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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20221206BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/183
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019017138
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020125379
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】北村 広之
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-312319(JP,A)
【文献】特開2002-030139(JP,A)
【文献】特開平11-349675(JP,A)
【文献】特開平04-001224(JP,A)
【文献】特開2013-049785(JP,A)
【文献】特開平04-175336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/78 -63/87
C08G 63/183
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化反応工程と、該エステル化反応工程で得られたオリゴマーの重縮合反応工程とを有し、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを製造する方法において、
該オリゴマーの製造に用いるテレフタル酸に対するエチレングリコールのモル比が1.14~1.30であり、
該オリゴマーと無機粒子含有グリコールスラリーとを混合した後、重縮合反応を行う方法であって、
該無機粒子含有グリコールスラリー中の該無機粒子の平均粒径(d50)が0.02~5.0μmでありかつ粒度分布値(d90/d10)が1.1~3.0である、ポリエステルの製造方法であって、
エステル化反応槽で前記エステル化反応工程を行い、重縮合反応槽で前記重縮合反応工程を行う方法であって、前記無機粒子含有グリコールスラリーを該エステル化反応槽から該重縮合反応槽へ前記オリゴマーを移送する配管中の該オリゴマーに添加する、ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造方法に関し、詳しくは、無機粒子をポリエステル中に均一に分散させた無機粒子含有ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、保香性、衛生性等に優れ、又、比較的安価で軽量であるために、各種飲食品等の包装容器材料等として広く用いられている。
【0003】
従来、ポリエステル中に微粒子を分散させて得られる成形品の表面滑性を向上させるために、ポリエステルの合成時に無機粒子を特定の条件で添加する方法が知られている。例えば、特許文献1には、特定の平均粒径の無機粒子を特定の低粘度ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート及び/又はその低重合体からなるオリゴマーに添加することにより、ポリエステル中への無機粒子の分散性を向上させることが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法は、エチレングリコール(以下、「EG」と称することがある)とテレフタル酸(以下、「TPA」と称することがある)とから低粘度オリゴマーを得るために、そのEG/TPAモル比を1.4~2.2と高い領域に調整するものであり、この方法ではEGの使用量が増加するため、生産コストが増加する。一方、この値を小さくすると、粒子分散性が悪化する。
また、特許文献1では、微粒子含有スラリーのポリエステル製造工程への添加時期は、エステル化反応のエステル化率が91%以上進行した時点から重縮合反応初期の間で任意に選択できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-238151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、EG/TPAモル比が小さい領域において、無機粒子をポリエステル中に均一に分散させることのできる無機粒子含有ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エステル化反応槽において特定のTPA/EGモル比でオリゴマーを製造し、該オリゴマーをエステル化反応槽から重縮合反応槽に移送する配管(以下、「移送配管」と称することがある)により移送する間に、分散性の良好な無機粒子含有グリコールスラリーをこの移送配管中のオリゴマーに添加し、次いで重縮合反応を行うことにより、分散性の良好な無機粒子含有ポリエステルを得ることができるとの知見を得て本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
