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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】接合用金属部材及び接合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/70 20060101AFI20221206BHJP
   B29C 65/44 20060101ALI20221206BHJP
   B23K 26/352 20140101ALN20221206BHJP
【FI】
B29C65/70
B29C65/44
B23K26/352
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021519042
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018781
(87)【国際公開番号】W WO2020230199
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-06-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悟
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142960(JP,A)
【文献】特開2014-065288(JP,A)
【文献】特表2017-524554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑部と凹部及び凸部をそれぞれ複数有する凹凸部とを一の面に有し、
前記平滑部の表面を基準面としたとき、少なくとも一部の前記凹部及び少なくとも一部の前記凸部は、以下の式(1)の関係を満たし、
前記凸部の平均高さは、100μm~1000μmであり、
前記少なくとも一部の前記凸部は、最大幅Yが基準面における前記少なくとも一部の前記凸部の最大幅よりも大きくなっており、前記凹部の最大幅Xよりも前記最大幅Yが大きくなる領域を前記基準面の外側に有しており、前記領域の少なくとも一部は、前記凹部の少なくとも一部と対面しており、
接合用金属部材を構成する金属がアルミニウムである場合、前記凸部の平均高さは、150μm~1000μmである接合用金属部材。
X<Y・・・(1)
(式(1)中、Xは、前記基準面と同じ高さにおける前記凹部の最大幅を表し、Yは、前記凹部と隣り合う前記凸部において、前記基準面の外側、かつ前記基準面と平行な方向における最大幅を表す。)
【請求項2】
前記少なくとも一部の前記凸部は、先端側が屈曲している請求項1に記載の接合用金属部材。
【請求項3】
前記少なくとも一部の前記凹部及び前記少なくとも一部の前記凸部は、以下の式(2)の関係を満たす請求項1又は請求項2に記載の接合用金属部材。
1.5X<Y<5X・・・(2)
(式(2)中のX及びYは前記式(1)中のX及びYと同様である。)
【請求項4】
Xは、50μm~300μmであり、Yは、100μm~1000μmである請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の接合用金属部材。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の接合用金属部材と、
前記接合用金属部材における前記平滑部と前記凹凸部とを有する面と接合した樹脂部材と、
を有する接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用金属部材及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられる各種成形体では、軽量化を目的として、鉄鋼材料とアルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽量金属材料との異種金属接合、鉄鋼材料又は軽量金属材料と樹脂材料との異種材料接合などが検討されている。鉄鋼材料又は軽量金属材料と樹脂材料との異種材料接合は、より軽量化が期待できる。
【0003】
そのため、金属成形体と樹脂成形体とを接合して一体化することで新たな複合部品を製造する方法が検討されている。例えば、加工速度を高めることができ、かつ異なる方向の接合強度も高めることができる方法として、金属成形体の表面に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射することで前記金属成形体の表面を粗面化する、金属成形体の粗面化方法及び複合成形体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5774246号公報
【文献】特許第5701414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、金属成形体を粗面化した場合、金属成形体表面に凹形状が形成されるものの、基準高さよりも高い位置には凸形状がほとんど形成されない。そのため、十分なアンカー効果が得られず、粗面化された金属成形体と樹脂成形体等との接合性が不十分となる場合がある。
