(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】焼結バルブガイド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20221206BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221206BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20221206BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20221206BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20221206BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221206BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B22F3/10 E
B22F3/00 A
B22F5/00 S
C22C1/05 Q
C22C33/02 103E
C22C38/00 304
C22C9/00
(21)【出願番号】P 2020501057
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006746
(87)【国際公開番号】W WO2019163937
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018030672
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】深江 大輔
(72)【発明者】
【氏名】河田 英昭
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-098607(JP,A)
【文献】特開平10-081943(JP,A)
【文献】特開昭53-147608(JP,A)
【文献】特開2001-158934(JP,A)
【文献】特開2012-092441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーライトの単相組織、又は、フェライトとパーライトの混合組織のいずれかの組織中にマルテンサイト相が分散する基地と、前記基地に分散する気孔とを有する金属組織構造を有し、前記マルテンサイト相は、組織断面において前記マルテンサイト相の面積率が前記基地の1~10%の範囲になる割合で存在
し、
質量比で、Cu:0.8~5.7%、Ni:0.2~3.0%、P:0.05~1.2%、C:0.5~1.5%、残部がFe及び不可避不純物からなる、焼結バルブガイド。
【請求項2】
前記マルテンサイト相は、組織断面において平均径が1~200μmであるような大きさである、請求項1に記載の焼結バルブガイド。
【請求項3】
質量比で、
被削性改善物質:0.01~1.5質量%
をさらに含む、請求項1又は2に記載の焼結バルブガイド。
【請求項4】
前記被削性改善物質は、質量比で0.01~0.5%の窒化硼素、0.05~1.0%の珪酸マグネシウム鉱物、及び、0.1~1.5%の硫化マンガンのうちの少なくとも一つを含有する、請求項
3に記載の焼結バルブガイド。
【請求項5】
P:5~20質量%及び残部がCu及び不可避不純物からなる銅-燐合金粉末、ニッケル粉末及び黒鉛粉末を、質量比で、銅-燐合金粉末:1.0~6.0%、ニッケル粉末:0.1~3.0%、及び、黒鉛粉末:0.5~1.5%となるように鉄粉末に添加した混合粉末を調製し、成形体密度が6.8~7.2Mg/m
3となるように前記混合粉末を焼結バルブガイドに対応した形状の成形体に成形し、得られた成形体を常圧環境の非酸化性雰囲気ガス中で950~1200℃の温度で焼結する、焼結バルブガイドの製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末の調製において、更に、窒化硼素、珪酸マグネシウム鉱物及び硫化マンガンのうちの少なくとも一種の被削性改善物質の粉末を前記混合粉末に添加し、質量比で、窒化硼素は0.01~1.0%、珪酸マグネシウム鉱物は0.05~1.0%、硫化マンガンは0.1~1.5%の割合で添加する、請求項
5に記載の焼結バルブガイドの製造方法。
【請求項7】
前記ニッケル粉末の平均粒子径は、1~50μmである、請求項
