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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】レンズ構造体及び光接続構造
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20221206BHJP
   G02B 3/04 20060101ALI20221206BHJP
   G02B 6/30 20060101ALI20221206BHJP
   G02B 6/32 20060101ALI20221206BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B3/04
G02B6/30
G02B6/32
G02B13/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019025401
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020134618
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】鹿間 光太
(72)【発明者】
【氏名】荒武 淳
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-244002(JP,A)
【文献】特開2015-062639(JP,A)
【文献】特開2017-134225(JP,A)
【文献】国際公開第2017/072993(WO,A1)
【文献】特開2001-350037(JP,A)
【文献】特開2001-242338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00 - 3/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の入射側の第1の屈折面とこの第1の屈折面と向かい合う出射側の第2の屈折面とを有するレンズ部を備え、
前記レンズ部の光軸方向の座標をz、前記レンズ部の光軸と垂直な高さ方向の座標をy、前記高さ方向のレンズ部の大きさをD、前記入射側の前記光軸上の点である所定の原点から前記第1の屈折面の端部までの前記光軸方向の距離をl、前記第1の屈折面の端部から前記第2の屈折面の端部までの前記光軸方向の距離をt、前記第1の屈折面の前記高さ方向の半径をra1、前記第1の屈折面の前記光軸方向の半径をrb1、前記第2の屈折面の前記高さ方向の半径をra2、前記第2の屈折面の前記光軸方向の半径をrb2としたとき、
前記第1の屈折面は、
【数1】
を満たし、
前記第2の屈折面は、
【数2】
を満たすことを特徴とするレンズ構造体。
【請求項2】
請求項1記載のレンズ構造体において、
前記光軸と垂直な方向の前記レンズ部の両端部のうち少なくとも一方と接合するように形成されたマーカー部をさらに備えることを特徴とするレンズ構造体。
【請求項3】
請求項2記載のレンズ構造体において、
前記マーカー部の少なくとも一部に造影剤が塗布されていることを特徴とするレンズ構造体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレンズ構造体において、
基板と、
前記基板上に形成され、前記レンズ部が前記基板の上に離間して配置されるように前記レンズ部を支える支持体とをさらに備えることを特徴とするレンズ構造体。
【請求項5】
第1の導波路と、
この第1の導波路からの光を受光する第2の導波路と、
前記第1の導波路の出射面と前記第2の導波路の入射面との間に配置された、請求項4記載のレンズ構造体とを備え、
前記レンズ構造体の基板の一方の端面は前記第1の導波路の出射端面と接し、前記基板の他方の端面は前記第2の導波路の入射端面と接することを特徴とする光接続構造。
【請求項6】
請求項5記載の光接続構造において、
前記第2の導波路は、前記第1の導波路より大きなモードフィールド径を有することを特徴とする光接続構造。
【請求項7】
請求項5または6記載の光接続構造において、
前記第1の導波路と前記第2の導波路のうちの少なくとも一方と、前記レンズ構造体のレンズ部との間に充填された、前記レンズ部の屈折率よりも小さい屈折率を有する光透過性の部材をさらに備えることを特徴とする光接続構造。
【請求項8】
請求項7記載の光接続構造において、
