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特許7187095ジベンゾフラン-1-イル又はジベンゾチオフェン-1-イル基を有するアントラセン誘導体及びそれを用いた有機電子デバイス
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  • 特許-ジベンゾフラン-1-イル又はジベンゾチオフェン-1-イル基を有するアントラセン誘導体及びそれを用いた有機電子デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】ジベンゾフラン-1-イル又はジベンゾチオフェン-1-イル基を有するアントラセン誘導体及びそれを用いた有機電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/91 20060101AFI20221205BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221205BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C07D307/91 CSP
C09K11/06 690
H05B33/14 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019028321
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020132571
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】川村 久幸
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0027676(KR,A)
【文献】特表2012-522041(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0131963(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0071850(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0075982(KR,A)
【文献】国際公開第2010/010924(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(5):
【化1】
(式中R1、R3、R4、R5~8、及びR11~R17はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、フッ素原子、置換又は非置換の炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択され;Xは酸素原子であり;R21及びR22はそれぞれ独立に、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成炭素原子数5~30のヘテロアリール基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~5のいずれかの整数を表す。)
で表される化合物。
【請求項2】
式中R1、R3、R4、R5~8、及びR11~R17はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、非置換の炭素数1~8のアルキル基、及び非置換の環構成原子数6~30のアリール基からなる群から選択され;Xは酸素原子であり;R21及びR22はそれぞれ独立に、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記式(6):
【化2】
で表される、請求項に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物からなる、有機電子デバイス用材料。
【請求項5】
前記有機電子デバイスが有機エレクトロルミネッセンスデバイスである、請求項に記載の材料。
【請求項6】
有機エレクトロルミネッセンスデバイスの発光材料である、請求項に記載の材料。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化学構造を有する、ジベンゾフラン-1-イル又はジベンゾチオフェン-1-イル基を有するアントラセン誘導体、及びそれを用いた有機電子デバイス、例えば、有機太陽電池、有機感光体(OPC)、有機発光デバイス、より詳細には有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイス、有機トランジスタ、特に有機発光デバイス、なかでも有機ELデバイスに関する。本発明のアントラセン誘導体は、特に有機ELデバイスのための発光材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
有機電子デバイスは、正孔および/または電子を用いた、デバイスを構成する電極と有機物層間での電荷の輸送を必要とする素子である。有機電子デバイスは、動作原理に応じ、以下のように大きく2つの種類に分けることができる。第1の種類のデバイスは、外部の光源からデバイスに入射した光子によって有機物層において励起子が形成され、この励起子が電子と正孔に分離し、この電子と正孔が各々別々の電極に輸送されて生じる起電力を利用する形態の電子デバイスである。第2の種類のデバイスは、2つ以上の別々の電極に電圧を印加しまたはデバイスに電流を流して、それぞれの電極に接する有機物半導体層に正孔および/または電子を注入し、注入された電子と正孔によって動作する形態の電子デバイスである。第1の種類のデバイスには、例えば、有機太陽電池及び有機感光体(OPC)が含まれる。第2の種類のデバイスには、例えば、有機発光デバイス、より詳細には有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイス、有機トランジスタが含まれる。
