(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】プリフォームはんだおよびそれを用いた接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/14 20060101AFI20221202BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20221202BHJP
B23K 1/002 20060101ALI20221202BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20221202BHJP
【FI】
B23K35/14 E
B23K1/00 330E
B23K1/002
B23K35/26 310A
(21)【出願番号】P 2021561348
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043051
(87)【国際公開番号】W WO2021106721
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2019213373
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 陽也
(72)【発明者】
【氏名】冨塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 久彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 賢司
(72)【発明者】
【氏名】植村 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 考志
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特許第2849208(JP,B2)
【文献】特開平08-046353(JP,A)
【文献】米国特許第05573859(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108608130(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0210283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/20 - 35/26
B23K 1/00 - 1/002
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流磁場の作用により溶融する磁場溶融型のプリフォームはんだであって、
前記プリフォームはんだが、2層以上の積層構造を有し、
前記積層構造を構成する少なくとも2層がはんだ材料から構成され、
前記少なくとも2層が強磁性体材料を含まず、
前記少なくとも2層は互いに向かい合う表面を有し、
前記互いに向かい合う表面同士が接している
ことを特徴とする磁場溶融型プリフォームはんだ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁場溶融型プリフォームはんだであって、
前記積層構造が、3層以上から構成される
ことを特徴とする磁場溶融型プリフォームはんだ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁場溶融型プリフォームはんだであって、
前記少なくとも2層を構成するはんだ材料が、同一の組成を有する
ことを特徴とする磁場溶融型プリフォームはんだ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の磁場溶融型プリフォームはんだであって、
前記積層構造が、3層以上から構成され、
前記積層構造を構成する少なくとも一層が、強磁性体材料を含
み、
前記少なくとも一層が、強磁性体材料から構成される磁性体層である
ことを特徴とする磁場溶融型プリフォームはんだ。
【請求項5】
請求項
4に記載の磁場溶融型プリフォームはんだであって、
前記強磁性体材料が強磁性金属、その酸化物および窒化物、並びに、強磁性合金、その酸化物および窒化物から選ばれる少なくとも1つである
ことを特徴とする磁場溶融型プリフォームはんだ。
【請求項6】
請求項
4又は5に記載の磁場溶融型プリフォームはんだであって、
前記強磁性体材料の前記積層構造の全体に対する割合が、0.005~20質量%である
ことを特徴とする磁場溶融型プリフォームはんだ。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載の磁場溶融型プリフォームはんだを用いた接合方法であって、