前記光透過性の部材は、樹脂接着剤であることを特徴とする光接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なるモードフィールド径を有する光導波路間を結合するためのレンズ構造体及び光接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)基板上に光電子デバイスを一括して集積するSiフォトニクスが注目されている。このSiフォトニクスにおいては、光電子デバイスを構成するSi導波路と光ファイバとのモードフィールドを高効率に結合する光接続技術が求められている。Si導波路と光ファイバのそれぞれのモードフィールド径が大きく異なるため、テーパ構造やグレーティング構造等の、モードフィールドを変換する構造がSi導波路に形成される(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、Si導波路に形成されたSSC(Spot-Size Conventer)などのモードフィールド変換構造の作製ばらつき等により、Si導波路のモードフィールドが光ファイバのモードフィールドと十分に結合しない場合がある。Si導波路を出射した光波は、光軸から離れる方向に進行する放射モードを含み、結果としてファイバとの結合効率が劣化する。
【0004】
図21の(a)は不完全な変換構造を有する従来の光接続構造の断面図、図21の(b)は従来の光接続構造の規格化電力分布|E|2を示す図である(Eは電界)。図21の(a)の光接続構造は、Si導波路300の端面と光ファイバ301の端面とを突き合わせて接着剤302により接着したものである。図21の(a)の例では、Si導波路300と光ファイバ301の間隔を5μmとしている。接着剤302は、Si導波路300と光ファイバ301の屈折率を整合させる役割を果たしている。図21のz軸方向は光の伝搬方向、y軸方向はz軸方向と垂直な方向であり、導波路の厚さ方向である。
【0005】
図22は、図21の光接続構造のファイバ面内の代表モードを示す図である。図22の303は参照面のz座標zref=64μmにおける伝搬モードの光強度分布を示し、304はzref=64μmにおける0次固有モードの光強度分布を示している。
図23は、図21の光接続構造の結合効率の参照面位置依存性を示す図である。ここでは、参照面のz座標zrefを、ファイバ端面近傍から光伝搬方向に沿って掃引している。
【0006】
図23によると、ファイバ端面(zrefが凡そ22μmの位置)から光伝搬方向に約50μm離れた位置(zref=70μm)迄の範囲において、Si導波路300と光ファイバ301との結合効率が-4dBから-3dB程度であり、結合効率が劣化していることが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yin Xiaojie,Wu Yuanda,Hu Xiongwei,“Design and Simulation Analysis of Spot-Size Converter in Silicon-On-Insulator”,CLEO/Pacific Rim 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、モードフィールド径が異なる2つの光導波路間の結合効率を向上させることができるレンズ構造体及び光接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレンズ構造体は、光の入射側の第1の屈折面とこの第1の屈折面と向かい合う出射側の第2の屈折面とを有するレンズ部を備え、前記レンズ部の光軸方向の座標をz、前記レンズ部の光軸と垂直な高さ方向の座標をy、前記高さ方向のレンズ部の大きさをD、前記入射側の前記光軸上の点である所定の原点から前記第1の屈折面の端部までの前記光軸方向の距離をl、前記第1の屈折面の端部から前記第2の屈折面の端部までの前記光軸方向の距離をt、前記第1の屈折面の前記高さ方向の半径をra1、前記第1の屈折面の前記光軸方向の半径をrb1、前記第2の屈折面の前記高さ方向の半径をra2、前記第2の屈折面の前記光軸方向の半径をrb2としたとき、
前記第1の屈折面は、
【数1】
を満たし、
前記第2の屈折面は、
【数2】
を満たすことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のレンズ構造体の1構成例は、前記光軸と垂直な方向の前記レンズ部の両端部のうち少なくとも一方と接合するように形成されたマーカー部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のレンズ構造体の1構成例は、前記マーカー部の少なくとも一部に造影剤が塗布されていることを特徴とするものである。
また、本発明のレンズ構造体の1構成例は、基板と、前記基板上に形成され、前記レンズ部が前記基板の上に離間して配置されるように前記レンズ部を支える支持体とをさらに備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の光接続構造は、第1の導波路と、この第1の導波路からの光を受光する第2の導波路と、前記第1の導波路の出射面と前記第2の導波路の入射面との間に配置されたレンズ構造体とを備え、前記レンズ構造体の基板の一方の端面は前記第1の導波路の出射端面と接し、前記基板の他方の端面は前記第2の導波路の入射端面と接することを特徴とするものである。
また、本発明の光接続構造の1構成例において、前記第2の導波路は、前記第1の導波路より大きなモードフィールド径を有する。
