(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】体内装置からの通信データ量を変更可能なブレインマシンインターフェースシステム、およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
G06F3/01 515
(21)【出願番号】P 2018567508
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004561
(87)【国際公開番号】W WO2018147407
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017023413
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)・平成27年度 国立研究開発法人情報通信研究機構 高度通信・放送研究開発委託研究 大容量体内‐体外無線通信技術及び大規模脳情報処理技術の研究開発とBMIへの応用、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 ・平成27年度 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 脳科学研究戦略推進プログラム BMIを用いた運動・コミュニケーション機能の代替、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】514283526
【氏名又は名称】合同会社SPChange
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】今城 郁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克佳
(72)【発明者】
【氏名】平田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 成司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆文
(72)【発明者】
【氏名】安藤 博士
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 隆嗣
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/041738(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/063377(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/114347(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/164477(WO,A1)
【文献】特開2014-036862(JP,A)
【文献】国際公開第2006/020794(WO,A2)
【文献】松下光次郎,体内埋込型ワイヤレス皮質脳波計測装置の開発,ロボティクス・メカトロニクス講演会 ’12 講演論文集,一般社団法人日本機械学会,2012年05月27日,p.1-4
【文献】松下光次郎,体内埋込型ワイヤレス皮質脳波計測装置の開発,第30回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2012年09月17日,p.1-3
【文献】滝沢 賢一,超多チャネル無線脳マシンインフェースのための超広帯域信号による体内・体外間無線伝送,電子情報通信学会技術研究報告 ,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2013年07月02日,Vol.113 No.117,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に埋め込まれるブレインマシンインターフェースシステムの体内装置であって、
体外装置と無線通信を行なう通信部と、
前記通信部を制御する制御部と、
を備えており、
前記制御部は、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された
前記体外装置に所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応する
第一データを、
リアルタイムでの送信に必要な値よりも低い通信レートで前記通信部に前記体外装置へ送信させ、
前記
第一データの送信が行なわれた後で前記通信部が前記N個よりも少ないM個の電極群を指定する指定信号を
前記体外装置から受信すると、当該M個の電極群を通じて検出された
前記体外装置に前記所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応する
