(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】真空ポンプ、真空ポンプの制御方法、真空ポンプ用電力変換装置、圧縮機用電力変換装置および圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 28/28 20060101AFI20221206BHJP
F04C 25/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F04C28/28 B
F04C25/02 B
(21)【出願番号】P 2022536599
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2021040574
【審査請求日】2022-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 康宏
(72)【発明者】
【氏名】横澤 栄秀
(72)【発明者】
【氏名】町家 賢二
(72)【発明者】
【氏名】井上 英晃
(72)【発明者】
【氏名】後藤 彬徳
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-324780(JP,A)
【文献】特開2014-074380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 28/28
F04C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプロータを有する容積移送型のポンプ本体と、
前記ポンプロータを回転させるモータと、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータの回転速度を増加させ、かつ、前記モータを第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行
し、前記第2の制御モードの実行中において前記負荷トルクが低下傾向にあるときは、所定時間に限って前記モータを前記第1の所定電力より高い第2の所定電力以下で駆動する制御部と
を具備する真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプであって、
前記所定回転数は、前記モータの定格回転数である
真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の真空ポンプであって、
前記所定回転数は、前記負荷トルクが前記第1の所定トルク以下であり、かつ、前記モータの電力が前記第1の所定電力以下であるときは、前記モータの定格回転数よりも高い回転数である
真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の真空ポンプであって、
前記第1の所定電力は、前記モータの定格電力である
真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の真空ポンプであって、
前記第1の所定トルクは、前記モータの定格トルクである
真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の真空ポンプであって、
前記制御部は、前記第2の制御モードにおいて、前記真空ポンプ全体の温度の推定値を算出し、前記推定値が所定温度以上のときは、前記モータを前記第1の制御モードで駆動する
真空ポンプ。
【請求項7】
ポンプロータと、前記ポンプロータを回転させるモータとを有する容積移送型の真空ポンプの制御方法であって、
前記モータを起動し、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、
前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータの回転速度を増加させ、かつ、前記モータを第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行
し、
前記第2の制御モードの実行中において前記負荷トルクが低下傾向にあるときは、所定時間に限って前記モータを前記第1の所定電力より高い第2の所定電力以下で駆動する
真空ポンプの制御方法。
【請求項8】
容積移送型ポンプのポンプロータを回転させるモータに電力を供給する真空ポンプ用電力変換装置であって、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータの回転速度を増加させ、かつ、前記モータを第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行
し、前記第2の制御モードの実行中において前記負荷トルクが低下傾向にあるときは、所定時間に限って前記モータを前記第1の所定電力より高い第2の所定電力以下で駆動する制御部
を具備する真空ポンプ用電力変換装置。
【請求項9】
圧縮システムの圧縮機モータに電力を供給する圧縮機用電力変換装置であって、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータの回転速度を増加させ、かつ、前記モータを第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行
し、前記第2の制御モードの実行中において前記負荷トルクが低下傾向にあるときは、所定時間に限って前記モータを前記第1の所定電力より高い第2の所定電力以下で駆動する制御部
を具備する圧縮機用電力変換装置。
【請求項10】
ポンプロータを有する容積移送型のポンプ本体と、
