IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

<>
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図1
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図2
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図3
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20221206BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20221206BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B41J2/165 401
B41J2/165 307
C11D7/32
C11D7/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018222048
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020082568
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】坂内 昭子
(72)【発明者】
【氏名】安宅 拓未
(72)【発明者】
【氏名】左近 洋太
(72)【発明者】
【氏名】田代 浩子
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069730(JP,A)
【文献】特開2014-188900(JP,A)
【文献】特開2008-137266(JP,A)
【文献】特開2005-199597(JP,A)
【文献】特開平02-198859(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047193(WO,A1)
【文献】特開2005-131969(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0134629(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C11D 7/32
C11D 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭する払拭部材と、
前記ノズル形成面に付与される洗浄液と、を備え、
前記払拭部材は、少なくとも2層からなり、
前記払拭部材における前記ノズル形成面に接触する第一層目の空隙率は、前記第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率よりも小さく、
前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有する洗浄液であり、
前記洗浄液を前記第一層目に付与する洗浄液付与手段を有する払拭装置。
【化1】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項2】
前記グリコールエーテル化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の払拭装置。
【化2】
(前記一般式(2)で表される化合物において、RはC2n+1であり、Rは水素原子またはメチル基である。ただし、mは1以上4以下の整数であり、nは1以上4以下の整数である。)
【請求項3】
前記グリコールエーテル化合物の含有量は、前記洗浄液に対して1.0質量%以上30.0質量%以下である請求項1又は2に記載の払拭装置。
【請求項4】
前記払拭部材の厚さが0.1mm以上3.0mm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の払拭装置。
【請求項5】
前記払拭部材の厚さが0.25mm以上0.35mm以下である請求項4に記載の払拭装置。
【請求項6】
前記第一層目の空隙率が0.60以上0.85以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の払拭装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の払拭装置と、前記液体吐出ヘッドと、を備える液体吐出装置。
【請求項8】
前記液体は、色材、及び有機溶剤を含有する請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記液体は、樹脂を含有し、色材を含有しない請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記払拭部材における前記第一層目以外の層の少なくとも一つの層の空隙率は0.80以上0.99以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の払拭装置。
【請求項11】
ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面に洗浄液を付与する洗浄液付与工程と、
前記ノズル形成面を払拭部材で払拭する払拭工程と、を有する払拭方法であって、
前記払拭部材は、少なくとも2層からなり、
前記払拭部材における前記ノズル形成面に接触する第一層目の空隙率は、前記第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率よりも小さく、
前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有する洗浄液であり、
前記洗浄液を前記第一層目に付与する洗浄液付与工程を有する払拭方法。
【化3】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項12】
前記グリコールエーテル化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である請求項11に記載の払拭方法。
【化4】
(前記一般式(2)で表される化合物において、Rはそれぞれ独立してC2n+1であり、Rは水素原子またはメチル基である。ただし、mは1以上4以下の整数であり、nは1以上4以下の整数である。)
【請求項13】
前記グリコールエーテル化合物の含有量は、前記洗浄液に対して1.0質量%以上30.0質量%以下である請求項11又は12に記載の払拭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに代表される液体吐出装置においては、ノズル形成面の異物によって吐出不良等の不具合が生じるため、定期的にクリーニングする必要がある。ノズル形成面のクリーニングに用いられる払拭部材としては、不織布や織布に代表されるシート状の払拭部材を組み合わせてクリーニングする方法が既に知られている。
