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特許7187151生存細胞の画像解析のための方法及び装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】生存細胞の画像解析のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221205BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20221205BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20221205BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20221205BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/34 D
C12N5/079
G01N33/48 M
G06T7/00 630
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017552970
(86)(22)【出願日】2016-04-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 US2016026833
(87)【国際公開番号】W WO2016164857
(87)【国際公開日】2016-10-13
【審査請求日】2019-03-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】62/145,730
(32)【優先日】2015-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/183,703
(32)【優先日】2015-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】リー・エル・ルービン
(72)【発明者】
【氏名】清田 泰次郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 千枝子
(72)【発明者】
【氏名】新倉 慶一
(72)【発明者】
【氏名】キャスリーン・エル・ファフ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】宮岡 真衣
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-236563(JP,A)
【文献】Developmental Brain Research, 1995, Vol.86, pp.283-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
C12N 5/079-5/0797
G06F 7/00
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集団をインビトロで培養することと、
連続的に又は離散的な時間間隔でのいずれかの期間にわたって細胞集団内の標的細胞の画像を繰り返し取得することと、
個々の前記標的細胞に対する前記画像の解析に基づいて、個々の前記標的細胞のマーカーの変化を検出することと、
を含み、
前記標的細胞はニューロンであり、
前記標的細胞のマーカーはニューロン当たりのノード数であり、
前記ノード数はニューロン細胞体と神経突起との間の物理的位置の数であり、
個々の前記標的細胞のマーカーの変化を検出することは、前記標的細胞の個々のニューロンのノード数の時間的変化を検出し、前記標的細胞に対する刺激の効果を判定することを含む、
刺激を判定する方法。
【請求項2】
前記標的細胞は運動ニューロンであり、前記標的細胞は個々に解析される請求項1に記載の刺激を判定する方法。
【請求項3】
ある割合の所定の表現型を有する標的細胞が存在するまで細胞集団を培養することをさらに含み、
前記表現型はニューロン当たりのノード数である、
請求項1又は2に記載の刺激を判定する方法。
【請求項4】
所定の表現型は健全な表現型である請求項3に記載の刺激を判定する方法。
【請求項5】
細胞培養物中の標的細胞を刺激と接触させることと、ここで、前記標的細胞は異種細胞集団中に存在し、
連続的に又は離散的な時間間隔でのいずれかの期間にわたって標的細胞の画像を繰り返し取得することと、
個々の前記標的細胞に対する前記画像の解析に基づいて、個々の前記標的細胞のマーカーの変化を検出することと
を含み、
前記標的細胞はニューロンであり、
前記標的細胞のマーカーはニューロン当たりのノード数であり、
前記ノード数はニューロン細胞体と神経突起との間の物理的位置の数であり、
個々の前記標的細胞のマーカーの変化を検出することは、前記標的細胞の個々のニューロンのノード数の時間的変化を検出し、前記標的細胞に対する刺激の効果を判定することを含む、
刺激を判定する方法。
【請求項6】
前記マーカーの変化は、前記刺激に対するマーカーを曝露前及び曝露後に測定して比較することによって判定される請求項5に記載の刺激を判定する方法。
【請求項7】
前記マーカーの変化は、正常標的細胞と疾患標的細胞の両方における刺激に対するマーカーを曝露後に測定して比較することによって判定される請求項5に記載の刺激を判定する方法。
【請求項8】
前記標的細胞は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られる請求項5~7のうちのいずれか1つに記載の刺激を判定する方法。
【請求項9】
前記多能性幹細胞は、神経学的障害を有するヒト被験者由来の誘導多能性幹細胞である請求項8に記載の刺激を判定する方法。
【請求項10】
少なくとも1つのプロセッサと、
記憶媒体上に符号化した実行可能命令を有する記憶媒体であって、前記実行可能命令が前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、前記少なくとも1つのプロセッサに対して方法を実行させる記憶媒体とを備えた判定装置であって、
前記方法は、
培養中の細胞でありかつ細胞体とノードとを備える細胞の画像に含まれる細胞体の数と、前記各細胞体に対するノード数とを検出することと、ここで、前記ノード数はニューロン細胞体と神経突起との間の物理的位置の数であり、
前記細胞の画像に含まれる細胞体のうち、少なくとも所定数のノードを有する細胞体の数に基づいて値を計算することと、ここで、前記少なくとも所定数のノードは少なくともいくつかの細胞の細胞種に対応し、
前記値がユーザ入力に対応する所定の条件を満たすか否かを判定することと、
前記値が前記所定の条件を満たすと判定したことに応答して、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力することとを含み、
前記値を計算することは、前記細胞体の数と、前記各細胞体に対するノード数とに少なくとも部分的に基づいて前記値を計算することを含み、
前記細胞及び前記細胞種はニューロンであり、
前記細胞体の数と、前記各細胞体に対するノード数とを検出することは、前記ニューロンの数と、個々の前記ニューロンのノード数との各時間的変化を検出し、前記細胞に対する刺激の効果を判定することを含む、
判定装置。
【請求項11】
前記方法はさらに、複数の所定の判定条件と、前記細胞の状態を示す情報とが協調される状態判定情報を記憶することと、
前記状態判定情報を読み出し、現時点よりも所定時間前の期間において前記値の変化率が前記複数の所定の判定条件のいずれかを満たしていることを判定することとを含み、
前記出力することはさらに、前記変化率が複数の所定の判定条件のうちの少なくとも1つを満たすと判定したことに応答して、前記変化率によって満たされる前記複数の所定の判定条件と調整された前記細胞の状態を示す情報を出力することを含む請求項10に記載の判定装置。
【請求項12】
記憶媒体上に符号化した実行可能命令を有する少なくとも1つのコンピュータにより読出可能な記憶媒体であって、
前記記憶媒体は、前記実行可能命令が前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、前記少なくとも1つのプロセッサに対して方法を実行させ、
前記方法は、
培養中の細胞でありかつ細胞体とノードとを備える細胞の画像に含まれる細胞体の数と、前記各細胞体に対するノード数とを検出することと、ここで、前記ノード数はニューロン細胞体と神経突起との間の物理的位置の数であり、
前記細胞の画像に含まれる細胞体のうち、少なくとも所定数のノードを有する細胞体の数に基づいて値を計算することと、ここで、前記少なくとも所定数のノードは少なくともいくつかの細胞の細胞種に対応し、
前記値がユーザ入力に対応する所定の条件を満たすか否かを判定することと、
前記値が前記所定の条件を満たすと判定したことに応答して、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力することとを含み、
前記値を計算することは、前記細胞体の数と、前記各細胞体に対するノード数とに少なくとも部分的に基づいて前記値を計算することを含み、
前記細胞及び前記細胞種はニューロンであり、
前記細胞体の数と、前記各細胞体に対するノード数とを検出することは、前記ニューロンの数と、個々の前記ニューロンのノード数との各時間的変化を検出し、前記細胞に対する刺激の効果を判定することを含む、
記憶媒体。
【請求項13】
少なくとも1つのプロセッサと、
記憶媒体上に符号化した実行可能命令を有する記憶媒体であって、前記実行可能命令が前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、前記少なくとも1つのプロセッサに対して方法を実行させる記憶媒体とを備えた判定装置であって、
前記方法は、
細胞の取得された時系列画像に示される個々の前記細胞のノード数の時間的変化を取得することと、ここで、前記ノード数はニューロン細胞体と神経突起との間の物理的位置の数であり、
前記取得することにおいて前記取得された細胞のノード数の時間的変化に基づいて、前記ノード数がしきい値以上になったときから前記ノード数がしきい値未満になるまでの時間期間を計算することと、
前記時間期間を示す情報を出力することとを含み、
前記細胞はニューロンであり、
個々の前記細胞のノード数の時間的変化を取得することは、個々の前記ニューロンのノード数の時間的変化を取得し、前記細胞に対する刺激の効果を判定することを含む、
判定装置。
【請求項14】
前記取得することは、前記取得したノード数の時系列変化を平滑化する請求項13に記載の判定装置。
【請求項15】
前記取得することはさらに、細胞数の時間的変化を取得し、
前記時間期間を計算することは、前記細胞のノード数の時間的変化と、前記取得した細胞数の時間的変化とに基づいて、前記取得することにおいて前記取得されたノード数と、前記取得されたノード数がしきい値以上であるときの細胞数との比が所定値以上になるときから、前記比が前記所定数未満になるまでの時間期間を計算することを含む請求項13又は14に記載の判定装置。
【請求項16】
前記方法はさらに、前記細胞の取得された時系列画像から前記細胞内のノードを検出することを含み、
前記取得することは、前記検出することにおいて前記検出されたノード数の時間的変化を取得することを含む請求項13~15のうちのいずれか1つに記載の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生存細胞の画像解析のための方法及び装置に関する。
【0002】
関連アプリケーション
本出願は、2015年4月10日に出願された米国仮出願第62/145,730号と、2015年6月23日に出願された米国仮出願第62/183,703号とに基づいて、米国特許法第119条(e)のもとでの利益を主張する。ここで、両願とも、「生存細胞の画像解析のための方法及び装置」と題する出願であって、これらの各出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
神経系疾患(及び他のほとんどの障害)のための現在の創薬システムは、動物モデルに大きく依存している。神経変性疾患を治療する薬剤を同定しようとする標準的なインビトロアッセイは、生存している健全な細胞及び疾患細胞が一定時間後に計数される細胞生存の単一の測定を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7,139,415号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】Editors, Sullivan, Cowan and Eggan, “Human Embryonic Stem Cells: The Practical Handbook“, Wiley, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の創薬アッセイは、多数の理由から準最適であると考えられている。動物モデルは、それらがモデル化しようとしているヒト疾患を部分的に模倣しているに過ぎない。加えて、これらのインビボモデルはコストと時間の両方において非効率的である。インビトロアッセイは、典型的には、単一の特性に対しのみ評価し、その後、擬似疾患進行の終了時又はその近くで1回だけ評価する。これの古典的な例は、薬剤又は他の刺激への曝露後の細胞生存度(又は細胞死)の評価である。そのような測定は、疾患の発症及び/又は進行の兆候に関与し得るか、又は疾患の発症及び/又は進行の兆候であり得る早期の事象を考慮し損なっている。前記測定はまた、特に幹細胞由来培養物を含む、細胞培養物中に存在する細胞の不均一性も考慮していない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来技術の方法の様々な欠点に対処する。本発明は、とりわけ、一定期間にわたる細胞集団の1つ又は複数の変化を同定、評価、及び/又はモニタリングすることによって、インビトロで細胞集団上の1つ又は複数の刺激の効果を解析するための方法及び装置を提供する。このような変化は、顕微鏡システムのようなイメージングシステムを用いて、時間経過とともに検出、測定、モニタリングすることができる変化を含む、標的細胞における形態変化であり得る。本発明はさらに、マーカーによって細胞集団の状態を評価し、これらのマーカーに基づいて細胞集団と刺激を接触させる最適な時間を判定するための方法を提供する。従って、このような方法は、ある典型的に事前に確立されたしきい値が満たされた場合にのみ、刺激が加えられたことにおいて、所与の細胞集団(例えば、細胞株)について個別化される。以下により詳細に説明するように、しきい値は健全又は不健全なしきい値であってもよい。
【0008】
この方法は、多くの点で従来技術の方法と異なる。第一に、この方法は、細胞の生存又は細胞の死滅以外の効果を測定する。測定された効果は、細胞生存率に関連し得るか、又は細胞生存率に関連しない可能性がある。後者の状況は、研究される疾患が、標的細胞集団の死滅ではなくその標的細胞集団における機能不全によって特徴付けられているとき特に有用である。第二に、本明細書で提供される方法は、アッセイの時間経過の終わり又は終わり近くの単一の時点だけではなく、連続的又は離散的な時間間隔のいずれかの期間にわたり、そのような効果を測定する。このように、この方法は、早期の疾患マーカー及び様々な刺激(新薬候補を含む)がそのようなマーカーに及ぼす影響のより高い分解能及び理解を提供する。早期のマーカーを追跡する能力はまた、潜在的により短いアッセイをもたらし、これによりこのようなアッセイの効率を時間及びコストの両方で増加させる。最後に、早期の効果及び早期の事象に影響を与える刺激の能力の追跡は、影響を最大にし得るとき、疾患の進行の早期段階で使用することができる刺激の同定(及び潜在的な治療薬)につながる可能性がある。
【0009】
従って、一般的な意味で、本発明は、標的細胞集団に対する刺激の効果を判定するためのスクリーニング方法(又はスクリーニングアッセイ)を提供する。これらの方法は、細胞集団のマーカー(形態マーカーなど)のベースライン測定値を得るステップと、刺激を細胞集団に曝露するステップと、時間の経過と共にマーカーの変化を同定及び/又は定量するためにマーカーを連続的に又は離散的な時間間隔で測定するステップとを含み、ここで、ベースラインに対するマーカーの変化が、刺激が細胞集団の発達を変化させたことを示す。
【0010】
いくつかの実施形態では、細胞集団は疾患細胞集団である。そのような集団は、患者特異的な細胞株であり得る。いくつかの例では、そのような細胞株は、患者特異的な人工多能性幹細胞(iPS細胞)の指向性の系譜特異的な分化によって生成され得る。
【0011】
他の実施形態では、細胞集団は、「正常な」被験体からのiPS細胞の指向性の系譜特異的な分化によって生成される細胞株などの対照細胞集団であり得る。本明細書で使用される正常な被験体は、関心のある疾患を持っていない被験体を指す。上述の方法は、追加的又は代替的に、患者特異的な標的細胞集団と正常細胞集団との間のマーカーの変化を比較することによって実行され得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、標的細胞集団は、例えば、運動ニューロン(MN)細胞集団のようなニューロン細胞集団である。ニューロン細胞集団及びすなわち、MN細胞集団は、患者特異的なiPS細胞からの、系譜特異的な分化によって生成され得る。MN細胞集団における1つ又は複数のマーカーは、連続的であろうと時間の離散的な間隔であろうと、刺激への曝露前と曝露後をモニターし、そのような曝露前後の測定を互いに比較され得る。代替的又は追加的に、それらは、正常な細胞集団の同じ刺激に対する曝露前及び曝露後からのマーカーの測定と比較することができる。
