(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】真空処理装置のクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20221206BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C23C16/44 J
H01L21/302 101H
H01L21/302 103
H01L21/302 101B
(21)【出願番号】P 2021197113
(22)【出願日】2021-12-03
【審査請求日】2021-12-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】田中 美和
(72)【発明者】
【氏名】篠田 正明
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-151356(JP,A)
【文献】特開2003-303777(JP,A)
【文献】特開2002-057149(JP,A)
【文献】特開平11-074258(JP,A)
【文献】特開2014-049684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/44
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内の部分に付着した付着物に応じて選択されるクリーニングガスを真空雰囲気の真空チャンバ内に一定の流量で連続して導入し、クリーニングガスを励起してプラズマを発生させ、プラズマ中のイオン、ラジカルを付着物と反応させて反応生成ガスとし、この反応生成ガスを真空ポンプによって一定の排気速度で連続して真空排気する間に、クリーニングの終点を検知する工程を含む真空処理装置のクリーニング方法において、
プラズマ中のイオン、ラジカルと付着物との反応に伴って変化する真空チャンバ内の状態量を測定し、
前記状態量を真空チャンバに設けたピラニ真空計の圧力指示値として単位時間当たりに測定される状態量を第1標本としてこの第1標本から回帰直線を夫々求め、順次求められる回帰直線の傾きを第2標本とし、この第2標本における各傾きが予め設定される終点検知条件を満たすと、クリーニング終点として判定し、
前記終点検知条件に、クリーニングの終点に向う傾向を示す傾き条件と、傾き条件を所定回数だけ検知したらクリーニングの終点と判定できる回数条件と、クリーニングの終点を判定するまでの状態量の変動幅を含むことを特徴とする真空処理装置のクリーニング方法。
【請求項2】
前記状態量として、真空チャンバに取り付けた真空計で測定される圧力を用いることを特徴とする請求項1記載の真空処理装置のクリーニング方法。
【請求項3】
前記終点検知条件の前記回数条件を任意に設定変更可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空処理装置のクリーニング方法。
【請求項4】
前記終点検知条件に、前記クリーニングの終点を判定した時点からの追加時間を含み、追加時間に達した時点をもってクリーニングの終点として検知し、追加時間を任意に設定変更可能としたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の真空処理装置のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置のクリーニング方法に関し、より詳しくは、クリーニング時間の過不足なくクリーニングの終点を検知できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、熱CVD装置、プラズマCVD装置、エッチング装置やアッシング装置といった真空処理装置では、真空チャンバ内にて被処理物に対する真空処理(特に、プラズマを利用する成膜処理、エッチング処理等)を繰り返すと、反応生成物や副反応物(以下、「付着物」という)が、被処理物以外の防着板、ステージやシャワープレートといった真空チャンバ内にある部品表面を含む真空チャンバ内の部分にも付着、堆積していく。このような付着物は、例えば、パーティクルの発生源となって良好な真空処理を阻害する虞があることから、通常は、真空雰囲気中で付着物を除去するクリーニングが実施される。クリーニング方法としては、真空雰囲気の真空チャンバ内に、付着物に応じて選択されるクリーニングガスを導入すると共にクリーニングガスを励起してプラズマを発生させる。そして、プラズマ中のイオンやラジカルを付着物と反応させて反応生成ガスとし、真空ポンプを通じて真空排気することで、真空チャンバ内から除去することが一般的である。
