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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】加温装置及び加温方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
H01L21/78 X
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021003213
(22)【出願日】2021-01-13
(62)【分割の表示】P 2017004177の分割
【原出願日】2017-01-13
(65)【公開番号】P2021061447
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】清水 翼
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-127762(JP,U)
【文献】特開2014-232782(JP,A)
【文献】特開平03-046253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイシングテープに貼付されてフレームにマウントされたワークを加温する加温装置であって、
前記フレームを主として加温する第1加温手段と、
前記ダイシングテープを主として加温する第2加温手段と、
前記フレームを測温する第1測温手段と、
前記ダイシングテープを測温する第2測温手段と、
前記第1測温手段によって測温された前記フレームの温度と前記第2測温手段によって測温された前記ダイシングテープの温度とに基づいて、前記フレームと前記ダイシングテープの温度差が小さくなるように、前記第1加温手段及び前記第2加温手段によって前記フレーム及び前記ダイシングテープの温度を個別に制御する制御手段と、
を備える加温装置。
【請求項2】
ダイシングテープに貼付されてフレームにマウントされたワークを加温する加温方法であって、
前記フレームを主として加温する第1加温工程と、
前記ダイシングテープを主として加温する第2加温工程と、
前記フレームを測温する第1測温工程と、
前記ダイシングテープを測温する第2測温工程と、
前記第1測温工程で測温された前記フレームの温度と前記第2測温工程で測温された前記ダイシングテープの温度とに基づいて、前記フレームと前記ダイシングテープの温度差が小さくなるように、前記フレーム及び前記ダイシングテープの温度を個別に制御する制御工程と、
を備える加温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク分割装置及びワーク分割方法に係り、特に、半導体ウェーハ等のワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置及びワーク分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップ(以下、チップと言う。)の製造にあたり、ダイシングブレードによるハーフカット或いはレーザ照射による改質領域形成により予めその内部に分割予定ラインが形成された半導体ウェーハ(以下、ウェーハと言う。)を、分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
図13は、ワーク分割装置によって分割される円盤状のウェーハ1が貼付されたウェーハユニット2の説明図であり、図13(A)はウェーハユニット2の斜視図、図13(B)はウェーハユニット2の縦断面図である。
【0004】
ウェーハ1は、片面に粘着層が形成された厚さ約100μmのダイシングテープ(拡張テープ又は粘着シートとも言う。)3の中央部に貼付され、ダイシングテープ3は、その外周部が剛性のある金属製のリング状のフレーム4に固定されている。
【0005】
ワーク分割装置では、ウェーハユニット2のフレーム4が、二点鎖線で示す固定部(フレーム固定機構とも言う。)7に当接されて固定される。この後、ウェーハユニット2の下方から二点鎖線で示すエキスパンドリング(突上げリングとも言う。)8が上昇移動され、このエキスパンドリング8によってダイシングテープ3が押圧されて放射状に拡張される。このときに生じるダイシングテープ3の張力が、ウェーハ1の分割予定ライン5に付与されることにより、ウェーハ1が個々のチップ6に分割される。
【0006】
ここで、本願明細書において、ダイシングテープ3のうち、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の領域を中央部領域3Aと称し、中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間に備えられる平面視ドーナツ形状の領域を環状部領域3Bと称し、フレーム4に固定される最外周部分の平面視ドーナツ形状の領域を固定部領域3Cと称する。環状部領域3Bが、エキスパンドリング8に押圧されて拡張される領域である。
【0007】
ワーク分割装置おいて、ウェーハ1の分割に要する力、すなわち、ウェーハ1を分割するために環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、分割予定ライン5の本数が多くなるに従って高くしなければならないことが知られている。分割予定ライン5の本数について、例えば、直径300mmのウェーハ1でチップサイズが5mmの場合には約120本(XY方向に各60本)の分割予定ライン5が形成され、チップサイズが1mmの場合は約600本の分割予定ライン5が形成される。よって、環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、チップサイズが小さくなるに従って高くしなければならない。
【0008】
ところで、直径300mmのウェーハ1がマウントされるフレーム4の内径(フレームの内縁部の径)は、SEMI規格(G74-0699 300mmウェーハに関するテープフレームのための仕様)により350mmと定められている。この規格により、図14のウェーハユニット2の縦断面図の如く、ウェーハ1の外縁部とフレーム4の内縁部との間には、25mmの幅寸法を有する環状部領域3Bが存在することになる。また、図15(A)、(B)で示すワーク分割装置の要部縦断面図の如く、フレーム4を固定する固定部7は、エキスパンドリング8によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
【0009】
