(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】吸着装置、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20221205BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20221205BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221205BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221205BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C23C14/50 A
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2019172226
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0114448
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
(72)【発明者】
【氏名】神野 紘隆
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155338(JP,A)
【文献】特表2017-516294(JP,A)
【文献】特開2004-183044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/67-21/683
H01L 51/50-51/56
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を支持するための被吸着体支持ユニットと、
前記被吸着体支持ユニットに支持される前記被吸着体に対向するように設置されて、前記被吸着体を吸着するための静電チャックと、
前記被吸着体支持ユニットと前記静電チャックとの距離を調整するための距離調整手段と、
前記静電チャックへの電圧印加、及び前記距離調整手段による前記被吸着体支持ユニットと前記静電チャックとの距離の調整を制御するための制御部とを含み、
前記制御部は、前記被吸着体支持ユニットと前記静電チャックとが所定の間隔に離隔された状態で、前記被吸着体支持ユニットによって支持された被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に吸引するための電圧が前記静電チャックに印加されるように制御し、
前記制御部は、前記静電チャックに前記吸引するための電圧が印加された状態で前記静電チャックと前記被吸着体支持ユニットを相対的に接近させるように、前記距離調整手段を制御
し、
前記吸引するための前記電圧は、前記被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に凸状にする電圧であり、
前記所定の間隔は、前記吸引するための前記電圧が印加され、前記被吸着体が前記静電チャックに向かう方向に凸状になったとき、前記被吸着体が前記静電チャックに接触しない距離であることを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
前記距離調整手段は、前記被吸着体支持ユニットを駆動させるための被吸着体支持ユニット駆動アクチュエータと、前記静電チャックを駆動させるための静電チャック駆動アクチュエータの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項
1に記載の吸着装置。
【請求項3】
前記被吸着体支持ユニットは、基板を支持するための基板支持ユニットと、マスクを支持するためのマスク支持ユニットの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の吸着装置。
【請求項4】
基板を支持するための基板支持ユニットと、
前記基板支持ユニットとは間隔を空けて設置されて、マスクを支持するためのマスク支
持ユニットと、
前記基板支持ユニットの設置されている位置を基準に、前記マスク支持ユニットの設置されている位置と反対側に設置され、前記基板及び前記基板を介して前記マスクを吸着するための静電チャックと、
前記マスク支持ユニットと前記静電チャックとの距離を調整するための距離調整手段と、
前記静電チャックへの電圧印加、及び前記距離調整手段による前記マスク支持ユニットと前記静電チャックとの距離の調整を制御するための制御部とを含み、
前記制御部は、
前記基板を介して前記静電チャックと、前記マスク支持ユニットとの間の距離が所定の間隔になるように、前記距離調整手段を制御し、
前記静電チャックと、前記マスク支持ユニットとが前記所定の間隔に離隔された状態で、前記マスクを前記静電チャックに向かう方向に凸状にするための所定の電圧が前記静電チャックに印加されるように制御
し、
前記所定の間隔は、前記所定の電圧が印加され、前記マスクが前記静電チャックに向かって凸状になったとき、前記マスクが前記静電チャックに吸着された前記基板に接触しない距離であることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記所定の間隔は、前記マスク支持ユニットに支持されている前記マスクの撓み量と前記基板の厚さを足した距離以上であることを特徴とする請求項
4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記所定の間隔は、前記マスクの撓み量と前記基板の厚さを足した距離と実質的に同じであることを特徴とする請求項
4または
5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記マスクが前記静電チャックに向かって凸状になった状態で、前記静電チャックと前記マスク支持ユニットを相対的に接近させるように、前記距離調整手段を制御することを特徴とする請求項
4~
6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記静電チャックと前記マスク支持ユニットを相対的に接近させつつ、または接近が終了した後に、前記静電チャックに印加される電圧を、前記所定の電圧から前記基板を介して前記マスクを吸着するための電圧に変更するように制御することを特徴とする請求項
7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記距離調整手段は、前記マスク支持ユニットを駆動させるためのマスク支持ユニット駆動アクチュエータと、前記静電チャックを駆動させるための静電チャック駆動アクチュエータの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項
4~
8のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
被吸着体と所定の間隔を設けて離隔された静電チャックに、所定の電圧を印加して、前記被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に吸引する吸引工程と、
前記吸引工程の後に、前記被吸着体と前記静電チャックを相対的に接近させ、前記静電チャックに前記被吸着体を吸着させる吸着工程と、を含
み、
前記所定の電圧は、前記被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に凸状にする電圧であり、
前記所定の間隔は、前記被吸着体が前記静電チャックに向かって凸状になったとき、前記被吸着体が前記静電チャックに接触しない距離であることを特徴とする吸着方法。
【請求項11】
前記被吸着体は、基板であることを特徴とする請求項
10に記載の吸着方法。
【請求項12】
前記被吸着体は、マスクであることを特徴とする請求項
10に記載の吸着方法。
【請求項13】
被吸着体を吸着するための方法であって、
静電チャックに第1電圧を印加して第1被吸着体を吸着する第1吸着工程と、
前記第1被吸着体を介して、前記静電チャックと第2被吸着体が所定の間隔に離隔されている状態で、前記静電チャックに所定の電圧を印加して前記第2被吸着体を、前記静電チャックに向かう方向に凸状にする吸引工程と、
前記第2被吸着体と前記静電チャックを前記所定の間隔から相対的に接近させ、前記静電チャックに前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着する第2吸着工程とを含
み、
前記所定の間隔は、前記所定の電圧が印加され、前記第2被吸着体が前記静電チャックに向かって凸状になったとき、前記第2被吸着体が前記静電チャックに吸着された前記第1被吸着体に接触しない距離であることを特徴とする吸着方法。
【請求項14】
前記第2被吸着体は、第2被吸着体支持ユニットで支持されており、
前記所定の間隔は、前記第2被吸着体支持ユニットに支持されている前記第2被吸着体の撓み量と前記第1被吸着体の厚さを足した距離以上であることを特徴とする請求項
13に記載の吸着方法。
【請求項15】
前記所定の間隔は、前記第2被吸着体の撓み量と前記第1被吸着体の厚さを足した距離と実質的に同じであることを特徴とする請求項