前記ポンプロータを回転させるモータと、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータの回転速度を増加させ、かつ、前記モータを第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行
し、前記第2の制御モードの実行中において前記負荷トルクが低下傾向にあるときは、所定時間に限って前記モータを前記第1の所定電力より高い第2の所定電力以下で駆動する制御部と
を具備する圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積移送型の真空ポンプおよびその制御方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
容積移送式の真空ポンプは、モータにてその容積を移送させることで、排気対象空間であるチャンバ内の気体を排出する。モータは、かご型誘導モータに代表されるように入力される電源周波数に応じてその回転数(すべり回転数とも言われる)が定まり、その回転速度を一定範囲とする制御方式が採用される。しかし、容積の移送とは、気体の移送および付随する圧縮負荷と、気体の吸入口と排出口との間の差圧の維持の負荷が合成された事象であって、当該ポンプの容積移送の設計思想を適用する対象によっては、モータの仕事となる単位時間あたりに処理すべき負荷に対して、その定格の回転速度を維持できないような過負荷運転を強いられる場合がある。
【0003】
過負荷運転を維持すれば、モータまたはポンプ部に過熱を招来し、真空ポンプは故障にいたることから、負荷を一定以下に制限する機械的な構成(リリーフ弁(圧縮負荷の制限)、マグネットカップリング(トルク伝達の制限))を付与して対応していた。また、近年は制御装置の高度化により、マグネットカップリングに代えて、制御装置に付属する機能であるトルクリミット(電流リミット)が利用される場合もある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような真空ポンプは、周期的に定格以上の過負荷運転を強いられることを前提として設計されている。この理由は、負荷が当初最大であって、その後指数的に低減していく低減負荷に接続されることが一般的であるためである。これに加え、真空を維持する際には差圧維持の仕事のみが負荷となり(真空ポンプのシステム構成によってはその差圧も小さい場合がある)、かつ最大負荷の時間より真空維持時間の比率が大きくなるのが一般的であるためである。つまり、負荷を考えると、モータおよびポンプ部は連続定格以上の負荷については分離できる構成を付与した上で真空ポンプを設計するのが合理的であり、そのように設計されたポンプシステムを構成したり、運用されたりしている。
【0006】
このように利用されていた真空ポンプであったが、上述したような過負荷時における運転の対処が真空排気性能に悪影響を及ぼしている。具体的には、真空ポンプの負荷を増加させたり、運転時に容積の移送量、特に単位時間あたりの移送量を増加させたりする際に、そのモータ能力を最大限に発揮すること、つまり連続定格以上の能力を発揮することについては制限されており、元々内包している短時間定格の能力を発揮することができない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、モータを過熱から保護しつつ、真空排気性能の向上を図ることができる真空ポンプおよびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る真空ポンプは、容積移送型のポンプ本体と、モータと、制御部とを備える。
前記ポンプ本体は、ポンプロータを有する。
前記モータは、前記ポンプロータを回転させる。
前記制御部は、負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータを前記所定回転数以下、かつ、第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行する。
【0009】
これにより、過負荷運転時においてもモータの回転数の低下が抑えられるため、ポンプロータによる単位時間あたりの容積移送量を維持して目標圧力までの排気時間の短縮を図ることができる。また、モータの回転数は所定回転数以下に制限されるため、真空ポンプを過熱から保護することができる。
【0010】
前記第1の所定トルクは、典型的には、前記モータの定格トルクである。
前記第1の所定電力は、典型的には、前記モータの定格電力である。
前記所定回転数は、典型的には、前記モータの定格回転数である。前記所定回転数は、前記負荷トルクが前記第1の所定トルク以下であり、かつ、前記モータの電力が前記第1の所定電力以下であるときは、前記定格回転数よりも高い回転数であってもよい。
【0011】
前記制御部は、前記第2の制御モードにおいて、前記モータの回転状態が所定の条件を満たすときは、所定時間に限って前記モータを前記第1の所定電力より高い第2の所定電力で駆動するように構成されてもよい。
【0012】
前記制御部は、前記第2の制御モードにおいて、前記真空ポンプ全体の温度の推定値を算出し、前記推定値が所定温度以上のときは、前記モータを前記第1の制御モードで駆動するように構成されてもよい。
【0013】
本発明の一形態に係る真空ポンプの制御方法は、ポンプロータと、前記ポンプロータを回転させるモータとを有する容積移送型の真空ポンプの制御方法であって、
前記モータを起動し、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、
前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータを前記所定回転数以下、かつ、第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行する。
【0014】
