(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】二軸延伸積層フィルム、積層体およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221206BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221206BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B32B27/00 103
B32B27/30 A
B32B27/30 B
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2021558176
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032269
(87)【国際公開番号】W WO2021100277
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019208707
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】小橋 一範
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-179766(JP,A)
【文献】特開平11-116750(JP,A)
【文献】特開2014-055219(JP,A)
【文献】国際公開第2006/082902(WO,A1)
【文献】特開2008-255220(JP,A)
【文献】特開2005-088273(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220882(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/189401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00、
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する二軸延伸積層フィルムであって、
前記二軸延伸積層フィルムは、
少なくとも1層が、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を原料として配合してなり、連続相および分散相を有する樹脂組成物(A)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
前記分散相が、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、
前記樹脂層(A)における分散相の平均分散径が、5μm以下の範囲であり、
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体が、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸モノマーとを共重合させることにより得られる共重合体であり、該(メタ)アクリル酸モノマーが(メタ)アクリル酸であることを特徴とする二軸延伸積層フィルム。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸基を有する請求項1に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の合計100質量部に対して、3~40質量部の範囲である、請求項1に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項4】
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、およびエラストマーの合計100質量部に対して、0.5~10質量部の範囲である、請求項1に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項5】
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の(メタ)アクリル酸含有率が、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の総質量に対して、1~30質量%の範囲である、請求項1に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物(A)が、さらにエラストマーを含む請求項1に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項7】
前記エラストマーの配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、およびエラストマーの合計100質量部に対して、3~15質量部の範囲である、請求項6に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項8】
前記エラストマーが、α-オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとの共重合体、および、α-オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルと、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項9】
前記エラストマーのα-オレフィン含有率が、前記エラストマーの総質量に対して、50~95質量%の範囲である、請求項8に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項10】
少なくとも前記樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層された構造を有し、前記樹脂層(B)がポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物の二軸延伸フィルムである、請求項1に記載の二軸延伸積層フィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)と、金属層及び樹脂成形体から成る群から選ばれる少なくとも1つとが接してなる構造を有する積層体。
【請求項12】
請求項11記載の積層体を備えたフレキシブルプリント配線板。
【請求項13】
請求項11記載の積層体を備えたフレキシブルフラットケーブル。
【請求項14】
請求項11記載の積層体を備えたモーター用絶縁体。
【請求項15】
少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する二軸延伸積層フィルムの製造方法であって、
少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する未延伸積層シートを二軸延伸する工程を有すること、
前記二軸延伸積層フィルムは、
少なくとも1層が、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とを原料として配合してなり、連続相および分散相を有する樹脂組成物(A)を二軸延伸してなる二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
前記分散相が、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、
前記樹脂層(A)における分散相の平均分散径が、5μm以下であり、
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体が、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸モノマーとを共重合させることにより得られる共重合体であり、該(メタ)アクリル酸モノマーが(メタ)アクリル酸であることを特徴とする二軸延伸積層フィルムの製造方法。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)と、金属層及び樹脂成形体からなる群から選ばれる少なくとも1つとを接着する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸積層フィルム、積層体およびそれらの製造方法、さらに詳しくは、金属および/または樹脂成形体との熱接着に優れ、低誘電特性を有するポリアリーレンスルフィド系二軸延伸積層フィルムおよびそれを用いた積層体、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)の分野では、クラウドやIoT(Internet of Things)などの発展、自動車の自動運転化の技術の向上、電気自動車、ハイブリッド車の発展に伴い、大量のデータ処理や高速かつ損失のなく伝送できるケーブルやアンテナが求められている。しかし、従来、FPC基材にはポリイミド(PI)フィルム、FCC基材にはポリエステルフィルム(PETフィルム等)が用いられており、次世代の高速伝送に対応できる誘電特性を有しているとはいえない。また、電気自動車、ハイブリッド車などの次世代自動車で採用されるモーター周囲に用いられる絶縁材料には、モーター油の浸漬性の観点から、ポリエステル系フィルムとアラミド紙の積層体が使用されている。しかし、ポリエステル系フィルムでは耐熱性に劣る課題がある。
【0003】
一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂を用いたフィルムは、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性に優れるため、コンデンサーやモーターの絶縁材料、耐熱テープに用いられている。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、PIやPETに比べ誘電特性に優れることから、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)の分野等に適用されうる。しかし、ポリアリーレンスルフィドフィルムは、一般に金属や他樹脂との接着性、密着性が低く、また、接着剤との反応性に乏しいという課題がある。これを改善するものとして、例えば、特許文献1には、金属板の少なくとも片方の面に、ポリフェニレンスルフィドを主成分とする樹脂組成物からなる樹脂層が接着剤を介することなく積層体であって、樹脂層の配向度OFが0.65~0.9の範囲であることを特徴とする積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の積層体は、ポリフェニレンスルフィド樹脂層と金属板が直接積層され、金属との接着性は優れているものの、誘電率、誘電正接が高く、高速伝送に十分に対応できない。また、実質ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以上で熱圧着しているため、外観の良好なものを得る事が難しい。
【0006】