基板上の電極と、電子部品の電極との間に前記プリフォームはんだを設ける工程と、
前記基板の周囲に交流磁場を発生させて前記プリフォームはんだを溶融させることにより、前記基板上の電極と、前記電子部品の電極とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流磁場の作用により溶融するプリフォームはんだおよびそれを用いた接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、マイクロ波加熱装置を開示する。この加熱装置は、空洞共振器内にマイクロ波を特定の定在波として発生させる。この加熱装置は、また、マイクロ波の周波数の調整により、空洞共振器内の電場および磁場の分布状態を所望の状態に制御する。分布状態が所望の状態に制御されると、電界強度が極めて低く、且つ、磁界強度の高い領域が空洞共振器の中心軸の位置に作り出される。この加熱装置は、更に、加熱対象を搬送してこの領域を通過させる。加熱対象は、マイクロ波の電界成分の作用を受けることなく、マイクロ波の磁界成分により加熱される。尚、加熱対象としては、はんだが配置された電極パターンが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術によれば、磁界成分の作用によって直接的または間接的にはんだを加熱して溶かすことが可能である。そこで、本発明者らは、交流磁場の作用によるはんだの溶融現象に着目して鋭意検討を重ねたところ、プリフォームはんだの積層体に交流磁場を印加すると、単層体に交流磁場を印加したときに得られる昇温特性とは異なる昇温特性が得られるという知見を得た。
【0005】
本発明は、この知見に基づき完成されるに至ったものである。本発明の目的は、交流磁場の作用により溶融することが可能な新規なプリフォームはんだおよびそれを用いた接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、交流磁場の作用により溶融する磁場溶融型のプリフォームはんだであり、次の特徴を有する。
前記プリフォームはんだは、2層以上の積層構造を有する。前記積層構造を構成する少なくとも2層は、はんだ材料から構成される。前記少なくとも2層は強磁性体材料を含まない。前記少なくとも2層は互いに向かい合う表面を有する。前記互いに向かい合う表面同士が接している。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において更に次の特徴を有する。
前記積層構造は、3層以上から構成される。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において更に次の特徴を有する。
前記積層構造の各層を構成するはんだ材料が、同一の組成を有する。
【0009】
第4の発明は、第1~第3の発明の何れか1つにおいて更に次の特徴を有する。
前記積層構造を構成する少なくとも一層は、磁性体材料を含む。前記少なくとも一層は、強磁性体材料から構成される磁性体層である。
【0011】
第5の発明は、第4の発明において更に次の特徴を有する。
前記磁性体材料は、強磁性金属、その酸化物および窒化物、並びに、強磁性合金、その酸化物および窒化物から選ばれる少なくとも1つである。
【0012】
第6の発明は、第4または第5の発明において更に次の特徴を有する。
前記磁性体材料の前記積層構造の全体に対する割合は、0.005~20質量%である。
【0013】
第7の発明は、第1~6の発明の何れか1つの磁場溶融型プリフォームはんだを用いた接合方法である。
前記接合方法は、基板上の電極と、電子部品の電極との間に前記プリフォームはんだを設ける工程と、前記基板の周囲に交流磁場を発生させて前記プリフォームはんだを溶融させることにより、前記基板上の電極と、前記電子部品の電極とを接合する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
プリフォームはんだは、交流磁場の作用により発熱する。この発熱は少なくとも渦電流損失に起因する。プリフォームはんだに生じる渦電流は、プリフォームはんだの表面に近いほど強い(表皮効果)。そのため、渦電流損失により発生した熱は、プリフォームはんだの表面から内部に移動する。
【0015】
プリフォームはんだが単層の場合、この熱は、プリフォームはんだの表面から外部に放出される。一方、プリフォームはんだが2層以上の場合、この熱の移動が対向する2層の間で起こる。故に、プリフォームはんだが2層以上の場合は、プリフォームはんだが単層の場合に比べて、短時間で高温化することが可能となる。
【0016】