【0013】
患者特異的な細胞集団及び正常細胞集団を含む細胞集団は、例えばマルチウェルプレートのようなマルチチャンバ内で成長させることができる。次いで、生細胞イメージングが、細胞集団においてマーカー及びこのようなマーカーの変化を測定するための手段として行われる。
【0014】
関心のある細胞を、それらを同定するため、及びそれらを培養物中の他の細胞から区別するために検出可能な標識で標識してもよい。
【0015】
従って、一態様では、本開示は、細胞集団をインビトロで培養することと、連続的に又は離散的な時間間隔のいずれかの期間にわたって細胞集団内の標的細胞の画像を繰り返し取得することと、ここで、画像は単一の標的細胞を検出し、及び、画像の解析に基づいて標的細胞におけるマーカーの変化を検出すること(又はマーカーをモニタリングすること)を含む方法を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態では、標的細胞は運動ニューロンであり、マーカーは標的細胞当たりのノード数である。いくつかの実施形態では、標的細胞は個々に解析される。いくつかの実施形態では、前記方法はさらに、ある割合の所定の表現型を有する標的細胞が存在するまで細胞集団を培養することを含む。いくつかの実施形態では、所定の表現型は健全な表現型である。いくつかの実施形態では、所定の表現型は、不健全な表現型である。
【0017】
さらに別の態様において、この開示は、標的細胞が異種細胞集団中に存在する、細胞培養物中の標的細胞を刺激と接触させることと、連続的に又は離散的な時間間隔のいずれかの期間にわたって標的細胞の画像を繰り返し取得することと、前記画像の解析に基づいて、前記標的細胞のマーカーの変化を検出することとを含む方法を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態では、マーカーの変化は、刺激に対するマーカーを曝露前及び曝露後に測定して比較することによって評価することで判定される。いくつかの実施形態では、(例えば、1つの細胞であろうと十分な数の細胞であろうと、細胞が刺激と接触する時間と、マーカーが変化する時間との間の時間が明らかである)そのようなマーカー変化が起こるのにかかる時間が測定され、任意選択的に、そのような時間は、他の患者又は供給源からの同様の標的細胞のような他の集団における同様の時間測定値と比較される。
【0019】
いくつかの実施形態では、マーカーの変化は、正常及び疾患の標的細胞の両方において、刺激に対するマーカーの曝露を測定して比較することによって判定される。
【0020】
いくつかの実施形態では、標的細胞は、接着状態で培養中に成長し、場合により培養中に単一層で増殖する細胞である。
【0021】
いくつかの実施形態では、標的細胞は運動ニューロンである。いくつかの実施形態では、標的細胞は、多能性幹細胞のインビトロでの分化によって得られる。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、神経学的障害を有するヒト被験者に由来する多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、神経学的障害は、脊髄性筋萎縮症又は筋萎縮性側索硬化症である。
【0022】
いくつかの実施形態では、標的細胞は、自閉症又はアルツハイマー病を有するヒト被験者に由来する皮質ニューロンである。
【0023】
いくつかの実施形態では、標的細胞は、パーキンソン病を有するヒト被験者に由来するドーパミン作動性ニューロンである。
【0024】
いくつかの実施形態では、マーカーは標的細胞当たりのノード数である。本明細書で使用されるように、ノードは、ニューロン細胞体と(樹状突起又は軸索などの)神経突起との間の物理的位置である。このように、いくつかの例では、ノードは、ニューロンから延びる神経突起数を表すことができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、マーカーは、標的細胞当たりのノード数が3未満の数に減少する。
【0026】
いくつかの実施形態では、標的細胞の少なくとも50%が標的細胞当たり3個以上のノードを含むと、標的細胞を刺激と接触させる。刺激は、化学的、電気的、電磁気的(例えば、放射線)、物理的(例えば、機械的)又は他のタイプの刺激であり得る。化学的刺激には、その用語が当技術分野で理解されるように、例えばsiRNA又は他のRNA干渉剤などの核酸系薬剤と;例えば抗体、抗体断片、ペプチドなどのアミノ酸又はタンパク質ベースの薬剤と;炭水化物、脂質などの低分子化合物を含む。化学的刺激は機能的に定義することができる。例えば、それは、例えば酵素活性を有する細胞表面受容体のリガンドなどの既知の受容体、もしくは、細胞表面リガンド、ホルモン、転写又は翻訳メディエータ、細胞分裂又はDNA複製に影響を及ぼす薬剤などの既知のリガンドの受容体である。いくつかの実施形態では、刺激は、ニューロンに対して効果を有することが知られているか又は疑われる化合物であり、そのような刺激の効果をテストする。
【0027】
いくつかの実施形態では、標的細胞は検出可能に標識される。
【0028】
いくつかの実施形態では、複数の画像は、位相差顕微鏡法及び蛍光顕微鏡法を用いて得られる。
【0029】
いくつかの実施形態では、複数の画像は連続的に得られる。いくつかの実施形態では、離散的な間隔で画像が得られる。
【0030】
いくつかの実施形態では、この方法は、標的細胞が刺激と接触したときと、マーカー変化が最初に検出されたとき、及び/又は、マーカー変化が細胞のしきい割合で検出されたとき(例えば、細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%)を含むマーカー変化が検出されたときの間の時間を測定することを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、他のヒト被験者由来の標的細胞を同時に解析する。
【0032】
いくつかの実施形態では、異なるヒト被験者に由来する標的細胞は、標的細胞の状態に依存して、異なる時間に刺激と接触する。
【0033】
いくつかの実施形態では、マーカーは細胞生存性もしくは細胞生存ではない。いくつかの実施形態では、マーカーは細胞健全性のマーカーである。いくつかの実施形態では、マーカーは機能不全又は細胞死に関連する。
【0034】
いくつかの実施形態では、複数の画像は、7日間又は14日間又はそれ以上にわたって繰り返し取得される。いくつかの実施形態では、1時間ごと、2時間ごと、6時間ごと、12時間ごと、又は24時間ごとに複数の画像が繰り返し取得される。
【0035】
いくつかの実施形態では、刺激曝露のための適切な時間を判定するために、標的細胞を刺激に曝露前でモニターする。いくつかの実施形態では、刺激曝露に適切な時間は、ニューロンである標的細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%が3個以上のノードを有する時間である。いくつかの実施形態では、刺激曝露のための適切な時間は、培養物中にしきい数の標的細胞が存在する。例えば、適切な時間は、所与の細胞集団内において(例えば、マルチウェル(multiwall)又はマルチチャンバ容器の1つのウェル又は1つのチャンバに存在していてもよい単一の患者特異的な細胞集団内で)、少なくとも10,25,50,100,250,500,1000,5000,10,000又はそれ以上の標的細胞が存在する場合である。このように、いくつかの実施形態では、この方法は、培養物中の標的細胞を同定し、必要に応じて定量するために、連続的に又は離散的な時間間隔で、培養物と刺激との接触前に時間期間にわたり細胞培養物の画像を繰り返し取得することを含む。
【0036】
この開示の特定の方法は、培養物と刺激との接触前及び接触後の培養物中の標的細胞の数を同定して測定することを含む。本明細書でより詳細に説明するように、標的細胞は、例えば3個以上のノードを有するニューロン(これらの構造は本明細書で定義されるように)として定義されてもよく、従って、この方法は、刺激との接触前に3個以上のノードを有するニューロン数を測定することと、刺激との接触後に3個以上のノードを有するニューロン数を測定することと、そのような数を比較して、ニューロンの健全に対する刺激の効果を判定することとを含む。このように、この方法は、多数のニューロンを同定し、それらをグループとして特徴付け、刺激はニューロン群に対するその効果により特徴づけられる。
【0037】
あるいは、前記方法は、個々の方法で1つ又は複数のニューロンを同定及び追跡することによって実行することができる。例えば、任意の所与のニューロンを、刺激への曝露の前後を含む連続的であろうと離散的な時点のいずれかの時間期間、モニタリングすることができる。次いで、ニューロンに対する刺激の効果を単一の細胞レベルで評価することができる。そのような効果は、ノード数の変化と、神経突起数の変化と、そのような変化が起こるのにかかる時間と、ニューロンが健全な状態(例えば、3個以上のノードを有する)から不健全な状態(例えば、3未満のノードを有する)に移行するのにかかる時間と、ノード(又は神経突起)の喪失にかかる時間などである。さらに、この方法は、刺激への曝露前に3未満のノードを有するニューロンをモニタリングし、そのようなニューロンに対する刺激の効果を判定するために用いることができる。
【0038】
本発明はさらに、使用される細胞が生じる多能性細胞を含む本明細書に記載のスクリーニングアッセイで使用される細胞、必要に応じて多能性細胞から使用される細胞を誘導するために使用される試薬、細胞を増殖させる培養容器、使用のための説明書、及び場合により本明細書に記載の検出システムを含むキットを提供する。
【0039】
これら及び他の態様及び実施形態は、本明細書において、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A図1A図1Cは本開示において提供されるスクリーニング方法の概略を示す図であって、これらの方法及びそこから生成された結果は、従来技術の方法よりも一貫性があり安定である。図1Aは、関心のある細胞を検出可能な標識で標識することを含む細胞集団の調製などのプロセスのさまざまなステップを示す。
図1B図1Aに続き、生細胞イメージング及び細胞の解析を行い、関心のあるマーカーを同定し、そのようなマーカーのベースライン測定、刺激に対する細胞集団の曝露、さらなる時間経過、生細胞イメージング及び細胞の解析を行い、マーカーのさらなる測定を行うプロセスのステップを示す。
図1C図1Bに続き、結果の出力を行うプロセスのステップを示す。
図2】本明細書で提供される観察装置の構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の観察装置の制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】本明細書で提供される観察装置によって実行される、管理タイミング判定処理の一例を示すフローチャートである。
図5】制御装置41を備えた培養器11による処理の一例を示す図である。
図6A図6A図6Eは、拡張された時間経過イメージング技術のプロセスを示す概略図を示す。図6Aは、ヒト胚性幹細胞(hESC)から運動ニューロンを誘導するための例示的な非限定的28日分化プロセスを示す。次に、分化した子孫を播種し、栄養因子(TF)の除去テストに(4日目の早期の時点、又は後期の8日目のいずれかで)供し、もしくはMG132(プロテアソームインヒビター)テスト(4日目~10日目)に供し、この解析の終了点は19日目であった。
図6B】BioStation CT上のライブイメージングを用いた細胞のモニタリングを示す。
図6C】細胞体数、神経突起長、及び細胞当たりのノード数を含む3個の記述子に関するビデオ時間経過表現型解析を示す。
図6D】ニューロンのノード数による分類を示す。この場合、「健全な」ニューロンは3個を超えるノードを有し、もしくは、不健全な又は死滅のニューロンは漸進的により少ないノードを有するものとして分類された。
図6E】長期の単一細胞追跡によるノード数の変化に基づいてさらなる運動ニューロン分類を示す。健全な(H)状態から出発して、ニューロンは、健全終了(HHと表示される)、不健全終了(HUと表示される)、死滅終了(HDと表示される)を含む3個の潜在的な結果を有する。図6Eの右下のグラフに示すように、運動ニューロンの大部分は、健全な状態で始まり、健全な状態(HHで示される)のプロトコルをストレスのない例示的な培養で終了させる。
図7】本明細書で提供される方法を用いて、運動ニューロンに対する刺激の効果を追跡する実験の結果を示す。実験データは、早期の栄養因子(TF)の除去が、後期のTFの除去よりも運動ニューロンに対してより実質的な効果を有することを示す。上部パネルは、2週間の撮像にわたる運動ニューロン(MN)の細胞体数の時間プロットである。中央のパネルは、MN当たりの平均ノード数の時間プロットである。下のパネルは、総神経突起長の時間プロットである。矢印はTFの除去を示す。
図8図7の中央パネルのデータに対応する。早期TF-に続いて、4つ以上のノードを有するMNの急速な損失がある。後期TF-では、4つ以上のノードを有するMNの集団の遅延及びより微妙な変化がある。矢印はTFの除去を示す。
図9】後期TFの遅い死滅の応答が生存細胞解析で明らかであるが、終了点解析では明らかではないことを示す。トップパネルには、終了点解析では、後期TF後に重大な死滅は見られない。中央のパネルには、MNが3個以上のノードを有する間の時間を健全期間として測定する。左下のパネルは、3個以上のノードを有するニューロンの分類結果を示し、これは、健全であるとき及び健全でないときのMNの分布の変化を示す。右下のパネルは、早期TF-及び後期TF-後にHU集団が増加することを示す。
図10】栄養因子の除去及び再導入の実験計画を示す。Isletプロモーター(HUES8 Isl::GFP細胞)の制御下でGFPを発現するヒトES細胞は、MNに分化し、96個のウェルの透明ボトムプレートに播種する。それらは15日間、6時間ごとにBioStationで撮像された。4日目に、栄養因子(TF)の除去によってストレスが誘導された。10日目に、栄養因子を培地に戻した。TFの再導入は、TFの不在下で培養されたままであったMNと比較して実質的な改善をもたらした。代表的な画像は図示され、1つの条件につき3個のウェルを各実験について解析された。
図11】経時的なニューロンの形態学的データを示し、ストレス対生存と相関する変化を特徴付ける。特定の形態学的特徴に対するHUES8Ill::GFP由来MNの時間プロットが示される。制御条件(TF+)では、神経突起は実験を通して成長し、ノード数(細胞体と神経突起との間の接合部)は時間とともに増加した。細胞体面積も時間とともに増加したが、少なくともこの系統では、細胞体数は検知可能に変化しなかった。TFの除去のストレスの下で、成長は抑制された。しかしながら、TFが培養物に戻った場合、TFの除去の6日後でさえもMNは回復することができた。
図12】MNのノード数による特徴付けを示す。HUES8 Isl::GFP由来MNのノードプロットが示される。各時点について、0,1,2,3又は4以上のノードで同定されたMNの数が示される。このデータの表現は、TF-に対するMNの劇的な効果を示し、また、TF再導入後の回復を取得する。ノード情報は、MN母集団を、3個以上のノードを有すると定義された健全なMNと、2つ以下のノードを有する不健全なMNとの2つのカテゴリに分割するために使用された。
図13】異なる培養条件下での運動ニューロンの「健全な時間」を示す。ノード数データを単一細胞追跡と組み合わせることで、「健全な時間」(HT)は個々の細胞及び集団ごとに追跡することができた。これはMNが3個以上のノードを有するときの時間長である。これをHUES8 Isl::GFPイメージングに適用すると、HT測定基準は、TFの除去及び再導入で見られる生存行動と一致する。
図14】ヒトiPSC由来MNのライブイメージングを示し、1型SMAの患者MNの形態学的欠陥を取得する。iPSC由来のMN培養物をレンチウィルスSynapsin::RFPレポーターで処理した。1つのWT制御(1016A)を1型SMAの患者系統(1-38G)と比較した。1型SMA系統は、WT制御と比較して、より短い神経突起、シナプシン発現の減少、細胞体の減少、及びノード数の減少を含む、これらの条件下で複数の形態学的欠損を示した。
図15】1型SMAの患者のMNは異常なノードプロファイルを有し、多くの健全性が小さいMNを有し、WT制御よりもストレスに対して感受性が高かった。さらに、1型SMAのMNは、TFの除去のストレスに対して非常に強い応答を示したが、まだTFの再導入時に回復することができた。
図16】1型SMAの患者のMNは、健全状態が低下した時間を有することを示す。テストされたすべての条件について、SMA患者MNは、WTと比較して、より短い健全時間(HT)を有していた。TFの除去の条件におけるHTの差は最も印象的である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的には、細胞培養で成長させたヒト患者特異的及び制御iPS細胞由来ニューロンを解析する方法を提供する。本明細書に記載されるように、生細胞イメージングは、有意な期間にわたる運動ニューロンのようなニューロンにおける早期及び後期の変化を含む変化を視覚化するために用いられた。この新しい方法は、次の目的で使用できる。
(a)疾患プロセスの非常に早い段階でニューロンに生じる、細胞の変化を発見する
(b)単一細胞を追跡することによって、異種培養物中の多くの異なるタイプの細胞を研究する。