【0006】
本開示は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、樹脂部材との接合強度に優れる接合用金属部材及びこの接合用金属部材と樹脂部材とを接合した接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 平滑部と凹部及び凸部をそれぞれ複数有する凹凸部とを一の面に有し、前記平滑部の表面を基準面としたとき、少なくとも一部の前記凹部及び少なくとも一部の前記凸部は、以下の式(1)の関係を満たす接合用金属部材。
X<Y・・・(1)
(式(1)中、Xは、前記基準面と同じ高さにおける前記凹部の最大幅を表し、Yは、前記凹部と隣り合う前記凸部において、前記基準面の外側、かつ前記基準面と平行な方向における最大幅を表す。)
<2> 前記少なくとも一部の前記凸部は、先端側が屈曲している<1>に記載の接合用金属部材。
<3> 前記少なくとも一部の前記凸部は、前記最大幅Yが基準面における前記少なくとも一部の前記凸部の最大幅よりも大きくなっており、前記最大幅Xよりも前記最大幅Yが大きくなる領域を前記基準面の外側に有しており、前記領域の少なくとも一部は、前記凹部の少なくとも一部と対面している<1>又は<2>に記載の接合用金属部材。
<4> 前記少なくとも一部の前記凹部及び前記少なくとも一部の前記凸部は、以下の式(2)の関係を満たす<1>~<3>のいずれか1つに記載の接合用金属部材。
1.5X<Y<5X・・・(2)
(式(2)中のX及びYは前記式(1)中のX及びYと同様である。)
<5> Xは、50μm~300μmであり、Yは、100μm~1000μmである<1>~<4>のいずれか1つに記載の接合用金属部材。
【0008】
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載の接合用金属部材と、前記接合用金属部材における前記平滑部と前記凹凸部とを有する面と接合した樹脂部材と、を有する接合体。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、樹脂部材との接合強度に優れる接合用金属部材及びこの接合用金属部材と樹脂部材とを接合した接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1におけるアルミニウム製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真である。
図2】実施例2における銅製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真である。
図3】接合用金属部材の一実施形態における平滑部と凹凸部とを有する面の断面を、基準面よりも高い位置から撮影した断面写真である(実施例3における黄銅製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真である)。
図4】接合用金属部材の一実施形態における凹凸部の拡大断面写真である(実施例3における黄銅製試験片の凹凸部を拡大した電子顕微鏡写真である)。
図5】比較例1におけるアルミニウム製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真である。
図6】ISO19095に準拠した試験片の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分は、該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において、各成分に該当する粒子は、該当する粒子を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0013】
<接合用金属部材>
本開示の接合用金属部材は、平滑部と凹部及び凸部をそれぞれ複数有する凹凸部とを一の面に有し、前記平滑部の表面を基準面としたとき、少なくとも一部の前記凹部及び少なくとも一部の前記凸部は、以下の式(1)の関係を満たす。
X<Y・・・(1)
式(1)中、Xは、前記基準面と同じ高さにおける前記凹部の最大幅を表し、Yは、前記凹部と隣り合う前記凸部において、前記基準面の外側、かつ前記基準面と平行な方向における最大幅を表す。
【0014】
本開示の接合用金属部材は、接合用金属部材における平滑部と凹凸部とを有する面を樹脂部材と接合させたときに、樹脂部材との接合強度に優れる。本開示の接合用金属部材が、樹脂部材との接合強度に優れる理由としては、例えば、以下のように推測される。本開示の接合用金属部材では、少なくとも一部の凸部は、この凸部と隣り合い、かつ基準面と同じ高さにおける凹部の最大幅Xよりも基準面と平行な方向における最大幅Yが大きくなる領域(以下、「特定の領域」とも称する)を基準面の外側に有する(以下、このような領域を有する凸部を、「特定の凸部」とも称する)。これにより、本開示の接合用金属部材は、凸部を有さない接合用金属部材、テーパー状のように先端側ほど幅が小さくなる凸部を有し、本開示の接合用金属部材にて形成された特定の凸部を有さない接合用金属部材等と比較して、樹脂部材と接合する部分の表面積が大きくなり、かつ、十分なアンカー効果が得られるため、樹脂部材との接合強度に優れると推測される。
