(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】頭足類用給餌装置、水槽、生簀
(51)【国際特許分類】
A01K 61/80 20170101AFI20221205BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20221205BHJP
A23K 10/22 20160101ALI20221205BHJP
【FI】
A01K61/80
A23K50/80
A23K10/22
(21)【出願番号】P 2020037696
(22)【出願日】2020-03-05
(62)【分割の表示】P 2019563647の分割
【原出願日】2019-02-15
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018025412
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】森島 輝
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-47380(JP,A)
【文献】特開2015-208322(JP,A)
【文献】特開昭58-190335(JP,A)
【文献】実開平1-149949(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/80
A23K 50/80
A23K 10/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する外殻と、前記凹部に配置された飼料と、を含む頭足類用給餌装置であって、
前記飼料
は、粘度が10Pa~100Paである付着
性飼料である、頭足類用給餌装置。
【請求項2】
前記外殻は、金属、陶磁器、セラミック、合成樹脂、木材、ゴム、紙、皮革、ガラス、タイル、石材、貝殻及び骨からなる群から選ばれる少なくとも一種の素材から形成されている、請求項1に記載の頭足類用給餌装置。
【請求項3】
前記外殻は、小魚、甲殻類、貝類、ヤドカリ又はゴカイに似せた形状である、請求項1又は2に記載の頭足類用給餌装置。
【請求項4】
前記飼料は、流速0.1cm/s~15cm/sの水流にさらしたとき原型を保つ物性を有するものである、請求項1
~3のいずれか一項に記載の頭足類用給餌装置。
【請求項5】
前記飼料は、タンパク質、多糖類、リン脂質、糖タンパク質及び糖脂質からなる群から選ばれる少なくとも一種の物質を含んでいる、請求項1~4のいずれか一項に記載の頭足類用給餌装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の頭足類用給餌装置が配置されている水槽。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の頭足類用給餌装置が配置されている生簀。
【請求項8】
凹部を有する外殻と、前記凹部に配置された飼料と、を含む頭足類用給餌装置を用いて、所定の期間にわたって同一の頭足類を給餌する、頭足類の給餌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭足類用給餌装置及びこれを用いた給餌方法並びに当該給餌方法で育成された頭足類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、嗜好性及び資源保全に対する消費者の関心が高まっており、頭足類においても養殖技術の開発が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タコ飼育用シェルターおよびタコの養殖システムが開示されている。また非特許文献1には、タコの飼育観察が開示されている。
【0004】
一方、頭足類の養殖においてはよりよい給餌方法が重要となるところ、これまで頭足類の給餌方法についての知見は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Rosario Martinez他、”Growth, survival andphysiological condition of Octopus maya when fed a successful formulated diet”、Aquaculture、2014年4月20日、No.426-427、p. 