(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】複合ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20221206BHJP
H01B 7/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01B7/00 310
H01B7/04
(21)【出願番号】P 2021142934
(22)【出願日】2021-09-02
(62)【分割の表示】P 2018219659の分割
【原出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】塚本 佳典
(72)【発明者】
【氏名】松岡 功
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】森山 真至
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110836(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209299(WO,A1)
【文献】特開2008-311124(JP,A)
【文献】特開2015-069726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源供給用の複数の電源線、および前記電源線よりも外径が小さい信号伝送用の1本以上の信号線を撚り合わせた集合体と、
前記集合体の周囲を覆うように設けられた一括シールド層と、
前記一括シールド層の周囲を被覆するジャケットと、を備え、
前記一括シールド層の厚さは、前記信号線に設けられた信号線側シールド層の厚さよりも大きく、
前記集合体は、前記複数の電源線同士がケーブル中心部で接触して配置され、前記信号線が前記複数の電源線の間に配置され、屈曲による応力を前記複数の電源線が負担する、
複合ケーブル。
【請求項2】
前記信号線は、前記信号線への外力が付与されていない状態で前記複数の電源線の間に配置されている、
請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項3】
前記信号線は、前記複数の電源線に押し付けされていない状態で配置されている、
請求項1または2に記載の複合ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット等の可動部では、モータ駆動用の動力線や信号線がそれぞれ単体で配線されており、可動時に各種の電線やケーブルがバラバラにならないように、結束部材等で束ねた状態で配線されることが多い。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電線やケーブル同士を結束部材等で束ねた状態で可動部に配線した場合には、束ねた部分の外径が大きくなるため、可動部にある程度大きい配線スペースを確保する必要がある。しかし、近年のロボット等では、小型化に伴い電線やケーブルの配線スペースを小さくしたいという要求がある。
【0006】
また、電線やケーブル同士を結束部材等で束ねた状態で配線した場合には、使用時において、例えば動力線が引っ張られたときに結束部分で信号線が引っ張られる等して、信号線の伝送特性が劣化してしまうおそれがあった。特に、信号線が高周波信号を伝送する場合には、伝送特性の劣化の影響が大きくなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、細径で小さい配線スペースにも配線でき、かつ使用時の伝送特性の劣化を抑制可能な複合ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、電源供給用の複数の電源線、および前記電源線よりも外径が小さい信号伝送用の1本以上の信号線を撚り合わせた集合体と、 前記集合体の周囲を被覆するジャケットと、を備え、前記集合体は、前記複数の電源線同士がケーブル中心部で接触して配置され、前記信号線が前記複数の電源線の間に配置され、屈曲による応力を前記複数の電源線が負担する、複合ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細径で小さい配線スペースにも配線でき、かつ使用時の伝送特性の劣化を抑制可能な複合ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る可動部用複合ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る可動部用複合ケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。可動部用複合ケーブル1は、例えば、ロボットアーム等の産業用ロボットの可動部用の配線として用いられるものである。
