(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】光強度分布測定方法及び光強度分布測定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20221206BHJP
G01M 11/00 20060101ALI20221206BHJP
H04B 10/073 20130101ALI20221206BHJP
H04B 10/2581 20130101ALI20221206BHJP
【FI】
G01M11/02 N
G01M11/00 Q
H04B10/073
H04B10/2581
(21)【出願番号】P 2021530468
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2019027604
(87)【国際公開番号】W WO2021005800
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小田 友和
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 佳史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】押田 博之
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-20878(JP,A)
【文献】特開2015-169525(JP,A)
【文献】特開2018-136126(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2897310(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/180786(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
H04B 10/00 - H04B 10/90
H04J 14/00 - H04J 14/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光ファイバの長手方向に各伝搬モードの光強度分布を測定する光強度分布測定方法であって、
伝搬モード数が前記被測定光ファイバと同じであり、モード結合のない基準光ファイバを用意すること、
任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、全ての前記伝搬モードの前記ポンプ光と任意の1つの前記伝搬モードの前記プローブ光と組み合わせで前記基準光ファイバに入射すること、
前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン利得係数を取得すること、
前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させて前記ブリルアン利得係数を取得し、前記伝搬モードと前記光周波数差に対する前記ブリルアン利得係数の利得係数行列を生成すること、
前記利得係数行列を生成したときの光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、前記伝搬モードの前記組み合わせで前記被測定光ファイバに入射すること、
前記光周波数差毎、且つ前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン増幅成分を前記被測定光ファイバの長手方向の分布として取得すること、
前記分布から前記被測定光ファイバの任意地点における前記ブリルアン増幅成分のベクトルと前記利得係数行列の逆行列とを掛け算し、前記被測定光ファイバの任意地点における各伝搬モードの前記ポンプ光の光強度を計算すること、
を行うことを特徴とする光強度分布測定方法。
【請求項2】
さらに、伝搬モード間で前記ポンプ光の光強度の比率を計算すること
を行うことを特徴とする請求項1に記載の光強度分布測定方法。
【請求項3】
任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を伝搬モードの全ての組み合わせで光ファイバに入射する光入射部と、
前記光ファイバを伝搬した前記プローブ光のうち、任意の1つの伝搬モードの光強度を測定する受光部と、
前記光入射部を制御し、前記受光部が測定した光強度に基づいて、被測定光ファイバの長手方向に各伝搬モードの光強度分布を演算する制御演算部と、
を備え、
前記制御演算部は、
前記光入射部に対して、伝搬モード数が前記被測定光ファイバと同じであり、モード結合のない基準光ファイバに、任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、全ての前記伝搬モードの前記ポンプ光と任意の1つの前記伝搬モードの前記プローブ光と組み合わせで入射させること、
前記受光部が測定した光強度から、前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン利得係数を取得すること、
前記光入射部に対して、前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させ、前記受光部が測定した光強度から前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させたときの前記ブリルアン利得係数を取得し、前記伝搬モードと前記光周波数差に対する前記ブリルアン利得係数の利得係数行列を生成すること、を行い、
さらに、前記制御演算部は、
前記光入射部に対して、前記利得係数行列を生成したときの光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、前記伝搬モードの前記組み合わせで前記被測定光ファイバに入射させること、
前記受光部が測定した光強度から、前記光周波数差毎、且つ前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン増幅成分を前記被測定光ファイバの長手方向の分布として取得すること、
前記分布から前記被測定光ファイバの任意地点における前記ブリルアン増幅成分のベクトルと前記利得係数行列の逆行列とを掛け算し、前記被測定光ファイバの任意地点における各伝搬モードの前記ポンプ光の光強度を計算すること、
を行うことを特徴とする光強度分布測定装置。
【請求項4】
さらに、前記制御演算部は、伝搬モード間で前記ポンプ光の光強度の比率を計算することを行うことを特徴とする請求項3に記載の光強度分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ中を伝搬する各伝搬モードの光強度を長手方向に正確に測定する測定方法及びその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、伝送トラフィックの急激な増加に伴い、現在の伝送路で用いられているシングルモードファイバ(SMF)に代わって複数の伝搬モードが利用できる数モードファイバ(FMF)やマルチモードファイバ(MMF)が更なる大容量化を可能にするものとして大きな注目を集めている。これらのファイバでは接続点や、モード合分波器等のデバイスを通過する際に、モード毎に受ける損失が異なるモード間損失差(DMA)や入射時のモードの一部が異なるモードに結合するクロストーク(XT)が発生する。DMAやXTは、受信側で信号処理を行う上で重要なパラメータであるため、伝送路中の各モードの強度を区間毎に正確に測定できることが望ましい。例えば、伝送路中の各モードの強度を区間毎に測定する手法として、ブリルアン利得解析法を用いてモード毎に伝搬特性を取得する手法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照。)。この手法は、ファイバに入射するポンプ光とプローブ光の周波数差の制御により、ファイバ中で特定のモードのみを発生させ、モード毎の伝搬特性を取得可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】T. Oda et al., Proc. ECOC, We2.7 (2018).