そこで、本発明は、金属層とポリアリーレンスルフィド樹脂を、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以下の温度で直接熱接着が可能かつその接着性が良好で、さらに低誘電率化および低誘電正接化が可能なフィルムおよびそれを用いた積層体ならびにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、誠意検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を原料として製造されることにより、特定のモルフォロジが形成された樹脂組成物(A)を二軸延伸したフィルムからなる樹脂層を金属や樹脂成形体と直接接着する層として配した二軸延伸積層フィルムを用いることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)~(16)に関する。
【0008】
(1)本発明は、少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する二軸延伸積層フィルムであって、
前記二軸延伸積層フィルムは、
少なくとも1層が、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を原料として配合してなり、連続相および分散相を有する樹脂組成物(A)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
前記分散相が、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、
前記分散相の平均分散径が、5μm以下の範囲であることを特徴とする二軸延伸積層フィルムに関する。
【0009】
(2)本発明は、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体が、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸モノマーとを共重合させることにより得られる共重合体であり、該(メタ)アクリル酸モノマーが(メタ)アクリル酸である前記(1)記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0010】
(3)本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸基を有する前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0011】
(4)本発明は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有率が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の合計100質量部に対して、3~40質量部の範囲である、前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0012】
(5)本発明は、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の合計100質量部に対して、0.5~10質量部の範囲である、前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0013】
(6)本発明は、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の(メタ)アクリル酸含有率が、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の総質量に対して、1~30質量%の範囲である、前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0014】
(7)本発明は、前記樹脂組成物(A)が、さらにエラストマーを含む前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0015】
(8)本発明は、前記エラストマーの配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、およびエラストマーの合計100質量部に対して、3~15質量部の範囲である、前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0016】
(9)本発明は、前記エラストマーが、α-オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとの共重合体、および、α-オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルと、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0017】
(10)本発明は、前記エラストマーのα-オレフィン含有率が、前記エラストマーの総質量に対して、50~95質量%の範囲である、前記(9)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0018】
(11)本発明は、少なくとも前記樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層された構造を有し、前記樹脂層(B)がポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物の二軸延伸フィルムである、前記(1)に記載の二軸延伸積層フィルムに関する。
【0019】
(12)本発明は、前記(1)~(11)のいずれか一項に記載の二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)と、金属層及び樹脂成形体から成る群から選ばれる少なくとも1つとが接してなる構造を有する積層体に関する。
【0020】
(13)本発明は、前記(12)記載の積層体を備えたフレキシブルプリント配線板に関する。
【0021】
(14)本発明は、前記(12)記載の積層体を備えたフレキシブルフラットケーブルに関する。
【0022】
(15)本発明は、前記(12)記載の積層体を備えたモーター用絶縁体に関する。
【0023】
(16)本発明は、 少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する二軸延伸積層フィルムの製造方法であって、
少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する未延伸積層シートを二軸延伸する工程を有すること、
前記二軸延伸積層フィルムは、
少なくとも1層が、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体とを原料とする、連続相および分散相を有する樹脂組成物(A)を二軸延伸してなる二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
前記分散相が、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、
前記樹脂層(A)における分散相の平均分散径が、5μm以下であることを特徴とする二軸延伸積層フィルムの製造方法 に関する。
【0024】
(17)本発明は、前記(1)~(11)のいずれか一項に記載の二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)と、金属層及び樹脂成形体からなる群から選ばれる少なくとも1つとを接着する、積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、金属層とポリアリーレンスルフィド樹脂を、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以下の温度で直接熱接着が可能かつその接着性が良好で、さらに低誘電率化および低誘電正接化が可能なフィルムおよびそれを用いた積層体ならびにそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の二軸延伸積層フィルムおよび積層体について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の二軸延伸積層フィルムは、
少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有すること、
少なくとも1層が、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも記載する。)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、「PPE系樹脂」とも記載する。)と、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を原料として配合してなり、連続相および分散相を有する樹脂組成物(A)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、
前記分散相が、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、
前記分散相の平均分散径が、5μm以下の範囲であること、を特徴とする。
【0027】
本発明に用いる樹脂組成物(A)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を必須の原料として配合してなる。本発明に用いられる樹脂組成物(A)においてPAS樹脂は主成分であり、主として連続相に含まれる。
本発明で用いるPAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造(具体的には、下記式(1)で表される構造)を繰り返し単位として含む重合体である。
【0028】
【化1】
上記式中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表し、nは、それぞれ独立して、1~4の整数である。
【0029】
ここで、式(1)で表される構造中のR1は、いずれも水素原子であることが好ましい。かかる構成により、PAS樹脂の機械的強度をより高めることができる。R1がいずれも水素原子である式(1)で表される構造としては、下記式(2)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してパラ位で結合する構造)、および下記式(3)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してメタ位で結合する構造)が挙げられる。また、式(2)と式(3)の共重合体のPAS樹脂でもよく、共重合PAS樹脂は、80モル%以上が式(2)で構成されてなり、好ましくは85モル%以上から、95モル%以下、好ましくは92モル%以下の範囲である。上記範囲であれば、フィルムが維持し、融点を低下させることができることから好ましい。共重合成分の共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0030】
【化2】
これらの中でも、式(1)で表される構造は、式(2)で表される構造であることが好ましい。式(2)で表される構造を有するPAS樹脂であれば、耐熱性や結晶性をより向上させることができる。
【0031】
また、PAS樹脂は、上記式(1)で表される構造のみならず、下記式(4)~(7)で表される構造を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0032】
【化3】
式(4)~(7)で表される構造は、PAS樹脂を構成する全繰り返し単位中に、30モル%以下含まれることが好ましく、10モル%以下含まれることがより好ましい。かかる構成により、PAS樹脂の耐熱性や機械的強度をより高めることができる。