第二データを、前記通信部にリアルタイムで前記体外装置へ送信させる、
体内装置。
【請求項2】
記憶部をさらに備えており、
前記制御部は、前記
第一データの送信に先立ち、前記
第一データを繰り返し前記記憶部に記憶させる、
請求項1に記載の体内装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記
第一データの送信に先立って、前記
第一データの一部を、前記通信部に前記体外装置へ送信させる、
請求項1または2に記載の体内装置。
【請求項4】
生体内に埋め込まれたブレインマシンインターフェースシステムの体内装置の制御方法であって、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された
体外装置に所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応する
第一データを
、リアルタイムでの送信に必要な値よりも低い通信レートで当該体外装置へ無線送信し、
前記
第一データの無線送信が行なわれた後、前記N個よりも少ないM個の電極群を指定する指定信号を
前記体外装置から無線受信し、
前記M個の電極群を通じて検出された
前記体外装置に前記所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応する
第二データを
、リアルタイムで前記体外装置へ無線送信する、
制御方法。
【請求項5】
前記
第一データの送信に先立ち、前記
第一データを、記憶部に繰り返し記憶する、
請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
前記
第一データの一部を、前記
第一データの送信に先立って前記体外装置へ無線送信する、
請求項4または5に記載の制御方法。
【請求項7】
生体内に埋め込まれるブレインマシンインターフェースシステムの体内装置であって、
データ取得部と、
体外装置と無線通信を行なう通信部と、
前記通信部を制御する制御部と、
を備えており、
前記制御部は、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された
前記体外装置に所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応し第一データ量を有する第一データを
、前記データ取得部に取得させ、
前記通信部に前記第一データを
リアルタイムでの送信に必要な値よりも低い通信レートで前記体外装置へ送信させ、
前記送信が行なわれた後で前記通信部が前記第一データ量よりも少ない第二データ量を指定する指定信号を
前記体外装置から受信すると、前記N個の電極群を通じて検出された
前記体外装置に前記所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応し前記第二データ量を有する第二データを、前記データ取得部に取得させ、
前記通信部に前記第二データをリアルタイムで前記体外装置へ送信させる、
体内装置。
【請求項8】
前記データ取得部は、第一サンプリングレートで前記脳波信号をサンプリングすることにより前記第一データを取得し、当該第一サンプリングレートよりも低い第二サンプリングレートで前記脳波信号をサンプリングすることにより前記第二データを取得する、
請求項7に記載の体内装置。
【請求項9】
前記データ取得部は、第一分解能で前記脳波信号をA/D変換することにより前記第一データを取得し、当該第一分解能より低い第二分解能で前記脳波信号をA/D変換することにより前記第二データを取得する、
請求項7または8に記載の体内装置。
【請求項10】
生体内に埋め込まれたブレインマシンインターフェースシステムの体内装置の制御方法であって、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された
体外装置に所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応し第一データ量を有する第一データを取得し、
前記第一データを
、リアルタイムでの送信に必要な値よりも低い通信レートで体外装置へ無線送信し、
前記
第一データの無線送信が行なわれた後、前記第一データ量よりも少ない第二データ量を指定する指定信号を
前記体外装置から無線受信し、
前記N個の電極群を通じて検出された
前記体外装置に前記所定の動作を実行させるための前記生体の脳波信号に対応し前記第二データ量を有する第二データを取得し、
前記第二データを、リアルタイムで前記体外装置へ無線送信する、制御方法。
【請求項11】
第一サンプリングレートで前記脳波信号をサンプリングすることにより前記第一データを取得し、当該第一サンプリングレートよりも低い第二サンプリングレートで前記脳波信号をサンプリングすることにより前記第二データを取得する、
請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
