(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲットおよび電極膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221206BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20221206BHJP
H01G 4/33 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C23C14/34 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201G
H01G4/33 102
(21)【出願番号】P 2019017247
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】森本 敏夫
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-027941(JP,A)
【文献】特開平04-368104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0259717(US,A1)
【文献】特開2011-214039(JP,A)
【文献】特開2011-208265(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106350842(CN,A)
【文献】特開2000-169923(JP,A)
【文献】特開平6-248445(JP,A)
【文献】特開2001-59168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01G 4/30
H01G 4/33
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niと、Wと、希土類元素とからなり、
前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、
Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Niと、Wと、希土類元素と、AlもしくはSi、またはAlとSiの両方とからなり、
前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、
Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計が0.5原子%以上10原子%以下であり、Alを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、Siを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、
AlとSiの両方を添加する場合はそれらの総含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
電子部品に形成される電極膜であって、Niと、Wと、希土類元素とからなり、
前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、
Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴とする電極膜。
【請求項4】
電子部品に形成される電極膜であって、Niと、Wと、希土類元素と、AlもしくはSi、またはAlとSiの両方とからなり、
前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、
Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、Alを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、Siを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、
AlとSiの両方を添加する場合はそれらの総含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴とする電極膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法によって電極層を形成する際に用いるスパッタリングターゲット、およびそれを用いて形成された電極膜に関し、特に、積層セラミックコンデンサなどに用いる外部電極形成用のスパッタリングターゲットおよびそれを用いて形成された電極膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品は小型化及び高性能化が求められており、電子部品に用いる各種部材に対しても微細化及び薄型化が求められている。
特に、スマートフォンやウェアラブル端末等に用いる電子部品は、より一層の小型化、薄型化が求められており、その要求は薄膜コンデンサや、電子部品として数多く使用されている積層セラミックコンデンサ等に及んでいる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、一般に、誘電体粉を用いた誘電体ペーストで形成されたシート状の誘電体層と、例えば、特許文献1に開示されているようなNi(ニッケル)合金粉等を用いた導電性ペーストで形成されたシート状の内部電極層とを複数枚積層して圧着した後、チップサイズにカットし、その後、焼成することで誘電体層をなすセラミックと内部電極層とを一体化させ、更に、チップの両端面に外部電極を形成し、その表面にめっきをする方法で製造する。
