(例えば単位(A1)および単位(B1))の各含有量は、まず、アイオノマー樹脂中の単量体単位を熱分解ガスクロマトグラフィーで同定し、次いで、核磁気共鳴分光法(NMR)および元素分析を用いることによって、求めることができる。より具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。また、上記の分析方法と、IRおよび/またはラマン分析とを組合せた方法で求めることもできる。これらの分析の前にアイオノマー樹脂以外の成分を、再沈殿法やソックスレー抽出法にて除去しておくことが好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂の炭素1000個当たりの分岐度は、特に制限されず、好ましくは5~30、より好ましくは6~20である。前記分岐度は、例えば、アイオノマー樹脂をエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を原料とし、該共重合体のけん化反応工程および脱金属化反応工程を含む方法によりアイオノマー樹脂を製造する場合には、原料であるエチレン-(メタ)アクリル酸エステルを合成する際の重合温度により調整できる。炭素1000個当たりの分岐度は、固体NMRを用いて広帯域双極子デカップリング/マジック角回転(DD/MAS)法にて測定できる。
【0043】
本発明の一実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂の融点は、耐熱性および耐熱分解性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、また、合わせガラスを作製する際、ガラスとの接着力が発現し易いという観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。前記融点は、JIS K7121:2012に基づき測定できる。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2回目の昇温の融解ピークのピックトップ温度から求めることができる。
【0044】
本発明の一実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂の融解熱は、好ましくは0J/g以上25J/g以下である。前記融解熱は、JIS K7122:2012に基づき測定できる。具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用いて、冷却速度-10℃/分、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2回目の昇温時の融解ピークの面積から算出することができる。
【0045】
本発明の一実施形態において、JIS K7210に準拠し、190℃、2.16Kgの条件で測定される本発明のアイオノマー樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、さらに好ましくは0.7g/10分以上、さらにより好ましくは1.0g/10分以上、特に好ましくは1.5g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以下である。アイオノマー樹脂のMFRが上記下限値以上かつ上限値以下であると、熱による劣化を抑えた成形加工がしやすく、耐貫通性に優れる樹脂シートを得やすい。
【0046】
アイオノマー樹脂の融点、融解熱およびMFRは、アイオノマー樹脂の分子量、ならびにアイオノマー樹脂の(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに場合により含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の含有量により調整し得る。
【0047】
本発明の一実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂の動的粘弾性測定で測定される50℃での貯蔵弾性率(E’)は、良好な自立性(すなわち、高い弾性率)、特に高温環境下における自立性(高温環境下における高い弾性率)の観点から、好ましくは20MPa以上、より好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上、特に好ましくは50MPa以上である。貯蔵弾性率(E’)の上限値は特に制限されず、1000MPaであってよい。前記貯蔵弾性率は、アイオノマー樹脂の分子量、ならびに(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに場合により含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の含有量によって調整できる。なお、アイオノマー樹脂の50℃での貯蔵弾性率(E’)は、動的粘弾性測定によって測定できる。
【0048】
本発明のアイオノマー樹脂は、上述のように遷移金属を0.01~100mg/kg含有するため、高い耐熱分解性を有する。本発明の好適な実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂の窒素雰囲気下、10℃/分昇温時の1%重量減少温度(Td1)は、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上、特に好ましくは370℃以上であり、通常450℃以下である。アイオノマー樹脂の1%重量減少温度が上記下限値以上であると、アイオノマー樹脂の溶融成形時等の発泡および/または熱分解を低減しやすく、気泡および/または樹脂の熱分解によって生じる黒色異物等の欠点を有さない中間膜を得やすい。なお、本明細書中において、1%重量減少温度は200℃時点の重量を基準として、重量減少率が1%となる際の温度を表す。前記1%重量減少温度はJIS K7120-1987に従って測定でき、例えば、実施例に記載の方法で測定できる。
【0049】
本発明のアイオノマー樹脂は高い透明性を有しており、本発明の好適な実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂のシート厚さ0.8mmにおけるヘイズは、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂の透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。なお、アイオノマー樹脂のヘイズは、ヘイズメーターを用いてJIS K7136:2000に準拠して測定される。
【0050】
本発明のアイオノマー樹脂は、遷移金属の含有量が0.01~100mg/kgであるため、高湿条件下であっても高い透明性を有する。アイオノマー樹脂の高湿条件下における透明性は、アイオノマー樹脂が吸水した状態のヘイズ(吸水ヘイズ)によって評価できる。本発明の好適な実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂が吸水した状態のシート厚さ0.8mmにおけるヘイズ(吸水ヘイズ)は、好ましくは9.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下である。吸水ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂の吸水した状態における透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。なお、吸水ヘイズはアイオノマー樹脂を23℃のイオン交換水に浸漬させた状態で300時間保持し、イオン交換水から取出し、表面に付着した水分をふき取ったアイオノマー樹脂を試験片として、ヘイズメーターを用い、JIS K7136:2000に準拠して測定でき、例えば、実施例に記載の方法で測定できる。
【0051】
本発明のアイオノマー樹脂は、樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の合計含有量が6モル%以上であるため、結晶化しにくく、徐冷時においても高い透明性を有する。本発明の好適な実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂の徐冷により該樹脂の結晶化を促進させた状態のヘイズ(徐冷ヘイズ)は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらにより好ましくは3.0%以下、特に好ましくは2.5%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂の透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。徐冷ヘイズは、シート厚さ0.8mmのアイオノマー樹脂を2つのガラス板の間に配置して合わせガラスを作製し、該合わせガラスを140℃まで加熱した後、140℃から0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した後のヘイズを、ヘイズメーターでJIS K7136:2000に準拠して測定することによって得られる。
【0052】
本発明のアイオノマー樹脂は、樹脂中の遷移金属の含有量が100mg/kg以下であるため、着色性が低く、成形加工時にも着色が生じにくい。本発明のアイオノマー樹脂のシート厚さ0.8mmにおける黄色度(YI)は、着色が生じにくい観点から、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下である。黄色度(YI)が小さいほどアイオノマー樹脂の着色性が小さくなるため、下限値は特に制限されず、例えば、0であってよい。なお、黄色度(YI)は測色色差計を用い、JIS Z8722に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法で測定できる。
【0053】
本発明のアイオノマー樹脂のガラスとの接着性は、剥離試験によって測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーによって評価できる。標準条件下(23℃、50%RH)において測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーは、好ましくは2kJ/m以上、より好ましくは2.5kJ/m以上、さらに好ましくは3kJ/m以上、特に好ましくは3.5kJ/m以上である。また、高湿条件下におけるガラスとの接着性は、Wet条件下における剥離試験によって測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーによって評価できる。Wet条件下において測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーは、好ましくは0.05kJ/m以上、より好ましくは0.1kJ/m以上、さらに好ましくは0.15kJ/m以上、特に好ましくは0.2kJ/m以上である。標準条件下および高湿条件下における前記剥離エネルギーの上限は特に制限されず、10kJ/m以下であってよい。前記剥離試験は、例えば国際公開第2019/027865号公報に記載の剥離接着力測定(Peel Adhesion Measurement)として記載されている方法で行われ得る。前記標準条件下およびWet条件下において測定される剥離エネルギーは、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0054】
