(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】縫合装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/062 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
A61B17/062
(21)【出願番号】P 2020504060
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009376
(87)【国際公開番号】W WO2019172430
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018043536
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 恭一郎
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/101999(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/111163(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0022063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/06 ― 17/062
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入されて使用される縫合装置であって、
縫合糸の両端を支持する糸支持部を有する前側アームと、
針状部材、および該針状部材の先端が前記前側アームを指向するように該針状部材を支持する針支持部を有し、前記前側アームに対し接近離間可能である後側アームとを有し、
前記針状部材は、先細略円錐状のやじり部、該やじり部の基端に接続され、少なくとも先端が該やじり部の最大径部よりも小径である組織貫通部、および該組織貫通部よりも基端側に設けられ、該組織貫通部と前記針支持部とを接続する針基部を有し、
前記組織貫通部は、その基端から先端に向かって逆テーパ状に拡径する第1テーパ部、および該第1テーパ部の先端にその基端が接続され、該基端から先端に向かってテーパ状に縮径する第2テーパ部を有する縫合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経管腔的内視鏡手術において、消化管等の体内組織に形成された切開部等を縫合する縫合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
経管腔的内視鏡手術(NOTES:Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery)において、消化管等の体内組織に形成された切開部(穿孔部や欠損部等を含む)を縫合する縫合装置としては、特許文献1に記載のものが提案されている。この縫合装置は、その両端に係合部材を有する縫合糸が掛け渡すように装着される二股状の先端部を有する前側アームと、穿刺用の針状部材を有する後側アームと、これらを相対的に回動および移動させる機構を備えている。
【0003】
針状部材は、その先端部にやじり部と、該やじり部に一体的に接続された略円柱状の組織貫通部と、後側アームに固定される基端部に結紮具が装着される略円柱状の結紮具装着部とを有している。縫合糸の結紮に用いる結紮具としては、結紮用ループをその一端に連結用ループをその他端に有する本体部にチューブをスライド可能に外嵌したものが用いられており、結紮具は、結紮用ループを針状部材の結紮具装着部に外嵌することにより、該針状部材に装着される。
【0004】
前側アームの先端部を胃などの消化管の内側から切開部に挿入して消化管の外側(体腔側)に配置し、縫合糸の一端の係合部材を該切開部の一側の消化管壁に穿刺した針状部材の先端に係合させた後に抜去する。次いで、縫合糸の他端の係合部材を、同様に、該切開部の他側の消化管壁に穿刺した針状部材の先端に係合させた後に抜去する。そして、結紮装置を用いて、結紮具を針状部材から抜けるように移動させるとともに、チューブを結紮用ループ側へスライドさせて、縫合糸の両端が通された結紮用ループを縫合糸とともにチューブの内側に引き込むことで、縫合糸が絞り込まれて切開部が閉塞された状態で結紮される。
【0005】
しかしながら、従来技術では、縫合糸の係合部材を消化管壁に穿刺した針状部材の先端のやじり部に係合させた後に、該消化管壁から抜去する際に、やじり部に係合された係合部材が消化管壁(針状部材により消化管壁に形成された貫通孔の周囲の組織)に引っ掛かって、針状部材が抜け難い場合があり、円滑な処置の妨げとなる場合あった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、処置を円滑に行い得る縫合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る縫合装置は、
体内に挿入されて使用される縫合装置であって、
縫合糸の両端を支持する糸支持部を有する前側アームと、
針状部材、および該針状部材の先端が前記前側アームを指向するように該針状部材を支持する針支持部を有し、前記前側アームに対し接近離間可能である後側アームとを有し、
前記針状部材は、先細略円錐状のやじり部、該やじり部の基端に接続され、少なくとも先端が該やじり部の最大径部よりも小径である組織貫通部、および該組織貫通部よりも基端側に設けられ、該組織貫通部と前記針支持部とを接続する針基部を有し、
前記組織貫通部は、その基端から先端に向かって逆テーパ状に拡径する第1テーパ部、および該第1テーパ部の先端にその基端が接続され、該基端から先端に向かってテーパ状に縮径する第2テーパ部を有する。
【0009】
