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特許7187960冷凍機システムのエネルギーロス判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】冷凍機システムのエネルギーロス判定方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20221206BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20221206BHJP
   F25B 49/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F25B49/02 A
F25B1/00 381H
F25B49/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018192801
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020060342
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】飯村 晶
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特許第5699675(JP,B2)
【文献】特開2012-032055(JP,A)
【文献】特開2017-083094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 49/00 ~ 49/04
F28G 15/00 ~ 15/10
F28F 27/00
F24F 11/00 ~ 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮器及び蒸発器を有する冷凍サイクルと、前記凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインとを備える冷凍機システムのエネルギーロス判定方法であって、
前記冷却水ラインの消費エネルギー指標値を設定する工程と、
前記凝縮器への冷却水の凝縮器流入温度、前記凝縮器からの冷却水の凝縮器流出温度及び前記凝縮器の負荷率を含む運転条件を得る工程と、
前記運転条件から補正係数を算出する工程と、
前記冷却水ラインの消費エネルギー計測値を計測する工程と、
前記消費エネルギー計測値及び前記補正係数から推定消費エネルギー指標値を算出する工程と、
前記消費エネルギー指標値と前記推定消費エネルギー指標値とを比較してエネルギーロスを評価する工程とを含み、
前記補正係数が、定格の凝縮器流入温度Tr における負荷率と入力比とに関する1次近似直線上又は2次近似曲線上で、計測時の負荷率Lm に対応する値である入力比a r1 を、測定時の凝縮器流入温度Tm における値に換算した入力比a m1 である、冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項2】
凝縮器及び蒸発器を有する冷凍サイクルと、前記凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインとを備える冷凍機システムのエネルギーロス判定方法であって、
前記冷却水ラインの消費エネルギー指標値を設定する工程と、
前記凝縮器への冷却水の凝縮器流入温度、前記凝縮器からの冷却水の凝縮器流出温度及び前記凝縮器の負荷率を含む運転条件を得る工程と、
前記運転条件から補正係数を算出する工程と、
前記消費エネルギー指標値及び前記補正係数から補正消費エネルギー指標値を算出する工程と、
前記冷却水ラインの消費エネルギー計測値を計測する工程と、
前記補正消費エネルギー指標値と前記消費エネルギー計測値とを比較してエネルギーロスを評価する工程とを含み、
前記補正係数が、定格の凝縮器流入温度Tr における負荷率と入力比とに関する1次近似直線上又は2次近似曲線上で、計測時の負荷率Lm に対応する値である入力比a r1 を、測定時の凝縮器流入温度Tm における値に換算した入力比a m1 である、冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項3】
前記運転条件は、前記蒸発器からの冷水の蒸発器流出温度及び電源電圧値をさらに含む、請求項1又は2に記載の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項4】
前記冷凍サイクルは、圧縮機を有する圧縮式冷凍機である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項5】
前記消費エネルギー指標値及び前記消費エネルギー計測値は、前記圧縮機の電流値又は電力値である、請求項4に記載の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項6】
