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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの評価方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 33/10 20060101AFI20221206BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20221206BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20221206BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20221206BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C30B33/10
C30B29/06 Z
H01L21/306 Z
H01L21/66 N
C30B29/06 502Z
C30B15/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019109637
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020200229
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】北村 貴文
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-047569(JP,A)
【文献】特開2009-004675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 33/10
C30B 29/06
H01L 21/306
H01L 21/66
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットから検査用ウェーハサンプルを切り出すステップと、
前記ウェーハサンプルを洗浄するステップと、
前記ウェーハサンプルをエッチング液に浸漬して前記ウェーハサンプルの表面をエッチングするステップと、
前記ウェーハサンプルの品質を検査するステップとを備え、
前記ウェーハサンプルをエッチングするステップは、
予め定めたエッチング条件下で前記ウェーハサンプルのエッチング処理を開始するステップと、
エッチング処理開始時の前記エッチング液の液温を測定するステップと、
前記エッチング処理中の前記エッチング液の液温を測定するステップと、
前記エッチング処理中の前記エッチング液の液温と前記エッチング処理開始時の前記エッチング液の液温との差である反応熱量が所定の反応熱量に到達したときにエッチング処理を終了するステップとを備えることを特徴とするシリコンウェーハの評価方法。
【請求項2】
前記エッチング条件下で前記ウェーハサンプルのエッチング処理を行ったときの前記ウェーハサンプルのエッチング量と反応熱量との関係を示す検量線を予め作成するステップと、
前記検量線から目標エッチング量に対応する前記所定の反応熱量を求めるステップをさらに備える、請求項1に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項3】
前記ウェーハサンプルの品質を検査するステップは、選択エッチング法による結晶欠陥測定、FTIR法による酸素濃度測定、四探針法による抵抗率測定、μ-PCD法によるキャリアの再結合ライフタイム測定、SPV法による金属汚染分析の少なくとも一つを含む、請求項1又は2に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項4】
前記シリコン単結晶インゴットから検査用ウェーハサンプルを切り出すステップは、前記シリコン単結晶インゴットから切り出した円形のウェーハを分割するステップを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項5】
前記検査用ウェーハサンプルの品質の検査結果に基づいて、前記シリコン単結晶インゴットの製品化対象部位の後工程への払い出しを決定するステップをさらに備える、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項6】
前記検査用ウェーハサンプルの品質の検査結果に基づいて、後続のシリコン単結晶インゴットの育成条件を調整するステップをさらに備える、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項7】
