(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】メタクリル樹脂組成物、成形体およびフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 51/06 20060101AFI20221205BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221205BHJP
C08K 5/3475 20060101ALI20221205BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C08L51/06
C08J5/18
C08K5/3475
C08K5/3492
(21)【出願番号】P 2019560561
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018046983
(87)【国際公開番号】W WO2019124493
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017244656
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 滋
(72)【発明者】
【氏名】新村 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 竹友
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-213087(JP,A)
【文献】特開2004-306601(JP,A)
【文献】特開2006-300225(JP,A)
【文献】特開2008-012689(JP,A)
【文献】特開2009-161744(JP,A)
【文献】特開2015-206024(JP,A)
【文献】特開2016-008225(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076357(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/167292(WO,A1)
【文献】特開2017-185760(JP,A)
【文献】特許第4480834(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/010013(WO,A1)
【文献】特開2008-231307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、Fedors法によって算出したSP値が6.0~9.7(cal/cm
3)
1/2である重合体[C]0.1~10質量%とを含有してな
り、
前記メタクリル樹脂[A]が、架橋ゴム成分を含み、前記架橋ゴム成分がアクリル系多層構造重合体であり、
前記紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する分子量が200以上の化合物であり、
前記重合体[C]が、フッ素系重合体またはスチレン系重合体ブロック-水添ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体である、メタクリル樹脂組成物
(但し、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤を含むものを除く。)。
【請求項2】
請求項
1に記載のメタクリル樹脂組成物からなる成形体。
【請求項3】
全光線透過率が90%以上のフィルムである請求項
2に記載の成形体。
【請求項4】
請求項
1に記載のメタクリル樹脂組成物を溶融押出して成形体を得る工程を含む、請求項
2または
3に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂組成物およびそれを用いたフィルム等の成形体に関する。より詳細に、本発明は、金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができ、且つ紫外線吸収剤などの添加剤のブリードアウトを生じ難い成形体を与えるのに適したメタクリル樹脂組成物およびそれを用いたフィルム等の成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は、高い透明性を有し、光学部材、照明部材、看板部材、装飾部材等に用いられる成形体の材料として有用である。紫外線によるメタクリル樹脂の劣化を防ぐ目的で紫外線吸収剤がメタクリル樹脂に練り込まれる。紫外線吸収剤はメタクリル樹脂への相溶性が低いので、多量に紫外線吸収剤を練り込むと透明性が低下する。また、練り込んだ紫外線吸収剤が、溶融成形時に、ロール、ダイスなどに付着して、いわゆる金型汚れを引き起こすことがある。金型汚れが生じると成形体の表面性を悪化させる。金型汚れを防止するために定期的にロールなどを洗浄する必要があるので生産性を低下させる。さらに、紫外線吸収剤が練り込まれた薄肉の成形体では紫外線吸収剤がブリードアウトして成形体の特性を劣化させることがある。
【0003】
特許文献1は、メタクリル樹脂とブロックもしくはグラフト共重合体とを含有するメタクリル樹脂組成物を開示しており、ブロックもしくはグラフト共重合体添加により紫外線吸収剤とメタクリル樹脂との相溶性が向上することで、ブリードアウトを低減可能と述べている。
特許文献2は、アルキルメタクリレートと重合性光安定剤からなる重合体を含む多層構造体からなるアクリル樹脂フィルムを開示しており、光安定剤をアルキルメタクリレートと共重合させることで、添加剤等のブリードアウトを低減可能と述べている。
しかし、例えばフィルムの薄膜化等によって一定量の紫外線吸収剤を含有可能な体積が小さくなり、濃度を高めたい場合にも、ブリードアウトを起こしにくくするには更なる工夫が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/167292号
【文献】特開平10-101748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができ、且つ紫外線吸収剤等のブリードアウトが生じ難い成形体を与えるのに適したメタクリル樹脂組成物およびそれを用いたフィルム等の成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
[1]メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、Fedors法によって算出したSP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2となる重合体[C]0.1~10質量%とを含有してなるメタクリル樹脂組成物;
[2]メタクリル樹脂[A]が、架橋ゴム成分を含む、[1]に記載のメタクリル樹脂組成物;
[3]紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物またはトリアジン骨格を有する化合物である、[1]または[2]に記載のメタクリル樹脂組成物;
[4]重合体[C]が、構造中にフッ素原子を有する重合体である、[1]~[3]のいずれか一つに記載のメタクリル樹脂組成物;
[5][1]~[4]のいずれか一つに記載のメタクリル樹脂組成物からなる成形体;
[6]全光線透過率が90%以上のフィルムである[5]に記載の成形体;
