(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】搬送装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B65H 9/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B65H9/00 A
B65H9/00 J
(21)【出願番号】P 2018000403
(22)【出願日】2018-01-05
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】平野 登
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-289889(JP,A)
【文献】特開2013-052964(JP,A)
【文献】特開2014-088263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの位置ズレを補正する補正部材と、
前記シートの位置を検知する検知機構と、
前記補正部材の補正動作を制御する制御部とを有し、
前記シートを搬送する搬送装置であって、
前記制御部は、前記検知機構が検知したシート位置に基づいて、前記シートの位置ズレ量を算出し、
前記補正部材は、前記制御部が算出した前記シートの位置ズレ量に基づいて、前記シートの位置ズレを補正し、
前記制御部は、算出した前記位置ズレ量を学習し、
前記補正部材が前記シートの搬送方向に対して正対した位置を前記補正部材の基準位置とすると、
前記制御部は、シート搬送動作開始時に、前記補正部材を、当該搬送を開始したシートよりも以前に搬送された複数のシートの位置ズレ量により算出された学習位置へ移動させ、前記補正部材は、前記学習位置から、前記基準位置よりも当該搬送を開始したシートにおける位置ズレ量の分だけ移動した位置へ移動する迎え動作を、当該搬送を開始したシートが前記補正部材に到達する前に行い、
前記学習位置は、前記補正部材を、前記基準位置から前記シートの位置ズレ方向へ移動させた位置であり、
前記基準位置から前記学習位置への移動量は、学習した前記位置ズレ量に基づいて決定されることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記制御部は、搬送するシートの属性毎に前記位置ズレ量を学習して、前記シートの属性毎に学習位置を決定し、
前記制御部は、シート搬送動作開始時に、搬送するシートの属性に応じて、対応する前記学習位置へ前記補正部材を移動させる請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記制御部は、搬送動作時の周辺環境条件毎に前記位置ズレ量を学習して、前記周辺環境条件毎に学習位置を決定し、
前記制御部は、シート搬送動作開始時に、搬送動作時の前記周辺環境条件に応じて、対応する前記学習位置へ前記補正部材を移動させる請求項1または2いずれか記載の搬送装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記学習位置決定後、前記位置ズレ量を継続して学習し、
前記学習位置の決定前と学習位置決定後の位置ズレ量の変化に基づいて、前記学習位置を更新する請求項1から3いずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項5】
時間重み付け学習により、新しく学習した前記位置ズレ量の比重を大きくした算出方法により、前記学習位置を更新する請求項4記載の搬送装置。
【請求項6】
移動平均学習により、前記学習位置を更新する請求項4または5記載の搬送装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記検知機構が検知したシート位置に基づいて、前記シートの幅方向の位置ズレ量を算出する請求項1から6いずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記検知機構が検知したシート位置に基づいて、前記シートの斜行量を算出する請求項1から7いずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項9】
前記補正部材は、前記制御部が、前記検知機構の検知結果に基づいて、前記シートの位置ズレ量を算出後、前記シートが前記補正部材に到達するまでの間に前記迎え動作を完了し、
前記制御部は、学習した前記位置ズレ量の最大値および前記学習位置に基づいて、前記検知機構による前記シートの位置検知前に、前記迎え動作時に想定される前記補正部材の最大移動量を算出し、
前記制御部が算出した前記迎え動作時に想定される前記補正部材の最大移動量の算出結果に基づいて、前記検知機構と前記補正部材間のシート搬送速度を調整する請求項1から8いずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項に記載の搬送装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置、および、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートを搬送する搬送装置では、搬送時におけるシートの斜行や幅方向のズレ等の位置ズレが問題となる。例えば、記録媒体に画像を形成する画像形成装置では、記録媒体の搬送時の位置ズレにより、記録媒体に形成される画像位置が理想の位置からずれてしまうことが問題になる。
【0003】
そして、シートの位置を検知してシートの位置ズレを算出可能とする検知機構と、検知機構による検知結果に基づいてシートの位置ズレを補正する補正ローラとを備え、補正ローラによってシートを搬送しながらシートの位置ズレを補正する発明が既になされている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1(特開2014-88263号公報)の発明では、記録媒体の搬送中に、記録媒体の搬送経路上に配置されたCISによる記録媒体の検知結果に基づいて、記録媒体の幅方向の位置ズレ量を算出すると共に、同じく搬送経路上に配置された斜行検知センサによる記録媒体の検知結果に基づいて、記録媒体の斜行を検知する。そして、これらの位置ズレ量の上方に基づいて、補正ローラが幅方向に移動、および、記録媒体の搬送面内で回転することにより、記録媒体の位置ズレを補正する。また、補正ローラは、記録媒体が補正ローラに到達して補正動作を開始する前に、検知された記録媒体の位置ズレ量の分だけ基準位置から移動する迎え動作を行う。これにより、記録媒体が補正ローラに到達した際に、補正ローラが、位置ズレした記録媒体に正対した状態で、記録媒体を迎え入れることができると共に、補正動作後の補正ローラを基準位置に配置することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、補正部材が迎え動作をする構成では、シートの位置ズレ量が検知されてから、シートが補正部材に達するまでの間に迎え動作を行う必要があった。このため、迎え動作の移動量が大きい装置では、迎え動作を間に合わせるために、位置ズレ検知位置から補正部材の位置までの間に十分な距離を設けたり、シートの搬送速度を遅くしたりする対策が必要となり、搬送装置の大型化やシート搬送効率の低下を招いていた。
