(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ケーブル及びハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/18 20060101AFI20221206BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20221206BHJP
H01B 11/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01B7/18 E
H01B7/00 301
H01B11/02
H01B7/00 306
(21)【出願番号】P 2022006843
(22)【出願日】2022-01-20
(62)【分割の表示】P 2020092920の分割
【原出願日】2016-02-16
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】早川 良和
(72)【発明者】
【氏名】村山 知之
(72)【発明者】
【氏名】岡 史人
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
(72)【発明者】
【氏名】二ツ森 敬浩
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/090658(WO,A1)
【文献】実開昭57-197109(JP,U)
【文献】特開2013-237428(JP,A)
【文献】特開2014-220043(JP,A)
【文献】特開2013-152789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
H01B 7/00
H01B 11/02
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と当該導体の周囲を被覆する絶縁体とを備える複数の電線と
前記複数の電線の周囲に設けられており、前記複数の電線との間に空間を形成する層状の介在層と、
前記介在層の外周に被覆されているウレタン系樹脂からなる外皮と、
を備え、
前記介在層は、厚さが0.03mm以上0.10mm以下であり通気性が30cc/cm
2/sec以上である1枚の不織布テープ部材がその幅方向の一部が重なり合うとともにその幅方向の一部が重なり合わないで前記複数の電線の周囲に螺旋状に巻きつけられて構成されている
ケーブル。
【請求項2】
前記複数の電線は、撚り合わされており、
前記複数の電線の撚り方向と、前記テープ部材の巻き付け方向とが同じ方向である、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記複数の電線の撚りピッチと、前記テープ部材の巻きピッチとが等しい、
請求項2に記載のケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のケーブルと、
前記複数の電線のうちいずれかの端部に取り付けられたコネクタと、
を備えた
ハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル及びハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電線の周囲にシースを設けたケーブルが知られている。このようなケーブルでは、シースから複数の電線を剥がし易くするために、電線の周囲にタルク粉体等の潤滑剤を塗布することが行われているが、端末処理等の作業時に潤滑剤が周囲に飛散して作業性が低下してしまうという課題があった。
【0003】
そこで、複数の電線の周囲に螺旋状にテープ部材を巻き付け、テープ部材の周囲にシースを設けたケーブルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