[7][1]~[4]のいずれか一つに記載のメタクリル樹脂組成物を溶融押出して成形体を得る工程を含む、[5]または[6]に記載の成形体の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができる。本発明のメタクリル樹脂組成物を用いたフィルム等の成形体は、紫外線吸収剤のブリードアウトが生じ難い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、Fedors法によって算出したSP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2である重合体[C]0.1~10質量%とを含有する。
【0010】
<メタクリル樹脂[A]>
メタクリル樹脂[A]は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位のみを含有してなる単独重合体(以下、これをメタクリル樹脂[A0]と記すことがある。)、メタクリル酸メチルに由来する構造単位と他の単量体に由来する構造単位を含有してなるランダム共重合体(以下、このランダム共重合体をメタクリル樹脂[A1]と記すことがある。)または架橋ゴム成分を含む重合体(以下、この重合体をメタクリル樹脂[A2]と記すことがある。)である。架橋ゴム成分を含むことによってメタクリル樹脂組成物の伸び性が向上する。メタクリル樹脂[A]として市販のメタクリル樹脂を用いることができる。
【0011】
本発明に用いられるメタクリル樹脂[A1]は、耐熱性などの観点から、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の総含有量が、好ましくは90質量%以上99.9質量%以下であり、より好ましくは95質量%以上99.9質量%以下であり、さらに好ましくは98質量%以上99.9質量%以下であり、特に好ましくは99質量%以上99.9質量%以下である。
【0012】
メタクリル樹脂[A1]は、メタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位を含有している。メタクリル酸メチル以外の単量体としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素-炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体を挙げることができる。
【0013】
メタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで得られるクロマトグラムに基づいて算出されるポリスチレン換算の重量平均分子量MwA0またはMwA1が、好ましくは50000~200000であり、より好ましくは55000~160000であり、さらに好ましくは60000~120000である。MwA0またはMwA1が高くなるほど、メタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]から得られる成形体の強度が高くなる傾向がある。MwA0またはMwA1が低くなるほど、メタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]の成形加工性が良好になり、得られる成形体の表面平滑性が良好になる傾向がある。
【0014】
メタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで得られるクロマトグラムに基づいて算出されるポリスチレン換算の数平均分子量MnA0またはMnA1に対する重量平均分子量MwA0またはMwA1の比MwA0/MnA0またはMwA1/MnA1(分子量分布)が、好ましくは1.0~5.0であり、好ましくは1.2~2.5であり、さらに好ましくは1.3~1.7である。MwA0/MnA0またはMwA1/MnA1が小さくなるほど、耐衝撃性や靭性が良好になる傾向がある。MwA0/MnA0またはMwA1/MnA1が大きくなるほど、メタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]の溶融流動性が高くなり、得られる成形体の表面平滑性が良好になる傾向がある。
【0015】
本発明に用いられるメタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]は、分子量200000超の成分(高分子量成分)の含有量が、好ましくは0.1~10%であり、より好ましくは0.5~5%である。また、本発明に用いられるメタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]は、分子量15000未満の成分(低分子量成分)の含有量が、好ましくは0.1~5%であり、より好ましくは0.2~3%である。メタクリル樹脂[A0]またはメタクリル樹脂[A1]が高分子量成分および/または低分子量成分をこの範囲にて含有していることで、製膜性が向上し、均一な膜厚のフィルムを得やすい。
分子量200000超の成分の含有量は、GPCで測定されたクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積のうちの、分子量200000の標準ポリスチレンの保持時間より前に検出されるクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積の割合として算出する。分子量15000未満の成分の含有量は、GPCで得られるクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積のうちの、分子量15000の標準ポリスチレンの保持時間より後に検出されるクロマトグラムとベースラインとで囲まれる部分の面積の割合として算出する。
【0016】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる測定は、以下のようにして行う。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM-Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いる。分析装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用する。試験対象のメタクリル樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて、試験対象溶液を調製する。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試験対象溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定する。
クロマトグラムは、試験対象溶液と参照溶液との屈折率差に由来する電気信号値(強度Y)をリテンションタイムXに対してプロットしたチャートである。
分子量400~5000000の範囲の標準ポリスチレンをゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定し、リテンションタイムと分子量との関係を示す検量線を作成する。クロマトグラムの高分子量側の傾きがゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとする。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとする。
【0017】
メタクリル樹脂[A0]、[A1]または[A2]は、230℃および3.8kg荷重の条件で測定して決定されるメルトフローレートが、好ましくは0.1~30g/10分であり、より好ましくは0.5~20g/10分であり、さらに好ましくは1~15g/10分である。
【0018】