【0013】
図1に示すように、可動部用複合ケーブル1は、電源供給用の複数の動力線2と、動力線2よりも外径が小さい信号伝送用の1本以上の信号線3と、複数の動力線2と1本以上の信号線3とを撚り合わせた集合体4の外周に巻き付けられた押さえ巻きテープ5と、押さえ巻きテープ5の周囲を被覆するジャケット7と、を備えている。このような構造からなる可動部用複合ケーブル1の外径は、例えば、15mm~17mm程度である。
【0014】
動力線2は、撚り合わせられた複数の絶縁電線21と、前記複数の絶縁電線の周囲に巻き付けられ、複数の絶縁電線21を一括して被覆する被覆部材としての樹脂テープ22と、を有する。動力線2の被覆部材としては、動力線2の外径を細くでき、さらに複数の動力線2同士が接触する部分に応力がかかりやすく変形しやすいものが適用可能であるが、特に樹脂テープ22を用いて複数の絶縁電線21を被覆することにより、その効果が得られやすくなる。樹脂テープ22は、その内面が絶縁電線21の表面に直接接触するように巻き付けられていることが好ましい。動力線2を構成する絶縁電線21のそれぞれは、例えば、モータ(例えば、アクチュエータ等)を駆動する駆動電流を供給するなど、低速の電源信号を伝送するために用いられるものである。各絶縁電線21は、銅等の電気導体からなる素線を撚り合わせた撚線導体21aの外周に絶縁体21bを被覆して構成される。絶縁体21bは、後述する制御信号線31の絶縁体311b及び通信線32の絶縁体321bよりも厚さが小さいことが好ましい。絶縁体21bの厚さは、例えば、0.12mm以下である。動力線2は、絶縁体21bをこのような厚さにすることにより、信号線3よりも動力線2の外径を大きくして動力線2に屈曲等の応力を集中させることと、可動部用複合ケーブル1の外径を細径にすることと、を両立することに有効である。なお、動力線2は、本発明の電源線の一態様である。
【0015】
ここでは、2本の動力線2を用い、両動力線2がそれぞれ25本の絶縁電線21を有する場合を示しているが、動力線2の本数、及び動力線2を構成する絶縁電線21の本数は、これに限定されない。また、複数の動力線2を撚り合わせた際に偏りが生じてしまうことを抑制するため、動力線2の外径は同程度であることが望ましい。具体的には、動力線2の外径は、他の動力線2の外径の80%以上120%以下であるとよい。なお、ここでいう動力線2の外径とは、動力線2が外力により変形しておらず、断面視における外形が円形状となっている状態での外径をいう。
【0016】
樹脂テープ22は、絶縁電線21の撚りがほどけないようにまとめる役割と、屈曲時に周囲の電線又はケーブル(他の動力線2や信号線3)、あるいは樹脂テープ22の内面に接触する絶縁電線21との間で滑りを良くし、繰り返し屈曲することによる摩耗を抑制する役割を果たす。樹脂テープ22としては、摩耗に強く、かつ滑りの良い材質を用いるとよく、例えば、ナイロン、あるいは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等のフッ素樹脂からなるものを用いることができる。樹脂テープ22にまとめられた複数の絶縁電線21同士は、互いに樹脂テープ22内で比較的自由に動くことができるようになっている。
【0017】
信号線3は、制御信号を伝送する制御信号線31と、データ通信用の通信線(LANケーブル)32と、を有する。ここでは、1本の制御信号線31と、1本の通信線32とを有する場合を説明するが、制御信号線31や通信線32の本数はこれに限定されず、例えば、通信線32のみ、あるいは制御信号線31のみを有していてもよい。
【0018】
信号線3としての制御信号線31及び通信線32は、動力線2よりも外径が小さい。より具体的には、信号線3としての制御信号線31及び通信線32の外径は、動力線2の外径の70%以下である。詳細は後述するが、本実施の形態では、外径が大きく応力がかかっても伝送特性が劣化しにくい動力線2に屈曲時の応力を集中させることで、細径で伝送特性が変化しやすい信号線3にかかる応力を低減している。
【0019】
また、本実施の形態では、制御信号線31と通信線32の外径を同程度に調整している。具体的には、制御信号線31の外径を、通信線32の外径の80%以上120%以下としている。制御信号線31と通信線32の外径を同程度とすることで、信号線3の外径を揃え、曲げにくい方向が生じたり、撚り合わせの際に偏りが生じてしまったりすることを抑制可能になる。
【0020】
なお、撚り合わせの際に偏りが発生してしまうと、可動部用複合ケーブル1を所定長さに切断した際に、当該可動部用複合ケーブル1に含まれる動力線2同士の長さ、あるいは信号線3同士の長さに差が生じ、信号の受信タイミングのずれ等の不具合が発生するおそれがある。動力線2と信号線3とがバランス良く配置されていることで、可動部用複合ケーブル1の屈曲時にある電線に応力が集中するといった不具合を抑制でき、繰り返し屈曲を受けることによる断線等の不具合を抑制して、可動部用複合ケーブル1の長寿命化が可能になる。