【0006】
このような課題から、本発明では、迎え動作時の移動量を低減することのできる搬送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、シートの位置ズレを補正する補正部材と、前記シートの位置を検知する検知機構と、前記補正部材の補正動作を制御する制御部とを有し、前記シートを搬送する搬送装置であって、前記制御部は、前記検知機構が検知したシート位置に基づいて、前記シートの位置ズレ量を算出し、前記補正部材は、前記制御部が算出した前記シートの位置ズレ量に基づいて、前記シートの位置ズレを補正し、前記制御部は、算出した前記位置ズレ量を学習し、前記補正部材が前記シートの搬送方向に対して正対した位置を前記補正部材の基準位置とすると、前記制御部は、シート搬送動作開始時に、前記補正部材を、当該搬送を開始したシートよりも以前に搬送された複数のシートの位置ズレ量により算出された学習位置へ移動させ、前記補正部材は、前記学習位置から、前記基準位置よりも当該搬送を開始したシートにおける位置ズレ量の分だけ移動した位置へ移動する迎え動作を、当該搬送を開始したシートが前記補正部材に到達する前に行い、前記学習位置は、前記補正部材を、前記基準位置から前記シートの位置ズレ方向へ移動させた位置であり、前記基準位置から前記学習位置への移動量は、学習した前記位置ズレ量に基づいて決定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、搬送動作開始時に、補正部材を、過去に搬送されたシートの位置ズレ量に基づいて決定された学習位置へ予め移動させる。これにより、迎え動作時の移動量を、基準位置から移動する場合よりも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明の実施形態にかかる搬送装置の構成を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は側面図である。
【
図3】搬送装置による搬送過程を示す平面図である。
【
図4】搬送装置による搬送過程を示す平面図である。
【
図5】搬送装置による搬送過程を示す平面図である。
【
図6】搬送装置による搬送過程を示す平面図である。
【
図7】搬送装置による搬送過程を示す平面図である。
【
図9】搬送装置の用紙を搬送および補正するフローを示す図である。
【
図10】迎え動作の移動距離と、迎え動作を実施できる用紙の搬送区間との関係を示す図である。
【
図11】学習位置を設定した場合の、幅方向の位置ズレに対する迎え動作を示す図である。
【
図12】学習位置を設定した場合の、斜行に対する迎え動作を示す図である。
【
図14】学習位置を算出するフローを示す図である。
【
図15】本実施形態の搬送装置の用紙を搬送および補正するフローを示す図である。
【
図16】搬送装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図17】画像形成装置に接続された入力装置の一例を示す図である。
【
図18】異なる実施形態の画像形成装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
図1に示すカラー画像形成装置1には、4つのプロセスユニット9Y,9M,9C,9Bkが着脱可能に設けられた作像部3が配置されている。各プロセスユニット9Y,9M,9C,9Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。
【0012】
具体的な各プロセスユニット9としては、表面上に現像剤としてのトナーを担持可能なドラム状の回転体である感光体ドラム10と、感光体ドラム10の表面を一様に帯電させる帯電ローラ11や、感光体ドラム10の表面にトナーを供給する現像装置12、クリーニング装置等を備えている。
【0013】
プロセスユニット9の上方には、露光部が配置されている。露光部は、画像データに基づいて、レーザ光を発するように構成されている。
【0014】
作像部3の直下には転写部4が配置されている。転写部4は、駆動ローラ13、二次転写対向ローラ15、複数のテンションローラ、これらのローラによって周回走行可能に張架されている無端状の中間転写ベルト16、各プロセスユニット9の感光体ドラム10に対して中間転写ベルト16を挟んだ対向位置に配置されている一次転写ローラ17等で構成されている。各一次転写ローラ17はそれぞれの位置で中間転写ベルト16の内周面を押圧しており、中間転写ベルト16の押圧された部分と各感光体ドラム10とが接触する箇所に一次転写ニップが形成されている。
【0015】
また、中間転写ベルト16の駆動ローラ13と、中間転写ベルト16を挟んで駆動ローラ13に対向した位置には二次転写ローラ18が配設されている。二次転写ローラ18は中間転写ベルト16の外周面を押圧しており、二次転写ローラ18と中間転写ベルト16とが接触する箇所に二次転写ニップが形成されている。
【0016】
給紙部5は、画像形成装置1の下部に位置しており、シートとしての用紙Pを収容したシート積載部としての給紙カセット19や、各給紙カセットから用紙Pを搬出する給紙ローラ20等からなっている。
【0017】
搬送路6は、給紙部5から搬出された用紙Pを搬送する搬送経路である。搬送路6上には、複数の搬送ローラ対が、後述する排紙部に至るまで、適宜配置されている。
【0018】
搬送路6上で、給紙部5よりも用紙搬送方向下流側で二次転写ニップ位置よりも上流側には、搬送路6上における用紙Pの位置ズレを補正し、用紙Pを下流側へ搬送する搬送装置30が設けられる。
【0019】
定着装置7は、加熱源によって加熱される定着ローラ22、その定着ローラ22を加圧可能な加圧ローラ23等を有している。
【0020】
排紙部8は、画像形成装置1の搬送路6の最下流に設けられる。この排紙部8には、用紙Pを外部へ排出するための一対の排紙ローラ24と、排出された用紙Pをストックするための排紙トレイ25とが配設されている。