第一分解能で前記脳波信号をA/D変換することにより前記第一データを取得し、当該第一分解能よりも低い第二分解能で前記脳波信号をA/D変換することにより前記第二データを取得する、
請求項10または11に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体内に埋め込まれる体内装置と生体外に配置される体外装置からなるブレインマシンインターフェース(BMI)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
体内装置は信号源としての脳波を取得することにより脳活動を検出し、当該脳活動に応じた信号や当該信号を加工して得られた信号を体外装置へ送信する。体外装置は、体内装置から受信した信号に応じた動作を行なう。特許文献1に記載された体内装置は、生体内に埋め込まれて脳波を検出する複数の電極を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2006/0049957号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳の状態をより正確に把握するためには、脳波を検出するための電極の数(すなわちチャネル数)を増やす必要がある。しかしながら、電極の数が増えるほど、取得された脳波信号に対応するデータを体外装置へリアルタイムで送信するための通信レートを高くする必要が生ずる。通信レートを高めることは、埋め込み型の体内装置に対する設計上の制約となりうる。
【0005】
したがって、通信レートを高めることなく所望のBMI制御を実行可能にすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の要求を満たすための第一の態様は、生体内に埋め込まれるブレインマシンインターフェースシステムの体内装置であって、
体外装置と無線通信を行なう通信部と、
前記通信部を制御する制御部と、
を備えており、
前記制御部は、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応するデータを、前記通信部に前記体外装置へ送信させ、
前記送信が行なわれた後で前記通信部が前記N個よりも少ないM個の電極群を指定する指定信号を受信すると、当該M個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応するデータを、前記通信部にリアルタイムで前記体外装置へ送信させる。
【0007】
上記の要求を満たすための第二の態様は、生体内に埋め込まれたブレインマシンインターフェースシステムの体内装置の制御方法であって、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応するデータを体外装置へ無線送信し、
前記無線送信が行なわれた後、前記N個よりも少ないM個の電極群を指定する指定信号を無線受信し、
前記M個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応するデータをリアルタイムで前記体外装置へ無線送信する。
【0008】
第一の態様と第二の態様に係る構成によれば、まずN個の電極群を通じて取得されたデータが体外装置へ送信される。送信が行なわれるタイミングは、例えば、体外装置のリアルタイムなBMI制御が要求されていない時点とされる。すなわち、できるだけ多くのデータを確実に体外装置へ届けることがデータの伝送速度よりも優先される。したがって、通信部が高いデータ伝送能力を持つ必要はない。
【0009】
多くのデータが体外装置に供給されることにより、所望のBMI制御を行なうために優先されるM個の電極群が正確に特定されうる。また、N個よりも少ないM個の電極群は、通信部のデータ伝送能力に見合うように特定される。したがって、実際にBMI制御が行なわれる段階においては、M個の電極群を通じて取得された脳波信号に対応するデータが、リアルタイムで体外装置へ送信される。これにより、通信レートを高めることなく所望のBMI制御を実行可能にできる。
【0010】
上記の要求を満たすための第三の態様は、生体内に埋め込まれるブレインマシンインターフェースシステムの体内装置であって、
データ取得部と、
体外装置と無線通信を行なう通信部と、
前記通信部を制御する制御部と、
を備えており、
前記制御部は、
N個(Nは2以上)の電極を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応し第一データ量を有する第一データを前記データ取得部に取得させ、
前記通信部に前記第一データを前記体外装置へ送信させ、
前記送信が行なわれた後で前記通信部が前記第一データ量より少ない第二データ量を指定する指定信号を受信すると、前記N個の電極を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応し前記第二データ量を有する第二データを前記データ取得部に取得させ、