そして、本発明は、2層以上の積層構造を有するプリフォームはんだである。従って、本発明によれば、はんだ全体を短時間で溶融させることが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る接合方法によれば、基板の周囲に発生させた交流磁場により本発明に係るプリフォームはんだを溶融させて、基板上の電極と電子部品の電極とを接合できる。つまり、局所的に発生させた交流磁場によりプリフォームはんだを短時間で溶融させて、これらの電極の間を電気的に接続することが可能となる。従って、基板および電子部品が受ける熱的な影響を最小限に抑えながら、両者をはんだ接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係るはんだの一例を示す模式図である。
【
図2】実施の形態に係るはんだの別の例を示す模式図である。
【
図3】実施の形態に係るはんだの更に別の例を示す模式図である。
【
図4】実施の形態に係るはんだを用いた第1の接合方法の例を説明する図である。
【
図5】実施の形態に係るはんだを用いた第2の接合方法の例を説明する図である。
【
図6】
実験例1において作製したサンプルの昇温履歴データを示す図である。
【
図7】
実験例2において作製したサンプルの昇温履歴データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の実施の形態に係るはんだについて説明する。尚、「~」を用いて数値範囲が表される場合、その両端の数値は下限値および上限値として数値範囲に含まれる。
【0020】
1.プリフォームはんだ
プリフォームはんだとは、リボン形状、スクエア形状、ディスク形状、ワッシャー形状、チップ形状、リング形状などの形状に成形されたはんだ、と定義される。プリフォームはんだの厚さは、通常、10~500μmである。本実施の形態に係るはんだは、2層以上の積層構造を有する磁場溶融型のプリフォームはんだである。
図1は、本実施の形態に係るはんだの一例を示す模式図である。
図1に示されるはんだ10は、第1はんだ層11と、第2はんだ層12とを備えている。つまり、はんだ10は、2層構造を有している。
【0021】
第1はんだ層11および第2はんだ層12は、何れもはんだ材料から構成される。はんだ材料は、交流磁場に置かれると、少なくとも渦電流損失により発熱する性質を有するものであれば特に限定されない。「少なくとも渦電流損失」とした理由は、ヒステリシス損失が想定されるためである。はんだ材料が磁性を有する場合、渦電流損失およびヒステリシス損失によりはんだ材料が発熱する。
【0022】
例えば、はんだ10の積層方向に磁場が発生している場合、渦電流損失の原因である渦電流は、第1はんだ層11および第2はんだ層12の表面に近いほど強く生じる。そのため、渦電流損失により発生した熱は、第1はんだ層11の表面から内部に移動し、また、第2はんだ層12の表面から内部に移動する。また、第1はんだ層11と第2はんだ層12は熱的に接触しているので、渦電流損失により発生した熱は、第1はんだ層11と第2はんだ層12の対向面を介しても移動する。故に、はんだ10によれば、単層構造を有するプリフォームはんだに比べて短時間で高温化することが可能となる。
【0023】
はんだ材料としては、二元系合金および三元系以上の多元系合金が例示される。二元系合金としては、Sn-Sb系合金、Sn-Pb系合金、Sn-Cu系合金、Sn-Ag系合金、Sn-Bi系合金、Sn-In系合金などが例示される。多元系合金としては、上述した二元系合金に、Sb、Bi、In、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Fe、Ni、Co、Au、GeおよびPからなる群から選ばれる1種類以上の金属を添加したものが例示される。
【0024】
第1はんだ層11を構成するはんだ材料は、第2はんだ層12を構成するそれと同一の組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。前者の場合は、両者の高い親和性を利用したはんだ付けが可能となる。後者の場合は、はんだ材料の組成または融点(固相線温度または液相線温度をいう。以下同じ。)の差を利用したはんだ付けが可能となる。ただし、後者の場合は、融点の差が所定値以下であることが好ましい。所定値は、はんだ材料の本来の接合機能に支障をきたすことのない温度として、はんだ材料の組成や、はんだ材料による接合の対象に応じて適宜設定される。温度別の二段階接合を目的とする場合、融点の差を所定値よりも大きくしてもよい。
【0025】
本実施の形態に係るはんだが3層以上の積層構造を有する場合、第1はんだ層11と第2はんだ層12の間、または、はんだの最表面に別の層が追加される。別の層を構成するはんだ材料は、第1はんだ層11または第2はんだ層12を構成するはんだ材料と同一でもよいし、異なっていてもよい。少なくとも2層を構成するはんだ材料が異なる場合、上記所定値は、最も高い融点と、最も低い融点との好ましい差として設定される。