架橋ゴム成分を含むメタクリル樹脂[A2]を用いることによって、本発明のメタクリル樹脂組成物は伸び性が向上する。架橋ゴム成分は、メタクリル樹脂[A2]にアセトンを加え、室温で一日放置後撹拌して遠心分離(20,000回転で200分)することで、上澄み(アセトン可溶成分[A2Y]のアセトン溶液)と沈降物(架橋ゴム成分[A2X]のアセトン膨潤物)として分離することが可能である。なお、アセトン可溶成分[A2Y]はなくてもよく、その場合、上澄みはアセトンのみになる。架橋ゴム成分[A2X]に特に制約は無いが、好ましい例を以下に挙げる。
【0019】
本発明における好ましい架橋ゴム成分[A2X]は、アルキル基の炭素数が1~8のアクリル酸アルキルエステル単量体に由来する単位および/または共役ジエン系単量体に由来する単位を主に有する弾性体層を含む架橋ゴム重合体(I)と、メタクリル酸メチル単位80~97質量%およびアクリル酸エステル単位3~20質量%からなり、架橋ゴム重合体(I)にグラフト結合された最外層重合体(II)とからなる球形粒子状の多層構造重合体である。
【0020】
架橋ゴム重合体(I)は、アクリル酸アルキルエステルを主体とする重合体であるのがよく、アクリル酸アルキルエステル50質量%以上とアクリル酸アルキルエステル以外の単量体50質量%以下との共重合体であってもよい。アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル等、アルキル基の炭素数が4~8のものが好ましく用いられる。また、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体の例としては、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルのようなメタクリル酸アルキルエステル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル等の単官能単量体や、(メタ)アクリル酸アリルや(メタ)アクリル酸メタリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、マレイン酸ジアリルのような二塩基酸のジアルケニルエステル、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル等のグラフト結合性多官能単量体が挙げられる。
本発明の架橋ゴム重合体(I)は、単層であってもよいし、その内層にメタクリル酸アルキルエステルを主体とする重合体の層を有する構造のものであってもよい。架橋ゴム重合体(I)が単層の場合、架橋ゴム成分[A2X]はコア層(かつ弾性体層、架橋ゴム重合体(I))と外層(最外層重合体(II))の2層構成となる。架橋ゴム重合体(I)が、その内層にメタクリル酸アルキルエステルを主体とする重合体の層を有する構造のものである場合、架橋ゴム成分[A2X]は内層(メタクリル酸アルキルエステルを主体とする重合体の層)と中間の弾性体層(架橋ゴム重合体(I))と外層(最外層重合体(II))の3層構成になる。
【0021】
多層構造重合体の最外層重合体(II)は、メタクリル酸メチル単位80~97質量%およびアクリル酸アルキルエステル単位3~20質量%からなり、且つ、架橋ゴム重合体(I)とグラフト結合されたものである。
【0022】
上記の架橋ゴム成分[A2X]の製造は、乳化重合法により行うことが好ましい。乳化重合に使用される乳化剤の種類と量は、重合系の安定性、目的とする粒子径等によって選択されるが、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等の公知の乳化剤を単独または併用して用いることができる。特にアニオン界面活性剤が好ましい。アニオン界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N-ラウロイルザルコシン酸ナトリウム等のカルボン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、モノ-n-ブチルフェニルペンタオキシエチレンリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等が挙げられる。中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル基やポリオキシエチレンフェニルエーテル基を有するカルボン酸塩もしくはリン酸塩が好ましく、その具体的な例としては、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0023】
乳化重合に使用される重合開始剤としても特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物、過酸化水素-第一鉄塩系、過硫酸カリウム-酸性亜硫酸ナトリウム系、過硫酸アンモニウム-酸性亜硫酸ナトリウム系等の水溶性レドックス系開始剤、クメンハイドロパーオキシド-ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート系、tert-ブチルハイドロパーオキシド-ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート系等の水溶、油溶レドックス系の開始剤が用いられる。
【0024】
また、必要に応じて用いられる連鎖移動剤としては、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス-(β-チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類などが挙げられる。これらのうちn-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタンなどの単官能アルキルメルカプタンが好ましい。
【0025】
架橋ゴム重合体(I)、最外層重合体(II)の順に行う各層の乳化重合において、単量体、乳化剤、開始剤、連鎖移動剤等は、一括添加法、分割添加法、連続添加法等公知の任意の方法で添加されてよい。
【0026】
メタクリル樹脂[A2]におけるアセトン可溶成分[A2Y]は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位のみを含有してなる重合体(以下、これをメタクリル樹脂[A2Y0]と記すことがある。)またはメタクリル酸メチルに由来する構造単位と他の単量体に由来する構造単位を含有してなるランダム共重合体(以下、これをメタクリル樹脂[A2Y1]と記すことがある。)とすることができる。なお上記多層構造重合体の製造方法などにもよるが、その製造において、上記最外層重合体(II)に対応する構造を有し、架橋ゴム重合体(I)にグラフト結合されない重合体が共に得られることがあり、このような重合体もメタクリル樹脂[A]におけるアセトン可溶成分[A2Y]となり得る。
【0027】
本発明におけるアセトン可溶成分[A2Y]は、製膜性の観点からメタクリル酸メチル以外の含有量は好ましくは0~20質量%であり、より好ましくは3~18質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0028】
メタクリル樹脂[A2Y1]に含有されるメタクリル酸メチル以外の単量体としては、例えば、メタクリル樹脂[A1]と同じ単量体を挙げることができる。
【0029】
メタクリル樹脂[A2Y0]またはメタクリル樹脂[A2Y1]は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で得られるクロマトグラムに基いて算出されるポリスチレン換算の重量平均分子量MwA2Y0またはMwA2Y1が、好ましくは50000~200000、より好ましくは55000~160000、さらに好ましくは60000~120000である。MwA2Y0またはMwA2Y1が高くなるほど、メタクリル樹脂組成物から得られる成形体の強度が高くなる傾向がある。MwA2Y0またはMwA2Y1が低くなるほど、メタクリル樹脂組成物の成形加工性が良好になり、得られる成形体の表面平滑性が良好になる傾向がある。