【0004】
近年の小型化が求められている電子部品では、1対の誘電体層と電極層との総膜厚を500nm以下にした薄膜コンデンサ等があげられ、例えば、BaTiO3(チタン酸バリウム)に代表される誘電体層と、金属薄膜からなる電極層とを有するシートタイプの薄膜コンデンサ等が開発されている。
【0005】
このような薄膜コンデンサを製造する場合、誘電体層は、誘電体ターゲットを用いたスパッタリング法、CVD法、ナノ誘電体粉を用いる方法及びゾルゲル液を基板にスピンコート等で塗布した後に焼結させる方法等で形成することができる。一方、電極層は、電極を形成する組成の合金ターゲットを用いたスパッタリング法、CVD法、蒸着法等で形成することができる。これらの形成方法のうち、スパッタリング法は、成膜速度が比較的早く、膜表面の平滑性が優れているため、薄膜コンデンサの電極形成の方法として適している方法である。スパッタリング法を用いて形成した電極は、電子部品の回路用の電極の他、電子部品を搭載する基板との電気的な接合を行う外部電極としても用いられる。
【0006】
また、電子部品の小型化と共に、薄膜コンデンサの静電容量を高くすることが求められている。
静電容量を高くするための方法としては、例えば、誘電体層の誘電率を高くすることが考えられる。誘電率を高くするためには、誘電体層の膜密度を高くしたり、誘電体層の結晶性を向上させたりすることが必要となる。また、誘電体層の膜厚を薄くして、電極間距離を狭くすることで静電容量を高くする方法もある。電子部品の小型化と共に、静電容量を高くする方法として、誘電体層の膜厚を薄くする方法が多く検討されてきたが、近年、誘電体層の膜厚を薄くすると同時に、電極層の膜厚も薄くすることが求められており、1対の誘電体層と電極層の総膜厚が例えば、上述したように500nm以下となる薄膜コンデンサが開発されている。例えば、特許文献2には、BaTiO3からなる誘電体膜とNiからなる内部電極層とを複数積層した薄膜コンデンサであって、1対の誘電体層と電極層の膜厚に関し、誘電体膜の膜厚を300nm、内部電極層の膜厚を200nmとした薄膜コンデンサが開示されている。
【0007】
しかしながら、電子部品の小型化が進むと、誘電体層と電極層との接合面積も小さくなり、電極層の材料がNiでは誘電体層との密着力が十分得られない虞がある。
【0008】
しかるに、例えば、特許文献3には、誘電体層をなすセラミック材料からなる基板との密着性を改善させるために、電極層の材料をNiW(ニッケルタングステン)合金とする技術、及びNiW合金からなる電極層を形成するためのスパッタリングターゲット材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-060877号公報
【文献】特開2011-114312号公報
【文献】特開2000-169923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、近年、より一層の小型化が進んだ電子部品に対しては、特許文献2に開示されている、電極層の材料をNiW合金とする技術では、形成したNiW合金薄膜の電極層と誘電体層との密着強度が十分に得られず、電極層と誘電体層との間に空隙を生じたり、NiW合金薄膜の成膜時に発生する熱により電極層内で部分的に粒成長を生じるなどして電極層の厚みにばらつきを生じたりする、等の問題が生じる虞がある。
このような不具合が、例えば、薄膜コンデンサで発生した場合には、電極層と誘電体層との間の空隙の発生により静電容量が低下したり、電極層の膜厚のばらつきにより静電容量がばらついたりする、等の不具合が生じる虞がある。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、小型化の進む電子部品、特に、薄膜コンデンサにおいて、電極層と誘電体層との間の空隙等による静電容量の低下や、電極層内での粒成長による静電容量のばらつきの増大を生じることが無く、誘電体層との接合性がよく、表面の平滑性に優れた電極層を形成することが可能なNi合金スパッタリングターゲットおよび形成された電極膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明によるスパッタリングターゲットは、Niと、Wと、希土類元素とからなり、前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴としている。
【0013】
また、本発明によるスパッタリングターゲットは、Niと、Wと、希土類金属と、AlもしくはSi、またはAlとSiの両方とからなり、前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、Alを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、Siを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、AlとSiの両方を添加する場合はそれらの総含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴としている。
【0014】
また、本発明による電極膜は、電子部品に形成される電極膜であって、Niと、Wと、希土類元素とからなり、前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴としている。
【0015】
