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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】クロマトグラフ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20221205BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
G01N30/86 V
G01N30/86 P
G01N30/04 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019033778
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139775
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-130271(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0327692(US,A1)
【文献】特開平05-005730(JP,A)
【文献】特開2010-066185(JP,A)
【文献】特開昭62-076458(JP,A)
【文献】特開2000-046814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/86
G01N 30/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部と、記憶部とを備えたクロマトグラフ装置であって、
前記記憶部は、測定対象の標準試料の標準クロマトグラムの波形又は強度に基づく診断基準と、前記測定対象の検量線とを記憶し、
量又は割合が既知の前記標準試料の実測クロマトグラムを測定したとき、前記制御部は、前記実測クロマトグラムの波形又は強度について、前記診断基準に基づいて前記クロマトグラフ装置に関する管理情報を報知し、
前記管理情報の報知に対し、ユーザから管理を行った旨の情報を受信した場合、前記制御部は、前記実測クロマトグラムを再測定して前記診断基準に基づいて前記管理情報を報知し、さらに、前記実測クロマトグラムを再測定したときに前記管理情報として管理が正常と判定したとき、前記標準試料の実際の量又は割合と、前記標準試料の強度から前記検量線に基づいて算出される前記標準試料の推定量又は推定割合とが不一致の場合に、前記検量線の不具合を報知するクロマトグラフ装置。
【請求項2】
前記診断基準は、前記標準クロマトグラムの波形の広がりの第1閾値を記憶し、
前記制御部は、前記実測クロマトグラムの波形の広がりが前記第1閾値を超えた場合に、固定相又は移動相の不具合を報知する、請求項1に記載のクロマトグラフ装置。
【請求項3】
前記診断基準は、前記標準クロマトグラムの強度の第2閾値を記憶し、
前記制御部は、前記実測クロマトグラムの前記強度が前記第2閾値未満の場合に、検出器の不具合を報知する、請求項1又は2に記載のクロマトグラフ装置。
【請求項4】
前記標準クロマトグラムは、前記測定対象の標準試料の内部標準によるクロマトグラムであり、
前記内部標準を用いて前記実測クロマトグラムを測定したとき、前記制御は、前記実測クロマトグラムの前記内部標準を含む波形又は強度について、前記診断基準に基づいて前記管理情報を報知する請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフ装置。
【請求項5】
前記内部標準は、前記標準試料のクロマトグラムのピークの前後の時間にそれぞれピークが現れる第1内部標準及び第2内部標準を有し、
前記制御部は、前記実測クロマトグラムの前記第1内部標準及び前記第2内部標準のピークの波形又は強度に重み付けをして前記診断基準を行う、請求項4に記載のクロマトグラフ装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記実測クロマトグラムを再測定したときに前記管理情報として管理が正常と判定したとき、前記クロマトグラフ装置の管理が完了した旨の完了情報を取得した場合に、