【0033】
また、式(4)~(7)で表される構造の結合様式としては、ランダム状、ブロック状のいずれであってもよい。
【0034】
また、PAS樹脂は、その分子構造中に、下記式(8)で表される3官能性の構造、ナフチルスルフィド構造等を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0035】
【化4】
式(8)で表される構造、ナフチルスルフィド構造等は、PAS樹脂を構成する全繰り返し単位中に、1モル%以下含まれることが好ましく、実質的には含まれないことがより好ましい。かかる構成により、PAS樹脂中における塩素原子の含有量を低減することができる。
また、PAS樹脂の特性は、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されないが、その300℃における溶融粘度(V6)は、好ましくは100Pa・s以上、より好ましくは120Pa・s以上から、好ましくは2000Pa・s以下、より好ましくは1600Pa・s以下の範囲である。当該範囲で、流動性および機械的強度のバランスが良好となり、好ましい。
【0036】
さらに、PAS樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いた測定において、分子量25,000~40,000の範囲にピークを有するものであることが好ましい。さらに、前記分子量の範囲かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率(Mw/Mn)が5~10の範囲にあることが好ましい。そしてさらに、前記分子量の範囲、前記比率(Mw/Mn)の範囲、かつ、非ニュートン指数が0.9~1.3の範囲にあることが特に好ましい。かかるPAS樹脂を用いることにより、フィルムとした際の機械的強度を低下させることなく、PAS樹脂自体における塩素原子の含有量を1,500~2,000ppmの範囲にまで低減でき、ハロゲンフリーの電子・電気部品用途への適用が容易となるため好ましい。
【0037】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値を採用する。なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
[ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定条件]
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(センシュウ科学社製SSC-7000)
カラム :UT-805L(昭和電工社製)
カラム温度:210℃
溶媒 :1-クロロナフタレン
測定方法 :UV検出器(360nm)で6種類の単分散ポリスチレンを校正に
用いて分子量分布とピーク分子量を測定する。
【0038】
PAS樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、
(製法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、
(製法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、
(製法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法等が挙げられる。これらの製造方法の中でも、上記(製法2)の方法が汎用的であり好ましい。
【0039】
なお、反応の際には、重合度を調節するために、カルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加してもよい。
【0040】
上記(製法2)の方法の中でも、次の(製法2-1)の方法または(製法2-2)の方法が特に好ましい。
【0041】
(製法2-1)の方法では、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に、含水スルフィド化剤を、水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させる際に、反応系内の水分量を、有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(特開平07-228699号公報参照)。
【0042】
(製法2-2)の方法では、固形のアルカリ金属硫化物および非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物と、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物および有機酸アルカリ金属塩とを反応させる際に、有機酸アルカリ金属塩の量を硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲にコントロールすること、および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールすることにより、PAS樹脂を製造する(WO2010/058713号パンフレット参照)。
【0043】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、および上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられる。
【0044】
また、ポリハロゲノ芳香族化合物としては、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。
【0045】
なお、上記化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0046】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法には、公知慣用の方法が用いられる。かかる後処理方法としては、特に限定されないが、例えば、次の(後処理1)~(後処理5)の方法が挙げられる。
【0047】
(後処理1)の方法では、重合反応終了後、まず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過および乾燥する。
【0048】
(後処理2)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する。
【0049】
(後処理3)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて攪拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥する。
【0050】
(後処理4)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄のときに酸を加えて酸処理し、乾燥する。
【0051】
(後処理5)の方法では、重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに水洗浄、濾過および乾燥する。
【0052】
上記(後処理4)の方法で使用可能な酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、モノクロロ酢酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。
【0053】
また、水素塩としては、例えば、硫化水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。ただし、実機での使用においては、金属部材への腐食が少ない有機酸が好ましい。
【0054】
なお、上記(後処理1)~(後処理5)の方法において、PAS樹脂の乾燥は、真空中で行ってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0055】
特に、上記(後処理4)の方法で後処理されたPAS樹脂は、その分子末端に結合する酸基の量が増加することで、分散相の分散性を高める効果が得られる。酸基としては、特に、カルボキシル基であることが好ましい。
【0056】
樹脂組成物(A)中におけるPAS樹脂の配合量の割合は、PAS樹脂、PPE系樹脂及びスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上の範囲から、好ましくは93質量部以下、より好ましくは90質量部以下の範囲である。上記範囲であれば、フィルムの耐熱性および耐薬品性をより向上させることができることから好ましい。
【0057】
また、本発明に用いる樹脂組成物(A)は、ポリフェニレンエーテル系樹脂を必須の原料として配合してなる。
PPE系樹脂は、原則として樹脂組成物(A)の分散相に含まれる。分散相中のPPE系樹脂は、得られる二軸延伸積層フィルムを低誘電率化、低誘電正接化する機能を有する成分である。
【0058】
PPE系樹脂は、芳香族環に直接結合したエーテル結合を主鎖中に有する重合体を意味し、例えば、下記式(9)で表される構造を繰り返し単位中に含む重合体である。
【0059】
【化5】
上記式中、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~7の第一級アルキル基、炭素数1~7の第二級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基であり、mは、それぞれ独立して、1~4の整数である。
【0060】
PPE系樹脂の具体例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエ-テル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等の単重合体や、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノールや2-メチル-6-ブチルフェノール)との共重合体等や、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル-2,2-プロパン二無水物などの芳香族ビス(エーテル無水物)とm-フェニレンジアミンまたはp-フェニレンジアミンとの縮合重合体や、ジヒドロキシジフェニルサルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンもしくは4,4’-ジヒドロキシビフェニルまたはそれらのアルカリ金属塩とジクロロジフェニルスルホンとの縮合重合体等が挙げられる。
【0061】
これらの中でも、PPE系樹脂としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)または2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体であることが好ましく、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)であることがより好ましい。
【0062】
PPE系樹脂の数平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、1,500~50,000であることがより好ましく、1,500~30,000であることがさらに好ましい。
【0063】
