IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-金属造形物の製造方法 図1
  • 特許-金属造形物の製造方法 図2
  • 特許-金属造形物の製造方法 図3
  • 特許-金属造形物の製造方法 図4
  • 特許-金属造形物の製造方法 図5
  • 特許-金属造形物の製造方法 図6
  • 特許-金属造形物の製造方法 図7
  • 特許-金属造形物の製造方法 図8
  • 特許-金属造形物の製造方法 図9
  • 特許-金属造形物の製造方法 図10
  • 特許-金属造形物の製造方法 図11
  • 特許-金属造形物の製造方法 図12
  • 特許-金属造形物の製造方法 図13
  • 特許-金属造形物の製造方法 図14
  • 特許-金属造形物の製造方法 図15
  • 特許-金属造形物の製造方法 図16
  • 特許-金属造形物の製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】金属造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/70 20210101AFI20221206BHJP
   B22F 10/32 20210101ALI20221206BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221206BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221206BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20221206BHJP
【FI】
B22F12/70
B22F10/32
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019150142
(22)【出願日】2019-08-20
(65)【公開番号】P2021031696
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐典
(72)【発明者】
【氏名】野村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】天野 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】赤松 亮
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103462(JP,A)
【文献】特開2017-179576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 12/70
B22F 10/32
B22F 3/105
B22F 3/16
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて金属粉体に熱を供給して金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする金属造形物の製造装置であって、
前記金属層の造形が行われるチャンバーと、
シールドガス供給源から前記チャンバー内にシールドガスを供給する供給ラインと、
前記チャンバー内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を測定する濃度測定器と、
前記チャンバー内のガスの一部を前記チャンバー外に導出し、導出されたガスを前記チャンバー内に導入する循環ラインと、
前記循環ラインによって前記チャンバーから導出されたガスを前記チャンバー内で循環させるための循環装置と、
前記チャンバーから前記チャンバー内のガスを系外に排出する排出ラインと、
を備える、金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法であり、
前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする第2の工程と、を有し、
前記第1の工程で、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値より高いとき、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御を行う、金属造形物の製造方法。
【請求項2】
前記金属造形物の製造装置として、前記循環ラインに設けられ、前記循環ラインを流れるガス中の水分及び酸素を除去する第1の精製器をさらに備える、金属造形物の製造装置を用いる、請求項1に記載の金属造形物の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程で、下記の第1の制御、第2の制御、第3の制御及び第4の制御からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の制御を行う、請求項1又は2に記載の金属造形物の製造方法。
第1の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第2の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第3の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第4の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
【請求項4】
シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて金属粉体に熱を供給して金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする金属造形物の製造装置であって、
前記金属層の造形が行われるチャンバーと、
シールドガス供給源から前記チャンバー内にシールドガスを供給する供給ラインと、
前記チャンバー内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を測定する濃度測定器と、
前記チャンバー内のガスの一部を前記チャンバー外に導出し、導出されたガスを前記チャンバー内に導入する循環ラインと、
前記循環ラインによって前記チャンバーから導出されたガスを前記チャンバー内で循環させるための循環装置と、
前記チャンバーから前記チャンバー内のガスを系外に排出する排出ラインと、
前記循環ラインに設けられ、前記循環ラインを流れるガス中の水分及び酸素を除去する第1の精製器と、
前記第1の精製器の一次側の部分の前記循環ラインと前記第1の精製器の二次側の部分の前記循環ラインとを接続するバイパスラインと、
を備える、金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法であり、
前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする第2の工程と、を有し、
前記第1の工程で、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値より高いとき、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御を行う、金属造形物の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程で、下記の第5の制御、第6の制御、第7の制御及び第8の制御からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の制御を行う、請求項に記載の金属造形物の製造方法。
第5の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記バイパスラインから前記循環ラインへ、シールドガスの一部又は全量を通過させて、前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第6の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインから前記バイパスラインに切り替えて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第7の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第8の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