電線の周囲にテープ部材を設けることにより、電線に潤滑剤を塗布することなく、電線をシースから剥がしやすくすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、ウレタン系樹脂からなるシースをテープ部材の外周に被覆すると、シースが発泡し、シースにボイドが発生してしまう場合があるという課題があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明は、ウレタン系樹脂からなるシースにボイドが発生してしまうことを抑制可能なケーブル及びハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の電線と、前記複数の電線の周囲に巻き付けられているテープ部材と、前記テープ部材の外周に被覆されているウレタン系樹脂からなる外皮と、を備え、前記テープ部材は、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維、またはガラス繊維からなる不織布で構成され、前記不織布の通気性が、30cc/cm2/sec以上である、ケーブルを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記ケーブルと、前記電線の端部に取り付けられたコネクタと、を備えた、ハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウレタン系樹脂からなるシースにボイドが発生してしまうことを抑制可能なケーブル及びハーネスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るケーブルを用いた車両の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るケーブルを示す図であり、(a)は横断面図、(b)は外皮とテープ部材とを断面で表した破断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るハーネスの概略構成図である。
【
図4】本発明の一変形例に係るケーブルの横断面図である。
【
図5】本発明の一変形例に係るケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
(ケーブルを適用する車両の説明)
図1は、本実施の形態に係るケーブルを用いた車両の構成を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、車両100には、電動式の制動装置として、電動パーキングブレーキ(以下、EPBという)101が備えられている。
【0015】
EPB101は、EPB用電気モータ101aと、EPB制御部101bと、を備えている。
【0016】
EPB用電気モータ101aは、車両100の車輪102に搭載されている車輪側装置である。EPB制御部101bは、車両100の車体側装置であるECU(電子制御ユニット)103に搭載されている。なお、EPB制御部101bは、ECU103以外のコントロールユニットに搭載されていてもよく、専用のハードウェアユニットに搭載されていてもよい。
【0017】
図示していないが、EPB用電気モータ101aには、ブレーキパッドが取り付けられたピストンが設けられており、当該ピストンをEPB用電気モータ101aの回転駆動により移動させることで、ブレーキパッドを車輪102の車輪のディスクロータに押し付け、制動力を発生させるように構成されている。EPB用電気モータ101aには、EPB用電気モータ101aに駆動電流を供給するための電源線として1対の第1電線5が接続されている。
【0018】
EPB制御部101bは、車両100の停止時に、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオフ状態からオン状態に操作されたとき、所定時間(例えば1秒間)にわたってEPB用電気モータ101aに駆動電流を出力することにより、ブレーキパッドを車輪102のディスクロータに押し付けた状態とし、車輪102に制動力を発生させるように構成されている。また、EPB制御部101bは、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオン状態からオフ状態に操作されたとき、あるいは、アクセルペダルが踏込操作されたときに、EPB用電気モータ101aに駆動電流を出力し、ブレーキパッドを車輪のディスクロータから離間させて、車輪102への制動力を解除するように構成される。つまり、EPB101の作動状態は、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオンされてから、パーキングブレーキ作動スイッチ101cがオフされるかアクセルペダルが踏み込まれるまで維持されるように構成されている。なお、パーキングブレーキ作動スイッチ101cは、レバー式又はペダル式のスイッチであってもよい。
【0019】
また、車両100には、ABS装置104が搭載されている。ABS装置104は、ABSセンサ104aと、ABS制御部104bと、を備えている。
【0020】