前記冷凍サイクルは、再生器及び吸収器を有する吸収式冷凍機である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項7】
前記消費エネルギー指標値及び前記消費エネルギー計測値は、前記再生器の消費熱源量である、請求項6に記載の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【請求項8】
前記負荷率は、前記凝縮器流出温度と前記凝縮器流入温度との差分から得られる、請求項1~7のいずれか1項に記載の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機システムのエネルギーロス判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種工場、ビル等では、冷凍機等の各種の熱交換器を含む水系が設けられ、冷却水と被冷却体とを熱交換器を介して接触させて、被冷却体を冷却(場合により潜熱を奪うのみのものも含む)している。熱交換器としての冷凍機は、例えば、ビル等に設けられ、被冷却体としてフロン及び水等の冷媒が用いられている。また、冷凍機以外の熱交換器は、例えば、コンビナート等に設けられ、被冷却体として空気、油性物質及び各種有機物等の冷媒が用いられている。
冷凍機等の熱交換器を含む系のうち、これら被冷却体の凝縮を伴うものは凝縮器と称され、被冷却体の凝縮を伴わないものは冷却器と称される。
【0003】
近年、冷却水を循環流通させる冷却水ラインにおいては、節水を図るために、冷却水がより高濃縮、低流速で運転されるようになってきている。冷却水が高濃縮及び低流速で運転されるような条件下では、冷却水の蒸発に伴うイオン成分が濃縮し、スケールが析出して冷凍機内に付着してしまうことがある。また、このような条件下では、微生物が冷却水中で繁殖し、スライムが冷凍機内に付着してしまうこともある。
スケール及びスライム等の汚れが冷凍機内に付着することにより、被冷却体から冷却水への伝熱が阻害されてしまう。凝縮器において、伝熱が阻害されることにより、被冷却体凝縮量が減少し、圧力が上昇し、被冷却体温度が上昇してしまうことで、圧縮機の負荷が上昇し、エネルギーロスが生じてしまう。
【0004】
このため、冷凍機においては、エネルギーロスを防ぐために、汚れの付着状況を推定し、その状況に応じて、冷却水にスケール洗浄剤又はスライム洗浄剤を適切に添加して、洗浄を行なう対応がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1は、冷却水用の入口及び出口と、被冷却体用の入口及び出口とを有する熱交換器の汚れ状態を推定する方法において、下記式で求められるLTD(Leaving Temperature Difference)及びATD(Approach Temperature Difference)を用いている。
LTD=被冷却体の冷却後の温度-冷却水出口温度
ATD=被冷却体の冷却後の温度-冷却水入口温度
特許文献2は、冷凍システムにおける汚れ評価方法であって、冷却水ラインの洗浄前後における冷凍システムの消費エネルギー指標値と、冷却水ラインの洗浄前後における蒸発器又は凝縮器の負荷をそれぞれ計測した計測結果とを比較することで、冷却水ラインの汚れを評価している。評価には、冷却水ラインにおける圧縮機の電流値又は電力値を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-218188号公報
【文献】特許第5699675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提示する技術では、冷却水温度に関わらず汚れ状態を推定できるものの、冷凍機のエネルギーロスを定量的に示すことができていない。また、特許文献2で提示する技術では、エネルギーロス(電力ロス)を定量的に把握できるものの、水温が変動する場合については想定されていない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、冷却水温度が変動した場合であっても、定量的にエネルギーロスを把握することができる冷凍機システムのエネルギーロス判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、次の[1]~[8]を提供するものである。