ここで、エキスパンドリング8の上昇動作によって生じるウェーハ1を分割する力は、(i)環状部領域3Bの全領域を拡張する力、(ii)ウェーハ1をチップ6に分割する力、(iii)隣接するチップ6とチップ6との間のダイシングテープ3を拡張する力の3つの力に分解される。
【0010】
図16(A)~(E)に示すワーク分割装置の動作図の如く、ダイシングテープ3の環状部領域3Bにエキスパンドリング8が当接し、エキスパンドリング8の上昇動作によってダイシングテープ3の拡張が始まると(図16(A))、まず最もバネ定数の低い環状部領域3Bの拡張が始まる(図16(B))。これにより、環状部領域3Bに張力が発生し、この張力がある程度高まると、高まった張力がウェーハ1に伝達されてウェーハ1のチップ6への分割が始まる(図16(C))。ウェーハ1が個々のチップ6に分割されると、環状部領域3Bの拡張とチップ6間のダイシングテープ3の拡張とが同時に進行する(図16(D)~(E))。
【0011】
従来のワーク分割装置では、直径300mmのウェーハ1において、チップサイズが5mm以上の場合には、環状部領域3Bで発生した張力により、個々のチップ6に問題無く分割することができた。しかしながら、ウェーハ1に形成される回路パターンの微細化に伴いチップサイズがより小さい1mm以下のチップも現れてきた。この場合、ウェーハ1を分割する分割予定ライン5の本数が増大することに起因して、ウェーハ1の分割に要する力が大きくなり、環状部領域3Bの拡張による張力以上の力が必要となる場合があった。そうすると、図17のウェーハユニット2の縦断面図の如く、エキスパンドリング8による拡張動作が終了しても、ウェーハ1に形成された分割予定ライン5の一部が分割されずに未分割のまま残存するという問題が発生した。
【0012】
このような分割予定ライン5の未分割の問題は、ダイシングテープ3の拡張量や拡張速度を増加させても解消することはできない。例えば、ダイシングテープ3の拡張量を増やした場合には、環状部領域3Bが塑性変形を始めてしまうからである。塑性変形中の環状部領域3Bのバネ定数は、弾性変形中のバネ定数よりも小さいことから、環状部領域3Bの弾性変形を超えた領域では、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。一方、ダイシングテープ3の拡張速度を増やした場合でも、環状部領域3Bの一部分が塑性変形を始めてしまうので、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。これはダイシングテープ3の周波数応答が低いため、ダイシングテープ3の全体に時間差なく力が伝達しないからである。
【0013】
そこで、上記のような問題を解消する装置の一例として、冷気供給手段を備えたテープ拡張装置(ワーク分割装置)が特許文献2に開示されている。特許文献2によれば、冷気供給手段を作動して、処理空間内に冷気を供給し、処理空間内を例えば零下に冷却することにより、ダイシングテープを冷却している。
【0014】
特許文献2の如く、ダイシングテープを冷却することで、ダイシングテープのバネ定数を大きくした状態でダイシングテープを拡張することができる。これにより、図14に示した環状部領域3Bに発生する張力を、冷却しないダイシングテープと比較して高くすることができるので、チップサイズが小チップの場合でも個々のチップに分割することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2016-149581号公報
【文献】特開2016-12585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献2のワーク分割装置では、冷気供給手段からの冷気によってウェーハユニットが零下に冷却されているので、個々のチップに分割された低温のウェーハユニットをワーク分割装置からに直ちに取り出すと、外気の湿度によってウェーハユニットに結露が生じる場合がある。
【0017】
ウェーハユニットに結露が生じると、以下の問題が発生する。すなわち、チップにウォータマークと称されるシミが発生し、このシミによってパターン欠陥が発生したり、本来あるべきシリコン面が適切に露出しなくなるために膜形成が不完全となって成膜異常が発生したりする。
【0018】
このような問題は、ウェーハを個々のチップに分割した後、冷気の供給を停止して、低温のウェーハユニット2が常温に戻るまでウェーハユニットをワーク分割装置の中で放置することにより解消することができる。つまり、ワーク分割装置によるワーク分割工程の後工程に、ウェーハユニットを常温化する常温化工程(加温工程)を付加することにより解消することができる。
【0019】
ここで、ウェーハユニット2を構成する各部材の熱容量について説明すると、剛性のある金属製のフレーム4の熱容量は、厚さの薄いシリコン製のウェーハ1及び樹脂製のダイシングテープ3の熱容量よりも大きい。このような熱容量の差によって、ウェーハ1及びダイシングテープ3が常温に戻っても、フレーム4が常温に戻るまでには時間がかかる。つまり、フレーム4に生じた結露がウェーハ1に付着する場合があるため、常温化工程にかかる時間は、ウェーハ1とダイシングテープ3が常温に戻るまでの時間ではなく、フレーム4が常温に戻るまでの時間となり、例えば15分程度かかってしまう。このような時間のかかる常温化工程を付加すると、ワーク分割装置の単位時間当たりのワーク処理能力(スループット)が大幅に低下するという問題がある。
【0020】
このように従来のワーク分割装置には、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割の問題を解消しつつ、時間のかかる常温化工程を付加することによって生じるワーク処理能力の低下の問題を解消することができるものはなく、そのような装置を実現することが望まれていた。
【0021】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、時間のかかる常温化工程を付加することによって生じるワーク処理能力の低下の問題とを同時に解消することができるワーク分割装置及びワーク分割方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のワーク分割装置は、本発明の目的を達成するために、ダイシングテープに貼付されてフレームにマウントされたワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置において、ワークを取り囲む冷却室を有し、冷却室の内部を冷却する冷却部と、冷却室の内部に配置され、冷却部により冷却されたダイシングテープに張力を加えてダイシングテープを拡張するエキスパンドリングと、冷却室に連設された加温室を有し、加温室は開閉可能な仕切り壁によって冷却室と区画され、加温室の内部を乾燥雰囲気で加温する加温部と、を備え、エキスパンドリングによってダイシングテープが拡張された後、冷却室から加温室に移動したワークを加温室の内部でダイシングテープ及びフレームと共に加温する。
