IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許7187925エピハロヒドリン系ゴム組成物およびゴム架橋物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】エピハロヒドリン系ゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/03 20060101AFI20221206BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 5/3465 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08L71/03
C08K3/04
C08K3/36
C08K5/3465
C08K9/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018178908
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050706
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂▲崎▼ 紫穂
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-526906(JP,A)
【文献】特表2009-503195(JP,A)
【文献】特開2000-191900(JP,A)
【文献】特開2010-018761(JP,A)
【文献】特開2000-212330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピハロヒドリン系ゴムと、非反応性基で表面処理されたシリカと、カーボンブラックと、ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤とを含有し、
前記シリカの含有量が、前記エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対し15~60重量部であり、
前記カーボンブラックの含有量が、前記エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対し20~50重量部であるエピハロヒドリン系ゴム組成物。
【請求項2】
前記非反応性基で表面処理されたシリカが、アルキル基で表面処理されたシリカである請求項1に記載のエピハロヒドリン系ゴム組成物。
【請求項3】
前記架橋剤が、キノキサリン系架橋剤である請求項1または2に記載のエピハロヒドリン系ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のエピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピハロヒドリン系ゴム組成物およびこれを架橋してなるゴム架橋物に関し、さらに詳しくは、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れ、動摩擦係数が低く抑えられたゴム架橋物を与えることのできるエピハロヒドリン系ゴム組成物、および、このようなエピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
エピハロヒドリン系ゴムは耐熱性、耐オゾン性および耐油性において優れた性能バランスを有しており、オイルシール、ダイヤフラム、ガスケットパッキング、燃料油ホースなどの耐油ホースなどの工業用品に広く使用されている。
【0003】
このようなエピハロヒドリン系ゴムの組成物として、たとえば、特許文献1では、エピクロルヒドリン系重合体、表面処理シリカ、および架橋剤を含有するエピクロルヒドリン系重合体の組成物が開示されている。
【0004】
一方で、エピハロヒドリン系ゴムを、オイルシール、ダイヤフラム、ガスケットパッキング、燃料油ホースなどの耐油ホースなどの工業用品に用いる場合には、耐圧縮永久歪み性および破断伸びが良好であることに加え、エピハロヒドリン系ゴムからなるゴム部品を各種金属部材等に取り付ける際における、取り付けを容易とするという観点や、取り付けた後において金属部材との摩擦による劣化を抑制するという観点より、動摩擦係数が低いことが望まれている。しかしながら、上記特許文献1に開示されているエピクロルヒドリン系重合体の組成物を用いて得られるゴム架橋物は、動摩擦係数が高く、そのため、動摩擦係数の低減という観点からは、不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-140366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れ、動摩擦係数が低く抑えられたゴム架橋物を与えることのできるエピハロヒドリン系ゴム組成物、および、このようなエピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、エピハロヒドリン系ゴムおよびハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤を含有するエピハロヒドリン系ゴム組成物に、非反応性基で表面処理されたシリカを配合することで、これを用いて得られるゴム架橋物が、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れ、動摩擦係数が低く抑えられたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、エピハロヒドリン系ゴムと、非反応性基で表面処理されたシリカと、ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤とを含有するエピハロヒドリン系ゴム組成物が提供される。
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物において、前記非反応性基で表面処理されたシリカが、アルキル基で表面処理されたシリカであることが好ましい。
