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特許7186711硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたトゥプリプレグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたトゥプリプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20221202BHJP
   C08L 63/04 20060101ALI20221202BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20221202BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20221202BHJP
   C08G 59/56 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C08G59/20
C08L63/04
C08L51/04
C08J5/24 CFC
C08G59/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019545147
(86)(22)【出願日】2018-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2018035541
(87)【国際公開番号】W WO2019065663
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2017191453
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕一
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157491(JP,A)
【文献】特開2016-190920(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099060(WO,A1)
【文献】特開2012-056980(JP,A)
【文献】特開2013-075998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、コアシェル型ゴム粒子(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を必須成分とし、前記エポキシ樹脂(A)100質量部の内、25質量部以上がエポキシ当量180g/eq以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、20~75質量部がエポキシ当量195以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂であり(但し、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)100質量部の内、20質量部以下である。)、コアシェル型ゴム粒子(B)の配合量が上記(A)、(B)、(C)、及び(D)の合計100質量部に対し2~20質量部であり、E型粘度計により測定した25℃における粘度が3~45Pa・sの範囲であること、並びに上記ビスフェノールF型エポキシ樹脂が、下記一般式(1)で表され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける測定において二核体含有率が75面積%以上、三核体含有率が6面積%以下の割合で構成されることを特徴とするトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、mは0~5の整数を表す。)
【請求項3】
エポキシ樹脂(A)、コアシェル型ゴム粒子(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を必須成分とし、前記エポキシ樹脂(A)100質量部の内、25質量部以上がエポキシ当量180g/eq以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、20~75質量部がエポキシ当量195以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂であり(但し、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)100質量部の内、20質量部以下である。)、コアシェル型ゴム粒子(B)の配合量が上記(A)、(B)、(C)、及び(D)の合計100質量部に対し2~20質量部であり、E型粘度計により測定した25℃における粘度が3~45Pa・sの範囲であること、上記(C)と(D)のD90粒径がともに2~8μmであることを特徴とするトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のトゥプリプレグをフィラメントワインディング成形法で成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度安定性に優れるトゥプリプレグ用の硬化性樹脂組成物と、それを用いたトゥプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料はガラス繊維、アラミド繊維や炭素繊維等の強化繊維と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性マトリクス樹脂から構成され、軽量かつ、強度、耐食性や耐疲労性等の機械物性に優れることから、航空機、自動車、土木建築およびスポーツ用品等の構造材料として幅広く適応されている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法には、熱硬化性のマトリクス樹脂が予め強化繊維へ含浸されたプリプレグを用いるオートクレーブ成形法、プレス成形法や、強化繊維へ液状のマトリクス樹脂を含浸させる工程と熱硬化による成形工程を含む、ウェットレイアップ成形法、引き抜き成形法、フィラメントワインディング成形法、RTM法等の手法がある。
【0004】
フィラメントワインディング成形法の一つに、強化繊維へあらかじめ樹脂が含浸されたトゥプリプレグを用いるドライ法が挙げられる。ドライ法は巻き付け速度の短時間化や樹脂比率の安定性に優れることから、繊維強化複合材料の高生産性と品質安定化に優位性があり、特に高圧ガスタンクの製造法の一つとして適用されている。
【0005】
ドライ法ではトゥプリプレグ品質を高めるべく、用いられるマトリクス樹脂には安定した含浸性と巻き付け時のハンドリング性を担保するため、適切な粘度範囲にあり粘度の増加率が小さいマトリクス樹脂が用いられる。加えて硬化時には繊維強化複合材料の耐衝撃性と耐疲労性を高めるべく、破壊靱性値の高いことが望まれる。
