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特許7188707メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法、並びにメタクリル酸およびメタクリル酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法、並びにメタクリル酸およびメタクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/28 20060101AFI20221206BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 23/887 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20221206BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20221206BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20221206BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
B01J23/28 Z
B01J37/10
B01J23/887 Z
B01J23/30 Z
C07C57/055 B
C07C51/235
C07B61/00 300
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2020548507
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2019036362
(87)【国際公開番号】W WO2020059704
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018173732
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物等 ウェブサイトの掲載日:平成30年9月19日 ウェブサイトのアドレス: 一般社団法人触媒学会のホームページ(https://catsj.jp/)内の、会員のみがアクセス可能な、第122回触媒討論会の講演予稿集が掲載されていたアドレスであるが、現在、当該ウェブサイトは削除されており、本公開に係る講演予稿集が公開されていたウェブサイトのアドレスは不明である。なお、上記ウェブサイトの掲載日に公開された第122回触媒討論会講演予稿集(1F22)および第122回触媒討論会講演予稿集を掲載したサイトが学会会期終了の2週間後に削除される旨を報告する一般社団法人触媒学会のホームページ内のニュース(第122回触媒討論会終了報告)(https://catsj.jp/news/915)を補充資料として提出する。 公開者:石川 理史、和田 真樹、平田 純、二宮 航、上田 渉 上記触媒討論会の講演予稿集が掲載されていたウェブサイトで公開された第122回触媒討論会講演予稿集(1F22)において、「結晶性Mo▲3▼VO▲x▼複合酸化物を用いたメタクロレイン選択酸化反応」に関する研究について公開した。 (2)刊行物等 開催日:平成30年9月26日 集会名、開催場所:第122回触媒討論会、北海道教育大学函館校 公開者:石川 理史、和田 真樹、平田 純、二宮 航、上田 渉 上記触媒討論会において、「結晶性Mo▲3▼VO▲x▼複合酸化物を用いたメタクロレイン選択酸化反応」(1F22、A1講演)に関する研究について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】平田 純
(72)【発明者】
【氏名】菅野 充
(72)【発明者】
【氏名】二宮 航
(72)【発明者】
【氏名】上田 渉
(72)【発明者】
【氏名】石川 理史
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-068217(JP,A)
【文献】特開2006-130373(JP,A)
【文献】特表2015-520745(JP,A)
【文献】ChemCatChem,2013年,vol.5,p.2869-2873,Supporting Information
【文献】Angewandte Chemie. International Edition,2007年,vol.46,p.1493-1496,Supporting Information p.1-5
【文献】Catalysis Communications,2009年,vol.10,p.1437 -1440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、前記触媒はモリブデンを含有する金属酸化物を含むものであり、前記金属酸化物は下記条件(a)および(b)を満たす環状構造を有するメタクリル酸製造用触媒であって、
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
(b)金属酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造。
前記金属酸化物が下記条件(c)を満たし、
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo (NH (II)
(式(II)中、Mo、V、NH およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0.24≦c≦0.38、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
前記金属酸化物が下記条件(g)を満たす、斜方晶、三方晶又はアモルファスの結晶構造を有する金属酸化物である、メタクリル酸製造用触媒。
(g)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°に回折ピークを示す金属酸化物。
【請求項2】
前記金属酸化物が下記条件(d)を満たす、請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(d)前記金属酸化物の質量をM1、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量をM2としたとき、下記式(III)を満たす金属酸化物。
0≦M2/M1<0.05 (III)
【請求項3】
前記金属酸化物が下記条件(e)を満たす、請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(e)前記金属酸化物のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルと、前記金属酸化物を2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルとの差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する金属酸化物。
【請求項4】
前記金属酸化物が下記条件(f)を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(f)窒素吸着により算出されるBET比表面積Sが1.5~60m2/gである金属酸化物。
【請求項5】
前記金属酸化物が下記条件(g1)を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
【請求項6】
前記条件(g)において、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項7】
前記条件(g)において、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項またはに記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(1b)前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理し、固形分を得る工程と、
(2b)(1b)で得られた固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記固形分が下記条件(h)および(i)を満たす、請求項またはに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(h)電子顕微鏡で観察される結晶の平均長さが2~50μmである固形分。
(i)電子顕微鏡で観察される結晶の平均アスペクト比が2~30である固形分。
(ただし、平均アスペクト比=(結晶の平均長さ)/(結晶の平均直径)とする。)
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【請求項12】
請求項10のいずれか1項に記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒を用いてメタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【請求項13】
原料ガスとして下記式(IV)で示す組成を有するガスを供給する、請求項11または12に記載のメタクリル酸の製造方法。
メタクロレイン:酸素:水蒸気:A=k:l:m:n (IV)
(式(IV)中、Aは窒素またはヘリウムを示す。k~nは各気体のモル比率を表し、k+l+m+n=100とした時、0.5<k<8.0、2.0<l<20.0、0≦m<45である。)
【請求項14】
反応温度が180~500℃であり、下記式(V)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、請求項1113のいずれか1項に記載のメタクリル酸の製造方法。
15<W/F<550 (V)
(式(V)中、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【請求項15】
反応温度が180~500℃であり、下記式(VI)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、請求項1114のいずれか1項に記載のメタクリル酸の製造方法。
0.00002<F/(S×W)<0.008 (VI)
(式(VI)中、Sは窒素吸着により算出される前記金属酸化物のBET比表面積(m2/g)を表し、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【請求項16】
請求項1115のいずれか1項に記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項17】
請求項1115のいずれか1項に記載の方法によりメタクリル酸を製造し、該メタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項18】
メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、下記条件(b’)および(c)を満たす金属酸化物を含有するメタクリル酸製造用触媒であって、
(b’)金属酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが結合した環状構造を含有する金属酸化物。
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo (NH (II)
(式(II)中、Mo、V、NH およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0.24≦c≦0.38、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
前記金属酸化物が下記条件(a)を満たす環状構造を有し、
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
前記金属酸化物が下記条件(g)を満たす、斜方晶、三方晶又はアモルファスの結晶構造を有する金属酸化物である、メタクリル酸製造用触媒。
(g)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°に回折ピークを示す金属酸化物。
【請求項19】
前記金属酸化物が下記条件(d)を満たす、請求項18に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(d)前記金属酸化物の質量をM1、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量をM2としたとき、下記式(III)を満たす金属酸化物。
0≦M2/M1<0.05 (III)
【請求項20】
前記金属酸化物が下記条件(e)を満たす、請求項18または19に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(e)前記金属酸化物のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルと、前記金属酸化物を2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルとの差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する金属酸化物。
【請求項21】
前記金属酸化物が下記条件(f)を満たす、請求項1820のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(f)窒素吸着により算出されるBET比表面積Sが1.5~60m2/gである金属酸化物。
【請求項22】
前記金属酸化物が下記条件(g1)を満たす、請求項18~21のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
【請求項23】
前記条件(g)において、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す、請求項18~21のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項24】