ABSセンサ104aは、走行中の車輪102の回転速度を検出する回転速度検出センサであり、車輪102に搭載されている。ABS制御部104bは、急停止時に車輪102がロックされないように、ABSセンサ104aの出力に基づいて制動装置を制御し、車輪102の制動力を制御するものであり、ECU103に搭載されている。ABSセンサ104aには、信号線として1対の第2電線6が接続されている。
【0021】
第1電線5と第2電線6とを一括して外皮4(
図2参照)で被覆したものが、本実施の形態に係るケーブル1である。車輪102側から延出されたケーブル1は、車体105に設けられた中継ボックス106内にて電線群107に接続され、電線群107を介してECU103やバッテリ(不図示)に接続されている。
【0022】
図1では、図の簡略化のために1つの車輪102のみを示しているが、EPB用電気モータ101a、およびABSセンサ104aは、車両100の各車輪102に搭載されていてもよく、例えば、車両100の前輪のみ、あるいは後輪のみに搭載されていてもよい。
【0023】
(ケーブル1の説明)
図2は、本実施の形態に係るケーブル1の横断面図である。
【0024】
図2に示すように、ケーブル1は、複数の電線2と、複数の電線2の周囲に巻き付けられている不織布からなるテープ部材3と、テープ部材3の外周に被覆されているウレタン系樹脂からなる外皮4と、を備えている。
【0025】
ケーブル1では、複数の電線2は互いに撚り合されており、複数の電線2の周囲にテープ部材3が螺旋状に巻き付けられている。
【0026】
本実施の形態では、複数の電線2は、車両100の車輪102に搭載されたEPB101用の電気モータ101aに駆動電流を供給するための電源線としての一対の第1電線5を含んでいる。
【0027】
また、本実施の形態では、複数の電線2は、車輪102に搭載されたABSセンサ104a用の信号線としての一対の第2電線6が内部シース7により一括して被覆された多芯電線8を含んでいる。
【0028】
ここでは、ケーブル1が、2本の第1電線5と1本の多芯電線8の合計3本の電線2を有している場合を説明するが、電線2の本数はこれに限定されない。例えば、多数の電線2を有する場合、複数の電線2を撚り合わせた内層部の周囲に複数の電線2を螺旋状に巻き付けて外層部を形成した多層撚りの構成となっていてもよい。
【0029】
第1電線5は、銅等の良導電性の素線を撚り合わせた第1導体51の周囲に、架橋ポリエチレン等の絶縁性の樹脂からなる第1絶縁体52を被覆して構成される。
【0030】
第1導体51に用いる素線としては、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。直径0.05mm未満の素線を用いた場合は十分な機械的強度が得られず耐屈曲性が低下するおそれがあり、直径0.30mmより大きい素線を用いた場合ケーブル1の可撓性が低下するおそれがある。
【0031】
第1電線5の第1導体51の外径、および第1絶縁体52の厚さは、要求される駆動電流の大きさに応じて適宜設定すればよい。本実施の形態では、第1電線5がEPB101用の電気モータ101aに駆動電流を供給する電源線であることを考慮し、第1導体51の外径を1.5mm以上3.0mm以下に設定すると共に、第1電線5の外径を2.0mm以上4.0mm以下に設定した。
【0032】
第2電線6は、銅等の良導電性の素線を撚り合わせた第2導体61の周囲に、架橋ポリエチレン等の絶縁性の樹脂からなる第2絶縁体62を被覆して構成された絶縁電線である。第2導体61に用いる素線としては、第1導体51と同様に、直径0.05mm以上0.30mm以下のものを用いることができる。
【0033】
一対の第2電線6は、互いに接触して撚り合された状態で一括して内部シース7に被覆されている。一対の第2電線6を内部シース7で一括して被覆したものが多芯電線8である。内部シース7は、例えばウレタン樹脂からなる。なお、本実施の形態では、2芯の多芯電線8を用いる場合を説明するが、多芯電線8の芯数はこれに限定されるものではない。また、電線2が複数の多芯電線8を有していてもよい。
【0034】
第2電線6の外径は、第1電線5の外径よりも小さい。本実施の形態では、2本の第2電線6を内部シース7で被覆した多芯電線8と1対の第1電線2とを撚り合わせるため、ケーブル1の外径を円形状に近づけるという観点から、第2電線6として、第1電線5の外径の半分程度のものを用いることが望ましいといえる。具体的には、第2電線6としては、外径1.0mm以上1.8mm以下、第2導体61の外径が0.4mm以上1.0mm以下のものを用いることができる。