(c)早期表現型の強固な検出に基づいてアッセイを確立する。
(d)細胞がまだ比較的健全な時にこれらの早期段階を阻止するように作用する潜在的な治療法のスクリーニング及びテストを行うこと。
本発明は、ニューロンを生産し、それらをマルチウェルプレートに播種し、それらの成長、発達、増殖などに寄与する環境下で一定期間にわたってそれらを培養し、連続的であろうと離散的な時間間隔であろうと(例えば、Nikon BioStation CTを用いて達成することができるように)細胞をライブイメージングする能力を依然として維持する間、位相差及び蛍光観察法を用いて個々の細胞の多くの特徴を測定し、それらの特徴が時間とともにどのように変化するかを定量化し、時間の経過とともに多数の単一細胞から収集されたデータを解析することを含む方法に関する。
【0042】
関心のある標的細胞集団を解析する能力はまた、エンドユーザが刺激曝露に最も適切な時間を判定することを可能にする。このことは、細胞集団間で起こり得るばらつきによるものである。本明細書で議論するように、この方法を用いて多数の異なる細胞集団を解析する(例えば、ハイスループットのスクリーニングアッセイにおけるように、多数の患者特異的なサンプルが同時に解析される)とき、サンプルごとに刺激曝露のタイミングを制御する能力は、より微調整され、より高い解像度の解析を提供する。言い換えれば、本明細書で提供される方法は、たとえ開始時間及び停止時間がサンプル間で異なるとしても、エンドユーザがアッセイのための適切な「開始」時間及び「停止」時間を同定することを可能にする。サンプル間における開始時間(例えば、刺激曝露の時間)を同定して変更する機能は、いくつかのサンプルが発達的に遅延しているか、又は平均よりも進んでいるときの時間よりはむしろ、複数のサンプルがより生物学的に一貫した方法(例えば、発達及び/又は進行の同じ時点で)で処理されることを意味する。
【0043】
本明細書で提供される様々な方法は、いくつかの実施形態では、この方法は、単一の運動ニューロンのような単一細胞を追跡し、単一細胞がいつしきい値に達したかを判定し、細胞を刺激と接触させ、刺激接触後に細胞を追跡し続けることを意図して、単一細胞ベースで実施される。しきい値は、健全な(又は正常な)細胞に関連する表現型であってもよく、このような表現型は、本明細書中では健全な表現型又は正常な表現型と呼ばれる)。あるいは、しきい値は、不健全な(又は疾患)細胞に関連する表現型であってもよく、そのような表現型は本明細書では不健全又は疾患表現型と呼ばれる。このように、細胞は正常細胞でも疾患細胞でもよい。疾患細胞は、神経変性状態のような特定の状態に関連する突然変異を有する細胞であってもよいが、これに限定されない。疾患細胞は、神経変性状態を有する対象に由来する多能性細胞(例えば、iPS細胞)のインビトロでの分化によって産生される細胞であってもよいが、これに限定されない。
【0044】
このように、いくつかの実施形態では、この方法は、一定時間期間で刺激と接触した後、健全な表現型を有する細胞を追跡するために使用される。当該時間期間は、刺激接触の結果として生じる、表現型が不健全な表現型に変化するのにかかる時間であってもよい。そのような時間は、本明細書では「健全な時間」と呼ぶことができる。健全な表現型は、3以上のノード数であり得る。このように、潜在的に有害な又は退行的な効果を有する刺激は、このインビトロスクリーニングを用いて同定することができる。
【0045】
あるいは、この方法は、一定時間期間で刺激と接触した後、最初に不健全な(又は疾患の)表現型を有する細胞を追跡するために使用されてもよい。時間期間は、刺激接触の結果として、表現型が健全な表現型に変化するのにかかる時間であってもよい。そのような時間は、本明細書では「回復時間」と呼ぶことができる。不健全な表現型は3未満のノード数であってよく、健全な表現型は3以上のノード数であってよい。このように、潜在的な治療効果を有する刺激は、このインビトロスクリーニングを用いて同定され得る。さらに、特定の患者由来の細胞に対して潜在的に治療上有益な効果を有する刺激を同定することができ、これにより、個人化された治療薬をもたらす。
【0046】
その時間期間は、数日又は数週間、又は場合によっては数ヶ月のオーダーであり得る。開示されたスクリーニング方法の1つの利点は、先行技術の方法を用いて可能であったよりも短い時間スケールで刺激の効果を評価する能力である。いくつかの例では、時間期間は約2週間とすることができる。
【0047】
この方法を用いて複数の単一細胞を追跡することができ、前記単一の細胞の各々は、前記複数の細胞の全ての他の細胞とは別個に追跡されることが理解されるべきである。この方法では、この方法が集団に基づく解析に復帰することなく、多数の細胞から情報を得るために使用される。
【0048】
この方法は、異なる複数の細胞に対する刺激の効果を研究するために使用されてもよいことがまた理解されるべきである。例えば、複数のそれぞれが細胞株である場合、又は特定の細胞株に由来する場合、この方法は、単一の細胞解析を実行している間、いくつかの異なる細胞株(又はそれらの子孫)を同時に研究するために使用されてもよい。この方法では、細胞株は、互いに異なる時間にて刺激と接触させることができ、このような接触時間は、各細胞株が、例えば特定のしきい値を有するしきいの細胞数を有することを含む、特定のしきい値に達したときに決定される。このことは、刺激接触の出発点として健全な又は不健全な表現型を用いて行うことができる。
【0049】
この方法は、単一の刺激に対する多数の異なる細胞集団(例えば、細胞株)を同時に研究するため、もしくは、単一の細胞集団(例えば、細胞株)に対する多数の異なる刺激を研究するために使用することができることがさらに理解されるだろう。
【0050】
表現型は、例えば、形態学的又は構造的特徴、機能的特徴、生理的特徴、生存又は細胞死マーカーなどを含む、1つ又は複数のマーカーにより定義される。使用される特定のマーカーは、追跡され研究される細胞タイプに依存する。特定の例は、カルシウムをベースとした活性化などの運動性、電気的活動を含む。運動ニューロンの場合、表現型は、ノード数、細胞体のサイズ及び/又は形状、及び/又は神経突起長を含み得る。そのようなマーカーは、特にいくつかの場合において刺激の効果が全く細胞生存又は細胞死ではなく、むしろ細胞異常調節であり得るため、例えば細胞生存性又は細胞死を追跡することよりも優れている。
【0051】
この開示に基づいて明らかとなるように、本明細書で提供される方法は、細胞集団間の不均一性及び細胞集団内の均一性を標準化するために有用である。細胞集団間の標準化は、細胞集団を別々に追跡し、しきい値が満たされた後にのみ刺激接触を開始することにより達成される。細胞集団内の標準化は、集団内の個々の細胞を追跡することによって達成される。
【0052】
関心のある細胞を、培養物中の他の細胞から同定及び区別するために、検出可能な標識で標識してもよい。一例として、細胞は、系譜特異的なプロモーター/エンハンサーの制御下で、蛍光標識(例えば、GFP)の発現を誘導することによって蛍光標識され得る。そのような標識方法は当該分野で公知である。実施例は本明細書に提供され、特許文献1により発見可能であり、検出可能に標識する細胞に関連する具体的な教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
このことは、標的細胞集団が異種でありかつ他の細胞タイプを含む場合に特に有用である。この追加の理由のために、本開示によって提供される方法は、関心のある集団により合わせた、定義された部分集団というよりはむしろ異種集団の細胞生存又は生存性(又は他の読取り値)を含むことで、多量の細胞集団を解析する従来技術の方法と比較して、定義された細胞タイプに対する刺激の効果に関してより良好な分解能を提供することができる。
【0054】
より具体的には、幹細胞由来運動ニューロン(MN)について本明細書に記載の方法を実施した。我々は、これらの方法を、Hb9又はIsletプロモーターの制御下で蛍光レポーターを安定に発現するヒト胚性幹(hES)細胞株に対して実施することで、培養物中の他の全ての細胞と比較してMNを特異的に標識することができる。次に、これらの解析を、MN特異的なHb9プロモーター又はニューロン全般(pan-neuronal)のシナプシンプロモーターのいずれかによって駆動されるレンチウィルス性蛍光レポーターに感染しているiPSC由来のMN培養物に拡張した。我々は、サイズ及び蛍光強度に基づいてすべての細胞体を同定する、自動化されたMN検出アルゴリズムを開発して利用した。
【0055】
検出アルゴリズムはまた、神経突起、ニューロンの細胞体(その細胞体はソーマとも呼ばれる)から伸びている狭い突起を同定し、細胞体と神経突起との間の「ノード」又は接合部を同定することができる。神経突起は、樹状突起又は軸索を記述するために使用される。神経突起が軸索である場合、ノードは軸索小丘であり得る。運動ニューロン培養物はリアルタイムで解析して、ノードを数えることでサンプル(例えば、運動ニューロンの特定の患者特異的な集団)の相対的発生段階又は成熟度を判定した。分化効率及び時間ライン(細胞株内及び細胞株間)に固有の変動があることを示すことは当該技術分野において認識される。本明細書で提供される方法は、実験においてこの変動の影響を最小限に抑えることができる。例えば、アルゴリズムは、3個以上のノードを有する細胞が真のMNであることを規定している。次に、パラメータは、(例えば、開始時間を画定するために)培養の始まりにおいて、もしくは、(例えば、刺激の効果を評価するために)解析全体を通しての読み出し値として、MNの指標として本明細書で提供される方法で使用される。解析の開始時に使用すると、アルゴリズムを用いて培養物を刺激に曝露する前に十分な数のMNが存在することを確実にすることができる。アルゴリズムについては、以下でより詳細に説明する。3個以上のノードのパラメータは、本明細書ではしきい値と称され、それ以上のしきい値で細胞が健全であると評価され、そのしきい値未満で細胞が健全でないと評価される。
【0056】
我々はさらに、標的細胞を確実に同定し、経時的なそれらの運動及び形態変化を研究するために使用され得る強固な細胞追跡アルゴリズムを開発した。上述したように、ノード同定を、時間の経過に伴って細胞を追跡する能力と組み合わせることにより、基底状態対ストレス状態(いくつかの刺激への曝露から生じる可能性がある)におけるMNの挙動を比較することが可能であった。3個以上のノードを有する細胞を「健全な」MNとして定義し、経時的に健全なMNの数を繰り返し評価し、及び/又は解析の開始時に健全と示された細胞を追跡することにより、細胞が培養上健全である時間長を測定することが可能であった。例えば、いくつかの実施形態では、この方法は、健全なMNを最初に同定し、そのような健全なMNを時間とともに追跡し、このような以前に健全な細胞はもはや前記パラメータに従って(すなわち、それらはもはや3個以上のノードを有さない)健全であるとは考えられない時間を測定することを含む。解析の開始の時間(t)と、細胞がもはや健全ではない状態の時間との間のこの時間期間を、本明細書では「健全な時間」又はHTと呼ぶ。本明細書で提供される「健全な時間アッセイ」は、刺激の効果及び/又はそのような刺激に対する細胞の応答をより正確に比較するために、生物学的サンプルにわたって及び異なる刺激間で用いてもよい。アルゴリズムについては、以下でより詳細に説明する。
【0057】
本明細書で提供される生存細胞解析アプローチは、典型的には単一の時点のみを測定する従来の生存研究よりも1つ以上の利点を提供することができる。例えば、本明細書で提供される方法を用いて、細胞死に先行する、細胞形態における早期の変化を検出することが可能である。そのような変化は、新規な変化及び/又は、以前に細胞死に関連していないか、又は細胞死の早期マーカーであると同定されていない変化であり得る。別の例として、本明細書で提供される方法は、刺激への曝露時におけるそれらの相対的な分化の段階又は形態学的特徴に基づいて、細胞の亜集団の分類が可能である。さらに別の例として、本明細書で提供される方法は、細胞(単数)又は細胞(複数)の生存期間にわたって情報を収集するために使用され得る。
【0058】
さらに、これらの方法及び解析を用いて、神経変性疾患を含む、関心のある疾患のための新規な治療剤を同定することができる。
【0059】
iPS細胞などの多能性幹細胞の指向性、系譜特異的な分化のための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、非特許文献1を参照することができる。
【0060】
本開示による刺激は、標的細胞と接触させることができる任意の化学的、電気的、電磁的、機械的又は他の薬剤であってよく、ニューロンのような標的細胞へのその効果についてテストすることができる。いくつかの実施形態では、刺激は化学薬品(本明細書では薬剤と呼ぶ)であり、この方法は、標的細胞に対する薬剤の効果を判定するために使用される。いくつかの実施形態では、当該方法は、標的細胞において誘導される他の効果を遮断する薬剤の能力を判定するために使用される。いくつかの実施形態では、1つより多くの刺激、例えばライブラリーからの複数の薬剤を、標的細胞と接触させることができる。
【0061】
本発明のこれらの及び他の態様及び実施形態は、以下により詳細に記載される。
【0062】
上述したように、本明細書で提供される方法は、例えば胚性幹細胞(ESC)又は人工多能性幹細胞(iPSC)のような、多能性幹細胞からのインビトロ由来のニューロンの長期間の生細胞イメージングを含む。これらの方法は、神経変性疾患における創薬のための新規なプラットフォームである可能性を秘めている。分化、生存、ストレス応答及び/又は死滅中のニューロンの経時変化解析は、疾患関連プロセスに伴う早期の形態変化を同定する能力を含むいくつかの利点がある。さらに、単一細胞追跡は、幹細胞由来の細胞培養に固有の形態学的不均一性を補うことができる。我々は、分化後早期から死滅まで、個々の幹細胞由来運動ニューロン(MN)の詳細な長期解析を実施した。ニコン製BioStation CTを用いて実験を行ったが、同様の強固な細胞追跡能力を有する他のイメージングシステムを用いて個々のMNに追従させることができる。画像解析アルゴリズムは、例えば、細胞体の大きさ及び/又は形状、神経突起数及び神経突起長などの主要な特質を追跡するために開発された。我々は、これらのイメージングツールを用いて、病気のような状況を模倣する以下の2つの異なるストレッサーにさらされたMNを研究した。
(1)神経栄養因子(TF)の除去、及び
(2)プロテアソーム阻害剤MG132による処理。
多くのMNを解析することにより、我々は、神経突起の変化を注意深く測定することを含む、細胞死のための新しい形態学的な予測因子を定義した。この解析アルゴリズムは、各MNに対して「健全な時間(HT)」を判定し、この測定は、終了点解析では明らかにではない生存応答の動態を明らかにする。疾患発症の指標として破壊された神経突起を定量化することが有利であり、その理由は、これらの変化は死滅のプロセスの早期に起こり、生存細胞を計数することによって見られるものよりも高い感受性を提供するように見えるからである。
【0063】
脊髄性筋萎縮症及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者サンプルに由来する疾患MNを使用して、もしくは、(自閉症及びアルツハイマー病に罹患している)皮質ニューロン及び(パーキンソン病に罹患している)ドーパミン作動性ニューロンのような他の疾患関連ニューロン集団を使用して、同様の研究を行うことができる。これらの解析は、これらの疾患の進行の早期に介入する可能性のある治療分子の新しいクラスの発見に有用であり得る。
【0064】
刺激への曝露のタイミング
上述したように、細胞の分化を誘導しながら、幹細胞又は体細胞由来の細胞を用いて薬効を評価する場合、分化の状態及び細胞の成熟度は、細胞の起源及び/又は培養条件に依存することが知られている。加えて、所与の薬剤の有効性を評価する場合、分化の状態及び細胞の成熟度に起因する薬剤応答については知られている。
【0065】
前記の要因により、薬効を確認する薬を追加する適切なタイミングは、細胞の起源及び/又は培養条件によって異なるはずである。しかしながら、従来の評価方法では、このような薬剤の添加時期を知ることは不可能であり、薬効を高精度に評価することはできなかった。
【0066】
本開示は、とりわけ、判定装置、観察システム、及びそのプログラム、細胞の生産方法、この生産方法により生産された細胞を提供する。
【0067】
1つの態様は、以下の構成を備える判定装置を提供し、
前記判定装置は、
培養物中の細胞の画像に含まれかつ細胞体及びノードによって構成される細胞体のうち、少なくとも所定数のノードを有する細胞体の個数に基づく値を計算する計算部を備え、
所定数のノードはあるタイプの細胞に対応し、
前記判定装置は、
前記計算部により計算された値が、ユーザの入力に応じた所定の条件を満たすか否かを判定する第1の判定部と、
前記第1の判定部がその値が所定の条件を満たすことを判定するときに、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力する出力部とを備える。
【0068】
ノードは、細胞体と線状構造の接続部分として定義される。
【0069】
この開示は、とりわけ、培養物中の細胞体を含む領域を撮像する撮像部と、前記判定装置とを備える観察システムを提供する。
【0070】
この開示は、さらに、コンピュータに以下を実行させるためのプログラムを提供し、前記コンピュータは、
培養物中の細胞の画像に含まれかつ細胞体及びノードによって構成される細胞体のうち、少なくとも所定数のノードを有する細胞体の個数に基づく値を計算する計算ステップを実行し、ここで、所定数のノードはあるタイプの細胞に対応し、