前記条件(g)において、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す、請求項18~21のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項25】
メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、下記条件(c)および(g1)を満たす、アモルファスの結晶構造を有する金属酸化物を含有するメタクリル酸製造用触媒であって、
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo (NH (II)
(式(II)中、Mo、V、NH およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0.24≦c≦0.38、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
前記金属酸化物が下記条件(a)を満たす環状構造を有し、
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
前記金属酸化物が下記条件(b’)を満たす、メタクリル酸製造用触媒。
(b’)金属-酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが結合した環状構造を含有する金属酸化物。
【請求項26】
請求項1825のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項27】
請求項23または24に記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(1b)前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理し、固形分を得る工程と、
(2b)(1b)で得られた固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項28】
前記固形分が下記条件(h)および(i)を満たす、請求項26または27に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(h)電子顕微鏡で観察される結晶の平均長さが2~50μmである固形分。
(i)電子顕微鏡で観察される結晶の平均アスペクト比が2~30である固形分。
(ただし、平均アスペクト比=(結晶の平均長さ)/(結晶の平均直径)とする。)
【請求項29】
請求項1825のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【請求項30】
請求項2628のいずれか1項に記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒を用いてメタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【請求項31】
原料ガスとして下記式(IV)で示す組成を有するガスを供給する、請求項29または30に記載のメタクリル酸の製造方法。
メタクロレイン:酸素:水蒸気:A=k:l:m:n (IV)
(式(IV)中、Aは窒素またはヘリウムを示す。k~nは各気体のモル比率を表し、k+l+m+n=100とした時、0.5<k<8.0、2.0<l<20.0、0≦m<45である。)
【請求項32】
反応温度が180~500℃であり、下記式(V)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、請求項2931のいずれか1項に記載のメタクリル酸の製造方法。
15<W/F<550 (V)
(式(V)中、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【請求項33】
反応温度が180~500℃であり、下記式(VI)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、請求項2932のいずれか1項に記載のメタクリル酸の製造方法。
0.00002<F/(S×W)<0.008 (VI)
(式(VI)中、Sは窒素吸着により算出される前記金属酸化物のBET比表面積(m2/g)を表し、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【請求項34】
請求項2933のいずれか1項に記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項35】
請求項2933のいずれか1項に記載の方法によりメタクリル酸を製造し、該メタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法、並びにメタクリル酸およびメタクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物触媒は、炭化水素やカルボニル化合物、アルコール等の含酸素有機物の酸化反応、アンモ酸化、酸化脱水、COや不飽和化合物の水素化、脱水素触媒、固体酸・塩基触媒などで実用化されている(非特許文献1)。
【0003】
金属酸化物触媒としては、モリブデンおよびバナジウムを含有する酸化物触媒(以下、「Mo-V系酸化物触媒」とも記す)が知られている。Mo-V系酸化物触媒は、エタン、プロパンに代表される低級アルカンの選択酸化やアンモ酸化に使用される触媒、およびアクロレインを選択酸化してアクリル酸を製造する触媒等として工業化されている。モリブデン含有ヘテロポリ酸系触媒に対し、Mo-V系酸化物触媒は耐熱性が優れていることから、触媒寿命が優位であることが期待される。
【0004】
Mo-V系酸化物触媒を不飽和アルデヒドの選択酸化に適用した例としては、以下が挙げられる。Mo-V系酸化物触媒をアクロレインおよびメタクロレインの選択酸化に適用したところ、それぞれ「アクロレイン転化率100%、アクリル酸選択率97%」、「メタクロレイン転化率57%、メタクリル酸選択率19%」を示した(非特許文献2)。タングステンを含むMo-V系酸化物触媒をアクロレインおよびメタクロレインの選択酸化に適用したところ、それぞれ「アクロレイン転化率95%、アクリル酸選択率90%」、「メタクロレイン転化率40%、メタクリル酸選択率35%」を示した(非特許文献3)。このように、Mo-V系酸化物は、アクロレイン選択酸化に好適であるのに対し、メタクロレイン選択酸化には不適であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】諸岡良彦、「触媒」、1984年、第26巻、第2号、p.76
【文献】Makoto Misono、「Applied Catalysis」、1990年、第64巻、p.1-30
【文献】A.Drocher、D.Ohlig、S.Knoche、N.Gora、M.Heid、N.Menning、T.Petzold、H.Vogel、「Topics in Catalysis」、2016年、第59巻、p.1518-1532
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、Mo-V系酸化物触媒は、モリブデン含有ヘテロポリ酸系触媒と比較して耐熱性が優れている一方、メタクリル酸収率が不十分である。
【0007】
本発明の目的は、従来よりも高い収率でメタクリル酸を製造するためのモリブデン含有酸化物触媒およびその製造方法、並びに該触媒を用いたメタクリル酸の製造方法、およびメタクリル酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、メタクロレインの酸化に好適に使用できるモリブデン含有酸化物触媒について鋭意検討した結果、特定の環状構造を含有する金属酸化物を含む触媒を用いることによって、従来よりも高い収率でメタクリル酸を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[35]および[1’]~[21’]である。
【0009】
[1]メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、前記触媒はモリブデンを含有する金属酸化物を含むものであり、前記金属酸化物は下記条件(a)および(b)を満たす環状構造を有するメタクリル酸製造用触媒であって、
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
(b)金属酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造。
前記金属酸化物が下記条件(c)を満たし、
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo (NH (II)
(式(II)中、Mo、V、NH およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0.24≦c≦0.38、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
前記金属酸化物が下記条件(g)を満たす、斜方晶、三方晶又はアモルファスの結晶構造を有する金属酸化物である、メタクリル酸製造用触媒。
(g)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°に回折ピークを示す金属酸化物。
【0012】
]前記金属酸化物が下記条件(d)を満たす、[1]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(d)前記金属酸化物の質量をM1、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量をM2としたとき、下記式(III)を満たす金属酸化物。
0≦M2/M1<0.05 (III)
【0013】
]前記金属酸化物が下記条件(e)を満たす、[1]または[2]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(e)前記金属酸化物のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルと、前記金属酸化物を2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルとの差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する金属酸化物。
【0014】
]前記金属酸化物が下記条件(f)を満たす、[1]~[]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(f)窒素吸着により算出されるBET比表面積Sが1.5~60m2/gである金属酸化物。
【0016】
]前記金属酸化物が下記条件(g1)を満たす、[1]~[4]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
【0017】
]前記条件(g)において、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す、[1]~[4]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0018】
]前記条件(g)において、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す、[1]~[4]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0019】
][1]~[]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0020】
][]または[]に記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(1b)前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理し、固形分を得る工程と、
(2b)(1b)で得られた固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含み、前記固形分がシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理されたものである、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0021】
10]前記固形分が下記条件(h)および(i)を満たす、[]または[]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(h)電子顕微鏡で観察される結晶の平均長さが2~50μmである固形分。
(i)電子顕微鏡で観察される結晶の平均アスペクト比が2~30である固形分。
(ただし、平均アスペクト比=(結晶の平均長さ)/(結晶の平均直径)とする。)
【0022】
11][1]~[]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【0023】
12][]~[10]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒を用いてメタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【0024】
13]原料ガスとして下記式(IV)で示す組成を有するガスを供給する、[11]または[12]に記載のメタクリル酸の製造方法。
メタクロレイン:酸素:水蒸気:A=k:l:m:n (IV)
(式(IV)中、Aは窒素またはヘリウムを示す。k~nは各気体のモル比率を表し、k+l+m+n=100とした時、0.5<k<8.0、2.0<l<20.0、0≦m<45である。)
【0025】
14]反応温度が180~500℃であり、下記式(V)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、[11]~[13]のいずれかに記載のメタクリル酸の製造方法。
15<W/F<550 (V)
(式(V)中、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0026】