前記エッチング液は、リサイクル液を含まない新液である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハのエッチング方法及び評価方法に関し、特に、シリコン単結晶インゴットから切り出した品質検査用ウェーハサンプルのエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料としてシリコンウェーハが広く用いられている。シリコンウェーハは、チョクラルスキー法(CZ法)により育成されたシリコン単結晶インゴットに外周研削、スライス、ラッピング、エッチング、両面研磨、片面研磨、洗浄等の工程を順次行うことにより製造される。このうち、エッチング工程は、ラッピング工程等において生じる加工歪みを除去するために必要な工程であり、フッ酸、硝酸等を用いたケミカルエッチングが行われる。
【0003】
シリコンウェーハのエッチング方法に関し、例えば特許文献1には、エッチング処理を行う前にシリコンウェーハを予め加熱してシリコンウェーハの温度をエッチング液の液温とほぼ同程度にすることにより、エッチング取り代のばらつきを極力小さくする方法が記載されている
【0004】
シリコンウェーハ製品は、結晶欠陥、酸素濃度分布等の様々な品質基準を満たしている必要があり、そのためにはシリコンウェーハを予め検査する必要がある。シリコンウェーハの品質検査の多くは破壊検査であり、シリコン単結晶インゴットから結晶成長方向(引上げ軸方向)に一定間隔で切り出したウェーハサンプルに対して行われる。製品ウェーハと異なり、検査用ウェーハサンプルは検査に必要な品質を満たしていればよいため、インゴットから切り出されたシリコンウェーハは、洗浄工程及びエッチング工程を経た後、検査工程に送られ、両面研磨や片面研磨などの平坦化工程は省略される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-004675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、品質検査用ウェーハサンプルのエッチング量の管理方法としては、エッチング時間を一定にするか、あるいはエッチング液の最終到達温度で管理する方法が一般的であった。しかし、一定時間経過後又は液温が所定の温度に到達したときにエッチング処理を終了する従来の管理方法では、エッチング開始時におけるエッチング液の液温の季節変動によってエッチング量のばらつきが生じやすいという問題がある。
【0007】
これまで、品質検査用ウェーハサンプルのエッチング量が精密に制御されていなかった。製品ウェーハと異なり、品質検査用ウェーハサンプルは品質検査を実施できれば足り、エッチング量に多少のばらつきがあっても問題はないと考えられていた。しかし最近、検査項目によってはウェーハの厚みのばらつきが検査精度に影響を与えることが分かってきたため、品質検査用ウェーハサンプルのエッチング工程においてもエッチング量の精密な制御が求められる。
【0008】
液温制御システムを導入すればエッチング液の温度を一定に制御することができ、製品ウェーハのエッチング工程には実際に高性能な液温制御システムが導入されている。しかし、そのような液温制御システムは非常に高価であり、設置コストや管理コストが大幅に増加する。ウェーハサンプルの場合、製品ウェーハのようにエッチング量を精密に制御することは必ずしも必要ではなく、大掛かりな温制御システムを導入しない範囲内でエッチング量をできるだけ精密に制御することが望まれている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、特別な液温制御システムを用いることなく、エッチング量を精密に制御することが可能なシリコンウェーハのエッチング方法及びこれを用いたシリコンウェーハの評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコンウェーハのエッチング方法は、シリコンウェーハをエッチング液に浸漬して前記シリコンウェーハの表面をエッチングする方法であって、予め定めたエッチング条件下で前記シリコンウェーハのエッチング処理を開始するステップと、前記エッチング処理開始時の前記エッチング液の液温を測定するステップと、前記エッチング処理中の前記エッチング液の液温を測定するステップと、前記エッチング処理中の前記エッチング液の液温と前記エッチング処理開始時の前記エッチング液の液温との差である反応熱量が所定の反応熱量に到達したときに前記エッチング処理を終了するステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
検査対象となるシリコンウェーハには均一な加工が求められる。しかし、エッチングの設備や条件によっては、少なからずエッチング処理を実施する環境の影響を受けてエッチング量にばらつきが発生する。寒冷地では季節変動が特に大きく、同一のケミカルエッチング処理においてエッチング開始温度が9~30℃の間で変化して40~90μmのエッチング量のばらつきが発生する。