【0003】
有機電子デバイスの中でも、有機ELデバイスは、通常、アノードとカソードおよびこれらの電極間に配置された、発光層を含めた有機物層を含む構造を有する。有機ELデバイスでは、アノード及びカソードからそれぞれ注入された正孔及び電子が再結合して生じる励起子のエネルギーを利用して発光材料から発光が生じる。ここで、一般に、有機ELデバイスの有機物層は、その有機ELデバイスの特性、例えば、発光効率を高めるためにそれぞれ異なる機能を備えた異なる物質を含んでなる複数の層からなる多層構造を有し、それら複数の層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層などからなる。しかし、これらの層はそのうちのいくつかの機能を1つの層が担うことができ、したがって、これらの層のいくつかは省略してもよい。さらに、これらの有機物層に加えて、電極表面の平坦性を高めるための平坦化層、発光層に正孔、電子、及び/又は励起子を閉じ込めるための、正孔阻止層、電子阻止層、及び/又は正孔阻止層を有機ELデバイスの有機層に含めることもできる。
【0004】
このような構造を有する有機ELデバイスにおいて、二つの電極の間に電圧を印加した場合、アノードからは正孔が、カソードからは電子が有機物層に注入され、注入された正孔と電子が結合した時に発光性分子においてその分子の基底状態エネルギーよりも高いエネルギーを有する励起子が形成され、この励起子が基底状態に戻る時に発光が生じる。このような有機ELデバイスは、自発光型の発光デバイスであって、従来のバックライトを用いる液晶デバイスと比較して、高輝度、高効率、低い駆動電圧、広い視野角、高いコントラスト、及び高速応答などの特性を有しうることが知られている。
【0005】
有機ELデバイスにおいて用いられる発光材料は、発光色に応じて、青色、緑色、赤色の発光材料と、より良い天然色を実現するために必要な黄色および橙色の発光材料に分類することができる。また、発光層を一つの物質だけから形成した場合、分子間相互作用によって最大発光波長が長波長に移動して色純度が低下したり、発光減衰効果によって素子の効率が低下したりする問題が発生しうるので、発光の高い色純度及び発光効率の向上のために、発光材料とホスト又はドーパント材料とを含むホスト/ドーパント系を発光層に用いることができる。
【0006】
有機ELデバイスの青色発光材料として用いることができる化合物として、例えば、ペリレン系化合物、ピレン系化合物、クリセン系化合物、アントラセン系化合物などの多環式芳香族炭化水素、スチレン又はビススチリルベンゼンなどのスチレン系炭化水素化合物、及びそれらの芳香族アミノ基置換体などが知られている。
【0007】
発光材料として用いることができるアントラセン系化合物としては、例えば、米国特許第5,935,721号明細書に、9,10-ジアリール置換アントラセンが記載されている。同明細書には、そのアリール基がさらにヘテロアリール基、例えばピリジル基等で置換された化合物も記載されている。また、国際公開第2005/056505号には、アントラセン環の2位に、オルト位がアリール基で置換されたフェニル基が置換した化合物と、それを有機ELデバイスの発光材料として用いることが記載されている。さらに、国際公開第2005/113531号の[化7]~[化11]には、アントラセン環に直接又はアリーレン又はヘテロアリーレン基を介してジベンゾフラン又はジベンゾチオフェン環がそれらの4位で結合した化合物が記載されており、これらを発光材料として有機ELデバイスに用いることも記載されている。しかし、これらの特許文献には、ジベンゾフラン又はジベンゾチオフェン環がその1位で直接又はアリーレン若しくはヘテロアリーレン基を介してアントラセン環に結合した化合物、及びそれを有機ELデバイスの発光材料として用いることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5,935,721号明細書
【文献】国際公開第2005/056505号
【文献】国際公開第2005/113531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したとおり、有機電子デバイス、例えば有機ELデバイスのための材料、例えば発光材料として様々な化合物が開発されてきているが、さらに優れた特性を有する化合物あるいはこれまでに知られていない新規な化学構造を有する化合物の開発が依然として求められている。本発明は、有機電子デバイス、特に有機ELデバイスのための材料、特に発光材料として有用な新規な化合物及びそれを用いた有機電子デバイス、特に有機ELデバイスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では以下に説明する化合物を、有機電子デバイスの材料、特に有機ELデバイスの発光材料として用いる。
【0011】
本発明の化合物は、下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R1~R10はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、フッ素原子、CN基、置換又は非置換の炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択され;但し、R1~R4及びR5~R8のいずれか少なくとも1つが下記式(2):