【0026】
第1はんだ層11と第2はんだ層12は、公知の手法により接合される。公知の手法としては、圧延クラッド加工が例示される。
【0027】
本実施の形態に係るはんだは、磁性体を含んでいてもよい。
図2および
図3は、本実施の形態に係るはんだが磁性体を含む場合の一例を示す模式図である。
図2に示されるはんだ20、および、
図3に示されるはんだ30は、第1はんだ層11および第2はんだ層12を備えている。つまり、はんだ20および30の積層構造は、
図1に示したはんだ10のそれと同じである。
【0028】
ただし、はんだ20は、第1はんだ層11および第2はんだ層12内の内部に、磁性体21を含んでいる。はんだ30は、第1はんだ層11と第2はんだ層12の間に、磁性体層31を備えている。尚、
図2に示される磁性体21は、第1はんだ層11と第2はんだ層12の一方にのみ含まれていてもよい。また、
図3に示される磁性体層31は、はんだ30の最表面に設けられていてもよい。磁性体層31が、第1はんだ層11と第2はんだ層12の間と、はんだ30の最表面の両方に設けられていてもよい。つまり、磁性体層31の総数は、2つ以上でもよい。
【0029】
磁性体21および磁性体層31は、磁性体材料から構成される。磁性体材料は、交流磁場に置かれると、少なくともヒステリシス損失により発熱する性質を有する。「少なくともヒステリシス損失」とした理由は、渦電流損失が想定されるためである。磁性体材料が導体の場合、ヒステリシス損失および渦電流損失により磁性体材料が発熱する。交流磁場に置かれた磁性体材料は、はんだ材料よりも素早く発熱して高温化する。そのため、はんだ材料が磁性体材料と同一の交流磁場に置かれると、はんだ材料は、周囲の磁性体材料により加熱される。つまり、はんだ材料と磁性体材料が同一の交流磁場に置かれると、はんだ材料が単独で交流磁場に置かれた場合に比べて昇温速度が増加し、短い時間で融点を超えることになる。
【0030】
磁性体材料は特に限定されない。磁性体材料としては、強磁性金属、常磁性金属および反磁性金属から選ばれる1種類の金属が例示される。強磁性金属としては、Ni、Co、Fe、Gd、Tbなどが例示される。常磁性金属としては、Y、Mo、Smなどが例示される。反磁性金属としては、Cu、Zn、Biなどが例示される。磁性体材料としては、上述した金属のうちの少なくとも1種類を含む合金、酸化物または窒化物が例示される。強磁性金属酸化物としては、Fe3O4、γ-Fe2O3、Fe3O4を主成分とするフェライトなどが例示される。常磁性金属酸化物としては、Tb3O4、Sm2O3などが例示される。反磁性金属酸化物としては、CoO、NiO、α-Fe2O3、Cr2O3などが例示される。強磁性金属窒化物としては、Fe3Nが例示される。
【0031】
磁性体材料の磁性は、強くなるほどヒステリシス損失が大きくなる。ヒステリシス損失が大きくなるほど発熱量が多くなることから、磁性体材料の昇温速度が増加する。昇温速度が増加すると、磁性体材料による周囲の加熱が促進される。従って、磁性体材料による加熱を促進する観点からすると、磁性体材料は強磁性を有することが好ましい。具体的に、強磁性金属、その酸化物および窒化物、並びに、強磁性合金、その酸化物および窒化物から選ばれる少なくとも1つが磁性体材料として好ましい。
【0032】
磁性体材料の割合は、0.005~20質量%(wt%)であることが好ましい。この割合は、積層構造の全体を基準として算出される。上限値を20質量%としている理由は、上限値が20質量%よりも大きいと、溶融状態にあるはんだ材料が凝集し難くなり、はんだ材料の本来の接合機能に支障をきたすからである。この接合機能への影響を抑える観点からすると、上限値は、5質量%であることが好ましく、0.9質量%であることがより好ましく、0.5質量%であることが更に好ましい。
【0033】
磁性体層31は、第1はんだ層11または第2はんだ層12の表面に、磁性体材料とバインダの混合物を塗布することにより形成される。バインダは、磁性体層31が第1はんだ層11および第2はんだ層12から分離することを抑制するものであれば特に限定されない。バインダとしては、後述するフラックスが例示される。
【0034】
本実施の形態に係るはんだは、フラックスを含んでいてもよい。本実施の形態に係るはんだがフラックスを含む場合、このフラックスは、はんだの内部に含まれていてもよい。具体的には、
図2に示した磁性体21と同様に、第1はんだ層11および第2はんだ層12の内部に含まれていてもよい。フラックスは、はんだの表面に設けられていてもよい。具体的には、
図3に示した磁性体層31と同様に、第1はんだ層11と第2はんだ層12の間に設けられていてもよい。はんだ30の最表面に設けられていてもよい。