【0021】
搬送路6は、排紙部8に至る経路とは別に、定着装置7の下流で分流する反転搬送路6aが設けられる。反転搬送路6aは、その末端で給紙部5から続く搬送路6に合流する。
【0022】
また、画像形成装置1の上部には、用紙に形成された画像を読み取るスキャナユニット2が配置されている。
【0023】
以下、
図1を参照して上記画像形成装置1の基本的動作について説明する。
【0024】
画像形成装置1において、画像形成動作が開始されると、各プロセスユニット9Y,9C,9M,9Bkの感光体ドラム10の表面に静電潜像が形成される。各感光体ドラム10に露光部によって露光される画像情報は、所望のフルカラー画像をイエロー、シアン、マゼンタおよびブラックの色情報に分解した単色の画像情報である。各感光体ドラム10上には静電潜像が形成され、各現像装置に蓄えられたトナーが、ドラム状の現像ローラによって感光体ドラム10に供給されることにより、静電潜像は顕像であるトナー画像(現像剤像)として可視像化される。
【0025】
転写部4では、駆動ローラ13の回転駆動により中間転写ベルト16が図の矢印方向に走行駆動される。また、各一次転写ローラ17には、トナーの帯電極性と逆極性の定電圧又は定電流制御された電圧が印加される。これにより、一次転写ニップにおいて転写電界が形成され、各感光体ドラム10に形成されたトナー画像は一次転写ニップにて中間転写ベルト16上に順次重ね合わせて転写される。このように、例えば、作像部3、露光部、転写部4等は、用紙Pに画像を形成する画像形成部として機能する。
【0026】
一方、画像形成動作が開始されると、画像形成装置1の下部では、給紙部5の給紙ローラ20が回転駆動することによって、給紙カセット19に収容された用紙Pが搬送路6に送り出される。
【0027】
搬送路6に送り出された用紙Pは、搬送路6上の搬送装置30やローラ対によって下流側へ搬送されると共に、搬送装置30によってその位置ズレを補正され、二次転写ローラ18と二次転写対向ローラ15との間に形成される二次転写ニップへ送られる。このとき、中間転写ベルト16上のトナー画像のトナー帯電極性と逆極性の転写電圧が印加されており、二次転写ニップに転写電界が形成されている。二次転写ニップに形成された転写電界によって、中間転写ベルト16上のトナー画像が用紙P上に一括して転写される。
【0028】
トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置7へと搬送され、定着ローラ22と加圧ローラ23とによって用紙Pが加熱及び加圧されてトナー画像が用紙Pに定着される。そして、トナー画像が定着された用紙Pは、定着ローラ22から分離され、搬送ローラ対によって搬送され、排紙部8において排紙ローラ24によって排紙トレイ25へと排出される。
【0029】
用紙Pに両面印刷がされる場合には、用紙Pが排紙ローラ24へ搬送され、用紙Pの後端が排紙ローラ24を抜けるまでのタイミングで、排紙ローラ24が逆回転し、用紙Pが逆方向へ搬送されて反転搬送路6aへ送り出される。その後、用紙Pは、反転搬送ローラによって反転搬送路6a上を搬送されて、表裏反転した状態で、再び搬送路6の搬送装置30よりも上流側へ送られる。そして、用紙Pは、搬送装置30によってその位置ズレを補正された後、裏面への画像の転写、定着が行われ、排紙ローラ24によって排紙トレイ25へと排出される。
【0030】
以上の説明は、用紙P上にフルカラー画像を形成するときの画像形成動作であるが、4つのプロセスユニット9Y,9C,9M,9Bkのいずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つのプロセスユニット9を使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0031】
図2(a)および
図2(b)に示すように、搬送装置30は、搬送ローラ31と、補正部材としての補正ローラ32と、検知機構としての第一CIS33および第二CIS34と、検知機構としての斜行検知センサ35とを主に備える。
【0032】
搬送ローラ31および補正ローラ32は、一対のローラによって構成される搬送部材であり、ローラ同士のニップ部に用紙Pを挟持した状態で各ローラが回転駆動することにより、用紙Pを下流側へ搬送することができる。
【0033】
補正ローラ32は、用紙Pの搬送面内で回転可能、そして、幅方向に移動可能に設けられる(
図2aの矢印参照)。これらの動作により、挟持した用紙Pを回転あるいは幅方向に移動させ、用紙Pの斜行あるいは幅方向の位置ズレを補正することができる。以下、補正ローラ32については、用紙Pを搬送するためのローラの回転を、単に回転、斜行補正のための回転を、用紙搬送面内の回転と記載して区別する。また、用紙Pの幅方向を単に幅方向とも呼ぶ。
【0034】
第一CIS33および第二CIS34は、LED等の発光素子とフォトダイオード等の受光素子とからなるフォトセンサが、用紙Pの幅方向に複数並設されたコンタクトイメージセンサである。
【0035】
斜行検知センサ35は、用紙搬送路6の幅方向中心位置から等距離だけ離れた位置に設置された2つのフォトセンサ(LED等の発光素子とフォトダイオード等の受光素子)によって構成される。
【0036】
次に、搬送装置30が、用紙Pを搬送しながらその位置ズレを補正する過程の基本的な動作について、
図2~
図8、および
図9のフロー図を用いて説明する。なお、
図9では、後述する本発明の実施形態の学習位置を設定しないフロー図であり、その手順が本実施形態とは一部異なっている。
【0037】
図2(a)に示すように、印刷指令がなされると(
図9のステップS0)、用紙Pが給紙されて搬送路上の複数のローラによって搬送され、搬送装置30に到達する。用紙Pは、搬送ローラ31によって搬送されて、第一CIS33に、その後、斜行検知センサ35に到達する(ステップS1)。そして、第一CIS33による検知結果に基づいて、用紙Pの幅方向の位置ズレ量が、斜行検知センサ35による検知結果に基づいて、用紙Pの斜行量がそれぞれ算出される(ステップS2)。
【0038】
具体的な用紙Pの位置ズレ量の算出方法を、
図8を用いて説明する。
図8に示すように、第一CIS33によって、第一CIS33の位置における用紙Pの側端位置P2aの幅方向位置を検知することができる。この幅方向位置P2aと、用紙Pの側端P2の理想の幅方向位置である線Lとの幅方向の距離Aを算出することにより、用紙Pの幅方向の位置ズレ量を算出することができる。また、用紙Pの先端P1がそれぞれの斜行検知センサ35に到達すると、その到達のタイミングが検知される。それぞれの斜行検知センサ35への到達の時間差をt〔s〕、用紙搬送速度をv〔mm/s〕、二つの斜行検知センサの幅方向の離間距離をH〔mm〕とすると、斜行量(斜行角度)θ〔rad〕は、