前記通信部に前記第二データをリアルタイムで前記体外装置へ送信させる。
【0011】
上記の要求を満たすための第四の態様は、生体内に埋め込まれたブレインマシンインターフェースシステムの体内装置の制御方法であって、
N個(Nは2以上)の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応し第一データ量を有する第一データを取得し、前記第一データを体外装置へ無線送信し、
前記無線送信が行なわれた後、前記第一データ量よりも第二データ量を指定する指定信号を無線受信し、
前記N個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号に対応し前記第二データ量を有する第二データを取得し、前記第二データをリアルタイムで前記体外装置へ無線送信する。
【0012】
第三の態様と第四の態様に係る構成によれば、まずN個の電極群を通じて取得された比較的量の多い第一データ量のデータが体外装置へ送信される。送信が行なわれるタイミングは、例えば、体外装置のリアルタイムなBMI制御が要求されていない時点とされる。すなわち、できるだけ多くのデータを確実に体外装置へ届けることがデータの伝送速度よりも優先される。したがって、通信部が高いデータ伝送能力を持つ必要はない。
【0013】
多くのデータが体外装置に供給されることにより、所望のBMI制御を行なうために必要な第二データ量が正確に特定されうる。また、第一データ量よりも少ない第二データ量は、通信部のデータ伝送能力に見合うように特定される。したがって、実際にBMI制御が行なわれる段階においては、そのままN個の電極群を通じて取得された第二データ量のデータが、リアルタイムで体外装置へ送信される。これにより、通信レートを高めることなく所望のBMI制御を実行可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第一実施形態に係るBMIシステムの機能構成を示す図である。
【
図2】上記BMIシステムの動作を説明するフローチャートである。
【
図3】第二実施形態に係るBMIシステムの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。
【0016】
図1は、第一実施形態に係るBMIシステム100の機能構成を示している。BMIシステム100は、体内装置1と体外装置200を含んでいる。体内装置1は、生体300内(具体的には頭部)に埋め込まれて使用されるように構成されている。体外装置200は、生体300外に配置されて使用されるように構成されている。
【0017】
体内装置1は、N個の電極群2を備えている。以降の説明において、Nは2以上の整数である。N個の電極群2の各々は、生体300の脳における所定の箇所に装着され、当該箇所における脳波信号を取得するように構成されている。
【0018】
体内装置1は、データ取得部3を備えている。データ取得部3は、A/Dコンバータを含んでいる。N個の電極群2を通じて取得される各脳波信号は、アナログ信号である。A/Dコンバータは、当該アナログ信号を所定のサンプリングレートおよび所定の分解能でデジタルデータに変換するように構成されている。
【0019】
サンプリングレートとは、デジタル信号を取得する周波数に対応している。当該周波数が1kHzであれば、1秒分のアナログ信号から1000個のデジタルデータが取得される。分解能は、デジタルデータがとりうる値の数に対応している。分解能が16bitであれば、入力されるアナログ信号の振幅がとりうる値の範囲が16bitに分割され、入力されたアナログ信号の振幅に対して2の16乗個の値の一つが割り当てられる。
【0020】
体内装置1は、通信部5を備えている。通信部5は、データ取得部3および記憶部4と通信可能に接続されている。通信部5は、体外装置200と無線通信を遂行可能に構成されている。通信部5の通信レートは、N個の電極群2を通じて取得されるデジタルデータをリアルタイム送信するために必要な通信レートよりも低く設定されている。
【0021】
体内装置1は、制御部6を備えている。制御部6は、データ取得部3、および通信部5と通信可能に接続されている。制御部6は、データ取得部3、および通信部5の動作を制御可能に構成されている。
【0022】
制御部6は、N個の電極群2を通じて検出された生体300の脳波信号に対応し、データ取得部3により取得されたデジタルデータの全てを、通信部5に体外装置200へ無線送信させるように構成されている。
【0023】
制御部6は、通信部5がN個よりも少ないM個の電極群2aを指定する指定信号を無線受信すると、当該M個の電極群2aを通じて検出された生体300の脳波信号に対応し、データ取得部3により取得されたデジタルデータを、通信部5にリアルタイムで体外装置200へ無線送信させるように構成されている。
