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特許7188132車両用構造体の製造方法、及び保護フィルム付き透明基板の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両用構造体の製造方法、及び保護フィルム付き透明基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/02 20060101AFI20221206BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20221206BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20221206BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20221206BHJP
   B32B 37/12 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60J1/02 Z
C03C27/12 N
C03C27/12 C
C03C17/38
B29C65/48
B32B37/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019011231
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020116876
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】浦田 量一
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 正行
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05028287(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0014778(US,A1)
【文献】国際公開第2018/092779(WO,A1)
【文献】特開2010-121044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00 - 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と被着体とが接着剤によって接着されてなる車両用構造体の製造方法であって、
透明基板の車内面側の周縁における接着剤配置予定領域を覆うように、前記透明基板の周縁に沿ってリング状に保護フィルムを貼り付け、
前記保護フィルムを剥がした後に前記接着剤配置予定領域に接着剤を配置し、前記接着剤を介して前記透明基板と前記被着体とを接着する、製造方法。
【請求項2】
前記保護フィルムは複数のフィルムからなり、当該複数のフィルムは、平面視で並置される、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記透明基板の車内面の周縁又は前記透明基板内の周縁に沿って、光遮蔽膜が設けられており、
前記接着剤配置予定領域は、平面視で前記光遮蔽膜に含まれる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記透明基板は、第1基板と第2基板とが貼り合されてなる合わせガラスであり、
前記光遮蔽膜は、前記第1基板と前記第2基板のいずれか一方、または両方に設けられている、請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記透明基板は、車外面側に凸となるよう湾曲している、請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記被着体は金属製又は樹脂製である、請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記被着体は、車両ボディ、車載機器用支持体、ミラーベース、モール、ピンの1以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記透明基板の生産後、記透明基板を清浄化する処理を行わない、請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記接着剤配置予定領域に前記接着剤を配置する前に、前記貼り付けられた保護フィルムは全て除去される、請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記保護フィルムは、破断可能な脆弱部を備えた1枚のフィルムから構成され、且つ前記保護フィルムを剥がす際に、前記脆弱部で破断させて複数のフィルムに分割できる、請求項1から9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記保護フィルムは、透明又は無色である、請求項1から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記保護フィルムは、不透明又は色付けされている、請求項1から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
車内面側の周縁における接着剤配置予定領域に配置される接着剤によって被着体と接着して車両用構造体となる透明基板と、前記接着の前に剥がされる保護フィルムとを有する、保護フィルム付き透明基板の製造方法であって、