【0003】
特許文献1には、固体である粒子が液体中に分散した分散系液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドとワイピング部材とを相対移動することにより、ノズル形成面に付着した分散系液体をワイピング部材で払拭するワイパー装置が開示されている。このワイピング部材は、ノズル形成面側の第一層と、第一層に対してノズル形成面と反対側の第二層とを有している。第一層は、ノズル形成面に付着する分散系液体の分散媒である液滴を毛細管現象により第二層に導くとともに、分散系液体の分散質を捕捉して収容可能な空隙を有する。また、第二層は分散媒を吸収する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の払拭部材を用いたクリーニング方法では、ノズル形成面で液体が乾燥して付着した固着物を除去することが困難である課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭する払拭部材と、前記ノズル形成面に付与される洗浄液と、を備え、前記払拭部材は、少なくとも2層からなり、前記払拭部材における前記ノズル形成面に接触する第一層目の空隙率は、前記第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率よりも小さく、前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有する洗浄液であり、前記洗浄液を前記第一層目に付与する洗浄液付与手段を有する払拭装置である。
【化1】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明の液体吐出装置は、ノズル形成面で液体が乾燥して付着した固着物を容易に除去することができる優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、払拭装置を組み込んだ画像形成装置の一例を模式的に表した図である。
図2図2は、液体吐出ヘッドのノズル形成面の一例を模式的に表した図である。
図3図3は、払拭装置の一例を模式的に表した図である。
図4図4は、シート状の払拭部材の断面の一例を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
(1)ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭する払拭部材と、
前記ノズル形成面に付与される洗浄液と、を備え、
前記払拭部材は、少なくとも2層からなり、
前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有する払拭装置。
【化2】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
(2)前記グリコールエーテル化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である(1)に記載の払拭装置。
【化3】
(前記一般式(2)で表される化合物において、RはC2n+1であり、Rは水素原子またはメチル基である。ただし、mは1以上4以下の整数であり、nは1以上4以下の整数である。)
(3)前記グリコールエーテル化合物の含有量は、前記洗浄液に対して1.0質量%以上30.0質量%以下である(1)又は(2)に記載の払拭装置。
(4)前記払拭部材における前記ノズル形成面に接触する第一層目の空隙率は、前記第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率よりも小さい(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の払拭装置。
(5)前記第一層目の空隙率が0.60以上0.85以下である(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の払拭装置。
(6)前記状払拭部材に前記洗浄液を付与する洗浄液付与手段を有する(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の払拭装置。
(7)(1)乃至(6)のいずれか一項に記載の払拭装置と、前記液体吐出ヘッドと、を備える液体吐出装置。
(8)前記液体は、色材、及び有機溶剤を含有する(7)に記載の液体吐出装置。
(9)前記液体は、樹脂を含有し、色材を含有しない(7)に記載の液体吐出装置。
(10)ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面に洗浄液を付与する洗浄液付与工程と、
前記ノズル形成面を払拭部材で払拭する払拭工程と、を有する払拭方法であって、
前記払拭部材は、少なくとも2層からなり、
前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有する払拭方法。
【化4】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
(11)前記グリコールエーテル化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である(10)に記載の払拭方法。
【化5】
(前記一般式(2)で表される化合物において、RはC2n+1であり、Rは水素原子またはメチル基である。ただし、mは1以上4以下の整数であり、nは1以上4以下の整数である。)
(12)前記グリコールエーテル化合物の含有量は、前記洗浄液に対して1.0質量%以上30.0質量%以下である(10)又は(11)に記載の払拭方法。
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<<液体吐出装置、払拭装置、払拭方法>>
本実施形態の液体吐出装置は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッド、及び払拭装置などを有し、必要に応じて他の手段(例えば、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段や、前処理装置、後処理装置と称される装置など)を有する。払拭装置は、払拭部材、及び洗浄液を有し、必要に応じて他の手段を有する。また、払拭装置を有する液体吐出装置によって実行される払拭方法は、洗浄液付与工程、及び払拭工程を有し、必要に応じて他の工程を有する。払拭装置は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面に対して洗浄液を付与し、払拭部材を接触させることでノズル形成面を払拭する。なお、本実施形態において「払拭」とは、払拭部材及びノズル形成面を接触させつつ、払拭部材と液体吐出ヘッドを相対移動させることを表す。払拭部材を用いてノズル形成面を払拭することにより、例えば、ノズル形成面で液体が乾燥して付着した固着物をノズル形成面から除去することができる。また、例えば、ノズルから溢れ出た余剰液体を吸収することでノズル形成面から除去することができる。