【0006】
マトリクス樹脂の破壊靱性を高める手法は様々あり、低弾性率なゴム状ポリマー、ブロックコポリマー、コアシェル型ゴム粒子の添加等が挙げられる。コアシェル型ゴム粒子の配合では平均粒子径が数十~数百nmのゴム粒子をマトリクス樹脂中に分散させることで破壊靱性を向上させられる。マトリクス樹脂とコアシェル型ゴム粒子のシェル層との相溶性を最適化することは、ゴム粒子の分散性にも影響するため破壊靱性を高める上で重要となる。
【0007】
コアシェル型ゴム粒子の添加量を増加させることにより破壊靱性を高めることが可能であるが、添加量が多すぎるとマトリクス樹脂の著しい高粘度化に伴うトゥプリプレグ品質の低下、および成形物の低弾性化と低強度化を招くためゴム粒子以外の成分にも着目する必要がある。
【0008】
特許文献1、及び2にはコアシェル型ゴム粒子を用いた樹脂組成物が提案されている。特許文献3にはコアシェル型ゴム粒子とウレタン変性やゴム変性エポキシを用いた樹脂組成物が提案されている。特許文献4にはコアシェル型ゴム粒子と固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いた樹脂組成物が提案されている。これらの文献ではコアシェル型ゴム粒子を用いたことにより靱性の向上が見受けられるが、靱性のさらなる向上のためにはコアシェル型ゴム粒子以外の成分に着目する必要があり、そのことについては言及されていない。
【0009】
繊維強化複合材料のマトリクス樹脂に関し、コアシェル型ゴム粒子の添加により成形物の破壊靱性を向上させる試みが成されているものの、さらに破壊靱性を高めて成形物の耐衝撃性と耐疲労性の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-227693号公報
【文献】WO2017/099060号
【文献】特開2016-199673号公報
【文献】特開2011-157491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は硬化して得られる成形物の破壊靱性が高く、耐衝撃性と耐疲労性に優れた繊維強化複合材料を得ることができるトゥプリプレグ用のマトリクス樹脂として使用される樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前述の課題を解決するため検討を行った結果、コアシェル型ゴム粒子とビスフェノールF型エポキシ樹脂を組み合わせて使用すると、成形物に高い破壊靱性を与える樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明は、エポキシ樹脂(A)、コアシェル型ゴム粒子(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を必須成分とし、前記エポキシ樹脂(A)100質量部の内、25質量部以上がエポキシ当量180g/eq以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂であって、かつ前記コアシェル型ゴム粒子(B)の配合量が上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分の合計量100質量部に対し2~16質量部であり、さらにE型粘度計により測定した25℃における粘度が3~45Pa・sの範囲であることを特徴とするトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物である。
【0014】
上記ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で表され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定において二核体含有率が75面積%以上、三核体含有率が6面積%以下の割合で構成されることが好ましい。
【化1】

(式中、mは0~5の整数である。)
【0015】
上記ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)と固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)は、そのD90粒径がともに2~8μmであることがよい。
【0016】
本発明における好ましいトゥプリプレグの形態は、体積含有率が48~72%の割合にて強化繊維を配合していることである。
【0017】
本発明の他の形態は、上記の樹脂組成物に強化繊維を配合したトゥプリプレグをフィラメントワインディング成形法で成形して得られる繊維強化複合材料(成形体)である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物は、これを使用したプリプレグを硬化させて得られる成形物が高い破壊靱性を示す。特にフィラメントワインディング成形法によって得られる繊維強化複合材料に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ビスフェノールF型エポキシ樹脂YDF-170のGPCチャートを示す。
図2】ビスフェノールF型エポキシ樹脂YDF-1500のGPCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、コアシェル型ゴム粒子(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を必須成分とする。以下、エポキシ樹脂(A)、コアシェル型ゴム粒子(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分ともいう。また、トゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物を、硬化性樹脂組成物又は樹脂組成物ともいう。
【0021】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)は、その100質量部の内、25質量部以上がエポキシ当量(g/eq)180以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂である。ビスフェノールF型エポキシ樹脂の含有量が25質量%部以上であり、かつエポキシ当量180以下でないと、硬化物のコアシェル型ゴム成分の分散性が均一になり過ぎ破壊靱性の低下を招く。
【0022】
好ましくは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂における二核体含有率が75面積%以上、三核体含有率が6面積%以下である。二核体及び三核体が上記の割合で含まれることで、コアシェル型ゴム成分の分散性が均一になり過ぎずに、より破壊靱性値を高められる。