14に記載の吸着方法。
【請求項16】
前記第2吸着工程では、前記静電チャックと、前記第2被吸着体支持ユニットを相対的に接近させつつ、または接近が終了した後に、前記静電チャックに印加される電圧を、前記所定の電圧から前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着するための第3電圧に変更することを特徴とする請求項
14または
15に記載の吸着方法。
【請求項17】
前記第1吸着工程の後に、前記第1被吸着体の前記静電チャックへの吸着を維持するための第2電圧を前記静電チャックに印加する工程をさらに含み、
前記所定の電圧は、前記第2電圧以上であることを特徴とする請求項
13~
16のいずれか1項に記載の吸着方法。
【請求項18】
前記所定の電圧は、前記静電チャックに前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着するための第3電圧と同じ大きさであることを特徴とする請求項
13~
15のいずれか1項に記載の吸着方法。
【請求項19】
前記第2吸着工程は、前記第2被吸着体の前記吸引工程で凸状になった部分から、前記第1被吸着体に接触させ、前記静電チャックに前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着することを特徴とする請求項
13~
18のいずれか1項に記載の吸着方法。
【請求項20】
基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
真空容器内にマスクを搬入する工程と、
前記真空容器内に基板を搬入する工程と、
静電チャックに第1電圧を印加して前記基板を吸着する工程と、
前記基板を介して前記静電チャックと、前記マスクとが所定の間隔に離隔されている状態で、前記静電チャックに所定の電圧を印加して前記マスクを前記静電チャックに向かう方向に凸状にする工程と、
前記マスクと前記静電チャックを前記所定の間隔から相対的に接近させ、前記静電チャックに前記基板越しに前記マスクを吸着する工程と、
前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を蒸発させて、前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程とを含
み、
前記マスクの吸着工程は、前記マスクを前記静電チャックに向かう方向に凸状にする工程で前記マスクの凸状になった部分から、前記基板に接触させ、前記静電チャックに前記基板を介して前記マスクを吸着することを特徴とする成膜方法。
【請求項21】
請求項
20に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着装置、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の蒸発源から蒸発した蒸着材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に蒸着させることで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、蒸発源は成膜装置の真空容器の下部に設けられる。一方、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に蒸着材料が蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度を落とす一つの要因となっている。上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においても、また、基板の自重による撓みは生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【0005】
特許文献1には、静電チャックで基板及びマスクを吸着する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許公開公報2007-0010723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の技術において、静電チャックに基板を介してマスクを吸着させる場合、吸着後のマスクにしわが残ってしまう問題があった。
【0008】
本発明は、第1被吸着体と第2被吸着体の両方を良好に静電チャックに吸着することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様による吸着装置は、被吸着体を支持するための被吸着体支持ユニットと、前記被吸着体支持ユニットに支持される前記被吸着体に対向するように設置されて、前記被吸着体を吸着するための静電チャックと、前記被吸着体支持ユニットと前記静電チャックとの距離を調整するための距離調整手段と、前記静電チャックへの電圧印加、及び前記距離調整手段による前記被吸着体支持ユニットと前記静電チャックとの距離の調整を制御するための制御部とを含み、前記制御部は、前記被吸着体支持ユニットと前記静電チャックとが所定の間隔に離隔された状態で、前記被吸着体支持ユニットによって支持された被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に吸引するための電圧が前記静電チャックに印加されるように制御し、前記制御部は、前記静電チャックに前記吸引するための電圧が印加された状態で前記静電チャックと前記被吸着体支持ユニットを相対的に接近させるように、前記距離調整手段を制御し、前記吸引するための前記電圧は、前記被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に凸状にする電圧であり、前記所定の間隔は、前記吸引するための前記電圧が印加され、前記被吸着体が前記静電チャックに向かう方向に凸状になったとき、前記被吸着体が前記静電チャックに接触しない距離であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2態様による成膜装置は、基板を支持するための基板支持ユニットと、前記基板支持ユニットとは間隔を空けて設置されて、マスクを支持するためのマスク支持ユニットと、前記基板支持ユニットの設置されている位置を基準に、前記マスク支持ユニットの設置されている位置と反対側に設置され、前記基板及び前記基板を介して前記マスクを吸着するための静電チャックと、前記マスク支持ユニットと前記静電チャックとの距離を調整するための距離調整手段と、前記静電チャックへの電圧印加、及び前記距離調整手段による前記マスク支持ユニットと前記静電チャックとの距離の調整を制御するための制御部とを含み、前記制御部は、前記基板を介して前記静電チャックと、前記マスク支持ユニットとの間の距離が所定の間隔になるように、前記距離調整手段を制御し、前記静電チャックと、前記マスク支持ユニットとが前記所定の間隔に離隔された状態で、前記マスクを前記静電チャックに向かう方向に凸状にするための所定の電圧が前記静電チャックに印加されるように制御し、前記所定の間隔は、前記所定の電圧が印加され、前記マスクが前記静電チャックに向かって凸状になったとき、前記マスクが前記静電チャックに吸着された前記基板に接触しない距離であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3態様による吸着方法は、被吸着体と所定の間隔を設けて離隔された静電チャックに、所定の電圧を印加して、前記被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に吸引する吸引工程と、前記吸引工程の後に、前記被吸着体と前記静電チャックを相対的に接近させ、前記静電チャックに前記被吸着体を吸着させる吸着工程と、を含み、前記所定の電圧は、前記被吸着体を前記静電チャックに向かう方向に凸状にする電圧であり、前記所定の間隔は、前記被吸着体が前記静電チャックに向かって凸状になったとき、前記被吸着体が前記静電チャックに接触しない距離であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4態様による吸着方法は、被吸着体を吸着するための方法であって、静電チャックに第1電圧を印加して第1被吸着体を吸着する第1吸着工程と、前記第1被吸着体を介して、前記静電チャックと第2被吸着体が所定の間隔に離隔されている状態で、前記静電チャックに所定の電圧を印加して前記第2被吸着体を、前記静電チャックに向かう方向に凸状にする吸引工程と、前記第2被吸着体と前記静電チャックを前記所定の間隔から相対的に接近させ、前記静電チャックに前記第1被吸着体を介して前記第2被吸着体を吸着する第2吸着工程とを含み、前記所定の間隔は、前記所定の電圧が印加され、前記第2被吸着体が前記静電チャックに向かって凸状になったとき、前記第2被吸着体が前記静電チャックに吸着された前記第1被吸着体に接触しない距離であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第6態様による成膜方法は、基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、真空容器内にマスクを搬入する工程と、前記真空容器内に基板を搬入する工程と、静電チャックに第1電圧を印加して前記基板を吸着する工程と、前記基板を介して前記静電チャックと、前記マスクとが所定の間隔に離隔されている状態で、前記静電チャックに所定の電圧を印加して前記マスクを前記静電チャックに向かう方向に凸状にする工程と、前記マスクと前記静電チャックを前記所定の間隔から相対的に接近させ、前記静電チャックに前記基板越しに前記マスクを吸着する工程と、前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着された状態で、蒸着材料を蒸発させて、前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程とを含み、前記マスクの吸着工程は、前記マスクを前記静電チャックに向かう方向に凸状にする工程で前記マスクの凸状になった部分から、前記基板に