本発明のアイオノマー樹脂は、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を原料とし、
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を強塩基によりけん化する工程(けん化工程)、および
前記工程により得られたけん化物を強酸により脱金属化する工程(脱金属化工程)
を含み、
前記けん化工程および/または前記脱金属化工程を遷移金属の存在下で行う方法(以降、製造方法(I)ともいう)によって製造できる。
【0055】
前記製造方法(I)では、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の全部または一部を(メタ)アクリル酸単位および(メタ)アクリル酸中和物単位に変換することにより、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)および場合により(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含むアイオノマー樹脂が得られる。
【0056】
前記製造方法(I)は、前記けん化工程および脱金属化工程により、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位の全部または一部を(メタ)アクリル酸単位および(メタ)アクリル酸中和物単位に変換する方法であってもよく(以下、方法(1)ともいう)、前記けん化工程および脱金属化工程の後に、さらに得られた脱金属化物を中和する中和工程を含む方法により、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位の全部または一部を(メタ)アクリル酸単位および(メタ)アクリル酸中和物単位に変換する方法(以下、方法(2)ともいう)であってもよい。
【0057】
前記方法(1)では、具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、強塩基によってけん化することより、(メタ)アクリル酸エステル単位の全部または一部を(メタ)アクリル酸中和物単位に変換して、けん化物であるエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸中和物共重合体またはエチレン-(メタ)アクリル酸中和物共重合体を得て、次いで、得られたけん化物中の(メタ)アクリル酸中和物単位の一部を強酸によって脱金属して、(メタ)アクリル酸単位に変換することにより、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)および場合により(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含むアイオノマー樹脂が得られる。
【0058】
前記方法(2)では、具体的には、前記方法(1)において、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を強塩基によってけん化することより得られたけん化物中の(メタ)アクリル酸中和物単位を全て強酸によって脱金属して、(メタ)アクリル酸単位に変換して、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を得て、次いで、得られた脱金属化物中の(メタ)アクリル酸単位の一部を金属イオンによって中和して、(メタ)アクリル酸中和物単位に変換することにより、(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)および場合により(メタ)アクリル酸エステル単位(D)を含むアイオノマー樹脂が得られる。
【0059】
前記方法(1)および方法(2)のうち、反応回数を減らしてアイオノマー樹脂の製造効率を向上しやすい観点からは、方法(1)によりアイオノマー樹脂を製造することが好ましい。
【0060】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を原料とし、けん化工程および脱金属化工程を含む前記製造方法(I)では、前記けん化工程および/または前記脱金属化工程を遷移金属の存在下で行うことにより、遷移金属を含有するアイオノマー樹脂が得られる。
【0061】
本発明において「けん化工程および/または脱金属化工程を遷移金属の存在下で行う」とは、けん化工程におけるけん化反応および/または脱金属化工程における脱金属化反応を、該反応系内に遷移金属が存在する状態で行うことを意味する。反応系内に存在する遷移金属は、1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。けん化反応および/または脱金属化反応の反応系内に遷移金属を存在させる方法は特に制限されず、例えば遷移金属を含む反応装置を用いる方法、反応系内に遷移金属を含む部材等を投入する方法、遷移金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、塩等の粉末および/またはそれらを溶媒に分散または溶解させた状態で反応系内に添加する方法等のいずれの方法であってもよい。
【0062】
けん化反応に用いる強塩基および/または脱金属化反応に用いる強酸によって、反応系内に存在する遷移金属が腐食されることにより、アイオノマー樹脂に遷移金属が含有される。例えば、反応系内に存在する遷移金属が腐食されると、腐食によりイオン化して反応系内に溶出した遷移金属イオンが、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)中の金属イオン、または(メタ)アクリル酸単位(A)中の(メタ)アクリル酸の水素イオンと置換することにより、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)における金属イオンとして遷移金属がアイオノマー樹脂中に含有され得る。また、反応系内に溶出した遷移金属イオンが、反応系内に存在し得る酸素イオンおよび/またはハロゲンイオンと反応することにより、酸化物および/またはハロゲン化物として、アイオノマー樹脂中に含有され得る。
【0063】
反応系内に存在する前記遷移金属としては、アイオノマー樹脂に含有され得る上述の遷移金属が挙げられる。反応系内に存在する遷移金属は、例えば、単一の金属元素からなる純金属であっても、少なくとも1種の遷移金属を含む合金であってもよい。また、遷移金属の状態は特に制限されず、例えば金属イオン、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、金属塩等の状態であってもよい。
本発明の一実施形態において、反応系内に存在する遷移金属は、高湿条件下におけるガラスとの接着性を高めやすい観点から、少なくとも1種の遷移金属を含む合金であることが好ましく、より好ましくは鉄、ニッケル、マンガンおよびクロムからなる群から選択される1種以上の金属を含む合金、さらに好ましくは鉄、ニッケル、マンガンおよびクロムからなる群から選択される2種以上の金属を含む合金である。
【0064】
本発明の一実施形態において、前記少なくとも1種の遷移金属を含む合金は、けん化工程に用いる強塩基に対する耐アルカリ腐食性、および脱金属化工程に用いる強酸に対する耐酸腐食性を高め、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を100ppm以下に調整しやすい観点からは、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS312L、SUS310S、SUS836L、SUS890Lなどのオーステナイト系ステンレス鋼;ハステロイB2、ハステロイB3、ハステロイB4、ハステロイC4、ハステロイC2000、ハステロイC22、ハステロイC276、インコネルX750、インコネル625、インコネル600、インコネル601、インコネル625、インコネル718、インコロイ825などのニッケル基合金であることが好ましい。
【0065】
本発明の一実施形態において、前記合金は、けん化工程に用いる強塩基に対する耐アルカリ腐食性、および脱金属化工程に用いる強酸に対する耐酸腐食性を高め、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を100ppm以下に調整しやすい観点からは、ニッケルおよびクロムを合計で50質量%以上含む合金であることが好ましい。ニッケルおよびクロムの合計含有量は、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であってよい。また、ニッケルおよびクロムの合計含有量は、前記合金の耐久性の観点からは、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下であってよい。
【0066】
本発明の一実施形態において、けん化工程および/または脱金属化工程を反応装置内で行い、前記反応装置の少なくとも一部が少なくも1種の遷移金属を含むことが好ましい。このように、反応装置の少なくとも一部が少なくも1種の遷移金属を含む反応装置内でけん化工程および/または脱金属化工程を行うことにより、けん化工程および/または前記脱金属化工程を遷移金属の存在下で行うことできる。
【0067】
少なくとも1種の遷移金属を含む反応装置の少なくとも一部は、少なくとも1種の遷移金属を含む合金であることが好ましく、少なくとも1種の遷移金属を含む合金としては、好ましい態様を含め、上述の合金が挙げられる。なかでも、前記合金は、けん化工程に用いる強塩基に対する耐アルカリ腐食性、および脱金属化工程に用いる強酸に対する耐酸腐食性を高め、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を100ppm以下に調整しやすい観点から、ニッケルおよびクロムを合計で50質量%以上含む合金であることが好ましい。
【0068】
前記反応装置の少なくとも一部は、反応装置内において、けん化反応で用いる強塩基および/または脱金属化反応で用いる強酸が接触して、遷移金属の腐食が進行し得る部分であれば特に制限されず、例えば強塩基および/または強酸を含む液と接液し得る部分であっても、強塩基および/または強酸を含む気体と接触し得る部分であってもよい。
【0069】
本発明の一実施形態において、前記反応装置の少なくとも一部としては、前記反応装置を構成し得る要素の一部であってよく、例えば、反応槽、撹拌翼、バッフル、ならびに、強塩基および/または強酸を反応槽内に供給するフィードライン等の少なくとも一部が挙げられる。これらは単独であっても2以上の組合せあってもよい。なお強塩基および/または強酸を反応槽内に供給するフィードラインには、前記フィードラインを構成し得る配管、添加ノズル、バルブ等が含まれる。
【0070】
本発明の一実施形態において、前記反応装置の少なくとも一部は、反応槽の少なくとも一部(例えば反応槽の底部、側部等)であることが好ましく、より好ましくは反応槽全体であることが好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態において、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を原料としてアイオノマー樹脂を製造する前記製造方法(I)では、けん化工程および前記脱金属化工程の両方を遷移金属の存在下で行っても、いずれか一方のみを遷移金属の存在下で行ってもよい。
【0072】