【0011】
まず、図1乃至図3を用いて、払拭装置を組み込んだ液体吐出装置の一例である画像形成装置(以降で説明する印刷方法を実行する印刷装置)を例に、液体吐出装置および払拭装置について説明する。画像形成装置は、液体の一例としてインクを吐出する装置であり、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。図1は、払拭装置を組み込んだ画像形成装置の一例を模式的に表した図である。図2は、液体吐出ヘッドのノズル形成面の一例を模式的に表した図である。図3は、払拭装置の一例を模式的に表した図である。
【0012】
図1に示す画像形成装置は、シリアル型の液体吐出装置である。画像形成装置は、左右の側板に横架した主ガイド部材1及び従ガイド部材でキャリッジ3を移動可能に保持している。そして、キャリッジ3は、主走査モータ5によって、駆動プーリ6と従動プーリ7との間に架け渡したタイミングベルト8を介して主走査方向(キャリッジ移動方向)に往復移動する。このキャリッジ3には、液体吐出ヘッドの一例である記録ヘッド4a、4b(区別しないときは「記録ヘッド4」という。)を搭載している。記録ヘッド4は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する。また、記録ヘッド4は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0013】
記録ヘッド4は、図2に示すように、ノズル形成面41に、複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。記録ヘッド4を構成する液体吐出ヘッドとしては、例えば、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータを用いることができる。
【0014】
また、図1に示す画像形成装置は、用紙10を搬送するために、用紙を静電吸着して記録ヘッド4に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト12を備えている。この搬送ベルト12は、無端状ベルトであり、搬送ローラ13とテンションローラ14との間に掛け渡されている。そして、搬送ベルト12は、副走査モータ16によって、タイミングベルト17及びタイミングプーリ18を介して搬送ローラ13が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。この搬送ベルト12は、周回移動しながら帯電ローラによって帯電(電荷付与)される。
【0015】
さらに、キャリッジ3の主走査方向の一方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4の維持回復を行う維持回復機構20が配置され、他方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4から空吐出を行う空吐出受け21がそれぞれ配置されている。維持回復機構20は、例えば記録ヘッド4のノズル形成面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材20a、ノズル形成面を払拭する機構20b、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出受けなどで構成されている。
【0016】
また、画像形成装置は、キャリッジ3の主走査方向に沿って両側板間に、所定のパターンを形成したエンコーダスケール23を張装している。また、キャリッジ3にはエンコーダスケール23のパターンを読み取る透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ24が設けられている。これらのエンコーダスケール23とエンコーダセンサ24によってキャリッジ3の移動を検知するリニアエンコーダ(主走査エンコーダ)を構成している。
【0017】
また、搬送ローラ13の軸にはコードホイール25が取り付けられており、このコードホイール25に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ26も設けられている。これらのコードホイール25とエンコーダセンサ26によって搬送ベルト12の移動量及び移動位置を検出するロータリエンコーダ(副走査エンコーダ)が構成されている。
【0018】
このように構成された画像形成装置において、用紙10が帯電された搬送ベルト12上に給紙されることで吸着され、搬送ベルト12の周回移動によって用紙10が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ3を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド4を駆動することにより、停止している用紙10にインク滴を吐出して1行分を記録する。そして、用紙10を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙10の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙10を排紙トレイに排紙する。
【0019】
また、記録ヘッド4のクリーニングを行う場合は、印字(記録)待機中にキャリッジ3を維持回復機構20に移動させ、維持回復機構20により清掃を実施する。また、記録ヘッド4は移動せず、維持回復機構20が移動してヘッドを清掃するようにしてもよい。図1で示した記録ヘッド4は、図2に示すように複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。記録ヘッド4aの一方のノズル列Naはブラック(K)の液滴を、他方のノズル列Nbはシアン(C)の液滴を吐出する。記録ヘッド4bの一方のノズル列Naはマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列Nbはイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。
【0020】
