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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】歯周病治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20221205BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20221205BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
A61K31/197 ZMD
A61K41/00
A61P1/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020548356
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035433
(87)【国際公開番号】W WO2020066577
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2018180475
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】粟津 邦男
(72)【発明者】
【氏名】関根 伸一
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/005379(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0065536(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0027384(US,A1)
【文献】特開2017-006454(JP,A)
【文献】SIERON A et al.,Photodynamic destruction of Porphyromonas gingivalis induced by delta-aminolaevulinic acid,PROCEEDINGS OF SPIE,2004年,Vol.5610,p.218-223,218-219ページINTRODUCTION
【文献】歯薬療法,2015年,Vol.34, No.2,70ページ 一般演題2(う蝕/歯内療法)07
【文献】JJSLSM,2015年,Vol.35, No.4,p.403-407
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 41/00
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
[化1]

(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)で表される化合物又は薬学的に許容されるその塩を含み、歯周病患部に式(I)で表される化合物又は薬学的に許容されるその塩を投与し、その後397±13nmの波長の光を照射する5-アミノレブリン酸-光線力学的療法(ALA-PDT)のための歯周病の治療薬。
【請求項2】
歯周病における歯周病原因菌が、エンテロコッカス・フェカリス(E.faecalis)である請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
397±13 nmの波長の光が、青色発光ダイオードである請求項1記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-アミノレブリン酸(以下「ALA」ということがある。)若しくはその誘導体又はそれらの塩を含有し、360nm~700nmの波長の光を照射するALA-光線力学的療法(以下「ALA-PDT」ということがある。)において用いられる歯周病の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所を治療する方法である光線動力学的療法(以下PDTという。)が開発されてきた。PDTは、治療が簡便で、生体侵襲性が小さく、臓器温存が可能であること等から、クオリティ・オブ・ライフ(Quality Of Life;QOL)を考慮した新たながん治療法として注目されている。
【0003】
PDTに用いられる薬剤の一つであるALAは、動物や植物や菌類に広く存在する色素生合成経路の中間体として知られており、通常ALAシンセターゼにより、スクシニルCoAとグリシンとから生合成される。ALA自体には光感受性はないが、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によりプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)に代謝活性化され、直接腫瘍組織や新生血管へ特異的に集積し、かかるPpIX集積部位にレーザー光を照射すると、光の励起により生ずる一重項酸素及び/又はヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド等に代表される活性酸素種によりがん細胞が変性・壊死することが知られている。
【0004】
1986年にカナダクイーンズ大ケネディー教授が、ALAを塗布し、光を照射することで皮膚がんの治療ができることを報告(例えば、非特許文献1参照)して以来、ALAを用いた様々な部位の病変部等の診断及び治療方法が報告されており、例えば、ALAを体内に投与すると、がんにALAから誘導されるPpIXが蓄積し、光照射で蛍光を発するという知見に基づいて開発された腫瘍診断剤等が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