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物において、前記架橋剤が、キノキサリン系架橋剤であることが好ましい。
【0009】
また、本発明においては、上記本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れ、動摩擦係数が低く抑えられたゴム架橋物を与えることのできるエピハロヒドリン系ゴム組成物、および、このようなエピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物は、エピハロヒドリン系ゴムと、非反応性基で表面処理されたシリカと、ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤とを含有する。
【0012】
<エピハロヒドリン系ゴム>
本発明で用いるエピハロヒドリン系ゴムは、少なくともエピハロヒドリン単量体単位を必須構成単量体単位として含有するゴム重合体であり、具体的には、1種のエピハロヒドリン単量体の単独重合体、もしくは2種以上のエピハロヒドリン単量体の共重合体、またはエピハロヒドリン単量体およびこれと共重合可能な単量体との共重合体などが挙げられるが、エピハロヒドリン単量体と共重合可能な単量体との共重合体が好ましい。また、エピハロヒドリン系ゴムとしては、単量体組成の異なる2種以上の重合体を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
エピハロヒドリン単量体単位を形成するエピハロヒドリン単量体としては、たとえば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、2-メチルエピクロロヒドリン、2-メチルエピブロモヒドリン、2-エチルエピクロロヒドリン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのなかでも、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性および破断伸びにより優れたものとすることができるという観点より、エピクロロヒドリンが好ましい。
【0014】
エピハロヒドリン系ゴム中における、エピハロヒドリン単量体単位の含有割合は、エピハロヒドリン系ゴムを構成する全単量体単位に対して、好ましくは35~95モル%、より好ましくは40~90モル%、さらに好ましくは45~85モル%である。エピハロヒドリン単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性および耐熱性により優れたものとすることができる。なお、単量体組成の異なる2種以上の重合体を組み合わせて用いる場合には、単量体組成の異なる重合体全体における、エピハロヒドリン単量体単位の量を上記範囲とすることが好ましい。
【0015】
エピハロヒドリン系ゴムを、エピハロヒドリン単量体と、エピハロヒドリン単量体と共重合可能な単量体との共重合体とする場合における、共重合可能な単量体の単位としては、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性および破断伸びにより優れたものとすることができるという観点より、アルキレンオキシド単量体単位が好ましい。
【0016】
アルキレンオキシド単量体単位を形成するアルキレンオキシド単量体としては、たとえば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシ-4-クロロペンタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシエイコサン、1,2-エポキシイソブタン、2,3-エポキシイソブタン等の直鎖状または分岐鎖状アルキレンオキシド;1,2-エポキシクロロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロドデカン等の環状アルキレンオキシド;ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテルなどのアルキル長鎖または分岐鎖を有するグリシジルエーテル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのオキシエチレン側鎖を有するグリシジルエーテル;等が挙げられ、これらは、ハロゲン原子等の置換基を有するものであってもよい。これらアルキレンオキシド単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのなかでも、直鎖状のアルキレンオキシドが好ましく、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性および破断伸びにより優れたものとすることができるという観点より、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドがより好ましく、エチレンオキシドが特に好ましい。
【0017】
エピハロヒドリン系ゴム中にアルキレンオキシド単量体単位を含有させる場合における、アルキレンオキシド単量体単位の含有割合は、エピハロヒドリン系ゴムを構成する全単量体単位に対して、好ましくは5~65モル%、より好ましくは10~60モル%、さらに好ましくは15~55モル%である。アルキレンオキシド単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性および耐熱性により優れたものとすることができる。なお、単量体組成の異なる2種以上の重合体を組み合わせて用いる場合には、単量体組成の異なる重合体全体における、アルキレンオキシド単量体単位の量を上記範囲とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明で用いるエピハロヒドリン系ゴムは、共重合可能な単量体の単位として、不飽和エポキシド単量体単位をさらに含有するものであってもよい。
【0019】
