(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】金属電着用の陰極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20221206BHJP
C25C 1/08 20060101ALI20221206BHJP
C25D 17/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C25C7/02 303
C25C1/08
C25D17/10 A
C25D17/10 B
(21)【出願番号】P 2019056290
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 いつみ
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199857(JP,A)
【文献】特開2008-106292(JP,A)
【文献】特開2005-103339(JP,A)
【文献】特開昭55-134185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/08,7/02
C25D 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電着用の陰極板の製造方法であって、
金属板の少なくとも一方の表面に複数の円盤状の突起部を形成する工程と、
前記金属板の前記突起部以外の表面に非導電膜を形成する工程と、を有し、
前記非導電膜を形成する樹脂が熱硬化性樹脂であって、
前記非導電膜を形成する工程において、
前記熱硬化性樹脂をディスペンサーによって
前記金属板に塗布
後、30℃以上且つ該熱硬化性樹脂の硬化温度よりも20℃以上低い温度範囲で一時保温処理を行い、前記熱硬化性樹脂が非導電膜形成領域全体に広がった後に、前記硬化温度以上の温度に昇温して硬化させる、
金属電着用の陰極板の製造方法。
【請求項2】
前記一時保温処理においては、前記熱硬化性樹脂の温度を前記温度範囲で40分以上保持する、
請求項1に記載の金属電着用の陰極板の製造方法。
【請求項3】
前記突起部の高さが、50μm以上1000μm以下である、
請求項1
又は2に記載の金属電着用の陰極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属電着用の陰極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケルメッキのアノード原料として供せられる電気ニッケルは、アノード保持具となるチタンバスケット内に入れられ、ニッケルメッキ槽内に吊るされて使用されている。このとき、アノード原料である電気ニッケルとしては、陰極板に電着された板状の電気ニッケルを切断して小片状としたものを使用していた。
【0003】
しかしながら、小片状の電気ニッケルは、角部が鋭いためチタンバスケットへ投入する際の取り扱いが困難であった。又、その小片状の電気ニッケルは、チタンバスケットに投入後に角部がチタンバスケットの網目に引っ掛っていわゆる棚吊りを起こし、チタンバスケット内での充填状態が変化して、メッキむらの発生要因となることがあった。
【0004】
そこで、角部の取れた丸みのある小塊状(ボタン状)の電気ニッケルの使用が提案されている。小塊状の電気ニッケルは、例えば、複数の円形状の導電部を等間隔に配列されている陰極板を用いて、電解によりその導電部にニッケルを析出させた後、導電部から電着したニッケルを剥ぎ取ることにより製造することができる。このような方法によれば、1枚の陰極板から複数の小塊状の電気ニッケルを効率的に製造することができる。
【0005】
図4は、小塊状の電気ニッケルの製造に用いられる従来の陰極板の一例を示す図である。陰極板11は、平板状の金属板12上に、導電部12aとなる箇所を残して非導電膜13でマスキングが施されており、この陰極板11では、導電部12aが凹部となり、非導電膜13が凸部となっている。このような陰極板11を用いることで、その導電部12aに適度な大きさのニッケルを電着させ、小塊状の電気ニッケルを製造する。
【0006】
陰極板11のように、金属板12上に非導電膜13を形成する方法としては、例えば、
図5(a)に示すように、平板状の金属板12上に、エポキシ樹脂等の熱硬化性の非導電性樹脂をスクリーン印刷法により塗布して加熱することで所望のパターンを有する非導電膜13を形成する方法がある(特許文献1、2参照)。尚、