接触させ、前記静電チャックに前記基板を介して前記マスクを吸着することを特徴とする。
【0016】
本発明の第8態様による電子デバイスの製造方法は、本発明の第6態様又は第7態様による成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、静電チャックにより第1被吸着体と第2被吸着体の両方をしわが残らないように良好に吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3a】
図3aは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図及び模式図である。
【
図3b】
図3bは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図及び模式図である。
【
図3c】
図3cは、本発明の一実施形態による静電チャックシステムの概念図及び模式図である。
【
図4】
図4は、静電チャックへの基板の吸着工程を示す図である。
【
図5】
図5は、他の実施形態による静電チャックへの基板の吸着工程を示す図である。
【
図6】
図6は、静電チャックに基板が吸着した後の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、蒸着材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもよい。なお、以下に説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0021】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0022】
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルを製作する。
【0023】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置の間を繋ぐ中継装置とを含む。
【0024】
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜処理)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、
図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0025】
搬送室13内には、基板SおよびマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0026】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ばれる)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクMを介して基板S上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対的な位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0027】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクMと、使用済みのマスクMとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクMを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクMを成膜装置11に搬送する。
【0028】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に受け渡すパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に受け渡すためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0029】
バッファー室16とパス室15との間には、基板Sの向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Sの向きが同じになり、基板処理が容易になる。
【0030】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び下流側の少なくとも一方に設置される中継装置は、パス室15、バッファー室16、旋回室17のうち少なくとも1つを含む。
【0031】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0032】
本実施例では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有してもよく、これらの装置やチャンバー間の配置が変わってもよい。
【0033】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0034】
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0035】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、蒸発源25とを有する。なお、基板支持ユニット22、マスク支持ユニット23はそれぞれ、基板Sを第1被吸着体、マスクMを第2被吸着体としたときの被吸着体支持ユニットに相当する。
【0036】
基板支持ユニット22(第1被吸着体支持ユニット)は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送してきた基板Sを受取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
【0037】
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23(第2被吸着体支持ユニット)が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送してきたマスクMを受取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0038】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ばれる。
【0039】
基板支持ユニット22の上方には、基板Sを静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよい。さらには、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。しかし、静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。なぜなら、静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックであることによって、基板Sが絶縁性基板である場合であっても、静電チャック24によって良好に吸着することができるからである。例えば、静電チャック24がクーロン力タイプの静電チャックである場合には、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電圧が
印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板Sなどの被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、基板Sと静電チャック24との間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。
【0040】
静電チャック24は、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。
【0041】
本実施形態では後述のように、成膜処理前に静電チャック24で基板S(第1被吸着体)だけでなく、マスクM(第2被吸着体)も吸着し保持する。そのため、本実施形態における成膜装置11は、基板S(第1被吸着体)やマスクM(第2被吸着体)を吸着する吸着装置でもある。
【0042】