310-317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように頭足類においては、より多くの飼料を与えるためにはどのような給餌方法を行えばよいのか、また食品その他の用途に供する目的で養殖を行うにあたり、どのような給餌方法であれば適切な飼育環境を維持しながら、養殖した頭足類の肉質が改善するのかについて、十分な知見が得られていなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、頭足類を良好に飼育することができる頭足類用給餌装置及びこれを用いた給餌方法並びに当該給餌方法で育成された頭足類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1]凹部を有する外殻と、前記凹部に配置された飼料と、を含む頭足類用給餌装置。
[2]外殻が、頭足類の触手で抱えられる形状である、[1]の給餌装置。
[3]外殻が、頭足類の触手の圧力に耐えられる強度を有する外殻である、[1]又は[2]の給餌装置。
[4]飼料が付着性飼料である、[1]ないし[3]の給餌装置。
[5]前記[1]ないし[4]の給餌装置を用いた、頭足類の給餌方法。
[6]前記[5]の給餌方法で育成された頭足類。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より多くの飼料を与え、飼育環境の悪化を防ぐためことができ、頭足類を良好に飼育することができる頭足類用給餌装置及び給餌方法、さらに良好に飼育されて肉質が改善した頭足類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(A)~
図1(G)は、給餌装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において、混合物中の各成分の量は、混合物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、混合物中に存在する当該複数の物質の合計の量を意味する。
【0013】
本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り0%、即ち「含有しない」場合を含み、又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。
【0014】
以下に本発明の一形態に係る給餌装置及び給餌方法について説明する。
【0015】
本発明の一形態に係る給餌装置(頭足類用給餌装置)は、頭足類の飼育に用いるものである。給餌装置は、頭足類の飼育を行う水槽の中に設置をしてもよいし、頭足類が触手を伸ばして摂餌できる範囲であれば頭足類の飼育を行う水槽の外に設置をしてもよい。
【0016】
本実施形態で説明する頭足類の「触手」とは、頭足類の頭部より生える突起物をいう。タコが含まれる八腕形上目の頭足類は8本の触手を有し、イカが含まれる十腕形上目の頭足類は10本の触手を有する。十腕形上目の頭足類の10本の触手のうち、長い2本は触腕と呼ばれ、飼料の摂餌に用いられることがある。
【0017】
頭足類の飼育は、頭足類の種類に合わせて飼育に適した方法を取ることができる。頭足類の飼育は陸上水槽で行うこともできるし、海洋生簀でも行うことができる。陸上水槽で飼育すると、給餌した飼料の摂餌を観察しやすい。頭足類の飼育は、複数の個体を同時に水槽又は生簀で飼育することもできるし、各個体を個別に水槽又は生簀で飼育することもできる。
【0018】
上記の飼育環境において、本実施形態に係る給餌装置の設置は、給餌を行う時期に一時的に行ってもよいし、給餌装置に配置された飼料を適宜置き換えながら、恒久的に設置をしてもよい。
【0019】
また、給餌装置の設置の態様としては、水槽内等の所定の設置場所に装置を静置してもよいし、頭足類が触手を伸ばして摂餌できる程度であれば、可動式にしてもよく、例えば、上部から吊り下げてもよい。
【0020】
図1(A)~
図1(G)では7種類の給餌装置11~17を示している。以下、
図1(A)に示す給餌装置11を例に説明した後、変形例である給餌装置12~17について説明する。給餌装置11は、凹部1aを有する外殻1と、前記凹部に配置された飼料2と、を備える。外殻1の素材は、頭足類の給餌を阻害しないものであれば何でもよい。外殻1の素材としては、金属、陶磁器、セラミック、合成樹脂、木材、ゴム、紙、皮革、ガラス、タイルに例示される人工素材を用いてもよいし、石材、貝殻、骨に例示される自然素材を用いてもよい。外殻1が頭足類の触手の圧力に耐えられる強度を有する場合には、外殻1が崩壊せず、凹部に配置された飼料の散逸が低減され、水質の悪化を防ぐことができ、適切な飼育環境を維持することができる。