樹脂組成物(A)中におけるPPE系樹脂の配合量の割合は、PAS樹脂、PPE系樹脂およびスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の合計100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上から、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下の範囲である。上記範囲であれば、二軸延伸積層フィルムの誘電特性(低誘電率化、低誘電正接化)とポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以下の温度で金属や樹脂成形体と直接熱接着に改善効果により優れる。
【0064】
本発明に用いる樹脂組成物(A)は、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を必須の原料として配合してなる。なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」及び/又は「メタクリル酸」を意味するものとする。
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、その多くが樹脂組成物の分散相に含まれる。分散相中のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、二軸積層延伸フィルムの延伸性を高める機能を有する成分である。
【0065】
スチレン-メタクリル酸共重合体は、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸系モノマーとの共重合体である。
【0066】
スチレン系モノマーとしては、特に限定されないが、スチレンおよびその誘導体が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン;フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン等のハロゲン化スチレン;ニトロスチレン;アセチルスチレン;メトキシスチレン等が挙げられる。これらのスチレン系モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸の他、置換または非置換の炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。この場合、置換基としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基等が挙げられる。なお、置換基は、1つのみ有していてもよいし、2以上有していてもよい。置換基を2以上有する場合には、それぞれの置換基は同じであっても異なってもよい。置換または非置換の炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-へキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等が挙げられる。中でも、相溶性、反応性の観点から、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。なお、これらの(メタ)アクリル酸系モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中に含まれる(メタ)アクリル酸に基づく繰り返し単位の含有率は、良好な相溶性が得られ、二軸延伸積層フィルムの延伸均一性、耐折強度等をより向上させることができることから、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の総質量に対して好ましくは1質量%以上から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下までの範囲である。
【0069】
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の重合反応には、汎用されているスチレン系モノマーの重合方法を応用することができる。
【0070】
重合方式は、特に限定はないが、塊状重合、懸濁重合または溶液重合が好ましい。中でも、生産効率のから、重合方式は、特に連続塊状重合が好ましい。例えば、1個以上の攪拌式反応器と、可動部分のない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器とを組み込んだ装置を用いて、連続塊状重合を行うことにより、特性に優れたスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を得ることができる。
【0071】
なお、重合開始剤を使用せずに熱重合させることもできるが、種々のラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。また、重合反応に必要な懸濁剤や乳化剤等の重合助剤は、通常のポリスチレンの製造で使用される化合物を利用することができる。
【0072】
重合反応での反応物の粘性を低下させるために、反応系に有機溶剤を添加してもよい。かかる有機溶剤としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アセトニトリル、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、ジシナモイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシイシプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類;N,N’-アゾビスイソブチルニトリル、N,N’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N’-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
さらに、得られるスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の分子量が過度に大きくなり過ぎないように、反応系に連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、連鎖移動基を1つ有する単官能連鎖移動剤でも、連鎖移動基を複数有する多官能連鎖移動剤でも使用することができる。単官能連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸エステル類等が挙げられる。多官能連鎖移動剤としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール中のヒドロキシ基をチオグリコール酸または3-メルカプトプロピオン酸でエステル化した化合物等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
また、得られるスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のゲル化を抑制するために、長鎖アルコールやポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル等も使用することが可能である。
【0076】
樹脂組成物(A)中におけるスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の配合量の割合は、PAS樹脂、PPE系樹脂およびスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の合計100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下の範囲である。上記範囲であれば、良好な相溶性が得られ、二軸延伸積層フィルムの延伸均一性、耐折強度等をより向上させることができる。
【0077】
本発明に用いる樹脂組成物(A)は、必要に応じ、エラストマーを任意の原料として配合してなる。エラストマーを用いる場合、当該エラストマーは、原則として樹脂組成物(A)の分散相に含まれる。分散相中のエラストマーは、PAS樹脂とPPE系樹脂との相溶化剤としても機能し、分散相が微分散化することで、機械的強度(引裂強度等)を向上させる機能を有する。また、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体との併用により、エラストマーを介して、PAS樹脂とPPE系樹脂との界面の接着性がより向上し、機械的強度(耐折強度、引裂強度等)がさらに向上する。
【0078】
エラストマーは、PAS樹脂およびPPE系樹脂の少なくとも一方と反応可能な官能基を有するもの(以下、「官能基含有エラストマー」とも表記する)であることがより好ましく、これにより、二軸延伸積層フィルムの機械的強度(耐折強度、引裂強度等)をより向上させることができる。
【0079】
官能基含有エラストマーが有することのできる官能基としては、エポキシ基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ基であることがより好ましい。これらの官能基は、PAS樹脂およびPPE系樹脂が有する分子末端の官能基と反応可能である。
【0080】
エラストマーとしては、エポキシ基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0081】
かかるエラストマーとしては、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位とを含む共重合体、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位と、アクリル酸エステルに基づく繰り返し単位とを含む共重合体等が挙げられる。
【0082】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。
【0083】
また、官能基を有するビニル重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸およびそのエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸、そのモノまたはジエステル、その酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸、そのエステルおよびその酸無水物、α,β-不飽和グリシジルエステル等が挙げられる。
【0084】
α,β-不飽和グリシジルエステルとしては、特に限定されないが、下記式(10)で表される化合物等が挙げられる。
【0085】
【化6】
上記式中、R
3は、炭素数1~6のアルケニル基である。
炭素数1~6のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1,1-ジメチル-1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0086】
R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,4-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられる。
【0087】
α,β-不飽和グリシジルエステルの具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、グリシジルメタクリレートであることが好ましい。