また、本発明の光接続構造の1構成例は、前記第1の導波路と前記第2の導波路のうちの少なくとも一方と、前記レンズ構造体のレンズ部との間に充填された、前記レンズ部の屈折率よりも小さい屈折率を有する光透過性の部材をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の光接続構造の1構成例において、前記光透過性の部材は、樹脂接着剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レンズ部を両面非対称非球面形状とすることにより、このレンズ部を備えたレンズ構造体を光接続構造に適用した場合に、従来の光接続構造と比較して、モードフィールド径が異なる2つの光導波路間の結合効率を向上させることができる。本発明では、光接続構造にレンズ構造体を適用した場合に、光源側の導波路の不完全なモードフィールド変換器を補償することができる。また、本発明では、レンズ構造体の球面収差を改善することができ、さらにレンズ枚数を低減して光学系サイズを低減することができる。
【0013】
また、本発明では、光軸と垂直な方向のレンズ部の両端部のうち少なくとも一方と接合するようにマーカー部を設け、そのマーカー部の少なくとも一部に造影剤を塗布することにより、レンズ部の位置を検出することが可能となる。
【0014】
また、本発明では、レンズ構造体の構成として基板と支持体とを設けることにより、導波路の間隙中にレンズ部を固定することが可能となる。
【0015】
また、本発明では、第1の導波路と第2の導波路のうちの少なくとも一方と、レンズ構造体のレンズ部との間に充填された、レンズ部の屈折率よりも小さい屈折率を有する光透過性の部材を設けることにより、第1の導波路と第2の導波路のうちの少なくとも一方と、レンズ部との間の反射率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係るレンズ構造体の形状を示す断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係るレンズ構造体にコリメート光を入射させた場合の光線追跡計算結果を示す図である。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係るレンズ構造体の球面収差のコリメート光高さ依存性を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施例におけるファイバ側開口数の光源側開口数依存性を示す図である。
図5図5は、本発明の第2の実施例に係るレンズ構造体の形状を示す断面図である。
図6図6は、本発明の第2の実施例に係るレンズ構造体にコリメート光を入射させた場合の光線追跡計算結果を示す図である。
図7図7は、本発明の第2の実施例に係るレンズ構造体の球面収差のコリメート光高さ依存性を示す図である。
図8図8は、本発明の第2の実施例におけるファイバ側開口数の光源側開口数依存性を示す図である。
図9図9は、本発明の第1、第2の実施例に係るレンズ構造体の別の形状を示す断面図である。
図10図10は、本発明の第3の実施例に係る光接続構造の断面図である。
図11図11は、本発明の第3の実施例に係る別の光接続構造の断面図である。
図12図12は、本発明の第3の実施例に係る別の光接続構造の断面図である。
図13図13は、本発明の第3の実施例に係る別の光接続構造の断面図である。
図14図14は、本発明の第3の実施例に係る光接続構造の断面図および光接続構造の規格化電力分布を示す図である。
図15図15は、図14の光接続構造のファイバ面内の代表モードを示す図である。
図16図16は、図14の光接続構造の結合効率の参照面位置依存性を示す図である。
図17図17は、本発明の第3の実施例に係る光接続構造の断面図および光接続構造の規格化電力分布を示す図である。
図18図18は、図17の光接続構造のファイバ面内の代表モードを示す図である。
図19図19は、図17の光接続構造の結合効率の参照面位置依存性を示す図である。
図20図20は、本発明の第3の実施例に係るアレイ構造の光接続構造の平面図である。
図21図21は、従来の光接続構造の断面図および光接続構造の規格化電力分布を示す図である。
図22図22は、図21の光接続構造のファイバ面内の代表モードを示す図である。
図23図23は、図21の光接続構造の結合効率の参照面位置依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[発明の概要]
本発明では、モードフィールド径が異なる2つの光導波路の間隙内に、導波路接続間距離を短くする両面非対称非球面形状のレンズ部と、そのレンズ部を固定するための支持体と、基板とを備えたレンズ構造体を形成する。レンズ部と支持体とは、光硬化性樹脂から形成される。さらに、レンズ構造体は、レンズ部の位置を検出するためのマーカー部を有する。