【0021】
給餌装置11の外殻1の形状は、中央に凹部1aを有するカップ状とされている。ただし、給餌装置11の外殻1の形状は頭足類へ給餌可能な形状であればどのような形状でもよい。略球状、略柱状、略錘状、略多面体状の他、頭足類が捕食する生物に似せた形状とすることもできる。頭足類が捕食する生物としては、小魚、甲殻類、貝類、ヤドカリ、ゴカイなどが例示される。また給餌装置11の外殻1の形状は、頭足類の触手で抱えられる形状とすることもできる。給餌装置11の外殻1の形状が、頭足類の触手で抱えられる形状であれば、餌を口の近くに引き寄せて摂餌する習性のある頭足類により多くの餌を給餌できる。
【0022】
給餌装置11の外殻1の大きさは、頭足類が触手を伸ばして摂餌できる程度であれば、特に限定されないが、例えば、頭足類が全長30cmである場合には、外径を1cm~7cm程度とすることができる。給餌装置11の外殻1の大きさを上記の程度とすることで、頭足類が触手を用いて抱え込みやすくなるため、頭足類による摂餌を促進することができる。
【0023】
給餌装置11の外殻1の凹部1aは、凹部1aの内側に飼料を配置できるのであればどのような形状でもよい。給餌装置11の外殻1の凹部1aは、略半球状、略溝状、略錘状のような形状の他、外殻1を貫通して略管状としてもよい。なお、石材、貝殻又な骨などの自然素材に備わる凹部をそのまま給餌装置11の外殻として利用することもできる。外殻1の凹部1aは、凹部1aの内側に配置した飼料を保持するためには、飼料の体積の半分以上を包むように形成してもよいし、又は飼料の一部を外殻に固定するように包むように形成してもよい。
【0024】
飼料2は、凹部外縁3の内側、すなわち、外殻1の凹部1aの内側に配置される。飼料2は、凹部1aの内側に保持されるのであれば、どのように配置してもよい。飼料2の一部を直接外殻1に結合させてもよいし、外殻1に結合しない状態であっても、外殻1の凹部に物理的に覆われていることで保持されるように配置してもよい。飼料2の一部を外殻に付着させると、頭足類の動き、泡の動きなどに起因する水流があっても飼料2が外殻1に保持されやすくなる。飼料2の一部に外殻に付着する物質を用いることで、付着性飼料を作ることができる。本実施形態に係る付着性飼料とは、外殻1の凹部内に付着してその形状を保つことができる飼料である。付着性飼料は、例えば、粘度が10Pa~100Paとすることができる。また、付着性飼料は、流速0.1、1、5,10,15cm/sの水流にさらしたとき、原型を保つ物性を有する飼料とすることができる。また、付着性飼料は、水中において崩壊しやすい飼料とすることができる。崩壊とは餌の形状が認識できない程度に断片化することにより判断してもよい。崩壊しやすい飼料とは、例えば、水中に静置した場合15分程度で崩壊すると共に、頭足類が当該飼料を掴んだ場合には直ちに崩壊する程度の崩壊性を有する飼料のことをいう。外殻1に付着する物質としては、コラーゲンに例示されるタンパク質、フコダイン、カラギーナンに例示される多糖類、卵膜に例示されるリン脂質、糖タンパク質、糖脂質を用いてもよい。タンパク質を含む飼料は頭足類の成長を促すことができる。
【0025】
なお、飼料2が外殻1(特に、凹部の内側)に付着しやすいよう、外殻1の表面形状を変更してもよい。表面形状としては、例えば、外殻1の表面(凹部の内側の表面)に細かな凹凸を付けること、細かな溝を複数設けること等が挙げられる。また、飼料2の特性に応じて、外殻1の表面に設ける凹凸等の大きさを変更することとしてもよい。
【0026】
また、飼料2が付着しない外殻1表面についても、頭足類が触手を利用して保持しやすいように、その表面形状を変更してもよい。表面形状の変更例としては、例えば、外殻1の表面(凹部の内側の表面)に細かな凹凸を付けること、細かな溝を複数設けること等が挙げられる。また、頭足類の種類やその特性に応じて、外殻1の表面に設ける凹凸等の大きさを変更することとしてもよい。
【0027】
飼料2としては、頭足類が捕食できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。飼料は1種又は2種以上の飼料原料を用いて作ることができる。飼料原料としては、アジ、サバ、イワシに例示される魚類、アサリ、シジミ、サザエに例示される貝類、エビ、カニ、オキアミに例示される甲殻類、大豆、トウモロコシ、コメ、小麦に例示される穀物類を用いてもよい。
【0028】