【0088】
エラストマーのα-オレフィン含有率は、前記エラストマーの総質量に対して、好ましくは50質量%以上から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下までの範囲である。α-オレフィンに基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、二軸延伸積層フィルムの延伸均一性、耐折強度等を向上することができる。
また、エラストマー中に占める官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下の範囲である。官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、目的とする改善効果のみならず、良好な押出安定性が得られる。
【0089】
エラストマーを配合する場合、樹脂組成物(A)中におけるエラストマーの配合量の割合は、PAS樹脂、PPE系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体およびエラストマーの合計100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上から、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下の範囲である。上記範囲であれば、二軸延伸積層フィルムの誘電特性(低誘電率化と低誘電正接化)、耐折強度等をより向上させることができる。
【0090】
本発明に用いる樹脂組成物(A)は、必要に応じ、シランカップリング剤を任意の原料として配合してなる。シランカップリング剤は、PAS樹脂と、他の成分(PPE系樹脂、スチレン-メタクリル酸共重合体および必要に応じて含有することできるエラストマーとの相溶性(相互作用)を高めることができる。また、シランカップリング剤を使用することにより、PAS樹脂中における他の成分の分散性が飛躍的に向上し、良好なモルフォロジーを形成することができる。
【0091】
シランカップリング剤は、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する化合物であることが好ましい。かかるシランカップリング剤は、他の成分と反応することで、これらと強固に結合する。その結果、シランカップリング剤の効果がより顕著に発揮され、PAS樹脂中における他の成分の分散性を特に高めることができる。
かかるシランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有する化合物が挙げられる。
【0092】
シランカップリング剤の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0093】
シランカップリング剤を配合する場合、樹脂組成物(A)中におけるシランカップリング剤の配合量の割合は、PAS樹脂、PPE系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体およびシランカップリング剤の合計100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下の範囲である。上記範囲であれば、PAS樹脂中における他の成分の分散性をさらに向上させることができる。
【0094】
本発明に用いる樹脂組成物(A)は、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、導電剤等の公知の添加剤を配合してもよい。
【0095】
本発明に用いる樹脂組成物(A)を製造する方法としては、特に限定されないが、必須の各原料と、必要に応じて任意の各原料と添加剤を、必要に応じて、タンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して、樹脂種が溶融する温度以上に加熱して、溶融混練する方法が挙げられる。
この溶融混練は、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~0.2(kg/hr・rpm)となる条件で行うことが好ましい。
【0096】
更に詳述すれば、各原料成分を二軸押出機内に投入し、設定温度300℃、ストランドダイでの樹脂温度330℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が好ましい。この際、混練物の吐出量は、回転数250rpmで5~50kg/hrの範囲となる。特に各成分の分散性を高める観点からは、混練物の吐出量は、回転数250rpmで20~35kg/hrであることが好ましい。よって、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、0.08~0.14(kg/hr・rpm)であることがより好ましい。
【0097】
本発明の二軸延伸積層フィルムは、少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する。そして、該二軸延伸積層フィルムは、少なくとも1層が、前記樹脂組成物(A)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)である。そして、本発明の二軸延伸積層フィルムの製造方法は、少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する未延伸積層シートを二軸延伸する工程を有する。
かかる二軸延伸積層フィルムの一実施態様では、樹脂層(A)が、PAS樹脂をマトリックス(連続相)として、このマトリックス中にPPE系樹脂を含む粒子(分散相)が分散している。樹脂層(A)において、マトリックス(連続相)と粒子(分散相)は、それぞれ、それを構成する樹脂組成物(A)中の連続相と分散相に由来する。当該マトリックスおよび粒子は、マトリックス(連続相)がPAS樹脂で構成されることから、PAS樹脂本来の耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐湿熱性等の性能を維持した二軸延伸積層フィルムを得ることができる。
なお、スチレン-メタクリル酸共重合体は、PPE系樹脂の粒子内、またはPPE系樹脂の粒子(分散相)と別の粒子(分散相)として存在する。
また、樹脂組成物(A)がエラストマーを配合する場合、エラストマーはPPE系樹脂の表面(すなわちマトリックスと粒子との界面)、PPE系樹脂の粒子内、またはPPE系樹脂の粒子と別の粒子(分散相)として存在する。
【0098】
さらにまた、本発明者らは、エラストマーは、PAS樹脂とPPE系樹脂との相溶化剤としても機能することにより、粒子がマトリックス中に微分散化することで、二軸延伸積層フィルムの機械的強度(耐折強度等)がより向上するものと考えている。さらに、本発明者らは、シランカップリング剤との併用により、エラストマーを介したマトリックスと粒子との界面の接着性がより向上し、二軸延伸積層フィルムの機械的強度(耐折強度等)がさらに向上するものとも考えている。
【0099】
樹脂層(A)において、マトリックス(連続相)中に分散する粒子(分散相)の平均粒径(平均分散径)は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、一方、下限値は特に限定されないが、0.5μm以上であることがさらに好ましい。粒子の平均粒径が上記範囲であれば、均一かつ均質な二軸積層延伸フィルムを得ることができる。なお、本明細書において、「粒子の平均粒径」は、次のようにして測定する。
まず、樹脂層(A)の二軸延伸フィルムを、超薄切片法により、(I)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(II)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向に切断する。次に、切断されたフィルムの切断面(I)および(II)をそれぞれ2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、得られたSEM写真の任意の50個の粒子を選択し、切断面(I)および(II)における各粒子の最大直径を計測し、切断面(I)および(II)の2方向分を併せて平均粒径を算出する。
また、切断されたフィルムをルテニウム酸で染色させ、STEM-EDS分析を行えば、フィルムのマトリックスおよび粒子を構成する成分について分析することができる。
【0100】
本発明の二軸延伸積層フィルムの構造は、少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有していれば特に限定されないが、例えば、前記樹脂層(A)同士が直接積層された積層フィルムとしてもよいし、前記樹脂層(A)と前記樹脂層(A)とは異なる樹脂層とが直接積層された積層フィルムとしてもよい。当該構成とすることで、PAS樹脂の融点以下の温度で金属や樹脂成形体との接着が可能であり、高速伝送に対応した低誘電特性とを実現できる。
【0101】
本発明の二軸延伸積層フィルムの構造を、前記樹脂層(A)同士を直接積層させた積層フィルムとする場合には、互いに、同一の樹脂層(A)を直接積層させたものとすることができるが、例えば、膜厚が異なること以外は同一の樹脂層(A)を直接積層させたものとすることもできる。さらに、互いに、前記必須ないし任意の原料成分の配合割合ないし分散相の平均分散径が相違すること以外は同一の樹脂組成物(A)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)を直接積層させたものとすることもできる。
【0102】
また、種々の機能を付与できる観点から、本発明の二軸延伸積層フィルムの構造は、前記樹脂組成物(A)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(A)と、前記樹脂組成物(A)とは異なる、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物(B)の二軸延伸フィルムからなる樹脂層(単に「樹脂層(B)」とも表記する)とが直接積層された積層フィルムとしてもよい。ここで、樹脂層(B)は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の二軸延伸フィルムからなるものであればよいが、該熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物として、PAS樹脂、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルが好ましい)、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも1種を含むブレンド物を含む樹脂組成物であることが好ましく、PAS樹脂を含む樹脂組成物であることがさらに好ましい。
【0103】
本発明に用いる樹脂組成物(B)に含まれるPAS樹脂は、上記PAS樹脂で説明したものと同様のものを用いることができる。該樹脂組成物(B)中に含まれるPAS樹脂の割合は特に限定されないが、60質量部以上であることが好ましく、65質量部以上が特に好ましい。樹脂組成物(B)は、上記のPAS樹脂以外の樹脂種や添加剤を原料として配合することができ、例えば、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、前記エラストマー、前記シランカップリング剤、さらには、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルが好ましい)、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも1種を含むブレンド物を用いることができる。本発明に用いる樹脂組成物(B)を製造する方法も、前記樹脂組成物(A)と同様である。
