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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
C08J5/00 CFG
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019517667
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2018017960
(87)【国際公開番号】W WO2018207830
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2017096048
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】522297236
【氏名又は名称】株式会社プロスパイラ
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 正道
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聖香
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】安井 恵
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 克臣
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 勝己
(72)【発明者】
【氏名】石川 真衣
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/084750(WO,A1)
【文献】特開2012-111109(JP,A)
【文献】国際公開第2008/108251(WO,A1)
【文献】特開2012-093662(JP,A)
【文献】特開2017-155129(JP,A)
【文献】特開2017-105865(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035598(WO,A1)
【文献】特開2013-028020(JP,A)
【文献】特開2012-166407(JP,A)
【文献】特開2012-093664(JP,A)
【文献】特開2008-248039(JP,A)
【文献】特開2013-240940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材であって、
上記結晶は、高分子の分子鎖が配向しており、且つ結晶サイズが50nm以下であるポリアミド樹脂の結晶を含むナノ配向結晶であり、
融点が、上記ポリアミド樹脂の平衡融点より38℃低い温度、よりも高温であり、
耐熱温度が、上記ポリアミド樹脂の平衡融点より143℃低い温度、よりも高温であることを特徴とする、ポリアミド樹脂部材。
【請求項2】
ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材であって、
上記結晶は、高分子の分子鎖が配向しており、且つ結晶サイズが50nm以下であるポリアミド樹脂の結晶を含むナノ配向結晶であり、
絶乾燥状態の伸長方向の引張応力が105MPa以上であり、且つ幅方向の引張応力が90MPa以上である、ポリアミド樹脂部材。
【請求項3】
上記ポリアミド樹脂部材が、シート状である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂部材。
【請求項4】
上記結晶が、高分子の分子鎖が伸長方向および伸長方向に対して垂直な方向に配向している、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂部材。
【請求項5】
上記ポリアミド樹脂が、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6I、ポリアミド2Me5T(Meはメチル基)、ポリアミドMXD6、およびポリアミドPXD12、ならびにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合体および/またはブレンドからなる群より選ばれる1種以上のポリアミド樹脂である、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂部材。
【請求項6】
上記ポリアミド樹脂が、ポリアミド66である、請求項1から5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂部材。
【請求項7】
融点が280℃以上であり、耐熱温度が270℃以上である、請求項6に記載のポリアミド樹脂部材。
【請求項8】
ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材を製造する方法であって、
ポリアミド樹脂の過冷却融液を過冷却融液供給機から供給する工程、および
上記供給されたポリアミド樹脂の過冷却融液を挟持ロールに挟んで臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で圧延伸長することにより結晶化させる工程、を含み、
上記圧延伸長に供するポリアミド樹脂の過冷却融液中の水分量が、0.20%未満である 、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材に関する。本発明はまた、ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド66(polyamide6,6、以下「PA66」と称する。)をはじめとするポリアミド樹脂は、熱可塑性エンジニアリングプラスチックに分類される結晶性樹脂であり、優れた機械特性、耐薬品性、耐油性に加え、加工性やリサイクル性をも併せ持つことが知られている。近年では軽量化を目的として、自動車部品の金属代替樹脂化の動きが加速しており、防振ゴム製品においてもエンジンマウントやトルクロッド、アームブッシュ、ステアリングカップリング等において、既にPA66が適用されている例がある。
【0003】
一方で、従来のPA66は、その結晶本来がもつ高性能(機械特性および耐熱性)を十分に発揮できていないという問題点があった。従来のPA66は、折りたたみ鎖結晶(Folded chain crystals, 以下、適宜「FCC」と称する。)と非晶とが交互に積層したラメラ構造、およびラメラ構造が分岐して形成する球晶とで構成されているため、従来のPA66の結晶化度はあまり高くなく、非晶部がPA66の性能を下げてしまうためであると言われている。さらにPA66の非晶部は吸水性があるため、吸水によるPA66の性能低下も更なる欠点となっている。
【0004】
これら欠点を補うべく、従来ではガラス等の繊維とPA66との複合化による補強を行ってきている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
ところで、本発明者の彦坂らは、これまでに、ポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン、およびポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステルについて、ナノ配向結晶(nano oriented crystal, 以下、適宜「NOC」と称する。)を含むシート状またはフィルム状の高分子材料を作製することによって、これらの高分子材料の高性能化を実現することに成功した(例えば、特許文献2および特許文献3を参照のこと。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-117817(公開日28年6月30日)