【0003】
ここで、上記クリーニングは、真空処理(生産)を一旦止めて、真空チャンバ内の最適な処理環境を復元させる目的で周期的に実施されるものであるので、生産性に大きな影響を及ぼす。仮に、クリーニング時間が必要以上に短いと、真空チャンバ内の処理環境が復元する程、付着物が除去されず、その後の良好な真空処理が阻害されることがある。一方、クリーニング時間が必要以上に長くなると、生産効率を悪化させるだけでなく、クリーニング時に使用するガス種によっては、真空チャンバ内にある部品の腐食を進行させてしまい、早期劣化をもたらすことがある。このため、クリーニング時間の過不足なくクリーニングの終点を検知することが望まれる。
【0004】
従来、クリーニングの終点を検知する方法は、例えば特許文献1で知られている。このものでは、クリーニングガス種に関係なく感度変化がない第1の真空計と、ガス種に応じて感度が変化する第2の真空計(ピラニ真空計)とを真空チャンバに取り付け、第1の真空計の測定値が一定となる状態で第2の真空計によってクリーニングに伴う処理室内のガス組成の変化を検出し、この検出したガス組成の変化を基にクリーニングの終点を検知している。具体的には、過去のクリーニング時における実績データや、予め実験的に求めた第2の真空計の指示値の変化データを基にクリーニング終点の目安となる指標、即ち、絶対値を定め、この絶対値と各真空計で測定している実測値とを基にクリーニングの終点を検知する。
【0005】
上記終点検知方法では、例えば、真空処理装置の使用を開始した当初の期間においては、クリーニング時間の不足なくその終点を検知しようとすると、クリーニングの摂動量を十分に加味した時点を終点として検知せざるを得ないという問題がある。これは、例えば、新規な真空チャンバ内にて十分な回数で真空処理がなされておらず、真空チャンバ内で除去しようとする反応生成物とクリーニング時間との関連性、即ち、クリーニング終点の目安となる絶対値と実測値との関連性が必ずしも一致しないことに起因する。また、真空処理装置の使用者が、ガス種を変更するなど、当初に想定したクリーニング以外の方法で(即ち、クリーニング条件をかえて)クリーニングを実施する場合には、クリーニング終点の絶対値も変わることで、上記従来例のものではもはや対応できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、クリーニング終点の目安となる絶対値を定めずに、クリーニング時間の過不足なくクリーニングの終点を検知できるようにした真空処理装置のクリーニング方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、真空チャンバ内の部分に付着した付着物に応じて選択されるクリーニングガスを真空雰囲気の真空チャンバ内に一定の流量で連続して導入し、クリーニングガスを励起してプラズマを発生させ、プラズマ中のイオン、ラジカルを付着物と反応させて反応生成ガスとし、この反応生成ガスを真空ポンプによって一定の排気速度で連続して真空排気する間に、クリーニングの終点を検知する工程を含む真空処理装置のクリーニング方法において、プラズマ中のイオン、ラジカルと付着物との反応に伴って変化する真空チャンバ内の状態量を測定し、前記状態量を真空チャンバに設けたピラニ真空計の圧力指示値として単位時間当たりに測定される状態量を第1標本としてこの第1標本から回帰直線を夫々求め、順次求められる回帰直線の傾きを第2標本とし、この第2標本における各傾きが予め設定される終点検知条件を満たすと、クリーニング終点として判定し、前記終点検知条件に、クリーニングの終点に向う傾向を示す傾き条件と、傾き条件を所定回数だけ検知したらクリーニングの終点と判定できる回数条件と、クリーニングの終点を判定するまでの状態量の変動幅を含むことを特徴とする。
【0009】
以上によれば、真空ポンプの排気速度を一定に保持した状態でクリーニングガスを所定流量で導入して真空チャンバのクリーニングを開始する。その当初は、例えば、真空計の圧力指示値は略一定であり、その後、反応生成ガスの真空排気が進むにつれて圧力指示値が連続して降下していく。そして、反応生成ガスが概ね排気されると、やがてクリーニングの開始時より低い所定圧力で略一定となる。このとき、上記従来例のようにクリーニングの終点の検知に絶対値を用いるのではなく、回帰直線の傾き、即ち、状態量の変化の傾向からクリーニングの終点を判定する構成を採用したため、クリーニングしようとする真空チャンバ内の使用状況(使用開始からの期間など)やクリーニング条件に関係なく、クリーニング時間の過不足なくクリーニングの終点を検知することができる。また、状態量として真空計で測定した圧力を用いれば、真空処理装置に本来的に設置される機器を利用してクリーニングの終点を検知できるため、低コスト化が図れる等の利点がある。