5又は6に記載の焼結バルブガイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる焼結バルブガイド材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるバルブガイドは、内燃機関の燃焼室への燃料ガスを吸気する吸気バルブ及び燃焼室から燃焼ガスを排気する排気バルブのステム(竿部)を、その内周面で支持する円管形状の部品である。従って、バルブガイドには、自己の耐摩耗性とともにバルブステムを摩耗させず円滑な摺動状態を長期に亘り維持することが求められる。このようなバルブガイドとしては、従来、鋳鉄製のものが使用されてきたが、焼結合金製(例えば特許文献1~4等)のものが多く使われるようになってきている。その理由として、焼結合金は、溶製材では得ることができない特殊な金属組織の合金を得ることができ、耐摩耗性を付与できること、一度金型を作製すれば同じ形状の製品が多量に製造でき、大量生産に向くこと、ニアネットシェイプに成形でき、機械加工にともなう材料の歩留まりが高いこと等が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、重量比で、炭素:1.5~4%、銅:1~5%、錫:0.1~2%、リン:0.1~0.3%未満及び鉄:残部の鉄系焼結合金からなる焼結バルブガイド材が開示される。特許文献1に開示された焼結バルブガイド材では、銅及び錫を添加して強化されたパーライト基地中に鉄-リン-炭素化合物相が析出する。また、鉄-リン-炭素化合物が周囲の基地から炭素を吸収して板状に成長し、その結果、鉄-リン-炭素化合物相に接する部分にフェライト相が分散する。また、焼結時の高温下において常温での固溶限界を超えて基地中に一旦溶け込んだ銅が、冷却時に基地中に析出し、これにより銅合金相が基地に分散する。この焼結バルブガイド材は、鉄-リン-炭素化合物相によって優れた耐摩耗性を発揮することから、自動車の内燃機関用バルブガイドのスタンダード材として、国内外の自動車メーカにおいて実用化が進んでいる。
【0004】
また、特許文献2に開示される焼結バルブガイド材は、特許文献1の焼結バルブガイド材の被削性を改善するために、特許文献1に開示された焼結バルブガイド材の金属マトリックス中に、メタ珪酸マグネシウム系鉱物やオルト珪酸マグネシウム系鉱物等を粒間介在物として分散させたものであり、特許文献1の焼結バルブガイド材と同じく、国内外の自動車メーカにおいて実用化が進んでいる。
【0005】
特許文献3、4に開示される焼結バルブガイド材は、より一層の被削性の改善を図ったものであり、リン量を低減させることによって、硬質な鉄-リン-炭素化合物相の分散量を、バルブガイドの耐摩耗性の維持に必要な量まで低減させて、被削性を改善したものであり、国内外の自動車メーカにおいて実用化が始まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭55-34858号公報
【文献】特許第2680927号公報
【文献】特許第4323069号公報
【文献】特許第4323467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、内燃機関においては、さらなる高機能化(低燃費化、高出力化)が進んでおり、バルブガイドに加わる荷重が増加する傾向にある。このため焼結バルブガイドにおいては、高強度化の要望が大きくなってきている。
【0008】
一般に、焼結合金の強度を高めるためには、気孔量を低減して、密度を高めればよい。
特許文献1~4の焼結バルブガイド材では、硬質相としてFe-P-C化合物が分散するとともに、潤滑相として黒鉛相が分散する金属組織を呈し、このような組織においては、応力が加わった際に基地と硬質相の界面に応力が集中しやすい。基地中に黒鉛相を分散させると、鉄基地の結合強度が低下する。また、Fe-P-C化合物は、ヴィッカース硬さ(Hv)が1000~1400であり、硬質相は、材料強度に貢献する硬さを有するが、その一方で、脆い組織である。このため、高密度化してもFe-P-C化合物が破壊の基点となって強度の向上を図り難い。
【0009】
これらのことから、本発明は、高強度を有すると共に、耐摩耗性及び被削性に優れる焼結バルブガイド及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らが検討を行ったところ、硬さを有する鉄基地そのものが硬質相として機能するように改善することにより、応力の基点となるFe-P-C化合物を生成せずに高強度化することができ、耐摩耗性も維持されることを見出した。
【0011】
また、Fe-P-C化合物を廃することで、潤滑相として機能する黒鉛相も不要となり、鉄基地の結合強度を高めて、更に高強度化することができることを見出した。
【0012】
本発明の一態様によれば、焼結バルブガイドは、パーライトの単相組織、又は、フェライトとパーライトの混合組織のいずれかの組織中にマルテンサイト相が分散する基地と、前記基地に分散する気孔とを有する金属組織構造を有し、前記マルテンサイト相は、組織断面において前記マルテンサイト相の面積率が前記基地の1~10%の範囲になる割合で存在する。
【0013】