前記完了情報を報知する請求項1に記載のクロマトグラフ装置。
【請求項7】
測定対象の標準試料の標準クロマトグラムの波形又は強度に基づく診断基準と、前記測定対象の検量線とを記憶し、
量又は割合が既知の前記標準試料の実測クロマトグラムを測定したとき、前記実測クロマトグラムの波形又は強度について、前記診断基準に基づいてクロマトグラフ装置に関する管理情報を報知し、
前記管理情報の報知に対し、ユーザから管理を行った旨の情報を受信した場合、前記実測クロマトグラムを再測定して前記診断基準に基づいて前記管理情報を報知し、さらに、前記実測クロマトグラムを再測定したときに前記管理情報として管理が正常と判定したとき、前記標準試料の実際の量又は割合と、前記標準試料の強度から前記検量線に基づいて算出される前記標準試料の推定量又は推定割合とが不一致の場合に、前記検量線の不具合を報知するクロマトグラフ装置の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ装置、ガスクロマトグラフ装置などのクロマトグラフ装置及びクロマトグラフ装置の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体クロマトグラフ(HPLC)による定量分析では、濃度が既知の標準物質をあらかじめ測定して検量線を得て、それにより未知試料を定量している(特許文献1)。但し、移動相に含まれる溶媒の混合率の調製の誤差、温度等による移動相の流量変動、固定相であるカラムの劣化等により、測定値が日々変動するため、定期的に検量線を作成(更新)し、分析結果を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6152301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したように、カラム等の固定相、移動相に含まれる溶媒、検出器等に不具合が生じると測定値が変動するので、これらの備品等を管理し、必要に応じて交換する必要があるが、作業が煩雑であると共に、交換やメンテナンス等の管理のタイミングが認識しづらいという問題がある。
ここで、例えば検出器(UV光源ランプ等)の寿命管理は、ランプの発光するエネルギー値のチェックが一般的であるが、交換費用をできるだけ抑えて長く使用したいという要望がある。しかしながら、ランプ自身の個体差や分析に求められる精度が異なるため、エネルギー値の交換の閾値が一律に決定できず、分析結果に異常が生じてからエネルギー値を見て分析異常がランプの寿命に起因すると判明する場合も多い。
【0005】
一方、技術的な進歩により、液体クロマトグラフ装置は、所定の分析精度の範囲内で保守・管理できている状態であれば、検量線を頻繁に更新しなくとも安定して測定ができ、求める精度の分析結果が得られるようになってきている。
これに対し、日々検量線を作成(更新)して分析結果を補正する方策は、かえって分析システムの不具合(上述の検出器等)を知らずに補正してしまうことがある。例えば、溶媒の交換や保守後に、定量分析の測定値が何割も変化することもある。
そこで、分析結果が正しい(システムが正常である)か否かの確認として、分析の前又は前後で、標準試料であるQCサンプル(または、ブランクとQCサンプル)を分析することもできる。しかしながら、単に濃度や面積値の比較だけであると、分析システムの異常は検知できても、異常の原因となった不具合の種別(例えば、上述の検出器等の不具合)を判別できないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、クロマトグラフ装置に関する管理情報を自動的に報知して管理の不具合を防止し、安定して測定できるようにしたクロマトグラフ装置及びクロマトグラフ装置の管理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のクロマトグラフ装置は、制御部と、記憶部とを備えたクロマトグラフ装置であって、前記記憶部は、測定対象の標準試料の標準クロマトグラムの波形又は強度に基づく診断基準と、前記測