【文献】H. Takahashi et al., Opt. Express, 21(6), pp.6739-9748, (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブリルアン利得解析法を用いて解析する手法の場合、ブリルアン利得の線幅は20MHz程あり、それ以上にモード毎のブリルアン周波数シフトが離れていないと、各モードの利得が最大となる周波数差を用いた場合でも、モードの選択励振が困難である。また、特定のモードの利得量が大きい場合も、同様にモードの選択励振が困難である。このように、ブリルアン利得解析法を用いた手法には、モードの選択励振が難しいため、モード毎の強度分布の測定精度を向上させることが困難という課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、複数モードが伝搬する光ファイバの各位置における各モードの光強度を正確に測定できる光強度分布測定方法及び光強度分布測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る光強度分布測定方法は、予め、被測定ファイバと同じ特性を示すモード結合の無い基準光ファイバを用いて測定された所定の光周波数差における各伝搬モードのブリルアン利得係数を要素とする利得係数行列を取得しておき、該利得係数行列と、被測定光ファイバを用いて測定された所定の光周波数差における所定の伝搬モードで出射したプローブ光のブリルアン増幅前後の光強度の差とから、被測定光ファイバの長手方向における各伝搬モードの強度分布を計算することとした。
【0008】
具体的には、本発明に係る光強度分布測定方法は、被測定光ファイバの長手方向に各伝搬モードの光強度分布を測定する光強度分布測定方法であって、
伝搬モード数が前記被測定光ファイバと同じであり、モード結合のない基準光ファイバを用意すること、
任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、全ての前記伝搬モードの前記ポンプ光と任意の1つの前記伝搬モードの前記プローブ光と組み合わせで前記基準光ファイバに入射すること、
前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン利得係数を取得すること、
前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させて前記ブリルアン利得係数を取得し、前記伝搬モードと前記光周波数差に対する前記ブリルアン利得係数の利得係数行列を生成すること、
前記利得係数行列を生成したときの光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、前記伝搬モードの前記組み合わせで前記被測定光ファイバに入射すること、
前記光周波数差毎、且つ前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン増幅成分を前記被測定光ファイバの長手方向の分布として取得すること、
前記分布から前記被測定光ファイバの任意地点における前記ブリルアン増幅成分のベクトルと前記利得係数行列の逆行列とを掛け算し、前記被測定光ファイバの任意地点における各伝搬モードの前記ポンプ光の光強度を計算すること、
を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る光強度分布測定装置は、
任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を伝搬モードの全ての組み合わせで光ファイバに入射する光入射部と、
前記光ファイバを伝搬した前記プローブ光のうち、任意の1つの伝搬モードの光強度を測定する受光部と、
前記光入射部を制御し、前記受光部が測定した光強度に基づいて、被測定光ファイバの長手方向に各伝搬モードの光強度分布を演算する制御演算部と、
を備え、
前記制御演算部は、
前記光入射部に対して、伝搬モード数が前記被測定光ファイバと同じであり、モード結合のない基準光ファイバに、任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、全ての前記伝搬モードの前記ポンプ光と任意の1つの前記伝搬モードの前記プローブ光と組み合わせで入射させること、
前記受光部が測定した光強度から、前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン利得係数を取得すること、