上記マルテンサイト相は、組織断面において平均径が1~200μmであるような大きさであると良い。上記焼結バルブガイドの組成は、質量比で、Cu:0.8~5.7%、Ni:0.2~3.0%、P:0.05~1.2%、C:0.5~1.5%、残部がFe及び不可避不純物からなるように構成することができる。或いは、質量比で、Cu:0.8~5.7%、Ni:0.2~3.0%、P:0.05~1.2%、C:0.5~1.5%、被削性改善物質:0.01~1.5質量%、残部がFe及び不可避不純物からなるように構成してもよい。その場合、前記被削性改善物質は、質量比で0.01~0.5%の窒化硼素、0.05~1.0%の珪酸マグネシウム鉱物、及び、0.1~1.5%の硫化マンガンのうちの少なくとも一つを含有すると好適である。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、焼結バルブガイドの製造方法は、P:5~20質量%及び残部がCu及び不可避不純物からなる銅-燐合金粉末、ニッケル粉末及び黒鉛粉末を、質量比で、銅燐合金粉末:1.0~6.0%、ニッケル粉末:0.1~3.0%、及び、黒鉛粉末:0.5~1.5%となるように鉄粉末に添加した混合粉末を調製し、成形体密度が6.8~7.2Mg/m3となるように前記混合粉末を焼結バルブガイドに対応した形状の成形体に成形し、得られた成形体を常圧環境の非酸化性雰囲気ガス中で950~1200℃の温度で焼結する。
【0015】
上記混合粉末の調製において、更に、窒化硼素、珪酸マグネシウム鉱物及び硫化マンガンのうちの少なくとも一種の被削性改善物質の粉末を前記混合粉末に添加し、質量比で、窒化硼素粉末は0.01~1.0%、ケイ酸マグネシウム鉱物粉末は0.05~1.0%、硫化マンガン粉末は0.1~1.5%の割合で添加すると、被削性が向上する。前記ニッケル粉末の平均粒子径は、1~50μmであると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い強度と耐摩耗性及び被削性に優れる焼結バルブガイドが提供され、内燃機関に対するさらなる高機能化(低燃費化・高出力化)の要求に応えることができる。また、上述のような優れた機械特性を有する焼結バルブガイドを簡便に製造することが可能な焼結バルブガイドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の焼結バルブガイドの金属組織の一例を示す、組織断面の撮影画像。
【
図2】本発明の焼結バルブガイドの金属組織の一例を示す、組織断面の撮影画像であり、(a)及び(b)は、実施例における試料番号4、(c)及び(d)は、試料番号6における組織断面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[焼結バルブガイドの金属組織]
本発明の焼結バルブガイドを構成する焼結材の組成は、安価で強度が高い鉄合金であり、鉄合金によって構成される基地と、基地に分散する気孔とを有する金属組織構造を有する。鉄合金の基地は、パーライトの単相組織、又は、パーライトとフェライトの混合組織のいずれかの組織を基本組織とし、この組織に分散するマルテンサイト相を有する組織構造を呈する。
図1に示す焼結バルブガイドの一例においては、基地1に気孔2が分散し、基地1は、パーライト3の単相組織と、それに分散するマルテンサイト相4とを有する。
【0019】
パーライトは強度を有するのに対し、マルテンサイトは、基地を組織する成分の中で最も高い硬さを有し、硬質相として機能する。つまり、パーライトによって発揮される基地の強度は、マルテンサイト相の硬さによって更に強化される。本発明の焼結バルブガイドは、上記の硬いマルテンサイト相が硬質相として機能する。マルテンサイトの硬さ(Hv)は、500~800程度で、従来の硬質相成分であるFe-P-C化合物に比べて硬さは低いが、相としての靱性はFe-P-C化合物よりも高い。しかも、マルテンサイト相は、鉄合金基地が相変態して形成され、界面における相間連続性が高い。従って、応力が界面に集中し難く、焼結バルブガイドの強度が向上する。
【0020】
また、従来の焼結バルブガイドにおいて硬質相として用いられたFe-P-C化合物は、硬さ(Hv)が1000~1400と非常に硬いので、潤滑相として機能する黒鉛相が必要であるが、本発明の焼結バルブガイドにおいて硬質相として用いるマルテンサイトの硬さは、潤滑相の排除を許容できる程度の硬さであるので、潤滑相として従来用いた黒鉛相を省略することができる。従って、鉄合金基地の強度が黒鉛によって阻害されることなく、充分に基地の強度を向上させることができる。この点においても、マルテンサイト相の導入は、焼結バルブガイドの強度の向上に寄与する。故に、上記のような金属組織を呈する本発明の焼結バルブガイドは、従来と同等の耐摩耗性を有するとともに、強度が向上したものとなる。更に、硬いFe-P-C化合物が存在しないため、被削性も向上する。
【0021】
パーライトは、フェライト(α-鉄)とセメンタイト(Fe-C化合物:Fe3C)との共析晶であり、鉄合金基地は、鉄及び炭素を含む。マルテンサイトは、炭素等を固溶するα-鉄によって構成される。鉄合金基地に生成するマルテンサイト相の量及び大きさは、ニッケル(Ni)の鉄への拡散程度によって調整することができ、従って、焼結バルブガイドを構成する鉄合金は、ニッケルを含有する。焼結バルブガイドの製造に使用するニッケル粉末の粒子サイズ及び温度条件の設定によって、マルテンサイト相の量及び大きさが制御される。また、基地の強度の向上に有用な成分として、銅(Cu)が使用され、銅は、基地の焼き入れ性を改善して、焼結後の冷却過程におけるパーライトの微細化によって基地の強度を高める。従って、焼結バルブガイドを構成する鉄合金は、銅を含有する。