【0035】
ケーブル1では、2本の第1電線5と1本の多芯電線8が撚り合され、その周囲にテープ部材3が螺線状に巻き付けられている。2本の第1電線5と1本の多芯電線8は、互いに接触した状態で撚り合されている。また、1本の多芯電線8の一部は、2本の第1電線5間の内方の谷間部分に配置されている。
【0036】
なお、EPB101では、基本的に車両の停止時に電気モータ101aに駆動電流を供給する。これに対して、ABSセンサ104aは車両の走行時に使用されるものであり、第1電線5に駆動電流が供給されているときにABSセンサ104aが使用されることはない。そこで、本実施の形態では、多芯電線8の周囲に設けられるシールド導体を省略している。シールド導体を省略することで、シールド導体を設けた場合と比較してケーブル1の外径を小さくすることができ、また部品点数を削減してコストを抑制することも可能になる。
【0037】
また、ここでは第1電線5がEPB用電気モータ101aに駆動電流を供給する場合を説明しているが、第1電線5は、例えば、車輪102に設けられた電気機械式ブレーキ(以下、EMBという)の電気モータに駆動電流を供給するために用いられてもよい。この場合、車両100の走行中にも第1電線5に電流が流れることになるため、ノイズによるABS装置104の誤動作を抑制するために、多芯電線8の周囲又は1対の第1電線5の周囲にシールド導体を設けることが望ましいといえる。また、1対の第1電線5のそれぞれの導体の外周側にシールド導体を設けて1対の第1電線5それぞれをシールド電線とすることも可能である。
【0038】
さらに、ここでは第2電線6がABSセンサ104a用の信号線である場合を説明しているが、第2電線6は、車輪102に設けられる他のセンサ、例えば温度センサやタイヤの空気圧を検出する空気圧センサ等に用いられる信号線であってもよいし、車両100の制振装置の制御に用いられるダンパ線であってもよく、さらにはEMB制御用の信号線(CANケーブル等)であってもよい。第1電線5がEPB用電気モータ101aに駆動電流を供給するものである場合であっても、第2電線6が車両100の停車中に使用される場合には、ノイズによる誤動作を抑制するために、多芯電線8の周囲にシールド導体を設けることが望ましいといえる。
【0039】
3本の電線2(2本の第1電線5と1本の多芯電線8)を撚り合わせた集合体9の外径は、例えば、5mm~9mm程度である。集合体9における電線2の撚りピッチは、集合体9の外径を考慮し、電線2に不要な負荷がかからない程度に設定するとよい。ここでは、集合体9における電線2の撚りピッチを約50mmとしたが、電線2の撚りピッチはこれに限定されるものではない。なお、電線2の撚りピッチとは、任意の電線2(第1電線5または多芯電線8)が集合体9の周方向において同じ位置となる集合体9の長手方向に沿った間隔である。
【0040】
集合体9の周囲には、テープ部材3が螺旋状に巻き付けられており、テープ部材3は、テープ部材3が覆う全ての電線(1対の第1電線5及び多芯電線8)に接触している。テープ部材3は、集合体9と外皮4との間に介在し、屈曲時に電線2と外皮4間の摩擦を低減する役割を果たすと共に、端末処理時に外皮4から電線2を剥がし易くする役割を果たす。すなわち、テープ部材3を設けることで、従来のようにタルク粉体等の潤滑剤を用いることなく、電線2と外皮4間の摩擦を低減し、屈曲時に電線2にかかるストレスを低減して耐屈曲性を向上させることが可能になると共に、端末処理時の作業性を向上できる。
【0041】
テープ部材3としては、第1電線5の第1絶縁体52、および内部シース7に対して滑りやすいもの(摩擦係数が小さいもの)を用いることが望ましい。より具体的には、テープ部材3としては、テープ部材3と第1絶縁体52及び内部シース7間の摩擦係数(静摩擦係数)が、テープ部材3を設けなかった際における外皮4と第1絶縁体52及び内部シース7間の摩擦係数(静摩擦係数)よりも小さい部材を用いるとよい。本実施の形態では、テープ部材3として不織布からなるものを用いた。テープ部材3に用いる不織布の詳細については後述する。
【0042】
テープ部材3は、その幅方向(テープ部材3の長手方向および厚さ方向と垂直な方向)の一部が重なり合うように、螺旋状に集合体9に巻き付けられる。テープ部材3が重なり合う幅は、例えば、テープ部材3の幅の1/4以上1/2以下である。なお、本実施の形態において、テープ部材3が重なり合う部分は、接着剤等により接着されていない。
【0043】