ここで、二核体とは、一般式(1)においてm=0の成分、三核体とは、一般式(1)においてm=1の成分をいう。四核体以上の多核体含有率は、GPC測定において1面積%以下であることが好ましい。なお、ビスフェノールF型エポキシ樹脂には、通常のエポキシ樹脂と同様にエポキシ基が開環反応して生じる四核体も生じうるが、これは上記四核体としては計算しない。
【0023】
上記エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A)成分100質量部の内20~75質量部、好ましくは30~70質量部のエポキシ当量195以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことが望ましい。エポキシ当量195以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことでコアシェル型ゴム成分の分散性が均一になると考えられる。また、樹脂含浸性、耐熱性等他物性のバランスに優れた組成物となる。このビスフェノールA型エポキシ樹脂をビスフェノールF型エポキシ樹脂と併用することにより粘度を最適に制御できる。
また、本発明で使用するエポキシ樹脂(A)は、(A)~(D)成分の合計100質量部の内、70~90質量部、好ましくは75~85質量部であることがよい。
【0024】
本発明で使用するエポキシ樹脂(A)は、他のエポキシ樹脂(ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビスフェノールA型エポキシ樹脂を言う。)を含んでいても良い。他のエポキシ樹脂の配合量は、(A)成分100質量部の内、20質量部以下、好ましくは10質量部未満であることがよい。
【0025】
他のエポキシ樹脂としては、例えば1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品、単量体に限らず複数の繰り返し単位を有する高分子量体、アルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレ-ト、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂中、粘度増加率の観点から1分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましく、多官能のエポキシ樹脂は好ましくない。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明の硬化性樹脂組成物に含まれるコアシェル型ゴム粒子(B)の配合量は(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分の合計量100質量部に対し2~20質量部である。この範囲内であれば硬化物の弾性率を落とすこと無く、破壊靱性を高められ強度に優れた繊維強化複合材料が得られる。
【0027】
コアシェル型ゴム粒子(B)は、コア部と、コア部の外層を形成するシェル部より構成される。コア部はエラストマーまたはゴム状のポリマを主成分とするポリマからなることが好ましく、シェル部はコア部にグラフト重合されたポリマからなることが好ましい。コアシェル型ゴム粒子の添加には、靱性の向上やプリプレグのタック性の改善効果があり、平均粒子径が体積平均粒子径としてで1~500nmであることが好ましく、3~300nmであればさらに好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、硬化剤としてのジシアンジアミドまたはその誘導体(C)が用いられる。ジシアンジアミドは常温で固体の硬化剤であり、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、180℃以上まで加熱すると溶解し、エポキシ基と反応するという特性を有する室温での保存安定性に優れた潜在性硬化剤である。また、その誘導体としては、特開平11-119429号公報に記載のN‐ヘキシルジシアンジアミドのようなN‐置換ジシアンジアミド誘導体等を使用することが出来る。使用する量としてはエポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対して、0.2~0.8当量(ジシアンジアミド1モルを4当量として計算)の範囲で配合することが好ましい。より好ましくは0.2~0.5当量である。エポキシ当量に対して0.2当量未満では硬化物の架橋密度が低くなり、破壊靱性が低くなりやすくなり、0.8当量を超えると未反応のジシアンジアミドが残りやすくなるため、機械物性が悪くなる傾向にある。別の観点では硬化性樹脂組成物100重量部に対して0.01~7重量部の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、硬化促進剤としての固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)が配合される。(D)成分は、D90粒径が2~8μmであるとより望ましい。このような粒径とすることにより混合時における強化繊維への含浸性に優れ、加熱硬化時に空隙の少ない繊維強化複合材料が得られる。ここで、粒径のD90は、積算ふるい下分布90%に相当する粒子径をいう。また、(C)成分の粒径についても、上記範囲とすることが好ましい。
【0030】
上記小粒子径を得るための方法としては、あらゆる方法を採用することができる。例えば、硬化剤の粗粒子をジェットミルや、乳鉢などにより粉砕する方法、凍結粉砕する方法、試験ふるいにより分級する方法などの方法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)としては、硬化促進剤として作用し、混合時での強化繊維への含浸性に加え、硬化時における耐熱性をより満足させるものが好ましい。
固形の芳香族ウレア化合物としては例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、N-フェニル-N’,N’-ジメチルウレア、N-(4-クロロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3,4-ジクロロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3-クロロ-4-エチルフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(4-メチル-3-ニトロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、2,4-ビス(N’,N’-ジメチルウレイド)トルエン、メチレン-ビス(p-N’,N’-ジメチルウレイドフェニル)等を挙げることができ、この中でも3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレアが好ましい。