また、本発明による電極膜は、電子部品に形成される電極膜であって、Niと、Wと、希土類金属と、AlもしくはSi、またはAlとSiの両方とからなり、前記希土類元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの内から選択される1種類以上の元素であり、Wの含有量が7原子%以上17原子%以下であり、前記希土類元素の合計含有量が0.5原子%以上10原子%以下であり、Alを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、Siを含有する場合はその含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、AlとSiの両方を添加する場合はそれらの総含有量が0.1原子%以上25原子%以下であり、残部がNiからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、誘電体層上に形成するNiW合金薄膜による電極層を、小型化が進み非常に薄型化した電子部品において、より薄型化した電極層としてスパッタリングにより形成しても、粒成長することがなく、平滑で均一な厚みの電極層となり、しかも、誘電体層と電極層の密着性が向上し、誘電体層と内部電極層との間に空隙を生じることがなく、電気的特性のばらつきが小さく、信頼性に優れた小型電子部品を形成することができる、スパッタリングターゲットおよび電極膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、NiWの粒成長を抑える合金組成を鋭意検討した結果、NiWに希土類元素等を添加することにより、極薄の状態での加熱環境にあっても粒成長が生じず、特に薄膜コンデンサに用いる電極層をなす電極膜の材料として好適であることを見出した。NiおよびNi合金は、電極層をなす電極膜の材料として従来から一般に良く用いられている材料である。以下、本発明における、Ni合金に含有する添加元素に関し、詳細に説明する。
【0018】
(W)
W(タングステン)は、本発明のスパッタリングターゲットおよび電極膜の構成要素をなすNi合金組成において、融点を上げると共にNiの酸化を抑制する作用がある。また、Niは磁性体であり、スパッタリングターゲットには適さない材料であるが、Wを含有させることにより磁性を持たない合金材料とすることができる。
Wの含有量は、7原子%以上17原子%以下である。Wの含有量が7原子%未満であると、Ni合金の磁性をなくすことができず、スパッタリングターゲットとして用いた場合、スパッタ効率が落ちてしまうため望ましくない。他方、Wの含有量が17原子%を上回ると、NiWの金属間化合物相が多く形成されて、Ni合金が著しく硬くなり、スパッタリングターゲット材としての加工性が悪くなり、ターゲットサイズが小さいものに制限されると共に加工収率が悪化して製造コストが高くなってしまうため望ましくない。
【0019】
(希土類元素)
本発明のスパッタリングターゲットおよび電極膜に用いることのできる希土類元素は、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)及びLu(ルテチウム)の内から選択される1種類以上の元素である。
本発明者は、上記希土類元素を含有する本発明のNiW合金組成を用いて、誘電体層などのセラミック材料上に電極層をなす電極膜をスパッタリング法により形成したときに、セラミック材料との密着性が向上する効果があることを見出した。これは、希土類元素を含有するNiW合金薄膜が、NiW合金薄膜の表面上に極薄い酸化層を形成することにより、誘電体物などの酸化物であるセラミック材料との親和性が向上し、密着強度が向上するためと考えられる。また、NiW合金が、上記希土類元素を含有することにより、スパッタリング法によりNiW合金薄膜を形成する際の粒成長が抑制され、その結果、NiW合金薄膜の変形が抑えられることも、密着強度が向上する一因と考えられる。また、NiW合金薄膜の変形が抑えられることにより、電気的特性のばらつきを低減させる効果もある。
本発明のスパッタリングターゲットおよび電極膜に用いる上記希土類元素の、スパッタリングターゲット内の合計含有量は、0.5原子%以上10原子%以下である。上記希土類元素の合計含有量が0.5原子%未満であると、NiW合金薄膜の変形を十分抑制できず、誘電体層との密着強度が低くなってしまう虞があるため望ましくない。他方、上記希土類元素の合計含有量が10原子%を上回ると、形成されるNi及びWとの金属間化合物の量が多くなり過ぎ、NiW合金が必要以上に硬化してしまい、スパッタリングターゲットとしての加工が非常に困難になるため望ましくない。より望ましい上記希土類元素の合計含有量は6原子%以下である。上記希土類元素は、夫々、最外殻に有する電子構造が同じであるため、NiW合金に対し、同様の反応挙動が発揮されていると考えられる。その中でも、特に、La、Gd、Smは、NiW合金の粒成長を抑制する効果が高く、NiW合金薄膜を形成した際の密着性に優れるため、NiとWと共に用いる希土類元素として、選択するのが望ましい。
【0020】
(Si、Al)
NiW合金に上記希土類元素に加えて、Si(ケイ素)、もしくはAl(アルミニウム)を添加することにより、NiW合金による電極層と誘電体層などのセラミック層との密着力をより一層向上させることができる。これは、NiW合金薄膜が加熱されて酸化膜を形成する際に、SiもしくはAlが希土類元素と結合してより緻密な酸化膜を形成することにより、誘電体層との密着性が向上するためと考えられる。また、形成される酸化膜が非常に緻密であるため、NiW合金薄膜のより一層の酸化を遅らせる効果もあり、しかも、NiW合金の粒成長をより一層抑制するため、膜表面の平滑性も向上する。