【0024】
制御部6の機能は、通信可能に接続されたプロセッサとメモリの協働により実行されるソフトウェア(コンピュータプログラム)により実現されている。プロセッサの例としては、CPU、MPU、GPUなどが挙げられる。メモリの例としては、ROMやRAMが挙げられる。しかしながら、制御部6の機能は、ASICやFPGAなどのハードウェア資源により、またはハードウェア資源とソフトウェアの組合せにより実現されうる。
【0025】
次に、
図2を参照しつつ、このような構成を有する体内装置1の運用方法について説明する。
【0026】
まず、第一の時期において、学習フェーズ(S1)が実施される。例えば、生体300が手を握るという動作を行なうことにより体外装置200に所定の動作を実行させる場合、生体300に学習動作を行なわせる。具体的には、生体300に実際に手を握る動作を行なわせるか、手を握るという動作を想起させる。
【0027】
生体300が学習動作を行なうことにより、生体300の脳内において、当該学習動作に対応する脳波が生じる。当該脳波は、N個の電極群2によりN個の脳波信号として検出される。データ取得部3は、N個の脳波信号に対応するデジタルデータを取得する(S2)。例えば、学習動作が1秒間である場合、その前後1秒間を含めた計3秒間の脳波信号に対応するデジタルデータが取得される。
【0028】
その後、制御部6は、取得した全てのデジタルデータを、通信部5に体外装置200へ送信させる(S4)。送信が行なわれるタイミングとしては、ユーザから送信指示が入力されたとき、所定の時刻、所定の時間間隔などが挙げられる。送信が行なわれるタイミングは、リアルタイムな脳波信号のモニタを必要としないタイミングとして選ばれてもよい。体外装置200は、体内装置1より送信されたデータを受信する(S5)。
【0029】
通信部5から体外装置200へのデータ送信は、通信部5本来の伝送能力、すなわちN個の電極群2を通じて取得されるデータをリアルタイムで体外装置200へ送信するために必要な値よりも低い通信レートで行なわれる。例えば、128個の電極群2を通じて取得された128チャンネルの脳波信号が、サンプリングレート1kHzおよび分解能16bitでデジタルデータに変換された場合、当該データをリアルタイムで体外装置200へ伝送するためには、2Mbps程度の通信レートが必要である(128チャンネル×16bit×1kサンプル/sec=2048kbit/sec=2Mbps)。通信部5の通信レートが0.5Mbpsであれば、上記のようにデータ取得部3によって取得された3秒分の脳波信号に対応するデジタルデータは、12秒をかけて体外装置200へ送信される。
【0030】
体外装置200は、体内装置1より送信された信号を受信し、当該信号に基づく動作を実行する装置と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、体外装置200は、体内装置1より送信された信号を受信し、当該信号に基づく動作を別の外部機器に実行させる制御信号を送信する装置であってもよい。あるいは、体外装置200は、後述する分析を行なうための専用装置であってもよい。
【0031】
体外装置200において受信されたデータは、送信データ量を減らすための分析に供される。実際のBMI制御においては、N個の脳波信号の全てが学習時と同程度の精度で必要とされるわけではない。N個の電極群2は比較的狭い間隔で配置されており、強い相関を有する電極群もあれば、BMI制御に全く関与しない電極も存在する。当該分析においては、実際のBMI制御において優先順位のより高いM個の電極群2a(
図1参照)が特定される(S6)。MはNよりも小さい整数である。Mの値は、BMI制御に必要なデータ量に対応するチャネル数として適宜に選ばれる。
【0032】
第一の時期よりも後の第二の時期において、運用フェーズ(S8)が実施される。当該フェーズにおいては、生体300により体外装置200が実際にBMI制御される。例えば、生体300が手を握ることにより、当該動作に対応する所定の動作が体外装置200により実行される。
【0033】
まず、上記の分析に基づいて選ばれたM個の電極群2aを指定する信号が体外装置200から送信される。当該信号は、体内装置1の通信部5により受信される(S7)。当該信号が通信部5により受信されると、制御部6は、M個の電極群2aを通じて取得されたM個の脳波信号に対応するデジタルデータのみをデータ取得部3が取得するように設定を変更する(S9)。N個の脳波信号を取得してもよいが、選択されたM個に限定すれば消費電力を削減できる。
【0034】
