(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】非水系電解液及びそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20221205BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20221205BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221205BHJP
C07F 9/30 20060101ALI20221205BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20221205BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20221205BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20221205BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20221205BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20221205BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
C07F9/30
C07F7/08 B
C07F19/00
H01G11/06
H01G11/64
H01G11/60
(21)【出願番号】P 2020509219
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013280
(87)【国際公開番号】W WO2019189414
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018060482
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】竹原 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】川上 大輔
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/095724(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/012067(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02128923(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0112122(KR,A)
【文献】特許第5704277(JP,B1)
【文献】特開2015-167129(JP,A)
【文献】特開2017-004947(JP,A)
【文献】特開2017-036273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
C07F 9/30
C07F 7/08
C07F 19/00
H01G 11/06
H01G 11/64
H01G 11/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系電解液二次電池用の非水系電解液であって、
非水溶媒及び下記式(1)で表される化合物を含有する非水系電解液。
【化1】
(式(1)中、P及びOは略号では無く元素記号である。
X
1及びX
2はそれぞれ独立して、C、S又はPを表す。
n
1、n
2はそれぞれ独立して、X
1
、X
2がCまたはPのときは1であり、Sのときは2である。
n
1はX
1がCまたはPのときは1であり、Sのときは2である。
n
2はX
2がCまたはPのときは1であり、Sのときは2である。
Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基又は-OW基(Wは置換基を有してもよい炭化水素を表す。)を表す。
m
1はX
1がCまたはSのときは1、Pのときは2であり、m
2はX
2がCまたはSのときは1、Pのときは2である。
Zは、置換基を有してもよい炭化水素基、-SiV
3基(Vは置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)、有機オニウム、金属を表す。)
【請求項2】
前記式(1)において、X
1及びX
2がCであり、n
1及びn
2が1であり、かつm
1及びm
2が1であるものを含む、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記式(1)において、Y
1及びY
2がそれぞれ独立して、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基からなる群より選ばれる基であるか、又は
Wが水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基からなる群より選ばれる-OW基である、請求項1または2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記式(1)において、Zが水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基、からなる群より選ばれる基であるか、又は
Vが水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基からなる群より選ばれる-SiV
3基、水素若しくはアルカリ金属であるものを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物を、0.001質量%以上10質量%以下で含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
電解質を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記非水系電解液が、更に、フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、イソシアネート基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項8】
前記フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、イソシアネート基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の非水系電解液全量に対する合計含有量が、0.001質量%以上50質量%以下である、請求項7に記載の非水系電解液。
【請求項9】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極及び正極、並びに電解質及び非水溶媒を含む非水系電解液を具備する蓄電デバイスであって、該非水系電解液が請求項1~
8のいずれか1項に記載の非水系電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項10】
蓄電デバイスが非水系電解液二次電池である請求項
9に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及びそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器の急速な進歩に伴い、その主電源やバックアップ電源に用いられる電池に対する高容量化への要求が高くなっており、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスが注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解液としては、LiPF6、LiBF4、LiN(CF3SO2)2、LiCF3(CF2)3SO3等の電解質を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の低粘度溶媒との混合溶媒に溶解させた非水系電解液が代表例として挙げられる。また、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては主にリチウムイオンを吸蔵・放出することができる炭素質材料が用いられており、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等がその代表例として挙げられる。更に高容量化を目指してシリコンやスズ等を用いた金属又は合金系の負極も知られている。正極活物質としては主にリチウムイオンを吸蔵・放出することができる遷移金属複合酸化物が用いられており、前記遷移金属の代表例としてはコバルト、ニッケル、マンガン、鉄等が挙げられる。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、活性の高い正極と負極を使用しているため、電極と電解液との副反応により、充放電容量が低下することが知られており、電池特性を改良するために、非水系有機溶媒や電解質について種々の検討がなされている。
【0005】
近年では環境問題やエネルギー問題などの地球規模の課題を背景に、二次電池、特にリチウム二次電池の車載用電源や定置型電源などの大型電源への応用にも大きな期待が集まっている。しかし、このような電池は一般に、屋外環境下での使用が見込まれているため、広い温度範囲において機能することが求められる。これに加えて、車載用途等の大型用途への展開が著しい中その用途から、さらなる高出力化と従来の二次電池以上に容量を維持する耐久性能が求められている。
【0006】
これら、各種特性を更に向上させるための取り組みの一つとして、上記電解液に各種の化合物を添加する取り組みがなされている。そのうちの一つとして、含リン化合物、とりわけP=O構造を有する化合物が電池特性を向上させることは古くから知られている。
【0007】
特許文献1~3においてはアルキルオキシカルボニル骨格を有する化合物を用い、ガス発生が少なく、高容量で、保存特性及びサイクル特性に優れた非水系電解液電池を提供する技術について提案されている。また、P=O構造を有する含リン化合物のモノリチウム塩等の塩を添加する技術も検討されており、特許文献4には、 リン酸エステル塩を添加することにより 高温環境下に暴露した後も、充放電特性の低下を抑制できると共に、内部抵抗の上昇も抑制する技術が提案されている。更に、特許文献5には、リン原子に特定の極性基が直接結合したリン酸リチウムを一種以上含有する電解液を用いることで、特に高温保存後の低温放電特性を向上させることができる技術が提案されている。
【0008】
【文献】国際公開第2008-123038号
【文献】国際公開第2015/016186号
【文献】国際公開第2015/016187号
【文献】特開2015-167219号公報
【文献】特許5704277号公報
【0009】
特許文献1はサイクル特性まで評価がなされているものの、直接的・間接的に高出力化に重要な内部抵抗を抑制する結果は示されていない。また、特許文献2,3においても直接的・間接的に高出力化に重要な内部抵抗を抑制する結果は示されていない。
【0010】
また、特許文献4においては、対極に金属箔を用いる、3極式セルを用いたサイクル評価を行っているため、対極金属箔からの当該金属イオンの補充によって、充電時の副反応に伴うロスがリセットされてしまい、本来のサイクル特性は評価することができない。また、実施例として具体的に検討されているのはわずか5サイクルでの評価のみである。また、60℃保持後の交流インピーダンス測定により電極の抵抗を比較評価したとされているが60℃の保持時間が不明で、測定の結果のどの部分をどのように比較したかが不明であり、対極である金属箔の影響を分離できていない等、評価結果の体をなしていない。
【0011】
更に、特許文献5においては、高温暴露後の、低温放電容量の維持率が高いという結果が報告されている。しかし、基準となる絶対容量あるいは比較例に対する相対容量が提示されておらず、実際に高容量を維持できているかは示されていない。また、内部抵抗については判断できる除方法は無く、さらには充放電を繰り返すサイクル特性までは実施されてはいない。
【0012】
特に、後掲の実施例及び比較例の対比において示すように、本発明者が行った再評価において、これらの従来技術は十分な特性を有するものではなかった。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、上記の問題を解決すべくされたものであり、蓄電デバイスにおいて、初期の抵抗抑制効果に優れ、さらに高温保存試験等の静的な試験、及び高温サイクル試験等の動的な試験のいずれの耐久試験後の容量維持率という基本特性にも優れつつ、抵抗抑制効果を維持する非水系電解液と、この非水系電解液を用いた蓄電デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の検討を重ねた結果、特定の構造を持つ含リン化合物を電解液中に含有させることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の要旨は、以下に示す通りである。
【0015】
[1]非水溶媒及び下記式(1)で表される化合物を含有する非水系電解液。
【化1】
(式(1)中、P及びOは略号では無く元素記号である。
X
1及びX
2はそれぞれ独立して、C、S又はPを表す。
n
1、n
2はそれぞれ独立して、X
1
、X
2がC又はPのときは1であり、Sのときは2である。
n
1はX
1がC又はPのときは1であり、Sのときは2である。
n
2はX
2がC又はPのときは1であり、Sのときは2である。
Y
1及びY
2はそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基又は-OW基(Wは置換基を有してもよい炭化水素を表す。)を表す。
m
1はX
1がC又はSのときは1、Pのときは2であり、m
2はX
2がC又はSのときは1、Pのときは2である
Zは、置換基を有してもよい炭化水素基、-SiV
3基(Vは置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)、有機オニウム、金属を表す。)
【0016】
[2]前記式(1)において、X1及びX2がCであり、n1及びn2が1であり、かつm1及びm2が1であるものを含む、[1]に記載の非水系電解液。
【0017】
[3]前記式(1)において、Y1及びY2がそれぞれ独立して、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基からなる群より選ばれる基であるか、又は
Wが水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基からなる群より選ばれる-OW基である、[1]又は[2]に記載の非水系電解液。
【0018】
[4]前記式(1)において、Zが水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基、からなる群より選ばれる基であるか、又は
Vが水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルケニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~6のアルキニル基、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基及び水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7~13のアリールアルキル基からなる群より選ばれる-SiV3基、水素若しくはアルカリ金属であるものを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の非水系電解液。
【0019】
[5]前記式(1)で表される化合物を、0.001質量%以上10質量%以下で含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0020】
[6]電解質を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0021】
[7]前記非水系電解液が、更に、フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、イソシアネート基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0022】
[8]前記フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、イソシアネート基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の非水系電解液全量に対する合計含有量が、0.001質量%以上50質量%以下である、[7]に記載の非水系電解液。
【0023】
[9]非水系電解液二次電池用である[1]~[8]のいずれかに記載の非水系電解液。
【0024】
[10]リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極及び正極、並びに電解質及び非水溶媒を含む非水系電解液を具備する蓄電デバイスであって、該非水系電解液が[1]~[9]のいずれかに記載の非水系電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【0025】
[11]蓄電デバイスが非水系電解液二次電池である[10]に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、初期の抵抗抑制効果に優れ、さらに高温保存試験・高温サイクル試験等の耐久試験後の容量維持率という基本特性にも優れつつ、抵抗低下効果を維持することで、電池特性に優れた蓄電デバイスを実現するための非水系電解液を提供することができる。これにより、蓄電デバイスの小型化、高性能化を達成することができる。
【0027】
本発明の非水系電解液を用いて作製された蓄電デバイスにおいて、初期の抵抗が抑制される効果、高温保存試験・高温サイクル試験等の耐久試験後でも容量維持率に優れつつ抵抗が抑制される効果を維持する作用・原理は明確ではないが、以下のように考えられる。ただし、本発明は、以下に記述する作用・原理に限定されるものではない。
【0028】
通常、特許文献1~3等に代表されるイオン性・極性の官能基が少ない化合物は、未充電・充電初期段階の未反応状態で正極遷移金属への吸着能が低く、あくまでも反応を伴って効果を発現する為、最初期に表面を保護する機能を発現することは無く、したがって抵抗上昇を抑制する効果が見られないと考えられる。これに対し、特許文献4,5や本発明は、イオン性・極性の官能基を複数持つ化合物である為、未充電・充電初期段階の未反応状態で正極遷移金属へ安定的に吸着することが可能で、最初期に表面を保護する機能を発現するポテンシャルがあると考えられる。
【0029】
一方、充電状態で高温環境下にさらす保存試験では、充電正極が表面吸着物により、電解液成分との接触を防ぐことが出来るかどうかが最も重要な特性である。充電・放電を連続的に繰り返すサイクル試験と異なり、表面吸着物がリチウムの挿入脱離といった動的な環境下において反応したり剥離したりする劣化挙動は観察されない。
【0030】
さらには、負極へのリチウムの挿入時の還元反応を抑制するいわゆるSEIがリチウムの挿入脱離の過程で安定して存在し続けるかどうかついては、高温保存試験での判断は困難である。
【0031】
本発明の非水系電解液に用いる式(1)で表される化合物は、アルキル基やアルコキシル基とは異なる極性基であるX=O結合(XはC,P,S)が二つ、直接リン元素と結合することで、この骨格とP=O骨格とでより正極金属に配位することが容易となるものと推定される。
【0032】
また、式(1)で表される化合物は、Li+をあらかじめ持つか、容易にLi+をカチオン種とする塩に変換される構造であるため、正極表面でのLiの挿入・脱離時に吸着した式(1)で表される化合物がそのLiを媒介し、挿入脱離反応を阻害することが無いものと考えられる。
【0033】
これらのことから、正極表面の初回充電時において、既に始まる正極の劣化を初期的に吸着した式(1)で表される化合物が抑制し、かつLiの挿入・脱離反応を阻害しないため、初期から抵抗上昇を抑制する効果を発現するものと考えられる。また、式(1)で表される化合物が容易には切断されないP-X(XがC,P,S)結合を有することで、反応によって構造が細分化されて表面から容易に脱離して特性が悪化する可能性が低いため、サイクル試験のような長期の動的試験を経ても効果を失わないものと考えられる。
【0034】
さらには、負極表面においては、その強固な構造が表面での劣化を抑制しつつ、Liの挿入・脱離を阻害しないため、サイクル毎の電解液成分分解が原因と推測される効率低下を抑制し、無添加や他の例示した添加剤と比べてサイクル特性が向上するものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について説明するが、本発明はこれらの形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0036】
1.非水系電解液
本発明の非水系電界液は、電解質、非水溶媒及び以下の式(1)で表される化合物を含有する。
【0037】
1-1.式(1)で表される化合物
本発明の非水系電解液は、式(1)で表される化合物を含有する。なお、式(1)で表される化合物においては光学異性体の区別はつけないものとし、異性体単独又はこれらの混合として適用することもできる。
【化2】
【0038】
式(1)中、P,Oは略号では無く元素記号である。
【0039】
式(1)におけるX1及びX2はそれぞれ独立して、C、S又はPを表す。また、X1及びX2は、好ましくは製造における容易さの観点でCである。
【0040】
式(1)におけるn1はX1がC又はPのときは1であり、Sのときは2である。また、式(1)におけるn2はX2がC又はPのときは1であり、Sのときは2である。
【0041】
式(1)におけるY1及びY2はそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基又は-OW基(Wは置換基を有してもよい炭化水素)を表す。
Y1及びY2、並びにWにおいて、置換基を有してもよい炭化水素基としては、好ましくは、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基であり;
好ましくは置換基を有してもよい炭素数2~6のアルケニル基であり、より好ましくは置換基を有してもよい炭素数2~4のアルケニル基であり;
好ましくは置換基を有してもよい炭素数2~6のアルキニル基であり、より好ましくは置換基を有してもよい炭素数及び炭素数2~4のアルキニル基であり;
好ましくは置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基であり、より好ましくは置換基を有してもよい炭素数6~10のアリール基であり;
好ましくは置換基を有してもよい炭素数7~13のアリールアルキル基であり、より好ましくは置換基を有してもよい炭素数7~11のアリール基である。
【0042】
Y1及びY2、並びにWにおいて、以上に挙げたものの中でも、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基が好ましく、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。
効果に寄与する化学構造に対する分子量や分子そのものの大きさが大きくなり過ぎると十分な効果を発現できなくなるおそれがある。
【0043】
更に、Y1及びY2の炭化水素基、並びに-OW基のWにおいて、有していてもよい置換基はハロゲン原子であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。ハロゲン原子、とりわけフッ素原子での置換は、不要な反応性の低さから無置換と同等の特性を発現することが想定される。
【0044】
以上の理由から、工業的な入手性を加味し、好ましい炭化水素基としては次のものが挙げられる。