一方、歯周病治療の分野においても、広義の光療法(phototherapy)として、約20年前より高出力レーザーをはじめとしたさまざまな光エネルギーを用いた治療が行われており、最近は、光と色素の併用による光化学反応を使用した抗菌的光線力学的療法(antimicrobial photodynamic therapy: a-PDT)が、新しい手段として注目を集めている。
【0006】
歯周病の原因菌の一つであるエンテロコッカス・フェカリス(E.フェカリス)を滅菌した単根歯中において培養液AC Broth(アルドリッチ社製)を用いて4週間培養し、100μmolのメチレンブルーの溶液で洗浄後、660nmの光を照射したが、E.フェカリスは死滅しないことが知られている(特許文献3参照)。
【0007】
また、よりエネルギーの高い波長405nmの半導体レーザーを、歯周病原因菌であるポルフィノモナス・ジンジバリス(P.ジンジバリス)、プレボテラ・インターメディア(P.インターメディア)、E.フェカリスに照射したところ、照射時間と照射光強度に比例して、P.ジンジバリス及びP.インターメディアは、菌体数が減少したが、E.フェカリスは、菌体数は減少しなかったことが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2731032号公報
【文献】特開2006-124372号公報
【文献】特表2017-534412号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】J.C Kennedy, R.H Pottier and DC Pross, Photodynamic therapy with endogeneous protoprophyrin IX: basic principles and present clinical experience, J. Photochem., Photobiol. B: Biol., 6 (1990) 143-148
【文献】International Journal of Photoenergy, Volume 2014, Article ID 387215, 7 pages
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
PDTは、非侵襲性で副作用や患者への肉体的苦痛はほとんど無く、安全且つ簡単な治療法であるにも関わらず、歯周病原因菌の中に従来の方法では効力を示さない菌がいるという問題に直面した。
本発明の課題は、従来のPDTでは効力を示さない歯周病病原菌に対してもPDTが可能となる治療薬、治療方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、E.フェカリスが光照射しても死滅しないのは、もともと菌体内で、PpIXを生合成できないためであると考え、生体内でPpIXを生成できるように、ALAを添加した培地でE.フェカリスを培養し、光を照射したが、菌は死滅しなかった。そこで、培養条件を種々検討した結果、ALAの存在下、嫌気性条件下に培養を行い、その後光照射することでE.フェカリスを死滅させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の事項により特定される次のとおりのものである。
(1)下記式(I)
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩(以下「ALA類」ということがある。)を含み、歯周病患部に式(I)で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩を投与し、その後360nm~700nmの波長の光を照射する5-アミノレブリン酸-光線力学的療法のための歯周病の治療薬。
(2)歯周病における歯周病原因菌が、E.フェカリスである(1)に記載の治療薬。
(3)360nm~700nmの波長の光が、青色発光ダイオードである(1)に記載の治療薬。
また本発明の他の実施態様は以下のとおりである。
(4)上記式(I)で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩を歯周病患部に投与し、その後360nm~700nmの波長の光を照射する歯周病の治療方法。
(5)歯周病患部に投与し、その後360nm~700nmの波長の光を照射する歯周病の治療に用いるための上記式(I)で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩。
(6)歯周病患部に投与し、その後360nm~700nmの波長の光を照射する歯周病の治療薬の製造に用いるための上記式(I)で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩の利用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯周病の治療剤を用いて歯周病の治療を行うと、非侵襲性で副作用や患者への肉体的苦痛はほとんど無く、安全且つ簡単に、従来の方法では効力が及ばなかった歯周病原因菌が原因となる歯周病をも治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、E.フェカリスを、様々な濃度になるようにALAを添加して嫌気性条件下で培養したのち、光照射して得られた培養溶液中の菌体数を測定するための希釈平板法による測定結果を示す。