Tanθ=vt/H・・・(1)
と表すことができる。この式(1)により、斜行量を求めることができる。
【0039】
そして、
図3に示すように、算出された用紙Pの斜行量および幅方向の位置ズレ量を補正量として、補正ローラ32が迎え動作を行う(ステップS3)。迎え動作は、補正ローラ32が、用紙Pの斜行の方向、および、幅方向の位置ズレ方向へ、その位置ズレ量の分だけ基準位置から移動する動作である。言い換えると、補正ローラ32が、位置ズレした用紙Pに正対した状態で、用紙Pを迎え入れることができるように移動する動作であり、補正ローラ32が
図3の点線部から実線部へ移動する動作である。また、補正ローラ32の基準位置は、用紙Pの搬送方向に対して直交して配置された位置である(
図3の点線部参照)。補正ローラ32の迎え動作は、用紙Pが補正ローラ32に到達するまでの間に完了する。
【0040】
図4に示すように、用紙Pが補正ローラ32に到達すると(ステップS4)、用紙Pは補正ローラ32に挟持されてさらに下流側へ搬送される。また、上流側の搬送ローラ31は、用紙Pから離間する。
【0041】
そして、
図5に示すように、補正ローラ32は、用紙Pを搬送すると共に、搬送面内での回転および幅方向の移動によって用紙Pの位置ズレを補正する、戻し動作を行う(ステップS5)。この戻し動作は、用紙Pが下流の第二CIS34に到達するまでの間に行われる。なお、補正ローラ32は、戻し動作により基準位置へ移動する。
【0042】
図6に示すように、補正動作を完了した用紙Pは、第二CIS34に到達し、第一CIS33および第二CIS34によって、用紙Pの位置が再度検知され、用紙Pの幅方向の位置ズレ量および斜行量が再度算出される(ステップS6)。
【0043】
そして、算出された用紙Pの位置ズレ量に基づいて、補正ローラ32が用紙Pを再度補正する(以下、この動作を用紙の再補正動作と呼ぶ。ステップS7参照。)。この再補正動作時には、第一CIS33および第二CIS34によって、時々刻々の用紙Pの位置が繰り返し検知されて用紙Pの位置ズレ量が算出され、この算出された位置ズレ量が、その都度、補正ローラ32の補正動作にフィードバックされるフィードバック制御が行われる。これにより、用紙Pの位置ズレ量を高精度に補正することができる。以上の第一CIS33および第二CIS34による検知動作は、用紙Pの後端が第一CIS33を通過するまでの間、行われる。また、再補正動作は、用紙Pが下流のローラ(本実施形態では、二次転写ローラ18)に到達するまでの間に完了する。
【0044】
そして、
図7に示すように、位置ズレを補正された用紙Pは、下流の二次転写ローラ18に到達し、二次転写ニップ位置にて画像を転写される(ステップS8)。以上のようにして、搬送装置30による用紙Pの搬送動作および搬送動作中の位置ズレ補正動作が行われる。このように、用紙Pは、その位置ズレを補正された状態で二次転写位置に到達し、画像が転写される。また、用紙Pの搬送を終えた補正ローラ32は、次の用紙の搬送に備えるために再び搬送路に正対した位置である基準位置に復帰する(ステップS8)。そして、これらの動作を、最後の用紙の搬送を終えるまで繰り返す(ステップS9)。
【0045】
以上の各動作により、搬送装置30が、用紙Pの位置ズレを補正しながら、下流側へ搬送することができる。
【0046】
ところで、前述したように、補正ローラ32の迎え動作は、用紙Pの位置ズレ量が算出されてから、用紙Pが補正ローラ32に到達するまでの間に行われる必要がある。例えば、用紙Pの幅方向の位置ズレ量の補正について考えると、
図10に示すように、用紙Pが距離X1を搬送されるまでの間に、用紙Pの位置検知および幅方向の位置ズレ量の算出と、補正ローラ32の迎え動作を行う必要がある。距離X1は、第一CIS33から補正ローラ32までの距離である。なお、
図10では、用紙Pの斜行が生じていない場合を示している。
【0047】
第一CIS33によって用紙Pの側端P2が検知され、用紙Pの幅方向の位置ズレ量が図の下方向(以下、この方向を幅方向の正方向と呼ぶ)に距離Y1と算出された。この場合、用紙Pが距離X1を搬送されるまでの間に、補正ローラ32を幅方向に距離Y1だけ移動する迎え動作を行う必要がある。言い換えると、補正ローラ32が距離Y1を移動できるように、用紙Pの搬送速度v、あるいは、距離X1を設定することが必要になる。つまり、用紙Pが距離X1を搬送される時間は、X1/v〔s〕であるため、補正ローラ32の幅方向の移動速度をV1〔mm/s〕とすると、X1/vが、補正ローラ32の移動時間Y1/V1〔s〕を上回るように、距離X1、搬送速度vを設定することになる。
【0048】
実際には、各用紙Pによって位置ズレ量にはバラつきがあるため、想定される最大の位置ズレ量が生じた場合でも迎え動作を完了できるように、用紙Pの搬送速度vや距離X1を設定することが必要になる。しかし、搬送速度vを小さくしたり、距離X1を大きくしたりすることは、用紙の搬送効率の低下や画像形成装置の大型化につながってしまうため、搬送速度vをできるだけ大きく、そして、搬送距離X1をできるだけ小さくすることが望ましい。そこで、本実施形態の学習位置を算出する搬送装置の構成により、迎え動作の移動量を抑制している。以下、本実施形態の構成、特に、補正ローラが配置される学習位置について説明する。
【0049】
用紙Pの位置ズレ量は、各々の用紙によってバラつきがあるものの、それぞれの画像形成装置毎、あるいは、搬送装置毎に固有の傾向が存在すると考えられる。例えば、それぞれの画像形成装置、あるいは、搬送装置の各部材の寸法誤差により、各装置固有の用紙Pの位置ズレの傾向が存在する。そこで本実施形態では、画像形成装置の出荷前に、それぞれの画像形成装置で複数枚の用紙Pを実際に搬送する動作を予め行わせる。この際、第一CIS33および斜行検知センサ35により、それぞれの用紙Pの位置を検知させ、用紙Pの位置ズレ量を算出する。そして、算出された位置ズレ量を平均化し、その位置ズレ量を学習させる(以下、この位置ズレ量を学習位置ズレ量と呼ぶ)。
【0050】
例えば、上記学習動作により、幅方向の学習位置ズレ量が正方向にY2であったとする。この場合、