【文献】国際公開第2010/084750号パンフレット(国際公開日:2010年7月29日)
【文献】国際公開第2016/035598号パンフレット(国際公開日:2016年3月10日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたPA66の複合体では、ガラス等の繊維により複合体の比重が高くなるという問題点がある。さらに、特許文献1に記載されたPA66の複合体をリサイクルするためには、ガラス等の繊維とポリアミド樹脂とを分別する必要があり、リサイクル性が低下するという問題もある。PA66をはじめとするポリアミド樹脂は、防振ゴム製品や、タイヤ、ホース、配管、継手等の技術分野においても用途を拡大していくことが期待されているものの、上記問題点によって、用途の拡大が進んでいないのが現状である。
【0008】
そこで、本発明は、PA66をはじめとするポリアミド樹脂の高性能化(耐熱性、耐久性、機械特性等の向上)を、繊維との複合化に依らない方法で実現することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂の一例としてPA66の融液を臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長しつつ結晶化を行うことによって、PA66のNOCを含むポリアミド樹脂部材を取得することに初めて成功した。そして、当該ポリアミド樹脂部材では、従来のPA66製品に比して、高い耐熱温度(T≒278℃)と高い融点(T≒282℃)とを備え、さらに低い吸水性を備えるものであることを見出した。また、当該ポリアミド樹脂部材は、高い引張応力を有することを見出した。そして、これらの知見を基に、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の一態様は、以下を包含する。
<1>ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材であって、
上記結晶は、高分子の分子鎖が配向しており、且つ結晶サイズが50nm以下であるポリアミド樹脂の結晶を含むナノ配向結晶であり、
融点が、上記ポリアミド樹脂の平衡融点より38℃低い温度、よりも高温であり、
耐熱温度が、上記ポリアミド樹脂の平衡融点より143℃低い温度、よりも高温であることを特徴とする、ポリアミド樹脂部材。
<2>ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材であって、
上記結晶は、高分子の分子鎖が配向しており、且つ結晶サイズが50nm以下であるポリアミド樹脂の結晶を含むナノ配向結晶であり、
絶乾燥状態の伸長方向の引張応力が105MPa以上であり、且つ幅方向の引張応力が90MPa以上である、ポリアミド樹脂部材。
<3>上記ポリアミド樹脂部材が、シート状である、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂部材。
<4>上記結晶が、高分子の分子鎖が伸長方向および伸長方向に対して垂直な方向に配向している、<1>から<3>のいずれかに記載のポリアミド樹脂部材。
<5>上記ポリアミド樹脂が、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6I、ポリアミド2Me5T(Meはメチル基)、ポリアミドMXD6、およびポリアミドPXD12、ならびにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合体および/またはブレンドからなる群より選ばれる1種以上のポリアミド樹脂である、<1>から<4>のいずれかに記載のポリアミド樹脂部材
<6>上記ポリアミド樹脂が、ポリアミド66である、<1>から<5>のいずれかに記載のポリアミド樹脂部材。
<7>融点が280℃以上であり、耐熱温度が270℃以上である、<6>に記載のポリアミド樹脂部材。
<8>ポリアミド樹脂の結晶を含むポリアミド樹脂部材を製造する方法であって、
ポリアミド樹脂の過冷却融液を過冷却融液供給機から供給する工程、および
上記供給されたポリアミド樹脂の過冷却融液を挟持ロールに挟んで臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で圧延伸長することにより結晶化させる工程、を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るポリアミド樹脂部材は、従来のポリアミド樹脂製品に比して、高い耐熱性、高い融点、高い引張応力、および低い吸水性を備えている。それゆえ、本発明の一態様によれば、ポリアミド樹脂の高性能化(耐熱性、耐久性、機械特性等の向上)を、繊維との複合化に依らない方法で実現することが可能となる。このため、PA66をはじめとするポリアミド樹脂を、防振ゴム製品、タイヤ、ホース、配管、継手等の技術分野において利用することが可能となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に係る試料(表2のサンプル1)の偏光顕微鏡像(through方向からの観察結果)である。
図2】実施例に係る試料(表2のサンプル2)の小角X線散乱イメージであり、(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
図3】実施例に係る試料(表2のサンプル3)の小角X線散乱イメージであり、(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
図4】実施例に係る試料(表2のサンプル2)の広角X線散乱イメージであり、(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
図5】実施例に係る試料(表2のサンプル3)の広角X線散乱イメージであり、(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
図6】実施例に係る試料(表2のサンプル4)の偏光顕微鏡像(through方向からの観察結果)である。
図7】比較例に係る試料(表2のサンプル5)の偏光顕微鏡像(through方向からの観察結果)である。
図8】実施例に係る試料(表2のサンプル6)について耐熱温度を検討した結果を示すプロット図である。
図9】実施例に係る試料(表2のサンプル2)を構成するNOCの構造を示す模式図である。
図10】比較例に係る試料(表2のサンプル7)の偏光顕微鏡像(through方向からの観察結果)である。
図11】実施例に係る試料(表2のサンプル8)について結晶構造(Unit cell Structure)を解析した結果である。
図12】実施例に係る試料の作製に用いられたロール圧延伸長結晶化装置の模式図である。
図13】引張試験で用いられる試料の試験片形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0013】
なお、本明細書において、範囲を示す「~」は特記しない限り「以上、以下」を示す。例えば「A~B」と表記すれば、「A以上、B以下」を意味する。
【0014】
本発明の一実施形態において、高い耐熱温度、高い融点、および低い吸水性を備えたポリアミドの結晶を含むポリアミド樹脂部材を提供する。ポリアミド樹脂部材の形状は、特に限定されることなく、例えば、シート状、紐状(ロープ状)、筒状、板状、バルク状(塊状)の他、各種の成型加工によって得られる任意の形状が挙げられる。
【0015】