図2図2は、E.フェカリスを、様々な濃度になるようにALA及びALA+EDTAを添加して好気性性条件下で培養したのち、光照射して得られた培養溶液中の菌体数を測定するための希釈平板法による測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の歯周病の治療剤としては、ALA類を含有し、360nm~700nmの波長の光を照射するALA-PDTにおいて用いられるALA-PDTのための治療剤であれば特に制限されず、360nm~700nmの波長の光を照射するALA-PDTの前に、360nm~420nmの波長の励起光を照射して、PpIX蓄積部位を検出する5-アミノレブリン酸-光線力学的診断(ALA-PDD)を行うこともできるが、かかるALA-PDDを行うことを必要としない治療剤を特に好適に例示することができる。また、本発明の歯周病の治療剤が適用される治療システムとしては、ALA-PDTデバイスを具備したシステムであればよく、ALA類の投与デバイスやALA-PDDを備えたものであってよい。
【0016】
式(I)で示される化合物中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。
【0017】
におけるアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル基、1-ナフトイル基、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。なお、本発明において、アシル基に、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基を便宜上含むものとする。
【0018】
におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0019】
におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-シクロヘキセニル基等の飽和又は一部不飽和結合が存在する炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0020】
におけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0021】
におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等の炭素数7~20のアラルキル基を挙げることができる。
【0022】
上記R及びRは、必要に応じて化学的に許容される範囲で置換基を有していてもよく、そのような置換基として、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アリール基等が挙げられる。
【0023】
式(I)で表される化合物として、生体内において、PpIXを形成することができるALAの任意のALA誘導体として作用するのが好ましく、例えば、生体内でALAを形成し得るALAプロドラッグ又は中間体としてALAを形成せずにポルフィリンに変換(例えば、酵素的に)されるALAプロドラッグが挙げられ、中でも、ALAエステルが好ましく挙げられる。
【0024】
ALAエステルとして、例えば、ALA メチルエステル、ALA エチルエステル、ALA n-プロピルエステル、ALA n-ブチルエステル、ALA n-ペンチルエステル、ALA n-ヘキシルエステル、ALA n-オクチルエステル、ALA 2-メトキシエチルエステル、ALA 2-メチル-n-ペンチルエステル、ALA 4-メチル-n-ペンチルエステル、ALA 1-エチル-n-ブチルエステル、ALA 3,3-ジメチル-n-ブチルエステル、ALA ベンジルエステル、ALA 4-イソプロピルベンジルエステル、ALA 4-メチルベンジルエステル、ALA 2-メチルベンジルエステル、ALA 3-メチルベンジルエステル、ALA 4-(t-ブチル)ベンジルエステル、ALA 4-(トリフルオロメチル)ベンジルエステル、ALA 4-メトキシベンジルエステル、ALA 3,4-(ジクロロ)ベンジルエステル、ALA 4-クロロベンジルエステル、ALA 4-フルオロベンジルエステル、ALA 2-フルオロベンジルエステル、ALA 3-フルオロベンジルエステル、ALA 2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジルエステル、ALA 3-ニトロベンジルエステル、ALA 4-ニトロベンジルエステル、ALA 2-フェニルエチルエステル、ALA 4-フェニルブチルエステル、ALA 3-ピリジル-メチルエステル、ALA 4-フェニルベンジルエステル、N-[(1-アセチルオキシ)エトキシカルボニル]ALA ベンジルエステル、N-ホルミル-ALA メチルエステル、N-アセチル-ALA エチルエステル、N-プロピオニル-ALA メチルエステル、N-ブチリル-ALA メチルエステル、N-ホルミル-ALA エチルエステル、N-アセチル-ALA エチルエステル、N-プロピオニル-ALA エチルエステル、N-ブチリル-ALA エチルエステルが挙げられる。
【0025】
式(I)で表される化合物は、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩として投与することができる。式(I)で表される化合物の塩として、例えば、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等が挙げられる。酸付加塩として、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩等を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0026】
ALA誘導体として、ALA又はALA メチルエステル、ALA エチルエステル、ALA プロピルエステル、ALA ブチルエステル、ALA ペンチルエステル等の各種エステル類、及びにこれらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩が好ましく挙げられ、ALA塩酸塩やALAリン酸塩が特に好ましく挙げられる。