図11に示すように、画像形成動作が開始される時点で、補正ローラ32を、幅方向の基準位置(図の補正ローラ32の点線位置)から、正方向に距離Y2の位置である学習位置(図の補正ローラ32の実線位置)へ予め移動させる。その後、用紙Pが第一CIS33に到達して用紙Pの幅方向の位置ズレ量が算出され、幅方向の位置ズレ量が正方向にY1であったとする。この場合、補正ローラ32は予め正方向へ距離Y2だけ移動しているため、迎え動作時の移動量が距離Y3になり、その移動距離がY2だけ小さくなる。
【0051】
このように、補正ローラ32の基準位置から学習位置への移動量を学習移動量と呼ぶ。そして、学習位置を設定することにより、補正ローラ32の迎え動作時の移動量を、学習移動量の分だけ小さくすることができる。具体的には、上記の例では、学習位置の設定がない場合には、前述したように、
X1/v>Y1/V1・・・(2)
を満たすように、搬送速度v、搬送距離X1を設定する必要があった。これに対して、学習位置を設定した場合には、
X1/v>(Y1-Y2)/V1・・・(3)
を満たせばよい。つまり、距離Y2分だけ補正ローラ32が小さくなったことにより、その分だけ式(3)の右辺が小さくなっている。従って、この右辺を上回るように、X1/vを設定すればよく、搬送距離X1をより小さくしたり、搬送速度vをより大きくすることができる。
【0052】
用紙Pの斜行を補正する場合にも、同様の方法によって学習位置を設定することにより、迎え動作時における補正ローラ32の搬送面内の回転量を小さくすることができる。
【0053】
具体的には、
図12に示すように、用紙Pが斜行検知センサ35に到達した位置から補正ローラ32に到達するまでの距離X2の間に、用紙Pの位置を検知して用紙Pの斜行量を算出し、迎え動作を完了する必要がある。そして、学習動作によって算出された斜行量の平均値がθ2〔rad〕、実際の用紙Pの斜行量がθ1〔rad〕であったとすると、印刷動作開始時に、補正ローラ32は、基準位置(図の点線部)から回転量θ2だけ反時計回りの方向へ回転した学習位置(図の実線部)へ移動している。これにより、迎え動作時の搬送面内の回転量が、斜行量θ1から回転量θ2を差し引いた回転量θ3〔rad〕になり、迎え動作時の移動量が小さくなる。
【0054】
上記のように、学習位置を設定することにより、搬送速度vを大きくしたり、搬送距離X2を小さくすることが可能になる。具体的には、補正ローラ32の搬送面内の回転速度をV2〔rad/s〕とすると、学習位置の設定がない場合には、
X2/v>θ1/V2・・・(4)
を満たすように搬送速度v、搬送距離X2を設定する必要があった。これに対して、学習位置を設定した場合には、
X2/v>(θ1-θ2)/V2・・・(5)
を満たせばよく、搬送距離X2をより小さくしたり、搬送速度vをより大きくすることができる。なお、式(2)および式(4)、あるいは、式(3)および式(5)を同時に満たすように、つまり、補正ローラ32の迎え動作において、斜行方向と幅方向の移動方向の両方の移動が間に合うように、各値を設定する。
【0055】
このように、予め補正ローラ32を学習位置へ移動させることにより、迎え動作時の補正ローラ32の移動量を小さくすることができる。従って、用紙の搬送速度vを大きくしたり、各センサと補正ローラ32との距離X1,X2を小さくすることができ、搬送装置30の搬送効率の向上や搬送装置30の小型化を実現することができる。
【0056】
なお、各々の用紙Pによって、その位置ズレ方向や位置ズレ量にはバラつきがあるため、学習した位置ズレ量の平均値とは逆方向へ用紙Pが位置ズレする等、補正ローラ32の学習位置への移動により、補正ローラ32の迎え動作時の移動量がかえって大きくなる場合も存在すると考えられる。しかし、前述の用紙Pの搬送速度vや、各センサと補正ローラ32の搬送方向の距離X1,X2は、想定される用紙Pの最大の位置ズレ量が生じた場合でも、補正ローラ32の迎え動作が完了できるように設定されている。このため、補正ローラ32の学習位置への移動は、最大の位置ズレ量を減らす方向への移動であればよく、必ずしも毎回迎え動作の移動量を減らすものでなくてもよい。この点、複数枚の用紙Pの位置ズレ量を平均化するという方法により、画像形成装置毎に固有の用紙Pの位置ズレの傾向を掴み、学習位置として反映することができる。ただし、想定される用紙Pの最大の位置ズレ量により、搬送速度vや距離X1,X2を設定するものとしたが、必ずしもこれに限らず、より頻度の高い位置ズレ量を想定して搬送速度vや距離X1,X2を設定することもできる。
【0057】
次に、前述した位置ズレ量の学習動作、および、補正ローラ32の学習位置の決定方法について、より詳細に説明する。
【0058】
学習位置を決定するための学習動作は、画像形成装置を市場に出荷する前に実施される。この学習動作では、複数枚の用紙Pについて実際に搬送動作を行うことにより、第一CIS33および斜行検知センサ35による検知結果に基づいて算出された位置ズレ量を記憶(学習)し、その平均値を算出した値を学習位置ズレ量とする。そして、補正ローラ32を、学習位置ズレ量の分だけ基準位置から移動させた位置を、補正ローラ32の学習位置として設定する。つまり、製品出荷時には、画像形成装置に学習位置が設定された状態になっている。
【0059】
また、学習動作は、印刷時の条件である印刷パラメータをそれぞれ変更して行われる。印刷パラメータとしては、搬送される用紙Pの紙種、紙厚等の用紙の属性に関する印刷パラメータや画像形成装置の周辺温度、周辺湿度等の装置の周辺環境条件に関する印刷パラメータがあり、これらの印刷パラメータの変化により、用紙Pの搬送時の条件が変化し、位置ズレ量の傾向も変化する。従って、各パラメータの設定条件毎に学習位置を設定することにより、より適切な学習位置の設定が可能になる。なお、印刷パラメータは、上記のものに限らず、用紙Pの位置ズレ量に影響するものを、適宜、設定することができる。
【0060】
具体的な学習動作としては、特定の印刷パラメータを変化させ、それ以外の印刷パラメータを固定するという条件で、用紙Pの搬送動作を行い、その際の位置ズレ量を学習する。印刷パラメータの各設定値は複数用意され、それぞれの設定値毎に複数枚分の位置ズレ量を学習する。そして、学習した位置ズレ量を平均化することで、各印刷パラメータの設定値毎の位置ズレ量を算出することができる。例えば、
図13に示すように、パラメータaの「紙種」を変化させる特定のパラメータとし、その他のパラメータを固定する。そして、パラメータaの「紙種」を、設定値1,2,3・・・、のように順に変化させて、それぞれの位置ズレ量を複数枚分学習させた後、その平均値である学習位置ズレ量(
図13では単に位置ズレ量と記載)を算出する。この作業を、全ての印刷パラメータa、b、c、・・・、について行うことにより、各印刷パラメータだけを変化させた際の学習位置ズレ量a1、a2、a3、・・・、b1、b2、・・・、をそれぞれ学習することができる。以上が、製品出荷前に行われる学習動作である。