前記接着剤配置予定領域を覆うように、前記透明基板の前記周縁に沿ってリング状に保護フィルムを貼り付ける、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用構造体の製造方法、及び保護フィルム付き透明基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用構造体として、透明基板と被着体とが接着剤を介して接着されてなる構造体が知られている。例えば、車両のウィンドウがボディと接着されてなる構造体や、ウィンドウの車内面に車載機器(車載カメラ等)搭載用のブラケットが接着された構造体等である。
【0003】
このような車両用構造体を製造するには、ガラス基板等の透明基板を生産する工程(基板生産工程)の後、透明基板を被着体に接着して取り付ける工程(取付け工程)を経る。両工程は、1つの製造ライン上で連続して行われる場合もあるが、生産された透明基板を別の加工場所へ移送して取付けを行うこともあって、両工程に時間的間隔が生じてしまう場合がある。
【0004】
基板生産工程終了時には、基板表面の清浄度は高い。しかし、取付け工程に入るまでの放置時間が長くなると、透明基板が梱包等されていたとしても、基板表面に空気中の埃や汚れ等が付着して、表面の清浄度は下がってしまう。そのため、被着体の取付け(接着)前には、透明基板の少なくとも接着剤が設けられる接着面には、脱脂、洗浄といった清浄化のための前処理を施すのが通常である。このような前処理については、従来、様々な検討、工夫がなされてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-192392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような透明基板の前処理は、煩雑であり、コストもかかる。そのため、透明基板と被着体とが接着されてなる車両用構造体の製造方法であって、被着体への取付け前の透明基板の前処理を省略又は軽減でき、簡易且つ低コストで行うことのできる製造方法が求められている。
【0007】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様においては、透明基板と被着体とを接着剤を介して接着することを含む車両用構造体の製造方法であって、簡易に且つ低コストで行うことができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、透明基板と被着体とが接着剤によって接着されてなる車両用構造体の製造方法であって、透明基板の車内面側の周縁における接着剤配置予定領域を覆うように、前記透明基板の周縁に沿ってリング状に保護フィルムを貼り付け、前記保護フィルムを剥がした後に前記接着剤配置予定領域に接着剤を配置し、前記接着剤を介して前記透明基板と前記被着体とを接着する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、透明基板と被着体とを接着剤を介して接着することを含む車両用構造体の製造方法を、簡易に且つ低コストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の一実施形態における車両用構造体を示す平面図である。
図1B図1AのI-I線図である。
図2】本発明の一実施形態にによる方法を示すフロー図である。
図3A】本発明の一実施形態における透明基板を示す平面図である。
図3B図3AにおけるII部分の拡大図である。
図3C図3AにおけるIII部分の拡大図である。
図3D】本発明の一実施形態における透明基板を示す平面図である。
図3E図3DにおけるIV部分の拡大図である。
図3F図3EのV-V線断面図である。
図4】本発明の一実施形態における保護フィルム付き透明基板を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載された実施形態に限定されることはない。なお、添付図面においては、同一の又は対応する構成に同一の又は対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0012】
〔車両用構造体〕
まず、本発明の一実施形態により製造される車両用構造体について説明する。図1A及び図1Bに、車両用構造体の一例として、自動車のフロントガラスである透明基板と、車両ボディである被着体とが接着されてなる構造体を概略的に示す。図1Aは、フロントガラスを車内面側から見た平面図であり、図1Bは、図1AのI-I線断面図である。
【0013】
図1A及び図1Bに示す車両用構造体100は、フロントガラス(透明基板)10の車内面に、フロントガラス10の大きさより小さい開口部を有する車両ボディ(被着体)50が、接着剤70により接着されたものである。図1Aの例では、車両ボディ50は、フロントガラス10の車内面側の周縁にわたって連続して接着されている。また、図1Bに示すように、車両ボディ50は、車内面側(透明基板に対向する側)で、透明基板10と接着剤(ボディシーラント)70を介して接着されている。なお、透明基板10と接着剤70との間、及び車両ボディ50と接着剤70との間には、図示のように、それぞれ専用のプライマー81、82が塗布されていてもよい。
【0014】
本例では、透明基板10として、車外面側の第1ガラス板11と車内面側の第2ガラス板12との間に中間膜13を介在させてなる合わせガラスが用いられているが、合わせガラスでない単板のガラスを用いてもよい。また、透明基板10は、フロントガラスに限られず、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス等の自動車で用いられる窓用ガラス板であってよい。また、自動車以外の車両、例えば列車等に用いられるものであってもよい。