ノズル形成面を払拭する維持回復機構20bは、払拭装置の一例であって、図3に示すように、払拭部材の一例であるシート状払拭部材320とシート状払拭部材320を送り出す送り出しローラ410と、送り出されたシート状払拭部材320に洗浄液を付与する洗浄液付与工程を実行する洗浄液付与手段の一例である洗浄液滴下装置430と、洗浄液を付与されたシート状払拭部材320をノズル形成面に押し当てる押し当て手段の一例である押し当てローラ400と、払拭に使われたシート状払拭部材320を回収する巻き取りローラ420と、を有する。洗浄液は、途中に洗浄液を供給するポンプを設けられた洗浄液供給チューブを介し、洗浄液を収容する洗浄液収容容器から供給される。なお、ノズル形成面を払拭する機構20bは、シート状払拭部材320のほかに、ノズル形成面を払拭するゴムブレード等を備えていても良い。また、押し当てローラ400はバネを用いて、クリーニング部とノズル形成面の距離を調整することで、押し当て力を調整することができる。押し当て部材はローラに限らず、固定された樹脂やゴムの部材であっても良い。ゴムブレード等を備えている場合、シート状払拭部材320にゴムブレード等を当接させる機構を設けて、シート状払拭部材320にゴムブレード等のクリーニング機能を持たせても良い。また、シート状払拭部材は、小型化の観点から図3に示すようにロール状に巻き取られた状態で収納されていることが好ましいが、これに限らず、折り畳んで収納されている状態であってもよい。また、洗浄液付与手段としては、洗浄液滴下装置以外の手段であってもよく、例えば、洗浄液をローラで付与する洗浄液付与ローラ、洗浄液をスプレーで付与する洗浄液付与スプレーなどが挙げられる。また、洗浄液付与手段により実行される洗浄液付与工程は、洗浄液をノズル形成面に付与できる工程であれば特に制限はなく、上記実施形態のように、洗浄液付与手段を介して間接的に洗浄液を付与する工程以外に、洗浄液をノズル形成面に直接付与する工程であってもよいが、洗浄液付与手段を介して間接的に洗浄液を付与する工程が好ましい。
【0021】
本実施形態では、払拭工程の一例として、払拭部材に洗浄液を一定量塗布した後、払拭部材がノズル形成面に押し当てられながら維持回復機構20bと記録ヘッド4が相対的に移動することでノズル形成面に付着した異物500を払拭する工程が実行される。ノズル形成面に付着する異物500としては、ノズルからインクを吐出した際に発生するミストインクや、クリーニング等でノズルからインクを吸引したときに付着するインク、ミストインクやキャップ部材に付着したインクがノズル面で乾燥した固着インク、被印刷物から発生する紙粉などが挙げられる。本実施形態では、洗浄液を含有しない払拭部材に対して洗浄液が付与された後で異物500の払拭が行われるが、予め洗浄液を含む払拭部材を用いることで洗浄液付与手段を用いない構成としてもよい。また、洗浄液が付与される場所は払拭部材以外であってもよく、ノズル形成面に直接付与されてもよい。すなわち、「ノズル形成面に付与される洗浄液」とは、結果的にノズル形成面に付与される全ての態様の洗浄液を意味し、例えば、ノズル形成面に直接的に付与される洗浄液、洗浄液を含む払拭部材を介してノズル形成面に間接的に付与される洗浄液などが挙げられるが、洗浄液を含む払拭部材を介してノズル形成面に間接的に付与される洗浄液であることが好ましい。また、長時間の待機状態により、ノズル形成面でインクが乾燥して固着していると想定される場合は、洗浄液を含んだ払拭部材でノズル形成面を複数回払拭することで取り除くことができる構成であることが好ましい。なお、洗浄液を用いてノズル形成面を払拭する工程に加えて、洗浄液を用いずにノズル形成面を払拭する工程を追加的に有してもよい。
【0022】
<払拭部材>
次に、払拭部材について図4を用いて説明する。図4はシート状の払拭部材の断面の一例を模式的に表した図である。図4に示す払拭部材700は、2層の不織布であって、液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭するためにノズル形成面と接触する表面を有する第一層目710と、ノズル形成面と接触しない裏面を有する第二層目720(第一層目以外の層)と、を有する。これ以外にも、例えば、吸収したインクの裏写り防止や払拭部材の強度向上を目的としてフィルムを裏打ちした3層構造や、吸収性の異なる複数の吸収層を第二層以降に設けた多層構造などでも良い。すなわち、払拭部材は、少なくとも2層からなり、第一層目以外の少なくとも一つの層を有する。払拭部材が少なくとも2層からなることで、定着性の高い液体(特に樹脂などを多く含むような液体)を使用する場合であっても、液体吐出ヘッドのノズル形成面における清浄性を維持することができる。
【0023】
払拭部材を構成する材料としては、不織布のほかに、織布や編布、多孔質体などが挙げられる。特に、厚さと空隙率のコントロールが比較的容易であり、様々な種類の繊維の配合も容易である不織布を用いるのが好ましい。不織布や織布、編布などの繊維の材質としては、綿、麻、絹、パルプ、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、レーヨン、キュプラ、アクリル、ポリ乳酸、などが挙げられる。1種類の繊維からなる不織布だけではなく、複数種類の繊維が混ざった不織布でも良い。多孔質体としては、ポリウレタン、ポリオレフィン、PVAなどが挙げられる。払拭部材の製造方法の一例として、払拭部材が不織布である場合について説明する。不織布の形成方法としては、例えば、湿式、乾式、スパンボンド、メルトブローン、フラッシュ紡糸などの方法が挙げられる。また、不織布の結合方法としては、例えば、スパンレース、ニードルパンチ、サーマルボンド、ケミカルボンドなどの方法が挙げられる。スパンレース法とは、堆積された繊維上にジェット水流を噴射し、その圧力によって繊維同士を絡み合わせてシート状に結合させる製法である。ニードルパンチ法とは、堆積された繊維をバーブと呼ばれる突起のついた針を数10回以上突き刺すことにより繊維同士を機械的に絡ませて不織布に加工する製法である。なお、払拭部材は不織布からなることが好ましい。不織布により形成されることで、払拭部材の厚み及び空隙率を所望の数値範囲に容易に調整することができる。
【0024】
また、第一層目の空隙率は、第一層目以外の少なくとも一層の空隙率より小さいことで、固着インクに対するかきとり性が向上し、固着インク払拭性が向上する。ここで、空隙率は以下のように計算される。
【数1】
そして、シート状の不織布等の場合には、上記の「真密度」はシートを形成する繊維の真密度であり、「見掛の密度」はシート状の材料の目付量と厚さから「目付量÷厚さ]で求めることができる。
【0025】
払拭部材は、空隙率が小さいことで固着インクのかきとり性が高くなる。しかし、空隙率が小さい場合にはインクや洗浄液等の液成分を保持することが困難になり、結果として単一層のみではクリーニング性が不十分となる場合がある。そこで、第一層目以外の層に、液成分を保持可能な層(第一層目以外の少なくとも一つの層)を設けることが好ましい。インクや洗浄液等の保持機能(吸収機能)と固着物の払拭機能とを2層以上の構成に機能分離させて持たせることにより、従来の払拭部材では不十分だったインクや洗浄液等の保持機能及び固着物の払拭性を向上させることができる。また、付与される洗浄液量がばらついた場合にも、払拭部材の保持力が高いため、過剰量を付与された箇所の洗浄液がノズル孔内に侵入することを抑制できる。なお、払拭部材の層間において、上記の通り、第一層目の空隙率を第一層目以外の少なくとも一層の空隙率より小さくすることで、固着インク払拭性が向上する。
【0026】