【0022】
銅の基地への拡散に関して、銅と共晶液相を形成可能な成分を利用すると、高温での焼結を回避する観点から好ましく、このような共晶化成分として燐(P)が挙げられる。従って、燐を使用すると、焼結バルブガイドを構成する鉄合金は、燐(P)を含有する。
【0023】
本発明の焼結バルブガイドにおいて、上記のマルテンサイト相の量が過少であると、耐摩耗性が乏しく、過大であると、被削性が低下する。これらを考慮すると、鉄合金基地中に分散するマルテンサイト相の量は、焼結バルブガイドの断面を観察した際に、金属組織断面における面積率で、基地の1%以上且つ10%以下の範囲であると好適である。このような範囲であると、パーライトの単相組織、及び、フェライトとパーライトの混合組織のいずれの組織に基づく基地においても、良好な耐摩耗性及び被削性が実現される。
【0024】
上記のマルテンサイト相の大きさが過大であると、金属組織中に偏在することとなり、耐摩耗性向上の効果が低下する懸念がある。このため、マルテンサイト相は、金属組織断面において、平均径が200μm以下となるような大きさであることが好ましい。一方、マルテンサイト相の大きさが過小であると、耐摩耗性が低下する懸念がある。このため、平均径で1μm以上となるような大きさが好ましい。尚、マルテンサイト相の平均径は、金属組織断面の画像解析において測定されるマルテンサイト相の面積から1つの相当たりの平均の面積を計算して、面積円相当径に換算した値を使用する。
【0025】
[焼結バルブガイドの好ましい組成及び原料粉末]
上記の金属組織を示す焼結バルブガイドの好ましい組成として、質量比で、Cu:0.8~5.7%、Ni:0.2~3.0%、P:0.05~1.2%、C:0.5~1.5%、残部がFe及び不可避不純物からなる組成とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明の焼結バルブガイドは、上記組成を基本として、更に、基地の被削性を改善するための改削成分を含んでもよい。その場合、焼結バルブガイドは、質量比で、Cu:0.8~5.7%、Ni:0.2~3.0%、P:0.05~1.2%、C:0.5~1.5%、被削性改善物質:0.01~1.5%、残部がFe及び不可避不純物からなる組成とすることが好ましい。被削性改善物質は、窒化硼素、珪酸マグネシウム鉱物、及び、硫化マンガンのうちの少なくとも一種であると好ましく、その組成割合については、窒化硼素は0.01~1.0%、珪酸マグネシウム鉱物は0.05~1.0%、硫化マンガンは0.1~1.5%であると好ましい。
【0027】
上記組織構造を呈する鉄合金を生成するために、焼結バルブガイドの製造においては、鉄を主成分として用い、鉄に他の成分を含有させることによって基地を強化して、焼結バルブガイドの強度向上を実現する。鉄は、鉄及び不可避不純物からなる鉄粉末(純鉄粉末)の形態で付与することが好ましく、他の成分の配合については、各成分の粉末を鉄粉末に添加し混合して混合粉末を調製し、この混合粉末を原料粉末として用いることが好ましい。
【0028】
銅は、焼結時に鉄中に固溶して合金化し、基地の強度の向上に寄与するとともに、基地の焼き入れ性を改善する作用を有し、これにより、焼結後の冷却過程でパーライトを微細化することによって焼結バルブガイドの強度の向上に寄与する。従って、銅の使用は、この作用を発揮する点で好ましく、この場合、銅含有量は、全体組成中の0.8質量%以上とすることが好ましい。但し、銅の量が過大となると、軟質な銅相又は銅合金相が基地中に析出して強度低下の原因となる虞があることから、5.7質量%以下とすることが好ましい。銅の添加については、銅粉又は銅合金粉末の形態で付与し、主原料粉末である鉄粉末に添加し混合することが好ましい。
【0029】
上述の効果は、銅が鉄粉中に拡散することによって得られる。銅粉末を用いる場合、液相焼結を行うには、銅の融点(1084.6℃)以上に加熱して銅粉末を溶融させる。この点に関して、銅の共晶液相を発生する銅合金粉末、例えば、銅-錫合金(液相発生温度:798℃)粉末、銅-燐合金(液相発生温度:714℃)粉末等を用いると、より低い温度で銅合金粉末から共晶液相が発生するので、焼結温度に至るまでの昇温工程で液相が発生して焼結合金の緻密化に寄与し、強度の向上に寄与する。
【0030】
銅合金粉末を用いる場合、燐は鉄に固溶して強化する作用があるので、銅-燐合金粉末を用いることが好ましい。錫は鉄を脆化させる成分であり、鉄合金の強度を低下させる虞があるため、銅-錫合金粉末を用いる場合は、添加量を制限することが好ましい。
【0031】
銅-燐合金粉末を用いる場合、燐の含有量が過少であると、発生するCu-P共晶液相の発生量が乏しくなるので、全体組成中の燐の含有量が0.05質量%以上であると好ましい。但し、燐の含有量が増加すると、Fe-P-C化合物が析出する虞がある。このため、全体組成中の燐の含有量は、1.2質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