テープ部材3の幅は、テープ部材3を巻き付けた際にテープ部材3に皺が寄らない程度の幅とすればよく、集合体9全体の外径が小さくなるほど幅の狭いテープ部材3を用いることが望ましい。具体的には、集合体9の外径が5mm~9mmである場合、テープ部材3の幅は、20mm~50mm程度とすればよい。
【0044】
テープ部材3の巻きピッチ、すなわちテープ部材3が周方向の同じ位置となる長手方向に沿った間隔(例えば幅方向の一端部同士の間隔)は、テープ部材3の幅および重なり幅により調整することが可能である。なお、テープ部材3の幅を大きくし、巻きピッチを大きくしていくと、テープ部材3を縦添えした状態に近くなり、ケーブル1の柔軟性が失われて曲げにくくなる。そのため、テープ部材3の巻きピッチは、50mm以下とすることが望ましい。
【0045】
テープ部材3の周囲には、ウレタン系樹脂からなる外皮4が設けられる。本実施の形態では、第1電線5がEPB用電気モータ101aに駆動電流を供給するものであり、第1電線5に駆動電流が流れる時間が比較的短いためシールド導体を省略しているが、第1電線5の用途等に応じて、テープ部材3と外皮4との間、あるいは外皮4の外周にシールド導体を設けてもよい。
【0046】
さて、本実施の形態に係るケーブル1では、テープ部材3は、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維、またはガラス繊維からなる不織布で構成されている。
【0047】
ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維、またはガラス繊維からなる不織布でテープ部材3を構成することにより、テープ部材3が吸湿しにくくなり、外皮4を被覆する際の熱によりテープ部材3から水分が蒸発し外皮4が発泡してしまうことを抑制可能になる。
【0048】
また、本実施の形態では、テープ部材3に用いる不織布として、通気性が30cc/cm2/sec以上であるものを用いる。これは、通気性が30cc/cm2/sec未満と低いと、テープ部材3で覆われている空間内に水蒸気を含んだ空気が溜まりやすくなり、外皮4を被覆する際の熱により溜まった空気が不織布の空隙やテープ部材3が重なり合っている部分から一気に排出され、外皮4に発泡が生じるおそれがあるためである。なお、通気性の測定は、JIS L1913に準拠したフラジール法により行うことができる。
【0049】
また、テープ部材3に用いる不織布の通気性は、200cc/cm2/sec以下とすることが望ましい。これは、通気性が200cc/cm2/secを超えて大きくなると、外皮4を被覆する際に外皮4の一部がテープ部材3を透過して電線2側に到達してしまい、電線2と外皮4とが融着して端末処理時の作業性が低下するおそれがあるためである。
【0050】
つまり、テープ部材3に用いる不織布としては、通気性が30cc/cm2/sec以上200cc/cm2/sec以下のものを用いるとよい。不織布に溜まった空気による外皮4の発泡や電線2と外皮4との融着をより抑制するために、テープ部材3に用いる不織布としては、通気性が40cc/cm2/sec以上100cc/cm2/sec以下のものを用いることがより好ましい。
【0051】
また、テープ部材3として用いる不織布の厚さは、0.03mm以上0.10mm以下とすることが望ましい。これは、不織布の厚さが0.03mm未満であると、外皮4を被覆する際に外皮4の一部がテープ部材3を透過して電線2側に到達してしまい、端末処理時の作業性が低下するおそれがあり、不織布の厚さが0.10mmを超えると、テープ部材3の剛性が高くなりケーブル1の可撓性が低下するおそれがあり、また通気性も低下してしまうおそれがあるためである。
【0052】
本実施の形態では、通気性67cc/cm2/sec、厚さ0.07mmのポリエステルからなる不織布をテープ部材3として用いた。
【0053】
さらに、本実施の形態に係るケーブル1では、テープ部材3と外皮4は、最外層に配置され周方向に隣り合う2本の電線2の外周を通る共通の接線よりも内方に突出し、隣り合う電線2の間の谷間部分に入り込むように形成されており、ケーブル長手方向に沿って螺旋状に形成されている内方突出部10を有している。
図2では、2本の第1電線5の外周面を通る共通の接線を符号11で表している。なお、3本以上の電線2を用いる場合、隣り合う2本の電線2の外周面を通る共通の接線は、ケーブル1の内周側と外周側に存在するが、ここでいう共通の接線とは、ケーブル1の外周側の接線をいう。
【0054】