【0010】
また、本発明においては、前記終点検知条件に、クリーニングの終点に向う傾向を示す傾き条件と、傾き条件を所定回数だけ検知したらクリーニングの終点と判定できる回数条件とを含み、少なくとも回数条件を任意に設定変更可能とした構成や、前記終点検知条件に、前記クリーニングの終点を判定した時点からの追加時間を含み、追加時間に達した時点をもってクリーニングの終点として検知し、追加時間を任意に設定変更可能とした構成を採用してもよい。これによれば、クリーニングを実施しようとする真空処理装置の使用者が、例えば、真空処理装置の使用状況やクリーニング条件などに応じて、クリーニングの摂動量を加味してクリーニング終点を検知する条件を最適化でき、有利である。
【0011】
ところで、真空処理装置が例えばプラズマCVD装置であるとき、真空処理装置の真空チャンバの付着物がポーラスになっている場合がある。このような場合、真空チャンバのクリーニング時、単位時間当たりのガス放出量が一時的に停滞するなどの事象が発生して終点検知条件を満たしてしまう虞がある。そこで、本発明においては、前記終点検知条件に、クリーニング終点を判定するまでの状態量の変動幅を含む構成を採用すれば、付着物の種類に依存せずに、クリーニングの終点を確実に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のクリーニング方法を実施することができるプラズマCVD装置の模式断面図。
【
図3】クリーニングの実施状況を示す一例のディスプレイの表示画面。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、真空処理装置をプラズマCVD装置、状態量を真空計(ピラニ真空計)で測定した圧力(Pa)とし、プラズマCVD装置の真空チャンバ内をクリーニングする場合を例に本発明のクリーニング方法の実施形態を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、プラズマCVD装置の設置姿勢で示す
図1を基準とする。
【0014】
図1を参照して、Pcは、本発明を適用してクリーニングが実施されるプラズマCVD装置であり、真空ポンプPuが接続される真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1にはその内部を真空ポンプPuにより一定の排気速度で真空排気したときの圧力を測定するピラニ真空計、隔膜真空計や電離真空計といった真空計Vgが取り付けられている。真空チャンバ1の上壁部にはまた、円板状の輪郭を持つカソード電極2が設けられ、高周波電源Psから所定の高周波電力が投入される。カソード電極2の外周縁部に、真空チャンバ1内に向けて突出する環状の起立壁部21が設けられ、起立壁部21の下端には、上下方向に貫通する多数の透孔31が形成されたシャワープレート3が取り付けられている。
【0015】
カソード電極2には、第1ガス管4が接続され、これに介設されるマスフローコントローラ41を介して流量制御された成膜ガスをカソード電極2とシャワープレート3とで区画される拡散空間32に導入することができる。真空チャンバ1内には、カソード電極2に対峙させて成膜対象物としての基板Swを保持するステージ5が配置され、ステージ5がアース接地されて、成膜時にはアノード電極として機能する。なお、プラズマCVD装置Pcとしては公知のものが用いられるため、その成膜方法を含め、これ以上の説明は省略する。そして、真空チャンバ1内にて基板Swに対するプラズマCVD法による成膜処理を繰り返すと、反応生成物や副反応物といった付着物(図示せず)が、例えば、基板Sw以外の防着板(図示せず)、シャワープレート3やステージ5といった真空チャンバ1内にある部品表面やその内壁面に付着、堆積することになる。このため、真空チャンバ1内の最適な処理環境を復元させる目的で周期的にクリーニングが実施される。
【0016】