図5(b)は、非導電膜13を形成した陰極板11を用いてニッケル(電気ニッケル)14を導電部12aに電着析出させた状態を示すものである。陰極板11では、ニッケル14が、導電部12aから電着析出しはじめ、厚さ(縦)方向だけではなく平面(横)方向にも成長し、非導電膜13の上部にも盛り上がった状態となる。
【0007】
又、例えば
図6(a)に示すように、金属板22上に、感光性の非導電性樹脂を塗布し、露光及び現像により導電部22aに相当する箇所の非導電性樹脂を除去して、所望のパターンを有する非導電膜23を形成する方法も提案されている。尚、
図6(b)は、非導電膜23を形成した陰極板21を用いてニッケル(電気ニッケル)24を導電部22aに電着析出させた状態を示すものである。陰極板21においても、ニッケル24は、導電部22aから電着析出しはじめ、厚さ方向だけではなく平面方向にも成長していく。
【0008】
更に、導電部となる複数のスタッドが等間隔に複数配列されるように組み込まれた金属の構造体の周囲を射出成形法により絶縁性樹脂で固めることによって、非導電部を構成する陰極板を製造する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭51-036693号公報
【文献】特開昭52-152832号公報
【文献】特公昭56-029960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したような陰極板を用いて小塊状の電気ニッケルの製造する場合、陰極板に形成される非導電膜(非導電部)の寿命が長いこと、その非導電膜が欠落(劣化)した場合でも容易に整備可能であることが要求される。
【0011】
図5(a)に示したように、金属板12に非導電性樹脂をスクリーン印刷により塗布して非導電膜13を形成した場合、非導電膜13の膜厚は、導電部12aに近づくにしたがって徐々に薄くなる。このような非導電膜13の膜厚の変化は、非導電性樹脂の塗布量、非導電性樹脂の粘性、及び、粘性の温度特性、非導電性樹脂の硬化温度、金属表面の表面粗さや表面自由エネルギー等に依存する。このため、導電部12aとの境界では、非導電膜13の膜厚が極めて薄くなる。
【0012】
上述した通り、
図4、
図5に示すような従来の陰極板11を用いて小塊状の電気ニッケルを製造すると、ニッケル14は、導電部12aから電着析出しはじめ、縦方向だけでなく横方向にも成長する。このため、徐々に非導電膜13の上にもニッケル14が盛り上がった状態となる。そのため、非導電膜13が薄くなっている導電部12aとの境界近傍の部分においては、電解液の浸透により非導電膜13と金属板12との密着性が低下しやすくなり、ニッケル14の電着時の応力、電気ニッケルの剥ぎ取り時の衝撃等による非導電膜13の欠落が起こりやすくなる。又、一度、非導電膜13の欠落が発生すると、その周辺の非導電膜13が金属板12の表面から浮き上がり、その間隙に更に電解液が侵入しやすくなる。その結果、引き続きニッケルを電着させようとすると、金属板12の表面から浮き上がった非導電膜13の間隙に電解液が潜り込んでニッケル14が電着していく。そして、その間隙に潜り込んで電着したニッケル14を剥ぎ取ろうとすると、ニッケル14が噛み込んでいる非導電膜13を更に欠落させてしまう。
【0013】
このように、従来の陰極板11においては、連鎖的に非導電膜13の欠落が発生し、欠落部分が広がっていくと隣接する導電部12aから成長したニッケル14同士が連結しやすくなり、所望の形状の電気ニッケルを得ることができず、不良品となる。したがって、非導電膜13の欠落が発生する前に、全ての非導電膜13を剥ぎ取り、再度、非導電膜3を形成して陰極板11を整備する必要が生じる。しかしながら、実際には、数回から多くても10回未満程度のニッケルの電着処理を行った段階で陰極板11の整備を行う必要が生じてしまい、生産性が低下するばかりか整備コストも増大する。
【0014】
一方、
図6(a)に示したように、感光性の非導電性樹脂を用いて露光及び現像により非導電膜23を形成した陰極板21では、均一な膜厚に非導電膜23を形成することができる。しかしながら、電着後にニッケル24を剥ぎ取る際に、そのニッケル24が凸部を構成する非導電膜23の段差に引っ掛かり、その非導電膜23に大きな衝撃が加わりやすくなるため、やはり非導電膜23の欠落が発生してしまう。
【0015】