【0030】
メタクリル樹脂[A2Y0]またはメタクリル樹脂[A2Y1]は、GPCで得られるクロマトグラムに基づいて算出されるポリスチレン換算の数平均分子量MnA2Y0またはMnA2Y1に対する重量平均分子量MwA2Y0またはMwA2Y1の比(分子量分布)MwA2Y0/MnA2Y0またはMwA2Y1/MnA2Y1が、好ましくは1.0~5.0であり、より好ましくは1.2~4.0であり、さらに好ましくは1.5~3.5である。MwA2Y0/MnA2Y0またはMwA2Y1/MnA2Y1が小さくなるほど、得られる成形体の耐衝撃性や靭性が良好になる傾向がある。MwA2Y0/MnA2Y0またはMwA2Y1/MnA2Y1が大きくなるほど、メタクリル樹脂組成物の溶融流動性が高くなり、得られる成形体の表面平滑性が良好になる傾向がある。
【0031】
メタクリル樹脂[A2Y0]またはメタクリル樹脂[A2Y1]は、分子量200000超の成分(高分子量成分)の含有量が、好ましくは0.1~10%であり、より好ましくは0.5~5%である。また、本発明に用いられるメタクリル樹脂[A2Y0]またはメタクリル樹脂[A2Y1]は、分子量15000未満の成分(低分子量成分)の含有量が、好ましくは0.1~5%であり、より好ましくは0.2~3%である。メタクリル樹脂[A2Y0]またはメタクリル樹脂[A2Y1]が高分子量成分および/または低分子量成分をこの範囲にて含有していることで、製膜性が向上し、均一な膜厚のフィルムを得やすい。
分子量200000超の成分の含有量と分子量15000未満の成分の含有量の算出は前述の方法で行う。
【0032】
メタクリル樹脂[A2]の調製にあたり、架橋ゴム成分[A2X]を構成し架橋ゴム重合体(I)および最外層重合体(II)からなる多層構造重合体と、アセトン可溶成分[A2Y]の主要部分を構成するメタクリル樹脂[A2Y0]または[A2Y1]との質量比は、5:95~100:0であることが好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20であることがさらに好ましい。[A2X]と[A2Y]の質量比は、5:95~100:0であることが好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20であることがさらに好ましい。架橋ゴム成分[A2X]が上記の範囲内であると、耐衝撃性や加工性の点で好ましい。
【0033】
本発明に用いられるメタクリル樹脂[A0]、[A1]、[A2Y0]または[A2Y1]の製造方法は、特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチルを重合することによって、または、メタクリル酸メチルと他の単量体とを重合することによって得ることができる。重合は公知の方法にて行うことができる。重合の方法としては、連鎖移動の形態による分類で、例えば、ラジカル重合、アニオン重合などを挙げることができる。また、反応液の形態による分類で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを挙げることができる。前述した各特性は、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量や添加時期、重合開始剤の種類や量や添加時期などの重合条件を調整することによって実現できる。このような重合条件による特性制御は当業者においてよく知られた技術であり、目的とする特性を有する樹脂を製造することは当業者にとって困難なことではない。
【0034】
<紫外線吸収剤[B]>
本発明に用いられる紫外線吸収剤[B]としては、熱可塑性樹脂に配合されることがある公知の紫外線吸収剤を用いることができる。紫外線吸収剤[B]の分子量が200未満であると、メタクリル樹脂組成物を成形する際に発泡するなどの現象を生じることがあるため、紫外線吸収剤[B]の分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上、特に好ましくは600以上である。
【0035】
一般に、紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類(ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物)、トリアジン類(トリアジン骨格を有する化合物)が好ましい。ベンゾトリアゾール類またはトリアジン類は、紫外線による樹脂の劣化(例えば、黄変など)を抑制する効果が高い。
【0036】
ベンゾトリアゾール類としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール](ADEKA社製;LA-31)、2-(5-オクチルチオ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどを挙げることができる。
【0037】
トリアジン類としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(ADEKA社製;LA-F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;CGL777、TINUVIN460、TINUVIN479、TINUVIN1600など)、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(ケミプロ化成株式会社製:KEMISORB102)などを挙げることができる。
【0038】
その他に、波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmax が1200dm3・mol-1・cm-1以下である紫外線吸収剤を好ましく用いることができる。このような紫外線吸収剤としては、2-エチル-2’-エトキシ-オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などを挙げることができる。
【0039】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmax は、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U-3410型分光光度計を用いて、波長380~450nmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(MUV)と、測定された吸光度の最大値(Amax )とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmax を算出する。
εmax = [εmax /(10×10-3)] × MUV
【0040】
<重合体[C]>
本発明に用いられる重合体[C]は、Fedors法にて算出したSP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2であり、好ましくは6.1~9.6(cal/cm3)1/2であり、より好ましくは6.2~9.5(cal/cm3)1/2である。重合体[C]のSP値が上記範囲内であることによって、メタクリル樹脂[A]と重合体[C]との相溶性が良好となり、メタクリル樹脂[A]内部での紫外線吸収剤[B]の移動性を低下させ、紫外線吸収剤などのブリードアウトが抑制されると考えられる。また、透明性に優れた成形体を得ることも可能となる。