真空チャンバ1の側壁には、クリーニングガスを導入する第2ガス管6が接続されている。第2ガス管6には、その下流側から開閉弁61と、マイクロ波発生装置7と、マイクロ波発生装置7に供給するクリーニングガスを流量制御するマスフローコントローラ62が介設され、マイクロ波発生装置7によりクリーニングガスを励起してプラズマを発生させ、プラズマ中のイオン、ラジカルが真空チャンバ1内に導入される。クリーニングガスとしては、成膜ガスに応じて適宜選択され、例えば、成膜ガスとしてSiH4ガスを分解反応させて基板Sw表面にSi膜を成膜するような場合には、例えば、NF3ガスなどのハロゲンガス含有ガス(ハロゲンガスを含む)が利用される。この場合、所定流量比でアルゴンガスや窒素ガス等を含むようにしてもよい。これにより、主としてフッ素ラジカルが真空チャンバ1内のシャワープレート3表面などの付着物と反応して、Siの付着物がエッチングされ、反応生成ガスとしてSiF4ガスが生成される。そして、SiF4ガスが反応に利用されないクリーニングガスと共に真空ポンプPuへと真空排気され、クリーニングが終了する。本実施形態では、クリーニング中における圧力指示値の変化の傾向からクリーニングの終点が検知される。
【0017】
プラズマCVD装置Pcは、マイクロコンピュータやメモリなどを有して、真空計Vg、真空ポンプPu、高周波電源Ps、マスフローコントローラ41といったプラズマCVD法による成膜に必要な部品と、真空計Vg、真空ポンプPu、マイクロ波発生装置7、開閉弁61や、マスフローコントローラ62といった真空チャンバ1内のクリーニングに必要な部品とを統括制御する制御ユニットCuを備える。制御ユニットCuには、キーボードなどの入力手段Kbとディスプレイなどの表示手段Dsが接続されている。ここで、
図2に示すように、真空ポンプPuの排気速度とクリーニングガスの導入流量とを一定にした状態で真空チャンバ1内のクリーニングを開始すると、その当初は、真空計Vgの圧力指示値は略一定であり、その後に、反応生成ガスの真空排気が進むにつれて圧力指示値が連続して降下していく。そして、反応生成ガスが概ね排気されると、やがてクリーニングを開始時より低い所定圧力で略一定となる(回帰直線の傾きが略ゼロ(略水平)となる)。
【0018】
本実施形態では、単位時間当たりに測定される状態量としての真空計Vgの圧力指示値を第1標本としてこの第1標本から回帰直線Rlを演算処理により夫々求める。順次求められる回帰直線Rlの傾きaを第2標本とし、この第2標本における各傾きaが終点検知条件を満たすか否か、具体的には、演算処理により求められる評価記録回数、クリーニングの終点に向う傾向を示す傾き条件としての圧力下降傾向判定回数及び、傾き条件を所定回数達成したかの終点傾向判定回数を演算処理により求め、クリーニング終点として判定することとした(クリーニングの終点検知工程)。例えば、単位時間(例えば、10秒)当たりの測定時刻Xの平均値(Xa)と圧力指示値Yの平均値(Ya)とを求め、これから測定時刻の平均値Xaの分散値と、圧力指示値及び測定時刻の各平均値の共分散値とを求めて、測定区間における回帰直線の傾きa及び切片bを算出する。なお、分散値、共分散値や回帰直線の傾きa及び切片bの制御ユニットでの演算処理としては公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。そして、第2標本における各傾きaが終点検知条件回数を満たすと、クリーニング終点として判定され、クリーニングが終了する。この場合、クリーニングの摂動量を加味してクリーニングの終点を検知する条件を最適化できるように、上記によりクリーニングの終点を判定した後に追加する追加加時間や、クリーニング終点を判定するまでの圧力の変動幅(圧力差圧閾値)をパラメータとして適宜設定できることが好ましい。
【0019】
図3を参照して、クリーニング中、表示手段Dsには、制御ユニットCuとの通信により、例えば、真空計Vg(本実施形態では、ピラニ真空計)の圧力指示値の変化をグラフで示す第1画面8aと、クリーニング中に測定された値を示す第2画面8bと、演算処理値の結果を表示する第3画面8cと、パラメータを任意に設定変更するための第4画面8d、及び、制御ユニットCuに対してクリーニングの開始を指示できる開始ボタン8eが同一画面上に表示できるようにしている。第2画面8bに表示されるものとしては、クリーニング開始からの経過時間(sec)、マイクロ波発生装置7での投入電力(W)、マスフローコントローラ62での制御流量(sccm)、圧力指示値(Pa)が挙げられる。また、第3画面8cに表示されるものとしては、1)回帰直線Rlの傾きaと、2)圧力下降傾向判定回数(カウント数)、終点傾向判定回数(カウント数)、圧力の変動幅(圧力差圧閾値)や追加時間といったものが挙げられる。第4画面8dに表示されるものとしては、第3画面8cにおける上記2)に関する値であり、入力手段Kbを介して第3画面8cのパラメータを任意に設定、変更できるようにしている。本実施形態では、制御ユニットCuと、真空チャンバ1に取り付けられる真空計Vgといった真空チャンバ1内でのクリーニング時に変化する真空チャンバ1内の状態量を測定する測定器と、制御ユニットCuとインタフェースを介して接続される表示手段Dsや入力手段Kbといった機器が真空チャンバ内1をクリーニングするためのクリーニングシステムを構成する。以下に、