【0012】
エッチング液のエッチング開始温度が一定となるようにエッチング液の温度を制御することも考えられる。しかし、エッチング処理開始時におけるエッチング液の温度を精密に制御するためには大掛かりな設備が必要となり、設備コストの大幅な増加につながる。一方、製品ウェーハと異なり、ウェーハサンプルには±100μm程度のエッチング量のばらつきが許容されている。そのため、これまでエッチング量のばらつきはそれほど問題にはなかった。しかしながら、最近はウェーハサンプルの検査精度のさらなる向上が求められており、そのためにはウェーハサンプルのエッチング量を精密に制御する必要があり、エッチング制御の改善が求められる。
【0013】
本発明によれば、エッチング開始温度のばらつきに起因するシリコンウェーハのエッチング量のばらつきを抑制することができる。したがって、エッチング液の温度を制御するための液温制御システムを使用することなくエッチング量を精密に制御することができる。
【0014】
本発明によるシリコンウェーハのエッチング方法は、前記エッチング条件下で前記シリコンウェーハのエッチング処理を行ったときの前記シリコンウェーハのエッチング量と反応熱量との関係を示す検量線を予め作成するステップと、前記検量線から目標エッチング量に対応する前記所定の反応熱量を求めるステップをさらに備えることが好ましい。これにより、所望のエッチング量に対応する所定の反応熱量を正確に求めることができる。
【0015】
本発明において、前記シリコンウェーハは、シリコン単結晶インゴットから切り出した円形のウェーハを分割したものであることが好ましい。これにより、その後の検査工程において1枚のウェーハに対して複数の品質項目の検査を同時に実施することができ、検査効率を向上させることができる。
【0016】
本発明において、前記エッチング液は、リサイクル液を含まない新液であることが好ましい。これにより、ウェーハのエッチング量を精密に制御することができる。
【0017】
また、本発明によるシリコンウェーハの評価方法は、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットから検査用ウェーハサンプルを切り出すステップと、前記ウェーハサンプルを洗浄するステップと、前記ウェーハサンプルをエッチング液に浸漬して前記ウェーハサンプルの表面をエッチングするステップと、前記ウェーハサンプルの品質を検査するステップとを備え、前記ウェーハサンプルをエッチングするステップは、前記エッチング液を用いて予め定めたエッチング条件下で前記ウェーハサンプルのエッチング処理を開始するステップと、エッチング処理開始時の前記エッチング液の液温を測定するステップと、前記エッチング処理中の前記エッチング液の液温を測定するステップと、前記エッチング処理中の前記エッチング液の液温と前記エッチング処理開始時の前記エッチング液の液温との差である反応熱量が所定の反応熱量に到達したときにエッチング処理を終了するステップとを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、エッチング液の温度を制御するための液温制御システムを使用することなく、エッチング開始温度のばらつきに起因する検査用ウェーハサンプルのエッチング量のばらつきを抑制することができる。したがって、その後の検査工程において検査精度を向上させることができる。
【0019】
本発明によるシリコンウェーハの評価方法は、前記エッチング条件下で前記ウェーハサンプルのエッチング処理を行ったときの前記ウェーハサンプルのエッチング量と反応熱量との関係を示す検量線を予め作成するステップと、前記検量線から前記目標エッチング量に対応する前記所定の反応熱量を求めるステップをさらに備えることが好ましい。れにより、所望のエッチング量に対応する所定の反応熱量を正確に求めることができる。
【0020】
本発明において、前記ウェーハサンプルの品質を検査するステップは、選択エッチング法による結晶欠陥測定、FTIR法による酸素濃度測定、四探針法による抵抗率測定、μ-PCD法によるキャリアの再結合ライフタイム測定、SPV法による金属汚染分析の少なくとも一つを含むことが好ましい。本発明によれば、これらの品質検査の信頼性を向上させることができる。
【0021】
本発明において、前記シリコン単結晶インゴットから検査用ウェーハサンプルを切り出すステップは、前記シリコン単結晶インゴットから切り出した円形のウェーハを分割するステップを含むことが好ましい。これにより、検査工程において1枚のウェーハに対して複数の品質項目の検査を同時に実施することができ、検査効率を向上させることができる。
【0022】