【化2】
(式(2)中、*は式(1)のアントラセン環との結合部位を示し;Aは単結合、置換もしくは非置換の環構成原子数6~30のアリーレン基、又は置換もしくは非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリーレン基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子であり;R11~R17はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、フッ素原子、CN基、置換又は非置換の炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択される。)]
で表される。
【0012】
さらに上記式(1)の化合物は、下記式(3):
【化3】
(式中、A、X、R1~R17は上で定義したとおりである。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0013】
さらに上記式(1)の化合物は、特に下記式(4):
【化4】
(式中、X及びR1~R17は上で定義したとおりである)
で表される化合物であることが好ましい。
【0014】
上記式(1)、(3)、及び(4)において、R9及びR10は同一であるか又は異なり、それぞれ置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基であることが好ましい。
【0015】
上記式(1)、(3)、及び(4)において、R9及び/又はR10が置換アリール基である場合、その置換基が置換又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択されることが好ましい。
【0016】
上記式(1)の化合物は、下記式(5):
【化5】
(式中R1、R3、R4、R5~8、及びR11~R17、並びにXは式(1)について定義したとおりであり;R21及びR22はそれぞれ独立に、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成炭素原子数5~30のヘテロアリール基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~5のいずれかの整数を表す。)
で表される化合物であることが特に好ましい。
【0017】
上記式(5)で表される化合物のなかでも、とりわけ、下記式(6):
【化6】
で表される化合物が好ましい。
【0018】
本発明は、上述した化合物からなる、有機電子デバイス用材料も提供する。
【0019】
上記有機電子デバイスは、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機ELデバイス)であることが好ましい。
【0020】
上記有機電子デバイス用材料は、有機ELデバイスのための発光材料であることが特に好ましい。
【0021】
本発明はまた、上述したいずれかの化合物を含む、特に発光材料として含む、有機ELデバイスも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の有機ELデバイスの典型的な構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について以下にさらに詳細に説明する。
【0024】
本明細書において「アルキル基」には、直鎖状アルキル基、分枝状アルキル基、及び環状アルキル基が含まれる。炭素数1~8の直鎖状又は分枝状アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、及び2-エチルヘキシル基などが挙げられるがこれらに限定されない。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びこれらの環状アルキル部分構造を含むアルキル基、例えばメチルシクロプロピル及びメチルシクロヘキシル基などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
本明細書において「アリール基」は芳香族炭化水素基をいい、例えば、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、フルオレニル、スピロビフルオレニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル、アセナフチレニル、フルオランテニル、ピレニル、クリセニル、トリフェニレニル、及びペリレニル基が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書においてはフルオレニル基も広義のアリール基もしくは置換アリール基に含む。本明細書において「アリーレン基」は上記「アリール基」からさらに水素原子1つが除かれた2価の基をいう。
【0026】