上記エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の(メタ)アクリル酸エステル単位を構成する単量体の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられる。これらのうち、好ましい単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、より好ましい単量体は(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、さらに好ましい単量体は(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、特に好ましくは(メタ)アクリル酸メチルである。これら(メタ)アクリル酸エステルは1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0073】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の具体例としては、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン-メタクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン-アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン-メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン-アクリル酸sec-ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸sec-ブチル共重合体等が挙げられる。
これらの共重合体として、市販品を用いてもよく、US2013/0274424、特開2006-233059または特開2007-84743に記載の高温高圧ラジカル重合法によって合成したものを用いてもよい。前記市販品としては、例えば、住友化学(株)製「アクリフト」(登録商標)WK307、日本ポリエチレン(株)製「レクスパール」(登録商標)A4250等が挙げられる。
【0074】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、好ましくは6モル%以上、より好ましくは6.5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、特に好ましくは7.5モル%以上であり、また、好ましくは10モル%以下、より好ましくは9.9モル%以下、さらに好ましくは9.5モル%以下である。共重合体(X)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、得られるアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)、および(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、ならびに、含まれる場合の(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の合計含有量と対応するため、共重合体(X)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が上記下限値以上であると、得られるアイオノマー樹脂の透明性、特に徐冷時の透明性を高めやすく、また、前記含有量が上記上限値以下であると、得られるアイオノマー樹脂の弾性率を高めやすい。
共重合体(X)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合比によって調整できる。なお、前記含有量は、上述のアイオノマー樹脂中の(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、およびエチレン単位(C)、ならびに含まれる場合(メタ)アクリル酸エステル単位(D)、および他の単量体単位(例えば単位(A1)および単位(B1))の各含有量と同様に、熱分解ガスクロマトグラフィー、核磁気共鳴分光法(NMR)および元素分析によって求めることができる。
【0075】
本発明の一実施形態において、JIS K7210に準拠し、190℃、2.16Kgの条件で測定されるエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは5g/10分以上、より好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは50g/10分以上、さらにより好ましくは100g/10分以上であり、好ましくは400g/10分以下、より好ましくは350g/10分以下、さらに好ましくは300g/10分以下、さらにより好ましくは250g/10分以下である。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のMFRが上記下限値以上かつ上記上限値以下であると、得られるアイオノマー樹脂の成形加工性および強度を向上しやすい。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のMFRは、重合度および(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量によって調整し得る。前記MFRは、例えば、実施例に記載の方法で測定できる。
【0076】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の重量平均分子量は、得られるアイオノマー樹脂の成形加工性および強度を向上しやすい観点から、好ましくは15,000g/モル以上、より好ましくは20,000g/モル以上、さらに好ましくは30,000g/モル以上であり、好ましくは200,000g/モル以下、より好ましくは100,000g/モル以下である。また、同様の観点から、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の数平均分子量は、好ましくは5,000g/モル以上、より好ましくは10,000g/モル以上、さらに好ましくは15,000g/モル以上であり、好ましくは100,000g/モル以下、より好ましくは50,000g/モル以下である。前記重量平均分子量および数平均分子量は、重合時の重合開始剤および/または連鎖移動剤の量により調整できる。これらのエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の分子量(重量平均分子量および数平均分子量)は、カラム(TSKgel GMHHR-H(20)HTの3本直列)および1,2,4-トリクロロベンゼン溶媒を用いて、カラム温度140℃の条件で、ポリスチレン換算で測定できる。
【0077】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の炭素1000個当たりの分岐度は、特に制限されず、好ましくは5~30、より好ましくは6~20である。前記分岐度は、前記共重合体(X)を重合する際の重合温度により調整できる。前記分岐度は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を重水素化オルトジクロロベンゼンに溶解させ、13C-NMRのインバースゲートデカップリング法によって測定できる。
【0078】
けん化工程におけるけん化反応に用いる強塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、けん化反応に使用する溶媒への溶解性および経済性の観点から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0079】
強塩基の添加量は、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の(メタ)アクリル酸エステル単位100モル部に対して、好ましくは100~300モル部、より好ましくは120~250モル部、さらに好ましくは150~200モル部である。
【0080】
強塩基の添加方法は特に制限されず、例えば反応槽内の気相部を経由してエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を含む液に添加しても、反応槽内の気相部を経由することなく前記液に直接液中添加してもよい。
【0081】
上記けん化反応に用いる溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、ジクロロベンゼン等のハロゲン含有溶媒;メチルブチルケトン等の炭素数6以上のケトン類;炭化水素化合物とメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類との混合溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族化合物;芳香族化合物とアルコール類との混合溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独で、または2以上組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、けん化反応前後の樹脂の溶解性の観点から、好ましい溶媒は炭化水素化合物とアルコール類との混合溶媒、芳香族化合物とアルコール類との混合溶媒であり、より好ましい溶媒はトルエン等の芳香族化合物とメタノール等のアルコール類との混合溶媒である。前記混合溶媒における炭化水素化合物または芳香族化合物とアルコール類と割合は、用いる各溶媒の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、炭化水素化合物または芳香族化合物とアルコール類との質量割合(炭化水素化合物または芳香族化合物/アルコール類)は、50/50~90/10であってよい。
【0082】
上記けん化反応を行う際の温度としては、その反応性およびエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)の溶解性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上、よりさらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは100℃以上である。該温度の上限は、けん化反応による遷移金属の腐食の過度な進行を抑制しやすく、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を100mg/kg以下に調整しやすい観点から、好ましく180℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下、よりさらに好ましくは130℃以下、特に好ましくは120℃以下である。
【0083】
上記けん化反応は、空気中で行っても、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよい。また、上記けん化反応は、常圧下、加圧下、または減圧下のいずれで行ってもよく、好ましくは加圧下で行われる。
【0084】
脱金属化工程における脱金属化反応に用いる強酸の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。けん化反応に用いる強塩基と脱金属化反応に用いる強酸とから副生する塩を洗浄除去しやすい観点から、好ましくは塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸である。上記脱金属化に用いる溶媒としては、上述のけん化反応に用いる溶媒と同様の溶媒を選択できる。