【0015】
上述のようなガラス板としては、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス板から形成されていてよい。ガラス板は未強化であってもよいし、風冷強化又は化学強化処理が施されていてもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスが風冷強化ガラスである場合は、均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。一方、強化ガラスが化学強化ガラスである場合は、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。また、車両用ガラス板には、紫外線又は赤外線を吸収するガラス板を用いてもよい。さらに、車両用ガラス板は、透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラスであってもよい。車両用ガラス板には、有機ガラスが用いられていてもよい。有機ガラスとしては、ポリカーボネート等の透明樹脂が挙げられる。
【0016】
透明基板の形状は、図1Aに示すような略矩形状等に限定されるものではなく、透明基板10は、種々の形状を有するよう加工されたものであってもよい。
【0017】
透明基板が車両用ガラス板である場合、ガラス板の成形法は特に限定されないが、例えば、フロート法等により成形されたガラスが好ましい。また、その場合、車両用ガラス板である透明基板は、車両において用いられた際に車外面側に凸となるように湾曲したものであってよい。より具体的には、透明基板は、少なくとも2方向に湾曲している、例えば、一方向で切った断面及び当該一方向に直交する他方向で切った断面のいずれで見ても湾曲している基板であってよい。透明基板の湾曲は、曲げ加工によって形成でき、曲げ加工の方法としては、重力成形、又はプレス成形等が挙げられる。
【0018】
透明基板10の板厚としては、0.4mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.5mm以下であることがより好ましく、1.5mm以上2.3mm以下であることが更に好ましく、1.7mm以上2.0mm以下であることが特に好ましい。透明基板10が車外面側の第1ガラス板11と車内面側の第2ガラス板12からなる合わせガラスである場合、第1ガラス板11と第2ガラス板12の板厚は、0.4mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.5mm以下であることがより好ましく、1.5mm以上2.3mm以下であることが更に好ましく、1.7mm以上2.0mm以下であることが特に好ましい。第1ガラス板11と第2ガラス板12の板厚は、同じでもよく、異なってもよい。第1ガラス板11と第2ガラス板12の板厚が互いに異なる場合は、第2ガラス板12の板厚の方が薄いことが好ましい。第2ガラス板12の方の板厚が薄い場合は、第2ガラス板12の板厚が0.4mm以上、1.3mm以下であると、透明基板10を十分軽量化できる。また、透明基板10を車両の開口部に取り付けた場合に、第1ガラス板11及び第2ガラス板12のいずれか一方、または両方が、下辺から上辺に向かうにつれて板厚が厚くなる楔形状であってもよい。
【0019】
透明基板10が本例のように合わせガラスである場合には、上述のガラス板を複数用いて、ガラス板間に中間膜を配置し、加圧及び/又は加熱によって成形できる。中間膜としては、エチレンビニルアセタール、ポリビニルブチラール等を主成分に含む膜を用いることができる。
【0020】
また、本例のように透明基板が窓ガラスである場合、車内面側の周縁に、いわゆる黒セラと呼ばれる光遮蔽膜15が設けられていてよい(図1A)。透明基板10が合わせガラスである場合には、光遮蔽膜15は、車外面側に位置する第1ガラス板の車内面及び車内面側に位置する第2ガラス板の車内面のいずれか一方、又は両方に設けることができる。例えば、光遮蔽膜15は、図1Bに示すように、車内面側の第2ガラス板12の車内面に設けることができる。光遮蔽膜15の厚みは3μm以上15μm以下であることが好ましい。また、光遮蔽膜15が設けられている範囲は特に限定されないが、透明基板の縁部から20mm以上300mm以下である位置までの領域に設けられていることが好ましい。
【0021】
光遮蔽膜は、黒色又は濃色の不透明層を形成し、窓ガラスとボディとの間に配置されているシーラント等の有機材料からなる部材を紫外線等による劣化から保護する機能を有している。また、窓ガラスの周辺に取り付けられているアンテナ線の端子等の部品を車外から透視できなくし、審美性を高めることもできる。光遮蔽膜は、例えば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含むセラミックカラーペーストを塗布し、焼成することによって形成できるが、これに限定されない。光遮蔽膜は、黒色又は濃色顔料を含有する有機インクを塗布し、乾燥させることによって形成したものであってもよい。
【0022】
図1Aでは、被着体は車両ボディ50であるが、被着体は図示のものに限定されない。本実施形態における被着体は、車両用の窓ガラスと車両ボディとの間に配置されるピン等の部品であってもよいし、防音モールや外装用のモール等であってもよい。
【0023】