【請求項6】
シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて金属粉体に熱を供給して金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする金属造形物の製造装置であって、
前記金属層の造形が行われるチャンバーと、
シールドガス供給源から前記チャンバー内にシールドガスを供給する供給ラインと、
前記チャンバー内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を測定する濃度測定器と、
前記チャンバー内のガスの一部を前記チャンバー外に導出し、導出されたガスを前記チャンバー内に導入する循環ラインと、
前記循環ラインによって前記チャンバーから導出されたガスを前記チャンバー内で循環させるための循環装置と、
前記チャンバーから前記チャンバー内のガスを系外に排出する排出ラインと、
前記循環ラインに設けられ、前記循環ラインを流れるガス中の水分及び酸素を除去する第1の精製器と、
前記第1の精製器の一次側の部分の前記循環ラインと前記第1の精製器の二次側の部分の前記循環ラインとを接続するバイパスラインと、
前記チャンバー内の圧力を監視するための圧力計と、
を備える、金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法であり、
前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする第2の工程と、を有し、
前記第2の工程において、下記第1の制御から第8の制御のいずれかがなされている際に、前記圧力計の圧力値が第4の閾値以下になったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスの排出を停止又は抑制し、前記圧力計の圧力値が第5の閾値を超えたとき、下記第1の制御から第8の制御のいずれかがなされる、金属造形物の製造方法。
第1の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第2の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第3の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第4の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第5の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記バイパスラインから前記循環ラインへ、シールドガスの一部又は全量を通過させて、前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第6の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインから前記バイパスラインに切り替えて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第7の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第8の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Additive Manufacturingと称される付加製造技術がある。付加製造技術は、任意の形状の立体構造物を任意の材料で製造できるため、航空機産業及び医療等の先端技術分野で有望な技術として注目されている。
付加製造技術を利用する装置の一例として、金属3Dプリンターが知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1には、積層造形装置が記載されている。特許文献1に記載の積層造形装置は、不活性ガス(シールドガス)で充満される造形室と、材料粉体層の所定箇所にレーザ光を照射して材料粉体を焼結させて焼結体を形成するレーザ光照射部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-074957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の積層造形装置にあっては、造形室内の気密性を保つことが困難であり、造形室内に空気中の水分及び酸素が混入してしまうことがある。加えて、レーザーによって材料粉体を焼結させる際に、材料粉体に付着していた水分が蒸発して水蒸気となり、造形室内で水分濃度が高くなってしまうことがある。
造形室内の水蒸気及び酸素は、材料粉体の酸化の原因であるため、金属造形物の酸素含有量の増加、造形室内におけるスパッタ及びヒュームの発生量の増加を引き起こす。加えて、水蒸気及び酸素の存在下で金属造形物を製造すると、金属造形物の内部の空孔率が上昇することが懸念される。したがって、特許文献1に記載の積層造形装置にあっては、造形物の製造の過程でシールドガス中の水分濃度及び酸素濃度が上昇してしまい、金属造形物の機械的特性が低下するおそれがある。
【0005】
一方、造形室内の水分濃度及び酸素濃度の低減を目的としてシールドガスの流量を多くすることが考えられる。しかし、金属3Dプリンターで使用される希ガス等のシールドガスは、一般に高価であり、シールドガスの使用量が多くなると金属造形物の製造コストが増大する。
加えて、金属造形物の機械的特性の向上には、シールドガス中の酸素濃度が低いことも求められる。
本発明は、シールドガス中の水分濃度及び酸素濃度を低減した状態で金属造形物を製造でき、機械的特性に優れる金属造形物を低コストで製造できる金属造形物の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の構成を備える。
[1] シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて金属粉体に熱を供給して金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする金属造形物の製造装置であって、前記金属層の造形が行われるチャンバーと、前記チャンバー内にシールドガスを供給する供給ラインと、前記チャンバー内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を測定する濃度測定器と、前記チャンバー内のガスの一部を前記チャンバー外に導出し、導出されたガスを前記チャンバー内に導入する循環ラインと、前記循環ラインによって前記チャンバーから導出されたガスを前記チャンバー内で循環させるための循環装置と、前記チャンバーから前記チャンバー内のガスを排出する排出ラインと、を備える、金属造形物の製造装置。
[2] 前記循環ラインに設けられ、前記循環ラインを流れるガス中の水分及び酸素を除去する第1の精製器をさらに備える、[1]の金属造形物の製造装置。
[3] 前記第1の精製器の一次側の部分の前記循環ラインと前記第1の精製器の二次側の部分の前記循環ラインとを接続するバイパスラインをさらに備える、[2]の金属造形物の製造装置。
[4] 前記チャンバー内の圧力を監視するための圧力計をさらに備える、[3]の金属造形物の製造装置。
[5] [1]又は[2]の金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法であり、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程と、前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする第2の工程と、を有し、前記第1の工程で、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値より高いとき、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御を行う、金属造形物の製造方法。
[6] 前記第2の工程で、下記の第1の制御、第2の制御、第3の制御及び第4の制御からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の制御を行う、[5]の金属造形物の製造方法。