生体300が上記の学習動作と同じ動作を行なうことにより、生体300の脳内において、当該動作に対応する脳波が生じる。よって運用フェーズ(S8)において、データ取得部3は、上記の設定に基づき脳波信号に対応するデジタルデータを取得する(S9)。制御部6は、データ取得部3により取得されたデジタルデータを、通信部5にリアルタイムで体外装置200へ送信させる(S10)。これらのS9およびS10の動作を繰り返しながら(S12)、体外装置200は、通信部5より送信されたデータに基づいて、リアルタイムで所定の動作を実行する(S11)。
【0035】
M個の電極群2aは、所望のBMI制御を遂行可能に選ばれている。また、M個の電極群2aは、それらを通じて取得された脳波信号に対応するデータを通信部5がリアルタイムで送信可能に選ばれている。したがって、生体300の動作に応じた体外装置200のリアルタイムなBMI制御が実現される。
【0036】
上記のような構成を有する体内装置1を用いた運用方法によれば、学習フェーズにおいては、N個の電極群2を通じて取得された比較的量の多いデータが、体外装置200へ送信される。このフェーズにおいては、できるだけ多くのデータを確実に体外装置200へ届けることがデータの伝送速度よりも優先される。すなわち、通信部5が高いデータ伝送能力を持つ必要はない。
【0037】
多くのデータが体外装置200に供給されることにより、所望のBMI制御を行なうために優先されるM個の電極群2aが正確に特定されうる。また、N個よりも少ないM個の電極群2aは、通信部5のデータ伝送能力に見合うように特定される。したがって、運用フェーズにおいては、M個の電極群2aを通じて取得された脳波信号に対応するデータが、リアルタイムで体外装置200へ送信される。これにより、通信レートを高めることなく所望のBMI制御を実行可能にできる。
【0038】
上記の学習フェーズを実施するために、
図1に示されるように、記憶部4を備えている。記憶部4は、データ取得部3と通信可能に接続されている。記憶部4は、データ取得部3により取得されたデジタルデータを記憶可能に構成されている。
【0039】
制御部6は、記憶部4と通信可能に接続されている。
図2に示されるように、制御部6は、上記の送信(S4)に先立ち、データ取得部3により取得されたデジタルデータを記憶部4に記憶させる(S3)。
【0040】
図2に破線の矢印で示されるように、制御部6は、上記S2からS3を経てS4に至るまでの工程を必要に応じて繰り返しうる(S13)。すなわち、学習フェーズにおける分析に必要な所望の脳波信号データが蓄積されるまで、生体300による学習動作、N個の電極群2を通じて取得されたN個の脳波信号に対応するデジタルデータの取得(S2)と記憶(S3)、および当該デジタルデータの体外装置200への送信(S4)が繰り返される。このような構成によれば、通信部5と体外装置200間の通信頻度は増えるものの、記憶部4について大きな容量を確保する必要性が低下する。記憶部を備えることで、任意のタイミングで当該デジタルデータを送信することができるため、通信部は運用フェーズだけではなく学習フェーズでも高いデータ伝送能力を持つ必要がない。よって、学習フェーズにおいても、消費電力の低下および発熱の抑制の効果が見込める。さらに、通信部の面積は、データ伝送能力の高さに従い、大きくなる傾向にあるので、学習と運用の両方のフェーズでのデータ伝送能力を低く抑えることにより、通信部の面積を小さくできる。
【0041】
あるいは、制御部6は、上記の送信(S4)に先立ち、上記S2とS3の工程を必要に応じて繰り返しうる(S14)。すなわち、学習フェーズにおける分析に必要な所望の脳波信号データが蓄積されるまで、生体300による学習動作、およびN個の電極群2を通じて取得されたN個の脳波信号に対応するデジタルデータの取得(S2)と記憶(S3)が繰り返される。その後、記憶部4に蓄積されたデータが、一括して体外装置200へ送信される(S4)。このような構成によれば、通信部5と体外装置200間の通信頻度を低減できる。この運用方法でも、記憶部を備えることで、学習フェーズにおいても通信部は高いデータ伝送能力を持つ必要がないため、消費電力の低下、発熱の抑制、通信部の小型化の効果が見込める。
【0042】
また、N個よりも少ない任意の電極群のデータをリアルタイムで体外装置200へ送信しても良い。例えば、1個の電極のデータをリアルタイムで体外装置200へ送信するのであれば、ある1個の電極に対する学習フェーズにおける分析に必要な所望の脳波信号データが蓄積されるまで、生体300による学習動作、ある1個の電極を通じて取得された1個の脳波信号に対応するデジタルデータの取得(S2)、および当該デジタルデータの体外装置200へのリアルタイム送信(S4)が繰り返され、これをN個の電極について繰り返せば、分析に必要なN個の脳波信号データが取得できる(S5)。このような構成によれば、同じ学習動作を何度も繰り返す必要はあるが、
図1の記憶部4および
図2のS3の工程が不要になる。通信部5の送信能力に応じて、一度に送信する電極データ数を増やせば、学習フェーズの時間を短縮できる。
【0043】