また、被着体としては、後述するように、窓ガラスの車内面に取り付けるルームミラー(インナーミラー)や、車載機器のための支持体であってもよい。車載機器としては、車載カメラ、雨滴センサ(レインセンサ)、デフロストセンサ、温度センサ、湿度センサ、ミリ波センサ等といった車載センサの他、ETCS(電子料金徴収システム)アンテナ、ラジオ、地上波デジタルテレビ等のアンテナ、通信機器、例えば相互通信電波モジュール、電波受信増幅器等の1以上が挙げられる。よって、被着体は、車載カメラ用ブラケット、車載センサ用ブラケットといった車載機器用支持体、ミラーベース(ミラーボタン)等となり得る。
【0024】
このような被着体は、金属製又は樹脂製であってよく、すなわち、金属若しくは樹脂、又はその組合せから構成されていてよい。被着体を構成し得る金属としては、亜鉛、アルミ、及びその合金、ステンレス鋼(焼結SUSを含む)等が挙げられる。また被着体を構成し得る樹脂としては、充填材を含む又は含まない、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリカーボネート(PC)、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド(PA)、高耐熱ポリアミド(PA6T/PA6I)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が挙げられる。上述の材料は、単独で又は1以上組合せて用いることができる。
【0025】
用いられる接着剤は、上述の透明基板と被着体とを接着又は粘着と呼ばれる現象によって相対的に位置固定できるものであれば、特に限定されない。接着剤(粘着剤と呼ばれるものも含む)は、塗布時に流動性があり、透明基板の主面又は被着体に塗布することによって接着剤を配置できる形態であってよい。また、テープ状基材の片面又は両面に接着剤の層が形成されているものであって、基材とともに接着剤を所定位置に配置可能な形態(テープ式)であってもよい。
【0026】
用いられる接着剤の成分の種類は、接着させる透明基板及び/又は被着体の材質に応じて選択でき、ウレタン、変性シリコーン、アクリル、エポキシ、ポリビニルアルコールの1以上であってよい。また、接着剤として、熱可塑性エラストマー、ゴム等を含むホットメルト型接着剤を用いることもできる。
【0027】
接着剤がテープ式である場合、例えば、アクリル発泡体を基材としたアクリルフォームテープ等を用いることができる。アクリルフォームテープは、テープ基材の片面又は両面に、感圧型、熱硬化型、熱融着型等の接着剤層が形成されているものであってよい。
【0028】
〔車両用構造体の製造フロー〕
次に、本実施形態を用いた車両用構造体の製造フローの概略を説明する。図2に、製造フローの一例を概略的に示す。本例による車両構造体の製造フローは、大きく分けて、車両用透明基板を生産する基板生産工程S1と、当該基板生産工程によって生産されたえ車両用透明基板を被着体に取り付ける取付け工程S2とからなる。取付け工程S1は、後述のように、接着剤を用いて透明基板を被着体に接着させる工程である。
【0029】
(基板生産工程S1)
図2に示すように、基板生産工程S1においては、まず、入手した車両用透明基板の素板を、切り又は折りによって所望の外形とし、さらに面取り加工等をする(S11)。その後、透光を遮蔽することのできる光遮蔽膜を所定の位置にプリントし焼成する(S12)。その後、透明基板をリング型に載置した後に加熱して軟化させ、重力によってリング型に沿った形状に曲げる方法(重力方法)や、リング型とプレス型との間に挟んで押圧して曲げる方法(プレス方法)により、透明基板が湾曲を有するようにする。
【0030】
透明基板が合わせガラスである場合、上述の工程を経たガラス板を複数用いて、合わせガラス加工(S14)を続けることができる。合わせガラス加工(S1)においては、例えば、曲げ加工された2以上のガラス板間に中間膜を配置し、2以上のガラス板と中間膜からなる積層体をゴムバッグに入れ、ゴムバッグ内の圧力が約-65~-100kPaの減圧度(絶対圧力約36~1kPa)となるように減圧吸引(脱気処理)しながら温度約70~110℃で予備圧着し、この予備圧着された積層体をオートクレーブの中に入れ、温度約120~150℃、圧力約0.98~1.47MPaの条件で加熱・加圧して本接着(本圧着)を行うことにより、合わせガラスが得られる。
【0031】
本実施形態による基板生産工程S1においては、上記の曲げ加工(S13)又は合わせガラス加工(S14)の後に、好ましくは直後に、透明基板の車内面側の周縁における接着剤配置予定領域を覆うように、保護フィルムを貼付ける(S15)。この保護フィルムの貼付け(S15)、及び接着剤配置予定領域については、後に詳細に説明する。
【0032】
なお、基板生産工程S1における各工程の前後では、必要に応じて、素板又は基板に洗浄、脱脂等の清浄化のための処理を施してもよい。また、保護フィルムの貼付け(S15)の前に、清浄な状態の透明基板に、使用予定の接着剤に適したロングライフプライマー(例えば、可使時間が8時間以上であるプライマー)を塗布することもできる。
【0033】
(取付け工程S2)
基板生産工程S1の後には、透明基板と被着体とを接着させる取付け工程S2が続く。上述のように、取付け工程S2は、基板生産工程S1を行う場所と同じ加工場所で行ってもよいし、基板生産工程S1を行う場所とは違う加工場所で行うこともできる。
【0034】
取付け工程S2においては、まず、上述の基板生産工程S1の最終段階で貼り付けられた保護フィルムを除去し(S21)、接着剤配置予定領域を露出させる。接着剤配置予定領域には、必要に応じて、透明基板の材質や接着剤の種類に応じて適したプライマーを塗布することもできる(S22)。なお、基板生産工程S1において、ロングライフプライマーを塗布していた場合、或いは後続の工程で用いられる接着剤の種類によっては、取付け工程S2におけるプライマーの塗布(S22)は省略できる。