【0023】
本発明のワーク分割装置によれば、冷却室の内部でダイシングテープを冷却し、ダイシングテープのバネ定数を大きくした状態でダイシングテープをエキスパンドリングによって拡張する。これにより、本発明のワーク分割装置によれば、チップサイズが小チップの場合でも個々のチップに分割することができる。そして、本発明のワーク分割装置によれば、エキスパンドリングによって個々のチップに分割されたワークを、冷却室から加温室に移動させ、その後、ワークを加温室の内部でダイシングテープ及びフレームとともに乾燥雰囲気で加温して常温に戻す。これにより、本発明のワーク分割装置によれば、低温のフレーム及びダイシングテープを放置した状態で常温化する従来のワーク分割装置と比較して、フレーム及びダイシングテープの常温化にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0024】
よって、本発明のワーク分割装置によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、時間のかかる常温化工程を付加することによって生じるワーク処理能力の低下の問題とを同時に解消することができる。
【0025】
本発明のワーク分割装置の一態様は、エキスパンドリングによって拡張されたダイシングテープの拡張状態を保持する拡張保持リングを備え、加温部は、拡張保持リングによってダイシングテープの拡張状態が保持された状態で、加温室の内部でワークをダイシングテープ及びフレームと共に加温することが好ましい。
【0026】
本発明の一態様によれば、拡張保持リングによってダイシングテープの拡張を保持した状態、すなわち、チップ同士の接触に起因するチップの損傷を防止した状態で、ダイシングテープを加温室の内部で加温することができる。
【0027】
本発明のワーク分割装置の一態様は、冷却部は、ダイシングテープが脆性化する温度の冷気を冷却室に供給する冷気供給手段を有し、加温部は、加温室を常温以上の温度で加温する加温手段を有することが好ましい。
【0028】
本発明の一態様によれば、冷気供給手段からの冷気によって、ダイシングテープが脆性化されるので、小チップの分割に対応する十分なバネ定数をダイシングテープに与えることができ、また、加温手段によってフレーム及びダイシングテープを短時間で常温化することができる。
【0029】
本発明のワーク分割装置の一態様は、加温手段は、フレームを主として加温する第1加温手段と、ダイシングテープを主として加温する第2加温手段とを有することが好ましい。
【0030】
本発明の一態様によれば、熱容量の大きいフレームを第1加温手段によって加温し、熱容量の小さいダイシングテープを第2加温手段によって加温する。これに対して、フレームとダイシングテープとを一台の加温手段によって同一の温度で加温した場合、フレームの温度上昇率(単位時間当たりの上昇温度)がダイシングテープの温度上昇率よりも小さいので、フレームが常温化された時点でダイシングテープは常温よりも高温状態になる。このような場合、ダイシングテープが軟化する虞があり、ダイシングテープが軟化すると、ダイシングテープの張力が低下するので、分割したチップに影響を与える場合がある。
【0031】
本発明の一態様によれば、第1加温手段によってフレームを主として加温し、第2加温手段によってダイシングテープを主として加温することにより、例えばダイシングテープが常温化するまでの時間と、フレームが常温化するまでの時間とを合致させることができるので、フレームの常温化にかかる時間を短縮しつつ、ダイシングテープの軟化を防止することができる。
【0032】
本発明のワーク分割装置の一態様は、加温部は、フレームを測温する第1測温手段と、ダイシングテープを測温する第2測温手段とを有し、第1測温手段によって測温されたフレームの温度と第2測温手段によって測温されたダイシングテープの温度に基づいて、フレームとダイシングテープの温度差が小さくなるように、第1加温手段及び第2加温手段によってフレーム及びダイシングテープの温度を個別に制御する制御部を備えることが好ましい。
【0033】
本発明の一態様によれば、第1測温手段によって測温されたフレームの温度、及び第2測温手段によって測温されたダイシングテープの温度に基づいて、フレームとダイシングテープの温度差が小さくなるように、第1加温手段及び第2加温手段によってフレーム及びダイシングテープの温度を制御手段が個別に制御するので、フレームの常温化にかかる時間を短縮しつつ、ダイシングテープの軟化を確実に防止することができる。
【0034】
本発明のワーク分割方法は、本発明の目的を達成するために、ダイシングテープに貼付されてフレームにマウントされたワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割方法において、冷却室の内部を冷却することにより、冷却室の内部に配置されたワークを冷却する冷却工程と、冷却室の内部で冷却されたダイシングテープに張力を加えてダイシングテープを拡張する拡張工程と、拡張工程によりダイシングテープが拡張された後、冷却室に連設された加温室にワークを移動させて、加温室の内部を乾燥雰囲気で加温することにより、ワークを加温室の内部でダイシングテープ及びフレームと共に加温する加温工程と、を備える。
【0035】
本発明のワーク分割方法によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、時間のかかる常温化工程に起因するワーク処理能力の低下の問題とを同時に解消することができる。
【0036】
本発明のワーク分割方法の一態様は、拡張工程と加温工程との間に拡張状態保持工程を有し、拡張状態保持工程は、拡張工程によって拡張されたダイシングテープの拡張状態を保持し、加温工程は、拡張状態保持工程によってダイシングテープの拡張状態が保持された状態で、加温室の内部でワークをダイシングテープ及びフレームと共に加温することが好ましい。
【0037】
本発明の一態様によれば、拡張保持リングによってダイシングテープの拡張を保持した状態、すなわち、チップ同士の接触に起因するチップの損傷を防止した状態で、ダイシングテープを加温室の内部で加温することができる。