尚、特許文献3のように射出成形により非導電部を構成する方法では、形成される非導電部の寿命は長くなるものの、陰極板それ自体の製造コストが高くなり、非導電部が劣化した場合の陰極板の整備が困難である。
【0016】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、金属板上の非導電膜が欠落しにくく、繰り返し使用可能な金属電着用の陰極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上述した解題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属板に突起部を設けて導電部とし、金属板の表面における突起部以外の部分にディスペンサーで樹脂を塗布することによって非導電膜を設けることで、非導電膜が欠落しにくい金属電着用の陰極板を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
(1) 金属電着用の陰極板の製造方法であって、金属板の少なくとも一方の表面に複数の円盤状の突起部を形成する工程と、前記金属板の前記表面における前記突起部以外の部分に非導電膜を形成する工程と、を有し、前記非導電膜を形成する工程において、該非導電膜を形成する樹脂を、ディスペンサーによって塗布することを特徴する金属電着用の陰極板の製造方法。
【0019】
(2) 前記突起部の高さが、50μm以上1000μm以下である、(1)に記載の金属電着用の陰極板の製造方法。
【0020】
(3) 前記非導電膜が、熱硬化性樹脂である(1)又は(2)に記載の金属電着用の陰極板の製造方法。
【0021】
(4) 前記熱硬化性樹脂を前記金属板に塗布後、30℃以上且つ該熱硬化性樹脂の硬化温度よりも20℃以上低い温度範囲で保持する一時保温処理を行い、前記熱硬化性樹脂が非導電膜形成領域全体に広がった後に、前記硬化温度以上の温度に昇温して硬化させる、(3)に記載の金属電着用の陰極板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、非導電膜が欠落しにくく、繰り返し使用可能な金属電着用の陰極板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る金属電着用の陰極板の構成を示す平面図である。
【
図2】本発明に係る金属電着用の陰極板の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の金属電着用の陰極板の製造方法を説明する要部拡大断面図であり、(a)は第1工程を説明する要部拡大断面図であり、(b)は第2工程を説明する要部拡大断面図である。
【
図4】従来の金属電着用の陰極板の構成を示す平面図である。
【
図5】従来の金属電着用の陰極板の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
【
図6】従来の金属電着用の陰極板の他の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。
【0025】
<金属電着用の陰極板>
[全体構成]
本発明の製造方法によって製造することができる陰極板1は、
図1に示すように、複数の円盤状の突起部2aが配列されている金属板2と、金属板2の表面における突起部2a以外の部分に形成される非導電膜3とを有する。陰極板1は、後述するように、例えばニッケルを含む電解液や陽極を収容する電解槽内に吊下げ部材5により吊下げられて使用され、その表面に所望とする形状のニッケルを電着析出させる。
【0026】
[金属板]
金属板2は、
図1及び
図2(a)に示すように、平板状の金属の板であり、複数の円盤状の突起部2aを有する。ここで、金属板2の表面における突起部2a以外の部分を、突起部2aに対して「平坦部2b」と言う。又、円盤状の突起部の高さXは、金属板2における平坦部2bの表面からの突出高さとする。
【0027】
尚、
図2では、金属板2の一方の面に突起部2aを有する例を示しているが、その両方の面に突起部2aを有していてもよい。
【0028】
金属板2の大きさは、特に限定されず、製造する電気ニッケルの所望の大きさや数に応じて適宜設定すればよい。例えば、一辺が100mm以上、2000mm以下の矩形状の大きさとすることができる。又、金属板2の厚みとしては、突起部2aを一方の表面に設ける場合には、例えば、1.5mm以上、5mm以下程度であることが好ましく、突起部2aを両方の表面に設ける場合には、例えば、3mm以上、10mm以下程度であることが好ましい。金属板2の厚みが過小であると、突起部2aと平坦部2bとによって反りが生じやすくなる傾向がある。一方で、金属板2の厚みが過大であると、金属板2の重量が増大して取り扱いが困難になる。