本発明の一形態に係る真空ポンプ用電力変換装置は、容積移送型ポンプのポンプロータを回転させるモータに電力を供給する真空ポンプ用電力変換装置であって、
負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータを前記所定回転数以下、かつ、第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行する制御部を具備する
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モータを過熱から保護しつつ、真空排気性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る真空ポンプの内部構造を示す概略横断面図である。
【
図3】上記真空ポンプの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】上記真空ポンプにおける制御部の機能ブロック図である。
【
図5】上記制御部において実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】上記真空ポンプの動作の一例を示す実験結果であって、負荷トルクと圧力との関係を示す図である
【
図7】上記真空ポンプの動作の一例を示す実験結果であって、電力と圧力との関係を示す図である。
【
図8】上記真空ポンプの動作の一例を示す実験結果であって、回転数と圧力との関係を示す図である。
【
図9】上記真空ポンプの動作の一例を示す実験結果であって、排気速度と圧力との関係を示す図である。
【
図10】上記真空ポンプの動作の一例を示す実験結果であって、圧力と時間との関係を示す図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る真空ポンプの動作の一例を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る真空ポンプ100の内部構造を示す概略横断面図である。
図2は、
図1におけるA-A線断面図である。各図においてX軸、Y軸およびZ軸は、相互に直交する3軸方向を示している。
【0019】
本実施形態の真空ポンプ100は、ポンプ本体10と、モータ20と、制御ユニット30とを備える。本実施形態では、真空ポンプ100として、単段のメカニカルブースタポンプを例に挙げて説明するが、これ以外にも、スクリューポンプ、ベーンポンプ、ルーツポンプ等の他の容積移送型の真空ポンプで構成されてもよい。
【0020】
(ポンプ本体)
ポンプ本体10は、第1のポンプロータ11と、第2のポンプロータ12と、第1および第2のポンプロータ11,12を収容するケーシング13とを有する。
【0021】
ケーシング13は、第1のケーシング部131と、第1のケーシング部131のY軸方向の両端に配置された隔壁132,133と、隔壁133に固定された第2のケーシング部134とを有する。第1のケーシング部131および隔壁132,133は、第1および第2のポンプロータ11,12を収容するポンプ室Pを形成する。
【0022】
第1のケーシング部131および隔壁132,133は、例えば、鋳鉄やステンレス鋼等の鉄系金属材料で構成され、図示しないシールリングを介して相互に結合されている。第2のケーシング部134は、例えば、アルミニウム合金等の非鉄系金属材料で構成される。
【0023】
第1のケーシング部131の一方の主面(
図2において上面)にはポンプ室Pに連通する吸気口E1が形成され、その他方の主面(
図2において下面)にはポンプ室Pに連通する排気口E2が形成される。吸気口E1には、図示しない真空チャンバの内部と連絡する吸気管が接続され、排気口E2には、図示しない排気管あるいは補助ポンプの吸気口と接続される。
【0024】
第1および第2のポンプロータ11,12は、鋳鉄等の鉄系金属材料からなるマユ型ロータで構成され、X軸方向に相互に対向して配置される。第1および第2のポンプロータ11,12は、Y軸方向に平行な回転軸11s,12sをそれぞれ有する。各回転軸11s,12sの一端部11s1,12s1側は、隔壁132に固定されたベアリングB1に回転可能に支持され、各回転軸11s,12sの他端部11s2,12s2側は、隔壁133に固定されたベアリングB2に回転可能に支持される。第1のポンプロータ11と第2のポンプロータ12との間、および、各ポンプロータ11,12とポンプ室Pの内壁面との間には所定の隙間が形成されており、各ポンプロータ11,12は相互に、および、ポンプ室Pの内壁面に非接触で回転するように構成される。
【0025】
第1のポンプロータ11の回転軸11sの一端部11s1には、モータ20を構成するロータコア21が固定され、ロータコア21とベアリングB1との間には第1の同期ギヤ141が固定される。第2のポンプロータ12の回転軸12sの一端部12s1には、第1の同期ギヤ141と噛み合う第2の同期ギヤ142が固定されている。モータ20の駆動により、第1および第2のポンプロータ11,12は、同期ギヤ141,142を介して相互に逆方向に回転し、これによりポンプ室Pの容積が変化して吸気口E1から排気口E2へ向けて気体が移送される。
【0026】
(モータ)
本実施形態において、モータ20は、永久磁石同期型のキャンドモータで構成される。これ以外にも、モータ20は、かご型モータ等の誘導モータで構成されてもよい。また
図1に示されたようなポンプ本体10とモータ20が一体型となった真空ポンプ100に限られず、ポンプ本体10とモータ20が分離した真空ポンプ100であってもよい。具体的には熱回路としてポンプ本体10とモータ20は独立していてもよい。
【0027】
モータ20は、ロータコア21と、ステータコア22と、キャン23と、モータケース24とを有する。
【0028】