本明細書において「ヘテロアリール基」はヘテロ原子を環構成原子として1個以上含む芳香族複素環基をいい、例えば、インデニル基、ベンゾインデニル基、ピロリル基、インドリル基、カルバゾリル基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基(特に、ジベンゾフラン-1-イル基、ジベンゾフラン-2-イル基、ジベンゾフラン-3-イル基、及びジベンゾチオフェン-4-イル基)、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基(特に、ジベンゾチオフェン-1-イル基、ジベンゾチオフェン-2-イル基、ジベンゾチオフェン-3-イル基、及びジベンゾチオフェン-4-イル基)、セレノフェニル基、ベンゾセレノフェニル基、ジベンゾセレノフェニル基(特に、ジベンゾセレノフェン-1-イル、ジベンゾセレノフェン-2-イル、ジベンゾセレノフェン-3-イル基、及びジベンゾセレノフェン-4-イル基)、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、キノリニル基、及びキノキサリニル基が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書において「ヘテロアリーレン基」は上記「ヘテロアリール基」からさらに水素原子1つが除かれた2価の基をいう。
【0027】
本発明の化合物において、上述したアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリーレン、及びヘテロアリーレン基はそれぞれ独立に非置換であるか又は置換基を有していることができる。これらの置換基の種類は特に限定されないが、独立に、重水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、又は臭素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、環炭素原子数6~30のアリール又は環原子数5~30のヘテロアリール基、環炭素原子数6~30のアリール又は環原子数5~30のヘテロアリールオキシ基、環炭素原子数6~30のアリール又は環原子数5~30のヘテロアリール基を置換基として有するモノ又はジ置換アミノ基、環炭素原子数6~30のアリール又は環原子数5~30のヘテロアリール基を置換基として有するトリアリールシリル又はトリヘテロアリールシリル基からなる群から選択される基であることが好ましい。置換基の数は、置換基が存在する場合には、1から置換可能な最大数までの任意の数であることができる。
【0028】
特に好ましい置換基は、それぞれ独立に、重水素原子、環炭素原子数6~30のアリール基、環炭素原子数5~30のヘテロアリール基、モノアリールアミノ基又はジアリールアミノ基(アリール基は環炭素原子数6~30のアリール基である)、及びトリアリールシリル基(アリール基は環炭素原子数6~30のアリール基である)からなる群から選択される。
【0029】
本発明の化合物は、下記一般式(1):
【化7】
で表される。
式(1)中、R1~R10はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、フッ素原子、CN基、置換又は非置換の炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択される基を表す。
但し、式(1)において、R1~R4及びR5~R8のいずれか少なくとも1つが、好ましくはR2、R3、R6、及びR7のうちのいずれか1つ又は2つが、さらに好ましくは、R2、R3、R6、及びR7のうち1つが、あるいはR2及びR6、R3及びR7、R2及びR7、又はR3及びR6が、独立に、下記式(2):
【化8】
で表される基であることを条件とする。R2、R3、R6、及びR7のうち2つ以上が式(2)で表される基である場合、それらは同じ基であることが好ましい。
式(2)中、*は式(1)のアントラセン環との結合部位を示し;Aは単結合、置換もしくは非置換の環構成原子数6~30のアリーレン基、又は置換もしくは非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリーレン基、好ましくは、単結合又は非置換のアリーレン基、特に好ましくは単結合を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子、好ましくは酸素原子であり;R11~R17はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、フッ素原子、CN基、置換又は非置換の炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択される。R11~R17は独立に水素又は重水素であることが特に好ましい。Aが示すアリーレン基は、独立に、フェニレン、ビフェニレン、又はナフチレン基であることが好ましい。
【0030】
式(1)の定義中、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アリーレン、ヘテロアリーレン、及びそれらが有していてもよい置換基は上述したとおりである。
【0031】
上記式(1)で表される化合物は、下記式(3);
【化9】
で表される、アントラセン環の2、3、6、又は7位に上記式(2)で表される基が1位又は9位で結合した化合物であることが好ましい。
式(3)中、A、X、R1~R17は上の式(1)及び(2)について定義したとおりである。
【0032】
さらに上記式(1)の化合物は、下記式(4):
【化10】
で表される化合物であることが好ましい。式(4)の化合物は、上記式(3)においてAが単結合である場合である。
式(4)中、X及びR1~R17は上の式(1)及び(2)について定義したとおりである)
【0033】
さらに、上記式(1)、(3)、及び(4)において、R9及びR10は同一であるか又は異なり、それぞれ置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基であることが好ましい。R9及びR10が表す置換又は非置換アリール基は、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、tert-ブチルフェニル、ビフェニル、ターフェニル、1-又は2-ナフチル、及びフェナントレニルからなる群から独立に選択される基であることが好ましい。