前記光入射部に対して、前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させ、前記受光部が測定した光強度から前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させたときの前記ブリルアン利得係数を取得し、前記伝搬モードと前記光周波数差に対する前記ブリルアン利得係数の利得係数行列を生成すること、を行い、
さらに、前記制御演算部は、
前記光入射部に対して、前記利得係数行列を生成したときの光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、前記伝搬モードの前記組み合わせで前記被測定光ファイバに入射させること、
前記受光部が測定した光強度から、前記光周波数差毎、且つ前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン増幅成分を前記被測定光ファイバの長手方向の分布として取得すること、
前記分布から前記被測定光ファイバの任意地点における前記ブリルアン増幅成分のベクトルと前記利得係数行列の逆行列とを掛け算し、前記被測定光ファイバの任意地点における各伝搬モードの前記ポンプ光の光強度を計算すること、
を行うことを特徴とする。
【0010】
予め基準光ファイバを用いて特定のモードのみ伝搬する状態での利得係数行列を取得しておくことで、実際の被試験光ファイバで測定した光強度から当該利得係数行列を用いて各モードの真の光強度を算出することができる。従って、本発明は、複数モードが伝搬する光ファイバの各位置における各モードの光強度を正確に測定できる光強度分布測定方法及び光強度分布測定装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明に係る光強度分布測定方法及び装置は、さらに、伝搬モード間で前記ポンプ光の光強度の比率を計算する。各モードの光強度の絶対値を測定するのではなく、光強度のモード間比率を測定することにすれば、測定困難な光ファイバ出射端におけるプローブ光の光強度と相互作用長を取得する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、複数モードが伝搬する光ファイバの各位置における各モードの光強度を正確に測定できる光強度分布測定方法及び光強度分布測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る光強度分布測定装置を説明するブロック図である。
【
図2】本発明に係る光強度分布測定装置を説明するブロック図である。
【
図3】本発明に係る光強度分布測定方法において、利得係数行列を生成するときに取得するブリルアン利得スペクトルの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0015】
本実施形態の光強度分布測定装置は、被測定光ファイバの両端から周波数の異なるポンプ光およびプローブ光を入射し、光の衝突によって発生したブリルアン利得を伝搬モード毎に測定する。このブリルアン利得の大きさを伝搬モード毎に比較することで、ファイバ中における光強度を長手方向で分布的に計算可能である。
【0016】
図1は、本実施形態の光強度分布測定装置301を説明する図である。光強度分布測定装置301は、
任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を伝搬モードの全ての組み合わせで光ファイバ50に入射する光入射部Aと、
光ファイバ50を伝搬した前記プローブ光のうち、任意の1つの伝搬モードの光強度を測定する受光部Bと、
光入射部Aを制御し、受光部Bが測定した光強度に基づいて、光ファイバ50の長手方向に各伝搬モードの光強度分布を演算する制御演算部Cと、
を備える。
まず、光ファイバ50として、伝搬モード数が被測定光ファイバと同じであり、モード結合のない基準光ファイバを接続する。
制御演算部Cは、
光入射部Aに対して、前記基準光ファイバに、任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、全ての前記伝搬モードの前記ポンプ光と任意の1つの前記伝搬モードの前記プローブ光と組み合わせで入射させること、
受光部Bが測定した光強度から、前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン利得係数を取得すること、