定対象の検量線とを記憶し、量又は割合が既知の前記標準試料の実測クロマトグラムを測定したとき、前記制御部は、前記実測クロマトグラムの波形又は強度について、前記診断基準に基づいて前記クロマトグラフ装置に関する管理情報を報知し、前記管理情報の報知に対し、ユーザから管理を行った旨の情報を受信した場合、前記制御部は、前記実測クロマトグラムを再測定して前記診断基準に基づいて前記管理情報を報知し、さらに、前記実測クロマトグラムを再測定したときに前記管理情報として管理が正常と判定したとき、前記標準試料の実際の量又は割合と、前記標準試料の強度から前記検量線に基づいて算出される前記標準試料の推定量又は推定割合とが不一致の場合に、前記検量線の不具合を報知する。
【0008】
このクロマトグラフ装置によれば、診断基準に基づいて、実測クロマトグラムを測定したときに、クロマトグラフ装置に関する管理情報をユーザの恣意的な判断によらず自動的に報知して管理の不具合を防止し、安定して測定できる。
また、ユーザによる保守が済んだ後に、実測クロマトグラムを再測定して再度診断を行い、その結果に応じて例えば「保守完了」の旨を報知することで、保守が確実に行われたことを装置側で認識することができ、保守の信頼性が向上する。
さらに、管理が正常な場合、検量線による標準試料の測定を行うことで、検量線の不具合の有無を判定できる。そして、検量線が不具合であることを直ちに把握できるので、検量線を作成し直す判断材料となり、検量線を過不足なく再作成できる。
【0009】
前記診断基準は、前記標準クロマトグラムの波形の広がりの第1閾値を記憶し、前記制御部は、前記実測クロマトグラムの波形の広がりが前記第1閾値を超えた場合に、固定相又は移動相の不具合を報知してもよい。
このクロマトグラフ装置によれば、第1閾値に基づき、管理情報として固定相又は移動相の不具合を特定できる。
【0010】
前記診断基準は、前記標準クロマトグラムの強度の第2閾値を記憶し、前記制御部は、前記実測クロマトグラムの前記強度が前記第2閾値未満の場合に、検出器の不具合を報知してもよい。
このクロマトグラフ装置によれば、第2閾値に基づき、管理情報として検出器の不具合を特定できる。
【0011】
前記標準クロマトグラムは、前記測定対象の標準試料の内部標準によるクロマトグラムであり、前記内部標準を用いて前記実測クロマトグラムを測定したとき、前記制御は、前記実測クロマトグラムの前記内部標準を含む波形又は強度について、前記診断基準に基づいて前記管理情報を報知してもよい。
内部標準を用いない実測クロマトグラムを測定した場合、標準試料のピークのみが現れるので、ピークのテーリングと、ブローデニングとの区別が付かない。そこで、標準クロマトグラム及び実測クロマトグラムとして、内部標準によるクロマトグラムを用い、内部標準を含む波形又は強度について診断を行うと、管理情報をさらに詳細に(例えば、固定相の不具合と移動相の不具合とに)区別できる。
【0012】
前記内部標準は、前記標準試料のクロマトグラムのピークの前後の時間にそれぞれピークが現れる第1内部標準及び第2内部標準を有し、前記制御部は、前記実測クロマトグラムの前記第1内部標準及び前記第2内部標準のピークの波形又は強度に重み付けをして前記診断基準を行ってもよい。
このクロマトグラフ装置によれば、例えば、検出器の不具合(検出器のランプ劣化)が生じた場合に、第1内部標準のピークの強度の方が、第2内部標準のピークの強度よりも顕著に低下することが既知の場合、強度に重みづけ(例えば、第1内部標準のピークの強度に1未満の値を乗じる)することで、検出器の不具合をより精度よく診断できる。
【0015】
前記制御部は、前記実測クロマトグラムを再測定したときに前記管理情報として管理が正常と判定したとき、前記クロマトグラフ装置の管理が完了した旨の完了情報を取得した場合に、前記完了情報を報知してもよい。
このクロマトグラフ装置によれば、クロマトグラフ装置の管理が完了したことをユーザが確実に認識できる。
【0016】