【0045】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、2-フルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基が好ましく、メチル基、エチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基がより好ましい。
【0046】
また、アルケニル基としては、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル―1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、トリフルオロエチニル基が好ましく、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基がより好ましい。
【0047】
また、アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基が好ましく、エチニル、2-プロピニルがより好ましい。
【0048】
また、アリール基としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、1-ナフタレニル基、2-ナフタレニル1-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基が好ましく、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、1-ナフタレニル基、2-ナフタレニル基、1‐フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基がより好ましい。
【0049】
また、アルキルアリール基としては、フェニルメチル基、ジフェニルメチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、(1-フェニル-1-メチル)エチル基、(2-メチルフェニル)メチル基、(3-メチルフェニル)メチル基、(4-メチルフェニル)メチル基、(2,5-ジメチルフェニル)メチル基、(2,4,6-トリメチルフェニル)メチル基、(1-フルオロフェニル)メチル基、(2-フルオロフェニル)メチル基、(3-フルオロフェニル)メチル基、(2,4-ジフルオロフェニル)メチル基、(3,4-ジフルオロフェニル)メチル基、(3-(トリフルオロメチル)フェニル)メチル基、(4-(トリフルオロメチル)フェニル)メチル基、(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)メチル基、(1-ナフチル)メチル基、(2-ナフチル)メチル基、(ペンタフルオロフェニル)メチル基が好ましく、フェニルメチル基、(ペンタフルオロフェニル)メチル基がより好ましい。
【0050】
式(1)におけるm1はX1がC又はSのときは1、Pのときは2である。また、m2はX2がC又はSのときは1、Pのときは2である。
【0051】
Zは、置換基を有してもよい炭化水素基、-SiV3基(Vは置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)、有機オニウム、金属を表す。)である。
【0052】
ここで、Zが置換基を有してもよい炭化水素基である場合のZ、-SiV3基である場合のVについての好ましいものは、Y1、Y2及びWについての好ましいものとその理由も含めて同様であるが、その中でも、メチル基、エチル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチルビニル基、エチニル基、2-プロピニル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基が望ましい。
【0053】
更に-SiV3基としては、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、ジメチル-n-プロピルシリル基、ジメチル-i-プロピルシリル基、ジメチル-n-ブチルシリル基、ジメチル-t-ブチルシリル基、ジエチル-i-プロピルシリル基、トリエチルシリル基、トリ-i-プロピルシリル基、トリ-n-ブチルシリル基、エチニルジメチルシリル基、ジメチル-2-プロピニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、ジメチル(フェニルメチル)シリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリル基、ジメチル(2,2,2-トリフルオロエチル)シリル基等が挙げられる。これらの中でも、好ましいものとしては、トリメチルシリル基、ジメチル-t-ブチルシリル基、トリ-i-プロピルシリル基、エチニルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基が挙げられる。
【0054】
Zが有機オニウムの場合、その種類は特に限定はされないが、対酸化還元性、溶解性、工業的な入手の容易性から各種有機デバイス用電解液用途で実績のある構造が好ましく、4級アンモニウム構造を有するオニウム又は4級ホスホニウム構造を有するオニウムが好ましく、特に、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム、1,3-ジアルキルイミダゾリウムが好ましい。
【0055】
Zが金属の場合、その種類は特に限定はされないが、溶解性の高い一価であり、「酸化還元を受ける遷移金属」ではない金属であることが好ましく、より具体的にはアルカリ金属が好ましく、リチウムイオン電池等リチウムを用いる電池に用いる場合はリチウムが好ましく、ナトリウムイオン電池等ナトリウムを用いる電池に用いる場合はナトリウムが好ましく、カリウムイオン電池等カリウムを用いる電池に用いる場合はカリウムが好ましい。これらのようなアルカリ金属を選択すると、系中イオンと同一であるために好ましい。
【0056】
以上に挙げたものの中でもZとしては、アルキル基、-SiV3基、金属が好ましく、-SiV3基、金属が特に好ましい。更に、これらのうちの好ましいものとしては前述の通りである。
【0057】
これらのことから、式(1)で表される化合物としては、好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化3】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
これらの中でも好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化12】
【0067】
【0068】
これらの化合物は、例えば以下の非特許文献1,2に記載の手法などで合成することができる。
非特許文献1:Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie (1985), 530, 16
(非特許文献1に記載の化合物においてナトリウムを他のアルカリ金属に変えて実施することが可能である。)
非特許文献2:Heteroatom Chemistry (2012), 23, (4), 352
【0069】
式(1)で表される化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。非水系電解液全量(100質量%)中、式(1)で表される化合物の量(2種以上の場合は合計量)は、本発明の効果を発現するためには特に制限はないが、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.23質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上である。
【0070】
この範囲にあると、初期の抵抗抑制効果、高温保存試験・高温サイクル試験等の耐久試験後の容量維持率・抵抗低下効果維持特性等を制御しやすいと考えられる。
【0071】
また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。この範囲にあると、効率的に、出初期の抵抗抑制効果、高温保存試験・高温サイクル試験等の耐久試験後の容量維持率・抵抗低下効果維持特性等を発現できる。
【0072】
なお、本発明の電解液に、上記化合物を配合する方法は、特に制限されない。上記化合物を直接電解液に添加する方法の他に、電池内又は電解液中において上記化合物を発生させる方法が挙げられる。上記化合物を発生させる方法としては、これらの化合物以外の化合物を添加し、電解液等の電池構成要素を酸化又は加水分解等して発生させる方法が挙げられる。更には、電池を作製して、充放電等の電気的な負荷をかけることによって、発生させる方法も挙げられる。
【0073】
また、上記化合物は、非水系電解液に含有させ実際に蓄電デバイスの作製に供すると、その蓄電デバイスを解体して再び非水系電解液を抜き出しても、その中の含有量が著しく低下している場合が多い。従って、蓄電デバイスから抜き出した非水系電解液から、上記化合物が極少量でも検出できるものは本発明に含まれるとみなされる。また、上記化合物は、非水系電解液として実際に蓄電デバイスの作製に供すると、その電池を解体して再び抜き出した非水系電解液には上記化合物が極少量しか含有されていなかった場合であっても、蓄電デバイスの他の構成部材(たとえば正極、負極若しくはセパレータ)上で検出される場合も多い。従って、構成部材から上記化合物が検出された場合は、その合計量を非水系電解液に含まれていたと仮定することができる。この仮定の下、以下の1-2.に記載の特定化合物が含まれるのが好ましく、その含有量は特に限定されないが、通常、非水系電解液全量に対する合計含有量が、0.001質量%以上50質量%以下である。
【0074】
1-2.フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、イソシアネート基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩
本発明の態様は、上記式(1)で表される化合物とともに、フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、イソシアネート基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物及びイソシアヌル酸骨格を有する化合物、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物((II)群の化合物)を含むことができる。これらを併用することで、式(1)で表される化合物が引き起こし得る正負極上での副反応を効率よく抑制できるためである。
【0075】
これらの中でも、フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素非含有カルボン酸エステル、及び複数のエーテル結合を有する環状化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物は、負極上に良質な複合被膜を形成し、初期の電池特性と耐久試験後の電池特性がバランスよく向上するため好ましく、フッ素含有環状カーボネート、シアノ基を有する有機化合物、芳香族化合物、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素非含有カルボン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物がより好ましく、フッ素含有環状カーボネート、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート及びフッ素非含有カルボン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が更に好ましく、フッ素含有環状カーボネート又は炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物が特に好ましい。理由としては、比較的低分子量の被膜を負極上に形成するこれら化合物は、形成される負極被膜が緻密であることから、効率良く式(1)で表される化合物の副反応による劣化を抑制し得ることが挙げられる。このように副反応を効果的に抑制し、また抵抗上昇を抑制し、初期や高温耐久時の副反応抑制による体積変化抑制と高温耐久後の安全性を確保するとともに、レート特性を向上させ得る。
【0076】
本発明の電解液に、上記化合物を配合する方法は、特に制限されない。上記化合物を直接電解液に添加する方法の他に、電池内又は電解液中において上記化合物を発生させる方法が挙げられる。上記化合物を発生させる方法としては、これらの化合物以外の化合物を添加し、電解液等の電池構成要素を酸化又は加水分解等して発生させる方法が挙げられる。更には、電池を作製して、充放電等の電気的な負荷をかけることによって、発生させる方法も挙げられる。
【0077】
また、上記化合物は、非水系電解液に含有させ実際に蓄電デバイスの作製に供すると、その蓄電デバイスを解体して再び非水系電解液を抜き出しても、その中の含有量が著しく低下している場合が多い。従って、蓄電デバイスから抜き出した非水系電解液から、上記化合物が極少量でも検出できるものは本発明に含まれるとみなされる。また、上記化合物は、非水系電解液として実際に蓄電デバイスの作製に供すると、その電池を解体して再び抜き出した非水系電解液には上記化合物が極少量しか含有されていなかった場合であっても、蓄電デバイスの他の構成部材(たとえば正極、負極若しくはセパレータ)上で検出される場合も多い。従って、構成部材から上記化合物が検出された場合は、その合計量を非水系電解液に含まれていたと仮定することができる。この仮定の下、特定化合物は後述で述べる範囲になるように含まれていることが好ましい。
【0078】
以下に、(II)群の化合物について説明をする。ただし、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩に関しては、1-4.電解質における説明が適用される。また、上記化合物と組み合わせる式(1)で表される化合物に関しては、式(1)で表される化合物に関する上記の記載が、例示及び好ましい例も含めて適用される。また、ある化合物を含む態様において、上記化合物におけるそれ以外の化合物が含まれていてもよい。
【0079】
1-2-1.フッ素含有環状カーボネート
フッ素含有環状カーボネートとしては、炭素数2以上6以下のアルキレン基を有する環状カーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネートのフッ素化物(以下、「フッ素化エチレンカーボネート」と記載する場合がある)、及びその誘導体が挙げられる。エチレンカーボネートのフッ素化物の誘導体としては、アルキル基(例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられる。これらの中でもフッ素数1以上8以下のフッ素化エチレンカーボネート、及びその誘導体が好ましい。
【0080】
本発明の電解液において、式(1)で表される化合物とフッ素含有環状カーボネートとを併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0081】
フッ素数1~8個のフッ素化エチレンカーボネート及びその誘導体としては、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
これらの中でも、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネートが、電解液に高イオン伝導性を与え、かつ安定な界面保護被膜を容易に形成しやすい点で好ましい。
【0082】
フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。フッ素化環状カーボネートの量(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上、最も好ましくは1.2質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下である。また、フッ素化環状カーボネートを非水溶媒として用いる場合の配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは10体積%以上であり、また、好ましくは50体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
【0083】
フッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0084】
上記式(1)で表される化合物とフッ素含有環状カーボネートの質量比は、式(1)で表される化合物:フッ素含有環状カーボネートが、1:100以上であることができ、好ましくは10:100以上、より好ましくは20:100以上、更に好ましくは25:100以上であり、10000:100以下であることができ、好ましくは500:100以下、より好ましくは300:100以下、さらに好ましくは100:100以下、特に好ましくは75:100以下、最も好ましくは50:100以下である。この範囲であれば、電池特性、特に耐久特性を著しく向上させることができる。この原理については定かではないが、この比率で混合させることで、電極上での添加剤の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0085】
1-2-2.硫黄含有有機化合物
本発明の電解液は、更に硫黄含有有機化合物を含むことができる。硫黄含有有機化合物は、分子内に硫黄原子を少なくとも1つ有している有機化合物であれば、特に制限されないが、好ましくは分子内にS=O基を有している有機化合物であり、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状硫酸エステル、環状硫酸エステル、鎖状亜硫酸エステル及び環状亜硫酸エステルが挙げられる。ただしフルオロスルホン酸塩に該当するものは、1-2-2.硫黄含有有機化合物ではなく、後述する電解質であるフルオロスルホン酸塩に包含されるものとする。 本発明の電解液において、式(1)で表される化合物と硫黄含有有機化合物とを併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0086】
これらの中でも、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状硫酸エステル、環状硫酸エステル、鎖状亜硫酸エステル及び環状亜硫酸エステルが好ましく、より好ましくはS(=O)2基を有する化合物であり、さらに好ましくは鎖状スルホン酸エステル及び環状スルホン酸エステルであり、特に好ましくは環状スルホン酸エステルである。
【0087】
硫黄含有有機化合物としては、以下を挙げることができる。
【0088】
≪鎖状スルホン酸エステル≫
鎖状スルホン酸エステルとしては、フルオロスルホン酸メチル及びフルオロスルホン酸エチル等のフルオロスルホン酸エステル;メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸2-プロピニル、メタンスルホン酸3-ブチニル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル等のメタンスルホン酸エステル;ビニルスルホン酸メチル、ビニルスルホン酸エチル、ビニルスルホン酸アリル、ビニルスルホン酸プロパルギル、アリルスルホン酸メチル、アリルスルホン酸エチル、アリルスルホン酸アリル、アリルスルホン酸プロパルギル等のアルケニルスルホン酸エステル;メタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、メタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル1,2-エタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、1,2-エタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル1,4-ブタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、1,4-ブタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル等のアルキルジスルホン酸エステル等が挙げられる。
【0089】
≪環状スルホン酸エステル≫
環状スルホン酸エステルとしては、1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、1-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、2-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、3-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、1-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、2-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、3-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン及び1,5-ペンタンスルトン等のスルトン化合物;メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート等のジスルホネート化合物等が挙げられる。
【0090】
≪鎖状硫酸エステル≫
鎖状硫酸エステルとしては、ジメチルスルフェート、エチルメチルスルフェート及びジエチルスルフェート等のジアルキルスルフェート化合物等が挙げられる。
【0091】
≪環状硫酸エステル≫
環状硫酸エステルとしては、1,2-エチレンスルフェート、1,2-プロピレンスルフェート、1,3-プロピレンスルフェート等のアルキレンスルフェート化合物が挙げられる。
【0092】
≪鎖状亜硫酸エステル≫
鎖状亜硫酸エステルとしては、ジメチルスルファイト、エチルメチルスルファイト及びジエチルスルファイト等のジアルキルスルファイト化合物が挙げられる。
【0093】
≪環状亜硫酸エステル≫
環状亜硫酸エステルとしては、1,2-エチレンスルファイト、1,2-プロピレンスルファイト、1,3-プロピレンスルファイト等のアルキレンスルファイト化合物が挙げられる。
【0094】
これらのうち、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、1,3-プロパンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、1,4-ブタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、1,4-ブタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン、1,2-エチレンスルフェート、1,2-エチレンスルファイト、メタンスルホン酸メチル及びメタンスルホン酸エチルが初期効率向上の点から好ましく、プロパンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、プロパンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、ブタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、ブタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、1,2-エチレンスルフェート、1,2-エチレンスルファイトがより好ましく、1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトンが更に好ましい。
硫黄含有有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0095】
1-2-3.リン含有有機化合物
本発明の電解液は、更にリン含有有機化合物(ただし、ここでいうリン含有有機化合物には式(1)で表される化合物を除く意味で用いるものとする。)を含むことができる。リン含有有機化合物は、分子内に少なくとも一つリン原子を有している有機化合物であれば、特に制限されない。リン含有有機化合物を含有する本発明の電解液を用いた電池は、耐久特性を改善することができる。