不飽和エポキシド単量体単位を形成する不飽和エポキシド単量体としては、たとえば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、o-アリルフェニルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンエポキシド、クロロプレンエポキシド、4,5-エポキシ-2-ペンテン、エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカジエン等のジエンモノエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル-4-ヘプテネート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、3-シクロヘキセンカルボン酸グリシジルエステル、4-メチル-3-シクロヘキセンカルボン酸グリシジルエステル、グリシジル-4-メチル-3-ペンテネート等のエチレン性不飽和カルボン酸のグリシジルエステル;等が挙げられ、これらは、ハロゲン原子等の置換基を有するものであってもよい。これら不飽和エポキシド単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのなかでも、不飽和グリシジルエーテルが好ましく、アリルグリシジルエーテルがより好ましい。
【0020】
エピハロヒドリン系ゴム中に不飽和エポキシド単量体単位を含有させる場合における、不飽和エポキシド単量体単位の含有割合は、エピハロヒドリン系ゴムを構成する全単量体単位に対して、好ましくは0.1~8モル%、より好ましくは0.5~6モル%、さらに好ましくは1~4モル%である。なお、単量体組成の異なる2種以上の重合体を組み合わせて用いる場合には、単量体組成の異なる重合体全体における、不飽和エポキシド単量体単位の量を上記範囲とすることが好ましい。
【0021】
本発明で用いるエピハロヒドリン系ゴムの重量平均分子量は、20万~200万であることが好ましく、40万~150万であることがより好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることにより、エピハロヒドリン系ゴム組成物の加工性を良好なものとしながら、得られるゴム架橋物の機械的強度をより高めることができる。
【0022】
エピハロヒドリン系ゴムのムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕は、好ましくは10~200、より好ましくは20~150、さらに好ましくは30~100である。ムーニー粘度を上記範囲とすることにより、エピハロヒドリン系ゴム組成物の加工性を良好なものとしながら、得られるゴム架橋物の機械的強度をより高めることができる。
【0023】
本発明で用いるエピハロヒドリン系ゴムは、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、上記各単量体を開環重合することにより得ることができる。重合触媒としては、一般のエピハロヒドリン系ゴム用の触媒であれば、特に限定されない。重合触媒としては、たとえば、有機アルミニウムに水とアセチルアセトンを反応させた触媒(特公昭35-15797号公報)、トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒(特公昭46-27534号公報)、トリイソブチルアルミニウムにジアザビアシクロウンデセンの有機酸塩とリン酸とを反応させた触媒(特公昭56-51171号公報)、アルミニウムアルコキサイドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる触媒(特公昭43-2945号公報)、有機亜鉛化合物と多価アルコールとからなる触媒(特公昭45-7751号公報)、ジアルキル亜鉛と水とからなる触媒(特公昭36-3394号公報)、有機スズ化合物からなる触媒(特開2000-63656号公報)などが挙げられる。
【0024】
重合溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの直鎖状飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状飽和炭化水素類;などが用いられる。また、重合反応は、通常0~100℃、好ましくは30~80℃で、回分式、半回分式、連続式などの任意の方法で行うことができる。
【0025】
本発明で用いるエピハロヒドリン系ゴムが共重合体である場合、ブロック共重合、ランダム共重合のいずれの共重合タイプでも構わないが、特に、単量体にエチレンオキサイドを用いる場合、ランダム共重合体の方がよりポリエチレンオキサイドの結晶性を低下させ、ゴム弾性を損ないにくいために好ましい。
【0026】
<非反応性基で表面処理されたシリカ>
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物は、非反応性基で表面処理されたシリカを含有する。本発明においては、シリカとして、非反応性基で表面処理されたものを用いることにより、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れたものとしながら、動摩擦係数が低く抑えられたものとすることができるものである。
【0027】
本発明者等が検討を行ったところ、以下の知見を得たものである。すなわち、表面処理を行っていない未処理のシリカを用いた場合には、このような未処理のシリカを用いると、エピハロヒドリン系ゴムへの分散性が低く、そのため、得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久歪み性および破断伸びに劣り、さらには、動摩擦係数の低減効果が得られないこと、一方、反応性基で表面処理したシリカを用いると、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が改善するものの、破断伸びが小さくなり、さらには、動摩擦係数の低減効果も得られないこと、を見出した。これに対し、本発明者等は、非反応性基で表面処理されたシリカを用いることで、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れるものとすることができることに加え、動摩擦係数の低減も可能であることを見出したものであり、このような知見に基づき、本発明を完成させるに至ったものである。
