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  • 特許-オートクレーブの冷却方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】オートクレーブの冷却方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/08 20060101AFI20221206BHJP
   B01J 3/04 20060101ALI20221206BHJP
   C22B 3/44 20060101ALN20221206BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C22B3/08
B01J3/04 F
C22B3/44 101B
C22B23/00 102
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018109325
(22)【出願日】2018-06-07
(65)【公開番号】P2019209292
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-025143(JP,A)
【文献】特開2014-088620(JP,A)
【文献】特開平05-269363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 3/00- 3/08
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素鋼製の円筒形の容器を横向きにした横長の俵型形状を有しており、その内部が堰によって区分された複数の連続する貯留部を有し、最も上流側に供給された原料スラリー及び硫酸を順次下流側の貯留部に移送することによって、各貯留部において撹拌しながら高温高圧条件下で酸浸出処理を行うHPALプラントのオートクレーブにおける運転停止時の冷却方法であって、前記原料スラリー及び硫酸の供給を停止した後、前記複数の貯留部のうち最も上流側の貯留部と、該移送方向の中間よりも下流側の貯留部との少なくとも2つに冷却水を注入することを特徴とするオートクレーブの冷却方法。
【請求項2】
前記複数の貯留部のうち、最も上流側の貯留部の液温と最も下流側の貯留部の液温との温度差が25℃以下になるように冷却水の注入量を調整することを特徴とする、請求項1記載のオートクレーブの冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬において使用されるオートクレーブの運転停止後の冷却方法に関し、より詳しくは、原料としてのニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに対して高圧酸浸出処理を施してニッケル及びコバルトの浸出を行うオートクレーブにおいて、その内部点検等のため運転停止後に行う冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬プロセスとして、硫酸を用いたHPAL(High Pressure Acid Leach)法とも称する高圧酸浸出法が注目されている。このHPAL法は、鉄を主成分としニッケルを1~2質量%程度含有する低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を原料に用いる場合であってもニッケル及びコバルトを選択的に回収することができるうえ、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法とは異なり乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含んでおらず、一貫した湿式工程で処理を行うので、エネルギー的及びコスト的にも有利なプロセスである。
【0003】
上記のHPAL法によるニッケル製錬方法は、例えば特許文献1に記載のように、所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石に水を加えて所定のスラリー濃度の鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程と、その鉱石スラリーに硫酸を添加し、更に高圧蒸気を吹き込んで220~250℃、3,000~4,500kPaGの高温高圧条件下で浸出処理を施すことで該ニッケル酸化鉱石中のニッケル及びコバルトを浸出して浸出スラリーを得る浸出工程と、得られた浸出スラリーをニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程と、得られた浸出液をpH3~4に調整して該浸出液に含まれる鉄等の不純物元素を中和により分離除去する中和工程と、該不純物元素が分離除去された浸出液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加してニッケル及びコバルトをその混合硫化物の形態で回収する硫化工程とを有している。
【0004】