本発明では、針状部材の組織貫通部が基端から先端に向かって逆テーパ状に拡径する第1テーパ部と、基端から先端に向かってテーパ状に縮径する第2テーパ部を有するので、縫合糸の両端にそれぞれ設けられた係合部材を体内組織に穿刺した針状部材のやじり部に係合させた後、組織貫通部が穿刺により体内組織に形成された貫通孔を通過する際に、第2テーパ部の通過によって貫通孔の径が拡大される。また、針状部材のやじり部に縫合糸の係合部材を係合させた後に、針状部材を該体内組織から抜去しようとする際にも、第1テーパ部の通過によって貫通孔の径が拡大される。そのため、針状部材を該体内組織から抜去する際、やじり部に係合された係合部材が針状部材により体内組織に形成された貫通孔の周囲の組織に引っ掛かることが少なくなり、針状部材を、組織貫通部の第1テーパ部および第2テーパ部が無いものとした場合と比較して、より抜け易くなる。したがって、円滑な処置を行うことができ、体内組織の縫合を短時間で行い得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態に係る縫合装置の操作部の構成を示す正面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態に係る縫合装置の縫合部の構成を示す正面図である。
【
図3C】
図3Cは、
図3Bに示した前側アームのキャップを取り外した状態における平面図である。
【
図5A】
図5Aは、前側アームに対する後側アームの動作を説明するための正面図であり、後側アームを前側アームから離間させた状態を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、前側アームに対する後側アームの動作を説明するための正面図であり、針状部材を一方の糸支持部に位置決めして、後側アームを前側アームに近接させた状態を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、前側アームに対する後側アームの動作を説明するための正面図であり、針状部材を他方の糸支持部に位置決めして、後側アームを前側アームに近接させた状態を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の実施形態に係る縫合装置を用いて行われる手技(縫合)の手順を示す図であり、第1工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(縫合装置の全体構成)
図1Aおよび
図1Bに示すように、本実施形態に係る縫合装置1は、内視鏡(軟性内視鏡等)2に取り付けられた状態で体内に挿入される装置であり、内視鏡2の不図示のカメラによって視認しながら、腹腔内の臓器や消化管に形成された切開部(欠損部や穿孔部を含む)等を体外における操作により縫合するための装置である。
【0013】
縫合装置1は、内視鏡2のシャフトに沿って配置されるシース部3、シース部3の近位端に設けられた操作部(ハンドル)4、およびシース部3の遠位端に設けられた縫合部5を概略備えて構成されている。
【0014】
(シース部)
シース部3は、軸方向に沿って延びた長尺な部材であり、内視鏡2のシャフトの屈曲に追従して屈曲できる程度の柔軟性を有する2本のチューブと1本のワイヤ(または3本のチューブ)から構成されている。すなわち、シース部3は、前側アーム移動ワイヤ31、後側アーム移動チューブ32、およびケースチューブ33を概略備えて構成されている。
【0015】
前側アーム移動ワイヤ31は、可撓性を有する線材からなり、後側アーム移動チューブ32にスライド可能に挿通されて、該後側アーム移動チューブ32内において、その軸方向に沿って移動可能かつ軸周りに回転できるように設けられている。前側アーム移動ワイヤ31としては、本実施形態ではワイヤロープを用いている。ワイヤロープは、たとえば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を螺旋状に撚ってなる撚り線からなるロープである。ただし、ワイヤ31としては、単線からなるワイヤを用いてもよい。また、ワイヤ31に代えて、中空チューブを用いてもよい。
【0016】
後側アーム移動チューブ32は、ケースチューブ33にスライド可能に挿通された中空チューブからなり、ケースチューブ33内において、その軸方向に沿って移動可能かつ軸周りに回転できるように設けられている。後側アーム移動チューブ32としては、可撓性を有しており、樹脂等からなるチューブを用いてもよいが、本実施形態では、耐久性に優れるコイルチューブを用いている。コイルチューブとしては、金属(ステンレス鋼)等からなる長尺平板を螺旋状に巻回してなる平線コイルチューブを用いることができる。ただし、丸線コイルチューブまたは内面平コイルチューブを用いてもよい。
【0017】
なお、後側アーム移動チューブ32としては、ワイヤチューブを用いてもよい。ワイヤチューブは、たとえば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤ(ケーブル)を中空となるように螺旋状に撚ってなるチューブである。
【0018】
後側アーム移動チューブ32は、その近位端から遠位端まで一様な部材(たとえばコイルチューブ)としてもよいが、本実施形態では、コイルチューブの遠位端に剛性の高い金属からなる略円筒状の部材を溶接固定して、後側アーム移動チューブ32の先端部(チューブ先端部)32aとしている。
【0019】
ケースチューブ33は、樹脂等からなる可撓性を有する中空チューブである。前側アーム移動ワイヤ31および後側アーム移動チューブ32の近位端は操作部4に接続されており、前側アーム移動ワイヤ31および後側アーム移動チューブ32の遠位端は縫合部5に接続されている。ケースチューブ33の近位端は、操作部4の近傍にまで至っているが、操作部4には接続されておらず、ケースチューブ33の遠位端は、縫合部5の近傍まで至っているが、縫合部5には接続されていない。ケースチューブ33は、たとえば、ポリエチレンや塩化ビニル等の素材で形成することができる。
【0020】
ケースチューブ33の遠位端には、略円筒状の固定部材33aが一体的に取り付けられており、固定部材33aに内視鏡2のシャフトの先端部が圧入されることにより、縫合装置1を内視鏡2に対して、着脱可能に固定できるようになっている。操作部4の全体をケースチューブ33に対して遠位端側または近位端側に移動(スライド)させることにより、内視鏡2に対して、縫合部5の全体を移動させ、操作部4の全体をケースチューブ33に対してその軸周りに回転させることにより、縫合部5の全体を回転させることができる。
