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特許7188329重金属等不溶化材及びその製造方法、重金属等不溶化材の品質管理方法並びに重金属等不溶化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】重金属等不溶化材及びその製造方法、重金属等不溶化材の品質管理方法並びに重金属等不溶化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20221206BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20221206BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20221206BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B09C1/08
C09K17/06 P
C09K3/00 S
C01F11/18 Z ZAB
B01J20/04 B
B01J20/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019163561
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021041316
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】板谷 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
(72)【発明者】
【氏名】林 慎太郎
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190227(JP,A)
【文献】特開2016-193802(JP,A)
【文献】特開2006-124561(JP,A)
【文献】特開2001-079344(JP,A)
【文献】特開2019-056081(JP,A)
【文献】特開2008-049206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
B01J 20/00 - 20/28
B01J 20/30 - 20/34
C01F 1/00 - 17/38
C09K 17/00 - 17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO含有量が0.1~0.7質量%であってその形態がトリジマイト構造であるとともに、CaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)である焼成ドロマイトと、還元剤とを含むことを特徴とする、重金属等不溶化材。
【請求項2】
請求項1記載の重金属等不溶化材において、還元剤は鉄化合物で、焼成ドロマイトと還元剤の質量比が9:1~1:9であることを特徴とする、重金属等不溶化材。
【請求項3】
焼成ドロマイト中のCaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)でSiO含有量が0.1~0.7質量%となるように、原料を混合して1000~1200℃で焼成することにより焼成ドロマイトを調製し、得られた焼成ドロマイトと還元剤とを配合することを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の重金属等不溶化材の製造方法において、還元剤は鉄化合物で、焼成ドロマイトと還元剤とを質量比9:1~1:9の割合で配合することを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法。
【請求項5】
焼成ドロマイトは、SiO含有量が0.1~0.7質量%であってその形態がトリジマイト構造であるとともに、CaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)であるように管理され、当該焼成ドロマイトと還元剤とが配合されるように管理されることを特徴とする、重金属等不溶化材の品質管理方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の重金属等不溶化材を、重金属等を含む土壌と混合して用いることを特徴とする、重金属等不溶化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属等不溶化材及びその製造方法、重金属等不溶化材の品質管理方法並びに重金属等不溶化方法に関し、特に、重金属等不溶化材からフッ素が環境基準(平成3年環境庁告示 第46号)以上に溶出せず、土壌中の重金属等の不溶化性能に優れる、重金属等不溶化材及びその製造方法、重金属等不溶化材の品質管理方法並びに重金属等不溶化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国内では,自然由来の重金属等を含む土壌や岩石が広く分布しており、例えば、トンネル工事の施工に伴い搬出される掘削ずりから、重金属等が溶出することが問題となっている。