【0021】
制御信号線31は、例えばエアー注入器の制御など、種々の機器の制御に用いられる制御信号を伝送するものであり、少なくとも動力線2よりも高速な信号を伝送する。制御信号線31は、銅等の電気導体からなる素線(例えば、0.1mm以下の外径を有する素線)を撚り合わせた撚線導体311aの周囲に絶縁体311bを有する絶縁電線311を撚り合わせ、その周囲に、押さえ巻きテープ312、シールド層313、及びシース314を順次設けて構成されている。押さえ巻きテープ312は、例えば、紙や不織布等からなる。シールド層313は、金属素線を編み込んだ編組シールドからなる。シールド層313は、本発明の信号線用シールド層の一態様である。
【0022】
絶縁体311bは、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素樹脂からなるものを用いることができる。また、絶縁体311bは、厚さが0.15mm以下である。絶縁電線311は、このような絶縁体311bとすることにより、制御信号線31を細径にすることができるため、可動部用複合ケーブル1を小さい配線スペースに配線しやすい大きさに細径化することができる。
【0023】
本実施の形態では、ケーブル中心に介在315を配置し、その周囲に7本の絶縁電線311を螺旋状に撚り合わせ、その周囲に押さえ巻きテープ312、シールド層313、及びシース314を順次設けて制御信号線31を構成した。中心に介在315を配置したのは、外径を通信線32と略同等に調整し、かつ、屈曲時に絶縁電線311にかかる応力をより低減するためである。介在315としては、例えば、スフ糸(ステープルファイバー糸)等の糸状体を用いることができる。なお、介在315に用いる糸状体はスフ糸に限らず、例えば、紐や紙、不織布等からなるものも用いることができる。また、介在315として糸状体に限らず、例えば帯状のものを用いることもできる。
【0024】
通信線32は、データ通信に用いられるデジタル信号を伝送するものであり、例えば、カテゴリー5e~カテゴリー7のLANケーブルである。通信線32は、1MHz以上600MHz以下の高周波信号を伝送するために用いられる。通信線32は、例えば、100Ωの特性インピーダンスを有する。通信線32は、2本の通信線用対撚線321を撚り合わせ、その周囲に一括して内部シース322を被覆し、その周囲に金属素線を編み込んだ編組シールドからなるシールド層323、及びポリ塩化ビニル(PVC)樹脂等からなるシース324を順次設けて構成されている。シールド層323は、本発明の信号線用シールド層の一態様である。
【0025】
通信線用対撚線321は、銅等の電気導体からなる素線(例えば、0.1mm以下の外径の素線)を複数本撚り合わせた撚線導体321aの周囲に発泡プロピレン、発泡ポリエチレン等の発泡樹脂からなる絶縁体321bを有する絶縁電線321cを対撚りして構成されている。絶縁体321bを構成する発泡樹脂として発泡プロピレン、発泡ポリエチレンからなるものを用いることで、絶縁体321bの厚さを小さく(例えば、0.3mm以下に)しながら絶縁体321bの誘電率を低くして高周波での伝送特性を向上できる。絶縁体321bとして発泡樹脂を用いた場合、外力により変形して伝送特性が劣化しやすくなるが、本実施の形態によれば、屈曲時に通信線32に応力がかかりにくい(詳細は後述する)ので、絶縁体321bに発泡樹脂を用いることが可能である。なお、絶縁体321bに用いる発泡樹脂は、架橋されているとよい。
【0026】
集合体4は、2本の動力線2と2本の信号線3(制御信号線31及び通信線32)を撚り合わせて構成される。本実施の形態では、断面形状をより円形状に近づけるため、2本の動力線2と2本の信号線3と介在8とを撚り合わせて集合体4を形成した。介在8としては、例えば、スフ糸等の糸状体を用いることができる。スフ糸は、適度なクッション性を有しており、屈曲しても折れるといったこともないので、可動部に用いられる可動部用複合ケーブル1の介在8として好適である。なお、介在8に用いる糸状体はスフ糸に限らず、例えば、紐や紙、不織布等からなるものも用いることができる。また、介在8として糸状体に限らず、例えば帯状のものを用いることもできる。介在8は、クッション性を付与することで、屈曲時に信号線3にかかる応力を分散し、信号線3の伝送特性の劣化を抑制する役割も果たしている。
【0027】
可動部用複合ケーブル1を細径化しても信号線3に屈曲時の応力がかかりにくくするために、2本の動力線2と信号線3との間の隙間(つまり、動力部2同士が接触した際に形成される谷間部分)は、介在8で充満されていることが好ましい。
【0028】