即ち、本実施例では、静電チャック24の鉛直方向の下側に置かれた基板S(第1被吸着体)を静電チャックで吸着及び保持し、その後、基板S(第1被吸着体)を介して静電チャック24と反対側に置かれたマスクM(第2被吸着体)を、基板S(第1被吸着体)越しに静電チャック24で吸着し保持する。特に、静電チャック24で基板Sを吸着する際には、静電チャック24と基板Sが所定の間隔dに離隔された状態で、静電チャック24に所定の電圧V
Sを印加して、基板Sを引き寄せ、静電チャック24の静電引力によって凸状になった基板の部分が、静電チャックによる基板Sの吸着の起点とするようにする。また、静電チャック24でマスクMを基板S越しに吸着する際には、静電チャック24とマスクMが所定の間隔d’に離隔された状態で、静電チャック24に所定の電圧V
Mを印加して、マスクMを引き寄せ、静電チャック24の静電引力によって凸状になったマスクMの部分が、静電チャックによるマスクMの吸着の起点となるようにする。これについては、
図4~6を参照して後述する。
【0043】
図2には示さなかったが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0044】
蒸発源25は、基板に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸発源25は、点(point)蒸発源や線形(linear)蒸発源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0045】
図2に示さなかったが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0046】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などが設けられる。これらのアクチュエータ26,27,28(距離調整手段)と位置調整機構29は、例えば、モータとボールねじ、或いはモータとリニアガイドなどで構成されるが、本発明はこれに限定されず、当該業界で知られている他の構成を採用してもよい。基板Zアクチュエータ26(基板支持ユニット駆動アクチュエータ)は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27(マスク支持ユニット駆動アクチュエータ)は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28(静電チャック駆動アクチュエータ)は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
なお、基板SとマスクMを被吸着体として捉えると、前述の基板Zアクチュエータ26とマスクZアクチュエータ27は、それぞれ被吸着体を支持する支持ユニットの駆動アクチュエータであるので、まとめて被吸着体支持ユニット駆動アクチュエータとして捉えることもできる。
【0047】
位置調整機構29は、静電チャック24のアライメントのための駆動手段である。位置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、水平面に平行な面内で、X方向、Y方向のうちの少なくとも一つの方向に相対的に移動、もしくはθ方向に相対的に回転させる。なお、本実施形態では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX方向、Y方向の少なくとも一つの方向に移動、θ方向に回転させるように位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0048】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20を設置してもよい。本実施例においては、アライメント用カメラ20は、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の対角線に対応する位置または、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の4つの角部に対応する位置に設置してもよい。
【0049】
本実施形態の成膜装置11に設置されるアライメント用カメラ20は、基板SとマスクMとの相対的な位置を高精度で調整するのに使われるファインアライメント用カメラであり、その視野角は狭いが高解像度を持つカメラである。成膜装置11は、ファインアライメント用カメラ20の他に相対的に視野角が広くて低解像度であるラフアライメント用カメラを有してもよい。
【0050】
尚、位置調整機構29は、アライメント用カメラ20によって取得した基板S(第1被吸着体)及びマスクM(第2被吸着体)の位置情報に基づいて、基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0051】
成膜装置11は、制御部40を具備する。制御部40は、基板SやマスクMの搬送及びアライメントの制御、蒸発源25の制御、成膜装置11の制御などの機能を有する。
【0052】
特に、制御部40は、基板Zアクチュエータ26による基板支持ユニット22の昇降、マスクZアクチュエータ27によるマスク支持ユニット23の昇降、及び静電チャックZアクチュエータ28による静電チャック24の昇降を制御する。これによって、制御部40は、静電チャック24への基板S及びマスクMの吸着工程と、静電チャック24に吸着された基板SとマスクMの分離工程において、静電チャック24に対する基板S、および静電チャック24に対するマスクMの少なくとも一方の相対的な距離を調整することができる。
【0053】
特に、静電チャック24に基板Sを吸着させるため、制御部40は、静電チャック24と基板Sが所定の間隔に離隔されるように静電チャック24および基板Sの少なくとも一方の昇降を1次制御してから、静電チャック24に所定の電圧VSを印加して発生する静電引力によって、基板Sが静電チャック24に向かう方向に凸状になるようにする。その後、基板Sが、静電チャック24に接触するように静電チャック24および基板Sの少なくとも一方の昇降を2次的に制御する。また、基板Sを介してマスクMを吸着させるために、制御部40は、静電チャック24とマスクMとが所定の間隔に離隔されるように静電チャック24およびマスクMの少なくとも一方の昇降を1次制御してから、静電チャック24に所定の電圧VMを印加して発生する静電引力によって、マスクMが静電チャック2
4に向かう方向に凸状になるようにする。その後、マスクMが、基板Sに接触するように、静電チャック24およびマスクMの少なくとも一方の昇降を2次的に制御する。制御部40のこのような機能は、別途のZアクチュエータ制御部(不図示)によって構成されてもよい。
【0054】
制御部40は、また、静電チャック24への電圧の印加を制御する機能も有するが、これについては
図3を参照して後述する。
【0055】
制御部40は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部40の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。さらには、制御部40の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0056】
<静電チャックシステム>
図3a~
図3cを参照して本実施形態による静電チャックシステム30について説明する。
【0057】
図3aは、本実施形態の静電チャックシステム30の概念的なブロック図であり、
図3bは、静電チャック24の模式的な平面図であり、
図3cは、静電チャック24の模式的な平面図である。
【0058】
本実施形態の静電チャックシステム30は、
図3aに示すように、静電チャック24と、電圧印加部31と、電圧制御部32と、を有する。
【0059】
電圧印加部31は、静電チャック24の電極部に静電引力を発生させるための電圧を印加する。
【0060】
電圧制御部32は、静電チャックシステム30の吸着工程または成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電圧印加部31から電極部に加えられる電圧の大きさ、電圧の印加開始時点、電圧の維持時間、電圧の印加順番などを制御する。電圧制御部32は、例えば、静電チャック24の電極部が有する複数のサブ電極部241~249への電圧印加をサブ電極部別に独立的に制御することができる。本実施形態では、電圧制御部32が成膜装置11の制御部40とは別途に構成されるが、本発明はこれに限定されず、成膜装置11の制御部40に統合されてもよい。
【0061】
静電チャック24は、吸着面に被吸着体(例えば、基板S、マスクM)を吸着するための静電吸着力を発生させる電極部を有し、電極部は、複数のサブ電極部241~249を有する。例えば、本実施形態の静電チャック24は、
図3cに示したように、静電チャック24の長手方向(Y方向)および、静電チャック24の短手方向(X方向)に沿って、分割された複数のサブ電極部241~249が配置されている。
【0062】
上述のサブ電極部241~249はそれぞれ、静電吸着力を発生させるためにプラス(第1極性)及びマイナス(第2極性)の電圧が印加される電極対33を有する。さらに、複数のサブ電極部241~249が有する電極対33は、プラス電圧が印加される第1電極331と、マイナス電圧が印加される第2電極332とを有する。