第1の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第2の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第3の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第4の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
[7] [3]の金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法であり、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする第2の工程と、を有し、
前記第1の工程で、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値より高いとき、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御を行う、金属造形物の製造方法。
[8] 前記第2の工程で、下記の第5の制御、第6の制御、第7の制御及び第8の制御からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の制御を行う、[7]の金属造形物の製造方法。
第5の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記バイパスラインから前記循環ラインへ、シールドガスの一部又は全量を通過させて、前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第6の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインから前記バイパスラインに切り替えて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第7の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第8の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
[9] [4]の金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法であり、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程と、前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物とする第2の工程と、を有し、前記第2の工程において、下記第1の制御から第8の制御のいずれかがなされている際に、前記圧力計の圧力値が第4の閾値以下になったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスの排出を停止又は抑制し、前記圧力計の圧力値が第5の閾値を超えたとき、下記第1の制御から第8の制御のいずれかがなされる、金属造形物の製造方法。
第1の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第2の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第3の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第4の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第5の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記バイパスラインから前記循環ラインへ、シールドガスの一部又は全量を通過させて、前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第6の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインから前記バイパスラインに切り替えて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第7の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第8の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ライン又は前記バイパスラインを用いる前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属造形物の製造装置によれば、シールドガス中の水分濃度及び酸素濃度を低減した状態で金属造形物を製造でき、機械的特性に優れる金属造形物を低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の形態の金属造形物の製造装置の構成を示す模式図である。
図2】第2の形態の金属造形物の製造装置の構成を示す模式図である。
図3】第3の形態の金属造形物の製造装置の構成を示す模式図である。
図4】第2の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図5】第2の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図6】第2の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図7】第1の形態及び第2の形態で、図4、5及び表1の制御パターンによって金属造形物を造形したときの測定濃度推移とシールドガスの供給有無を模式的に比較した図である。
図8】第1の形態及び第2の形態で、図4~6及び表1の制御パターンによって金属造形物を造形したときの測定濃度推移とシールドガスの供給有無を模式的に比較した図である。
図9】第3の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図10】第3の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図11】第3の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図12】第2の形態及び第3の形態で、図9~12及び表2の制御パターンによって金属造形物を造形したときの測定濃度推移とシールドガスの供給有無を模式的に比較した図である。
図13】第4の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図14】第4の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図15】第4の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図16】第4の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
図17】第4の形態の金属造形物の製造装置で用いられるシールドガスの動作の簡易図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る金属造形物の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0010】
(金属造形物の製造装置)
[第1の形態]
図1は、第1の形態に係る金属造形物の製造装置10Aを示す模式図である。図1に示すように、金属造形物の製造装置10Aは、チャンバー1と金属粉体Mの供給槽2と造形槽3とリコーター4と金属粉体の回収槽5と第1の濃度測定器C1と第2の濃度測定器C2と制御装置8とを備える。加えて、金属造形物の製造装置10Aは、供給ラインL1と循環ラインL2と循環装置Pと排出ラインL4とバルブV1、V4とをさらに備える。
金属造形物の製造装置10Aは、シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて金属粉体Mに熱を供給して金属層を造形し、金属層を積層して金属造形物とする金属造形物の製造装置である。例えば、金属造形物の製造装置10Aは、図示略のレーザー照射部をさらに備えてもよい。レーザー照射部は、例えば、レーザー(エネルギー線)の照射源であるレーザー発振機と光学系とを有する形態でもよい。光学系は、あらかじめ入力されたデータにしたがって金属粉体Mに照射されるレーザーの位置を制御することで、任意の形状の金属層を造形する。
【0011】