以下、ポリアミド樹脂部材の代表例として、シート状のポリアミド樹脂部材(以下、「ポリアミド樹脂シート」という)について説明するが、本発明はこれに限定されることなく、他の形状のポリアミド樹脂部材も本発明の範囲に包含される。
【0016】
(1)本発明のポリアミド樹脂シート
本発明の一実施形態に係るポリアミド樹脂シート(以下、「本発明のポリアミド樹脂シート」という。)は、高い耐熱温度、高い融点、および低い吸水性を備えたポリアミドの結晶を含むポリアミド樹脂シートに関する。上記「ポリアミド樹脂シート」とは、平均厚みが0.15mm以上のシート状のポリアミド樹脂のみならず、平均厚みが0.15mm未満のフィルム状のポリアミド樹脂をも含む意味である。なお、上記平均厚みは特に制限されず、用いる目的に応じて適宜押出量などで調整すればよい。具体的な厚みは1μm~10mmの範囲、さらに2μm~5mm、特に3μm~1mmの範囲が好ましく挙げられる。ここで上記「厚み」とは、一定の静的荷重の下で測定した、高分子シートの片方の面ともう一つの面との距離をいう。また「平均厚み」とは高分子シートの厚みの最大値と最小値との平均値を意味する。なお高分子シートの厚みは、マイクロメーターを用いる、または光学式実体顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZX10-3141)と対物マイクロメーターで校正したスケールを用いることによって測定され得る。
【0017】
上記「ポリアミド」は、多数のモノマーがアミド結合により結合して形成されたポリマーを意味する。本発明におけるポリアミドは、例えば、ωアミノ酸の重縮合反応や、ジアミンとジカルボン酸との共縮重合反応等により作製することができる。なお、本発明におけるポリアミドは、ホモポリマーのみならず、コポリマーであってもよい。
【0018】
本発明におけるポリアミドとしては特に限定されるものではないが、例えば、PA4、PA6、PA46、PA66、PA610、PA612、PA6T、PA9T、PA6I、PA2Me5T(Meはメチル基)、PAMXD6、およびPAPXD12、ならびにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合体および/またはブレンドからなる群より選ばれる1種以上のポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも、PA66、PA6が好ましく、特にポリアミド66が好ましい。なお、上記「PA」は、「ポリアミド」を示す。
【0019】
本発明のポリアミド樹脂シートは、高い耐熱温度を備えている。ここで、「耐熱温度」とは、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した耐熱温度を意味する。上記「試験片サイズ直読法」は、CCDカメラ付光学顕微鏡(オリンパス株式会社製BX51N-33P-OC)と、ホットステージ(Linkam社製、L-600A)と、画面上のサイズを定量できる画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image-Pro PLUS)とを用いて実施される。試験片のサイズは、たて0.7mm、よこ0.5mmの試験片を用いた。試験片を昇温速度1K/分で加熱し、その時、試験片がたて方向(MD)またはよこ方向(TD)に3%以上ひずみ(収縮または膨張)が生じたときの温度を耐熱温度とした。なお、融点に至るまで、たて方向(MD)またはよこ方向(TD)に3%以上ひずみ(収縮または膨張)が観察されない場合は、融点を耐熱温度とした。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂シートの耐熱温度は、上記ポリアミドの平衡融点より143℃低い温度(より好ましくは平衡融点より100℃低い温度、さらに好ましくは平衡融点よりも50℃低い温度)よりも高温であることを特徴としている。例えば、PA66の平衡融点は約303℃(参考文献:S.S.Lee & P.J.Phillips, Euro. Polymer J., 43, 1933(2007))であることが知られているから、本発明のポリアミド樹脂シートがPA66の場合、耐熱温度は160℃(=303℃-143℃)よりも高温であるといえる。本発明のポリアミド樹脂シートの耐熱温度は、当該ポリアミドを構成する樹脂にもよるが、170℃以上(より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上、最も好ましくは270℃以上)であることが好ましい。PA66で比較すると、従来公知のPA66のシートの耐熱温度が160℃程度であり、本発明のポリアミド樹脂シートの耐熱性(実施例では278℃)が顕著に高いことは一目瞭然である。
【0021】
また、本発明のポリアミド樹脂シートは高い耐熱性に加え、融点も高くなっている。つまり、本発明に係るポリアミド樹脂シートの融点は、上記ポリアミドの平衡融点より38℃低い温度(より好ましくは平衡融点より35℃低い温度、さらに好ましくは平衡融点よりも30℃低い温度)よりも高温であることが好ましい。例えば、PA66の平衡融点は約303℃(参考文献:S.S.Lee & P.J.Phillips, Euro. Polymer J., 43, 1933(2007))であることが知られているから、本発明のポリアミド樹脂シートがPA66の場合、融点は265℃(=303℃-38℃)よりも高温であるといえる。本発明のポリアミド樹脂シートの融点は、例えばPA66では270℃以上(より好ましくは275℃以上、さらに好ましくは280℃以上)であることが好ましい。PA66自体の融点が265℃であることと比較すると、本発明のポリアミド樹脂シートの融点が顕著に高いことが理解される。後述する実施例に係る試料(PA66樹脂シート)の融点が282℃となっており、PA66の融点よりも、融点が顕著に上昇していることは、従来技術に対して有利な効果であるといえる。
【0022】
ここで、平衡融点(T 0)とは、高分子の分子鎖(以下、適宜「高分子鎖」ともいう。)が伸びきった状態で結晶化した巨視的サイズの完全結晶の融点を意味し、下記で算出される。
0=ΔH÷ΔS、ΔH:融解エンタルピー、ΔS:融解エントロピー
一方、融点とは結晶が融液に変わるときの温度Tである。
【0023】
なお、ポリアミドの平衡融点は、文献により公知となっており、例えば、PA66の平衡融点は約303℃(参考文献:S.S.Lee & P.J.Phillips, Euro. Polymer J., 43, 1933(2007))、PA6の平衡融点は約278℃(参考文献:S.Fakirov, N.Avramova, J. Polym. Sci.C, 20, 635(1982))、PA46の平衡融点は307℃(参考文献:Q.Zhang, Z.Zhang, H.Zhang, Z.Mo, J Polym Sci Polym Phys, 40, 1784(2002))である。
【0024】
