(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】熱硬化性マレイミド樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20221206BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221206BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20221206BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20221206BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20221206BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221206BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20221206BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08K3/22
C08K7/18
C08G73/10
H05K3/18 B
H05K1/03 610R
H05K1/03 610N
H01L23/30 D
(21)【出願番号】P 2019137457
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】長田 将一
(72)【発明者】
【氏名】川村 訓史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 健司
(72)【発明者】
【氏名】横田 竜平
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199639(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016530(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/114286(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016489(WO,A1)
【文献】特開2006-124701(JP,A)
【文献】特開2018-024812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 73/00- 73/26
H05K 3/18
H05K 1/03
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する
、下記一般式(2)で表される環状イミド化合物
【化1】
(一般式(2)中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を有する4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン基である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
及び
(B)下記式(1)
AB
2O
4 (1)
(式中、Aは鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム及びマンガンから選ばれる1種もしくは2種以上の金属元素であり、Bは鉄又はクロムであり、ただしA及びBは同時に鉄ではない)
の平均組成式で示され、スピネル構造を有する金属酸化物であ
り、(B)成分10質量部を純水50質量部に浸漬して(B)成分の水分散液を得、該水分散液を125℃±3℃で20時間±1時間静置後の該(B)成分の水分散液中のナトリウムイオン濃度が50ppm以下であり、かつ塩化物イオン濃度が50ppm以下であるレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤
を(A)成分100質量部に対して5~100質量部含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)成分の平均粒径が0.01~5μmである請求項1に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(2)中のAが下記構造で表されるもののいずれかである請求項
1又は2に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項4】
更に離型剤、接着助剤及び硬化促進剤を含む請求項1から
3のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項5】
更に無機充填材を含む請求項1から
4のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物を有する半導体装置。
【請求項7】
前記硬化物の少なくとも一部がメッキ処理されていることを特徴とする請求項
6に記載の半導体装置。
【請求項8】
メッキ処理がレーザー照射箇所に施されることを特徴とする請求項
7に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキが可能な熱硬化性マレイミド樹脂組成物、及びその硬化物を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン等の通信機器に搭載される半導体装置では、高周波帯向けの材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失低減が必須となるために、絶縁層には誘電特性の優れた絶縁材料を使用することが求められている。
【0003】
絶縁材料としては、例えば以下の材料が知られている。特許文献1には、エポキシ樹脂、活性エステル化合物及びトリアジン含有クレゾールノボラック樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物が低誘電正接化に有効であると開示されているが、この材料でもより低誘電正接化が必要である。また、特許文献2及び3には、エポキシ樹脂及び活性エステル化合物を必須成分とする樹脂組成物が、誘電正接が低い硬化物となり、絶縁材料として有用であることが開示されている。
【0004】
一方、特許文献4には、非エポキシ系の材料として長鎖アルキル基を有するビスマレイミド樹脂及び硬化剤を含有する樹脂組成物からなる、樹脂フィルムが低誘電特性に優れることが開示されている。
【0005】
また、通信機器に搭載される半導体装置は装置表面に金属配線によるアンテナを形成することで更なる小型化も試みられている。