【0021】
(縫合部)
縫合装置1の縫合部5は、
図1Bに示すように構成されている。すなわち、縫合部5は、縫合糸6が装着される前側アーム51と、針状部材52aを有する後側アーム52とを備えて構成されている。
【0022】
後側アーム52は、
図2Aおよび
図2Bに示されているように、針状部材52a、針支持部52b、後側ガイド部52c、および突起部材52dを有している。後側ガイド部52cは略円筒状の部材からなり、後側ガイド部52cの上端側に略短冊板状の針支持部52bの一端が固定されており、後側ガイド部52cの下端側に突起部材52dが固定されている。
【0023】
針支持部52bの他端には、針状部材52aの先端が前方側(遠位端側)にある前側アーム51を指向するように、針状部材52aの基端部が固定されている。突起部材52dは、突起部52eを有している。これらの針状部材52a、針支持部52b、後側ガイド部52cおよび突起部材52dは、特に限定されないが、たとえば、ステンレス鋼等の金属からなり、それぞれ別々の部品として形成された後に、レーザ溶接等により互いに一体的に固定されている。なお、突起部52eは、特に限定されないが、本実施形態では、針支持部52bの延在方向に対して180°反対側に突出するように配置されている。
【0024】
後側アーム52は、後側ガイド部52cの後端面(近位端側の端面)が後側アーム移動チューブ32の先端部32aに、レーザ溶接等により一体的に固定されている(
図1B参照)。後側ガイド部52cは、突起部材52d側の端部から、後述する前側ガイド部53の内側に挿入され、その軸方向に沿ってスライド可能かつ軸周りに回動可能に保持されるようになっている。したがって、後側アーム52は、前方側(遠位端側)にある前側アーム51に対して、接近離間可能かつ相対回動可能である。
【0025】
針状部材52aは、その基端側(針支持部52b側)から先端側(遠位端側)に向かって、結紮具装着部52a1および中軸部52a2によって構成される針基部、組織貫通部52a3、ならびにやじり部52a4を有している。これらの部位52a1~52a4は、互いに実質的に同軸上に配置されるとともに、互いに一体的に形成されている。針状部材52aは、たとえば、単一の金属ブロックを旋盤で加工することにより、製造することができる。
【0026】
やじり部52a4は、その先端が体内組織に突き刺し可能な程度に鋭利に形成された先細の略円錐状の部位であり、その基端の最大径部の外径が組織貫通部52a3の先端の外径よりも大きく、組織貫通部52a3との接続部分に僅かに段差(かえし)ができるように形成されている。
【0027】
組織貫通部52a3は、やじり部52a4の基端に接続され、やじり部52a4の基端の最大径部よりも小径の略円柱状(直胴状)の直胴部、および該直胴部の基端に接続された拡径部52a5を有する部位であり、縫合時に体内組織に突き刺さったやじり部52a4により形成された体内組織の貫通孔を貫通する部位である。
【0028】
組織貫通部52a3と針支持部52bとを接続する部分である針基部のうち、先端側の部分である中軸部52a2は、その基端から先端に渡ってその外径が徐々に小さくなるような先細テーパ状(略円錐台状)の部位である。本実施形態では、中軸部52a2の基端の外径は結紮具装着部52a1の先端の外径に略一致しており、中軸部52a2の先端の外径は組織貫通部52a3の基端の外径と略一致している。ただし、中軸部52a2は、このようなテーパ状に限られず、その基端から先端に向かって段階的に縮径した構成のものでもよく、あるいは中軸部52a2を省略して、組織貫通部52a3を、そのままもしくはその軸方向の長さを大きくして、結紮具装着部52a1の先端に接続して配置してもよい。
【0029】
拡径部52a5は、組織貫通部52a3の基端側(中軸部52a2側)の一部を構成する部位であり、組織貫通部52a3の先端側(やじり部52a4側)の一部を構成する直胴部の外径よりも拡径された部位であって、その基端から先端に向かって逆テーパ状に拡径する先太略円錐台状の第1テーパ部52a5a、および該第1テーパ部52a5aの先端にその基端が接続され、該基端から先端(直胴部の基端)に向かってテーパ状に縮径する先細略円錐台状の第2テーパ部52a5bから構成されている。
【0030】
ただし、拡径部52a5は、このような構成に限定されず、たとえば、第1テーパ部52a5aと第2テーパ部52a5bとの間に直胴部を介装してもよい。また、第1テーパ部52a5aに相当する部分および第2テーパ部52a5bに相当する部分が直線状に拡径または縮径するものにも限られず、曲線状(円形、楕円形、長円形等)に拡径または縮径するものであってもよい。
【0031】
なお、拡径部52a5の最大径部の径(第1テーパ部52a5aの先端の径または第2テーパ部52a5bの基端の径)は、組織貫通部52a3の直胴部の径よりも大きいのは当然として、後述する結紮糸6の係合部材6a,6bの外径と同じ又は大きい値に設定される。拡径部52a5の最大径部の径が係合部材6a,6bの外径よりも大きい必要があるのは、係合部材6a,6bが組織の抵抗になるのを防止するためである。
【0032】
組織貫通部52a3と針支持部52bとを接続する部分である針基部のうち、基端側の部分である結紮具装着部52a1は、縫合糸6を結紮するための後述する結紮具7が挿抜可能に装着される部位である(
図4A、
図4B参照)。本実施形態では、結紮具装着部52a1の基端は、針支持部52bの下面(先端側の面)に固定されている。また、結紮具装着部52a1は、本実施形態では、略円柱状(直胴状)の部位としている。なお、結紮具装着部52a1の径は、後述する結紮具7の結紮用ループ71aの内径との関係で設定される。
【0033】
針状部材52aは、その先端(やじり部52a4)が前側アーム51を指向した状態かつ、その中心軸が後側ガイド部52cの中心軸と略平行となるように、結紮具装着部52a1の基端が針支持部52bに固定されることにより、該針支持部52bに支持されている。
【0034】