リン含有有機化合物としては、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステルが好ましく、より好ましくはリン酸エステル及びホスホン酸エステルであり、更に好ましくはホスホン酸エステルである。
本発明の電解液において、リン含有有機化合物を式(1)で表される化合物と併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0096】
リン含有有機化合物としては、以下を挙げることができる。
【0097】
≪リン酸エステル≫
リン酸エステルとしては、ジメチルビニルホスフェート、ジエチルビニルホスフェート、メチルジビニルホスフェート、エチルジビニルホスフェート及びトリビニルホスフェート等のビニル基を有する化合物;アリルジメチルホスフェート、アリルジエチルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート及びトリアリルホスフェート等のアリル基を有する化合物;プロパルギルジメチルホスフェート、プロパルギルジエチルホスフェート、ジプロパルギルメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート及びトリプロパルギルホスフェート等のプロパルギル基を有する化合物;2-アクリロイルオキシメチルジメチルホスフェート、2-アクリロイルオキシメチルジエチルホスフェート、ビス(2-アクリロイルオキシメチル)メチルホスフェート、ビス(2-アクリロイルオキシメチル)エチルホスフェート及びトリス(2-アクリロイルオキシメチル)ホスフェート等の2-アクリロイルオキシメチル基を有する化合物;2-アクリロイルオキシエチルジメチルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルジエチルホスフェート、ビス(2-アクリロイルオキシエチル)メチルホスフェート、ビス(2-アクリロイルオキシエチル)エチルホスフェート及びトリス(2-アクリロイルオキシエチル)ホスフェート等の2-アクリロイルオキシエチル基を有する化合物等が挙げられる。
【0098】
≪ホスホン酸エステル≫
ホスホン酸エステルとしては、トリメチル ホスホノフォルメート、メチル ジエチルホスホノフォルメート、トリエチル ホスホノフォルメート、エチル ジメチルホスホノフォルメート、メチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、エチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、トリメチル ホスホノアセテート、メチル ジエチルホスホノアセテート、トリエチル ホスホノアセテート、エチル ジメチルホスホノアセテート、メチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、エチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、アリル ジメチルホスホノアセテート、アリル ジエチルホスホノアセテート、2-プロピニル ジメチルホスホノアセテート、2-プロピニル ジエチルホスホノアセテート、トリメチル 3-ホスホノプロピオネート、メチル 3-(ジエチルホスホノ)プロピオネート等が挙げられる。
【0099】
これらのうち、電池特性向上の観点から、トリアリルホスフェート及びトリス(2-アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、トリメチル ホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、2-プロピニル ジメチルホスホノアセテート、2-プロピニルジエチルホスホノアセテートが好ましい。
【0100】
リン含有有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0101】
1-2-4.シアノ基を有する有機化合物
本発明の電解液は、シアノ基を有する有機化合物を含むことができる。シアノ基を有する有機化合物としては、分子内にシアノ基を少なくとも1つ有している有機化合物であれば、特に制限されないが、好ましくは式(2-4-1)、式(2-4-2)で表される化合物であり、より好ましくは式(2-4-2)で表される化合物である。なお、シアノ基を有する有機化合物が、複数のエーテル結合を有する環状化合物でもある場合、複数のエーテル結合を有する環状化合物に属してもよいものとする。
【0102】
1-2-4-1.式(2-4-1)で表される化合物
A1-CN (2-4-1)
(式中、A1は炭素数2以上20以下の炭化水素基を示す。)
【0103】
式(2-4-1)で表される化合物の分子量は、特に制限されない。分子量は、好ましくは55以上であり、より好ましくは65以上、更に好ましくは80以上であり、また、好ましくは310以下であり、より好ましくは185以下であり、更に好ましくは155以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する式(2-4-1)で表される化合物の溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。式(2-4-1)で表される化合物の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0104】
式(2-4-1)中、炭素数2以上20以下の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基等が挙げられ、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、tert-アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシ基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル、1-ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i-プロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、sec-ブチルフェニル基、i-ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基等のアリール基等が好ましい。
【0105】
これらの中でも、分子全体に対するシアノ基の割合が多く、電池特性向上効果が高いという観点から、炭素数2以上15以下の直鎖又は分岐状のアルキル基及び炭素数2以上4以下のアルケニル基がより好ましく、炭素数2以上12以下の直鎖又は分岐状のアルキル基が更に好ましく、炭素数4以上11以下の直鎖又は分岐状のアルキル基が特に好ましい。
【0106】
式(2-4-1)で表される化合物としては、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ペンタンニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプタンニトリル、オクタンニトリル、ペラルゴノニトリル、デカンニトリル、ウンデカンニトリル、ドデカンニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトノニトリル、3-メチルクロトノニトリル、2-メチル-2-ブテン二トリル、2-ペンテンニトリル、2-メチル-2-ペンテンニトリル、3-メチル-2-ペンテンニトリル及び2-ヘキセンニトリル等が挙げられる。
【0107】
これらの中でも、化合物の安定性、電池特性、製造面の観点から、ペンタンニトリル、オクタンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル及びクロトノニトリルが好ましく、ペンタンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル及びクロトノニトリルがより好ましく、ペンタンニトリル、デカンニトリル及びクロトノニトリルが好ましい。
【0108】
1-2-4-2.式(2-4-2)で表される化合物
NC-A2-CN (2-4-2)
(式中、A2は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上の原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基である。)
【0109】
水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上の原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基とは、炭素原子及び水素原子から構成される有機基の他に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、又はハロゲン原子を含んでいてもよい有機基を包含する。窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子又はハロゲン原子を含んでいてもよい有機基には、炭素原子及び水素原子から構成される基における骨格の炭素原子の一部が、これらの原子に置換されている有機基、又はこれらの原子で構成された置換基を有する有機基を包含する。
【0110】
式(2-4-2)で表される化合物の分子量は、特に制限されない。分子量は、好ましくは、65以上であり、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上であり、また、好ましくは270以下であり、より好ましくは160以下であり、更に好ましくは135以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する式(2-4-2)で表される化合物の溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。式(2-4-2)で表される化合物の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0111】
式(2-4-2)で表される化合物におけるA2としては、アルキレン基又はその誘導体、アルケニレン基又はその誘導体、シクロアルキレン基又はその誘導体、アルキニレン基又はその誘導体、シクロアルケニレン基又はその誘導体、アリーレン基又はその誘導体、カルボニル基又はその誘導体、スルホニル基又はその誘導体、スルフィニル基又はその誘導体、ホスホニル基又はその誘導体、ホスフィニル基又はその誘導体、アミド基又はその誘導体、イミド基又はその誘導体、エーテル基又はその誘導体、チオエーテル基又はその誘導体、ボリン酸基又はその誘導体、ボラン基又はその誘導体等が挙げられる。
【0112】
これらの中でも、電池特性向上の点から、アルキレン基又はその誘導体、アルケニレン基又はその誘導体、シクロアルキレン基又はその誘導体、アルキニレン基又はその誘導体、アリーレン基又はその誘導体が好ましい。また、A2が置換基を有してもよい炭素数2以上5以下のアルキレン基であることがより好ましい。
【0113】
式(2-4-2)で表される化合物としては、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバコニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル、メチルマロノニトリル、エチルマロノニトリル、イソプロピルマロノニトリル、tert-ブチルマロノニトリル、メチルスクシノニトリル、2,2-ジメチルスクシノニトリル、2,3-ジメチルスクシノニトリル、2,3,3-トリメチルスクシノニトリル、2,2,3,3-テトラメチルスクシノニトリル、2,3-ジエチル-2,3-ジメチルスクシノニトリル、2,2-ジエチル-3,3-ジメチルスクシノニトリル、ビシクロヘキシル-1,1-ジカルボニトリル、ビシクロヘキシル-2,2-ジカルボニトリル、ビシクロヘキシル-3,3-ジカルボニトリル、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジカルボニトリル、2,3-ジイソブチル-2,3-ジメチルスクシノニトリル、2,2-ジイソブチル-3,3-ジメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,3-ジメチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,3,3-テトラメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、2,2,3,4-テトラメチルグルタロニトリル、2,3,3,4-テトラメチルグルタロニトリル、マレオニトリル、フマロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、2,6-ジシアノヘプタン、2,7-ジシアノオクタン、2,8-ジシアノノナン、1,6-ジシアノデカン、1,2-ジジアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、3,3’-(エチレンジオキシ)ジプロピオニトリル、3,3’-(エチレンジチオ)ジプロピオニトリル及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0114】
これらのうち、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバコニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、フマロニトリルが高温保存耐久特性向上の点から好ましい。更に、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、グルタロニトリル及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンは、高温保存耐久特性向上効果が特に優れ、また電極での副反応による劣化が少ないためにより好ましい。通常、ジニトリル化合物は、分子量が小さいほど一分子におけるシアノ基の量割合が大きくなり、分子の粘度が上昇する一方、分子量が大きくなるほど、化合物の沸点が上昇する。よって、作業効率の向上の点から、スクシノスクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル及びピメロニトリルが更に好ましい。
【0115】
シアノ基を有する有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0116】
1-2-5.イソシアネート基を有する有機化合物
本発明の電解液は、イソシアネート基を有する有機化合物を含むことができる。イソシアネート基を有する有機化合物は、分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有する有機化合物であれば、特に制限されないが、イソシアネート基の数は、一分子中、好ましくは1以上4以下、より好ましくは2以上3以下、更に好ましくは2である。
【0117】
本発明の電解液において、式(1)で表される化合物とイソシアネート基を有する化合物とを併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0118】
イソシアネート基を有する有機化合物としては、以下を挙げることができる。
メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート等のイソシアネート基を1個有する有機化合物;モノメチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,2-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-2,2’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、カルボニルジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトブタン-1,4-ジオン、1,5-ジイソシアナトペンタン-1,5-ジオン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等のイソシアネート基を2個有する有機化合物等が挙げられる。
【0119】
これらのうち、モノメチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等のイソシアネート基を2個有する有機化合物が保存特性向上の点から好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナートがより好ましく、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)が更に好ましい。
【0120】
イソシアネート基を有する有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0121】
1-2-6.ケイ素含有化合物
本発明の電解液は、ケイ素含有化合物を含むことができる。ケイ素含有化合物は、分子内に少なくとも1つのケイ素原子を有する化合物であれば、特に制限されない。本発明の電解液において、式(1)で表される化合物とケイ素含有化合物を併用することによって、耐久特性を改善することができる。
【0122】
ケイ素含有化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメトキシシリル)、ホウ酸トリス(トリエチルシリル)、ホウ酸トリス(トリエトキシシリル)、ホウ酸トリス(ジメチルビニルシリル)及びホウ酸トリス(ジエチルビニルシリル)等のホウ酸化合物; リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリエチルシリル)、リン酸トリス(トリプロピルシリル)、リン酸トリス(トリフェニルシリル)、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、リン酸トリス(トリエトキシシリル)、リン酸トリス(トリフエノキシシリル)、リン酸トリス(ジメチルビニルシリル)及びリン酸トリス(ジエチルビニルシリル)等のリン酸化合物;亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリエチルシリル)、亜リン酸トリス(トリプロピルシリル)、亜リン酸トリス(トリフェニルシリル)、亜リン酸トリス(トリメトキシシリル)、亜リン酸トリス(トリエトキシシリル)、亜リン酸トリス(トリフエノキシシリル)、亜リン酸トリス(ジメチルビニルシリル)及び亜リン酸トリス(ジエチルビニルシリル)等の亜リン酸化合物;メタンスルホン酸トリメチルシリル、テトラフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル等のスルホン酸化合物;ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、1,1,2,2-テトラメチルジシラン、1,1,2,2-テトラエチルジシラン、1,2-ジフェニルテトラメチルジシラン及び1,1,2,2-テトラフェニルジシラン等のジシラン化合物等が挙げられる。
【0123】
これらのうち、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、メタンスルホン酸トリメチルシリル、テトラフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、1,2-ジフェニルテトラメチルジシラン及び1,1,2,2-テトラフェニルジシランが好ましく、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)及びヘキサメチルジシランがより好ましい。
なお、これらケイ素含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
1-2-7.芳香族化合物
本発明の電解液は、芳香族化合物を含むことができる。芳香族化合物としては、分子内に芳香環を少なくとも1つ有している有機化合物であれば、特に制限されないが、好ましくは式(2-7-1)及び式(2-7-2)で表される芳香族化合物である。
【0125】
1-2-7-1.式(2-7-1)で表される芳香族化合物
【化14】
(式中、置換基X
71はハロゲン原子、ハロゲン原子又はヘテロ原子を有していてもよい有機基を表す。ヘテロ原子を有していてもよい有機基とは、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖又は環状の飽和炭化水素基、カルボン酸エステル構造を有する基、カーボネート構造を有する基を示す。また置換基X
71の数n
71は1以上6以下であり、複数の置換基を有する場合それぞれの置換基は同一でも異なっていてもよく、また環を形成していてもよい。)
【0126】
これらの中でも、炭素数3以上12以下の直鎖又は分岐鎖又は環状の飽和炭化水素基、カルボン酸エステル構造を有する基が電池特性の観点から好ましい。
【0127】
置換基X71の数n71は好ましくは1以上5以下であり、より好ましくは1以上3以下であり、更に好ましくは1以上2以下であり、特に好ましくは1である。
【0128】
X71はハロゲン原子、ハロゲン原子又はヘテロ原子を有していてもよい有機基を表す。
ハロゲン原子として、塩素、フッ素等が挙げられ、好ましくはフッ素である。
ヘテロ原子を有さない有機基として、炭素数3以上12以下の直鎖状、分岐状、環状の飽和炭化水素基が挙げられ、直鎖状、分岐状のものは環構造を持つものも含まれる。炭素数1以上12以下の直鎖状、分岐状、環状の飽和炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数は好ましくは3以上12以下、より好ましくは3以上10以下、更に好ましくは3以上8以下、更により好ましくは3以上6以下、最も好ましくは3以上5以下である。
【0129】
ヘテロ原子を有する有機基を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子等が挙げられる。酸素原子を有するものとして、カルボン酸エステル構造を有する基、カーボネート構造を有する基等が挙げられる。硫黄原子を有するものとして、スルホン酸エステル構造を有する基等が挙げられる。リン原子を有するものとして、リン酸エステル構造を有する基、ホスホン酸エステル構造を有する基等が挙げられる。ケイ素原子を有するものとして、ケイ素―炭素構造を有する基等が挙げられる。
【0130】
式(2-7-1)で表される芳香族化合物としては、例えば以下が挙げられる。
X71がハロゲン原子又はハロゲン原子を有していてもよい有機基であるものとして、クロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等が挙げられ、好ましくはフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンである。より好ましくはフルオロベンゼンが挙げられる。
【0131】
X71が炭素数1以上12以下の炭化水素基であるものとして、2,2-ジフェニルプロパン、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,1-ジフェニルシクロヘキサン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン等が挙げられ、好ましくはシクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼンである。
【0132】
X71がカルボン酸エステル構造を有する基であるものとして、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、酢酸2-フェニルエチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、2,2-ジメチル-フェニル酢酸メチル、2,2-ジメチル-フェニル酢酸エチル等が挙げられ、好ましくは、2,2-ジメチル-フェニル酢酸メチル、2,2-ジメチル-フェニル酢酸エチルが挙げられる。