【0028】
本発明で用いる、非反応性基で表面処理されたシリカ(以下、適宜、「非反応性基処理シリカ」とする。)としては、シリカの表面を、表面処理剤としての非反応性基を有する化合物を用い、非反応性基を有する化合物により表面処理されたものであればよく特に限定されない。ここで、非反応性基は、エピハロヒドリン系ゴム(特に、エピハロヒドリン系ゴムに含まれるハロゲン原子)に対して非反応性(または、不活性)である基である。なお、たとえば、架橋剤などを介して、エピハロヒドリン系ゴムと反応する基も、エピハロヒドリン系ゴムに対して、反応性を示すものということができるため、本発明においては、エピハロヒドリン系ゴムと直接反応しない基であっても、架橋剤などを介して、エピハロヒドリン系ゴムと反応する基は、非反応性基に該当しないものとする。
【0029】
このような非反応性基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、N,N-ジ置換アミノ基、シアノ基などが挙げられる。これらのなかでも、シリカ表面を疎水化することができ、これにより、得られるゴム架橋物の動摩擦係数をより低減できるという観点より、アルキル基、アリール基がより好ましく、アルキル基がさらに好ましい。また、アルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基などが好適に挙げられるが、得られるゴム架橋物の動摩擦係数の低減効果が大きいという観点より、メチル基が特に好ましい。
【0030】
本発明で用いる非反応性基処理シリカとしては、乾式法により得られたシリカを、非反応性基を有する化合物で表面処理したものであってもよいし、あるいは、湿式法により得られたシリカを、非反応性基を有する化合物で表面処理したものであってもよいが、引張強度をより向上できるという観点より、乾式法により得られたシリカを、非反応性基を有する化合物で表面処理したものであることが好ましい。
【0031】
また、本発明で用いる非反応性基処理シリカは、未処理のシリカを、非反応性基を有する化合物で表面処理することにより得られたものであればよく、特に限定されないが、このような非反応性基を有する化合物としては、非反応性基を有するカップリング剤や、非反応性基を有するシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0032】
本発明で用いる非反応性基処理シリカのBET法で測定される窒素吸着比表面積(BET比表面積)は、特に限定されないが、好ましくは50~300m/gであり、より好ましくは80~200m/g、さらに好ましくは80~140m/g、特に好ましくは80~120m/gである。非反応性基処理シリカの窒素吸着比表面積を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性をより優れたものとすることができるため、好ましい。なお、非反応性基処理シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じて、BET法にて測定することができる。
【0033】
また、本発明で用いる非反応性基処理シリカの見かけ比重は、特に限定されないが、好ましくは10~400g/Lの範囲であり、より好ましくは20~300g/Lの範囲、さらに好ましくは30~150g/Lの範囲である。非反応性基処理シリカとして、見かけ比重が上記範囲にあるものを用いることにより、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性をより優れたものとすることができるため、好ましい。なお、非反応性基処理シリカの見かけ比重は、たとえば、メスシリンダーにゆっくり所定量の非反応性基処理シリカを投入して重量を測定し、その値をX[g]とし、非反応性基処理シリカを投入し静置した後、非反応性基処理シリカ容積を読み取り、その値をY[mL]とし、下記式にしたがって、求めることができる。
見かけ比重[g/L]=X/Y×1000
【0034】
本発明で用いる非反応性基処理シリカの個数平均一次粒径は、特に限定されないが、好ましくは7~30nmであり、より好ましくは13~20nm、さらに好ましくは14~18nmである。
【0035】
また、本発明で用いる非反応性基処理シリカのpHは、特に限定されないが、10以下であることが好ましく、乾式法により得られたシリカを、非反応性基を有する化合物で表面処理したものである場合には、pHは、好ましくは3~10、より好ましくは3~8、特に好ましくは3.5~6である。また、湿式法により得られたシリカを、非反応性基を有する化合物で表面処理したものである場合には、pHは、好ましくは3~10、より好ましくは4~8、特に好ましくは6~8である。
【0036】
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物中における、非反応性基処理シリカの含有量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対し、好ましくは5~100重量部、より好ましくは10~80重量部、さらに好ましくは15~60重量部である。非反応性基処理シリカの含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物を、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスにより優れ、しかも、動摩擦係数がより低く抑えられたものとすることができる。
【0037】
<ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤>
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物は、上述したエピハロヒドリン系ゴムおよび非反応性基処理シリカに加えて、ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤を含有する。
【0038】
ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤としては、特に限定されないが、ポリアミン系架橋剤、チオウレア系架橋剤、チアジアゾール系架橋剤、トリアジン系架橋剤、キノキサリン系架橋剤、ビスフェノール系架橋剤などが挙げられる。これらの中でも、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性をより優れたものとすることができるという点より、トリアジン系架橋剤、キノキサリン系架橋剤が好ましく、キノキサリン系架橋剤がさらに好ましい。
【0039】
キノキサリン系架橋剤としては、特に限定されないが、たとえば、2,3-ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、5,8-ジメチルキノキサリン-2,3-ジチカーボネートなどが挙げられ、これらの中でも、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネートが好適に用いられる。
【0040】
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物中における、ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤の含有量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対し、好ましくは0.1~20重量部、より好ましくは0.5~10重量部、さらに好ましくは1.0~5重量部である。ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性と破断伸びとをより優れたものとすることができる。
【0041】
<その他の配合剤>
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物は、上記各成分に加えて、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
【0042】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトメチルトリメトキシシラン、3-メルカプトメチルトリエトキシシラン、3-メルカプトヘキサメチルジシラザン、3-オクタノイルチオ-1-プロピル-トリエトキシシラン、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルジメチルチオカルバミルテトラスルフィド、および3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドなどの硫黄を含有するシランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル基含有シランカプリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカプリング剤;p-スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基含有シランカップリング剤;3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基含有シランカップリング剤;ジアリルジメチルシラン等のアリル基含有シランカップリング剤;テトラエトキシシラン等のアルコキシ基含有シランカップリング剤;ジフェニルジメトキシシラン等のフェニル基含有シランカップリング剤;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフロロ基含有シランカップリング剤;イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン等のアルキル基含有シランカップリング剤;などが挙げられる。これらの中でも、硫黄を含有するシランカップリング剤が好ましく、メルカプト基を有するシランカップリング剤が特に好ましい。また、これらシランカップリング剤は1種または複数種併せて用いることができる。
【0043】
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物中における、シランカップリング剤の含有量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.2~7重量部、さらに好ましくは0.3~5重量部である。シランカップリング剤の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性と応力とをより優れたものとすることができる。
【0044】
また、本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物は、カーボンブラックをさらに含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、オースチンブラック、グラファイトなどが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0045】
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物中における、カーボンブラックの含有量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対し、好ましくは1~100重量部、より好ましくは5~70重量部、さらに好ましくは10~50重量部である。カーボンブラックの含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の硬さおよび破断強度と破断伸びとをより優れたものとすることができる。
【0046】
また、本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物には、本発明の効果を損なわない限り、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどのゴム;オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリ塩化ビニル、クマロン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂:などを配合してもよい。これらのゴム、熱可塑性エラストマーまたは樹脂の配合量は、エピハロヒドリン系ゴム100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。