後側アーム移動チューブ32をその中心軸周りに回転させれば、針状部材52aの中心軸が先端部32aの中心軸と略平行な状態を維持したまま、針状部材52aを先端部32aの中心軸周りに回動(旋回)させることができる。
【0035】
なお、針状部材52aは、縫合する対象(体内壁)に突き刺してその対象を貫通させることができ、しかも、対象を貫通した状態から逆方向に移動させて対象から引き抜くことができる程度の長さおよび強度を有するものであればよく、その素材や各部の長さ、軸径は特に限定されない。たとえば、針状部材52aの素材は金属製が強度の点で好ましい。
【0036】
また、針状部材52aの長さに関しては、たとえば縫合装置1によって胃壁を縫合する場合であれば、やじり部52a4および組織貫通部52a3が胃壁を貫通できる程度の長さであればよい。具体的には、たとえば、やじり部52a4の長さは1.9~2.9mmの範囲で、組織貫通部52a3の先端側の直胴部の長さは0.5~1.5mmの範囲で、組織貫通部52a3の基端側の拡径部52a5の長さは1.0~2.3mmの範囲で、中軸部52a2の長さは4.2~5.2mmの範囲で、結紮具装着部52a1の長さは1.4~2.4mmの範囲で設定することが好ましい。
【0037】
さらに、同様に胃壁を縫合するとした場合に、針状部材52aの軸径に関しては、針状部材52aの結紮具装着部52a1の軸径は1.5~3.0mmの範囲内で、組織貫通部52a3の先端側の直胴部の軸径は0.5~1.0mmの範囲内で、やじり部52a4の軸径は最大径部で0.6~1.5mmの範囲内で設定することが好ましい。また、組織貫通部52a3の基端側の拡径部52a5の最大径部の軸径は、やじり部52a4の最大径部の軸径以上であり、かつ、やじり部52a4の最大径部の軸径の150%以下の範囲内で設定することが好ましい。
【0038】
なお、後側アーム52が有する針状部材52aの数は、少なくとも1本あればよく、2本以上であってもよい。そして、後側アーム52に針状部材52aを2本以上設ける場合には、そのうちの少なくとも1本が第1テーパ部52a5aと第2テーパ部52a5bとを有する拡径部52a5を有していればよいが、処置をより円滑に行う観点からは、全ての針状部材52aが第1テーパ部52a5aと第2テーパ部52a5bとを有する拡径部52a5を有していることが望ましい。
【0039】
針状部材52aの基端部(結紮具装着部52a1)に挿抜可能に装着される結紮具7は、
図4Aおよび
図4Bに示すように構成されている。結紮具7は、本体部71および締付チューブ72を備えて構成されている。
【0040】
本体部71は、後述する縫合糸6が通される結紮用ループ71aと、不図示の結紮装置が連結される連結用ループ71bと、これらの結紮用ループ71aと連結用ループ71bとを接続する接続部71cとを有している。接続部71cは、その一端に結紮用ループ71aが他端に連結用ループ71bが一体的に接続された柱状(本実施形態では、円柱状)の部位(または部材)である。
【0041】
チューブ72は、接続部71cにスライド可能に外嵌されている。チューブ72は、弾性を有する素材からなる略円筒状の部材からなり、接続部71cから結紮用ループ71a側にスライドさせることにより、該結紮用ループ71aがその内腔に引き込まれるようになっている。結紮用ループ71aは、チューブ72の内腔に引き込まれ過ぎて、チューブ72内から抜け出さないように、該結紮用ループ71aの一部を係止する係止手段として、係止部71dを有している。
【0042】
結紮用ループ71aおよび連結用ループ71bの素材としては、適宜な可撓性を有するものであれば特に限定されないが、たとえば、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン系エラストマーを用いることができる。本実施形態では、結紮用ループ71a、連結用ループ71b、接続部71cおよび係止部71dを含む本体部71の全体を同一の材料で構成している。また、チューブ72の素材としては、適宜な弾性を有するものであれば特に限定されないが、たとえば、シリコーンエラストマーを用いることができる。
【0043】
結紮用ループ71aおよび連結用ループ71bを構成する線材の線径は、たとえば0.3~0.8mmの範囲で設定することができる。接続部71cの軸方向の寸法は、たとえば3~20mmの範囲で設定することができる。チューブ72の軸方向の寸法は、たとえば3~10mmの範囲で設定することができる。チューブ72の外径は、たとえば1~2mmの範囲で設定することができる。チューブ72の内径は、たとえば0.1~0.8mmの範囲で設定することができる。結紮用ループ71aの内径は、1.8~2.2mmの範囲で設定することができる。
【0044】
結紮具7は、結紮用ループ71aに針状部材52aの基端部(結紮具装着部52a1)に挿入または圧入されることにより、針状部材52に挿抜可能に装着される。体内組織の縫合が行われた後の縫合糸6を結紮する際には、不図示の結紮装置により連結用ループ71bが把持され、針状部材52aの先端側に移動させる(押し下げる)ことにより、結紮具装着部52a1から抜け出し、さらにやじり部52a4を越えて移動させることにより、結紮用ループ71aに縫合糸6の両端部が束ねて通された状態となる。
【0045】
次いで、結紮装置を用いて、結紮用ループ71aがチューブ72内に引き込まれるように、チューブ72を結紮用ループ71a側にスライドさせる(またはチューブ72に対して連結用ループ71bを引っ張る)。これにより、結紮用ループ71aおよび係止部71dの一部が縫合糸6とともにチューブ72内に圧入され、結紮用ループ71aの接続部71cと反対側の端部部分(係止部71dが設けられた部分)がチューブ72内の中間部分まで引き込まれて、縫合糸6が結紮される。
【0046】
結紮用ループ71aが縫合糸6とともにチューブ72内に圧入される際には、チューブ72は、係止部71dの一部および縫合糸6からの圧力により外側に拡径して、チューブ72の復元力(締付力)によって、縫合糸6、結紮用ループ71aおよび係止部71dの一部がチューブ72内に強固に保持されるようになっている。
【0047】
前側アーム51は、
図1B、
図3A~