【0032】
また、固形のイミダゾール化合物としては2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル6-4′,5′-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物を用いることが良い。
更に、トリアジン環を含有するイミダゾール化合物も好ましく使用でき、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、化学的に安定で、かつ、常温ではエポキシ樹脂に溶解しないものであれば上記に限定されるものではない。
固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)の使用量は、硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.01~7質量部が好ましい。より好ましくは、1~5質量部である。7質量部を超える場合、粉末成分が多くなるため、ボイドが多くなり易くなる問題が生じる。0.01質量部未満の場合、速硬化性を実現できない問題が生じる。
【0033】
本発明の硬化性樹脂組成物には、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これら添加剤は樹脂組成物100質量部に対して0.01~3質量部、好ましくは0.01~1質量部を配合することができる。
【0034】
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物は、上記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分等を均一に混合することにより製造される。得られた樹脂組成物は、25℃におけるE型粘度計コーンプレートタイプを使用して測定した粘度が3~45Pa・sの範囲である。この範囲であれば良好な強化繊維への含浸性を有し、含浸後にも繊維から樹脂の液垂れが起きず、良質なトゥプリプレグが得られ、硬化時にも空隙の少ない繊維強化複合材料が得られる。
【0035】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、更に他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本発明の硬化性樹脂組成物には、カップリング剤や、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、熱硬化性樹脂粒子、あるいはシリカゲル、ナノシリカ、アルミナファイバーやクレー等の無機フィラーや、導電性フィラーを配合することができる。導電性粒子や導電性フィラーを用いることにより得られる樹脂硬化物や繊維強化複合材料の導電性を向上させられる。
【0037】
導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、金属ナノ粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。この中で特にカーボンナノチューブの配合は導電性を向上させるだけで無く、繊維強化複合材料に対して1wt%未満の配合量でも繊維強化複合材料の衝撃強度を高められるという点で広く知られており、好適に用いることができる。
【0038】
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物は、強化用繊維又は束に含浸されてトゥプリプレグとされる。トゥプリプレグとする方法は公知の方法でよい。
このようにして得られるトゥプリプレグは、フィラメントワインディング成形法によって得られる繊維強化複合材料に好適に用いられる。
【0039】
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物からトゥプリプレグへ加工し、成形体(繊維強化複合材料ともいう。)を作製する方法は特に限定されないが、フィラメントワインディング法による圧力容器の製造方法として望ましく適用される。金属製または樹脂製のライナーにトゥプリプレグを巻きつけた後に熱硬化させることで、ライナーを被覆するよう繊維強化複合材料の層が形成された成形品が得られる。この後、必要に応じてライナーを除去しても良い。また、フィラメントワインディング法による円注状の中空な繊維強化複合材料、例えばシャフトやロール形状の成形体の製造方法として望ましく適用される。金属製または樹脂製のマンドレルにトゥプリプレグを巻き付けて加熱成形することで成形体品が得られ、用途に応じてマンドレルを除去しても良い。
【0040】
本発明のトゥプリプレグに用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0041】
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物と強化繊維より構成されたトゥプリプレグにおける、強化繊維の体積含有率は48~72%であると良く、より好ましくは53~68%の範囲であると空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【0042】
本発明においては、トゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物を120℃の温度下で2時間かけて硬化させた硬化物について、JIS K7171に準じて測定された曲げ弾性率が2.0GPa以上かつ、ASTM D5045に準じて測定された23℃での破壊靭性(KIc)が1.2MPa・m0.5J/m以上を示すことがより好ましい。
【実施例
【0043】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。配合量を示す部は、特に断りがない限り質量部である。またエポキシ当量の単位はg/eqである。
【0044】
(分子量分布の測定)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて分子量分布を測定した。本体(東ソー株式会社製 HLC-8220GPC)にカラム(東ソー株式会社製 TSKgelG4000HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG2000HXL)を直列に備えたものを使用し、カラム温度を40℃にし、溶離液にはテトラヒドロフランを用い、1ml/minの流速とし、検出器にRI(示差屈折計)検出器を用いて測定を行い、二核体含有率と三核体含有率をピークの面積%から求めた。
【0045】
実施例で使用した各成分の略号は下記の通りである。粘度は断りがない限り25℃における値であり、単位はmPa・sである。