さらに、通信部5がN個の電極群2全てのデータをリアルタイムで体外装置200へ送信可能でも良い。この場合も、
図1の記憶部4および
図2のS3の工程が不要になる。すなわち、学習フェーズにおける分析に必要な所望の脳波信号データが蓄積されるまで、生体300による学習動作、N個の電極群2を通じて取得されたN個の脳波信号に対応するデジタルデータの取得(S2)、および当該デジタルデータの体外装置200へのリアルタイム送信(S4)が繰り返される。学習フェーズ時の消費電力は削減できないが、運用フェーズでは、送信する電極データ数の削減に伴う、消費電力低減の効果が得られる。
【0044】
また、制御部6は、上記の送信(S4)に先立ち、記憶部4に記憶されたデータの一部を、通信部5に体外装置200へ送信させうる(S15)。このような処理は、体内装置1が正常に動作しているかを確認するために行なわれうる。このような処理は、体外装置200からの指令を通信部5が受信することにより行なわれうる。
【0045】
本実施形態においては、制御部6は、学習フェーズにおいてデータ取得部3により取得されたN個の脳波信号に対応するデータの全てが体外装置200へ送信される。しかしながら、必ずしもN個の脳波信号に対応するデータの全てが送信されることを要しない。学習フェーズにおいて送信される脳波信号の個数が、運用フェーズにおいて送信される脳波信号の個数を上回っていればよい。
【0046】
次に、
図3を参照しつつ、第二実施形態に係る体内装置1Aについて説明する。第一実施形態に係る体内装置1と同一または同等の構成要素には同一の参照符号を付与し、重複する説明は省略する。
【0047】
図1に示されるように、体内装置1Aは、制御部6Aを備えている。制御部6Aは、データ取得部3、および通信部5と通信可能に接続されている。制御部6Aは、データ取得部3、および通信部5の動作を制御可能に構成されている。
【0048】
制御部6Aは、N個の電極群2を通じて検出された生体300の脳波信号に対応し、データ取得部3により取得されたデジタルデータの全てを、通信部5に体外装置200へ無線送信させるように構成されている。すなわち、第一データ量のデジタルデータが、体外装置200へ送信される。
【0049】
制御部6Aは、通信部5が第一データ量よりも少ない第二データ量を指定する指定信号を無線受信すると、N個の電極群2を通じて検出された生体300の脳波信号に対応し、第二データ量を有するデジタルデータをデータ取得部3に取得させるように構成されている。
【0050】
具体的には、制御部6Aは、データのサンプリングレートを低下させることにより、取得されるデジタルデータのデータ量を減らす。あるいは、制御部6Aは、データの分解能を低下させることにより、取得されるデジタルデータのデータ量を減らす。取得されるデジタルデータの量を低下させるために、制御部6Aは、サンプリングレートの低下と分解能の低下の双方を行ないうる。分解能の低下の例としては、16bitから8bitへの低下が挙げられる。サンプリングレートと分解能の低下は、ハードウェア処理を通じて行なわれてもよいし、ソフトウェア処理を通じて行なわれてもよい。
【0051】
制御部6Aは、上記のようにして取得されたデジタルデータを、通信部5にリアルタイムで体外装置200へ無線送信させるように構成されている。
【0052】
制御部6Aの機能は、通信可能に接続されたプロセッサとメモリの協働により実行されるソフトウェアにより実現されている。プロセッサの例としては、CPUやMPUが挙げられる。メモリの例としては、RAMが挙げられる。しかしながら、制御部6の機能は、ASICやFPGAなどのハードウェアにより、またはハードウェアとソフトウェアの組合せにより実現されうる。
【0053】
次に、
図3を参照しつつ、このような構成を有する体内装置1Aの運用方法について説明する。
図2に示された運用方法と同一の構成要素には同一の参照符号を付与し、重複する説明は省略する。
【0054】
第一の時期において学習フェーズ(S1)が実施される。生体300により学習動作が行なわれると、生体300の脳内において、当該学習動作に対応する脳波が生じる。当該脳波は、N個の電極群2によりN個の脳波信号として検出される。データ取得部3は、N個の脳波信号に対応する第一データ量のデジタルデータを取得する(S2)。例えば、学習動作が1秒間である場合、その前後1秒間を含めた計3秒間の脳波信号に対応するデジタルデータが取得される。制御部6Aは、当該デジタルデータを記憶部4に記憶させる(S3)。
【0055】
その後、制御部6Aは、取得した全てのデジタルデータを、通信部5に体外装置200へ送信させる(S4)。通信部5から体外装置200へのデータ送信は、通信部5本来の伝送能力、すなわちN個の電極群2を通じて取得されるデータをリアルタイムで体外装置200へ送信するために必要な値よりも低い通信レートで行なわれる。体外装置200は、体内装置1より送信されたデータを受信する(S5)。