[1] エステル化反応工程と、該エステル化反応工程で得られたオリゴマーの重縮合反応工程とを有し、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルを製造する方法において、該オリゴマーの製造に用いるテレフタル酸に対するエチレングリコールのモル比が1.14~1.30であり、該オリゴマーと無機粒子含有グリコールスラリーとを混合した後、重縮合反応を行う方法であって、該無機粒子含有グリコールスラリー中の該無機粒子の平均粒径(d50)が0.02~5.0μmでありかつ粒度分布値(d90/d10)が1.1~3.0である、ポリエステルの製造方法。
【0009】
[2] エステル化反応槽で前記エステル化反応工程を行い、重縮合反応槽で前記重縮合反応工程を行う方法であって、前記無機粒子含有グリコールスラリーを該エステル化反応槽から該重縮合反応槽へ前記オリゴマーを移送する配管中の該オリゴマーに添加する[1]に記載のポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無機粒子をポリエステル中に均一に分散させた無機粒子含有ポリエステルを生産性良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0012】
[ポリエステルの原料成分]
本発明のポリエステルの製造方法で製造するポリエステル(以下、「本発明のポリエステル」と称す場合がある。)は、「主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステル」である。すなわち、TPAを主成分とするジカルボン酸成分とEGを主成分とするジオール成分とのエステル化反応を経て重縮合反応を行うことにより得られるポリエステルである。ここで、主たる繰り返し単位とはポリエステルを構成する全繰り返し単位のうちの50%以上を占める繰り返し単位をさし、この割合は好ましくは80%以上である。
即ち、本発明のポリエステルは、全繰り返し単位の80%以上がエチレンテレフタレート単位であることが好ましい。
従って、本発明のポリエステルは、原料ジカルボン酸成分全量のうち、TPA成分の割合が80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、99~100モル%であることが特に好ましい。
また、原料ジオール成分の全量のうち、EGの割合が80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、99~100モル%であることが特に好ましい。
【0013】
なお、TPA成分としては、テレフタル酸のほか、テレフタル酸の低級アルコールエステル、酸無水物やハロゲン化物等のエステル形成性誘導体を用いることができる。これらTPA成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
TPA成分以外のジカルボン酸成分としては特に制限はなく、イソフタル酸、オルトフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、フランジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにこれらの炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。これらの他のジカルボン酸成分も、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0015】
また、EG以外のジオール成分としても特に制限はなく、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール、2,5-ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ダイマージオール等が挙げられる。これらの他のジオール成分についても、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0016】
また、本発明のポリエステルの製造には、本発明のポリエステルの特性を妨げない範囲で、上記のジカルボン酸成分及びジオール成分に加えて、更にその他の共重合可能な化合物に由来する成分を用いてもよい。その他の共重合可能な化合物としては、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸や、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能カルボン酸;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸等の三官能以上の多官能カルボン酸;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能アルコール;等が挙げられる。これらのその他の共重合可能な成分は、単独でも2種以上用いてもよい。
【0017】
[エステル交換触媒・安定剤]
本発明のポリエステルの製造には、必要に応じて、エステル交換触媒を用いてもよい。