第一層目の空隙率は0.60以上0.85以下が好ましく、0.75以上0.80以下がより好ましい。第一層目の空隙率が0.60以上0.85以下であることで、固着インクの払拭性を向上させることができ、また、払拭部材が液体を透過しないフィルム状とならず、透過性を向上させることができる。
また、第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率は0.80以上0.99以下であることが好ましい。第一層目以外の層の空隙率が上記範囲内にあることで、液体や洗浄液の吸収性を向上させることが出来る。これらの第一層目と第一層目以外の層を組み合わせることにより、固着インクのかきとり性と液体や洗浄液の吸収性を両立させ、払拭性を向上させることができる。
【0027】
払拭部材の厚さは、装置構成上の制約や、所望される液体保持力(液体吸収力)によって適宜調整することができ、例えば、0.1mm以上3.0mm以下が好ましい。
【0028】
<洗浄液>
払拭装置に搭載される洗浄液は、一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有し、必要に応じて他の有機溶剤、界面活性剤、水、及びその他の成分を含有してもよい。この洗浄液を直接的または間接的にノズル形成面に付与してから払拭部材で払拭することで、ノズル形成面に形成された固着物の粘性が低下し除去が容易になる。なお、本実施形態に用いられるこの洗浄液は、一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を併用することにより、いずれかを単独で用いたときよりも高い洗浄性を得られるという知見に基づく。また、洗浄液は洗浄液収容容器に充填されて払拭装置に搭載されることが好ましい。
【0029】
-一般式(1)で表される化合物-
洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。
【化6】
一般式(1)のRは、炭素数1以下4以上のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などがあげられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、ブチル基が好ましく、メチル基、t-ブチル基がより好ましい。
【0030】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、一般式(1)中のRがメチル基の場合である3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、一般式(1)中のRがブチル基の場合である3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドなどが挙げられる。
これらは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(エクアミドM100、出光興産株式会社製)、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(エクアミドB100、出光興産株式会社製)などが挙げられる。
【0031】
3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドを合成する手法の一例を説明する。まず、撹拌装置、熱電対、及び窒素ガス導入管を備えた300mLセパラブルフラスコに、N,N-ジメチルアクリルアミド19.828g、及びエタノール19.868gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌する。次に、ナトリウム-メトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応させ、反応終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置し、得られた溶液を濾過して、析出物を除去し、エバポレーターで未反応物を除くことで、合成することができる。
【0032】
3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドを合成する手法の一例を説明する。まず、撹拌装置、熱電対、及び窒素ガス導入管を備えた300mLセパラブルフラスコに、N,N-ジメチルアクリルアミド19.828g、及びエタノール19.868gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌する。次に、ナトリウム-ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応させ、反応終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置し、得られた溶液を濾過して、析出物を除去し、エバポレーターで未反応物を除き、合成することができる。
【0033】
一般式(1)で表される化合物の含有量は、洗浄液の全量に対して、20.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましい。含有量が、20.0質量%以上50.0質量%以下であると、洗浄液を用いた固着物の払拭性と、払拭後のインクの吐出安定性(吐出信頼性)、及び液体と洗浄液を混合した際に粘度が大きく変化しない混合安定性を両立することができる。
【0034】
-グリコールエーテル化合物-
グリコールエーテル化合物は、インクなどの液体が固着して形成される固着物に対して作用する力が強く、洗浄液を用いた固着物の払拭性を向上させることができる。また、グリコールエーテル化合物と一般式(1)で表される化合物を併用することで、洗浄液を用いた固着物の払拭性と、払拭後のインクの吐出安定性(吐出信頼性)、及び液体と洗浄液を混合した際に粘度が大きく変化しない混合安定性を両立することができる。グリコールエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、下記一般式(2)で表されるジアルキルグリコールエーテル化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、液体の固着物の軟化が起こりやすく、より洗浄液を用いた固着物の払拭性が向上する点から、下記一般式(2)で表されるジアルキルグリコールエーテル化合物が特に好ましい。
【化7】
一般式(2)で表される化合物のRはそれぞれ独立してC2n+1であり、Rは水素原子またはメチル基である。ただし、mは1以上4以下の整数であり、nは1以上4以下の整数である。なお、Rに関し「それぞれ独立して」とは、一般式(2)中に2つ存在するRがC2n+1満たす範囲で同一であっても異なってもよいことを表す。
【0035】
一般式(2)で表されるジアルキルグリコールエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