金属粉体Mとしては、カーボン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、モリブテン、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム等の各種の金属及びこれらの合金の粉末が例示される。これらの金属及びその合金は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
金属粉体Mが粒子状である場合、金属粉体の金属粒子の粒径は特に限定されないが、例えば10~200μm程度とすることができる。
【0012】
チャンバー1は、金属層の造形が行われる筐体である。チャンバー1では、金属粉体Mへのエネルギー線の照射、エネルギー線の照射による金属層の造形、造形した金属層の積層の各操作が繰り返し行われる。エネルギー線の照射と、金属層の造形と、金属層の積層とがチャンバー1内で繰り返されることで、金属層が順次積層されて金属造形物が製造される。
チャンバー1の上方の側面は、供給ラインL1と接続されている。チャンバー1には供給ラインL1を介して、図示略のシールドガスの供給源からシールドガスが供給される。
シールドガスは、チャンバー1内の金属粉体の周囲に供給される不活性ガスである。シールドガスの具体例としては、水素、ヘリウム、窒素、ネオン、アルゴン、キセノン等が挙げられる。これらのシールドガスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
供給ラインL1は、チャンバー1内にシールドガスを供給するためのラインである。
供給ラインL1には、バルブV1が設けられている。バルブV1は、制御装置8と電気的に接続されている。これにより、バルブV1の開閉は、制御装置8から受信する信号により制御可能となる。バルブV1の開閉の制御により、供給ラインL1によるチャンバー1内へのシールドガスの供給の開始と停止を切り替えることができる。
バルブV1は、バルブの開度を完全に開いた状態と完全に閉じた状態の2段階で調節する形態でも、バルブの開度を連続的又は段階的に調節する形態でもよい。
【0014】
供給ラインL1の材質としては、空気中の水分、酸素ガスが供給ラインL1内に透過しにくいものが好ましい。供給ラインL1の材質としては、例えば、フッ素系チューブが好ましい。供給ラインL1の構造は、単管構造でも多管構造でもよい。
【0015】
第1の濃度測定器C1(濃度測定器)は、チャンバー1内のガス中の水分濃度を測定するための機器である。第1の濃度測定器C1は、チャンバー1内の水分濃度を測定でき、かつ金属造形に関わる構成に影響しない位置、例えばチャンバー1の側面の内壁に設けられている。第1の濃度測定器C1は、気体中の水分濃度を測定できる形態であれば特に限定されない。
第1の濃度測定器C1は、制御装置8と電気的に接続されている。これにより、第1の濃度測定器C1は、チャンバー1内のガス中の水分濃度の測定値を制御装置8に電気的に送信できる。金属造形物の製造装置10Aは、第1の濃度測定器C1と制御装置8とを備えるため、チャンバー1内のガス中の水分濃度を監視できる。
【0016】
第2の濃度測定器C2は、チャンバー1内のガス中の酸素濃度を測定するための機器である。第2の濃度測定器C2は、チャンバー1内の水分濃度を測定でき、かつ金属造形に関わる構成に影響しない位置、例えばチャンバー1内の側面の内壁に設けられている。第2の濃度測定器C2は、気体中の酸素濃度を測定できる形態であれば特に限定されない。
第2の濃度測定器C2は、制御装置8と電気的に接続されている。これにより、第2の濃度測定器C2は、チャンバー1内のガス中の酸素濃度の測定値を制御装置8に電気的に送信できる。金属造形物の製造装置10Aは、第2の濃度測定器C2と制御装置8とを備えるため、チャンバー1内のガス中の酸素濃度を監視できる。
【0017】
循環ラインL2は、チャンバー1内のガスの一部をチャンバー1外に導出し、導出されたガスをチャンバー1内に導入するためのラインである。
循環ラインL2の第1の端部は、チャンバー1の下方の側面に接続され、循環ラインL2の第2の端部は、チャンバー1の上方の側面に接続されている。循環ラインL2の第1の端部では、チャンバー1内のガスの一部がチャンバー1外に導出される。そして、循環ラインL2の第2の端部では、循環ラインL2内のガスがチャンバー1内に導入される。
循環ラインL2には、循環装置Pが設けられ、チャンバー1内のガスの一部をチャンバー1外から導出し、導出されたガスをチャンバー1内に導入することで、図1のチャンバー1内の矢印で示すようなチャンバー1内のガスの循環流を発生させることができる。このように、金属造形物の製造装置10Aは、循環ラインL2によって、チャンバー1内のガスをチャンバー1内で循環させることができる。
循環装置Pとして、チャンバー1内のガスの一部をチャンバー1の下方から導出するための吸引ポンプを設けてもよい。又は、循環装置Pとして、循環ラインL2内のガスをチャンバー1内にチャンバー1の上方から導入するための圧入ポンプを設けてもよい。
循環ラインL2の循環流の循環/停止については循環装置Pの起動/停止で行う他、循環ラインL2にバルブを設け、そのバルブの開閉により行うこともできる。
【0018】
排出ラインL4は、チャンバー1からチャンバー1内のガスを排出するためのラインである。排出ラインL4の端部は、チャンバー1の下方の側面と接続されている。これにより、排出ラインL4はチャンバー1内の下方からチャンバー1内のガスをチャンバー1外に排出できる。
排出ラインL4にはバルブV4が設けられている。バルブV4は、制御装置8と電気的に接続されている。これにより、バルブV4の開閉は、制御装置8から受信する信号により制御可能となる。バルブV4の開閉の制御により、排出ラインL4によるチャンバー1内のガスの排出の開始と停止を切り替えることができる。
バルブV4は、バルブの開度を完全に開いた状態と完全に閉じた状態の2段階で調節する形態でも、バルブの開度を連続的又は段階的に調節する形態でもよい。
【0019】
制御装置8は、図1中の点線で示すように第1の濃度測定器C1、第2の濃度測定器C2、バルブV1及びバルブV4のそれぞれと電気的に接続されている。制御装置8は、第1の濃度測定器C1及び第2の濃度測定器C2の少なくとも一方から送信されるチャンバー1内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が、あらかじめ設定された閾値以下であるか否かを判定する。制御装置8は、チャンバー1内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値の判定結果に基づいて、バルブV1及びバルブV4に信号を送信することで、バルブV1及びバルブV4の開閉を制御する。
一般に吸着性の高い水分は置換されにくいため水分濃度が低減すれば、酸素濃度は当然に許容濃度になっていると仮定すれば、シールドガスの供給や循環を制御する濃度測定器は第1の濃度測定器C1のみでよい。より精密に水分濃度と酸素濃度それぞれに閾値を設けて制御するとすれば、第1の濃度測定器C1での水分濃度の閾値と、第2の濃度測定器C2での酸素濃度の閾値とのそれぞれ論理和を閾値とすればよい。
制御装置8の具体例としては、例えば、コンピューターのCPU(central processing unit)等が挙げられる。
【0020】
供給槽2は、金属粉体Mを貯蔵するとともに、金属粉体Mを造形槽3に供給するための槽である。供給槽2の底面2aは、図1中の上方向に移動可能である。供給槽2の底面2aが上方向に移動することで、金属槽2に貯蔵された金属粉体Mの一部が、基準面Bの高さより高い位置に上昇する。基準面Bより高い場所に位置する金属粉体Mは、リコーター4によって搬送されて、造形槽3に供給される。
【0021】
造形槽3はチャンバー1内に収容されている。造形槽3は、金属粉体Mの焼結による金属層の造形と金属層の積層とを繰り返すための場である。造形槽3の底面3aは、図1中の下方向に移動可能である。造形槽3の底面3aが下方向に移動することで、造形槽3に貯蔵された金属粉体のすべてと造形済みの金属層とが、基準面Bの高さより低い位置に下降する。底面3aの下降によって、基準面Bと造形槽3内の金属粉体及び金属層の上面との間に空間が生じる。リコーター4によって造形槽3に搬送される金属粉体Mは、造形槽3内の金属粉体及び金属層の上面に生じた空間に敷き詰められる。
【0022】
リコーター4は、供給槽2に貯蔵された金属粉体Mを造形槽3に供給するための部品である。リコーター4は、造形槽3の上面に沿って、図1中の水平方向に移動可能である。リコーター4が図1中の左方向に移動することで、基準面Bより高い場所に位置する金属粉体Mが図1中の左方向に搬送され、造形槽3に金属粉体Mが供給される。