【0085】
強酸の添加量は、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)を任意の値に調節するために、強塩基の添加量に合わせて適した量を選択することができる。
【0086】
強酸の添加方法は、例えば、反応槽内の気相部を経由してけん化物の溶液に強酸を添加する方法であってもよく、反応槽内の気相部を経由することなくけん化物の溶液に直接強酸を液中添加する方法であってもよい。
反応槽内の気相部を経由してけん化物の溶液に強酸を添加する場合、添加する強酸が反応槽の気相部壁面に接触しにくくする観点から、強酸の添加は、反応槽中心から反応槽壁面までの距離のうち最も短い距離を距離Lとしたときに、反応槽中心から前記距離Lの20%以内の領域の直上部から、気相部を経由して添加することが好ましい。また、反応槽内の気相部を経由して添加する場合、添加する強酸が反応槽の気相部壁面に接触しにくくする観点から、強酸の添加は、液面から好ましくは2m以内、より好ましくは1m以内の距離の位置から行うことが好ましい。例えば、強酸をフィードラインにより反応槽内に供給する場合、添加ノズルのフィード口を、反応槽中心から前記距離Lの20%以内の領域であって、液面から2m以内または1m以内の位置に設置して、反応槽内の気相部を経由してけん化物の溶液に強酸を添加してもよい。上記のようにして、添加する強酸が反応槽の気相部壁面に接触しにくくすることにより、強酸による遷移金属の腐食の進行度合いを制御しやすく、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を観点から、0.01~100mg/kgの範囲内に調整しやすい。
【0087】
反応槽内の気相部を経由することなくけん化物の溶液に強酸を直接液中に添加する場合、強酸をけん化物の溶液に添加する添加ノズルのフィード口を、けん化物の溶液の液面以下とすることにより、気相部を経由することなく強酸を液中に直接添加することが好ましい。また、フィード口を反応槽の底部、または前記液面以下の反応槽の側部に設置して、気相部を経由することなく強酸を液中に直接添加することが好ましい。
【0088】
本発明の一実施形態において、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を100mg/kg以下に調整しやすい観点からは、脱金属化を、けん化物の溶液に強酸を反応槽内の気相部を経由することなく、液中添加することにより行うことが好ましい。
【0089】
上記脱金属化において、強酸のけん化物の溶液への添加は、添加した強酸を均一に混合しやすい観点から、反応槽内の溶液を撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌方法は特に制限されないが、例えばマックスブレンド翼、三枚後退翼、パドル翼、多段パドル翼、タービン翼、アンカー翼などの工業的に汎用な任意形状の撹拌翼によって、撹拌する方法であってよい。これらの撹拌翼のなかでも、添加した強酸を均一に混合しやすい観点から、マックスブレンド翼によって撹拌することが好ましい。
【0090】
上記脱金属化を行う際の温度は、反応溶液の粘度を低くしやすい観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上であり、脱金属化反応による遷移金属の腐食の過度な進行を抑制しやすく、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を100mg/kg以下に調整しやすい観点から、好ましく180℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0091】
上記脱金属化は、上記けん化反応と同様に、空気中で行っても、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよい。また、上記けん化反応は、常圧下、加圧下、または減圧下のいずれで行ってもよく、好ましくは加圧下で行われる。
【0092】
上記方法(2)の中和工程において、(メタ)アクリル酸単位の一部を中和して(メタ)アクリル酸中和物単位に変換する際に用いる中和剤は、金属イオンを含有するイオン性化合物であれば特に制限されない。前記金属イオンの例としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛、ニッケル、鉄、チタン等の遷移金属イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。例えば、金属イオンがナトリウムカチオンである場合、中和剤の例としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸ナトリウム単位を含有するアイオノマー樹脂等の重合体も中和剤として用いることができる。
【0093】
前記脱金属化工程後、または脱金属化工程後にさらに中和工程を含む場合には中和工程後、得られた反応液中の反応生成物である粗アイオノマー樹脂を反応混合物から分離精製することにより、本発明のアイオノマー樹脂を得ることができる。分離精製する分離精製工程は、慣用の方法、例えば濾過、洗浄、濃縮、再沈殿、再結晶、シリカゲルカラムトグラフィー等の分離手段によりおこなってよい。
【0094】
本発明の一実施形態において、前記分離精製工程は、副生した塩を洗浄除去しやすい観点から、粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を添加して粒状樹脂を析出させ、次いで析出した粒状樹脂を洗浄液で洗浄することにより行うことが好ましい。
【0095】
前記粗アイオノマー樹脂の溶液は、脱金属化工程または脱金属化工程後の中和工程後に得られた粗アイオノマー樹脂を溶媒に溶解させることにより調製でき、脱金属化工程または脱金属化工程後の中和工程後に得られた反応液を粗アイオノマー樹脂の溶液として用いてもよい。
【0096】
粗アイオノマー樹脂の溶液における溶媒としては、粗アイオノマー樹脂を溶解可能な溶媒であれば特に制限されず、上記けん化反応に用いる溶媒と同様の溶媒が例示される。なかでも、粗アイオノマー樹脂の溶解性の観点から、トルエン等の芳香族化合物とメタノール等のアルコール類との混合溶媒が好ましい。前記混合溶媒における芳香族化合物とアルコール類との割合は、用いる各溶媒の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、芳香族化合物とアルコール類との質量割合(芳香族化合物/アルコール類)は、50/50~90/10、好ましくは65/35~85/15であってよい。
【0097】
粗アイオノマー樹脂の溶液の濃度は、粒子径の小さな粒状樹脂が得やすく、その結果、粗アイオノマー樹脂中に過剰な遷移金属が存在する場合に、過剰な遷移金属を除去し得る観点および副生した塩を除去しやすい観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下であり、また、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。
【0098】
粗アイオノマー樹脂の溶液の温度は、析出する粒状樹脂の凝集または膠着を抑制しやすく、アイオノマー樹脂中の過剰な遷移金属および副生した塩を除去しやすい観点から、アイオノマー樹脂の融点以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。また、粗アイオノマー樹脂の溶液の流動性の観点から、前記温度は、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは30℃以上である。
【0099】
粗アイオノマー樹脂の溶液に添加する貧溶媒としては、粗アイオノマー樹脂の溶液と混合し、アイオノマー樹脂が溶解しない溶媒であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;水;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素化合物等が挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。これらのなかでも、沸点が低いためアイオノマー樹脂を乾燥しやすく、また、粒状樹脂中の過剰な遷移金属および副生した塩を除去しやすい観点から、前記貧溶媒は好ましくはメタノール、2-プロパノール等のアルコール類、水、およびこれらの混合溶媒、より好ましくはメタノール等のアルコール類である。
【0100】
貧溶媒の添加量は、粗アイオノマー樹脂の溶液の濃度に応じて適宜選択してよい。例えば、貧溶媒の添加量は、粗アイオノマー樹脂の溶液100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは60質量部以上であり、特に好ましくは100質量部以上である。貧溶媒の添加量の上限値は特に制限されず、貧溶媒の添加量の上限値は、粗アイオノマー樹脂の溶液100質量部に対して、通常1000質量部以下である。
【0101】
粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を添加する方法は特に制限されず、例えば、粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を一度に添加してもよく、滴加等により複数回に分けて添加してもよい。粒状樹脂の粒子径が小さくなりやすくなり、それにより粒状樹脂中の過剰な遷移金属および副生した塩の除去性を向上しやすく、その結果、アイオノマー樹脂の透明性を向上しやすい観点から、貧溶媒の添加は比較的短時間で行うことが好ましく、一度に添加することがより好ましい。貧溶媒を複数回に分けて添加する場合には、貧溶媒の添加を1時間以内、より好ましくは30分間以内、さらに好ましくは10分間以内に完了することが好ましい。
【0102】
粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を添加した後、粗アイオノマー樹脂の溶液と貧溶媒との混合液を撹拌することが好ましい。撹拌速度は特に制限されないが、撹拌速度が速いほど、粒子径の小さな粒状粒子を得やすくなる。撹拌時間は特に制限されず、例えば、粒状粒子が析出して、粗アイオノマー樹脂の溶液と貧溶媒との混合液がスラリー状になるまで撹拌すればよく、具体的には、好ましくは1秒間以上3時間以下、より好ましくは10秒間以上1時間以下、さらに好ましくは1分間以上30分間以下である。
【0103】
粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を添加して析出させる粒状樹脂のピークトップ粒子径は、粒状樹脂の比表面積を大きくすることにより粒状樹脂中の副生した塩を除去しやすい観点から、また、過剰な遷移金属の含有量を低減しやすくして、その結果、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量を0.01~100mg/kgの範囲内に調整しやすい観点から、700μm以下、好ましくは650μm以下、より好ましくは600μm以下、さらに好ましくは550μm以下である。また、粒状樹脂の濾過性を向上しやすく、アイオノマー樹脂の製造効率を向上しやすい観点から、好ましくは50μm以上、より好ましくは70μm以上、好ましくは80μm以上である。