Siを添加する場合、その含有量は、0.1原子%以上25原子%以下である。Siの含有量が、0.1原子%未満であると、酸化抑制効果の更なる向上が十分得られず、他方、25原子%を上回ると、スパッタリングターゲット材が必要以上に硬化してしまい加工性が悪くなるため望ましくない。
また、Alを添加する場合、その含有量は、0.1原子%以上25原子%以下である。
Alの含有量が、0.1原子%未満であると、酸化抑制効果の更なる向上が十分得られず、他方、25原子%を上回ると、スパッタリングターゲット材が必要以上に硬化してしまい加工性が悪くなるため望ましくない。
また、SiとAlは、夫々、単独に添加するだけでなく、両方一緒に添加することもできる。SiとAlの両方を添加する場合は、SiとAlの総含有量を、0.1原子%以上25原子%以下にする。
【実施例】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細な実施例を用いて説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
[試験1]
(実施例1)
<電極用スパッタリングターゲットの製造>
主原料をなす元素としてNiを、添加元素として、Wと、希土類元素のSmとを、夫々用意した。Smは溶解中に蒸発しやすい元素であるため、予めNiSmの母合金を作製した。準備したこれらの原料を、高周波溶解炉で溶解し、Ni-10原子%W-2原子%Sm合金の鋳塊を得た。なお、「Ni-10原子%W-2原子%Sm」は、合金組成100原子%において、Wを10原子%、Smを2原子%含有し、残部がNiからなる組成を示している。
上記のようにして得た鋳塊に対し、熱間鍛造、熱間圧延、冷間圧延、及び熱処理を行い、その後、機械加工を行うことで、直径200mmで厚み5mmの電極用スパッタリングターゲットを得た。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成を表1に示す。
【0023】
<誘電体層の製造>
誘電体層は、ゾルゲル法によって作製した。Ba(バリウム)及びTi(チタン)を溶解した溶液に2Me-1BuOH(2-メチル1-ブタノール)溶液、酪酸ブチル溶液及びエチルヘキサン溶液を混合してBaTi系ゾルゲル溶液を作製した。
上記のようにして得た溶液をスピンコート法で成膜し乾燥させた後、300℃で熱処理を行い、その後、酸素と窒素の混合ガス雰囲気で1050℃に加熱して焼成し、膜厚が0.3μmのBaTiO3(チタン酸バリウム)の誘電体層を形成した。
【0024】
<評価試料の作製>
上記のようにして得たBaTiO3の誘電体層の表面に、上記のようにして得た直径200mmのNiWSm合金のスパッタリングターゲットを用いて、NiWSm薄膜からなる電極層をスパッタリング法で形成した。より詳しくは、厚み0.1mmの電極パターンを有した金属マスクをBaTiO3の誘電体層の表面に設置し、所定時間スパッタリングすることにより膜厚0.2μmの電極膜からなる電極層を作製した。
【0025】
<試料の評価>
1.電極層の表面の平滑性評価
上記のようにして得た実施例1の評価試料の電極層の表面に対し、接触式表面粗さ計を用いて、平均表面粗さRaを計測した。評価基準は、表面粗さが0.1μm未満の場合を○、0.1μm以上0.2μm未満の場合を△、0.2μm以上の場合を×とした。評価結果を表1に示す。
【0026】
2.電極層と誘電体層との密着性(層間剥離)評価
上記のようにして得た実施例1の評価試料を、電極層を含む面で切断し、光学顕微鏡を用いて、誘電体層とNiWSm合金の内部電極層との界面を観察し層間剥離の有無を確認した。評価基準は、10個の評価試料断面を観察し、100個全ての試料においていずれも界面に空隙がなく、しっかり接合されている場合を○、層間剥離が1個でも観察された試料が3個以上の場合を×とした。評価結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-7原子%W-0.5原子%Smとした以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0028】
(実施例3)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-17原子%W-10原子%Smとした以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0029】
(実施例4)
電極用スパッタリングターゲットに用いる希土類元素をSmからLaに変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0030】
(実施例5)
電極用スパッタリングターゲットに用いる希土類元素をSmからYに変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-20原子%W-12原子%Smとした以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-5原子%W-0.2原子%Smとした以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0033】
(比較例3)
電極スパッタリングターゲットの組成に希土類元素を入れずNi-10原子%Wとした以外は、実施例1と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