【0027】
ALA誘導体は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA誘導体は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記ALA誘導体を水溶液として調製する場合には、ALA誘導体の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0029】
前記ALA類に加えて、必要に応じて以下に示す光増感剤を混合して使用することも同時投与することもできる。
ヘマトポルフィリン誘導体(HpD);フォトフリン[Photofrin](登録商標)(クアドラ ロジック テクノロジーズ社,バンクーバー,カナダ)、ヘマトポルフィリンIX(HpIX)等のヘマトポルフィリン;フォトサン[Photosan]III(シーホフ ラボラトリアム社,シーホフ,ヴェッセルブレーネルコーフ,ドイツ);テトラ(m-ヒドロキシフェニル)クロリン(m-THPC)、バクテリオクロリン(スコティア製薬会社,サリー州,イギリス)、モノ-L-アスパラチルクロリンe6(NPe6)(日本石油化学会社,カリフォルニア州,アメリカ)、クロリンe6(ポルフィリン プロダクト社)、ベンゾポルフィリン(クアドラ ロジック テクノロジーズ社,バンクーバー,カナダ)(例えば、benzoporphyrin derivative monoacid ring A、BPD-MA)、プルプリン[purpurine](PDT製薬会社,カリフォルニア州,アメリカ)(例えば、スズ-エチルエチオプルプリン[tin-ethyl etiopurpurin]、SnET2)等のクロリン;フタロシアニン(例えば、亜鉛-(クアドラロジックテクノロジーズ社,バンクーバー,カナダ)、いくらかのアルミニウム-又はシリコンフタロシアニン,これらはスルホン酸化されていてもよく、特にアルミニウムフタロシアニンジスルホン酸(AlPcS2a)、アルミニウムフタロシアニンテトラスルホン酸(AlPcS4)等のスルホン酸化フタロシアニン);ポルフィセン;ヒポクレリリン[hypocrellin];プロトポルフィリンIX(PpIX);ヘマトポルフィリンジ-エステル;ウロポルフィリン;コプロポルフィリン;ジュウテロポルフィリン;ポリヘマトポルフィリン(PHP)、及びそれらの前駆体、誘導体;テトラサイクリン(例えば、トピサイクリン[Topicycline](登録商標)、シャイアー社[Shire])。
これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
さらに、ALA類は、光感作効果を上げ、よってPDTを促進することができる他の活性を有する化合物とともに投与することができる。そのような化合物として、例えば、キレート剤が挙げられ、より具体的には、アミノポリカルボン酸、金属解毒に関する文献又は磁気共鳴映像法に用いる造影剤中の常磁性金属イオンのキレート化に関する文献に記載されているキレート剤等が挙げられ、さらに具体的には、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸(EDTA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸(CDTA)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-五酢酸(DTPA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(DOTA)、デスフェリオキサミン又は周知のそれらの誘導体/類似体が挙げられ、これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
キレート剤を有する場合、該キレート剤は、標準的には0.05~20%(w/v)の濃度で、例えば、0.1~10%(w/v)の濃度で用いられる。
【0031】
本発明においてALA類を歯周病患部に投与するとは、歯周病患部又はその周辺へ局所投与することをいい、特に局所塗布が好ましい。歯周ポケット内への局所投与は、当該分野において公知の技術、例えば、注射器、カテーテル又は他の好適な薬物送達システムを使用することによって行うことができる。
【0032】
本発明の治療薬の剤型として、例えば、ゲル、クリーム、軟膏、スプレー、ローション、エアロゾル、外用液剤等が挙げられる。
【0033】
本発明の治療薬において、含まれるALA類の濃度は、化合物の化学的性質、化学組成、投与方法及び治療されるべき疾患の程度を含むさまざまな要因に応じて変化するが、20%(w/v)未満の濃度範囲が好ましく、0.05~16%(w/v)がさらに好ましく、0.5~14%(w/v)が特に好ましく、例えば、1.5~12.0%(w/v)又は2~10%(w/v)の範囲を好適に例示することができる。
【0034】
本発明の歯周病の治療方法は、光に反応する化合物を歯周病原因菌に投与し、光を照射することにより歯周病を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を歯周病患部に投与し、色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが歯周病原因菌における細胞内に集積し、歯周病原因菌細胞内に蓄積したPpIXを、光を照射して励起させることで、周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する光の励起により生ずる一重項酸素及び/又はヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド等に代表される活性酸素種が、その強い酸化力による殺細胞効果を有することを利用する歯周病の治療方法である。