図3Cに示すように、一対の糸支持部51a,51a、前側ガイド部53およびキャップ54を概略備えて構成されている。一対の糸支持部51a,51aは、略V状(円弧状、コの字状、U字状等であってもよい)に形成されて二股状になっており、糸支持部51a,51aのそれぞれの先端部近傍間に渡るように、縫合糸6が装着される。縫合糸6の両端には、それぞれ円環状に形成された係合部材6a,6bが取り付けられている(
図1B参照)。
【0048】
前側アーム51の糸支持部51a,51aのそれぞれの先端部には、前面(遠位端側の面)および後面(近位端側の面)に渡って貫通する貫通孔51b,51bが形成されており、該貫通孔51b,51bの後面側に係合部材6a,6bが係合可能な収容空間(不図示)が形成されている。貫通孔51b,51bの側部の一部には、縫合糸6が通過し得るように、内外に渡り貫通溝51c,51cが形成されている。収容空間は、該貫通孔51b,51bよりも僅かに大きい径であって、係合部材6a,6bがその表裏を貫通する貫通孔が糸支持部51a,51aの貫通孔51b,51bに対して略同心となるように配置した状態で、その内壁によって係脱可能に係合され得る程度の径に設定されている。
【0049】
各係合部材6a,6bの貫通孔は、針状部材52aのやじり部52a4を挿通させることはできるが、やじり部52a4が完全に該貫通孔を挿通すると針状部材52aから係合部材6a,6bが抜け落ちない構造となっている。具体的には、各係合部材6a,6bは、その内径が針状部材52aのやじり部52a4の外径よりも小さいが、針状部材52aの組織貫通部52a3の先端(つまりやじり部52a4との接続部分)の軸径よりも大きくなるように形成されている。なお、糸支持部51a,51aの中央部には縫合糸収容部(不図示)が設けられており、糸支持部51a,51aに渡って配置された縫合糸6の中間部分は、この縫合糸収容部に収容されるようになっている。
【0050】
なお、本実施形態と異なり、後側アーム52に針状部材52aを2本以上設ける場合には、それぞれの針状部材52aの位置に対応するように、前側アーム51に2つ以上の糸支持部51aを設けて、後側アーム52を回動させない構成としてもよい。また、本実施形態では設けていないが、前側アーム51には、この縫合装置1の体内への挿入時等に、針状部材52a(やじり部52a4)を保護するための針収容穴を有していてもよい。針収容穴としては、糸支持部51a,51aの一方に設けてもよいし、糸支持部51a,51aとは別に(たとえば、一方の糸支持部と他方の糸支持部との間の部分に)突起部を設けて、該突起部に設けるようにしてもよい。
【0051】
前側アーム51の糸支持部51a,51aのそれぞれの基端部側の接合部分には、上下に貫通する貫通穴51dが形成されており、この貫通穴51dに、略円柱状のガイドシャフト51eが後面側を指向して突出するように固定されている。このガイドシャフト51eは、後側ガイド部52cの内腔にスライド可能に挿入され、後側アーム52の中心軸方向の往復移動および回動を案内する部材である。ガイドシャフト51eは、本実施形態では、ステンレス鋼等の金属からなり、ガイドシャフト51eの後端(近位端側の端部)には、前側アーム移動ワイヤ31の遠位端がレーザ溶接等により、一体的に固定されている。
【0052】
前側ガイド部53は、略円筒状の部材からなり、背面側の一部の肉厚が正面側よりも厚く形成されて、厚肉部53aとなっている。厚肉部53aの内面側には、上下方向(中心軸に実質的に平行する方向)に延在するとともに、放射方向に凹陥するように一対の凹状ガイド溝53b,53bが形成されている。これらの凹状ガイド溝53b,53bは、そのいずれかに、後側アーム52の突起部材52dに形成された突起部52eがスライド可能に遊嵌されることにより、該後側アーム52の中心軸方向のスライドを案内する部位である。
【0053】
これらの凹状ガイド溝53b,53bは、前側ガイド部53の上部(後端)には至っておらず、前側ガイド部53の内壁の上部には円弧状に凹陥された接続溝53cが形成されている。この接続溝53cは、後側ガイド部52cを前側ガイド部53に対して、近位端側にスライドさせて、突起部52eがこの接続溝53cの位置にあるときに(すなわち、凹状ガイド溝53b、53bから抜け出した状態で)、後側ガイド部52c(後側アーム52)の旋回(回動)を許容するための部位である。接続溝53cの両端(面)は、それぞれ凹状ガイド溝53b,53bの内壁の外側部分に連続しており、その深さは凹状ガイド溝53b,53bの深さと同じとなっている。なお、凹状ガイド溝53b,53bは、前側ガイド部53の下部(前端)に至っている。
【0054】
前側ガイド部53の正面側の上部には、切欠部が形成されている。この切欠部の底辺部(前端側の辺部)53dの両側には、上下方向(中心軸に実質的に平行する方向)に延在するとともに、内外に渡って貫通して形成された貫通ガイド溝53e,53eが形成されている。これらの貫通ガイド溝53e,53eは、そのいずれかに、後側アーム52の針支持部52bがスライド可能に遊嵌されることにより、該後側アーム52の中心軸方向のスライドを案内する部位である。貫通ガイド溝53e,53eの両側の側辺部は、中心軸方向に実質的に平行するとともに、互いに実質的に平行する面となっている。
【0055】
これらの貫通ガイド溝53e,53eの上端(後端)は切欠部の底辺部53dに至っており、下端(前端)は前側ガイド部53の下部(前端)には至っていない。貫通ガイド溝53e,53eの下端(前端)の位置は、前側アーム51の針支持部52bが嵌合されて、当該下端まで至った際に、針状部材52aのやじり部52a4の後端が、縫合糸6の係合部材6aまたは6bを貫通して、係合し得る程度の位置に設定されている。
【0056】
前側ガイド部53の切欠部の両側の側辺部の後側(近位端側)の一部は、傾斜部53f,53fとなっており、前側(遠位端側)の残りの一部は、貫通ガイド溝53e,53eの両側の側辺部の一方(互いに外側となる側)と実質的に同一の面となるように形成されている。貫通ガイド溝53e,53eの両側の側辺部の他方(互いに内側となる側)と底辺部53dとの接続部分は、針支持部52bが貫通ガイド溝53e,53e内に円滑に誘導されるように、円弧状に面取りされて面取部53g,53gとなっている。なお、この接続部分は、円弧状に限られず、針支持部52bが貫通ガイド溝53e,53e内に円滑に誘導されることを条件として傾斜面状であってもよい。