【0104】
粗アイオノマー樹脂の溶液に貧溶媒を添加して析出させる粒状樹脂のピークトップ粒子径は、粗アイオノマー樹脂の溶液の濃度および温度によって調整できる。具体的には、粗アイオノマー樹脂の溶液の濃度および/または温度を低くすると、析出する粒状樹脂のピークトップ粒子径を小さくでき、粗アイオノマー樹脂の溶液の濃度および/または温度を高くすると、析出する粒状樹脂のピークトップ粒子径を大きくできる。また、粒状樹脂のピークトップ粒子径は、貧溶媒の添加方法および粗アイオノマー樹脂の溶液と貧溶媒との混合液の撹拌速度によっても調整できる。
【0105】
析出した粒状樹脂を洗浄する洗浄液としては、アイオノマー樹脂が溶解しない溶媒であれば、特に制限されない。好ましい洗浄液の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-イソプロパノール等のアルコール類;水;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0106】
これらの洗浄液のなかでも、過剰な遷移金属および副生した塩を除去しやすい観点から、アルコール類、水、およびこれらの混合液が好ましい。さらに、洗浄液の比重を粒状樹脂よりも小さくすることにより、洗浄液と粒状樹脂との接触面積を増大させることによって、遷移金属および副生した塩の除去性を高めやすく、粒状樹脂中に含まれる有機化合物等の不純物を除去しやすい観点、および洗浄後に得られるアイオノマー樹脂を乾燥しやすくする観点から、より好ましい洗浄液は、水とアルコール類との混合液である。好ましいアルコール類は、乾燥しやすいこと、および水との相溶性が高いことから、メタノール、エタノール、より好ましくはメタノールである。
水とアルコール類との混合液における水とアルコール類との割合(水/アルコール類(質量%))は、好ましくは20/80~80/20、より好ましくは30/70~70/30である。
【0107】
粒状樹脂を洗浄液で洗浄する方法の例としては、粒状樹脂が析出した粒状樹脂分散液から、粒状樹脂を濾取して、濾取した粒状樹脂を洗浄液と混合後、脱液する方法が挙げられる。より具体的には、前記粒状樹脂分散液から濾取した粒状樹脂と洗浄液とを混合後、洗浄液から粒状樹脂を濾取し(以下、洗浄工程(a)ともいう)、次いで、濾取した粒状樹脂を新たな洗浄液と混合後、洗浄液から粒状樹脂を濾取する(以下、洗浄工程(b)ともいう)ことにより、洗浄する方法が挙げられる。粒状樹脂に含まれる遷移金属および副生した塩を除去しやすい観点およびアイオノマー樹脂の製造効率の観点から、粒状樹脂の洗浄は、バッチプロセスの場合、例えば1回の洗浄工程(a)の後、洗浄工程(b)を1~10回行うことが好ましく、1回の洗浄工程(a)の後の洗浄工程(b)の回数は、より好ましくは1~6回、さらに好ましくは1~4回である。
【0108】
1回の洗浄工程あたりの前記洗浄液の使用量は、洗浄する粒状樹脂の量に応じて適宜選択してよい。例えば、1回の洗浄工程あたりの前記洗浄液の使用量は乾燥時の粒状樹脂100質量部に対して、好ましくは100質量部~2000倍量、より好ましくは200質量部~1000質量部、さらに好ましくは300質量部~700質量部である。
【0109】
粒状樹脂を洗浄液で洗浄することにより得られたアイオノマー樹脂は、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥温度としては、好ましくはアイオノマー樹脂の融点以下、より好ましくは80℃以下であってよい。
【0110】
本発明のアイオノマー樹脂は、前記製造方法(I)以外の方法でも製造し得る。本発明のアイオノマー樹脂を製造し得る前記製造方法(I)以外の方法としては、例えば、エチレンおよび(メタ)アクリル酸を原料とし、これらを重合して得られた共重合体を部分中和した後、得られた部分中和物に遷移金属を添加する方法(以降、製造方法(II)ともいう)が挙げられる。前記製造方法(II)では、
エチレンと(メタ)アクリル酸とを共重合して、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を得る工程(共重合工程)、
得られたエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を強塩基により部分中和する工程(部分中和工程)、および
得られた部分中和物に遷移金属を添加する工程(添加工程)
を含む方法によって、遷移金属を0.01~100mg/kg含有するアイオノマー樹脂を製造し得る。
【0111】
前記共重合工程および前記部分中和工程により、前記部分中和物を得る方法は、米国特許第6518365号明細書、米国特許第8399096号明細書における樹脂の製造方法を参照することができる。
【0112】
前記共重合工程および前記部分中和工程により得られた部分中和物に遷移金属を添加して、混合することにより、樹脂中の遷移金属の含有量が0.01~100mg/kgであるアイオノマー樹脂を製造できる。前記部分中和物に添加し得る遷移金属としては、本発明のアイオノマー樹脂に含有され得る遷移金属が挙げられる。前記樹脂に添加する際の遷移金属の状態は、特に制限されず、例えば遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属塩等であってよく、これらを溶媒に分散または溶解させた状態で添加してもよい。
【0113】
遷移金属の添加量は、アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量が0.01~100mg/kgの範囲内となるように適宜選択すればよく、例えば、前記共重合工程および前記部分中和工程により得られた樹脂100質量部に対して、0.01×10-4~100×10-4質量部であってよく、好ましくは0.05×10-4~50×10-4質量部、より好ましくは0.1×10-4~10×10-4質量部、さらに好ましくは0.2×10-4~5×10-4質量部であってよい。
【0114】
前記部分中和物と遷移金属との混合は、混合撹拌装置、押出機等を用いて混合してよい。
【0115】
また、本発明のアイオノマー樹脂は、前記製造方法(I)において、けん化工程および脱金属化工程を遷移金属の非存在下で行うことにより得られた粗アイオノマー樹脂に遷移金属を添加する方法(以降、製造方法(III)ともいう)によっても製造し得る。また、本発明のアイオノマー樹脂は、前記製造方法(II)において、前記部分中和物の製造中に、例えば共重合工程と部分中和工程との間に、遷移金属を添加する方法(以降、製造方法(IV)ともいう)によっても製造し得る。製造方法(III)および製造方法(IV)において添加する遷移金属としては、製造方法(II)と同様のものを使用し得る。
【0116】
前記製造方法(I)~(IV)のなかでも、製造工程の簡易性の観点から、製造方法(I)により、アイオノマー樹脂を製造することが好ましい。
【0117】
本発明の一実施形態において、本発明のアイオノマー樹脂に、必要に応じて添加剤を添加して、樹脂組成物としてもよい。樹脂組成物は、本発明のアイオノマー樹脂と添加剤とを含んでなる。
【0118】
樹脂組成物に含まれ得る添加剤の例としては、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、有機色素、艶消し剤、蛍光体等が挙げられる。これらの添加剤のなかでも、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、膠着防止剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、有機色素が好ましい。添加する場合、添加剤は1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
本発明において、樹脂組成物は添加剤として、シランカップリング剤等の接着促進剤を含んでもよいが、架橋ゲルの生成を抑制して、外観が良好な樹脂シートを得やすい観点からは、接着促進剤を含まないことが好ましい。
【0119】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる。紫外線吸収剤の例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0120】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色等の光学特性低下を抑制する効果が高いため、紫外線吸収剤として好ましい。好ましいベンゾトリアゾール類の例としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール]((株)ADEKA製;LA-31)、2-(5-オクチルチオ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0121】
トリアジン類の紫外線吸収剤の例としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン((株)ADEKA製;LA-F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477やTINUVIN460)、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン等を挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0122】
老化防止剤としては、公知の材料が例示される。具体的な老化防止剤の例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ(t-ブチル)-4-メチルフェノール、モノ(またはジ、またはトリ)(α-メチルベンジル)フェノール等のフェノール系化合物;2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール系化合物;2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系化合物;6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、ジフェニルアミンとアセトンの反応物、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体等のアミン-ケトン系化合物;N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等の芳香族二級アミン系化合物;1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0123】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は1種を単独でも2種以上の組み合わせでもよい。なかでも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との組み合わせがより好ましい。
【0124】
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを組み合わせる場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、好ましくは1:5~2:1、より好ましくは1:2~1:1である。
【0125】