【0035】
本発明の治療薬は、歯周病の患部及びその周辺、特に歯周ポケット内に投与され、望ましい光感作効果を得るため治療されるべき部位が露光される前に、特定の時間が経過していることが好ましい。露光前に、余剰の治療薬は除去されることが好ましい。
【0036】
投与した後、露光が行われるまでの時間は、ALA類の種類、治療すべき条件及び投与の形態によって決まる。その時間は、例えば、約3~6時間が挙げられ、0~90分間、5~90分間、30~90分間が好ましく挙げられ、10~50分間が特に好ましく挙げられる。
【0037】
本発明の治療薬が歯周ポケット等の歯周病患部に投与された後、歯周ポケット内等の歯周病患部が嫌気性条件下におかれる必要がある。本発明において歯周病患部を嫌気性条件下におくとは、歯周病患部が嫌気性条件下におかれていない場合には、歯周病患部を嫌気性条件下にすること、歯周病患部がすでに嫌気性条件下におかれている場合には、その状態を保つこと、歯周病患部がすでに嫌気性条件下におかれている場合であっても本発明の治療薬を投与するときに嫌気性条件下でなくなった場合には、元の状態に復帰させる又は嫌気性条件下にすることを意味する。歯周ポケット等の歯周病患部を嫌気性条件下におくには、例えば、歯周病患部周辺を酸素が遮断できる材質のもので覆う方法等が考えられる。また、歯周病患部はもともと歯根に近い部分であり、歯周病原因菌が繁殖している環境は、嫌気性であるので、歯周病原因菌が繁殖している部位まで本発明の治療薬が浸透できるように物理的又は化学的な手法を用いることも考えられる。
【0038】
本発明の治療薬を投与後、光活性化は、当該分野において公知である光源を用いて行うことができ、例えば青色LED、赤色LED等の発光ダイオード、青色半導体レーザー、赤色半導体レーザー等の半導体レーザー、強い青色又は赤色発光スペクトルをもつ放電ランプ等を挙げることができるが、装置がコンパクトになり、コスト面や可搬性において有利であることから、青色LED又は赤色LEDを好適に例示することができる。照射に使用する光の波長は、より効率的な光感作効果を得るために選択することができ、360~700nmの範囲の光が挙げられる。また、エネルギー密度は、10~200J/cm2の範囲が好ましく、10~100J/cm2の範囲がさらに好ましく、20~60J/cm2の範囲が特に好ましい。
【0039】
また、用いる光源のパワー密度は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限を受けず、例えば、15~400mW/cmの範囲が好ましく、15~50mW/cm2、5~40mW/cm2、10~35mW/cm2の範囲がさらに好ましく、15~35mW/cm2の範囲が特に好ましい。
【0040】
また、照射光は、連続光であってもよく、パルス光であってもよいが、パルス光を利用することにより、正常な皮膚表面への損傷を小さくできる点で、パルス光がより好ましい。
【0041】
光照射時間は、エネルギー密度及びパワー密度にもよるが、5~30分間、好ましくは15分間行うことが望ましい。照射は1回だけであってもよく、あるいは、例えば照射の間隔を1~10分間とし、光照射量をいくつかに分割した光照射として用いてもよい。
【0042】
励起光照射デバイスとしては、光源用細径光ファイバーを挙げることができ、蓄積されたPpIXを励起させるALA-PDTステップにおいて照射する励起光の光源としては、微小な歯周病原因菌の繁殖部位についてもPpIXの励起を行うことを可能とするために放射照度が強く、正確な自動識別を可能とするために照射面積が狭い半導体レーザー又はLED光源が好ましく、励起光を導光して一端から外部へ出射する励起光導光部を有することが好ましく、励起光導光部としては、具体的には細径光ファイバーが挙げられる。
【0043】
前記のように、本発明の治療剤を用いる治療方法においては、ALA-PDDを行うこともできる。ALA-PDDは、本発明のALA-PDTの前に、歯周病原因菌細胞内に蓄積したPpIXに紫色の光を照射すると赤色の蛍光を発することを利用して、歯周病原因菌の付着部位を特定する判定方法である。かかるALA-PDDステップにおいて用いられるALA-PDDデバイスとしては、PpIXの励起光照射デバイスと、励起状態のPpIX特有の赤色蛍光検出デバイス、あるいは、これらが一体化されたデバイスを例示することができる。PpIXの励起光照射デバイスから照射する光としては、PpIXを励起させることで、PpIX特有の赤色蛍光が観察できる波長の光が好ましく、いわゆるソーレー帯に属するPpIXの吸収ピークに属する紫外光に近い紫色の波長の光であって、少なくとも360nm~420nmの範囲内の波長の光であればよく、例えば、360~420nm、403~410nm等を挙げることができるが、中でも408nmが好ましい。
【0044】
上記ALA-PDDステップにおける励起光を照射する光源としては、公知のものを使用することができ、例えば紫色LED、好ましくはフラッシュライト型紫色LEDや、半導体レーザー等の光源を挙げることができるが、装置がコンパクトになり、コスト面や可搬性において有利である紫色LED、中でもフラッシュライト型紫色LEDや、紫色半導体ダイオードを好適に例示することができる。また、PpIX蓄積部位を検出し、照射すべき歯周病病原菌の繁殖範囲を判断するための、赤色の蛍光、具体的には610nm~750nm、好ましくは625~638nmの波長の蛍光を検出するための赤色蛍光検出デバイスとしては、肉眼による検出デバイスやCCDカメラによる検出デバイスを挙げることができる。