【0035】
フラックスは特に限定されず、一般的なフラックスを使用することができる。フラックスは、樹脂(ベース樹脂)と、溶剤と、各種添加剤とを含む。樹脂としては、ロジン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが例示される。溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、酢酸イソプロピル、安息香酸ブチルなどのエステル類、エチレングリコール、ヘキシルジグリコールなどのグリコールエーテル類などが例示される。各種添加剤としては、活性剤、チキソ剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、腐食防止剤などが例示される。
【0036】
本実施の形態に係るはんだがフラックスを含む場合、積層構造の全体に対するフラックスの割合に特に限定はない。フラックスの割合としては、5~95質量%が例示される。
【0037】
2. プリフォームはんだを用いた接合方法の例
2.1 誘導加熱装置による接合
図4は、本実施の形態に係るはんだを用いた第1の接合方法の例を説明する図である。
図4に示される誘導加熱装置40は、加熱コイル41と、インバータ回路42と、制御回路43と、コンベヤ44と、温度センサ45とを備えている。尚、本実施の形態に係るはんだは、電子部品ECの電極と、プリント基板PBに印刷された電極パターンとを接合するための「はんだSD」として、電子部品ECとプリント基板PBの間に配置されている。電子部品ECとしては、ICチップが例示される。
【0038】
加熱コイル41は、コンベヤ44の背面に設けられる。加熱コイル41は、はんだSDを含む回路基板CBの全体を、誘導加熱により加熱する。インバータ回路42は、交流電源(不図示)からの電力の供給を受けて、加熱コイル41に高周波電流を供給する。制御回路43は、マイクロコンピュータから構成される。制御回路43は、制御回路43に入力される各種信号に基づいて、インバータ回路42の駆動を制御する。各種信号には、駆動要求信号と、回路基板CBの周辺の温度を示す信号と、が含まれる。コンベヤ44は、回路基板CBを搬送する。温度センサ45は、回路基板CBの周辺の温度を検出する。温度センサ45は、画像処理により温度分布の情報を生成してもよい。
【0039】
図4に示される例では、コンベヤ44の駆動により回路基板CBが加熱コイル41の位置まで搬送される。回路基板CBの搬送をこの位置で停止し、駆動要求信号に基づいてインバータ回路42を駆動する。そうすると、回路基板CBの周囲に交流磁場が発生し、少なくとも渦電流損失によりはんだSDを構成するはんだ材料が発熱し、溶融する。終了条件が満たされる場合、インバータ回路42の駆動が停止され、または、コンベヤ44の再駆動により回路基板CBが加熱コイル41の位置の外側まで搬送される。その後、はんだSDが冷やされると、電子部品ECの電極と、電極パターンとが電気的に接続される。尚、終了条件としては、回路基板CBの周囲の温度がはんだSDの融点に到達してから所定時間が経過することが例示される。尚、はんだSDに磁性体材料が含まれる場合、渦電流損失による発熱と、磁性体材料による加熱と、により、はんだSDを構成するはんだ材料が溶融する。
【0040】
2.2 マイクロ波加熱装置による接合
図5は、本実施の形態に係るはんだを用いた第2の接合方法の例を説明する図である。
図5に示されるマイクロ波加熱装置50は、空洞共振器51と、マイクロ波供給装置52と、コンベヤ53と、コントローラ54と、電磁波センサ55と、温度センサ56とを備えている。尚、本実施の形態に係るはんだは、
図4に示した例と同様に、電子部品ECとプリント基板PBの間に配置されている。
【0041】
空洞共振器51は、マイクロ波が照射される円筒型の内部空間を有する。マイクロ波供給装置52は、この内部空間にマイクロ波を特定の定在波として発生させる。特定の定在波としては、TM110と呼ばれる定在波が例示される。コンベヤ53は、回路基板CBが内部空間を通過するように回路基板CBを搬送する。コントローラ54は、各種信号に基づいて、マイクロ波供給装置52から照射するマイクロ波の周波数を調整する。各種信号には、駆動要求信号と、内部空間に発生した定在波の共振状況を示す信号と、回路基板CBの周辺の温度を示す信号と、が含まれる。電磁波センサ55は、定在波の共振状況を検知する。温度センサ56は、回路基板CBの周辺の温度を検出する。温度センサ56は、画像処理により温度分布の情報を生成してもよい。
【0042】