現在の配線に用いられる方式としては、銅電解メッキなどが主流であり、レジストの塗布、パターン形成、洗浄、スパッタ、レジストの除去、電解メッキと工程が非常に煩雑である。また、電解メッキには樹脂やチップに対しても耐薬品性が求められている。
【0006】
そうした中、選択的にメッキパターンを構築する方法として、レーザーダイレクトストラクチャリング(以下「LDS」と記載する)という技術が開発されている(特許文献5)。この技術ではLDS添加剤を熱可塑性樹脂に添加し、その硬化物表面又は内部をレーザーにて活性化することで、照射した部分のみにメッキ層を形成できる。この技術では接着層や、レジスト等を用いずに硬化物表面又は内部に金属層の形成が可能という特徴がある(特許文献6、7)。しかし、その一方でLDS添加剤は誘電特性を悪化させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-132507号公報
【文献】特開2015-101626号公報
【文献】特開2017-210527号公報
【文献】再公表2016/114287号公報
【文献】特表2004-534408号公報
【文献】特開2015-108123号公報
【文献】国際公開WO2015/033295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、誘電特性に優れる硬化物を与え、硬化物表面又は内部の、レーザーで照射した部分のみにメッキ層を形成することができる、熱硬化性マレイミド樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究したところ、特定の環状イミド化合物と特定範囲内の添加量のレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を組み合わせることで誘電特性に優れ、硬化物の表面又は内部に金属配線層を簡便に形成できる硬化物を与えることができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の熱硬化性マレイミド樹脂組成物及び該組成物の硬化物を有する半導体装置を提供するものである。
[1]
(A)1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物
及び
(B)下記式(1)
AB
2O
4 (1)
(式中、Aは鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム及びマンガンから選ばれる1種もしくは2種以上の金属元素であり、Bは鉄又はクロムであり、ただしA及びBは同時に鉄ではない)
の平均組成式で示され、スピネル構造を有する金属酸化物であるレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を(A)100質量部に対して5~100質量部
含む熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
[2]
前記(B)成分の平均粒径が0.01~5μmであることを特徴とする[1]に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
[3]
(B)成分が、(B)成分10質量部を純水50質量部に浸漬して(B)成分の水分散液を得、該水分散液を125℃±3℃で20時間±1時間静置後の該(B)成分の水分散液中のナトリウムイオン濃度が50ppm以下であり、かつ塩化物イオン濃度が50ppm以下であるものである、[1]又は[2]に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
[4]
(A)成分の環状イミド化合物が下記一般式(2)で表されるものである[1]から[3]のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(一般式(2)中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を有する4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン基である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
[5]
前記一般式(2)中のAが下記構造で表されるもののいずれかである[4]に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
[6]
更に離型剤、接着助剤及び硬化促進剤を含む[1]から[5]のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
[7]
更に無機充填材を含む[1]から[6]のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
[8]
[1]から[7]のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物を有する半導体装置。
[9]
前記硬化物の少なくとも一部がメッキ処理されていることを特徴とする[8]記載の半導体装置。
[10]
メッキ処理がレーザー照射箇所に施されることを特徴とする[9]に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物の硬化物は誘電特性に優れ、その表面又は内部に無電解メッキ処理により金属層(メッキ層)を選択的かつ容易に形成できる。したがって、本発明の組成物は、誘電特性に優れた絶縁材料でかつ金属配線によるアンテナ等が形成可能な材料として、通信機器に搭載される半導体装置に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(A)環状イミド化合物
本発明に用いられる(A)成分は環状イミド化合物であって、1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を有することを特徴とする。(A)成分の環状イミド化合物が炭素数6以上の直鎖アルキレン基を有することで、これを含む組成物の硬化物は優れた誘電特性を有する。(A)成分の環状イミド化合物が直鎖アルキレン基を有することで、これを含む組成物の硬化物を低弾性化することができ、硬化物による半導体装置へのストレス低減にも効果的である。
【0013】
(A)成分の環状イミド化合物としてはマレイミド化合物が好ましく、中でも下記一般式(2)で表されるマレイミド化合物がより好ましい。
【0014】
【化3】
一般式(2)中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン基である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは夫々独立に炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。