本発明によるシリコンウェーハの評価方法、前記検査用ウェーハサンプルの品質の検査結果に基づいて、前記シリコン単結晶インゴットの製品化対象部位の後工程への払い出しを決定するステップをさらに備えることが好ましい。また、前記検査用ウェーハサンプルの品質の検査結果に基づいて、後続のシリコン単結晶インゴットの育成条件を調整するステップをさらに備えることが好ましい。これにより、製品ウェーハの品質及び信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特別な液温制御システムを用いることなく、エッチング量を精密に制御することが可能なシリコンウェーハのエッチング方法及びこれを用いたシリコンウェーハの評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、シリコンウェーハの評価方法を示すフローチャートである。
図2図2は、切断工程S2を説明するための模式図である。
図3図3(a)~(c)は、検査用ウェーハサンプルのエッチング工程S4について説明するための模式図である。
図4図4は、エッチング工程S4の詳細を示すフローチャートである。
図5図5は、ウェーハのエッチング量と反応熱量との関係を示す検量線の一例を示すグラフである。
図6図6は、ウェーハの取り出し温度と平均エッチング量との関係を示すグラフである。
図7図7は、反応熱量(取り出し温度-エッチング開始温度)と平均エッチング量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、シリコンウェーハの評価方法を示すフローチャートである。
【0027】
図1に示すように、シリコンウェーハの評価方法は、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成する結晶育成工程S1と、シリコン単結晶インゴットから品質検査用ウェーハサンプルを切り出す切断工程S2と、ウェーハサンプルを洗浄する洗浄工程S3と、ウェーハサンプルをエッチング処理するエッチング工程S4と、エッチング後のウェーハサンプルに対して各種品質検査を実施する検査工程S5と、ウェーハサンプルの検査結果に基づいてシリコン単結晶の製品化対象部位の品質を判定する判定工程S6とを有している。
【0028】
図2は、切断工程S2を説明するための模式図である。
【0029】
図2に示すように、切断工程S2ではバンドソー等を用いてシリコン単結晶インゴット1の検査対象部位1Bから切り出した円形のウェーハ2をさらに4分割することが好ましい。この場合、洗浄工程S3及びエッチング工程S4は、4分割されたウェーハサンプルWに対して行われる。また円形のウェーハ2を4分割する前にラッピング工程を実施してもよい。ウェーハ2を4分割することにより、1枚のシリコンウェーハに対して複数の検査項目を同時に並行して検査することができる。
【0030】
シリコンウェーハの検査項目は特に限定されないが、選択エッチング法による結晶欠陥測定、FTIR法による酸素濃度測定、四探針法による抵抗率測定、μ-PCD(Microwave Photo Conductivity Decay)法によるキャリアの再結合ライフタイム測定、SPV(Surface Photovoltage)法による金属汚染分析などがある。このうち、キャリアの再結合ライフタイム測定などは、ウェーハの厚みによって測定結果が変動しやすい。またウェーハの厚みは結晶欠陥の検出感度にも影響を与える。そのため、検査用ウェーハであっても厚みを精密に制御することが望ましい。
【0031】
検査結果が合格である場合(S6Y)、シリコン単結晶インゴット1から切り出した製品化対象部位1A(シリコンブロック)は製品加工のための後工程に払い出される(S7)。また検査結果が不合格である場合(S6N)、検査結果の詳細がフィードバックされて後続のシリコン単結晶インゴットの育成条件の調整が行われる(S8)。あるいは、品質検査自体が失敗である場合には、新しいウェーハサンプルを用いた再検査(S2~S6)が行われる。
【0032】
このように、ウェーハサンプルの品質検査では、ウェーハサンプルが予めエッチング処理され、これによりウェーハの検査に必要な鏡面品質が確保される。一方、ウェーハサンプルには製品ウェーハのような高い平坦度が求められないため、両面研磨、片面研磨等の平坦化加工は行われず、エッチング処理されたウェーハサンプルは直ちに検査工程に送られる。一本のシリコン単結晶インゴットから切り出される品質検査用ウェーハサンプルの枚数は多くても数十枚程度であり、製品ウェーハの枚数と比べると非常に少ない。そのため、エッチング設備も小規模である。
【0033】
検査対象となるシリコンウェーハには均一な加工が求められる。しかし、ケミカルエッチングを実施する環境によっては少なからずエッチング量にばらつきが発生する。特に寒冷地ではエッチング量の季節変動が大きく、同一のエッチング処理であってもエッチング開始温度が9~30℃の間で変化することでエッチング量にも40~90μmのばらつきが発生する。
【0034】