【0045】
励起光照射デバイスと赤色蛍光検出デバイスとが一体化されたALA-PDDデバイスとしては、光源・計測用細径光ファイバーを挙げることができ、蓄積されたPpIXを励起させるALA-PDDステップにおいて照射する励起光の光源としては、微小な歯周病原因菌の繁殖部位についてもPpIXの検出を行うことを可能とするために放射照度が強く、正確な自動識別を可能とするために照射面積が狭い半導体レーザー光源が好ましく、励起光を導光して一端から外部へ出射する励起光導光部を有することが好ましく、励起光導光部としては、具体的には細径光ファイバーを挙げることができる。光源に用いられる素子としては、InGaN等の半導体混晶を用いることができ、InGaNの配合比を変えることで、紫色光を発振することができる。具体的には直径5.6mm程度のコンパクトなレーザーダイオードを好適に例示することができる。レーザーダイオードから4レーザーアウトプットのポートと、スペクトル測定用のポートはビルトイン高感度スペクトロスコープで連結されたデスクトップPCほどのサイズである装置を例示することができる。また、前記励起光によって励起されたPpIXが発する蛍光を受光する受光工程においては計測用細径光ファイバーが用いられ、該計測用細径光ファイバーは前記光源用細径光ファイバーと一体化され、受光した蛍光を検出器に導光してPpIX蓄積部位の判定を行う。
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
E.フェカリスJCM5803をブレインハートインフュージョン培地(BHI)(Difco Laboratories, Detroit, Mich, USA)にて、37℃で8時間培養し、0.8×10CFU/mlに調整した。その後、37℃で嫌気性条件下(N80%,CO10%,H10%)に6時間静置した後、1.0×10CFU/mlに調整し菌体サンプルとした。ALAはPBS(nacalai tesque、東京)1.2mlに溶解し、さらに10N NaOH溶液0.3mlを加えて、pH5.0のALA溶液を調整した。24穴プレートに上記調整したE.フェカリス菌体と上記調整したALA溶液を加え、ALAの最終濃度を0%(w/v)、0.05%(w/v)、0.5%(w/v)、5%(w/v)、10%(w/v)に調整した。37℃で嫌気条件下に暗所で静置し、2時間後に青色LED(波長397±13nm、出力35mW、照射径15.5mm、平均パワー密度19mW/cm、G-Light Prima-II Plus, GC,東京)を光学ステージ上で1分間照射した。希釈平板法に基づき、光照射して得られた培養液を、BHIを用いてOD=0.1となるように希釈し、希釈した各培養液を寒天培地上で1日間培養した。その結果を図1に示す。なお、ALAの最終濃度0%(w/v)に調整したものに関しては前記青色LEDによる光照射を行わない群も設けた。
なお、図1の各寒天培地上のコロニーは、各行ごとに上からALAの濃度が、0%(w/v)、0.05%(w/v)、0.5%(w/v)、5%(w/v)、10%(w/v)、0%(w/v)+光非照射の培養液から形成されたコロニー(図1中の1~6)を表す。
【0048】
図1から明らかなように、ALAの最終濃度が5%(w/v)及び10%(w/v)の場合には、光照射することにより、E.フェカリスの生菌数が著しく減少し、本発明の治療剤を用いて人体を侵襲することなく歯周病を治療することができることが示唆された。
【0049】
[参考例1]
E.フェカリスJCM5803をブレインハートインフュージョン培地(BHI)(Difco Laboratories, Detroit, Mich, USA)にて、37℃で8時間培養し、0.8×10CFU/mlに調整した。ALAはPBS(nacalai tesque,東京)に1.2mlに溶解し、10N NaOH溶液0.3mlを加えて、pH5.0のALA溶液を調整した。上記調整したALA溶液にEDTAを0.05%(w/v)となるように添加してALA-EDTA溶液を調製した。24穴プレートに上記調整したE.フェカリス菌体と上記調整したALA溶液又はALA+EDTA溶液を加え、それぞれALAの最終濃度0%(w/v)、0.05%(w/v)、0.5%(w/v)に調整した。37℃で好気性条件下に暗所で静置し、2時間及び4時間後に青色LED(波長397±13nm、出力35mW、照射径15.5mm、平均パワー密度19mW/cm、G-Light Prima-II Plus、GC、東京)を光学ステージ上で1分間照射した。希釈平板法に基づき、光照射して得られた培養液を、BHIを用いて1倍、10倍、100倍、1000倍希釈し、希釈した各培養液を寒天培地上で1日間培養した。その結果を図2に示す。
なお、図2の左から培養液を1倍希釈、10倍希釈、100倍希釈、1000倍希釈した結果を表し、各寒天培地上のコロニーは、各行ごとに上からALA溶液を添加した培養液中のALA濃度が、0%(w/v)、0.05%(w/v)、0.5%(w/v)、の培養液から形成されたコロニー(図2中の1~3)、ALA+EDTA溶液を添加した培養液中のALA濃度が、0%(w/v)、0.05%(w/v)、0.5%(w/v)、の培養液から形成されたコロニー(図2中の4~6)を表す。
【0050】
図2から明らかなように、好気性条件下で培養を行って光照射した場合には、E.フェカリスの生菌数は、ALAを添加した場合でもブランクの場合と全く変わらず、ALAを添加した効果は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の治療薬及び治療方法は、従来の方法では、効力がなかった歯周病原因菌に対しても効力を有することから、歯周病を治療する分野で有用である。
図1
図2