【0061】
次に、製品出荷後の実際の画像形成動作時に学習位置を決定する方法について、
図13および
図14のフロー図を用いて説明する。
【0062】
図13に示すように、学習位置を算出する制御機構として、移動量算出部64と、位置ズレ量学習部65と、印刷パラメータ格納部66とが設けられる。
【0063】
移動量算出部64は、補正ローラ32の基準位置からの移動量である学習移動量、つまり、学習位置を算出することができる。
【0064】
位置ズレ量学習部65には、前述の学習動作によるパラメータ毎の学習位置ズレ量が記憶されている。例えば、パラメータbとして紙厚の設定値が、設定値1,2,3、・・・のように複数用意され、それぞれの紙厚の設定値毎に、その学習位置ズレ量b1、b2、b3、・・・、が記憶されている。
【0065】
印刷パラメータ格納部66には、前述の各印刷パラメータが格納されている。
【0066】
まず、画像形成装置が起動され、紙種等の印刷パラメータが設定された上で、画像形成装置に印刷指令がなされる(
図14のステップS51)。移動量算出部64は、設定された印刷パラメータを印刷パラメータ格納部66から読み出す(ステップS52)。例えば、
図13に示すように、紙種は設定値1、紙厚は設定値2といったように、それぞれの印刷パラメータの設定値が読み出される。
【0067】
移動量算出部64は、入力された印刷パラメータを位置ズレ量学習部65に入力し、入力した印刷パラメータに対応する各位置ズレ量の学習値を、位置ズレ量学習部65から読み出す(ステップS53)。例えば、印刷パラメータaの紙種は、設定値1なので、学習位置ズレ量a1を、印刷パラメータbの紙厚は、設定値2なので、学習位置ズレ量b2を、といったように、対応する学習位置ズレ量を読み出す。
【0068】
移動量算出部64は、読みだした各学習位置ズレ量の値を平均化して学習移動量を算出し、学習位置を決定する(ステップS54)。具体的には、学習位置ズレ量a1、b2、・・・、を平均化して学習移動量を算出する。なお、
図13の「変動量」については後述する。
【0069】
印刷パラメータ毎の位置ズレ量の平均化方法としては、単純に全ての位置ズレ量を平均化する方法であってもよいし、印刷パラメータ毎に重み付け平均をし、影響の大きい印刷パラメータの割合を大きくして平均値を算出する方法とすることもできる。このようにして、学習位置を決定することができる。なお、出荷前の学習動作において、全ての印刷パラメータの全ての設定値の組み合わせについて、その平均値を予め算出して学習させておくことで、上記の平均値の算出作業を出荷後に省略することもできる。
【0070】
ところで、画像形成装置を繰り返し使用することにより、画像形成装置の各部品が経時的に劣化することで、用紙Pの位置ズレ量の傾向も経時的に変化していく。このため、出荷前に設定した学習位置を継続して採用することが必ずしも最適ではなく、その更新をすることが望ましい。なお、経時的に位置ズレ量が変化する要因としては、例えば、用紙Pを搬送する搬送ローラや搬送ローラを駆動するための駆動部品の摩耗等による劣化、用紙Pの搬送動作や補正動作を制御する制御部に関連した電気部品、例えばコンデンサ等の経時劣化、検知機構であるCISや斜行検知センサの光量の減少や検知機構への異物の付着による検知制度の低下等が挙げられる。
【0071】
そこで、本実施形態では、このような経時的な劣化を考慮して学習位置を算出する。具体的には、製品の出荷後に印刷動作が行われた際に、第一CIS33および斜行検知センサ35による検知結果に基づいて算出される位置ズレ量と、設定した学習位置ズレ量との差分を学習する。そして、位置ズレ量学習部65(
図13参照)は、複数の上記差分のデータを平均化した値を、経時変化として学習する。
【0072】
経時変化を算出する方法としては、例えば、移動平均学習法を用いることができる。つまり、学習した差分のうち、最新の所定の枚数のデータを平均化した値を経時変化の値とすることができる。また、単純に最新のデータを平等に平均化する方法の他、時間重み付け平均により経時変化を算出することもできる。つまり、最新のデータに近いほど、現在の位置ズレ量の傾向に近いと考え、最新のデータに近いほどその比重を大きくして平均化する方法を採用することもできる。
【0073】
このようにして算出した経時変化の値を、学習位置の算出の際に用いる。具体的には、
図13に示すように、移動量算出部64は、各学習位置ズレ量に加えて、位置ズレ量学習部65に記憶されたパラメータN+1の経時変化における「変動量」の数値を読み出す。そして、移動量算出部64は、各学習位置ズレ量の平均値を算出した後、この平均値に上記変動量を加算した値を学習移動量とし、学習位置を算出する。このようにすることで、出荷前の学習動作だけでなく、その後の経時的な変化を反映して、学習位置を算出することができる。従って、より長期的に、迎え動作の移動量を効果的に減らすことができる。
【0074】
次に、学習した位置ズレ量や、設定された学習位置に基づいて、用紙の搬送速度vおよび搬送距離X1、X2を調整する方法について説明する。
【0075】
まず、出荷前の学習動作の時点で、紙種等の各印刷パラメータ(
図13参照)について、設定値毎の位置ズレ量を学習させている。この学習した位置ズレ量に基づいて、迎え動作時の補正ローラ32の移動量を推定することができるので、これにより、用紙Pの搬送速度vおよび搬送距離X1、X2を設定することができる。具体的には、例えば、各学習位置ズレ量a1、a2、・・・、b1、・・・、を算出する際に、各条件で複数枚分の位置ズレ量のデータを記憶している。これらの位置ズレ量のデータの正方向の最大値と、算出した各学習位置ズレ量のうちの負方向の最大値、あるいは、位置ズレ量のデータの負方向の最大値と、算出した各学習位置ズレ量のうちの正方向の最大値との差分を算出することにより、製品出荷後に生じる補正ローラ32の迎え動作時の最大の移動量の推定値を算出することができる。
【0076】
そして、補正ローラ32がこの最大の移動量を移動できるように、用紙Pの搬送速度vおよび搬送距離X1(
図11参照)、X2(
図12参照)を設定する。搬送速度vの調整は、上流側の搬送ローラ31の回転速度を調整することにより実施できる。また、搬送距離X1、X2の調整は、第一CIS33や斜行検知センサ35の配置を変更することにより実施できる。以上の調整が製品出荷前に実施する調整である。ただし、上記の方法は一例であり、適宜、記憶した位置ズレ量のデータと、学習位置ズレ量のデータを用いて、必要な搬送速度vおよび搬送距離X1、X2を設定することができる。