ロータコア21は、第1のポンプロータ11の回転軸11sの一端部11s1に固定される。ロータコア21は、電磁鋼鈑の積層体とその周面に取り付けられた複数の永久磁石Mとを有する。永久磁石Mは、ロータコア21の周囲に沿って極性(N極、S極)を交互に異ならせて配置される。
【0029】
本実施形態では、永久磁石材料として、ネオジム磁石やフェライト磁石等の鉄系材料が用いられる。永久磁石の配置形態は特に限定されず、ロータコア21の表面に永久磁石が配置される表面磁石型(SPM)であってもよいし、ロータコア21に永久磁石が埋め込まれる埋込磁石型(IPM)であってもよい。
【0030】
ステータコア22は、ロータコア21の周囲に配置され、モータケース24の内壁面に固定される。ステータコア22は、電磁鋼鈑の積層体とそれに巻回された複数のコイルCとを有する。コイルCは、U相巻線、V相巻線およびW相巻線を含む三相巻線で構成され、それぞれ制御ユニット30に電気的に接続される。
【0031】
キャン23は、ロータコア21とステータコア22との間に配置され、内部にロータコア21を収容する。キャン23は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の合成樹脂材料で構成された、ギヤ室G側の一端が開口する有底の円筒部材である。キャン23は、その開口端部側の周囲に配置されたシールリングSを介してモータケース24に固定され、ロータコア21を大気(外気)から封止する。
【0032】
モータケース24は、例えば、アルミニウム合金で構成され、ロータコア21、ステータコア22,キャン23および同期ギヤ141,142を収容する。モータケース24は、図示しないシールリングを介して隔壁132に固定されることで、ギヤ室Gを形成する。ギヤ室Gは、同期ギヤ141,142およびベアリングB1を潤滑するための潤滑油を収容する。モータケース24の外表面には、典型的には、複数の放熱フィンが設けられる。
【0033】
モータケース24の先端は、カバー25で被覆されている。カバー25には外気と連通可能な通孔が設けられており、モータ20に隣接して配置された冷却ファン50を介してロータコア21やステータコア22を冷却することが可能に構成される。冷却ファン50に代えて又はこれに加えて、モータケース24を水冷可能な構造にしてもよい。ポンプ本体10についても同様に、ケーシング13を水冷可能な構造であってもよい。冷却ファン50や水冷可能な構造等の構成は、連続定格運転が維持できる抜熱量が確保できるのであれば、その構成に制限は無い。
【0034】
(制御ユニット)
続いて、制御ユニット30の詳細について説明する。
図3は、制御ユニット30の構成を概略的に示すブロック図である。
【0035】
図3に示すように、制御ユニット30は、駆動回路31と、位置検出部32と、制御部33と、電流検出器34とを有する。制御ユニット30は、モータ20の駆動を制御するためのものである。制御ユニット30は、モータケース24に設置された金属製等のケース内に収容された回路基板やその上に搭載された各種電子部品で構成され、その機能はモータ20を制御する電力変換装置(インバータ)にて実現される。
【0036】
駆動回路31は、モータ20を所定の回転数あるいは所定の電力等を目標として回転させるための駆動信号を生成する複数の半導体スイッチング素子(トランジスタ)を有するインバータ回路で構成される。これら半導体スイッチング素子は、制御部33により開閉タイミングが個別に制御されることにより、ステータコア22のコイルC(U相巻線、V相巻線およびW相巻線)に出力(電力)をそれぞれ供給する。
【0037】
電流検出器34は、駆動回路31とステータコア22のコイルCの間に流れる電流(出力電流)を検出する。例えば電流検出器34は、三相交流の全相(U相、V相及びW相)の電流を検出するように構成されていてもよいし、三相交流のいずれか2相の電流を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、2相の電流を検出する場合にも全相の電流の情報が得られる。なお電流検出器34は、電圧を検出する構成であっても良い。これはシャントあるいはモータや駆動回路等、回路中に存在する抵抗を利用することで電流を検出するなどして実現される。
【0038】
位置検出部32は、電流検出器34で検出された各層の電流値を把握することで、コイルCと交わる磁束の時間的変化に起因してコイルCに発生する逆起電力の波形からロータコア21の磁極位置を間接的に検出し、それをコイルCへの通電タイミングを制御する位置検出信号として制御部33へ出力する。なお、モータ20が同期機でなく誘導機である場合は、例えば位置検出部32を磁束推定部32として読み替えを行い、以降で説明している制御部33を公知のd,q軸磁束を用いたベクトル制御を実施することで、駆動回路31へ駆動信号を供給するようにしてもよい。
【0039】
制御部33は、位置検出部32によって検出されたロータコア21の磁極位置に基づいて、ステータコア21のコイルCを励磁するための制御信号を生成し、それを駆動回路31へ出力する。制御部33は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有する情報処理装置(コンピュータ)で構成される。上記メモリには、制御部33において後述する処理手順を実行するためのプログラムや演算用の各種パラメータが格納される。
【0040】
図4は、制御部33の構成を示す機能ブロック図である。制御部33は、速度算出部331と、電力算出部332と、温度算出部333と、判定部334と、信号生成部335とを有する。
【0041】