【0057】
前側ガイド部53の後端には、キャップ54が取り付けられている。キャップ54は、後側ガイド部52cが配置される円弧状の凹部54aを有している。後側ガイド部52cにガイドシャフト51eが内挿されて、後側アーム52と前側アーム51とが組み合わされた状態において、前側ガイド部53の後端に取り付けることにより、後側アーム52が前側アーム51から抜け出さないようにする部材である。
【0058】
次に、
図5A,
図5B,
図6A,
図6B,
図7Aおよび
図7Bを参照して、前側アーム51と後側アーム52の相対的な動作について説明する。まず、
図5Aおよび
図5Bに示されているように、後側アーム52を前側アーム51に対して離間するようにスライドさせた状態では、後側アーム52の突起部材52d(突起部52e)が前側ガイド部53の接続溝53cに位置する。この状態では、後側アーム52は、前側アーム51に対して、中心軸周りに接続溝53cの両端面で規定される所定の角度範囲(本実施形態では、略90°)内で自在に回動(旋回)し得る。
【0059】
この状態から、後側アーム52を、
図5Aにおいて符号P1を付して一点鎖線で示すように(
図5Bにおいて時計方向に)回動させると、後側アーム52の突起部52eが前側ガイド部53の接続溝53cの一方の端面に当接し、これ以上の時計方向への回動は規制される(
図6B参照)。この状態で、後側アーム52を前側アーム51に対して近接するようにスライドさせると、突起部52eが接続溝53cの一方の端面に沿って移動し、突起部52eが前側ガイド部53の一方の凹状ガイド溝53bに導かれ、当該凹状ガイド溝53bに嵌合(遊嵌)される。突起部52eと凹状ガイド溝53bとの嵌合は、突起部52eが凹状ガイド溝53bに円滑に導かれるように、比較的にラフに設定されている。すなわち、クリアランスが比較的に大きめに設定されている。
【0060】
これにより、後側アーム52の前側アーム51に対する回動が制限され、後側アーム52は凹状ガイド溝53bに沿って中心軸方向に案内される。後側アーム52を前側アーム51に対してさらに近接するようにスライドさせると、針支持部52bが貫通ガイド溝53eに導かれ、当該貫通ガイド溝53eに嵌合(遊嵌)される。針支持部52bと貫通ガイド溝53eとの嵌合は、針状部材52aのやじり部52a4の先端が一方の糸支持部51aの貫通孔51bに正確に導かれるように、スライドに支障がないことを条件として比較的にタイトに設定されている。すなわち、クリアランスが比較的に小さめに設定されている。
【0061】
後側アーム52を前側アーム51に対してさらに近接するようにスライドさせると、針支持部52bが貫通ガイド溝53eに案内されて、針状部材52aのやじり部52a4の先端が一方の糸支持部51aの貫通孔51bに導かれ、針支持部52bが貫通ガイド溝53eの前端に当接して停止する。これにより、
図6Aおよび
図6Bに示されているように、針状部材52aのやじり部52a4の先端が一方の糸支持部51aの貫通孔51b内の該貫通孔51bに支持される縫合糸6の一方の係合部材6a(
図1B参照)に適切に係合し得る所定位置に位置される。
【0062】
次に、
図5Aにおいて符号P1を付して一点鎖線で示すように、後側アーム52を前側アーム51に対して離間するようにスライドさせて元の状態に戻し、後側アーム52の突起部材52d(突起部52e)を前側ガイド部53の接続溝53cに位置させる。この状態から、後側アーム52を、
図5Aにおいて符号P2を付して二点鎖線で示すように(
図5Bにおいて反時計方向に)回動させると、後側アーム52の突起部52eが前側ガイド部53の接続溝53cの他方の端面に当接し、これ以上の反時計方向への回動は規制される(
図7B参照)。この状態で、後側アーム52を前側アーム51に対して近接するようにスライドさせると、突起部52eが接続溝53cの他方の端面に沿って移動し、突起部52eが前側ガイド部53の他方の凹状ガイド溝53bに導かれ、当該凹状ガイド溝53bに嵌合(遊嵌)される。突起部52eと凹状ガイド溝53bとの嵌合は、突起部52eが凹状ガイド溝53bに円滑に導かれるように、比較的にラフに設定されている。すなわち、クリアランスが比較的に大きめに設定されている。
【0063】
これにより、後側アーム52の前側アーム51に対する回動が制限され、後側アーム52は凹状ガイド溝53bに沿って中心軸方向に案内される。後側アーム52を前側アーム51に対してさらに近接するようにスライドさせると、針支持部52bが貫通ガイド溝53eに導かれ、当該貫通ガイド溝53eに嵌合(遊嵌)される。針支持部52bと貫通ガイド溝53eとの嵌合は、針状部材52aのやじり部52a4の先端が他方の糸支持部51aの貫通孔51bに正確に導かれるように、スライドに支障がないことを条件として比較的にタイトに設定されている。すなわち、クリアランスが比較的に小さめに設定されている。
【0064】
後側アーム52を前側アーム51に対してさらに近接するようにスライドさせると、針支持部52bが貫通ガイド溝53eに案内されて、針状部材52aのやじり部52a4の先端が他方の糸支持部51aの貫通孔51bに導かれ、針支持部52bが貫通ガイド溝53eの前端に当接して停止する。これにより、
図7Aおよび
図7Bに示されているように、針状部材52aのやじり部52a4の先端が他方の糸支持部51aの貫通孔51b内の該貫通孔51bに支持される縫合糸6の他方の係合部材6b(
図1B参照)に適切に係合し得る所定位置に位置される。
【0065】
(操作部)
縫合装置1の操作部(ハンドル)4は、
図1Aに示すように構成されている。すなわち、操作部4は、スライダ部41およびベース部42を備えて構成されている。スライダ部41がベース部42にスライド可能に設けられており、スライダ部41は、ベース部42に対して、先端(遠位端)側に移動した位置と基端(近位端)側に移動した2つの位置に移動し得るようになっている。
【0066】