【0077】
そして、製品出荷後には、前述した経時的な劣化により、学習位置ズレ量が更新されて学習位置も更新されるため、これに合わせた調整が再度必要である。具体的には、本実施形態では、製品出荷後には、用紙搬送速度vを調整することにより、学習位置の更新に合わせた調整を行っている。一般的には、各部品の摩耗等の劣化が進むほど、用紙Pの位置ズレが大きくなり、位置ズレ量のばらつきも大きくなると考えられる。従って、製品出荷後に時間が経過するほど、補正ローラ32の移動量も大きくなると考えられ、搬送速度vを徐々に小さくしていく方向へ調整することになる。ただし、これに限らず、搬送速度vを大きくしていく方向の調整も可能なのはもちろんである。また、第一CIS33や斜行検知センサ35に位置調整機構を設けて、製品出荷後に、搬送距離X1、X2を調整する方法であってもよい。なお、用紙の搬送速度vを調整できるように、製品出荷時に、搬送速度vをその最大値および最小値よりも余裕を持った値に設定することはもちろんである。
【0078】
図15に、以上の学習位置の設定を行った、本実施形態の搬送装置30による搬送動作のフロー図を示す。
図15に示すように、画像形成装置に印刷指令がなされると、前述した
図14のフローにより、学習位置の算出が行われる(
図15のステップS20)。そして、補正ローラ32は、算出された学習位置へ移動する(ステップS21)。このように、本実施形態では、搬送装置30が用紙Pの搬送動作を開始する前に、補正ローラ32を基準位置から学習位置へ移動させる。
【0079】
この際、学習位置と想定される最大の位置ズレ量との差分を算出し、搬送ローラ31による用紙の搬送速度vの調整を行う(ステップS21)。前述したように、製品出荷前に、学習動作によって搬送速度vや搬送距離X1、X2の調整を行っている。これに加えて、本実施形態では、ステップS21において、実際に使用される学習位置が決定した際に、より細かく搬送速度vを調整している。これにより、経時変化によって学習位置が変化した際にも、この段階で搬送速度vを調整することができる。
【0080】
その後、用紙Pが搬送ローラ31によって搬送されて、第一CIS33、そして、斜行検知センサ35に到達し、用紙Pの位置の検知および位置ズレ量の算出が行われる(ステップS22,S23)。
【0081】
本実施形態ではこのようにして算出された位置ズレ量を、再び位置ズレ量学習部65(
図13参照)に学習させる(ステップS24)。これにより、前述のように、経時劣化による用紙Pの位置ズレ量の変化を考慮して、学習位置を更新することができる。
【0082】
本実施形態では、補正ローラ32の迎え動作時の移動量は、算出された位置ズレ量から、学習位置への移動量を差し引いたものである。従って、迎え動作前に、この差分を算出する動作が行われる(ステップS25)。そして、算出された差分量により、迎え動作が行われる(ステップS26)。
【0083】
以降のステップS27~S31の、戻し動作~再補正動作~用紙Pが二次転写ローラに到達するまでのフローは、
図9で説明したフローと同様であるため省略する。ただし、用紙Pの搬送後、補正ローラ32が復帰する位置は、基準位置ではなく、学習位置である点は異なる(ステップS31)。以上の動作を、最後の用紙まで繰り返し行う(ステップS32)。
【0084】
以上のように、本実施形態では、学習動作によって設定した学習位置へ補正ローラ32を予め移動させることにより、迎え動作時の補正ローラ32の移動量を低減することができる。つまり、用紙の搬送速度vをより大きくしたり、搬送距離X1,X2をより小さくすることができるので、用紙の搬送効率を向上させたり、搬送装置を小型化したりすることができる。また、経時的な部品などの劣化による用紙の位置ズレ量の変動にも対応することができるので、経時的な劣化によって補正ローラ32の迎え動作時の移動量が増加した場合でも、迎え動作を完了できなくなることを防止できる。
【0085】
図16は、以上の搬送装置30の各動作を制御する制御部の構成を示すブロック図である。
図16に示すように、制御部60は、第一モータ制御部61と、第二モータ制御部62と、位置ズレ量算出部63と、移動量算出部64と、位置ズレ量学習部65と、印刷パラメータ格納部66と、搬送モータ制御部67と、搬送速度調整部68とを有する。
【0086】
第一モータ制御部61および第二モータ制御部62は、移動量算出部64から送られた移動量の情報に基づいて、補正ローラ32の各移動動作を制御する部分である。
【0087】
第一モータ制御部61は、補正ローラ32の搬送面内での回転動作を制御する部分である。第一モータ制御部61からの信号により、第一モータドライバ611が第一モータ612を駆動させて補正ローラ32を搬送面内で回転させる。そして、第一モータエンコーダ613により、補正ローラ32の実際の搬送面内での回転量を検出する。
【0088】
第二モータ制御部62は、補正ローラ32の幅方向の移動動作を制御する部分である。第二モータ制御部62からの信号により、第二モータドライバ621が第二モータ622を駆動させて補正ローラ32を幅方向に移動させる。そして、第二モータエンコーダ623により、補正ローラ32の実際の幅方向の移動量を検出する。
【0089】
これらの第一モータ612および第二モータ622は、補正ローラ32の学習位置への移動動作(
図15のステップS21)、迎え動作(ステップS26)、戻し動作(ステップS28)、再補正動作(ステップS30)、そして、学習位置への復帰動作(ステップS31)の際に駆動されることになる。
【0090】
位置ズレ量算出部63は、第一CIS33、第二CIS34、斜行検知センサ35から受け取った検知情報から、用紙Pの斜行量および幅方向の位置ズレ量を算出する。また、第一CIS33および斜行検知センサ35によって検知された位置情報により、位置ズレ量算出部63が算出した位置ズレ量は、位置ズレ量学習部65に入力される。
【0091】
移動量算出部64は、前述したように、印刷パラメータ格納部66から印刷パラメータを読み出し、対応する学習した位置ズレ量を、位置ズレ量学習部65から読み取る。そして、読み取った位置ズレ量を基に、学習位置ズレ量、および、学習位置を算出する(
図14参照)。
【0092】
算出した学習位置、つまり、補正ローラ32の基準位置からの移動量を、第一モータ制御部61および第二モータ制御部62に入力する。また、迎え動作時には、学習位置と、位置ズレ量算出部63から入力された位置ズレ量の差分を算出し、第一モータ制御部61および第二モータ制御部62に入力する。そして、戻し動作時、および、再補正動作時には、位置ズレ量算出部63から入力された位置ズレ量を補正量とし、第一モータ制御部61および第二モータ制御部62に入力する。
