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特許7187775非晶質試料の結晶化温度測定方法および結晶化温度測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】非晶質試料の結晶化温度測定方法および結晶化温度測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20033 20180101AFI20221206BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N23/20033
G01N23/2055 320
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018005804
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019124599
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】林 一英
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-218170(JP,A)
【文献】特開2014-107303(JP,A)
【文献】特開昭58-044336(JP,A)
【文献】特開2013-108940(JP,A)
【文献】国際公開第2016/059673(WO,A1)
【文献】特開平05-256799(JP,A)
【文献】特開2001-050913(JP,A)
【文献】特開2002-323462(JP,A)
【文献】米国特許第05198043(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/20 - 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質試料の結晶化温度を測定する測定方法であって、
前記非晶質試料を加熱炉内に設けられるステージに載置する載置工程と、
前記加熱炉内で前記非晶質試料を段階的に昇温させて、前記非晶質試料の温度が各段階となったときに前記非晶質試料にX線を照射して前記非晶質試料からの回折X線を検出し、前記非晶質試料について各温度での回折パターンを取得する取得工程と、
前記各温度での回折パターンから前記非晶質試料の結晶化温度を測定する測定工程と、を有し、
前記非晶質試料は、非晶質の薄膜または板状部材、もしくは非晶質の薄膜を含む積層体であり、
前記取得工程では、複数の半導体素子が走査方向に直列に配列されたアレイ型半導体検出器を用いて前記回折X線を薄膜法により検出する、非晶質試料の結晶化温度測定方法。
【請求項2】
前記取得工程では、前記ステージの加熱膨張により前記非晶質試料の位置が上方へ変動するのに応じて前記ステージを降下させて、前記非晶質試料の前記加熱炉内での位置が一定となるように維持しつつ、前記各温度での回折パターンを取得する、
請求項1に記載の非晶質試料の結晶化温度測定方法。
【請求項3】
非晶質試料の結晶化温度を測定する測定システムであって、
加熱炉と、
前記加熱炉内に設けられ、前記非晶質試料を載置するステージと、
前記加熱炉外に設けられ、前記非晶質試料にX線を照射するX線照射部と、
前記加熱炉外に設けられ、前記非晶質試料からの回折X線を検出する検出部と、
前記検出部で検出された結果に基づいて回折パターンを取得する取得部と、を備え、
前記非晶質試料は、非晶質の薄膜または板状部材、もしくは非晶質の薄膜を含む積層体であり、
前記検出部は、複数の半導体素子が走査方向に直列に配列されたアレイ型半導体検出器を有し、
前記加熱炉は、加熱により前記非晶質試料を段階的に昇温させ、前記X線照射部は、薄膜法により前記非晶質試料が各温度となったときに前記X線を照射し、前記検出部は、前記回折X線を検出し、前記取得部は、前記非晶質試料の各温度での回折パターンを取得するようにそれぞれ制御される、非晶質試料の結晶化温度測定システム。
【請求項4】
前記ステージの高さを調節する高さ調節部をさらに備え、
前記高さ調節部は、前記ステージの加熱膨張により前記非晶質試料が上方へ変動するのに応じて前記ステージを降下させて、前記非晶質試料の前記加熱炉内での位置を一定に維持するように制御される、
請求項3に記載の非晶質試料の結晶化温度測定システム。
【請求項5】
前記高さ調節部は、前記加熱炉内の温度と前記ステージの高さ変動量との相関に基づいて、前記ステージを降下させるように構成されている、
請求項4に記載の非晶質試料の結晶化温度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質試料の結晶化温度測定方法および結晶化温度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製品の製造工程においては、原料を加熱する工程を経て前駆体あるいは最終製品を得ていることがある。この加熱工程は、原料に付着・吸着している成分(例えば水分や有機物など)を脱離させる目的の他、例えば原料についてアモルファス状態から新たに結晶を生成させたり、結晶成長を促進させたり、というように結晶相の構造を変化(相転移)させる目的で実施される。