【0133】
X71がカーボネート構造を有する基であるものとして、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート等が挙げられ、好ましくはメチルフェニルカーボネートが挙げられる。
【0134】
1-2-7-2.式(2-7-2)で表される芳香族化合物
【化15】
(式中、R
11~R
15は、独立して、水素、ハロゲン又は非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、R
16及びR
17は、独立して、炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、R
11~R
17のうち少なくとも2つが一緒になって環を形成していてもよく、ただし、式(2-7-2)は、(A)及び(B):
(A)R
11~R
15のうち少なくとも1つは、ハロゲン又は非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上20以下の炭化水素基である、
(B)R
11~R
17の炭素数の合計は、3以上20以下である、のうち少なくとも一方の条件を満たす)
で表される芳香族化合物である。R
11~R
17のうち少なくとも2つが一緒になって環を形成している場合、R
11~R
17のうち2つが一緒になって環を形成していることが好ましい。
【0135】
R16及びR17は、独立して、炭素数1以上12以下の炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基)であり、R16とR17は一緒になって環(例えば、炭化水素基である環式基)を形成していてもよい。初期効率及び溶解性や保存特性向上の観点から、R16及びR17は、好ましくは炭素数1以上12以下の炭化水素基であるか、R16とR17が一緒になって形成した炭化水素基である環式基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、R16とR17が一緒になって形成したシクロヘキシル基、シクロペンチル基、であり、更に好ましくはメチル基、エチル基、R16とR17が一緒になって形成したシクロヘキシル基である。
【0136】
R11~R15は、独立して、水素、ハロゲン又は非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上20以下の炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基)であり、これらのうち2つは一緒になって環(例えば、炭化水素基である環式基)を形成していてもよい。初期効率及び溶解性や保存特性向上の観点から、好ましくは水素、フッ素、非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、より好ましくは水素、フッ素、tert-ブチル基、1-メチル-1-フェニル-エチル基であり、更に好ましくは水素、tert-ブチル基、1-メチル-1-フェニル-エチル基である。
【0137】
R11~R15のいずれか1つとR16が一緒になって環(例えば、炭化水素基である環式基)を形成してもよい。好ましくはR11とR16とが一緒になって環(例えば、炭化水素基である環式基)を形成している。この場合、R17は、アルキル基であることが好ましい。R17がメチル基で、R11とR16が一緒になって環を形成した化合物として、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、2,3-ジヒドロ1,3-ジメチル-1-(2-メチル-2-フェニルプロピル)-3-フェニル-1H-インダン等が挙げられる。
【0138】
式(2-7-2)は、(A)及び(B):
(A)R11~R15のうち少なくとも1つは、ハロゲン又は非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上20以下の炭化水素基である、
(B)R11~R17の炭素数の合計は、3以上20以下である、
のうち少なくとも一方の条件を満たす。
【0139】
式(2-7-2)は、通常の電池動作電圧範囲内における正極上での酸化抑制の点から、(A)を満たしていることが好ましく、電解液への溶解性の点から、(B)を満たしていることが好ましい。式(2-7-2)は、(A)と(B)の両方を満たしていてもよい。
【0140】
(A)について、R11~R15のうち少なくとも1つが、ハロゲン又は非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上20以下の炭化水素基であれば、他は水素原子であっても、環を形成していてもよい。電解液への溶解性の観点から、非置換もしくはハロゲン置換の炭化水素基の炭素数は1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましく、更に好ましくは1以上3以下、更により好ましくは1又は2、最も好ましくは1である。
【0141】
(B)について、R11~R17の炭素数の合計は3以上20以下であれば、R11~R17のうち少なくとも2つが一緒になって環を形成していてもよい。R11~R17のうち少なくとも2つが一緒になって環を形成している場合、炭素数の合計の算出にあたっては、環を形成する炭素のうち、R11~R17に相当しない炭素(R11~R15については、これらが結合しているベンゼン環を構成する炭素、R16及びR17については、ベンジル位の炭素)はカウントしないこととする。炭素数の合計は、電解液への溶解度の点から、好ましくは3以上14以下であり、より好ましくは3以上10以下である。例えば、R17がメチル基で、R11とR16が一緒になって環を形成している化合物として1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、2,3-ジヒドロ1,3-ジメチル-1-(2-メチル-2-フェニルプロピル)-3-フェニル-1H-インダン等が挙げられるが、これは(B)の条件を満たす。
【0142】
式(2-7-2)で表される芳香族化合物としては、以下が挙げられる。
R
16及びR
17が、独立して、炭素数1以上20以下の炭化水素基であり(ただし、R
16及びR
17の合計は炭素数3以上20以下である)、R
11~R
15が水素である化合物((B)を満たす)。
【化16】
【0143】
R
16及びR
17が一緒になって環を形成しており、R
11~R
15が水素である化合物((B)を満たす)。
【化17】
【0144】
R
11~R
15のうち少なくとも1つがハロゲン又は非置換もしくはハロゲン置換の炭素数1以上20以下の炭化水素基である化合物((A)を満たす)。
【化18】
【0145】
R17が炭素数1以上20以下の炭化水素基(例えば、炭素数1以上20以下のアルキル基であり、好ましくはメチル基)であり、R11とR16が一緒になって環を形成している化合物((B)を満たす)。
【0146】
【0147】
これらの中でも、初期の負極上での還元性の観点から下記の化合物が好ましい。
【化20】
【0148】
【0149】
【0150】
芳香族化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0151】
1-2-8.炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート
炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」と記載する場合がある)としては、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はなく、任意の不飽和カーボネートを用いることができるが、好ましくは炭素-炭素二重結合を有する環状カーボネートである。なお、芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0152】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。
【0153】
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ジビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート、4-フルオロビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-フェニルビニレンカーボネート、4-フルオロ-5-ビニルビニレンカーボネート、4-アリル-5-フルオロビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0154】
芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類の具体例としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフェニルエチレンカーボネート、4-フェニル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0155】
これらの中でも、特に併用するのに好ましい不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネートが挙げられる。また、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートは更に安定な界面保護被膜を形成するので好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネーがより好ましく、ビニレンカーボネートがさらに好ましい。
【0156】
不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0157】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。不飽和環状カーボネートの配合量は、非水系電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、とくに好ましくは2質量%以下である。この範囲内であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0158】
上記式(1)で表される化合物と炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(2種以上の場合は合計量)の質量比は、式(1)で表される化合物:炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートが、1:100以上であることができ、好ましくは10:100以上、より好ましくは20:100以上、更に好ましくは25:100以上であり、10000:100以下であることができ、好ましくは500:100以下、より好ましくは300:100以下、さらに好ましくは100:100以下、特に好ましくは75:100以下、最も好ましくは50:100以下である。この範囲であれば、電池特性、特に耐久特性を著しく向上させることができる。この原理については定かではないが、この比率で混合させることで、電極上での添加剤の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0159】
1-2-9.フッ素非含有カルボン酸エステル
本発明の電解液は、フッ素非含有カルボン酸エステルを含むことができる。本発明の電解液において、式(1)で表される化合物とフッ素非含有カルボン酸エステルを併用することにより、耐久特性を改善することができる。フッ素非含有カルボン酸エステルは、分子内にフッ素原子を有さないカルボン酸エステルであれば、特に制限されないが、好ましくはフッ素非含有の鎖状カルボン酸エステルであり、より好ましくはフッ素非含有の飽和鎖状カルボン酸エステルである。フッ素非含有の鎖状カルボン酸エステルの総炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上であり、好ましくは7以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下である。
【0160】
フッ素非含有鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸n-プロピル、ピバル酸メチル、ピバル酸エチル、ピバル酸n-プロピル等の飽和鎖状カルボン酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル等の不飽和鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。
【0161】
これらのうち、負極での副反応が少ない点から、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、ピバル酸メチル、ピバル酸エチル、ピバル酸n-プロピルが好ましく、電解液粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピルがより好ましく、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピルが更に好ましく、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピルが特に好ましい。
【0162】
フッ素非含有カルボン酸エステルは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0163】
フッ素非含有カルボン酸エステルの量(二種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.6質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下で、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。また、フッ素非含有カルボン酸エステルを非水溶媒として用いる場合の配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは10体積%以上、更により好ましくは20体積%以上であり、また、50体積%以下で含有させることができ、より好ましくは45体積%以下、更に好ましくは40体積%以下である。このような範囲であれば、負極抵抗の増大を抑制し、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性を制御しやすい。
【0164】
上記式(1)で表される化合物とフッ素非含有カルボン酸エステルの質量比は、式(1)で表される化合物:フッ素非含有カルボン酸エステルが、1:100以上であることができ、好ましくは10:100以上、より好ましくは20:100以上、更に好ましくは25:100以上であり、10000:100以下であることができ、好ましくは500:100以下、より好ましくは300:100以下、さらに好ましくは100:100以下、特に好ましくは75:100以下、最も好ましくは50:100以下である。この範囲であれば、電池特性、特に耐久特性を著しく向上させることができる。この原理については定かではないが、この比率で混合させることで、電極上での添加剤の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0165】
1-2-10.複数のエーテル結合を有する環状化合物
複数のエーテル結合を有する環状化合物としては、分子内に複数のエーテル結合を有する環状化合物であれば、特に限定されないが、好ましくは式(2-10)で表される化合物である。複数のエーテル結合を有する環状化合物は、電池の高温保存特性の向上に寄与するものであり、本発明の電解液においては、式(1)で表される化合物と併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0166】
【化23】
(式中、A
15~A
20は、独立して、水素原子、フッ素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1以上5以下の炭化水素基を表す。n
101は1以上4以下の整数であり、n
101が2以上の整数の場合は、複数のA
17及びA
18は同一であっても異なっていてもよい。)
【0167】
尚、A15~A20から選ばれる2つが互いに結合して環を形成してもよい。この場合、A17及びA18で環構造を形成することが好ましい。また、A15~A20の炭素数の総和が、好ましくは0以上8以下、より好ましくは0以上4以下、更に好ましくは0以上2以下、特に好ましくは0以上1以下である。
【0168】
置換基としては、ハロゲン原子、フッ素原子で置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、そして、シアノ基、イソシアナト基、エーテル基、カーボネート基、カルボニル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、スルホニル基、ホスファントリイル基及びホスホリル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくはハロゲン原子、アルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、そして、イソシアナト基、シアノ基、エーテル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基であり、より好ましくは、フッ素原子で置換されていないアルキル基、シアノ基及びエーテル基である。
【0169】
式(2-10)中、n101は1以上3以下の整数であることが好ましく、1以上2以下の整数であることがより好ましく、n101が2であることが更に好ましい。
【0170】
A15~A20における炭素数1以上5以下の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基等の1価の炭化水素基;アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基及びアリーレン基等の2価の炭化水素基;等が挙げられる。これらのうち、アルキル基、アルキレン基が好ましく、アルキル基がより好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基等の炭素数1以上5以下のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基等の炭素数2以上5以下のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基等の炭素数2以上5以下のアルキニル基;メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数1以上5以下のアルキレン基;ビニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基等の炭素数2以上5以下のアルケニレン基;エチニレン基、プロピニレン基、1-ブチニレン基、2-ブチニレン基、1-ペンチニレン基及び2-ペンチニレン基等の炭素数2以上5以下のアルキニレン基等が挙げられる。これらのうち、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数1以上5以下のアルキレン基であり、より好ましくはエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数2以上5以下のアルキレン基であり、更に好ましくはトリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数3以上5以下のアルキレン基が挙げられる。
【0171】
A15~A20における水素原子、フッ素原子又は炭素数1以上5以下の炭化水素基とは、水素原子、フッ素原子又は上記置換基と上記炭素数1以上5以下の炭化水素基を組み合わせた基のことを表し、好ましくは水素原子、置換基を有さない炭素数1以上5以下の炭化水素基及びアルキレン基の炭素鎖の一部がエーテル基で置換されたエーテル構造を有するアルキレン基であり、より好ましくは水素原子である。
【0172】
複数のエーテル結合を有する環状化合物としては、例えば以下の化合物を挙げることができる。
【0173】
【0174】
これらの中でも、以下の化合物などが好ましい。
【化25】
【0175】
【0176】
複数のエーテル結合を有する環状化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0177】
1-2-11.イソシアヌル酸骨格を有する化合物
本発明の電解液は、更にイソシアヌル酸骨格を有する化合物を含むことができる。イソシアヌル酸骨格を有する化合物は、分子内に少なくとも一つイソシアヌル酸骨格を有している有機化合物であれば、特に制限されない。イソシアヌル酸骨格を有する化合物を含有する本発明の電解液を用いた電池は、耐久特性を改善することができる。
【0178】
イソシアヌル酸骨格を有する化合物としては以下の構造の化合物が挙げられる。
【化27】
【0179】
好ましくは、以下の構造の化合物が挙げられる。
【化28】
【0180】
また、好ましい化合物の中でも、負極被膜形成能の観点から以下の構造の化合物が好ましい。
【化29】
【0181】
イソシアヌル酸骨格を有する化合物で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0182】
1-2-12.モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩
本発明の電解液は、更にモノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩を含むことができる。モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、それぞれ、分子内に少なくとも1つのモノフルオロリン酸又はジフルオロリン酸構造を有する塩であれば、特に制限されない。本発明の電解液において、上記式(1)で表される化合物とモノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩から選ばれる1種以上とを併用することにより、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0183】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩におけるカウンターカチオンは、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、NR121R122R123R124(式中、R121~R124は、独立して、水素原子又は炭素数1以上12以下の有機基である)で表されるアンモニウム等が挙げられる。上記アンモニウムのR121~R124で表わされる炭素数1以上12以下の有機基は特に制限されず、例えば、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基、置換基を有していてもよい窒素原子含有複素環基等が挙げられる。これらの中でもR121~R124は、独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又は窒素原子含有複素環基等が好ましい。カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、これらの中でもリチウムが好ましい。
【0184】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩としては、モノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム等が挙げられ、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムが好ましく、ジフルオロリン酸リチウムがより好ましい。