【0034】
また、上記式(1)、(3)、及び(4)において、R9及び/又はR10が置換アリール基である場合、その置換基が置換又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基及び置換又は非置換の環構成原子数5~30のヘテロアリール基からなる群から選択される基であることが好ましい。これらのアリール及びヘテロアリール基が有していてもよい置換基は上で述べたとおりである。
【0035】
さらに、上記(1)、(3)、及び(4)において、R9及びR10は同一であるか又は異なり、好ましくは同一であって、それぞれ置換又は非置換の環構成原子数6~30のアリール基であり、かつR1、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8が独立に水素又は重水素原子、好ましくは水素原子であることが好ましい。環構成原子数6~30のアリール基が有していてもよい置換基は上述したとおりであるが、非置換であることが特に好ましい。
【0036】
式(1)の化合物のなかでも特に好ましい化合物は、下記式(5):
【化11】
で表される化合物である。
式(5)中、R1、R3、R4、R5~8、及びR11~R17、並びにXは式(1)について定義したとおりであり;R21及びR22はそれぞれ独立に、重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、置換又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基、及び置換又は非置換の環構成炭素原子数5~30のヘテロアリール基、特に好ましくはそれぞれ独立に重水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0~5のいずれかの整数、好ましくは0又は1、特に好ましくは0を表す。Xは酸素原子であることが好ましい。
【0037】
上記式(5)で表される化合物のなかでも、とりわけ、下記式(6):
【化12】
で表される化合物が好ましい。
式(6)において、X、R21、R22、m、及びnは上記式(5)について定義したとおりである。Xは酸素原子であることが好ましい。R21及びR22は独立に、炭素数1~8のアルキル基、又は非置換の環構成炭素原子数6~30のアリール基であることが好ましい。
【0038】
本発明の化合物の具体例を以下に示すが、本発明の化合物はこれらに限定されない。
【化13】
【化14】
【化15】
(これらの式中、XはO又はSを表す。)
【0039】
本発明の化合物は、分子内にアントラセン環と、ジベンゾフラン-1-イル又はジベンゾチオフェン-1-イル基(あるいは、ジベンゾフラン-9-イル又はジベンゾチオフェン-9-イル基)を有し、ジベンゾフラン又はジベンゾチオフェン環がその1位(又は9位)で結合していることによって、ジベンゾフラン又はジベンゾチオフェン環がその4位等の他の位置で結合した異性体と比較して、本発明の化合物を発光材料として用いた場合に、より優れた特性を有する有機ELデバイスが得られるという効果を奏することができる。
【0040】
したがって、上述した本発明の化合物は、有機電子デバイス用の材料、特に有機ELデバイスのための材料、特に有機ELデバイスのための発光材料、好ましくは青色発光材料として用いることができる。
【0041】
したがって、本発明は、本発明の化合物を含む、有機ELデバイスにも関する。
【0042】
[有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機ELデバイス)]
有機ELデバイスは、一般に、第1電極と第2電極およびこの間に配置された1つ以上の有機物層を含み、第1電極及び第2電極のうち少なくとも1つが光透過性電極である。これら2つの電極の間に電圧を印加して、有機層にアノードから正孔を注入し、カソードから電子を注入すると、正孔と電子が有機物層中で再結合し、再結合によって生じる励起子のエネルギーを利用して有機物層中に含まれる発光体すなわち発光材料が発光する。有機ELデバイスは、その有機物層からの発光を、光透過性電極側から取り出す構造を有する。有機ELデバイスのデバイス構造は一つに限定されず、様々なデバイス構造が提案されている。発光方式についても、トップ・エミッション型、ボトム・エミッション型、及び両面エミッション(両面発光)型などが知られている。本発明の有機ELデバイスの有機物層は1層からなる単層構造であってもよいが、発光層を含む2層以上の多層構造であってもよい。本発明の有機ELデバイスの有機物層が多層構造を有する場合は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが積層された構造であってもよい。さらに、電極表面を平坦化するための平坦化層、正孔阻止層、電子阻止層、及び励起子阻止層などの様々な層を設けて、有機ELデバイスの特性を向上させることができることが知られている。上述した本発明の化合物は、全ての発光方式及び構造の有機ELデバイスにおいて用いることができる。したがって、本発明の化合物を含む有機ELデバイスは、その発光の方式及びデバイス構造は特定のものに限定されない。また、本発明の上記化合物は、有機ELデバイスのための発光材料、特に青色発光材料として有用である。
【0043】