リコーター4は、造形槽3に金属粉体Mを供給した後、余剰量の金属粉体Mを回収槽5まで搬送する。その後、リコーター4は、図1中の右方向に移動し、図1に示す位置に戻る。
回収槽5は、リコーター4によって供給槽2から搬送される金属粉体Mのうち、余剰量の金属粉体を貯蔵する。回収槽5に貯蔵される金属粉体Mは、金属造形物の造形に再利用可能である。
【0023】
[第2の形態]
図2は、第2の形態の金属造形物の製造装置10Bの構成を示す模式図である。第2の形態では、第1の形態の循環ラインL2に第1の精製器7が設けられている。第1の精製器7は、循環ラインL2内を流れるガス中の水分及び酸素を除去する。これにより、循環ラインL2は、チャンバー1から導入されたガス中の水分及び酸素を除去できる。
【0024】
[第3の形態]
図3は、第3の形態に係る金属造形物の製造装置10Cの構成を示す模式図である。第3の形態では、第2の形態の循環ラインL2にバルブV2が設けられている。バルブV2は、制御装置8と電気的に接続されている。これにより、バルブV2の開閉は、制御装置8から受信する信号により制御可能となる。循環ラインL2Bには、循環装置Pが設けられ、チャンバー1内のガスの一部をチャンバー1外から導出し、導出されたガスをチャンバー1内に導入することで、図3のチャンバー1内の矢印で示すようなチャンバー1内のガスの循環流を発生させることができる。
循環装置Pとしては、チャンバー1内のガスの一部をチャンバー1の下方から導出するための吸引ポンプを設けてもよい。又は、循環装置Pとして、循環ラインL2又はバイパスラインL3のガスをチャンバー1内にチャンバー1の上方から導入するための圧入ポンプを設けてもよい。
バイパスラインL3には、循環装置Pよりもガス循環能力が小さい補助循環装置P2を設けてもよい。
【0025】
循環ラインL2又はバイパスラインL3の循環流の循環/停止については循環装置Pの起動/停止で行う他、バルブV2又はV3の開閉により行うこともできる。
バルブV2は、バルブの開度を完全に開いた状態と完全に閉じた状態の2段階で調節する形態でも、バルブの開度を連続的又は段階的に調節する形態でもよい。
【0026】
バイパスラインL3は、第1の精製器7の一次側の部分の循環ラインL2と、第1の精製器7の二次側の部分の循環ラインL2とを接続する。具体的には、バイパスラインL3の第1の端部は、バルブV2及び第1の精製器7の一次側の部分の循環ラインL2Aに接続されている。そして、バイパスラインL3の第2の端部は、第1の精製器7の二次側の部分の循環ラインL2Bに接続されている。
【0027】
ここで、「一次側」とは、循環ラインL2の第1の端部側を意味し、循環ラインL2内を流れるガスの向きにおける上流側を意味する。同様に、「二次側」とは、循環ラインL2の第2の端部側を意味し、循環ラインL2内を流れるガスの向きにおける下流側を意味する。
【0028】
バイパスラインL3は、第1の精製器7の一次側の部分の循環ラインL2と、第1の精製器7の二次側の部分の循環ラインL2とを接続することで、チャンバー1内から導出されたガスの一部を、第1の精製器7を経由させずに循環ラインL2Bに導入できる。これにより、バイパスラインL3は、チャンバー1から循環ラインL2Aに導出されたガスを第1の精製器7を経由させずに、図1のチャンバー1内の矢印で示すようなチャンバー1内のガスの循環流を発生させることができる。
【0029】
バイパスラインL3にはバルブV3が設けられている。バルブV3は、制御装置8と電気的に接続されている。これにより、バルブV3の開閉は、制御装置8から受信する信号により制御可能となる。バルブV3の開閉の制御により、バイパスラインL3によるチャンバー1内のガスの循環流の発生の開始と停止を切り替えることができる。
【0030】
バルブV3は、バルブの開度を完全に開いた状態と完全に閉じた状態の2段階で調節する形態でも、バルブの開度を連続的又は段階的に調節する形態でもよい。
【0031】
[第4の形態]
第4の形態に係る金属造形物の製造装置は、上述の金属造形物の製造装置10A、金属造形物の製造装置10B、金属造形物の製造装置10Cが備える各構成に加えて、チャンバー1内の圧力を監視する圧力計をさらに備える。
【0032】
(金属造形物の製造方法)
[金属造形物の製造装置10A又は金属造形物の製造装置10Bを用いる、金属造形物の製造方法]
次に、金属造形物の製造装置10A又は金属造形物の製造装置10Bを用いる、金属造形物の製造方法について説明する。
金属造形物の製造方法は下記の第1の工程と第2の工程とを有する。
第1の工程:前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる。
第2の工程:前記第1の工程の後に、前記チャンバー内の前記金属粉体に熱を供給して前記金属層を造形し、前記金属層を順次積層して金属造形物する。
【0033】
第1の工程では、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値より高いとき、前記排出ラインから前記チャンバー内のガスを排出し、前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記チャンバー内へのシールドガスの供給及び前記チャンバー内のガスの排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御を行う。
【0034】
第2の工程では、下記の第1の制御、第2の制御、第3の制御及び第4の制御からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の制御を行う。
第1の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、前記供給ラインから前記チャンバー内へシールドガスの供給及び排出を停止し、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させる制御。
第2の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第3の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、前記循環ラインを用いて前記チャンバー内のガスを循環させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
第4の制御:前記水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第3の閾値を超えたとき、前記循環ラインの前記チャンバー内のガスの循環を停止させるとともに、前記供給ラインから前記チャンバー内にシールドガスを供給し、前記排出ラインを用いて前記チャンバー内のガスを排出する制御。
【0035】
図4~6は本発明の第2の形態の金属造形物の製造装置10Bで用いられるシールドガスの動作を簡易図で示したものである。ここで、図4~6では循環ラインL2にバルブV2を設け、循環流をバルブの開閉で制御する形態で示している。図4~6において、太線で示すラインは、ガスが流れているラインを示す。
図4は、第1の工程を行っているとき、第2の工程で第2の制御がなされたとき、及び第2の工程で第4の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図5は、第2の工程で第1の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図6は、第2の工程で第3の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図7は本発明の第1の形態及び第2の形態で、図4図5及び表1の制御パターンによって金属造形物を造形したときの測定濃度推移とシールドガスの供給有無を模式的に比較した図である。図7の濃度は水分濃度を対象としている。
表1は、第2の工程における、第1の制御から第4の制御を行う際の、濃度閾値によるバルブの開閉状態を示している。
【0036】
【表1】
【0037】
金属造形物の造形を開始する前に、チャンバー1内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程を行う。チャンバー1へのシールドガスの供給は、バルブV1を開くことにより、供給ラインL1より行われる。供給されるシールドガス中の水分や酸素が高い、すなわち供給ガスの純度が相対的に低い場合には、供給ラインに第2の精製器6を用いて、水分や酸素を除去してもよい。
【0038】