すなわち、本実施の形態では、隣り合う電線2の外方の谷間部分に、テープ部材3と外皮4とが入り込んでいる。これにより、電線2の周囲に形成される中空部を小さくし、ケーブル1に曲げや捩じれが加えられた際であっても座屈が生じにくくなる。また、テープ部材3が電線2間の谷間部分に入り込んでおり、かつ外皮4により径方向外方への移動が規制された状態となっているため、テープ部材3がケーブル長手方向に移動しにくくなる。
【0055】
内方突出部10の内方への突出長が短いと、座屈抑制の効果およびテープ部材3の移動を抑制する効果が十分に得られないおそれがあるため、内方突出部10の内方への突出長、すなわち、隣り合う電線2の外周面を通る共通の接線11と内方突出部10の先端部との距離dは、複数の電線2のうち最も外径が大きい電線2(ここでは第1電線5)の外径の3%以上、好ましくは10%以上であることが望ましい。
【0056】
例えば、第1電線5の外径を3mmとする場合には、距離dは少なくとも0.1mm以上とすることが望ましいといえる。使用する電線2の外径にもよるが、内方突出部10を有することによる効果を得るためには、距離dが少なくとも0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上であることが望ましいといえる。なお、距離dは常に一定である必要はなく、多少の変動は許容される。
【0057】
さらに、内方突出部10の突出長が大きすぎると、端末処理時(例えば外皮4を除去するストリップ作業時)の作業性が低下してしまうおそれがあるため、距離dは複数の電線2のうち最も外径が大きい電線2(ここでは第1電線5)の外径の40%以下、好ましくは35%以下とすることが望ましい。使用する電線2の外径にもよるが、外皮4を容易に除去するという観点からは、距離dを1mm以下とすることが望ましいといえる。
【0058】
複数の電線2の撚り方向とテープ部材3の巻き付け方向とが異なると、テープ部材3が隣り合う電線2の谷間部分に入り込みにくくなるため、複数の電線2の撚り方向と、テープ部材3の巻き付け方向とは、同じ方向とすることが望ましい。これにより、テープ部材3を集合体9に巻き付ける際に適宜な張力を付与しつつ巻き付けることで、テープ部材3を容易に隣り合う電線2の谷間部分に入り込ませることが可能になる。その後、押出被覆によりテープ部材3の周囲に外皮4を設ければ、内方突出部10が形成されることになる。
【0059】
なお、ここでいう電線2の撚り方向とは、ケーブル1を先端側(テープ部材3の重なりが上となる側)から見たときに、電線2が基端側から先端側にかけて回転している方向をいう。また、テープ部材3の巻き付け方向とは、ケーブル1を先端側(テープ部材3の重なりが上となる側)から見た時に、テープ部材3が基端側から先端側にかけて回転している方向をいう。
【0060】
また、電線2の撚り方向とテープ部材3の巻き付け方向とを同じ方向とすることで、端末加工をする際に、テープ部材3をほどくと電線2の撚りが自然にほぐれることになり、電線2をほぐし易くなる。これにより、ケーブル1の解体性が向上し、端末加工を行う際の作業性が向上する。
【0061】
また、電線2の撚り方向とテープ部材3の巻き付け方向とを同じ方向とすることで、ケーブル1に捩れが加わった際に、電線2とテープ部材3とが同調して開いたり閉じたりすることになり、捩れによる負荷を分散してケーブル1の一部分に過大な負荷が加わることを抑制でき、捩れに対する耐久性を向上させることが可能になる。
【0062】
電線2の撚りピッチを小さくすると、ケーブル1を曲げやすくなり可撓性が向上するが、撚りに余裕がなくなり捩れに対する耐久性は低下してしまう。逆に、電線2の撚りピッチを大きくすると、捩じれに対する耐久性は向上するが可撓性は低下する。本実施の形態では、捩れが加わった際に、電線2とテープ部材3とが同調して開いたり閉じたりして負荷を分散できるため、電線2の撚りピッチを小さくして可撓性を向上させた場合であっても、捩れに対する耐久性を十分に確保することが可能である。
【0063】
また、テープ部材3をより容易に隣り合う電線2の谷間部分に入り込ませるために、複数の電線2の撚りピッチと、テープ部材3の巻きピッチとは、等しくされることが望ましいといえる。なお、ここでいう「複数の電線2の撚りピッチと、テープ部材3の巻きピッチとが、等しい」とは、複数の電線2の撚りピッチとテープ部材3の巻きピッチとが完全に一致しているものに限らず、複数の電線2の撚りピッチとテープ部材3の巻きピッチとが多少(±10%以内)異なっているものも含むものとする。
【0064】