【0003】
結晶相が構造変化する温度は原料によって異なるため、最適な加熱条件を決定するには、原料が結晶化する温度や相転移する温度を予め把握する必要がある。この結晶化温度を測定する方法としては、例えば、熱分析法や赤外線吸収法、密度法などがあるが、最も一般的な方法の1つとしては、X線回折(以下、単にXRDともいう)を用いた試料高温測定法が挙げられる。このとき測定される結晶化温度は、試料全体の平均情報となる。
【0004】
また、非晶質試料が薄い場合は、例えば、XRD薄膜法(いわゆる2θスキャン法)によりX線を照射し回折パターンを取得することが考えられる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-108940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した方法では、結晶化温度を精度よく測定できないことがあり、特に、非晶質試料が薄い場合に十分な測定精度が得られないことがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、非晶質試料について結晶化温度を精度よく測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
非晶質試料の結晶化温度を測定する測定方法であって、
前記非晶質試料を加熱炉内に設けられるステージに載置する載置工程と、
前記加熱炉内で前記非晶質試料を段階的に昇温させて、前記非晶質試料の温度が各段階となったときに前記非晶質試料にX線を照射して前記非晶質試料からの回折X線を検出し、前記非晶質試料について各温度での回折パターンを取得する取得工程と、
前記各温度での回折パターンから前記非晶質試料の結晶化温度を測定する測定工程と、を有し、
前記取得工程では、複数の半導体素子が走査方向に配列されたアレイ型半導体検出器を用いて前記回折X線を検出する、非晶質試料の結晶化温度測定方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様の非晶質試料の結晶化温度測定方法において、
前記取得工程では、前記ステージの加熱膨張により前記非晶質試料の位置が上方へ変動するのに応じて前記ステージを降下させて、前記非晶質試料の前記加熱炉内での位置が一定となるように維持しつつ、前記各温度での回折パターンを取得する。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様の非晶質試料の結晶化温度測定方法において、
前記取得工程では、薄膜法により前記回折パターンを取得する。
【0011】
本発明の第4の態様は、
非晶質試料の結晶化温度を測定する測定システムであって、
加熱炉と、
前記加熱炉内に設けられ、前記非晶質試料を載置するステージと、
前記加熱炉外に設けられ、前記非晶質試料にX線を照射するX線照射部と、
前記加熱炉外に設けられ、前記非晶質試料からの回折X線を検出する検出部と、
前記検出部で検出された結果に基づいて回折パターンを取得する取得部と、を備え、
前記検出部は、複数の半導体素子が走査方向に配列されたアレイ型半導体検出器を有し、
前記加熱炉は、加熱により前記非晶質試料を段階的に昇温させ、前記X線照射部は、前記非晶質試料が各温度となったときに前記X線を照射し、前記検出部は、前記回折X線を検出し、前記取得部は、前記非晶質試料の各温度での回折パターンを取得するようにそれぞれ制御される、非晶質試料の結晶化温度測定システムが提供される。
【0012】
本発明の第5の態様は、第4の態様の非晶質試料の結晶化温度測定システムにおいて、
前記ステージの高さを調節する高さ調節部をさらに備え、
前記高さ調節部は、前記ステージの加熱膨張により前記非晶質試料が上方へ変動するのに応じて前記ステージを降下させて、前記非晶質試料の前記加熱炉内での位置を一定に維持するように制御される。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様の非晶質試料の結晶化温度測定システムにおいて、
前記高さ調節部は、前記加熱炉内の温度と前記ステージの高さ変動量との相関に基づいて、前記ステージを降下させるように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非晶質試料について結晶化温度を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる非晶質試料の結晶化温度測定システムの概略構成図である。
図2図2は、実施例1で使用したステージの各温度における高さ変動を示す図である。