15]反応温度が180~500℃であり、下記式(VI)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、[11]~[14]のいずれかに記載のメタクリル酸の製造方法。
0.00002<F/(S×W)<0.008 (VI)
(式(VI)中、Sは窒素吸着により算出される前記金属酸化物のBET比表面積(m2/g)を表し、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0027】
16][11]~[15]のいずれかに記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【0028】
17][11]~[15]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸を製造し、該メタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【0029】
18]メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、下記条件(b’)および(c)を満たす金属酸化物を含有するメタクリル酸製造用触媒であって、
(b’)金属酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが結合した環状構造を含有する金属酸化物。
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo (NH (II)
(式(II)中、Mo、V、NH およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0.24≦c≦0.38、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
前記金属酸化物が下記条件(a)を満たす環状構造を有し、
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
前記金属酸化物が下記条件(g)を満たす、斜方晶、三方晶又はアモルファスの結晶構造を有する金属酸化物である、メタクリル酸製造用触媒。
(g)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°に回折ピークを示す金属酸化物。
【0031】
19]前記金属酸化物が下記条件(d)を満たす、[18]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(d)前記金属酸化物の質量をM1、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量をM2としたとき、下記式(III)を満たす金属酸化物。
0≦M2/M1<0.05 (III)
【0032】
20]前記金属酸化物が下記条件(e)を満たす、[18]または[19]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(e)前記金属酸化物のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルと、前記金属酸化物を2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルとの差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する金属酸化物。
【0033】
21]前記金属酸化物が下記条件(f)を満たす、[18]~[20]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(f)窒素吸着により算出されるBET比表面積Sが1.5~60m2/gである金属酸化物。
【0035】
22]前記金属酸化物が下記条件(g1)を満たす、[18]~[21]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
【0036】
23]前記条件(g)において、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す、[18]~[21]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0037】
24]前記条件(g)において、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す、[18]~[21]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0038】
25]メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、下記条件(c)および(g1)を満たす、アモルファスの結晶構造を有する金属酸化物を含有するメタクリル酸製造用触媒であって、
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo (NH (II)
(式(II)中、Mo、V、NH およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0.24≦c≦0.38、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
前記金属酸化物が下記条件(a)を満たす環状構造を有し、
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
前記金属酸化物が下記条件(b’)を満たす、メタクリル酸製造用触媒。
(b’)金属-酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが結合した環状構造を含有する金属酸化物。
【0039】
26][18]~[25]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0040】
27][23]または[24]に記載のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程と、
(1b)前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理し、固形分を得る工程と、
(2b)(1b)で得られた固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程と、
を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0041】
28]前記固形分が下記条件(h)および(i)を満たす、[26]または[27]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(h)電子顕微鏡で観察される結晶の平均長さが2~50μmである固形分。
(i)電子顕微鏡で観察される結晶の平均アスペクト比が2~30である固形分。
(ただし、平均アスペクト比=(結晶の平均長さ)/(結晶の平均直径)とする。)
【0042】
29][18]~[25]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【0043】
30][26]~[28]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒を用いてメタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【0044】
31]原料ガスとして下記式(IV)で示す組成を有するガスを供給する、[29]または[30]に記載のメタクリル酸の製造方法。
メタクロレイン:酸素:水蒸気:A=k:l:m:n (IV)
(式(IV)中、Aは窒素またはヘリウムを示す。k~nは各気体のモル比率を表し、k+l+m+n=100とした時、0.5<k<8.0、2.0<l<20.0、0≦m<45である。)
【0045】
32]反応温度が180~500℃であり、下記式(V)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、[29]~[31]のいずれかに記載のメタクリル酸の製造方法。
15<W/F<550 (V)
(式(V)中、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0046】
33]反応温度が180~500℃であり、下記式(VI)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、[29]~[32]のいずれかに記載のメタクリル酸の製造方法。
0.00002<F/(S×W)<0.008 (VI)
(式(VI)中、Sは窒素吸着により算出される前記金属酸化物のBET比表面積(m2/g)を表し、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0047】
34][29]~[33]のいずれかに記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【0048】
35][29]~[33]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸を製造し、該メタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
[1’]メタクロレインの気相接触酸化反応によりメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒であって、下記条件(a’)を満たす金属酸化物を含有するメタクリル酸製造用触媒。
(a’)少なくともモリブデンを含み、かつ金属配位数6である金属酸素八面体(オクタヘドラル構造体)が環状に結合してなる、下記式(I)で表されるモル比率を有する環状構造を含有する。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
【0049】
[2’]前記金属酸化物が下記条件(c)を満たす、[1’]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo1cde(NH4fg (II)
(式(II)中、Mo、V、NH4およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0≦c<0.5、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【0050】
[3’]前記式(II)において0<c<0.5である、[2’]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0051】
[4’]前記金属酸化物が下記条件(d)を満たす、[1’]~[3’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(d)前記金属酸化物の質量をM1、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量をM2としたとき、下記式(III)を満たす金属酸化物。
0≦M2/M1<0.05 (III)
【0052】
[5’]前記金属酸化物が下記条件(e)を満たす、[1’]~[4’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(e)前記金属酸化物のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルと、前記金属酸化物を2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルとの差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する金属酸化物。
【0053】
[6’]前記金属酸化物が下記条件(f)を満たす、[1’]~[5’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(f)窒素吸着により算出されるBET比表面積Sが1.5~60m2/gである金属酸化物。
【0054】
[7’]前記金属酸化物が下記条件(g)を満たす、[1’]~[6’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒。
(g)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°に回折ピークを示す金属酸化物。
【0055】
[8’]前記条件(g)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す、[7’]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0056】
[9’]前記条件(g)において、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す、[7’]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0057】
[10’]前記条件(g)において、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す、[7’]に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【0058】
[11’][1’]~[7’]、[9’]および[10’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、下記工程(1)および(2)を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を得る工程。
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程。
【0059】
[12’][8’]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、下記工程(1)および(2)を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を得る工程。
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程。
【0060】