上記の一連の工程のうち、浸出工程においては高温高圧の条件下で浸出処理を行うのでオートクレーブと称する圧力容器が用いられる。このような高温高圧下での処理が行われるオートクレーブに冷却水を供給して冷却する場合は、例えば特許文献2に記載されているように、オートクレーブの高温域が過冷却による熱衝撃により破損等の問題を生ずるのを防ぐため、該冷却水の供給量をON-OFF制御したり流量制御したりすることにより調節することが行われている。また、冷却水の供給過多により冷却過程において温度が下がりすぎるのを抑えるため、オートクレーブに蒸気を吹き込んで加温することにより所定の温度勾配に沿って降温するように調製を行う場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-350766号公報
【文献】特開平5-269363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のHPAL法が行われるHPALプラントでは、点検等のため年に1~2回の頻度で計画的に運転を停止することが行われている。また、設備にトラブルが発生した際にもHPALプラントの停止が必要となる場合がある。この運転停止に際して例えばオートクレーブの開放点検が必要になる場合は、高圧蒸気及び硫酸の供給を停止した後、オートクレーブ内に導入する流体を鉱石スラリーから冷却水に切り替えてオートクレーブを該鉱石スラリーの入口側から冷却することが行われている。
【0007】
しかしながら、HPALプラントのオートクレーブの本体シェルは、炭素鋼製の円筒形の容器を横向きにした横長の俵型形状を有しているうえ、該円筒形のシェルの厚みは90~150mm程度であってその内面側にチタン製のライニングが施されているため、該横長の俵型形状の容器の長手方向の両端部にそれぞれ位置するスラリーの入口部と出口部との温度差が大きくなると、熱応力によりシェルに歪みを生じたり、チタン製ライニングが損傷したりするおそれがあった。そのため、通常はこれら入口部と出口部との温度差が大きくなりすぎないように、時間をかけて徐々に冷却することが必要になるが、オートクレーブの容量が大きくなるとその冷却のために長時間を要し、運転停止期間が長期化することがあった。また、該冷却時間を短くすべく冷却水の供給量を多くすると、特に容量の大きいオートクレーブの場合は温度制御が難しいため、上記の入口部と出口部との温度差を所望の値以下に抑えることができないことがあった。
【0008】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、オートクレーブの運転停止時に冷却水を導入してオートクレーブを冷却するに際して、その入口部と出口部との温度差を所望の値以下に抑えることが可能なオートクレーブの冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係るオートクレーブの冷却方法は、炭素鋼製の円筒形の容器を横向きにした横長の俵型形状を有しており、その内部が堰によって区分された複数の連続する貯留部を有し、最も上流側に供給された原料スラリー及び硫酸を順次下流側の貯留部に移送することによって、各貯留部において撹拌しながら高温高圧条件下で酸浸出処理を行うHPALプラントのオートクレーブにおける運転停止時の冷却方法であって、前記原料スラリー及び硫酸の供給を停止した後、前記複数の貯留部のうち最も上流側の貯留部と、該移送方向の中間よりも下流側の貯留部との少なくとも2つに冷却水を注入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オートクレーブの運転停止時に、その入口部と出口部との温度差を所望の値以下に抑えることができるので、該温度差による熱応力により発生しうるシェルの歪みや内部ライニングの破損等の問題を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る冷却方法が好適に適用されるオートクレーブの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るオートクレーブの冷却方法の実施形態について説明する。HPAL法の浸出工程で使用されるオートクレーブでは、原料としての鉱石スラリーに対して温度220~250℃、圧力3,000~4,500kPaGの高温高圧条件下で酸浸出処理を施すので、オートクレーブの直ぐ上流側には、鉱石スラリーに蒸気を直接吹き込んで加熱する圧力容器からなる昇温部と、該昇温部に鉱石スラリーを導入するスラリーポンプとからなる昇圧昇温設備が一般に設けられている。
【0013】
また、オートクレーブの直ぐ下流側には、該オートクレーブ内での酸浸出処理で生成された浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを大気圧まで降圧すると共に該降圧により発生する蒸気の潜熱により浸出スラリーの降温を行うフラッシュベッセルが一般に設けられている。従って、HPALプラントの運転休止時にオートクレーブ本体を開放点検する場合は、これら上流側と下流側の付帯設備と共にオートクレーブを高温高圧状態から大気圧まで減圧すると共にほぼ常温まで本体を冷却するのが一般的である。
【0014】
このように、鉱石スラリーを事前に昇圧及び昇温してからオートクレーブに装入する昇圧昇温設備を有する設備構成の場合は、この昇圧昇温設備のスラリーポンプの吸入側に冷却水を供給することで該昇圧昇温設備に冷却水を経由させてからオートクレーブを冷却することが一般的である。なお、上記の昇圧昇温設備は、複数の昇温部を直列に接続すると共に、各昇温部の直ぐ上流側にスラリーポンプを設けることで段階的に昇圧及び昇温させることが可能な構成にしてもよく、この場合は最も上流側のスラリーポンプの吸込側に冷却水を供給するのが好ましい。