有機ELデバイスの典型的な構造を図1に示す。図1において、1は基板、2はアノード、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は有機発光層、6は電子輸送層、そして、7はカソードを示している。通常、図1のような構造の有機ELデバイスを正方向構造の有機ELデバイスという。本発明の有機ELデバイスは、このような正方向構造であることができるが、この構造のものに限定されず、逆方向構造の有機ELデバイス、すなわち、基板、カソード、電子輸送層、有機発光層、正孔輸送層、正孔注入層および正極が順次積層された構造を有していてもよい。また、これらの複数の有機層からいくつかを省略することもできる。また、本発明の有機ELデバイスは、上述したデバイス構造のものに限定されず、有機ELデバイスの構造として公知のどのようなデバイス構造を有していてもよい。
【0044】
本発明に係る有機ELデバイスは、本発明の化合物を有機層に含むことを条件とするほかは、公知の有機ELデバイスの製造方法および有機ELデバイスに用いられる材料を用いて製造することができる。例えば、本発明に係る有機ELデバイスは、スパッタリングや電子ビーム蒸着などの物理蒸着(PVD)法を利用して、基板上に金属、合金、または導電性を有する金属酸化物、及びそれらの組み合わせを蒸着してアノードを形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層などから選択される発光層を含めた1つ以上の層を含む有機物層を形成した後、その上にカソードとして用いることのできる物質を蒸着することによって製造することができる。このような方法の他にも、前述したように逆方向構造の有機ELデバイスを製作するために、基板上にカソード物質から有機物層、アノード物質を順次蒸着して有機ELデバイスを作ることもできる。また、上述した有機物層のいくつかを省略すること及び上述したもの以外の有機物層を追加することもできる。
【0045】
有機物層を形成する方法として、蒸着法の他に、溶液法、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレードコーティング、スクリーン印刷、又はインクジェット印刷、あるいは熱転写法などの方法を用いることもできる。さらに、有機ELデバイス中の異なる有機層に対して、溶液法と蒸着法を組み合わせて用いることもできる。
【0046】
アノードのための材料としては、通常、有機物層への正孔注入が円滑になるように仕事関数の大きい物質を用いることが好ましい。本発明で用いられるアノード材料の具体例としては、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金などの金属、またはこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物;ZnO:AlまたはSnO:Sbなどの金属と酸化物の組み合わせ;ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ[3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェン](PEDOT)、ポリピロールおよびポリアニリンなどの導電性高分子などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0047】
カソードのための材料としては、通常、有機物層への電子注入が容易になるように仕事関数の小さい物質を用いることが好ましい。カソード材料の具体例としては、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズおよび鉛などの金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alなどの多層構造の物質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
正孔注入材料は、低い電圧においてアノードからの正孔の注入を円滑に受けられる物質であって、正孔注入材料の最高被占軌道(HOMO)が、アノード材料の仕事関数と正孔注入層に隣接するアノードと反対側の有機物層のHOMOとの間であることが好ましい。正孔注入材料の具体的な例としては、金属ポルフィリン、オリゴチオフェン、アリールアミン系の有機物、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン系の有機物、キナクリドン系の有機物、ペリレン系の有機物、アントラキノンおよびポリアニリンとポリチオフェン系の導電性高分子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
正孔輸送層の材料としては、アノードや正孔注入層から正孔の輸送を受けて発光層に正孔を移動させることができる材料であって、正孔移動度の大きい材料が好適である。具体的な例としてはアリールアミン系の化合物;カルバゾール系の化合物;アントラセン系の化合物;ピレン系の化合物;導電性高分子、および共役部分と非共役部分が共に存在するブロック共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