具体的には、スライダ部41は、その遠位端側が略円柱状に形成された円柱部41aとなっており、その近位端側には該円柱部41aにその遠位端が固定されたグリップ部材41bを有している。スライダ部41の円柱部41aには、その遠位端に開口し、その軸芯に沿って延在する略円柱状のワイヤ挿入孔(不図示)が形成されており、前側アーム移動ワイヤ31の近位端側の部分がスライダ部41の円柱部41aに接続固定されている。
【0067】
ベース部42は、一対の略対称に形成された半割部材を複数のネジ等(不図示)により接合してなる略円筒状の部材からなり、その近位端に開口し、その軸芯に沿って延在する略円柱状のスライダ部挿入孔(不図示)を有している。このスライダ部挿入孔にスライダ部41の円柱部41aが挿入されることにより、スライダ部41がベース部42に対して、該軸芯に沿ってスライド可能にかつ該軸心周りに回動可能に取り付けられている。
【0068】
また、ベース部42は、その遠位端に開口し、その軸芯に沿って延在する略円柱状のチューブ挿入孔(不図示)を有しており、チューブ挿入孔に後側アーム移動チューブ32の近位端側が挿入されて、後側アーム移動チューブ32の近位端側の部分がベース部42に接続固定されている。
【0069】
(縫合工程)
以下、上述した縫合装置1を使用した切開部の縫合工程(縫合作業)について、
図8A~
図8Kを参照して説明する。なお、以下では、胃壁に形成された切開部を縫合する場合を例として説明する。
【0070】
まず、縫合装置1の針状部材52aに結紮具7を装着しておき、この縫合装置1を取り付けた内視鏡2のシャフトを胃内に挿入して、縫合装置1の縫合部5を縫合すべき切開部近傍に配置する。次いで、操作部4を操作して、
図1Bに示すように、前側アーム51に対して後側アーム52を離間させた状態とする。
【0071】
この状態で、
図8Aに示す第1工程を実施する。
図8Aに示す第1工程では、まず、操作部4をケースチューブ33に対して全体的に遠位端側に押し込むとともに、必要に応じて回転させて、同図に示されているように、後側アーム52に対して離間して配置されている前側アーム51のみを切開部SHに挿入する。これと前後して、前側アーム51に対して後側アーム52を回動させて、前側アーム51の一方の糸支持部51aと針状部材52a(やじり部52a4)によって切開部SHの一方の口縁部Saが挟まれた状態となるように、前側アーム51と後側アーム52を配置する。
【0072】
次いで、後側アーム52に対して前側アーム51を近接させると、
図8Bに示されているように、針状部材52aが一方の口縁部Saに突き刺さり、該口縁部Saを貫通し、さらに針状部材52aのやじり部52a4が一方の糸支持部51aの収容空間内に収容(支持)された係合部材6aの貫通孔を貫通して通過する。これにより、係合部材6aの貫通孔は、針状部材52aの組織貫通部52a3に至り、係合部材6aが針状部材52aに係合された状態となる。
【0073】
この状態では、針状部材52aの組織貫通部52a3の直胴部は、やじり部52a4の通過により形成された一方の口縁部Saの貫通孔(以下、第1穿孔という)を貫通して外側(体腔側)に位置しており、組織貫通部52a3の拡径部52a5の最大径部は、該第1穿孔内または該第1穿孔を貫通して外側に位置するようになっている。第1穿孔はやじり部52a4の通過後、時間の経過とも相俟って、組織の復元性によりその径が収縮しようとするが、組織貫通部52a3の拡径部52a5の一部または全部により、該第1穿孔が内側から外側に押圧されて、少なくとも組織貫通部52a3の直胴部の径よりも拡径された状態が維持される。
【0074】
次いで、操作部4を操作して、縫合部5において、後側アーム52に対して前側アーム51を離間させた状態とすると、
図8Cに示されているように、係合部材6aが係合された針状部材52aが第1穿孔を逆行して胃内に戻る。これにより、縫合糸6の一部(係合部材6a側の一部)が一方の口縁部Saを貫通した状態となる。
【0075】
やじり部52a4のかえしの部分に係合された係合部材6aが第1穿孔を逆行する際には、それに先行して拡径部52a5が該第1穿孔を通過(逆行)しているので、該第1穿孔は拡径部52a5の最大径部の径に応じて押し広げられて、その直後に係合部材6aが通過するため、係合部材6aが第1穿孔の周囲の組織に引っ掛かることが少なくなり、より円滑に通過することができる。
【0076】
その後、
図8Dに示されているように、前側アーム51の他方の糸支持部51aと針状部材52aによって切開部SHの他方の口縁部Sbが挟まれた状態となるように、前側アーム51と後側アーム52を配置する。
【0077】
この状態から、操作部4を操作して、前側アーム51に対して後側アーム52を近接させると、
図8Eに示されているように、針状部材52aが他方の口縁部Sbに突き刺さり、該口縁部Sbを貫通し、さらに針状部材52aのやじり部52a4が他方の糸支持部51aの収容空間内に収容(支持)された係合部材6bの貫通孔を貫通して通過する。これにより、係合部材6bの貫通孔は、針状部材52aの組織貫通部52a3に至り、係合部材6bが針状部材52aに係合された状態となる。
【0078】
次いで、操作部4を操作して、後側アーム52に対して前側アーム51を離間させた状態とすると、
図8Fに示されているように、係合部材6bが係合された針状部材52aが他方の口縁部Sbに挿通させる際に形成された孔(以下、第2穿孔という)を逆行して胃内に戻る。これにより、縫合糸6の一部(係合部材6b側の一部)が他方の口縁部Sbを貫通した状態となる。
【0079】
この場合にも、上述した第1穿孔の場合と同様に、やじり部52a4のかえしの部分に係合された係合部材6bが第2穿孔を逆行する際には、それに先行して拡径部52a5が該第2穿孔を通過(逆行)しているので、該第2穿孔は拡径部52a5の最大径部の径に応じて押し広げられて、その直後に係合部材6bが通過するため、係合部材6bが第2穿孔の周囲の組織に引っ掛かることが少なくなり、より円滑に通過することができる。
【0080】
これにより、縫合糸6の両端が固定されている一対の係合部材6a,6bがいずれも一本の針状部材52aに係合した状態となり、縫合糸6によって、針状部材52a(つまり胃内)から第1穿孔を貫通して胃外にでて、胃外面から第2穿孔を貫通して針状部材52a(つまり胃内)に戻る輪が形成される。