エステル交換触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等が挙げられる。中でも、反応効率が良好であることよりゲルマニウム化合物が好ましい。ゲルマニウム化合物として二酸化ゲルマニウムがより好ましい。尚、これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0018】
また、ポリエステルの製造時、エステル交換触媒と共に安定剤を併用してもよく、安定剤としては、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価のリン化合物、亜リン酸、次亜リン酸、及びジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価のリン化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、3価のリン化合物は5価のリン化合物よりも一般に還元性が強く、重縮合触媒として添加した金属化合物が還元されて析出し、異物を発生する原因となる場合があるので、5価のリン化合物の方が好ましい。
【0019】
[ポリエステルの製造工程]
本発明のポリエステルは、エステル化反応工程及び重縮合反応工程を有する限り、公知の製造装置及び製造条件により製造することができる。例えば、エステル化反応槽に、TPA等のジカルボン酸成分とEG等のジオール成分と必要に応じてエステル交換触媒を投入し、温度150℃~280℃、好ましくは150℃~250℃、圧力0kPaG(Gはゲージ圧)~200kPaG、好ましくは0kPaG~150kPaGの条件下で反応させてオリゴマーを得る。
【0020】
この時、オリゴマーの製造に供するTPA成分とEGは、EG/TPAモル比が1.14~1.30、好ましくは1.14~1.20の範囲となるように用いる。この値が1.14未満であると、最終的にポリエステル中での粒子分散性が不十分となり、またこの値が1.30を超えると、ポリエステルの生産性が劣る。
【0021】
エステル化反応を終えたオリゴマーは、エステル化反応槽から重縮合反応槽に移送する。重縮合反応槽ではオリゴマーを重縮合反応させてポリエステルの製造を完結させる。
【0022】
本発明のポリエステルの製造方法では、エステル化反応工程で得られたオリゴマーに無機粒子含有グリコールスラリーを混合した後、重縮合反応工程で重縮合反応を行う。好ましくは、エステル化反応槽から重縮合反応槽へオリゴマーの移送を開始した時点から移送を終了するまでの間に、無機粒子含有グリコールスラリーを、移送配管中のオリゴマーに添加する。
【0023】
次いで、無機粒子含有グリコールスラリーを混合したオリゴマーに三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム等の触媒を添加して重縮合反応を行う。なお、これらの触媒をエステル化反応槽で添加した場合には、重縮合反応槽に添加せずとも重縮合反応を行える場合もある。
具体的には、重縮合反応槽における反応温度を、通常220℃~300℃、好ましくは220℃~295℃の範囲で漸次昇温し、また漸次減圧し通常最終圧力を1.3kPa~0.013kPa、好ましくは0.65kPa~0.065kPaとし、重縮合反応が終了した後にこのポリエステルを重縮合反応槽から吐出し、常法によりペレット化する。
【0024】
なお、上記のオリゴマーをエステル化反応槽から重縮合反応槽に移送配管により移送する間とは、エステル化反応槽を加圧するなどして移送配管にオリゴマーが流れ始めた時点から、オリゴマーが実質的に全て重縮合反応槽に移送され、移送配管にオリゴマーが流れなくなった時点までとする。
【0025】
[無機粒子含有グリコールスラリー]
本発明で用いる無機粒子は、重縮合反応中に溶解せず、ある程度の硬度があれば特に限定されないが、例えば、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化チタン粒子、酸化アルミニウム粒子、硫酸バリウム粒子、フッ化リチウム粒子、カオリン粒子、酸化鉄粒子等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
無機粒子の形状は製品用途により異なるため特に限定されず、無機粒子の天然品を粉砕して得られた不定形でもよく、球状、方形、多角形、ロゼッタ状、核となる粒子の表面に微細粒子が付着したコンペイ糖状もしくはいくつかの粒子が結合した繊維状の合成品でもよく、また、合成後に粉砕して不定形としたものなども使用できる。
【0027】
無機粒子の平均粒径は、後述する測定法により測定される無機粒子含有グリコールスラリー中の平均粒径d50(μm)として、通常0.02~5.0μmであり、0.1~3.0μmであることが好ましく、0.1~2.0μmであることがより好ましい。この場合、平均粒径(d50)よりも著しく大きい粗大粒子は、得られるポリエステルフィルムの表面性状の均一性を妨げるなどの不具合を起こす原因となるため、存在させないことが好ましい。例えば平均粒径(d50)1μmの粒子の場合は粒径10μm以上、好ましくは5μm以上の粗大粒子を実質的に存在させないことが好ましい。
【0028】