図3図3は、実施例1において加熱炉内の温度によるX線の半割強度の変化を示す図である。
図4図4は、実施例1における各温度での回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
試料高温測定法は、一般に、加熱炉内で試料を段階的に昇温させて試料温度が各段階となったときに、試料に対してX線を照射し回折X線を検出することで、各温度での回折パターンを取得し、これらの回折ピークを比較してその変化から試料の結晶化温度を測定する方法である。
【0017】
本発明者は、非晶質試料の結晶化温度を試料高温測定法で測定するときに所望の精度を得られない理由について検討した。その結果、非晶質試料で回折される回折X線の強度が弱く、回折X線を検出して回折パターンを取得するのに要する時間が長いためであることを見出した。
【0018】
一般に、XRD薄膜法によりX線を照射する場合、回折X線を検出する検出器として、PC(プロポーショナルカウンタ:比例計数管検出器)やSC(シンチレーションカウンタ)などが使用される。これらの検出器は感度が低いため、強度の弱い回折X線を検出して回折パターンを取得する時間が長くなる。そうなると、非晶質試料を昇温させて加熱する時間が総体的に長くなるため、非晶質試料がアニールされて本来の結晶化温度よりも低い温度で結晶化してしまうことがあり、結晶化温度を精度よく測定しにくくなる。一方、PCやSCを用いたときに総体的な加熱時間が長くならないように、昇温させる温度幅を広げて回折パターンの取得数を少なくすることも考えられるが、この場合、測定される結晶化温度の範囲が広くなり、測定精度が不十分となる。
【0019】
このように回折パターンの取得に要する時間が長くなることで、非晶質試料の結晶化温度が本来の温度よりも低い範囲で測定されたり、幅広い温度範囲で測定されたりすることで、精度よく測定できないことがある。
【0020】
このことから、本発明者は、回折パターンの取得に要する時間を短縮する方法を検討し、複数の半導体素子が配列されたアレイ型半導体検出器を用いるとよいことを見出した。本発明は、上記知見に基づいて成されたものである。
【0021】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる非晶質試料の結晶化温度測定システムの概略構成図である。
【0022】
本実施形態の結晶化温度測定システム10は、加熱炉11、ステージ12、X線照射部13、検出部14、取得部(図示略)および制御部(図示略)を備える。
【0023】
加熱炉11は、ステージ12を収容するような中空部を有し、ステージ12上に載置される非晶質試料1(以下、単に試料1ともいう)を、例えば輻射加熱により、均等に加熱できるように構成されている。図1では、加熱炉11は円筒状に形成されているが、その形状は特に限定されない。
【0024】
ステージ12は、加熱炉11内に設けられている。ステージ12は、試料1を載置する載置面を有し、試料1を均等に加熱させるために加熱炉11内の中央に試料1を位置させて支持する。
【0025】
X線照射部13は、加熱炉11外に設けられている。X線照射部13は、加熱炉11の外側から試料1に対してX線を照射するように構成される。例えば、X線を放射するX線源と、放射されたX線を試料1へ入射させるための光学系とを備え、X線のダイレクトビームを試料1に対して照射するように構成される。X線照射部13は、試料1に照射するX線の入射角度が所定の値で固定されるように配置される。試料1が例えば薄い薄膜である場合、X線の入射角度が低角(例えば0.5°~1.0°)で固定されるようにX線照射部13を配置するとよい。
【0026】
検出部14は、加熱炉11の外側に設けられ、試料1を挟んでX線照射部13とは反対側に配置される。検出部14は、試料1で回折されて加熱炉11の外側に放出される回折X線を検出するように構成されている。検出部14は、例えば、ゴニオメータ(図示略)に搭載されて、試料1を中心に回転移動する方向(以下、走査方向ともいう)に走査される。
【0027】
検出部14は、X線を検出する検出器を備えている。本実施形態では、検出器としてアレイ型半導体検出器を用いる。アレイ型半導体検出器は、検出器の走査方向に複数の半導体検出器を直列に並べたものであり、SCやPCよりも高い感度を有する。例えば、半導体検出器を100個並べたものであれば、SCなどの約100倍の感度を得ることができる。この半導体検出器によれば、高感度であって、1回の回折パターンの取得に要する時間を短縮することができる。
【0028】
アレイ型半導体検出器は、一般的に、XRDにおいて集中法の光学系で使用されており、これまで、薄膜法の光学系で使用することは検討されていなかった。その理由は、薄膜法の光学系で使用する場合、試料1の表面に低角で入射してX線が広がった分だけ回折X線が広がって発生するので、検出器の位置によって取り込まれる回折X線が大きく異なり、測定精度に影響を及ぼすためと考えられていた。