図5に示される例では、駆動要求信号に基づいてコントローラ54がマイクロ波供給装置52を駆動する。コントローラ54は、定在波の共振状況を示す信号に基づいてマイクロ波の発振周波数の目標値(目標周波数)を計算し、マイクロ波供給装置52に出力する。定在波が形成されたことが確認された場合、コンベヤ53が駆動されて回路基板CBが空洞共振器51内の特定の位置まで搬送される。特定の位置としては、内部空間の中心軸の位置が例示される。コントローラ54による目標周波数の計算は、回路基板CBの搬送中、繰り返し行われる。目標周波数の計算が繰り返されることで、電界強度が極めて低く、且つ、磁界強度の高い領域が特定の位置に作り出される。
【0043】
回路基板CBが特定の位置を通過すると、この位置に発生している交流磁場が回路基板CBに作用する。そうすると、少なくとも渦電流損失によりはんだSDを構成するはんだ材料が発熱し、溶融する。終了条件が満たされる場合、マイクロ波供給装置52の駆動が停止され、または、コンベヤ53の再駆動により回路基板CBがマイクロ波供給装置52の外側まで搬送される。その後、はんだSDが冷やされると、電子部品ECの電極と、電極パターンとが電気的に接続される。コントローラ54は、回路基板CBの周辺の温度を示す信号に基づいて、マイクロ波の出力を調整する。例えば、コントローラ54は、回路基板CBの周囲の温度が所定温度に到達したら、出力を低下させる。別の例として、コントローラ54は、回路基板CBの周囲の温度がはんだSDの融点に近づくほど出力を大幅に低下させる。尚、はんだSDに磁性体材料が含まれる場合、渦電流損失による発熱と、磁性体材料による加熱と、により、はんだSDを構成するはんだ材料が溶融する。
【0044】
3.実験例
次に、本発明を実験例に基づいて詳細に説明する。
【0045】
3.1 実験例1
プリフォームはんだ(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-3.0Ag-0.5Cu,融点:217-220℃)から、所定サイズ(縦10mm×横10mm×厚さ0.2mm)のはんだピースを切り出した。次いで、はんだピースの層の数を変えたサンプルEx.1-3と、比較用サンプルとしてのサンプルRe.1-2とを作製した。また、上述したプリフォームはんだとは組成の異なる2種類のプリフォームはんだ(共に千住金属工業株式会社製、組成Sn-5.0Sb,融点:240-243℃、Sn-10Sb,融点:245-266℃)を使用し、サンプルEx.4-5およびRe.3-4を作製した。これらの諸元を表1に示す。
【0046】
【0047】
次いで、サンプルEx.1の表面に黒体スプレーを施し、更に、このサンプルEx.1をポリイミドフィルムに載せてから、円筒型の空洞共振器の中心軸の位置に設置した。この空洞共振器は、
図5で説明した空洞共振器51である。次いで、空洞共振器内にTM110の定在波を形成し、サンプルEx.1を加熱した。マイクロ波の出力は50Wとした。マイクロ波の照射中、サーモカメラを用いてサンプルEx.1の温度Tを計測した。サンプルEx.1と同様の手法により、他のサンプルの温度Tも計測した。これらのサンプルの昇温履歴データを
図6に示す。
【0048】
図6に示されるように、サンプルEx.1-3の昇温速度は全て、サンプルRe.1のそれよりも速くなった。このことから、
はんだピースの層の数を変えたサンプルは、比較用サンプルに比べて昇温速度が上昇することが分かった。また、はんだ層数が増えるほど、昇温速度が上昇することも分かった。
【0049】
3.2 実験例2
サンプルEx.1で説明したはんだピースの一方の表面に黒体スプレーを施し、他方の表面にはエタノールに分散させたNiを、スパチュラを用いて均一な厚みとなるように塗布した。はんだピースの乾燥後、Ni層に別のはんだピースを積層してサンプルEx.6を得た。また、サンプルEx.6と同様の手法により、2つのはんだピースの間にNi層を形成したサンプルEx.7-8を作製した。これらの諸元を表2に示す。
【0050】
【0051】
次いで、サンプルEx.1と同様の手法により、マイクロ波を用いてサンプルEx.6-8を加熱した。これらのサンプルの昇温履歴データを、サンプルRe.1のそれと共に
図7に示す。
【0052】
図7に示されるように、サンプルEx.6-8の昇温速度は全て、サンプルRe.1のそれよりも速くなった。このことから、はんだ層にNi層が積層されたサンプルは、はんだ層単独に比べて昇温速度が上昇することが分かった。また、
図6と
図7を比較すると、2層以上のはんだ層がNi層を有する場合は、そうでない場合に比べて昇温速度が上昇することも分かった。
【0053】
3.3 実験例3
はんだペースト(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-3.0Ag-0.5Cu,融点:217-220℃)および磁性体材料の粉末を擂り鉢にて混合し、サンプルペーストを調製した。次いで、ブレードコート法を用い、ポリイミドフィルム上に所定サイズ(縦1cm×横1cm×厚さ60μm)のサンプルEx.9-17を作製した。これらのサンプルの組成を表3に示す。