本実施の形態に係る可動部用複合ケーブル1では、動力線2と信号線3とが直接接触しているが、この場合、動力線2同士の接触面積(単位長さあたりの接触面積)Aよりも、動力線2と信号線3との接触面積(単位長さあたりの接触面積)B1,B2の方が小さくされる。本実施の形態では、集合体4は、動力線2同士が互いに押し潰され偏平するように撚り合わせて構成されている。また、信号線3に撚り合わせ時に負荷をなるべくかけないようにすることで、信号線3は断面形状がほぼ無負荷の状態(外力が付与されていない状態)と同等となるように構成されている。なお、接触面積B1は、2本の動力線2と通信線32との接触面積の合計値であり、接触面積B2は、2本の動力線2と制御信号線31との接触面積の合計値である。動力線2同士の接触面積Aは、接触面積B1より大きく、かつ、接触面積B2より大きい。
【0029】
可動部用複合ケーブル1では、接触面積Aと接触面積B1,B2との関係(A<B1、A<B2)は、可動部用複合ケーブル1の長手方向のどの位置でも成り立つ。つまり、可動部用複合ケーブル1では、ケーブルの長さ方向に連続して接触面積Aと接触面積B1,B2との関係(A<B1、A<B2)が成り立つ。
【0030】
制御信号線31及び通信線32は、動力線2に押し付けられていないので、屈曲の際に複数の動力線2と独立して動くことができる。よって、屈曲時の応力がほぼ動力線2に負担され、信号線3に屈曲時の応力がかかりにくくなる。その結果、屈曲時に信号線3の断面形状が変形してしまうことを抑制でき、比較的高速の信号を伝送する信号線3において、伝送特性が劣化してしまうことを抑制可能になる。
【0031】
なお、本実施の形態では、動力線2と信号線3とが直接接触している場合について説明したが、動力線2と信号線3とが直接接触していなくてもよい。この場合、動力線2と信号線3とが、介在8を介して間接的に接触しているとよい。
【0032】
動力線2の撚線導体21aの撚り方向は、動力線2における絶縁電線21の撚り方向と反対方向であるとよく、また、絶縁電線21の撚り方向は、集合体4の撚り方向と反対方向であるとよい。撚線導体21aの撚り方向は、集合体4の撚り方向と同じ方向となる。これは、絶縁電線21の撚り方向を、撚線導体21aの撚り方向や集合体4の撚り方向と同じ方向とした場合、撚線導体21aを構成する素線に繰り返し同方向の撚りが加わることとなり、屈曲時等に素線が絞り切れてしまうおそれがあるためである。絶縁電線21の撚り方向を、撚線導体21aや集合体4の撚り方向と反対方向とすることで、素線の断線を抑制し、屈曲に対する耐性を向上することが可能になる。
【0033】
なお、撚線導体21aの撚り方向とは、絶縁電線21の一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて素線が回転している方向である。絶縁電線21の撚り方向とは、動力線2の一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて絶縁電線21が回転している方向である。また、集合体4の撚り方向とは、集合体4の一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて動力線2や信号線3が回転している方向である。
【0034】
同様に、制御信号線31の撚線導体311aの撚り方向は、制御信号線31における絶縁電線311の撚り方向と反対方向であるとよく、また、絶縁電線311の撚り方向は、集合体4の撚り方向と反対方向であるとよい。なお、撚線導体311aの撚り方向とは、絶縁電線311の一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて素線が回転している方向である。絶縁電線311の撚り方向とは、制御信号線31の一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて絶縁電線311が回転している方向である。
【0035】
さらに同様に、通信線32の撚線導体321aの撚り方向は、通信線用対撚線321の撚り方向と反対方向であるとよく、また、通信線用対撚線321の撚り方向は、集合体4の撚り方向と反対方向であるとよい。なお、撚線導体321aの撚り方向とは、絶縁電線321cの一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて素線が回転している方向である。通信線用対撚線321の撚り方向とは、通信線用対撚線321の一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて絶縁電線321cが回転している方向である。
【0036】