光入射部Aに対して、前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させ、受光部Bが測定した光強度から前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させたときの前記ブリルアン利得係数を取得し、前記伝搬モードと前記光周波数差に対する前記ブリルアン利得係数の利得係数行列を生成すること、を行う。
その後、光ファイバ50として、被測定光ファイバを接続する。
制御演算部Cは、
光入射部Aに対して、前記利得係数行列を生成したときの光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、前記伝搬モードの前記組み合わせで前記被測定光ファイバに入射させること、
受光部Bが測定した光強度から、前記光周波数差毎、且つ前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン増幅成分を前記被測定光ファイバの長手方向の分布として取得すること、
前記分布から前記被測定光ファイバの任意地点における前記ブリルアン増幅成分のベクトルと前記利得係数行列の逆行列とを掛け算し、前記被測定光ファイバの任意地点における各伝搬モードの前記ポンプ光の光強度を計算すること、
を行う。
【0017】
基準光ファイバは、モード結合の無い状態でのブリルアン利得係数を予め取得しておくために使用される。基準光ファイバは、伝搬モード数が被測定光ファイバと同じ、且つ各モード間で発生するブリルアン利得スペクトル(利得が発生するポンプ光とプローブ光との周波数差とその周波数差における利得係数)が被測定光ファイバと同じ(以下の説明では「同じ特性」と表現することがある。)であるが、モード結合のない光ファイバとする。なお、基準光ファイバと被測定光ファイバのブリルアン利得スペクトルを必ず一致させる必要はないが、その後の計算処理の際に誤差要因となるため、ブリルアン利得スペクトルが被測定光ファイバのそれと近いものを基準光ファイバとすることが望ましい。例えば、基準光ファイバとして、カットオフ波長、伝搬モード数、各モードのモードフィールド径、及び各モードの伝搬定数が被測定ファイバと同じ光ファイバを選ぶことができる。
【0018】
コヒーレントな光を発生させるレーザ10から出力された光は分岐素子11によって2分岐される。2分岐された光の一方はポンプ光とし、パルス生成器12によってパルス化されたのちにモード合分波手段13で基本モードから所望の伝搬モードに変換され光ファイバ50の一端に入射される。
【0019】
2分岐された光の他方はプローブ光とし、ポンプ光の光周波数に対してブリルアン周波数シフトに相当する約10~11GHz程度の周波数差を光周波数制御器15によって付与される。この光周波数制御手段15は、LiNb
3で構成されたSSB変調器等の外部変調器で制御しても、周波数(波長)の異なるレーザを2台用い、一方をポンプ光用の光源、他方をプローブ光用の光源とし、2台のレーザ間の光周波数差を制御してもよい。周波数差を付与したプローブ光は、ポンプ光と同様にモード合分波手段16で所望の伝搬モードに変換され、光ファイバ50の他端に入射される。なお、
図1の構成の場合、プローブ光はパルスである必要はない。
【0020】
光ファイバ50中ではポンプ光とプローブ光の衝突によりプローブ光においてブリルアン利得が発生する。ポンプ光によって増幅されたプローブ光は光サーキュレータ14によって光電変換手段18に送られる。その際、モード合分波器17で所望のモードのみが選択される。本実施形態ではLP01の増幅されたプローブ光が光電変換手段18に送られる。光電変換手段18がプローブ光強度を電気信号に変換し、A/D変換器19がデジタルデータに変換した後、データ抽出器20と利得解析部21がこのデータから利得を解析する。
【0021】
具体的なブリルアン利得の解析手法は、ポンプ光を入射しない場合のプローブ光の参照強度を取得する。その後、ポンプ光とプローブ光を入射した場合の信号強度を取得する。前記信号強度から参照強度の増加量を算出することによって、ブリルアン利得が取得できる。この測定により、被測定光ファイバ長手方向で利得量を比較することで、任意の地点におけるポンプ光の強度情報の取得が可能である(この解析手法については、非特許文献2を参照。)。
【0022】
なお、本実施形態は、特許文献1で提示されている光ファイバ片端からポンプ光およびプローブ光を入射する形態でも実現可能である。
図2は、光ファイバ片端からポンプ光およびプローブ光を入射する光強度分布側的装置302を説明する図である。光強度分布側的装置302は次の点で
図1の光強度分布側的装置301と異なる。
【0023】