本発明のクロマトグラフ装置の管理方法は、測定対象の標準試料の標準クロマトグラムの波形又は強度に基づく診断基準と、前記測定対象の検量線とを記憶し、量又は割合が既知の前記標準試料の実測クロマトグラムを測定したとき、前記実測クロマトグラムの波形又は強度について、前記診断基準に基づいてロマトグラフ装置に関する管理情報を報知し、前記管理情報の報知に対し、ユーザから管理を行った旨の情報を受信した場合、前記実測クロマトグラムを再測定して前記診断基準に基づいて前記管理情報を報知し、さらに、前記実測クロマトグラムを再測定したときに前記管理情報として管理が正常と判定したとき、前記標準試料の実際の量又は割合と、前記標準試料の強度から前記検量線に基づいて算出される前記標準試料の推定量又は推定割合とが不一致の場合に、前記検量線の不具合を報知する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クロマトグラフ装置に関する管理情報を自動的に報知して管理不良を防止し、安定して測定できるようにしたクロマトグラフ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフ装置の構成を示す図である。
図2】標準クロマトグラム、及び実測クロマトグラムを示す図である。
図3】診断基準(テーブル)を示す図である。
図4】診断基準を、標準物質の濃度と、第1閾値及び第2閾値との関数として表した図である。
図5】液体クロマトグラフ装置のデータ処理装置の処理フローを示す図である。
図6図5の処理フローのサブルーチン「検量線の診断」を示す図である。
図7図6のステップS34の判定の具体的方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフ装置100の構成を示す図である。
液体クロマトグラフ装置100は、全体を制御するデータ処理装置(制御部)7、移動相(溶離液と溶媒の混合溶液)1、移動相1を送液するポンプ2、試料を注入するオートサンプラ3、成分を分離するカラム4、カラム4を恒温にするカラムオーブン5、分離された成分を検出する検出器6、表示部10を備える。
データ処理装置7は、分析を実行し分析結果を解析する制御部(CPU)9、分析結果または解析結果を保存する記憶部(ハードディスク等)8を有するコンピュータから構成される。表示部(モニタ)10は、分析結果や解析結果を表示する。
【0020】
検出器6は信号強度を検出する素子を複数持ち、時間に対する信号強度を複数波長において同時に取得可能な検出器である。検出器6としては、分離分析できるものであれば特に制限されず、例えば、UV検出、UV/蛍光の2次元分析、MS(質量分析)等を用いることができる。
【0021】
試料は、オートサンプラ3のインジェクタ(図示せず)から注入され、ポンプ2から送液される移動相1とともにカラム5を通過し、試料中の種々の成分に分離される。
成分に分離された試料は、検出器6で検出される。検出器6の信号はデータ処理装置7に送られてデータ処理が行われる。
カラム4は、移動相1中に存在する試料の成分を分離する分離部として一般的に使用される装置である。カラム4としては、充填型カラムやモノリスカラム等がある。カラム4のカラム充填剤としては、吸着型、分配型、イオン交換型等の種々のタイプのものを使用することができる。カラム4を恒温に保ち、再現性よく試料の分離ができるように、カラム4は、カラムオーブン5内に設置されていることが望ましい。
【0022】
本発明の実施形態の一例においては、液体クロマトグラフ装置100の移動相1、カラム4、検出器6等の測定に影響を与える部品、部材を交換やメンテナンスして管理し正常な状態としておき、測定対象の特定濃度C1の標準物質の正常なクロマトグラム(標準クロマトグラム)を、この装置で予め測定しておくものである。そして、同じ既知濃度C1の標準物質で、管理状態が不明の装置にて実際に測定した実測クロマトグラムと波形や強度を比較して管理状態の診断を行う。
【0023】
図2に、測定対象の特定濃度C1の標準物質の標準クロマトグラムCR、及び実測クロマトグラムCRa、CRb、CRcを示す。
図2に示すように、標準クロマトグラムCRは、測定対象の標準試料の内部標準によるクロマトグラムであり、標準試料のピークS0の前後の保持時間にそれぞれ現れる第1内部標準aのピークS1及び第2内部標準bのピークS2を有する。