速度算出部331は、位置検出部32によって検出されたロータコア21の磁極位置の変化に基づいて、モータ20の回転数を算出する。電力算出部332は、位置検出部32により取得されるロータコア21の磁極位置、あるいは、コイルCを流れる電流値からモータ20の負荷トルクを検出し、検出した負荷トルクとモータの回転数に基づいて、モータ20に供給すべき出力(電力)を算出する。なお、モータ20の回転軸やポンプロータ11,12の回転軸11s,12sにひずみゲージ等の検出器を設けて負荷トルクを求めてもよい。
【0042】
温度算出部333は、ポンプ本体10およびモータ20を含む真空ポンプ100全体の発熱量(温度)の推定値を算出する。上記推定値の算出には、例えば、真空ポンプ100全体の熱容量を模擬したパラメータと真空ポンプ100の運転時間に基づく演算アルゴリズムが用いられる。これ以外にも、ポンプ本体10およびモータ20の温度を直接または間接的に検出する温度センサの出力に基づいて上記推定値が算出されてもよい。
【0043】
判定部334は、モータ20の駆動時において、速度算出部331で算出されたモータ20の負荷トルクおよび回転数と後述する所定トルク(T1、T2)および所定回転数(Rth)との大小関係をそれぞれ判定する。また、判定部334は、モータ20の駆動時において、温度算出部333で算出された発熱量の推定値が後述する所定温度(Tm)以上か否かを判定する。
【0044】
信号生成部335は、駆動回路31へ後述する制御モードに応じた駆動信号を生成する。本実施形態において制御部33は、モータ20の制御モードとして、第1の制御モードと第2の制御モードとを有し、判定部334におけるモータ20の負荷トルク、出力(電力)、回転数に関する判定結果に基づき、モータ20の制御モードを第1の制御モードと第2の制御モードとの間で切り替える。
【0045】
第1の制御モードは、負荷トルクが第1の所定トルクT1以下のときに実行され、モータ20を所定回転数(Rth)以下で駆動する。一方、第2の制御モードは、負荷トルクが第1の所定トルクT1を超えるときに実行され、第1の所定電力P1を上限として、モータ20を所定回転数(Rth)以下、かつ、第1の所定トルクT1より高い第2の所定トルクT2以下で駆動する。典型的には、所定回転数Rthは定格回転数、第1の所定トルクT1は定格トルク、第1の所定電力P1は定格出力であるが、勿論これに限られない。
【0046】
一般に、モータの出力(電力)P[kW]は、次の(1)式に示すように、モータの負荷トルクT[N・m]と回転数n[rpm]との積と比例関係にある
P∝T・n ・・・(1)
ポンプ本体の容積移送量がモータの回転数nで表されるとすると、容積移送量はモータの負荷トルクで決まる。典型的には、容積移送負荷と差圧負荷とを合算した負荷(以下、合算負荷ともいう)と、モータが発揮するトルク(負荷トルク)とを平衡する状態における回転数によって、容積移送量が導ける。よって、例えばモータを定格回転数で駆動させ続けることを、真空ポンプの目的とする排気性能の確保条件と考えて、真空ポンプを設計することができる。
【0047】
一方、例えばチャンバ内を大気圧から排気するときは、起動直後の真空ポンプは容積移送負荷あるいはこれに付随する圧縮負荷が大きいため、モータの負荷トルクは高く、真空ポンプの運転は高負荷状態あるいは過負荷状態になる。過負荷状態ではモータは定格トルクを超えるときがあり、その状態が長期間継続すると、モータを過熱から保護できなくなる。このため、モータを駆動する場合、通常では、モータがその定格トルクを超えないように負荷トルクが制限される(トルクリミット)。モータの負荷トルクが定格トルクに制限されると、モータの回転数は合算負荷と平衡する状態まで低下し、その結果、容積移送量が減少するため、真空ポンプの排気性能も低下する。このとき、上記(1)式における負荷トルクT、回転数nおよび出力Pの値は、それぞれ以下のようになる。
T=トルクリミット値(定格トルク)
n<定格回転数
P<定格電力
つまり、出力で考えた場合、真空ポンプは、定格電力よりも小さい出力で運転していることになり、本来の排気能力を十分に発揮していない状態であるといえる。
【0048】
そこで本実施形態では、モータ20の負荷トルクが第1の所定トルクT1(定格トルク)を超えるときは、モータ20の制御方法が上記第1の制御モードから第2の制御モードに切り替えられ、第1の所定トルクT1より高い第2の所定トルクT2以下でのモータ20の駆動を許容する。第2の所定トルクT2は、モータ20の出力が第1の所定電力P1(定格電力)を超えない限りは特に限定されず、回転数nに応じて変化する。
【0049】
第1の制御モードにおけるモータ20の駆動方法は、回転数および負荷トルクが所定以下であれば特に限定されず、典型的には、定格回転数を指示値とする回転数制御が採用される。これに限られず、例えば、第1の所定トルクT1(定格トルク)を指示値とするトルク制御、あるいは第1の所定電力P1(定格電力)を指示値とする電力制御が採用されてもよい。
【0050】
一方、第2の制御モードにおけるモータ20の典型的な駆動方法は、第1の所定電力P1(定格電力)を上限として駆動する電力制御である。このため、負荷トルクが第1の所定トルクT1(定格トルク)を超えたとしても、モータ20の現在の回転数(n)が定格回転数(N)より低ければ、モータ20に対するトルク指定値を(N/n)倍に引き上げることができる。これにより、容積移送量が増加して排気時間の短縮が図れることになる。また、モータの負荷トルクが(N/n)倍に引き上げられたとしても、モータ20の出力は定格電力以下であるため、真空ポンプ100の過熱が抑えられる。
【0051】
第2の制御モードにおけるモータ20の駆動方法は、所定電力を上限として駆動する制御方法であれば、上述した電力制御に限られず、例えば出力される電力値を監視しながら目標値であるトルク値を漸増または漸減させるトルク制御を採用してもよいし、同様に電力値を監視しながら目標値である速度指令値を漸増または漸減させる速度制御を採用してもよい。
【0052】