【0063】
第1電極331及び第2電極332は、
図3cに示すように、それぞれ櫛歯形状を有する。例えば、第1電極331及び第2電極332は、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部とを有する。各電極331,332の基部は櫛歯部に電力を供給し、複数の櫛歯部は、被吸着体との間で静電吸着力を生じさせる。サブ電極部241~249のそれぞれにおいて、第1電極331の各櫛歯部は、第2電極332の各櫛歯部と対向し、かつ互いに入り組んだ構成となるように、交互に配置される。このように、各電極331,332の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電圧が印加される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって基板Sを吸着することができる。
【0064】
本実施例においては、静電チャック24のサブ電極部241~249の各電極331,332が櫛歯形状を有すると説明したが、本発明はそれに限定されず、被吸着体との間で静電引力を発生させることができる限り、多様な形状を持つことができる。
【0065】
本実施形態の静電チャック24は、複数のサブ電極部に対応する複数の吸着部を有する。例えば、本実施例の静電チャック24は、
図3cに示すように、9つのサブ電極部241~249に対応する9つの吸着部を有するが、これに限定されず、基板Sの吸着をより精密に制御するため、他の個数の吸着部を有してもよい。
【0066】
吸着部は、静電チャック24の長手方向(Y方向)及び短手方向(X方向)に分割されるように設けられるが、これに限定されず、静電チャック24の長手方向または短手方向だけに分割されてもよい。複数の吸着部は、物理的に一つのプレートが複数の電極部を持つことで構成されてもよく、物理的に分割された複数のプレートそれぞれが一つまたはそれ以上の電極部を持つことで構成されてもよい。
【0067】
図3cに示した実施例において、複数の吸着部それぞれが複数のサブ電極部それぞれに対応するように構成されてもよく、一つの吸着部が複数のサブ電極部を含むように構成されてもよい。
【0068】
例えば、電圧制御部32によるサブ電極部241~249への電圧の印加を制御することで、後述するように、基板Sの吸着進行方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に配置された3つのサブ電極部241、244、247が一つの吸着部を構成するようにすることができる。すなわち、電圧制御部32は、3つのサブ電極部241、244、247のそれぞれに対して、独立的に電圧を印加する順序を制御することが可能である。そのため、これら3つのサブ電極部241、244、247に同時に電圧が印加されるように制御することで、これら3つのサブ電極部241、244、247を一つの吸着部として機能させることができる。複数の吸着部のそれぞれが独立的に基板Sの吸着を行うことができる限り、その具体的な物理的構造及び電気回路的構造を変更してもよい。
【0069】
<静電チャックシステムによる吸着方法>
以下、
図4~
図6を参照して、静電チャック24に基板S及びマスクMを吸着する方法について説明する。以下では、電圧制御部32の機能が成膜装置11の制御部40の機能とは別であることを前提に説明するが、これは例示的なものであり、後述する電圧制御部32の機能は、成膜装置11の制御部40に統合されてもよい。なお、これらの説明に際し、基板S、マスクMや静電チャック24の移動を分かりやすくするため、上述の基板Sアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などは不図示としている。
【0070】
図4(a)~(d)は、静電チャック24に基板Sを吸着する工程(第1吸着工程)を示している。
【0071】
本実施形態においては、
図4(a)~(d)に示すように、静電チャック24の下面に基板Sの全面が同時に吸着するのではなく、静電チャック24の第1辺(短辺)に沿って一端から他端に向かって順次に吸着が進行する。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば、静電チャック24の対角線上の一つの角からこれと対向する他の角に向かって基板の吸着が進行してもよい。
【0072】
静電チャック24の第1辺に沿って基板Sが順次に吸着するようにするために、以下の方法が挙げられる。まずは、複数のサブ電極部241~249に基板吸着のための第1電圧を印加する順番を制御して、基板Sが順次に吸着するようにする方法がある。もしくは、複数のサブ電極部241~249に同時に第1電圧を印加し、基板Sを支持する基板支持ユニット22の支持部の構造や支持力を異ならせることで、基板Sが順次に吸着する方法を採用してもよい。
【0073】
図4(a)~(d)は、静電チャック24の複数のサブ電極部241~249に印加される電圧の制御によって、基板Sを基板吸着方向(X方向)に沿って、静電チャック24に順次に吸着させる実施形態を示す。ここでは、静電チャック24の長辺方向(Y方向)に沿って配置される3つのサブ電極部241,244,247が第1吸着部41(電圧印加の順番が1番目の吸着部)を構成し、静電チャック24の中央部の3つのサブ電極部242、245、248が第2吸着部42(電圧印加の順番が2番目の吸着部)を構成し、残り3つのサブ電極部243、246、249が第3吸着部43(電圧印加の順番が3番目の吸着部)を構成する。
【0074】
まず、
図4(a)に示したように、成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入され、基板支持ユニット22の支持部によって支持される。続いて、制御部40による静電チャックZアクチュエータ28の制御によって静電チャック24が下降し、基板支持ユニット22の支持部に支持された基板Sに向かって移動する。しかしながら、本実施形態とは異なり、制御部40による基板Zアクチュエータ26の制御を通じて基板支持ユニット22を上昇させてもよい。または、静電チャックZアクチュエータ28と基板Zアクチュエータ26を一緒に制御して、静電チャック24と基板Sを相対的に接近させてもよい。
【0075】
静電チャック24が基板Sに十分に近接または接触すると、電圧制御部32は、基板吸着方向(X方向)である静電チャック24の第1辺(短手)に沿って第1吸着部41(1番目の吸着部)から第3吸着部43(3番目の吸着部)に向かって順次に第1電圧(ΔV1)が印加されるよう制御する。
【0076】
つまり、電圧制御部32は、
図4(b)~(d)に示したように、第1吸着部41(1番目の吸着部)(
図4(b))、第2吸着部42(2番目の吸着部)(
図4(c))、第3吸着部43(3番目の吸着部)の順に第1電圧が加えられるように制御する(
図4(d))。
【0077】
第1電圧(ΔV1)は、基板Sを静電チャック24に確実に吸着させるために十分な大きさの電圧に設定される。
【0078】
これにより、基板Sの静電チャック24への吸着は、基板Sの第1吸着部41(1番目の吸着部)に対応する長手方向(Y方向)に沿った一方の辺側から吸着が開始され、基板Sの中央部を経て、第3吸着部43(3番目の吸着部)側に対応する長手方向(Y方向)の沿った他方の辺側に向かって、吸着が進行していき(すなわち、X方向に基板Sの吸着が進行していき)、基板Sは、基板中央部にしわを残さず、平らに静電チャック24に吸着される。
【0079】
本実施形態においては、静電チャック24が基板Sに十分に近接或いは接触した状態で、第1電圧(ΔV1)を印加すると説明したが、静電チャック24が基板Sに向かって下降を始める前に、或いは、下降の途中に第1電圧(ΔV1)を印加してもよい。
【0080】
図5(a)~(e)は、本発明の他の実施形態による基板の吸着工程を示す。
図5(a)~(e)に示した本発明の他の実施形態では、基板Sを静電チャック24に吸着させるための第1電圧(ΔV1)を印加する前に、基板Sが静電チャック24から所定の間隔(d)で離隔されるように、基板Zアクチュエータ26及び静電チャックZアクチュエータ28の少なくとも一方によって(距離調整手段によって)、静電チャック24と基板Sを相対的に移動させる。
【0081】
ここで、「静電チャック24と基板Sとの間の距離」を、静電チャック24の下面の吸着面と基板支持ユニット22の上面との間の距離として定義する。このように定義することで、基板支持ユニット22によって支持されている基板Sの形状に関係なく静電チャック24と基板Sとの間の距離を定義することができる。
【0082】
本実施形態において、上述の「所定の間隔d」は、静電チャック24に印加される電圧に応じて発生する静電引力によって、静電チャック24と所定の間隔dで離隔されている基板Sが静電チャック24に向かう方向に凸状に変形することができる程度の距離を表している。
【0083】