[13’]前記工程(1)において前記固形分を得た後、前記工程(2)において前記固形分を焼成する前までの間に、前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理する分散処理工程を含む、[11’]に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【0061】
[14’]前記工程(2)において、前記固形分または前記分散処理工程で得られた分散処理後の固形分が下記条件(h)および(i)を満たす、[11’]~[13’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(h)電子顕微鏡で観察される結晶の平均長さが2~50μmである固形分。
(i)電子顕微鏡で観察される結晶の平均アスペクト比が2~30である固形分。
(ただし、平均アスペクト比=(結晶の平均長さ)/(結晶の平均直径)とする。)
【0062】
[15’][1’]~[10’]のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの気相接触酸化反応によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【0063】
[16’][11’]~[14’]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒を用いてメタクロレインの気相接触酸化反応によりメタクリル酸を製造するメタクリル酸の製造方法。
【0064】
[17’]反応温度が180~500℃であり、下記式(V)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、[15’]または[16’]に記載のメタクリル酸の製造方法。
15<W/F<550 (V)
(式(V)中、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0065】
[18’]反応温度が180~500℃であり、下記式(VI)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給する、[15’]~[17’]のいずれかに記載のメタクリル酸の製造方法。
0.00002<F/(S×W)<0.008 (VI)
(式(VI)中、Sは窒素吸着により算出される前記金属酸化物のBET比表面積(m2/g)を表し、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0066】
[19’]原料ガスとして下記式(IV’)で示す組成を有するガスを供給する、[15’]~[18’]のいずれかに記載のメタクリル酸の製造方法。
メタクロレイン:酸素:水蒸気:A=k:l:m:n (IV’)
(式(IV’)中、Aは窒素またはヘリウムを示す。k~nは各気体のモル比率を表し、k+l+m+n=100とした時、0.5<k<8.0、2.0<l<20.0、4.5<m<45である。)
【0067】
[20’][15’]~[19’]のいずれかに記載の方法により製造されたメタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【0068】
[21’][15’]~[19’]のいずれかに記載の方法によりメタクリル酸を製造し、該メタクリル酸をエステル化するメタクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、メタクロレインの酸化に用いられる、メタクリル酸収率の高いモリブデン含有酸化物触媒およびその製造方法、並びに該触媒を用いたメタクリル酸の製造方法、およびメタクリル酸エステルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)の分子構造を示す図である。
図2】オクタヘドラル構造体7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して環状構造を形成したときの分子構造を示す図である。
図3】オクタヘドラル構造体が環状に結合した面をab面としたときの、金属酸化物のab面における分子構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明を詳細に説明する。
[メタクリル酸製造用触媒]
【0072】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の一様態は、モリブデンを含有する金属酸化物を含むものであり、前記金属酸化物は下記条件(a)および(b)を満たす環状構造を有する。
(a)下記式(I)を満たす環状構造。
(Mo、VおよびXのモル数の合計):(Oのモル数)=7:35 (I)
(式(I)中、Mo、VおよびOは、それぞれモリブデン、バナジウムおよび酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。)
(b)金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造。
【0073】
また、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の別の一様態は、下記条件(b’)および(c)を満たす金属酸化物を含有する。
(b’)金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが結合した環状構造(7個のオクタヘドラル構造体が環状に結合した環構造)を含有する金属酸化物。
(c)下記式(II)で表される組成を有する金属酸化物。
Mo1cde(NH4fg (II)
(式(II)中、Mo、V、NH4およびOは、それぞれモリブデン、バナジウム、アンモニウム根および酸素を示す。Xはニオブ、タンタル、タングステン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、銅、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。c~gは、各成分のモル比率を表し、0≦c<0.5、0≦d<0.5、0≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、gは、前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【0074】
また、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の別の一様態は、前記条件(c)および下記条件(g1)を満たす金属酸化物を含有する。
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属酸化物。
以下、各条件の詳細について説明する。
【0075】
<条件(a)>
前記金属酸化物が前記条件(a)を満たす環状構造を有することは、例えば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を使用した高角環状暗視野(HAADF)測定(以下、「HAADF-STEM測定」とも記す)と、前記金属酸化物に含まれる元素種から確認することができる。
環状構造の存在は、HAADF-STEM測定を用いて前記金属酸化物の粉末を観察することで像として確認することができる。
前記金属酸化物に含まれる金属元素種は、例えば、金属酸化物をアンモニア水またはフッ酸水溶液に溶解させ、ICP発光分析法で分析することによって特定できる。
HAADF-STEM像で確認された環状構造が前記式(I)を満たすことは、HAADF-STEM像のコントラストと前記金属酸化物に含まれる金属元素種から、HAADF-STEM像に示される元素を特定し、環状構造における各金属元素の比を求めることで確認できる。
【0076】
なお、前記金属酸化物が前記式(I)に含まれる成分のみからなる場合は、環状構造の存在が確認されれば、該環状構造が前記式(I)を満たすと判断できる。この場合、環状構造の存在は、上述の通り前記金属酸化物のHAADF-STEM測定により確認する以外に、ガス吸着法におけるモレキュラープローブ法により確認することもできる。
ガス吸着法におけるモレキュラープローブ法を用いる場合は、閉鎖された真空系に前記金属酸化物を充填し、200~400℃で前処理した後、分子径の異なる数種類の気体分子をプローブとして真空系内に導入することで吸着等温線を作成し、DA法を用いて細孔直径を算出する(M.M.Dubinin、V.A.Astakhov、「Advances in Chemistry」、1971年、第102巻、p.69)。算出された細孔直径が0.35~0.5nmであれば、環状構造が存在すると判断できる。
【0077】
前記式(I)において、メタクリル酸選択率の観点から、Xはニオブ、タンタル、タングステン、マンガン、鉄、銅、コバルト、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、タングステン、鉄、銅、アンチモンおよびビスマスからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0078】
また前記式(I)において、メタクリル酸収率の観点から、Mo、VおよびXは下記式(I’)で表されるモル比率を有することが好ましい。
(Moのモル数):(Vのモル数):(Xのモル数)=(7-a-b):a:b (I’)
(式(I’)中、aおよびbは、それぞれバナジウムおよびXのモル比率を表す整数であり、a=0~3、より好ましくはa=1~3、b=0~3である。)
aおよびbの値は、例えばX線構造解析により測定された前記金属酸化物のX線回折パターンについて、Rietvelt解析を行うことで特定できる。
【0079】
<条件(b)および(b’)>
金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)の分子構造を図1に示す。図1において、オクタヘドラル構造体の中心に配位数が6である金属元素(Mo、VまたはX)が位置し、八面体のすべての頂点に酸素が位置する。また、図1に示すオクタヘドラル構造体7個それぞれが、隣接する頂点の酸素を共有して結合して環状構造を形成したときの分子構造を図2に示す。
【0080】
メタクロレインの酸化において、図2に示す環状構造が高い触媒活性を有する。これは、前記環状構造の存在により、メタクロレインからメタクリル酸を高い選択率で製造できる吸着サイトが形成されるためであると推測している。また、該環状構造に含まれる金属元素の種類、組み合わせおよび量を制御することにより、触媒性能を制御することができる。なお、前記環状構造により形成される細孔内には、Mo、VまたはXを含む構造体が配置していてもよい。
図2に示す環状構造は、前記金属酸化物が有する構造の一部に相当する。図2において、オクタヘドラル構造体が環状に結合した面をab面としたときの、前記金属酸化物のab面における分子構造の例を図3に示す。図3において、図2に示す前記環状構造は、他の環状構造と頂点の酸素を共有して結合している。また、オクタヘドラル構造体が環状に結合した環状構造は、隣接する他の環状構造と一つのオクタヘドラル構造体を共有して配置されている。なお、前記金属酸化物は、6個以下のオクタヘドラル構造体が、隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していても良い。
【0081】
前記金属酸化物が前記条件(b)を満たす環状構造を有することは、例えば、HAADF-STEM測定またはガス吸着法におけるモレキュラープローブ法により確認することができる。
【0082】
HAADF-STEM測定を用いる場合は、前記金属酸化物の粉末を観察することで、前記条件(b)を満たす環状構造の存在を像として確認することができる。
【0083】
ガス吸着法におけるモレキュラープローブ法を用いる場合は、閉鎖された真空系に前記金属酸化物を充填し、200~400℃で前処理した後、直径0.40~0.43nmの細孔に吸着可能なプローブであるCO2、CH4、またはC26を真空系内に導入することで吸着等温線を作成し、DA(Dubinin-Astakhov)法を用いて細孔直径を算出することができる(M.M.Dubinin、V.A.Astakhov、「Advances in Chemistry」、1971年、第102巻、p.69)。算出された細孔直径が0.40~0.43nmであれば、前記条件(b)を満たす環状構造が存在すると判断できる。
また、前記金属酸化物が条件(b)を満たす環状構造を有することは、前記金属酸化物が前記条件(b’)を満たすことを示す。
【0084】
<条件(c)>
前記金属酸化物における各元素のモル比率は、前記金属酸化物をアンモニア水、硝酸、塩酸、硫酸、王水またはフッ酸に完全に溶解させ、ICP発光分析法で分析することによって算出することができる。
また、アンモニウム根のモル比率は、前記金属酸化物をケルダール法で分析することによって算出することができる。なお、本発明において、「アンモニウム根」とは、アンモニウムイオン(NH4 +)になり得るアンモニア(NH3)、およびアンモニウム塩などのアンモニウム含有化合物に含まれるアンモニウムの総称を意味する。
【0085】
前記式(II)において、メタクリル酸選択率の観点から、バナジウムのモル比率は、0<c<0.5であることが好ましい。
【0086】
また前記式(II)において、メタクリル酸選択率の観点から、Xはニオブ、タンタル、タングステン、マンガン、鉄、銅、コバルト、リン、ヒ素、アンチモン、テルル、ビスマス、ホウ素、インジウム、亜鉛、マグネシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、タングステン、鉄、銅、アンチモンおよびビスマスからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0087】
また、前記金属酸化物が前記条件(a)および(b)を満たす環状構造を有する場合、ならびに前記金属酸化物が前記条件(b’)および(c)を満たす場合、前記金属酸化物がさらに下記条件(g)を満たすことが好ましい。
(g)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°に回折ピークを示す金属酸化物。
【0088】
<条件(g)および(g1)>