また近年、日本のみならず海外においても黄鉄鉱(FeS)を含有する岩石や土壌から、ヒ素やセレン等が溶出する課題が発生しており、かかる課題に対する適切な処理方法が所望されており、重金属等不溶化処理は、その有効な処理方法の一つとして期待されている。
【0003】
重金属等不溶化材としては、特許第4109017号(特許文献1)に、広く用いられている材料として酸化マグネシウム単体もしくは同成分を主成分とする材料が開示されている。
【0004】
不溶化材として広く用いられている酸化マグネシウム単体もしくは同成分を主成分とする材料は、ヒ素に対して優れた不溶化性能を示すが、セレン、特に6価セレンに対しては、不溶化性能が著しく低下するという問題点を有していることが、非特許文献1(小嶋芳行,大島史也,松山祐介,守屋政彦:酸化マグネシウムによる重金属イオンの不溶化機構の解明、 Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 19, 15-22(2012))に記載されている。
これは、セレンは、環境中において主に4価の亜セレン酸イオンと、6価のセレン酸イオンの2つの化学形態として存在しているが、4価の亜セレン酸イオンは、平面的な構造であり、種々の化合物と反応が進行し易い構造となっている一方、6価のセレン酸イオンは安定な正四面体構造となっており、反応性が低いことによるものと考えられる。
このようにセレン、特に6価のセレンは安定な構造を有していることから、土壌やずりなど岩石から溶出するセレン、特に6価セレンの処理が困難となっている現状がある。
【0005】
かかる点に鑑み、土壌やずりなど岩石から溶出する6価セレンに対し、不溶化効果を有する材料としては、特開2013-116952号公報(特許文献2)に、α-鉄・酸化鉄複合化物粉末と鉄酸化物粉末との混合物が開示されている。
【0006】
また、土壌やずりなどの岩石からは、セレン等だけでなくフッ素も溶出する場合があることが、非特許文献2(地方独立行政法人 北海道立総合研究所 環境・地質研究本部 地質研究所 H23-25 重点研究 報告書「北海道内における自然由来有害物質の分布状況」)に記載されている。
かかるフッ素の処理方法としては、一般的に、消石灰等カルシウム塩を用いて難溶性のフッ化カルシウムを生成させ、溶出量を低減させる方法や硫酸アルミニウム等アルミニウム塩を用いて水酸化アルミニウムを生成させ、共沈させる手法が一般的であることが非特許文献3(真島敏行,高月絋:CaF晶析法による洗煙水中のフッ素処理.水処理技術.28.433-443(1987))に記載されている。
【0007】
また、非特許文献4(HAMAMOTO Shinya,KISHIMOTO Naoyuki:Characteristics of fluoride adsorption onto aluminium(III) and iron(III) hydroxide flocs. Separation Science and Technology, Vol.52 No.1-5 Page.42-50 (2017))においては、水酸化アルミニウム(III)と水酸化鉄(III)によるフッ素吸着性能の比較が記載されており、水酸化鉄(III)のフッ素吸着性能は水酸化アルミニウム(III)と比較し劣ることが示されている。
【0008】
上記特許文献2に開示された材料は、鉄を主成分としているため、フッ素等のハロゲンの不溶化効果は低く、土壌やずりなど岩石から溶出するセレンのみならずフッ素等も対象とした重金属等不溶化材としては有効ではなく、土壌やずり等から溶出するセレンやフッ素等を有効に不溶化できる重金属等不溶化材が期待されている。
この点に関し、本出願人は、特願2018-066533号による新規な重金属等不溶化材を提案した。
【0009】