【0018】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施例に係るレンズ構造体の形状を示す断面図である。図1では、レンズ構造体100の形状を直交座標系において定義しており、光の伝搬方向をz軸方向、z軸方向と直交する面をxy面とする。光源の座標を原点O、レンズ構造体100の光軸をOAとする。また図中においてy軸の正の方向を上方向、負の方向を下方向(鉛直方向)と定義する。図1のSは導波路出射面を示す。
【0019】
レンズ構造体100は、光源側の屈折面101(レンズ面)とこの屈折面101と向かい合う出射側の屈折面102(レンズ面)とを有する微小レンズ部105と、光軸OAと垂直な高さ方向の微小レンズ部105の両端部(本実施例では上下端部)と接合するように形成されたマーカー部107,108とから構成される。屈折面101は、光源側に向かって凸の形状をしており、屈折面102は、光の伝搬方向に向かって凸の形状をしている。
【0020】
レンズ構造体100の微小レンズ部105は集光に寄与するが、マーカー部107,108は集光に寄与しない。すなわち、マーカー部107の、光軸OAと垂直な面106a,106b、およびマーカー部108の、光軸OAと垂直な面103a,103bは、非屈折面となっている。
【0021】
微小レンズ部105とマーカー部107,108との接合部のz軸方向の長さはtである。微小レンズ部105とマーカー部107,108とは、光硬化性樹脂材料から形成される。
【0022】
微小レンズ部105の屈折面101は、式(1-1)~式(1-4)の条件式を満たすことが望ましい。
【0023】
【数3】
【0024】
【数4】
【0025】
【数5】
【0026】
【数6】
【0027】
また、微小レンズ部105の屈折面102は、式(2-1)~式(2-4)の条件式を満たすことが望ましい。
【0028】
【数7】
【0029】
【数8】
【0030】
【数9】
【0031】
【数10】
【0032】
zは光伝搬方向の座標、yは光軸OAと垂直な高さ方向の座標である。また、Dは微小レンズ部105のy軸方向の大きさ(高さ)であり、laはレンズ構造体100の作動距離を決定する変数であり、原点Oから屈折面101の端部までのz軸方向の距離である。tは屈折面101の端部から屈折面102の端部までのz軸方向の距離である。
【0033】
屈折面101と屈折面102は、式(1-1)~式(1-4)、式(2-1)~式(2-4)においてパラメータ範囲を指定したように、非対称な非球面関数で表される。ra1は屈折面101(楕円面)のy軸方向の半径、rb1は屈折面101のz軸方向の半径である。また、ra2は屈折面102(楕円面)のy軸方向の半径、rb2は屈折面102のz軸方向の半径である。
【0034】
微小レンズ部105は、光軸OAに対して回転対称な形態を基本形とするが、光源のモードフィールド形状の面内非対称性に応じて、x方向の半径とy方向の半径が異なる形態であっても構わない。
【0035】
レンズ構造体100における形状関数(式(1-1)~式(1-4)、式(2-1)~式(2-4))において、パラメータは例えば下記のとおりである。まず、屈折面101については、D=70μm、ra1=125μm、rb1=467μm、la=68μmである。屈折面102については、D=70μm、ra2=140μm、rb2=280μm、t=15μmである。
【0036】
図2は、レンズ構造体100にコリメート光を入射させた場合の光線追跡計算結果を示す図である。ここでは、コリメート光の、光軸OAからのy軸方向の高さを0~20μmとしている。光線追跡結果Aが示す、レンズ構造体100の焦点のZ軸方向の位置は125μm近傍である。
【0037】
図3は、図2の光線追跡計算結果を基に算出した、レンズ構造体100の球面収差のコリメート光高さ(光源のモードフィールド半径に相当)依存性を示す図である。図3において、横軸は光軸OAを0μmとしたときのコリメート光のy軸方向の高さ、縦軸はレンズ構造体100の球面収差を示す。
【0038】
図4は、図2の光線追跡計算結果を基に算出した、ファイバ側開口数の光源側開口数依存性を示す図である。図4において、横軸は光源側開口数、縦軸はファイバ側開口数を示す。
このように、本実施例のレンズ構造体100では、同径のボールレンズと比較して、球面収差および光源側開口数許容範囲を改善することができる。
【0039】
本実施例では、下記の実施例で説明するように、光接続構造にレンズ構造体100を適用した場合に、図21の(a)に示した従来の光接続構造と比較して、結合効率を改善することができる。本実施例では、光接続構造にレンズ構造体100を適用した場合に、光源側の導波路の不完全なモードフィールド変換器(MFC:Mode-Field Converter)を補償することができる。
【0040】
また、本実施例では、レンズ構造体100の球面収差を改善することができる。さらに、本実施例では、レンズ構造体100の両面非対称非球面形状によりレンズ枚数を低減することができる。その結果、本実施例では、MFCが無いレンズ結合系と比較して、光学系サイズを低減することができる。