【0015】
以下、本開示の接合用金属部材を図面に基づいて説明する。
なお、以下の実施形態では、接合用金属部材の一例として、アルミニウム製の金属部材の表面にレーザー光を照射して凹凸部を設けることで形成された接合用金属部材に基づいて、本開示の接合用金属部材を説明する。ただし、接合用金属部材を構成する材料、接合用金属部材の製造方法等は、特に限定されるものではない。
また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0016】
は、接合用金属部材の一実施形態における平滑部と凹凸部とを有する面の断面を、基準面よりも高い位置から撮影した断面写真である。図3には、平滑部と凹凸部とを有する面における平滑部及び凹凸部を含む箇所についての断面が示されている。
は、接合用金属部材の一実施形態における凹凸部の拡大断面写真を示し、後述の実施例1におけるアルミニウム製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真に該当する。なお、図には、接合用金属部材における平滑部と凹凸部とを有する面の全体に基準面を延長した部分を基準線として表している。
【0017】
に示すように、接合用金属部材における一の面には、平滑部10と凹凸部12とが存在する。凹凸部12には、図に示すように、凹部14及び凸部16がそれぞれ複数存在する。さらに、基準面の外側、かつ基準面と平行な方向における凸部16の最大幅Yが、基準面と同じ高さにおける凹部14の最大幅Xよりも大きくなる、すなわち、X<Yを満たす、凹部14及び凸部16が存在する。また、図4に示すように、凸部16は、先端側が屈曲した構造を有している。
【0018】
さらに、図に示すように、凸部16は、最大幅Yが基準面における凸部16の最大幅Zよりも大きくなっており、前述の特定の領域を基準面の外側に有しており、特定の領域の少なくとも一部は、凸部16と隣り合う凹部の少なくとも一部と対面している。これにより、特定の領域と、凹部との間に樹脂部材が進入することでアンカー効果がより好適に発揮され、樹脂部材との接合強度が向上する傾向にある。
特定の領域の少なくとも一部が凸部16と隣り合う凹部の少なくとも一部と対面している場合、この凹部は、凸部16との関係上、式(1)を満たしていてもよく、満たしていなくてもよい。
【0019】
凹部14の平均深さは、100μm~1.5mmであることが好ましく、200μm~1mmであることがより好ましく、300μm~800μmであることがさらに好ましい。
【0020】
接合用金属部材を構成する金属がアルミニウムである場合、凹部の平均深さは、200μm~1.5mmであることが好ましく、250μm~1mmであることがより好ましく、300μm~800μmであることがさらに好ましい。
【0021】
接合用金属部材を構成する金属が銅である場合、凹部の平均深さは、100μm~500μmであることが好ましく、150μm~400μmであることがより好ましく、200μm~300μmであることがさらに好ましい。
【0022】
接合用金属部材を構成する金属が銅-亜鉛合金である場合、凹部の平均深さは、50μm~300μmであることが好ましく、100μm~200μmであることがより好ましく、100μm~150μmであることがさらに好ましい。
【0023】
凸部16の平均高さは、50μm~1000μmであることが好ましく、100μm~500μmであることがより好ましく、200μm~300μmであることがさらに好ましい。凸部16の平均高さは、凹部14の平均深さよりも小さくてもよい。
【0024】
接合用金属部材を構成する金属がアルミニウムである場合、凸部の平均高さは、100μm~1000μmであることが好ましく、150μm~500μmであることがより好ましく、200μm~300μmであることがさらに好ましい。
【0025】
接合用金属部材を構成する金属が銅である場合、凸部の平均高さは、50μm~300μmであることが好ましく、50μm~250μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることがさらに好ましい。
【0026】
接合用金属部材を構成する金属が銅-亜鉛合金である場合、凸部の平均高さは、50μm~300μmであることが好ましく、100μm~200μmであることがより好ましく、100μm~150μmであることがさらに好ましい。
【0027】
本開示において、凹部の深さとは、基準面と直交する断面を観察したときに、基準面と平行であり、かつ凹部の最も低い位置を通過する面と、基準面との距離をいう。
本開示において、凸部の高さとは、基準面と直交する断面を観察したときに、基準面と平行であり、かつ凸部の最も高い位置を通過する面と、基準面との距離をいう。