【0029】
この点、本発明者の検討によると、試料1の結晶化温度を測定する場合であれば、結晶化によって生じる回折ピークの前後の狭い角度範囲のみでアレイ型半導体検出器を走査させることで、回折X線の広がりによる測定精度の低下を最小限とし、無視できることが見出された。つまり、試料1の結晶化温度測定においては、アレイ型半導体検出器を用いることで、測定精度を維持しつつ、高い感度で測定できることが見出された。これにより、各温度での回折パターンの1回の取得に要する時間を短縮することができる。例えば、検出器としてPCやSCを用いた場合では1回の取得に数時間要するのに対して、アレイ型半導体検出器を用いることで、数分以内に短縮することができる。そのため、試料1において長時間の加熱によるアニールの促進を抑制することができ、試料1の本来の結晶化温度を精度よく測定することが可能となる。しかも、各温度での測定時間を短縮できるので、段階的に昇温させる温度幅を狭めて、回折パターンの取得数を増やしたとしても、総体的な加熱時間を増大させることなく、各温度の回折パターンを取得することができる。これにより、試料1の結晶化温度の範囲をより絞って特定することが可能となる。
【0030】
取得部は、検出部14で検出された結果に基づいて、例えば、回折角と回折X線の強度との関係を示す回折パターン(いわゆる回折強度曲線)を取得するように構成されている。
【0031】
制御部は、加熱炉11、X線照射部13、検出部14、取得部をそれぞれ以下のように制御する。
加熱炉11は、試料1を段階的に昇温させるように制御される。例えば、試料1を温度Tまで昇温させたら、回折パターンを取得するために一定時間、温度Tに保持し、取得後、試料1を温度Tまで昇温させて一定時間保持する、といったように昇温と保持を繰り返して、試料1の温度を段階的に昇温させる。
X線照射部13は、試料1が昇温により各温度となるごとに、試料1に対してX線を照射するように制御される。X線は、例えば、試料1によりダイレクトビームの半分が遮られる(ダイレクトビームの1/2倍強度:いわゆる半割)ように、試料1に対して照射される。
検出部14は、試料1が各温度となったときに照射されて試料1で回折される回折X線を検出するように制御される。例えば、試料1において結晶化によって生じる回折ピークの回折角を含む狭い角度範囲を走査するとよい。
取得部は、検出部14で検出された結果に基づいて、試料1について各温度での回折パターンを取得するように制御される。
【0032】
結晶化温度測定システム10は、詳細を後述するように、結晶化温度をより精度よく測定する観点から、さらに高さ調節部15を備えることが好ましい。高さ調節部15は、加熱炉11の外側に設けられ、加熱炉11内のステージ12を高さ方向に移動(上下動)できるように構成されている。高さ調節部15は、ステージ12の高さを調節し、載置される試料1の加熱炉11内での高さ方向の位置を調節することができる。高さ調節部15は、加熱炉11内の昇温にともなってステージ12が加熱膨張することで試料1が上方へ変動するときに、その変動量に応じてステージ12を降下させて、試料1の加熱炉11内での位置を一定に維持するように制御されることが好ましい。
【0033】
続いて、上述したシステム10を用いて試料1の結晶化温度を測定する場合について説明する。
【0034】
まず、非晶質試料1を準備する。非晶質試料1は、例えば、結晶性を持たない材料からなる薄膜又は板状部材、もしくは数μmの基板の表面に結晶性を持たない材料からなる薄膜が形成された積層体である。本実施形態では、試料1の位置変動を抑制できるので、試料1が厚さ1nm程度の非晶質薄膜を有する場合であっても、精度よく測定することができる。なお、試料1の厚さの上限は、特に限定されないが、例えば数mm程度とすることができる。
【0035】
続いて、試料1を測定面が上面となるように加熱炉11内のステージ12上に載置する。試料1は、均等に加熱されるように、加熱炉11内の中央に配置される。このときの試料1の表面が基準面となる。
【0036】
続いて、試料1を例えば輻射加熱し、試料1の温度を段階的に昇温させて、試料1が各温度となったときに試料1の表面に対してX線を照射し、各温度での回折パターンを取得する。例えば、試料1について、加熱温度を100℃から5℃ずつ200℃まで段階的に温度を変化させたときの各温度の回折パターンを取得する場合であれば、以下のように加熱し、回折パターンを取得するとよい。
【0037】
具体的には、まず、試料1を100℃となるまで加熱する。試料1の温度が100℃となったら、その温度に保持する。その状態で試料1の表面に対して、X線照射部13からX線のダイレクトビームを照射する。そして、試料1で回折された回折X線を検出部14を走査させて検出し、取得部にて検出部14での結果に基づいて試料1についての100℃での回折パターンを取得する。次に、試料1を加熱して試料1を105℃まで昇温させ、その温度に保持したうえで、試料1に対してX線を照射して回折X線を検出することで、105℃での回折パターンを取得する。そして、これらの操作を、試料1の温度が200℃となるまで繰り返すことにより、100℃から200℃まで5℃ずつ段階的に温度を変化させたときの回折パターンを取得する。