グリコールエーテル化合物の含有量としては、洗浄液全量に対して、1.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましい。含有量が、1.0質量%以上30.0質量%以下であれば、洗浄液を用いた固着物の払拭性、払拭後のインクの吐出安定性(吐出信頼性)、及び液体と洗浄液を混合した際に粘度が大きく変化しない混合安定性を両立することができる。
【0037】
-他の有機溶剤-
他の有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水溶性有機溶剤などが挙げられる。水溶性有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、炭素数8以上のポリオール化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオールなどが挙げられる。
【0039】
含窒素複素環化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0040】
アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0041】
含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノールなどが挙げられる。
【0042】
炭素数8以上のポリオール化合物としては、例えば、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0043】
有機溶剤の合計含有量としては、洗浄液全量に対して、10.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以上30.0質量%以下がより好ましい。
【0044】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン界面活性剤、シリコーン界面活性剤、フッ素界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及びアニオン界面活性剤のいずれも使用可能であるが、ポリオキシアルキレン界面活性剤、シリコーン界面活性剤が好ましく、洗浄液を用いた固着物の払拭性、及び洗浄液の保存安定性の点から、ポリオキシアルキレン界面活性剤が特に好ましい。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0045】
ポリオキシアルキレン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0046】
ポリオキシアルキレン界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、エマルゲンA-60(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル)、エマルゲンLS-106(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル)、エマルゲンLS-110(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル)(いずれも、花王株式会社製、高級アルコール系エーテル型非イオン性界面活性剤)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
また、シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物などが挙げられる。
【0048】
シリコーン系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
[一般式(S-1)]
【化8】
(但し、一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表わし、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
【0049】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコーン株式会社)などが挙げられる。
【0050】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)等が挙げられる。
【0051】
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
【0052】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0053】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
【0054】
界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、保存安定性の点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下が更に好ましい。
【0055】
なお、洗浄液の静的表面張力は、洗浄液に使用する界面活性剤の種類や量を調整することにより、後述するインク等の液体の静的表面張力より高いことが好ましい。洗浄液の静的表面張力を液体の静的表面張力より高くすることで、払拭部材でノズル形成面を払拭した際に、ノズル孔内に洗浄液が侵入することを抑制することができる。ノズル孔内に洗浄液が侵入することを抑制することで、ノズル孔内の液体と洗浄液が混合して液体の機能が低下することを抑制することができる。例えば、液体がインクである場合、洗浄液がノズル孔内に侵入してインクと混合すると、払拭後にインクを用いて形成される画像の画像濃度が低下するが、これを抑制することができる。
【0056】
-水-
水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水などが挙げられる。
水の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、洗浄液の全量に対して20.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以上60.0質量%以下がより好ましい。
【0057】
-その他の成分-
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0058】
--消泡剤--
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0059】
--防腐防黴剤--
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0060】
--防錆剤--
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0061】
--pH調整剤--
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0062】