レーザ10から2分岐された双方を、タイミング制御手段(23、23a)およびパルス化手段(12、12a)により、パルス化タイミングの制御を行う。パルス化されたポンプ光とプローブ光は、光周波数制御手段15で周波数差を付与され、モード合分波手段(13、16)で所望のモードへ変換された後、合波素子22によって合波され、光ファイバ50の一端に入射される。光ファイバ50の他端には光反射器55があり、各パルス光が反射される。
【0024】
ポンプ光パルスおよびプローブ光パルスはタイミング制御手段(23、23a)の制御によって、光ファイバ50に入射されるタイミングが異なる。このため、光反射器55により反射されたパルスと未反射のパルスが被測定ファイバ中で衝突し、プローブ光においてブリルアン利得が発生する。
【0025】
光ファイバ50からの戻り光は、光サーキュレータ14によって光電変換器18に送られる。その後の解析は
図1で説明した手順と同じである。本構成では、ポンプ光およびプローブ光の入射タイミング差が被測定ファイバの利得発生地点に対応するため、長手方向での利得量からポンプ光の強度情報の取得が可能である。
【0026】
図1と
図2の構成成は一例であり、同様に周波数(波長)シフトに相当する光周波数差および入射時間差をポンプ光とプローブ光間に与え、任意の伝搬モードを励起して増幅されたプローブ光を時間領域で取り出すことのできる装置構成であれば、手段は問わない。また、一般的なSMFにおいても入射する光パルスの波長を短くすること(SMFのカットオフ波長より短い波長とすること)で、本手法を適用できるため、光ファイバ50については、複数モードが伝搬する条件を有するものであればよい。
【0027】
続いて、制御演算部Cが行う演算内容を説明する。
利得が最大となるポンプ光とプローブ光の周波数差をブリルアン周波数シフトとすると、任意のモードにおけるブリルアン周波数シフトν
bは、
【数1】
と与えられる。ここで、n
iは当該モードの実効屈折率、Vaは音響波の実効速度、λは真空中の波長である。
【0028】
すなわち、複数モードが伝搬する光ファイバにおいては、伝搬するモードによりブリルアン周波数シフトが異なることを意味している。よって、複数モードが伝搬する光ファイバは、各モードにおける任意の位置で得られたブリルアンスペクトル情報が、モード毎にピークを有するという特性を持つ。例えば、2つのモードで伝搬する数モードファイバにおいて、ポンプ光とプローブ光の各々がLP01およびLP11モードの双方で振幅を有する場合には、
(i)v01-01(LP01同士のポンプ、プローブ成分間の相互作用)
(ii)v01-11(LP01のポンプ成分とLP11のプローブ成分間、およびLP11のポンプ成分とLP01のプローブ成分間の相互作用)、及び
(iii)v11-11(LP11同士のポンプ、プローブ成分間の相互作用)
の3つのスペクトルピークを有する。
このような特性を利用すれば、光ファイバに入射するポンプ光とプローブ光の光周波数差を制御して、光ファイバ中で任意のモードを増幅させることができる。
【0029】
一方、ブリルアン利得スペクトルは一般的に20MHz程度の線幅を持つため、モード毎のνbが20MHz以上離れていない場合は、他のモード成分も同時に励振することになる。また、モード毎のスペクトルが離れている場合でも、モード毎の利得係数が異なる場合は、特定のモードのみ利得が大きくなり、20MHz以上離れている場合でも選択励振が困難となることが考えられる。以上を考えると、周波数を選択し利得を取得するのみでは、モード毎の純粋なパワーを反映した利得の取得が困難である。
【0030】
この困難に対して、制御演算部Cは、以下の手法により光ファイバ中のモード毎の強度の取得を行う。
【0031】
[第一段階]
・各周波数におけるモード毎のブリルアン利得係数行列を取得する。
本段階では光強度分布測定装置に基準光ファイバを接続する。
複数モードが伝搬する光ファイバでは、利用するモードの組み合わせによって、ブリルアン周波数シフトや利得量が異なるという特徴を持つ。本実施形態の光強度分布測定装置は、この特徴を利用するため、被測定光ファイバと同じ特性を示し、かつ光ファイバ中でモード結合が発生しない基準光ファイバを予め用意する。そして、本実施形態の光強度分布測定装置は、基準光ファイバにおけるポンプ光とプローブ光との光周波数差に対応した各モードの利得係数を取得する。
【0032】
利得係数の取得手順は、ポンプ光とプローブ光のパワーを固定した状態で、入射するプローブ光のモードを固定し、入射するポンプ光のモードを変更させ、その際のブリルアン利得スペクトルを取得する。つまり、測定されるスペクトルは、2つのモードで伝搬する光ファイバの場合、
(i)v01-01(LP01同士のポンプ、プローブ成分間の相互作用)、及び