発光層を構成する発光材料として本発明の化合物を用いることができる。発光層は本発明の化合物を単独で用いて構成してもよいが、本発明の化合物を発光ホスト材料として用いて、ドーパント材料と組み合わせて発光層を形成することが好ましい。本発明の化合物とドーピント材料を組み合わせて用いる場合、ドーパント材料の量は、本発明の化合物の質量に対して、0.01~50質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがさらに好ましい。発光層のホスト材料として、本発明の化合物を1種、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、本発明の化合物以外の発光体を本発明の化合物と併用することもできる。本発明の化合物と組み合わせて発光層のホスト材料として用いることができる化合物としては、発光体であるアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン、4,4’-ビス[4-ジ-p-トリルアミノ]スチリル]ビフェニルなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8-キノリナート)アルミニウム(III)などの金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ピロロピロール誘導体などの非ポリマー化合物;及び、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などのポリマー化合物から選択される化合物を挙げることができるが、これらの化合物には限定されない。
【0051】
一方、発光層において本発明の上記化合物を1種、又は2種以上組み合わせてホスト材料として用いる場合、それと組み合わせてドーパント材料として用いることができる化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、トリフェニレン、ペリレン、フルオレン、インデンなどのアリール環を有する化合物やその誘導体、例えば2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-9,10-ジフェニルアントラセンや5,6,11,12-テトラフェニルナフタセン;フラン、ピロール、チオフェン、シロール、9-シラフルオレン、9,9’-スピロビシラフルオレン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテンなどのヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体;ジスチリルベンゼン誘導体、4,4’-ビス(2-(4-ジフェニルアミノフェニル)エテニル)ビフェニル、4,4’-ビス[4-ジ-p-トリルアミノ]スチリル]ビフェニル、及び4,4’-ビス(N-(スチルベン-4-イル)-N-フェニルアミノ)スチルベンなどのアミノスチリル誘導体;芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、2,3,5,6-1H,4H-テトラヒドロ-9-(2’-ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1-gh]クマリンなどのクマリン誘導体;イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体およびその金属錯体;及び、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体などが挙げられる。また、国際公開第2015/174682号に記載されている芳香族アミノ基含有複素環式化合物も、本発明の化合物を発光層のホスト材料として用いる場合にドーパント材料として用いることができる好ましい化合物として挙げることができる。しかし、ドーパント材料と用いることができる化合物はこれらに限定されない。
【0052】
電子輸送材料としては、カソードから電子の注入を円滑に受けて、それを発光層に移動させることができる材料であって、電子移動度の大きい物質を用いることが好ましい。電子輸送材料の具体例としては8-ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alqを含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン-金属錯体;アントラセン系の化合物;ピレン系の化合物;ベンゾオキサゾール、ベンズチアゾールおよびベンズイミダゾール系の化合物;ピリジン系の化合物;フェナントロリン系の化合物;キノリン系の化合物;キナゾリン系の化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの化合物に金属または金属化合物をドーピングすることによって電子輸送層を形成してもよい。
【0053】
上述した各層の他に、必要に応じて、電極表面を平坦化するための平坦化層;正孔、電子、及び励起子を目的とする有機層に閉じ込めるための、正孔阻止層、電子阻止層、及び励起子阻止層から選択される層を、有機ELデバイスに用いることもでき、そのような技術は公知の技術である。そのほかにも、有機ELデバイスに関する公知の技術を、本発明の化合物を含む有機ELデバイスに適用することができる。
【0054】
本発明の化合物は、上述した有機ELデバイスに限らず、その他の有機電子デバイス、例えば、有機太陽電池、有機感光体、有機光センサ、有機トランジスタなどのデバイスのための材料として用いることができる。これらのデバイスの作動原理及びデバイス構造は当技術分野で知られている。以下に、本発明の理解を助けるために比較例と好ましい実施例の結果を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例
【0055】
[合成例]
(1)化合物Aの合成
【化16】
【0056】