<液体>
液体吐出装置に搭載される液体の一例としてインクについて説明する。液体の一例としてのインクは、液体収容容器の一例であるインク収容容器に充填されて液体吐出装置に搭載されることが好ましい。なお、液体としてはインクに限られず、例えば、インク吐出前に記録媒体に付与される前処理液、及びインク吐出後に記録媒体のインク吐出面に付与される後処理液などであってもよい。
液体の一例であるインクは、有機溶剤、及び色材を含有することが好ましく、必要に応じて水、樹脂、及びその他の添加剤を含有してもよい。また、インクは樹脂を含有し、色材を含有しないクリアインクであってもよい。なお、インク中に含まれる樹脂の含有量が多いと、吐出されたインクが乾燥して形成されるインク膜と記録媒体との間における密着性が向上するので好ましいが、インク中に含まれる樹脂の量が多いと、インクの吐出信頼性を維持することが困難となる傾向がある。しかし、上記洗浄液及び払拭手段を用いる本実施形態では、インク膜の除去が容易になるので、インク膜と記録媒体の間における密着性向上およびインクの吐出信頼性維持を両立することができるので好ましい。
【0063】
-有機溶剤-
インクに使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0064】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0065】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0066】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0067】
-色材-
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、混晶を使用してもよい。
【0068】
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性のよいものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
更に、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
【0069】
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0070】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0071】
顔料を分散してインクを得るためには、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0072】
-水-
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0073】
-樹脂-
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ウレタン樹脂が好ましい。また、樹脂は樹脂粒子として用いることが好ましい。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。
【0074】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0075】
樹脂粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0076】
-添加剤-
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。これらは、洗浄液と同様のものを用いることができる。
【0077】
-インクの物性-
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0078】
<記録媒体>
液体が付与される記録媒体としては特に制限はなく、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などを用いることもできるが、非浸透性基材を用いても良好な画像形成が可能である。なお、記録媒体とは、液体が一時的にでも付着可能なものを意味する。
非浸透性基材とは、水透過性、吸収性が低い表面を有する基材であり、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれ、より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である基材をいう。
非浸透性基材としては、例えば、塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムを、好適に使用することができる。
記録媒体としては、一般的な記録媒体として用いられるものに限られず、壁紙、床材、
タイル等の建材、Tシャツなど衣料用等の布、テキスタイル、皮革等を適宜使用することができる。また、記録媒体を搬送する経路の構成を調整することにより、セラミックスやガラス、金属などを使用することもできる。
【実施例
【0079】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、下記実施例の白色インク、洗浄液の調整、及び各種評価は、特に記載がない場合、温度25℃、湿度60%の環境下で行った。
【0080】
<白色顔料分散体の作製>
ビーカー中でポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA-177、第一工業製薬株式会社製、固形分量100質量%)5.0gを、高純水200.0gに溶解させ、アルキレンビスメラミン化合物である有機白色顔料粒子(Shigenox OWP、ハッコールケミカル社製)50.0gを添加して、株式会社日本精機製作所製エクセルオートホモジナイザーで5,000rpm、30分間撹拌を行いながら、塊のない状態まで分散し、徐々に回転数を上げていき、10,000rpmで30分間撹拌を行った。
得られた有機白色顔料粒子分散液を水冷しながら、超音波ホモジナイザー(US-300T、株式会社日本精機製作所製、チップ直径26mm)にて200μAで1時間処理した。
得られた有機白色顔料粒子分散液を、シンマルエンタープライゼス社製DYNO-Milマルチラボ型分散機に、メディアとして直径2mmのジルコニアビーズをビーズ充填率70体積%、撹拌翼の周速8m/s、バッチ処理で30分間処理した。その後、ナノメーカー(アドバンスドナノテクノロジー社製)を用いて、100MPaの圧力で20パス分散処理を行った。
次いで、平均孔径5μmのメンブランフィルター(セルロースアセテート膜)にて濾過を行い、有機白色顔料粒子の含有量が19.6質量%の有機白色顔料粒子分散体を得た。
【0081】
<白色インクの調整>