【0041】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図5は、本発明の第2の実施例に係るレンズ構造体の形状を示す断面図である。本実施例のレンズ構造体200は、レンズ構造体100と同様に、光源側に向かって凸の屈折面201(レンズ面)と光の伝搬方向に向かって凸の屈折面202(レンズ面)とを有する微小レンズ部205と、光軸OAと垂直な方向の微小レンズ部105の両端部(本実施例では上下端部)と接合するように形成されたマーカー部207,208とから構成される。
【0042】
レンズ構造体100と同様に、微小レンズ部205は集光に寄与するが、マーカー部207,208は集光に寄与しない。すなわち、マーカー部207の、光軸OAと垂直な面206a,206b、およびマーカー部208の、光軸OAと垂直な面203a,203bは、非屈折面となっている。レンズ構造体100と同様に、微小レンズ部205とマーカー部207,108とは、光硬化性樹脂材料から形成される。
【0043】
屈折面101と同様に、屈折面201は、式(1-1)~式(1-4)の条件式を満たす。屈折面102と同様に、屈折面202は、式(2-1)~式(2-4)の条件式を満たす。
【0044】
レンズ構造体200における形状関数(式(1-1)~式(1-4)、式(2-1)~式(2-4))において、パラメータは例えば下記のとおりである。まず、屈折面201については、D=53μm、ra1=94μm、rb1=353μm、la=52μmである。屈折面202については、D=53μm、ra2=106μm、rb2=212μm、t=15μmである。
屈折面201は、微小レンズ部205の屈折率よりも小さい屈折率の材料からなる接着層204(光透過性の部材)と接している。
【0045】
図6は、レンズ構造体200にコリメート光を入射させた場合の光線追跡計算結果を示す図である。ここでは、コリメート光の、光軸OAからのy軸方向の高さを0~15μmとしている。光線追跡結果Bが示す、レンズ構造体200の焦点のZ軸方向の位置は100μm近傍である。
【0046】
図7は、図6の光線追跡計算結果を基に算出した、レンズ構造体200の球面収差のコリメート光高さ(光源のモードフィールド半径に相当)依存性を示す図である。図7において、横軸は光軸OAを0μmとしたときのコリメート光のy軸方向の高さ、縦軸はレンズ構造体200の球面収差を示す。
【0047】
図8は、図6の光線追跡計算結果を基に算出した、ファイバ側開口数の光源側開口数依存性を示す図である。図8において、横軸は光源側開口数、縦軸はファイバ側開口数を示す。
第1の実施例と同様に、本実施例のレンズ構造体200では、同径のボールレンズと比較して、球面収差および光源側開口数許容範囲を改善することができる。
【0048】
また、本実施例では、屈折面201と接する接着層204を設けることにより、光接続構造にレンズ構造体200を適用した場合に、光源側の導波路とレンズ構造体200との間に接着層204が配置されることになり、光源側の導波路とレンズ構造体200と間の反射率を低減することができる。
【0049】
図5の例では、屈折面201と接する接着層204を設けているが、後述のように微小レンズ部205の全体を覆うように接着層を設けてもよいし、屈折面202と接する接着層を設けてもよい。
【0050】
なお、第1、第2の実施例のレンズ構造体100,200において、マーカー部107,108,207,208の表面の一部に造影剤を塗布すれば、微小レンズ部105,205の位置を、コンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)や磁気共鳴画像(MRI:Magnetic Resonance Imaging)によって検出することができる。その結果、熱衝撃が大きい(急激な温度変化がある)環境や湿熱環境等の負荷環境に設置した後のレンズ構造体100,200の位置ずれを評価することができる。
【0051】
ただし、マーカー部107,108,207,208は、本発明において必須の構成要件ではない。マーカー部107,108,207,208を設けない場合のレンズ構造体100aの断面図を図9に示す。
【0052】
また、第1の実施例では、光軸OAと垂直な方向の微小レンズ部105の両端部にマーカー部107,108を設けているが、微小レンズ部105の両端部のうちどちらか一方のみにマーカー部を設けるようにしてもよい。同様に、第2の実施例において、光軸OAと垂直な方向の微小レンズ部205の両端部にマーカー部207,208を設けているが、微小レンズ部205の両端部のうちどちらか一方のみにマーカー部を設けるようにしてもよい。
【0053】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第1、第2の実施例で説明したレンズ構造体100,100a,200は、基本的には、半導体LD(Laser Diode)光源からの導波光を伝搬する第1の導波路と、第1の導波路より大きなモードフィールド径を有する第2の導波路とを結合する光接続構造に適用される。第1の導波路としては、SiをコアとするSi導波路や、InP系等の化合物半導体をコアとする導波路を用いる。第2の導波路としては、主に石英系ファイバを用いる。