【0056】
体外装置200において受信されたデータは、送信データ量を減らすための分析に供される。当該分析においては、通信部5のリアルタイムなデータ伝送能力を上回ることなく、現実的なBMI制御を遂行可能な第二データ量が特定される(S16)。
【0057】
第一の時期よりも後の第二の時期において、運用フェーズ(S8)が実施される。上記の分析に基づいて選ばれた第二データ量を指定する信号が体外装置200から送信される。当該信号は、体内装置1Aの通信部5により受信される(S17)。当該信号が通信部5により受信されると、制御部6Aは、第二データ量のデジタルデータを送信できるように設定を変更する。
【0058】
例えば、制御部6Aは、データのサンプリングレートと分解能の少なくとも一方を低下させる。例えば、N個の電極群2を通じて第一サンプリングレートおよび第一分解能で取得された第一データ量のデジタルデータをリアルタイムで体外装置200へ送信するために必要な通信レートが2Mbpsであり、通信部5のリアルタイムなデータ伝送能力が0.5Mbpsである場合、制御部6Aは、以下のようにして取得されるデジタルデータを第二データ量まで減らすことができる。
・第一サンプリングレートを4分の1の第二サンプリングレートに変更する。
・第一分解能を4分の1の第二分解能に変更する。
・第一サンプリングレートを2分の1の第二サンプリングレートに変更し、第一分解能を2分の1の第二分解能に変更する(送信されるデータ量が4分の1になれば、サンプリングレートの低下量と分解能の低下量の組合せは適宜に定められうる)。
【0059】
なお、ハードウェア処理を通じて第一分解能で取得されたデータを、その後のソフトウェア処理によって第二分解能に変換してもよい。また、電極毎に分解能およびサンプリングレートを変更してもよい。
【0060】
生体300が上記の学習動作と同じ動作を行なうことにより、生体300の脳内において、当該動作に対応する脳波が生じる。データ取得部3は、N個の電極群2を通じて第二データ量のデジタルデータを取得する(S18)。制御部6Aは、データ取得部3により取得されたデジタルデータを、通信部5にリアルタイムで体外装置200へ送信させる(S19)。これらのS18およびS19の動作を繰り返しながら(S12)、体外装置200は、通信部5より送信されたデータに基づいて、リアルタイムで所定の動作を実行する(S11)。
【0061】
第二データ量は、所望のBMI制御を遂行可能に選ばれている。また、第二データ量は、取得されたデジタルデータを通信部5がリアルタイムで送信可能に選ばれている。したがって、生体300の動作に応じた体外装置200のリアルタイムなBMI制御が実現される。
【0062】
上記のような構成を有する体内装置1Aを用いた運用方法によれば、学習フェーズにおいては、N個の電極群2を通じて取得された比較的量の多い第一データ量のデータが記憶部4に一旦記憶される。記憶されたデータは、その後で体外装置200へ送信される。このフェーズにおいては、できるだけ多くのデータを確実に体外装置200へ届けることがデータの伝送速度よりも優先される。すなわち、通信部5が高いデータ伝送能力を持つ必要はない。
【0063】
また、第一実施形態の学習フェーズにおける記憶部4を必要としない運用方法は、第二実施形態にも適用できる。
【0064】
多くのデータが体外装置200に供給されることにより、所望のBMI制御を行なうために必要な第二データ量が正確に特定されうる。また、第二データ量は、通信部5のデータ伝送能力に見合うように特定される。したがって、運用フェーズにおいては、そのままN個の電極群2を通じて取得された脳波信号に対応するデータが、リアルタイムで体外装置200へ送信される。これにより、通信レートを高めることなく所望のBMI制御を実行可能にできる。
【0065】
本実施形態においては、制御部6Aは、学習フェーズにおいてデータ取得部3により取得された第一データ量のデジタルデータの全てが体外装置200へ送信される。しかしながら、必ずしも第一データ量のデジタルデータの全てが送信されることを要しない。学習フェーズにおいて送信されるデータ量が、運用フェーズにおいて送信されるデータ量を上回っていればよい。
【0066】
上記の各実施形態は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の各実施形態に係る構成は、本開示の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。例えば、第一実施形態と第二実施形態とを組み合わせることにより、N個よりも少ないM個の電極群より取得したデータを、サンプリングレートや分解能を低下させ、送信するデータ量をさらに減らしてもよい。
【0067】
本出願の記載の一部を構成するものとして、2017年2月10日に提出された日本国特許出願2017-023413号の内容が援用される。