アルゴン導入口と撹拌装置を備えた300 mlの三口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、2-ヨードアントラキノン(Mw 334.1, 4.68 g,14 mmol)、ジベンゾフラン-1-ボロン酸(Mw 212.01、3.6 g, 17 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)0.32 g(0.35 mmol)、炭酸セシウム14 g(43 mmol)、及び無水ジオキサン40 mlを入れ、撹拌して懸濁液とした。この懸濁液に、トルエン中25質量%濃度のトリシクロヘキシルホスフィンの溶液1.1 ml(0.98 mmol)を添加し、得られた混合物を80℃にて、10時間、アルゴン雰囲気下で加熱及び撹拌して反応させた。反応後、この反応懸濁液に、約100 mlの水と約300 mlのトルエンを添加し、撹拌した後、その混合物をセライト(和光純薬製、カタログNo. 531-16855)を通してろ過した。得られた濾液を50 mlの飽和食塩水で洗い、有機層に硫酸マグネシウムを添加して水分を吸収させた。この懸濁液をさらにセライトを通してろ過し、得られた濾液を濃縮した。濃縮物にメタノールを添加し、その混合物に超音波を照射した。生成した固体をろ過によって集め、乾燥して、91%の収率で4.7 gの淡黄色粉末を得た。これを化合物Aとする(電界脱離質量分析;m/z = 374が観測された)。
【0057】
(2)化合物1の合成
【化17】
【0058】
アルゴン導入口と撹拌装置を備えた300 mlの三口フラスコに、2.0 g(13 mmol)のブロモベンゼン、20 mlの無水トルエン、及び20 mlの無水テトラヒドロフランを入れ、-20℃に冷やした。この溶液に、アルゴン雰囲気下で、n-ブチルリチウムのヘキサン溶液8.6 ml(1.59 mol/L, 14 mmol)を添加し、-20℃で1時間撹拌した。次に、化合物A 1.5 gを添加し、室温で5時間撹拌した。次に飽和NH4Cl水溶液50 mlを添加し、有機層を分離し、これを飽和食塩水50 mlで洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥させた後、濃縮した。次に、泡が現れなくなるまで、3分間、減圧脱気を行った。この溶液に、トリ-t-ブチルホスフィンの10質量%ヘキサン溶液 0.5 ml(0.3 mmol)を添加し、混合物を窒素雰囲気下で120℃にて5時間加熱及び撹拌して反応させた。生じたオイルをカラムクロマトグラフィーで精製して、白色粉末0.8 gを得た(収率39%)。白色粉末は化合物1だった(電界脱離質量分析;m/z = 496が観測された)。
【0059】
[デバイス例1]
最初に、予めパターンを形成し洗浄しておいたITOガラス基板に、UV-オゾン(O)を用いた表面処理を行った。ITOガラス基板のITO層(第1の電極)の厚さは、約150 nmだった。表面処理の後、ガラス基板を、有機層を形成させるための蒸着装置に入れて、正孔注入層、正孔輸送層(HTL)、発光層、及び電子輸送層を1つずつ、約10-4~約10-6 Paの真空度において堆積させた。
正孔注入層は、4,4’,4”-トリス(N,N-2-ナフチルアミノ)トリフェニルアミン(2-TNATA)を用いて、約60 nmの層厚さに形成した。正孔輸送層(HTL)は、N,N’-ビス(ナフチル-1-イル)-N,N’-ジフェニル-4,4’-ベンジジン(NPD)を用いて、約30 nmの層厚さに形成した。発光層は、発光ホスト材料として化合物1を、ドーパント材料として以下に示す化合物D-1を用いて、約25 nmの層厚さに形成した。ドーパント材料のドーピング量は、ホスト材料の総量を基準にして5質量%だった。電子輸送層は、Alq3を使用して約25 nmの層厚さに形成した。
次に、基板を、金属層を形成するための蒸着装置に移し、電子注入層及び第2の電極を約10-4~約10-6 Paの真空度において堆積させ、それにより有機ELデバイスを作製した。
電子注入層はフッ化リチウム(LiF)を用いて約1 nmの層厚さに形成し、第2の電極はアルミニウムを用いて約100 nmの層厚さに形成した。こうして例1の有機ELデバイスを上述した方法により作製した。
【0060】
[比較例1]
比較例1の有機ELデバイスは、化合物1に代えて化合物Ref-1を用いて発光層(EML)を形成したことを除いて、例1に記載した方法と実質的に同じ方法を行うことによって作製した。
【0061】
【化18】
【0062】
例1及び比較例1にしたがって作製したそれぞれの有機ELデバイスの評価結果を表1に示している。作製した有機ELデバイスの発光特性は、浜松ホトニクス社のC9920-11輝度配光特性測定装置を使用して、10 mA/cm2の電流密度において評価した。表1中、LT95は、初期輝度の95%になるまでの時間を相対値で示した値である。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示した結果を参照すると、発光層(EML)が本発明の1つの態様にしたがう化合物1を用いて形成された例1の有機ELデバイスの寿命は、アントラセン環に対するジベンゾフランの結合位置が化合物1とは異なる化合物Ref-1を用いて作製した比較例1の有機ELデバイスと比較して向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の化合物は、有機電子デバイスのための材料として、特に有機ELデバイスのための発光材料として用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1・・・基板
2・・・アノード
3・・・正孔注入層
4・・・正孔輸送層
5・・・発光層
6・・・電子輸送層
7・・・カソード
図1