好ましいリン系酸化防止剤の例としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト((株)ADEKA製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサー3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン((株)ADEKA製;商品名:アデカスタブPEP-36)等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0126】
好ましいヒンダードフェノール系酸化防止剤の例としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0127】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。好ましい熱劣化防止剤の例としては、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学(株)製;商品名スミライザーGM)、2,4-ジ-t-アミル-6-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学(株)製;商品名スミライザーGS)等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0128】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好ましい光安定剤の例としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物等のヒンダードアミン類が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0129】
膠着防止剤の例としては、脂肪酸の塩もしくはエステル、多価アルコールのエステル、無機塩、無機酸化物、粒子状の樹脂が挙げられる。好ましい膠着防止剤の例としては、ステアリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、二酸化ケイ素(エボニック社製;商品名アエロジル)、粒子状のアクリル樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0130】
滑剤の例としては、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0131】
離型剤の例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0132】
高分子加工助剤は、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子が用いられる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよく、組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましい。高分子加工助剤の極限粘度は好ましくは3~6dl/gである。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い傾向があり、極限粘度が大きすぎると共重合体の成形加工性の低下を招く傾向がある。
【0133】
有機色素の例としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。有機色素は1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0134】
蛍光体の例としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0135】
これらの添加剤を添加する場合、各種添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、各種添加剤の合計含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0136】
各種の添加剤は、アイオノマー樹脂を製造する際に添加してもよく、アイオノマー樹脂の製造後に添加してもよく、後述の樹脂シートの製造時に添加してもよい。
【0137】
本発明のアイオノマー樹脂および本発明における樹脂組成物は、保存、運搬、または成形時の利便性を高めるために、ペレット等の形態にしてよい。アイオノマー樹脂および樹脂組成物をペレット化する場合は、例えば、溶融押出法にて得られるストランドをカットすることにより得ることができる。溶融押出法によってペレット化する場合における溶融押出時の樹脂または樹脂組成物の温度は、押出機からの吐出を安定化しやすい観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上である。また、前記温度は、樹脂が熱分解して劣化することを抑制する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。本発明のアイオノマー樹脂および本発明における樹脂組成物は耐熱分解性が高いため、このように溶融押出法によりペレット化する際に、アイオノマー樹脂が熱分解して黒色異物が生じる等の問題が起こりにくい。
【0138】
〔樹脂シート〕
本発明は本発明のアイオノマー樹脂を含む層を1層以上有する樹脂シートも包含する。本発明の樹脂シートは、本発明のアイオノマー樹脂を含む層(以下、層(x)ともいう)を1層以上有する。層(x)は本発明のアイオノマー樹脂または本発明における樹脂組成物を含んでなる層である。
本発明の樹脂シートは、層(x)のみから構成されていてもよく、層(x)を少なくとも1層含む積層体であってもよい。前記積層体としては、特に限定されないが、例えば、2層以上の層(x)を含む積層体、1層以上の層(x)と1層以上の他の層とを含む積層体等が挙げられる。層(x)または他の層が複数の層である場合、各層を構成する樹脂または樹脂組成物は、同じでも異なっていてもよい。
【0139】
前記他の層としては、公知の樹脂を含む層が例示される。該樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステルのうちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリイミド、熱可塑性エラストマー等を用いることができる。また、他の層も、必要に応じて、前記添加剤、ならびに、可塑剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、遮熱材料(例えば、赤外線吸収能を有する、無機遮熱性微粒子または有機遮熱性材料)、機能性無機化合物等の添加剤を1種以上含有してよい。
【0140】
本発明の一実施形態において、樹脂シートと基材とを熱圧着する際の泡抜け性に優れる観点から、本発明の樹脂シートは表面にメルトフラクチャーやエンボス等、従来公知の方法で凹凸構造を有することが好ましい。メルトフラクチャーおよびエンボスの形状は、従来公知のものを適宜選択してよい。
【0141】
本発明の樹脂シートにおける層(x)1層の厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.4mm以上であり、また、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下である。樹脂シートにおける層(x)が複数の層である場合、樹脂シートにおける複数の層(x)1層の厚さは同じでも異なっていてもよい。
【0142】
本発明の樹脂シートの厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、さらにより好ましくは0.4mm以上、とりわけ好ましくは0.5mm以上、とりわけより好ましくは0.6mm以上、とりわけさらに好ましくは0.7mm以上、特に好ましくは0.75mm以上であり、また、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下、さらに好ましくは10mm以下、さらにより好ましくは5mm以下、とりわけ好ましくは4mm以下、とりわけより好ましくは2mm以下、とりわけさらに好ましくは1mm以下である。
【0143】
樹脂シートの厚さは従来公知の方法、例えば接触式または非接触式の厚み計等を用いて測定される。樹脂シートはロール状に巻き取った状態であっても、1枚1枚の枚葉の状態であってもよい。
【0144】
本発明の好適な実施形態において、本発明の樹脂シートは、本発明のアイオノマー樹脂のヘイズ、吸水ヘイズ、徐冷ヘイズ、ガラスとの接着性および黄色度を有し得る。
【0145】
本発明の樹脂シートは、合わせガラスを製造する際に発泡しにくいという観点から、含水量が少ない方が好ましい。樹脂シートの含水量は好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。前記含有量は電量滴定法により測定できる。
【0146】
〔樹脂シートの製造方法〕
本発明の樹脂シートの製造方法は特に限定されない。例えば、本発明のアイオノマー樹脂および任意の添加剤を均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、溶液キャスト法、溶融キャスト法、インフレーション法等の公知の製膜方法により層(x)を製造できる。層(x)は単独で樹脂シートとして使用してもよい。また、必要に応じて、2層以上の層(x)、または1層以上の層(x)と1層以上の他の層とをプレス成形等で積層させて積層樹脂シートにしてもよく、2層以上の層(x)、または1層以上の層(x)と1層以上の他の層とを共押出法により成形して積層樹脂シートとしてもよい。層(x)または他の層が複数の層である場合、各層を構成する樹脂または樹脂組成物は、同じでも異なっていてもよい。
【0147】
公知の製膜方法のなかでも、押出機を用いて樹脂シートを製造する方法が好適に用いられる。押出時の樹脂温度は、押出機からの樹脂の吐出を安定化しやすく、機械トラブルを低減しやすい観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上である。押出し時の樹脂温度は、樹脂の分解および分解に伴う樹脂の劣化を低減しやすい観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。また、揮発性物質を効率的に除去するために、減圧によって押出機のベント口から、揮発性物質を除去することが好ましい。
【0148】
〔合わせガラス中間膜および合わせガラス〕
本発明の樹脂シートは、合わせガラス中間膜(単に中間膜ともいう)として好適に使用できる。したがって、本発明は、本発明の樹脂シートからなる合わせガラス中間膜を包含する。また、本発明は、2つのガラス板と、該2つのガラス板の間に配置された本発明の合わせガラス中間膜とを有する、合わせガラスも包含する。本発明の合わせガラスは、前記樹脂シートからなる合わせガラス中間膜を有するため、優れた透明性を有することができる。
【0149】
本発明の中間膜と積層させるガラス板としては、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラス等の無機ガラスのほか、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の従来公知の有機ガラス等を使用し得る。これらは無色または有色のいずれであってもよい。これらは1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、1枚のガラス板の厚さは、100mm以下であることが好ましく、2枚のガラス板の厚さは同じでも異なっていてもよい。