【0047】
さらに、本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物には、上述した配合剤以外に、公知のゴムに通常配合されるその他の配合剤を含有していてもよい。このような配合剤としては、特に限定されないが、たとえば、可塑剤;受酸剤;補強剤;架橋遅延剤;架橋促進剤;活性剤;加工助剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;耐光安定剤;粘着付与剤;界面活性剤;導電性付与剤;電解質物質;着色剤(染料・顔料);難燃剤;帯電防止剤;などが挙げられる。
【0048】
本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物は、エピハロヒドリン系ゴムに、非反応性基処理シリカ、およびハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤、ならびに必要に応じて用いられる各種配合剤を、所望の方法により調合、混練することにより調製することができる。たとえば、架橋剤および必要に応じて用いられる架橋促進剤を除く配合剤と、エピハロヒドリン系ゴムとを混練後、その混合物に架橋剤および必要に応じて用いられる架橋促進剤を混合して、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得ることができる。調合、混練に際しては、たとえば、ニーダー、バンバリー、オープンロール、カレンダーロール、押出機など任意の混練成形機を一つあるいは複数組み合わせて用いて混練成形してもよい。架橋剤および必要に応じて用いられる架橋促進剤を除く添加剤と、エピハロヒドリン系ゴムとの混練温度は、20~200℃が好ましく、20~150℃がより好ましく、その混練時間は、30秒~30分が好ましく、混練物と、架橋剤および架橋促進剤との混合温度は、100℃以下が好ましく、0~80℃がより好ましい。
【0049】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋することにより得られる。
【0050】
エピハロヒドリン系ゴム組成物を架橋して、ゴム架橋物を得る方法は、特に限定されないが、成形と架橋を同時に行っても、成形後に架橋してもよい。成形時の温度は、20~200℃が好ましく、40~180℃がより好ましい。架橋時の加熱温度は、130~200℃が好ましく、140~200℃がより好ましい。架橋時の温度が低すぎると、架橋時間が長時間必要となったり、得られるゴム架橋物の架橋密度が低くなったりするおそれがある。一方、架橋時の温度が高すぎると、成形不良となるおそれがある。架橋時間は、架橋方法、架橋温度、形状などにより異なるが、1分以上、5時間以下の範囲が架橋密度と生産効率の面から好ましい。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、およびマイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。
【0051】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋を行う際における、加熱温度は、100~220℃が好ましく、130~210℃がより好ましい。加熱時間は、30分~5時間が好ましい。
【0052】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物を用いて得られるものであるため、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れ、動摩擦係数が低く抑えられたものである。そのため、本発明のゴム架橋物は、これらの特性を活かして、たとえば、自動車等の輸送機械、一般機器、電気機器等の幅広い分野において、O-リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール等のシール材;オイルチューブ、燃料ホース、エアーホース、ターボエアーホース、PCVホース、インレットホースなどのホース類;伝達ベルト、エンドレスベルトなどの工業用ベルト類;緩衝材、防振材;電線被覆材;シート類;ブーツ類;ダストカバー類;等として有用である。なかでも、本発明のゴム架橋物は、ホース用途、とりわけ燃料ホース用途に特に好適に用いることができる。また、本発明のゴム架橋物は、フッ素ゴムなどの他のゴムからなるゴム架橋物とのゴム積層体としてもよく、この場合には、本発明のエピハロヒドリン系ゴム組成物からなる成形体と、架橋前のフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物からなる成形体とを積層し、これらを架橋接着させることで、ゴム積層体とすることが好ましい。
【実施例
【0053】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0054】
[ムーニー粘度]
ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS K6300に従って、100℃で測定した。
【0055】
[ムーニースコーチ時間(t、t35)]
エピハロヒドリン系ゴム組成物のムーニースコーチ時間(t、t35)を、JIS K6300に従って、125℃で測定した。なお、ムーニースコーチ時間(t)は、ムーニー粘度が最小値(Vm)から5ポイント増加するまでの時間であり、ムーニースコーチ時間(t35)は、ムーニー粘度が最小値(Vm)から35ポイント増加するまでの時間である。ムーニースコーチ時間(t、t35)の値が大きいほど、スコーチ安定性に優れる。
【0056】
[常態物性(引張強さ、破断伸び、硬さ、100%引張応力)]