【0038】
本発明のワーク分割方法の一態様は、冷却工程は、ダイシングテープが脆性化する温度の冷気を冷却室に供給し、加温工程は、加温室を常温以上の温度で加温することが好ましい。
【0039】
本発明の一態様によれば、冷却工程の冷気によって、ダイシングテープが脆性化されるので、小チップの分割に対応する十分なバネ定数をダイシングテープに与えることができ、また、加温工程によってフレーム及びダイシングテープを短時間で常温化することができる。
【0040】
本発明のワーク分割方法の一態様は、加温工程は、フレームを主として加温する第1加温工程と、ダイシングテープを主として加温する第2加温工程とを有することが好ましい。
【0041】
本発明の一態様によれば、フレームを主として加温する第1加温工程と、ダイシングテープを主として加温する第2加温工程とを有することにより、例えばダイシングテープが常温化するまでの時間と、フレームが常温化するまでの時間時間とを合わせることができるので、フレームの常温化にかかる時間を大幅に短縮しつつ、ダイシングテープの軟化を防止することができる。
【0042】
本発明のワーク分割方法の一態様は、加温工程は、フレームを測温する第1測温工程と、ダイシングテープを測温する第2測温工程を有し、第1測温工程で測温されたフレームの温度と第2測温工程で測温されたダイシングテープの温度に基づいて、フレームとダイシングテープの温度差が小さくなるように、フレーム及びダイシングテープの温度を個別に制御する制御工程を有することが好ましい。
【0043】
本発明の一態様によれば、第1測温工程で測温されたフレームの温度及び第2測温工程で測温されたダイシングテープの温度に基づいて、フレームとダイシングテープの温度差が小さくなるように、フレーム及びダイシングテープの温度を個別に制御するので、フレームの常温化にかかる時間を大幅に短縮しつつ、ダイシングテープの軟化を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、時間のかかる常温化工程を付加することによって生じるワーク処理能力の低下の問題とを同時に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】実施形態のワーク分割装置の構造図
図2図1に示したワーク分割装置の要部拡大斜視図
図3】拡張途中の環状部領域の形状を示したウェーハユニットの要部縦断面図
図4】拡張保持リングによるダイシングテープの拡張状態を示した縦断面図
図5図4の要部拡大断面図
図6図1に示したワーク分割装置の加温部の構成を示した要部拡大斜視図
図7】ワーク分割装置の制御系を示したブロック図
図8】ウェーハ分割方法の一例を示したフローチャート
図9】ワーク分割装置の動作説明図
図10】ワーク分割装置の動作説明図
図11】冷却室から加温室にウェーハユニットが搬入された説明図
図12】加温部の他の実施形態を示した説明図
図13】ウェーハが貼付されたウェーハユニットの説明図
図14】ウェーハユニットの縦断面図
図15】ワーク分割装置の要部側面図
図16】ワーク分割装置の動作図
図17】ウェーハが分割されたウェーハユニットの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、添付図面に従って本発明に係るワーク分割装置及びワーク分割方法の好ましい実施形態について詳説する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲であれば、以下の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0047】
図1は、実施形態に係るワーク分割装置10に備えられた冷却部12及び加温部40の要部縦断面図であり、図2は、冷却部12の要部拡大斜視図である。なお、ワーク分割装置10によって分割処理されるウェーハユニットのサイズは限定されるものではないが、実施形態では、図14に示した直径300mmのウェーハ1がマウントされたウェーハユニット2を例示する。
【0048】
図2の如く、ワーク分割装置10は、分割予定ライン5が形成されたウェーハ1を分割予定ライン5に沿って個々のチップ6に分割する装置である。分割予定ライン5は、互いに直交するX方向及びY方向に複数本形成される。実施形態では、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とがそれぞれ300本でそれぞれの間隔が等しいウェーハ1、すなわち、チップサイズが1mmのチップ6に分割されるウェーハ1を例示する。
【0049】
ウェーハ1は図1図2の如く、フレーム4に外周部が固定されたダイシングテープ3の中央部に貼付される。ダイシングテープ3は、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の中央部領域3A、及び中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間の平面視ドーナツ形状の環状部領域3Bを有する。
【0050】
ウェーハ1の厚さは、例えば50μm程度である。また、ダイシングテープ3としては、例えばPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニール)系のテープが使用される。なお、ウェーハ1をDAF(Die Attach Film)等のフィルム状接着材を介してダイシングテープ3に貼付してもよい。フィルム状接着材としては、例えばPO(polyolefin:ポリオレフィン)系のものを使用することができる。
【0051】
ワーク分割装置10の冷却部12は、フレーム4を固定する固定部7(図15図16参照)と、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに下方側から当接されてダイシングテープ3を押圧して拡張するエキスパンドリング14と、エキスパンドリング14によって拡張されたダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング(サブリングとも言う。)18と、を有する。
【0052】
また、図1の如く、冷却部12は、固定部7、エキスパンドリング14及び拡張保持リング18を囲繞する冷却室16を備える。更に、ワーク分割装置10は、冷却室16に零下の冷気20を供給するノズル22を備えた冷気供給手段24を備えている。この冷却室16と冷気供給手段24とによって冷却部12が構成される。そして、エキスパンドリング14及び拡張保持リング18を含む空間である冷却室16の内部空間34に冷気20が供給される。冷気20の温度は、ダイシングテープ3のバネ定数を上げることができる温度であればよいが、ダイシングテープ3を脆性化する温度、例えば-20℃~-30℃であることが好ましい。