飼料2としては、配合飼料を用いることができる。配合飼料には、魚類、貝類、甲殻類、穀物類等をすりつぶしたものを用いることができる。飼料として配合飼料を用いた場合には、頭足類の成長を促す成分を添加しやすく、飼料原料の価格変動にも柔軟に対応しやすい。頭足類の成長を促す成分としては、ビタミン類、ミネラル類、ホルモン、予防薬、治療薬、鎮静剤、ワクチンなどが例示できる。
【0029】
給餌装置11を用いて頭足類に給餌を行う場合には、外殻1に設けられた凹部の内側に飼料2を付着させた状態で、頭足類が触手を用いて摂餌可能な位置に給餌装置11を配置する。頭足類は、飼料に興味を示すと触手を伸ばして飼料2を摂餌する。飼料2が付着した給餌装置11を頭足類が摂餌しやすい状態としておくことで、頭足類による摂餌が促進される。このように、本実施形態に係る給餌装置及び給餌方法によれば、頭足類に対してより多く継続的に飼料を与えることができる。また、本実施形態に係る給餌装置及び給餌方法によれば、頭足類の摂餌が促進されることから、飼育環境内に飼料が残留することを防ぐことができ、飼育環境の悪化を防ぐことが可能となる。また、上記の給餌方法で育成された頭足類は、飼育環境が良好になることにより、頭足類の摂餌が促進されることによって、頭足類の栄養状態が改善される。その結果、頭足類の触手、または、体表の損傷が少なくなると共に、食用に供した場合の味・旨味が強くなるように頭足類の肉質を改善することができる。また、触手または体表の損傷が少なくなることにより、感染症のリスクを低減することができる。
【0030】
なお、頭足類に給餌する時期は、発生後、タンパク質を含む飼料を摂餌できる時期であればいつでもよい。本実施形態で説明した給餌装置を用いて給餌を行うことで、触手で飼料を抱えるように摂餌する時期に、摂餌性を高めることができる。本実施形態で説明した給餌装置を用いた飼料の給餌を、頭足類に対する給餌量の10%以上、20%以上、30%以上、または、50%以上とすることで、高い摂餌性を維持することができる。本実施形態で説明した給餌装置を用いて、1月以上、2か月以上、または、3か月以上給餌することで、高い成長性を維持し、良好な肉質を持った頭足類を養成することができる。また、本実施形態で説明した給餌装置を用いた飼料の給餌により、給餌装置にあるものを飼料として学習させ、餌への餌付きを早くすることができる。
【0031】
また、頭足類に給餌するタイミングは、頭足類が摂餌できる状態であればいつでもよい。24時間周期で給餌すると、頭足類に内在する体内時計と消化吸収のサイクルが連動し、ストレスを軽減して成長を促すことができる。頭足類の飼育を行う際に、明暗周期を与えるときは、明暗周期と給餌のタイミングを連動させることで、明暗周期により同期された頭足類の体内時計と消化吸収のサイクルが連動し、ストレスを軽減して成長を促すことができる。頭足類への給餌は、予め定めた量を与える計画給餌で行ってもよいし、給餌しながら摂餌量を観察し、摂餌し続ける間は給餌を続ける飽食給餌で行ってもよい。
【0032】
本発明の給餌装置で飼育された頭足類は、生食品、加工食品、冷凍食品、チルド食品、乾燥食品を含む食品用途及び食品原料の用途の他、飼料用途、観賞用途に用いることもできるし、有用成分の抽出原料用途として用いることもできる。本発明の給餌装置で飼育された頭足類は、成長性に優れ、タンパク質を豊富に含むため、味が良好であり、健康に資する成分が多く、食品用途として優れている。
【0033】
変形例に係る給餌装置12~17について、
図1を参照しながら説明する。
図1(B)に示す給餌装置12は、外殻1を略四角柱状とした例である。また、凹部外縁3は平面視で四角形となっていて、外殻1の凹部1aも略四角柱状となっている。
図1(C)に示す給餌装置13は、給餌装置12と同様に外殻1及び飼料2による外形は略四角柱状であるが、給餌装置12と比較して側壁の一部が除去されたものともいえる。給餌装置13の外殻1は、その一部(一辺)が開口となった筒状となっていて、その内側が凹部1aとなっていて、飼料2が配置されている。その結果、開口部分2aと、筒状の外殻1の両端の開口部分2b,2c(開口部分2cは開口部分2bとは逆側の端部である)において飼料2が露出していることになる。そのため、頭足類は開口部分2a~2cを利用して摂餌しやすくなっている。
【0034】
図1(D)に示す給餌装置14は、給餌装置11と同様に中央に凹部1aを有するカップ状となっているが、その深さが給餌装置11よりも浅くなっている。そのため、飼料2の露出面が大きく確保されるため、頭足類が飼料2を摂取しやすくなる。