また、「所定の間隔d」は、静電チャック24の電極部に第1電圧(ΔV1)が印加されて、基板Sが静電チャック24に向かう方向に凸状になったとき、基板Sが静電チャック24には接触しない距離でもある。所定の間隔dが小さすぎると、静電チャック24の電極部に第1電圧(ΔV1)が印加されて、基板Sが静電チャック24に向かって凸状となるように変形するとき、基板Sの中央部ではなく、中央部と周縁部の間の部分が中央部よりも先に静電チャック24に接触してしまう。
【0084】
そこで、「所定の間隔d」は、
図5(b)、(d)に示すような、基板支持ユニット22によって支持されている基板Sが自重によって撓んでいる大きさを示す基板の撓み量x以上であることが好ましい。ここで、基板Sの撓み量xは、基板Sが自重によって撓んで凹状になる場合、基板Sの水平面からの最大距離xを指す。
【0085】
ただし、静電チャック24と基板Sとの間の距離が大きすぎると、基板Sが静電チャック24に向かって凸状になるためには、相対的に大きい電圧を印加しなければならない問題がある。これを考慮すると、「所定の間隔d」は、基板の撓み量xと実質的に同じであることがより好ましい。
【0086】
図5(c)に示すように、静電チャック24と基板Sとの間の距離、又は基板支持ユニット22と静電チャック24との間の距離が所定の間隔dに維持された状態で、静電チャック24の電極部に第1電圧(ΔV1)を印加する。すると、基板Sの中央部は静電チャック24からの静電引力によって、静電チャック24に向かう方向に凸状になる。
【0087】
続いて、
図5(d)に示すように、静電チャック24と基板Sを相対的に接近させると、基板Sの中央部が先に静電チャック24に接触して吸着される。静電チャック24と基板Sをさらに接近させると、基板Sの中央部から周縁部に向かって基板Sが順次的に静電チャック24に吸着される。このようにすることで、
図5(e)に示すように基板Sを静電チャック24に平らに吸着させることができる。
【0088】
図5(a)~(e)に示した実施例では、静電チャック24と基板Sが所定の間隔dで離隔された状態で、基板Sを静電チャック24に吸着させるための電圧である第1電圧を印加すると説明したが、本発明はこれに限定されず、基板Sが凸状になることができる限り、第1電圧より低い所定の電圧V
Sを印加してもよい。この場合、所定の電圧V
Sによって基板Sが凸状になった後、静電チャック24と基板Sを相対的に接近させる過程で、または基板Sの中央部が静電チャック24に接触した状態で静電チャック24に印加される電圧を、第1電圧よりも低い値の所定の電圧V
Sから第1電圧(ΔV1)に変更してもよい。
【0089】
また、
図5(a)~(e)に示した実施例では、基板Sを凸状とするために印加する第1電圧(ΔV1)が静電チャック24の電極部全体に同時に印加されるものとして説明し、上述のように、基板Sが凸状になるのであれば、第1電圧よりも低い値の電圧を所定の電圧V
Sとして静電チャック24の電極部全体に印加してもよいとしたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、静電チャック24に第1電圧(ΔV1)又は第1電圧よりも低い値の所定の電圧V
Sを印加することによって、基板Sが凸状になるのであれば、静電チャック24のサブ電極部241~249別に、または第1~第3吸着部別に順次電圧を印加してもよい。例えば、静電チャック24の第2吸着部に先に電圧が印加されてから、第1及び第3吸着部に電圧が印加されるように制御してもよい。
【0090】
図4(a)~(d)に示した実施例又は
図5(a)~(e)に示した実施例に従って、基板Sの静電チャック24への吸着工程(第1吸着工程)が完了した後の所定の時点で、電圧制御部32は、
図6(a)に示すように、静電チャック24の電極部に印加される電圧を、第1電圧(ΔV1)から第1電圧(ΔV1)より小さい第2電圧(ΔV2)に下げる。
【0091】
第2電圧(ΔV2)は、基板Sを静電チャック24に吸着された状態に維持するための吸着維持電圧であり、基板Sを静電チャック24に吸着させる際に印加した第1電圧(ΔV1)より低い電圧である。静電チャック24に印加される電圧が第1電圧(ΔV1)から第2電圧(ΔV2)に下がると、これに対応して基板Sに誘導される分極電荷量も、
図6(a)に示すように、第1電圧(ΔV1)が加えられた場合に比べて減少する。しかしながら、基板Sが一旦第1電圧(ΔV1)によって静電チャック24に吸着されていれば、第1電圧(ΔV1)より低い電圧値の第2電圧(ΔV2)を印加しても基板の吸着状態を維持することができる。
【0092】
このように、静電チャック24の電極部に印加される電圧を第1電圧から第2電圧(ΔV2)に下げることで、基板Sが静電チャック24から分離するのにかかる時間を短縮することができる。
【0093】
つまり、静電チャック24から基板Sを分離しようとする時、静電チャック24の電極部に加えられる電圧の電圧値をゼロ(0)にしても、直ちに静電チャック24と基板Sとの間の静電引力が消えるのではなく、静電チャック24と基板Sとの界面に誘導された電荷が消えるのに相当な時間(場合によっては、数分程度)がかかる。特に、静電チャック24に基板Sを吸着させる際は、通常、その吸着を確実にするために、静電チャック24に基板を吸着させるのに必要な最小静電引力よりも十分に大きい静電引力が作用するように第1電圧を設定するが、このような第1電圧(ΔV1)を印加してから基板の分離が可能な状態になるまでは相当な時間がかかる。
【0094】
そこで、本実施例では、このような静電チャック24からの基板Sの分離にかかる時間により全体的な工程時間(Tact)が増加してしまうことを防止するために、基板Sが静電チャック24に吸着した後に、所定の時点で、静電チャック24に印加される電圧を
第2電圧(ΔV2)に下げる。
【0095】
図6(a)に示した実施例では、静電チャック24の第1吸着部41~第3吸着部43に印加される電圧を同時に第2電圧(ΔV2)に下げることとしたが、本発明はこれに限定されず、吸着部別に第2電圧(ΔV2)に下げる時点、すなわち吸着部に第2電圧(ΔV2)を印加する印加時期や印加される第2電圧(ΔV2)の大きさがそれぞれ異なるようにしてもよい。例えば、第1吸着部41から第3吸着部43に向かって順次に第2電圧(ΔV2)に下げてもよい。
【0096】
このように、静電チャック24の電極部に印加される電圧が第2電圧(ΔV2)に下がった後、制御部40による位置調整機構29の制御を通じて、静電チャック24に吸着した基板Sとマスク支持ユニット23に支持されたマスクMの相対的位置を調整(アライメント)する。本実施例では、静電チャック24の電極部に印加される電圧が第2電圧(ΔV2)に下がった後に基板SとマスクMとの間の相対的な位置調整(アライメント)を行うこととしたが、本発明はこれに限定されず、静電チャック24の電極部に第1電圧(ΔV1)が印加されている状態でアライメント工程を行ってもよい。
【0097】
続いて、静電チャック24の電極部に第2電圧(ΔV2)が継続的に印加されている状態で、制御部40による静電チャックZアクチュエータ28およびマスクZアクチュエータ27の少なくとも一方の制御を通じて、静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に移動させて、静電チャック24とマスクMとの間の距離が所定の間隔d’を有するようにする。つまり、本発明によれば、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着する工程において、マスクMが、基板Sの下面に直ちに接触されるようにするのではなく、まず、静電チャック24とマスクMが所定の間隔d’を持って離隔された状態になるようにする。
【0098】
ここで、「静電チャック24とマスクMとの間の距離」は、
図6(b)に示すように、静電チャック24の下面の吸着面とマスク支持ユニット23の上面との間の距離として定義する。このように定義することで、マスク支持ユニット23によって支持されているマスクMの形状に関係なく静電チャック24とマスクMとの間の距離を定義することができる。また、マスクMは、厚さが比較的薄く、静電チャック2とマスクMとの間の距離においてマスクM自体の厚さは無視してもよい。
【0099】
本発明の実施形態によれば、静電チャック24とマスクMとの間の距離に該当する「所定の間隔d’」は、所定の電圧VMの印加に応じて静電チャック24に発生する静電引力によって、静電チャック24と所定の間隔d’で離隔されているマスクMが静電チャック24に向かう方向に凸状に変形することができる程度の距離を表している。ここでの所定の電圧VMは、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させるために印加する電圧である第3電圧(ΔV3)であってもよいが、後述するように、ここにのみ限定されるものではない。
【0100】
また、「所定の間隔d’」は、上述の所定の電圧VMが静電チャック24の電極部に印加されて、マスクMが静電チャック24に向かって凸形状になったとき、マスクMの凸部が静電チャック24に吸着された基板Sには接触しない距離でもある。所定の間隔d’が小さすぎると、所定の電圧VMが印加されて、マスクMが静電チャック24に向かって凸形状となるように変形するとき、マスクMの他の部分(例えば、中央部ではなく、中央部と周縁部の間の部分)が中央部よりも基板Sに、先に接触してしまう。