また、重金属等不溶化材に焼成ドロマイトを用いた場合に、焼成ドロマイト自体から環境基準以上のフッ素が溶出してしまう問題があることを本発明者は見出し、フッ素が溶出しない焼成ドロマイトを用いた重金属等不溶化材の開発を実施した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4109017号公報
【文献】特開2013-116952号公報
【文献】特願2018-066533号
【非特許文献】
【0011】
【文献】小嶋芳行,大島史也,松山祐介,守屋政彦:酸化マグネシウムによる重金属イオンの不溶化機構の解明、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 19, 15-22(2012)
【文献】地方独立行政法人 北海道立総合研究所 環境・地質研究本部 地質研究所 H23-25 重点研究 報告書「北海道内における自然由来有害物質の分布状況」
【文献】真島敏行,高月絋:CaF2晶析法による洗煙水中のフッ素処理.水処理技術.28.433-443(1987)
【文献】HAMAMOTO Shinya,KISHIMOTO Naoyuki:Characteristics of fluoride adsorption onto aluminium(III) and iron(III) hydroxide flocs. Separation Science and Technology, Vol.52 No.1-5 Page.42-50 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、環境基準(0.8mg/L:平成3年環境庁告示 第46号、以下、「環境基準」と称す)以上のフッ素が溶出しない焼成ドロマイトを含有することで重金属等不溶化材自体からのフッ素溶出量を低減するとともに、セレン等の土壌中等に含まれる重金属等の不溶化性能に優れる重金属等不溶化材を提供することである。
また、本発明の他の目的は、環境基準以上のフッ素を溶出することなく、特定量の炭酸カルシウム量と酸化カルシウム量を含む焼成ドロマイトと、還元剤とを含有させることで、セレンやフッ素等の重金属等不溶化性能に優れる簡易な重金属等不溶化材の製造方法を提供することである。
【0013】
更に、本発明の他の目的は、上記重金属等不溶化材に用いる焼成ドロマイトから環境基準以上のフッ素が溶出せず、セレンやフッ素等の重金属等不溶化性能に優れる重金属等不溶化材の品質管理方法を提供することである。
また更に本発明の他の目的は、上記重金属等不溶化材を用いて、汚染土壌の重金属等を不溶化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、重金属等不溶化材を構成する軽焼ドロマイトに不純物として含まれるSiOの形態と上記重金属等不溶化材からのフッ素溶出量とに密接な関係があり、更に重金属等不溶化性能とドロマイト焼成物中のCaO及びCaCOの含有量を特定すること等により本発明に到ったものであり、以下の技術的特徴を有するものである。
【0015】
請求項1記載の重金属等不溶化材は、SiO含有量が0.1~0.7質量%であってその形態がトリジマイト構造であるとともに、CaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)である焼成ドロマイトと、還元剤とを含むことを特徴とする、重金属等不溶化材である。
【0016】
請求項2記載の重金属等不溶化材は、上記請求項1記載の重金属等不溶化材において、還元剤は鉄化合物で、焼成ドロマイトと還元剤の質量比が9:1~1:9であることを特徴とする、重金属等不溶化材である。
【0017】
請求項3記載の重金属等不溶化材の製造方法は、焼成ドロマイト中のCaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)でSiO含有量が0.1~0.7質量%となるように、原料を混合して1000~1200℃で焼成することにより焼成ドロマイトを調製し、得られた焼成ドロマイトと還元剤とを配合することを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法である。
【0018】
請求項4記載の重金属等不溶化材の製造方法は、上記請求項3記載の重金属等不溶化材の製造方法において、還元剤は鉄化合物で、焼成ドロマイトと還元剤とを質量比9:1~1:9の割合で配合することを特徴とする、重金属等不溶化材の製造方法である。
【0019】