【0035】
プライマーを塗布した後(S22)、接着剤を配置する(S23)。接着剤は、上述のように、塗布により配置できるものを用いてもよいし、テープ式のものを用いてもよい。その後、被着体を位置合わせして取り付ける(S24)。この際、場合によっては、透明基板及び被着体に圧力及び/又は熱を加えることもできる。その後、必要に応じて、所望の接着力が発現するよう養生してもよい(S25)。
【0036】
〔保護フィルムの貼付け(S15)〕
上述のように、基板生産工程S1においては、少なくとも、透明基板の車内面側の周縁における接着剤配置予定領域を覆うように、保護フィルムを貼り付けることができる(S15)。
【0037】
(接着剤配置予定領域)
接着剤配置予定領域とは、取付け工程S2における透明基板と被着体との接着の際に、接着剤が配置される領域を指す。また、接着剤配置予定領域は、接着剤を配置して被着体を配置した後、透明基板と被着体とを押し付けた場合等に接着剤が潰れて面方向に広がるような場合には、広がった後に接着剤が占めることになる領域であってもよい。このような接着剤配置予定領域は、被着体が接着される領域(透明基板と被着体との接着後に、透明基板上で被着体の接着面が占める領域、被着体接着予定領域ともいう)に重なっていてよい。すなわち、接着剤配置予定領域は、被着体接着予定領域に含まれていてもよいし、被着体接着予定領域とほぼ等しくてもよい。
【0038】
ここで、接着剤配置予定領域及び被着体接着予定領域についてより詳しく説明する。図3Aに、曲げ加工(S13)又は合わせガラス加工(S14)が終了した後の透明基板10を、図1Aと同様に自動車のフロントガラスを例として示す。図3Aは、フロントガラス(透明基板)10を車内面側から見た平面図である。
【0039】
図3Aに示すように、被着体接着予定領域18は、透明基板10の車内面側の周縁に位置している。また、被着体接着予定領域18は、図示のように、複数の異なる被着体にそれぞれ対応する被着体接着予定領域18a~18eを含んでいてよい。
【0040】
図3Aに示す被着体接着予定領域18aは、被着体である車両ボディ(図1A及び図1Bの50)が接着される面の領域である。図3Aに示すように、車両ボディ用の被着体接着予定領域18aは、透明基板10の周縁に沿って形成されている。そして、図示の例では、被着体接着予定領域18aは、全周縁にわたって連続して形成されている。これは、透明基板がフロントガラスである場合、水密性を高める観点及び音漏れ等を防止する観点から、接着剤を透明基板10の全周縁にわたって連続して配置することが好ましいからである。但し、製造しようとする車両用構造体の構成や用途によっては、周縁に沿って形成される被着体接着予定領域18aは、非連続であってもよい。
【0041】
図3Bに、図2Aの被着体接着予定領域18aを含む部分IIの拡大図を示す。図2Bには、被着体接着予定領域18aとともに、この被着体接着予定領域18aに対応する接着剤配置予定領域19aを示す。図示の例では、接着剤配置予定領域19aは、被着体接着予定領域18aに含まれているが、接着剤配置予定領域18aと被着体接着予定領域19aとは、ほぼ等しい領域にもなり得る。
【0042】
接着剤配置予定領域19aは、被着体接着予定領域18aと同様に、透明基板10の全周縁にわたって連続していてもよい。また、被着体接着予定領域18aが連続しているかいないかに関わらず、接着剤配置予定領域19aは、接着剤の種類やボディの材質等によっては、全周縁に沿って連続せず、間欠的に延在していてもよい。すなわち、透明基板と被着体との接着の際に、接着剤を間欠的に配置してもよい。
【0043】
図3Aにはさらに、被着体を車載カメラ用ブラケット、ミラーベース、及び雨滴センサ等のセンサ用ブラケットとした場合の被着体接着予定領域18b、18c、及び18dを示す。図3Aに示すように、被着体接着予定領域18b、18c、及び18dは、透明基板10の周縁に位置している。そして、透明基板10は、被着体接着予定領域18b、18c、及び18dにそれぞれ対応する接着剤配置予定領域を備えている。
【0044】
図3Cに、図3Aの被着体接着予定領域18cを含む部分IIIの拡大図を示す。図3Cには、被着体接着予定領域18cとともに、この領域に対応する接着剤配置予定領域19cも示す。図示の例では、接着剤配置予定領域19cは、被着体接着予定領域18cに含まれているが、接着剤配置予定領域19cは、被着体接着予定領域18cとほぼ等しい領域であってもよい。
【0045】
図3Aに示す被着体接着予定領域18eは、被着体としてのピンが接着される領域である。他の被着体接着予定領域と同様、透明基板10は、被着体接着予定領域18eに対応する、被着体接着予定領域18eに含まれる接着剤配置予定領域を備えていてよい。
【0046】
本例では、被着体接着予定領域18a~18e及びこれらにそれぞれ対応する接着剤配置予定領域は、透明基板の周縁に位置している。このことは、透明基板が窓ガラス板である場合には、搭乗者の視認性を確保できる観点から好ましい。
【0047】
また、被着体接着予定領域18a~18e及び接着剤配置予定領域は、上述の光遮蔽膜15が設けられている領域に平面視で含まれることが好ましい。上述のように、光遮蔽膜15は、透明基板10の車内面に形成されているか、透明基板10内に形成されているか、又はその両方に形成されている。また、透明基板10が合わせガラスである場合には、車内面側のガラス板の車内面か、車外面側のガラス板の車内面か、又はその両方に形成されている。よって、透明基板10を車外面側から見た場合に、被着体接着予定領域18a~18e及び接着剤配置予定領域は、光遮蔽膜15に遮られて見えないような位置にあることが好ましい。