エピハロヒドリン系ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら160℃で30分間プレス成形してシート状の一次架橋物を得た。次いで、得られた一次架橋物をギヤー式オーブンに移して150℃で4時間二次架橋することで、シート状のゴム架橋物を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物を、3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製し、得られたこの試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強さ、破断伸びおよび100%引張応力を、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いてゴム架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0057】
[圧縮永久歪み試験]
上記常態物性の測定と同様にして、シート状のゴム架橋物を得て、これを縦15mm、横15mmに切り取り、試験片とした。そして、得られたシート状のゴム架橋物からなる試験片の中心の厚み(h0)を測定した後、厚み方向に50%圧縮させた際の、試験片の中心の厚み(h1)を計算した。
次いで、試験片を2枚の金属板に挟み、圧縮装置によって試験片の厚み方向に50%の歪みを与え、135℃としたギヤー式オーブン中において、圧縮したままの状態にて、22時間加熱した。次いで、ギヤー式オーブンから、圧縮したままの状態で、試験片を取り出し、23℃の条件で3時間放置した。その後、圧縮を開放し、5秒以内に、試験片の厚み(h2)を測定した。そして、得られた測定結果から、下記式にしたがって、圧縮永久歪みを算出した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
圧縮永久歪み(%)={(h0-h2)/(h0-h1)}×100
【0058】
[摩擦試験(動摩擦係数)]
上記常態物性の測定と同様にして、シート状のゴム架橋物を得て、これを試験片とした。そして、得られたシート状のゴム架橋物からなる試験片について、ヘイドン式表面性測定機(製品名「HEIDON トライポギアTYPE:38」、新東科学株式会社製)を用いて、動摩擦係数の測定を行った。なお、測定は、測定治具として、SUSボール圧子を用いて行い、200gの荷重をかけた状態にて、移動速度100mm/minで15mm移動させる操作を行うことで、動摩擦係数を測定した。本測定においては、測定位置を変えて上記測定を5回行い、5回の測定により得られた結果を平均し、得られた平均値を動摩擦係数とした。
【0059】
[製造例1、エピクロロヒドリンゴムの製造]
密閉した耐圧ガラス容器を窒素置換して、トルエン200部およびトリイソブチルアルミニウム60部を供給した。このガラス容器を氷水に浸漬して冷却後、ジエチルエーテル230部を添加し、攪拌した。次に、氷水で冷却しながら、リン酸13.6部を添加し、さらに攪拌した。この時、トリイソブチルアルミニウムとリン酸との反応により、容器内圧が上昇するので適時脱圧を実施した。次いで、得られた反応混合物を60℃の温水浴内で1時間熟成反応させて触媒溶液を得た。
次いで、オートクレーブにエピクロロヒドリン250部、エチレンオキサイド16部、トルエン279部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら内溶液を60℃に昇温し、上記で得た触媒溶液10部を添加して反応を開始した。次に、反応開始からエチレンオキサイド103部をトルエン150部に溶解した溶液を5時間かけて等速度で連続添加した。また、反応開始後30分毎に触媒溶液7部ずつを5時間にわたり添加した。次いで、水15部を添加して攪拌し、反応を終了させた。ここにさらに、老化防止剤として4,4’-チオビス-(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)の5重量%トルエン溶液45部を添加し、攪拌した。スチームストリッピングを実施してトルエンを除去し、上澄み水を除去後、60℃にて真空乾燥し、製造例1のエピクロロヒドリンゴム369部を得た。製造例1のエピクロロヒドリンゴムの単量体組成比は、H-NMRにより測定した結果、エピクロロヒドリン単量体単位50モル%、エチレンオキサイド単量体単位50モル%であった。また、得られた製造例1のエピクロロヒドリンゴムのムーニー粘度は69であった。
【0060】
[実施例1]
40℃のオープンロールに、製造例1で得られたエピクロロヒドリンゴム100部、ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製、乾式シリカのジメチルジクロロシラン処理品、BET比表面積:110m/g、pH:3.5~5.5、見かけ比重:約90g/L)20部、HAFカーボンブラック(製品名「シースト3」、東海カーボン社製)20部、ポリエーテルエステル系可塑剤(製品名「アデカサイザー RS735」、ADEKA社製)5部、エステル系ワックス(製品名「スプレンダー R300」、花王社製、加工助剤)3部、ハイドロタルサイト(製品名「DHT-4A」、協和化学工業社製、Mg4.3Al(OH)12.6CO・mHOで表される化合物、受酸剤)10部、ポリエチレングリコール400(活性剤)1部、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(製品名「KBM-803」、信越シリコーン社製、シランカップリング剤)1部、2-メルカプトベンズイミダゾール(製品名「ノクラックMB」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)0.5部、4,4’-ジ-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(製品名「ノクラックCD」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1部、ジメチルジチオカルバミン酸銅(製品名「ノクセラーTTCU」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1部、N-(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(製品名「RETARDER CTP」、大内新興化学工業社製、架橋遅延剤)1部、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)のフェノール塩(製品名「U-CAT SA831」、サンアプロ社製、DBU42重量%、架橋促進剤)1部、および6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート(キノキサリン系架橋剤)1.8部を投入し、10分間混練し混合することにより、エピハロヒドリン系ゴム組成物を調製した。