【0029】
金属板2の材質としては、使用する電解液による腐食が小さく、ニッケル等の電着物とゆるい接着しか形成しない金属であれば特に限定されないが、チタン、ステンレス鋼が好ましく挙げられる。
【0030】
金属板2において、複数の円盤状の突起部2aは、その表面が後述する非導電膜3から露出して導電部としての機能を果たすとともに、非導電膜3が所定の厚みをもって成膜されるべく、隣接する突起部2aによって凹状の段差を形成する。以下、突起部2aのうち、非導電膜3から露出する面を「導電部2c」と言うことがある。導電部2cでは、電解処理によりニッケル4を電着析出する。
【0031】
円盤状の突起部2aの大きさは、所望の電気ニッケルの大きさに応じて適宜設定されればよいが、その直径としては、例えば、5mm以上、30mm以下とすることができる。又、突起部2aの高さXは、50μm以上、1000μm以下であることが好ましく、200μm以上800μm以下であることがより好ましい。突起部2aの高さXが過小であると、金属板2の平坦部2b上に形成される非導電膜3の膜厚が不十分となり、ニッケル4の電着時の応力やその電気ニッケルの剥ぎ取り時の衝撃によって欠落しやすくなる。
【0032】
一方、突起部2aの高さXが過大であると、突起部2aの加工時に金属板2の歪が生じやすくなり、金属板2が反りやすくなるため、非導電膜3の形成が困難になる。尚、金属板2の歪による影響を小さくするため、金属板2の厚みを厚くすることも可能であるが、金属板2の重量が増大し取扱いが困難になる。
【0033】
又、金属板2の表面、即ち、金属板2における円盤状の突起部2aの表面には、サンドブラストやエッチングにより細かい凹凸を設けてもよい。これにより、突起部2aに電着したニッケル4が電解処理中に脱落することなく、適度な衝撃で剥ぎ取ることができる。この場合、後述する非導電膜3の膜厚は、金属板2の最大表面粗さRzの2倍以上であることが好ましい。非導電膜3の膜厚が金属板2の最大表面粗さRzの2倍より小さいと、非導電膜3のピンホールや絶縁不良部分の発生が懸念される。
【0034】
[非導電膜]
非導電膜3は、
図2に示すように、金属板2の表面において、突起部2a以外の部分である平坦部2bに形成される。これにより、金属板2上に複数配列されている突起部2aの表面、即ち、導電部2cが露出された状態となる。そして、このような金属板2の導電部2cにニッケル4が電着析出することにより、そのニッケル4は小塊状の形状に個々に分割されて形成される。
【0035】
ここで、陰極板1において、非導電膜3は、隣接する突起部2aによって形成された凹状の段差を有する平坦部2b上に形成されることになるため、所定の厚みをもって形成されることになる。
【0036】
非導電膜3は、隣接する突起部2aによって形成された凹状の段差を有する平坦部2b上に形成される。そのため、非導電膜3は、
図5に示す従来の非導電膜13のように、端部の膜厚が薄くなりにくく、ニッケル4の電着時の応力や電着後の剥ぎ取り時の衝撃によっても欠落しにくくなる。又、非導電膜3は、
図6に示す従来の非導電膜23のように、凸状に突出しておらず、その端部が凹状の段差によって保護されている。よって、ニッケル4を陰極板1から剥ぎ取る際にも、ニッケル4が非導電膜3の端部に与える衝撃は小さく、非導電膜3が欠落しにくい。このように、陰極板1においては、非導電膜3が欠落しにくいことから、非導電膜3を交換することなく、繰り返し電着に使用することが可能であり、整備コストの低減、生産性の向上を図ることが可能である。
【0037】
非導電膜3を形成する非導電性材料は熱硬化性樹脂とすることが好ましい。具体的には、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。
【0038】
[金属電着用の陰極板を用いた電気ニッケルの製造]
上述した構成からなる陰極板1では、
図2(b)に示すように、非導電膜3から露出する突起部2aの表面が導電部2cとなって、ニッケル4を電着析出させる。陰極板1において、ニッケル4は、厚さ方向だけではなく平面方向にも成長するため、非導電膜3の上部に盛り上がった状態になる。このことから、隣接する突起部2aの表面の導電部2cから成長したニッケル4同士が接触する前に電着を終了することが好ましい。