【0015】
一般式(2)のQは直鎖のアルキレン基であり、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上20以下であり、より好ましくは7以上15以下である。
【0016】
また、一般式(2)中のRはアルキル基であり、直鎖のアルキル基でも分岐のアルキル基でもよく、これらの炭素数は6以上であるが、好ましくは6以上12以下である。
【0017】
一般式(2)中のAは芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基を示し、特に、下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化4】
(なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0018】
また、一般式(2)中のBは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6から18のアルキレン基であり、該アルキレン基の炭素数は好ましくは炭素数8以上15以下である。一般式(2)中のBは下記構造式で示される脂肪族環を有するアルキレン基のいずれかであることが好ましい。
【0019】
【化5】
(なお、上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(2)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0020】
一般式(2)中のnは1~10の数であり、好ましくは2~7の数である。一般式(2)中のmは0~10の数であり、好ましくは0~7の数である。
【0021】
(A)成分の環状イミド化合物の重量平均分子量(Mw)は、室温(25℃)での性状を含めて特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によるポリスチレン標準で換算した重量平均分子量が70,000以下であることが好ましく、より好ましくは1,000以上50,000以下である。該分子量が70,000以下であれば、得られる組成物は粘度が高くなりすぎて流動性が低下するおそれがなく、ラミネート成形などの成形性が良好となる。
【0022】
なお、本発明中で言及する重量平均分子量(Mw)とは、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指すこととする。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.35mL/min
検出器:RI
カラム:TSK-GEL Hタイプ(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL
【0023】
(A)成分の環状イミド化合物としては、相当する酸無水物とジアミンとの重合反応により合成してもよいし、BMI-1500、BMI-3000、BMI-5000(以上、Designer Molecules Inc.製)等の市販品を用いてもよい。また、環状イミド化合物は1種単独で使用しても2種類以上を併用しても構わない。
【0024】
(A)成分は、本発明の組成物中、5~95質量%含有することが好ましく、10~92質量%含有することがより好ましい。
【0025】
(B)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤(LDS添加剤)
本発明に用いられる(B)成分のLDS添加剤は、下記式(1)
AB2O4 (1)
(式中、Aは鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム、及びマンガンから選ばれる1種もしくは2種以上の金属元素であり、Bは鉄又はクロムであり、ただしA、及びBは同時に鉄ではない)
の平均組成式で示され、スピネル構造を有する金属酸化物である。
具体的には、FeCr2O4、CuCr2O4、NiCr2O4、MnCr2O4、MgCr2O4、ZnCr2O4、CoCr2O4、CuFe2O4、NiFe2O4、MnFe2O4、MgFe2O4、ZnFe2O4、CoFe2O4などが挙げられる。
これらLDS添加剤である金属酸化物の製造方法は限定されず、金属酸化物混合粉の焼成、金属粉混合物の酸化、化学合成等で製造されたものを使用すればよい。
【0026】
LDS添加剤の形状は、微粒子であることが好ましく、その平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計で測定した体積粒度分布測定値において、0.01~5μmのものが好ましく、特に0.05~3.0μmの範囲に入るものが好ましい。LDS添加剤の平均粒径が0.01~5μmであれば、LDS添加剤が樹脂全体に均一に分布し、パッケージ表面にレーザーを照射した際のメッキ触媒となる金属種の発生が促され、メッキ性が向上する。
【0027】
LDS添加剤の配合量は前記(A)成分100質量部に対して5~100質量部が好ましく、10~80質量部がより好ましい。5質量部より少ないと、レーザーを照射した際のメッキ触媒となる金属種の発生が不十分となり、メッキ性が低下する。100質量部より多くとなると、誘電特性が悪化する。メッキ性と誘電特性を両立させるためには、組成物全体中のLDS添加剤の割合としては5質量%~9質量%が望ましい。
また、組成物全体中のLDS添加剤の配合割合が9質量%を超えると、粒径の小さな金属酸化物粒子の割合が多くなり、組成物の流動性及び成型性の低下の原因となる場合がある。
【0028】
また、LDS添加剤10質量部を125℃/20時間の条件下で純水50質量部に浸漬した場合、浸漬後の水分散液中の無機イオン濃度が一定濃度以下であるLDS添加剤が好ましく、特にはナトリウムイオン濃度が50ppm以下であり、かつ塩化物イオン濃度が50ppm以下であることが好ましい。ナトリウムイオン、及び塩化物イオンの濃度が50ppmより多くなると、硬化物の高温高湿環境での電気特性が低下し、半導体装置の金属部分の腐食の原因となるおそれがある。
なお、上記浸漬条件において、抽出温度は±3℃、抽出時間は±1時間の誤差は許容されるものとする。また、ナトリウムイオン濃度は原子吸光光度計により測定した値であり、塩化物イオン濃度はイオンクロマトグラフィにより測定した値である。
なお、市販のLDS添加剤のイオン濃度が前記上限値を超える場合は、前記市販のLDS添加剤を繰り返し水洗等により好ましいイオン濃度となるまで精製し、乾燥してから、用いればよい。
【0029】
・その他の添加剤