【0150】
本発明の樹脂シートを2枚のガラスに挟んでなる合わせガラスは、従来公知の方法で製造できる。例えば真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また上記方法により仮圧着した後に、オートクレーブに投入して本接着する方法も挙げられる。
【0151】
真空ラミネーター装置を用いる場合、例えば1×10-6~1×10-1MPaの減圧下、60~200℃、特に80~160℃でガラス板、中間膜、および任意の層(例えば接着性樹脂層等)をラミネートすることにより、合わせガラスを製造できる。真空バッグまたは真空リングを用いる方法は、例えば欧州特許第1235683号明細書に記載されており、約2×10-2~3×10-2MPa程度の圧力下、100~160℃でガラス板、中間膜および任意の層をラミネートすることにより、合わせガラスを製造できる。
【0152】
ニップロールを用いる製造方法の例としては、ガラス板、中間膜および任意の層を積層し、中間膜の流動開始温度以下の温度でロールにより脱気した後、さらに流動開始温度に近い温度で圧着を行う方法が挙げられる。具体的には、例えば赤外線ヒーター等で30~70℃に加熱した後、ロールで脱気し、さらに50~120℃に加熱した後ロールで圧着させる方法が挙げられる。
【0153】
上述の方法を用いて圧着させた後にオートクレーブに投入してさらに圧着を行う場合、オートクレーブ工程の運転条件は合わせガラスの厚さや構成により適宜選択されるが、例えば0.5~1.5MPaの圧力下、100~160℃にて0.5~3時間処理することが好ましい。
【0154】
本発明のアイオノマー樹脂が高い透明性およびガラスへの高い接着性を有するため、本発明の合わせガラスは透明性に優れる。本発明の一実施形態において、中間膜のシート厚さが0.8mmの場合の合わせガラスのヘイズは、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。ヘイズが小さいほどアイオノマー樹脂の透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。なお、合わせガラスのヘイズは、ヘイズメーターを用いてJIS K7136:2000に準拠して測定される。
【0155】
本発明の一実施形態において、本発明の合わせガラスは、140℃まで加熱した後、140℃から0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した後においても透明性に優れる。中間膜のシート厚さが0.8mmの合わせガラスを140℃まで加熱した後、140℃から0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した後のヘイズ(徐冷ヘイズ)は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、特に好ましくは3.0%以下である。ヘイズが小さいほど合わせガラスの透明性が高まるため、下限値は特に制限されず、例えば、0.01%であってもよい。徐冷ヘイズもまた、ヘイズメーターを用いてJIS K7136:2000に準拠して測定される。
【0156】
本発明の合わせガラスは着色が少なく、可能な限り、無色であることが好ましい。本発明の合わせガラスの黄色度(YI)は、中間膜のシート厚さが0.8mmである場合、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下である。黄色度(YI)が小さいほどアイオノマー樹脂の着色性が小さくなるため、下限値は特に制限されず、例えば、0であってよい。なお、黄色度(YI)は測色色差計を用い、JIS Z8722に準拠して測定される。
【0157】
本発明の合わせガラスにおける、中間膜のガラスとの接着性は、剥離試験によって測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーによって評価できる。標準条件下(23℃、50%RH)において測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーは、好ましくは2kJ/m以上、より好ましくは2.5kJ/m以上、さらに好ましくは3kJ/m以上、特に好ましくは3.5kJ/m以上である。また、高湿条件下におけるガラスとの接着性は、Wet条件下における剥離試験によって測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーによって評価できる。Wet条件下において測定されるガラスとアイオノマー樹脂との剥離エネルギーは、好ましくは0.05kJ/m以上、より好ましくは0.1kJ/m以上、さらに好ましくは0.15kJ/m以上、特に好ましくは0.2kJ/m以上である。標準条件下および高湿条件下における前記剥離エネルギーの上限は特に制限されず、10kJ/m以下であってよい。前記剥離試験は、例えば国際公開第2019-027865号公報に記載の剥離接着力測定(Peel Adhesion Measurement)として記載されている方法で行われ得る。前記標準条件下およびWet条件下において測定される剥離エネルギーは、例えば実施例に記載の方法により測定できる
【0158】
本発明の合わせガラスにおける中間膜のガラス板との接着性は、例えば、国際公開第1999―058334号公報に記載の圧縮せん断強度試験(Compression shear strength test)によっても評価できる。圧縮せん断強度は、前記接着力を高めやすい観点から、好ましくは15MPa以上、より好ましくは20MPa以上、特に好ましくは25MPa以上である。また、圧縮せん断強度は、合わせガラスの耐貫通性を高めやすい観点から、50MPa以下であってよい。
【0159】
上記のように、本発明のアイオノマー樹脂を含む層を1層以上有する樹脂シートは合わせガラス中間膜として有用である。該合わせガラス中間膜は、ガラス等の基材への接着性、透明性、自立性に優れる点から、特に、構造材料用合わせガラスの中間膜として好ましい。また、構造材料用合わせガラスの中間膜に限らず、自動車等の移動体、建築物、太陽電池等の各種用途における合わせガラス中間膜としても好適であるが、これらの用途に限定されるものではない。
【実施例
【0160】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0161】
〔単量体単位の含有量〕
(原料樹脂)
実施例および比較例において原料として用いたエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を重トルエンまたは重THFに溶解させ、H-NMR(400MHz、日本電子(株)製)にて組成を定量した。
【0162】
(アイオノマー樹脂)
実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂について、該アイオノマー樹脂における(メタ)アクリル酸単位(A)、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)、エチレン単位(C)、および(メタ)アクリル酸エステル単位(D)の含有量の分析を、以下のようにして行った。
【0163】
実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂をそれぞれ脱水トルエン/脱水酢酸(75/25質量%)の混合溶媒に溶解し、100℃にて2時間反応させた後、アセトン/水(80/20質量%)の混合溶媒に再沈殿させることで(メタ)アクリル酸中和物単位(B)を(メタ)アクリル酸単位(A)に変換した。得られた樹脂を十分水で洗浄した後、乾燥し、乾燥した樹脂について下記(1)~(3)を行った。
(1)熱分解GC-MSにより、樹脂を構成する単量体単位の成分を分析した。
(2)JIS K0070-1992に準じて、樹脂の酸価を測定した。
(3)重水素化トルエンと重水素化メタノールとの混合溶媒を用いて、樹脂のH-NMR(400MHz、日本電子(株)製)測定を行った。
(4)また、実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂を、それぞれ、硝酸によるマイクロ波分解前処理に付した後、ICP発光分析(Thermo Fisher Scientific社製、「iCAP6500Duo」)によって、(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の金属イオンの種類と量を同定した。
上記(1)から、(メタ)アクリル酸エステル単位(D)および(メタ)アクリル酸単位(A)の種類と構造を同定した。その情報、ならびに上記(2)および(3)の情報から、エチレン単位(C)/(メタ)アクリル酸エステル単位(D)/((メタ)アクリル酸単位(A)と(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の合計)の比率を算出した。さらに、上記(4)の情報からエチレン単位(C)/(メタ)アクリル酸エステル単位(D)/(メタ)アクリル酸単位(A)/(メタ)アクリル酸中和物単位(B)の比率を算出した。
【0164】
〔アイオノマー樹脂中の遷移金属の含有量〕
実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂0.1gに、硝酸6.0mlを添加し、マイクロ波分解装置(CEM社製、「Discover SP-D80」)を用いて分解を行った。前記分解は、硝酸を添加したアイオノマー樹脂をマイクロ波分解装置付属の容器に入れ、初期温度(23℃)から210℃まで4分間かけて昇温し、昇温後210℃で4分間保持し、次いで、容器温度が80℃に下がるまで分解装置内の空冷用のファンを用いて冷却することにより行った。
冷却後、得られた分解物の溶液を50mlのPFA製メスフラスコで希釈し、次いで0.45μm厚の濾過フィルターを用いて濾過を行い、次いで、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、「iCAP6500Duo」)により、樹脂脂組成物中の遷移金属含有量を測定した。
【0165】
〔流動性(メルトフローレート(MFR))〕
JIS K7210に準拠して、実施例および比較例で用いた原料樹脂、および実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂のメルトフローレートを測定した。具体的には、各樹脂をシリンダ内で溶融し、190℃、2.16kg荷重条件の下で、シリンダ底部に設置された公称孔径2.095mmのダイから押し出し、10分間あたりに押し出される樹脂量(g/10分)を測定した。
【0166】
〔耐熱分解性〕
JIS K7120-1987に準拠して、実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂の耐熱分解性を評価した。具体的には、示差熱熱重量同時測定装置TG-DTA7200((株)日立ハイテクサイエンス製)を用い、昇温速度10℃/分、流量50mL/分の窒素雰囲気下で、各樹脂を20℃~550℃まで加熱した際の重量減少率を測定した。200℃時点の重量を基準に重量減少率が1%となる際の温度である1%重量減少温度(Td1)を耐熱分解性の指標とした。
【0167】
〔黄色度(YI)〕