【0101】
そこで、「所定の間隔d’」は、マスク支持ユニット23によって支持されているマスクMが自重によって撓んでいる大きさを示すマスクの撓み量xと基板Sの厚さを足し合わ
せた距離以上であることが好ましい。基板Sの厚さは約0.5mm以上、またはより薄くなっても良い。そしてマスクの撓み量x’は、マスクが自重によって撓んで凹形状になる場合に、マスクMの水平面からの最大距離x’を指す。
【0102】
ただし、静電チャック24とマスクMとの間の距離が大きすぎると、マスクMが静電チャック24に向かって凸状になるためには、相対的に大きい電圧を印加しなければならない問題がある。これを考慮すると、「所定の間隔d’」は、マスクの撓み量x’と基板Sの厚さを足し合わせた距離と実質的に同じであることがより好ましい。
【0103】
なお、静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に1次接近させるために、例えば、
図6(b)に示すように、制御部40による静電チャックZアクチュエータ28の制御を通じて、静電チャック24をマスクMに向かって下降させてもよい。また、制御部40によるマスク支持ユニット23の制御を通じて、マスクMを静電チャック24に吸着されている基板S側に上昇させてもよい。さらには制御部40が静電チャックZアクチュエータ28とマスクZアクチュエータ27を一緒に制御して、静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に接近させてもよい。
【0104】
続いて、
図6(c)に示すように、静電チャック24とマスクMとの間の距離を所定の間隔d’に維持した状態で、電圧制御部32は、静電チャック24の電極部に所定の電圧V
Mが印加されるように制御する。所定の電圧V
Mが静電チャック24の電極部に印加されることにより、静電チャック24と所定の間隔d’で離隔されているマスクMに加えられる静電引力によって、マスクMが上方に引き寄せられる(吸引工程)。
【0105】
その結果、マスクMの中央部が上方に突出して、凸状になり、これにより、それ以降に行われるマスクMの静電チャック24への吸着の起点が形成される。
【0106】
ここでの所定の電圧VMは、第2電圧(ΔV2)より大きく、基板Sを介してマスクMが静電誘導によって帯電できる程度の大きさであることが好ましい。この所定の電圧VMが印加されることより、静電チャック24と所定の間隔d’に離隔されているマスクMは、基板Sを介して静電チャック24に向かう方向に凸状になる。この場合、「所定の間隔d’」は、静電チャック24に印加された吸着維持電圧(第2電圧、ΔV2)による静電引力がマスクMに作用しない限界距離よりは大きくすることができるが、これに限定されない。
【0107】
一例として、上述の所定の電圧VMは、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させるための大きさの電圧、すなわち、第3電圧(ΔV3)とすることができる。この場合、後続の工程で所定の電圧VMから第3電圧(ΔV3)に変更する過程が必要なくなるので、電圧の制御が簡単になる。
【0108】
ただし、本発明はこれに限定されず、所定の電圧VMは、第2電圧(ΔV2)と同じ大きさを有してもよい。所定の電圧VMが第2電圧(ΔV2)と同じ大きさであっても、静電チャック24とマスクMとの間の距離が静電チャック24に印加された第2電圧(ΔV2)による静電引力がマスクMに作用しない限界距離より小さければ、静電チャック24からの静電引力によってマスクMが吸引され、静電チャック24に向かう方向に凸状になることができる。
【0109】
また、所定の電圧VMは、第1電圧(ΔV1)より小さくしてもよく、工程時間(Tact)の短縮を考慮して第1電圧(ΔV1)と同等程度の大きさにしてもよい。
【0110】
吸引工程で、電圧制御部32は、所定の電圧VMが静電チャック24の電極部全体に同
時に印加されるように制御することができる。マスクMは、少なくともX方向もしくはY方向の両側(例えば、長辺側)の端部を外側に引っ張られた状態でクランピングされて、マスク支持ユニット23によって支持されている。そのため、静電チャック24の電極部全体に同時に印加される所定の電圧VMによって発生する静電引力がマスクM全体に加えられても、張力が大きく作用している周縁部よりは、相対的に張力が小さく作用している中央部が静電チャック24の方向に突出する。ただし、電圧制御部32は、所定の電圧VMが静電チャック24の一部、例えば周縁部ではなく、中央部にのみ印加されるようにし、残りの部分は、第2電圧をそのまま維持するようにしてもよい。または中央部に先に印加されるようにし、残りの部分には順次に印加されるように制御してもよい。
【0111】
続いて、
図6(d)に示すように、マスクMが、基板Sを介して静電チャック24に中央部から周縁部に向かって順次に吸着されるようにする(第2吸着工程)。そこで、上記所定の電圧V
M、例えば第3電圧(ΔV3)を印加した状態で、制御部40による静電チャックZアクチュエータ28およびマスクZアクチュエータ27の少なくとも一方の駆動制御を通じて、静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に2次接近させて、マスクMが基板Sの下面に接触するようにする。
【0112】
第2吸着工程で静電チャック24とマスク支持ユニット23を所定の間隔d’から相対的に接近させると、前述した吸引工程で突出したマスクMの中央部が先に基板Sの下面に接触して静電チャック24に吸着され始める。そして、マスクMの中央部からX方向とY方向の両方の方向にある周縁部に向かって順次に吸着が行われる。その結果、少なくともマスクMの中央部には、しわを残さず、マスクMを、基板Sを介して吸着させることができる。
【0113】
所定の電圧VMが、静電チャック24に基板Sを介してマスクMを吸着させるための第3電圧(ΔV3)とは異なる場合には、電圧制御部32は、第2吸着工程で静電チャック24の電極部に第3電圧(ΔV3)が印加されるように制御する。例えば、電圧制御部32は、静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に接近させつつ、静電チャック24に印加される電圧を所定の電圧VMから第3電圧(ΔV3)に変更してもよい。または静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に接近させた後、静電チャック24に印加される電圧を所定の電圧VMから第3電圧(ΔV3)に変更してもよい。
【0114】
静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に2次接近させるために、制御部40による静電チャックZアクチュエータ28の制御を通じて、静電チャック24がマスクMに向かって下降するようにすることができる。または、制御部40によるマスク支持ユニット23の制御を通じて、マスクMが、静電チャック24に吸着されている基板S側に上昇してもよい。さらには、制御部40が静電チャックZアクチュエータ28とマスクZアクチュエータ27を一緒に制御して、静電チャック24とマスク支持ユニット23を相対的に接近させてもよい。
【0115】
上述した本発明の一実施形態によると、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させるマスク吸着工程で、静電チャック24とマスクMが所定の間隔d’を持って離隔された状態で、静電チャック24にマスクの吸着のための所定の電圧VMを印加することにより発生する静電引力によって、マスクMが静電チャック24に向かう方向に突出するようにして、マスク吸着の起点を形成する。また、マスクMが静電チャック24に接触するようマスクMと静電チャック24を相対的に接近させることで、形成された吸着起点からマスクが順次に吸着される。これにより、しわを残さず、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させることができる。
【0116】
ただし、本発明はこれに限定されず、静電チャック24に基板Sを介してマスクMを吸
着させる場合において、
図4(a)~(d)に示した方法と同様に、マスクMの一辺側から他の辺側に向かって吸着を進めてもよい。また、本発明の一実施例によると、基板Sを静電チャック24に吸着させる時は、
図5(a)~(e)に示した方法によって吸着させて、マスクMを基板Sを介して静電チャック24に吸着させる時は、
図4(a)~(d)に示した方法と同様に、マスク吸着を行ってもよい。
【0117】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態による吸着方法を採用した成膜方法について説明する。
真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが載置された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入される。
【0118】
真空容器21内に進入した搬送ロボット14のハンドが基板Sを基板支持ユニット22の支持部上に載置する。