【0053】
固定部7は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、その下面7Aにフレーム4が着脱自在に固定される。また、固定部7は、エキスパンドリング14によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
【0054】
図2の如く、固定部7の形状は、フレーム4の内径(350mm)よりも大きい、例えば直径361mmの開口部7Bを有するリング状であるが、その形状は特に限定されるものではない。固定部7としては、例えば、開口部7Bを有する矩形状の板状材を例示することもでき、フレーム4の外周に沿って所定の間隔で配置された複数の固定部材からなる固定部を例示することもできる。これらの固定部材の内接円が、開口部7Bの直径と等しく設定される。
【0055】
エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつウェーハ1の外径(300mm)よりも大きい拡張用開口部(開口部)14Aを有するリング状に形成される。エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動自在に配置される。具体的には、エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3の環状部領域3Bの裏面を押圧して環状部領域3Bを拡張する拡張位置(図1の二点鎖線で示す位置)と、拡張位置から下方に退避した退避位置(図1の実線で示す位置)との間で上下方向に移動自在に配置される。
【0056】
また、ワーク分割装置10には、エキスパンドリング14を拡張位置と退避位置との間で上下移動させるエキスパンドリング移動機構30が備えられている。エキスパンドリング移動機構30の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。退避位置に位置されているエキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構30によって拡張位置に向けて移動させると、エキスパンドリング14は、環状部領域3Bに向けて矢印B方向に上昇移動される。これによって、環状部領域3Bの裏面がエキスパンドリング14に押圧されて放射状に拡張される。なお、エキスパンドリング14を固定して、ウェーハユニット2を矢印C方向に下降移動させることにより、環状部領域3Bをエキスパンドリング14に押圧してもよい。
【0057】
図3は、エキスパンドリング14によって拡張途中の環状部領域3Bの形状を示したウェーハユニット2の要部縦断面図である。後述するが、エキスパンドリング14による環状部領域3Bの拡張に先立って、ノズル22から冷却室16の内部空間34に供給された、例えば-20~-30℃の冷気20によって内部空間34が冷却される。これにより、ダイシングテープ3が脆性化されてダイシングテープ3のバネ定数が常温時と比較して大きくなっている。この状態でダイシングテープ3の環状部領域3Bがエキスパンドリング14によって拡張されるので、チップサイズが小チップの場合でも個々のチップに分割することが可能となっている。
【0058】
冷気20によって冷却された環状部領域3Bの温度は、不図示の放射温度計にて計測してもよい。また、冷気20の温度と冷気20の供給時間とに基づいた環状部領域3Bの温度変化データを予め実測しておき、この温度変化データに基づいて冷気20の供給時間を制御してもよい。
【0059】
図1に示すノズル22は、冷却室16の内部空間34において、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに向けて配置されている。これにより、環状部領域3Bが冷気20によって効率よく冷却される。また、冷気供給手段24は、吸引した外気を零下に冷却する熱交換器を備えており、熱交換器によって冷却された冷気20が配管25を介してノズル22に供給される。なお、図1では、冷気供給手段24を冷却室16の室外に配置しているが、冷却室16の室内に配置してもよい。この場合、冷気供給手段24は、内部空間34の冷却された室内エアを冷却するので、熱交換器にかかる負荷を小さくすることができる。
【0060】
図1の如く、ダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング18は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置される。また、拡張保持リング18は、外径がフレーム4の内径(350mm)よりも小さく、内径がエキスパンドリング14の外径よりも大きい本体リング32と、本体リング32の外周部に装着されて、外径(351.3mm)がフレーム4の内径(350mm)よりも大きい弾性変形可能なリング状の嵌合部26と、を有する。
【0061】
図4は、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態が保持された縦断面図である。図5は、図4の要部拡大断面図である。
【0062】
図4図5の如く、拡張保持リング18の嵌合部26は、実線で示す嵌合位置でフレーム4の表面4Aにダイシングテープ3の環状部領域3Bを介して嵌合する。これにより、ダイシングテープ3の拡張状態が拡張保持リング18によって保持される。
【0063】
拡張保持リング18は、拡張保持前においては、図4図5の実線で示す嵌合位置から下方の待機位置(図1の実線で示す位置)に配置されており、拡張保持時に待機位置から嵌合位置に拡張保持リング移動機構38によって上昇移動される。拡張保持リング移動機構38の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。
【0064】
拡張保持リング移動機構38によって拡張保持リング18が上昇されると、嵌合部26がフレーム4の下面に当接する。この後、嵌合部26は、継続する拡張保持リング18の上昇移動により、フレーム4の内周面に押されて弾性変形しながら上昇する。そして、嵌合部26が、フレーム4の内周面を通過した位置で拡張保持リング18の上昇が停止される。これによって、嵌合部26が図4図5の如く嵌合位置でフレーム4の表面4Aに嵌合される。なお、拡張保持リング18を固定して、ダイシングテープ3側を拡張保持リング18に近づける方向に移動させてもよい。すなわち、嵌合部26をフレーム4の表面4Aに嵌合させる場合には、拡張保持リング18をダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動させればよい。