【0185】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩から選ばれる1種以上の量(2種以上の場合は合計量)は、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、5質量%以下であることができ、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この範囲内であると、初期不可逆容量向上の効果が顕著に発現される。
【0186】
上記式(1)で表される化合物とモノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩から選ばれる1種以上(2種以上の場合は合計量)の質量比は、式(1)で表される化合物:モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩が、1:99~99:1が好ましく、10:90~90:10がより好ましく、20:80~80:20が特に好ましい。この範囲であると、他の電池特性を低下せずに目的である特性を向上させることができる。
【0187】
1-2-13.ホウ酸塩
本発明の電解液は、更にホウ酸塩を含むことができる。ホウ酸塩は、分子内にホウ素原子を少なくとも1つ有している塩であれば、特に制限されない。ただしシュウ酸塩に該当するものは、「1-2-13.ホウ酸塩」ではなく、後述する「1-2-14.シュウ酸塩」に包含されるものとする。本発明の電解液において、式(1)で表される化合物とホウ酸塩とを併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0188】
ホウ酸塩におけるカウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ルビジウム、セシウム、バリウム等が挙げられ、これらの中でもリチウムが好ましい。
【0189】
ホウ酸塩としては、リチウム塩が好ましく、含ホウ酸リチウム塩も好適に使用することができる。例えばLiBF4、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等が挙げられる。これらの中でも、LiBF4が初期充放電効率と高温サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。
【0190】
ホウ酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ホウ酸塩の量(2種以上の場合は合計量)は、0.05質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上であり、また、10.0質量%以下であることができ、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。この範囲内であると、電池負極の副反応が抑制され抵抗を上昇させにくい。
【0191】
上記式(1)で表される化合物とホウ酸塩の質量比は、式(1)で表される化合物(併用する場合はその合計):ホウ酸塩が、1:99~99:1が好ましく、10:90~90:10がより好ましく、20:80~80:20が特に好ましい。この範囲であると、電池中での正負極上副反応を抑制し、電池の抵抗を上昇させにくい。
【0192】
また、電解質としてホウ酸塩とLiPF6を用いた場合、非水電解液中のLiPF6のモル含有量に対するホウ酸塩のモル含有量の比は、0.001以上12以下が好ましく、0.01~1.1がより好ましく、0.01~1.0が更に好ましく、0.01~0.7がより好ましい。この範囲であると、電池中での正負極上副反応を抑制し、電池の充放電効率が向上する。
【0193】
1-2-14.シュウ酸塩
本発明の電解液は、更にシュウ酸塩を含むことができる。シュウ酸塩は、分子内に少なくとも1つのシュウ酸構造を有する化合物であれば、特に制限されない。本発明の電解液において、式(1)で表される化合物とシュウ酸塩とを併用することによって、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
シュウ酸塩としては、式(2-14-1)で表される金属塩が好ましい。この塩は、オキサラト錯体をアニオンとする塩である。
【0194】
【0195】
(式中、M1は、周期表における1族、2族及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる元素であり、M2は、遷移金属、周期表の13族、14族及び15族からなる群より選ばれる元素であり、R91は、ハロゲン、炭素数1以上11以下のアルキル基及び炭素数1以上11以下のハロゲン置換アルキル基からなる群より選ばれる基であり、a及びbは正の整数であり、cは0又は正の整数であり、dは1~3の整数である。)
M1は、本発明の電解液をリチウム二次電池に用いたときの電池特性の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、リチウムが特に好ましい。
【0196】
M2は、リチウム二次電池に用いる場合の電気化学的安定性の点で、ホウ素及びリンが特に好ましい。
R91としては、フッ素、塩素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ペンタフルオロエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、フッ素、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0197】
式(2-14-1)で表される金属塩としては、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート等のリチウムオキサラトホスフェート塩類が挙げられる。これらのうち、リチウムビス(オキサラト)ボレート及びリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートが好ましく、リチウムビス(オキサラト)ボレートがより好ましい。
【0198】
シュウ酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0199】
1-2-15.硫酸誘導体塩
本発明の電解液は、更に硫酸誘導体塩を含むことができる。
硫酸誘導体塩としては、分子内に少なくとも1つの硫酸誘導体塩構造を有している塩であれば、特に制限されないが、電解液中での安定性・溶解性が確保されていることが好ましい。
【0200】
硫酸誘導体塩の一般構造としては、硫酸のモノハライド構造であるハロスルホン酸塩(ハロ硫酸塩)、置換基を有してもよい炭化水素基を有する硫酸モノエステル塩、置換基を有してもよい炭化水素基を有するスルファミン酸塩(アミド硫酸塩)などがあげられる。ハロスルホン酸塩のハロゲンとしては特に限定はされないが、クロロスルホン酸塩、フルオロスルホン酸塩が好ましく、フルオロスルホン酸塩が最も好ましい。置換基を有してもよい炭化水素基を有する硫酸モノエステル塩、置換基を有してもよい炭化水素基を有するスルファミン酸塩の、置換基を有してもよい炭化水素基は特に限定はされないが、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくは置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数2~6のアルケニル基、さらに好ましくは置換基を有してもよい炭素数2~4のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2~6のアルキニル基、さらに好ましくは置換基を有してもよい炭素数及び炭素数2~4のアルキニル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、さらに好ましくは置換基を有してもよい炭素数6~10のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~13のアリールアルキル基、さらに好ましくは置換基を有してもよい炭素数7~11のアリール基が好ましい。
効果を有する構造に対する分子量、分子の大きさが大きくなりすぎると十分な効果を発現できなくなる場合がある。
さらに、これら置換基はハロゲン原子であることが好ましく、フッ素原子であることが最も好ましい。ハロゲン原子、とりわけフッ素原子での置換は、不要な反応性の低さから無置換と同等の特性を発現することが想定される。
【0201】
これらの理由から、工業的な入手性を加味し、好ましものとしては次のようなものが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、2-フルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基が好ましく、メチル基、エチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基がさらに好ましい。また、アルケニル基としては、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、トリフルオロエチニル基が好ましく、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基がさらに好ましい。また、アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基が好ましく、エチニル基、2-プロピニル基がさらに好ましい。
【0202】
また、アリール基としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、1-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基が好ましく、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、1‐フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基がさらに好ましい。
【0203】
また、アルキルアリール機としては、フェニルメチル、ジフェニルメチル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、(1-フルオロフェニル)メチル、(2-フルオロフェニル)メチル、(3-フルオロフェニル)メチル、(2,4-ジフルオロフェニル)メチル、(3,4-ジフルオロフェニル)メチル、(3-(トリフルオロメチル)フェニル)メチル、(4-(トリフルオロメチル)フェニル)メチル、(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)メチル、(1-ナフチル)メチル、(2-ナフチル)メチル、(ペンタフルオロフェニル)メチル、が好ましく、フェニルメチル、(ペンタフルオロフェニル)メチル、がさらに好ましい。
【0204】
具体的な硫酸モノエステル塩として好ましくは、メチル硫酸塩、エチル硫酸塩、n-プロピル硫酸塩、2-プロペニル硫酸塩、フェニル硫酸塩、(4-メチル)フェニル硫酸塩、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸塩、が、さらに好ましくは、メチル硫酸塩、エチル硫酸塩、2-プロペニル硫酸塩、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸塩、があげられる。
【0205】
具体的なスルファミン酸塩としては、N,N-ジメチルスルファミン酸塩、N,N-ジエチルスルファミン酸塩、N,N-フェニルスルファミン酸塩があげられる。
本発明の電解液において、上記式(1)で表される化合物と硫酸誘導体塩とを併用することにより、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0206】
硫酸誘導体塩におけるカウンターカチオンは、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び、NR121R122R123R124(式中、R121~R124は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上12以下の有機基である)で表されるアンモニウム等が挙げられる。R121~R124に関する例示及び好ましい例については、上記1-2-12におけるR121~R124が適用される。カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、これらの中でもリチウムが好ましい。
【0207】
フルオロスルホン酸塩としては、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸ナトリウム、フルオロスルホン酸カリウム、フルオロスルホン酸ルビジウム、フルオロスルホン酸セシウム等が挙げられ、フルオロスルホン酸リチウムが好ましい。
硫酸モノエステル塩としては、メチル硫酸リチウム、エチル硫酸リチウム、2-プロペニル硫酸リチウム、2,2,2-トリフルオロエチル硫酸リチウムが好ましく、スルファミン酸塩としては、N,N-ジメチルスルファミン酸リチウムが好ましい。
【0208】
また、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(N,N-ジメチルアミノスルホニル)イミド、リチウムビス(N,N-ジメチルアミノスルホニル)イミド、リチウムビス(メトキシスルホニル)イミド、リチウムビス(エトキシスルホニル)イミド、リチウムビス(2,2,2-トリフルオロエトキシスルホニル)イミド、等のフルオロスルホン酸構造を有するイミド塩もフルオロスルホン酸塩として使用することができる。
【0209】
硫酸誘導体塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
硫酸誘導体塩の含有量(2種以上の場合は合計量)は、0.05質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この範囲内であると、電池中での副反応が少なく、抵抗を上昇させにくい。
【0210】
上記式(1)で表される化合物と硫酸誘導体塩の質量比は、式(1)で表される化合物:硫酸誘導体塩が、1:99~99:1が好ましく、10:90~90:10がより好ましく、20:80~80:20が特に好ましい。この範囲であると、電池中での副反応を適切に抑制し、高温耐久特性を低下させにくい。
【0211】
1-3.電解質
電解質は特に制限なく、電解質として公知のものを任意に用いることができる。
また、「1-2-12.モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩」、「1-2-13.ホウ酸塩」、「1-2-14.シュウ酸塩」、「1-2-15.フルオロスルホン酸塩」で説明した塩類も適用できる。
【0212】
リチウム二次電池の場合は、通常リチウム塩が用いられる。具体的には、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAlF4、LiSbF6、LiTaF6、LiWF7等の無機リチウム塩;LiWOF5等のタングステン酸リチウム類;HCO2Li、CH3CO2Li、CH2FCO2Li、CHF2CO2Li、CF3CO2Li、CF3CH2CO2Li、CF3CF2CO2Li、CF3CF2CF2CO2Li、CF3CF2CF2CF2CO2Li等のカルボン酸リチウム塩類;FSO3Li、CH3SO3Li、CH2FSO3Li、CHF2SO3Li、CF3SO3Li、CF3CF2SO3Li、CF3CF2CF2SO3Li、CF3CF2CF2CF2SO3Li等のスルホン酸リチウム塩類;LiN(FCO)2、LiN(FCO)(FSO2)、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等のリチウムイミド塩類;LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3等のリチウムメチド塩類;リチウムビス(マロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(マロナト)ボレート等のリチウム(マロナト)ボレート塩類;リチウムトリス(マロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(マロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(マロナト)ホスフェート等のリチウム(マロナト)ホスフェート塩類;その他、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等の含フッ素有機リチウム塩類;リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;
リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート等のリチウムオキサラトホスフェート塩類;等が挙げられる。
【0213】
これらの中でも、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiTaF6、FSO3Li、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、CF3SO3Li、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、等が出力特性やハイレート充放電特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点から好ましい。また、LiPF6、LiBF4、FSO3Li、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートがより好ましく、LiPF6、LiBF4、FSO3Li、LiN(FSO2)2、リチウムビス(オキサラト)ボレートが出力特性やハイレート充放電特性、高温保存特性、サイクル特性等をさらに向上させる効果がある点からさらに好ましく、電解質の耐酸化還元安定性の観点からLiPF6が最も好ましい。特に、LiPF6は系中で分解してルイス酸PF5を生じ、電解液安定性や電解液物性、電池特性の低下をもたらす。よって、式(1)で表される化合物と同時に用いることで、ルイス酸起因の悪影響を抑制しつつ電解質としての優れた特性を発揮することができる。
【0214】
非水系電解液中に含まれる電解質のモル含有量に対する式(1)で表される化合物のモル含有量の比は、本発明の効果を発現するためには特に制限はないが、通常0.043以上、好ましくは0.050以上、より好ましくは0.075以上、更に好ましくは0.080以上、特に好ましくは0.100以上であり、通常0.935以下であり、好ましくは0.850以下、より好ましくは0.760以下、更に好ましくは0.300以下、特に好ましくは0.200以下である。この範囲であれば、電池特性、特に連続充電耐久特性を著しく向上させることができる。この原理については定かではないが、この比率で混合させることで、電解質の分解生成物と効率よく錯形成しやすいためと考えられる。なお、電解質のモル含有量に対する式(1)で表される化合物のモル含有量の比とは、式(1)で表される化合物のモル含有量を電解質のモル含有量で除した値を表し、電解質一分子に対する式(1)で表される化合物の分子数を表す指標である。
【0215】
非水系電解液中のこれらの電解質の濃度は、本発明の効果を損なわない限り、その含有量は特に制限されないが、電解液の電気伝導率を良好な範囲とし、良好な電池性能を確保する点から、非水系電解液中のリチウムの総モル濃度は、好ましくは0.25mol/L以上、より好ましくは0.5mol/L以上、更に好ましくは1.1mol/L以上であり、また、好ましくは3.0mol/L以下、より好ましくは2.5mol/L以下、更に好ましくは2.0mol/L以下である。この範囲であれば、荷電粒子であるリチウムが少なすぎず、また粘度を適切な範囲とすることができるため、良好な電気伝導度を確保しやすくなる。
【0216】
2種以上の電解質を併用する場合、少なくとも1種は、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩を用いることも好ましく、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩を用いるもより好ましい。これらのうちリチウム塩が好ましい。モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩は、0.01質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上であり、また、20質量%以下であることができ、好ましくは10質量%以下である。
【0217】
電解質として、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる1種以上と、それ以外の塩の1種以上を含むことが好ましい。それ以外の塩としては、上記で例示したリチウム塩が挙げられ、特に、LiPF6、LiBF4、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3が好ましく、LiPF6が更に好ましい。それ以外の塩は、電解液の電導度と粘度の適切なバランスを確保する観点から0.01質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上であり、また、20質量%以下であることができ、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0218】
フルオロスルホン酸塩としては、分子内に少なくとも1つのフルオロスルホン酸構造を有している塩であれば、特に制限されない。本発明の電解液において、上記式(1)で表される化合物とフルオロスルホン酸塩とを併用することにより、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0219】
フルオロスルホン酸塩におけるカウンターカチオンは、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び、NR131R132R133R134(式中、R131~R134は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上12以下の有機基である)で表されるアンモニウム等が挙げられる。R131~R134に関する例示及び好ましい例については、上記1-2-2におけるR131~R134が適用される。カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、これらの中でもリチウムが好ましい。
【0220】
フルオロスルホン酸塩としては、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸ナトリウム、フルオロスルホン酸カリウム、フルオロスルホン酸ルビジウム、フルオロスルホン酸セシウム等が挙げられ、フルオロスルホン酸リチウムが好ましい。リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のフルオロスルホン酸構造を有するイミド塩もフルオロスルホン酸塩として使用することができる。フルオロスルホン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0221】
フルオロスルホン酸塩の含有量(2種以上の場合は合計量)は、0.05質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この範囲内であると、電池中での副反応が少なく、抵抗を上昇させにくい。
【0222】
上記式(1)で表される化合物とフルオロスルホン酸塩の質量比は、式(1)で表される化合物:フルオロスルホン酸塩が、1:99~99:1が好ましく、10:90~90:10がより好ましく、20:80~80:20が特に好ましい。この範囲であると、電池中での副反応を適切に抑制し、高温耐久特性を低下させにくい。
【0223】
1-4.非水溶媒