図1(E)に示す給餌装置15は、断面が半円の円弧状であり図示奥行き方向に延びた外殻1に対して、その円弧部分の内側に飼料2が付着されている。すなわち、円弧部分の内側が凹部1aとして機能する。このような形状の給餌装置15の場合、給餌装置13と同様に飼料2の露出面が大きくなるため、頭足類が飼料2を摂取しやすくなる。
【0035】
図1(F)に示す給餌装置16は、外殻1が略球状であって、その周囲に周方向に沿って延びる複数の溝状の凹部1aが形成されていて、その内部に飼料2が付着している。隣接する2つの溝の間が凹部外縁3となっている。給餌装置16のように、飼料2を収容する凹部1aは1つの外殻1に複数設けられていてもよい。このような構成とした場合でも飼料2の露出面が大きくなるため、頭足類が飼料2を摂取しやすくなる。
図1(G)に示す給餌装置17は、柱状の外殻1に対して複数(
図1(G)では6つ)の貫通孔1bが設けられていて、各貫通孔1b内に飼料2が充填されている。すなわち、貫通孔1bが飼料2を収容する凹部として機能している。給餌装置17においても、給餌装置16と同様に、飼料2を収容する凹部は1つの外殻1に複数設けられている。なお、飼料2を保持するためには貫通孔1bは貫通していなくてもよい。このように、給餌装置の形状は適宜変更することができる。また、外殻及び凹部の形状も適宜変更することができる。なお、給餌装置11~17のうち互いに異なる給餌装置の特徴を組み合わせた給餌装置としてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0037】
(1)マダコの飼育
[実施例1]
長さ5センチメートル、外径20ミリメートルの合成樹脂製パイプを外殻として準備した。当該パイプの内径18ミリメートルの凹部に魚肉のすり身を飼料として充填し、実施例1に係る給餌装置を作製した。この給餌装置では、外殻1が円筒状であり、パイプの内側の円柱状の領域が飼料を収容する凹部となっている。
【0038】
実施例1に係る給餌装置を、陸上水槽で約200gのマダコ5匹に対して供したところ、マダコは給餌装置を即座に触手で抱え込み摂餌を開始した。30分後には、合成樹脂製パイプの凹部に配置された飼料を完食した。また、飼料の種類を変更し、魚肉のすり身と貝類のすり身を混合した飼料と、魚肉のすり身に20%ゼラチンを配合した飼料と、を同様の方法でマダコに給餌した。いずれの場合においても、マダコは給餌装置としてのパイプを即座に触手で抱え込み摂餌を開始し、30分後には、合成樹脂製パイプの凹部に配置された飼料を完食した。
【0039】
[比較例1]
比較例1として、魚肉のすり身に20%ゼラチンを配合した飼料を、外殻に配置せずにそのまま直接マダコに給餌した。その結果、マダコは触手で抱え込んだが、途中で摂餌を止め、大きさで約50%以上の飼料は水槽中に残った。また、残った餌は水中で崩壊したため、水質は悪化し、細かくなった餌料は摂餌されなかった。
【0040】
飼料の種類を変更し、魚肉のすり身に1~5%の塩を配合した飼料、及び、魚肉のすり身に5%のデンプンを配合した飼料を準備し、外殻に配置せずにそのままマダコに給餌した。その結果、いずれの場合においても、マダコは触手で抱え込んだが、途中で摂餌を止め、大きさで約50%以上の飼料は水槽中に残った。残った餌は水中で崩壊したため、水質は悪化し、細かくなった餌料は摂餌されなかった。なお、餌料の崩壊はマダコの摂餌中にも見られ、稀に餌料を完食した場合であっても水質は悪化した。また、3日以上これらの餌を給餌すると、餌を全く取らない場合も見られ、成長の停滞が観察された。
【0041】
なお、実施例1では、魚肉のすり身のみについても飼料として取り扱ったが、魚肉のすり身は保形成が弱く、マダコに対してそのまま給餌することは出来なかった。
【0042】
(2)飼育成績の評価
実施例1で用いた餌料で養殖したマダコは、3ヵ月以上継続的に旺盛な食欲を示した。飼育成績としては、生残率は100%であり、体重はいずれの個体も5倍以上に増加した。いずれの個体も触手、及び体表の損傷が少なく、食用に供したところ、味は濃厚で、旨味が強かった。比較例1で用いた餌料で養殖したマダコは、触手や体表の損傷が認められた。
【0043】
このように本発明によれば、頭足類の摂餌性を向上させることができる。また、本発明によれば、頭足類の飼育環境の悪化を防ぐことができる。また、本発明によれば味が良好であり、健康に資する成分が多い頭足類を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1…外殻、1a…凹部、1b…貫通孔、2…飼料、3…凹部外縁、11~17…給餌装置。