請求項5記載の重金属等不溶化材の品質管理方法は、焼成ドロマイトは、SiO含有量が0.1~0.7質量%であってその形態がトリジマイト構造であるとともに、CaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が、2.8≦x≦78.5(質量%)であるように管理され、当該焼成ドロマイトと還元剤とが配合されるように管理することを特徴とする、重金属等不溶化材の品質管理方法である。
【0020】
請求項6記載の重金属等不溶化方法は、請求項1又は2記載の重金属等不溶化材を、重金属等を含む土壌と混合して用いることを特徴とする、重金属等不溶化方法である。
【0021】
なお、本明細書において、「重金属等」とは、土壌汚染対策法で定める第二種特定有害物質を意味し、セレンやヒ素等の半金属や、フッ素等のハロゲンも、「重金属等」として表わされるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の重金属等不溶化材は、原料となるドロマイト鉱石にSiOが含まれていれば産地による組成の相違に依存することなく、焼成ドロマイト中のCaO及びCaCO及び不純物であるSiOの含有量を特定することで、また、SiOの構造を特定することで、環境基準以上のフッ素が溶出することなく、優れた重金属等不溶化性能を有することが可能となる。
本発明の重金属等不溶化材は、トンネル掘削ずりや石炭灰から溶出する重金属等を効果的に不溶化することが可能となる。
【0023】
また、本発明の重金属等不溶化材の製造方法は、上記本発明の優れた重金属等不溶化性能を有する重金属等不溶化材を、特別な装置等を必要とすることなく、適正に調製することができる。
【0024】
また、本発明の重金属等不溶化材の品質管理方法により、重金属等不溶化材から環境基準以上のフッ素が溶出されることなく、土壌に含まれる重金属等を有効に不溶化するための重金属等不溶化材の品質を容易に適切に管理することが可能となる。
また、本発明の重金属等不溶化材を汚染土壌に適用することで、重金属等不溶化材からフッ素を溶出させることなく、土壌から有効に重金属等を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】栃木産原料ドロマイト、複数の焼成ドロマイトのXRDチャート(トリジマイト検出有無)を示す一例の図である。
図1B】栃木産原料ドロマイト、複数の焼成ドロマイトのXRDチャート(クウォーツ検出有無)を示す一例の図である。
図2】複数の焼成ドロマイト中のトリジマイト含有量と、当該焼成ドロマイトを用いて調製した複数の重金属等不溶化材から溶出するフッ素溶出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を以下の実施態様により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の重金属等不溶化材は、SiO含有量が0.1~0.7質量%であってその形態がトリジマイト構造であるとともに、CaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)である焼成ドロマイトと、還元剤とを含む、重金属等不溶化材である。
また、好適には、還元剤は鉄化合物であり、焼成ドロマイトと還元剤の質量比は9:1~1:9であることが望ましい。
【0027】
上記構成、特にSiOの含有量を特定の割合とし、その構造をトリジマイト構造のものとすることで、本発明の重金属等不溶化材中の焼成ドロマイトから環境基準以上のフッ素が溶出することなく、また重金属等不溶化材中の焼成ドロマイト中のCaCO及びCaOの含有量と、土壌や岩石ずりから溶出する重金属等不溶化性能とが相関関係を有することを見出したことにより、焼成ドロマイト中に含まれるCaCO及びCaOを定量して、上記範囲内の含有量とすることで、原料となるドロマイト鉱石にSiOが含まれていれば、産地による組成の相違に関係なく、重金属等不溶化性能に優れる重金属等不溶化材を得ることが可能となる。
更に、特定の焼成ドロマイトと還元剤とを含むことにより、原料となるドロマイト鉱石(SiOは含まれる)の産地による組成の相違などに依存することなく、より優れた重金属等不溶化性能を有することが可能となる。
【0028】
本発明の重金属等不溶化材が不溶化することができる重金属等としては、重金属、半金属、ハロゲンが含まれ、重金属としては、例えば、クロム、鉛、ヒ素、カドミウム等の1種若しくは2種以上のものが例示でき、半金属としてはヒ素、セレン、ホウ素などを例示でき、ハロゲンとしては塩素、フッ素等を例示することができるが、これらの重金属、半金属やハロゲンに限定されるものではなく、上記したように、土壌汚染対策法で定める第二種特定有害物質を意味するものである。