本発明における非水溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることが可能である。具体的には、フッ素原子を有していない環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル及び「1-2-9.フッ素非含有カルボン酸エステル」において前述した鎖状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、スルホン系化合物等が挙げられる。
【0224】
また、本明細書において、非水溶媒の体積は25℃での測定値であるが、エチレンカーボネートのように25℃で固体のものは融点での測定値を用いる。
【0225】
1-4-1.フッ素原子を有していない環状カーボネート
フッ素原子を有していない環状カーボネートとしては、炭素数2~4のアルキレン基を有する環状カーボネートが挙げられる。
【0226】
炭素数2~4のアルキレン基を有する、フッ素原子を有していない環状カーボネートの具体的な例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートが挙げられる。これらの中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0227】
フッ素原子を有していない環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0228】
フッ素原子を有していない環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の配合量は、非水溶媒100体積%中、5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また、95体積%以下、より好ましくは90体積%以下、更に好ましくは85体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の負荷特性を良好な範囲としやすくなる。
【0229】
1-4-2.鎖状カーボネート
鎖状カーボネートとしては、炭素数3~7の鎖状カーボネートが好ましく、炭素数3~7のジアルキルカーボネートがより好ましい。
【0230】
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、tert-ブチルメチルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、tert-ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0231】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と記載する場合がある)も好適に用いることができる。
【0232】
フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
【0233】
フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート及びその誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート及びその誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート及びその誘導体等が挙げられる。
【0234】
フッ素化ジメチルカーボネート及びその誘導体としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート等が挙げられる。
【0235】
フッ素化エチルメチルカーボネート及びその誘導体としては、2-フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2-フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2-フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0236】
フッ素化ジエチルカーボネート及びその誘導体としては、エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル-(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル-(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2,2-ジフルオロエチル-2’-フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル-2’-フルオロエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル-2’,2’-ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0237】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。鎖状カーボネートの配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、更に好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。また、鎖状カーボネートは、非水溶媒100体積%中、90体積%以下、より好ましくは85体積%以下であることが好ましい。このように上限を設定することにより、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0238】
1-4-3.環状カルボン酸エステル
環状カルボン酸エステルとしては、炭素数が3~12のものが好ましい。具体的には、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0239】
環状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0240】
1-4-4.エーテル系化合物
エーテル系化合物としては、一部の水素がフッ素にて置換されていてもよい炭素数3~10の鎖状エーテル、及び炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。
【0241】
炭素数3~10の鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジ(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、エチル(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル、エチル(1,1,2,2-テトラフルオロエチル)エーテル、エチル-n-プロピルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジメトキシメタン、エトキシメトキシメタン、メトキシ(2-フルオロエトキシ)メタン、メトキシ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)メタンメトキシ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0242】
炭素数3~6の環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等、及びこれらのフッ素化化合物が挙げられる。
【0243】
これらの中でも、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させる点で好ましく、特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンである。
【0244】
エーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0245】
1-4-5.スルホン系化合物
スルホン系化合物としては、炭素数3~6の環状スルホン、及び炭素数2~6の鎖状スルホンが好ましい。1分子中のスルホニル基の数は、1又は2であることが好ましい。
【0246】
炭素数3~6の環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。
【0247】
これらの中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0248】
スルホラン類としては、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体(以下、スルホランも含めて「スルホラン類」と記載する場合がある)が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子やアルキル基で置換されたものが好ましい。
【0249】
これらの中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,2-ジフルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2,4-ジフルオロスルホラン、2,5-ジフルオロスルホラン、3,4-ジフルオロスルホラン、2-フルオロ-3-メチルスルホラン、2-フルオロ-2-メチルスルホラン、3-フルオロ-3-メチルスルホラン、3-フルオロ-2-メチルスルホラン、4-フルオロ-3-メチルスルホラン、4-フルオロ-2-メチルスルホラン、5-フルオロ-3-メチルスルホラン、5-フルオロ-2-メチルスルホラン、2-フルオロメチルスルホラン、3-フルオロメチルスルホラン、2-ジフルオロメチルスルホラン、3-ジフルオロメチルスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン、2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン、3-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン、4-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン、5-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スルホラン等が、イオン伝導度が高く、入出力特性が高い点で好ましい。
【0250】
また、炭素数2~6の鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n-プロピルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、n-ブチルメチルスルホン、tert-ブチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモノフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、トリフルオロメチル-n-プロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル-n-ブチルスルホン、トリフルオロエチル-tert-ブチルスルホン、トリフルオロメチル-n-ブチルスルホン、トリフルオロメチル-tert-ブチルスルホン等はイオン伝導度が高く、入出力特性が高い点で好ましい。
【0251】
スルホン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0252】
1-4-6.非水溶媒の組成
本発明の非水溶媒として、上記例示した非水溶媒1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0253】
例えば、非水溶媒の好ましい組合せの1つとして、フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートを主体とする組合せが挙げられる。これらの中でも、非水溶媒に占めるフッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計が、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、更に好ましくは90体積%以上であり、かつ環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計に対するフッ素原子を有していない環状カーボネートの割合が好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、更に好ましくは15体積%以上であり、また、好ましくは50体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは30体積%以下、特に好ましくは25体積%以下である。
【0254】
これらの非水溶媒の組み合わせを用いると、これを用いて作製された電池のサイクル特性と高温保存特性(特に、高温保存後の残存容量及び高負荷放電容量)のバランスが良くなることがある。
【0255】
例えば、フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートの好ましい組み合わせとしては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0256】
フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組み合わせの中で、鎖状カーボネートとして非対称鎖状アルキルカーボネート類を含有するものが更に好ましく、特に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといったエチレンカーボネートと対称鎖状カーボネート類と非対称鎖状カーボネート類を含有するものが、サイクル特性と大電流放電特性のバランスが良いので好ましい。これらの中でも、非対称鎖状カーボネート類がエチルメチルカーボネートであるのが好ましく、又、鎖状カーボネートのアルキル基は炭素数1~2が好ましい。
【0257】
非水溶媒中にジメチルカーボネートを含有する場合は、全非水溶媒中に占めるジメチルカーボネートの割合が、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、更に好ましくは25体積%以上、特に好ましくは30体積%以上であり、また、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下、更に好ましくは75体積%以下、特に好ましくは、70体積%以下となる範囲で含有させると、電池の負荷特性が向上することがある。
【0258】
これらの中でも、ジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを含有し、ジメチルカーボネートの含有割合をエチルメチルカーボネートの含有割合よりも多くすることにより、電解液の電気伝導度を維持できながら、高温保存後の電池特性が向上することがあり好ましい。
【0259】
全非水溶媒中に占めるジメチルカーボネートのエチルメチルカーボネートに対する体積比(ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート)は、電解液の電気伝導度の向上と保存後の電池特性を向上させる点で、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましい。上記体積比(ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート)は、低温での電池特性を向上の点で、40以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、8以下が特に好ましい。
【0260】
上記フッ素原子を有していない環状カーボネートと鎖状カーボネートを主体とする組合せにおいては、環状カルボン酸エステル類、鎖状カルボン酸エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、含硫黄有機溶媒、含燐有機溶媒、芳香族含フッ素溶媒等、他の溶媒を混合してもよい。
【0261】
上述の非水系電解液は、金属イオンを吸蔵・放出しうる正極及び負極を備える蓄電デバイス用に用いられるものであり、蓄電デバイスの詳細については後述するが、非水系電解液二次電池用として特に有用である。
【0262】
<2.非水系電解液を用いた蓄電デバイス>
本発明の非水系電解液を用いた蓄電デバイスは、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極及び正極、並びに電解質及び非水溶媒を含む非水系電解液を具備し、該非水系電解液が電解質及び非水溶媒とともに、前述の式(1)で表される化合物を含有する。
【0263】
本発明の非水系電解液を用いた蓄電デバイスは、非水系電解液二次電池、リチウム電池、多価カチオン電池、金属空気二次電池、上記以外のs-ブロック金属を用いた二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタが好ましく、リチウム電池とリチウムイオンキャパシタがより好ましく、非水系電解液二次電池、リチウム電池が更に好ましい。尚、これらの蓄電デバイスに用いられる非水系電解液は、高分子やフィラー等で疑似的に固体化された、所謂ゲル電解質であることも好ましい。また、本発明のリチウム塩は固体電解質の電解質塩としても使用することができる。
【0264】
<2-1.リチウム電池>
本発明の非水系電解液を用いたリチウム電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有する正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつイオンを吸蔵及び放出し得る負極と、上述した本発明の非水系電解液とを備えるものである。尚、本発明におけるリチウム電池とは、リチウム一次電池とリチウム二次電池の総称である。
【0265】
<2-1-1.電池構成>
本発明のリチウム電池は、上述した本発明の非水系電解液以外の構成については、従来公知のリチウム電池と同様である。通常は、本発明の非水系電解液が含浸されている多孔膜(セパレータ)を介して正極と負極とが積層され、これらがケース(外装体)に収納された形態を有する。従って、本発明のリチウム電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0266】
2-1-2.非水系電解液
非水系電解液としては、上述の本発明の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を配合して用いることも可能である。
【0267】
2-1-3.負極
負極は、集電体上に負極活物質層を有するものであり、負極活物質層は負極活物質を含有する。以下、負極活物質について述べる。
リチウム一次電池に用いられる負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを放出可能なものであれば特に制限はない。その具体例としては金属リチウムが挙げられる。
リチウム二次電池に用いられる負極活物質としては、電気化学的に金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0268】
<負極活物質>
負極活物質としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。
【0269】
負極活物質として用いられる炭素質材料としては、
(1)天然黒鉛、
(2)人造炭素質物質及び人造黒鉛質物質を400~3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、
(3)負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
(4)負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよく好ましい。また、(1)~(4)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0270】
上記(2)の人造炭素質物質及び人造黒鉛質物質としては、天然黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ及びこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液及びこれらの炭化物等が挙げられる。
【0271】
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(即ち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズ(以下、「特定金属元素」と略記する場合がある)の単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0272】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種又は2種以上の特定金属元素とその他の1種又は2種以上の金属元素とからなる合金、ならびに、1種又は2種以上の特定金属元素を含有する化合物、及びその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金又は金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0273】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金又は非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として動作しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、更に負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5~6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0274】
これらの負極活物質の中でも、電池にしたときに単位質量当りの容量が大きいことから、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素の合金、特定金属元素の酸化物、炭化物、窒化物等が好ましく、特に、ケイ素及び/又はスズの金属単体、合金、酸化物や炭化物、窒化物等が、単位質量当りの容量及び環境負荷の観点から好ましい。
【0275】
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタン及びリチウムを含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、更にリチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)である。即ちスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物を、非水系電解液二次電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0276】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウムやチタンが、他の金属元素、例えば、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されているものも好ましい。
【0277】
上記金属酸化物が、式(A)で表されるリチウムチタン複合酸化物であり、式(A)中、0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6であることが、リチウムイオンのドープ・脱ドープの際の構造が安定であることから好ましい。
【0278】
LixTiyMzO4 (A)
[式(A)中、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。]
【0279】
上記の式(A)で表される組成の中でも、以下の構造が電池性能のバランスが良好であるために特に好ましい。
(a)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(b)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(c)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