【0065】
次に、図1に示した加温部40について説明する。
【0066】
加温部40は、冷却部12によって冷却されたウェーハ1、ダイシングテープ3及びフレーム4を有するウェーハユニット2を乾燥雰囲気で加温する加温室42を備える。加温室42は、ドライエア供給手段36から供給されるドライエア37によって乾燥雰囲気が確保されている。
【0067】
冷却部12の冷却室16にて個々のチップに分割されたウェーハユニット2は、拡張保持リング18がフレーム4に装着された状態で冷却室16から、不図示の搬送装置によって加温部40の加温室42に搬入される。これにより、ウェーハユニット2は、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態が保持された状態で加温室42に移動される。
【0068】
加温室42は、仕切り壁である断熱壁44を介して冷却室16に連設される。また、加温室42の内部は、断熱壁44の扉46によって開閉される搬出用開口部48を介して冷却室16の内部空間34に連通されている。よって、冷却室16にて個々のチップに分割されたウェーハユニット2は、扉46が開放された後に不図示の搬送装置によって冷却室16から加温室42に搬出用開口部48を介して搬入される。そして、加温室42に搬入されたウェーハユニット2は、前述の搬送装置によって、加温室42のリング状のテーブル50にフレーム4が載置される。
【0069】
テーブル50は、銀又は銅等の熱伝導率の高い材料で製造されることが好ましい。これにより、後述の加温手段とフレーム4との間にテーブル50が介在されていても、加温手段からの熱がテーブル50に奪われることなく、フレーム4に効率よく伝達される。なお、テーブル50の形状は、リング状に限定されるものではなく、フレーム4を載置可能な形状であればよい。一例としてテーブル50の形状は矩形の平板状であってもよい。
【0070】
加温室42のテーブル50の下方には、ウェーハユニット2を常温以上の温度で加温する加温手段であるハロゲンランプ群52が配置されている。
【0071】
ここで、図6は、図1に示したワーク分割装置10の加温部40の構成を示した要部拡大斜視図である。
【0072】
図6の如く、ハロゲンランプ群52は、ウェーハユニット2のフレーム4を主として加温する第1加温手段である棒状の4本のハロゲンランプ54、54…と、ウェーハ1を含むダイシングテープ3を主として加温する第2加温手段である棒状の3本のハロゲンランプ56、56…とを備える。ハロゲンランプ54、56が発する熱は、フレーム4及びダイシングテープ3の双方に伝達されることは否めないが、ハロゲンランプ54は、フレーム4を主として加温する専用の加温手段であり、ハロゲンランプ56は、ダイシングテープ3を主として加温する専用の加温手段である。
【0073】
4本のハロゲンランプ54は、フレーム4の真下の位置でリング状のフレーム4に沿って矩形状に配置される。また、3本のハロゲンランプ56は、ダイシングテープ3の真下の位置に並設されている。ハロゲンランプ54、56の下側には、リフレクタ58、60がハロゲンランプ54、56に近接して配置される。これにより、ウェーハユニット2のフレーム4は、ハロゲンランプ54からの直射熱とリフレクタ58で反射された反射熱とによって常温を超えた温度に加温される。同様にダイシングテープ3は、ハロゲンランプ56からの直射熱とリフレクタ60で反射された反射熱とによって常温を超えた温度に加温される。
【0074】
なお、ハロゲンランプ54は、棒状に構成されたものであるが、形状は棒状に限定されるものではない。例えば、リング状の1本のハロゲンランプによって第1加温部を構成し、このハロゲンランプをフレーム4の真下の位置に配置してもよい。また、ハロゲンランプ56も同様にリング状に構成されたものを用いてもよい。この場合、1本のハロゲンランプによって第2加温部を構成してもよいが、同心円状に配置された径の異なる複数のリング状のハロゲンランプによって第2加温部を構成してもよい。
【0075】
図7は、ワーク分割装置の制御系を示したブロック図である。
【0076】
図7によれば、ハロゲンランプ54は、フレーム4用のハロゲンランプ電源62から印加される電力によって点灯し放熱する。同様にハロゲンランプ56は、ダイシングテープ3用のハロゲンランプ電源64から印加される電力によって点灯し放熱する。これらのハロゲンランプ54、56は、ハロゲンランプ電源62、64から印加される電圧が変更されることにより、発熱量が変更される。つまり、ハロゲンランプ電源62、64からハロゲンランプ54、56に印加する電圧を変更することにより、ハロゲンランプ54によるフレーム4を加温する温度、及びハロゲンランプ56によるダイシングテープ3を加温する温度が変更される。これにより、ダイシングテープ3とフレーム4は、ハロゲンランプ54、56によって個別に加温可能となる。
【0077】
ハロゲンランプ電源62、64は、ワーク分割装置10を統括制御する制御部66によって、ハロゲンランプ54、56に印加する電圧が制御されている。この制御部66は、加温室42(図1参照)に設置された第1測温手段である放射温度計68と、第2測温手段である放射温度計70によって測温された温度に基づいてハロゲンランプ電源62、64を制御し、ハロゲンランプ54、56に印加する電圧を制御する。すなわち、放射温度計68にて測温されたフレーム4の温度を測温する第1測温工程に基づいて、ハロゲンランプ54によるフレーム4を加温する温度が制御される。同様に放射温度計70にて測温されたダイシングテープ3の温度を測温する第2測温工程に基づいて、ハロゲンランプ56によるダイシングテープ3を加温する温度が制御される。
【0078】
放射温度計68は、フレーム4の温度を測温できるように、テーブル50に載置されたウェーハユニット2のフレーム4の上方に配置される。同様に放射温度計70は、ダイシングテープ3の温度を測温できるように、テーブル50に載置されたウェーハユニット2のダイシングテープ3の上方に配置される。
【0079】
また、制御部66は、エキスパンドリング14を駆動するエキスパンドリング移動機構30、拡張保持リング18を駆動する拡張保持リング移動機構38、及び冷気供給手段24の動作も制御している。
【0080】