[1]凝縮器及び蒸発器を有する冷凍サイクルと、前記凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインとを備える冷凍機システムのエネルギーロス判定方法であって、前記冷却水ラインの消費エネルギー指標値を設定する工程と、前記凝縮器への冷却水の凝縮器流入温度、前記凝縮器からの冷却水の凝縮器流出温度及び前記凝縮器の負荷率を含む運転条件を得る工程と、前記運転条件から補正係数を算出する工程と、前記冷却水ラインの消費エネルギー計測値を計測する工程と、前記消費エネルギー計測値及び前記補正係数から推定消費エネルギー指標値を算出する工程と、前記消費エネルギー指標値と前記推定消費エネルギー指標値とを比較してエネルギーロスを評価する工程とを含む、冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[2]凝縮器及び蒸発器を有する冷凍サイクルと、前記凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインとを備える冷凍機システムのエネルギーロス判定方法であって、前記冷却水ラインの消費エネルギー指標値を設定する工程と、前記凝縮器への冷却水の凝縮器流入温度、前記凝縮器からの冷却水の凝縮器流出温度及び前記凝縮器の負荷率を含む運転条件を得る工程と、前記運転条件から補正係数を算出する工程と、前記消費エネルギー指標値及び前記補正係数から補正消費エネルギー指標値を算出する工程と、前記冷却水ラインの消費エネルギー計測値を計測する工程と、前記補正消費エネルギー指標値と前記消費エネルギー計測値とを比較してエネルギーロスを評価する工程とを含む、冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[3]前記運転条件は、前記蒸発器からの冷水の蒸発器流出温度及び電源電圧値をさらに含む、[1]又は[2]の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[4]前記冷凍サイクルは、圧縮機を有する圧縮式冷凍機である、[1]~[3]のいずれかの冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[5]前記消費エネルギー指標値及び前記消費エネルギー計測値は、前記圧縮機の電流値又は電力値である、[4]の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[6]前記冷凍サイクルは、再生器及び吸収器を有する吸収式冷凍機である、[1]~[3]のいずれかの冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[7]前記消費エネルギー指標値及び前記消費エネルギー計測値は、前記再生器の消費熱源量である、[6]の冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
[8]前記負荷率は、前記凝縮器流出温度と前記凝縮器流入温度との差分から得られる、[1]~[7]のいずれかの冷凍機システムのエネルギーロス判定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却水温度が変動した場合であっても、定量的にエネルギーロスを把握することができる冷凍機システムのエネルギーロス判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧縮式冷凍システムのフロー図である。
図2】吸収式冷凍システムのフロー図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る冷凍機システムのエネルギーロス判定方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る冷凍機システムのエネルギーロス判定方法を示すフローチャートである。
図5】定格比冷却能力と入力比との関係を示すグラフである。
図6】データ処理のためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、凝縮器及び蒸発器を有する冷凍サイクルと、凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインとを備える冷凍機システムのエネルギーロス判定方法である。
【0012】
本発明の実施の形態に係る冷凍機システムのエネルギーロス判定方法で判定する冷凍機システムとしては、圧縮式冷凍システム及び吸収式冷凍システムが挙げられる。
【0013】
<圧縮式冷凍システム>
圧縮式冷凍システムは、図1に示すように、冷凍機1、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4、蒸発器5、冷却塔6を備える。
圧縮式冷凍システムにおける冷凍サイクルは、圧縮機2を有する圧縮式冷凍機(冷凍機)1である。冷凍機1は、圧縮機2によって媒体(例えば、HFC(ハイドロフルオロカーボン)系、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)系、CFC(クロロフルオロカーボン)系)を圧縮し、凝縮器3に導き、凝縮させる。凝縮器3の伝熱管(冷却コイル)3aには、冷却塔6で冷却された冷却水がポンプ7を介して循環通水される。伝熱管3a、冷却塔6、ポンプ7及び配管類によって冷却水ラインが構成されている。