【0041】
Fedors法は、構造式からSP値を算出する方法である。SP値は、「POLYMER HANDBOOK 4th edition, J.BrAndrup et Al (John Wiley & Sons,Inc)」(675ページから714ページを参照)より凝集エネルギー(Ecoh)及びモル分子容(V)を引用し、次式を用いて算出した。
δ=[ΣEcoh /ΣV]1/2
【0042】
本発明に用いられる重合体[C]は、重量平均分子量が、20000~300000であり、好ましくは40000~300000であり、より好ましくは60000~300000である。重量平均分子量の測定方法は、上記の方法による。重合体[C]の重量平均分子量を上記範囲とすることによって、溶融成形時に揮発せずに添加することが可能となる。
【0043】
本発明に用いられる重合体[C]を構成する単量体としては、特に限定されず、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテンなどのオレフィン化合物、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンまたはその水素添加物、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系ビニル化合物、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。上記単量体は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明に用いられる重合体[C]は、メタクリル樹脂[A]との相溶性、得られるメタクリル樹脂組成物の透明性等の観点から、フッ素系重合体またはスチレン系重合体ブロック-水添ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0045】
<メタクリル樹脂組成物>
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂[A]を75~99.8質量%含む。メタクリル樹脂[A]の含有量は、好ましくは82~99.5質量%であり、より好ましくは89~99.2質量%である。上記範囲でメタクリル樹脂[A]を含むことにより、透明性と耐熱性に優れた成形体を得ることができる。
【0046】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、紫外線吸収剤[B]を0.1~15質量%含む。紫外線吸収剤[B]の含有量は、好ましくは0.2~10質量%であり、より好ましくは0.3~5質量%である。上記範囲で紫外線吸収剤[B]を含むと、波長380nmの光透過率を薄肉成形体において5%以下に調整しやすい。本発明のメタクリル樹脂組成物における紫外線吸収剤[B]と他の添加剤との合計含有量は本発明のメタクリル樹脂組成物に対して、好ましくは0.5~20質量%であり、より好ましくは1~17質量%であり、さらに好ましくは2~15質量%であり、特に好ましくは2.5~10質量%である。なお、他の添加剤の具体例については後述するが、他の添加剤の含有量を計算する際、重合体[C]は含まないものとする。
【0047】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、上記SP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2である重合体[C]を0.1~10質量%含む。重合体[C]の含有量は、好ましくは0.3~8質量%であり、より好ましくは0.5~6質量%である。上記範囲で重合体[C]を含むと、紫外線吸収剤等のブリードアウトや蒸散などが抑制され、メタクリル樹脂組成物の耐熱性を維持しつつ、耐光性および耐候性を発揮できる。
【0048】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有し得るフィラーの量は、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下である。フィラーは、「他の添加剤」には含まれない。
【0049】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、メタクリル樹脂[A]および重合体[C]に包含されない他の重合体を含んでいてもよい。他の重合体としては、フェノキシ樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート-スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどを挙げることができる。本発明のメタクリ樹脂組成物に含まれる他の重合体としては、透明性、耐熱性の観点からポリカーボネート樹脂が好ましい。本発明のメタクリル樹脂組成物中の上記他の重合体の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。「メタクリル樹脂[A]および重合体[C]に包含されない他の重合体」は、「他の添加剤」に含まれない。
【0050】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、有機色素、蛍光体、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、艶消し剤、耐衝撃性改質剤などの他の添加剤を含有していてもよい。
【0051】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などを挙げることができる。これらの中で、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤を質量比で0.2/1~2/1で使用するのが好ましく、0.5/1~1/1で使用するのがより好ましい。
【0052】
リン系酸化防止剤としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジt-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP-36)などを挙げることができる。
【0053】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0054】
熱劣化防止剤としては、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
該熱劣化防止剤としては、2-t-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4-ジt-アミル-6-(3’,5’-ジ-tert-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0055】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類を挙げることができる。
【0056】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などを挙げることができる。
【0057】
離型剤としては、成形用金型からの離型を容易にする機能を有する化合物である。離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどを挙げることができる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、高級アルコール類/グリセリン脂肪酸モノエステルの質量比が、2.5/1~3.5/1の範囲で使用するのが好ましく、2.8/1~3.2/1の範囲で使用するのがより好ましい。