次に、1,3-ブタンジオール15.0質量%、1,2-プロパンジオール15.0質量%、アクリル樹脂エマルション(商品名:ボンコートR-3380-E、DIC株式会社製、固形分45質量%)6.7質量%(固形分量換算)、及びフッ素界面活性剤(商品名:Zonyl(登録商標)FSO-100、DuPont社製)1.0質量%を添加して撹拌混合後、製造した有機白色顔料粒子分散体20.0質量%、及び合計100質量%となるようにイオン交換水を残量添加して、1時間撹拌した。
次に、平均孔径が1.5μmのポリプロピレンフィルターを用いて加圧濾過して、粗大粒子を除去し、白色インクを調整した。白色インクの成分を表1に示す。なお、表1中、アクリル樹脂エマルションの含有量は、固形分量換算による数値である。
【0082】
【表1】
【0083】
表1中における、成分の商品名、及び製造会社名については、下記の通りである。
・1,3-ブタンジオール:東京化成工業株式会社製
・1,2-プロパンジオール:三井化学株式会社製
・アクリル樹脂エマルション:DIC株式会社製、商品名:ボンコートR-3380-E、固形分:45質量%
・界面活性剤:DuPont社製、商品名:Zonyl(登録商標)FSO-100
【0084】
<洗浄液の調整>
-洗浄液1の作製-
下記の表2~3に示す組成及び含有量(数値の単位は質量%である)の洗浄液1~10を調整した。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表2~3中における、成分の商品名、及び製造会社名については、下記の通りである。
・一般式(1)の化合物(R=メチル基、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、商品名:エクアミドM100、出光興産株式会社製)
・一般式(1)の化合物(R=ブチル基、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、商品名:エクアミドB100、出光興産株式会社製)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業株式会社製)
・トリエチレングリコールモノエチルエーテル(東京化成工業株式会社製)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(東京化成工業株式会社製)
・商品名:エマルゲンLS-106(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、高級アルコール系エーテル型非イオン性界面活性剤、花王株式会社製)
・商品名:エマルゲンLS-110(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、高級アルコール系エーテル型非イオン性界面活性剤、花王株式会社製)
【0088】
<払拭部材の作製>
下記表4に示す材質からなるシート状の不織布を用意し、第一層目、第二層目として貼り合わせることで払拭部材を作製した。なお、払拭部材7に関しては単層構造であることを表す。
【0089】
【表4】
【0090】
次に、作製した白色インク、洗浄液、及び払拭部材を用い、ノズル孔内への洗浄液の侵入性評価、吐出信頼性評価、液体と洗浄液の混合安定性評価、及び固着物の払拭性評価を行った。
【0091】
[ノズル孔内への洗浄液の侵入性]
図1に示す画像形成吐出装置に白色インクを充填して15分間印字を行った。その後、図3に示す払拭装置を用い、表5に示す洗浄液を20μL付与した表5に示す払拭部材で液体吐出ヘッドのノズル形成面を押し当て力2N、拭き取り速度50mm/sで払拭した。その直後、ノズルから500滴を記録媒体(スーパーファイン紙(セイコーエプソン株式会社製))上に印字させ、ドットの濃度を観察した。ドットの濃度が液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭する前と同じになるまでのドット数(滴数)を測定し、下記評価基準でノズル孔内への洗浄液の侵入性を評価した。なお、ドット数が少ないほど、ノズル孔内に洗浄液が侵入することを抑制できる(画像濃度低下を抑制できる)ことを意味する。
〔評価基準〕
A:ドット数が10個未満
B:ドット数が10個以上30個未満
C:ドット数が30個以上
【0092】
[吐出信頼性]
インクジェットヘッド(商品名:MH5440、株式会社リコー製)を有する図1に示す画像形成吐出装置に白色インクを充填して45分間連続吐出を行った。吐出を停止させてから30分後に、図3に示す払拭装置を用い、表5に示す洗浄液を50μL付与した表5に示す払拭部材で液体吐出ヘッドのノズル形成面を押し当て力2N、拭き取り速度50mm/sで払拭した。その後、白色インクを再度吐出し、下記評価基準で吐出信頼性を評価した。
〔評価基準〕
A:吐出乱れや不吐出は全く見られない
B:5つ以下のノズルで吐出乱れ、不吐出がある
C:5つより多いノズルで吐出乱れ、不吐出がある
【0093】
[液体と洗浄液の混合安定性]
2gの白色インク、18gの洗浄液を30mL容量のガラス瓶(商品名:ラボランスクリュー管瓶No.6、アズワン社製)に入れて混合し攪拌した。50℃にて1週間保存した後の顔料の沈降有無を目視で観察し、更に保存前後の混合液の粘度の変化率を下記数式から測定し、下記基準で評価した。なお、粘度は、東機産業株式会社製の粘度計RE80Lを使用して測定した。粘度測定時の回転数は、トルクが40%~80%の範囲で一定になるように調整した。
【数2】
〔評価基準〕
A:顔料の沈降が観察されず、粘度変化率が±5%未満である
B:顔料の沈降が観察されないが、粘度変化率が±5%以上である
C:顔料の沈降が観察される
【0094】
[固着物の払拭性]
SUS板上に、直径0.3mmのワイヤーバーで白色インクを塗布した後、乾燥機を用い50℃環境下で24時間乾燥させ、平均厚み15μmのインク膜を形成した。図3に示す払拭装置を用い、表5に示す洗浄液を20μL付与した表5に示す払拭部材でインク膜が形成されているSUS板上を押し当て力3N、拭き取り速度50mm/sで払拭した。SUS板上のインク膜が目視で観察できなくなるまでに要した払拭回数を測定した。なお、払拭回数が少ないほど払拭性が優れ、ノズル形成面の清浄性を維持できることを示す。
〔評価基準〕
A:5回以下の払拭でSUS板上のインク膜が除去された
B:6回以上7回以下の払拭でSUS板上のインク膜が除去された
C:8回以上10回以下の払拭でSUS板上のインク膜が除去された
D:10回払拭してもSUS板上のインク膜が残存していた
【0095】
【表5】
【符号の説明】
【0096】
3 キャリッジ
4、4a、4b 記録ヘッド
4n ノズル
20 維持回復機構
20b ノズル形成面を払拭する機構
41 ノズル形成面
320 シート状払拭部材
400 押し当てローラ
410 送り出しローラ
420 巻き取りローラ
430 洗浄液滴下装置
500 異物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0097】
【文献】特開2014-188900号公報
図1
図2
図3
図4