前記コンピュータは、
前記計算ステップにより計算された値がユーザの入力に応じた所定の条件を満たすか否かを判定する第1の判定ステップと、
前記第1の判定ステップによりその値が所定の条件を満たすことを示すときに、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力する出力ステップとを実行する。
【0071】
この開示は、さらに、以下を含む細胞の生産方法を提供し、前記細胞の生産方法は、
培養物中の細胞の画像に含まれかつ細胞体及びノードによって構成される細胞体のうち、少なくとも所定数のノードを有する細胞体の個数に基づく値を計算する計算ステップを含み、ここで、所定数のノードはあるタイプの細胞に対応し、
前記細胞の生産方法は、
前記計算ステップにより計算された値がユーザの入力に応じた所定の条件を満たすか否かを判定する第1の判定ステップと、
前記第1の判定ステップによりその値が所定の条件を満たすことを判定したときに、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力する出力ステップとを含む。
【0072】
本明細書でより詳細に説明するように、本開示は、薬剤応答評価の精度を改善するために使用され得る方法を提供する。
【0073】
本明細書に記載された方法及び解析を実行するために使用され得る様々な装置及びシステムをここで説明する。
【0074】
培養器(観察装置)11は、例えば,線状構造を有する細胞体からなる細胞の分化又は成熟度の指標を計算し、ここで、前記細胞はiPS(人工多能性幹)細胞又はES(胚性幹)細胞などの幹細胞から培養され、次いで、計算された指標に基づいて、投与される薬剤に対応する薬剤の投与タイミングを示す情報を細胞に出力する。結果として、培養器11は、適切な投与タイミングに薬剤投与のタイミングを統一することができ、その結果、薬効評価の精度を向上させることができる。以下、適切な投与タイミングとは、投与された薬剤の有効性が高い投与タイミングであるが、例えば、別のタイミングを参照することもできる。
加えて、線状構造を有する細胞とは、例えば、神経突起又はデンドロンを有する細胞体によって構成される細胞をいう。
【0075】
さらに、培養器11は、計算された指標に基づいて細胞の状態を判定し、判定された状態が以前に判定された状態から変化したとき状態を示す情報を出力する。結果として、培養器11は、ユーザが細胞の状態の変化を見落とさないようにすることができる。細胞の状態とは、例えば、細胞の成熟度や細胞の分化段階で分類された状態で分類された状態をいう。一例では、細胞の状態として、培養器11が細胞の成熟度で分類された状態を判定した場合について説明する。
【0076】
以下、便宜上、細胞の成熟度で分類された状態を単に細胞の状態と呼ぶことにする。加えて、以下の説明では、運動ニューロンを含むニューロンを関心のある細胞として強調する。さらに、線状構造を有する細胞体からなる細胞は、他のタイプの細胞であってもよい。すなわち、培養器11は、処理が細胞に適用される構成に代えて、幹細胞から培養した他の細胞に以下の処理を適用したものの構成を有してもよい。
【0077】
以下、図2を参照して、本発明の一実施形態による培養器11の構成の概要を説明する。図2は、一実施形態の培養器11の構成の一例を示すブロック図である。図3は、本実施形態の培養器11の制御装置41の構成の一例を示すブロック図である。
【0078】
この培養器11は、培養される細胞を顕微鏡カメラで撮像して細胞を培養するとともに細胞の状態を観察する装置である。培養器11は、上部筐体12と下部筐体13とを有する。培養器11の組立状態では、上部筐体12が下部筐体13に取り付けられている。加えて、上部筐体12及び下部筐体13の内部空間は、ベースプレート14によって垂直に仕切られている。
【0079】
まず、上部筐体12の構成の概要を説明する。上部筐体12の内部には、細胞を培養するための恒温槽15が形成される。この恒温槽15は、温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを備え、恒温槽15の内部を、細胞を培養するのに適した環境に維持する(例えば、温度37°C、湿度90%の雰囲気)。
【0080】
恒温槽15の前面には、大扉16と、中扉17と、小扉18とが設けられる。大扉16は、上部筐体12及び下部筐体13の前面を覆っている。中扉17は、上部筐体12の前面を覆っており、恒温槽15と、大扉16が開いているときの外部との間の環境を隔離する。小扉18は、細胞を培養するための培養容器19を出し入れするための扉であり、中扉17に取り付けられている。小扉18から培養容器19を出し入れすることにより、恒温槽15の環境変化を抑制することが可能となる。加えて、大扉16、中扉17、小扉18はそれぞれガスケットP1、P2、P3により気密状態に保持される。
【0081】
さらに、恒温槽15は、ストッカー21と、観察部22と、容器搬送装置23と、搬送台24とを備える。ここで、搬送台24は、小扉18の前方に配置され、培養容器19を小扉18に出し入れするようになっている。
【0082】
ストッカー21は、恒温槽15の左側に、上部筐体12の前面からの斜視で配置される。ストッカー21は、ストッカー21の各棚に複数の培養容器19を保管することができるように複数の棚を有する。加えて、培養されるべき細胞(この例では、ニューロン)は培地とともに各培養容器19内に収容される。ストッカー21は必須の構成要素ではない。
【0083】
観察部22は、上部筐体12の前面側から見て恒温槽15の右側に配置される。この観察部22により、培養容器19内の細胞の経時観察が可能となる。
【0084】
ここで、観察部22は、上部筐体12のベースプレート14の開口部に嵌合するように配置される。観察部22は、サンプル台31と、サンプル台31から上方に突出する照明光源を備えた台アーム32と、観察光学系を内蔵した本体部33と、撮像装置34とを備える。サンプル台31と台アーム32とは、恒温槽15内に配置され、本体部33は下部筐体13の内部に収容される。
【0085】
サンプル台31は、透光性材料からなり、培養容器19を載置することができる。サンプル台31は、培養容器19の上面に載置された培養容器19の位置を調整することができるように水平方向に移動可能に構成される。加えて、台アーム32にはLED光源39が内蔵される。撮像装置34は、台アーム32によりサンプル台31の上側から透過照明された培養容器19の細胞を、顕微鏡光学系を介して撮像することにより細胞の顕微鏡画像を得ることができる。この例では、この顕微鏡画像は、培養容器19内の細胞が蛍光染色された後、又は蛍光タンパク質がトランスフェクションされた後の蛍光画像であるが、画像から細胞体やノードを検出できれば、例えば位相差画像など他の画像であってもよい。
【0086】
容器搬送装置23は、恒温槽15の中心に、上部筐体12の前面視で配置される。この容器搬送装置23は、ストッカー21と、観察部22のサンプル台と、搬送台24との間で培養容器19を搬送する。また、ストッカー21を設けない場合には、上述したように、容器搬送装置23も不要である。
【0087】
容器搬送装置23は、多関節ノードアームを有する垂直ロボット38と、回転ステージ35と、ミニステージ36と、アーム部37とを備える。回転ステージ35は、垂直ロボット38の先端に、回転軸35aを中心に水平方向に180°回転可能に取り付けられている。このため、回転ステージ35は、アーム部37を、ストッカー21、サンプル台31及び搬送台24にそれぞれ対向させることができる。
【0088】
加えて、ミニステージ36は、回転ステージ35に対して水平方向に摺動可能に取り付けられている。アーム部37は培養容器19を把持し、ミニステージ36に取り付けられている。
【0089】
次いで、下部筐体13の構成の概要を説明する。下部筐体13の内部には、観察部22の本体部33と培養器11の制御装置41とが収容される。
【0090】
制御装置41は、温度調整装置15a、湿度調整装置15b、観察装置22、容器搬送装置23に接続される。この制御装置41は、所定のプログラムに従って培養器11の各部を統括的に制御する。
【0091】
一例として、制御装置41は、恒温槽15内を所定の環境条件に維持するように、温度調整装置15a及び湿度調整装置15bを制御する。加えて、制御装置41は、所定の観察スケジュールに基づいて培養容器19の観察シーケンスを自動的に実行するように観察部22及び容器搬送装置23を制御する。
【0092】
さらに、観察シーケンスで得られた撮影画像に基づいて、制御装置41は、管理時期判定処理を実行することで、投与する薬剤のタイプに応じた薬剤投与タイミングを示す情報を細胞に出力する。加えて、制御タイミング判定処理において、制御装置41は、観察シーケンスで得られた取得画像に基づいて細胞の状態を判定し、細胞の状態が変化した場合において、細胞の現在の状態を示す情報を出力する。
【0093】
ここで、細胞の状態について説明する。細胞の状態は、例えば、細胞の成熟度に基づいて以下の3個の状態に分類される:
・誘導フェーズ
・細胞増殖フェーズ
・成熟フェーズ
【0094】
誘導フェーズは、細胞の培養が開始された後に、細胞成熟が起こらない、又は遅い増殖速度が起こる一定の期間を示す。従って、この誘導フェーズの間に細胞数はほとんど変化しない。加えて、細胞修復、酵素系維持及び炭酸蓄積が誘導フェーズで行われる。
【0095】
細胞増殖フェーズは、細胞増殖が活性である時間期間であり、ここで、細胞数が各単位時間において急速に増加する。
【0096】
成熟フェーズは、細胞増殖フェーズの後の期間を示す。この成熟フェーズでは、細胞成熟による細胞数の増加と、細胞死に起因する細胞数の減少とのバランスのために細胞数は変化しない。
【0097】
制御装置41は、観察シーケンスで得られた撮像画像に基づいて、観察されている細胞がこれら3個の状態のうちのどの状態にあるかを判定し、細胞の状態が変化した場合に細胞の現在の状態を示す情報を出力する。細胞の状態を示す情報は、細胞の状態が誘導フェーズ、細胞増殖フェーズ、又は固定フェーズ(例えば、状態ID又は状態を表す名前)であるか否かを示す情報である。
【0098】
次に、図3に示す制御装置41の構成について説明する。この制御装置41は、記憶部42と、入力受付部43と、出力部45と、制御部46とを備える。
【0099】
記憶部42は、例えばハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体と、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶媒体と、不揮発性メモリと、SRAM(Static Random Access Memory)とを含む。この記憶部42には、ストッカー21に収容された各培養容器19に関する管理データ、撮像装置で撮影された観察画像全体のデータ、及び顕微鏡画像データが記憶される。この画像データには、培養容器19内の細胞が蛍光染色された後の蛍光画像が含まれる。加えて、薬剤投与のための通知タイミングを判定するための通知条件が記憶部42に記憶される。また、記憶部42には、細胞の状態を判定するための判定条件を含む状態判定情報が記憶される。加えて、記憶部42には、後述する細胞タイプ協調情報が記憶される。さらに、制御部46により実行されるプログラムは、記憶部42に記憶される。また、制御部46による各種の演算結果も一時的に記憶部42に記憶される。通知条件と状態判定情報については後述する。
【0100】
前記管理データは、
(a)各培養容器19を示す指標データ;
(b)ストッカー21内の培養容器19の収容位置;
(c)培養容器19のタイプ及び形状(ウェルプレート、皿、フラスコ等)及び生産者名;
(d)培養容器19中の培養細胞のタイプ(細胞タイプ情報);
(e)培養容器19の観察スケジュール;
(f)時間経過観察時の撮像条件(対物レンズの倍率、血管内の観察位置等);
(g)培養容器19内の培養物中の細胞に投与される薬剤のタイプ(薬剤タイプ情報)を含む。
加えて、複数の小血管の細胞を同時に培養することができる培養容器19では、ウェルプレートの場合のように、各小血管について管理データがそれぞれ生成される。
【0101】
この実施形態では、1つ又は複数の細胞が観察される。この場合、複数の細胞の各々を同定するための細胞同定情報が必要であり、観察されるべき細胞が1つしかない場合のような細胞を特定する必要がない場合には、細胞同定情報は必須ではない。もちろん、観察されるべき細胞が1つだけであっても、細胞同定情報を入力してもよい。
【0102】
加えて、互いに異なるタイプの細胞を観察する場合、各細胞の細胞タイプを示す細胞タイプ情報を、各情報に対応付けて記憶部42に記憶させることが好ましい。
【0103】
入力受付部43には、キーボードやマウス等の入力装置が設けられる。細胞のタイプを示す細胞タイプ情報や、投与する薬剤のタイプを示す薬剤タイプ情報などの様々な情報はユーザ操作により入力受付部43に入力される。
【0104】
出力部45は、例えば、液晶表示パネルや有機EL(Electroluminescence)表示パネルなどの表示部である。代わりに、出力部は、音声を生成するためのスピーカ、振動を生成するためのバイブレータ、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0105】
以下、図3を参照して、制御部46の構成について説明する。制御部46は、画像読取部461と、検出部462と、計算部463と、第1の判定部464と、第2の判定部465と、出力制御部466と、記憶制御部467とを備える。
【0106】
制御部46は、例えば、制御装置41の各種演算処理を実行するプロセッサである。制御部は、プログラムの実行結果として、画像読取部461、検出部462、計算部463、第1の判定部464、第2の判定部465、出力制御部466、記憶制御部467のそれぞれの機能を兼ねていてもよい。加えて、制御部46のこれらの機能部の一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェア機能部品であってもよい。
【0107】
培養器11は、細胞タイプ(例えば、細胞タイプID)を示す細胞タイプ情報を入力することを要求するかもしれない。加えて、細胞タイプ情報は、観察される細胞タイプを知っているユーザによって入力されてもよいし、もしくは、細胞タイプ情報は、観察される細胞の形態又は輝度を同定するための技術を用いることによって自動的に生成して入力し、マッチング技術等を用いて自動的に細胞タイプを判定してもよい。
【0108】
この実施形態では、ユーザから入力受付部43を介して細胞タイプ情報が入力される場合について説明する。
【0109】
加えて、培養器11は、投与される薬剤のタイプ(例えば、薬剤タイプID)を示す薬剤タイプ情報の入力を要求してもよい。
【0110】
この実施形態では、ユーザから入力受付部43を介して薬剤タイプ情報が入力される場合について説明する。
【0111】
画像読取部461は、撮像装置34により撮像された顕微鏡画像の画像データを読み取り、読み取られた画像データを制御装置41の各部に供給する。加えて、画像読取部461は、記憶部42に記憶された顕微鏡画像の画像データを読み出して、制御装置41の各部に読み出された画像データを供給する。
【0112】
検出部462は、撮像装置34によって撮影された1つ又は複数の顕微鏡画像に基づいて細胞を検出する。細胞を検出するために、いくつかの実施形態では、検出部462は、1つ又は複数の顕微鏡画像に含まれる細胞体を検出する。いくつかの実施形態では、検出部462は、細胞が運動ニューロンである場合において、各細胞体について、例えば細胞のノード、枝、又は神経突起などの細胞の形態学的特徴を、付加的に又は代替的に検出してもよい。検出部462は、細胞、細胞体及び/又は形態学的特徴を検出するための既知の方法を実施することができる。例えば、検出部462は、パターンマッチング技術等を実施してもよいし、1つ又は複数の顕微鏡画像の部分の輝度及び/又は彩度を解析することができる。例えば、検出部462は、例えば国立衛生研究所から入手可能なImageJ、マサチューセッツ州ケンブリッジのブロード研究所から入手可能なCellProfiler、及び/又は、マサチューセッツ州ウォルサムのパーキンエルマー・インコーポレーションのColumbus(登録商標)などのソフトウェアパッケージ内に実施された1つ又は複数の技術を実施することができる。細胞を検出する部分として、以下にさらに詳細に説明するように、検出部462は、異なる顕微鏡画像にわたって経時的に細胞を追跡することができ、従って、例えばImageJ、CellProfiler、及び/又はColumbus(登録商標)で実施された細胞追跡技術を含む、1つ又は複数の細胞追跡技術を実施することができる。検出部462は、検出された細胞体、及び各細胞体に対して検出されたノードを有する細胞体を同定する細胞体同定情報を協調するように調整してもよい。
【0113】
計算部463は、検出部462によって検出された各細胞体及び各細胞体に対するノードに基づいて、細胞体数及び各細胞体に対するノード数を計算する。加えて、計算部463は、記憶部42から、現在の観察シーケンスにおいて観察される細胞の細胞タイプ協調情報及び細胞タイプ情報を読み出す。細胞タイプ協調情報は、細胞タイプを示す情報と、記憶部42に予め記憶される細胞タイプに対応する所定数を示す情報を示す情報とが調整される情報である。また、細胞タイプ情報は、記憶部42に記憶された管理データに含まれる情報である。さらに、計算部463は、細胞タイプ協調情報と、細胞タイプ情報と、各細胞体に対して計算されたノード数に基づく細胞体の総数に対する、細胞タイプに対応する所定数以上のノード数を有する細胞体数の割合を計算する。この計算部463により計算された割合を以下、標的細胞体比と呼ぶ。