【0038】
本実施形態では、回折X線を検出する検出器として、アレイ型半導体検出器を用いている。アレイ型半導体検出器によれば、感度が高いので、回折パターンの1回の取得に要する時間を短縮することができる。これにより、試料1が加熱される時間を減らしてアニールを抑制し、試料1の本来の結晶化温度を測定することができる。また、段階的に昇温させる温度の幅を狭めて、試料1の結晶化温度の範囲をより絞って特定することができる。
【0039】
段階的に昇温させる温度の幅は、特に限定されず、試料1の種類に応じて適宜変更するとよい。例えば、2℃又は3℃~100℃の範囲で適宜変更するとよい。
【0040】
なお、試料1へのX線の照射は薄膜法で行うとよい。例えば、X線を低角固定で試料1に対して照射して、検出部14を試料1を中心に回転させて走査するとよい。このとき、X線は、例えば半割となるように、試料1の表面への照射位置と角度を調整したうえで照射するとよい。
【0041】
続いて、各温度での回折パターンから試料1の結晶化温度を測定する。具体的には、各温度での回折パターンを比較して、回折ピークが変化したときの温度を特定し、そのときの温度を結晶化温度とする。
【0042】
以上により、試料1の結晶化温度を測定することができる。
【0043】
<本実施形態にかかる効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0044】
本実施形態では、試料1の結晶化温度を測定すべく、試料1の温度を段階的に昇温させて各温度での回折パターンを取得する際に、アレイ型半導体検出器を用いて回折X線を検出している。アレイ型半導体検出器によれば、強度の弱い回折X線であっても、高い感度で測定することができる。また、X線を低角で照射したときに回折される回折X線は広がって発生するが、上記検出器を、試料1において結晶化によって生じる回折ピークの前後の狭い角度範囲で走査することで、回折X線の広がりによる測定精度の低下を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、測定精度を維持しつつ、高い感度で測定でき、回折パターンを取得するのに要する時間を大幅に短縮することができる。この結果、試料1においてアニールの促進を抑制し、試料1の本来の結晶化温度を測定することができる。さらに、段階的に昇温させる温度幅を狭めることで、回折パターンの取得数を増やしたとしても、総体的な加熱時間を増大させることなく、各温度の回折パターンを取得することができる。つまり、試料1の結晶化温度の範囲をより絞って特定することができる。
【0045】
段階的に昇温させる温度幅は、特に限定されないが、アレイ型半導体検出器によれば、1回の測定時間を短縮できるので、温度幅を例えば10℃以下に設定して、結晶化温度をより狭い範囲で特定することができる。しかも、温度幅を狭めて回折パターンの取得数が増えた場合であっても、加熱する累積の時間を低く抑えることができるので、アニールによる結晶化を大きく促進させることなく、結晶化温度を精度よく測定することができる。
【0046】
また、本実施形態では、試料1の温度を段階的に昇温させて、各温度での回折パターンを取得する際に、高さ調節部15により、ステージ12の加熱膨張による試料1の上方への変動に応じてステージ12を降下させ、試料1の加熱炉11内での位置が一定となるように維持することが好ましい。この点について、本発明者が得た知見を以下に説明する。
【0047】
本発明者の検討によると、加熱炉11で試料1の温度を段階的に昇温させる場合、加熱温度の上昇にともなって回折パターンの精度が低下することがあり、これは、照射するX線が試料1の基準面から徐々に外れてしまうことに起因することが見出された。
【0048】
具体的に説明すると、XRD薄膜法により試料1の回折パターンを取得する場合、試料1を加熱炉11内のステージ12に載置して所定の高さに配置させたうえで、試料1へのX線の入射角を、例えば0.5°~1.0°の低い角度に固定する。このときの試料1の位置が基準となり、X線が照射される表面が基準面となる。試料1を昇温させる初期段階では、加熱炉11内の加熱温度が低く、ステージ12が大きく加熱膨張することはない。そのため、試料1の位置が加熱炉11内で大きく変動することはなく、照射するX線が基準面から外れにくい。しかし、加熱炉11内の加熱温度が高くなるにつれて、ステージ12が加熱膨張することで、試料1の位置が加熱炉11内で上昇し、その表面が基準面から徐々に外れることになる。X線は入射角が固定した状態で試料1に照射されるため、試料1の位置が変動することで、試料1へのX線の当たり方が変化し、測定精度が低くなることがある。
【0049】