【0280】
上記化合物の特に好ましい代表的な組成は、(a)ではLi4/3Ti5/3O4、(b)ではLi1Ti2O4、(c)ではLi4/5Ti11/5O4である。また、Z≠0の構造については、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましいものとして挙げられる。
【0281】
<負極の構成と作製法>
電極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
【0282】
また、合金系材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0283】
(集電体)
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
【0284】
また、集電体の形状は、集電体が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは金属薄膜、より好ましくは銅箔であり、更に好ましくは圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。
【0285】
(結着剤)
負極活物質を結着するバインダーとしては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
【0286】
具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレンブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0287】
負極活物質に対するバインダーの割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、0.6質量%以上が特に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、8質量%以下が特に好ましい。負極活物質に対するバインダーの割合が、上記範囲であると、電池容量と負極電極の強度を十分に確保することができる。
【0288】
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下が更に好ましい。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上が更に好ましく、また、通常15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下が更に好ましい。
【0289】
(増粘剤)
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0290】
更に増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下が更に好ましい。負極活物質に対する増粘剤の割合が、上記範囲であると、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制できるとともに、良好な塗布性を確保することができる。
【0291】
(電極密度)
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.2g・cm-3以上が更に好ましく、1.3g・cm-3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm-3以下が好ましく、2.1g・cm-3以下がより好ましく、2.0g・cm-3以下が更に好ましく、1.9g・cm-3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲であると、負極活物質粒子の破壊を防止して、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を抑制することができる一方、電池容量の低下や抵抗の増大を抑制することができる。
【0292】
(負極板の厚さ)
負極板の厚さは用いられる正極板に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、また、通常300μm以下、好ましくは280μm以下、より好ましくは250μm以下が望ましい。
【0293】
(負極板の表面被覆)
また、上記負極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0294】
2-1-4.正極
<正極活物質>
以下に正極に使用される正極活物質について述べる。
【0295】
(組成)
リチウム一次電池に用いられる負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵可能なものであれば特に制限はない。その具体例としてはフッ化黒鉛、二酸化マンガン、塩化チオニル、二硫化鉄、酸化銅が挙げられる。
【0296】
リチウム二次電池に用いられる正極活物質としては、電気化学的に金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。
【0297】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、LiCoO2等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO2等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO4等のリチウム・マンガン複合酸化物、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2等のリチウム・ニッケル・マンガン・コバル
ト複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をNa、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。置換されたものとしては、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.45Co0.10Al0.45O2、LiMn1.8Al0.2O4、LiMn1.5Ni0.5O4等が挙げられる。
【0298】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。
【0299】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、上記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0300】
(表面被覆)
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0301】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0302】
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電池の耐久性を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。本発明においては、正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものも「正極活物質」ともいう。
【0303】
(形状)
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0304】
(タップ密度)
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm3以上、より好ましくは0.8g/cm3以上、更に好ましくは1.0g/cm3以上である。該正極活物質のタップ密度が上記範囲であると、正極活物質層形成時に必要な分散媒量及び導電材や結着剤の必要量を抑えることができ、結果正極活物質の充填率及び電池容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、好ましくは4.0g/cm3以下、より好ましくは3.7g/cm3以下、更に好ましくは3.5g/cm3以下である。上記範囲であると負荷特性の低下を抑制することができる。
【0305】
なお、本発明では、タップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/ccとして求める。
【0306】
(正極活物質の製造法)
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0307】
正極の製造のために、上記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の1種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoO2とLiNi0.33Co0.33Mn0.33O2等のLiMn2O4若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiCoO2若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0308】
<正極の構成と作製法>
以下に、正極の構成について述べる。本発明において、正極は、正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、ならびに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成されることにより正極を得ることができる。
【0309】
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。上記範囲であると、正極活物質層中の正極活物質の電気容量を確保できるとともに、正極の強度を保つことができる。塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、下限として好ましくは1.5g/cm3以上、より好ましくは2g/cm3、更に好ましくは2.2g/cm3以上であり、上限としては、好ましくは5g/cm3以下、より好ましくは4.5g/cm3以下、更に好ましくは4g/cm3以下の範囲である。上記範囲であると、良好な充放電特性が得られるとともに、電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0310】
(導電材)
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また上限は、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。上記範囲であると、十分な導電性と電池容量を確保することができる。
【0311】
(結着剤)
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0312】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、上限は、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0313】
(集電体)
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。これらの中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0314】
(電極面積)
本発明の電解液を用いる場合、高出力かつ高温時の安定性を高める観点から、正極活物質層の面積は、電池外装ケースの外表面積に対して大きくすることが好ましい。具体的には、二次電池の外装の表面積に対する正極の電極面積の総和が面積比で15倍以上とすることが好ましく、更に40倍以上とすることがより好ましい。外装ケースの外表面積とは、有底角型形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分の縦と横と厚さの寸法から計算で求める総面積をいう。有底円筒形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分を円筒として近似する幾何表面積である。正極の電極面積の総和とは、負極活物質を含む合材層に対向する正極合材層の幾何表面積であり、集電体箔を介して両面に正極合材層を形成してなる構造では、それぞれの面を別々に算出する面積の総和をいう。
【0315】
(正極板の厚さ)
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、上限としては、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0316】
(正極板の表面被覆)
また、上記正極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0317】
2-1-5.セパレータ
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0318】
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。これらの中でも、本発明の電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0319】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。これらの中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、更に好ましくはポリオレフィン、特に好ましくはポリプロピレンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用したり、積層されたものを使用してもよい。2種以上を任意の組み合わせで積層したものの具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンの順で積層された三層セパレータ等が挙げられる。
【0320】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上が更に好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下が更に好ましい。上記範囲であると、絶縁性及び機械的強度を確保できる一方、レート特性等の電池性能及びエネルギー密度を確保することができる。
【0321】
更に、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上が更に好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下が更に好ましい。空孔率が、上記範囲であると、絶縁性及び機械的強度を確保できる一方、膜抵抗を抑え良好なレート特性を得ることができる。
【0322】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0323】
2-1-6.電池設計
<電極群>
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の質量が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。電極群占有率が、上記範囲であると、電池容量を確保できるとともに内部圧力の上昇に伴う充放電繰り返し性能や高温保存等の特性低下を抑制し、更にはガス放出弁の作動を防止することができる。
【0324】
<集電構造>
集電構造は、特に制限されないが、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。電極群が上記の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が上記の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0325】
<外装ケース>
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0326】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【0327】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(PositiveTemperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0328】
2-2.多価カチオン電池
正極に酸化物材料等を用い、負極にマグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の金属や、これらの金属を含む化合物等を用いる。電解質には、負極の反応活物質種と同じ元素、すなわちマグネシウムイオンやカルシウムイオン、アルミニウムイオンを与えるように、マグネシウム塩やカルシウム塩、アルミニウム塩等を非水溶媒に溶解させた非水系電解液を用い、そこに式(1)で表される化合物を溶解させることにより、多価カチオン電池用非水系電解液を調製することができる。
【0329】
2-3.金属空気電池
負極に亜鉛、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムなどの金属や、これらの金属を含む化合物等を用いる。正極活物質は酸素であるため、正極は多孔質のガス拡散電極を用いる。多孔質材料は炭素が好ましい。電解質には、負極活物質種と同じ元素、すなわちリチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムなどを与えるように、リチウム塩やナトリウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、カルシウム塩等を非水溶媒に溶解させた非水系電解液を用い、そこに(1)で表される化合物を溶解させることにより、金属空気電池用非水系電解液を調製することができる。
【0330】
2-4.上記以外のs-ブロック金属を用いた二次電池
s-ブロック元素とは、第1族元素(水素、アルカリ金属)、第2族元素(ベリリウム、マグネシウム及びアルカリ土類金属)及びヘリウムのことで、s-ブロック金属二次電池とは、前記s-ブロック金属を負極及び又は電解質に用いた二次電池をあらわす。上記以外のs-ブロック金属二次電池は、具体的には、正極に硫黄を用いたリチウム硫黄電池やナトリウム硫黄電池、またナトリウムイオン電池等が挙げられる、
【0331】
2-5.リチウムイオンキャパシタ
正極に電気二重層を形成できる材料を用い、負極にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料を用いる。正極材料としては活性炭が好ましい。また負極材料としては、炭素質材料が好ましい。非水系電解液には、(1)で表される化合物を含有した非水系電解液を用いる。
【0332】
2-6.電気二重層キャパシタ
正極及び負極に電気二重層を形成できる材料を用いる。正極材料及び負極材料としては活性炭が好ましい。非水系電解液には、(1)で表される化合物を含有した非水系電解液を用いる。
【実施例】
【0333】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
以下具体的な評価手法について、説明する。
【0334】
[正極の作製]
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)85質量部を用い、カーボンブラック10質量部とポリフッ化ビニリデン5質量部を混合し、N-メチル-2-ピロリドンを加えスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0335】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛粉末、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、結着材としてスチレンブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレンブタジエンゴムの濃度50質量%)を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして負極とした。なお、乾燥後の負極において、天然黒鉛:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレンブタジエンゴム=98:1:1の質量比となるように作製した。
【0336】
[非水系電解液の調製]
基本電解液:1.0M LiPF6/EC:DMC:EMC=3:3:4
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)からなる混合溶媒(混合体積比EC:DMC:EMC=3:3:4)に、電解質であるLiPF6を1.0mol/Lの割合で溶解させ基本電解液とした。
【0337】
基本電解液2:1.2M LiPF6、0.1M LiBF4/EC:DEC=2:8
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)からなる混合溶媒(混合体積比EC:DEC=2:8)に、電解質であるLiPF6及びLiBF4をそれぞれ1.2mol/L、0.1mol/Lの割合で溶解させ基本電解液2とした。
【0338】
基本電解液3:1.0M LiPF6/EC:EMC:EP=3:4:3
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びプロピオン酸エチル(EP)からなる混合溶媒(混合体積比EC:EMC:EP=3:4:3)に、電解質であるLiPF6を1.0mol/Lの割合で溶解させ基本電解液3とした。
【0339】
基本電解液4:1.0M LiPF6/EC:EMC:MA=3:4:3
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及び酢酸メチル(MA)からなる混合溶媒(混合体積比EC:EMC:MA=3:4:3)に、電解質であるLiPF6を1.0mol/Lの割合で溶解させ基本電解液4とした。
【0340】
基本電解液5:1.0M LiFSI/EC:EMC:MA=3:4:3
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及び酢酸メチル(MA)からなる混合溶媒(混合体積比EC:EMC:MA=3:4:3)に、電解質であるLiFSIを1.0mol/Lの割合で溶解させ基本電解液5とした。
【0341】
更に、これら基本電解液に対して各表に記載の式(1)で表される化合物を記載量配合して各実施例の非水系電解液を調製した。また、各基本電解液そのまま、もしくは式(1)で表される化合物以外の比較例として適切と考えられる化合物を記載量配合して比較例の非水系電解液を調製した。
【0342】
[リチウム二次電池の作製]
上記の正極、負極、及びポリプロピレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正・負極の端子を突設させながら挿入した後、非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行ない、シート状のリチウム二次電池を作製した。
【0343】
[電池の初期特性評価]
リチウム二次電池をガラス板で挟んで加圧した状態で、25℃において、1/6Cに相当する電流で4.2Vまで定電流充電した後引き続き電流が0.01Cまで絞り込まれるまで定電圧充電を行った(定電流-定電圧充電・CC-CV充電ともいう。)。
【0344】
この後、1/6Cに相当する電流で2.5Vまで定電流放電を行い、この時の充放電効率を初回充放電効率とした。
【0345】
更に、1/6Cに相当する電流で上限4.1V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流-定電圧充電した後、45℃、12時間の条件下で放置した。その後、25℃に戻し、1/6Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電した。再度、25℃にて1/6Cに相当する電流で上限4.2V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流-定電圧充電した後、1/6Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電し、この容量を初期放電容量とした。