内方突出部10は、ケーブル1の長手方向全体にわたって形成されていることが望ましいが、内方突出部10が途中で途切れていてもよい。つまり、ケーブル1は、その長手方向の一部において、内方突出部10が形成されていなくてもよい。例えば、ケーブル1の端末部分(端末から所定距離)においてテープ部材3の巻きピッチを変化させるなどして、内方突出部10を形成しない(あるいは内方突出部10の突出長(距離d)を小さくする)ようにし、端末処理時の作業性を向上させることも可能である。
【0065】
本実施の形態では、3本の電線2の間(谷間部分)のそれぞれに内方突出部10が形成されている場合を説明したが、これに限らず、少なくとも電線2の間(谷間部分)のうち一箇所に、内方突出部10が形成されていればよい。
【0066】
また、本実施の形態では、テープ部材3と外皮4の両方が接線11よりも内方に突出するように構成したが、これに限らず、例えばテープ部材3として比較的厚いものを用いる場合等は、テープ部材3のみが接線11よりも内方に突出する構成であってもよい。ただし、内方突出部10において外皮4が内方に突出するように(テープ部材3の外周面に密着するように)形成されている必要がある。
【0067】
(ケーブル1を用いたハーネスの説明)
図3は、本実施の形態に係るハーネスの概略構成図である。
【0068】
図3に示すように、ハーネス20は、本実施の形態に係るケーブル1と、電線2の端部に取り付けられたコネクタと、を備えて構成される。
【0069】
図3では、図示左側が車輪102側の端部を示し、図示右側が車体105側(中継ボックス106側)の端部を示している。以下の説明では、ハーネス20の車輪102側の端部を「一端部」、車体105側(中継ボックス106側)の端部を「他端部」という。
【0070】
電線2のうち、1対の第1電線5の一端部には、EPB用電気モータ101aとの接続のための車輪側電源コネクタ21aが取り付けられ、1対の第1電線5の他端部には、中継ボックス106内における電線群107との接続のための車体側電源コネクタ21bが取り付けられている。
【0071】
多芯電線8(1対の第2電線6)の一端部には、内部シース7を覆うように樹脂モールドにより形成されたABSセンサ104aが取り付けられ、多芯電線8(1対の第2電線6)の他端部には、中継ボックス106内における電線群107との接続のための車体側ABS用コネクタ22が取り付けられている。
【0072】
なお、ここでは、第1電線5と多芯電線8(第2電線6)に個別にコネクタを設ける場合を説明したが、全ての電線2を一括して接続する専用のコネクタを備えるようにしても構わない。
【0073】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るケーブル1では、テープ部材3は、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維、またはガラス繊維からなる不織布で構成され、その不織布の通気性が30cc/cm2/sec以上である。
【0074】
テープ部材3に用いる不織布として、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維、またはガラス繊維からなるものを用いることで、テープ部材3が吸湿しにくくなり、テープ部材3が吸湿した水分により外皮4にボイドが発生してしまうことを抑制可能になる。
【0075】
また、テープ部材3に用いる不織布の通気性を30cc/cm2/sec以上とすることで、不織布で覆われている空間内に溜まった空気により外皮4にボイドが発生してしまうことを抑制可能になる。
【0076】
また、本実施の形態に係るケーブル1では、テープ部材3と外皮4は、最外層に配置され周方向に隣り合う2本の電線2の外周を通る共通の接線11よりも内方に突出し、隣り合う電線2の谷間部分に間に入り込むように形成されており、ケーブル長手方向に沿って螺旋状に形成されている内方突出部10を有している。
【0077】
電線2の谷間部分に入り込む内方突出部10を有することにより、内方突出部10を有さない場合と比較して電線2の周囲の中空部を小さくし、ケーブル1に曲げや捩じれが加えられた場合であっても、ケーブル1が座屈してしまうことを抑制可能になる。
【0078】
また、内方突出部10がテープ部材3の移動を抑制するため、テープ部材3がケーブル長手方向に移動してしまうことを抑制でき、ケーブル1の一部でテープ部材3が重なり合い可撓性が低下してしまう等の不具合を抑制することが可能になる。
【0079】
(変形例)
上記実施の形態では、電線2が多芯電線8を有している場合を説明したが、