なお、モータ20に定格トルク以上のトルクを発揮させるということは、モータ20には定格以上の電流を流すことになり、その発熱量が抜熱量に見合わず、モータ20の過熱状態を回避できずに、コイルCなどの熱破壊が引き起こされる場合がある。また同様に、ポンプ本体10の圧縮負荷が定格より過大となることで、ポンプ本体10が過熱し、ポンプロータ11,12間のクリアランス不足、あるいはポンプロータ11,12とケーシング13との間のクリアランス不足によるかじり現象が生じるおそれがある。つまり、定格とは、発熱量と抜熱量の平衡状態を保つことで運転時に各構成部品が安全な温度範囲を維持するという意味で理解するならば、定格以上のトルクを発揮させることは、安全な温度範囲を担保することができない場合がある。したがって、温度またはこれに相当する物理量について推定あるいは監視し、真空ポンプ100を過熱状態から保護する機能が必要となる。
【0053】
このため本実施形態においては、真空ポンプ100全体の発熱量の推定値を算出する温度算出部333を有しており、例えば、発熱量の推定値が所定温度(Tm)以上の場合は、第1の所定トルクT1で駆動する第1の制御モードに切り替えてモータ20を定格トルク以下で駆動させるように構成される。これにより、真空ポンプ100を過熱状態から保護することができる。
【0054】
また、負荷トルクが比較的低いとき、定格電力に達するまで回転数を上昇させることができる点で容積移送量を増加させることができる反面、負荷トルクが過度に低いときは、モータ20の回転数が真空ポンプ100を構成する機械部品の限界速度を超過してしまうおそれがある。このような問題を回避するため、第2の制御モードにおいては、回転数の上限が定格回転数(Rth)に設定される。これにより、真空ポンプ100を安全な速度域で運転させるようにしている。なおこれに限られず、後述するように負荷トルクおよび電力がそれぞれ定格以下の場合は、回転数の上限値を機械部品の限界速度以下で定格回転数よりも高い回転数に設定されてもよい。
【0055】
さらに、定格以上の電力でモータ20を連続的に駆動することは過負荷を招来することになるので、通常は電力制御において定格以上の電力が指令値とされることはない。つまり、電力制御の指令値は、定格電力として一定値とすることが合理的である。しかし、上記一定値では真空ポンプをその本来の最大能力を必ずしも発揮させているとはいえない。つまり、短時間であれば過熱に至らない範囲で定格以上の動力を負荷に対して発揮可能であるにもかかわらず、指令値が一定電力であるため、ポンプの排気能力が制限されているといえる。
【0056】
ここで、容積移送式の真空ポンプは、その能力として排気時間があり、ある時点での容積の累積移送数が多いほど排気時間は短縮される。つまり、モータの回転状態として、負荷が減少する(あるいは回転数が上昇する)方向にあると判断される事象においては、定格以上のトルクすなわち電力を投入可能とすることで、真空ポンプとしての機能を向上させることが可能となる。これとは反対に、例えばポンプ運転中にチャンバ内をベントする場合など、負荷が増加する(あるいは回転数が低下する)方向にあると判断される事象においては、特別な場合を除き、真空ポンプの排気性能を向上させる必要はない。
【0057】
つまり、モータの回転状態が定格以上のトルクあるいは電力を投入可能な状態であると判断された場合、定格トルクあるいは定格電力を超えるトルクあるいは電力(例えば定格の120%~200%)でモータ20を駆動させてもよいことになる。このような制御を実行することで、単位時間あたりの容積移送量(あるいは移送数)を増加させることが可能となり、結果として排気時間も短くなる。また、上述した温度推定機能を備えていれば、過負荷による過熱の問題も回避でき、真空ポンプの安全な運転が確保される。
【0058】
なお、上記温度推定機能の代わりに、定格を超える運転を所定時間に制限しつつ、定格を超える運転の間隔として一定以上の時間(禁止期間)を設定する等して、定格を超える運転後に真空ポンプを定格運転時の温度に速やかに戻すような方法も採用可能である。これにより、温度推定機能を用いずに簡素な構成で、過負荷による真空ポンプの過熱を抑えることができる。
【0059】
なお熱回路としてポンプ本体10とモータ20が独立している真空ポンプ100の場合、発熱量の推定値を算出する温度算出部333はポンプ本体10とモータ20について個別に発熱量を推定する。この場合、ポンプ本体10とモータ20の熱収支は異なるので、例えば何れかの推定値が所定温度(Tm)以上の場合に、第1の所定トルクT1で駆動する第1の制御モードに切り替えてモータ20を定格トルク以下で駆動させるように構成される。この所定温度はポンプ本体10とモータ20とで個別に設けてもよい。これは耐熱性が相互で異なる場合、より真空ポンプの過熱を長期に抑えられる事になるため好ましい。
【0060】
[真空ポンプの制御方法]
続いて、制御部33の詳細について、真空ポンプの動作と併せて説明する。
図5は、制御部33において実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0061】
また、
図6~
図10は、本実施形態の真空ポンプ100の運転を開始した後一定時間経過してから目標圧力に到達するまでの動作の一例を示す実験結果であり、
図6は負荷トルクと圧力との関係を示し、
図7は電力と圧力との関係を示し、
図8は回転数と圧力との関係を示し、
図9は排気速度と圧力との関係を示し、
図10は圧力と時間との関係を示している。また、
図6~
図8では縦軸の負荷トルク、電力、回転数を任意のスケールで表しているとともに、各々の定格値を1としたときの相対比で示している。これら
図6~