凝縮した液は、膨張弁4を介して蒸発器5に導入され、蒸発して断熱膨張し、伝熱コイル5a内を流れる冷媒(本実施形態では水)を冷却する。蒸気は圧縮機2に送られ、再び圧縮される。伝熱コイル5aには、負荷体9で熱交換して昇温した水がポンプ8を介して通水され、冷却された冷水が負荷体9に循環通水される。
【0014】
<吸収式冷凍システム>
吸収式冷凍システムは、図2に示すように、再生器11、凝縮器12、蒸発器13、吸収器14を備える。
吸収式冷凍システムにおける冷凍サイクルは、再生器11及び吸収器14を有する吸収式冷凍機(冷凍機)10である。冷凍機10において、臭化リチウム水溶液等の吸収液が再生器11で燃料の燃焼熱によって加熱され、水蒸気が発生する。この水蒸気は、凝縮器12に導入され、冷却水が流通する伝熱管12aによって冷却されて凝縮し、水となる。伝熱管12a及び配管類によって冷却水ラインが構成されている。
凝縮した水は、蒸発器13に導入され、伝熱管13aと接触し、気化して水蒸気となる。伝熱管13a内を流れる水は、冷却され、冷水となり、負荷体に循環通水される。蒸発器13で蒸発した水蒸気は、吸収器14にて再生器11からの濃縮吸収液に吸収される。水蒸気を吸収した吸収液はポンプ15によって再生器11に返送される。
【0015】
[エネルギーロス判定方法]
本発明の第1の実施の形態に係る冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、図3に示すように、ステップS1からステップS3、及び、ステップS5からステップS7aを含む。
本発明の第2の実施の形態に係る冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、図4に示すように、ステップS1からステップS5、及び、ステップS7bを含む。
【0016】
(ステップS1)
ステップS1は、冷却水ラインの消費エネルギー指標値を設定する工程である。
消費エネルギー指標値は、冷却水ラインの清浄時における、定格条件(定格の運転条件)での消費エネルギー量を示す物理量である。消費エネルギー指標値は、消費エネルギー量自体であってもよいし、消費エネルギー量と相関する物理量であってもよい。
本明細書において、「清浄時」とは、冷凍機システムの冷却水ラインが清浄な状態(冷却水ラインに汚れがない状態)であるときのことをいう。なお、「清浄時」には、新品状態時も含む。
本明細書において、「定格条件」とは、冷凍機システムの性能を測定するための運転条件をいい、例えば、JISB 8621:2011、JISB 8622:2009等で規定されている条件をいう。なお、冷凍機カタログ及び技術資料に、定格条件での消費エネルギー量が記載されている場合は、記載された消費エネルギー量を消費エネルギー指標値とすることができる。また定格条件に拘らず、部分負荷運転条件での消費エネルギー量が記載されている場合もあり、部分負荷条件での消費エネルギー量を消費エネルギー指標値としても構わない。
本明細書において、「測定時条件」とは、エネルギーロス判定を行う所望の時期(測定時)の運転条件をいう。
【0017】
冷凍サイクルが圧縮式冷凍機である場合、消費エネルギー指標値は、圧縮機2の電流値又は電力値であってよい。すなわち、消費エネルギー指標値は、冷却水ラインの清浄時における、定格条件での圧縮機2の電流値又は電力値(設計値)であってよい。圧縮機2の電流値は、例えばクランプ式の電流値計測器を用いて計測できるが、冷凍機の動力制御盤に計測端子がある場合は、そこに電流メータを接続して計測してもよい。圧縮機2の電力値は、圧縮機2の電流値と、電源電圧値との積から算出することができる。
冷凍サイクルが吸収式冷凍機である場合、消費エネルギー指標値は、再生器11の消費熱源量であってよい。すなわち、消費エネルギー指標値は、冷却水ラインの清浄時における、定格条件での再生器11の消費熱源量(設計値)であってよい。消費熱源としては、ガス、燃料油及び蒸気ガス等が挙げられる。再生器11の消費熱源量は、例えばガス流量計、油流量計、蒸気流量計等を用いて計測できる。
なお、上記の圧縮機2の電流値又は電力値、再生器11の消費熱源量以外であっても、これと同様のものであれば消費エネルギー指標値として採用することができる。
【0018】
(ステップS2)
ステップS2は、凝縮器3,12への冷却水の凝縮器流入温度T、凝縮器3,12からの冷却水の凝縮器流出温度T及び凝縮器3,12の負荷率Lを含む運転条件を得る工程である。エネルギーロスをより正確に判断する場合には、運転条件は、蒸発器5,13からの冷水の蒸発器流出温度T及び電源電圧値Vをさらに含むことが好ましい。
ステップS2は、定格の運転条件(定格条件)を得る工程を備えてよい。定格条件は、凝縮器3,12への冷却水の凝縮器流入温度Tr、凝縮器3,12からの冷却水の凝縮器流出温度Tr及び凝縮器3,12の負荷率Lrを含んでよい。エネルギーロスをより正確に判断する場合には、定格条件は、蒸発器5,13からの冷水の蒸発器流出温度Tr及び電源電圧値Vrをさらに含むことが好ましい。定格条件に含まれる凝縮器流入温度Tr、凝縮器流出温度Tr、負荷率Lr、蒸発器流出温度Tr及び電源電圧値Vrはそれぞれ、予め測定された値、又は設計値(定格値)であってよい。負荷率Lrは、通常、100%に設定されてよい。