【0058】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造することができる、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子である。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤としては、極限粘度が3~6dl/gであることが好ましい。
【0059】
有機色素としては、樹脂に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。
蛍光体として、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などを挙げることができる。
難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキシド、臭素化ポリカーボネート等の有機ハロゲン系難燃剤;酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、トリクレジルホスフェート等の非ハロゲン系難燃剤などが挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、ステアロアミドプロピルジメチル-β-ヒドロキシエチルアンモニウムニトレートなどが挙げられる。
染顔料としては、酸化チタン、ベンガラなどが挙げられる。
耐衝撃性改質剤としては、アクリル系ゴムもしくはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤;ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。
【0060】
これらの他の添加剤、フィラー及び他の重合体は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの他の添加剤、フィラー及び他の重合体は、メタクリル樹脂[A]や重合体[C]などを製造する際の重合反応液に添加してもよいし、製造されたメタクリル樹脂[A]や重合体[C]などに添加してもよいし、メタクリル樹脂組成物を調製する際に添加してもよい。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有される他の添加剤、フィラー及び他の重合体の合計量は、得られるフィルムの外観不良を抑制する観点から、メタクリル樹脂[A]に対して、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0061】
本発明のメタクリル樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、重合体[C]の存在下にメタクリル酸メチルを含む単量体(混合物)を重合する方法や、メタクリル樹脂[A]、紫外線吸収剤[B]および重合体[C]を溶融混練する方法などを挙げることができる。これらのうち溶融混練法は工程が単純であるので、好ましい。溶融混練の際に、必要に応じて他の重合体やフィラー、他の添加剤を混合してもよいし、メタクリル樹脂[A]を他の重合体、フィラーおよび他の添加剤と混合した後に紫外線吸収剤[B]および重合体[C]と混合してもよいし、紫外線吸収剤[B]を他の重合体、フィラーおよび他の添加剤と混合した後にメタクリル樹脂[A]および重合体[C]と混合してもよいし、重合体[C]を他の重合体、フィラーおよび他の添加剤と混合した後にメタクリル樹脂[A]および紫外線吸収剤[B]と混合してもよいし、その他の方法でもよい。混練は、例えば、ニーダールーダー、単軸または二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの公知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。これらのうち、二軸押出機が好ましい。混合・混練時の温度は、使用するメタクリル樹脂[A]および重合体[C]の溶融温度などに応じて適宜調節することができるが、好ましくは110℃~300℃である。
【0062】
本発明のメタクリル樹脂組成物をGPCにて測定して決定される重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50000~200000であり、より好ましくは55000~160000であり、さらに好ましくは60000~120000であり、特に好ましくは70000~100000である。本発明のメタクリル樹脂組成物をGPCにて測定して決定される分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、好ましくは1.0~5.0であり、より好ましくは1.2~3.0であり、さらに好ましくは1.3~2.0であり、特に好ましくは1.3~1.7である。Mwや分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲にあると、メタクリル樹脂組成物の成形加工性が良好となり、耐衝撃性や靭性に優れた成形体を得やすくなる。
【0063】
本発明のメタクリル樹脂組成物を230℃および3.8kg荷重の条件で測定して決定されるメルトフローレートは、好ましくは0.1~30g/10分であり、より好ましくは0.5~20g/10分であり、さらに好ましくは1.0~15g/10分である。
【0064】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、保存、運搬、または成形時の利便性を高めるために、ペレットなどの形態にすることができる。
【0065】
本発明のメタクリル樹脂組成物は公知の成形方法によってフィルム等の成形体(本発明のメタクリル樹脂組成物からなる成形体)とすることができる。成形方法としては、例えば、Tダイ法(ラミネート法、共押出法など)、インフレーション法(共押出法など)、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、射出成形法(インサート法、二色法、プレス法、コアバック法、サンドイッチ法など)などの溶融成形法ならびに溶液キャスト法などを挙げることができる。これらの中でも溶融押出が好ましい。
これらの成形方法では、一般に樹脂組成物を成形するために金型が用いられる。例えば、シート成形用ロール、フィルム成形用ロール、圧縮成形用金型、ブロー成形用金型、カレンダーロール、真空成形用金型、射出成形用金型などの金型を挙げることができる。金型は必ずしも金属製である必要はなく、例えばゴムロール、強化ガラスなども金型に含まれる。本発明のメタクリル樹脂組成物は、金型汚れを生じにくいため、長時間の連続生産や成形工程を多数繰返す生産に好適に使用できる。
【0066】
本発明は、本発明のメタクリル樹脂組成物を用いた成形体およびフィルムを包含する。フィルムの厚さは、例えば20~200μmである。
【0067】
本発明のメタクリル樹脂組成物を用いた成形体の用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根、樹脂サッシ、キッチン扉、ドア表層などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機用ディスプレイカバーなどの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;ディスプレイ装置のフロントライト用導光板およびフィルム、バックライト用導光板及びフィルム、液晶保護板、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板、反射材などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどが挙げられる。