【0048】
なお、図示の被着体接着予定領域及び接着剤配置予定領域は、例にすぎず、車両用構造体を構成する透明基板及び被着体の構造及び用途によって、被着体接着予定領域及び接着剤配置予定領域の様々な範囲、大きさ、領域の輪郭形状が考えられる。例えば、被着体接着予定領域及びそれに対応する接着剤配置予定領域は、図示のように透明基板の縁部から所定距離離れた位置にあってもよいし、また透明基板の縁部から設けられていてもよい。図示の被着体も例にすぎず、車内面側に取り付けられるモール、電気的接続部材等の任意の被着体であってよい。
【0049】
透明基板10は、以上説明した被着体接着予定領域18a~18eの1以上を備えていてよく、被着体接着予定領域18a~18eにそれぞれ対応する接着剤配置予定領域の1以上を備えていてよい。また、透明基板10は、図示の被着体接着予定領域18a~18e以外の被着体接着予定領域、及びそれに対応する接着剤配置予定領域を備えていてもよい。すなわち、製造しようとする車両用構造体が、図3A図3Cを参照して説明した被着体以外の被着体を含むものであってもよい。その場合、追加的に透明基板の車外面側から被着体を接着させることもでき、透明基板は車外面側にも、接着剤配置予定領域及び被着体接着予定領域を備えることができる。その場合、保護フィルムは、透明基板の両主面の周縁にそれぞれ貼り付けることができる。
【0050】
図3Dに、透明基板の上辺側の車外面側に、被着体としてモールが接着されている例を示す。図3Dの例では、モールは、透明基板の上辺の端面を覆うように設けられているが、車外面側のみで接着されている。図3Dは、モールが配置されたフロントガラスを車内面側から見た図であり、周辺の部品等は省略している。また、図3Eに、図3DのIV部分の拡大図を示し、図3Fに、図3EのV-V線断面図を示す。
【0051】
図3E及び図3Fに示すように、モール52は、透明基板の車外面側に、接着剤70を介して接着されている。本例でも、透明基板10と接着剤70との間、及びモール52と接着剤70との間には、それぞれ専用のプライマー81、82が塗布されていてよい。本例では、接着剤70として両面テープを用いており、図3E及び図3Fに示す接着剤70が配置されている領域が、接着剤配置予定領域18f(図3E)となり得る。
【0052】
また、特にリアガラス等においては、車外面側の周縁の一方又は両方の側部に、デフォッガ等のための電気的又は機械的要素及びその接続部材等を接着させる場合もある。その場合には、リアガラスの車外面側に、部材が取り付けられる箇所に対応した接着剤配置予定領域及び被着体接着予定領域を備えることができる。
【0053】
(保護フィルム)
図4に、図3Aの透明基板10に、保護フィルム30が貼り付けられた状態の図を示す。図4も、図3Aと同様、フロントガラス(透明基板)10の車内面側から見た平面図である。
【0054】
保護フィルム30は、透明基板10の接着剤配置予定領域(図3Bの19a及び図3Cの19c等)を覆うように車内面側に貼り付けられる。また、保護フィルム30は、図4に示すように、被着体接着予定領域18a~18eを覆うように貼り付けられていると好ましい。
【0055】
このような保護フィルム30は、上述の基板生産工程S1において、基板の加工後(曲げ加工(S13)又は合わせガラス加工(S14)終了後)に貼り付けられ、その後、取付け工程S2において、接着剤の配置(S23)前に、場合によってはプライマーの塗布前(S22)に剥がされる(図2)。
【0056】
車両用構造体の製造フロー(図2)中、基板生産工程S1及び取付け工程S2を異なる加工場所で行う場合には、生産された透明基板を移送しなくてはならない。また、基板生産工程S1と取付け工程S2とを同じ加工場所で行う場合であっても、両工程の間に時間的な間隔がある場合、透明基板を所定時間にわたり保管しておく必要がある。このような場合、透明基板をシートや袋等を被せる等して梱包できるが、基板表面は空気と接触するため、空気中の埃や塵、その他の接着を妨げ得る粒子や分子等が付着することは避けられない。そのため、透明基板の表面は生産直後には清浄であっても、清浄性は徐々に低下してしまう。よって、従来の製造フローでは、取付け工程S2においては、接着剤又はプライマーを配置する前に、透明基板の少なくとも接着剤配置予定領域に対して、脱脂、洗浄といった清浄化処理を行う必要があった。
【0057】
これに対し、本実施形態においては、基板生産工程S1において、透明基板に、接着剤配置予定領域を覆うように保護フィルムを貼り付ける(S15)。これにより、基板生産工程S1後の透明基板の保管又は移送中に、接着剤配置予定領域に塵や埃等が付着することを防止でき、基板の加工が終了した時点での透明基板の接着面の清浄性を維持できる。また、保護フィルムの貼付け(S15)前にロングライフプライマーを塗布していた場合には、ロングライフプライマーが機能を発揮できる状態を維持できる。
【0058】
そして、取付け工程S2においては、被着体を接着させる前に保護フィルムを除去するだけで(S21)、高い清浄性を有する接着剤配置予定領域が直ちに現れるので、脱脂や洗浄といった従来の煩雑な処理を省略できるか、又は処理を簡素化できる。よって、簡易且つ低コストで行うことのできる車両用構造体の製造方法を得ることができる。
【0059】