【0039】
そして、ニッケルの電着が終了した後、陰極板1からそのニッケル4を剥ぎ取ることで、1枚の陰極板1より複数の小塊状の電気ニッケルを得ることができる。上述したように、陰極板1では、非導電膜3が欠落しにくいことから、非導電膜3を交換することなく、繰り返し使用することができ、整備コストの低減、生産性の向上を図ることができる。
【0040】
尚、陰極板1は、ニッケル4を電着したが、ニッケルに限定されず、銀、金、亜鉛、錫、クロム、コバルト、又はこれらの合金を電着してもよい。
【0041】
<金属電着用の陰極板の製造方法>
本発明の金属電着用の陰極板の製造方法は、
図3に示すように、金属板2の少なくとも一方の表面に複数の円盤状の突起部2aを形成する第1工程(
図3(a))と、金属板2の表面における突起部2a以外の部分に非導電膜3を形成する第2工程(
図3(b))とを有する。
【0042】
[第1工程]
第1工程では、金属板2の表面に、複数の円盤状の突起部2aを形成する。例えば、平板状の金属板2に対して、突起部2a以外の部分を削って、高さXとなる突起部2aを残し、平坦部2bを形成する。加工方法としては、特に制限されず、例えば、ウェットエッチング加工、エンドミル加工、レーザー加工等、或いは、これらの各加工法の組合せにより行うことができる。
【0043】
例えば、平板状のステンレス鋼板をウェットエッチングで加工する場合には、ステンレス鋼板の表面に感光性のエッチングレジストを塗布し、続いて、所望のパターンを描画したフィルムやガラスを通して露光し、エッチングする部分のエッチングレジストを現像処理により除去する。そして、現像処理されたステンレス鋼板をエッチング液(例えば、塩化第二鉄溶液)に付け、エッチングレジストが除去されたステンレス鋼板の一部を除去し、最後にエッチングレジストを剥離することで、所望のパターンに対応した、複数の円盤状の突起部2aを形成することができる。
【0044】
尚、突起部2aは、金属板2の一方の表面のみに形成してもよいし、金属板2の両方の表面に形成してもよい。
【0045】
[第2工程]
第2工程では、金属板2の表面における円盤状の突起部2a以外の部分となる平坦部2bに、非導電膜3を形成する。非導電膜3の形成は、熱硬化性樹脂をディスペンサー5(
図3(b)参照)によって塗布する方法により行う。尚、本発明においては、液状の材料を定量供給することができる、公知の各種ディスペンサーを適宜選択して用いることができる。
【0046】
ディスペンサー5による熱硬化性樹脂の塗布に際しては、温度、突出用のエアー圧力、ノズル径、シリンジの移動速度や塗布回数等によって塗布量を制御する。
【0047】
又、この熱硬化性樹脂の塗布については、所定量の樹脂を塗布した後に、熱硬化性樹脂の温度を30℃以上、且つ、その熱の硬化温度よりも20℃以上低い適切な温度範囲で保持する一時保温手順を経るようにすることが好ましい。具体的には、金属板2を上記範囲内の温度に加温した状態で、熱硬化性樹脂の塗布を行えばよい。
【0048】
上記の一時保温手順により、熱硬化性樹脂の粘度を低下させることにより、同樹脂を円盤状の突起部2aの外縁部分に隈なく塗布しきれない場合であっても、同樹脂を非導電膜形成領域全体に隈なく流し込むことができる。又、このような手順を経て非導電膜3の形成を行うことにより、必ずしも、円盤状の突起部2aの際の部分にまで正確に塗布しなくても、隅々まで厚さが均一な非導電膜3を形成することができる。
【0049】
尚、常温でも粘性が低い樹脂であれば、金属板2の温度が30℃未満であっても熱硬化性樹脂を流し込むことはできるが、同温度は30℃以上とする方が管理しやすい。
【0050】
又、熱硬化性樹脂は、硬化温度に近づくと硬化条件の温度に完全に達してはいなくても硬化が開始する場合がある。硬化が始まると粘度は上がるため間隙に樹脂を流し込めなくなる。使用する熱硬化性樹脂によって、適宜保持温度及び保持時間を設定することが望ましい。又、昇温速度を小さくして温度上昇を遅らせることでも同様の効果が得られる。この場合は、ある温度範囲の昇温時間を保持時間として考えればよい。
【0051】
本発明の陰極板の製造方法によれば、上述した簡易な方法で、金属板上の非導電膜が欠落しにくく、繰り返し使用可能な陰極板1を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。尚、便宜上、
図1乃至