X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°に出現する回折ピークは、金属酸化物の結晶構造の(001)面に由来し、2θ=45.2°±0.3°に出現する回折ピークは(002)面に由来する。上述のab面に垂直な軸をc軸としたとき、これらの回折ピークの存在は、前記金属酸化物がc軸方向に規則的に積層した構造を有していることを表す。前記金属酸化物が条件(g)を満たす場合、該金属酸化物において前記ab面が0.396~0.410nmの間隔で積層していることを示す。なお、回折ピークとは、2θ=2~60°の範囲内に出現する最大強度のピークに対し、5/100以上の高さを有するものとする。
また条件(g)において、さらに下記条件(g1)を満たす場合は、前記金属酸化物がアモルファス構造を有すると特定できる。
(g1)X線回折パターン(Cu-Kα線使用)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す金属化合物。
【0089】
また条件(g)において、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°以外に、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す場合は、前記金属酸化物が斜方晶の結晶構造を有すると特定できる。また、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°以外に、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す場合は、前記金属酸化物が三方晶の結晶構造を有すると特定できる。メタクリル酸収率の観点から、前記金属酸化物がアモルファス構造、斜方晶の結晶構造または三方晶の結晶構造を有することが好ましい。
【0090】
また、メタクリル酸収率の観点から、前記金属酸化物は、さらに下記条件(d)~(f)から選択される少なくとも1つを満たすことが好ましく、下記条件(d)~(f)のすべてを満たすことがより好ましい。
(d)前記金属酸化物の質量をM1、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量をM2としたとき、下記式(III)を満たす金属酸化物。
0≦M2/M1<0.05 (III)
(e)前記金属酸化物のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルと、前記金属酸化物を2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後のFT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルとの差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する金属酸化物。
(f)窒素吸着により算出されるBET比表面積Sが1.5~60m2/gである金属酸化物。
以下、各条件の詳細について説明する。
【0091】
<条件(d)>
前記式(III)において、M2/M1は、前記金属酸化物に含まれる不活性成分の質量割合を示す。不活性成分とは、反応温度180~500℃において、メタクロレインを酸化する際に触媒活性を示さない、または触媒活性が極めて低い化合物のことである。不活性成分としては、Al23、SiO2、TiO2、ゼオライトおよびその他触媒担体化合物等の化合物が挙げられる。
【0092】
M2/M1が前記式(III)を満たす場合、前記金属酸化物における単位体積当たりの活性成分の割合が充分高いため、メタクリル酸の製造において所望のメタクロレイン転化率および連続運転時間を達成しやすくなる。
【0093】
<条件(e)>
FT-IR測定に使用する装置に特に限定はなく、少なくとも1200~2000cm-1の範囲を測定できればよい。また、測定方法は、透過法、拡散反射法のいずれでもよく、前記金属酸化物を希釈剤で希釈して測定してもよい。希釈剤としては、少なくとも1200~2000cm-1の範囲で赤外吸収を示さない物質を使用することができる。希釈剤としては、例えばKBrが挙げられる。前記金属酸化物のFT-IR測定は、装置内に前記金属酸化物を設置し、窒素またはヘリウム流通下、300℃以上で10分間以上前処理を行った後、測定温度まで冷却して行う。次いで、前記金属酸化物を15~25容量%の水蒸気雰囲気下で5~60秒間保持し、さらに2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気下で60分間保持した後にFT-IR測定を行い、両者の差から差スペクトルを得る。該差スペクトルにおいて、1557±10cm-1、1456±10cm-1および1374±10cm-1に吸収ピークを有する場合、より高いメタクリル酸選択率でメタクリル酸を製造することができる。なお、吸収ピークとは、横軸を波長、縦軸をFT-IR測定により検出される吸光度とした時、そのピーク面積が0.1以上の値を有するものとする。
【0094】
<条件(f)>
BET比表面積Sは、ガス吸着法においてプローブとして窒素を用いた窒素吸着測定により算出することができる。窒素吸着測定は、閉鎖された真空系に前記金属酸化物を充填し、200~400℃で前処理した後、液体窒素温度で前記金属酸化物に窒素を吸着させて吸着等温線を描き、BET法により比表面積を算出する。前記金属酸化物のBET比表面積Sが1.5m2/g以上であることにより、メタクリル酸の製造においてメタクロレイン転化率が向上する。また、BET比表面積Sが60m2/g以下であることにより、メタクリル酸の製造における発熱量を抑制でき、安定して運転を継続できる。
【0095】
[メタクリル酸製造用触媒の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法の一様態は、下記工程(1)および(2)を含む。
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程。
(2)前記固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程。
【0096】
また、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法の別の一様態は、下記工程(1)、(1b)および(2b)を含む。
(1)少なくともモリブデンを含む水溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する工程。
(1b)前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理し、分散処理後の固形分を得る工程。
(2b)前記分散処理後の固形分を焼成し、金属酸化物を得る工程。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0097】
(工程(1))
工程(1)では、少なくともモリブデンを含む触媒原料の一部、または全部を溶媒に混合して溶液またはスラリーを調製し、該溶液またはスラリーを80~300℃にて3~200時間加熱し、固形分を生成する。触媒原料の一部を溶媒に混合して前記溶液またはスラリーを調製した場合は、前記溶液またはスラリーの調製後に残りの触媒原料を混合することができる。
【0098】
<触媒原料>
触媒原料は特に限定されず、目的とする金属酸化物の組成に含まれる各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。
モリブデン原料としては、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられ、モリブデン系のポリオキソメタレート等を使用することもできる。モリブデン系のポリオキソメタレートとしては、ヘテロポリ酸、イソポリ酸、また、ヘテロポリ酸およびイソポリ酸をアルキルアンモニウムイオンで修飾した原料等を使用することができる。イソポリ酸をアルキルアンモニウムイオンで修飾した原料としては、(CH3NH36Mo724、(C25NH3)Mo310等を使用することができる。
【0099】
触媒原料はバナジウムを含むことが好ましく、バナジウム原料としては、硫酸バナジル、硫酸バナジウム、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、塩化バナジウム等が挙げられる。また、触媒原料として界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤があり、カチオン性界面活性剤としては、硫酸ドデシルナトリウム等が挙げられる。
【0100】
<溶媒>
溶媒としては、水、有機溶媒を用いることができるが、取扱い易さ、安全性の面で水を用いることが好ましい。溶媒の質量は、前記溶液またはスラリーの調製に使用する触媒原料の合計100質量部に対して、500~5000質量部とすることが好ましい。
【0101】
<溶液またはスラリーの調製>
前記溶液またはスラリーは、前記触媒原料を前記溶媒中で混合して調製する。混合方法には特に制限はないが、前記溶媒に前記触媒原料を添加し、撹拌して混合する方法が好ましい。添加する順番については特に制限はなく、適宜設定することができる。
【0102】
後述する工程(2)において、前記条件(a)を満たす環状構造を有する金属酸化物を形成させる観点から、前記溶液またはスラリーは前記式(I)に含まれる成分を用いて調製することが好ましい。
また、前記溶液またはスラリーには、前記式(II)で表される組成を有する金属酸化物を微量に加えてもよい。該金属酸化物を予め加えることで、最終的に得られる触媒のメタクリル酸収率が向上する。
【0103】
後述する工程(2)において、前記条件(b)を満たす環状構造を有する金属酸化物を形成させる観点から、前記溶液またはスラリーのpHを1.7~3.5とし、窒素、水素またはヘリウムをバブリングさせることが好ましい。前記溶液またはスラリーのpHは、例えば触媒原料としてアンモニア水または硫酸を使用することにより調整できる。なお、前記溶液またはスラリーのpHは、HORIBA製ポータブル型pHメータD-72(製品名)等により測定することができる。
【0104】
<固形分の生成>
続いて、前記溶液またはスラリーを加熱することで、固形分を生成する。前記溶液またはスラリーの加熱温度は80~300℃が好ましい。加熱温度が80℃以上であることにより、後述する工程(2)において、前記条件(b)を満たす環状構造を有する金属酸化物を有利に形成させることができる。また、加熱温度が300℃以下であることにより、最終的に得られる触媒のメタクリル酸収率が向上する。加熱温度の下限は120℃以上がより好ましく、175℃以上がさらに好ましい。また加熱温度の上限は260℃以下がより好ましく、230℃以下がさらに好ましい。
【0105】
前記溶液またはスラリーの加熱時間は、メタクリル酸収率の観点から、3~200時間が好ましい。加熱時間の下限は10時間以上、上限は72時間以下がより好ましい。
前記溶液またはスラリーには、予めテフロン(登録商標)製のシートやガラス板等を入れて加熱してもよい。斜方晶および三方晶構造はテフロン表面において形成しやすい性質があるため、テフロン製のシートやガラス板を入れることでこれらの結晶構造の形成が促進される。
【0106】
<水熱法による固形分の生成>
得られる触媒のメタクリル酸収率の観点から、水の蒸発を抑制できる水熱法を用いて固形分を生成することが好ましい。水熱法とは、高温高圧の熱水の存在下で化合物の合成等を行う方法であり、オートクレーブと呼ばれる密閉容器中で、原料と水を加熱加圧することで反応させる。水熱法には、オートクレーブ等の圧力容器を使用することができる。該容器は静置させても回転させてもよく、また容器外部から電磁波を照射してもよい。
水熱法を用いる場合、使用するモリブデン原料の濃度、および前記溶液またはスラリーのpHにより、生成される固形分の構造を制御することができる。例えばモリブデン原料としてヘプタモリブデン酸アンモニウムを使用する場合、ヘプタモリブデン酸アンモニウムの濃度を溶媒に対して0.02~0.04mol/Lとし、前記溶液またはスラリーのpHを2.3~3.5とすることで斜方晶構造、pHを1.7~2.3とすることで三方晶構造の形成が促進される傾向がある。また、ヘプタモリブデン酸アンモニウムの濃度を溶媒に対して0.05~0.30mol/Lとし、前記溶液またはスラリーのpHを1.7~3.5とすることでアモルファス構造の形成が促進される傾向がある。
【0107】
<溶液またはスラリーの乾燥>
固形分の生成後、前記溶液またはスラリーを吸引濾過、遠心分離、ドラムドライヤー、スプレードライヤー等を用いて乾燥し、固形分を得ることができる。吸引濾過または遠心分離を用いる場合は、さらに20~150℃で水分を除去して固形分を得ることが好ましい。
【0108】
(工程(1b))
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、前記金属酸化物が斜方晶または三方晶の結晶構造を有する場合は、前記工程(1)において生成された前記固形分を、シュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理する工程(1b)を含んでも良い。前記固形分に六方晶構造、擬六方晶構造を有する成分等が含まれている場合、メタクリル酸の製造において収率が低下することがある。前記固形分をシュウ酸水溶液、塩酸、エチレングリコールまたは過酸化水素水中で分散処理させることで、六方晶構造または擬六方晶構造を有する成分が溶出し、それら成分を前記固形分から分離することができる。
【0109】
一方、工程(1b)によりアモルファス構造を有する成分も溶出するため、前記金属酸化物がアモルファス構造を有する場合は、工程(1b)を行うことなくメタクリル酸製造用触媒を製造することが好ましい。
【0110】
前記工程(1)において生成された固形分、または前記工程(1b)において得られた分散処理後の固形分(以下、まとめて「固形分」とも記す)は、下記条件(h)および(i)を満たすことが好ましい。
(h)電子顕微鏡で観察される結晶の平均長さが2~50μmである固形分。
(i)電子顕微鏡で観察される結晶の平均アスペクト比が2~30である固形分。
(ただし、平均アスペクト比=(結晶の平均長さ)/(結晶の平均直径)とする。)
【0111】