【0029】
本発明の重金属等不溶化材に用いられる焼成ドロマイトを調製する際に用いられる原料ドロマイトとしては、原料ドロマイトにSiOが含まれれば任意の原料ドロマイトを用いることができ、産地や原料ドロマイトの組成は問わない。
ドロマイトは、石灰石CaCOとマグネサイトMgCOのモル比が1:1となる複塩構造をとっており、CO 2-基を挟んでCa2+イオンとMg2+イオンが交互に層を成しており、一般に、炭酸マグネシウムの割合が10~45質量%のものをいう。
ドロマイトは、国内に多量に存在していることから、ドロマイトを使用した重金属等不溶化材は、コストや環境負荷の点からも有利である。
【0030】
ドロマイトは焼成することで、
CaMg(CO→CaCO+MgO+CO・・・(1)
CaCO+MgO+CO→CaO+MgO+2CO・・・(2)
で表される分解反応を示す。
【0031】
本発明においては、原料ドロマイトには不純物であるSiOが含まれ、焼成ドロマイト中に含有されるSiOの含有量が粉末X線回折によるリートベルト法により解析して、0.1≦x≦0.7(質量%)、好ましくは0.5≦x≦0.7(質量%)とする。
SiOの含有量が0.7質量%より多い場合では、重金属等不溶化性能が低下してしまい、0.1質量%より少ないと、焼成ドロマイト中に有効量のトリジマイトが形成されず、環境基準を満たすフッ素の溶出低減を図ることが難しくなる。
【0032】
また、SiOが上記含有量であってもクウォーツ構造である場合には、環境基準以上のフッ素が溶出してしまうため、焼成ドロマイトに含有されるSiOはトリジマイト構造を有していなければならない。かかるトリジマイト構造を有することで、焼成ドロマイトから環境基準以上のフッ素の溶出を防止することが可能となる。
特に、焼成ドロマイト中のSiOの形態がトリジマイトであることにより、還元剤、特に硫酸第一鉄一水和物等の鉄化合物と混合した際に、フッ素溶出リスクを有効に更に低減することが可能となる。
【0033】
本発明においては、原料ドロマイトを焼成することで上記式の反応が促進され、焼成ドロマイト中に含有されるCaCOの含有量が粉末X線回折によるリートベルト法により解析して、0≦x≦76.3(質量%)、好ましくは0≦x≦61.3とする。
CaCOの含有量が76.3質量%より多い場合では、焼成が不十分であり、重金属等の不溶化が十分ではなくなる。
【0034】
本発明は、上記したトリジマイト構造のSiOを有する焼成ドロマイトと硫酸第一鉄一水和物が共存した際のフッ素溶出量と密接に関係していることより、粉末X線回折を用い、焼成ドロマイトに含有するSiOの形態等を確認することで、フッ素の溶出リスクのない重金属等不溶化性能に優れる重金属等不溶化材を得ることが可能となる。
【0035】
更に、本発明においては、上記式に示すように、原料ドロマイトの焼成を進めることで焼成反応が更に促進され、焼成ドロマイト中に含有されるCaOの含有量が、粉末X線回折によるリートベルト法により解析して、2.8≦y≦78.5(質量%)、好ましくは17.1≦x≦78.5(質量%)である。
CaOの含有量が、2.8質量%より小さい場合では重金属等不溶化性能が低下してしまう。
このように、CaCOの含有量とCaOの含有量が上記範囲内であると、焼成ドロマイトが優れた重金属等不溶化性能を有することができる。
【0036】
焼成ドロマイト中に含まれるSiO、CaCO及びCaOの含有量は、公知の方法により測定することができれば特に限定されず、一般に熱分解する鉱物の焼成度合いは、例えば、TG-DSC(熱重量測定/示差走査熱量測定)や粉末X線回折法により測定することが可能である。
特に、粉末X線回析によるリートベルト法は、TG-DSC法と異なり、迅速かつ正確に焼成ドロマイト中に含まれるSiO、CaCO、MgO、CaOの量を解析することができるため、重金属等不溶化材として用いる焼成ドロマイト中のSiO、CaCO及びCaOの含有量を測定する際に好適に用いることができ、特に品質管理に有効である。
【0037】
本発明の重金属等不溶化材は、上記焼成ドロマイトに加えて、還元剤を含む。