さらに、本発明のポリアミド樹脂シートは高い耐熱性および高い融点に加え、低い吸水性を備えている。ポリアミド樹脂シートの吸水性(吸水率)の測定は、例えば、後述する実施例に記載のカールフィッシャー法により測定することができる。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂シートは、ポリアミド樹脂のナノ配向結晶(nano-oriented crystal,NOC)を含むものである。ここで、NOCは、結晶サイズが50nm以下であり、かつ高分子鎖が伸長方向(machine direction, MD)に配向したポリアミドの結晶(ナノ結晶(nano crystal,NC)ともいう。)を含むものである。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂シートは、高い耐熱性が要求されるため、NOCを主体として含んでいることが好ましい。例えば、本発明のポリアミド樹脂シートは、ポリアミドのNOCを60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)含むものであることが好ましい。ポリアミド樹脂シート中に含まれるNOCの割合(NOC分率)は、X線回析法によって算出することができる。NOCは高配向であり、非NOCは等方的であるため、X線散乱の強度比からNOC分率を算出することができる。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂シートは、上述のように、NOCを包含することにより、従来のポリアミド樹脂シートに比べて、低い吸水性を有する(後述する実施例を参照のこと。)。このようにNOCを包含することにより、ポリアミド樹脂シートが低吸水性となることは、従来の技術からは到底予測できない本発明の顕著な効果である。このような効果を有するが故に、本発明のポリアミド樹脂シートは、吸水によりポリアミド樹脂シートの性能が低下するのを抑制することが可能となる。
【0028】
ポリアミド樹脂シートを構成するNOCに含まれるNCの高分子鎖や、NOCを構成するNC自体が配向しているかどうかは、偏光顕微鏡による観察や、公知のX線回析(小角X線散乱法、広角X線散乱法)により確認することができる。偏光顕微鏡観察やX線回析(小角X線散乱法、広角X線散乱法)の具体的方法については、後述する実施例が適宜参照される。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂シートに含まれるNOCの結晶サイズは、50nm以下(好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下)である。ここで、NOCの結晶サイズは、公知の小角X線散乱法(以下「SAXS法」という。)により求めることができる。なお、NOCの結晶サイズの下限は特に制限されないが、3nm以上(好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、さらに好ましくは10nm以上)が融点の観点から好ましい。SAXS法における、散乱ベクトル(q)-小角X線散乱強度(I)曲線の1次のピークは、NOC分率が大きい場合には、平均サイズdの微結晶がランダムにお互いに詰まっている場合の微結晶間最近接距離(=結晶サイズd)に相当するため(参考文献:A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p513、1967)、結晶サイズdは下記のBraggの式から求められる。
Braggの式: d=2π÷q
なお、後述する実施例に係るポリアミド樹脂シートに含まれるNOCを構成するNCの結晶サイズは、図9に示すように伸長方向(MD)に約11nm、シートの幅方向(TD)に約18nm、およびシート厚さ方向(Normal direction:ND)に約11nmであるということが分かった(図9ではMDおよびNDのみ示す)。TDのサイズは、2点像の広がりを解析して得た。NOCを構成するNCのごとく紡錘状の結晶の結晶サイズは、MD、TD、NDのサイズを測定し、最も大きいサイズを結晶サイズとすればよい。つまり、図9に示すNOCの結晶サイズは、約18nmであるといえる。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂シートを構成するNOCの構造を、偏光顕微鏡とX線回析の結果から推定した。図9に実施例で得られたPA66のNOCの構造モデルを示す。実施例で得られたポリアミド樹脂シートを構成するNOCは、紡錘状の結晶(NC)が伸長方向(MD)に沿って数珠状に連なったような構造であるということが分かった。紡錘状とは、紡錘に似た形状を意味し、円柱状で真中が太く、両端が次第に細くなるような形状を意味する。またはラグビーボールにも似た形状であるため、「紡錘状」は「ラグビーボール状」とも表現できる。
【0031】
さらに、本発明のポリアミド樹脂シートに含まれるNOCは、高分子の分子鎖が伸長方向(すなわちMD)および伸長方向に対して垂直な方向(すなわちND)に配向している。つまり、本発明のポリアミド樹脂シートは、NOCに含まれるNCと、NCに含まれる高分子鎖とは、おおよそMDの方向に高配向していると同時に、さらにNDの方向にも配向していることが分かった。このように、MDおよびNDの二重の方向に配向することは、本発明のポリアミド樹脂シートの特徴的構造である。このように二重の方向に配向することにより、本発明のポリアミド樹脂シートは、MD方向のみならず、ND方向にも高い機械的強度を示すという効果を有する。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂シートにおいて、NOCに含まれるNCと、NCに含まれる高分子鎖とが、MDおよびNDの二重の方向に配向することは、驚くべきことである。これは、MDへの配向は従来のNOC生成メカニズム(Okada, K. et al. Polymer J., 45, 70 (2013))により説明が可能であるが、NDへの配向を説明する理論が存在しなかったことによる。
【0033】
そこで、本発明者らは、NDへの配向を示す理由を以下のように推論する(「H-bond cluster model」と称する)。
【0034】
すなわち、PA66の融液においても、H-bond clusterが生成消滅している(K. Tashiro, Private communication)。PAのα晶には、H-bondの面内数密度が最大である、(001)に平行な“平板状H-bond面(以下、「H-bond面」と称する。)”が存在する(参考文献:Bunn, C. W. & Garner, E. V. Proc. Royal Soc. London, A(189), 39 (1947))。高分子鎖はH-bond面を貫通している(同上)。貫通角度はunit cellのα,βで決まるが、第0次近似では垂直と見做せる(同上)。PA66のmelt中で優勢なH-bond clusterは、H-bond面が微細化した平板状であると仮定すると、rollで圧延伸長した場合、H-bond cluster面は平板状なので、流体力学の予言により、roll面に平行配列する(参考文献:巽友正, 流体力学, P.171 (東京, 培風館, 1982))。ただし、melt中では熱揺らぎのためにH-bond cluster面や貫通高分子鎖の角度はかなり揺らいでいる。よって、H-bond cluster面の法線ベクトルと貫通高分子鎖は(第0次近似として)NDに配向する。配向したH-bond clusterと貫通高分子鎖はembryo(核の前駆体)と見做せるので、核生成が加速されて、ND配向したNOCが生成すると考えられる。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂シートの絶乾燥状態での引張応力は、好ましくは伸長方向で105MPa以上および幅方向で90MPa以上であり、より好ましくは伸長方向で110MPa以上および幅方向で95MPa以上であり、さらに好ましくは伸長方向で115MPa以上および幅方向で100MPa以上である。絶乾燥状態での引張応力の値が上記の範囲内であると、従来であればガラス等の無機充填材で強化されたポリアミドを用いる用途への非強化ポリアミドの適用が可能となり、低比重性、耐摩耗性、柔軟性、リサイクル性等を向上させることができるため、防振ゴム製品や、タイヤ、ホース、配管、継手等への用途展開が期待できるという利点を有する。
【0036】