次に、図8のフローチャート、図9(A)~(D)、図10(A)~(D)及び図10に示すワーク分割装置10の動作説明図に従って、実施形態のワーク分割装置10の作用について説明する。
【0081】
まず、図8のステップS100の配置工程において、図9(A)の如く、エキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構30によって退避位置に配置させ、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構38によって待機位置に配置させる。
【0082】
次に、図8のステップS110の固定工程において、図9(B)の如く、ウェーハユニット2のフレーム4を固定部7に固定する。
【0083】
次に、図8のステップS120の冷気冷却工程において、図9(C)の如く、ノズル22から冷気20を冷却室16の内部空間34(図1参照)に供給し、ダイシングテープ3の環状部領域3Bを零下(例えば-20~-30℃)に冷却する。これにより、ダイシングテープ3の環状部領域3Bが脆性化される。
【0084】
次に、図8のステップS130の拡張開始工程において、図9(D)の如く、エキスパンドリング移動機構30によってエキスパンドリング14を、図9(A)の退避位置から拡張位置に向けて矢印B方向に上昇移動させ、脆性化された環状部領域3Bの全領域の拡張を開始する。なお、拡張開始工程において、ノズル22から冷気20を噴射した状態を保持してもよく、ステップS120の冷気冷却工程において、環状部領域3Bが十分に冷却されている場合は、ノズル22からの冷気20の噴射を停止してもよい。
【0085】
次に、図8のステップS140の分割工程において、図10(A)の如く、エキスパンドリング14の上昇移動を続行して行うことにより、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する。この後、図10(B)の如く、エキスパンドリング14が拡張位置に到達したところで、エキスパンドリング14の上昇移動を停止する。
【0086】
上記のステップS140の分割工程では、常温時よりもバネ定数が大きくなっている環状部領域3Bのバネ定数の張力がウェーハ1に付与される。これにより、チップサイズが小チップ(1mm)であっても個々のチップ6に分割するだけの張力を、環状部領域3Bからウェーハ1に十分に付与することができる。よって、ワーク分割装置10によれば、チップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【0087】
次に、図8のステップS150の拡張状態保持工程において、図10(C)の如く、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構38によって待機位置から嵌合位置に向けて上昇させて、嵌合部26を嵌合位置でフレーム4の表面4Aに嵌合させてダイシングテープ3の拡張状態を保持する。
【0088】
次に、図8のステップS160のエキスパンドリング退避工程において、図10(D)の如く、エキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構30によって退避位置に向けて下降移動させ、退避位置に配置する。このとき、ダイシングテープ3は、エキスパンドリング14による拡張は解除されるが、フレーム4の表面4Aに拡張保持リング18の嵌合部26が嵌合されているので、弛むことなく拡張状態が保持される。これにより、拡張されたダイシングテープ3が弛むことによって生じるチップ6同士の接触を防止することができるので、チップ6の品質低下を防止することができる。
【0089】
次に、図8のステップS170の固定解除工程において、ウェーハユニット2のフレーム4と固定部7との固定を解除する。
【0090】
次に、図8のステップS180の搬出・搬入工程において、冷却室16の扉46を開放し、ウェーハユニット2を不図示の搬送装置によって冷却室16から搬出用開口部48を介して加温室42に搬入する。そして、不図示の搬送装置によってウェーハユニット2のフレーム4を、図11の加温室42の構造図の如く、加温室42のテーブル50に載置する。この後、扉46を閉じて加温室42を密閉する。
【0091】
次に、加温工程である図8のステップS190の常温化工程において、制御部66は、図7のハロゲンランプ電源62、64を駆動して、全てのハロゲンランプ54、56を点灯する。すなわち、ハロゲンランプ54によってフレーム4を加温(第1加温工程)し、ハロゲンランプ56によってダイシングテープ3を加温する(第2加温工程)。これにより、フレーム4はハロゲンランプ54からの熱によって加温されていき、ダイシングテープ3はハロゲンランプ56からの熱によって加温されていく。
【0092】
ステップS190の常温化工程において、フレーム4の温度は放射温度計68によって常時測温(第1測温工程)されており、同様にダイシングテープ3の温度は放射温度計70によって常時測温(第2測温工程)されている。これらの温度情報は、放射温度計68、70から制御部66に出力されている。制御部66は、放射温度計68にて測温されたフレーム4の温度に基づいて、ハロゲンランプ電源62からハロゲンランプ54に印加する電圧を制御し、且つ放射温度計70にて測温されたダイシングテープ3の温度に基づいて、ハロゲンランプ電源64からハロゲンランプ56に印加する電圧を制御しながら、フレーム4とダイシングテープ3とを常温に向けて加温していく。
【0093】
次に、制御部66によるハロゲンランプ電源62、64の制御方法の一例を説明する。
【0094】
本実施形態では、熱容量の大きいフレーム4をハロゲンランプ54によって個別に加温し、熱容量の小さいダイシングテープ3をハロゲンランプ56によって個別に加温する。また、加温中のフレーム4の温度を放射温度計68にて常時測温し、加温中のダイシングテープ3の温度を放射温度計70にて常時測温し、これらの温度情報に基づいて制御部66がハロゲンランプ電源62、64を個別に制御する。つまり、熱容量の異なるフレーム4とダイシングテープ3とを異なる加温温度によって加温する。
【0095】
これに対して、フレーム4とダイシングテープ3とを一台の加温手段によって同一の温度で加温した場合、フレーム4の温度上昇率(単位時間当たりの上昇温度)がダイシングテープ3の温度上昇率よりも小さいので、フレーム4が常温化された時点でダイシングテープ3は常温よりも高温状態になる。このような場合、ダイシングテープ3が軟化する虞があり、ダイシングテープ3が軟化すると、ダイシングテープの張力が低下するので、分割したチップ6同士が接触し、チップ6の品質が低下する虞がある。一般的に、PVC製のダイシングテープ3の場合には、60℃以上になると軟化する傾向にあるので、フレーム4が常温化した時点でのダイシングテープ3の温度を少なくとも60℃未満に抑えることが好ましく、55℃以下に抑えることがより好ましくなる。