かかる還元剤としては、例えば、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等のチオ硫酸塩;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化カルシウム等の硫化物;水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化カルシウム等の水硫化物;多硫化ナトリウム、多硫化カリウム、多硫化カルシウム等の多硫化物;チオ酸塩、二酸化硫黄、硫黄等の硫黄化合物;硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄等の第一鉄塩や3価チタン塩等の金属塩;アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸、アスコルビン酸等の有機化合物;高炉スラグ粉末、泥炭、亜炭、ヨウ素、鉄粉等を例示することができる。特に、経済性、安全性の観点から、好ましくは鉄化合物であり、更に好ましくは第一鉄化合物が望ましい。第一鉄化合物としては、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄等が該当し、これらを単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の重金属等不溶化材にかかる還元剤を更に含有することにより、重金属等不溶化性能をより向上させることができる。
【0038】
その配合量としては、残留CaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)等である上記焼成ドロマイトに対して、還元剤を、質量比で9:1~1:9、好ましくは9:1~5:5で配合することが望ましい。より好ましくは9:1~7:3である。
かかる範囲で配合することにより、重金属等の不溶化性能を、より有効に発現することができることとなる。
【0039】
また、本発明の重金属等不溶化材の製造方法は、例えば粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析した焼成ドロマイト中のCaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)でSiO含有量が0.1~0.7質量%となるように、原料を混合して1000~1200℃で焼成することにより焼成ドロマイトを調製し、得られた焼成ドロマイトと還元剤とを配合する、重金属等不溶化材の製造方法である。
また、好適には、還元剤は鉄化合物であり、焼成ドロマイトと還元剤とは質量比9:1~1:9の割合で配合される。
【0040】
本発明の重金属等不溶化材に含まれる焼成ドロマイトを調製するにあたり、原料ドロマイトを焼成する温度は、含有されるSiOがトリジマイト構造を有するように、1000~1200℃、好ましくは1000~1100℃で焼成し、その焼成時間は、得られる焼成ドロマイト中のCaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が、2.8≦x≦78.5(質量%)となるように焼成すれば焼成時間も制限されるものではない。
本発明の上記効果を発現するためには、得られる重金属等不溶化材にトリジマイト構造のSiOが含有される必要があるため、原料ドロマイトとしては、SiOを含む原料ドロマイトが用いられる。
【0041】
本発明の重金属等不溶化材に含有される焼成ドロマイトは、例えば粉末X線回折によるリートベルト法を用いて測定したSiO含有量が0.1~0.7質量%であってその形態がトリジマイト構造であるとともに、CaCOの含有量が0≦x≦76.3(質量%)でCaOの含有量が2.8≦x≦78.5(質量%)であるように管理され、更に当該焼成ドロマイトと還元剤とを配合するように管理されることで、本発明の重金属等不溶化材の品質を、フッ素が環境基準以上の量で溶出せず、重金属等の不溶化性能が優れるように保持できる、優れた品質管理を容易とすることができる。
【0042】
例えば、粉末X線回折を用い、焼成ドロマイトに含有するSiOの形態と含有量、CaCOの含有量やCaOの含有量を確認することにより、硫酸第一鉄一水和物と混合した際にフッ素の溶出リスクがなく、優れた重金属等不溶化性能を有することの品質管理を容易とすることができる。
【0043】
上記本発明のドロマイト系重金属等不溶化材を、重金属等が溶出する土壌や岩石ずりと接触させることにより、土壌や岩石ずりから溶出する重金属等を不溶化処理することができる。
その接触方法としては、任意の公知の方法を適用することができ、例えば、本発明の重金属等不溶化材と土壌及び岩石ずりとの混合や、排水中への投入攪拌方法を例示することができる。