液温制御システムを導入すればエッチング処理開始時におけるエッチング液の温度を一定に制御することが可能である。しかし、エッチング液の温度を精密に制御するための大掛かりな液温制御システムの導入は設備コストの大幅な増加につながる。一方、製品ウェーハと異なり、品質検査用ウェーハサンプルには±100μm程度のエッチング量のばらつきが許容されていたため、これまでエッチング量のばらつきはそれほど問題にはなかった。しかしながら、ウェーハサンプルの検査精度のさらなる向上のためにはウェーハサンプルのエッチング量を精密に制御する必要がある。
【0035】
図3(a)~(c)は、検査用ウェーハサンプルのエッチング工程S4について説明するための模式図である。また、図4は、エッチング工程S4の詳細を示すフローチャートである。
【0036】
図3(a)に示すように、まずエッチング処理開始時におけるエッチング槽10中のエッチング液11の温度(開始液温A)を予め測定する(図4のステップS11)。液温制御システムを使用しない場合、エッチング液11の液温には季節要因や連続処理に起因したばらつきがあるからである。エッチング液はフッ酸と硝酸の混酸であることが好ましく、リサイクル液を含まない新液であることが好ましい。液温は例えば熱電対12を用いて継続的に測定することができる。なおエッチング処理開始時におけるエッチング液の温度は、ウェーハを浸漬する直前の温度のみならず、ウェーハを浸漬した直後(エッチング反応が起こる前)の温度であってもよい。
【0037】
次に図3(b)に示すように、エッチング液11中に所定枚数のウェーハサンプルWを浸漬してエッチング処理を開始する(図4のステップS12)。エッチング処理は予め定めたエッチング条件下で実施する必要がある。エッチング処理中は均一にエッチングされるようにウェーハサンプルWを液中で揺動したり、エッチング液11に超音波を印加したりすることが好ましい。このエッチング処理により反応熱が発生し、エッチング液11の液温が徐々に上昇する。
【0038】
エッチング処理中はエッチング液11の温度を継続的に測定して温度上昇を監視する。そしてエッチング液11の液温が取り出し温度B=開始液温A+所定の反応熱量Cに到達するまでエッチング処理を継続する(図4のステップS13、S14N)。例えば、開始液温Aが25℃、所望のエッチング量を確保するために必要な反応熱量Cが35℃である場合、エッチング液11の液温が取り出し温度B=25+35=60℃に到達するまでエッチング処理を続ける。
【0039】
そして図3(c)に示すように、エッチング液11の液温が取り出し温度Bに到達したとき、すなわち反応熱量が目標エッチング量に対応する目標反応熱量Cになったとき、エッチング液11からウェーハサンプルWを引き上げてエッチング処理を終了する(図4ステップS14Y,S15)。
【0040】
ウェーハサンプルWのエッチング量Dに対応する所定の反応熱量Cは、予め作成しておいた検量線から求めることができる。反応熱量Cとエッチング量Dとの関係は、エッチング液の組成、液量、撹拌条件、ウェーハ処理量(処理枚数)等、エッチング条件ごとに異なるので、実際にエッチング処理を行う前に、反応熱量Cとエッチング量Dとの関係をエッチング条件ごとに予め求めておく必要がある。
【0041】
図5は、ウェーハのエッチング量と反応熱量との関係を示す検量線の一例を示すグラフである。
【0042】
図5に示すように、反応熱量はウェーハサンプルのエッチング量に比例し、エッチング量が増えるほど反応熱量も大きくなる。この例では、反応熱量C(℃)とウェーハのエッチング量D(μm)との間に、D=2.25C+50の関係式が成立している。したがって、例えば120μmのエッチング量Dを確保したい場合、反応熱量Cは約31℃となることが分かる。ウェーハの取り出し温度Bは、開始液温Aに反応熱量C=31℃を加えた値であるから、開始液温A=20℃のときのウェーハの取り出し温度B=20+31=51℃となる。
【0043】
検量線から求めた反応熱量に基づいてエッチング量を制御する場合には、検量線作成時のエッチング条件を再現する必要があり、ウェーハの処理量(処理枚数)も検量線作成時の処理量に合わせる必要がある。ただし、反応熱量はウェーハの処理量に比例し、実際のウェーハ処理枚数が検量線作成時よりも多い場合には反応熱量は増加し、少ない場合には減少する。そのため、実際のウェーハ処理枚数が検量線作成時の処理枚数と異なる場合には、処理枚数に応じて反応熱量を補正するか、あるいはウェーハの処理枚数に基づいて補正された検量線を用いることができる。
【0044】