本発明の樹脂組成物には、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、無機充填材、接着助剤、離型剤、硬化促進剤、難燃剤、イオントラップ剤、可撓性付与剤、エポキシ樹脂及び溶剤等のその他の添加剤を含有してもよい。
【0030】
無機充填材は溶融シリカ、結晶シリカ、クリストバライト、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化チタン、ガラス繊維、アルミナ繊維、酸化亜鉛、タルク、炭化カルシウム等の材料(但し、上述した(B)成分を除く)を使用することができる。これらを2種以上併用してもよい。無機充填材のトップカット径は湿式篩法において5~25μmが好ましく、より好ましくは10~20μmであり、平均粒径はレーザー回折式粒度分布計で測定した体積粒度分布測定値において1~10μmが好ましく、より好ましくは3~7μmである。
【0031】
ここでいうトップカット径とは、製造された無機充填材が湿式篩法による分級で用いられた篩の目開きを表し、該目開きよりも大きい粒子の割合がレーザー回折法により測定した体積粒度分布測定値において2体積%以下となる値をいう。トップカット径が25μm以下であればレーザー照射した際に無機充填材表面が露出した部分であってもメッキされ、配線層やビア作製の障害とならないため好ましい。
【0032】
無機充填材の添加量としては特に制限されないが、用途に応じて(A)成分100質量部に対し、1~1,000質量部添加してもよい。
【0033】
接着助剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;γ-メルカプトシラン、γ-エピスルフィドキシプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
接着助剤の添加量は特に制限されないが、(A)成分100質量部に対し、0.2~5質量部、好ましくは0.3~2質量部である。
【0034】
離型剤としては、カルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物等のワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
離型剤の添加量は特に制限されないが、(A)成分100質量部に対し、0.1~5質量部、好ましくは0.2~2質量部である。
【0035】
硬化促進剤としては、ジクミルパーオキシド、ジイソブチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
硬化促進剤の添加量は特に制限されないが、(A)成分100質量部に対し、0.2~5質量部、好ましくは0.5~3質量部である。
【0036】
難燃剤としては、ハロゲン化エポキシ樹脂、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン等が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、環境負荷や流動性確保の観点からホスファゼン化合物、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、酸化モリブデンが好適に用いられる。
【0037】
イオントラップ剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ビスマス化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
可撓性付与剤としては、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂等のシリコーン化合物や、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
また誘電特性を損なわない範囲で、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの二量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0039】
また本発明の組成物は溶媒で希釈して用いてもよい。(A)成分の溶解特性から有機溶剤を単独あるいは2種以上混合して用いることができる。有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールエーテル類;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。
【0040】
・組成物の製造方法
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は例えば次のようにして製造される。すなわち、環状イミド化合物、LDS添加剤、及び必要に応じてその他の成分を、所定の組成比で配合し、ミキサー等によって十分均一に混合、撹拌、溶解、分散及び/又は溶融混練させる方法が挙げられる。各成分は、同時に又は別々に配合してもよく、必要に応じて加熱しながら混合等を行なってもよい。
【0041】
混合等を行なう装置は、特に限定されないが、具体的には、撹拌及び加熱装置を備えたライカイ機、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー及びマスコロイダー等が挙げられ、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、プリモールド基板、トランジスタ型、モジュール型、DIP型、SO型、フラットパック型、QFN型、ボールグリッドアレイ型等の半導体装置の封止樹脂、チップ オン ウエハー(COW)タイプの3次元構造デバイスの封止樹脂、ファンアウト構造の半導体デバイスの封止樹脂として有用である。本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物による半導体装置の封止方法は特に制限されるものでなく、従来の成形法、例えばトランスファー成形、インジェクション成形、コンプレッション成形、ラミネート成形、注型法等を利用すればよい。特に好ましいのはコンプレッション成形である。
【0043】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の成形(硬化)条件は特に規制されるものでないが、120~250℃で90秒~4時間が好ましい。さらに、ポストキュアを170~250℃で1~16時間行うことが好ましい。
【0044】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物は、レーザーダイレクトストラクチャリングによる無電解メッキが可能であり、硬化物の表面又は内部に容易に金属層を設けることができる。また、前記樹脂組成物の硬化物は低誘電特性を有することから、アンテナ回路や3次元配線構造を必要とする通信用デバイス等に好適に使用できる。