【0114】
次いで、細胞タイプ協調情報について説明する。細胞タイプ協調情報はテーブルT42-1の形式で格納されてもよい。細胞タイプ及び所定数を示す情報は、細胞タイプ協調情報としてテーブル42-1に対応付けて記憶される。この所定数は、各細胞タイプについて実験的に予め定められた細胞体が標的であるか否かを判定する指標として動作する数である。一例として、細胞タイプAに協調する所定数は3であり、細胞タイプBに協調する所定数は4である。計算部463は、記憶部42からの現在の観察シーケンスにおいて観察される複数の細胞のこの細胞タイプ協調情報と細胞タイプ情報とを読み出し、標的細胞体比を生成する。
【0115】
計算部463はまた、細胞体数と、各細胞体に対するノード数を計算する構成の代わりに、各細胞体に対するノード数のみを計算する構成を有してもよい。この場合、計算部463は、計算された各細胞体のノード数に基づいて、細胞タイプに対応する所定数以上のノード数を有する細胞体数を計算する。
【0116】
第1の判定部464は、計算部463により計算された標的細胞体比が所定の通知条件を満たすか否かを判定する。所定の通知条件は、標的細胞体比が少なくとも25%である条件であるが、代わりに別の比率以上の数を用いてもよく、細胞体数及び各細胞体に対するノード数に基づくその他の条件は、ここで説明する所定の通知条件は、所定の条件の一例である。
【0117】
第2の判定部465は、記憶部42に予め記憶された状態判定情報を読み出す。第2の判定部465は、読み出された状態判定情報と、現時点よりも所定時間前の期間に計算部463により計算された標的細胞体比の変化率と、クロック部(図示せず)によって計時された実験開始からの経過時間とに基づいて、現在の観察シーケンスにおいて観察される細胞の状態を判定する。所定時間は例えば15時間とするが、代わりに別の時間量を用いてもよい。状態判定情報は、細胞の状態を示す情報と、現時点よりも所定期間だけ前の期間の間に計算部463により計算された標的細胞体比の変化率に基づいて細胞の状態を判定する判定条件とが協調された情報を示す。以下、現時点よりも所定時間前の期間に計算部463により計算された標的細胞体比の変化率は、説明の都合上、単に変化率として説明する。
【0118】
次いで、状態判定情報について説明する。状態判定情報は、テーブルT42-2の形式で格納されてもよい。判定条件と細胞の状態を示す情報とが協調され、状態判定情報としてテーブルT42-2に格納される。加えて、判定条件は、実験の開始以来の経過時間に係る変化率及び判定条件に関する判定条件からなる。以下、実験の開始からの経過時間を、説明の都合上、単に経過時間として説明する。
【0119】
いくつかの実施形態では、一例として、状態判定情報と、計算された変化率と、クロック部(図示せず)によって計時された経過時間とに基づいて、第2の判定部465は、変化率が0.65未満であり、経過時間が少なくとも0時間で36時間未満である場合には、細胞の状態が誘導フェーズにあると判定する。加えて、状態判定情報に基づいて、第2の判定部465は、変化率が少なくとも0.65で、経過時間が少なくとも36時間及び195時間未満であるときには、細胞の状態が細胞成熟フェーズであると判定する。また、状態判定情報に基づいて、第2の判定部465は、変化率が0.65未満であり、経過時間が333時間未満で少なくとも195時間である場合には、細胞の状態が定常(安定)フェーズであると判定する。状態判定情報はまた、他の判定条件及び他の細胞状態が協調された情報であってもよい。
【0120】
第1の判定部464が、前記標的細胞体比が所定の通知条件を満たすことを判定したときに、出力制御部466は、薬剤を投与するタイミングが既に伝達されたか否かを判定する。もし薬剤を投与するタイミングがまだ伝達されていないと判定された場合、出力制御部466は、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力部45に出力する。この例では、出力制御部466は、薬剤を投与するタイミングを示す情報を出力部45に表示する。一方、薬剤を投与するタイミングが既に伝えられていることが評価されるならば、出力制御部466は、特に何もせずにスタンバイ状態となるが、その他の処理を行ってもよい。加えて、出力制御部466は、第2の判定部465により判定された細胞の状態が前回の観察シーケンスにおいて第2の判定部465により判定された細胞の状態から状態が変化したか否かを判定し、もし状態が変化したときは、現在の細胞の状態(現在の観察シーケンスにおいて第2の判定部465により判定された細胞の状態を示す情報)を示す情報を出力部45に表示する。
【0121】
記憶制御部467は、制御装置41の各機能部が出力する情報の記憶部42への書き込み、及び記憶部42からの情報の読み出しを制御する。
【0122】
培養器11による投与タイミング判定処理について、以下、図4を参照して説明する。図4は、培養器11による投与タイミング判定処理の一例を示すフローチャートである。この実施形態では、観察される特定のタイプの細胞を示す細胞タイプ情報と、細胞に投与される薬剤のタイプを示す薬剤タイプ情報とを得て予め記憶しておく。
【0123】
培養器11は、登録された観察スケジュールに従って、恒温槽15内に置かれた培養容器19を時間経過で観察する。培養容器19内には、複数の特定タイプの細胞が培養される。例えば、細胞Aは、培養容器19の培養容器19A内で培養される。加えて、細胞Bは、培養容器19の培養容器19B内で培養される。観察スケジュールに従って、培養器11は、培養容器19A及び19Bを垂直ロボット38及び観察部22に順次搬送し、培養容器19全体の画像(全観察画像)及び培養容器19の一部を拡大した顕微鏡画像とを取得する。この培養器11の時間経過観察の動作を以下に説明する。
【0124】
まず、制御部46は、記憶部42の管理データの観察スケジュールと現在の日時とを比較し、培養容器19の観察開始時刻が到来したか否かを判定する(ステップS100)。観察開始時刻になったら(ステップS100でYes)、制御部46は、処理をステップS110に移行する。一方、培養容器19の観察時間が到来していなければ(ステップS100でNo)、制御部64は、次の観察スケジュールの時刻まで待機する。
【0125】
ステップS100で観察開始時刻になったら、制御部46は、観察スケジュールに対応する培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。容器搬送装置23は、指示された培養容器19をストッカー21から取り出し、観察部22のサンプル台31上に載置する(ステップS110)。培養容器19をサンプル台31上に載置した段階で、台アーム32に内蔵されたマクロ撮影カメラ(図示せず)によって培養容器19の観察画像全体が撮影される。
【0126】
この実施形態では、図2に示す観察装置は、観察する細胞を培養するための恒温槽を備えた装置である。このため、ステップS110で撮像した細胞を観察装置の恒温槽内で培養する。従って、このステップはまた、細胞を培養するステップから開始され得る。加えて、本実施形態のように観察装置の内部に恒温槽を設ける必要はなく、細胞を培養するための恒温槽も観察装置とは別個の装置であってもよい。
【0127】
次いで、制御部46は、記憶部42に記憶された管理データから細胞タイプ情報(細胞タイプID)を取得する(ステップS120)。
【0128】
次いで、制御部46は、記憶部42に記憶される管理データから薬剤タイプ情報(薬剤タイプID)を取得する(ステップS130)。
【0129】
次いで、画像読取部461は、ステップS110で撮像した画像データを取得する(ステップS140)。この例では、画像データの取得は蛍光観察によりデータを取得する場合として説明するが、代わりに位相差観察によってデータを取得してもよい。蛍光観察により画像データを取得する場合、観察前に観察サンプルに蛍光試薬を添加するための添加装置を設けることが好ましい。この画像データは、細胞によって形成されたコロニーの画像を含んでもよく、又は、単一の細胞、もしくはコロニーを部分的に含む領域の画像であってもよい。
【0130】
次いで、検出部462は、ステップS140で取得した画像データから、画像データに含まれる細胞の細胞体と、各細胞体に対するノードを検出する(ステップS150)。
【0131】
ここでは、撮像された画像における細胞体及びノードについて説明する。
【0132】
一例として、撮像された画像は、細胞を構成する細胞体CBと、細胞体CBからの1以上の突起PRと、突起PRと細胞体CBとの間の接続点であるノードNDと、残留材料RMとを含む。残留材料は、例えば、死滅した神経突起NRを示す。検出部462は、パターンマッチング等を用いて、撮像された画像から、細胞体CB及び各細胞体に対するノード数Nを検出する。
【0133】
検出部462は、ステップS150において、細胞体及び各細胞体に対するノードを検出した後、計算部463は、検出部462により検出された、細胞体及び各細胞体に対するノードと、各細胞体及び各ノードと協調する細胞体同定情報とに基づいて、細胞体数及び各細胞体に対するノード数を計算する。加えて、計算部463は、記憶部42から、現在の観察シーケンスにおいて観察される細胞の細胞タイプ協調情報及び細胞タイプ情報を読み出す。計算部463は、各細胞体に対する、細胞タイプ協調情報と、細胞タイプ情報と、計算されたノード数とに基づいて、標的細胞体比としての細胞体の総数に対する、細胞タイプに対応する所定数以上のノード数を有する細胞体数の比を計算する(ステップS160)。この例では、細胞タイプに対応する所定数は3であるが、代わりに別の数を使用することもできる。加えて、計算部463は、各細胞体数と、各細胞体に対するノード数を計算した後に、細胞体数及び各細胞体に対するノード数に基づいた他の量を計算するように構成してもよい
【0134】
次いで、第1の判定部464は、ステップS160において計算部により計算された標的細胞体比が所定の通知条件を満たすか否かを判定する(ステップS170)。この例では、所定の通知条件は標的細胞体比が少なくとも25%である条件であるが、代わりに別の条件を用いてもよい。例えば、計算部463が標的細胞体比を計算する構成の代わりに、所定の通知条件は、細胞タイプに対応する所定数以上のノード数を有する細胞体数を計算する場合に、細胞体数が少なくとも所定数である条件であってもよい。所定数は例えば100であるが、代わりに別の数を用いてもよい。
【0135】
第1の判定部464は標的細胞体比が所定の通知条件を満たすと判定した場合(ステップS170でYes)、出力制御部466は、観察された細胞の薬剤投与タイミングを示す情報が既に出力(伝達)されたか否かを判定する(ステップS180)。もし観察された細胞の薬剤投与タイミングを示す情報がすでに出力されていないことが判定された場合に、出力制御部466は、薬剤投与タイミングを示す情報を出力部45に出力し(この例では、当該情報を表示する)(ステップS190)。第2の判定部465は、ステップS200の処理を実行する。一方、もし出力制御部466が観察された細胞の薬剤投与タイミングを示す情報が既に出力されていると判定したときに、第2の判定部465は、記憶部42から分化状態判定情報を読み出す。次に、第2の判定部465は、読み出した分化状態判定情報と、上述した変化率と、上述した経過時間とに基づいて、細胞の状態を判定する(ステップS200)。
【0136】
一方、もし第1の判定部464がステップS170において標的細胞体比が所定の通知条件を満たさないと判定した場合(ステップS170でNo)、第2の判定部465は、ステップS200に移行して、ステップS160において計算部により計算された標的細胞体比に基づいて細胞の状態を判定する。
【0137】
次いで、出力制御部466は、ステップS200で判定された細胞の状態が以前に判定された細胞の状態から変化したか否かを判定する(ステップS210)。予め判定された細胞の状態は、メモリ等に記憶されるものとする。もしステップS200で判定された細胞の状態が、予め定められた細胞の状態から変化したと判定した場合(ステップS220でYes)、出力制御部466は、細胞の現在の状態を示す情報を出力部45に出力する(ステップS220)。一方、もし出力制御部466がステップS200で判定された細胞の状態が以前に判定された状態から変化していないと判定すると(ステップS220でNo)、制御部46は、観察スケジュールの終了後に容器搬送装置23に培養容器19を搬送するように指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19を、観察部22のサンプル台31からストッカー21の所定の収納位置に搬送する(ステップS230)。そして、制御部46は、観察シーケンスを終了し、処理をステップS100に戻す。
【0138】
従って、フローチャートの事象シーケンスは以下のようになる。
【0139】
開始
観察時間が到来したか?
培養容器を観察部に搬送する
細胞タイプ情報を取得する
医薬品のタイプに関する情報を取得する
撮像された画像を読み出す
細胞体数及びノード数を検出する
少なくとも3個のノードで存在する細胞体の比を計算する
通知条件が満たされているか?
通知したか?
薬剤投与タイミングを示す情報を出力する
細胞状態を判定する
細胞の状態は変化したか?
細胞の状態を示す情報を出力する
培養容器をスタッカーに搬送する
【0140】
上述したように、本実施形態の培養器11(観察装置)は、細胞体及びノードを含む培養物中の細胞の画像(この例では顕微鏡画像)において含まれる複数の細胞体のうち、細胞タイプに対応する所定数のノード(この例では3個)を有する細胞体数に基づく値を計算し、その計算値が細胞投与用薬剤に対応する所定の条件(この例では通知条件)を満たすか否かを判定し、計算された値が所定の条件を満たすと判定したときに薬物投与のタイミングを示す情報を出力する。結果として、培養器11は薬剤応答評価の精度を向上させることができる。
【0141】
制御装置41はまた、同じ観察時間範囲内で同一の培養容器19の複数の点(例えば、5点観察又は培養容器19全体)を撮像したときの複数の顕微鏡画像を1回の時間経過観察の画像として取り扱うように構成してもよい。
【0142】
加えて、培養器11は、計算部により計算された細胞のタイプに対応する所定数のノードを有する細胞体数に基づく値が所定の条件を満たすと判定したときに、薬剤投与のタイミングを示す情報を出力する構成に代えて、培養器11は、前記計算部により計算され、前記細胞のタイプに対応する少なくとも所定数のノードを有する細胞体数に基づく値が所定の条件を満たすと判定された場合、細胞が出荷時期にあると判定し、観察シーケンス中の培養容器19を容器搬送装置23と共に出荷するための所定の位置に搬送するように構成されていてもよい。このことは、培養器は出荷時に細胞の状態を調整することができ、その結果、出荷された細胞を購入したユーザによる薬剤応答評価の精度を改善することができる。
【0143】
加えて、上述の種々の処理は、本発明の実施形態に係る培養器11(観察装置)の種々の処理を実行するためのプログラムを、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムによって読み取り実行することによっても実行されてもよい。
【0144】
ここで説明する「コンピュータシステム」には、OSや周辺機器などのハードウェアが含まれていてもよい。加えて、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを使用する場合においてホームページ提供環境(又は表示環境)を含むと想定される。
【0145】
「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、例えばフレキシブルディスクなどの書き込み可能な不揮発性メモリ、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ、例えばCD-ROMなどの可搬媒体、もしくは、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクのような記憶部として参照される。さらに、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」はまた、インターネット等のネットワーク又は電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信するときに、サーバ又はクライアントとして機能するコンピュータシステム内の揮発性メモリ(例えば、DRAM)や不揮発性メモリなどの一定時間のプログラムを保持する媒体を含む。コンピュータにより読み取り可能な記録媒体は非一時的な媒体を含む。
【0146】
加えて、上述したプログラムは、そのプログラムを記憶したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して又は伝送媒体中の伝送波によって別のコンピュータシステムに伝送してもよい。ここで、プログラムを伝送するための伝送媒体とは、例えばインターネット等の通信回線、又は電話回線等の通信回線(通信線)などのネットワーク(通信ネットワーク)と同様に、情報を伝送する機能を有する媒体をいう。加えて、上述したプログラムは、上述した機能の一部を実現するためのプログラムであってもよい。さらに、プログラムは、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよいし、コンピュータシステムに既に記録されるプログラムと組み合わせて上述した機能を実現することができる。