図4を参照して、クリーニングの終点検知の制御フローの一例をより具体的に説明する。
【0020】
クリーニング開始が指示されると、マイクロ波発生装置7が稼働され、マイクロ波発生装置7にマスフローコントローラ62によりクリーニングガスが所定流量で供給される。そして、開閉弁61が開弁され、真空チャンバ1内にプラズマで励起されたクリーニングガス(イオン、ラジカル)が導入されると共にクリーニングの終点検知フローが開始される。そして、マイクロ波発生装置7及びマスフローコントローラ62が正常に稼働していることを確認した後、STEP1に進んで、(ピラニ)真空計Vgにより真空チャンバ1内の圧力が測定される。
図4中、PiGcurは測定時における真空計Vgの圧力指示値、y[ii]は圧力指示値の配列(傾向)、TIMEcurは記録時間、x[ii]は記録時間の配列(傾向)、iiは記録回数である。次に、STEP2に進んで、評価記録数判定として記録回数iiと評価記録数SETsmpとが比較され、記録回数iiが評価記録数SETsmpより多い場合、STEP3に進んで、直近評価記録回数の平均値算出として、直近評価記録回数の圧力指示値y[ii]の平均値Yaveと、記録時間x[ii]の平均値Xaveが夫々算出される。Syは、直近評価記録回数の圧力指示値y[ii]の総和、Sxは、直近評価記録回数の記録時間x[ii]の総和である。そして、STEP4に進んで、直近評価記録回数の記録時間x[ii]の分散値XX[ii]と、直近評価記録回数の記録時間x[ii]と圧力指示値y[ii]との共分散値XY[ii]とが算出される。分散値XX[ii]及び共分散値XY[ii]が算出されると、STEP5に進んで、直近評価記録回数での回帰直線が算出され、この回帰直線と記録時間x[ii]とから回帰直線上における最新の圧力指示値cが特定される。aは回帰直線の傾き、bは回帰直線の切片である。
【0021】
次に、STEP6に進んで、圧力指示値の最大値判定として、最新の圧力指示値cと、評価開始以降の回帰直線上における圧力指示値の最大値Ymaxとが比較され、最新の圧力指示値cが最大値Ymaxと同等より大きい場合、STEP7に進んで、この圧力指示値cを最大値Ymaxとして更新し、STEP1に戻る。他方、最新の圧力指示値cが最大値Ymaxと同等以下の場合、STEP8に進んで、圧力上昇傾向判定として、回帰直線の傾きaと圧力上昇傾向判定評価値Rupとが比較され、傾きaが圧力上昇傾向判定評価値Rupより大きい場合、STEP9に進んで、圧力下降傾向カウンタCNTdownを初期化(=0)して、STEP1に戻る。他方、傾きaが圧力上昇傾向判定評価値Rupと同等以下の場合、STEP10に進んで、圧力下降傾向カウンタCNTdownが1だけ加算される。
【0022】
次に、STEP11に進んで、圧力下降傾向カウンタ到達判定として、圧力下降傾向カウンタCNTdownと圧力下降傾向判定回数SETdownとが比較され、圧力下降傾向カウンタCNTdownが圧力下降傾向判定回数SETdownより少ない場合、STEP1に戻る。他方、圧力下降傾向カウンタCNTdownが圧力下降傾向判定回数SETdownと同等以上の場合、STEP12に進んで、圧力下降傾向判定として、傾きaと圧力終点傾向判定評価値Rendとが比較され、傾きaが圧力終点傾向判定評価値Rendより大きい場合には、STEP13に進んで、判定カウンタ(圧力下降傾向カウンタCNTdown及び圧力終点傾向カウンタCNTend)を初期化(=0)してSTEP1に戻る。
【0023】
傾きaが圧力終点傾向判定評価値Rendより小さい場合には、STEP14に進んで、圧力差圧閾値判定として、最大値Ymaxと圧力指示値cとの差Ymax-cと、圧力差圧閾値SETdifとが比較され、差Ymax-cが圧力差圧閾値SETdifより小さい場合、STEP1に戻る。他方、差Ymax-cが圧力差圧閾値SETdifより大きい場合、STEP15に進んで、クリーニング終点傾向判定として、傾きaと圧力終点傾向判定評価値Rendとが比較され、傾きaが圧力終点傾向判定評価値Rendより大きい場合、STEP16に進んで、終点傾向カウンタCNTend)を初期化(=0)し、STEP1に戻る。他方、傾きaが圧力終点傾向判定評価値Rendより小さい場合、STEP17に進んで、圧力終点傾向カウンタCNTendが1だけ加算される。最後に、STEP18に進んで、圧力終点傾向カウンタCNTendと圧力終点傾向判定回数SETendが比較され、圧力終点傾向カウンタCNTendが圧力終点傾向判定回数SETend以上になると、クリーニングの終点であると判定し、制御フローを終了する。他方、圧力終点傾向カウンタCNTendが圧力終点傾向判定回数SETendより少ない場合には、STEP1に戻る。