(ii)v01-11(LP01のポンプ成分とLP11のプローブ成分間、およびLP11のポンプ成分とLP01のプローブ成分間の相互作用)
の二つが得られることになる。
【0033】
図3は、2モード光ファイバにおけるブリルアン利得スペクトルの一例を説明する図である。
図3では、横軸が光周波数差、縦軸がブリルアン利得係数である。
図3より、ポンプ光とプローブ光の光周波数差によって発生するモードの利得係数が異なることが確認できる。ここで、2モード光ファイバにおける異なる2つの光周波数差における各モードの利得係数行列g
bを
【数2】
と与える。ここで、g
01(ν
1)とg
11(ν
1)は、それぞれ光周波数差ν
1におけるLP
01-LP
01間とLP
01-LP
11間の利得係数、g
01(ν
2)とg
11(ν
2)は、それぞれ光周波数差ν
2におけるLP
01-LP
01間、LP
01-LP
11間の利得係数である。基準光ファイバは、モード結合が発生しないため、所望モードのポンプ光とプローブ光以外に前述した選択励振が困難なモードが存在しない。このため、利得係数行列g
bの各要素は所望モード間で発生した純粋な利得係数である。
【0034】
なお、基準光ファイバ内での位置によってその利得量がポンプ光の伝搬損失に影響される場合(基準光ファイバが長い場合)、ポンプ光出射端(ポンプ光が入射される端部)付近で発生する利得量から利得係数を取得する。一方、ポンプ光の伝搬損失に影響されない場合(基準光ファイバが短い場合)、基準光ファイバ全体での利得量(z方向の積分値)から利得係数を取得することができる。
【0035】
この利得係数行列は、
図3に示すような各モードの利得スペクトルからg
bが正則となるようなν
1およびν
2を選択して取得する。なお、本実施形態では被測定光ファイバが2モードを伝搬するので利得係数行列g
bを形成する光周波数差が2種類であるが、被測定光ファイバがnモード(nは3以上の整数)を伝搬するのであれば、利得係数行列g
bを形成するために光周波数差はn種類必要である。
【0036】
[第2段階]
・被測定光ファイバ中の各モードの光強度を測定する。
本段階では光強度分布測定装置に被測定光ファイバを接続する。
被測定光ファイバ中に存在するLP01とLP11の光強度の測定を行う。本光強度分布測定装置は、ブリルアン増幅を受けたプローブ光の受光にモード合分波器17のLP01ポートを使用し、LP01成分のみ受光する。
【0037】
ブリルアン相互作用によって光ファイバ中で増幅された成分は、増幅されたプローブ光(ポンプ光有)と増幅前のプローブ光(ポンプ光無)の差分から取得できる。そして、当該成分は、ポンプ光強度、プローブ光強度及び利得係数の積で表せる(詳細は、非特許文献2を参照。)。従って、光周波数差ν
1およびν
2で観測されるz地点の増幅成分P
diff(ν
1,z)、P
diff (ν
2,z)は
【数3】
で表すことができる。ここで、P
r01は光ファイバ出射端(
図1及び
図2ともにポンプ光が入射される側)におけるプローブ光強度、ΔLは相互作用長、P
p01(z)、P
p11(z)はz地点におけるLP
01およびLP
11モードのポンプ光強度である。
【0038】
各モードの利得係数行列g
bは第1段階で取得しており、かつ正則となることから、式(3)を変形すれば
【数4】
と表せる。つまり、被測定光ファイバの任意位置zでのモード毎の光強度P
p01(z)、P
p11(z)は、P
r01、ΔL、ブリルアン相互作用によって増幅された成分、及びg
bで計算できる。
【0039】
Pp01(z)とPp11(z)の真値を計測する場合、Pr01とΔLを取得する必要があるが、Pp01(z)とPp11(z)との比率さえ計測できればよい場合、Pr01とΔLを取得する必要はない。
Pp01(z)、Pp11(z)について各地点(zとz+Δz等)で比を取得すると、Pr01とΔLは消去できるため、被測定光ファイバの長手方向における各モードの強度分布比率を取得できる。
【0040】
本実施形態では簡単のため、2モード光ファイバにおけるモード毎の光強度を測定する場合を述べたが、より多くのモード数(モード数n)が伝搬する光ファイバにおいても、第1段階でモード数に対応したn×nの利得係数行列gbを取得しておけば、各モードの光強度を計算できる。
【0041】
本実施形態の光強度分布測定装置が行う測定方法は、被測定光ファイバの長手方向に各伝搬モードの光強度分布を測定する光強度分布測定方法であって、
伝搬モード数が前記被測定光ファイバと同じであり、モード結合のない基準光ファイバを用意すること、