【0346】
その後、25℃にて1/6Cに相当する電流で上限3.72V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流-定電圧充電し、0℃にて交流インピーダンス測定を実施した。
比較には0.5Hzにおける虚数成分の抵抗値を用いた。
【0347】
[高温保存耐久試験]
初期特性評価後の電池を、25℃において、1/6Cに相当する電流で上限4.2V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流―定電圧充電した後、60℃の恒温槽にて2週間保存を行った。
【0348】
[高温保存耐久試験後評価]
高温保存耐久試験後の電池を25℃に戻した。
1/6Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電し、この容量を保存後放電容量とした。また、再度、25℃にて1/6Cに相当する電流で上限4.2V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流-定電圧充電した後、1/6Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電し、この容量を保存後の回復容量とした。
【0349】
その後、25℃にて1/6Cに相当する電流で上限3.72V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流-定電圧充電し、0℃に冷却して交流インピーダンス測定を実施した。
比較には0.5Hzにおける虚数成分の抵抗値を用いた。
【0350】
[高温サイクル耐久試験]
初期特性評価後の電池を、60℃の恒温槽中にて、1Cに相当する電流で上限4.2V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流-定電圧充電した後、1Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電し、これを1サイクルとした。
【0351】
[高温サイクル耐久試験後評価]
高温耐久試験後の電池を25℃に戻した。
25℃にて、1/6Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電し、再度、25℃にて1/6Cに相当する電流で上限4.2V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流―定電圧充電した後、1/6Cに相当する電流の定電流で2.5Vまで放電し、この容量をサイクル後容量とした。
【0352】
その後、25℃にて1/6Cに相当する電流で上限3.72V、0.01Cに絞り込まれるまで定電流―定電圧充電し、0℃に冷却して交流インピーダンス測定を実施した。
比較には0.5Hzにおける虚数成分の抵抗値を用いた。
【0353】
[評価に用いた化合物]
実施例に使用した電解液に加えた化合物(式(1)に該当する化合物)、及び比較例に使用した電解液に加えた化合物(式(1)に該当しない化合物)の構造を以下に示す。式(1)で表される化合物は文献1を、比較例で用いられた化合物は前記特許文献1~5に記載されている化合物であり、それぞれの特許文献に記載の方法を用いて合成して用いた。
【0354】
【0355】
【0356】
<評価1>
化合物1,2を基本電解液1kgあたり0.03mol(それぞれ約0.5質量%、0.8質量%)溶解し、それぞれ電解液1,2とした。また、比較化合物1~3を基本電解液1kgあたり0.03mol溶解し、それぞれ比較電解液1~3とした。
【0357】
これらと基本電解液の合計6種の電解液を用いて電池を作成した。電池の初期特性を評価した後、高温保存耐久試験を行い、高温保存耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例1-1,1-2及び比較例1-1~1-4としてその結果を表1にまとめた。
【0358】
初回充放電効率、初期容量、及び初期・保存後のインピーダンスはそれぞれ、そのときの比較例1-1の値を100とした相対値とした。また、保存後の残存・回復容量は、初期の比較例1-1の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0359】
【0360】
表1から次のことがわかる。
実施例1-1,1-2は比較例1-1に劣らない一方、初期インピーダンスは大きく低減されていることがわかった。この時点で、比較例1-2は初期効率に劣り、インピーダンスを抑制する効果は見られない。
【0361】
比較例1-3は、実施例1-1,1-2と同様の傾向を示した一方、類似の構造のジエステル体を用いた比較例1-4は、インピーダンスを抑制する効果が弱かった。
【0362】
保存後の結果では、実施例1-1,1-2は残存・回復容量とも、比較例1-1に対し、向上していることが確認された。また、実施例1-1,1-2は比較例1-1に対し、インピーダンスについても低い値を維持し続けることが確認された。
【0363】
比較例1-2は残存・回復容量とも、低下し、インピーダンスも増加しており、添加することによりむしろ悪影響を及ぼすことが確認された。
【0364】
比較例1-3は、保存後の残存・回復容量について、実施例1-1,1-2と同様の傾向を示し、インピーダンスも、実施例1-1,1-2には及ばないものの低い値を示した。
【0365】
比較例1-4は、保存後の残存・回復容量については、実施例1-1,1-2と同様の傾向を示すものの、インピーダンスの抑制効果は大きくない。保存後の残存・回復容量が維持されることから、電池そのものの劣化が抑えられたことにより、結果的にインピーダンスが比較例1-1ほどは悪化しなかったものと考えられ、本質的にインピーダンス抑制効果を持つ材量を評価した結果ではないと考えられる。
【0366】
<評価2>
評価1で用いた電解液を使用して、別途再度同様の構成の別の電池を作成した。電池の初期特性の評価を行った後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例2-1,2-2及び比較例2-1~2-3とし、結果を表2にまとめた。
【0367】
初回充放電効率、初期容量、及び初期・200サイクル後・400サイクル後のインピーダンスはそれぞれ、その時の比較例2-1の値を100とした相対値とした。また、200サイクル後及び400サイクル後の容量は、初期の比較例2-1の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0368】
なお、初期特性評価の相対値が<評価1>と異なるのは、作成電池のロット間誤差の影響である。
【0369】
【0370】
表2から次のことがわかる。
初期評価の傾向は、<評価1>と同様の傾向であった。
【0371】
200サイクル後及び400サイクル後、実施例2-1,2-2の容量は、比較例2-1に対し、向上していることが確認された。また、インピーダンスも低い値を維持し続けることが確認された。
【0372】
ここでも、比較例2-2は容量が低下し、インピーダンスも増加しており、添加することによりむしろ悪影響を及ぼすことが確認された。
【0373】
比較例2-3は、200サイクル後及び400サイクル後のインピーダンスは、高温保存耐久試験後の比較例1-3と同様に実施例2-1,2-2には及ばないものの低い値を示した。しかしながら、200サイクル後及び400サイクル後の容量は、基本電解液を用いた比較例2-1とほとんど変わらないという結果を示した。
【0374】
以上の<評価1>及び<評価2>の結果から、実施例1-1,1-2及び2-1,2-2に用いた電解液1,2に添加した式(1)の化合物を用いた場合、比較例1-2,1-3及び2-2,2-3に用いた比較電解液1,2に添加した化合物を用いた場合には達成できない、高温耐久保存試験と高温サイクル耐久試験後の双方の特性向上が可能であることが確認された。
【0375】
<評価3>
化合物3,4を基本電解液1kgあたり0.03mol(それぞれ約0.5質量%、約0.7質量%)溶解し、それぞれ電解液3,4とした。比較例3-1には基本電解液を用いた。別途再度<評価1>及び<評価2>と同様の構成の別の電池を作成した。これらの電池の初期特性評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらをそれぞれ実施例3-1,3-2及び比較例3-1とし、結果を表3にまとめた。
【0376】
初回充放電効率、初期容量、及び初期・200サイクル後のインピーダンスはそれぞれ、その時の比較例3-1の値を100とした相対値とした。また、200サイクル後の容量は、初期の比較例3-1の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0377】
【0378】
実施例3-1,3-2は初回充放電効率、初期容量が比較例3-1に劣らない一方、初期インピーダンスが大きく低減されていることがわかった。
【0379】
200サイクル後、実施例3-1,3-2の容量は、比較例3-1に対し、向上していることが確認された。また、インピーダンスも低い値を維持し続けることが確認された。
【0380】
これらの結果より、式(1)で表される化合物を添加することにより、非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されていることが示唆された。さらに、インピーダンスが低い状態を維持することから、初期的に吸着した式(1)で表される化合物の安定化機構が示唆されたものと考えられる。
【0381】
<評価4>
化合物1を基本電解液1kgあたりそれぞれ0.06,0.12mol(それぞれ約1.0質量%、2.0質量%)溶解し、それぞれ電解液5,6とした。これに加え電解液1を再度使用した。比較例4-1には基本電解液を用いた。
【0382】
別途再度<評価1>~<評価3>と同様の構成の別の電池を作成した。これらの電池の初期特性評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらをそれぞれ実施例4-1~4-3及び比較例4-1とし、結果を表4にまとめた。
【0383】
初回充放電効率、初期容量、及び初期・100サイクル後・200サイクル後のインピーダンスはそれぞれ、その時の比較例4-1の値を100とした相対値とした。また、100サイクル後・200サイクル後の容量は、初期の比較例4-1の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0384】
【0385】
実施例4-1~4-3は初回充放電効率、初期容量が比較例3-1に劣らない。実施例4-1,4-2は初期インピーダンスが大きく低減されている。実施例4-3は大きな差異は無かったが、これはより高周波側に時定数を持つ抵抗成分の影響が強く表れた結果と考えられる。
【0386】
100サイクル後、200サイクル後にわたり実施例4-1,4-2の容量は、比較例4-1に対し、向上していることが確認された。また、インピーダンスも100サイクル後の時点で濃度と共に低い値となる事が確認され、200サイクル後も維持し続けることが確認された。
【0387】
これらの結果より、式(1)で表される化合物をより多く添加することにより、非水系電解液の分解効果が大きくなり、分解物の電極上での電気化学的副反応抑制効果がより大きくなることが示唆された。さらに、サイクル後のインピーダンスが低い状態を維持することから、初期的に吸着した式(1)で表される化合物の安定化効果が濃度によりより強く表れることが示唆されたものと考えられる。
【0388】
<評価5>
基本電解液2に対し、化合物1、2をそれぞれ0.6質量%、0.8質量%配合し、それぞれ電解液7,8とした。また、基本電解液2に対し、比較化合物1を0.45質量%配合し、比較電解液4とした。
【0389】
これらと基本電解液2の合計4種の電解液を用いて電池を作成した。電池の初期特性を評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例5-1,5-2及び比較例5-1、5-2とし、結果を表5にまとめた。
【0390】
初期容量、及び初期・100サイクル後のインピーダンスは、それぞれその時の比較例5-1の値を100とした相対値とした。また、100サイクル後の容量は、比較例5-1の初期の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0391】
【0392】
実施例5-1、5-2の初期容量は、比較例5-1より向上した。一方で、比較例5-2の初期容量は、比較例5-1より低下した。また、実施例5-1,5-2の初期インピーダンスは、比較例5-1に対し大きく低減されるが、比較例5-2では初期インピーダンスが増加した。
【0393】
実施例5-1、5-2の100サイクル後の容量は、比較例5-1に対し向上した。また、100サイクル後のインピーダンスも比較例5-1に対し低い値となっており、100サイクル後も抵抗増加を抑制し続けていることが確認された。一方、比較例5-2は、100サイクル後のインピーダンスは比較例5-1より低くなるが、実施例5-1、5-2には及ばず、また、100サイクル後の容量は比較例5-1よりも低下し、むしろ悪影響を及ぼすことが確認された。
【0394】
以上の結果から、基本電解液2に対しても、式(1)で表される化合物を添加することにより、非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されていることが示唆された。さらに、インピーダンスが低い状態を維持することから、基本電解液組成が変化したとしても、初期的に吸着した式(1)で表される化合物の安定化機構が維持されるものと考えられる。
【0395】
<評価6>
基本電解液に対し、化合物1を0.6質量%配合し、電解液9とした。さらに、電解液9に対しビニレンカーボネート(VC)、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)をそれぞれ1.0質量%配合し、それぞれ電解液10、11とした。また、基本電解液に対し、化合物2を0.8質量%配合し、電解液12とした。さらに、電解液12に対しVC、FECをそれぞれ1.0質量%配合し、それぞれ電解液13、14とした。また、基本電解液に対し、VC、FECをそれぞれ1.0質量%配合し、それぞれ比較電解液5、6とした。
【0396】
これらと基本電解液の合計9種の電解液を用いて電池を作成した。電池の初期特性を評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例6-1~6-6、及び比較例6-1~6-3とし、結果を表6にまとめた。
【0397】
初回充放電効率、初期容量、及び初期・200サイクル後のインピーダンスは、それぞれその時の比較例6-1の値を100とした相対値とした。また、200サイクル後の容量は、比較例6-1の初期の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0398】
なお、電解液2、電解液12は同一組成であるが、初期特性評価及び高温サイクル耐久試験後の特性の相対値が<評価2>と異なるのは、作成電池のロット間誤差の影響である。
【0399】
【0400】
化合物1のみを基本電解液に添加した実施例6-1では、比較例6-1に対し、初期特性及び高温サイクル耐久試験後の特性向上が見られるが、さらにVC、FECを加えた実施例6-2、6-3では、200サイクル時点でインピーダンスの増加を抑制しつつ、サイクル後容量がさらに向上した。
同様に、基本電解液に対し化合物2のみを加えた実施例6-4においても、比較例6-1に対する特性向上効果は確認されるが、さらにVC、FECを加えた実施例6-5、6-6では、200サイクル時点でインピーダンスの増加を抑制しつつ、サイクル後容量がさらに向上した。
【0401】
一方、基本電解液にVC、FECのみを加えた比較例6-2、6-3では、比較例6-1に対し同等以上にサイクル後容量を向上し得るが、化合物1,2とVC、FECをともに用いた実施例6-2、6-3、6-5、6-6のサイクル後容量には及ばず、またサイクル後のインピーダンスの増加抑制効果も各実施例に対して劣る。
【0402】
すなわち、式(1)で表される化合物とVC、FECを同時に用いることで、化合物1、2、VC及びFECをそれぞれ単独で用いる場合よりも、より効果的に非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されていることが示唆された。また、インピーダンスが低い状態を維持することから、VCやFECから形成される被膜中にも式(1)で表される化合物が取り込まれ、電極に吸着することで、電極表面の安定化機構が維持されるものと考えられる。
【0403】
<評価7>
基本電解液3に対し、化合物1、2をそれぞれ0.6質量%、0.8質量%配合し、それぞれ電解液15,16とした。また、基本電解液3に対し、比較化合物1を0.45質量%配合し、比較電解液7とした。
【0404】
これらと基本電解液3の合計4種の電解液を用いて電池を作成した。電池の初期特性を評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例7-1,7-2及び比較例7-1、7-2とし、結果を表7にまとめた。
【0405】
初回充放電効率、初期容量、及び初期・200サイクル後のインピーダンスはそれぞれ、その時の比較例7-1の値を100とした相対値とした。また、200サイクル後の容量は、比較例7-1の初期の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0406】
【0407】
実施例7-1、7-2は、初回充放電効率が比較例7-1に対し大きく向上した。一方、比較例7-2では初期充放電効率の向上効果は確認されなかった。また、実施例7-1,7-2は、初期インピーダンスが大きく低減されたが、比較例7-2はその効果が小さかった。
【0408】
実施例7-1,7-2の200サイクル後の容量は、比較例7-1に対し、大幅に向上した。また、200サイクル後時点のインピーダンスも比較例7-1に対して低く、200サイクル後も抵抗増加を抑制し続けていることが確認された。一方、比較例7-2は、200サイクル後の容量、及びインピーダンス共に比較例7-1より向上するが、両特性とも実施例7-1、7-2には及ばない。
【0409】
以上の結果から、鎖状カーボネートの一部を鎖状カルボン酸エステルに置換した基本電解液3に対しても、式(1)で表される化合物を添加することにより、非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されていることが示唆された。さらに、インピーダンスが低い状態を維持することから、鎖状カルボン酸エステルを含む電解液組成であっても、初期的に吸着した式(1)で表される化合物の安定化機構が維持されるものと考えられる。
【0410】
<評価8>
基本電解液4に対し、化合物1を0.6質量%配合し、電解液17とした。さらに、電解液17にVCを1.0質量%配合し、電解液18とした。
【0411】
これらと基本電解液4の合計3種の電解液を用いて電池を作成した。電池の初期特性を評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例8-1,8-2及び比較例8-1とし、結果を表8にまとめた。
【0412】
初期充放電効率、初期容量、及び初期・100サイクル後のインピーダンスはそれぞれ、その時の比較例8-1の値を100とした相対値とした。また、100サイクル後の容量は、比較例8-1の初期の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0413】
【0414】
実施例8-1の初回充放電効率は、比較例8-1に対し大きく向上した。ここにVCを配合した実施例8-2は、さらに初回充放電効率が向上した。また、実施例8-1,8-2は、初期インピーダンスが大きく低減された。
【0415】
実施例8-1の100サイクル後の容量は、比較例8-1に対し大幅に向上したが、さらにVCを加えた実施例8-2では、さらにサイクル後の容量が向上した。また、100サイクル後時点の実施例8-1,8-2のインピーダンスも比較例8-1に対して低く、100サイクル後も抵抗増加を抑制し続けていることが確認された。
【0416】
以上の結果から、基本電解液4に対しても、式(1)で表される化合物を添加することにより、非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されていることが示唆される。さらにVCを加えることで、より効果的に非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されることが示唆される。よって、鎖状カルボン酸エステルを含む電解液であっても、式(1)で表される化合物とVCを併用することで、電池特性の向上が可能であると言える。また、インピーダンスが低い状態を維持することから、式(1)で表される化合物の初期的な吸着による安定化機構が維持されており、鎖状カルボン酸エステルを含む電解液であり且つVC被膜の共存下においても、式(1)で表される化合物の吸着安定化機構が維持されているものと考えられる。
【0417】
<評価9>
基本電解液5に対し、化合物1を0.6質量%配合し、電解液9-1とした。
【0418】
これと基本電解液5の合計2種の電解液を用いて電池を作成した。電池の初期特性を評価した後、高温サイクル耐久試験を行い、高温サイクル耐久試験後評価を実施した。これらのそれぞれを実施例9-1及び比較例9-1とし、結果を表9にまとめた。
初期充放電効率、初期容量、及び初期・100サイクル後のインピーダンスはそれぞれ、その時の比較例9-1の値を100とした相対値とした。また、100サイクル後の容量は、比較例9-1の初期の値を100とした相対値とした。インピーダンスのみ相対値が小さいほど優れたものと評価され、その他は大きいほど優れたものと評価される。
【0419】
【0420】
実施例9-1の初回充放電効率及び初期容量は、比較例9-1に対し向上した。また、実施例9-1は、初期インピーダンスが大きく低減されることも確認された。
実施例9-1の100サイクル後の容量は、比較例9-1に対して向上し、100サイクル後時点のインピーダンスも比較例9-1に対して低く、100サイクル後も抵抗増加を抑制し続けていることが確認された。
以上の結果から、主塩にLiFSIを用いた基本電解液5に対しても、式(1)で表される化合物を添加することにより、非水系電解液の分解が抑制され、分解物の電極上での電気化学的副反応が抑制されていることが示唆された。さらに、インピーダンスが低い状態を維持することから、主塩にLiFSIを用いた電解液組成であっても、初期的に吸着した式(1)で表される化合物の安定化機構が維持されるものと考えられる。
【0421】
なお、以上の表1~表9において示した各実施例・比較例において、各種耐久試験期間はモデル的に比較的短期間として行なっているが、有意な差が確認されている。実際の非水電解液二次電池の使用は数年に及ぶ場合もあるため、これら結果の差は長期間の使用を想定した場合、更に顕著な差になると理解することができる。
【0422】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
【0423】
本出願は2018年3月27日出願の日本特許出願(特願2018-060482)に基づくものであり、その内容は参照としてここに取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0424】
本発明の非水系電解液によれば、非水系電解液を含む蓄電デバイスのサイクル容量維持率や、サイクル後の入出力特性を改善でき、有用である。そのため、本発明の非水系電解液及び蓄電デバイスは、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用バックアップ電源、事業所用バックアップ電源、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源等が挙げられる。