【0147】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、ある範囲内の設計等は本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、本発明に含まれる。
【0148】
拡張された時間期間にわたる培養における細胞の追跡
刺激に対する細胞応答のための従来技術の方法は、細胞培養物、細胞株、培養パラメータなどに内在する多様性のために欠点を有する。このことは、例えば、患者特異的なiPS細胞などの、患者特異的な多能性幹細胞からの分化した細胞集団などの患者特異的な細胞を扱う場合である。所与の細胞集団をより正確に解析し、それぞれが異なる患者から同時に任意選択でそのような集団の数を解析するためには、本明細書で提供される方法は、エンドユーザが他の細胞集団とは独立して各細胞集団内の変化を追跡することを可能にする。この方法では複数の解析を同時に行うことができるが、個々の集団のベースライン特性及び応答に関して微調整された分解能を有する。加えて、これらのアッセイにおける読み出しは、典型的には生存性がなく、又は生存能力がないため、アッセイをより迅速に行うことができる。このことは、標的集団の死滅よりむしろ機能不全を伴う特定の疾患又は状態のモデルである細胞集団を研究する場合に特に重要である。疾患又は状態が標的集団の死滅に関連している状況であっても、本明細書に記載され提供されるアッセイは、細胞死の早期マーカーを同定するために使用されることができ、従って、そのようなマーカー及び細胞死の上流の事象に影響を及ぼし得る培地の同定を可能にするかもしれない。このように、これらの方法は、疾患の経過を変えることがより難しい後の段階ではなくむしろ、それらのプロセス又は進行の早い時期に特定の疾患又は状態に影響を及ぼすために使用され得る。
【0149】
従って、この開示は、一態様において、以下の構成を備えた判定装置を提供する。当該判定装置は、標的細胞の時系列画像に示される細胞のノード数の時間的変化を取得する取得部と、前記取得部が取得した細胞のノード数の時間的変化に基づいて、上記ノード数がしきい値以上になったときから前記ノード数が前記しきい値未満になるまでの時間期間を計算する計算部と、前記計算部により計算された時間期間を示す情報を出力する出力部とを備える。
【0150】
この開示はまた、別の態様において、観察システムを提供する。当該観察システムは、細胞の全部又は一部を含む領域の画像を撮像する撮像部と、本明細書に記載される判定装置とを備える。
【0151】
この開示はまた、別の態様では、コンピュータにより処理を実行するプログラムを提供する。当該プログラムは、前記細胞の取得された時系列画像に示される細胞のノード数の時間的変化を取得する処理と、前記取得した細胞のノード数の時間的変化に基づいて、前記ノード数がしきい値以上になったときから前記ノード数が前記しきい値未満になるまでの時間期間を計算する処理と、前記計算された時間期間を示す情報を出力する処理とを実行する。
【0152】
この開示はまた、別の態様において、細胞の生産方法を提供する。当該細胞の生産方法は、前記細胞の取得された時系列画像に示される細胞のノード数の時間的変化を取得するステップと、前記取得した細胞のノード数の時間的変化に基づいて、前記ノード数がしきい値以上になったときから前記ノード数が前記しきい値未満になるまでの時間期間を計算するステップと、前記計算された時間期間を示す情報を出力するステップと、上述した出力情報に基づいて前記細胞の変化に影響を及ぼすように装置を操作するステップとを含む。
【0153】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の培養器(観察装置)11は、人工多能性幹(iPS)細胞又は胚性幹(ES)細胞のような幹細胞から培養された複数の細胞体で構成され、線状構造を有する細胞(例えば培養皿上で平面単一層状に増殖する付着細胞)の分化の程度及び成熟度を示す指標を計算し、計算した指標に基づいて細胞の状態に関する情報を出力する。このように、ユーザは培養器(観察装置)11によって定量された細胞の状態を正確に把握することができ、適切なタイミングで適切な薬剤を投与することができる。結果として、薬効評価の精度を向上させることができる。
【0154】
加えて、培養器11は、計算された指標に基づいて、どの段階で細胞の分化状態及び成熟状態に達したかを判定し、判定された状態が以前に判定された状態から変化した場合、その状態を示す情報を出力する。このように、ユーザによる細胞の分化及び成熟の状態の変化に対する見落としを最小化することができる。
【0155】
以下の説明は、線状構造を有しかつ細胞体で構成された細胞の例としてのニューロンを参照する。本明細書で提供されるアプローチは、他のニューロンタイプを含む他の細胞タイプの解析に適用することができる。追跡されるマーカーは細胞のタイプによって異なることがあることは理解されるべきである。さらに、説明を簡単にするために、細胞の分化及び成熟の状態をニューロンの分化状態と呼ぶ。また、別段の指定がない限り、細胞体及び細胞は以下で具体的に区別されない。すなわち、細胞体及び細胞は互換的に使用される。
【0156】
以下、図2を参照して、本実施形態における培養器11の構成の概要を説明する。図2は、培養器11の構成の一例を示すブロック図である。
【0157】
この培養器11は、細胞を培養し、顕微鏡用のカメラで画像を撮影することでその状態を観察するように設計された装置である。培養器11は、上部筐体12と下部筐体13とを備える。培養器11の組立状態では、上部筐体12が下部筐体13に設置される。さらに、上部筐体12と下部筐体13との間の内部空間は、ベースプレート14によって垂直に分割される。
【0158】
まず、上部筐体12の構成の概要を説明する。上部筐体12の内部には、細胞が培養される恒温槽15が形成される。この恒温槽15は、温度調整装置15aと湿度調整装置15bとを備え、これにより、細胞培養に適した環境が恒温槽15の内部に維持される(例えば、温度37°C、湿度90%の雰囲気)である。
【0159】
恒温槽15の前面には、大扉16、中扉17、及び小扉18が配置される。大扉16は、上部筐体12及び下部筐体13の前面を覆っている。中扉17は、上部筐体12の前面を覆い、大扉16が開いているときに恒温槽15内の環境を外部から隔離する。小扉18は、中扉17に取り付けられており、細胞をその中で培養する培養容器19を入れたり出したりして搬送するための扉である。この小扉18を介して入れたり出したりする培養容器19を搬送することにより、恒温槽15内の環境変化を最小化することができる。さらに、大扉16、中扉17及び小扉18はそれぞれ、ガスケットP1,P2及びP3の手段により気密状態に保持する。
【0160】
さらに、恒温槽15内には、ストッカー21と、観察部22と、容器搬送装置23と、搬送台24とが配置される。ここで、搬送台24は、小扉18の前に位置し、培養容器19を小扉18に出し入れする。
【0161】
ストッカー21は、上部筐体12の正面から見たときに恒温槽15の左側に位置する。ストッカー21は、複数の棚を備え、複数の培養容器19をストッカー21の各棚に収納することができる。さらに、各培養容器19は培養すべき細胞(この例ではニューロン)を収容し、培地と共に培養する。ストッカー21は不要である。
【0162】
観察部22は、上部筐体12の正面から見たときに、恒温槽15の右側に位置する。この観察部22は、培養容器19内の細胞の時間経過観察を行うことができる。
【0163】
ここで、観察部22は、上部筐体12のベースプレート14の開口に嵌合される。観察部22は、サンプル台31と、台アーム32とを含み、台アーム32上においてサンプル台31の上方に照明光源が垂下する位置に配置され、観察部22はさらに、観察光学系及び撮像素子34が組み込まれた本体部33を含む。サンプル台31及び台アーム32は、恒温槽15内に位置し、本体部33は下部筐体13の内部に収納される。
【0164】
サンプル台31は、透光性(半透明)材料からなり、その上に培養容器19を載置することができる。このサンプル台31は、水平方向に移動可能に構成され、これにより、当該サンプル台31に載置された培養容器19の位置を調整することができる。LED光源39も台アーム32に内蔵される。撮像素子34は、台アーム32によってサンプル台31の上方から透過照明され、培養容器19内の細胞の顕微鏡光学系を介して、画像を撮像することにより細胞の顕微鏡画像を取得することができる。この顕微鏡画像は、細胞が培養容器19内の蛍光タンパク質により蛍光染色又はトランスフェクションされた後に取得された後に取得された蛍光画像であるが、当該顕微鏡画像は、その画像から細胞体及びノードを検出することができる画像である限り、例えば位相差画像などの別の画像であってもよい。
【0165】
容器搬送装置23は、上部筐体12の正面から見たときに恒温槽15の中心に位置する。この容器搬送装置23は、ストッカー21と、観察部22のサンプル台31と、搬送台24との間で培養容器19を搬送する。容器搬送装置23は、前記のようにストッカー21が存在しない場合には不要である。
【0166】
容器搬送装置23は、関節のあるアームを有する垂直ロボット38と、回転ステージ35と、ミニステージ36と、アーム部37とを備える。回転ステージ35は、回転軸35aの手段により水平方向に180°回転することができるように、垂直ロボット38の先端に取り付けられている。このため、回転ステージ35は、アーム部37をストッカー21、サンプル台31及び搬送台24に対向して移動させることができる。
【0167】
さらに、ミニステージ36は、回転ステージ35に対して水平方向に揺動可能に搭載される。アーム部37は、培養容器19を把持し、ミニステージ36に取り付けられている。
【0168】
次いで、下部筐体13の構成の概要を説明する。下部筐体13の内部には、観察部22の本体部33と、培養器11の制御装置41とが収容される。
【0169】
制御装置41は、温度調整装置15a、湿度調整装置15b、観察装置22、容器搬送装置23のそれぞれに接続される。この制御装置41は、所定のプログラムに従って培養器11の各部を制御する。
【0170】
一例として、制御装置41は、温度調整装置15a及び湿度調整装置15bを制御して、恒温槽15の内部を所定の環境条件に維持する。制御装置41はまた、培養容器19内の観察シーケンスを自動的に実行するための所定の観察スケジュールに基づいて、観察部22及び容器搬送装置23を制御する。
【0171】
さらに、制御装置41は、観察シーケンスによって取得された取得画像に基づいて、ニューロンに投与される薬剤のタイプに従って、薬剤投与のタイミングを示す情報を出力するための投与タイミング判定処理を実行する。制御装置41はまた、観察シーケンスにより取得された撮像された画像に基づいて、ニューロンの分化状態を判定し、ニューロンの分化状態が変化した場合には、ニューロンの現在の分化状態を示す情報を出力する。
【0172】
以下、制御装置の構成について説明する。この制御装置41は、入力部42Aと、制御部43Aと、表示部45Aと、記憶部46Aとを備える。
【0173】
入力部42Aは、キーボード又はマウスなどの入力装置を含む。この入力部42Aは、ユーザにより操作され、ニューロンの細胞タイプを示す細胞タイプ情報、及び投与される薬剤のタイプを示す薬剤タイプ情報とを入力することができる。
【0174】
表示部45Aは、例えば液晶表示パネル又は有機エレクトロルミネセンス(EL)表示パネルである表示装置を含む。さらに、表示部45Aはまた、トーンを発生するスピーカであってもよいし、振動を発生する振動子、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0175】
記憶部46Aは、例えばハードディスク又はフラッシュメモリのような不揮発性記憶媒体と、例えばダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)又はスタティック・ランダム・アクセス・メモリ(SRAM)などのような揮発性記憶媒体とを構成する。この記憶部46Aには、ストッカー21に収納された各培養容器19の管理データが記憶されており、撮像装置により撮像された全体観察画像データ及び顕微鏡画像データを記憶する。この画像データには、培養容器19内で細胞を蛍光染色した後に撮像された蛍光画像が含まれる。また、記憶部46Aには、薬剤投与タイミングを判定するための通知パラメータも記憶される。また、分化状態を判定するための判定パラメータも記憶部46Aに記憶される。さらに、制御部43Aによって実行されるプログラムも記憶部46Aに記憶される。制御部43Aによって実行された各種演算結果も一時的に記憶部46Aに記憶される。
【0176】
さらに、前記管理データは、
(a)個々の培養容器19を示すための指標データ、
(b)ストッカー21内の培養容器19の保管場所、
(c)培養容器19(ウェルプレート、皿、フラスコ等)のタイプ及び形状、生産者名、
(d)培養容器19内で培養される細胞タイプ(細胞タイプ情報)、
(e)培養容器19内の観察スケジュール、
(f)時間経過観察用の撮像パラメータ(対物レンズ倍率、容器内の観察点など)、
(g)培養容器19内で培養される細胞に投与される薬剤のタイプ(薬剤タイプ情報)等
を含む。ウェルプレートのような、複数の小型容器内で細胞を同時に培養できる培養容器19のために、個々の小容器毎にそれぞれの管理データが生成される。
【0177】
さらに、本実施形態は、1つ以上のニューロンを観察対象として観察する例である。この場合、複数のニューロンの各々を同定するためにニューロン同定情報が必要であるが、ただ1つのニューロンだけが観察される場合と同様に、ニューロンを同定する必要がない場合には、ニューロン同定情報は不要である。もちろん、たとえ1つのニューロンのみが観察されるとしても、ニューロン同定情報を入力することができる。
【0178】
さらに、相互に異なるタイプのニューロンを観察する場合において、ニューロンの細胞タイプを示す細胞タイプ情報を記憶部46Aに記憶させ、様々な情報を関連して格納することができることは良いことである。
【0179】
以下、制御部43Aの構成について説明する。制御部43Aは、画像データ取得部432と、検出部434と、時間的変化計算部436と、時間的変化取得部438と、計算部440と、出力部442とを備える。
【0180】
この制御部43Aは、例えば、制御装置41の様々な計算処理を実行するプロセッサである。制御部43Aを構成するこれらの機能部の一部又は全部は、例えば大規模集積回路(LSI)又は特定用途向け集積回路(ASIC)のような機能的なハードウェア部品であってもよい。
【0181】
さらに、培養器11に対して、細胞タイプを示す細胞タイプ情報(例えば、細胞タイプID)を入力する必要がある。さらに、細胞タイプ情報の入力は、観察されるべき細胞のタイプを知っているユーザによって入力されてもよいし、もしくは、マッチング技術等により自動的に細胞のタイプを判定する技術を用いて、細胞タイプ情報を自動的に作成して入力することで、例えば、観察される細胞の形態及び輝度によって、細胞を同定することができる。
【0182】
この実施形態では、入力部42Aを介してユーザにより細胞タイプ情報が入力される場合について説明する。
【0183】
この培養器11には、投与する薬剤のタイプを示す薬剤タイプ情報(例えば薬剤タイプID)を入力するようにしてもよい。
【0184】
画像データ取得部432は、撮像装置34によって撮像された顕微鏡画像の画像データを取得する。画像データ取得部432は、取得した画像データを制御装置41の各部に出力する。画像データ取得部432はまた、記憶部46Aに記憶された顕微鏡画像用の画像データを記憶部46Aから取得してもよい。
【0185】
細胞体から突出する突起(例えば、神経突起等)の基底(接続座)を示すノード数Nと、細胞の健全状態及び分化状態との関係について以下に説明する。ほとんどの場合、細胞の健全状態及び同定状態は、ノード数Nとして相関していると評価されている。また、細胞の健全状態は細胞寿命と良好な相関関係にあることは公知である。このため、細胞の健全状態及び分化状態を理解するために細胞のノード数Nを知ることが重要である。画像データ取得部432により取得された画像データから細胞のノード数Nを検出する処理について以下に説明する。さらに、画像データ取得部432によって取得された画像データは、細胞のノード数Nが既に検出されたデータであってもよい。
【0186】
検出部434は、複数の画像が撮像装置34によって時系列に撮像された各画像の画像データから細胞を検出する。細胞を検出するために、いくつかの実施形態では、検出部434は、顕微鏡画像に含まれる細胞体を検出する。いくつかの実施形態では、検出部434は、各細胞体について、例えば細胞が運動ニューロンである場合には、細胞のノード、分枝、又は神経突起などの、細胞の形態学的特徴を付加的に又は代替的に検出してもよい。検出部434は、細胞、細胞体及び/又は形態学的特徴を検出するための既知の方法を実施してもよい。例えば、検出部434は、パターンマッチング技術を実施し、1つ又は複数の顕微鏡画像の部分の輝度及び/又は彩度を解析してもよい。例えば、検出部462は、国立衛生研究所から入手可能なImageJ、マサチューセッツ州ケンブリッジのブロード研究所から入手可能なCellProfiler、及び/又はマサチューセッツ州ウォルサムのパーキンエルマー・インコーポレーションのColumbus(登録商標)などのソフトウェアパッケージ内に実施された1つ又は複数の技術を実施してもよい。このセクションでさらに説明するように、細胞を検出する部分として、検出部462は、異なる顕微鏡画像にわたり経時的に細胞を追跡することができ、ImageJ、CellProfiler、及び/又はColumbus(登録商標)で実施された細胞追跡技術を含み、1つ又は複数の細胞追跡技術を実施してもよい。検出部434は、検出された細胞体及び各細胞体上で検出されたノードに対する細胞体を同定する細胞体同定情報(例えば、「細胞体ID」)を相互相関させてもよい。