水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内のまだ水分や酸素が多量に含んだシールドガスは、バルブV4を開くことにより、排出ラインL4より排出される。
シールドガスの供給及び排出が継続すると図7の区間001のように水分濃度が低下していく。水分濃度が低下して、第1の閾値まで到達したら、金属造形物の造形する第2の工程へ移行する。
このようにして、水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値より高いとき、排出ラインL4からチャンバー1内のガスを排出し、水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、チャンバー1内へのシールドガスの供給及びチャンバー1内のガスの排出を停止し、循環ラインL2を用いてチャンバー1内のガスを循環させる制御を行う。
【0039】
第2の工程の最初において、水分濃度は充分に低下していることから、シールドガスの供給及び排出を、バルブV1及びバルブV4をそれぞれ閉じることにより停止することもできる。しかしながら、チャンバー1内は外気に対する気密性が必ずしも高くない場合もある。また、金属粉体Mの隙間に留まった残留ガスも徐々に放出される。加えて、金属粉体Mを焼結させるレーザー照射が開始されれば、金属粉体Mに付着していた水分が蒸発して水蒸気となり放出される。
このため、シールドガスの供給及び排出を停止すると、チャンバー1内の水分濃度は徐々に、局所的に上昇する。局所的な変化であるため、濃度計の設置された場所の周辺以外の領域における濃度は不明となり、そのチャンバー1内で製造される金属造形物の機械強度等に与える影響もわからない。さらにチャンバー1内の水分濃度の上昇も抑えられないことから、シールドガスの供給を停止できず、従来装置ではバルブV1及びバルブV4を閉じないで、そのまま供給を続けることとなる。このように従来装置においては、チャンバー1内の水分濃度は充分(濃度計の測定限界以下)に低下し得るものの、その分シールドガスの消費量を抑えることができないという問題があった。
【0040】
このような従来装置に対して、本発明では循環ラインL2を用いて、チャンバー1内のシールドガスを循環する制御(第1の制御)を行う。
第1の制御では、水分濃度が第1の閾値以下になった場合、バルブV1とバルブV4を閉じた上で、循環装置Pを起動するとともにバルブV2を開く制御であり、これによって、チャンバー1内のシールドガスを循環させる。
第1の制御がなされた後、図7の区間002、004、006、008のように水分濃度は徐々に上がっていく。しかしながら、シールドガスの供給を停止しているため、高コストのガス消費量を抑えることができる。
第1の制御がなされた後、チャンバー1内の水分濃度は上昇し、ついには第2の閾値に到達する。第2の閾値に到達すると、それ以上チャンバー1内の水分濃度が上昇しないように、第2の制御を行う。
【0041】
第2の制御は、水分濃度が第2の閾値を超えたら、バルブV2が閉じている上で、バルブV1及びバルブV4を開く制御である。これにより水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内で上昇した水分や酸素を含んだシールドガスを、排出ラインL4より排出する。ここで、第2の制御においては、循環装置Pは停止したほうがよいが、起動にかかる時間を考慮した上で停止/動作継続を選択してもよい。
第2の制御がなされたら、図7の区間003、005、007のように水分濃度は徐々に低下する。循環ラインL2を備える本発明の各形態例に係る装置は、第2の工程において第1の制御と第2の制御をすることで、シールドガスを常に供給する従来法と比べて必要十分な水分濃度を維持しつつ、ガス消費量を抑えることができる。
【0042】
図8は本発明の第1の形態及び第2の形態で、図4~6及び表1の制御パターンによって金属造形物を造形したときの測定濃度推移とシールドガスの供給有無を模式的に比較した図である。なお、図8の濃度は水分濃度を対象としている。
【0043】
金属造形物の造形を開始する前に、チャンバー1内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程を行う。チャンバー1へのシールドガスの供給は、バルブV1を開くことにより、供給ラインL1より行われる。
【0044】
水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内のまだ水分や酸素が多量に含んだシールドガスは、バルブV4を開くことにより、排出ラインL4より排出される。
シールドガスの供給及び排出が継続すると図8の区間1のように水分濃度が低下していく。水分濃度が低下して、第1の閾値まで到達したら、金属造形物の造形する第2の工程へ移行する。
【0045】
第2の工程の最初において、水分濃度は充分に低下していることから、シールドガスの供給及び排出を、バルブV1及びバルブV4をそれぞれ閉じることにより停止させる。
チャンバー1内は外気に対する気密性が必ずしも高くない場合もある。また、金属粉体Mの隙間に留まった残留ガスも徐々に放出される。加えて、金属粉体Mを焼結させるレーザー照射が開始されれば、金属粉体Mに付着していた水分が蒸発して水蒸気となり放出される。
このため、シールドガスの供給及び排出を停止すると、チャンバー1内の水分濃度は徐々に、局所的に上昇する。これを平均化するために、チャンバー1内のシールドガスを循環する制御(第1の制御)を開始する。
【0046】
第1の制御は、水分濃度が第1の閾値以下になったとき、バルブV1とバルブV4を閉じた上で、循環装置Pを起動するとともにバルブV2を開く制御であり、これによって、チャンバー1内のシールドガスを循環させる。
第1の制御がなされた後は図8の区間2のように水分濃度は徐々に上がっていく。しかしながら、シールドガスは停止しているため、高コストのガス消費量を抑えることができる。
さらに第1の形態と、第2の形態を比較すると、循環ラインL2に精製器を有さない第1の形態は、第1の精製器7を持つ第2の形態に比べて水分の上昇が早い。
このように、第1の精製器7を有する第2の形態は、シールドガスを停止させられる時間(区間102)が、第1の形態の時間(区間2)より長く、よりガス消費量を抑えることができる。
第1の制御がなされた後、チャンバー1内の水分濃度は上昇し、ついには第2の閾値に到達する。第2の閾値に到達すると、それ以上チャンバー内の水分濃度が上昇しないように、第3の制御を開始する。
【0047】
第3の制御は、水分濃度が第2の閾値を超えたとき、循環装置Pが動作しバルブV2が開いている上で、バルブV1及びバルブV4を開く制御である。これにより水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内で上昇した水分や酸素を含んだシールドガスを、排出ラインL4より排出する制御である。
第3の制御がなされた後は図8の区間3のように水分濃度は徐々に低下する。この間、シールドガスの供給が行われているため、供給時間が短ければ、よりガス消費量を抑えることができる。
【0048】
第1の形態と、第2の形態を比較すると、循環ラインL2に精製器を有さない第1の形態は、第1の精製器7を持つ第2の形態に比べて水分の低下が遅い。
このように、第1の精製器7を有する第2の形態は、シールドガスを供給する時間(区間103)が、第1の形態の時間(区間3)より短く、よりガス消費量を抑えることができる。
【0049】
第2の工程において、第1の制御と第3の制御がなされれば、シールドガスを常に供給する従来法と比べ、必要十分な水分濃度を維持しつつ、よりガス消費量を抑えることができる。
図8において、第2の工程中継続的に供給(ON)する従来法に比べ、第1の形態で供給(ON)している時間は1/2以下となっている。さらに第2の形態で供給している時間は、第1の形態の1/3以下であり、ガス消費量も同様に削減される。
【0050】
第2の閾値について、第2の工程中、チャンバー1内のシールドガスの水分濃度を100ppm以内に抑えたい場合、第2の閾値を100ppm、さらには安全率を10%とみなして90ppmなどのように設定すればよい。
第1の閾値について、低ければ低いほど、第1の閾値に到達するまでシールドガスを要するため、運用などの実績を考慮して決定すればよい。例えば第2の閾値の半分(50ppm)などが考えられる。
【0051】