【0015】
なお、上記の昇圧昇温設備が設けられていないためオートクレーブに直接鉱石スラリーを装入する設備構成の場合や、該昇圧昇温設備をオートクレーブから遮断することでオートクレーブのみを冷却及び減圧する場合は、冷却水供給用として別途設けたポンプを用いてオートクレーブに冷却水を注入することになる。このように、オートクレーブに直接又は昇圧昇温設備を介して冷却水を注入することで、運転停止時にオートクレーブ内に滞留していた浸出処理中の鉱石スラリーや浸出処理により生成した浸出スラリーが徐々に水に置換され、これによりオートクレーブ内が洗浄されると共にオートクレーブの冷却と減圧が徐々に進行する。
【0016】
ところで、図1に示すように、HPALプラントで用いられるオートクレーブ1は、円筒形の圧力容器を横向きにした横長の構造を有しており、その内部は複数の堰2によって長手方向に連続的に並ぶ複数の貯留部S、S、・・・Sに区分されている。なお、貯留部の数は図1に示す7つに限定されるものではなく、6つ以下でもよいし、8つ以上でもよい。
【0017】
各貯留部には撹拌機3が設置されており、最も上流側の貯留部Sに蒸気及び硫酸と共に導入された鉱石スラリーは、堰2の上端部をオーバーフローすることによって隣接する貯留部に順次移送され、その際、各貯留部において撹拌機3によってほぼ均一に撹拌されながら高温高圧の条件下で酸浸出処理が施され、鉱石スラリーに含まれるニッケルやコバルト等の有価金属が浸出される。なお、鉱石スラリーがオートクレーブ1内で逆流することがないように、これら堰2の高さは上流側から下流側に向かって徐々に低くなっている。
【0018】
このように、オートクレーブ1内は高温高圧の条件下で強酸性の流体を取り扱うので、この条件に耐えうるように、オートクレーブ本体には炭素鋼製の圧力容器を採用し、その内面はチタン等のライニングが施されている。従って、かかる構造のオートクレーブ1を冷却及び減圧する際は、オートクレーブ本体においてできるだけ温度差が生じないように考慮する必要がある。なぜなら、オートクレーブ本体を構成する上記の炭素鋼とチタン等のライニング材とは通常は熱膨張率が異なるため、例えばオートクレーブ1の長手方向で大きな温度差が生じると、それらの熱膨張差により歪みが生じてライニング材側に応力が掛かり、亀裂や剥離等の問題を生じさせる原因になりうる。特に磨耗や腐食により減肉している部分や、母材に比べて一般に強度が低い溶接部等の部分に上記の問題が生じやすかった。
【0019】
更に、オートクレーブ1の容量が大きくなれば、一般的には長手方向に長くなるため、オートクレーブ1の長手方向の両端部に位置する入口部1aと出口部1bの温度差が生じやすくなる。従来、この亀裂等によるライニングの破損等の問題を防止するため、冷却水を導入してオートクレーブ1を冷却及び減圧する時は、オートクレーブ1の長手方向に一定の間隔で複数の温度計を設置し、それらの指示値を監視すると共に、入口部1aと出口部1bにも設置した温度計の指示値を確認しながら、これら温度計の指示値の差が25℃以下となるように慎重に冷却水の注入量を調整することが行われていた。しかしながら、この方法は時間がかかりすぎるため、運転停止期間が無駄に長期化することが問題になっていた。
【0020】
特に、図1に示すようにオートクレーブ1の内部が堰2によって7つの貯留部に区分されている場合においては、冷却水を入口部1aに相当する第1貯留部Sにのみ注入した場合、該第1貯留部Sの液温に比べて第5貯留部S以降の第7貯留部Sまでの3つの貯留部の液温が下がりにくく、これら第1貯留部Sの液温と第7貯留部Sの液温に25℃以上の温度差が生じる状況が容易に発生していた。
【0021】
この温度差を解消する方法としては、例えば冷却水の注入量を減らすことで第1貯留部Sの降温速度を下げ、これにより第5貯留部S以降の3つの貯留部S~Sとの温度差を小さくすることが考えられる。あるいは、冷却水の注入量は減らさずに第1貯留部Sに設けられた蒸気ラインから蒸気を供給することで第1貯留部Sの降温速度を下げることが考えられる。後者の場合は、第2貯留部S以降へのオーバーフロー量が増加するので、各貯留部において滞留する流体の置換速度が速くなり、よって第5貯留部S以降の降温速度を上げることができるので、入口部1aと出口部1bの温度差を25℃以内に抑えることが可能になる。しかし、この方法は冷却水の注入量と蒸気の供給量の両方の調整を行う必要があるうえ、オートクレーブ1を冷却することが本来の目的であるにもかかわらず蒸気を導入することで熱量を加えているため、冷却操作という観点からは不要なエネルギーを消費しており、かつ蒸気の導入により降温速度を低下させているため非効率であるといえる。
【0022】
これに対して、本発明の実施形態のオートクレーブの冷却方法は、オートクレーブ内において堰によって区分された複数の連続する貯留部のうち、最も上流側の貯留部と、鉱石スラリーの移送方向において中間よりも下流側の貯留部との少なくとも2つの貯留部に冷却水を注入している。具体的には、図1に示すような7つの貯留部S~Sから構成され、それらのうち第1貯留部Sに鉱石スラリー供給配管4、硫酸供給配管5、及び蒸気供給配管6を介してそれぞれ鉱石スラリー、硫酸、及び蒸気を供給し、第7貯留部Sからは浸出スラリー抜出配管7を介して浸出スラリーを抜き出す構造のオートクレーブ1においては、第1貯留部S及び第5貯留部Sに冷却水の注入用配管8a、8bをそれぞれ接続する。