【0024】
以上の実施形態によれば、上記従来例のようにクリーニングの終点の検知に絶対値を用いるのではなく、回帰直線Rlの傾きa、即ち、圧力の変化の傾向からクリーニングの終点を判定する構成を採用したため、クリーニングしようとする真空チャンバ1内の使用状況(使用開始からの期間など)やクリーニング条件に関係なく、クリーニング時間の過不足なくクリーニングの終点を検知することができる。また、プラズマCVD装置Pcに設置される機器(真空計Vg)を利用してクリーニングの終点を検知できるため、低コスト化が図れる等の利点がある。さらに、追加時間を任意に設定変更可能としたため、クリーニングを実施しようとする真空処理装置Pcの使用者が、例えば、真空処理装置Pcの使用状況やクリーニング条件などに応じて、クリーニングの摂動量を加味してクリーニングの終点を検知する条件を最適化でき、有利である。その上、真空チャンバ1のクリーニング時、単位時間あたりのガス放出量が一時的に停滞するなどの事象が発生して終点検知条件を満たしてしまう虞があったとしても、終点検知条件に、クリーニング終点を判定するまでの圧力の変動幅を含むことから、付着物の種類に依存せずに、クリーニングの終点を確実に検知することができる。
【0025】
以上の効果を確認するため、
図1に示すプラズマCVD装置Pcを用いて次の実験を行った。即ち、プラズマCVD装置Pcを用い、成膜ガスとしてSiH
4ガスを用いて複数枚の基板Swに対してSi膜を成膜した後、真空計Vgをピラニ真空計として上記に従いNF
3ガス用いてクリーニングを実施し、その結果を
図5に示す。これによれば、開始から65秒後に制御ユニットCuによりクリーニングの終点が判定された。そして、真空ポンプPuの排気速度とクリーニングガスの導入流量とを一定に保持したまま、真空チャンバ1の圧力測定を継続すると、圧力は殆ど変化することがないことが確認された。その後、真空チャンバ1内を大気開放し、目視により真空チャンバ1内の処理環境が復元されていることが確認された。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、状態量として真空計Vgの圧力指示値を例に説明したが、プラズマ中のイオン、ラジカルを付着物と反応させたことで変化する状態量であれば、これに限定されるものではない。例えば、反応生成ガスのプラズマ中における発光強度、プラズマの全光量やクリーニング中のプラズマ電位などを用いることもできる。また、上記実施形態では、真空処理装置をプラズマCVD装置Pcとし、マイクロ波発生装置7で励起したクリーニングガスを導入する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、成膜ガスに代えて、マスフローコントローラ41が介設された第1ガス管4を通してクリーニングガスを導入し、カソード電極2に高周波電源Psから所定の高周波電力を投入して真空チャンバ1内にプラズマを生成することができる。つまり、プラズマ発生手段を備えて、プラズマ中のイオン、ラジカルを付着物と反応させて付着物を除去できるものであれば、本発明にいう真空処理装置に該当する。
【0027】
上記実施形態では、状態量として単一の真空計Vgの圧力指示値を例に説明したが、例えば、変形例に係る実施形態では、真空チャンバ1に取り付けた複数種または複数個の真空計Vgで夫々取得される圧力指示値から、または、真空計Vgで取得される圧力指示値、真空計Vg以外の測定器で測定される状態量としての反応生成ガスのプラズマ中における発光強度、プラズマの全光量やクリーニング中のプラズマ電位の中から選択されるものを組み合わせてクリーニングの終点を判定するようにしてもよい。この場合、例えば、各真空計Vgの中から、または、各測定器の中から一つを選べるように真空処理装置Pcの制御ユニットCuが構成され、入力手段Kbおよび表示手段Dsにて選択を可能とするマンマシンインターフェイスが設けられている。このように第1標本として測定される状態量を選択可能とすることで、以下の利点がある。
【0028】