【0045】
・半導体装置
本発明の半導体装置は、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物を有するものであり、前記硬化物の少なくとも一部がメッキ処理されていることを特徴とする。メッキ処理を施す方法としては、特に限られないが、硬化物の表面又は内部に波長248nm、308nm、355nm、532nm、1064nm又は10,600nmから選ばれるレーザーを、所望の配線、孔径、深さになるように照射し、レーザー照射後、Cu、Ni、Agなど目的とする金属成分を含むメッキ液に浸漬する方法が挙げられる。レーザーの出力は0.01~15W、レーザーの走査速度は1~1,000mm/sの範囲が好ましい。メッキ液は目的とする金属成分の他、錯化剤、pH調整剤、電導度塩、還元剤などを含む溶液で、一般的に市販しているものを用いることができる。メッキ液の温度は50~80℃、浸漬時間は20~120分である。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例に使用した材料を以下に示す。
【0047】
(A)環状イミド化合物
(A-1):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物-1(BMI-1500、Designer Molecules Inc.製、重量平均分子量4,400)
【化6】
(A-2):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物-2(BMI-3000、Designer Molecules Inc.製、重量平均分子量16,000)
【化7】
(A-3):下記式で示される直鎖アルキレン基含有マレイミド化合物-3(BMI-5000、Designer Molecules Inc.製、重量平均分子量30,000)
【化8】
【0048】
(B)LDS添加剤
・LDS添加剤1(CuCr2O4):シェファードカラ―ジャパンインク社製「EX1816」(ナトリウムイオン濃度:16ppm、塩化物イオン濃度:14ppm、平均粒径0.8μm)
なお、上記LDS添加剤1のナトリウムイオン濃度及び塩化物イオン濃度は、下記の方法で測定した。LDS添加剤10質量部を純水50質量部に浸漬して水分散液を得、該水分散液を125℃±3℃で20時間±1時間静置した。所定時間後、該水分散液をろ紙で濾過し、ろ液を原子吸光光度計で測定し、ナトリウムイオン濃度を求めた。また、塩化物イオン濃度はイオンクロマトグラフィで測定した。
【0049】
[無機充填材]
・シリカ粒子:龍森社製「MUF-4」(平均粒径4μm、トップカット径10μm)
[離型剤]
・カルナバワックス:東亜化成社製「TOWAX-131」
[接着助剤]
・γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業社製「KBM-403」
[エポキシ樹脂]
・ビフェニル型エポキシ樹脂:三菱化学社製「YX-4000」
[フェノール樹脂硬化剤]
・アラルキル型フェノール樹脂:明和化成社製「MEHC-7800SS」
[硬化促進剤]
・ジクミルパーオキシド(DCPO):日油社製「パークミルD」
・N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロへキシル]-N,N-ジメチルウレア:サンアプロ社製「U-cat 3513N」
【0050】
実施例1~6、比較例1~3
上記成分を表1に記載の組成(質量部)に従い配合し、各成分を溶融混合して組成物を得た。得られた各組成物を175℃で300秒間の条件でプレス成型を行い、250×74×0.2mmの硬化物試験片を得た。以下に示す方法に従い評価した。結果は表1に示す。
【0051】
[メッキ性評価]
50×50mmに切断した試験片表面に、YVO4レーザーマーカー(KEYENCE社製、1064nm)でマーキングした。この試験片を、下記の配合で調製されたメッキ液に65℃で30分間浸漬し、メッキ性を確認した。
【0052】
[メッキ液]
MID Copper 100XB 150mL
MID Copper 100AC 18mL
MID Copper 100C 15mL
MID Copper 100CS 15mL
MID Copper 100G 2mL
MID Copper 100S 4mL
(以上マクダーミッド・PS・ジャパン社製)
35%ホルマリン 5.5mL
純水 792.5mL
【0053】
メッキ性は、全くメッキされていなければ×、部分的にメッキされ、メッキ部に途切れや飛びがある場合は△、連続して均一にメッキされていれば○とした。
【0054】
[比誘電率、誘電正接]
ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、30×40mmに切断した試験片の周波数10GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0055】
実施例7
リードフレームサイズ250×74×0.2mmの24pin QFNを、実施例5の組成物を用いて、175℃で180秒間の条件で、50μm厚のポリイミドフィルムをライナーとして用い、トランスファー成形した。成形後、裏面のポリイミドフィルムを剥離し、実施例5の組成物の硬化物を有する成形物を得た。
レーザー基板切断機MicroLine5820P(LPKF製)を用いて、前記成形物の硬化物表面に、幅20μm、長さ100μmの線10本、及び200mmφの貫通孔10個をそれぞれ形成した。
この成形物を前記メッキ液に65℃で30分浸漬し、線及び貫通孔にメッキされているプリモールド基板を作製した。
作製したプリモールド基板は、前記線及び貫通孔がそれぞれメッキされた配線部及び貫通ビアの導通が確認され、メッキ性が良好であった。
【0056】
実施例8
実施例6記載の組成物100質量部に対して、トルエンを67質量部加え、混合し、ワニスを調製した。厚さ38μmのPETフィルム上に、乾燥後の厚さが50μmになるようにローラーコーターにてワニスを塗布した後、150℃で1時間乾燥させ、未硬化樹脂フィルムを得た。
このフィルムを8インチウエハー上にラミネート成形し、180℃で2時間硬化させた。上記ラミネート成形した8インチウエハーは、上記と同様の方法と基準でメッキ性評価を行ったところ、配線部の導通が確認され、メッキ性も良好であった。
【0057】
【0058】
以上の結果から、本発明の組成物は硬化物表面及び内部に無電解メッキ処理により容易に金属層を形成できることから、電磁波シールド性を必要とする通信デバイスや、アンテナを備える半導体装置、配線層を形成する必要がある半導体装置に好適である。