本発明においてはまた、無機粒子含有グリコールスラリー中の無機粒子はシャープな粒度分布を有することが必要で、かつその分散性を十分に高めておく必要がある。このため、本発明で用いる無機粒子は、後述する測定法により測定される無機粒子含有グリコールスラリー中の粒度分布値(d90/d10)が1.1~3.0である必要がある。この値を1.1未満とするには通常、特定の分級やろ過などを必要とし多大な労力を必要としてしまう。またこの値が3.0を超えるとしばしば粗大な粒子が入り込むことになる。
【0029】
無機粒子含有グリコールスラリー中の無機粒子はオリゴマーに添加する前に予め十分分散させておくことが好ましい。無機粒子の分散が不十分であると、一次粒子がシャープな粒度分布を有していたとしてもしばしば凝集して粗大粒子を形成する傾向にある。分散性を高めるには、ホモミキサー等の高速撹拌機、又は超音波分散機などを用いるとよい。超音波分散機を用いる場合は、周波数20~1,000キロヘルツ、特に20キロヘルツ前後の条件を採るのが好ましい。この場合の処理時間は、例えば1~60分、好ましくは3~30分である。
【0030】
無機粒子含有グリコールスラリーの調製に用いるグリコールとしては、製造原料と同じくEGを主体とするグリコールが好ましい。スラリーの無機粒子濃度としては、2~20質量%、特に2~10質量%が好ましい。この濃度が高くなると、粒子間の衝突頻度が高くなるため、無機粒子の二次凝集が生じやすくなる傾向がある。また、高濃度のスラリーを添加した場合にはオリゴマーが固化し、移送配管が閉塞してしまう場合もある。また、この濃度が低すぎると、無機粒子のグリコールスラリー中の分散性は良好となるが、多量に添加する必要が生じ、オリゴマーの温度が低下する結果、反応時間を長く要するようになり、製造効率が低下する傾向がある。
【0031】
[移送配管への無機粒子含有グリコールスラリーの添加]
本発明においては、エステル化反応槽から排出されたオリゴマーと無機粒子含有グリコールスラリーとを混合したのち、重縮合反応を行う。
エステル化反応槽から排出されたオリゴマーと無機粒子含有グリコールスラリーとの混合方法としては、移送配管中のオリゴマーに無機粒子含有グリコールスラリーを添加することが好ましい。この場合、例えば移送配管の内部に無機粒子含有グリコールスラリーの添加口(細い配管など)を設け、高流速で無機粒子含有グリコールスラリーを添加することが好ましい。かかる方法を採用することにより、無機粒子含有グリコールスラリーの優れた分散状態をポリエステル中でも高度に維持することができ、無機粒子含有グリコールスラリー中よりもポリエステル中での分散性をより優れたものとすることができる場合もある。この分散性の効果は、無機粒子含有グリコールスラリー及び無機粒子含有ポリエステル、それぞれにおける無機粒子の平均粒径及び粒度分布値を比較することで確認することができる。
【0032】
[ポリエステルの物性・無機粒子含有量]
本発明のポリエステルの固有粘度は0.40dL/g以上1.50dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.45dL/g以上1.40dL/g以下、更に好ましくは0.48dL/g以上1.30dL/g以下である。固有粘度が上記範囲内であると生産性を悪化させずに、成形加工性に優れたポリエステルとすることが可能となる。
ポリエステルの固有粘度は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0033】
本発明のポリエステルの製造方法により製造される無機粒子含有ポリエステルの無機粒子含有量は、ポリエステル樹脂分に対する無機粒子の割合として0.1質量%以上、特に0.3質量%以上で、3.0質量%以下、特に2.0質量%以下であることが好ましい。
無機粒子の含有量が上記下限以上であれば、無機粒子を添加したことによる成形品の表面滑性向上効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば、例えばフィルムとした場合の透明性や光沢度を損なうことがない。
【0034】
なお、本発明のポリエステルは、その用途に応じて更に結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、無機及び/又は有機粒子等を配合することができる。
【0035】
[用途]
本発明により製造される無機粒子含有ポリエステルは、無機粒子による表面滑性向上効果から、特にフィルム用途に好適であり、各種飲食品等の包装フィルムや各種機器類の保護フィルム等として好適に用いることができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[評価・測定方法]
以下において、製造されたポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある)、用いた無機粒子の物性値や特性値は、次のようにして測定、評価した。
【0038】
(1) 固有粘度(IV)
試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製、「DT553」)にて、試料溶液の落下速度、溶媒のみの落下秒数それぞれを測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出した。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