<条件(h)および条件(i)>
結晶の平均長さおよび平均アスペクト比を観察するために使用する電子顕微鏡に限定はなく、0.1~50μmを識別でき、少なくとも2~50μmを識別でき、長さを計測できるものであればよい。例として、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)等を用いて、前記固形分をカーボンテープ、電子顕微鏡用のグリッドまたはメッシュ上に固定することにより観察することができる。
【0112】
条件(h)および(i)において、結晶の平均長さとは、観察される結晶の長軸方向の長さの平均値を示し、結晶の平均直径とは、観察される結晶の短軸方向の長さの平均値を示す。結晶の長軸方向および短軸方向の長さは、手動でスケールを考慮した長さを計測する、または、画像解析により長さ計測をすることで得られる。手動および画像解析のいずれの場合においても、結晶の長さを識別できる異なる結晶を少なくとも500個抽出し、抽出したすべての結晶について測定した長軸方向および短軸方向の長さを得る。得られた長軸方向の長さの平均値を求めることで結晶の平均長さを算出し、短軸方向の長さの平均値を求めることで結晶の平均直径を算出する。ただし、結晶の短軸方向の断面が真円ではない場合は、短軸方向の断面積から下記式を用いて短軸方向の長さを算出する。
【0113】
【数1】
【0114】
結晶の平均直径および結晶の平均アスペクト比は、前記工程(1)において、触媒原料として界面活性剤を添加することで制御できる。界面活性剤の添加量を増やすと、前記固形分の結晶の平均直径は大きくなり、平均アスペクト比は小さくなる。また、結晶の平均長さおよび結晶の平均アスペクト比は、前記固形分を粉砕処理することで制御できる。粉砕時間が長いと結晶が物理的に破壊され、結晶の平均長さは小さくなり、平均アスペクト比は小さくなる。粉砕は例えば、乳鉢、ボールミル、高速回転ミル、ジェットミル、らいかい機等を用いる方法が挙げられる。
【0115】
結晶の平均長さは、前記環状構造を安定して維持できる点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、特に条件(h)(2μm以上)を満たすことが好ましい。
条件(h)において、結晶の平均長さが2μm以上であることにより、前記条件(a)および(b)を満たす環状構造が安定して構造を維持することができ、簡便な方法でメタクリル酸の製造における連続運転時間を向上できる。また、結晶の平均長さが50μm以下であることにより、メタクリル酸製造において結晶の短軸方向の断面を有効に使用することができ、メタクリル酸の収率が向上する。これらの観点から、結晶の平均長さは、より好ましくは3μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上であり、また、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。
【0116】
条件(i)において、結晶の平均アスペクト比が2~30であると、前記条件(a)および(b)を満たす環状構造の崩壊を抑制しやすく、また、メタクリル酸の製造において該環状構造が反応に有効に寄与することができるため、メタクリル酸収率が向上する。
【0117】
(成形工程)
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、後述する工程(2)または工程(2b)の前に、前記固形分を成形する成形工程を含んでもよい。前記固形分を成形することにより、メタクリル酸製造において反応器内の圧力損失が低減し、原料ガス拡散の影響が抑制されることで、メタクリル酸の選択率が向上する。
【0118】
成形方法は特に制限されず、公知の乾式又は湿式の成形方法を適用することができる。成形方法としては、例えば、打錠成形、押出成形、加圧成形、転動造粒等が挙げられる。成形後の固形分の形状としては特に制限はなく、球形粒状、リング状、円柱形ペレット状、星型状、成形後に粉砕分級した顆粒状等の任意の形状が挙げられる。成形後の固形分の大きさは、直径が0.1~10mmであることが好ましい。直径が0.1mm以上であることにより、メタクリル酸製造において反応器内の圧力損失を十分小さくすることができる。また、直径が10mm以下であることにより、メタクロレイン転化率が向上する。直径の下限は3mm以上、上限は8mm以下であることがより好ましい。
【0119】
(工程(2)および工程(2b))
工程(2)および工程(2b)では、前記固形分または前記成形工程で得られた成形後の固形分を焼成し、金属酸化物を得る。前記固形分または前記成形工程で得られた成形後の固形分を焼成することで、メタクリル酸製造におけるメタクロレイン転化率を向上させることができる。なお、工程(2)は前記固形分が前記工程(1)において生成された固形分である場合、工程(2b)は前記固形分が前記工程(1b)において得られた分散処理後の固形分である場合を示す。
【0120】
焼成方法は特に限定されず、静置焼成、流動焼成等から好適な方法を適宜選択すればよい。静置焼成としては、例えば箱型電気炉、環状焼成炉等を用いて焼成する方法が挙げられる。流動焼成としては、例えば流動焼成炉、ロータリーキルン等を用いて焼成する方法が挙げられる。焼成ガスは、例えば空気等の酸素含有ガスまたは不活性ガスの雰囲気下で行われる。なお「不活性ガス」とは、メタクリル酸製造において触媒活性を低下させない気体のことを示し、例えば、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。焼成の雰囲気は、所望の焼成ガス雰囲気が維持できれば、焼成ガスは流通させても、流通させなくてもよい。前記条件(a)および(b)を満たす環状構造を有する金属酸化物を形成させる観点から、焼成温度は200~500℃が好ましい。焼成温度の下限は300℃以上、上限は470℃以下がより好ましい。また、焼成時間は1~40時間が好ましい。
【0121】
[メタクリル酸の製造方法]
本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係るメタクリル酸製造用触媒を用いて、メタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する方法である。また、本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、本発明に係る方法によりメタクリル酸製造用触媒を製造し、該メタクリル酸製造用触媒を用いてメタクロレインの酸化によりメタクリル酸を製造する方法である。前記酸化は、反応器内に前記金属酸化物を含有するメタクリル酸製造用触媒を充填し、該反応器へメタクロレインを含む原料ガスを供給することにより行うことができる。
【0122】
<触媒の充填>
メタクリル酸製造用触媒は、前記金属酸化物以外にポリオキソメタレート等の既知の酸化触媒を含有することができるが、メタクリル酸の製造における連続運転時間の観点から、前記金属酸化物を80質量%以上含有することが好ましく、前記金属酸化物を90%以上含有することがより好ましい。触媒層は1層でもよく、活性の異なる複数の触媒をそれぞれ複数の層に分けて充填してもよい。また、除熱のため、海砂、シリコンカーバイドなどの不活性な希釈剤と混合して用いることが好ましい。
【0123】
<原料ガスの供給>
原料ガスは、メタクロレインおよび分子状酸素を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。
【0124】
原料ガスとして、下記式(IV)で示す組成を有するガスを供給することが好ましい。
メタクロレイン:酸素:水蒸気:A=k:l:m:n (IV)
(式(IV)中、Aは窒素またはヘリウムを示す。k~nは各気体のモル比率を表し、k+l+m+n=100とした時、0.5<k<8.0、2.0<l<20.0、0≦m<45である。)
式(IV)において、k~mは、メタクリル酸選択率の観点から、2.0<k<4.0、5.0<l<12.0、0≦m<25であることが好ましい。
また、ユーティリティーコストの観点から、mの上限は10以下であることが好ましい。これにより、メタクリル酸製造における原料コストが削減される。さらに、廃水の量が減少するため廃水処理に要するコストが削減される。mの上限は5以下であることがより好ましく、m=0がさらに好ましい。
【0125】
また、下記式(V)および(VI)から選択される少なくとも1つを満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給することが好ましく、下記式(V)および(VI)を満たすようにメタクロレインを含む原料ガスを供給することがより好ましい。
15<W/F<550 (V)
(式(V)中、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
0.00002<F/(S×W)<0.008 (VI)
(式(VI)中、Sは窒素吸着により算出される前記金属酸化物のBET比表面積(m2/g)を表し、Wは反応器に充填した前記金属酸化物の質量(g)を表し、Fは単位時間当たりのメタクロレインの供給量(mol/h)を表す。)
【0126】
前記式(V)において、W/Fは、反応器に充填した触媒とメタクロレインとの接触時間を表す。W/Fが15を超えることにより、メタクリル酸製造における触媒の過度な発熱を抑制することができる。また、W/Fが550未満であることにより、触媒コストを抑制することができる。W/Fの下限は20以上がより好ましく、40以上がさらに好ましく、50以上が特に好ましく、80以上が最も好ましい。W/Fの上限は500以下がより好ましく、400以下がさらに好ましく、270以下が特に好ましい。
【0127】
前記式(VI)において、F/(S×W)は、触媒の比表面積当たりのメタクロレインの供給量を表す。F/(S×W)が0.00002を超えることにより、所望のメタクリル酸生産量確保のために必要な反応器の大きさを抑制できる。また、F/(S×W)が0.008未満であることにより、触媒コストを抑制することができる。F/(S×W)の下限は0.00007以上がより好ましい。F/(S×W)の上限は0.005以下がより好ましく、0.001以下がさらに好ましく、0.0008以下が特に好ましい。
【0128】
<反応温度および圧力>
反応温度は180~500℃が好ましく、下限は200℃以上、上限は400℃以下がより好ましい。反応圧力は、0.1~1MPa(G)が好ましい。ただし、(G)はゲージ圧であることを意味する。
【0129】
[メタクリル酸エステルの製造方法]
本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法により製造されたメタクリル酸をエステル化する方法である。また、本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法によりメタクリル酸を製造し、該メタクリル酸をエステル化する方法である。これらの方法によれば、メタクロレインの酸化により得られるメタクリル酸を用いて、メタクリル酸エステルを得ることができる。メタクリル酸と反応させるアルコールとしては特に限定されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。得られるメタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。反応は、スルホン酸型カチオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で行うことができる。反応温度は50~200℃が好ましい。
【実施例
【0130】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0131】
(結晶の平均長さおよび平均アスペクト比の測定)
固形分における結晶の平均長さおよび平均アスペクト比は、SEM(製品名:JSM-7400F、JEOL製)を用いて少なくとも500個の結晶の長軸方向および短軸方向の長さを手動で計測し、平均値を求めることで算出した。
【0132】
(モレキュラープローブ法による細孔直径の測定)
金属酸化物の細孔直径は、金属酸化物を300℃で前処理した後、CO2、CH4、またはC26を用いたモレキュラープローブ法により吸着等温線を作成し(製品名:BELSORP-MAX、マイクロトラック・ベル製)、DA法を用いて算出した。
【0133】
(X線回折パターンの測定)
金属酸化物のX線回折パターンは、X線構造解析装置(製品名:RINT Ultima+、リガク製、管電圧40kV、管電流20mA)にて、Cu-Kα線を使用して測定した。得られたX線回折パターンについて、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示す場合は、アモルファス構造を有すると特定した。また、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°以外に、さらに2θ=6.6°±0.3°、7.9°±0.3°、9.0°±0.3°、26.4°±0.3°、26.9°±0.3°、27.2°±0.3°および27.4°±0.3°に回折ピークを示す場合は、斜方晶の結晶構造を有すると特定した。また、2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°以外に、さらに2θ=4.7°±0.3°、8.3°±0.3°、25.3°±0.3°、25.7°±0.3°、27.0°±0.3°、27.9°±0.3°および28.3°±0.3°に回折ピークを示す場合は、三方晶の結晶構造を有すると特定した。アモルファス構造、斜方晶の結晶構造、および三方晶の結晶構造以外については、既報のXRDパターンとサーチアンドマッチ解析を実施することで結晶構造を特定した。サーチアンドマッチ解析は、解析ソフトJADE9.8を用いて、ICDD2017に収録された既報のXRDパターンデータを用いて行った。
【0134】
(モル比率の算出)
金属酸化物における各元素のモル比率は、金属酸化物成分をアンモニア水またはフッ酸水溶液に溶解させ、ICP発光分析法で分析することによって算出した。また、アンモニウム根のモル比率は、前記金属酸化物をケルダール法で分析することによって求めた値とした。なお、吸引濾過により固形分を回収する場合は、一部の金属成分が濾液側に溶出するため、原料の仕込み比から算出されるモル比率と、得られた金属酸化物について上述の分析を行って算出されるモル比率は必ずしも一致しない。