【0119】
続いて、静電チャック24が基板Sに向かって下降し、基板Sに十分に近接或いは接触した後に、静電チャック24に第1電圧(ΔV1)を印加し、基板Sを吸着する(第1印加工程)。
【0120】
本発明の一実施形態においては、基板を静電チャック24から分離するのに必要な時間を最大限に確保するために、基板の静電チャック24への吸着が完了した後に、静電チャック24に加えられる電圧を第1電圧(ΔV1)から第2電圧(ΔV2)に下げる。静電チャック24に加えられる電圧を第2電圧(ΔV2)に下げても、第1電圧(ΔV1)によって基板に誘導された分極電荷が放電されるまでに時間がかかるため、以降の工程で静電チャック24による基板の吸着状態を維持することができる。
【0121】
静電チャック24に基板Sが吸着された状態で、基板SのマスクMに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板SをマスクMに向かって下降させる。本発明の他の実施形態においては、静電チャック24に吸着された基板の下降の過程で基板Sが静電チャック24から脱落することを確実に防止するために、基板Sの下降の過程が完了した後(つまり、後述するアライメント工程が開始する直前)に、静電チャック24に加える電圧を第2電圧(ΔV2)に下げてもよい。
【0122】
基板Sが計測位置まで下降すると、アライメント用カメラ20で基板SとマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板SとマスクMの相対的な位置ずれを計測する。本発明の他の実施形態では、基板SとマスクMの相対的位置の計測工程の精度をより高めるために、アライメントのための計測工程が完了した後(アライメント工程中)に、静電チャック24に印加する電圧を第2電圧に下げてもよい。静電チャック24に基板Sを第1電圧(ΔV1)によって強く吸着させた状態(基板Sをより平らに維持した状態)での基板SとマスクMのアライメントマークを撮影することにより、計測工程の精度を上げることができる。
【0123】
計測の結果、基板SのマスクMに対する相対的位置ずれが閾値を超えることが判明すれば、静電チャック24に吸着された状態の基板Sを水平方向(XYθ方向)に移動させて、基板SをマスクMに対して、位置調整(アライメント)する。本発明の他の実施形態においては、このような位置調整の工程が完了した後に、静電チャック24に印加する電圧を第2電圧(ΔV2)に下げてもよい。これによって、アライメント工程全体(相対的な位置計測や位置調整)にわたって精度をより高めることができる。
【0124】
アライメント工程の後、静電チャック24をマスクMに向かって下降させて静電チャック24とマスクMとの間の距離が所定の距離d’となるようにする(第1移動工程)。静
電チャック24とマスクMが所定の距離d’だけ離隔された状態では、静電チャック24に加えられた第2電圧がマスクMを帯電させず、実質的に静電引力がマスクMに作用しない。
【0125】
このような状態で、静電チャック24に第2電圧(ΔV2)よりも大きい値の所定の電圧VM、例えば第3電圧(ΔV3)を印加する(第2印加工程)。第3電圧(ΔV3)を静電チャック24に印加すると、そこから発生する静電引力によりマスクMが上方に引き寄せられる。その結果、張力が大きく作用するマスクMの周縁部ではなく、相対的に張力が小さく作用する中央部が上方に突出して凸形状となる。これにより、マスク吸着の起点が形成される。
【0126】
第3電圧が静電チャック24に印加された状態で、静電チャック24をマスクMに向かって下降させるか、またはマスクMを静電チャック24に向かって上昇させて、マスクMが静電チャック24に吸着されている基板Sの下面に接触するようにする(第2移動工程)。この過程でマスクMの中央部が先に基板Sに接触して吸着が開始され、これから、マスクMの周縁部に向かって順次に吸着が行われる。その結果、マスクMは、しわを残さず静電チャック24に吸着される。このようなマスクMの吸着工程が完了した後、静電チャック24の電極部またはサブ電極部241~249に印加される電圧を、静電チャック24に基板とマスクが吸着された状態を維持することができる電圧である、第4電圧(ΔV4)に下げる。これにより、成膜工程の完了後に基板SおよびマスクMを静電チャック24から分離するのにかかる時間を短縮することができる。
【0127】
続いて、蒸発源25のシャッタを開け、蒸着材料を、マスクMを介して基板Sに蒸着させる。
【0128】
所望の厚さに蒸着した後、静電チャック24の電極部またはサブ電極部に印加される電圧を第5電圧(ΔV5)に下げてマスクMを分離し、静電チャック24に基板Sのみが吸着した状態で、静電チャックZアクチュエータ28により、基板Sを上昇させる。ここで、第5電圧(ΔV5)は、マスクMが分離され、基板Sのみが静電チャック24に吸着された状態を維持するための大きさであって、第2電圧(ΔV2)と実質的に同じ大きさの電圧である。
【0129】
続いて、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、静電チャック24の電極部或いはサブ電極部に電圧値がゼロ(0)または逆極性の電圧が印加され、静電チャック24が基板Sから分離して上昇する。その後、蒸着が完了した基板Sを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
【0130】
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Sの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、これに限定はされず、基板Sが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Sの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0131】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0132】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図7(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図7(b)は1画素の断面構造を表している。
【0133】
図7(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数
備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0134】
図7(b)は、
図7(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0135】
図7(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されことができる。
【0136】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0137】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0138】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0139】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、静電チャックでマスクを基板越しに保持し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0140】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66
Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0141】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0142】
本発明によると、基板Sを静電チャック24によって吸着して保持し、マスクMの吸着の際、静電チャック24とマスクMが所定の間隔d’に離隔された状態で、所定の電圧を静電チャック24に印加して発生する静電気力によって静電チャック24に向かって凸状になるマスクMの中央部を吸着の起点とすることで、マスクMがしわなく静電チャック24に吸着される。
【0143】
その後、プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0144】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0145】
上記実施例は本発明の一例を示すものでしかなく、本発明は上記実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適宜に変形しても良い。
【符号の説明】
【0146】
11:成膜装置
21:真空容器
22:基板支持ユニット
23:マスク支持ユニット
24:静電チャック
26:基板Zアクチュエータ
27:マスクZアクチュエータ
28:静電チャックZアクチュエータ
40:制御部