実施例および比較例で得られたアイオノマー樹脂をそれぞれ210℃で溶融混練し、その溶融混練物を210℃での加熱下、4.9MPa(50kgf/cm)の圧力にて5分間圧縮成形し、厚さ0.8mmの樹脂シートを得た。得られた樹脂シートを日本電色工業株式会社製の測色色差計「ZE-2000」(商品名)を用い、JIS Z8722に準拠して測定した。得られた値を元にJIS K7373に準拠して算出した黄色度の値をイエロインデックス(YI)とした。
【0168】
〔高湿条件下における透明性(吸水ヘイズ)〕
高湿条件下における透明性を、以下の方法で吸水ヘイズを測定することにより評価した。上述の方法と同様にして得られた樹脂シートを50mm四方に切り出し、切り出したサンプルを23℃のイオン交換水に浸漬させた状態で300時間保持し、吸水サンプルを得た。イオン交換水から取出した吸水サンプルの表面に付着した水分を拭き取った後、吸水サンプルのヘイズをヘイズメーターHZ-1(スガ試験機(株)製)を用いてJIS K7136:2000に準拠して測定した。
【0169】
〔徐冷時の透明性(徐冷ヘイズ)〕
上述の方法と同様にして得られた樹脂シートを厚さ2.7mmのフロートガラス2枚に挟み、真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス(株)製 1522N)を使用し、100℃で真空ラミネーター内を1分間減圧し、減圧度および温度を保持したまま30kPaで5分間プレスして、仮接着体を得た。得られた仮接着体をオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分間処理して、30cm角の大きさの合わせガラスを得た。
上述の方法にて得られた合わせガラスを140℃まで加熱したのち、0.1℃/分の速度で23℃まで徐冷した。徐冷操作後の合わせガラスのヘイズをヘイズメーターHZ-1(スガ試験機(株)製)を用いてJIS K7136:2000に準拠して測定した。
【0170】
〔標準条件(Dry条件)下におけるガラスとの接着性〕
上述の方法と同様にして得られた合わせガラスを、国際公開第2019/027865号公報に記載の剥離接着力測定(Peel Adhesion Measurement)として記載されている方法に従い、万能試験機(MTS Criterion M45)を用い、23℃、50%RH条下にて、1cm/分の速度で90°方向に剥離試験を行い、剥離力PDryを測定した。剥離力PDry、剥離試験片の幅Wから、Dry条件下における剥離エネルギーγを下記式により算出した。
Dry条件下における剥離エネルギーγDry〔kJ/m〕=PDry〔kJ/m〕/W〔m〕
【0171】
〔Wet条件下におけるガラスとの接着性〕
高湿条件下におけるガラスとの接着性を、以下の方法でWet条件下における剥離エネルギーを測定することにより評価した。上述の方法と同様にして得られた合わせガラスを、国際公開第2019/027865号公報に記載の剥離接着力測定(Peel Adhesion Measurement)として記載されている方法に従い、万能試験機(MTS Criterion M45)を用い、23℃、50%RH条下にて1cm/分の速度で90°方向に剥離試験を行った。試験片を100mm剥離したところで、ガラスと剥離面の間に水を垂らしWet状態とし、0.025cm/分の速度で剥離を再開し、Wet状態における剥離力PWetを測定した。剥離力PWet、剥離試験片の幅WからWet条件下における剥離エネルギーγWetを下式より算出した。
Wet条件下における剥離エネルギーγWet〔kJ/m〕=PWet〔kJ/m〕/W〔m〕
【0172】
〔樹脂シートの外観評価〕
上述の方法と同様にして得られた30cm角の大きさの合わせガラスを目視観察し、樹脂シートのゲル化物の有無を確認し、下記基準で評価した。
A:確認されたゲル化物が5個未満
B:確認されたゲル化物が5個以上
上記基準において、A評価は、樹脂シートの外観が良好であることを意味する。
【0173】
〔原料樹脂〕
実施例および比較例において、アイオノマー樹脂の原料として用いた各エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のメタクリル酸メチル(MMA)変性量またはアクリル酸エチル(EA)変性量、およびMFRを表1に示す。
例えば、EMMA1として住友化学(株)製「アクリフト」(登録商標)WK307、EEA1として日本ポリエチレン(株)製「レクスパール」(登録商標)A4250を用いることができる。
【0174】
【表1】
【0175】
〔反応槽の材質〕
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)を原料として用いた実施例および比較例において、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(X)のけん化反応および脱金属化反応を行った各反応槽の材質およびその組成を以下に示す。
ハステロイB2:ニッケル68質量%、モリブデン28質量%、鉄2質量%、クロム1質量%、コバルト1質量%
ハステロイC22:ニッケル56質量%、モリブデン13質量%、鉄3質量%、クロム22質量%、その他6%質量
SUS312L:ニッケル20質量%、モリブデン7質量%、鉄47質量%、クロム21質量%、その他5%質量
SUS316L:ニッケル15質量%、モリブデン3質量%、鉄59質量%、クロム18質量%、その他5質量%
SUS304:ニッケル11質量%、鉄64質量%、クロム20質量%、その他5質量%
SUS316:ニッケル14質量%、モリブデン3質量%、鉄60質量%、クロム18質量%、その他5質量%
【0176】
〔実施例1〕
ハステロイB2製のマックスブレンド翼を備えた耐圧容器を反応槽として用いた。前記反応槽に、表1中のEMMA1、100質量部を導入し、そこにトルエン233質量部を加えて、0.02MPa加圧下、60℃で撹拌し、EMMA1を溶解させた。得られた溶液に水酸化ナトリウムのメタノール溶液(20質量%)96質量部を添加し、100℃で4時間撹拌し、EMMA1をけん化して、メタクリル酸メチル単位の一部をメタクリル酸ナトリウム単位に変換した。次いで、この溶液を50℃まで冷却した後に、塩酸(20質量%)83質量部を反応液中に直接添加し、50℃で1時間撹拌して、メタクリル酸ナトリウム単位の一部をメタクリル酸に変換し、粗アイオノマー樹脂溶液を得た。
得られた粗アイオノマー樹脂溶液にトルエン/メタノール(75/25質量%)の混合溶媒を粗アイオノマー樹脂濃度が10質量%となるように添加して、該溶液を希釈した。次いで、得られた粗アイオノマー樹脂の希釈溶液を34℃に調整した後、前記希釈溶液に34℃のメタノールを粗アイオノマー樹脂溶液100質量部に対して430質量部添加して、粒状樹脂を析出させた。次いで、得られた粒状樹脂を濾取した後、濾取した粒状樹脂100質量部と水/メタノール(50/50質量%)の混合溶媒600質量部とを混合した。前記混合により得られたスラリーを40℃で1時間撹拌し、その後、粒状樹脂を室温にて濾取した。水/メタノールの混合溶媒による粒状樹脂の洗浄をさらに3回行い、洗浄されたアイオノマー樹脂を得た。
得られたアイオノマー樹脂を8時間以上真空乾燥した後、分析し、特性を評価した。アイオノマー樹脂1の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0177】
〔実施例2〕
ハステロイB2製の耐圧容器に代えてハステロイC22製の耐圧容器を反応槽として用い、EMMA1に代えてEMMA2を用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0178】
〔実施例3〕
ハステロイB2製の耐圧容器に代えてハステロイC22製の耐圧容器反応槽として用い、EMMA1に代えてEMMA2を用い、塩酸を反応槽上部の液面より1mの距離のノズルから気相部を経由して反応液に滴下して添加した以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0179】
〔実施例4〕
ハステロイB2製の耐圧容器に代えてSUS312L製の耐圧容器を反応槽として用い、EMMA1に代えてEMMA2を用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0180】
〔実施例5〕
ステロイB2製の耐圧容器に代えてSUS316L製の耐圧容器を反応槽として用い、EMMA1に代えてEEA1を用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0181】
〔実施例6〕
米国特許第6518365号に記載の方法を参考に、エチレンおよびメタアクリル酸を共重合してエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を得た後、該共重合体を水酸化ナトリウムにより部分中和した。得られた部分中和物100質量部に、3.4×10-4質量部の塩化鉄(II)20%水溶液を押出機中で添加することにより、遷移金属を含有するアイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0182】
〔比較例1〕
ハステロイB2製の耐圧容器に代えてSUS304製の耐圧容器を反応槽として用い、EMMA1に代えてEMMA2を用い、塩酸を反応槽上部の液面より3mの距離のノズルから気相部を経由して反応液に滴下して添加した以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0183】
〔比較例2〕
SUS304製の耐圧容器に代えてSUS316製の耐圧容器を反応槽として用いた以外は、比較例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2示す。
【0184】
〔比較例3〕
ハステロイB2製の耐圧容器に代えてハステロイC22製の耐圧容器を反応槽として用い、EMMA1に代えてEMMA3を用いた以外は、実施例1と同様にして、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0185】
〔比較例4〕
米国特許第6518365号に記載の方法を参考に、エチレンおよびメタアクリル酸を共重合してエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を得た後、該共重合体を水酸化ナトリウムにより部分中和することにより、アイオノマー樹脂を得た。得られたアイオノマー樹脂の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0186】
〔比較例5〕
比較例4で得られたアイオノマー樹脂100質量部にシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン0.2質量部を溶融混練にて加えることにより、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の分析結果および評価結果を表2および表3に示す。
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】
【0189】
表3に示されるように、実施例で得られたアイオノマー樹脂は、比較例で得られたアイオノマー樹脂よりも、吸水ヘイズが低く、吸水した状態であっても透明性が高いこと、Wet条件下における剥離エネルギーが高く、高湿条件下であってもガラスとの接着性が高いこと、および耐熱分解性が高いことが確認された。また、実施例で得られたアイオノマー樹脂を用いて製造された樹脂シートは、ゲル化物が少なく、外観が良好であった。