【0068】
本発明のメタクリル樹脂組成物を用いた成形体は、耐候性に優れ、また紫外線吸収剤のブリードアウトが抑制される点から、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像・光記録・光通信・情報機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板の保護フィルム、光スイッチ、光コネクター、液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイ用導光フィルム・シート、フラットパネルディスプレイ、フラットパネルディスプレイ用導光フィルム・シート、プラズマディスプレイ、プラズマディスプレイ用導光フィルム・シート、電子ペーパー用導光フィルム・シート、位相差フィルム・シート、偏光フィルム・シート、偏光板保護フィルム・シート、偏光子保護フィルム・シート、波長板、光拡散フィルム・シート、プリズムフィルム・シート、反射フィルム・シート、反射防止フィルム・シート、視野角拡大フィルム・シート、防眩フィルム・シート、輝度向上フィルム・シート、液晶やエレクトロルミネッセンス用途の表示素子基板、タッチパネル、タッチパネル用導光フィルム・シート、各種前面板と各種モジュール間のスペーサーなど、各種の光学用途へ特に好適に適用可能である。
具体的には、例えば、携帯電話、デジタル情報端末、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイ等の各種液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはタッチパネルなどに用いることができる。
また、耐候性に優れている点から、例えば、建築用内・外装用部材、カーテンウォール、屋根用部材、屋根材、窓用部材、雨どい、エクステリア類、壁材、床材、造作材、道路建設用部材、再帰反射フィルム・シート、農業用フィルム・シート、照明カバー、看板、透光性遮音壁など、公知の建材用途へも特に好適に適用可能である。
【0069】
本発明のメタクリル樹脂組成物を用いた成形体は、太陽電池用途として太陽電池表面保護フィルム、太陽電池用封止フィルム、太陽電池用裏面保護フィルム、太陽電池用基盤フィルム、ガスバリアフィルム用保護フィルムなどへも適用可能である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0071】
[多層構造重合体の平均粒子径]
多層構造重合体を含むエマルジョンを、イオン交換水にて固形分濃度0.05質量%となるよう希釈し、ガラスプレートに展開して、乾燥することにより、個々の粒子が凝集することなくガラスプレートに存在させた。この表面に白金・パラジウムを蒸着させて、反射型電子顕微鏡にて電子顕微鏡写真を得、無作為に100個の粒子の粒子径を測定し平均化して平均粒子径とした。一方で、多層構造重合体を含むエマルジョンを固形分濃度0.05質量%に希釈し測定長さ10mmクウォーツセルにとり、500nmでの吸光度を測定した。粒子径の異なる粒子にて、上記の操作を行い、電子顕微鏡観察による平均粒子径と500nm吸光度との検量線を作成した。この検量線を用い、吸光度を測定することにより多層構造重合体の平均粒子径を求めた。
【0072】
[重合転化率]
島津製作所社製ガスクロマトグラフ GC-14Aに、カラムとしてGL Sciences Inc.製 Inert CAP 1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)を繋ぎ、インジェクション温度を180℃に、検出器温度を180℃に、カラム温度を60℃(5分間保持)から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して、10分間保持する条件に設定して、測定を行い、この結果に基づいて重合転化率を算出した。
【0073】
[架橋ゴム成分[A2X]、アセトン可溶分[A2Y」の測定]
精秤されたメタクリル樹脂組成物2g(w0)をアセトン100mlに添加し室温で24時間撹拌した。得られた液を質量既知の遠沈管に入れ、0℃、20000rpmにて遠心分離を90分間施した(1回目)。次いで、上澄み液をデカンテーションにより分離し (上澄み1)、沈降物を沈降管の底に残した。該沈降管の沈降物にアセトンを加え撹拌した。これを0℃、20000rpmにて遠心分離を90分間施した(2回目)。次いで上澄み液をデカンテーションにより分離した(上澄み2)。
その後、沈降物+遠沈管を50℃-400torrで真空乾燥機にて2時間乾燥して、大部分のアセトンを除去後、80℃-760torrにて8時間乾燥した。乾燥した沈降物(架橋ゴム成分[A2X])+遠沈管の質量を測定し、その値から遠沈管の質量を差し引いて架橋ゴム成分[A2X]の質量(w1)を得た。架橋ゴム成分[A2X]の質量%は、式:100×w1/w0にて算出し、アセトン可溶分[A2Y]の質量%は、式:100×(w0-w1)/w0にて算出した。
【0074】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)にて下記の条件でクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値を算出した。ベースラインはGPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。
GPC装置 :東ソー株式会社製、HLC-8320
検出器 :示差屈折率検出器
カラム :東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM-Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いた。
溶離剤 :テトラヒドロフラン
溶離剤流量 :0.35ml/分
カラム温度 :40℃
検量線 :標準ポリスチレン10点のデータを用いて作成
【0075】
[全光線透過率]
メタクリル樹脂組成物を熱プレスして、3.2mm厚の成形体を形成し、その全光線透過率をJIS K7361-1に準じて、ヘーズメータ(村上色彩研究所製、HM-150)を用いて測定した。
【0076】
[ロール汚れ]
メタクリル樹脂組成物をOptical Control System社製の製膜機(型式FS-5)にて、シリンダおよびTダイの温度260℃、リップ間隙0.5mm、吐出量2.4kg/hr、ロール温度85℃、フィルム引取り速度6.3m/分で押出し、フィルム厚さ100μmに調整し、製膜時のロール汚れを観察した。ロール汚れはフィルムが通過する金属ロール表面を目視で観察し、製膜開始からロール全面に白もやが発生するまでの時間で評価した。
【0077】
[製造例1]
[アクリル系多層構造重合体(A-1)の製造]
撹拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水1050質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量部および炭酸ナトリウム0.05質量部を仕込み、容器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、過硫酸カリウム0.01質量部を投入し、5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル49.9質量%、アクリル酸n-ブチル49.9質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物26.3質量部を20分かけて連続的に滴下供給し、滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った(内層、メタクリル酸アルキルエステルを主体とする重合体の層)。