【0054】
次いで、サンプルEx.9が形成されたポリイミドフィルムを円筒型の空洞共振器の中心軸の位置に設置した。この空洞共振器は、
図5で説明した空洞共振器51である。次いで、空洞共振器内にTM110の定在波を形成し、サンプルEx.9を加熱した。マイクロ波の出力は50Wとした。マイクロ波の照射中、サーモカメラを用いてサンプルEx.9の温度Tを計測し、温度Tがはんだ材料の融点TMに到達するのに要する時間を計測した。昇温速度は、温度Tの初期計測値と融点TMの差を、計測された所要時間で除すことにより算出した。サンプルEx.9と同様の手法により、サンプルEx.10-17の昇温速度も算出した。
【0055】
比較用サンプルとして、はんだペーストのみを用いて1×1cm3のサイズのサンプルRe.5を作製した。サンプルEx.9-17と同様の手法により、サンプルRe.5の昇温速度を計算した。
【0056】
各サンプルの昇温速度の算出後、サンプルRe.5の昇温速度を基準とする評価を行った。サンプルRe.5の昇温速度よりも昇温速度の速いサンプルを「A」と評価し、サンプルRe.5の昇温速度よりも昇温速度の遅いサンプルを「F」と評価した。評価結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
表3に示されるように、サンプルEx.9-17の昇温速度は全て、サンプルRe.5のそれよりも速くなった。このことから、はんだ材料に磁性体材料を加えたサンプルは、比較用サンプルに比べて昇温速度が上昇することが分かった。また、昇温速度の上昇効果は、磁性体材料の種類に関係なく得られることが分かった。また、磁性体材料の種類に着目したところ、強磁性を有する磁性体材料(Co、Fe3O4、Fe-NiおよびFe3N)は、常磁性または反磁性を有する磁性体材料(Y、Nd2O3、Tb3O4、Sm2O3およびCo3O4)に比べて昇温速度が速く傾向にあることが分かった。
【0059】
3.4 実験例4
はんだペースト(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-58Bi,融点:139℃)、はんだペースト(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-10Sb,融点:245-266℃)および磁性体材料を使用し、サンプルEx.9と同様の手法により、磁性体材料の割合を変えたサンプルEx.18-37を作製した。次いで、最高温度および凝集性の観点から評価を行った。最高温度は、マイクロ波の照射を開始してから5秒の間におけるサンプルの温度の最高値である。最高温度がはんだ材料の融点以上のサンプルを「A」と評価し、そうでないサンプルを「F」と評価した。凝集性の評価は、溶融後のサンプルを目視することにより行った。はんだ材料の凝集が実用上問題ないレベルにあると判断されるサンプルを「A」と評価した。また、はんだ材料の凝集が一定レベル以上認められると判断されるサンプルを「C」と評価し、そうでないサンプルを「F」と評価した。評価結果を表4に示す。
【0060】
【0061】
表4に示されるように、サンプルEx.21-27,31-37の最高温度は、マイクロ波の照射を開始してから5秒の間に融点に到達した。一方、サンプルEx.18-20,28-30の最高温度は、マイクロ波の照射を開始してから5秒の間に融点に到達しなかった。このことから、磁性体材料の割合が低いと、はんだ材料が短時間で溶融し難くなることが分かった。そこで、マイクロ波の出力条件を変えて最高温度を評価したところ、出力を高くすることで最高温度を所望値に調整できることも分かった。そのため、磁性体材料の種類および割合に応じてマイクロ波の出力を調整することが望ましいことも分かった。
【0062】
また、表4に示されるように、サンプルEx.18-25,28-35では、はんだ材料の凝集が実用上問題ないレベルにあると判断された。一方、サンプルEx.26,27,36,37では、はんだ材料の凝集が一定レベル以上にあると判断された。このことから、磁性体材料の割合が5%以下であればはんだ本来の接合機能への影響を抑えながら、昇温速度の上昇効果を得られることが分かった。
【符号の説明】
【0063】
10、20、30、SD はんだ
11 第1はんだ層
12 第2はんだ層
21 磁性体
31 磁性体層
40 誘導加熱装置
41 加熱コイル
42 インバータ回路
43 制御回路
44,53 コンベヤ
45,56 温度センサ
50 マイクロ波加熱装置
51 空洞共振器
52 マイクロ波供給装置
54 コントローラ
55 電磁波センサ
EC 電子部品
PB プリント基板