図10において、「電力制御」とは本実施形態において実行される制御方法に相当し、その対比として、「回転数制御」での制御方法も併せて示す。なお、「電力制御」や「回転数制御」とは制御ループの制御対象が電力あるいは回転数である事を示しており、例えば電力や回転数をある目標値に保つように制御することを意味する。
【0062】
真空ポンプ100の運転が開始されると、制御部33は、第1の制御モードでモータ20を駆動する(ステップ101)。この第1の制御モードでは、定格回転数Rthを指示値とする回転数制御でモータ20が駆動される。制御ループは、後述する負荷トルクが求められるのであれば何れも採用可能とされる。
【0063】
真空チャンバ内の圧力が大気圧の場合、運転開始直後から真空ポンプ100は比較的高い負荷状態で駆動される。制御部33は、モータ20の運転結果として得られる負荷トルクを監視し、その負荷トルクが第1の所定トルクT1以下であるか否かを判定する(ステップ102)。
【0064】
負荷トルクが第1の所定トルクT1以下のとき(ステップ102において「Y」)、制御部33は第1の制御モードでのモータ20の駆動を継続する。一方、負荷トルクが第1の所定トルクT1を超えるとき(ステップ102において「N」)、制御部33は、モータ20の回転数が所定回転数Rth未満であるか否かを判定する(ステップ103)。回転数が所定回転数Rth未満の場合(ステップ103において「Y」)、制御部33は、第1の制御モードから第2の制御モードに切り替える(ステップ104)。すなわち、負荷トルクが第1の所定トルクT1を超え、かつ、モータ20の回転数が所定回転数Rth未満であると、第2の制御モードが実行される。
【0065】
第2の制御モードでは、第1の所定電力P1(定格電力)を電力上限値として、定格回転数Rth以下、かつ、第1の所定トルクT1より高い第2の所定トルクT2以下でモータ20が駆動される。第2の所定トルクT2は、例えば、定格トルクの120%~200%に相当するトルク値に設定される。
【0066】
このように本実施形態においては、真空ポンプ100の高負荷運転時に、定格電力を超えない範囲で負荷トルクを引き上げることができるため、モータ20を高トルクで駆動させることが可能となる(
図6参照)。これにより容積移送量(回転数)を増加させて、排気時間の短縮を図ることができる(
図8~
図10参照)。また、回転数の上限は定格回転数Rthに制限されるため、モータ20の過回転に起因する真空ポンプ100の破損を防ぐことができる。
【0067】
特に、第2の所定トルクT2を調整(漸増または漸減)する事で第1の所定電力P1となる様、第2の制御モードを構成する事が好ましい。この構成は制御ループの制御対象を電力とし、その目標電力を第1の所定電力P1とした、典型的な電力制御である。また第2の所定トルクT2が第1の所定電力P1以下を実現する設定値であれば、後述する発熱量が抑えられる面からも好ましい。
【0068】
制御部33は、第2の制御モードの実行中において真空ポンプ100全体の温度(温度算出部333で算出される発熱量の推定値)が所定温度Tm以上であるか否かを判定する(ステップ105)。制御部33は、真空ポンプ100の温度が所定温度Tm以上であると判定したとき(ステップ105において「Y」)、第2の制御モードから第1の制御モードに切り替える。これにより、真空ポンプ100を過熱状態から保護することができる。一方、制御部33は、真空ポンプ100の温度が所定温度Tm未満と判定したとき(ステップ105において「N」)、第2の制御モードによるモータ20の駆動を継続する。
【0069】
さらに制御部33は、第2の制御モードの実行中において、負荷トルクが低下傾向にあるか否かを判定する(ステップ106)。負荷トルクが低下傾向にあるかどうかの判定は、例えば、速度算出部331において所定周期で検出される負荷トルクの検出値が一定、あるいは、減少傾向にあるかどうかを基準に行われる。電力制御の下では、負荷トルクが低下傾向にあれば回転数は上昇傾向にあるとみなせるため、チャンバ内が真空に向かっていると判断できる。
【0070】
そこで、負荷トルクが低下傾向にあるときは(ステップ106において「Y」)、制御部33は、電力上限値(電力目標値)を所定時間だけ、第1の所定電力P1(定格電力)から第2の所定電力P2へ上昇させるトルクブースト制御を実行する(ステップ107)。これにより、モータ20の回転数が一時的に上昇するため、容積移送量がさらに増大し、その分、排気時間を短縮することができる(
図10参照)。第2の所定電力P2は、第1の所定電力P1より高い電力であれば特に限定されず、例えば、定格電力の120%~200%に相当する電力値に設定される。このように短時間定格の能力は、
図10で示される真空度の領域(中真空領域)に於いて最大限にその効果が発揮され、その結果は排気時間の短縮となって確認出来る。
【0071】
一方、トルクブースト制御の実行により真空ポンプ100の発熱量は増加するが、トルクブースト制御は所定時間に限定されるため、真空ポンプ100が過熱に至ることを防ぐことができる(
図7参照)。上記所定時間は、トルクブースト制御による真空ポンプ100の熱上昇率などに基づいてあらかじめ実験的に求めることができる。トルクブースト処理を所定時間行った後、および、負荷トルクが低下傾向にないときは(ステップ105において「N」)、制御部33は、電力上限値を第1の所定電力P1(定格電力)とする電力制御を引き続き実行する。
【0072】
以上の動作を繰り返し実行することにより、電力制御を主体としたモータ20の駆動制御が実行される。これにより、回転数制御のみでモータ20を駆動する場合と比較して、真空ポンプ100が本来有する排気性能を最大限に発揮させることができるので、目標とする真空圧力への到達時間(排気時間)を短縮することができる。
【0073】