ここで、 ηsp=η/η-1 であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。なお試料の溶解条件は、110℃で30分間とした。
【0039】
(2)無機粒子含有グリコールスラリー中の無機粒子の平均粒径、粒度分布値
日機装社製 レーザー回折式粒度分布測定装置(MT-3000II)を用いて測定した。
この場合、等価球形分布における積算体積分率50%の点の直径d50を平均粒径とした。また同時に小粒子側から積算して体積分率10%の点の直径d10と、体積分率90%の点の直径d90の比、d90/d10を粒度分布の指標(粒度分布値)とした。この値は1より大きいが、1に近づくほど粒度分布はシャープとなる。
【0040】
(3)PET中の無機粒子の平均粒径、粒度分布値
3.2gの無機粒子含有PETに160mlのフェノール-テトラクロロエタン混合溶媒(混合質量比:2/3)を加えた後、130℃で加熱しながら30分撹拌して混合溶媒中に無機粒子含有PETを溶解させた。該混合溶媒を室温まで冷却した後、日機装社製 レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックHRA)を用いて、上記(2)の無機粒子含有グリコールスラリー中の無機粒子の場合と同様にして、平均粒径及び粒度分布値を求めた。
【0041】
[実施例1]
TPA 120質量部及びEG 51.5質量部(仕込みEG/TPAモル比=1.15)を、撹拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル化反応槽に仕込み、250℃に加熱してTPAを溶融させた。次いで、三酸化アンチモンを、得られるPET100質量部に対し0.02質量部添加されるように三酸化アンチモンのEG溶液を添加した。このEG溶液のEG量はごくわずかであり、原料EGとして無視し得る量である。その後、常圧下で4時間撹拌保持すると共に水を留去しながらエステル反応を行ない、実質的にエステル反応を終了してオリゴマーを得た。
【0042】
一方、高速撹拌による分散処理を行い、平均粒径が1.0μm、粒度分布値が2.8である炭酸カルシウム粒子を10質量%含むEGスラリーを調製した。
次いで、得られたオリゴマーをエステル化反応槽から移送配管を通じて重縮合反応槽へ移送する間に、該無機粒子含有グリコールスラリーを該移送配管中のオリゴマーに、得られるポリエステル樹脂分に対して無機粒子濃度が1.0質量%となるように添加した。この添加時間は5分間であった。
【0043】
次いで、重縮合反応槽に移送したオリゴマーに対し酢酸マグネシウム添加量が、得られるPET100質量部に対して0.044質量部となるように、酢酸マグネシウム四水塩のEG溶液を添加した。更に、熱安定剤としてエチルアシッドホスフェートをその添加量が得られるPET100質量部に対して0.020質量部となるようにエチルアシッドホスフェートのEG溶液を添加すると共に、重縮合触媒として三酸化アンチモン添加量が0.040質量部となるように三酸化アンチモンのEG溶液を添加した。次いで、常圧から0.06kPaまで減圧し、225℃から275℃まで2時間かけて昇温させ、275℃で1時間保持して溶融重縮合反応を行い、固有粘度0.608dL/gのPETを得た。
得られた無機粒子含有PET中の無機粒子の平均粒径と粒度分布値を測定し、結果を表1に示した。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、エステル化反応槽への仕込みEG/TPAモル比を1.11に変更した以外は、実施例1と同様にして無機粒子含有PETを得、同様に無機粒子分散性の評価を行い、結果を表1に示した。
この比較例1は、仕込みEG/TPAモル比が本発明の規定値より低いため、無機粒子含有PET中の無機粒子の平均粒径及び粒度分布値が実施例1に比べ劣っていた。
【0045】
[比較例2]
実施例1において、エステル化反応槽へのEG/TPA仕込みモル比を1.20とし、無機粒子含有グリコールスラリーの無機粒子濃度を20質量%に変更し(ポリエステル樹脂成分に対する無機粒子添加濃度は実施例1と同じ)、無機粒子含有グリコールスラリーの添加先を移送配管ではなく、エステル化反応槽とした以外は、実施例1と同様にして無機粒子含有PETを得、同様に無機粒子分散性の評価を行い、結果を表1に示した。
この比較例2では、無機粒子含有グリコールスラリーの添加場所が移送配管中のオリゴマーではなく、エステル化反応槽であるため、無機粒子含有PET中の無機粒子の平均粒径及び粒度分布値が実施例1に比べ著しく劣っていた。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、本発明の要件をすべて満たす実施例1で得られた無機粒子含有PET中の無機粒子の平均粒径は無機粒子含有グリコールスラリー中のそれと同等であり、分散性は無機粒子含有グリコールスラリー中よりも良好で粒度分布はシャープ(粒度分布値が低い)であった。
一方、比較例1および2は、本発明の要件のいずれかを欠いており、無機粒子含有PET中の無機粒子の平均粒径及び粒度分布値は実施例1に比べ劣っていた。
これらの結果より、本発明によれば、無機粒子をポリエステル中に均一に分散させた無機粒子含有ポリエステルを生産性良く得ることができることが分かる。