【0028】
本開示において、凹部の平均深さとは、5個の凹部についての深さの算術平均値をいう。
本開示において、凸部の平均高さとは、5個の凸部についての高さの算術平均値をいう。
【0029】
凹凸部12において、基準面と直交する方向から見て、凸部16の密度は、それぞれ独立に、5個/mm~50個/mmであることが好ましく、10個/mm~30個/mmであることがより好ましく、10個/mm~25個/mmであることがさらに好ましい。
【0030】
基準面と同じ高さにおける凹部14の最大幅Xは、50μm~300μmであることが好ましい。
【0031】
接合用金属部材を構成する金属がアルミニウムである場合、基準面と同じ高さにおける凹部の最大幅Xは、100μm~300μmであってもよく、120μm~250μmであってもよい。
【0032】
接合用金属部材を構成する金属が銅である場合、基準面と同じ高さにおける凹部の最大幅Xは、50μm~200μmであってもよく、80μm~150μmであってもよい。
【0033】
接合用金属部材を構成する金属が銅-亜鉛合金である場合、基準面と同じ高さにおける凹部の最大幅Xは、50μm~150μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0034】
基準面の外側、かつ基準面と平行な方向における凸部16の最大幅Yは、最大幅Xよりも大きい値であれば特に限定されず、100μm~1000μmであることが好ましい。
【0035】
接合用金属部材を構成する金属がアルミニウムである場合、基準面と平行な方向における凸部の最大幅Yは、300μm~1000μmであってもよく、400μm~800μmであってもよい。
【0036】
接合用金属部材を構成する金属が銅である場合、基準面と平行な方向における凸部の最大幅Yは、100μm~400μmであってもよく、150μm~300μmであってもよい。
【0037】
接合用金属部材を構成する金属が銅-亜鉛合金である場合、基準面と平行な方向における凸部の最大幅Yは、100μm~250μmであってもよく、100μm~200μmであってもよい。
【0038】
基準面における凸部16の最大幅Zは、50μm~300μmであることが好ましい。
【0039】
接合用金属部材を構成する金属がアルミニウムである場合、基準面における凸部の最大幅Zは、100μm~300μmであってもよく、120μm~250μmであってもよい。
【0040】
接合用金属部材を構成する金属が銅である場合、基準面における凸部の最大幅Zは、50μm~200μmであってもよく、80μm~150μmであってもよい。
【0041】
接合用金属部材を構成する金属が銅-亜鉛合金である場合、基準面における凸部の最大幅Zは、50μm~150μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0042】
少なくとも一部の凹部及び少なくとも一部の凸部は、樹脂部材との接合強度の観点から、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
1.5X<Y<5X・・・(2)
式(2)中のX及びYは前記式(1)中のX及びYと同様である。
【0043】
凸部全体における前述の特定の凸部(図中の凸部16)の割合は特に限定されるものではなく、樹脂部材との接合強度の観点から、50個数%以上であればよく、80個数%以上であればよい。また、凸部全体における前述の特定の凸部の割合は、90個数%以下であってもよい。
【0044】
接合用金属部材を構成する金属は特に限定されるものではなく、接合用金属部材を用いて形成される接合体の用途に応じて公知の金属材料から適宜選択することができる。接合用金属部材を構成する金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅及びマグネシウム並びにこれらを含む合金を挙げることができる。合金としては、例えば、各種ステンレス及び銅-亜鉛合金を挙げることができる。
接合用金属部材における平滑部と凹凸部とを有する面には、メッキ処理、アルマイト処理等の表面処理を施してもよい。
【0045】
接合用金属部材の形状は特に限定されるものではなく、接合用金属部材を用いて形成される接合体の用途に応じて適宜選択することができる。接合用金属部材の形状としては、例えば、板状、球状、曲面を有する形状、段部を有する形状等を挙げることができる。
接合用金属部材の凹凸部を有する面は、平面であってもよい。
【0046】
金属部材に凹凸部を形成する方法は特に限定されるものではない。金属部材に凹凸部を形成する方法としては、上述のように、金属部材の表面にレーザー光を照射して凹凸部を設ける方法等が挙げられる。
【0047】
以下に、金属部材の表面にレーザー光を照射して凹凸部を設ける方法を採用した際の各種条件等について説明する。
なお、下記各種条件は、接合用金属部材を構成する金属の種類、凹部の深さ、凸部の高さ、必要に応じて設けられる隔壁の周期、高さ等に鑑みて適宜設定されるものである。