図4および
図5に示すように、多芯電線8を有さないものであってもよい。
図4では電線2を3本用いる場合、
図5では電線2を2本用いる場合を示しているが、電線2の本数は4本以上であってもよい。また、電線2は電源線である必要はなく、信号線であってもよい。
【0080】
また、上記実施の形態では、外皮4を1層の構成としたが、2層以上の構成としてもよい。外皮4を2層以上の構成とし、押出被覆を複数回行うことで、ケーブル1の断面形状をより円形状に近づけて外観を向上することが可能になる。
【0081】
また、上記実施の形態では、ケーブル1が車両100の車輪102側と車体105側とを接続するものである場合を説明したが、ケーブル1の用途はこれに限定されない。例えば、ケーブル1は、ハイブリッド車や電気自動車においてモータとインバータ間を接続するために用いられるものであってもよいし、車両以外の用途に用いられるものであってもよい。
【0082】
また、上記実施の形態では、撚り合わせた電線2の周囲に螺旋状にテープ部材3を巻き付けたが、電線2は撚り合されていなくてもよく、またテープ部材3が縦添えで巻き付けられていてもよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、テープ部材3と外皮4とが内方突出部10を有する場合を説明したが、内方突出部10は省略可能である。
【0084】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0085】
[1]複数の電線(2)と、前記複数の電線(2)の周囲に巻き付けられているテープ部材(3)と、前記テープ部材(3)の外周に被覆されているウレタン系樹脂からなる外皮(4)と、を備え、前記テープ部材(3)は、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維、ナイロン、アクリル繊維、またはガラス繊維からなる不織布で構成され、前記不織布の通気性が、30cc/cm2/sec以上である、ケーブル(1)。
【0086】
[2]前記テープ部材(3)に用いる前記不織布の厚さは、0.03mm以上0.10mm以下である、[1]に記載のケーブル(1)。
【0087】
[3]前記複数の電線(2)は互いに撚り合わされており、前記テープ部材(3)は、前記複数の電線(2)の周囲に螺旋状に巻き付けられている、[1]または[2]に記載のケーブル(1)。
【0088】
[4]前記テープ部材(3)と前記外皮(4)は、最外層に配置され周方向に隣り合う2本の前記電線(2)の外周を通る共通の接線よりも内方に突出し、前記隣り合う電線(2)の間の谷間部分に入り込むように形成されており、ケーブル長手方向に沿って螺旋状に形成されている内方突出部(10)を有する、[3]に記載のケーブル(1)。
【0089】
[5]前記複数の電線(2)の撚り方向と、前記テープ部材(3)の巻き付け方向とが同じ方向である、[3]または[4]に記載のケーブル(1)。
【0090】
[6]前記複数の電線(2)の撚りピッチと、前記テープ部材(3)の巻きピッチとが等しい、[5]に記載のケーブル(1)。
【0091】
[7]前記複数の電線(2)は、車両(100)の車輪(102)に搭載された電動パーキングブレーキ(101)用の電気モータ(101a)に駆動電流を供給するための電源線(5)を含む、[1]乃至[6]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0092】
[8]前記複数の電線(2)は、複数の絶縁電線(6)が内部シース(7)により一括して被覆された多芯電線(8)を含む、[1]乃至[7]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0093】
[9]前記絶縁電線(6)は、車両(100)の車輪(102)に搭載されたセンサ用の信号線からなる、[8]に記載のケーブル(1)。
【0094】
[10][1]乃至[9]の何れか1項に記載のケーブル(1)と、前記電線(2)の端部に取り付けられたコネクタと、を備えた、ハーネス(20)。
【0095】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0096】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…ケーブル
2…電線
3…テープ部材
4…外皮
5…第1電線
6…第2電線(絶縁電線)
7…内部シース
8…多芯電線
9…集合体
10…内方突出部
11…接線