本発明の実施例1~5の評価試料は、WやSmの含有量が夫々の下限値となっている実施例2の評価試料における電極層の表面の平滑性が若干劣る以外はすべて良好な結果が得られた。これに対し、Wや希土類元素の含有量が本発明の範囲の上限値を上回っている比較例1の評価試料は、溶解、鋳造して得た鋳塊が非常に硬く、加工性に劣り、スパッタリングターゲットの作製が困難であったため、電極層の表面の平滑性、および電極層と誘電体層との密着性の評価は行うことができなかった。また、Wと希土類の含有量が本発明の範囲の下限値を下回っている比較例2の評価試料は、融点が低くスパッタリング処理時の発熱により電極層内での粒成長等による変形が生じ、電極層の表面の平滑性に劣り、しかも、希土類元素による電極層と誘電体層との密着性向上の効果が十分に発揮されなかった。また、希土類元素を含まない既存の製品に近い比較例3の評価試料は、電極層と誘電体層との密着性向上の効果が見られず、しかも、比較例2の評価試料に比べれば幾分良いものの、電極層と誘電体層との密着性不良に起因すると思われる電極層の表面の平滑性の悪化が見られた。
【0036】
[試験2]
(実施例6)
<電極用スパッタリングターゲットの製造>
主原料としてNiを、添加元素として、Wと、希土類元素のSmと、Siを用意した。Smを予めNiSm母合金として作製し、これらの原料を、高周波溶解炉で溶解し、Ni-12原子%W-2原子%Sm-3原子%Si合金の鋳塊を得た。その後、試験1と同様に直径200mm厚み5mmの電極用スパッタリングターゲットを得た。作製したスパッタリングターゲットの組成を表2に示す。
【0037】
<誘電体の製造>
誘電体は、試験1と同様に作製した。
【0038】
<評価試料の作製>
試験1と同様の方法で、BaTiO3の誘電体表面に膜厚0.3μmの電極膜からなる電極層を有する評価試料を作製した。
【0039】
<試料の評価>
試験1と同様の条件で、電極層の表面の平滑性評価と、電極層と誘電体層との密着性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0040】
(実施例7)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-7原子%W-0.5原子%Sm-0.1原子%Siとした以外は、実施例6と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表2に示す。
【0041】
(実施例8)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-17原子%W-10原子%Sm-25原子%Siとした以外は実施例6と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表2に示す。
【0042】
(実施例9)
電極用スパッタリングターゲットに用いるSiをAlに変更した以外は、実施例6と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表2に示す。
【0043】
(実施例10)
電極用スパッタリングターゲットに用いる原料に、Siと共にAlを、夫々、1.5原子%含有させた以外は、実施例6と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表2に示す。
【0044】
(比較例4)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-20原子%W-12原子%Sm-3原子%Siとした以外は、実施例6と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表2に示す。
【0045】
(比較例5)
電極用スパッタリングターゲットの組成をNi-12原子%W-2原子%Sm-27原子%Siとした以外は、実施例6と同様の方法で評価用試料を作製して同様の評価を行った。作製した電極用スパッタリングターゲットの組成と評価結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
本発明の実施例6~10の評価試料は、WやSm、Siの含有量が夫々の下限値となっている実施例7の評価試料における電極層の表面の平滑性が若干劣る以外はすべて良好な結果が得られた。これに対し、Wや希土類元素の含有量が本発明の範囲の上限値を上回っている比較例4の評価試料、および、Siの含有量が本発明の範囲の上限値を上回っている比較例5の評価試料は、溶解鋳造して得られた鋳塊が非常に硬く、加工性に劣り、スパッタリングターゲットの作製が困難であったため、電極層の表面の平滑性、および電極層と誘電体層との密着性の評価は行うことができなかった。
【0048】
これらの評価結果より、本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した電極層をなす電極膜は、近年の電子部品の小型化に対応して極薄の電極層となった電極においても、スパッタリング処理時の発熱に対して粒成長を発生させることなく、電極層の表面の平滑性を維持することができ、また、電極層と誘電体層との十分な密着性を有し、電極層と誘電体層との剥離も無く接合性が良好な薄膜コンデンサを得ることが出来ることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のスパッタリングターゲットおよび電極膜は、小型化と共に、静電容量を高くすることが求められている電子部品において、誘電体層と接合する電極層を形成することが求められる分野に有用である。