また大気圧条件からの起動時に於いても、速やかに電力制御を主体とした第2の制御モードに移行する事で、トルクリミットが加えられた回転数制御に比べ、起動トルクを増大させられる事から排気時間を短くすることのみならず、固着からの離脱可能性を向上させる事が出来、また油温が低い条件下、つまり、ポンプ温度が低くメカロスが高い条件下等の悪環境に於いても排気時間を短縮する効果を奏すると共に、電力制御を主体としている事で単にトルク値を増加させた運転と比較して発熱を抑えた運転とすることが出来る。
【0074】
真空チャンバ内の圧力が所定以下にまで低下し、ポンプ本体10における気体の圧縮負荷が減少すると、真空ポンプ100の負荷は吸気口E1と排気口E2との間の差圧維持の仕事のみとなる。そこで、制御部33は、第2の制御モードの実行中、負荷トルクが第1のトルクT1(定格トルク)以下か否かを判定し(ステップ102)、負荷トルクが第1のトルクT1以下に低下すると、第2の制御モードから第1の制御モードへ切り替える(ステップ102において「Y」)。第1の制御モードでは、定格回転数(所定回転数Rth)が回転数の上限値とされているため、モータ20は、低真空から中真空(
図8において約2kPa~0.1Pa)にかけては、一定の回転数(定格回転数)で駆動される。ここで中真空・高真空の定義はJIS Z 8126-1真空技術?用語? 第1部:一般用語に基づく。
【0075】
<他の実施形態1>
以上の実施形態では、第1の制御モードにおいてはモータ20を所定回転数Rth以下で駆動させるようにし、その所定回転数Rthを定格回転数としたが、これに限られず、所定回転数Rthをそのときのモータ20の運転状態に応じた可変値としてもよい。
【0076】
例えば、第1の制御モードにおいて、負荷トルクが第1の所定トルクT1以下であり、かつ、電力が第1の所定電力P1以下であるときは、所定回転数Rthを定格回転数よりも高い回転数としてもよい。つまり、第1の制御モードに電力制御の制御ループをとりいれ、モータ20の電力が第1の消費電力P1(典型的には定格電力)を超えない範囲で回転数の上昇を許容する(以下、高回転数制御ともいう)。なお、高回転数制御における回転数上限値は、例えば、ポンプ本体あるいはモータの回転数上限値に応じて任意に設定可能であり、例えば、定格回転数の120%とすることができる。高定格回転数から回転数上限値への回転数の上昇率は、
図11において破線Epで示すように電力制御による回転数の上昇率よりも低い値とされる。
【0077】
このような高回転数制御は、例えば
図11に示すように、中真空付近において第2の制御モードから第1の制御モードへの切り替えられた後の所定時間に実行可能である。高回転数制御での運転時間はあらかじめ固定されてもよいし、電力が第1の所定電力P1に達するまでの時間とされてもよい。高回転数制御が所定時間実行されたのち、定格回転数を回転数上限値とした第1の制御モードが実行される。これにより、真空ポンプ100の排気能力をさらに引き出せるため、到達真空度までの排気時間をより一層短縮することができるとともに、高回転数制御での圧力帯で連続運転する場合に容積移送量を増加させることができる。
【0078】
<他の実施形態2>
以上の実施形態では、真空ポンプを例に挙げて説明したが、真空ポンプ以外の他のポンプ、例えば、圧縮システムにおける圧縮機あるいはその駆動用モータにも本発明は適用可能である。
図12は典型的な冷凍回路を示している。圧縮機201から吐出された高圧の過熱ガス冷媒は、凝縮器202において凝縮される。凝縮器202から流出した高圧の過冷却液冷媒は、膨張弁203を通過することで減圧される。膨張弁203を通過した低圧の液冷媒は、蒸発器204において蒸発する。蒸発器204から流出した低圧の過熱ガス冷媒は、圧縮機201へ吸入される。
【0079】
圧縮機201としては、例えば、ロータリ式ポンプ、スクロールポンプなどの容積移送型のポンプを用いることができる。圧縮機201は、冷媒の凝縮温度、蒸発温度および吸込蒸気の過熱度などによって熱負荷を受けやすい。一方、圧縮機には、同じ運転条件において、よりたくさんの蒸気量を吸い込み、大きな冷凍能力を発揮できる能力が要求される。このため、圧縮機201においても、上述した真空ポンプと同様に、圧縮機201の駆動源であるモータを過熱から保護しつつ、ポンプ性能を向上させる技術が要求される。このような課題に対しても、上述した真空ポンプの運転制御が有効である。
【0080】
なお、蒸発器204を上述した真空排気システムにおける真空チャンバとみなすと、膨張弁203から蒸発器204へ流入する冷媒は、真空チャンバへのガス導入とみなすことができる。凝縮器202および蒸発器204の圧力が安定すると、圧縮機201の負荷トルクも安定する。例えば、凝縮圧力を真空排気システムにおける大気圧とみなせば、蒸発圧力が安定し蒸発器204の熱流速も一定条件であれば、圧縮機201の運転状態は、真空排気システムにおける中真空帯域と同様な状態になる。
【符号の説明】
【0081】
10…ポンプ本体
11,12…ポンプロータ
20…モータ
30…制御ユニット
31…駆動回路
32…位置検出部
33…制御部
100…真空ポンプ
201…圧縮機
【要約】
【課題】モータを過熱から保護しつつ、真空排気性能の向上を図ることができる真空ポンプおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る真空ポンプは、容積移送型のポンプ本体と、モータと、制御部とを備える。前記ポンプ本体は、ポンプロータを有する。前記モータは、前記ポンプロータを回転させる。前記制御部は、負荷トルクが第1の所定トルク以下のときは、前記モータを所定回転数以下で駆動する第1の制御モードを実行し、前記負荷トルクが前記第1の所定トルクを超えるときは、第1の所定電力を上限として、前記モータを前記所定回転数以下、かつ、第1の所定トルクより高い第2の所定トルク以下で駆動する第2の制御モードを実行する。
【選択図】
図5