集合体4の周囲には、押さえ巻きテープ5が動力線2及び信号線3の表面の一部に接するように螺旋状に巻付けられている。押さえ巻きテープ5としては、紙テープや不織布からなるテープ等を用いることができる。押さえ巻きテープ5の周囲には、金属素線を編み込んだ編組シールドからなる一括シールド層としてのシールド層6が設けられている。シールド層6の周囲には、絶縁体からなるジャケット7が被覆されている。ジャケット7としては、可動部用複合ケーブル1を外力から保護できるように、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂等からなるもの用いることができる。
【0037】
シールド層6は、編組シールドを構成する金属素線の外径が信号線3(制御信号線31及び通信線32)に設けられた編組シールド313,323を構成する金属素線の外径よりも大きい(例えば、1.5倍以上大きい)ことが好ましい。また、シールド層6の厚さは、シールド層313及びシールド層323の厚さよりも大きいことが好ましい。シールド層6は、このような編組シールドからなることにより、信号線3よりも動力線2の外径を大きくしつつ可動部用複合ケーブル1の外径を細径するために、動力線2にシールド層を設けない構造としても、動力線2の接続先であるモータ等からの低周波のノイズを動力線2が受けることを抑制できる。
【0038】
ジャケット7は、可動部用複合ケーブル1を外力から保護するために、動力線2を構成する絶縁体21b及び樹脂テープ22、信号線3を構成する絶縁体311b、絶縁体321b、シース314及びシース324、シールド層6よりも厚さが大きいことが好ましい。
【0039】
すべての電線、すなわち2本の動力線2と2本の信号線3のそれぞれは、押さえ巻きテープ5の内周面に接触している。押さえ巻きテープ5は、介在8の量や配置を適宜調整することにより、断面視でほぼ円形状となるように巻き付けられている。
【0040】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る可動部用複合ケーブル1では、動力線2と信号線3とが直接接触していないか、あるいは、動力線2と信号線3とが動力線2同士の接触面積Aよりも小さい接触面積B1,B2で直接接触している。
【0041】
例えば、動力線2と信号線3との接触面積Bが大きいと、屈曲時に信号線3が応力を受けて変形しやすくなり、伝送特性が劣化し易くなる。本実施の形態では、動力線2と信号線3との接触面積B1,B2を小さく(あるいは動力線2と信号線3とを非接触に)し、かつ動力線2同士を強く押し付けた状態とすることによって、屈曲時の応力を動力線2に集中させ、屈曲時に信号線3にかかる応力を低減させることを可能にしている。
【0042】
また、通常、可動部に配線されるケーブルにおいては、屈曲時に中心に配置される部材に応力が集中してしまうため、ケーブルの中心部には電線を配置しないことが多い。しかし、この場合、ケーブルの中心部に無駄な空間ができることになり、ケーブル外径が大きく(20mm以上に)なってしまう。そこで、本実施の形態では、ケーブルの中心部に電線を配置しないのではなく、動力線2をケーブルの中心部に配置する。すなわち、本実施の形態では、ケーブルの中心部に動力線2同士が直接接触する接触点を配置する構造とした。本実施の形態では、このようなケーブル構造とすることで、ケーブルの中心部の無駄なスペースを有効に利用することができ、可動部用複合ケーブル1全体を細径化することができる。さらに、本実施の形態では、このようなケーブル構造とすることで、屈曲時の応力を動力線2に集中させ、屈曲時に信号線3にかかる応力を低減させることができるため、屈曲時において、信号線3の伝送特性が劣化することを抑制することができる。
【0043】
ケーブル中心に配置された動力線2には、屈曲時に応力が集中することになるが、動力線2は、モータの駆動電流などの低速信号(電源信号)を伝送するものであるから、応力が付与されても伝送特性に殆ど影響がない。さらに動力線2は、樹脂テープ22内で絶縁電線21が比較的自由に動けるように構成されているために、屈曲時に応力が加わると、樹脂テープ22内で絶縁電線21が動いて応力を分散することができる。
【0044】
このように、本実施の形態によれば、細径で小さい配線スペースにも配線でき、かつ使用時の伝送特性の劣化を抑制可能な可動部用複合ケーブル1を実現できる。
【0045】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0046】
[1]撚り合わせられた複数の絶縁電線(21)が被覆部材(22)によって被覆されており、前記被覆部材(22)の表面で互いに接触して配置されている電源供給用の複数の電源線(2)と、前記電源線(2)よりも外径が小さい信号伝送用の1本以上の信号線(3)と、前記複数の電源線(2)と前記1本以上の信号線(3)とを撚り合わせた集合体(4)の周囲を被覆するジャケット(7)と、を備え、前記電源線(2)と前記信号線(3)とが直接接触していないか、あるいは、前記電源線(2)と前記信号線(3)とが前記電源線(2)同士の接触面積(A)よりも小さい接触面積(B1,B2)で直接接触している、可動部用複合ケーブル(1)。