【0061】
そして、得られたエピハロヒドリン系ゴム組成物を用いて、上記方法にしたがって、ムーニー粘度、ムーニースコーチ時間(t、t35)、常態物性(引張強さ、破断伸び、硬さ、100%引張応力)、圧縮永久歪み、および動摩擦係数の測定を行った。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R974」、エボニックインダストリーズ社製、乾式シリカのジメチルジクロロシラン処理品、BET比表面積:170m/g、pH:3.7~4.7、見かけ比重:約50g/L)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例3]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、メチル化シリコーンオイル処理シリカ(製品名「ニプシル SS-30P」、東ソー・シリカ社製、湿式シリカのメチル化シリコーンオイル処理品、BET比表面積:110m/g、pH:7.0)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
HAFカーボンブラックの配合量を20部から40部に変更するとともに、ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)、ポリエチレングリコール400、および3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
[比較例2]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、未処理シリカ(製品名「アエロジル 130」、エボニックインダストリーズ社製、未処理の乾式シリカ、BET比表面積:110m/g、pH:3.6~5.5)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
[比較例3]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、未処理シリカ(製品名「ニプシル VN3」、東ソー・シリカ社製、未処理の湿式シリカ、BET比表面積:180~230m/g、pH:5.5~6.5)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
[比較例4]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、未処理シリカ(製品名「ニプシル ER」、東ソー・シリカ社製、未処理の湿式シリカ、BET比表面積:70~120m/g、pH:7.5~9.0)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
[比較例5]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、未処理シリカ(製品名「カープレックス#1120」、エボニックインダストリーズ社製、未処理の湿式シリカ、pH:10.4~10.9)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
[比較例6]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、アミノアルキル処理シリカ(製品名「アエロジル RA200HS」、エボニックインダストリーズ社製、乾式シリカのアミノアルキルシリル処理品、BET比表面積:150m/g、pH:8.5~11.0)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例7]
ジメチルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R972V」、エボニックインダストリーズ社製)20部に代えて、メタクリルシリル処理シリカ(製品名「アエロジル R711」、エボニックインダストリーズ社製、乾式シリカのメタクリルシリル処理品、BET比表面積:150m/g、pH:4.0~6.0)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、エピハロヒドリン系ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1、表2に示すように、エピハロヒドリン系ゴムと、非反応性基で表面処理されたシリカと、ハロゲン原子に対して反応性を示す架橋剤とを含有するエピハロヒドリン系ゴム組成物によれば、これを用いて得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久歪み性と破断伸びとのバランスに優れ、動摩擦係数が低く抑えられたものであった(実施例1~3)。
また、実施例1~3は、圧縮永久歪みがいずれも50%以下と良好な水準であるが、これらの中でも、非反応性基で表面処理されたシリカとして、BET法で測定される窒素吸着比表面積が、好ましくは80~200m/g、特に80~140m/gの範囲内にあるものを使用した実施例1,3は、圧縮永久歪みがより低減されたものであった。
【0074】
一方、非反応性基で表面処理されたシリカに代えて、未処理のシリカを使用した場合や、反応性基で表面処理されたシリカを使用した場合には、圧縮永久歪みおよび破断伸びのいずれか、あるいは両方に劣るものとなり、また、いずれも動摩擦係数が高くなり、動摩擦係数の低減効果が得られないものであった(比較例1~7)。