各ピークS0、S1、S2につき、それぞれ半値幅をW0、W1、W2、強度(例えばピーク面積)をA0、A1、A2で表す。
標準クロマトグラム及び実測クロマトグラムの波形を比較する際は、半値幅に限らず、例えば何らかの波形の広がり(ベースラインの幅)等を用いることもできる。
【0024】
図3に、記憶部8に記憶された診断基準(テーブル)J1を示す。この診断基準J1は、標準クロマトグラムCRに基づいており、各ピークS0、S1、S2につき、それぞれ半値幅の第1閾値Wx、Wy、Wz、及び強度(ピーク面積)の第2閾値Ax、Ay、Azを、管理情報に関連付けて記憶する。
【0025】
制御部9は、標準クロマトグラムCRに基づいて診断を行い、診断結果に応じて液体クロマトグラフ装置100に関する管理情報を報知する。
例えば、図2に示すように、濃度C1の標準物質で管理状態が不明の装置にて実際に測定したときに実測クロマトグラムCRaが得られたとする。制御部9は、実測クロマトグラムCRaから各ピークS0~S2の半値幅及び強度を取得し、実測クロマトグラムCRaのピークS0の半値幅W0aが第1閾値Wxを超えた場合、図3の診断基準J1を参照して固定相(カラム4)の不具合を報知する。
報知の方法は、例えば表示部10上に、「カラムを交換して下さい」と表示したり、音声で告知することが挙げられる。
【0026】
また、図2に示すように、別の実測クロマトグラムCRbが得られたとする。制御部9は、実測クロマトグラムCRbから各ピークS0~S2の半値幅及び強度を取得し、少なくともピークS0の強度A0aが第2閾値Ax未満の場合、図3の診断基準J1を参照して検出器の不具合(例えば、検出器のランプ交換)を報知する。
【0027】
また、図2に示すように、さらに別の実測クロマトグラムCRcが得られたとする。制御部9は、実測クロマトグラフCRcから各ピークS0~S2の半値幅及び強度を取得し、ピークS1又はS2の半値幅W1c、W2cの少なくとも一方が第1閾値Wy又はWzを超えた場合、図3の診断基準J1を参照して移動相の不具合(例えば、溶離液や溶媒の濃度の変動、溶媒の交換等)を報知する。
【0028】
なお、図2の実測クロマトグラムCRaの場合、標準試料のピークS0がテーリングを起こしてブロードになるが、内部標準のピークS1、S2のピークは殆ど広がらない。このような標準試料のピークS0のテーリングは、カラムの劣化に起因することが知られている。
一方、図2の実測クロマトグラムCRcの場合、標準試料だけでなく内部標準のピークS1、S2もブロードになるので、移動相の不具合であることがわかる。
【0029】
以上のようにして、液体クロマトグラフ装置100の管理が完了し、正常な状態であるか、何らかの不具合があるかをユーザが容易に認識できるので、交換やメンテナンス等の管理のタイミングが把握し易く、作業効率が向上する。
【0030】
ここで、内部標準を用いない実測クロマトグラムを測定した場合、標準試料のピークS0のみが現れるので、ピークS0のテーリングと、ブローデニングとの区別が付かない。
従って、標準クロマトグラム及び実測クロマトグラムとして、内部標準によるクロマトグラムを用い、内部標準を含む波形又は強度について診断を行うと、管理情報をさらに詳細に(例えば、固定相の不具合と移動相の不具合とに)区別できるので好ましい。
但し、内部標準を用いず、標準試料のピークS0が広がった場合に、包括的な管理情報(例えば、固定相と移動相の不具合のいずれか)を報知することも、もちろん本発明に含まれる。
【0031】
なお、図2の実測クロマトグラムCRbの例では、少なくともピークS0の強度A0bが第2閾値Ax未満の場合に管理情報を報知したが、ピークS0~S2の強度A0b~A2bのすべてがそれぞれ第2閾値を超えた場合や、これらの強度A0b~A2bのうち2以上が第2閾値を超えた場合、強度A0b~A2bのうちいずれか1つが第2閾値を超えた場合に管理情報を報知してもよい。