第2の工程の造形中になんらかのイレギュラーが発生し、第3の制御がなされた後も水分濃度がどんどん上昇し、ついには第3の閾値を超えた場合は、金属造形を一時停止し、水分濃度を最初の状態へもどす、すなわち第1の工程と同じ動作を行う必要がある。これが第4の制御である。
【0052】
第4の制御は、水分濃度が第3の閾値を超えた場合、バルブV2が閉じている上でバルブV1及びバルブV4を開く制御である。これにより水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内で上昇した水分や酸素を含んだシールドガスを、排出ラインL4より排出する。第4の制御においては、循環装置Pは停止したほうがよりよいが、起動にかかる時間を考慮した上で停止/動作継続を選択してもよい。
第4の制御はイレギュラーな状態を想定しているもので、そのような場合の第3の閾値は、造形中のチャンバー1内のシールドガスの水分濃度を100ppm以内に抑えたい場合、例えば危険率を10%とみなし110ppmに設定できる。
【0053】
図4~6及び表1では、3種の閾値と4種の制御パターンを示しているが、閾値の選択や制御パターンの組み合わせは、より細かく設定できる。例えば閾値を5種にして、制御パターンをそれぞれ実用に合わせて割り振ることは充分に可能である。
ところで、第2の形態は第1の形態において大幅にガス消費量を抑えることができるが、その効果は第1の精製器7によって得られる。すなわち精製器7によって、循環流の不純物が除去されるものであるが、逆に言えば第1の精製器7の消耗が激しく寿命が短い。これに対し、第1の精製器の消耗を押さえつつ、合わせてガス消費量を抑えることができれば、より経済効果の高いものとなる。
【0054】
[金属造形物の製造装置10Cを用いる、金属造形物の製造方法]
次に、金属造形物の製造装置10Cを用いる、金属造形物の製造方法について説明する。図9~11は本発明の第3の形態の金属造形物の製造装置10Cで用いられるシールドガスの制御パターンを簡易図で示したものである。図9~11において、太線で示すラインは、ガスが流れているラインを示す。
図9は、第2の工程で第5の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図10は、第2の工程で第6の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図11は、第1の工程を行っているとき、第2の工程で第7の制御がなされたとき及び第2の工程で第8の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
表2は、第2の工程における、第5から第8の制御を行う際の、濃度閾値によるバルブの開閉状態を示している。
【0055】
【表2】
【0056】
図12は第2の形態及び第3の形態で、図4~6及び図9~11の動作の制御パターンによって金属造形物を造形したときの測定濃度推移とシールドガスの供給有無を模式的に比較した図である。なお、図12中の「濃度」は水分濃度である。
【0057】
金属造形物の造形を開始する前に、チャンバー1内の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を低下させる第1の工程を行う。チャンバー1へのシールドガスの供給は、バルブV1を開くことにより、供給ラインL1より行われる。
【0058】
水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内のまだ水分や酸素が多量に含んだシールドガスは、バルブV4を開くことにより、排出ラインL4より排出される。
シールドガスの供給及び排出が継続すると図12の区間201のように水分濃度が低下していく。水分濃度が低下して、第1の閾値まで到達したら、金属造形物の造形する第2の工程へ移行する。
【0059】
第2の工程の最初において、水分濃度は充分に低下していることから、シールドガスの供給及び排出を、バルブV1及びバルブV4をそれぞれ閉じることにより停止させる。
チャンバー1内は外気に対する気密性が必ずしも高くない場合もある。また、金属粉体の隙間に留まった残留ガスも徐々に放出される。加えて、金属粉体Mを焼結させるレーザー照射が開始されれば、金属粉体Mに付着していた水分が蒸発して水蒸気となり放出される。
このため、シールドガスの供給及び排出を停止すると、チャンバー内の水分濃度は徐々に、局所的に上昇する。これを平均化するために、チャンバー1内のシールドガスを循環する制御(第5の制御)を開始する。
【0060】
第5の制御は、水分濃度が第1の閾値以下になった場合、バルブV1とバルブV4を閉じた上で、循環装置Pを起動するとともにバルブV2を開き、バルブV3を閉じる制御であり、これによって、チャンバー1内のシールドガスを循環させる。このとき、第1の精製器7の消耗を抑えるために、バルブV3を開放し、循環ラインL2およびバイパスラインL3の両方の経路にガスを分岐して循環させてもよい。このとき循環ラインL2に補助循環装置ポンプP2を用いてもよい。このように、第5の制御は、水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第1の閾値以下となったとき、供給ラインL1からチャンバー1内へのシールドガスの供給及びチャンバー1内のガスの排出を停止し、バイパスラインL3から循環ラインL2へ、シールドガスの一部又は全量を通過させて、チャンバー1内のガスを循環させる。第5の制御は、チャンバー1内のガスの排出を停止し、循環ラインL2のみを用いて、又はバイパスラインL3と循環ラインL2の両方を用いて、チャンバー1内のガスを循環させる制御であるとも言える。
第5の制御がなされた後は図12の区間202、204、206のように水分濃度は徐々に上がっていく。しかしながら、シールドガスは停止しているため、高コストのガス消費量を抑えることができる。
【0061】
第5の制御がなされた後、チャンバー1内の水分濃度は上昇し、ついには第2の閾値に到達する。第2の閾値に到達すると、それ以上チャンバー内の水分濃度が上昇しないように、第6の制御を開始する。
第6の制御は、水分濃度が第2の閾値を超えたら、循環装置Pが動作しバルブV2を閉じてV3を開き、循環ラインL2をバイパスラインL3に切り替えるとともに、バルブV1及びバルブV4を開く制御である。これにより水分濃度及び酸素濃度が充分低いシールドガスがチャンバー1に供給されるとともに、チャンバー1内で上昇した水分や酸素を含んだシールドガスを、排出ラインL4より排出する制御である。
第6の制御がなされた後は図12の区間203、205のように水分濃度は徐々に低下する。
【0062】
第3の形態と、第2の形態を比較すると、区間202後、バイパスラインL3に切り替えた第3の形態の区間203は、第1の精製器7で循環させる第2の形態の区間103に比べて水分の低下が遅い。
その分、第3の形態は第1の精製器7の劣化を防ぐことができるため、第1の精製器7を延命できる。
図12において、第2の形態の区間103の水分量を第1の精製器7に通過させないため、その分の劣化を防ぐことが可能である。
第1の精製器7とガス消費量との経済効果はケースバイケースとなるため、実施に際してどちらが有効か比較して、実施の形態を選択するとよい。
第3の形態においても、第2の制御と同様に、第2工程で水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方の測定値が第2の閾値を超えたとき、循環ラインおよびバイパスラインともにガスの循環を停止させ、供給ラインからチャンバー内にシールドガスを供給し、排出ラインからチャンバー内のガスを排出する制御(第7の制御)が、第2の制御と同様の効果をもって実施できる。
さらには、第4の制御と同様に、第2の工程の造形中になんらかのイレギュラーが発生し、第6の制御でも水分濃度がどんどん上昇し、ついには第3の閾値を超えた場合は、金属造形を一時停止し、水分濃度を最初の状態へもどす、すなわち第1の工程と同じ制御を行う必要がある第8の制御も実施可能である。
【0063】
[第4の形態に係る金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法]
次に、第4の形態に係る金属造形物の製造装置を用いる、金属造形物の製造方法について説明する。
図13~17は本発明の第4の形態の金属造形物の製造装置10Dで用いられるシールドガスの動作を簡易図で示したものである。図13~17において、太線で示すラインは、ガスが流れているラインを示す。
第4の形態は、金属造形物の製造装置10A、金属造形物の製造装置10B、金属造形物の製造装置10Cのチャンバー1内の圧力を監視する圧力計pをチャンバー1に設けた場合である。