【0187】
時間的変化計算部436は、検出部434により検出された細胞体に基づいて、細胞体数を計算する。時間的変化計算部436はまた、検出部434によって検出された各細胞体に対するノードに基づいて、各細胞体に対してノード数Nを計算する。時間的変化計算部436は、各画像データにおいて細胞体が検出されるときに以下の処理を実行し、複数のノードが、検出部434により時系列に(時間経過で)撮像された画像において、各細胞体上で検出される。時間的変化計算部436は、複数の画像データのそれぞれにおける細胞体数と、各細胞体に対するノード数Nとを計算する。また、「細胞体ID」を用いてノード数の各時点が計算される。
【0188】
時間的変化計算部436はまた、計算のソースである画像データ(画像)が取得された年代順に計算された、細胞体数の変化と、各細胞体に対するノード数Nの変化とをソートする。時間的変化計算部436は、画像が取得された時系列で、細胞体数の変化及び各細胞体に対するノード数Nの変化を計算する。
【0189】
すなわち、時間的変化計算部436は、時系列画像データ(時間経過画像)に基づいて、細胞体数の時間的変化と、各細胞体に対するノード数Nの時間的変化とを計算する。例えば、時間的変化計算部436は、ヒストグラム、棒グラフ、又は差分値などとして計算された、細胞体数の時間的変化と、各細胞体に対するノード数Nの時間的変化とを計算する。
【0190】
時間的変化取得部438は、時間的変化計算部436によって計算された、細胞体数の時間的変化と、各細胞体に対するノード数Nの時間的変化とを取得する。
【0191】
時間的変化取得部438はまた、例えば、適応多項式平滑化又は移動平均平滑化などの平滑化処理を実行することで、取得された各細胞体に対するノード数Nの時間的変化を平滑化する。また、時間的変化取得部438は、取得した細胞体数の時間的変化を平滑化してもよい。さらに、時間的変化取得部438により実行される平滑化処理の具体例を以下に説明する。
【0192】
タイミング計算部440は、時間的変化取得部438によって取得された各細胞体に対するノード数Nの時間的変化に基づいて、細胞が健全な状態(以下、「細胞の健全状態」と略記する)にある時間期間を計算する。タイミング計算部440は、ノード数Nがしきい値NTh以上で撮像されたときから、細胞の健全期間としてのしきい値NThを下回るノード数Nで画像が取得されるまでの時間期間を計算する。
【0193】
ここで、しきい値NThについて説明する。しきい値NThは、上述したように、細胞に対するノード数Nと、細胞の健全状態との間の相関に基づいて、細胞が正常であると評価できる細胞のノード数N(例えば、3)に予め設定されている。
【0194】
これにより、制御装置41は、細胞のノード数Nを計算することにより、細胞の健全性状態を判定することができ、その結果、細胞の寿命を推定することができる。
【0195】
タイミング計算部440はまた、各細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh以上である細胞体数Caを計算し、すべての画像データから細胞体の総数CTを計算してもよい。この場合、タイミング計算部440はまた、各細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh以上である計算された細胞体数Caと、計算された細胞体の総数CTとの割合(Ca/CT)を計算してもよい。このタイミング計算部440により計算されたこの割合(Ca/CT)は、以下において、「健全な細胞体割合」と記載する。
【0196】
タイミング計算部440はまた、健全な細胞体割合が特定の割合(例えば、50%)以上である場合において上述した細胞の健全期間を計算してもよい。さらに、タイミング計算部440は、上述した時間的変化計算部436及び時間的変化取得部438の機能の一部又は全部を有してもよい。
【0197】
出力部442は、タイミング計算部440により計算された計算結果を示す情報を表示部45Aに出力する。出力部442はまた、タイミング計算部440の計算結果を示す情報を、ハードウェアインタフェースを介して外部機器に出力する。ユーザは、表示部45Aに表示された情報に基づいて、培養容器19に薬剤が投与されるタイミングを判定してもよい。ユーザは、表示部45Aに表示された情報に基づいて、培養容器19に投与される薬剤のタイプを判定してもよい。このようにして、ユーザは細胞を選択的に分化させることができる。
【0198】
ここでは、取得された画像における細胞体及びノードについて説明する。以下は、取得された画像におけるニューロンの例示的な記述である。取得された画像は、ニューロンを構成する細胞体CBと、細胞体CBから突出する1以上の神経突起NRと、細胞体CBからの神経突起NRの基底であるノードNDと、残留材料RMとを含む。残留材料RMは、例えば、壊死性神経突起NRである。検出部434は、パターンマッチング等を用いて、撮像された画像から細胞体CB及び各細胞体のノードNDを検出する。
【0199】
以下、各機能部の具体的な構成について説明する。まず、検出部434の具体的な構成について説明する。この開示は、時系列で取得された培養ニューロンの画像を用いて解析が行われることを意図している。本明細書に記載されるように、時刻tにおいて取得されたニューロンの細胞体CBに、時刻tにおいて特定の薬剤を投与してもよい。
【0200】
指定された薬剤は、細胞の変化を引き起こす治療に影響し、例えば、毒性化合物であるか、もしくは細胞増殖又は細胞分化のための化合物を促進する成長促進剤であるかなどの変化を引き起こす。指定された薬剤はまた、例えば、細胞に対して、アゴニスト、ウィルスなどを人工的に導入するものであればよい。さらに、特定の薬剤(薬剤タイプ情報)を示す情報が入力部42Aを介してユーザにより予め入力される。
【0201】
特定の薬剤が投与された結果として、例えば、ニューロンの細胞体CBは、時刻tにおいて3個の神経突起を形成する。すなわち、ニューロンの細胞体CBが分化する。この場合、検出部434は、3個のノードND1~ND3を検出する。加えて、ニューロンの細胞体CBは、時刻tからより多くの時間が経過した後、時刻tにもう一つの神経突起を形成し、合計4つの神経突起を形成する。この場合、検出部434は、4つのノードND1~ND4を検出する。
【0202】
時間的変化取得部438の平滑化処理及びタイミング計算部440の細胞健全期間計算処理について次に説明する。時系列のノード数Nを示す図を考える。縦軸は、例えば、ノード数Nであり、横軸は例えば観察時刻t(単位は(s))である。様々な時刻t、t、t、tは上述したように、それぞれは特定の時間に対応する。加えて、LN1は、時間的変化取得部438によって計算されたノード数Nを示す曲線である。さらに、LN2は、時間的変化取得部438がLN1に対して平滑化処理を行った曲線である。
【0203】
タイミング計算部440は、例えば、LN2の平滑値(ノード数N)がしきい値NTh以上であるか否かを判定する。平滑化されていないノード数N(LN1)は正の整数である。このため、タイミング計算部440は、LN2の値が取り得る自然数がしきい値NTh以上であるか否かについて判定するとき、LN2の値に対して量子化を行ってもよい。しきい値NThが例えば3である場合、タイミング計算部440は、2.5以上のLN2の値を、3以上であるとして判定する。
【0204】
図示の例では、タイミング計算部440は、例えば、時刻tでLN2の値がしきい値NTh以上であり、時刻tにおいて、LN2の値がしきい値NTh未満となったことを判定する。この場合、タイミング計算部440は、時刻tから時刻tまでの細胞の健全期間を計算する。
【0205】
タイミング計算部440はまた、指定された薬剤が投与されるタイミングである時刻tから時刻tまでの時間期間を計算する。この場合において、時刻tは、例えば、LN1の値がしきい値NTh以上でありかつ指定された時間(例えば、3時間)が経過している時間に設定される。
【0206】
タイミング計算部440はまた、健全な細胞体割合Ca/CTに基づく以下の処理を実行する。タイミング計算部440は、例えば、健全な細胞体割合Ca/CTが所定の割合以上であるときから、それが細胞の健全状態として指定された割合より下になるまでの時間期間を計算する。この方法では、細胞の分化状態(増殖)の変動による誤差を最小限に抑えることができる。
【0207】
細胞体IDに関連する様々な情報を出力として示してもよい。細胞体IDは、例えば、タイミング計算部440により計算された細胞健全期間、細胞体の総数CT、ノード数Nがしきい値NTh以上である細胞体数Ca、健全な細胞体割合Ca/CT、管理データなどを含む情報に関連付けられて記憶部46Aに記憶される。細胞体IDは、例えば、観察日、細胞株、細胞派生源などの情報の融合であるシンボルである。
【0208】
細胞健全期間を示す情報は、表示部45Aに出力されてもよい。出力部442は、例えば、各細胞体IDに対する細胞の健全状態を示す画像が表示部45Aに出力されるように制御する。さらに、出力部442は、例えば、細胞体数Ca、及び健全な細胞体割合Ca/CTなどの情報を、細胞健全期間との組み合わせで表示部45Aに出力するように制御してもよい。出力部442はまた、細胞の健全期間を示す数値データを表示部45Aに出力するように制御してもよいし、画像データと数値データとを組み合わせた情報を表示部45Aに出力する制御を行ってもよい。
【0209】
培養器11の処理手順の説明:
制御装置41を備えた培養器11の処理手順について図5を参照して以下に説明する。図5は、制御装置41を備えた培養器11による処理の一例を示すフローチャートである。この実施形態では、例えば、前記観察対象である特定のタイプのニューロンを示す細胞タイプ情報と、前記ニューロンに投与される薬剤のタイプを示す薬剤タイプ情報などの、観察のための各種パラメータを示す情報(以下、「観察パラメータ」と略記する)は予め取得して記憶しておく。
【0210】
培養器11は、恒温槽15内に搬送された培養容器19の登録された観察スケジュールに従って、時間経過観察を行う。これらの培養容器19には、複数のタイプのニューロンが培養される。例えば、ニューロンAは培養容器19の培養容器19A内で培養される。さらに、ニューロンBは培養容器19の培養容器19B内で培養される。培養器11は、培養容器19A及び培養容器19Bを垂直ロボット38上の観察部22に順次搬送し、観察スケジュールに従って、培養容器19の全体画像(全体観察画像)と、培養容器19の一部を拡大した顕微鏡画像とを取得する。この培養器11の時間経過観察動作を以下に説明する。
【0211】
まず、制御部43Aは、記憶部46Aの管理データの観察スケジュールを、現在日時と比較し、培養容器19の観察を開始するか否かを判定する(ステップS100)。観察が開始されると(ステップS100でYES)、制御部43Aは、処理をステップS110に移す。一方、培養容器19の観察が開始されていない場合(ステップS100でNO)、制御部43Aは、次回の観察スケジュールの次の時刻まで待機する。
【0212】
ステップS100で観察が開始されると、制御部43Aは、容器搬送装置23に対して、その搬送スケジュールに従って培養容器19を搬送するように指示する。容器搬送装置23は、指示された培養容器19をストッカー21から搬送して観察部22のサンプル台31上に載置する(ステップS102)。さらに、培養容器19をサンプル台31上に載置した段階で、培養容器19の全体的な観察画像が、台アーム32に組み込まれているマクロ撮影用カメラ(図示せず)に取得される。
【0213】
この実施形態では、図2に示す観察装置は、観察されるべきニューロンが培養される恒温槽を備えた装置である。その結果、ステップS102で取得されたニューロンは、観察装置の恒温槽内で培養される。このため、このステップをニューロンが培養されるステップから開始することも可能である。さらに、この実施形態と同様に、恒温槽も観察装置に内蔵されていなくてもよいが、ニューロンを培養するための恒温槽が観察装置とは別個の装置である装置であってもよい。
【0214】
次いで、制御部43Aは、記憶部46Aに記憶される管理データから観察パラメータを取得する(ステップS104)。
【0215】
そして、画像データ取得部432は、ステップS102で取得した画像データを取得する(ステップS106)。画像データの取得として、本実施例では、蛍光観察による取得の場合について説明するが、位相差観察、共焦点観察、超解像度観察等により取得してもよい。蛍光観察により画像データを取得する場合には、観察の前に観察試薬に蛍光試薬を加え、もしくは、蛍光タンパク質をトランスフェクションする添加装置を提供することが好ましい。この画像データはまた、前記コロニーの材料の個々のニューロン又は部分領域の画像とともに、ニューロンによって形成されたコロニーの画像を含んでもよい。
【0216】
次いで、検出部434は、ステップS106で取得した画像データから、この画像データに含まれる各細胞体のニューロンの細胞体及びノードを検出する。ステップS150では、
検出部434が細胞体及び細胞体当たりのノードを検出した後、時間的変化計算部436は、検出部434によって検出された細胞体当たりの細胞体及びノードと、様々な細胞体及び様々なノードを相関させる細胞体同定情報とに基づいて、細胞体数の時間的変化と細胞体当たりのノード数Nの時間的変化をそれぞれ計算する。次いで、時間的変化取得部438は、時間的変化計算部436により計算された、細胞体数の時間的変化と細胞体当たりのノード数Nの時間的変化を取得する(ステップS108)。
【0217】
次いで、タイミング計算部440は、細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh以上であるか否かを判定する(ステップS110)。細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh未満である場合(ステップS110でNO)、制御部43Aは、後述するステップS122の処理を実行する。細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh以上である場合(ステップS110でYES)には、タイミング計算部440は、ノード数Nがしきい値NTh以上になった時刻からクロックの計時を開始する。次いで、画像データ取得部432は、ステップS106の処理で取得した画像データを取得した時刻の経過後、次回に取得された画像の画像データを取得する(ステップS114)。
【0218】
次いで、検出部434は、ステップS114で取得された画像データから、この画像データに含まれる各細胞体に対して、ニューロンの細胞体及び各細胞体に対するノードを検出する。ステップS150の処理の後、時間的変化計算部436は、検出部434によって検出された、細胞体及び細胞体当たりのノードと、様々な細胞体及び様々なノードを相関させた細胞体同定情報に基づいて、細胞体数の時間的変化と細胞体当たりのノード数Nの時間的変化をそれぞれ計算する。次いで、時間的変化取得部438は、時間的変化計算部436により計算された、細胞体数の時間的変化と細胞体当たりのノード数Nの時間的変化を取得する(ステップS116)。次いで、タイミング計算部440は、細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh未満であるか否かを判定する(ステップS118)。細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh以上であれば(ステップS118でNO)、制御部43Aは、ステップS114の処理を実行する。タイミング計算部440は、細胞体当たりのノード数Nがしきい値NTh未満であればクロックの計時を停止する(ステップS118でYES)(ステップS120)。次いで、タイミング計算部440は、クロックの計時が開始されたときからクロックの計時が細胞の健全期間として停止されるまでの時間期間を計算する。出力部442は、タイミング計算部440により計算された細胞の健全期間を示す情報を表示部45Aに出力する(ステップS122)。
【0219】
次いで、制御部43Aは、記憶部46Aの管理データの観察スケジュールを、現在日時と比較し、培養容器19の観察を終了するか否かを判定する(ステップS124)。培養容器19の観察が終了していなければ(ステップS124でNO)、制御部43Aは、処理をステップS106に戻す。培養容器19の観察が終了すると(ステップS124でYES)、制御部43Aは、観察スケジュールの終了後に、容器搬送装置23に対して、培養容器19の搬送を指示する。そして、容器搬送装置23は、指定された培養容器19を観察部22上のサンプル台31からストッカー21内の所定の保管場所に搬送する(ステップS126)。そして、制御部43Aは、観察シーケンスを終了し、処理をステップS100に戻す。
【0220】
従って、図5のフローチャートにおける事象のシーケンスは、以下の通りである。
【0221】
観察を開始するか?
培養容器を観察装置に搬送する
観察パラメータを取得する
画像データを取得する
細胞体計数値の時間的変化及びノード計数値Nの時間的変化を取得する
ノード計数値N≧しきい値Nthであるか?
画像データを取得する
細胞体計数値の時間的変化及びノード計数値Nの時間的変化を取得する
ノード計数値N≧しきい値Vthであるか?
クロックの計時を停止する
細胞の健全期間を示す情報を出力する
観察を終了するか?