絶乾燥状態での引張応力は、目的とする用途において、製品が変形、破壊等の不具合を起こすかどうかの判断基準を示すパラメータである。なお、絶乾燥状態での引張応力は、JIS7127(ISO527-3)に準じた方法により測定される。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂シートに含まれるNOCは、好ましくはα晶の結晶構造(Unit cell Structure)を有する。本発明のポリアミド樹脂シートに含まれるNOCがこのような結晶構造を有することが、本発明のポリアミド樹脂シートを最安定化させ、その結果として、高い耐熱性および融点を達成する一因であると考えられる。また、本発明のポリアミド樹脂シートに含まれるNOCの上記結晶構造と高い結晶性により、吸水によるポリアミド樹脂シートの性能低下が抑制されることが予測される。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂シートは、優れた耐熱性を有することから、例えば、200℃を超えるような、高温での加工処理に供される高温加工用ポリアミド樹脂シートとして好適に使用できる。例えば、ポリアミド樹脂シートを用いたフィルムインサートにおいて、本発明のポリアミド樹脂シートは、従来品(非NOC)よりも高い温度でインサート成型ができるため、選択できる樹脂材料の幅が広がるという利点を有する。
【0039】
(2)本発明のポリアミド樹脂シートの製造方法
本発明のポリアミド樹脂シートの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、下記のようにして製造することができる。なお、下記の製造方法は、融液状態のポリアミドを圧延伸長して結晶化(固化)を行う方法であり、一旦固化したポリアミド樹脂シートを圧延伸長して延伸シートを作製する方法とは全く異なる方法である。
【0040】
図12に本発明のポリアミド樹脂シートを製造するための装置(ロール圧延伸長結晶化装置10)の概略図を示す。ロール圧延伸長結晶化装置10は、過冷却融液供給機(ポリアミドを融解し、ポリアミドの融液を供給する押出機2aと、押出機2aからの融液を過冷却状態に冷却する冷却アダプター2bとを備える。)および挟持ロール3から構成されている。上記過冷却融液供給機において、押出機2aの吐出口にスリットダイ(図示せず)が設けられており、当該スリットダイの先端の形状は方形となっている。このスリットダイから吐出されたポリアミド融液は、冷却アダプター2b内を通過する際に過冷却状態になるまで冷却され(過冷却状態の融液を「過冷却融液」という)、過冷却融液が挟持ロール3に向かって吐出される。平衡融点と結晶化温度の差を「過冷却度ΔT」と定義すると、特に最適な過冷却度は、高分子の種類とキャラクタリゼーションにより著しく異なるために特に限定されるものではない。ポリアミドの場合は例えばΔT=13~58℃(より好ましくは23~55℃、さらに好ましくは38~53℃)が好ましい。
【0041】
上記挟持ロール3は、回転可能な対のロールが対向するように備えられており、過冷却融液供給機から供給された過冷却融液1を挟み、ロールの回転方向に伸長し、シート状に成形することができるようになっている。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂シートを製造する場合、過冷却融液1を過冷却融液供給機から供給し、挟持ロール3に挟んで臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で圧延伸長することによって結晶化させればよい。そうすることによって、過冷却融液1が配向融液となり、その状態を維持したまま結晶化させることができ、配向融液に含まれる分子鎖同士が会合して異物の助けを借りずに核生成(「均一核生成」という)および成長が起こることによってNOCが生成し、本発明のポリアミド樹脂シートを製造することができる。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂シートの製造方法は、圧延伸長に供する試料中の水分を少なくしておくことが好ましい。後述する実施例で示すように、試料中の水分量が多い場合(例えば、0.20%以上の場合)、過冷却融液供給機から供給された過冷却融液が水蒸気により発泡し、本発明のポリアミド樹脂シートは作製できないからである。試料中の水分量は、本発明のポリアミド樹脂シートの製造が可能な程度の水分量であれば特に限定されないが、0.20%未満が好ましく、0.15%未満がより好ましく、0.10%未満がさらに好ましい。
【0044】
このように、本発明のポリアミド樹脂シートの製造方法は、水分量が少ない(例えば、0.2%未満)である試料を圧延伸長に供するという点で、国際公開第2010/084750号および国際公開第2016/035598号に記載の方法とは異なる。
【0045】
以下、図12に示すロール圧延伸長結晶化装置10を用いて本発明のポリアミド樹脂シートの製造方法をさらに詳細に説明する。図12において、挟持ロール3による圧延伸長開始(A)から、圧延伸長終了(B)までの間の領域(以下「領域AB」という)に着目する。ロール圧延伸長結晶化装置10の挟持ロール3の半径をR、挟持ロール3の角速度ω、挟持ロール3の回転する角度をθ、領域ABの任意の場所における過冷却融液の厚みをL、圧延伸長終了後のB点におけるポリアミド樹脂シートの厚みをL、挟持ロールにおけるシート引取速度をV、伸長ひずみ速度をεとする。領域ABにおけるロール回転角θは非常に小さい。
θ<<1(rad)・・・(1)
ロールの半径Rは、シートの厚さLやLよりも非常に大きい。
R>>L,L・・・(2)
領域ABの任意の場所における微小体積Φについて、微小体積の中心を原点にとって考える。過冷却融液およびポリアミド樹脂シートが移動する方向(MD)をx軸、過冷却融液シートの巾の方向(TD)をy軸、過冷却融液シートの厚さ方向をz軸にとる。微小体積Φを直方体で近似して、直方体の各辺の長さをx,y,Lとする。
シート成形においては、過冷却融液シートの巾つまりyは、x,Lよりも十分大きく、圧延伸長により変化しないと見なせる。
y=const>>x,L・・・(3)
よって、挟持ロールによる圧延伸長過程において、過冷却融液シートはz軸方向に圧縮され、x軸方向に伸長される。つまり、挟持ロールによる圧延伸長は、x軸とz軸にのみ関与する。
ここで、x軸方向における伸長ひずみ速度テンソルをεxx、z軸方向における伸長ひずみ速度テンソルをεzzとすれば、両者の関係は、
εxx=-εzz・・・(5)
で与えられる。
【0046】
(5)式の導出において、
圧延伸長における微小体積Φに関する質量保存則、
Φ≒xyL=const・・・(4)
を用いた。
図12の領域ABのz軸方向におけるひずみ速度εzzは定義式から、
εzz≡(1/L)×(dL/dt)・・・(6)
で与えられる。ただし、tは時間である。
ここで、
=2R(1-cosθ)+L・・・(7)
であるので、(6)式と(7)式、および(1)式から、
εzz≒-2ω√{(R/L)×(1-L/L)}・・・(8)
が近似的に得られる。
【0047】
(5)式と(8)式から、求めるべき伸長ひずみ速度
εxx≒2ω√{(R/L)×(1-L/L)}・・・(9)
が得られる。
εxxは(9)式からLの関数である。
εxxはL=2L・・・(10)
で極大値を持つ。これは、L=2Lでεxxが最大となり、過冷却融液に対して最大の伸長ひずみ速度がかかることを意味する。
極大値の伸長ひずみ速度をεmaxと書くと、
(9)式に(10)式を代入して、
εmax≒ω√(R/L)・・・(11)
ここで超臨界伸長ひずみ速度において成形するためには、εmaxが臨界伸長ひずみ速度ε以上であることが条件である。