これは、金属造形物を造形する条件として、造形雰囲気の圧力条件の変化によって、造形物の機械的強度が変化する場合に用いると有効な形態である。
【0064】
図13は、第2の工程で第9の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図14は、第2の工程で第10の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図15は、第2の工程で第11の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図16は、第2の工程で第12の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
図17は、第2の工程で第13の制御がなされたときの金属造形物の製造装置の簡易図である。
表3は、第2の工程における、第9から第13の制御を行う際の、圧力閾値によるバルブの開閉状態を示している。
【0065】
【表3】
【0066】
図4から図6及び図9から図11の動作中に、造形雰囲気の圧力が低下する、すなわち圧力計pの測定値が第4の閾値以下となったとき、バルブV1を開いて、シールドガスを供給し、さらにバルブV4を停止又は、開度を狭くする調整を行って、チャンバー1内の圧力を上昇させる。その後、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたとき、通常の図4から図6及び図9から図11の動作に戻す。
これにより、造形中のチャンバー1内の圧力状態を一定に保つことができ、圧力変動による影響を少なくすることができる。
例えば、第9の制御としては、図4の動作中に圧力計pの圧力値が第4の閾値以下となったとき、図13の動作に移行する。その後、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたら、図4の動作に戻す。
例えば、第10の制御としては、図5又は図6の動作中に圧力計pの圧力値が第4の閾値以下となったとき、図14の動作に移行する。その後、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたら、図5、もしくは図6の動作に戻す。
例えば、第11の制御としては、図9の動作中に圧力計pの圧力値が第4の閾値以下となったとき、図15の動作に移行する。その後、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたら、図9の動作に戻す。
例えば、第12の制御としては、図10の動作中に圧力計pの圧力値が第4の閾値以下となったとき、図16の動作に移行する。その後、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたら、図10の動作に戻す。
例えば、第13の制御としては、図11の動作中に圧力計pの圧力値が第4の閾値以下となったとき、図17の動作に移行する。その後、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたら、図11の動作に戻す。
なお、圧力計pの圧力値が第5の閾値を超えたら、制御前の動作に戻らなくとも、その時点の水分濃度を参照して、適宜に動作を選択することもできる。
特に、チャンバー1内の圧力が低下すると、チャンバー1内に外気が侵入しやすくなるため、水分濃度や酸素濃度も上昇しやすくなる。よって、一定の圧力で制御することも課題解決に効果を奏する。
【0067】
チャンバー1内のゲージ圧力は、0.05~0.30MPaが好ましく、0.10~0.25MPaがより好ましく、0.10~0.20MPaがさらに好ましい。ゲージ圧力が前記下限値以上であると、経路内が陽圧となり外部からの不純部混入が低減される傾向がある。ゲージ圧力が前記上限値以下であると、シールドガスの使用量が低減され、金属造形物の製造コストがさらに低下する。
【0068】
(作用効果)
以上説明した本実施形態に係る金属造形物の製造装置は、チャンバー内のガスを循環させるための循環ラインを備える。そのため、チャンバー内に新たに導入するシールドガスを低減できる。
さらに、本実施形態に係る金属造形物の製造装置は、チャンバー内のガスを循環させるための循環ラインに第1の精製器を備える。そのため、金属造形物の製造の過程でエネルギー線によって金属粉体を焼結させる際に、金属粉体に付着していた水分に起因して水蒸気、酸素ガスがチャンバー内で発生したとしても、循環ラインに設けられた第1の精製器によって酸素ガス及び水分を除去できる。よって、金属造形物の製造中においても、チャンバー内の水分濃度及び酸素濃度を充分に低減した状態を維持でき、金属造形物の機械的特性がよくなる。
また、第1の精製器を備えている循環ラインには、バイパスラインも設けられ、それらを切り替えることにより、第1の精製器の寿命を延ばすことができる。
さらに、本実施形態に係る金属造形物の製造装置は、チャンバー内のガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を測定する濃度測定器と、チャンバー内にシールドガスを供給する供給ラインと、チャンバー内のガスを排出する排出ラインとを備える。そのため、チャンバー内のガスの水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方が高くなったとき、供給ラインからチャンバー内にシールドガスを供給するとともに、排出ラインからチャンバー内のガスの一部を排出する制御を行うことができる。よって、チャンバー内のガスの水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方が高い状態で金属造形物が製造されることを防止でき、水分に起因する金属造形物の機械的特性の低下を確実に防止できる。
さらに、チャンバー内の圧力を監視し、シールドガスの供給/排出以外によりある一定の範囲の圧力に維持できる。これにより、過度なガス供給を抑制しつつ、外気からの水分及び酸素の浸入を防止することができる。
このように本実施形態の金属造形物の製造装置によれば、シールドガス中の水分濃度及び酸素濃度の少なくとも一方を必要十分に低減した状態で金属造形物を製造でき、シールドガスの供給量を抑えることで機械的特性に優れる金属造形物を低コストで製造できる。
【0069】
例えば、従来の金属造形物の製造装置においては、チャンバー内のガス中の水分濃度、酸素濃度を必要十分に抑えるためには、相当量のガス量を必要とするため、ガス量を抑えると1500~3000ppm程度の状態で金属造形物が製造されていた。これに対して、本実施形態の金属造形物の製造装置によれば、チャンバー内のガス中の水分濃度及び酸素濃度をともに100ppm以下に低下させた状態にしても適度なガス量で金属造形物を製造できる。したがって、金属造形物の製造装置によれば、従来の製造装置と比較して、機械的特性に優れる金属造形物を製造できる。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が加えられてよい。
【0071】
例えば、以上説明した本実施形態では、金属造形物の製造装置は、ベースプレートの上側に敷き詰められている金属粉体にレーザーを照射する形態である。しかし、他の実施形態では、金属造形物の製造装置は、レーザーの照射位置に金蔵粉体を吹き付けながら供給する形態でもよい。
【0072】
例えば、以上説明した本実施形態では、排出ラインL4の端部が、チャンバー1の下方の側面と接続されている形態である。しかし、他の実施形態では、排出ラインL4の端部が第1の精製器7の一次側の部分の循環ラインL2Aに接続されている形態でもよい。すなわち、他の実施形態においては、排出ラインL4が第1の精製器7の一次側の部分の循環ラインL2Aから分岐している形態でもよい。
【0073】
他にも、本実施形態の金属造形物の製造方法では、金属粉体の種類に合わせて、シールドガスの組成を選択してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…チャンバー、2…供給槽、3…造形槽、4…リコーター、5…回収槽、6…第2の精製器、7…第1の精製器、8…制御装置、B…基準面、C1…第1の濃度測定器(濃度測定器)、C2…第2の濃度測定器、L1…供給ライン、L2…循環ライン、L3…バイパスライン、L4…排出ライン、V1~V4…バルブ、P…循環装置、p・・・圧力計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17