この点、高さ調節部15によりステージ12の位置を、加熱温度によらず一定の高さとなるように制御することで、試料1の加熱炉11内での位置を一定に維持して、試料1が基準面から外れないようにすることができる。本実施形態では、試料1の温度を段階的に昇温させるので、例えば、試料1の温度が各段階となるごとにステージ12を所定の高さ分だけ降下させ、ステージ12(試料1)の高さが一定となるように維持するとよい。これにより、試料1へのX線の照射位置のずれを抑制することができる。例えば、X線のダイレクトビームを半割(強度が0.5倍)となるように試料1に照射したときに、その強度を、加熱炉11内の温度にかかわらず、0.45倍~0.55倍の範囲内に維持することができ、昇温にともなうX線照射のずれを抑制することができる。つまり、強度の変動を±10%以内に抑え、各温度での回折パターンを取得するときの測定条件のばらつきを抑えることができる。その結果、試料1の結晶化温度を精度よく測定することができる。
【0050】
また、高さ調節部15は、加熱炉11内の温度とステージ12の高さ変動量との相関に基づいて、ステージ12を降下させるように制御されることが好ましい。ステージ12の上方への変動量は、ステージ12の構造や材質によって異なるので、加熱炉11内の温度とステージ12による試料1の上方への変動量との相関を測定前に取得し、測定時にその相関に基づいてステージ12を降下させるように高さ調節部15を制御するとよい。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0053】
(実施例1)
まず、上述した測定システムを準備した。本実施例の測定システムでは、ステージの高さが、高さ調節部により、予め取得した図2に示す相関に基づいて加熱炉内の温度に応じて降下し、非晶質試料の加熱炉内での位置が一定に維持されるように(非晶質試料の表面が基準面から外れないように)制御されている。図2は、実施例1で使用したステージの各温度における高さ変動を示す図であり、横軸は加熱炉内の温度を示し、縦軸はステージを降下させるときの変動量を示す。図2によれば、加熱炉内の温度とステージの高さ変動との相関を示す近似式から、所定の温度においてステージを降下させる変動量が求められ、高さ調節部はこの変動量に基づいてステージを降下させる。検出部における検出器としては、100個の半導体検出器が走査方向に直列に並んだアレイ型半導体検出器を用いた。
【0054】
本測定システムにおいて、非晶質試料の昇温過程で、薄膜法によるX線の照射位置が非晶質試料の表面から外れていないかを確認するため、X線のダイレクトビームの半割強度の変化を評価した。その結果、図3に示すように、加熱炉内の温度にかかわらず、X線のダイレクトビームの半割強度を0.5倍程度に維持できることが確認された。図3は、実施例1において加熱炉内の温度によるX線の半割強度の変化を示す図であり、横軸は加熱炉内の温度を示し、縦軸はX線の半割強度を示す。図3によれば、昇温過程でのステージの加熱膨張による非晶質試料の上方への変動を抑え、各温度での照射条件のばらつきを低減できることが確認された。
【0055】
次に、上述の測定システムを用いて、表面に厚さ20nmの非晶質薄膜が形成された非晶質試料の結晶化温度を測定した。具体的には、加熱炉内で、非晶質の位置が一定となるように制御しながら、非晶質試料の温度を175℃から210℃の範囲まで5℃の間隔で段階的に昇温させた。そして、段階的に昇温させた各温度にて、非晶質試料の表面に対して薄膜法によりX線のダイレクトビームを半割となるように照射して回折X線を検出することで、各温度での回折パターンを取得した。得られた回折パターンを図4に示す。図4は、実施例1における各温度での回折パターンを示す図であり、横軸は検出器の角度(2θ)を示し、縦軸は強度を示す。
【0056】
図4によると、190℃での回折パターンと、195℃の回折パターンを比較したときに、回折ピークが変動していることから、本実施例の非晶質試料の結晶化温度は、190℃~195℃の範囲にあることが確認された。
【0057】
また、本実施例では、アレイ型半導体検出器を用いることで、各温度での回折パターンの取得に要する時間を数分以内に短縮し、非晶質試料を加熱する累積時間を短縮することができた。これにより、非晶質試料の加熱によるアニールを抑制し、非晶質試料の本来の結晶化温度を精度よく測定できた。しかも、昇温させる温度幅を狭めることで、結晶化温度をより狭めて特定できた。
【0058】
以上説明したように、非晶質試料の結晶化温度の測定に際して、アレイ型半導体検出器を用いることにより、回折パターンの1回の取得に要する時間を短縮することができ、非晶質試料の結晶化温度を精度よく測定することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 非晶質試料
10 結晶化温度測定システム
11 加熱炉
12 ステージ
13 X線照射部
14 検出部
15 高さ調節部
図1
図2
図3
図4