培養容器をストッカーに搬送する
【0222】
上述したように、本実施形態の培養器11(観察装置)は、細胞の取得された時系列画像が示す細胞のノード数Nの時間的変化を取得し、取得した細胞のノード数の時間的変化に基づいて、ノード数Nがしきい値NTh以上となってからノード数Nがしきい値NTh未満になるまでの時間期間を示す細胞健全期間を計算し、計算された細胞の健全期間に基づく情報を出力し、これにより、判定時間を短縮し、薬物評価の判定精度を向上させることができる。
【0223】
本実施形態の培養器11(観察装置)はまた、時系列画像に示される細胞のノード数Nの時間的変化に基づいて、ノード数Nを平滑化してノイズの影響を最小限に抑えることができる。結果として、培養器11(観察装置)は、ノード数Nと細胞状態との相関をより明確にし、判定精度を向上させることができる。
【0224】
以下、他の実施例(変形例)について説明する。
【0225】
制御装置41はまた、1パス分の価値がある時間経過観察の画像と同じ観察時間帯において、同一の培養容器19内の複数の点(例えば、5点の観測、又は培養容器19全体の観察)を撮像する複数の顕微鏡画像を取り扱うように構成してもよい。
【0226】
さらに、本発明の実施形態における培養器11(観察装置)の各種処理を実行するためのプログラムは、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録しておき、前記記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムにロードして実行することにより、上述した各種の処理を実行してもよい。
【0227】
さらに、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSと、周辺機器等のハードウェアを含む。加えて、「コンピュータシステム」は、WWWシステムが採用される場合には、
ホームページ(又は表示環境)を提示するための環境を含んでもよい。
【0228】
「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、光磁気ディスク、ROM、フロッピー(登録商標)ディスク、光磁気ディスク、ROMなどの書き込み可能な不揮発性メモリと、例えばCD-ROMなどの携帯媒体と、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクなどの記憶装置として参照してもよい。さらに、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、例えばインターネットなどのネットワーク又は例えば電話回線などの通信回線を介してプログラムが伝送される場合において、例えばサーバ又はクライアントを含むコンピュータシステムの内部の揮発性メモリ(例えば、DRAM)などの、設定された時間においてプログラムを保持できるものを含む。コンピュータにより読み取り可能な記録媒体は非一時的な媒体を含む。
【0229】
さらに、前記プログラムはメモリ装置等に格納されたコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、もしくは伝送媒体中の送信波によって、他のコンピュータシステムに転送されてもよい。ここで、プログラムを送信する「伝送媒体」は、例えばインターネットなどのネットワーク(通信網)、もしくは電話回線などの通信回線(通信線)などの、情報を伝送する機能を有する媒体を指す。さらに、前記プログラムは、上述した機能の一部を実現するものであってもよい。さらに、前記プログラムは、コンピュータシステム上に既に記録されたプログラムと組み合わせて実現されたいわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0230】
前記は、本開示の一実施形態に過ぎない。その具体的な構成は前記実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で計画等を含むものである。
【0231】
実施例は培養器(例えば、図1Bの培養器11)によって実施される機能性について上述に説明されている。しかしながら、これらの実施形態は、前記の例示的な培養器又は任意の他の特定の装置において上述した機能性のすべて又はいずれかを実施することに限定されない。例えば、(以下、個別にかつ集合的に「解析」機能と呼んでもよい)1つ又は複数の検出部、計算部、取得部、判定部、及び出力部によって実現されるものとして前記の例に記載された機能を含む、培養器の制御装置の制御部によって実現されるものとして前述した機能性は、いくつかの実施形態では培養器によって実施されなくてもよい。他の実施形態では、例えば、そのような解析機能は、培養器の近くに又は培養器から遠くに配置してもよい1つ又は複数の計算装置で代替的に実施してもよい。
【0232】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の計算装置は、上述した培養器によって得られた画像データなどの、培養器によって収集されたデータを受信するために、パーソナルエリアネットワーク、ローカルエリアネットワーク、広域ネットワーク、及び/又はインターネットを含む、1つ又は複数の有線及び/又は無線通信ネットワークを介して培養器と通信してもよい。しかし、他の実施形態において、任意の特定の方法でデータを交換することに限定されないので、データは他の方法で計算装置に通信されてもよい。解析機能が1つ以上の計算装置によって実施される実施形態において、この点に限定されないので、任意の適切な計算装置を使用してもよい。いくつかの実施形態では、例えば、解析機能は、1つ又は複数のデスクトップ及び/又はラップトップパーソナルコンピュータ、1つ又は複数のタブレットコンピュータ、1つ又は複数の携帯電話機、並びに、例えば処理リソースを共有するサーバ、もしくは任意の他の適切な計算装置として設けられ、サーバの分散型ネットワークとして構成することができる1つ以上のサーバによって実施されてもよい。
【0233】
そのような実施形態の具体例として、1つ又は複数の計算装置(例えば、サーバ)は、例示的培養器の制御部分の一部によって実行されるものとして上に説明した機能を実施してもよい。例えば、画像データを読み取って解析し、解析結果を出力するための機能は、1つ又は複数の計算装置によって実施されてもよい。特定の例として、細胞の状態及び/又は薬剤を投与するタイミングを判定するための機能は、1つ又は複数の計算装置によって実施してもよい。培養器又は他の顕微鏡画像源によって生成された画像データなどの画像データの受信に応答して、画像データは、例えば、細胞の状態及び/又は薬剤を投与する時間を判定するように上述の機能性に従って解析されてもよい。解析の結果は、ローカルネットワーク又はインターネットなどのネットワークなどの1つ又は複数のネットワークを介した送信のために出力されることを含み、ユーザに提示するために出力されてもよい。
【0234】
1つ又は複数の計算装置で解析機能を実施する実施形態では、ユーザインターフェースを介して出力されるものとして上述した情報は、解析を実行するのと同じ計算装置のユーザインターフェース又は異なる計算装置を含む、任意の適切な計算装置の任意の適切なユーザインターフェースを介して出力されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、解析機能の一部又は全部を実行する計算装置は、その解析の結果を別の計算装置に送信してもよい。
【0235】
さらに、実施形態は、上述の培養器の方法で実施される、培養器又は培養装置によって得られた画像データ又は他のデータに対する解析機能を適用するように実施されないことは理解されるべきである。むしろ、解析機能は、任意の適切な装置から得られた画像データなどのデータに対して実行してもよい。
【0236】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これは決してさらなる限定として解釈されるべきではない。
【0237】
すべての参考文献の全内容(参照文献、発行された特許、公開された特許出願、及び同時係属の特許出願を含む)は、特に本明細書で参照される教示のために、本明細書中に引用して援用される。
【0238】
実施例
【実施例1】
【0239】
幹細胞由来ニューロンの長期間の生細胞イメージングはうまく実施されていない、神経変性疾患における創薬のための新規なプラットフォームである可能性を秘めている。ニコン製BioStation CTを用いた幹細胞由来の運動ニューロン(MN)の詳細な長期間の生存状態解析が実施された。イメージング解析アルゴリズムは、例えば細胞体サイズ、神経突起数及び神経突起長などの主要な特性を正確に追跡した。イメージングツールは、以下の2つの異なるストレッサーを受けるMNを研究するために用いられた:早期及び後期の神経栄養因子(TF)の除去及びプロテアソーム阻害剤MG132による処理。神経細胞変化の測定を含む細胞死の新しい形態学的予測因子が定義された。この解析アルゴリズムは、各MNの「健全な時間(HT)」を判定し、この測定基準は、終了点解析では明らかでない生存応答の動態を明らかにすることができた。疾患発症の指標として破壊された神経突起を定量化することが有利であり、その理由はこれらの変化は死滅のプロセスの早期に起こるからである。これらの研究は、生細胞イメージングが幹細胞由来の集団を特徴付けるための有用なプラットフォームであり、新たな治療分子を同定するための新規アプローチであり得る。
【0240】
終了点免疫染色解析の限界を克服するために、インビトロ由来のニューロンの生存応答を特徴付け、細胞死に先行して時間とともに追跡することができるニューロンの生存を同定する形態学的特徴を同定するための生細胞イメージングのプラットフォームを作製した。
【0241】
生細胞の拡張された時間経過イメージングのプロセスを図6A図6Eに示す。ヒト胚性幹細胞(hESC)由来の運動ニューロンを28日間成長させた。次に、分化した子孫を播種し、栄養因子(TF)の除去テスト(4日目、早期の時点、又は後期の8日目のいずれかに)もしくはMG132(プロテアソームインヒビター)テスト(4日目~10日目)に供した。解析の終了点は19日目であった(図6A)。細胞についてBioStation CT(図6B)上のライブイメージングを用いてモニターした。ビデオ時間経過表現型解析を、以下の3個の記述子に関して実行した:細胞体数、神経突起長、細胞当たりのノード数(図6C)。次いで、ニューロンは以下のようにノード数によって分類された:「健全な」ニューロンは3個を超える数のノードを有する一方、不健全な又は死滅のニューロンは漸進的により少ないノードを有した。この例では、健全な時間アッセイは時間長を測定するために実施され、任意の与えられたニューロンは「健全」であったか、又は3個を超える数のノードを有していた(図6D)。運動ニューロンは、長期単一細胞追跡によるノード数の変化に基づいてさらに分類した。健全な(H)状態から出発して、ニューロンは、健全な終了点(HHと表示される)、不健全な終了点(HUと示される)、又は死滅終了点(HDと示される)(図6E)の3個の可能性のある結果を有した。図6Eの右下のグラフに示すように、運動ニューロンの大部分は健全な状態で開始された健全状態(HHと表示)でプロトコルを終了した。
【0242】
運動ニューロン(MN)のノード数及び神経突起長を追跡することは、図7に示すとおり、細胞体数よりも有益である。ノード数によるMNの生存単一細胞追跡は、図8に示すとおり、ノード数の変化が細胞ストレスに続く早期の事象であることを明らかにしている。ノード数の変化に基づくMNの分類は、図9に示すとおり、従来の終了点研究よりも詳細な生存情報を提供する。
【0243】
結論として、本明細書に記載の方法を用いて、48ウェルプレート又は96ウェルプレートのいずれかで2週間までのES細胞由来の個々の運動ニューロンを正確に追跡することができる。ノード数の変化によって運動ニューロンを特徴付けることは、従来の測定よりも詳細な母集団情報を取得する。インビトロ由来のMNは、ストレスが与えられた時間に依存したTFの除去に対する分化応答を有する。生存単一細胞の撮像は、iPS細胞を用いたヒト疾患メカニズムの特徴付けに新しい次元を加える可能性を有する。
【実施例2】
【0244】
本開示は、例えば胚性幹細胞株及び患者特異的なiPS細胞などの多能性幹細胞からの運動ニューロンのような分化細胞を生成し、そのような分化した細胞のストレス誘導性の刺激及びストレス回復性の刺激に対する応答を評価するための処理を提供して実証する。一例として、ストレス誘導性の刺激は、運動ニューロン細胞培養物から栄養因子を除去することである。
一例として、ストレス回復性の刺激は、栄養因子を運動ニューロン細胞培養物に添加することである。本明細書で提供されるプロセス及び方法は、運動ニューロンの集団ならびに個々の運動ニューロンに対するこのような刺激の効果を評価するために使用され得る。運動ニューロンは、例えば、培養物中の細胞体数、細胞当たりのノード数、神経突起長、0,1,2,3,4又はそれ以上のノードを有する細胞の分布、個々のニューロンが3個以上のノードを有する時間(場合によっては「健全な時間」と呼ばれる)などに従って評価することができる。
【0245】
図面をより具体的に見ると、図1A及び図6Aは、例えば、胚性幹(ES)細胞及び、患者特異的なiPS細胞などを含む人工多能性幹(iPS)細胞から運動ニューロンを誘導するために使用することができる非限定的な培養システムの概略図を提供する。多能性幹細胞供給源及び分化細胞は、Islet1プロモーターのようなニューロンプロモーターの制御下で、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)などのレポーター遺伝子を含むように操作することができる。あるいは、運動ニューロンは、シナプシン(synapsin)プロモーターのような運動ニューロンプロモーターの制御下で、赤色蛍光タンパク質(RFP)などのレポーター遺伝子を発現するレンチウィルスに感染させてもよい。両方の例が本明細書に提供される。
【0246】
1組の実験において、28日目(0日目が多能性幹細胞培養の開始日である)に、アッセイを行うことができる。アッセイの培養時間は、アッセイの開始からの時間を反映し、多能性幹細胞培養の開始を反映しない。これらのタイムラインは、例えば、図6A及び図6Bに示される。このように、運動ニューロンを、栄養因子が存在する最初の期間において成長させる。栄養因子は、BDNF、CNTF、又はGDNF、又は前記のいずれかの組み合わせであってもよい。次いで、栄養因子を除去させることができる。図6Bは、4日目又は8日目に栄養因子(TF)及び追加のサプリメント(B27及びN2)を除去する実験的計画を示す。TFの除去は、培地を、TFを欠く培地に変更することによって達成してもよい。TFの非存在下で培養を続けることができ、いくつかの培養では、ある時間後にTFを再導入することができる。TFの除去と再導入は原理の証明実験であることが理解され、他の刺激は、他の刺激が運動ニューロンの健全又は回復に対するかかる他の刺激の効果を評価するために、TFの代わりに、又はTFと一緒に培養物に導入され得ることが当業者はさらに認識するであろう。同様に、運動ニューロンは、1つ又は複数の他の要因の除去によって、又は1つ又は複数の刺激の追加によって、ストレスを印加されてもよい。従って、この開示に基づいて、本明細書で提供される方法がより広い適用性を有することを示すことが明らかになるであろう。
【0247】
図7は、例えば、培養物中の細胞体の総数、培養物中の細胞当たりの平均ノード数、神経突起長などの因子について、運動ニューロン培養物からのTFの早期除去及び後期除去の効果を(培養期間を通してTFを含む培養物と比較して)示す。3個すべての測定値について、早期のTFの除去を経験した運動ニューロン、すなわちTFなしの培養時間がより長い運動ニューロンは、後期のTFの除去を経験した運動ニューロン、及び培養中にTF存在を経験した運動ニューロンよりも悪化したことは明らかである。
【0248】
本明細書で提供される解析方法はさらに、0,1,2,3又は4以上のノードを有する運動ニューロン数の評価を可能にした。これらのデータの例を図8に示す。本明細書に記載されるように、いくつかの場合によっては、健全な運動ニューロンは、3個以上のノードを有するものと考えられ得る。図8の3個の右側のパネルは、TFの継続した存在下で培養した場合、もしくは早期のTFの除去又は後期のTFの除去を経験したときにおけるノード数による運動ニューロンの分布を示す。早期のTFの除去により、継続的なTFの存在又は後のTFの除去と比較して、後の時点で3個以上のノードを有する細胞が少なくなる結果となる。従って、本明細書で述べるように、この方法は、単に終了点を測定するのではなく、エンドユーザが実験のタイムライン全体にわたって運動ニューロン集団を解析することを可能にする。
【0249】
図6Eにさらに示されるように、この方法は、集団レベル又は個々の細胞レベルにおいて、健全な表現型から健全な表現型(HH)へ、健全な表現型から不健全な表現型(HU)へ、健全な表現型から細胞死の表現型(HD)へ、もしくは不健全な表現型から健全な表現型へ(図示せず)の細胞の進行を解析するために使用することができる。
【0250】
図10はそのような実験計画を示し、10日目及び15日目のTF(TF+)の継続的存在を経験した培養物と、4日目から15日目までの間にTFの除去を経験した培養物(中間パネル)と、4日目から10日目までの間にTFの除去を経験した培養物(右パネル)との写真を提供する。
【0251】
図11は、TF及びKenpaullone(GSK3阻害剤)の存在、TF単独の存在、TFの6日間の除去(培養の約4日目から開始)及び完全なTFの不在での細胞を培養したときの、同様の実験から得られた経時変化データを提供する。この方法を用いて、これらの培養条件のそれぞれの時間の関数として、神経突起長、細胞当たりのノード数、細胞体面積、及び細胞体数を測定した。培養条件による違いは明らかである。細胞体面積のようないくつかの例では、当該グラフは、培養期間中の画像解析が、単に培養期間の終わりに培養物を解析することによって明らかにならない情報を明らかにしていることを実証する。
【0252】
上述したように、様々な場合において、運動ニューロンの健全状態は、ニューロン当たり3個を超える数のノードの存在によって示される。0,1,2,3又は4以上のニューロンを有する細胞の分布による培養のプロファイルを図12に示す。これらのプロットは、本明細書で提供される解析方法を用いて得ることができる情報の程度を示す。下のパネルは、TF欠乏の運動ニューロンが培地へのTF再導入後に回復する能力を明らかに示す。さらに、図はさらに回復の時間経過を示す。このような時間経過は、例えばスクリーニングアッセイにおけるように、類似の培養物への他の刺激を評価するために使用することができる。
【0253】
図13は、様々な培養条件下で培養された運動ニューロンの平均健全時間を示す。健全な時間は、この例では、個々の運動ニューロンは3個以上のノードを有する時間期間である。このアッセイは、個々のニューロンが本明細書に記載されるように連続的に追跡されることを必要とし、従って、このアッセイは本明細書で提供される解析方法に適している。
【実施例3】
【0254】
図15及び図16は、患者特異的なiPS細胞に由来する運動ニューロンから得られたデータを提供する。具体的には、iPS細胞は、1型SMAの患者から作製された。図15(一番上の行)は、野生型iPS細胞から得た運動ニューロンと、1型SMAのiPS細胞から得た運動ニューロンとの間の明らかな差異を示す。全体的なプロファイルは、野生型と比較して、健全なニューロン(すなわち、それらが3個以上のノードを有する)が枯渇している1型SMAの運動ニューロン集団とは著しく異なる。それらの健全なニューロンは、TFの除去(中段)でさらに枯渇した。しかしながら、驚くべきことに、右パネルの一番下の行の健全なニューロンの成長によって示されるように、これらの同じ培養物は、TFの再導入時に回復することができる。図16は、野生型運動ニューロン及び1型SMAの運動ニューロンの健全な時間データを提供する。これらのデータは、野生型集団と比較して、1型SMAの細胞からの全体的に健全性がより少ない集団(より短い「健全時間」によって証明される)を示す。
【0255】
参照符号リストは次のとおりである。
【符号の説明】
【0256】
11 培養器
12 上部筐体
13 下部筐体
15 恒温槽/恒温槽
15a 温度調整装置/温度調整装置
15b 湿度調整装置/湿度調整装置
16 大扉
17 中扉
18 小扉
19 培養容器/培養容器
21 ストッカー
22 観察部
23 容器搬送装置/容器搬送装置
24 搬送台/搬送台
31 サンプル台/サンプル台
32 台アーム
33 本体部/本体部
34 撮像装置
35 回転ステージ
35a 回転シャフト
36 ミニステージ
37 アーム部
38 垂直ロボット
39 LED光源
41 制御装置
42 記憶部
42A 入力部
43 入力受付部
43A 制御部/制御部
45 出力部
45A 表示部/表示部
46 制御部
46A 記憶部
432 画像データ取得部
434 検出部
436 時間的変化計算部
438 時間的変化取得部
440 タイミング計算部
442 出力部
461 画像読取部
462 検出部
463 計算部
464 第1の判定部
465 第2の判定部
466 出力制御部
467 記憶制御部
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16