【0047】
[2]前記信号線(3)の外径が、前記電源線(2)の外径の70%以下である、[1]に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0048】
[3]前記前記被覆部材(22)は、前記複数の絶縁電線(21)の周囲に巻き付けられた樹脂テープ(22)からなる、[1]または[2]に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0049】
[4]前記電源線(2)は、前記複数の絶縁電線(21)同士が前記被覆部材(22)内で互いに動くことができるように撚り合わせられている、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0050】
[5]前記電源線(2)における前記複数の絶縁電線(21)のそれぞれは、撚線導体(21a)の周囲を絶縁体(21b)で被覆してなり、前記絶縁電線(21)の撚り方向は、前記撚線導体(21a)および前記集合体(4)の撚り方向と反対方向である、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0051】
[6]前記集合体(4)は、前記電源線(2)同士が互いに押し潰され偏平するように撚り合わせて構成されている、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0052】
[7]前記信号線(3)は、データ通信用の通信線(32)を含む、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0053】
[8]前記電源線(2)および前記信号線(3)のそれぞれは、前記集合体(4)の外周に巻き付けられた押さえ巻きテープ(5)の内周面に接触している、[1]乃至[7]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0054】
[9]前記信号線(3)は、撚線導体(311a,321a)の周囲を絶縁体(311b,321b)で被覆してなる複数の絶縁電線(311,321)が撚り合わせられており、前記絶縁電線(311,321)の撚り方向は、前記撚線導体(311a,321a)および前記集合体(4)の撚り方向と反対方向である、[1]乃至[8]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0055】
[10]前記電源線(2)における前記複数の絶縁電線(21)のそれぞれは、撚線導体(21a)の周囲を絶縁体(21b)で被覆してなり、前記信号線(3)は、撚線導体(311a,321a)の周囲を絶縁体(311b,321b)で被覆してなる複数の絶縁電線(311,321)が撚り合わせられており、前記電源線(2)を構成する前記絶縁電線(21)の前記絶縁体(21b)の厚さが、前記信号線(3)を構成する前記絶縁電線(311,321)の前記絶縁体(311b,321b)の厚さよりも小さい、[1]乃至[9]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0056】
[11]金属素線を編み込んだ編組シールドからなり、前記集合体(4)の周囲を覆うように設けられた一括シールド層(6)を備え、前記信号線(3)は、撚り合わされた複数の絶縁電線(311,321)と、金属素線を編み込んだ編組シールドからなり前記複数の絶縁電線(311,321)の周囲を覆う信号線側シールド層(313,323)と、を有し、一括シールド層(6)の厚さが、信号線側シールド層(313,323)の厚さよりも大きい、[1]乃至[10]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0057】
[12]金属素線を編み込んだ編組シールドからなり、前記集合体(4)の周囲を覆うように設けられた一括シールド層(6)を備え、前記信号線(3)は、撚り合わされた複数の絶縁電線(311,321)と、金属素線を編み込んだ編組シールドからなり前記複数の絶縁電線(311,321)の周囲を覆う信号線側シールド層(313,323)と、を有し、一括シールド層(6)を構成する金属素線の外径が、信号線側シールド層(313,323)を構成する金属素線の外径よりも大きい、[1]乃至[11]の何れか1項に記載の可動部用複合ケーブル(1)。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…可動部用複合ケーブル
2…動力線(電源線)
21…絶縁電線
22…樹脂テープ(被覆部材)
3…信号線
31…制御信号線
32…通信線
4…集合体
5…押さえ巻きテープ
6…シールド層
7…ジャケット
8…介在