上記のように、エッチング処理開始時の液温には季節変動があり、例えば冬場には開始液温Aが9~25℃となるのに対し、夏場には開始液温Aが20~30℃となる。エッチング量を一定とするために必要な取り出し温度Bは、開始液温Aが15℃の場合には15+35=60℃であるが、開始液温Aが25℃の場合には25+35=70℃となる。もしエッチング時間を一定とする場合には開始液温Aが高いほどエッチング量が多くなるため、エッチング量にばらつきが発生する。また、取り出し温度Bを一定とする場合には開始液温Aが高いほどエッチング量が少なくなるため、エッチング量にばらつきが発生する。しかし、本実施形態のように反応熱量に基づいてエッチング量を制御する場合には、開始液温の季節変動によらずエッチング量を一定に制御することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によるシリコンウェーハのエッチング方法は、シリコンウェーハサンプルをエッチングしたときに発生する反応熱量に基づいてエッチング量を制御するので、季節変動の影響を抑えるための特別な液温制御システムを導入することなく、ウェーハサンプルのエッチング量を精密に制御することができる。これにより、ウェーハサンプルの厚みを精密に制御することができ、厚みのばらつきが検査精度に影響を与える検査項目の測定精度や結晶欠陥の検出感度を高めることができ、シリコンウェーハの評価方法を向上させることができる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0047】
例えば、上記実施形態においては、四半円形状のウェーハサンプルをエッチング対象としているが、分割前の円形のウェーハサンプルをエッチング対象とすることも可能である。あるいは、エッチング後にウェーハサンプルを4分割してもよい。さらにウェーハの分割数も2分割以上であれば何分割であってもよい。
【実施例
【0048】
CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットから切り出した直径300mm、厚さ1.3~1.5mmのシリコンウェーハサンプルを用意した。シリコンウェーハは、抵抗率が10~12Ωcm、酸素濃度が10×1017~13×1017atoms/cm(Old-ASTM)となるように育成されたものである。
【0049】
次に、シリコンウェーハサンプルを1/4に分割し、純水を用いた超音波洗浄を行った。その後、分割されたウェーハサンプル25枚又は13枚をフッ素樹脂製のキャリアに収め、50%の弗化水素水と70%の硝酸水溶液を体積比で1:5の割合で作製した混酸水溶液からなるエッチング液をテスト槽に30L入れ、エッチング液を一定の間隔で攪拌しながらエッチング処理を行った。エッチング開始時には混酸水溶液の温度を測定した。
【0050】
エッチング反応が進むにつれて混酸水溶液の液温は上昇した。エッチングを開始してから混酸水溶液の液温が30℃、45℃、50℃になったときにウェーハサンプルを取り出した。その後、すべて新液状態の同組成比の混酸エッチングを10秒行い、純水リンスを15分間行い、自然乾燥させた。そして、エッチング開始前の混酸水溶液の温度の記録とエッチング前後のウェーハサンプルの重量差からエッチング量を算出した。
【0051】
図6は、ウェーハの取り出し温度と平均エッチング量(ET量)との関係を示すグラフである。
【0052】
図6に示すように、ウェーハの取り出し温度を一定とする場合、ウェーハの処理枚数の違いによるエッチング量のばらつきが見られ、処理枚数に対する規則性もみられなかった。また取り出し温度とエッチング量との相関にもばらつきが見られた。エッチング量をウェーハの取り出し温度で制御したときの取り出し温度とエッチング量との相関を示す決定係数Rは0.93~0.95であった。また反応熱量をx、エッチング量をyで表すとき、25枚処理時の検量線は、y=8.5636x-114.3となり、13枚処理時の検量線は、y=9.9774x-161.97となった。
【0053】
図7は、反応熱量(取り出し温度-エッチング開始温度)と平均エッチング量(ET量)との関係を示すグラフであって、予め測定しておいたエッチング開始温度に基づいて図4のグラフの横軸を反応熱量に換算したものである。
【0054】
図7に示すように、反応熱量はエッチング量との相関が高かった。また処理枚数に対する規則性がみられ、反応熱量が同一であれば処理枚数が少ないほどエッチング量は小さくなることが分かった。エッチング量を反応熱量で制御したときの反応熱量とエッチング量の相関を示す決定係数Rは0.99以上になり、エッチング量の制御精度は向上することを確認した。また反応熱量をx、エッチング量をyで表すとき、25枚処理時の検量線は、y=10.979x+85.515となり、13枚処理時の検量線は、y=10.782x+63.531となった。
【符号の説明】
【0055】
1 シリコン単結晶インゴット
1A 製品化対象部位
1B 検査対象部位
2 シリコンウェーハ
10 エッチング槽
11 エッチング液
12 熱電対
W ウェーハサンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7