【0104】
また、本発明の二軸延伸積層フィルムの少なくとも一層を構成する樹脂層が、空孔を有する層であっても良い。空孔を有することでさらに誘電特性の向上、特に誘電率を下げることができる。空孔を有する層を含む二軸延伸積層フィルムを製造する方法としては、公知のシートないしフィルムに空孔を形成する方法を採用することができる。例えば、本発明の二軸延伸積層フィルムの製造方法において、さらに、樹脂組成物中に孔形成剤を配合する工程を有し、孔形成剤を含む樹脂組成物の未延伸シートを二軸延伸することで樹脂と孔形成剤との界面でクレーズが形成されて、空孔を有する層を含む二軸延伸積層フィルムを製造することができる(クレーズ法ということがある)。また、他の方法としては、本発明の二軸延伸積層フィルムの製造方法において、さらに、樹脂組成物中に孔形成剤を配合する工程と、孔形成剤を含む樹脂組成物を用いて製造された未延伸シートないし二軸延伸フィルムを、該孔形成剤を溶解させる溶媒(除去溶媒ということがある)と接触させて該孔形成剤を除去する工程とを有し、これにより未延伸シートないし二軸延伸フィルムに空孔を形成する方法等が挙げられる(溶媒除去法ということがある)。未延伸シートに空孔を形成する場合には、その後、他の未延伸シートと積層して二軸延伸すれば空孔を有する層を含む二軸延伸積層フィルムが得られる。
【0105】
孔形成剤としては、炭酸カルシウムの微粒子が好ましいが、硫酸マグネシウムの微粒子、酸化カルシウムの微粒子、水酸化カルシウムの微粒子、シリカの微粒子などの無機微粒子を例示でき、溶媒除去法では、室温(23℃)で固体の溶剤(固体溶剤という)または室温で液体の溶剤(液体溶剤という)を用いることもできる。液体溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族又は環式の炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられ、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いることが好ましい。また、固体溶剤としては、加熱溶融混練状態ではポリオレフィンと混和状態になるが、室温では固体状の溶剤が挙げられ、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等を使用することができる。なお固体溶剤のみを使用すると、延伸むら等が発生する恐れがあるため、液体溶剤を併用することが好ましい。一方、除去溶媒の具体例としては、例えば、塩酸などの酸性水溶液、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素、三フッ化エタン等のフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル、メチルエチルケトン等の易揮発性溶媒が挙げられる。また除去溶媒としては、上記の他に、特開2002-256099号に開示されている、25℃における表面張力が24mN/m以下になる溶媒を用いることができる。このような表面張力を有する溶媒を用いることにより、孔形成剤を除去した後の乾燥時に空孔内部で生じる気-液界面の表面張力によって起る網状組織の収縮緻密化を抑制することができ、その結果、空孔を有する層の空孔率及び透過性が一層向上する。空孔を有する層において、空孔率は特に限定されるものではないが、機械的強度と誘電特性とに優れる観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上から、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下までの範囲である。ただし、空孔率は、二軸延伸積層フィルム中の空孔を有する層を、超薄切片法により、(I)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(II)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向に切断する。次に、切断されたフィルムの切断面(I)および(II)をそれぞれ2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、得られたSEM写真の面積を100とした際に、その画像中に含まれる空孔の面積の割合を指すものとする。なお、その際、空孔が観察されなければ空孔率が0%となる。切断面(I)および(II)における各割合を計測し、切断面(I)および(II)の2方向分を併せて平均したものを「空孔率」とする。本発明において、孔形成剤を用いて空孔を形成する場合、孔形成剤の配合量の割合は、空孔率が上記範囲となるよう適宜調整すればよく、樹脂組成物と孔形成剤の各比重、孔形成剤を残すか(クレーズ法)又は除去するか(溶媒除去法)によっても相違するため、一概に規定することはできないが、例えば、前記樹脂組成物と孔形成剤との合計100質量部に対し、好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上の範囲である。
【0106】
本発明の二軸延伸積層フィルムが樹脂層(A)と樹脂層(B)との積層構造を有する場合、積層構成としては、(A)/(B)、(A)/(B)/(A)、(A)/(B)/(A)/(B)、(A)/(B)/(A)/(B)/(A)などの多層構成が挙げられるが、これに限定されない。中でも二軸延伸積層フィルムのカールを抑制する点で(A)/(B)/(A)、(A)/(B)/(A)/(B)/(A)の対象構成が好ましい。なお、「/」の表記は、直接接していることを意味し、例えば「(A)/(B)」は、各樹脂層(A)と樹脂層(B)とが直接積層された構造であることを意味するものとする。
【0107】
本発明の二軸延伸積層フィルムにおいて、樹脂層(A)の厚みは2μm以上の範囲であることが好ましく、より好ましくは10μm以上の範囲である。樹脂層(A)の厚みを2μm以上の範囲とすることで、高い接着性を得やすくなる。一方、上限値は、限定されないが、150μm以下までの範囲であることが好ましくは、より好ましくは100μm以下までの範囲である。樹脂層(A)層以外、例えば、樹脂層(B)の厚みは任意である。
【0108】
本発明で用いる二軸延伸積層フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、少なくとも2層の樹脂層が直接積層された構造を有する未延伸積層シートを製造して、次に、得られた未延伸積層シートを二軸延伸する方法が挙げられる。例えば、積層構成とする場合、各樹脂層に用いる樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出積層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で目的とする積層構成で樹脂層を直接積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりシート状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、コストパフォーマンスにも優れた未延伸積層シートが得られるので好ましい。
【0109】
次に、二軸延伸する場合、前記で得られた未延伸積層シートを二軸延伸する。
二軸延伸フィルムの長手方向(MD方向)の延伸倍率は、好ましくは2倍以上、より好ましくは2.5倍から、好ましくは4倍以下、より好ましくは3.8倍以下の範囲である。
また、二軸延伸フィルムの幅方向(TD方向)の延伸倍率は、好ましくは2倍以上、より好ましくは2.5倍から、好ましくは4倍以下、より好ましくは3.8倍以下の範囲である。
なお、二軸延伸フィルムの長手方向(MD方向)の延伸倍率に対する二軸延伸フィルムの幅方向(TD方向)の延伸倍率の比(幅方向(TD方向)/(長手方向(MD方向))は、長手方向の物性と幅方向の物性とをバランスさせ易いことから、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上から、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下までの範囲である。
【0110】
延伸方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、またはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。
逐次二軸延伸法により二軸延伸をする場合には、例えば、得られた未延伸シートを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に、好ましくは2倍以上、より好ましくは2.5倍から、好ましくは4倍以下、より好ましくは3.8倍以下の範囲に、1段または2段以上の多段で延伸した後、30~60℃の冷却ロール群で冷却する。
なお、延伸温度は、好ましくはPAS樹脂のガラス転移温度(Tg)以上、より好ましくは(Tg+5℃)以上から、好ましくは(Tg+40℃)以下、より好ましくは(Tg+30℃)以下、さらに好ましくは(Tg+20℃)以下の範囲である。
【0111】
次に、テンターを用いる方法により幅方向(TD方向)に延伸する。MD方向に延伸させたフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、TD方向の延伸を行う。
なお、延伸倍率は、好ましくは2倍以上、より好ましくは2.5倍から、好ましくは4倍以下、より好ましくは3.8倍以下の範囲である。
また、延伸温度は、好ましくはTg以上、より好ましくは(Tg+5℃)以上から、(Tg+40℃)以下、より好ましくは(Tg+30℃)以下、さらに好ましくは(Tg+20℃)以下の範囲である。
【0112】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定することが好ましい。
熱固定温度は、特に限定されないが、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上から、好ましくは280℃以下、より好ましくは275℃以下までの範囲である。なお、熱固定は、熱固定温度を変更して2段で実施してもよい。この場合、2段目の熱固定温度を1段目の熱固定温度より+10~40℃高くすることが好ましい。この範囲の熱固定温度で熱固定された延伸フィルムは、その耐熱性、機械的強度がより向上する。
また、熱固定時間は、1~60秒間であることが好ましい。
【0113】
さらに、このフィルムを50~275℃の温度ゾーンで、幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、特に限定されないが、好ましくは0.5%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上から、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに7%以下までの範囲である。
【0114】