さらに、脱脂や洗浄といった透明基板の前処理には、一般的に有機溶剤を用いることが多いため、環境に負担をかける場合があった。しかし、本形態によって、そのような有機溶剤の使用を低減又は省略できるので、環境への負担が少ない車両用構造体の製造方法を実現できる。
【0060】
保護フィルム30は、少なくとも、車両ボディのための接着剤配置予定領域(図1Aの19a)を覆うように貼り付けられる保護フィルム30Aを有していると好ましい。保護フィルム30Aは、車両ボディのための被着体接着予定領域18aを覆うように貼り付けられると好ましい。よって、保護フィルム30Aは、透明基板10の車内面側の周縁に沿って、リング状(ドーナツ状)に貼り付けることが好ましい。保護フィルム30Aは、このリングの途中で途切れていてもよいが、被着体接着予定領域18a又はこれに対応する接着剤配置予定領域(図1Aの19b)が全周縁にわたって連続しているか否かに関わらず、途切れずに全周縁に沿ってリング状に連続して貼り付けることが好ましい。これにより、車両ボディを接着させる領域の清浄性を高く維持できる。
【0061】
一方、保護フィルム30は、車載部品用の支持体のための接着剤配置予定領域を覆うように貼り付けられる保護フィルム30Bを有していてもよい。保護フィルム30Bは、図4に示すように、被着体接着予定領域18b~18dを覆うように、透明基板10の、図4における中央上方に貼り付けられている。保護フィルム30Aと保護フィルム30Bとは別体になっていてもよいし、一体になっていてもよい。
【0062】
図4に示すように、保護フィルム30が透明基板10を覆う範囲は、透明基板10の全面ではなく、透明基板10の一主面の一部となっている。このように、本実施形態では、保護フィルム30は、透明基板10の中央領域を避けて貼り付けること、すなわち、透明基板10の中央領域に設けないことが好ましい。ここで、透明基板10の中央領域とは、透明基板10が車両用ウィンドウである場合、異物が付着していた場合に、そのウィンドウの内側から外を見る搭乗者が視界を妨げられたと感じ得る領域であるといえる。透明基板の中央領域は、例えば、透明基板の平面視形状の重心又は図心と同じ重心又は図心を有し、且つ透明基板の主面の面積に対して50%以上90%以下程度の面積を有する相似形状の領域といえる。
【0063】
また、透明基板10がフロントガラスである場合には、上述の中央領域は、JIS R3212(2015年)の規定による試験領域Aをということができ、また同規定による試験領域A及び試験領域Bということができる。よって、保護フィルム30は、例えば、上記規定による試験領域Iを含む領域に貼り付けることができ、また保護フィルムの貼付け領域を試験領域I内とすることが好ましい。
【0064】
保護フィルム30としては、取付け工程S2(図2)において剥離可能なフィルムを用いるが、フィルムの使用条件(貼付け条件、除去条件、保管条件等)によっては、保護フィルムの除去(S21)の際に保護フィルムの一部が透明基板に残ってしまう場合がある。例えば、保護フィルムの除去工程で保護フィルムが千切れて、保護フィルム片が残ってしまったり、粘着剤を備えた保護フィルムの場合には、透明基板に粘着剤が残ってしまったりすること(糊残りとも呼ばれる)もあり得る。そして、透明基板が車両用ウィンドウである場合、このような保護フィルムの一部が残っていると、搭乗者の視界を妨げる可能性がある。これに対し、保護フィルム30を透明基板10の中央領域を避けて貼り付けることで、保護フィルムの一部が残ってしまった場合でも、搭乗者の視界を妨げることのない車両用ウィンドウと被着体との構造体を製造できる。
【0065】
よって、透明基板10の中央領域に保護フィルム30を貼り付けない構成によれば、保護フィルム30の糊残り等に過度に配慮して保護フィルムの選択範囲が狭まる虞がなくなる。また、透明基板10の中央領域に保護フィルム30を貼り付けないことで、貼り付ける保護フィルム30の量を減らすことができるためコストを低減でき、また大面積の保護フィルム30を貼り付ける手間もなくなる。
【0066】
透明基板10に光遮蔽膜15が形成されている場合、保護フィルム30は、図4に示すように、平面視で光遮蔽膜が形成されている領域と重なるように貼り付けることができる。保護フィルム30は、平面視で光遮蔽膜15が形成されている領域を含むように貼り付けることができるし、平面視で光遮蔽膜15が形成されている領域に含まれるように貼り付けることもできる。
【0067】
なお、図4の例では、保護フィルム30(30A及び30B)は全て、透明基板10の車内面側に設けられているが、上述のように追加的に車外面側に接着させる被着体(外装用のモール等)がある場合には、接着剤配置予定領域及び被着体接着予定領域が車外面側にあるため、保護フィルムは、車外面側に貼り付けることができる。
【0068】
本実施形態では、保護フィルム30が複数のフィルムからなっていて、透明基板10上で並置され、1つの接着剤配置予定領域又は被着体接着予定領域を覆っていてもよい。その場合、複数のフィルム同士がその境界で接するように配置されていてもよいし、複数のフィルム同士が互いに重なっていてもよい。図示の例では、車両ボディのための被着体接着領域18a及びこれに対応する接着剤配置領域19a(図3B)を覆う保護フィルム30Aが複数のフィルムからなっており、各フィルムの端部が重ねられているが、保護フィルム30Aは、リング状の1枚のフィルムで構成することもできる。一方、車載部品用支持体のための保護フィルム30Bは、1枚のフィルムで複数の接着剤配置予定領域又は被着体接着予定領域を覆っているが、接着剤配置予定領域又は被着体接着予定領域をそれぞれ覆うように複数のフィルムであってもよい。
【0069】