【0048】
金属部材の表面にレーザー光を照射して凹凸部を設ける場合、パルスレーザーを用いても、連続発振(CW、Continuous Wave)レーザーを用いてもよい。CWレーザーを用いる場合、CWレーザーは周期的にレーザーの出力を変化させる変調CWレーザーであってもよい。
【0049】
CWレーザーを用いる場合、CWレーザーの照射速度(スキャン速度)は特に限定されるものではない。
CWレーザーの照射速度としては、100mm/sec~2000mm/secであることが好ましい。
CWレーザーの照射速度が100mm/sec以上であれば、金属部材の加工速度を速めることができる傾向にある。CWレーザーの照射速度が2000mm/sec以下であれば、少なくとも一部の凹部及び少なくとも一部の凸部が前述の式(1)の関係を満たしやすく、樹脂部材との接合強度が向上する傾向にある。
【0050】
レーザーの照射出力は特に限定されるものではない。
例えば、CWレーザーを用いる場合、レーザー出力は300W~2000Wであることが好ましい。
CWレーザーのレーザー出力が300W以上であれば、CWレーザーの照射速度を速めやすくなり、金属部材の加工速度を速めることができる傾向にある。CWレーザーのレーザー出力が2000W以下であれば、レーザー光の照射設備を小型化できる傾向にある。
【0051】
レーザーのスポット径は特に限定されるものではない。
例えば、レーザーのスポット径としては、10μm~50μmであることが好ましい。
【0052】
変調CWレーザーを用いる場合、変調方式としては正弦波であってもよく三角波であってもよく矩形波であってもよい。
変調CWレーザーの周波数としては、1000Hz~10000Hzであることが好ましい。
変調CWレーザーにおいて、レーザー出力の最大値を100としたときのレーザー出力の最小値は、30以上100未満であることが好ましく、50~95であることがより好ましく、80~90であることがさらに好ましい。
【0053】
金属部材の表面にレーザー光を照射する場合、ワブリング加工により凹凸部を設けてもよい。
また、レーザー光を一度照射された箇所に、レーザー光を繰り返し照射してもよい。レーザー光を繰り返して照射する場合、繰り返しの回数としては、1回~40回であることが好ましく、5回~40回であることがより好ましい。
【0054】
レーザーとしては、ルビーレーザー、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、チタンサファイアレーザー等の固体レーザー、色素レーザー等の液体レーザー、ヘリウムネオンレーザー、アルゴンイオンレーザー、炭酸ガスレーザー、窒素レーザー、エキシマーレーザー等の気体レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーなどを用いることができる。
レーザーとしては、グリーンレーザーであってもよい。
【0055】
金属部材の表面にレーザー光を照射して凹凸部を設ける場合、金属部材表面におけるレーザー光の照射される箇所に、圧縮空気を供給してもよい。供給される圧縮空気の圧力としては、レーザー光の照射により発生する金属粉を効率的に除去する観点から、0.2MPa~0.5MPaであることが好ましい。
【0056】
レーザー光が直線状に照射された場合、レーザー光の走査間隔としては、レーザー光のスポット径よりも大きいことが好ましい。
【0057】
<接合体>
本開示の接合体は、本開示の接合用金属部材と、前記接合用金属部材における前記平滑部と前記凹凸部とを有する面と接合する樹脂部材と、を有する。
本開示の接合体では、樹脂部材が、接合用金属部材における平滑部と凹凸部とを有する面と接合するため、接合用金属部材と樹脂部材との接合強度に優れる。
【0058】
樹脂部材を構成する樹脂の種類は特に限定されるものではなく、接合体の用途に応じて従来から公知の樹脂を適宜選択して用いることができる。
樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー等が挙げられる。
【0059】
熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられる。
エラストマーの具体例としては、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0060】
樹脂部材には、接合体の用途に応じて従来から公知の樹脂以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、粒子状の充填材、繊維状の充填材、離型剤等が挙げられる。
【0061】
その他の成分としては、さらに、熱硬化性樹脂を硬化する硬化剤、熱硬化性樹脂の硬化を促進する硬化促進剤、無機材料の表面を改質する表面処理剤等を挙げることができる。
【0062】
樹脂部材に含まれる樹脂以外のその他の成分の含有量は、接合体の用途に応じて適宜設定される。
【0063】