また、ステップS2は、測定時の運転条件(測定時条件)を得る工程を備えてよい。測定時条件は、凝縮器3,12への冷却水の凝縮器流入温度Tm、凝縮器3,12からの冷却水の凝縮器流出温度Tm及び凝縮器3,12の負荷率Lmを含んでよい。エネルギーロスをより正確に判断する場合には、測定時条件は、蒸発器5,13からの冷水の蒸発器流出温度Tm及び電源電圧値Vmをさらに含むことが好ましい。凝縮器流入温度Tm、凝縮器流出温度Tm、蒸発器流出温度Tm及び電源電圧値Vmは、エネルギーロス判定を行う所望の時期に測定することによって得ることができる。
凝縮器3,12の負荷率Lmは、凝縮器流出温度Trと凝縮器流入温度Trとの差分、及び、凝縮器流出温度Tmと凝縮器流入温度Tmとの差分から得られる。
ステップS2は、上記の定格条件と測定時条件とを得る工程であってよい。
【0019】
冷却水や冷水の水温を計測するには、水温を計測する温度計を伝熱管及び配管等の管に差し込むなどして水温を直接に計測してもよいが、冷却水又は冷水配管に温度計を貼付けて測定する方法も可能である。温度計は、微小な温度差も精度よく計測することができる白金測温抵抗体が好適であるが、これに限定されない。
冷凍機の制御装置に水温データ蓄積する機構があるときはそのデータを採取してもよい。また、好ましくは冷水流量を測定する。
【0020】
(ステップS3)
ステップS3は、ステップS2で得られた運転条件から補正係数を算出する工程である。補正係数を算出する方法については後述する。
【0021】
(ステップS4)
ステップS4は、消費エネルギー指標値及び補正係数から補正消費エネルギー指標値を算出する工程である。補正消費エネルギー指標値は、消費エネルギー指標値を、測定時条件での値に換算したものである。すなわち、補正消費エネルギー指標値は、冷却水ラインの清浄時における、測定時条件での消費エネルギー量を示す物理量である。補正消費エネルギー指標値を算出する方法については後述する。
【0022】
(ステップS5)
ステップS5は、冷却水ラインの消費エネルギー計測値を計測する工程である。消費エネルギー計測値は、冷凍機システムのエネルギーロス判定を行う所望の時期(測定時)に計測したものである。
【0023】
消費エネルギー計測値は、冷却水ラインの測定時における、測定時条件での消費エネルギー量を示す物理量である。消費エネルギー計測値は、上記の消費エネルギー指標値と同種のものであればよい。したがって、冷凍サイクルが圧縮式冷凍機である場合、消費エネルギー計測値は、圧縮機2の電流値又は電力値を採用することができる。すなわち、消費エネルギー計測値は、冷却水ラインの測定時における、測定時条件での圧縮機2の電流値又は電力値(計測値)であってよい。また、冷凍サイクルが吸収式冷凍機である場合、消費エネルギー計測値として、再生器11の消費熱源量を採用することができる。すなわち、消費エネルギー計測値は、冷却水ラインの測定時における、測定時条件での再生器11の消費熱源量(計測値)であってよい。
なお、消費エネルギー計測値は、消費エネルギー指標値と同種のものであればよく、上記の圧縮機2の電流値又は電力値、再生器11の消費熱源量以外であっても、これと同様のものであれば消費エネルギー計測値として採用することができる。
【0024】
(ステップS6)
ステップS6は、消費エネルギー計測値及び補正係数から推定消費エネルギー指標値を算出する工程である。推定消費エネルギー指標値は、消費エネルギー計測値を、定格条件での値に換算したものである。すなわち、推定消費エネルギー指標値は、冷却水ラインの測定時における、定格条件での消費エネルギー量を示す物理量である。推定消費エネルギー指標値を算出する方法については後述する。
【0025】
(ステップS7)
ステップS7aは、消費エネルギー指標値と推定消費エネルギー指標値とを比較してエネルギーロスを評価する工程である。エネルギーロスを評価する方法については後述する。
ステップS7bは、補正消費エネルギー指標値と消費エネルギー計測値とを比較してエネルギーロスを評価する工程である。エネルギーロスを評価する方法については後述する。
【0026】
冷凍機システムのエネルギーロス判定方法として、圧縮式冷凍システムのエネルギーロスを判定する場合についての具体例を以下に示す。
【0027】
ステップS1として、圧縮式冷凍システムにおける消費エネルギー指標値を得る。ここで、消費エネルギー指標値として、冷却水ラインの清浄時における、定格条件での圧縮機2の電流値I1の設計値を得る。
【0028】
ステップS2として、定格の運転条件(定格条件)及び測定時の運転条件(測定時条件)を得る。