【0096】
そこで、実施形態の制御部66によるハロゲンランプ電源62、64の制御方法は、放射温度計68、70にて測温されている温度情報に基づいて、
(i)フレーム4が常温化するまでの時間と、ダイシングテープ3が常温以上で60℃未満(好ましくは55℃以下)の温度に到達するまでの時間とが合致するように、ハロゲンランプ54、56に印加する電圧を個別に制御する方法。
【0097】
(ii)フレーム4が常温化するまでの時間と、ダイシングテープ3が常温化するまでの時間とが合致するように、ハロゲンランプ54、56に印加する電圧を個別に制御する方法がある。
【0098】
これらの制御方法は、フレーム4とダイシングテープ3の温度差が小さくなるようにフレーム4及びダイシングテープ3の温度を個別に制御(制御工程)するものである。具体的な制御方法は、前述した「合致する時間」を最初に設定し、その時間内でフレーム4とダイシングテープ3の温度を目的の温度まで昇温させる制御方法である。この場合、制御部66に内蔵された記憶部には、ハロゲンランプ54に印加する電圧に応じたフレーム4の単位時間当たりの上昇温度と、ハロゲンランプ56に印加する電圧に応じたダイシングテープ3の単位時間当たりの上昇温度とを示す情報を記憶させておくことが好ましい。これらの情報は実測して取得してもよいし、昇温シミュレーションにて取得したものであってもよい。制御部66は、これらの情報と「合致する時間」とに基づいて、レーム4とダイシングテープ3の温度差が小さくなるように、ハロゲンランプ54、56に印加する電圧を個別に制御する。
【0099】
上記の制御方法を実行する手法としては、
(iii) ハロゲンランプ54に印加する電圧を一定とし、ハロゲンランプ56に印加する電圧を変更しながらフレーム4とダイシングテープ3とを上記温度に加温する手法。
【0100】
(iv)ハロゲンランプ56に印加する電圧を一定とし、ハロゲンランプ54に印加する電圧を変更しながらフレーム4とダイシングテープ3とを上記温度に加温する手法。
【0101】
(v)ハロゲンランプ54、56に印加する電圧をそれぞれ変更しながらフレーム4とダイシングテープ3とを上記温度に加温する手法がある。これらの制御方法及び手法は、フレーム4及びダイシングテープ3の材質及びサイズ等の熱容量を定める要因に基づいて適宜選択されることが好ましい。
【0102】
このような制御部66によるハロゲンランプ電源62、64の制御方法を実行することにより、フレーム4の常温化にかかる時間、つまり、ステップS190の常温化工程にかかる時間を短縮しつつ、ダイシングテープ3の軟化を確実に防止することができる。
【0103】
実験例として、前述した「合致する時間」を1分に設定し、(iii)から(v)の手法を採用して(i)及び(ii)の制御方法を実行したところ、加温開始から1分後にフレーム4及びダイシングテープ3を(i)及び(ii)の温度に昇温させることができた。よって、ステップS190の常温化工程にかかる時間を1分に抑えることができたので、従来の常温化工程にかかった15分と比較して大幅に短縮することができた。
【0104】
次に、図8のステップS200の取出工程において、加温室42の上蓋72を解放し、常温化が完了したウェーハユニット2を加温室42から取り出す。以上によって、ウェーハユニット2に対する分割処理及び加温処理が終了する。
【0105】
加温室42から搬出されたウェーハユニット2は、既に常温化されているので、ウェーハユニット2に結露は発生しない。よって、結露の発生に起因するパターン欠陥の問題及び成膜異常の問題を解消することができる。
【0106】
以上の如く、実施形態のワーク分割装置10によれば、図8のステップS120、S130、S140の冷気供給工程、拡張開始工程及び分割工程を経ることにより、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。そして、ステップS190の常温化工程を経ることにより、時間のかかる常温化工程を付加することによって生じるワーク処理能力の低下の問題を解消することができる。
【0107】
上述した実施形態のワーク分割装置10は、分割終了したウェーハユニット2を加温室42のテーブル50に載置した状態でハロゲンランプ54、56により加温するものであるが、他の発明として以下のワーク分割装置がある。
【0108】
例えば、図12に示した他の発明のワーク分割装置100は、冷却室16の搬出用開口部48に上下一対の棒状のハロゲンランプ74、74を設置し、搬出用開口部48から搬出中のウェーハユニット2をハロゲンランプ74、74によって加温してフレーム4とダイシングテープ3を常温化する装置である。
【0109】
なお、上述の実施形態及び他の発明では、加温手段としてハロゲンランプ54、56、74を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、加温手段として、遠赤外線ランプ、赤外線ランプ、セラミックヒータ、カーボンヒータ、温風ヒータ又は接触式ヒータを例示することができる。これらの加温手段によれば、低温のフレーム4とダイシングテープ3を常温まで加温することができる。
【符号の説明】
【0110】
1…ウェーハ、2…ウェーハユニット、3…ダイシングテープ、3A…中央部領域、3B…環状部領域、3C…固定部領域、4…フレーム、5…分割予定ライン、6…チップ、7…固定部、8…エキスパンドリング、10…ワーク分割装置、14…エキスパンドリング、16…冷却室、18…拡張保持リング、20…冷気、22…ノズル、24…冷気供給手段、25…配管、26…嵌合部、30…エキスパンドリング移動機構、32…本体リング、34…内部空間、36…ドライエア供給手段、37…ドライエア、38…拡張保持リング移動機構、40…加温部、42…加温室、44…断熱壁、46…扉、48…搬出用開口部、50…テーブル、52…ハロゲンランプ群、54…ハロゲンランプ、56…ハロゲンランプ、58…リフレクタ、60…リフレクタ、62…ハロゲンランプ電源、64…ハロゲンランプ電源、66…制御部、68…放射温度計、70…放射温度計、72…上蓋、74…ハロゲンランプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17