本発明の焼結バルブガイドにおいて、基地は、上記のとおり、パーライトの単相組織、又は、フェライトとパーライトの混合組織のいずれかの組織が基盤となる。パーライトは、フェライト中に微細なセメンタイトが層状に析出する鋼組織であるが、燐を含む組成の場合、燐は、フェライト中に固溶されるか、或いは、セメンタイト(Fe-C化合物:Fe
3C)の代わりに微細なFe-P-C化合物としてフェライト中に析出し得る(
図1においてパーライト3’として示す部分)。本発明は、Fe-P-C化合物を意図的には生成しないが、燐を含む組成の場合には、パーライト組織の成分として生じる程度の少量のFe-P-C化合物は許容される。つまり、従来のような大きなFe-P-C化合物相を形成しなければ差し支えなく、完全にFe-P-C化合物を排除するものではない。
【0033】
使用する銅-燐合金粉末は、P:5~20質量%、及び、残部がCu及び不可避不純物からなる粉末であると好適である。この組成の銅-燐合金粉末を用いる場合、主原料となる鉄粉末に、銅-燐合金粉末を1.0~6.0質量%添加すると、全体組成中の銅の量が0.8~5.7質量%、燐の量が0.05~1.2質量%となる組成に調製できるので都合が良い。
【0034】
ニッケルは、鉄の焼入れ性を高める効果が高い元素であり、ニッケル濃度の高い部分において鉄をマルテンサイトに相変態させて、基地中にマルテンサイト相を分散して生じさせることができる。ニッケルは、ニッケル及び不可避不純物からなるニッケル粉末の形態で付与することが好ましい。焼結過程において、ニッケル粉末の粒子から基地中にニッケルが拡散するとともに、周囲の基地からニッケル粒子に鉄が拡散する。その結果、元のニッケル粒子の部分にニッケル濃度の高い鉄合金が形成され、焼結後の冷却過程において、ニッケル濃度の高い鉄合金部分がマルテンサイト相に相変態し、基地中にマルテンサイト相が分散する焼結鉄合金になる。ニッケルの量が乏しいと、通常の焼結工程及び冷却過程を通じて得られるマルテンサイト相の量が不足し、所望量のマルテンサイト相を生成するために、急冷装置等を焼結炉に設置することになる。一方、ニッケルの量が過大であると、所望量を超えたマルテンサイト相が生成される虞がある。このため、全体組成中のニッケルの組成割合は、0.2質量%以上且つ3.0質量%以下とすることが好ましい。また、ニッケル粉の形態でニッケルを導入する際に、主原料となる鉄粉末に、0.2~3.0質量%のニッケル粉末を添加して混合することが好ましい。
【0035】
なお、ニッケルをニッケル粉末の形態で与える場合、ニッケル粉末の大きさが小さすぎると局所的にニッケル濃度の高い部分を形成することが難しくなって、所望量のマルテンサイト相を生成することが難しくなる。このため、ニッケル粉末は、平均粒子径が1μm以上のものを用いることが好ましい。尚、本願において、粉末の平均粒子径は、メジアン径(D50)で表記する。メジアン径は、日本工業規格(JIS)の8825に規定されるレーザー解析法によって測定することができ、レーザー回折散乱式マイクロトラック粒度分布計等を用いて測定される粒度分布に基づいて決定可能である。
【0036】
ニッケル粉末の大きさが過大であると、焼結時にニッケル及び鉄の拡散が生じても、ニッケル粒子の中心部分まで拡散が十分に進行せずに高いニッケル濃度が維持されて、鉄合金中にニッケル濃度が高すぎる部分が残る虞がある。このようなニッケル濃度の高い部分は、冷却してもマルテンサイト相に変態せず、オーステナイト相(Niリッチのオーステナイト相)として残留する虞がある。オーステナイト相は、靱性に富む金属組織であるが、軟質であるため、相手材となるステムに凝着して焼結バルブガイドの凝着摩耗を進行し易くする虞がある。故に、本発明の焼結バルブガイドにおいては、オーステナイト相が残留しないようにすることが好ましい。このためには、ニッケル粉末の大きさを、平均粒子径で50μm以下とすることが有効であるので、ニッケル粉末は、平均粒子径で1~50μmのものを用いることが好ましい。オーステナイト相の形成は、ニッケルの拡散を促進することで回避することができるので、焼結温度を高くする、又は、焼結時間を長くすることによっても、オーステナイト相の形成を防止することができる。
【0037】
炭素(C)は、基地を強化するとともに、パーライトの単相組織、又は、フェライトとパーライトの混合組織のいずれかの組織に基地を構成して、焼結バルブガイドの強度の向上に寄与する。また、ニッケル濃度の高い部分において、マルテンサイト相を形成して耐摩耗性の向上に寄与する。炭素量が過少であると、上記の金属組織を構成することが難しくなる。一方、炭素量が過大であると、硬くて脆いセメンタイト相が粒界に析出し易く、燐を含む場合には、Fe-P-C化合物相が析出し易くなる。従って、焼結合金の強度が低下する虞がある。故に、全体組成中の炭素の割合は、0.5質量%以上且つ1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0038】
炭素は、黒鉛粉末等を用いて原料粉末に導入することができる。主原料である鉄粉末に炭素を固溶させて鋼粉末の形態で付与すると、主原料粉末が硬くなって原料粉末の圧縮性が低下する。故に、炭素は、黒鉛粉末の形態で主原料となる鉄粉末に添加し、混合することが好ましい。