【0054】
図10は、第1の実施例のレンズ構造体が配置される光接続構造901の断面図である。光接続構造901は、第1の導波路3と、第2の導波路4と、第1の導波路3と第2の導波路4との間に配設されたレンズ構造体1とから構成される。
【0055】
レンズ構造体1は、第1の実施例で説明した微小レンズ部105と、第1の導波路3の出射端面と第2の導波路4の入射端面間に配置された基板6と、微小レンズ部105が基板6の上に離間して配置されるように微小レンズ部105(または微小レンズ部105に設けられるマーカー部)を支える支持体2とから構成される。
【0056】
基板6の端面は、第1の導波路3と第2の導波路4のそれぞれの端面と密着している。基板6の固定には、例えば接着剤が使用される。つまり、基板6の一方の端面は第1の導波路3の出射端面と接着され、基板6の他方の端面は第2の導波路4の入射端面と接着されている。基板6としては、高さ方向の精度をサブミクロンオーダーで制御できる材料が望ましい。このような基板6の材料としては、例えばSi基板があるが、精度に応じてガラス基板を用いても構わない。
【0057】
この基板6を造形基板として、光造形装置によって、支持体2と微小レンズ部105とを基板6上に順に形成する。支持体2は、微小レンズ部105と同様に光硬化性樹脂材料から形成される。支持体2は、微小レンズ部105を強固に固定するため、基板6に近づくに従って断面積が増加する錐台の形状を有することが望ましい。第1の導波路3と第2の導波路4との間の、微小レンズ部105の周囲の空間には、空気や不活性ガスを充填する。
【0058】
本実施例の光接続構造の別の例を図11図13に示す。図11は、レンズ構造体と第1の導波路3との間に樹脂接着剤5(光透過性の部材であり、第2の実施例の接着層204)を充填した光接続構造902の断面図である。図12は、第1の導波路3と第2の導波路4との間の、微小レンズ部105の周囲の空間に樹脂接着剤5を充填した光接続構造903の断面図である。図13は、レンズ構造体と第2の導波路4との間に樹脂接着剤5を充填した光接続構造904の断面図である。
【0059】
図11図13のレンズ構造体1a,1b,1cは、それぞれ第2の実施例で説明した微小レンズ部205と、基板6と、微小レンズ部205(または微小レンズ部205に設けられるマーカー部)を支える支持体2とから構成される。
【0060】
第2の実施例で説明したとおり、樹脂接着剤5の屈折率は、微小レンズ部205の屈折率よりも小さい。微小レンズ部205の屈折率と樹脂接着剤5の屈折率との差が小さくなるに従い、第1の導波路3と第2の導波路4の接続間距離を長くとる必要がある。
【0061】
なお、レンズ構造体1,1a~1cの設計に際して、第1、第2の実施例で説明した原点Oは、第1の導波路3中の光軸OA上の任意の点に設定すればよい。
【0062】
また、図10図13では、マーカー部107,108,207,208を記載していないが、第1、第2の実施例で説明したとおり微小レンズ部105,205にマーカー部107,108,207,208を形成してもよいことは言うまでもない。
【0063】
また、微小レンズ部105,205を直接、支持体2によって固定するのではなく、マーカー部108,208(またはマーカー部107,207)が支持体2と一体になるように形成することで、微小レンズ部105,205を固定してもよい。
【0064】
図14の(a)は本実施例の光接続構造901の断面図(図10に相当)、図14の(b)は光接続構造901の規格化電力分布|E|2を示す図である(Eは電界)。図14の例では、第1の導波路3を埋め込み型Si導波路とし、第2の導波路4を石英系ファイバとしている。第1の導波路3からの出射光において、その0次モードのモードフィールド直径を4μmとし、第2の導波路4(石英系ファイバ)のコアの直径を10μmとしている。
【0065】
また、第1の導波路3からの出射光が、開口数に換算して0.3程度以下の複数の放射モードを含むことを許容している。レンズ構造体1には、第1の実施例で用いたパラメータを適用している。第1の導波路3と第2の導波路4との間の、微小レンズ部105の周囲の空間には、空気(屈折率1.0)が充填されている。伝搬波長は、1.55μmである。
【0066】
図15は、図14の(b)の導波分布を基に算出した、光接続構造901のファイバ面内の代表モードを示す図である。図15の905は参照面のz座標zref=292μmにおける伝搬モードの光強度分布を示し、906はzref=292μmにおける0次固有モードの光強度分布を示している。
【0067】
図16は、図14の(b)の導波分布を基に算出した、光接続構造901の結合効率の参照面位置依存性を示す図である。ここでは、参照面のz座標zrefを、ファイバ端面近傍から光伝搬方向に沿って掃引している。