又、内部標準のピークS1、S2の第2閾値との比較の際に重みづけをしてもよい。例えば、検出器の不具合(検出器のランプ劣化)が生じた場合に、第1内部標準のピークS1の強度A1bの方が、第2内部標準のピークS2の強度A2bよりも顕著に低下することが既知の場合、強度A1bに重みづけ(例えば、強度A1bに1未満の値を乗じる)することで、検出器の不具合をより精度よく診断できる。
【0032】
又、図2の実測クロマトグラムCRcの例では、半値幅W1c、W2cの少なくとも一方が第1閾値Wy又はWzを超えた場合に管理情報を報知したが、ピークS0~S2の半値幅W0c~W2cのすべてがそれぞれ第1閾値を超えた場合や、これらの半値幅W0c~W2cのうち2以上が第1閾値を超えた場合、半値幅W0c~W2cのいずれか1つが第1閾値を超えた場合に管理情報を報知してもよい。又、内部標準のピークS1、S2の第1閾値との比較の際、上記と同様に重みづけをしてもよい。
【0033】
なお、測定対象、標準物質や分析条件が異なる場合は、測定対象、標準物質や分析条件ごとに標準クロマトグラムを測定して診断基準を記憶しておくことはいうまでもない。
例えば、品質管理部署や病院等の検査などの、1つのクロマトグラフ装置で常に同じ物質(又は近い物質)を分析する場合は、標準クロマトグラム及び診断基準は一律に設けておけばよい。
これに対し、例えば実験室レベルのクロマトグラフ装置のように、必要な実験や分析依頼毎に、溶媒やカラム等が付け替えられたり標準物質が変化する場合には、測定対象、標準物質や分析条件ごとに標準クロマトグラム及び診断基準を別個準備しておき、それぞれ異なる測定対象、標準物質や分析条件ごとに、異なる診断基準を呼び出すようにすればよい。
【0034】
なお、上記実施形態では、記憶部8に記憶された診断基準の基となる標準クロマトグラムCR、及び実測クロマトグラムは、いずれも同一濃度C1の標準物質についてのものであるので、濃度C1についての診断基準J1から一義的に診断を行えた。
しかしながら、実測クロマトグラムを測定する際、常に濃度C1の標準物質を入手できるとは限らない。
そこで、図4に示すように、診断基準J2を、標準物質の濃度Cと、第1閾値及び第2閾値との関数(又は式)とし、標準物質の濃度がC2の場合に、「濃度C2」と指定すると、診断基準J2に基づいて第1閾値及び第2閾値を取得するようにしてもよい。なお、図示はしないが、第1閾値及び第2閾値と、管理情報との間も関数(又は式)で関連付けられている。
なお、内部標準を用いる場合、内部標準の濃度は所定の値に定められているから、図3の診断基準J1と同様なテーブルで足りる。
【0035】
図5は、液体クロマトグラフ装置100のデータ処理装置7の処理フローを示す。
まず、データ処理装置7の制御部9は、記憶部8から診断基準J1を呼び出す(ステップS10)。診断基準は測定対象、標準物質や分析条件毎に記憶されており、ユーザが測定対象、標準物質や分析条件等を指定すると、対応した診断基準を読み出すようになっている。
次に、制御部9は、濃度(量又は割合)が既知の測定対象の標準試料の実測クロマトグラムを測定する(ステップS12)。そして、制御部9は、実測クロマトグラムの波形又は強度について、上述のように診断基準J1に基づいてクロマトグラフ装置に関する管理情報を報知する(ステップS14)。例えば、上述のように表示部10上に、「カラムを交換して下さい」と表示して報知すると、ユーザは適宜カラムを交換し、交換(保守)済の旨を液体クロマトグラフ装置100に適宜入力する。
【0036】
制御部9は、ステップS14の管理情報に対して保守済の入力があったか否かを判定する(ステップS16)。ステップS16で「No」であればステップS16に戻り、「Yes」であればステップS18に移行する。
ステップS18で、制御部9は、実測クロマトグラムを再測定し、診断基準J1に基づいて同様に管理状態を診断し、診断結果が正常(保守が不要な状態)か否かを判定する。
【0037】
ステップS18で「Yes」、つまり保守が不要であれば、必要に応じてサブルーチン「検量線の診断」を行った後、「保守完了」の旨を報知する(ステップS20)。一方、ステップS18で「No」であれば「保守不良」の旨を報知する(ステップS22)。