【0039】
以上より、本発明の基本的構成によれば、焼結バルブガイドの組成は、質量比で、Cu:0.8~5.7%、Ni:0.2~3.0%、P:0.05~1.2%、C:0.5~1.5%、残部がFe及び不可避不純物からなると好ましい。
【0040】
上記の焼結バルブガイドを製造する原料粉末としては、鉄粉末に、質量比で、銅燐合金粉末:1.0~6.0%、ニッケル粉末:0.1~3.0%、及び、黒鉛粉末:0.5~1.5%の割合で添加した混合粉末を用いることが好ましく、銅-燐合金粉末は、P:5~20質量%、及び、残部がCu及び不可避不純物からなるものが好ましい。
【0041】
本発明の焼結バルブガイドは、硬く脆いFe-P-C化合物相を用いずに構成できるので、被削性も向上する。よりいっそうの被削性の向上を図る場合には、公知の被削性改善物質から適宜選択して利用すると良く、被削性改善物質を基地又は気孔中に分散させることで、被削性を改善することができる。具体的には、被削性改善物質として、窒化硼素(BN)、エンスタタイト等の珪酸マグネシウム鉱物(MgSiO3)、及び、硫化マンガン(MnS)のうちの一種以上を用いることができ、粉末の形態で原料粉末に添加混合する。被削性改善物質の添加量が過少であると、被削性改善の効果が乏しくなる。一方、被削性改善物質は、焼結時に鉄基地の粒子結合を阻害する可能性があるので、添加量が過大であると、鉄基地の強度が低下して焼結バルブガイドの強度が低下する虞がある。この観点から、被削性改善物質を、全体組成中に0.01~1.5質量%程度の割合になるように添加すればよい。窒化硼素を用いる場合には、全体組成中に0.01~0.5質量%、珪酸マグネシウム鉱物を用いる場合には、全体組成中に0.05~1.0質量%、及び、硫化マンガンを用いる場合には全体組成中に0.1~1.5質量%の割合で用いると好ましい。なお、これらの被削性改善物質は、1種でもよく、2種以上を併用して含有してもよい。複数種を併用する場合は、合計量が0.01~1.5質量%になるように使用すると良い。
【0042】
従って、上記の被削性改善物質を基地中又は気孔中に分散させる場合は、上述の鉄粉末、銅燐合金粉末、ニッケル粉末及び黒鉛粉末と共に、前記被削性改善物質の少なくとも一種を混合して、成形原料の混合粉末を調製する。
【0043】
[焼結バルブガイドの製造方法]
本発明の焼結バルブガイドの製造方法は、上記の原料粉末を用意して、これを略円管形状に成形し、得られた成形体を焼結する。これによって、パーライトの単相組織、又は、フェライトとパーライトの混合組織のいずれかの組織中にマルテンサイト相が分散する構造の基地を有する焼結バルブガイドが得られ、マルテンサイト相は、金属組織断面におけるマルテンサイトの面積率が基地の1~10%の範囲となるような割合で存在する。成形は、成形体密度が6.8~7.2Mg/m3となるように成形条件を設定する。得られた成形体を、常圧環境の非酸化性雰囲気ガス中で950~1200℃に加熱することによって焼結を行う。成形体密度が6.8~7.2Mg/m3である成形体を焼結することによって、得られる焼結バルブガイドの焼結体密度は6.75~7.15/m3となり、充分な強度を有する。焼結時のガス雰囲気は、減圧雰囲気でもよいが、その分コストがかかる点を考慮すると、常圧のガス雰囲気で充分である。尚、雰囲気ガスが酸化性のものであると、主原料である鉄粉が酸化して基地における粒子の結合が進行し難くなるとともに、黒鉛粉末の形態で付与した炭素が雰囲気中の酸素と結合して、鉄合金中に残留する炭素量が減少する虞がある。このため、焼結時の雰囲気は非酸化性のガスを使用する。
【0044】
なお、焼結後の冷却速度は、焼結温度から300℃まで冷却する際の平均冷却速度が5~40℃/分となるように設定することが好ましい。一般に、焼結炉のタイプによって冷却速度は異なるが、耐熱性ベルト上に焼結体を載置してドラム等によりベルトを搬送して成形体を焼結するベルト式焼結炉の場合は、焼結温度から300℃までの平均冷却速度は10~50℃/分であり、成形体をトレー内に載置して、トレーを押し出して焼結炉内に搬送するプッシャー式焼結炉の場合は、焼結温度から300℃までの平均冷却速度は5~40℃/分である。従って、ベルト式焼結炉及びプッシャー式焼結炉のいずれを用いた場合でも、特別な冷却装置は不要であり、付加的な装置を使用しなくてよい。
【実施例1】
【0045】
原料として、下記の(a)~(f)の粉末(平均粒子径は、粒度分布測定に基づくメジアン径)を用意し、表1に示す配合割合で添加及び混合して、原料混合粉末を調製した。焼結バルブガイドを構成する焼結合金試料を作製するために、得られた原料混合粉末を、外径が14mm、長さが45mmの円管形状(内径:6mm、摩耗試験用)、及び、断面が15mm四方の正方形で長さが90mmの角棒形状(疲労試験用)に圧粉成形して、表2に示す密度の成形体を得た。成形体密度は、使用する原料粉末量によって調整した。得られた成形体を窒素ガス雰囲気中、表1に示す焼結温度に加熱して温度を保持した状態で60分間焼結を行った後、冷却した。この際、焼結温度から300℃までの平均冷却速度は12℃/分であった。このようにして、試料番号1~38の焼結合金試料を作製した。