任意の光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、全ての前記伝搬モードの前記ポンプ光と任意の1つの前記伝搬モードの前記プローブ光と組み合わせで前記基準光ファイバに入射すること、
前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン利得係数を取得すること、
前記伝搬モードの数だけ前記任意の光周波数差を変化させて前記ブリルアン利得係数を取得し、前記伝搬モードと前記光周波数差に対する前記ブリルアン利得係数の利得係数行列を生成すること、
前記利得係数行列を生成したときの光周波数差を有するポンプ光とプローブ光を、前記伝搬モードの前記組み合わせで前記被測定光ファイバに入射すること、
前記光周波数差毎、且つ前記伝搬モードの前記組み合わせ毎に前記プローブ光で発生したブリルアン増幅成分を前記被測定光ファイバの長手方向の分布として取得すること、
前記分布から前記被測定光ファイバの任意地点における前記ブリルアン増幅成分のベクトルと前記利得係数行列の逆行列とを掛け算し、前記被測定光ファイバの任意地点における各伝搬モードの前記ポンプ光の光強度を計算すること、
を行うことを特徴とする。
【0042】
本方法の測定手順を以下にまとめる。
〔第1段階(ブリルアン利得係数取得)〕
1.被測定光ファイバと同じ特性を示すモード結合の無い基準光ファイバを用意
2.ポンプ光とプローブ光の光周波数差を設定
3.ポンプ光およびプローブ光のモードを変換
4.ポンプ光とプローブ光を基準光ファイバに入力
5.プローブ光で発生した利得係数を取得
6.光周波数差およびモードの組み合わせを変更(プローブ光の伝搬モードは変更せず、ポンプ光の伝搬モードを変更)し、手順2~5を繰り返すことで、設定した光周波数差における各モードの利得係数を取得
【0043】
〔第2段階(各モードの強度測定)〕
1.被測定光ファイバを用意
2.ポンプ光とプローブ光の光周波数差を設定
3.ポンプ光とプローブ光の入射時間差を設定
4.ポンプ光およびプローブ光のモードを変換
5.ポンプ光とプローブ光を被測定光ファイバに入力
6.プローブ光で発生した利得分布を取得
7.事前に取得した利得係数を用いて、被測定光ファイバの長手方向に各モードの強度分布を取得
【0044】
[付記]
以下は、本実施形態の光強度分布測定装置を説明したものである。
本実施形態の光強度分布測定装置は、ブリルアン利得がポンプ光の光強度に比例することを利用し、光ファイバ内を伝搬する各モードのポンプ光強度をブリルアン利得から推定しようとするものである。しかし、所望のモードを増幅しようとしても他のモードも増幅することがある。そこで、本光強度分布測定装置は、以下のようにして所望のモードのポンプ光強度を推定している。
(1):本実施形態の光強度分布測定装置は、
被測定光ファイバへ入射するプローブ光発生手段と、
前記プローブ光に光周波数差を付与しパルス化するポンプ光パルス発生手段と、
前記光周波数差を制御する周波数制御手段と、
前記被対象光ファイバの一端において、前記プローブ光を任意の伝搬モードで入射する任意モード入射手段と、
前記被対象光ファイバのもう一端において、前記ポンプ光パルスを任意の伝搬モードで入射する任意モード入射手段と、
前記プローブ光の強度を検出し光電流へと変換し出力する光電変換手段と、
前記光電流を取得するデータ取得手段と、
前記ポンプ光パルスによって増幅されたプローブ光の増幅利得を解析する利得解析手段と、
前記利得をモード毎の強度に分離する利得分離手段と、
を具備し、各伝搬モードの光強度を測定することを特徴とする。
【0045】
(2):
上記(1)記載の光強度分布測定装置であって、前記周波数制御手段で付与する光周波数が、前記プローブ光の入射伝搬モードと前記ポンプ光パルスの入射伝搬モード間のブリルアン周波数シフト帯域に相当することを特徴とする。
【0046】
(効果)
本発明によれば、任意の周波数における各モードのブリルアン利得係数行列を取得しておくことで、光ファイバ中で複数モードが混ざった利得が発生した場合においても、モード毎の分離を可能とする。これにより、光ファイバ区間毎に各モードの強度を取得可能である。
【符号の説明】
【0047】
10:レーザ
11:分岐素子
12、12a:パルス生成器
13:モード合分波手段
14:光サーキュレータ
15:周波数制御手段
16:モード合分波手段
17:モード合分波手段
18:光電変換手段
19:A/D変換器
20:データ抽出部
21:利得解析部
22:合波素子
23、23a:タイミング制御手段
50:光ファイバ
51:光反射器
301、302:光強度分布測定装置