【0023】
そして、冷却水の合計注入量を可能なかぎり一定に保ちつつ、該合計注入量に対する第1貯留部S及び第5貯留部Sの各々への冷却水の注入量の割合を温度の低下速度に合わせて調整する。これにより、降温速度を従来の場合に比べてほとんど低下させることなくオートクレーブ本体をほぼ均一に冷却することができる。具体的には、最も上流側の第1貯留部Sの液温と最も下流側の第7貯留部Sの液温との温度差を25℃以下に抑えることができる。
【0024】
なお、図1では複数の貯留部のうち、第1貯留部Sと第5貯留部Sに冷却水を供給しているが、これに限定されるものではなく、第5貯留部Sに代えてあるいは第5貯留部Sに加えて第6貯留部Sや第7貯留部Sから冷却水を注入してもよい。また、これら複数箇所から冷却水を注入する際の上記合計注入量に対する各々の冷却水の注入量の割合についても特に限定はないが、通常は最も上流側の第1貯留部Sに冷却水の合計注入量の20~50%を注入し、残りを該移送方向の中間より下流側の貯留部に注入するのが好ましい。
【0025】
上記の冷却水の合計注入量は、注入対象となるオートクレーブに浸出処理時に供給される鉱石スラリーの供給量の30~120容量%であるのが好ましく、80~100容量%であるのがより好ましく、約90容量%であるのが最も好ましい。また、冷却水供給開始時は急激に温度が低下しやすいので、急激な温度低下が収まるまでは冷却水の注入量を50~90%程度に絞るのが好ましく、必要に応じて蒸気を吹き込んでもよい。
【0026】
以上、本発明の実施形態のオートクレーブの冷却方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や変形例を含むことができる。すなわち、本発明の権利範囲は、特許請求の範囲及びその均等の範囲に及ぶものである。
【実施例
【0027】
(実施例)
図1に示すような6つの堰2によって7つの貯留部S~Sに区分されたオートクレーブ1に対して6ヶ月ごとの運転停止時に冷却水を注入してオートクレーブ1の冷却及び減圧操作を行った。具体的には、HPALプラントの2系列の高圧酸浸出設備のうちの1系列に対して、原料スラリーとしての鉱石スラリー、硫酸、及び高圧蒸気のオートクレーブ1への供給を全て停止した後、最も上流側の第1貯留部S及び鉱石スラリーの移送方向の中間に位置する第4貯留部Sの直ぐ下流側に位置する第5貯留部Sにそれぞれ第1及び第2冷却水供給配管8a、8bを介して高圧冷却水の供給ポンプから冷却水を注入した。
【0028】
その際、冷却水の合計注入量は全ての温度計が180℃以下になるまでは該供給ポンプの能力の約80%とし、その後は該供給ポンプの能力100%で一定に保ちながら、これら第1及び第5貯留部S、Sへの冷却水注入量の割合を各々の貯留部に設けた温度計による液温の降温速度に基づいて調整した。具体的には第1貯留部Sから第4貯留部Sまでのいずれにおいても5分おきに測定した温度計の低下速度が0.75℃/5分を超える場合は、DCSから遠隔操作することで冷却水供給配管8aに設けられている供給バルブの開度を約5割程度に絞り込み、同様に第5貯留部Sから第7貯留部Sまでのいずれにおいても5分おきに測定した温度計の低下速度が0.75℃/5分を超える場合は、DCSから遠隔操作することで冷却水供給配管8bに設けられている供給バルブの開度を約5割程度に絞り込んだ。
【0029】
このようにして貯留部S~Sの液温が253℃から100℃になるまで冷却及び減圧する操作を行った。なお、上記のようにして注入した冷却水を堰2の上端部をオーバーフローさせることによって隣接する下流側の貯留部に順次移送させて出口部1bから抜き出す場合も、通常運転時の鉱石スラリーの移送の場合と同様に各貯留部に備えられている撹拌機3を作動させて撹拌を行った。
【0030】
(比較例)
比較のため、上記の2系列の高圧酸浸出設備のうちのもう1系列に対して、鉱石スラリー、硫酸、及び高圧蒸気のオートクレーブ1への供給を全て停止した後、第1貯留部Sのみに冷却水を注入してオートクレーブ1の冷却及び減圧を行った。具体的には、第1貯留部Sへの冷却水の注入量は各貯留部に設けた温度計が示す液温の温度差及び入口部1aと出口部1bの液温の温度差を確認し、それらの温度差が目標値としての25℃以下となるように調整を行った。また、降温速度が一時的に大きい箇所については蒸気を導入することで、局所的な温度低下を防止した。このようにして貯留部S~Sの液温が253℃から100℃になるまで冷却及び減圧操作を行った。なお、あらかじめ上記の2系列の温度計の点検を行い、各指示値にズレがないことを確認しておいた。その結果を下記表1に示す。なお、表1の比較例の値は過去5回の平均値である。
【0031】
【表1】
【0032】
上記表1の結果から分かるように、実施例では温度差を25℃以下に維持することができるうえ、比較例と比べて短時間でオートクレーブを冷却することができた。一方、比較例では目標の25℃以下を確保することができなかった。
【符号の説明】
【0033】
1 オートクレーブ
2 堰
3 撹拌機
1a 入口部
1b 出口部
4 鉱石スラリー供給配管
5 硫酸供給配管
6 蒸気供給配管
7 浸出スラリー抜出配管
8a 第1冷却水供給配管
8b 第2冷却水供給配管
、S、・・・S 貯留部
図1