【0046】
(a)鉄粉末(平均粒子径:70μm)
(b)P量が5質量%、残部がCu及び不可避不純物である銅燐合金粉末(平均粒子径:50μm)
(c)P量が8質量%、残部がCu及び不可避不純物である銅燐合金粉末(平均粒子径:40μm)
(d)P量が20質量%、残部がCu及び不可避不純物である銅燐合金粉末(平均粒子径:40μm)
(e)ニッケル粉末(平均粒子径:5μm)
(f)黒鉛粉末(平均粒子径:10μm)
疲労試験として、得られた角棒形状の焼結合金試料に切削加工を施して、両端の外径が12mm、中央の切欠き径が8mmの試験片を作製し、回転曲げ疲労試験機を用いて、回転曲げ疲労試験による疲れ強さを測定した。また、摩耗試験については、鉛直方向に往復運動するピストンの下端部にバルブを取り付けると共に、軸方向が鉛直になるように円管形状の焼結合金試料を固定してその内径にバルブのバルブステムを挿通して、摩耗試験機を構成した。300℃の排気ガス雰囲気中で、5MPaの横荷重をピストンに加えながら、ストローク速度:3000回/分、ストローク長さ:8mmの条件下でバルブを往復動させ、10時間の往復動の後、焼結合金試料の内周面の摩耗量(μm)を測定した。
【0047】
更に、試料の断面を鏡面研磨し、ナイタール溶液(硝酸:エチルアルコール=3:100)で断面を腐食させた後、断面の金属組織の顕微鏡観察を200倍の倍率で行って基地の組織を調べた。更に、画像解析ソフトウエアとして三谷商事株式会社製のWinROOFを用いて、組織断面の画像解析を行って画像を二値化することにより、マルテンサイト相の面積を測定し、断面における基地中のマルテンサイト相の面積率を決定した。また、マルテンサイト相の大きさとして、1つの相当たりの平均の面積を計算して、面積円相当径に換算した。これらの結果について、表2に示す。尚、表2中の基地組織の欄に、基地の基本組織の構成を記載し、「P」はパーライト、「F」はフェライト、「θ」はセメンタイトを意味する。更に、焼結体の密度は、日本工業規格(JIS)Z2505に規定の金属焼結材料の焼結密度試験方法により測定した。
【0048】
【0049】
【0050】
表2の試料番号1~9の結果より、ニッケル粉末の添加によって摩耗量が顕著に減少し、0.2質量%以上のニッケルの添加が摩耗量の減少に有効であることが判る。この点に関して、ニッケル粉末の配合量が1.0質量%以上であると好ましく、1.5質量%以上であるとより好ましい。但し、ニッケル粉末の配合割合が3.0質量%を超えると、疲れ強さが徐々に減少する傾向が見られる。従って、ニッケル粉末の配合量は、0.2~3.0質量%であると良い。また、マルテンサイト相の割合は、ニッケル粉末の配合割合が増加するにつれて増加し、ニッケル粉末の配合量が0.2~3.0質量%において、マルテンサイト相の割合は1.0~10面積%となる。耐摩耗性の観点から、マルテンサイト相の割合が3.6面積%以上であると好ましく、5.0面積%以上であると更に好ましい。
【0051】
尚、試料の大部分において、マルテンサイト相の大きさは30~60μm程度の範囲にあると考えられる。このことから、基地中に生じるマルテンサイト相の大きさは、使用するニッケル粉末の大きさによって制御可能であり、平均粒子径が5μmのニッケル粉末から30~60μm程度のマルテンサイト相が生じ得ると言える。但し、マルテンサイト相の大きさは、焼結温度の上昇によってニッケルの拡散促進により増大し、この点は、焼結温度が異なる試料番号32~38の結果からも理解できる。また、マルテンサイト相の面積率が高い試料においてマルテンサイト相が大きくなることから、ニッケルの拡散範囲が重なってマルテンサイト相が結合すると考えられる。試料番号1~9の結果から、マルテンサイト相の大きさが1~200μm程度の範囲においては、疲れ強さ及び耐摩耗性において良好な結果を得ることが可能であることが解る。
【0052】
試料番号4及び10~20の結果から、銅の添加によって、摩耗量が減少し、0.8質量%以上の銅の添加が摩耗量の減少に有効であることが判る。この点に関して、銅の配合量が1.84質量%以上であると好ましく、2.76質量%以上であるとより好ましい。
【0053】
また、銅の組成割合が、0.8~5.7質量%においては、良好な疲れ強さが得られるが、これを超えると疲れ強さは減少し、これは軟質な銅相又は銅合金相に起因すると考えられる。また、同試料を燐の組成割合に基づいて評価すると、燐の配合によって摩耗量は減少し、疲れ強さも高まる。0.05~1.2質量%の燐の配合は、適正な配合であると言える。
【0054】
試料番号4及び21~27の結果から、炭素の配合割合による影響が評価できる。炭素の割合が増加するに従って、基地を構成する組織は、フェライトの単相組織からフェライトとパーライトの混合組織へ、更に、パーライト組織へ変化する。摩耗量は、炭素の割合が増加するにつれて減少し、0.5質量%以上の炭素が摩耗量の減少に有効である。この点に関して、炭素が0.75質量%以上であると好ましく、1.0%以上であるとより好ましい。これに対し、疲れ強さについては、明らかに1.00質量%近辺に最適値が存在し、0.5~1.5質量%において好適な疲れ強さを示す。