また、保護フィルム30を1枚のフィルムから構成し、ミシン目のような破断可能な脆弱部を形成しておき、保護フィルムを剥がす際(S21)に、脆弱部で破断させて複数のフィルムに分割して剥がすこともできる。例えば、保護フィルム30を、図示の保護フィルム30A及び30Bが連続した1枚のフィルムとし、保護フィルム30Aと保護フィルム30Bとが分割できるように脆弱部を形成しておくこともできる。
【0070】
このように、保護フィルム30を複数のフィルムとすること、又は脆弱部等によって剥がす際に複数のフィルムとなるように構成することによって、貼付け時及び/又は除去時の1枚当たりのフィルムの面積を小さくできる。よって、保護フィルム30の貼付け作業時には位置合わせ等が容易になり、除去作業でもフィルムの千切れ等が発生し難くなる。また、複数のフィルムの大きさや形状を、フィルムを貼り付ける位置に応じて変えることが容易となるので、接着剤配置予定領域又は被着体接着予定領域が複雑な形状であってもフィルムを形作ることが容易になる上、保護フィルムの材料の量を減らしてコストを下げることもできる。
【0071】
さらに、透明基板10が湾曲している場合に大面積の保護フィルムを貼り付けるとフィルムにシワが寄る可能性がある。これに対し、保護フィルム30を複数のフィルムとすることで、保護フィルム30にシワが寄ることなく貼り付けることができ、貼付け位置での気密性及び水密性を高めることができる。なお、透明基板10の車内面の曲率半径は、保護フィルム30が貼り付けられる位置で、R500以上R10000以下であってよい。曲率半径の単位はmmである。
【0072】
なお、本実施形態の保護フィルム30A及び30Bのように、異なる被着体に対して別体のフィルムを貼り付けている場合、取付け工程S2(図2)においては、保護フィルムの除去(S21)と、接着剤の配置(S23)及び被着体の接着(24)とを、被着体ごとに行うことができる。これにより、2以上の被着体を接着させる場合であっても、後に接着させる被着体のための接着剤配置予定領域又は被着体接着予定領域が空気に対して露出する時間を減らすことができ、当該領域の清浄性を維持できる。これは、保護フィルム30A及び30Bが一体となっていてその間に脆弱部が形成されて切断可能になっている場合であっても同様である。
【0073】
基板生産工程S1(図2)における保護フィルムの貼付け(S15)では、保護フィルム30は、透明基板10の主面に密着するように貼り付けることが好ましい。ここで、密着するように、とは、保護フィルムと透明基板の主面(場合によっては光遮蔽膜)との間に空気及び水(水蒸気を含む)を入り込ませない、或いはほとんど入り込ませないようにすることを指す。よって、保護フィルム30の透明基板1への貼付け(S15)は、減圧環境下で行ってもよい。例えば、スキージ(ゴムへら)等を用いて脱気を行いながら貼り付けることができる。また、フィルム貼付け済みの透明基板をゴムバッグ等内で減圧することにより、フィルムと透明基板とを密着させることもできる。この減圧下での密着は、上述の合わせガラス加工(S14)で用いられる装置を利用して行ってもよい。
【0074】
保護フィルム30の材質は特に限定されず、水密性及び気密性を備えたものであり、除去の際(S21)に透明基板10の表面から容易に除去できる、すなわち特別な薬剤、器具、大きな力等を必要とすることなく、人の手でも十分に除去可能なものであればよい。例えば、保護フィルム30は、ポリオレフィン等を基材とし、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等の粘着剤層を、少なくとも一方の面に備えたものであってよい。
【0075】
また、保護フィルム30は、粘着剤層又は粘着性表面を備えていないものであってもよい。その場合、保護フィルムは、不純物が実質的に混入していない水や揮発性溶剤等の液体を介在させて、或いは静電気等を利用して貼り付けることができる。
【0076】
さらに、保護フィルム30は、フィルム前駆体である流動性のある組成物(溶液、サスペンション、エマルジョン等を含む)を、透明基板の所定領域に塗布した後、硬化させることによって硬化膜を形成されるものであってもよい。すなわち、本明細書において、保護フィルムの貼付けとは、フィルム前駆体を塗布してフィルムを形成することも含む。
【0077】
保護フィルム30の厚みは、50μm以上300μm以下であってよい。
【0078】
また、保護フィルム30は、透明であってもよいし不透明であってもよい。また、無色であってもよいし、色付けされていてもよい。不透明であるか又は色付けされていると、保護フィルムの位置が一目でわかるので、保護フィルムの除去(S21)の作業を容易にできる。また、保護フィルム30の縁部のみを不透明にするか又は色付けしておいた場合でも。同様の作用効果を奏する。
【0079】
また、本発明の一実施形態は、接着剤によって被着体と接着して車両用構造体となる透明基板と、保護フィルムとを有する、保護フィルム付き透明基板の製造方法であって、透明基板の車内面側の周縁における接着剤配置予定領域を覆うように保護フィルムを貼り付けるものであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 透明基板
11 第1基板
12 第2基板
13 中間膜
15 光遮蔽膜
18、18a~18e 被着体接着予定領域
19a、19c 接着剤配置予定領域
30、30A、30B 保護フィルム
50 被着体
50 ボディ
70 接着剤
81、82 プライマー
100 車両用構造体
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4