【0135】
(FT-IR測定による差スペクトルの算出)
金属酸化物のFT-IR測定(製品名:FT/IR-6100、日本分光製)は、透過法により行った。まず、40~50mgの金属酸化物を直径20mmのペレット状にしたものを装置内に設置し、ヘリウム流通下、10℃/分で400℃まで昇温し、10分間前処理を行った。その後、金属酸化物を100℃まで冷却し、赤外吸収スペクトルを測定した(FT-IR測定1)。次いで、金属酸化物を20容量%の水蒸気雰囲気下で10秒間保持し、さらに2.0容量%以上のメタクロレイン雰囲気となるようにメタクロレインを導入し、流通ガスを酸素に切り替えて60分間保持した後、赤外吸収スペクトルを測定した(FT-IR測定2)。FT-IR測定2により得られた赤外吸収スペクトルから、FT-IR測定1により得られた赤外吸収スペクトルを差し引くことにより差スペクトルを算出した。
【0136】
(BET比表面積の測定)
金属酸化物のBET比表面積Sは、金属酸化物を300℃で前処理した後、窒素の吸着等温線を作成し(製品名:BELSORP-MAX、マイクロトラック・ベル製)、BET法を用いて算出した。
【0137】
(原料ガスおよび生成物の分析)
原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(装置:島津製作所製GC-14B、カラム:Porapak-QS)を用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクロレインの転化率、生成するメタクリル酸の選択率およびメタクリル酸の収率を下記式にて求めた。
メタクロレイン転化率(%)=(β/α)×100
メタクリル酸選択率(%)=(γ/β)×100
メタクリル酸収率(%)=(γ/α)×100
前記式中、αは供給したメタクロレインのモル数、βは反応したメタクロレインのモル数、γは生成したメタクリル酸のモル数を示す。
【0138】
[製造例1]
8.83gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、3.29gの硫酸バナジルを純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。このときのpHは3.19であった。得られた混合後の溶液を、テフロンシートを予め入れたテフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、175℃のオーブンで48時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0139】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、固形分1.0gに対して1.26gのシュウ酸2水和物および25gの純水と混合し、60℃で30分間分散混合した。その後、500gの純水でよく洗浄しながら、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0140】
続いて、得られた分散処理後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。得られた粉砕処理後の固形分について、結晶の平均長さおよび平均アスペクト比を測定した。結果を表1に示す。
【0141】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、50mL/minの窒素流通下にて、400℃で2時間焼成して、金属酸化物を得た。
【0142】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0143】
[製造例2]
製造例1と同様の方法により分散処理後の固形分を得た。該分散処理後の固形分について、粉砕処理は行わず、結晶の平均長さおよび平均アスペクト比を測定した。結果を表1に示す。
【0144】
続いて、該分散処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0145】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0146】
[製造例3]
8.83gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、3.29gの硫酸バナジルを純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。続いて、2M硫酸を添加してpHを2.30に調整した。得られた混合後の溶液を、テフロンシートを予め入れたテフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、175℃のオーブンで20時間、水熱法を用いた固形分の精製を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0147】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、固形分1.0gに対して1.26gのシュウ酸2水和物および25gの純水と混合し、60℃で30分間分散混合した。その後、500gの純水でよく洗浄しながら、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0148】
続いて、得られた分散処理後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。得られた粉砕処理後の固形分について、結晶の平均長さおよび平均アスペクト比を測定した。結果を表1に示す。
【0149】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0150】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0151】
[製造例4]
17.7gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、6.58gの硫酸バナジルを純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。このときのpHは3.26であった。得られた混合後の溶液を、テフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、175℃のオーブンで48時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0152】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0153】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0154】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たし、かつX線回折パターンにおいて2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示すアモルファス構造を有することが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0155】
[製造例5]
28.04mLの70%エチルアミン溶液に28.04gの純水を加えた溶液に、21.594gの三酸化モリブデンを加え、完全に溶解させた後、エバポレーションを行うことで、(C25NH3)Mo310を得た。得られた(C25NH3)Mo3101.799gを純水20gに溶解して得られた溶液に、0.658gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。続いて、0.327gのオキシ塩化ビスマスを加えてさらに10分間撹拌し、2M硫酸を添加してpHを2.0に調整した。得られた混合後の溶液を、テフロンシートを予め入れたテフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、オートクレーブを1rpmで回転させながら、175℃のオーブンで48時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0156】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、固形分1.0gに対して20mLの1.2M塩酸と混合し、室温にて30分間分散混合した。その後、1000gの純水でよく洗浄しながら、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0157】
続いて、得られた分散処理後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0158】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0159】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、酸素を除くモル比率、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0160】
[製造例6]
33.2mLの40%メチルアミン溶液に21.594gの三酸化モリブデンを加え、完全に溶解させた後、エバポレーションを行うことで、(CH3NH36Mo724を得た。得られた(CH3NH36Mo7241.780gを純水20gに溶解して得られた溶液に、0.658gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。続いて、0.156gの硫酸銅5水和物を加えてさらに10分間撹拌した。このときのpHは3.2であった。得られた混合後の溶液を、テフロンシートを予め入れたテフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、オートクレーブを1rpmで回転させながら、175℃のオーブンで20時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0161】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、固形分1.0gに対して1.26gのシュウ酸2水和物および25gの純水と混合し、60℃で30分間分散混合した。その後、500gの純水でよく洗浄しながら、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0162】
続いて、得られた分散処理後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0163】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0164】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0165】
[製造例7]
28.04mLの70%エチルアミン溶液に28.04gの蒸留水を加えて調製した溶液に、21.594gの三酸化モリブデンを加え、完全に溶解させた後、エバポレーションを行うことで、(C25NH3)Mo310を得た。得られた(C25NH3)Mo3101.799gを純水20gに溶解して得られた溶液に、0.658gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。続いて、0.161gのメタタングステン酸アンモニウムを加えてさらに10分間撹拌した。このときのpHは2.4であった。得られた混合後の溶液を、テフロンシートを予め入れたテフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、175℃のオーブンで48時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0166】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、固形分1.0gに対して1.26gのシュウ酸2水和物および25gの純水と混合し、60℃で30分間分散混合した。その後、500gの純水でよく洗浄しながら、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0167】
続いて、得られた分散処理後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0168】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0169】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0170】
[製造例8]
製造例6と同様の方法で得られた(CH3NH36Mo7241.780gを純水20gに溶解して得られた溶液に、0.642gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。続いて、0.176gの硫酸鉄7水和物を加えてさらに10分間撹拌した。このときのpHは2.84であった。得られた混合後の溶液を、テフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、オートクレーブを1rpmで回転させながら、175℃のオーブンで20時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0171】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、固形分1.0gに対して1.26gのシュウ酸2水和物および25gの純水と混合し、60℃で30分間分散混合した。その後、500gの純水でよく洗浄しながら、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0172】
続いて、得られた分散処理後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0173】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0174】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1およびFT-IR測定による差スペクトルを表1に示す。