定格条件として、凝縮器3への冷却水の凝縮器流入温度Tr及び凝縮器3からの冷却水の凝縮器流出温度Trの設計値を得る。凝縮器3の負荷率Lrは100%とする。エネルギーロスをより正確に判断する場合には、蒸発器5からの冷水の蒸発器流出温度Tr及び電源電圧値Vrの設計値をさらに得ることが好ましい。
測定時条件として、測定時における凝縮器3への冷却水の凝縮器流入温度Tm及び凝縮器3からの冷却水の凝縮器流出温度Tmを測定する。凝縮器3の負荷率Lmを、凝縮器流出温度Trと凝縮器流入温度Trとの差分、及び、凝縮器流出温度Tmと凝縮器流入温度Tmとの差分から、表1に記載の計算式に従って算出する。エネルギーロスをより正確に判断する場合には、測定時における蒸発器5からの冷水の蒸発器流出温度Tm及び電源電圧値Vmをさらに測定することが好ましい。
得られた定格条件及び測定時条件を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
ステップS3として、ステップS2で得られた運転条件から補正係数aを算出する。補正係数aは、以下に示す方法によって予め算出して作成された早見表を用いて値を選定することもでき、その都度算出した値を用いることもできる。
【0031】
補正係数aの求め方の一例を説明する。
図5は、一般的な圧縮式冷凍システムにおける凝縮器流入温度T(T:12℃、16℃、20℃、24℃、28℃、32℃)の定格比冷却能力(負荷率)と入力比との関係を示すグラフである。
まず、図5の凝縮器流入温度Tにおける負荷率と入力比とに関する2次近似曲線を求める。
次いで、定格の凝縮器流入温度Trにおける、測定時の負荷率Lmに対応する近似曲線上の値(入力比ar1)を求める。例えば、凝縮器流入温度Trが32℃であり、負荷率Lmが80%である場合の入力比ar1は、約0.79である。
次いで、求めた入力比を、測定時の凝縮器流入温度Tmにおける値に換算する。凝縮器流入温度Tmである場合の入力比am1(補正係数a)は、以下に示す式(1)により得られる。式(1)におけるhは係数である。
m1=ar1×[1-(Tr-Tm)×h]・・・(1)
【0032】
エネルギーロスをより正確に判断するためには、入力比am1(補正係数a)は、以下に示す式(2)により得られる。式(2)におけるh、kは係数である。
m1=ar1×[1-(Tr-Tm)×h]/(Vm/Vr)/(1-(Tr-Tm)×k)・・・(2)
【0033】
式(1)及び式(2)における係数hは、凝縮器流入温度に関連して低下する入力比に基づいて決定される係数である。係数hは、例えば、図5における定格比冷却能力(負荷率)が100%において、冷却水温度が32℃から12℃へと20℃下がると、入力比が1.0から約0.4へと約0.6下がることから、凝縮器流入温度が1℃下がるごとに入力比が3%程度下がることに基づいて決定される。係数hは、例えば、凝縮器流入温度が1℃下がるごとに入力比が1~3%下がることに基づいて決定されてよい。この場合、係数hは、0.01~0.03の範囲内で設定されてよい。
式(2)では、電源電圧値が高くなると、入力比が反比例して低くなることに基づいて、Vm/Vrが採用されている。
式(2)における係数kは、蒸発器流出温度に関連して低下する入力比に基づいて決定される係数である。係数kは、例えば、蒸発器流出温度が1℃下がるごとに入力比が2%程度上がることに基づいて決定される。係数kは、例えば、蒸発器流出温度が1℃下がるごとに入力比が1~3%上がることに基づいて決定されてよい。この場合、係数kは、0.01~0.03の範囲内で設定されてよい。
【0034】
補正係数aの求め方は、上記方法に限られず、種々の方法を採用し得る。例えば、図5で示した2次近似曲線ではなく、他の2次近似曲線を用いてもよい。また、補正係数aの求め方として、2次近似曲線は、複数の2次近似曲線の平均値から得られる平均2次近似曲線であってもよい。また、補正係数aの求め方として、2次近似曲線の代わりに、1次の近似直線を用いてもよい。
近似曲線(直線)を求めるために使用するデータは、任意の点を選択してよい。
【0035】
ステップS4として、消費エネルギー指標値I1及び補正係数aから補正消費エネルギー指標値iを算出する。ここで、補正消費エネルギー指標値iは、式(3)に示すように、消費エネルギー指標値である電流値I1に補正係数aを乗算することで得られる。
=a×I1・・・(3)
【0036】
ステップS5として、冷却水ラインの消費エネルギー計測値を計測する。ここで、消費エネルギー計測値として、冷却水ラインの測定時における、測定時条件での圧縮機2の電流値iを得る。
【0037】
ステップS6として、消費エネルギー計測値i及び補正係数aから推定消費エネルギー指標値Iを算出する。ここで、推定消費エネルギー指標値Iは、式(4)に示すように、消費エネルギー計測値である電流値iを補正係数aで除算することで得られる。
=i/a・・・(4)
【0038】