次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム3%水溶液を0.05質量部投入して5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル5.00質量%、アクリル酸n-ブチル93.53質量%およびメタクリル酸アリル1.47質量%からなる単量体混合物157.4質量部を40分間かけて連続的に滴下供給した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った(弾性体層、架橋ゴム重合体I)。
【0078】
次に、同反応器内に、過硫酸カリウム3%水溶液を0.5質量部投入して5分間撹拌した後、メタクリル酸メチル87.34質量%、アクリル酸n-ブチル12.48質量%およびn-オクチルメルカプタン(連鎖移動剤)0.18質量%を含む単量体混合物341質量部を100分間かけて連続的に滴下供給し、滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って(架橋ゴム重合体Iにグラフト結合された最外層重合体(II))、平均粒子径が0.09μmであるアクリル系多層構造重合体(A-1)を含むエマルジョンを得た。アクリル系多層構造重合体(A-1)は、(内層)-(弾性体層)-(最外層)の3層構成の架橋ゴム成分(A2X)である。
続いて、アクリル系多層構造重合体(A-1)を含むエマルジョンを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結したエマルジョンの2倍量の80℃温水に凍結エマルジョンを投入、溶解してスラリーとした後、20分間80℃に保持した後、脱水し、70℃で乾燥してメタクリル樹脂[A2]としてのアクリル系多層構造重合体(A-1)凝固物のパウダーを得た。
【0079】
使用した紫外線吸収剤[B]を以下に記載した。
[紫外線吸収剤(B-1)]
2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール](ADEKA社製;LA-31))
[紫外線吸収剤(B-2)]
2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製;Tinuvin-460)
[紫外線吸収剤(B-3)]
イソクリル2-[4,6-ビス[(1,1’-ビフェニル)-4-イル]-1,3,5-トリアジン-2-イル]-3-ヒドロキシフェノキシ]プロパネート(BASF社製;Tinuvin-479)
【0080】
使用した重合体[C]を以下に記載した。
[重合体(C-1)]
クラレ社製セプトンQ スチレン系重合体ブロック-水添ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体(重量平均分子量:73000)
[重合体(C-2)]
クレハ社製ポリフッ化ビニリデン樹脂KFポリマー W#1100(重量平均分子量:280000、ポリマータイプ:HOMO、固有粘度:1.1dl/g)
[重合体(C-3)]
クラレ社製クラリティ メタクリル酸メチル重合体ブロックとアクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸ベンジルからなるアクリル酸エステル重合体ブロックとからなるジブロック共重合体、Mw=92000、Mw/Mn=1.06、アクリル酸ベンジル単位/アクリル酸エステル重合体ブロック=25.6質量%、アクリル酸エステル重合体ブロック/メタクリル酸エステル重合体ブロック(質量比)=50/50。
[重合体(C-4)]
新日鉄住金化学社製フェノキシ樹脂YP-50S(品番)、MFR(230℃、3.8Kg;JIS K7210準拠)=22g/10分、Mw=55000、Mw/Mn=2.5)
[重合体(C-5)]
三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリカーボネート樹脂AL071、Mv=5500
[重合体(C-6)]
デンカ社製スチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸メチル共重合体R-200、MFR(230℃、37.3N)=1.8g/10分
【0081】
[実施例1]
製造例1のアクリル系多層構造重合体(A-1)98質量部に紫外線吸収剤(B-1)1質量部、重合体(C-1)1質量部を混ぜ合わせ、二軸押出機((株)テクノベル製、商品名:KZW20TW-45MG-NH-600)で240℃にて混練押出してメタクリル樹脂組成物[1]を製造した。
メタクリル樹脂組成物[1]を熱プレス成形して50mm×50mm×3.2mmの板状成形体を形成し、全光線透過率を測定した。メタクリル樹脂組成物[1]および得られた板状成形体の物性を表1に示す。
【0082】
メタクリル樹脂組成物[1]を、Optical Control System社製の製膜機(型式FS-5)にて、シリンダおよびTダイの温度260℃、リップ間隙0.5mm、吐出量2.4kg/hr、ロール温度85℃、フィルム引取り速度6.3m/分で押出し、フィルム厚さ100μmに調整し、製膜時のロール汚れを観察した。評価結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
重合体[C]を(C-2)としたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル樹脂組成物[2]を作製し、評価した。
【0084】
[実施例3]
紫外線吸収剤[B]を(B-2)としたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル樹脂組成物[3]を作製し、評価した。
【0085】
[実施例4]
紫外線吸収剤[B]を(B-2)、重合体[C]を(C-2)としたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル樹脂組成物[4]を作製し、評価した。
【0086】
[実施例5]
紫外線吸収剤[B]を(B-3)、重合体[C]を(C-2)としたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル樹脂組成物[5]を作製し、評価した。
【0087】
[比較例1~10]
各樹脂組成物の組成を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル樹脂組成物[6]~[15]を作製し、評価した。
【0088】
【0089】
【0090】
実施例1、2では比較例1と比べロール汚れが低減されており、全光線透過率は維持されていた。実施例3、4では比較例5と比べロール汚れが低減されており、全光線透過率は維持されていた。実施例5では比較例8と比べロール汚れが低減されおり、全光線透過率は維持されていた。
【0091】
これに対してSP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2から外れた重合体[C]を用いた比較例2~4、6、7では、ロール汚れの低減は見られなかった。また、紫外線吸収剤[B]や重合体[C]の添加量を増やした比較例9、10では、ロール汚れの悪化、全光線透過率の低下が見られた。
【0092】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、製膜時の成形装置への汚染が少なく、透明性が良好であった。