よって(11)式を伸長ひずみ速度εと定義し、
【数1】
となる。
V=Rω・・・(13)
ω(R,V)=V/R・・・(14)
上記式(12)および(14)から、
【数2】
である。
【0048】
したがって、上記式(15)を用いて、伸長ひずみ速度ε(R,L,V)が臨界伸長ひずみ速度以上となるように、挟持ロールの半径R、伸長後の高分子シートの平均厚みL、および挟持ロールにおけるシート引取速度Vを設定すれば、所望の本発明のポリアミド樹脂シートが製造されることになる。
【0049】
ここで上記臨界伸長ひずみ速度ε*(R,L,V)は、いかなる方法によって決定された速度であってもよいが、例えば、下記の近似式(式i)を用いて算出されるものであってもよい。
【0050】
(式i)
【数3】
ここで上記臨界点のシート引取速度Vは、過冷却状態のポリアミド融液を供給し、半径がRである一対の挟持ロールに挟んで当該ポリアミド融液をシート引取速度Vで圧延伸長することにより、厚さLのポリアミド樹脂シートへと結晶化させた際にNOCが生成する臨界点のシート引取速度Vである。
【0051】
また本発明のポリアミド樹脂シートの製造方法において、上記臨界伸長ひずみ速度ε*(R,L,V)は、下記の近似式(式ii)を用いて算出されるものであってもよい。
【0052】
(式ii)
【数4】
ここで上記臨界点のポリアミド樹脂シートの厚さLは、過冷却状態のポリアミド融液を供給し、半径がRである一対の挟持ロールに挟んで当該ポリアミド融液をシート引取速度Vで圧延伸長することにより、厚さLのポリアミド樹脂シートへと結晶化させた際にNOCが生成する臨界点のポリアミド樹脂シートの厚さLである。
【0053】
なおNOCが生成したかどうかの判断は、特に限定されるものではないが、例えば後述する実施例において説明するX線回析法によって判断することができる。
【0054】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0055】
本実施例においてはポリアミド樹脂の一例としてPA66を用いて実験を行ったが、当業者であれば本実施例を参酌すれば、PA66以外のポリアミド樹脂においても同様にNOCが形成することができると理解する。
【0056】
(1)実施例および比較例に係る試料の調製
本実施例および比較例においては、表1に示すPA66が試料の材料として用いられた。
【0057】
【表1】
表1中の「M」は数平均分子量、「M」は重量平均分子量、「M/M」は分散指数をそれぞれ表す。ポリアミドのM、M、M/Mは、東ソー製HLC-8320GPCを用いて測定された。カラムにはTSK-gel GMHHR-M×2を40℃で使用し、ポリアミドの溶媒としてクロロホルムとHFIP(ヘキサフルオロイソプロピルアルコール)との1:1混合溶媒を使用した。なお、PA66の平衡融点は、約303℃であった。
【0058】
図12に模式的に示すロール圧延伸長結晶化装置を用い、表1に示す各PA66の伸長結晶化を行った。伸長結晶化の条件は表2に記載の通りである。
【0059】
【表2】
表2中の「最高温度(Tmax)/℃」はPA66を押出成形機のヒーターで融解し、PA66融液を調製する際の押出機の設定温度を表す。また表2中の「融液の温度(Tmelt)/℃」は、PA66融液をロールにて圧延伸長する際のロールの表面温度(≒PA66融液の温度)を表す。また表2中の「伸長ひずみ速度(ε)/s-1」は、PA66融液をロールにて圧延伸長する際の伸長ひずみ速度を表す。また表2中の「試料厚さLobs/mm」は、伸長結晶化によって得られた試料の厚さを表す。
【0060】
前処理番号は、マテリアルを前処理として脱水または吸水したものを分類した番号であり、具体的には、以下を示す。
・前処理番号D(工場出荷品):工場出荷品25kgを開封後に、アルミ製の袋に3kg/袋ずつ小分けして封止した。
・前処理番号A(真空脱水品):工場出荷品25kgを開封後に、rotary pump(RP)で真空(0.1Pa)排気しながら100℃にて24時間脱水。ヒーターoff後、真空排気しながら70℃まで降温。真空をリーク後、アルミ製の袋に3kg/袋ずつ小分けし、窒素ガスでパージしつつ封止した。
・前処理番号E(オーブン加熱品):工場出荷品を開封後に、ペレットをステンレス・バットに5kgずつ小分けして、オーブンで120℃で3時間乾燥させた後、オーブンから取り出して直ちに高温状態で押出機に供給した。
【0061】
また表2のサンプル1、2、4~6、9および10はグレードIのマテリアルを用いて作製された試料であり、サンプル3、7および8はグレードIIのマテリアルを用いて作製された試料である。なお、グレードIおよびグレードIIは、それぞれ表1に記載の分子量に対応する。
【0062】
また、吸水率の測定は、京都電子製カールフィッシャー電量滴定装置MKC-610、CHK=501を用いて、簡潔には以下の条件で行った。
・測定試薬:陽極 アクアミクロン AX(三菱化学製)、陰極 アクアミクロン CXU(三菱化学製)
・測定温度:185℃ サンプラーパージ 0秒、セルパージ 60秒
・相対ドリフト値:0.2μg/sec
・安定判断値:0.1μg/min
・終点電位:200mV
(2)偏光顕微鏡観察
上記で得られた各試料について、偏光顕微鏡観察を行った。偏光顕微鏡は、オリンパス(株)製BX51N-33P-OCを用い、クロスニコルで観察を行った。レタデーション変化を定量的に測定するために、鋭敏色検板を偏光顕微鏡のポラライザーとアナライザー(偏光板)の間に挿入した(参考文献:高分子素材の偏光顕微鏡入門 粟屋 裕、アグネ技術センター、2001年、p.75-103)。偏光顕微鏡による観察は、室温25℃で行った。試料に対して、シート厚さ方向(ND、through方向)から、観察を行った。
【0063】
図1に偏光顕微鏡観察を行った結果を示す。図1(a)および(b)には、実施例に係る試料の代表例として、表2のサンプル1の偏光顕微鏡像を示す。なお、図1(a)は、鋭敏色検板に対してMDを平行に置いた場合の偏光顕微鏡像であり、図1(b)は消光角の場合の偏光顕微鏡像である。
【0064】
鋭敏色検板を挿入した状態で試料を回転することにより、伸長方向(MD)の色(すなわちレタデーション)が赤紫→黄(図1(a))→赤紫と変化し、明確な消光角(赤紫色)を示した(図1(b))。よって、このレタデーションの変化から、実施例に係る試料(表2のサンプル1)は、伸長方向(MD)に高分子鎖が配向していることがわかった。また、結晶サイズは偏光顕微鏡の分解能以下であり、伸長結晶化により、結晶化が10倍加速することがわかった。
【0065】
これらの結果より、NOCが生成されていることが示された。
【0066】
(3)X線回析(小角X線散乱法)
各種試料を、SAXS法を用いて観察した。SAXS法は、「高分子X線回折 角戸 正夫 笠井 暢民、丸善株式会社、1968年」や「高分子X線回折 第3.3版 増子 徹、山形大学生協、1995年」の記載に準じて行われた。より具体的には、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームライン BL03XUまたはBL40B2において、X線の波長λ=0.1~0.15nm、カメラ長1.5m~3mで、検出器にイメージングプレート(Imaging Plate)を用いて、室温25℃で行った。MDとTDに垂直な方向(through)とTDに平行な方向(edge)とMDに平行な方向(end)の3方向について観察した。throughとedgeの試料についてはMDをZ軸方向にセットし、endについてはTDをZ軸方向にセットし、X線の露出時間は5秒~180秒で行った。イメージングプレートを株式会社リガク製の読取装置と読込みソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)とで読取り、2次元イメージを得た。