ステップS7aとして、消費エネルギー指標値Iと推定消費エネルギー指標値Iとを比較してエネルギーロスを評価する。比較する方法として、式(5)に示すように、消費エネルギー指標値Iに対する推定消費エネルギー指標値Iの比率Pを算出する。
=I/I・・・(5)
【0039】
ステップS7bとして、補正消費エネルギー指標値iと消費エネルギー計測値iとを比較してエネルギーロスを評価する。比較する方法として、式(6)に示すように、補正消費エネルギー指標値iに対する消費エネルギー計測値iの比率Pを算出する。
=i/i・・・(6)
【0040】
ステップS4からステップS7a又はステップS7bによって得られる値を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
冷凍機システムのエネルギーロス判定方法として得られた比率P及び比率Pは、冷凍機システムのエネルギーロスを定量的に示すことができる。比率P及び比率Pの値が大きい場合は、エネルギーロスが大きいことを示す。
比率Pは、1.10以下であることが好ましく、1.05以下であることがより好ましく、1.03以下であることがさらに好ましい。
比率Pは、1.10以下であることが好ましく、1.05以下であることがより好ましく、1.03以下であることがさらに好ましい。
比率P及び比率Pが上記上限であることによって、冷凍機システムのエネルギーロスが許容できる範疇に収まっていることを示す。
【0043】
冷凍機システムのエネルギーロスの原因としては、冷却水ラインの汚れ、冷却水の流量不足等が挙げられる。比率P、Pが上記上限を超える場合には、冷凍機システムのエネルギーロスの原因を解消する措置をとることが好ましい。エネルギーロスの原因が冷却水ラインの汚れである場合は、冷却水ラインの洗浄を行う措置として、例えば洗浄剤を循環冷却水ラインに添加すればよい。冷却水ラインの洗浄は、ライン全体について行ってもよく、ラインの一部についてのみ行ってもよい。
【0044】
冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、上記説明において、圧縮機の電流値を消費エネルギー指標値としているが、圧縮機の電力値を消費エネルギー指標値としてもよい。
また、冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、電流値又は電力値、電源電圧値、負荷率、比率(電力比)、力率、運転時間、電力単価、CO係数等に基づいて、冷却水ラインの清浄時(設計時)及び測定時における、電力量、電力費及びCO排出量を容易に試算することができ、エネルギーロスによる損出を容易に把握することができる。
【0045】
冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、上記説明において、負荷率として凝縮器3,12の負荷率としているが、蒸発器5,13の負荷率としてもよい。蒸発器5,13の負荷率としては、蒸発器流出温度Trと蒸発器流入温度Trとの差分、及び、蒸発器流出温度Tmと蒸発器流入温度Tmとの差分から得られる。
【0046】
冷凍機システムのエネルギーロス判定方法は、上記説明において述べた手順を行う具体的方法として、図6に示すシステムを用いてもよい。
【0047】
冷凍機の負荷にかかわる温度やエネルギーに関する電流などデータの収集手段は様々なものがあるので、例えば、既存の仕組みからそれぞれ収集した結果をデータファイルとして、登録できるようにしたり(オフラインデータ登録用画面)、直接オンライン計測結果を取り込めるようにしたりすることが望ましい。
【0048】
収集データはデータベース(DB)に蓄積される。この際、対象冷凍機を特定するための識別コードによって、上記収集データを検索できるように蓄積するのが好ましい。
【0049】
蓄積データは指標計算処理によって、上記の各指標値に変換され、指標値DBに蓄積される。この際の指標値も時刻(データ期間の日時またはデータ期間の開始/終了日)と対象冷凍機を特定するための識別コードで検索できるように蓄積するのが好ましい。次いで、上記方法により、指標値及び計測値に基づいて比率が算出され、エネルギーロスの評価結果に関する報告書が作成される。
【0050】
図6のシステムによれば、所望の時期のエネルギーロスを自動的に評価することができ、エネルギーロスを経時的にモニタリングすることもできる。
【0051】
データ蓄積方法としては、市販のデータロガー装置を適用してもよいが、収集したデータをインターネット経由でサーバーに蓄積し、インターネット経由でデータ確認できる方式を採用してもよい。この方式を用いることにより、現場から離れている場所にいても現場のエネルギーロスの状況を確認することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1:冷凍機
2:圧縮機
3:凝縮器
4:膨張弁
5:蒸発器
10:冷凍機
11:再生器
12:凝縮器
13:蒸発器
14:吸収器
図1
図2
図3
図4
図5
図6