二軸延伸積層フィルムの厚さは、特に限定されないが、好ましくは各層の総和であって、かつ、各層の厚みが、好ましくは2μm以上、より好ましくは10μm以上から、好ましくは300μm以下、200μm以下、さらに好ましくは100μm以下までの範囲である。より具体的には十分な機械的強度と、誘電特性を発揮することができる観点から、二軸延伸積層フィルムの厚さは、好ましくは10μm以上から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下までの範囲である。
【0115】
本発明の二軸積層延伸フィルムと金属あるいは樹脂成形体との接着性を高める目的で二軸積層延伸フィルムに表面処理を施しても良い。該表面処理としては、コロナ放電処理(各種ガス雰囲気下でのコロナ処理も含む)、プラズマ処理(各種ガス雰囲気下でのプラズマ処理も含む)、化学薬品や紫外線、電子照射線等による酸化処理等が挙げられる。中でも、プラズマ処理が好ましい。
【0116】
本発明の一形態によれば、積層体が提供される。当該積層体は、二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)と、金属層及び樹脂成形体から成る群から選ばれる少なくとも1つとが接してなる構造を有する。前記積層体は、上述の二軸延伸積層フィルムと、前記二軸延伸積層フィルムの少なくとも一方の最外樹脂層面に直接配置される金属層あるいは樹脂成形体とを含む。
【0117】
前記金属層としては、特に制限されないが、銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、ニッケル、またはこれらを含む合金等が挙げられる。
【0118】
なお、金属層は単層であってもよいし、2層であってもよい。金属層が2層である場合、各金属相は同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0119】
一実施形態において積層体は、例えば、金属層-二軸延伸積層フィルム、金属層-二軸延伸積層フィルム-金属層、金属層-二軸延伸積層フィルム-金属層-二軸延伸積層フィルム、金属層-金属層-二軸延伸積層フィルム、金属層-金属層-二軸延伸積層フィルム-金属層等の構成を有しうる。なお、「-」の表記は、直接接していることを意味し、例えば「金属層-二軸延伸積層フィルム」は、各金属層と二軸延伸積層フィルムとが直接接着した構造であることを意味するものとする。
【0120】
なお、金属層と二軸延伸積層フィルムとを接着する方法としては、金属を真空蒸着法、スパッタリング、めっきなどの方法が挙げられる。また、上述の二軸延伸積層フィルムと金属箔を重ね合わせ熱溶着させる方法により金属層を形成してもよい。
【0121】
金属層が設けられた積層体は、二軸延伸積層フィルムが優れた誘電特性(低誘電率化、低誘電正接化)を有するため、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブル、特に100Gbps、さらには1Tbpsといった無線伝送速度に対応可能な電子・電気機器など、次世代の高速伝送に好適に使用できる。また、二軸延伸積層フィルムが優れた耐熱性、絶縁性を有するため、モーター用絶縁体に好適に使用できる。
【0122】
一実施形態において積層体は、例えば、樹脂成形体-二軸延伸積層フィルム、樹脂成形体-二軸延伸積層フィルム-樹脂成形体、樹脂成形体-二軸延伸積層フィルム-金属層等の構成を有しうる。
なお、樹脂成形体と二軸延伸積層フィルムとを接着する方法としては、上述の二軸延伸積層フィルムと樹脂成形体を重ね合わせ熱溶着などの熱接着させる方法が挙げられる。
【0123】
前記樹脂成形体としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、芳香族ポリアミド、液晶樹脂などの押出成形品または射出成型品、繊維シートが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0124】
なお、平面状成形物は厚さにより、フィルムや、シートと称される場合もあり、例えば、高分子辞典(高分子学会編集、朝倉書店、1971年)によれば、200μm未満をフィルムとし、200μm以上をシートとする区別が記載されているし、マグローヒル科学技術用語大辞典(株式会社日刊工業新聞社、1996年)によれば、最大厚さが250μmから最小厚さが25μmほどの薄い平面形状物をフィルムと称することが記載されているし、場合によっては、100μm未満をフィルムとし、100μm以上をシートとして区別する技術分野もある。このように、一般的には、フィルムとシートとを区別することは難しい。したがって、本発明では、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「シート」は薄い平面形状物、薄膜やフィルムと呼ばれ得るような部材をも含む概念であり、したがって、「フィルム」は、薄い平面形状物、薄膜やシートと呼ばれる部材をも含む概念であり、呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
【実施例】
【0125】
次に、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.使用した各成分
[ポリアリーレンスルフィド樹脂(a-1)]
PPS樹脂a-1:リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂(DIC株式会社製、融点280℃、300℃における溶融粘度(V6)160Pa・s、ジクロロベンゼンとしてパラジクロロベンゼンのみを用いて製造されたもの)
【0126】
PPS樹脂a-2:下記参考例1で製造したリニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂
[参考例1] [ポリフェニレンスルフィド樹脂(a-2)の調整]
150リットルオートクレーブに、フレーク状の硫化ナトリウム(60.9質量%)19.222kgと、N―メチル-2-ピロリドン45.0kgを仕込んだ。窒素気流下で撹拌しながら204℃まで昇温して、水4.438kgを留出させた(残存する水分量は硫化ナトリウム1モル当たり1.14モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン21.721kg、メタジクロロベンゼン3.833kg(両者のモル比[(p)/(m)]=85/15)及びN-メチル-2-ピロリドン18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cm2に加圧して昇温を開始した。液温220℃で3時間撹拌しつつ、オートクレーブ上部の外側に巻き付けたコイルに80℃の冷媒を流し冷却した。その後昇温して、液温260℃で3時間撹拌した後、降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブの上部を冷却中、液温がさがらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は8.91kg/cm2であった。得られたスラリーを温水で2回洗浄及び濾過し、水を約50質量%含む濾過ケーキを得た。次に、この濾過ケーキに水60kg及び酢酸100gを加えて再スラリー化し、50℃で30分間撹拌した後、再度濾過した。この際、上記スラリーのpHは4.6であった。ここで得られた濾過ケーキに、水60kgを加え30分間撹拌した後、再度濾過する操作を5回繰り返した。得られた濾過ケーキを熱風循環乾燥機中、120℃で4.5時間乾燥し、白色粉末状のポリフェニレンスルフィド樹脂(a-2)を得た。(以下PPS樹脂a-2と略す。)の融点230℃、300℃における溶融粘度(V6)45Pa・sであった。
【0127】
[ポリフェニレンエーテル系樹脂(b)]
PPE:ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)
なお、PPSは、その分子末端にカルボキシル基を有し、PPEは、その分子末端に水酸基を有している。
【0128】
[スチレン-メタクリル酸共重合体(c)]
スチレン系樹脂c-1:スチレンとメタクリル酸とを97.5:2.5の質量比で重合させてなる共重合体
スチレン系樹脂c-2:スチレンとメタクリル酸とを80.0:20.0の質量比で重合させてなる共重合体
【0129】
[エラストマー(d)]
エラストマーd-1:エチレンとグリシジルメタクリレートとアクリル酸メチルとを70:3:27の質量比で重合させてなるグリシジル変性エラストマー(住友化学株式会社製、「ボンドファースト7L」)
エラストマーd-2:エチレンとグリシジルメタクリレートとを88:12の質量比で重合させてなるグリシジル変性エラストマー(住友化学株式会社社製、「ボンドファーストE」)
エラストマーd-3:無水マレイン酸変性エラストマー(三井化学株式会社製、「タフマーMH7020」)
【0130】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤:γ-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0131】
[実施例1] 樹脂組成物(A)、樹脂層(A)の製造
86.5質量部のPPS樹脂a-1と、5質量部のPPEと、3質量部のスチレン樹脂c-1と、5質量部のエラストマーd-1と、0.5質量部のシランカップリング剤とを、タンブラーで均一に混合して混合物を得た。
次に、この混合物を、ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、設定温度300℃の条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物(A-1)を製造した。
【0132】
次に樹脂組成物(A-1)をフルフライトスクリューの単軸押出機に投入して、280℃から300℃溶融し、その溶融した樹脂をTダイから押出した後、40℃に設定したチルロールで密着冷却し、未延伸ポリアリーレンスルフィド樹脂シートを作製した。さらに、この未延伸ポリアリーレンスルフィド樹脂シートを井本製作所製バッチ式二軸延伸機にて、100℃にて3.5×3.5倍に延伸して厚み35μmの二軸延伸フィルムを得た。さらに、得られた二軸延伸フィルムを型枠に固定し、275℃のオーブンにて熱固定処理し、二軸延伸フィルムを得た。この二軸延伸フィルムを用いて誘電特性を評価した。
【0133】
また、前記で得られた二軸延伸フィルムを、超薄切片法により、フィルム面に垂直な方向に切断した。そして、切断されたフィルムをルテニウム酸で染色させ、STEM-EDS分析を行い、二軸延伸フィルムのマトリックスおよび粒子を構成する成分について分析した。その結果、マトリックスを構成する成分は、PPSであり、粒子を構成する成分は、PPEであることが判った。なお、エラストマー、単独で分散する粒子として存在するか、マットリックスとPPEの粒子との界面に存在していた。
【0134】
[実施例2~9] 樹脂組成物(A)、樹脂層(A)の製造
PPS樹脂a-1、PPE、スチレン樹脂、変性エラストマーおよびシランカップリング剤の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂層(A-2~A-9)用樹脂組成物(A-2~A-9)の製造、および延伸倍率を3×3倍に変更した以外は、同様にして得られた樹脂組成物(A-2~A-9)を用いた二軸延伸フィルムを作製し、誘電特性を評価した。