【0067】
実施例に係る試料の代表例として、表2のサンプル2のSAXSイメージを図2に示す。図2の(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
【0068】
図2(a)および(b)において、MDに強い2点像が見られた。これが、実施例に係る試料(表2のサンプル2)のNCがMDに配向している証拠である。
【0069】
また、図2(c)において、NDにやや弱い2点像が見られた。これは、実施例に係る試料(表2のサンプル2)のNCがNDにも配向していることを示している。このように、MDおよびNDに二重に配向することは、PA66で初めて見出された特徴的な形態である。これらの結果より、NOCが生成されていることが示された。
【0070】
また、実施例に係る試料の別の例として、表2のサンプル3のSAXSイメージを図3に示す。図3の(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
【0071】
図3より、表2のサンプル3は、表2のサンプル2と同様の結果を示した。
【0072】
試料としてグレードIを用いた場合(表2のサンプル2)も、グレードIIを用いた場合(表2のサンプル3)も、同様の結果となったことから、表1の分子量であればNOCを形成できることが示唆される。
【0073】
(4)X線回析(広角X線散乱法)
各種試料を、WAXS法を用いて観察した。WAXS法は、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームラインBL03XUまたはBL40B2で、X線の波長(λ)はλ=0.1~0.15nm、カメラ長(R)はR=260mm~310mmで、検出器にイメージングプレート(Imaging Plate)を用いて、室温25℃で行った。throughとedgeの試料についてはMDをZ軸方向にセットし、endについてはTDをZ軸方向にセットし、X線の露出時間は10秒~180秒で行った。イメージングプレートを株式会社リガク製の読取装置と読込みソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)とで読取り、2次元イメージを得た。
【0074】
実施例に係る試料の代表例として、表2のサンプル2のWAXSイメージを図4に示す。図4の(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
【0075】
図4(a)および(b)より、実施例に係る試料(表2のサンプル2)の高分子鎖(結晶のc軸)はMDに配向していることが分かる。
【0076】
また、図4(c)より、実施例に係る試料(表2のサンプル2)の高分子鎖(結晶のc軸)はNDにも配向していることが分かる。このように、MDおよびNDに二重に配向することは、PA66で初めて見出された特徴的な形態である。これらの結果より、NOCが生成されていることが示された。
【0077】
また、実施例に係る試料の別の例として、表2のサンプル3のWAXSイメージを図5に示す。図5の(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
【0078】
図5より、表2のサンプル3は、表2のサンプル2と同様の結果を示した。
【0079】
マテリアルとしてグレードIを用いた場合(表2のサンプル2)も、グレードIIを用いた場合(表2のサンプル3)も、同様の結果となったことから、表1の分子量であればNOCを形成できることが示唆される。
【0080】
(5)臨界伸長ひずみ速度の構造の検討
ポリアミドのNOCが得られる臨界点である伸長ひずみ速度(臨界伸長ひずみ速度ε*)について検討を行った。臨界伸長ひずみ速度ε*の決定は、伸長ひずみ速度(ε)/s-1の異なる試料を用いて製造したポリアミド樹脂シートを、偏光顕微鏡観察で比較することにより行った。偏光顕微鏡観察は、上記(2)の方法により行った。
【0081】
実施例に係る試料の代表例として、表2のサンプル4の偏光顕微鏡像を図6に示す。図6(a)は、鋭敏色検板に対してMDを平行に置いた場合の偏光顕微鏡像であり、図6(b)は消光角の場合の偏光顕微鏡像である。
【0082】
図6より、実施例に係る試料(表2のサンプル4)は、伸長方向(MD)に高分子鎖が配向していることがわかった。また、結晶サイズは偏光顕微鏡の分解能以下であった。これらの結果より、実施例に係る試料(表2のサンプル4)では、NOCが生成されていることが示された。
【0083】
次に、比較例に係る試料の代表例として、表2のサンプル5の偏光顕微鏡像を図7に示す。図7(a)は、鋭敏色検板に対してMDを平行に置いた場合の偏光顕微鏡像であり、図7(b)は消光角の場合の偏光顕微鏡像である。
【0084】
図7より、比較例に係る試料(表2のサンプル5)は、FCCであり、高分子鎖が無配向であることがわかった。これらの結果より、比較例に係る試料(表2のサンプル5)では、FCCが生成されていることが示された。
【0085】
偏光顕微鏡観察の結果、伸長ひずみ速度がε=17s-1である実施例に係る試料(表2のサンプル4)でNOCが生成し、伸長ひずみ速度がε=6s-1である比較例に係る試料(表2のサンプル5)では無配向のFCCが生成した。
【0086】
したがって、PA66の臨界伸長ひずみ速度ε*は、下記の式(16)で示されるように著しく小さく、実用化が容易であることが示された。
6s-1<ε*≦17s-1・・・(16)
PA66の臨界伸長ひずみ速度ε*が著しく小さくなる理由は、PA66はMobile相(R. Brill, J. Prakt. Chem., 161, 49 (1942))へと結晶化することによる、と推定される。
【0087】
(6)耐熱温度の検討
実施例に係る試料(表2のサンプル6)の耐熱温度を、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した。ホットステージ(Linkam社製,L-600A)内に試験片(たて0.7mm、よこ0.5mm)を置き、昇温速度1K/分でホットステージ内を昇温した。この時、CCDカメラ付光学顕微鏡(オリンパス(株)製BX51N-33P-OC)で観察と記録を行った。画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image-Pro PLUS)を用いて、試験片のたて方向(MD)、およびよこ方向(TD)を定量的に計測し、MDまたはTDに3%以上収縮(又は膨張)を開始した時の温度を、耐熱温度Tとした。また実施例に係る試料(表2のサンプル6)の融点Tも併せて検討した。
【0088】
実施例に係る試料(表2のサンプル6)について耐熱温度を検討した結果を示す。
【0089】
図8によれば、MDに3%以上ひずんだ時の温度(T(MD))が約278℃であり、TDに3%以上ひずんだ時の温度(T(TD))が約282℃であることが分かった。よって実施例に係る試料の耐熱温度Tは、約278℃であるとした。また実施例に係る試料(表2のサンプル6)の融点Tは、約282℃であった。
【0090】
PA66の実施例に係る試料(表2のサンプル6)と従来公知のPA66シート(耐熱温度:160℃、融点:265℃)とを比較すると、耐熱温度および融点について実施例に係る試料(表2のサンプル6)が、従来技術を大きく上回るものであった。これは、本実施例に係る試料(表2のサンプル6)が奏する顕著な効果であるといえる。
【0091】
(7)結晶サイズおよびNOCの構造の検討