接合体の製造方法は特に限定されるものではなく、インジェクション成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、トランスファ成形法、押出成形法、注型成形法等の通常の樹脂成形体の成形方法を採用することができる。また、上述のようにして凹凸部の設けられた接合用金属部材における凹凸部の設けられた面に対して、インサート成形法により樹脂及び必要に応じてその他の成分を含む樹脂組成物を付与して接合体を製造してもよい。
さらに、凹凸部の設けられた接合用金属部材と樹脂部材とを接触させて、超音波溶着、振動溶着、誘導溶着、高周波溶着、レーザー溶着、熱溶着、スピン溶着等により接合用金属部材と樹脂部材とを接合してもよい。
また、樹脂部材の接合用金属部材と接合する箇所を加熱して軟化させた後に、樹脂部材と接合用金属部材とを加圧しながら接触させることで、接合用金属部材と樹脂部材とを接合してもよい。
凹凸部における凸部の変形を防いで接合強度を向上する観点から、接合体はインサート成形法により製造されたものであることが好ましい。
樹脂部材の成分として熱硬化性樹脂を用いる場合、上記方法により接合用金属部材と樹脂部材とを接合した後、加熱処理することで樹脂部材を硬化してもよい。
【0064】
本開示の接合体の用途としては、車両等に用いられる各種成形体が挙げられ、具体的には、例えば、サイドドア、フード、ルーフ、バックドア、ラゲージドア、バンパ及びクラッシュボックスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0065】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例において、部及び%は特に断りのない限り、質量部及び質量%を示す。
【0066】
図6Aに示す、ISO19095に準拠した外径がφ55mmで内径がφ20mmで厚み2mmのドーナツ状のアルミニウム製(AL3003)、銅製(C1020)及び黄銅製(C2680)の試験片100を準備した。
試験片100に、ファイバーレーザー(株式会社アマダミヤチ、 ML6811C)を用いて、凹凸部102を下記条件で形成した。凹凸部102の幅は、1.2mmとした。
【0067】
【表1】
【0068】
図1に、実施例1のアルミニウム製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真を、図2に、実施例2の銅製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真を、図3及び図4に、実施例3の黄銅製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真を、図5に、比較例1のアルミニウム製試験片の凹凸部の電子顕微鏡写真を、各々示す。
図1図4から明らかなように、少なくとも一部の凹部及び少なくとも一部の凸部では、基準面と同じ高さにおける凹部の最大幅Xよりも、凹部と隣り合う凸部において、基準面の外側、かつ基準面と平行な方向における最大幅Yの方が大きくなっていることが分かる。
特定の凹部及び特定の凸部における最大幅X、最大幅Y及び最大幅Zの結果を表2に示す。
なお、各試験片の電子顕微鏡写真の撮影は、JSM-IT100(日本電子株式会社)を用い、20kVの加速電圧で行った。
【0069】
一方、図5から明らかなように、比較例1のアルミニウム製試験片では、白線で表された基準面と同じ高さにおける凹部の最大幅よりも、凹部と隣り合う凸部において、基準面の外側、かつ基準面と平行な方向における最大幅の方が小さくなっていた。
【0070】
実施例1~実施例3及び比較例1について、凸部の平均高さ(5個の凸部についての高さの算術平均値)及び凹部の平均深さ(5個の凹部についての深さの算術平均値)を上述のようにして求めた。
結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
次いで、凹凸部を設けた各試験片の凹凸部を覆うように、株式会社ソディックの射出成型機LA60を用いて図6Bに示すような樹脂部104を樹脂加熱温度210℃、金型温度80℃の条件でインジェクション成形した。樹脂部104の大きさは、外径がφ26mmで厚みが2mmとした。使用した樹脂はポリプラスチックス株式会社のPOM樹脂(標準グレードM90-44)を用いた。
樹脂部を形成した各試験片を用いて、下記方法により接合強度を評価した。
【0073】
-評価方法-
株式会社島津製作所のAG-5kNISを用いて試験速度5mm/minで引張試験を行ない接合体である試験片における接合強度の平均値(N=5)を求めた。
【0074】
実施例1のアルミニウム製試験片についての接合強度は、17.8MPaであった。
実施例2の銅製試験片についての接合強度は、14.7MPaであった。
実施例3の黄銅製試験片についての接合強度は、22.4MPaであった。
比較例1のアルミニウム製試験片についての接合強度は、0MPaであった。
【0075】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6