図6で示した部材と同一の機能をもつ部材には同一符号を付して説明する。尚、以下の実施例及び比較例においては、陰極板の製造方法がそれぞれ異なり、各陰極板の製造方法以外は、同一の条件で電気ニッケルを製造し、同一の方法で評価した。
【0053】
<金属電着用の陰極板の作製>
[実施例1]
図1、
図2に示すような陰極板1を作製した。具体的には、まず、200mm×100mm×4mmのステンレス鋼製の金属板2に、ウェットエッチングを施し、円盤状の突起部2a(18個)を形成した。このとき、円盤状の突起部2aの大きさは、直径14mm、高さXは300μmとした。
【0054】
次に、ディスペンサーによりエポキシ樹脂をベース樹脂とする熱硬化性樹脂(硬化開始温度115℃~120℃)を、金属板2における平坦部2b上に塗布し、80℃で40分保持し、その後150℃60分の加熱により硬化させて非導電膜3を形成した。
【0055】
[実施例2]
金属板2の円盤状の突起部2aの高さXを1000μmとしたこと以外は、実施例1と同条件で、陰極板1を作製した。
【0056】
[実施例3]
ディスペンサーにより実施例1で用いたものと同種の熱硬化性樹脂を、金属板2における平坦部2b上に塗布し、60℃で60分保持したこと以外は、その後の加熱温度、時間含め、実施例1と同条件で陰極板1を作製した。
【0057】
[実施例4]
ディスペンサーにより実施例1で用いたものと同種の熱硬化性樹脂を金属板2における平坦部2b上に塗布し後、すぐに150℃60分の加熱で硬化させたこと以外は、実施例1と同条件で陰極板1を作製した。
【0058】
[比較例1]
比較例1では、
図5、
図6に示すような従来の陰極板11を作製した。具体的には、200mm×100mm×4mmのステンレス鋼製の平板状の金属板12に、直径14mmとなる導電部12a(18個)を残して、スクリーン印刷法により、実施例1で用いたものと同種のエポキシ樹脂を塗布し、150℃60分の加熱により硬化させて非導電膜13を形成し、陰極板11を作製した。尚、この比較例1の陰極板11において、レーザー変位計により、非導電膜13の膜厚を任意の10か所で測定したところ90~110μmの範囲であった。
【0059】
<電気ニッケルの製造>
各実施例及び比較例にて作製した、それぞれ製造条件の異なる各陰極板を用いて、電解処理により電気ニッケルを製造した。具体的には、塩化ニッケル電解液を収容した電解槽中に、陰極板と、200mm×100mm×10mmの電気ニッケルからなる陽極板とを、対向させて浸漬した。そして、初期電流密度710A/m2、電解時間3日間の条件で、陰極板の表面にニッケルを電着させた。電解後、陰極板上に析出した電気ニッケルを剥ぎ取り、小塊状のメッキ用電気ニッケルを得た。
【0060】
<評価>
電解処理に使用した陰極板を、そのまま繰り返し利用できる回数を評価した。非導電膜の欠落が広がると、隣接する突起部、導電部で電着したニッケル同士が連結し、所望の形状の電気ニッケルを得られないことがある。したがって、非導電膜が円盤状の突起部との境界から平坦部方向に1mm以上に亘って欠落した場合には、使用を中止し、その時点までの繰り返し回数を評価した。又、非導電膜が欠落し、導電部の径が1mm以上拡大した場合にも、使用を中止し、この時点までの繰り返し回数を評価した。下記表1に、陰極板の構成とともに評価結果を示す。
【0061】
【0062】
表1に示すように、熱硬化性樹脂をディスペンサーで塗布した、実施例1~4においては、非導電膜3の欠落が十分に抑制されていて、同樹脂をスクリーン印刷で塗布した比較例1に対して、繰り返し可能な使用回数において、明らかな優位性が発現することが確認された。
【0063】
尚、表1の備考欄に示す通り、金属板への熱硬化性樹脂の塗布後に、「30℃以上且つ該熱硬化性樹脂の硬化温度よりも20℃以上低い温度範囲で保持」する処理を行わなかった実施例4においては、陰極板の一部において樹脂が広がりきっていないことに起因するマスキングが不良の発生が確認された。
【0064】
以上より、熱硬化性樹脂をディスペンサーで塗布する本願発明の陰極板の製造方法が、従来の製造方法に対して優位性を発揮しうること、及び、本願発明において、熱硬化性樹脂の塗布後、熱硬化前に所定温度で保持する過程を経ることで、更に、優れた陰極板とすることができることが、確認された。
【符号の説明】
【0065】
1 陰極板
2 金属板
2a 突起部
2b 平坦部
2c 導電部
3 非導電膜
4 ニッケル
5 ディスペンサー