また、その配合割合は、土壌等に含まれる重金属等の量に依存して設計配合することが可能である。
特に、本発明の重金属等不溶化材と重金属等が溶出する土壌や岩石ずりを接触させる際の温度としては、特に限定するものではなく、冬季においてもまた夏季においても有効に適用することができ、例えば、0~50℃の範囲での適用が可能である。
【実施例
【0044】
本発明を以下の実施例及び比較例により説明する。
(1)焼成ドロマイトの調製
焼成ドロマイトを調製するにあたり、以下の3種類の原料ドロマイトを用いた。
1)栃木県佐野市産の原料ドロマイト
2)岐阜県大垣市産の原料ドロマイト
3)中国安徽省産のドロマイト
上記3種類の原料ドロマイトの平均粒径(Dp50:μm)が50±19μmとなるように調整したものを用いて、焼成温度800℃、900℃、1000℃の各温度で、焼成時間30分、45分、60分、120分、180分、240分でそれぞれ焼成して、各焼成ドロマイトを得た。得られた各焼成ドロマイトの呼称をそれぞれ下記表1~3に示す。
【0045】
なお、上記各3種類の原料ドロマイト中のフッ素含量を、燃焼イオンクロマトグラフィー法(イオンクロマトグラフ:日本ダイオネクス株式会社、ICS-1600、自動試料燃焼装置:株式会社三菱ケミカルアナリティック、AQF-100F)により測定した。その値を以下に示す。
1.栃木県佐野市産の原料ドロマイト・・・1906mg/kg
2.岐阜県大垣市産の原料ドロマイト・・・73mg/kg
3.中国安徽省産のドロマイト・・・4743mg/kg
【0046】
(2)焼成ドロマイトの粉末X線回折及びリートベルト解析
得られた塊状の各焼成ドロマイトを、遊星ミルを用いて平均粒径50±10μmまで粉砕(300rpm,10分)して、粉末X線回折測定及びリートベルト解析を用いて、CaMg(CO、CaCO、MgO、CaO、SiO含有量をそれぞれ測定した。
その結果を下記表1~3にそれぞれ示す。
なお、表1は、栃木県佐野市産の原料ドロマイトを用いて得られた各種焼成ドロマイトに関し、表2は、岐阜県大垣市産の原料ドロマイトを用いて得られた各種焼成ドロマイトに関し、表3は中国安徽省産のドロマイトを用いて得られた各種焼成ドロマイトに関するものである。
【0047】
なお、測定装置、粉末X線回折及びリートベルト解析の条件は以下のとおりである。
1)使用装置:PANalytical X’Pert Pro MPD
2)リートベルト解析ソフト:PANalytical High Score Plus
3)測定条件:管球 Cu-Kα,管電圧45kV,電流40mA
4)発散スリット 可変(12mm),アンチスキャッタースリット(入射側)無し,ソーラースリット(入射側)0.04rad.
5)受光スリット 無し,アンチスキャッタースリット(受光側)可変(12mm),ソーラースリット(受光側) 0.04rad
6)走査範囲 2θ=15.0~70.0°,走査ステップ 0.008°,計数時間 最強線のカウント数が10000±1000cpsになるように調整
Goodness of fit≦6となった際に解析が成功したとみなした。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
(3)ドロマイトの焼成温度とフッ素溶出量
原料ドロマイトとして栃木県佐野市産の原料ドロマイト(raw)、焼成ドロマイトG-A、G-D、G-G及びG-Hの各焼成ドロマイトをXRD測定した。
その結果をXRDチャート(2θ=15.0~70.0)として図1(A)及び図1(B)に示す。
(XRD測定条件)
使用装置:PANaLytical X’Pert Pro MPD
測定条件:管球 Cu-Kα,管電圧 45kV,電流 40mA
発散スリット 可変(12mm),アンチスキャッタースリット(入射側) 無し,ソーラースリット(入射側) 0.04rad.
受光スリット 無し,アンチスキャッタースリット(受光側) 可変(12mm),ソーラースリット(受光側) 0.04rad
走査範囲 2θ=15.0~70.0°,走査ステップ 0.008°,計数時間 0.10°/sec
【0052】
図1(A)及び図1(B)より、焼成ドロマイトG-G及びG-Hはトリジマイト構造のSiOを含有するが、焼成ドロマイトG-A及びG-Dのものはトリジマイト構造のSiOは含有せず、クウォーツ構造を有することがわかる。