即ち、a)例えば、複数種または複数個の真空計Vgの中から選択できる構成を採用すれば、上記実施形態と比較して冗長な構成が実現される。このような構成であれば、仮に当初選択していた真空計Vgが突発的な汚損等によって終点を検知し得ない状況に陥った(異常となった)と、オペレータが判断した場合には、正常な他の真空計や他の測定器に切り替えることで、制御ユニットCuによりクリーニング終点を確実に検知することができる。この場合、制御ユニットCuには、他の真空計Vg等から得られた各標本から得られる傾きaに対する終点検知条件が予め設定されているとする。
【0029】
b)上記a)では、クリーニング終点の検知についての異常判断は、オペレータが実施しているが、これを真空処理装置Pcの制御ユニットCuが実施する構成としてもよい。即ち、常時、複数種の真空計Vgで圧力指示値を夫々測定し、これら測定された各圧力指示値を第1標本として処理を実施すればよい。例えば、第1の真空計Vgをピラニ真空計、第2の真空計Vgを隔膜真空計とし、ピラニ真空計で測定した圧力指示値を一方の第1標本、電離真空計Vgで測定した圧力指示値を他方の第1標本とし、各第1標本から、上記手順に従う各終点検知条件から判定結果を得るようにしてもよい。これにより、例えば、2つの終点検知条件が予め設定した時間内にAND条件が成立しない場合には、終点の検知異常として出力することが可能となる。このような構成を採用すれば、異常事態に対して、より剛健な終点検知方法とすることが可能となる。また、一般的に真空成膜の目的で真空チャンバ1にはピラニ真空計と隔膜真空計の2つが取り付けられているため、新たな測定器を追加する必要もない。
【0030】
更に、c)クリーニング時に変化する状態量を測定する測定器を複数種とし、その中から選択できる構成とした場合、その測定器同士は測定するガス種によって異なる応答を制御ユニットCuへ伝えることが望ましい。これは、各測定器から得られる第1標本が異なる傾向を示す、即ち、異なる傾きを生成するため、傾き相互を制御ユニットCuにて比較することができることによる。傾き相互を比較することで、例えば、全圧に対する反応生成ガスの多寡を確認することが可能となる。具体的には、一方の測定器としてプラズマの全光量を測定することで全圧に関する一方の第1標本が得られ、他方の測定器として窒素に対して校正を実施したピラニ真空計を用いて真空チャンバ1内の圧力を測定することで他方の第1標本が得られる場合、他方の第1標本は、一方の第1標本に対して反応生成ガス種の分圧に対し(窒素)換算必要相当量の誤差が含まれることになる。即ち、回帰直線の傾き相互を比較することで反応生成ガス種の分圧に対する傾きが得られ、この傾きに対して予め設定された終点検知条件をあてはめることで、クリーニング終点として判定する校正とすることができる。このような構成とすることで、より厳格な判定が実施可能となる。
【0031】
また、上記実施形態では回帰直線Rlを導出するにあたり分散や共分散を用いたが、傾きaが求められるのであれば、これに限定されるものではなく、他の統計的あるいは数学的手法を用いてもよい。つまり、技術思想として表せば、第1段階は第1標本を関数として概念化することであり、第2段階として前記関数の導関数の傾きの値、即ち、微分係数を求め、この値を時系列とし、上記実施形態と同様に評価および判定するシステムであれば不都合はない。
【符号の説明】
【0032】
Pc…プラズマCVD装置(真空処理装置)、1…真空チャンバ、Pu…真空ポンプ、Vg…真空計、Y…真空計Vgの圧力指示値(第1標本)、Rl…回帰直線、a…回帰直線Rlの傾き(第2標本)。
【要約】
【課題】クリーニング終点の目安となる絶対値を定めずに、クリーニング時間の過不足なくクリーニングの終点を検知できるようにした真空処理装置Pcのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1内の部分に付着した付着物に応じて選択されるクリーニングガスを真空雰囲気の真空チャンバ内に導入し、クリーニングガスを励起してプラズマを発生させ、プラズマ中のイオン、ラジカルを付着物と反応させて反応生成ガスとし、真空ポンプPuを通して真空排気する間に、クリーニングの終点を検知する工程を含む。プラズマ中のイオン、ラジカルと付着物との反応に伴って変化する真空チャンバ内の状態量を測定し、単位時間当たりに測定される状態量を第1標本Yとしてこの第1標本から回帰直線Rlを夫々求め、順次求められる回帰直線の傾きaを第2標本とし、この第2標本における各傾きが予め設定される終点検知条件を満たすと、クリーニング終点として判定する。
【選択図】
図1