【0093】
搬送モータ制御部67は、搬送ローラ31による用紙Pの搬送動作を制御し、用紙搬送速度vを調整する部分である。搬送モータ制御部67からの信号により、搬送モータドライバ671が搬送モータ672を駆動させて搬送ローラ31を回転駆動させる。
【0094】
また、搬送速度調整部68は、移動量算出部64が算出した学習位置と、位置ズレ量学習部65が学習した位置ズレ量とを読み込むことにより、想定される用紙Pの最大の位置ズレ量を算出し、この最大の位置ズレ量と学習位置との差分により、迎え動作時の補正ローラ32の最大の移動量を算出する。そして、補正ローラ32が迎え動作を完了するために必要な搬送ローラ31の搬送速度vを算出する。
【0095】
そして、搬送速度調整部68は、必要な搬送速度vを算出すると、この算出値を搬送モータ制御部67に入力する。搬送モータ制御部67は、入力された搬送速度vに基づいて、搬送モータドライバ671に指令を出す。搬送モータドライバ671は、搬送モータ672を駆動させ、搬送速度vを実現する速度で搬送ローラ31を回転駆動させる。
【0096】
図14で説明した画像形成装置1に対する印刷指令および各印刷パラメータの設定は、画像形成装置1に設けられた入力ボタン等によって直接入力される場合もあるし、
図17に示すように、画像形成装置1に接続されたデータ入力装置70から入力される場合もある。データ入力装置70には、データ入力装置70の処理画面を表示するディスプレイ71が接続される。データ入力装置70の一例としては、パーソナルコンピュータがある。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0098】
以上の説明では、出荷前の学習動作により、経時的でない印刷パラメータ(
図13のパラメータa~d等)のみを学習させるものとしたが、経時変化についても学習させてもよい。つまり、出荷前に所定以上の枚数だけ印刷動作(あるいは搬送動作)を行うことにより、位置ズレ量の経時的な変化を学習させ、その変化の傾向(例えば、印刷枚数に比例して位置ズレ量が増加する、印刷枚数の増加により指数関数的に位置ズレ量が増加する等)を学習させる。そして、製品の出荷後、印刷枚数が増加するごとに、設定した経時変化の傾向を基に、学習位置を変化させることができる。
【0099】
また、このような経時変化の出荷前の学習は、経時的な劣化の要素ごとに行ってもよい。例えば、摩耗の段階が異なる複数の搬送ローラを用いて用紙を複数枚搬送し、それぞれの用紙位置を検知して、位置ズレ量、および、位置ズレ量の変化量を算出する。これにより、搬送ローラの摩耗に起因する位置ズレ量の経時的な変化分を学習させることができる。この場合、製品出荷後、搬送ローラが途中で交換された際に、位置ズレ量学習部65が学習する経時劣化の値から、搬送ローラの摩耗による経時劣化分を差し引くといったこともできる。
【0100】
以上の実施形態では、出荷前に学習動作を行わせるものとしたが、必ずしもこれに限らない。例えば、出荷後に学習モード等を設定し、学習動作を行わせてもよい。
【0101】
図15のステップS31で復帰する学習位置は、連続する印刷動作の中では、全ての用紙で同一の学習位置に復帰させるものとしたが、一枚一枚について学習位置を決定してもよい。この場合、一枚ごとにステップS20の学習位置の算出を行うことになる。
【0102】
本発明に係る画像形成装置は、
図1に示すカラー画像形成装置に限らず、モノクロ画像形成装置や、複写機、プリンタ、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機等であってもよい。
【0103】
また、以上で説明した実施形態では、電子写真方式の画像形成装置1に設置される搬送装置30に対して本発明を適用したが、インクジェット方式の画像形成装置に設置される搬送装置に対しても本発明を適用することができる。以下、
図18を用いてインクジェット方式の画像形成装置について説明する。
【0104】
図18に示すように、インクジェット方式の画像形成装置100は、給紙部110と、搬送装置120と、画像形成部130と、乾燥部140と、排紙部150とを備えている。
【0105】
給紙部110から送り出された用紙Pは、搬送装置120によって搬送され、画像形成部130へ送り出される。
【0106】
画像形成部130においては、用紙Pが円筒形状ドラム131に位置決めされ、円筒形状ドラム131の回転によって図中矢印方向へ搬送される。そして、各色の吐出ヘッド132の下部(用紙Pへの画像形成位置)に所定のタイミングで用紙Pが搬送され、各色のインクが用紙Pに吐き出され、用紙Pの表面上に画像が形成される。
【0107】
画像形成部130によって画像が形成された用紙Pは、乾燥部140に搬送されてインク中の水分を蒸発させた後、排紙部150にて、作業者が取り出し可能な位置に排出される。
【0108】
両面印刷が行われる場合には、乾燥工程の後、用紙Pが反転搬送路160へ送られて、用紙Pの表裏が反転した状態で、再び搬送装置120へ送り出される。
【0109】
上記の搬送装置120に、前述した本発明の搬送装置の構成を適用することにより、前述した実施形態と同様の効果を得ることができる。つまり、搬送装置120によって用紙Pを搬送しながらその位置ズレを補正した状態で、下流側の画像形成部130へ送り出すことができる。また、この際、上記学習位置を設定することにより、迎え動作の移動量を低減することができ、搬送装置30の搬送効率の向上あるいは搬送装置120の小型化を実現できる。
【0110】
シートとしては、用紙P(普通紙)の他、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、プラスチックフィルム、プリプレグ、銅箔等が含まれる。これらを、前述の印刷パラメータの紙種(シート種)や紙厚(シート厚)の設定値として、それぞれ登録することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 画像形成装置
18 二次転写ローラ
30 搬送装置
31 搬送ローラ
32 補正ローラ(補正部材)
34 第一CIS(検知機構)
35 第二CIS(検知機構)
36 斜行検知センサ(検知機構)
60 制御部
63 位置ズレ量算出部
64 移動量算出部
65 位置ズレ量学習部
66 印刷パラメータ格納部
v 用紙搬送速度
X1,X2 搬送距離
P 用紙(シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0112】