また他の焼成ドロマイトも、同様にXRD測定(2θ=15.0~70.0)したところ、焼成ドロマイトT-E、T-F、T-G、T-H、G-E、G-Fは、焼成ドロマイトG-G及びG-Hと同様に、トリジマイト構造のものを含有する結果となった。一方、焼成ドロマイトT-A、T-B、T-C、T-D、G-B及びG-Cは、焼成ドロマイトG-A及びG-Dと同様にトリジマイト構造のものを含有せず、クウォーツ構造を有する結果を得た。
これらの結果を上記表1~3に記載示す。
このように、焼成ドロマイトの焼成温度に依存して、焼成ドロマイト中に含有されるSiOの構造が異なっていることがわかる。
【0053】
(4)重金属等不溶化材からのフッ素溶出量の分析
上記各焼成ドロマイト85質量部に対し、硫酸第一鉄一水和物(堺化学化学工業(株)、工業用原料)を内割で15質量部配合して、各重金属等不溶化材を調製した。
各種重金属等不溶化材からのフッ素溶出量を、環境庁告示第46号試験により分析した。なお、当該試験を3回実施し、3回の平均値を、以下の表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
上記表4の結果より、栃木県佐野市産及び岐阜県大垣市産の原料ドロマイトを出発原料とした場合では、温度800℃、900℃で焼成した軽焼ドロマイトを用いた重金属等不溶化材は、焼成時間(焼成度合)に関係なく、環境基準(フッ素環境基準:0.08mg/L)を超えるフッ素が溶出したことがわかる(比較例1~8)。
一方、1000℃で焼成された軽焼ドロマイトを用い用いた重金属等不溶化材は、フッ素が環境基準をこえて溶出することがないことがわかる(実施例1~8)。
他方、中国産の原料ドロマイトを出発原料とした場合には、原料ドロマイトにSiOを含まないため、焼成温度(焼成度合)に関係なく、環境基準を超えるフッ素が溶出した(比較例9~16)。
【0056】
図2に表1~4から作製した各種焼成ドロマイト中のトリジマイト含有量と、これらの焼成ドロマイトを用いて調製した上記各実施例及び比較例の各重金属等不溶化材から溶出するフッ素溶出量との関係を示す。
これらの結果より、焼成ドロマイト中のSiOがトリジマイト構造として存在した場合、フッ素の溶出量が低減されることがわかる。この理由は明らかではないが、固溶や収着等の作用により低減したと推察される。
【0057】
したがって、重金属等不溶化材からフッ素が溶出することがない適切な重金属等不溶化材は、SiOが含まれ、更にSiOはトリジマイト構造である焼成ドロマイトが含有されることにより、フッ素が上記環境基準を超えて溶出することがないことがわかり、そのためには、SiOを含む原料ドロマイトを1000℃以上で焼成する必要があることがわかる。
【0058】
(5)重金属等不溶化材の不溶化試験
環境基準を超えるセレン(0.026mg/L)が溶出する掘削ずり100質量部に対し、前記各重金属等不溶化材をそれぞれ3質量部又は5質量部添加し、さらにイオン交換水を30質量部添加して混合した。
その後、常温で7日間養生し、上記環告46号及び「土壌汚染対策法施行規則第五条第三項第四号の規定に基づく環境大臣が定める土壌溶出量調査に係る測定方法(平成15年3月環境省告示第18号:「環告18号」)」に準じてJIS K0102:2013 67.3に従いセレン溶出量を測定した。
その結果を上記表4に示す。
【0059】
なお、重金属等不溶化材として、表1~3の各焼成ドロマイトT-A~C-Hを85質量%とし、これに、還元剤としての第一鉄化合物の代表例としての硫酸第一鉄一水和物を15質量%添加したものを調製して用いて、不溶化試験を実施した。
その結果を、上記表4に示す。
【0060】
上記表4より、本発明の実施例の、焼成ドロマイトを用いた重金属等不溶化材は、当該不溶化材からフッ素が溶出することなく、セレンを有効に不溶化することが可能となることがわかる。一方、比較例の重金属等不溶化材は、セレンを不溶化することはできるが、重金属等不溶化材自体からフッ素が溶出してしまい、重金属等不溶化材としては不適であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の重金属等不溶化材は、例えば、掘削ずりや土壌から溶出するセレン等の重金属等を有効に不溶化するために用いる重金属等不溶化材とすることが可能であり、重金属等不溶化材自体からのフッ素等の溶出を環境基準以上とすることがなく、例えば、トンネルやダム等の掘削工事や建設工事等によって大量に発生するセレン等の重金属等を含む汚染土壌の処理に有効に適用して重金属等を不溶化することができる重金属等不溶化材として有効に適用することができる。

図1A
図1B
図2