【0175】
[製造例9]
製造例1と同様の方法で得られた粉砕処理後の固形分を、50mL/minの空気流通下にて、400℃で2時間焼成した後、さらに50mL/minの窒素流通下にて、550℃で2時間焼成して、金属酸化物を得た。
【0176】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有さないことが確認された。また、該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、酸素を除くモル比率、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0177】
[製造例10]
1.766gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水120gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、0.658gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。続いて、2M硫酸を添加してpHを1.20に調整した。得られた混合後の溶液を、テフロン製のオートクレーブに移し入れ、50L/min流量の窒素で10分間バブリングを行った。その後、175℃のオーブンで20時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0178】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0179】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、50mL/minの窒素流通下にて、400℃で2時間焼成して、金属酸化物を得た。
【0180】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定を行い、得られたX線回折パターンから結晶構造を特定した。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有さないことが確認された。また、該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、酸素を除くモル比率およびFT-IR測定による差スペクトルを表1に示す。
【0181】
[製造例11]
1.766gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、0.159gのメタバナジン酸アンモニウムを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。得られた溶液のpHは2.21であった。得られた混合後の溶液に対し、エバポレーションを行うことで得られた固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0182】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0183】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0184】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有さないことが確認された。また、X線回折測定を行い、得られたX線回折パターンから結晶構造解析を行った結果、得られた金属酸化物は、MoO3、(V0.12Mo0.88)O2.94、V0.95Mo0.975の少なくとも3種類の化合物を含有する混合物であることが示された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、酸素を除くモル比率およびFT-IR測定による差スペクトルを表1に示す。
【0185】
[製造例12]
5.30gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水30gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、1.40gの硫酸アンチモンを加え、15分間撹拌した。続いて、2.35gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、5分間撹拌した。このときのpHは1.80であった。得られた混合後の溶液を、テフロン製のオートクレーブに移し入れ、オートクレーブを1rpmで回転させながら、175℃のオーブンで24時間、水熱法を用いた固形分の生成を行った。その後、吸引濾過により固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0186】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。得られた粉砕処理後の固形分について、結晶の平均長さおよび平均アスペクト比を測定した。結果を表1に示す。
【0187】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0188】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、FT-IR測定による差スペクトル、およびBET比表面積Sを表1に示す。
【0189】
[製造例13]
製造例1と同様の方法により得られた乾燥後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。得られた粉砕処理後の固形分について、結晶の平均長さおよび平均アスペクト比を測定した。結果を表1に示す。
【0190】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0191】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1およびFT-IR測定による差スペクトルを表1に示す。
【0192】
[製造例14]
製造例1と同様の方法により得られた乾燥後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0193】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たしていることが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1およびFT-IR測定による差スペクトルを表1に示す。
【0194】
[製造例15]
1.766gのヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物を純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液に、0.642gの硫酸バナジルを純水20gに加えて室温にて撹拌して得られた溶液を混合し、10分間撹拌した。このときのpHは3.16であった。得られた混合後の溶液に対し、エバポレーションを行うことで得られた固形分を回収し、80℃のオーブンで乾燥させて水分を除去した。
【0195】
続いて、得られた乾燥後の固形分を、メノウ乳鉢を用いて5分間粉砕処理した。
【0196】
続いて、該粉砕処理後の固形分を、製造例1と同様の方法により焼成して、金属酸化物を得た。
【0197】
得られた金属酸化物について、モレキュラープローブ法による細孔直径の測定を行った。また、X線回折測定による結晶構造の特定、および、ICP発光分析による各元素のモル比率の算出を行った。結果を表1に示す。これらの測定結果から、得られた金属酸化物は、前記式(I)を満たし、かつ金属―酸素八面体(オクタヘドラル構造体)7個それぞれが隣接する頂点の酸素を共有して結合した環状構造を有していることが確認された。また、該金属酸化物は前記式(II)を満たし、かつX線回折パターンにおいて2θ=22.1°±0.3°および45.2°±0.3°のみに回折ピークを示すアモルファス構造を有することが確認された。該金属酸化物について、不活性成分の質量割合M2/M1、酸素を除くモル比率およびFT-IR測定による差スペクトルを表1に示す。
【0198】
[実施例1~6]
製造例1で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度および反応結果を表2に示す。
【0199】
[実施例7~14]
製造例1で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.1gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度および反応結果を表2に示す。
【0200】
[実施例15~17]
製造例2で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表2に示す。
【0201】
[実施例18~20]
製造例3で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表2に示す。
【0202】
[実施例21~23]
製造例4で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表2に示す。
【0203】
[実施例24~28]
製造例5で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0204】
[実施例29~32]
製造例6で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合しして反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0205】
[実施例33~37]
製造例7で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0206】
[実施例38~40]
製造例8で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0207】
[比較例1~3]
製造例9で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0208】
[比較例4~6]
製造例10で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを供給して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0209】
[比較例7~8]
製造例11で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表3に示す。
【0210】
[実施例41~45]
製造例12で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0211】
[実施例46~50]
製造例13で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0212】
[実施例51~54]
製造例14で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0213】
[実施例55および56]
製造例15で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0214】
[実施例57]
製造例1で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0215】
[実施例58]
製造例1で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0216】
[実施例59~60]
製造例2で得られた金属酸化物を触媒とし、触媒0.5gに対して海砂4.5gを混合して反応器に充填した。続いて、メタクロレイン、酸素、水蒸気および窒素からなる原料ガスを流通して反応を行った。原料ガスの組成、供給条件、反応温度、および反応結果を表4に示す。
【0217】
【表1】
【0218】
【表2】
【0219】
【表3】
【0220】
【表4】
【0221】
表1~4に示すように、少なくともモリブデンを含む特定の組成比を有する金属酸化物であり、かつ特定の環状構造を含有する金属酸化物を触媒として用いた実施例1~60では、高い収率でメタクリル酸が得られた。またX線回折ピークから、製造例1、2、5、6、8および12~14で得られた金属酸化物が斜方晶、製造例3および7で得られた金属酸化物が三方晶、製造例4および15で得られた金属酸化物がアモルファス構造と特定された。
一方、前記環状構造を含有しない金属酸化物を触媒として用いた比較例1~8では、いずれも実施例と比較してメタクリル酸収率が低いものとなった。
【0222】
製造例2では、結晶の平均長さが7.9μmである乾燥後の固形分について、粉砕処理を行わずに金属酸化物を得た。すなわち、製造例1と比較して簡便な方法で金属酸化物を得ることができ、さらにこのような金属酸化物を触媒として用いた場合は、上述の通りメタクリル酸製造において連続運転時間が向上するという効果が得られると予想できる。このことは、製造例1および製造例2で得られた金属酸化物を触媒として用いて、同様のW/Fおよび原料ガス組成にて反応を行った、実施例1~4、57と、実施例59および60からも推測できる。製造例1で得られた金属酸化物を触媒とした実施例1~4、57から、反応温度が高温になるとメタクリル酸収率が大きく低下し、反応温度が317.0℃である実施例57ではメタクリル酸収率が18.8%まで低下していることが分かる。これに対し、製造例2で得られた金属酸化物を触媒とした実施例59および60からは、反応温度が高温の場合におけるメタクリル酸収率の低下が抑制され、反応温度が318.0℃である実施例59でも、29.8%と高いメタクリル酸収率を維持していることが分かる。よって固形分における結晶平均長さが特定の範囲内である場合、高い反応温度においても特定の環状構造を安定して維持することができ、長期間連続運転する上で有利な触媒を簡便な方法で得られたといえる。
図1
図2
図3