また、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルムの構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、PPEの粒子が分散していることが判った。なお、エラストマーは、単独で分散する粒子として存在するか、マットリックスとPPEの粒子との界面に存在していた。
【0135】
[実施例10] 樹脂組成物(A)、樹脂層(A)の製造
30.6質量部のPPS樹脂a-2と、45.9質量部のPPS樹脂a-1と、15質量部のPPEと、3質量部のスチレン樹脂c-1と、5質量部のエラストマーd-1と、0.5質量部のシランカップリング剤とを、タンブラーで均一に混合して混合物を得た以外は、実施例2と同様にして樹脂層(A-10)用樹脂組成物(A-10)の製造、および得られた樹脂組成物(A-10)を用いた二軸延伸フィルムを作製し、誘電特性を評価した。
また、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルムの構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、PPEの粒子が分散していることが判った。なお、エラストマーは、単独で分散する粒子として存在するか、マットリックスとPPEの粒子との界面に存在していた。
【0136】
[比較例1]比較用樹脂組成物(A)、樹脂層(A)の製造
86.5質量部のPPS樹脂a-1と、5質量部のPPEと、3質量部のスチレン樹脂c-1と、5質量部のエラストマーd-1と、0.5質量部のシランカップリング剤とを配合した樹脂組成物の代わりに、94.5質量部のPPS樹脂a-1と、5質量部のエラストマーd-1と、0.5質量部のシランカップリング剤とを配合した樹脂組成物(cA-1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの誘電率および誘電正接を測定した。
【0137】
[比較例2]比較用樹脂組成物(A)、樹脂層(A)の製造
86.5質量部のPPS樹脂a-1と、5質量部のPPEと、3質量部のスチレン樹脂c-1と、5質量部のエラストマーd-1と、0.5質量部のシランカップリング剤とを配合した樹脂組成物の代わりに、89.5質量部のPPS樹脂a-1と、5質量部のPPEと、5質量部のエラストマーd-1と、0.5質量部のシランカップリング剤とを配合した樹脂組成物(cA-2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの誘電率および誘電正接を測定した。
【0138】
[比較例3]比較用樹脂組成物(A)、樹脂層(A)の製造
株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α」にPPS樹脂a-1を投入し、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、設定温度300℃で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして溶融物を調整した。次に混練物をフルフライトスクリューの単軸押出機に投入して、280℃から300℃溶融し、その溶融した樹脂をTダイから押出した後、40℃に設定したチルロールで密着冷却し、未延伸ポリアリーレンスルフィド樹脂シートを作製した。さらに、この未延伸ポリアリーレンスルフィド樹脂シートを井本製作所製バッチ式二軸延伸機にて、100℃にて3.5×3.5倍に延伸して厚み35μmの二軸延伸フィルムを得た。さらに、得られた二軸延伸フィルムを型枠に固定し、270℃のオーブンにて熱固定処理し、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの誘電率および誘電正接を測定した。
【0139】
[参考例2]
[樹脂組成物(B)の調製]
PPS樹脂a-1をベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、設定温度300℃の条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物(B-1)を製造した。
【0140】
[参考例3]
60質量部のPPS樹脂a-1と、40質量部の炭酸カルシウム(CaCO3、丸尾カルシウム社製、平均粒径3μm)をベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、設定温度300℃の条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物(B-2)を製造した。
【0141】
[実施例11]二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
樹脂組成物(A-1)、(B-1)をそれぞれ、樹脂層(A)用押出機(口径40mm)、樹脂層(B)用押出機(口径40mm)に供給して280~300℃で溶融し、その溶融した樹脂をフィードブロックを有するTダイ・チルロール法の共押出シート製造装置(フィードブロック及びTダイ温度:300℃)に供給して溶融押出後、40℃に設定したチルロールで密着冷却し、シートの層構成が樹脂層(A)/樹脂層(B)/樹脂層(A)の3層構成の共押出積層未延伸シートを作製した。
次に、作製された積層未延伸シートを、バッチ式二軸延伸機(株式会社井本製作所製)を用いて100℃で3.5×3.5倍に二軸延伸することで、厚さ50μmのフィルムを得た。さらに、得られたフィルムを型枠に固定し、275℃のオーブンにて熱固定処理することで、二軸延伸積層フィルムを製造した。
【0142】
次に得られた二軸延伸積層フィルムと電解銅箔(厚み18μm)を、該二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)が電解銅箔と接するよう重ね合わせプレス機にて270℃で5MPaの圧力下で15秒間加圧し、銅箔とフィルムの積層体を作製した。
【0143】
[実施例12]二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
樹脂層(A)用に樹脂組成物(A-2)を用い、延伸倍率を3×3倍に変更した以外は、実施例11と同様にして、二軸延伸積層フィルムおよび積層体を製造した。
【0144】
[実施例13~19]二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
樹脂層(A)用に樹脂組成物(A-3~A-9)に変更した以外は、実施例12と同様にして、二軸延伸積層フィルムおよび積層体を製造した。
【0145】
[実施例20]
樹脂層(A)用に樹脂組成物(A-10)に変更した以外は、実施例12と同様にして、二軸延伸フィルムを作製した。次に得られた二軸延伸積層フィルムと電解銅箔(厚み18μm)を、該二軸延伸積層フィルムの樹脂層(A)が電解銅箔と接するよう重ね合わせプレス機にて260℃で5MPaの圧力下で15秒間加圧し、銅箔とフィルムの積層体を作製した。
【0146】
[実施例21]
樹脂層(B)用に樹脂組成物(B-2)に変更した以外は、実施例12と同様にして、二軸延伸フィルム及び積層体を作製した。なお、樹脂層(B)の平均空孔率は55%であった。
【0147】
[比較例4]比較用二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
樹脂層(A)用に樹脂組成物(cA-1)を用いた以外は、実施例11と同様にして、二軸延伸積層フィルムおよび積層体を製造した。
。
[比較例5]比較用二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
樹脂層(A)用に樹脂組成物(cA-2)を用いた以外は、実施例11と同様にして、二軸延伸積層フィルムおよび積層体を製造した。
【0148】
[比較例6]比較用二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
樹脂層(A)用に樹脂組成物(A-1)の代わりにPPS樹脂a-1を用いた以外は、実施例11と同様にして、二軸延伸積層フィルムおよび積層体を製造した。
【0149】
[比較例7]比較用二軸延伸積層フィルム、積層体の製造
比較例6で得られた二軸延伸積層フィルムにプラズマ処理を施し、フィルムの処理面側と電解銅箔(厚み18μm)を重ね合わせプレス機にて270℃で5MPaの圧力下で15秒間加圧し、銅箔とフィルムの積層体を作製した。
【0150】
[評価]
1.誘電率および誘電正接
誘電率および誘電正接の測定は、JIS C 2565:1992に規定された空洞共振法に基づいて行った。具体的には、絶縁フィルムから幅2mm×長さ150mmの短冊を作製した。次いで、作製した短冊を23℃、50%Rhの環境下、24hr静置した後、ADMS010cシリーズ(株式会社エーイーティー製)を用いて、空洞共振法にて周波数1GHzの誘電率および誘電正接を測定した。下記表に「誘電率」、「誘電正接」として示す。
【0151】
2.接着性
接着性は、JIS K 6854:1999に規定された試験方法に基づいて、銅箔と二軸延伸積層フィルムとの剥離強度を測定し、以下の基準に従って評価した。下記表に「接着性」として示す。
◎:8N/cm以上
○:7N/cm以上8N/cm未満
△:6N/cm以上7N/cm未満
×:6N/cm未満
以上の結果を表1~3に示す。
【0152】
3.延伸均一性
無配向状態の未延伸シートに升目状(升目サイズ10×10(mm))のスタンプを押し、所定倍率で延伸した際、得られた二軸延伸フィルムの升目の状況を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。得られた結果を下記表に「延伸均一性」として示す。
【0153】
◎;フィルム全面の升目の9割以上が正方形
○;フィルム全面の升目の8割以上9割未満が正方形
△;フィルム全面の升目の5割以上8割未満が正方形
×;フィルム全面の升目の5割未満が正方形
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
実施例1~10で得られた樹脂層(A-1)~(A-10)として用いる二軸延伸フィルムは低誘電率かつ低誘電正接であり誘電特性に優れる結果を示した。また、当該樹脂層を含む、実施例11~21で得られた二軸延伸積層フィルムおよび積層体は、金属層との接着性に優れる結果を示した。
これに対して比較例1及び4、比較例2及び5、並びに比較例3、6及び7でそれぞれ得られた二軸延伸フィルム、二軸延伸積層フィルムおよび積層体は、誘電特性および/または接着性に劣る結果であった。
この結果から、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を原料として配合してなり、特定のモルフォロジを有する樹脂組成物の二軸延伸フィルムからなる樹脂層を配した二軸延伸積層フィルムを用いることでポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する優れた諸性質(耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐湿熱性)を維持しつつ、低誘電率化および低誘電正接化が発現しうることが明らかとなった。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以下で金属や樹脂成形体と直接熱接着が可能であることも明らかとなった。