【0055】
試料番号4及び28~31の結果から、成形体密度による影響が評価できる。疲れ強さは成形体密度が増加するに従って向上し、6.5Mg/m3以上の成形体密度において好適な疲れ強さを発揮する。6.8Mg/m3以上であると好ましく、7.0Mg/m3以上における疲れ強さは非常に高い。但し、成形上の限界により、7.2Mg/m3以下が適正となる。これに対し、耐摩耗性については、摩耗量が最小値を取り得る最適値が、6.7~7.2Mg/m3の密度の範囲に存在すると考えられる。
【0056】
試料番号4及び32~38の結果から、焼結温度による影響が評価できる。焼結温度が上昇するにつれて、疲れ強さが増加し、950℃以上の焼結温度において、好適な疲れ強さを付与することができる。この点に関しては、1050℃以上であると好ましく、1100℃以上であるとより好ましい。摩耗量も焼結温度が上昇するにつれて減少する。但し、耐摩耗性については、1110℃付近が最適な焼結温度と考えられる。摩耗量の変化傾向と、マルテンサイト相の割合の変化傾向が対応することから、焼結温度の適正範囲は950~1200℃であり、好ましくは1000~1150℃であると言える。
【0057】
試料番号4の焼結合金試料について、組織断面の光学顕微鏡の撮影画像を
図1に示す。
【0058】
基地は、パーライトの単相組織にマルテンサイトが分散する組織構造を示し、部分的に微細化したパーライト組織が生じている。パーライト組織を微細化する要素としては、銅の焼き入れ効果、及び、燐により微細なFe-P-C化合物がパーライト中に生じることがある。
【0059】
図2は、ニッケルの組成割合の違いによる比較を行うための組織断面の光学顕微鏡の撮影画像であり、(a)及び(b)は、試料番号4のもの、(c)及び(d)は、ニッケル量が多い試料番号6のものである。ニッケル量の違いによってマルテンサイト相の生成割合が異なることが
図2からも理解される。
【実施例2】
【0060】
原料として、実施例1で使用した(a)~(f)の粉末、及び、硫化マンガン粉末(平均粒子径:5μm)を用意し、表3に示す配合割合で粉末を添加及び混合して、原料混合粉末を調製した。得られた原料混合粉末を用いて、実施例1と同様に圧粉成形を行って、表4に示す密度の成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様の条件で焼結及び冷却を行って、試料番号39~43の焼結合金試料を作製した。
【0061】
得られた焼結合金試料を用いて、実施例1と同様に、回転曲げ疲労試験による疲れ強さ及び内周面の摩耗量を測定した。更に、試料番号4及び試料番号39~43の各々の円管形状の焼結合金試料について、被削性を調べるために、超硬合金製の旋盤加工用刃具を用いて以下のような旋削加工を施した。即ち、試料の端面を外周側から内周へ向かって刃具による旋盤加工(切削速度:50m/分、切り込み深さ:0.2mm、送り速度:0.05mm/回転)を行い、合計切削距離が1000mに達した段階で刃具の逃げ面の摩耗量(工具摩耗量)を測定した。この測定値を、被削性を評価する目安として表4に記載する。
【0062】
【0063】
【0064】
試料番号39~43は、被削性改善物質として硫化マンガンを含有する焼結合金である。表4の結果から理解されるように、0.1質量%の硫化マンガンの配合によって工具摩耗量の減少が見られ、硫化マンガンの添加量に応じて工具摩耗量は減少する。つまり、硫化マンガンの配合割合が0.1~2.0質量%において、焼結合金の被削性が向上することが明らかである。但し、疲れ強さの低下が見られ、この点を考慮すると、硫化マンガンの配合割合は1.5質量%以下であることが好ましい。表4によれば、硫化マンガンの添加は、合金基地の形成及びマルテンサイト相の生成には影響を与えない。これは、硫化マンガンが基地中又は気孔中に単独で分散することに起因する。表4のような被削性改善効果は、硫化マンガンの代わりに窒化硼素又は珪酸マグネシウム鉱物を配合した場合にも同様に得られることが確認されており、窒化硼素については0.01~0.5質量%程度、珪酸マグネシウム鉱物については0.05~1.0質量%程度が好ましい配合割合となる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、強度が更に向上し、耐摩耗性及び被削性にも優れた焼結バルブガイドが提供され、高機能化(低燃費化・高出力化)が進む内燃機関に対応した好適な製品の供給を通じて、省エネルギーや環境保全に貢献することが可能である。
【0066】
本願の開示は、2018年2月23日に出願された特願2018-030672号に記載の主題と関連しており、それらのすべての開示内容は引用によりここに援用される。
【0067】
既に述べられたもの以外に、本発明の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。したがって、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0068】
1 基地
2 気孔
3,3’ パーライト
4 マルテンサイト相