【0081】
次いで、操作部4を操作して、
図8Gに示されているように、前側アーム51(糸支持部51a)を、切開部SHを通して胃内に移動させる。前側アーム51(糸支持部51a)が胃内に入ると、針状部材52aが切開部SHから離間し、縫合糸6の両端が切開部SHから離間するように移動するので、縫合糸6において第1穿孔を貫通している部分と第2穿孔を貫通している部分とが引き寄せられ、切開部SHの一対の口縁部Sa,Sbの端面同士が当接して接合される。
【0082】
縫合装置1による切開部SHの縫合作業が終了したならば、続いて、縫合糸6の結紮作業を行う。この作業には、
図8Hに示されている結紮装置8が用いられる。結紮装置8としては、たとえば、内視鏡の処置具案内管を介して体内に導入されるシースおよび該シース内に摺動可能に挿通された操作ワイヤを備え、該操作ワイヤの遠位端に、シースの遠位端から突出することにより自己の弾性により略V字状に開脚し、該シースの遠位端部に引き込まれることにより閉脚するようにした連結フックを設けて構成されたものを用いることができる。
【0083】
図8Gに示すように、結紮具7は、針状部材52aの基端部(結紮具装着部52a1)に、結紮用ループ71a(
図1B、
図4B参照)が挿入された状態で保持されているので、結紮装置8(
図8H参照)の遠位端を結紮具7の連結用ループ71bの近傍に配置し、結紮装置8から突出されて開脚した連結フックで該連結用ループ71bを把持し、該連結用ループ71bを結紮装置8のシースの遠位端部に引き込むことにより、結紮具7を結紮装置8のシースの遠位端に連結する。
【0084】
次いで、
図8Hに示されているように、結紮具7が連結された結紮装置8のシースの遠位端部を、切開部SH側(
図8Hにおいて下方)へ移動させて、結紮具7の結紮用ループ71aの内側に縫合糸6の両端部が挿通された状態とする。これにより縫合糸6が絞り込まれ、縫合糸6の両端部が束ねられた状態となる。
【0085】
縫合糸6の両端部が束ねられた状態から、結紮装置8の連結フックがシース内にさらに引き込まれるように操作ワイヤをスライドさせると、
図8Iに示されているように、締付チューブ72内に結紮用ループ71aが縫合糸6とともに引き込まれ、締付チューブ72内に結紮用ループ71aおよび縫合糸6が密着しかつ圧縮された状態で収容される。つまり、結紮用ループ71aと縫合糸6とがチューブ72内に締まり嵌めされた状態で収容されることになるので、縫合糸6および結紮用ループ71aの一端部は、チューブ72から抜け落ちないように固定される。これにより、縫合糸6の結紮が完了する。
【0086】
縫合糸6の結紮が完了したならば、結紮ワイヤの位置が変化しないようにしつつ、結紮装置8の操作ワイヤに対してシースを引き込むように近位端側にスライドすると、結紮装置8のシースの遠位端から連結フックおよびループ部材の他端部が突出(露出)し、連結フックが自己の弾性により開脚して、把持が解除され、
図8Jに示されているように、結紮状態とされた結紮具7から結紮装置8が分離される。
【0087】
最後に、
図8Kに示されているように、結紮具7と縫合部5(針状部材52a)との間の縫合糸6をループカッターと称される内視鏡用はさみ鉗子等により切断して、結紮具7と縫合部5とを切り離し、さらに必要に応じて、結紮状態の結紮具7の連結用ループ71bを、ループカッター等により切断し、回収することにより、1針の縫合に係る一連の手技が完了する。
【0088】
上述した実施形態によると、針状部材52aの組織貫通部52a3が基端から先端に向かって逆テーパ状に拡径する第1テーパ部52a5aと、基端から先端に向かってテーパ状に縮径する第2テーパ部52a5bを有する拡径部52a5を備えているので、縫合糸6の両端にそれぞれ設けられた係合部材6a,6bを胃壁に穿刺した針状部材52aのやじり部52a4に係合させた後、組織貫通部52a3が穿刺により胃壁に形成された貫通孔を通過する際に、該胃壁に形成された貫通孔(第1穿孔、第2穿孔)の径が第2テーパ部52a5bの通過によって拡大される。また、針状部材52aのやじり部52a4に縫合糸6の係合部材6a,6bを係合させた後に、針状部材52aを胃壁から抜去しようとする際にも、第1テーパ部52a5aの通過によって胃壁に形成された貫通孔(第1穿孔、第2穿孔)の径が拡大される。このため、針状部材52aのやじり部52a4に縫合糸6の係合部材6a,6bを係合させた後に、該胃壁の貫通孔から抜去する際に、やじり部52a4に係合された係合部材6a,6bが針状部材52aにより形成された貫通孔の周囲の組織に引っ掛かることが少なくなり、針状部材52aを、第1テーパ部52a5aおよび第2テーパ部52a5bが無いものとした場合と比較して、より抜け易くなる。したがって、円滑な処置を行うことができ、体内組織の縫合を短時間で行い得るようになる。
【0089】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。従って、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0090】
1…縫合装置
2…内視鏡
3…シース部
31…前側アーム移動ワイヤ
32…後側アーム移動チューブ
33…ケースチューブ
4…操作部
41…スライダ部
42…ベース部
5…縫合部
51…前側アーム
51a…糸支持部
52…後側アーム
52a…針状部材
52a1…結紮具装着部(針基部)
52a2…中軸部(針基部)
52a3…組織貫通部
52a4…やじり部
52a5…拡径部
52a5a…第1テーパ部
52a5b…第2テーパ部
52b…針支持部
52c…後側ガイド部
52d…突起部材
52e…突起部
53…前側ガイド部
53a…厚肉部
53b…凹状ガイド溝
53c…接続溝
53d…底辺部
53e…貫通ガイド溝
53f…傾斜部
53g…面取部
54…キャップ
6…縫合糸
6a,6b…係合部材
7…結紮具
71…本体部
71a…結紮用ループ
71b…連結用ループ
72…締付チューブ
SH…切開部
Sa,Sb…口縁部
8…結紮装置