【0068】
図16によると、ファイバ端面の近傍(zrefが250μmの位置)から光伝搬方向に約50μm離れた位置(zref=300μm)迄の範囲において、第1の導波路3と第2の導波路4との結合効率が-0.5dB以上であることが分かる。本実施例の光接続構造901によれば、図21の(a)に示した従来の光接続構造と比較して、第2の導波路4内の伝搬における放射モードを抑制することができるので、第1の導波路3と第2の導波路4との結合効率を改善することができる。
【0069】
図17の(a)は本実施例の光接続構造902の断面図(図11に相当)、図17の(b)は光接続構造902の規格化電力分布|E|2を示す図である(Eは電界)。図17の例では、図14の場合と同じく、第1の導波路3を埋め込み型Si導波路とし、第2の導波路4を石英系ファイバとしている。レンズ構造体1aには、第2の実施例で用いたパラメータを適用している。第1の導波路3と微小レンズ部205との間には、樹脂接着剤5(屈折率1.3)が充填されている。
【0070】
図18は、図17の(b)の導波分布を基に算出した、光接続構造902のファイバ面内の代表モードを示す図である。図18の907は参照面のz座標zref=285μmにおける伝搬モードの光強度分布を示し、908はzref=285μmにおける0次固有モードの光強度分布を示している。
【0071】
図19は、図17の(b)の導波分布を基に算出した、光接続構造902の結合効率の参照面位置依存性を示す図である。ここでは、参照面のz座標zrefを、ファイバ端面近傍から光伝搬方向に沿って掃引している。
【0072】
図19によると、ファイバ端面の近傍(zrefが250μmの位置)から光伝搬方向に約50μm離れた位置(zref=300μm)迄の範囲において、第1の導波路3と第2の導波路4との結合効率が-1.0dB以上であることが分かる。本実施例の光接続構造902では、光接続構造901と比較して、放射モード抑制効果と結合効率とが少し劣化する。一方、光接続構造902では、第1の導波路3と微小レンズ部205との間の樹脂接着剤5による屈折率整合化によって、第1の導波路3と微小レンズ部205との間の反射率を低減することができる。
【0073】
光接続構造903,904の場合、樹脂接着剤5の充填形態が光接続構造901,902と異なるが、放射モード抑制効果と結合効率とは、図21の(a)に示した従来の光接続構造よりも改善される。光接続構造903おいては、第1の導波路3と微小レンズ部205との間、および微小レンズ部205と第2の導波路4との間において反射率低減効果が得られる。また、光接続構造904おいては、微小レンズ部205と第2の導波路4との間において反射率低減効果が得られる。
【0074】
以上のように、本実施例では、レンズ構造体の形状と樹脂接着剤5の充填形態によって光線追跡特性を選択可能なので、第1の導波路3のMFCの不完全性に応じてレンズ構造体の特性を選択可能である。
【0075】
なお、本実施例では、1個の第1の導波路3と1個のレンズ構造体と1個の第2の導波路4とからなる光接続構造について説明しているが、第1の導波路と第2の導波路とがそれぞれ導波路アレイである光接続構造に本発明を適用してもよい。
【0076】
図20は、アレイ構造の光接続構造の平面図である。図20に示すように、導波路アレイ3dは、複数の第1の導波路3をx軸に沿って並べて配置したものである。同様に、導波路アレイ4dは、複数の第2の導波路4をx軸に沿って並べて配置したものである。
【0077】
レンズ構造体1dは、複数の微小レンズ部105をx軸に沿って並べて配置したものである。微小レンズ部105の固定方法は本実施例で説明したとおりである。
図20の例では、複数の微小レンズ部105を並べて配置しているが、複数の微小レンズ部205を並べて配置してもよい。そして、導波路アレイ3dと導波路アレイ4dのうちの少なくとも一方と、微小レンズ部205との間に樹脂接着剤5を適宜充填してもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、異なるモードフィールド径を有する光導波路間を結合する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1,1a~1d,100,100a,200…レンズ構造体、2…支持体、3…第1の導波路、3d,4d…導波路アレイ、4…第2の導波路、5…樹脂接着剤、6…基板、101,102,201,202…屈折面、103a,103b,106a,106b,203a,203b,206a,206b…非屈折面、105,205…微小レンズ部、107,108,207,208…マーカー部、204…接着層、901~904…光接続構造。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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