YDF-170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、粘度2600、二核体含有率79.9面積%、三核体含有率8.5面積%、エポキシ当量170)
YDF-1500:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、粘度2300、二核体含有率84.1面積%、三核体含有率4.1面積%、エポキシ当量169)
YDF-2001:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、エポキシ当量481)
YD-128:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、粘度12600、エポキシ当量186)
MX-154:コアシェル型ゴム粒子を40wt%含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂(カネカ社製、カネエースMX-154)、エポキシ当量301
MX-154EP:MX-154中のビスフェノールA型エポキシ樹脂成分、エポキシ当量180~185
MX-154CSR:MX-154中のコアシェル型ゴム粒子成分
DICY:ジシアンジアミド(D90粒径6.5μm)
DCMU:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(D90粒径26.4μm)
DCMUH:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(D90粒径4.8μm)
2MAOK:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物(D90粒径4.6μm)
【0046】
図1にYDF-170のGPCチャートを示し、図2にYDF-1500のGPCチャートを示す。図中、Aは二核体を示すピークで、Bは三核体を示すピークであり、Cはエポキシ基が開環して二量化して生じる四核体を示すピークである。
【0047】
実施例1
(A)成分としてYDF-170を27部、YD-128を51部、MX-154中のMX-154EPを7部、(B)成分としてMX-154中のMX-154CSRを5部、(C)成分としてDICYを5.7部、(D)成分としてDCMUを4.5部、150mLのポリ容器へ入れ、真空ミキサー「あわとり練太郎」(シンキー社製)を用いて、室温下で5分間攪拌しながら混合し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0048】
(粘度の測定)
25℃における粘度の値は、E型粘度計コーンプレートタイプを用いて測定した。硬化性樹脂組成物を調整し、その内0.8mLを測定に用い、測定開始から60秒経過後の値を粘度の値とした。
【0049】
(ガラス転移温度、曲げ試験、破壊靱性測定用成形板の作製)
硬化性樹脂組成物を、平板形状にくり抜かれた4mm厚のスペーサーを設けた縦120mm×横120mmの金型へ流し込み、120℃で2時間硬化させて測定用成形板とし、後述する曲げ弾性率と曲げ強度の測定、および破壊靱性の測定に用いた。
【0050】
(ガラス転移温度測定用試験片への加工、ガラス転移温度の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより3mm×3mmの大きさに切削し、さらにベルトディスクサンダーを用いておよそ1.2mmの厚さまで研磨加工した。示差走査熱量計を用い、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分の条件で測定し、DSC曲線の変曲点での接線と、変曲の開始が見られる温度、すなわち変曲点から20~30℃低い温度領域における接線との交点をガラス転移温度Tgとした。
【0051】
(曲げ試験片の加工、曲げ弾性率と曲げ強度の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより80mm×10mmの大きさに切削し、曲げ試験片をJIS7171に準拠する手法にて23℃の温度条件で曲げ試験を行い、曲げ弾性率と曲げ強度を算出した。
(破壊靱性試験片の加工、破壊靱性の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより80mm×10mmの大きさに切削した後、ASTM5045に準拠した試験片に加工した上で23℃の温度条件にて破壊靱性試験を行い、破壊靱性値を算出した。
【0052】
内径140mm、幅28mmのアルミニウム製円盤板を、左右の両面から内径160mm、高さ4mmのアルミニウム製円盤板で挟み込みボルトで仮止めすることで形成された幅28mmの溝に、T700SC-12000-50C(東レ株式会社製、繊度0.8g/m)を270cm巻き付けるごとに実施例1で得た硬化性樹脂組成物を1g塗布して炭素繊維へ含浸させることでトゥプリプレグを製造しつつアルミニウム製円盤板に巻き付け、炭素繊維を切断すること無しにこれを12回繰り返した後に、120℃で2時間硬化させてから両面のアルミニウム製円盤板を取り外すことで、重量約38g、炭素繊維体積比率約60%、厚み約2mmのフープ状の炭素繊維強化複合材料(成形体)を得た。
【0053】
得られたフープ状炭素繊維強化複合材料を卓上バンドソーにて内弧長100mm×幅14mmの大きさに切削し、実測密度をアルキメデス法にて測定した。また理論密度をエポキシ樹脂硬化物の密度を1.2、炭素繊維の密度を1.8として以下の式により算出した。
理論密度=切り出した炭素繊維強化複合材料の重量/(樹脂の塗布重量/エポキシ樹脂硬化物の密度+炭素繊維の巻き付け重量/炭素繊維の密度)
さらに測定した実測密度と算出した理論密度の値を用いて、下記の式より空隙率を計算した。
空隙率=100×(1-実測密度/理論密度)
【0054】
実施例2~10、比較例1~6
(A)~(D)成分として表1および表2に記載された組成にて各原料を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を作製した。
この硬化性樹脂組成物を使用して、実施例1と同様にしてトゥプリプレグを得た後に加熱硬化させることで炭素繊維強化複合材料を成形し、実施例1と同様にしてガラス転移温度、曲げ試験、破壊靱性測定用成形板、および空隙率を測定した。
【0055】
原料、その使用量(質量部)と試験の結果をそれぞれ表1、及び表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】

【表2】
【産業上の利用の可能性】
【0058】
本発明のトゥプリプレグ用硬化性樹脂組成物からは、高い破壊靱性を示す繊維強化複合材料を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
A 二核体を示すピーク
B 三核体を示すピーク
図1
図2