ステップS20、S22の報知は、ステップS14と同様に表示部10上に表示したり、音声で告知することが挙げられる。又、ステップS20、S22の後、処理を終了する。
ステップS20の報知を受けたユーザは、必要に応じて検量線を作成し、未知試料の測定を行うことができる。
【0038】
このように、ユーザによる保守が済んだ後に、実測クロマトグラムを再測定して再度診断を行い、その結果に応じて「保守完了」の旨を報知することで、保守が確実に行われたことを装置100側で認識することができ、保守の信頼性が向上する。
【0039】
図6は、図5の処理フローのサブルーチン「検量線の診断」を示す。
まず、制御部9は、記憶部8から検量線を呼び出す(ステップS30)。検量線も測定対象、標準物質や分析条件毎に記憶されており、ユーザが測定対象、標準物質や分析条件等を指定すると、対応した検量線を読み出すようになっている。
次に、制御部9は、濃度(量又は割合)が既知の測定対象の標準試料の実測クロマトグラムを測定し、測定対象を定量する(ステップS32)。そして、制御部9は、検量線と比較して標準試料の定量は正常か否かを判定する(ステップS34)。
【0040】
ステップS34の判定は、例えば図7に示すようにして行うことができる。
つまり、図7に示すように、既知の濃度C2の標準物質の実測クロマトグラフを測定する際、制御部9は、実測した標準物質の強度Arに基づき、検量線V1から標準物質の濃度をCrと推定する。一方、この標準物質はそもそも濃度がC2であるから、制御部9は、実際の濃度C2と推定濃度Crとの差Dを所定の閾値Dx(本例では図の診断基準J1に閾値Dxのデータも記憶されている)と比較し、差Dが閾値Dxを超えたら検量線の不具合と判定できる。
【0041】
このようにして、差Dが閾値Dxを超えた場合、ステップS34で「No」と判定され、ステップS36で制御部9は、検量線の不具合の報知や、必要に応じて検量線の補正の必要性を報知し、サブルーチン処理を終了する。
一方、差Dが閾値Dx以下の場合、ステップS34で「Yes」と判定し、サブルーチン処理を終了する。
また、差D及び/又は閾値Dxは、図7の検量線の傾きを用いることにより縦軸の強度Aに変換可能であり、差D及び/又は閾値Dxは変換された強度Aを判定値として用いてもよい。
なお、検量線V1は、測定対象の強度(ピーク強度又はピークの面積)と、測定対象の量又は割合(濃度等)との関係を示す。検量線V1は外部標準法と内部標準法のいずれによるものでもよい。
【0042】
このように、ステップS18の診断で正常な場合、検量線による標準試料の測定を行うことで、検量線の不具合の有無を判定できる。そして、検量線V1が不具合であることを直ちに把握できるので、検量線を作成し直す判断材料となり、検量線を過不足なく再作成できる。なお、ステップS20の「保守完了」の報知にて、検量線の不具合の有無を同時に報知してもよい。
【0043】
又、制御部9は、図5のステップS18で「No」と判定した場合に、その後の測定対象を含む未知試料の測定を停止する処理を行っても良い。又、管理済の情報を記憶部10に記憶し、次回の測定時に表示する等してもよい。管理完了情報を分析結果と合わせて出力してもよい。
このようにすると、液体クロマトグラフ装置100が管理不良のまま測定に移行することを防止でき、不正確な測定を抑制できる。
【0044】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0045】
1 移動相
4 固定相(カラム)
6 検出器
9 制御部
10 記憶部
100 (液体)クロマトグラフ装置
CR 標準クロマトグラフ
CR1~Cr3 実測クロマトグラフ
J1、J2 診断基準
W0~W2 標準クロマトグラフの波形
A0~A2 標準クロマトグラフの強度
W0a、W0c~W2c 実測クロマトグラフの波形
A0b~A2b 実測クロマトグラフの強度
Wx 第1閾値
Ax 第2閾値
S0 標準試料のクロマトグラフのピーク
V1 測定対象の検量線
Cr 標準試料の推定量又は推定割合
C2 標準試料の実際の量又は割合
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7