図9のMD方向、TD方向、ND方向の2点像から、実施例に係る試料(表2のサンプル2)の結晶サイズ(d)を求めた。SAXS法における、散乱ベクトル(q)-小角X線散乱強度(I)曲線の1次のピークは、平均サイズdの微結晶がランダムにお互いに詰まっている場合の微結晶間最近接距離(=結晶サイズd)に相当するため(参考文献:A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p513、1967)、結晶サイズdはBraggの式から求められる。
Braggの式: d=2π÷q
実施例に係る試料(表2のサンプル2)の結晶サイズ(NCの結晶サイズ)は、MD方向に11nm、TD方向に18nm、およびND方向に11nmであるということが分かった。TDのサイズは、2点像のMDとTDへの広がりを解析して得た。
【0092】
顕微鏡観察およびX線観察の結果、実施例に係る試料(表2のサンプル2)は図9のような構造であると推定された。つまり、実施例に係る試料(表2のサンプル2)に含まれるNOCは紡錘状(またはラグビーボール状)のNCがMDに沿って数珠状に連なったような構造であり、NCを構成する高分子鎖は、MDに配向している。また、NCは、NDにも配向している。このように、MDおよびNDに二重に配向することは、PA66のNOCの特徴的な構造である。
【0093】
なお、図4および5のX線回析(広角X線散乱法)の結果、および図8の耐熱温度の結果より、PA66の実施例に係る試料は、高結晶化しているものと推定される。
【0094】
(8)吸水率によるNOC生成の可否の検討
本発明のポリアミド樹脂シートを製造するための試料に関して、吸水率によるNOC生成の可否について検討を行った。本検討は、吸水率の異なる試料を、偏光顕微鏡観察で比較することにより行った。偏光顕微鏡観察は、上記(2)の方法により行った。
【0095】
実施例に係る試料の代表例として、表2のサンプル1の偏光顕微鏡像を図1に示す。また、実施例に係る試料の別の例として、表2のサンプル3の偏光顕微鏡像を図3および5に示す。さらに、比較例に係る試料の代表例として、表2のサンプル7の偏光顕微鏡像を図10に示す。各図の(a)は、鋭敏色検板に対してMDを平行に置いた場合の偏光顕微鏡像であり、(b)は消光角の場合の偏光顕微鏡像である。
【0096】
実施例に係る試料(表2のサンプル1および3)では、NOCが生成した(図1、3および5)。一方、図10より、比較例に係る試料(表2のサンプル7)では融液に発砲があり、等方的なFCCとなり、NOCは生成されなかった。
【0097】
ここで、表2より、サンプル1、3および7の試料の吸水率は、それぞれ、0.011%、0.03%および0.1%であるため、NOCの生成には、試料の吸水率を低く抑える必要があることが示唆された。
【0098】
なお、比較例に係る試料(表2のサンプル7)の前処理(前処理番号E)により試料の吸水率が高くなった理由は、PA66が高温では速やかに吸水する性質があることによる、と推定される。
【0099】
(9)結晶構造の検討
実施例に係る試料(表2のサンプル8)について、結晶構造(Unit cell Structure)の解析を行った。生データの散乱強度(IXraw)は、赤道線から±2.8℃の点で偏角(β)積分を行うことにより算出した。また、指数付けは、N. A. Jones, E. D. T. Atkins & M. J. Hill, J. Polymer Sci. Part B, 38, 1209 (2000)に記載の格子定数の値を用いて行った。
【0100】
その結果、実施例に係る試料(表2のサンプル8)は、ポリアミドにおいて最安定なα晶の結晶構造を有することがわかった(図11)。
【0101】
(10)吸水性の検討
本発明に係るポリアミド樹脂シート(NOC)と従来製品(FCC)について、上述のカールフィッシャー法により、吸水性を評価した。実施例に係る試料の代表例として、表2のサンプル9を用いた。また、比較例に係る試料の代表例として、表2のサンプル10を用いた。
【0102】
結果を以下の表3に示す。
【0103】
【表3】
上記より、本発明に係るポリアミド樹脂シート(NOC)は、従来製品(FCC)と比較して、水分率が低いことが示された。これにより、本発明に係るポリアミド樹脂シート(NOC)は、従来製品(FCC)よりも吸水性が低いことがわかった。
【0104】
(11)引張応力の検討
本発明に係るポリアミド樹脂シートと従来製品について、引張応力の検討を行った。
【0105】
(1)実施例および比較例に係る試料の調製
本実施例および比較例では、ポリアミド66樹脂 レオナTM1700が試料の材料として用いられた。
【0106】
本実施例に係る試料の調製は、以下の通り行った。すなわち、図12に模式的に示すロール圧延伸長結晶化装置を用いて、上記ポリアミド66樹脂 レオナTM1700の伸長結晶化を行い、ポリアミド樹脂シートを得た(サンプル11、12および13)。伸長結晶化の条件は表4に記載の通りである。
【0107】
【表4】
比較例に係る試料の調製は、以下の通り行った。すなわち、円形ダイを備えた40mmφ一軸フルフライトスクリューの押出機を用いて、ポリアミド66樹脂 レオナTM1700を押出最高温度290℃にて溶融させ、吐出したチューブを空冷しながら引き取りを行った。引き取りとほぼ同時にチューブの中心に気圧をかけて、インフレーション式に縦横同時に延伸するチューブラー延伸法により、延伸温度170℃、延伸倍率3.0倍(縦、横ともに)で延伸を行った。それにより、厚み50μmのポリアミド樹脂フィルムを得た(サンプル14)。
【0108】
(2)試験片作成と状態調整の方法
打ち抜き型を取り付けた打ち抜き機を用いて、上記樹脂シートおよび樹脂フィルム(インフレーション成形フィルム)を、図13の試験片形状に打ち抜いた。この時、試験片は、樹脂シートの伸長方向(MD)と((TD)の2種類を作製した。樹脂フィルム(インフレーション成形フィルム)については、伸長方向(MD)と幅直角方向(TD)の区別が困難なため、任意の縦方向と、その縦方向に対する横方向の2方向を打ち抜いた。続いて、上記試験片を、80℃、0.3kPaの条件下で、約48時間真空乾燥し、絶乾状態にした。
【0109】
(3)引張試験
以下の条件の下で、引張試験を行った、
・測定環境:23 ℃、50%RH
・引張速度:40mm/min
・チャック間距離:25mm
図13に示す形状の試験片を用いて、JIS7127(ISO527-3)に準じて試験を行った。結果を、表5に示す。
【0110】
なお、NOCの判定基準は、以下の通りである。
・◎:消光角が観察され、細かいまだら模様で構成している。
・△:消光角が観察できるが、まだら模様が不鮮明である。
・×:消光角が観察できない。
【0111】
また、表5中、引張最大応力は、張降伏時または引張破壊時のどちらか高い方の応力の値を示す。
【0112】
【表5】
その結果、本発明に係るポリアミド樹脂シートは、従来製品よりも高い引張応力を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
上述の通り、本発明に係るポリアミド樹脂部材は、従来のポリアミド樹脂部材に比して、高い耐熱性、高い融点、高い引張応力、および低い吸水性を備えている。それゆえ、本発明によれば、耐熱性や耐久性が不十分であるがゆえに、防振ゴム製品、タイヤ、ホース、配管、継手等の技術分野での利用が困難であったPA66等のポリアミド樹脂部材を、耐熱性が要求される上記技術分野における工業製品等へ利用することが可能となり得る。
【符号の説明】
【0114】
1 過冷却融液
2a 押出機
2b 冷却アダプター
3 挟持ロール
10 ロール圧延伸長結晶化装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13